JP2004237544A - ダイレクトオフセット印刷用原版およびダイレクトオフセット印刷版 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ダイレクトオフセット印刷用原版は、基板上に直接または他の層を介して積層された、親水性ポリマー、ポリマーエマルジョン、波長700〜1200nmの範囲内に吸収を持つ光吸収剤、架橋剤及び親水性添加剤を混合して得られる感光性樹脂組成物からなる、親水性樹脂感光層に、非画像部を形成する印刷用原版であって、その親水性樹脂感光層の表面に分子量が200以上の有機親水性化合物からなる薄膜が存在する。ダイレクトオフセット印刷版は、上記原版の親水性樹脂感光層に波長700〜1200nmの範囲内のレーザーを照射後、現像を行うことなく非画像部が形成されたものである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイレクトオフセット印刷用原版及びそれを用いたダイレクトオフセット印刷版に関する。さらに詳しくは、明室でも取り扱うことができ、版に直接レーザー光で描画でき、感度に優れ、且つ現像や拭き取り等の操作が不要なダイレクトオフセット印刷用原版、およびそれを用いて形成される印刷特性に優れたダイレクトオフセット印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近の情報デジタル化技術の進歩とレーザーの高出力化に伴い、レーザーを走査して直接刷版に描画して製版する、CTP(Computer To Plate)対応の印刷版が実用化されている。特に近赤外レーザーを用いたシステムは明室で印刷版の取り扱いができるため近年着実に広がってきた。
【0003】
すでに市販されている近赤外レーザー対応CTP用印刷版は、従来のPS版のようにアルカリ現像を必要とするものが多い。しかし、近赤外レーザーはレーザーパワーを上げることができるため、アルカリ現像によりレーザー照射部あるいは未照射部を溶出し取り除くことを要しない、新しいメカニズムで製版することが可能である。
【0004】
現像処理の不要な版として、チタン又はチタン酸化物等の無機系の光吸収層上にシリコーン樹脂の撥インク層を積層した構成の版が開発されている(特許文献1参照)。この版は、すでに市販されているが、シリコーン樹脂層がインクをはじく非画像部となり、近赤外レーザーの照射により画像部が形成される。しかしレーザーの照射だけでは照射部のシリコーン樹脂層を除去することはできず、印刷の前に照射部のシリコーン樹脂層を除去するための拭き取り操作を必要とする。このシリコーン樹脂の拭き取りが不十分な場合には、照射部すなわち画像部にインクが十分に付着せず、印刷に欠陥が生じるという問題がある。
【0005】
また、現像処理の不要な版として、基板上に、ニトロセルロースにカーボンブラックを分散した光吸収層とその上に親水層又は撥インク層を積層してなる版が開示されている(例えば特許文献2参照)。この版では、光吸収層の熱分解により光吸収層とその上の親水層又は撥インク層が取り除かれ、親インク性の基体表面を露呈させるアブレーションによる露光方法が用いられる。
【0006】
この版は明室でも取り扱うことができ、現像処理は不要であるが、親水層又は撥インク層は光を吸収せず、光吸収層からの熱により加熱される。そのために光吸収層及びその上の親水層又は撥インク層の除去に多大なエネルギーを必要とし、露光に長時間、又は高パワーを必要とするだけでなく、親水層や撥インク層が分解するまでには該層の温度は上昇せず、その結果、該層は殆ど分解することなく、光吸収層の熱分解の際に発生する力により吹き飛ばされる。従って、除去された親水層又は撥インク層に由来する微小な粉塵や光吸収層の分解物に由来する粉塵が多量に版の露光部の周辺に飛散堆積し、また未露光部では該粉塵の付着によりインクが付着しない性質が低下して、地汚れや印刷欠陥を起こす。さらに、印刷中に該粉塵が徐々に版から剥離し印刷物に転写されるという欠点があった。
【0007】
また、自己分散性熱可塑性樹脂を用いたアルカリ現像を行わない版が報告されている(特許文献3参照)。これはレーザー未照射部分の樹脂を湿し水で溶解し取り除く「湿し水現像」によって基板の陽極酸化アルミ表面を露出する方法である。この版は、印刷機内で湿し水ローラーにより未露光部を取り除くため、循環ろ過される湿し水中に、水に溶解する不純物量が増える結果、地汚れが発生しやすくなる。そのため頻繁に湿し水を交換する必要があり、作業者への負担が大きくなる。さらにインクローラーやブランケットの汚染も生じ、ゴミによる問題の影響は多岐に渡る。これらに加え、この版では、印刷機に版を取り付け湿し水現像後すぐに印刷を始めるので、陽極酸化アルミ表面にガム引きを行うことができない。従って非画像部の親水性が不十分で、地汚れを引き起こすことがあった。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−314934号公報
【特許文献2】
特開平6−199064号公報
【特許文献3】
特開平9−127683号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように従来のCTP用の印刷版では、レーザー照射部や未照射部の除去の際、取り残しやゴミの発生によるトラブル、湿し水の汚染等種々の問題点を抱えており、これらの問題点を改良したCTP用の版の開発が望まれる。
【0010】
そこで本発明の課題は、レーザー照射部が親水性から親油性に変化する感光層を有し、明室で取り扱うことができ、現像や拭き取り操作が不要で、感度、解像度に優れるダイレクトオフセット印刷用原版を提供するとともに、それにより形成され、印刷時に湿し水によって親水性成分が溶出しにくく、表面の親水性が長時間印刷後も変化せず、地汚れ、印刷欠陥等の種々の印刷特性に優れたダイレクトオフセット印刷版を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、基板上に積層された親水性樹脂感光層の表面上に分子量が200以上の親水性有機物からなる薄膜を形成させることにより、表面への湿し水の付着力を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のダイレクトオフセット印刷用原版は、基板上に直接又は他の層を介して積層された、親水性ポリマー、ポリマーエマルジョン、波長700〜1200nmの範囲内に吸収を持つ光吸収剤、架橋剤及び親水性添加剤を混合して得られる感光性樹脂組成物からなる親水性樹脂感光層に、非画像部を形成する印刷用原版であって、該親水性樹脂感光層の表面に分子量が200以上の親水性有機化合物からなる薄膜が形成されていることを特徴とする。
【0013】
前記親水性有機化合物の分子量が5000以下であることは、本発明のダイレクトオフセット印刷用原版の好ましい態様である。
【0014】
また、前記親水性有機化合物からなる薄膜が、該化合物をディップコート法、スプレーコート法、カーテンコート法から選ばれる方法によって親水性樹脂感光層表面に塗布後乾燥することにより形成されることは、本発明のダイレクトオフセット印刷用原版の望ましい態様である。
【0015】
前記親水性樹脂感光層の親水性が、波長700〜1200nmの範囲内のレーザー照射によって親油性に変化することは、本発明のダイレクトオフセット印刷用原版の望ましい態様である。
【0016】
本発明のダイレクトオフセット印刷版は、前記のダイレクトオフセット印刷用原版の親水性樹脂感光層に、波長700〜1200nmの範囲内のレーザーを照射後、現像を行うことなく非画像部が形成されたものであることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明におけるダイレクトオフセット印刷用原版は、基板上に直接又は他の層を介して、水に不溶な感光性樹脂組成物が積層されてなるものである。
【0018】
まず、本発明の印刷用原版の感光層を形成する感光性樹脂組成物について説明する。感光性樹脂組成物は、親水性ポリマー、ポリマーエマルジョン、波長700〜1200nmの範囲内に吸収をもつ光吸収剤、架橋剤及び親水性添加剤を混合して得られる。ここでいう親水性ポリマーとは、水に完全に溶解するものだけでなく、水と任意の比率に均一に混合できる有機溶剤に溶解できてその溶液を水に溶解することが可能なもの、水を吸着するもの、水を吸収して膨潤するものも含む。親水性ポリマーの例としては、「新・水溶性ポリマーの応用と市場」(シーエムシー出版、1988年)などに記載のものが使用できる。
【0019】
親水性ポリマーとして具体的には、アミド基、カルボキシル基及びそのアルカリ金属又はアミン塩、水酸基、スルホン酸基及びその塩、アミノ基及びその塩、ホスホン酸基及びその塩、スルホンアミド基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等の親水性置換基を側鎖に有するポリマー、更にポリオキシエチレン系ポリマー、ポリオキシプロピレン系ポリマー、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン系ポリマー、セルロース系ポリマー、ゼラチン等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、これらの親水性ポリマーの中でも、感光性樹脂組成物を刷版の感光層に用いた場合、感光層に求められる耐水性、例えば架橋等により水に不溶化させ易さなどの点から、アミド基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基及び水酸基から選ばれる親水性置換基を1種又は2種以上側鎖に有するポリマー、例えば、前記した親水性置換基を側鎖に有する不飽和モノマーを1種又は2種以上重合したポリマーやポリビニルアルコール系ポリマー、セルロース系ポリマー、ゼラチン等が好ましい。
【0021】
前記した親水性置換基を側鎖に有する不飽和モノマーを1種又は2種以上重合したポリマーに於いて用いられる不飽和モノマーの具体例を説明する。アミド基を側鎖に有する不飽和モノマーとしては、無置換又は置換の(メタ)アクリルアミド、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の二塩基酸のアミド化モノマー、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
無置換又は置換(メタ)アクリルアミドのより具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、スルホン酸プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。また、前記イタコン酸等の二塩基酸のアミド化モノマーの場合は、一方のカルボキシル基がアミド化されたモノアミド、両方のカルボキシル基がアミド化されたジアミド、更に一方のカルボキシル基がアミド化され、他方のカルボキシル基がエステル化されたアミドエステルであってもよい。
【0023】
カルボキシル基を側鎖に有する不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸及びその無水物等の二塩基不飽和酸やこれら二塩基不飽和酸のモノエステル、モノアミド等のカルボキシル基含有不飽和モノマー等が挙げられる。これらのカルボキシル基を有するモノマーに於いては、該カルボキシル基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基やアンモニアやアミン類で中和されていても良い。又、重合してから中和しても良い。
【0024】
スルホン酸基を側鎖に有する不飽和モノマーとしては、ビニルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルメチルスルホン酸、イソプロぺニルメチルスルホン酸、(メタ)アクリル酸にエチレンオキシド、又はプロピレンオキシドを付加したアルコールの硫酸エステル(例えば、三洋化成工業(株)のエレミノール(登録商標)RS−30)、(メタ)アクリロイロキシエチルスルホン酸、モノアルキルスルホ琥珀酸エステルとアリル基を有する化合物とのエステル(例えば、三洋化成工業(株)のエレミノール(登録商標)JS2、花王(株)のラテムル(登録商標)S−180、又はS180A)、モノアルキルスルホ琥珀酸エステルとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、及び日本乳化剤(株)のAntox(登録商標)MS60等が挙げられる。これらのスルホン酸基を有するモノマーに於いては、該スルホン酸基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基やアンモニアやアミン類で中和されていても良い。又、重合してから中和しても良い。
【0025】
ホスホン酸基を側鎖に有する不飽和モノマーとしては、ビニルリン酸、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート、リン酸モノアルキルエステルのモノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのホスホン酸基を有するモノマーに於いては、該ホスホン酸基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基やアンモニアやアミン類で中和されていても良い。又、重合してから中和しても良い。
【0026】
また、水酸基を有する不飽和モノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び、これらの(メタ)アクリレートにエチレンオキシド、プロピレンオキシドを付加したモノマー、メチロール(メタ)アクリルアミドや該メチロール(メタ)アクリルアミドとメチルアルコールやブチルアルコールとの縮合物であるメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0027】
尚、本発明に於ける前記「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクロイル」等の記載はそれぞれアクリルまたはメタクリル、アクリレートまたはメタアクリレート、アクリロイルまたはメタアクリロイルを意味する。
【0028】
ポリビニルアルコール系ポリマーを更に詳細に説明すると、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニルモノマーのホモポリマーやコポリマーを完全又は部分加水分解して得られるポリマー、及びこのポリマーの部分ホルマール化、アセタール化、ブチラール化ポリマー等が挙げられる。
【0029】
本発明に於ける印刷用原版は、基板上に親水性ポリマーなどからなる感光性樹脂組成物を含有してなる水に不溶の感光層を有する。感光層を水に不溶にするには、通常は架橋剤を用いて親水性ポリマーを三次元架橋する。架橋する場合、一般的に親水性ポリマーに架橋剤と反応する架橋性官能基を導入することがおこなわれる。架橋性官能基の具体例としては、用いる架橋剤の種類により異なるが、例えば、水酸基、カルボキシル基及びそのアルカリ金属やアミン塩、スルホン酸基及びそのアルカリ金属やアミン塩、リン酸基及びそのアルカリ金属やアミン塩、アミド基、アミノ基、イソシアナート基、グリシジル基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらの架橋性官能基を導入するには、これらの官能基を有する不飽和モノマー、例えば前記した水酸基を有する不飽和モノマー、カルボキシル基を有する不飽和モノマー、またスルホン酸基を有する不飽和モノマーを、更にはグリシジル基を有する不飽和モノマーとしてグリシジル(メタ)アクリレート等を他の(メタ)アクリレートモノマーと共重合すればよい。
【0030】
さらに、本発明で用いる親水性ポリマーは、前記親水性置換基を有する不飽和モノマー、架橋性官能基を有する不飽和モノマー以外に、本発明の効果をさらに向上させるために、その他の共重合可能な不飽和モノマーを共重合することもできる。その他の共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシ(C1〜C50)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソポロニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0031】
親水性ポリマーを架橋するのに用いられる架橋剤としては、前記親水性ポリマーと架橋反応して親水性ポリマーを水に不溶性にすることにより感光層の耐水性を向上させるものであれば特に限定されない。架橋剤と官能基の組み合わせについては、「架橋剤ハンドブック」(金子東助、山下晋三編、大成社、昭和56年)に記載の反応から選ぶことができる。例えば、架橋剤として親水性ポリマー中の架橋性官能基であるカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、グリシジル基、場合によってはアミド基と反応する、公知の多価アルコール化合物類、多価カルボン酸化合物やその無水物類、多価グリシジル化合物(エポキシ樹脂)類、多価アミン化合物類、ポリアミド樹脂類、多価イソシアナート化合物類(ブロックイソシアナート類を含む)、オキサゾリン樹脂、アミノ樹脂、グリオキザール等が挙げられる。
【0032】
本発明においては前記した架橋剤の中でも、硬化速度と感光性組成物の安定性や感光層の親水性と耐水性のバランス等から、公知の種々の多価グリシジル化合物(エポキシ樹脂)、オキサゾリン樹脂、アミノ樹脂、多価アミン化合物やポリアミド樹脂等のエポキシ樹脂用の硬化剤やグリオキザールが好ましい。アミノ樹脂としては、公知のメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹脂等や、これら樹脂の変性樹脂、例えばカルボキシ変性メラミン樹脂等が挙げられる。また、架橋反応を促進するために、前記したグリシジル化合物を用いる際には3級アミン類を、アミノ樹脂を用いる場合はパラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、塩化アンモニウム等の酸性化合物を併用しても良い。感光性樹脂組成物を塗布後室温で乾燥、または加熱することで、これらの架橋剤が反応して感光層が水に不溶化する。
【0033】
本発明の感光性樹脂組成物の調製に用いられるポリマーエマルジョンは、ポリマー微粒子が水に分散した溶液を指し、ポリマー溶液中の微粒子の割合は60wt%以下、望ましくは40wt%以下である。エマルジョンは自己乳化型のものでも強制乳化型のものでもよい。これは乳化重合、懸濁重合、グラフト重合等で作られる。例えばウレタン系、(メタ)アクリル樹脂系、共役ジエン系ブタジエンゴム系などの親油性ポリマーからなるエマルジョン、スチレン系、酢酸ビニル系、塩化ビニリデン系モノマーを用いて得られるエマルジョン等が挙げられる。
【0034】
これらのポリマーに用いられるモノマーは1種類だけでなく2種類以上を用いてもよい。これらのポリマーエマルジョン由来のポリマーを添加した樹脂組成物からなる感光層は、乾燥後、架橋した親水性ポリマー相とこれらの親油性ポリマー相との相分離構造となる。
【0035】
本発明の感光性樹脂組成物に用いられる光吸収剤としては、明室での取り扱いを可能にするために、波長700〜1200nmの範囲、特に市場に供されている高出力半導体レーザーの発振波長である800〜860nmに吸収域を有する光吸収剤が好ましく、特に感度、分解特性等に優れる点から有機色素が望ましい。有機色素としては、シアニン系化合物、ポリメチン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、アントラシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、アゾ系化合物、ベンゾキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ジチオール金属錯体類、ジアミンの金属錯体類等が挙げられる。これらは1種類単独でも、2種類以上を混合してもよい。さらにカーボンブラック等の無機光吸収剤と併用してもよい。
【0036】
本発明において、光吸収剤はレーザー光を吸収すると多量の発熱を伴いながら急激に分解を起こす。その熱によって感光層のポリマーエマルジョンに由来のポリマーを溶融したり、親水性ポリマーの親水性置換基や主鎖の一部の分解が起り、感光層の親水性を親油(インク)性に変えることができる。そのため分解物の堆積が少なく、画像部の機械的強度も低下することがない。
【0037】
本発明に用いられる光吸収剤が、使用する親水性ポリマーに不溶の場合、光吸収剤を親水性ポリマーに分散させて用い感光性樹脂組成物とすることが可能である。分散した際の光吸収化合物の粒子径は、刷版の感光層の膜厚、解像度にもよるが、通常は平均で0.5μm以下が好ましい。分散する方法としては、例えばサンドミル、ペイントシェーカー、3本ロールなどを用いる方法、スラリーを加圧下に高速で衝突させる方法等をあげることができる。
【0038】
本発明に用いられる親水性添加剤としては、水や有機溶媒に溶解するものが望ましい。親水性添加剤の添加によって印刷版表面の親水性を高め、印刷開始後すぐに湿し水が表面に付くような作用をするものであればどのような化合物でも使用し得るが、特に界面活性剤や表面改質剤と呼ばれているものが好ましい。現在さまざまな親水性添加剤が入手できるが、例えば「特殊機能界面活性剤」(シーエムシー出版、1986年)に記載の親水性界面活性剤を使用可能なものとしてあげることができる。
【0039】
親水性添加剤の具体例では、非イオン性界面活性剤として、ポリエチレングリコール型、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等や、多価アルコール型例えばアルキルアルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、やし油やひまし油を原料とした界面活性剤、ポリエチレングリコール、アルキルフェニルエーテルやアルキルエーテル、アルキルアリルエーテル、ラウリルエーテル系の界面活性剤等があげられる。
【0040】
また陽イオン系界面活性剤としては、第1級アミン塩系、第2級アミン塩系、第3級アミン塩系、第4級アンモニウム塩系、四級ピリジニウム塩系、ラウリルイミダゾリン系、アルキルアミン系等があげられる。両性界面活性剤としてはアルキルベタイン系、アミノ酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、りん酸エステル型、アミンオキシド型、ポリオキシエチレンアルキルアミン型、ポリアルキレンポリアミン型、ポリエチレンイミン型、カルボン酸型、硫酸エステル型等の両イオン性のものが使用可能である。
【0041】
さらに陰イオン系界面活性剤としては、スルホン酸塩系、例えばアルキルフェニルスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルアリルスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ジアルキルスルホ琥珀酸エステルナトリウムやジアルキルスルホ琥珀酸エステルナトリウム等があげられる。また、カルボン酸塩系、例えばジアルキル琥珀酸エステルナトリウム、モノアルキルコハク酸エステルナトリウム、ポリカルボン酸等があげられる。硫酸エステル塩系として、例えばアルキルジフェニル硫酸オキシド、アルキル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エーテルナトリウムまたはアンモニウム等が挙げられる。また、りん酸エステル塩系、例えばアルキルエーテルりん酸エステルナトリウムやアルコールりん酸エステルナトリウム等が使用できる。特にジアルキル琥珀酸エステルナトリウムやモノアルキルスルホ琥珀酸エステルナトリウム系は感光層表面が水に濡れても溶出しにくいため好ましい。これらの親水性添加剤は、2種類以上を同時に用いてもよい。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物において、親水性ポリマー、ポリマーエマルジョン、架橋剤、光吸収剤及び親水性添加剤の混合割合は、刷版の感光層の親水性と耐水性のバランスや種々の印刷特性の点から、固形分として、親水性ポリマー97〜10重量部、ポリマーエマルジョン80〜10重量部、架橋剤3〜50重量部、及び光吸収剤と親水性添加剤は前記親水性ポリマー、ポリマーエマルジョンと架橋剤の固形分の合計100重量部に対しそれぞれ2〜20重量部、0.01〜5重量部が好ましい。さらには、固形分として、親水性ポリマー50〜20重量部、ポリマーエマルジョン70〜20重量部、架橋剤5〜40重量部、及び光吸収剤と親水性添加剤は前記親水性ポリマー、ポリマーエマルジョンと架橋剤の固形分の合計100重量部に対しそれぞれ5〜15重量部、0.1〜4重量部が好ましい。光吸収剤が上記の範囲内であれば感度が適当で、経済的にも有利である。また、親水性添加剤が上記の範囲内であれば、感光性樹脂組成物表面の親水性が良好で、感光性樹脂組成物の架橋に悪影響を与えることがない。
【0043】
本発明においては、刷版の感光層露光部の親水性と耐水性のバランス、エマルジョンとの混ざりやすさや種々の印刷特性の点から、親水性ポリマーとしては、アミド基不飽和モノマー由来の繰り返し単位の部分が20〜100重量%、水酸基のような架橋性官能基を有する不飽和モノマーの部分が0〜60重量%、及びその他の不飽和モノマー由来の繰り返し単位の部分が0〜50重量%であるポリマーが好ましく、更には、アミド基を有する不飽和モノマー由来の繰り返し単位の部分が40〜95重量%、水酸基のような架橋性官能基を有する不飽和モノマー由来の繰り返し単位の部分が5〜40重量%、及びその他の不飽和モノマー由来の繰り返し単位の部分が0〜50重量%であるポリマーが好ましい。なお、アミド基、水酸基を有する不飽和モノマーは、親水性置換基を有する不飽和モノマーであるとともに、架橋性官能基を有する不飽和モノマーでもあるが、前記の親水性ポリマーの組成においては、アミド基、カルボキシル基、水酸基、及びスルホン酸基を有する不飽和モノマーは親水性置換基を有する不飽和モノマーとみなし、架橋性官能基を有する不飽和モノマーとしては算入しないものとする。
【0044】
本発明の印刷用原版においては基板上に直接または他の層を介して前記した感光性樹脂組成物を含有する水に不溶性の感光層を設けてなるが、この際用いられる基板の具体例としてはアルミ板、鋼板、ステンレス板、銅板等の金属板やこれらの金属の合金板、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、酢酸セルロース等のプラスチックフィルムや紙、アルミ箔をラミネートした紙、金属蒸着紙、プラスチックフィルムラミネート紙等が挙げられる。これらの基板の厚さは特に制限はないが通常100〜500μm程度である。また、これらの基板には、密着性の改良等のために酸化処理、リン酸亜鉛処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。これらの中では、特に取り扱いが容易であり、さびにくく安価であるアルミ板が望ましい。さらにアルミ板を用いると長時間印刷を行っても基板が伸びることがないので4色以上のカラー印刷に適している。
【0045】
また、感光層との密着性を改良したり、熱の拡散を防止したりするために、ポリマーの下地層を用いてもよい。これに用いられるポリマーは、基板と感光層への密着性及び機械的強度のあるポリマーならば特に制限なく使用できる。また、ポリマーの中にフィラーを添加してプライマーとしてのポリマー表面に凹凸を作り感光層との接触面積を大きくすることでさらに密着性及び機械的強度を上げることができる。下地層は架橋してもよいし架橋しなくてもよい。下地層の形成は、有機溶媒に溶解して塗布する方法などにより行うことができる。
【0046】
前記基板に感光層を設けるには、本発明の感光性樹脂組成物を含有する溶液を基板に塗布し、乾燥、硬化すればよい。この感光性樹脂組成物の溶剤は親水性ポリマーやポリマーエマルジョンに含まれる水や水に溶解するアルコール系有機溶剤のほか、均一に混合できるものであれば特に制限はない。また、粘度調整や塗布作業性等を改善するために感光性樹脂組成物調整終了後塗布直前に加えても良い。塗布する方法としては、塗布する溶液の粘度や塗布速度等によって異なるが、通常例えば、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンフローコーター、ダイコーター、ディップコーターやスプレー法等を用いれば良い。
【0047】
その際、塗布溶液の消泡のためや、塗布膜の平滑化のために、塗布溶液に消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、カップリング剤等の各種添加剤を用いても良い。
【0048】
また、感光層の耐水性等の特性を改良するために有機や無機のフィラーを添加してもよい。これらのフィラーは感光性樹脂組成物に混合して凝集等を起こさなければ形状や材質に制限はない。
【0049】
感光性樹脂組成物の溶液を塗布した後、加熱して乾燥及び架橋する。加熱温度は通常50〜200℃程度である。それにより形成された感光層の膜厚は特に制限はないが、通常0.5〜10μm程度が好ましい。
【0050】
次いで、感光層の上に親水性有機化合物からなる薄膜を形成する。これを設ける場合、感光層の加熱後に塗布してもよいし、加熱前に塗布後感光層とともに加熱しても良い。ここで用いられる有機化合物の分子量は200以上が望ましい。
また、分子量は5000以下が望ましい。分子量が200以上であれば単独で液状になりにくい。また、5000以下であればレーザー光で印刷版を露光した場合、感度の低下をすることはない。これらの化合物は、水、水と極性有機溶剤の混合液、又は極性有機溶剤に溶解して使用する。親水性が高い有機化合物であれば使用可能であるが、特に水酸基やカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を多く持つ化合物を用いると印刷版の表面親水性が高まるので好ましい。親水性有機化合物の具体例としては、フィチン酸、グルコン酸ナトリウム、有機酸及びその塩、糖類、糖骨格を持つシクロデキストリン、リグニン等の親水性天然物などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし複数の化合物を混合して用いても良い。
また、塗布時のレベリング改善や親水性向上のために各種添加剤を加えても良い。
【0051】
親水性有機化合物からなる薄膜を形成するには、親水性有機化合物の溶液を感光層の表面に塗布する。塗布する方法としては、通常、例えばディップコーターやスプレーコーター、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンフローコーター、ダイコーター等が用いられる。これらの中では、感光層表面を痛めず、しかも薄く塗布することができるディップコーター、スプレーコーター、カーテンフローコーターが望ましい。
【0052】
この溶液を塗布、乾燥した後、加熱を行っても良いし行わなくても良い。加熱を行う場合、加熱温度は通常40〜200℃程度である。
【0053】
親水性有機化合物の膜厚は、通常0.5μm以下が好ましい。親水性有機化合物層が薄いほど、レーザー露光部分の親油性が低下せず、画像部と非画像部のコントラストが大きくなる。また、感光層の表面に化合物の粒子が分離して存在し、連続の膜を形成していなくても良い。一方、膜が厚すぎるとレーザー照射の際感度が低下したり、画像部の有機親水性化合物が分解しきれずにごみとなって印刷物に付着するので望ましくない。この有機親水性化合物の薄膜を設けることで、非画像部表面へのインクの付着力を押さえることができるため、再印刷時のやれ紙の枚数を減らすことができ、クリーニングしやすい印刷版が得られる。
【0054】
本発明の印刷用原版においては、親水性有機化合物の薄膜を感光層の表面に形成した後、その感光層を保護するためにその上にフィルムを積層しても良い。それによって輸送やハンドリングによる印刷版表面の傷を防ぐことができる。このフィルムはレーザー照射前に剥離してから使用する。
【0055】
本発明のダイレクトオフセット印刷版は湿し水を用いるオフセット印刷用の版であり、非画像部は親水性が高く画像部は親油性が高いことが求められる。感光層の樹脂の組成だけで印刷版の諸特性をすべて満たすことは難しく、特に非画像部の親水性と画像部の親油性はトレードオフの関係にある。また、親水性が高い樹脂組成物を用いると、一般的に感光層の耐刷性が低い場合が多い。また、印刷機の種類によって供給される水の量が異なるため、親水性には広いマージンが要求される。従って画像部の着インク性を低下させずに非画像部の親水性を高くすることができれば、印刷トラブルが発生しにくい。そのため本発明では親水性有機化合物の薄膜を感光層表面に形成することで、感光層単独では両立することが難しい、印刷版の十分な親水性と親油性を得ることができる。
【0056】
そして本発明においてはレーザー照射により照射された部分の感光層は親油性から親油(インク)性に変化する。これは、レーザー照射により感光層内で部分的にポリマーエマルジョン由来の親油性ポリマーが溶融、融着したり、親水性ポリマー、架橋剤、親水性添加剤の親水性置換基が分解したりして、親油(インク)性に変化するものと推定される。従って、レーザー照射後には現像や拭き取り等の操作を必要としない。又、感光層が部分的に分解した際に、ガスを発生して感光層が発泡することもあり、それにより露光部の感光層が未露光部よりも隆起することがある。感光層が発泡により隆起している場合でも、印刷を開始すると印圧によりその隆起部は低くなったり、無くなったりするため印刷物への影響はない。
【0057】
本発明で印刷用原版のレーザー照射に用いられる光の波長は、700〜1200nmの範囲内であり、この波長域の中で、光吸収剤の吸収波長域に合致する光を用いればよい。光源としては、使用しやすく高出力の光源が適しており、この点から、700〜1200nmの波長域に発振波長を有するレーザーが好ましく、例えば830nmの高出力半導体レーザーや1064nmのYAGレーザーが好ましい。これらのレーザーを搭載した露光機は所謂サーマル用プレートセッター(露光機)として既に市販されている。
【0058】
このようにして形成される本発明のダイレクトオフセット印刷用原版は、すでに市販されている露光機で使用可能であり、現像工程が不要である。
【0059】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
(親水性ポリマーAの合成)
1000mlのフラスコに水400gを入れ、窒素をバブリングして溶存酸素を除去した後、80℃に昇温した。窒素ガスをフラスコに流しながら、アクリルアミド90g、ヒドロキシエチルアクリレート10g、水67gからなるモノマー溶液と過硫酸カリ0.5gを水50gに溶解した開始剤の水溶液を、内温を80℃に維持しながら、別々に3時間に渡り連続滴下した。滴下終了後80℃で2時間重合を続けた後、更に90℃で2時間重合した。最後に水150g加えた後、アンモニア水溶液でpHを4.5に調整して親水性ポリマーAの水溶液を得た。このポリマーの水溶液は粘度が8000mPa・s、固形分は15重量%であった。
【0061】
(感光性組成物Aの調製)
次に上記親水性ポリマーAを固形分として40重量部、ウレタン系エマルジョン(第一工業製薬(株)製エマルジョンスーパーフレックス(登録商標)700)を固形分として40重量部、架橋剤としてメチル化メラミン樹脂(三井サイテック(株)製サイメル(登録商標)350)を固形分で20重量部、水100重量部に溶解したシアニン色素IR125(アクロス製)5重量部、親水性添加剤としてジアルキルスルホ琥珀酸エステルナトリウム(第一工業製薬(株)製ネオコール(登録商標)YSK)2重量部を混合し均一になるまでディスパーでかき混ぜて感光性樹脂組成物Aを含む溶液を得た。
【0062】
[実施例1]
(印刷用原版の作成)
厚み188mmのポリエステルフィルムに上記で得られた感光性樹脂組成物Aを含む溶液をワイヤーバー#10を用いて均一に塗布した後、120℃で1時間乾燥し、約2μmの膜厚の感光層を成膜した。
上記の感光層を成膜したポリエステルフィルムをフィチン酸0.005wt%水溶液に漬けたあとゆっくり上に引き上げて表面にフィチン酸層を形成した。室温で水分を揮発させて乾燥し、印刷用原版を得た。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、フィチン酸薄膜を形成することなく印刷用原版を作製し、そのまま使用した。
【0064】
(評価)
印刷特性を評価するために、印刷用原版に830nmの半導体レザー光を集光した光を走査して情報の記録を行った。レーザー光を照射した部分は緑色から灰色に変色した。レーザー照射パワーを5mJ/cm2刻みに上げながら照射し、その表面をPS版用現像インク(富士写真フィルム(株)製)を染み込ませたスポンジで擦り、均一に画像部に着インクし、ラインや網点がきれいにできている感度を調べた。この原版の感度は約350mJ/cm2であった。この版の表面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、実施例1、比較例1ともに感光層の露光部には表面の樹脂が溶融したような形状が見られ、走査しなかった部分より微かに隆起していた。また、露光部の周辺を顕微鏡で観察しても分解物の堆積は見られなかった。
【0065】
この露光した版を湿し水を用いるオフセット印刷機(シナノケンシ(株)製カード印刷機プレクスター(登録商標)ARX010、印刷インク:エコピュア(登録商標)HP墨(サカタインクス株式会社製)、湿し水添加剤:アストロマーク3(日研化学株式会社製)1.5%添加)にセットしてコート紙を用いて印刷を行った。1000枚印刷後印刷機を止めて10分放置した。その後印刷を再開し、初期の印刷物の品質に戻るまでどれくらいかかるか比較した。
【0066】
実施例1、比較例1ともに光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、且つ、分解物によると思われる印刷欠陥もなく、綺麗な印刷ができた。また、175線で網点、細線がきれいに印刷できた。しかし、印刷機を止めて10分放置し印刷を再開した後では、実施例1が、やれ紙10枚で初期の印刷物の品質なみに回復したのに対し、比較例1ではやれ紙30枚印刷後ようやく地汚れが消えた。また、実施例1では、印刷中、湿し水を絞って意図的に版表面にインクをつけた後、印刷機を止め、水を湿したウエスで非画像部を拭いたところ、強く擦らなくてもインクを取り除くことができた。
【0067】
(親水性ポリマーBの合成)
以下のモノマー及び開始剤を用いて親水性ポリマーAの合成と同様な操作により親水性ポリマーBの水溶液を得た。
アクリルアミド 70g
ヒドロキシエチルアクリレート 5g
アクリル酸 25g
重合開始剤 V―50(水性アゾ系、和光純薬工業(株)製品) 0.5g
【0068】
(感光性樹脂組成物Bの調製)
次に上記親水性ポリマーBを固形分として30重量部、ウレタン系エマルジョン(三井化学(株)製エマルジョンオレスター(登録商標)UD350)を固形分として50重量部、架橋剤としてメチル化メラミン樹脂(三井サイテック(株)製サイメル(登録商標)350)を固形分で20重量部、水100重量部に溶解したフタロシアニン色素5重量部、親水性添加剤としてジアルキルスルホ琥珀酸エステルナトリウム(第一工業製薬(株)製ネオコール(登録商標)YSK)2重量部を混合し均一になるまでディスパーでかき混ぜて感光性樹脂組成物Bを含む溶液を得た。
【0069】
(印刷用原版の作成)
[実施例2]
次に0.24mm厚のアルミ板の表面をアセトンで脱脂した後、接着性向上のために予めプライマーとして2μmの厚さのウレタン系エマルジョン(三井化学(株)製ウレタン系エマルジョンUD500)を塗布し120℃5分間加熱した。さらにその上に感光性樹脂組成物Bを含む溶液を塗布し、120℃で1時間乾燥し、3μmの厚さの感光層を成膜した。
【0070】
上記の感光層を成膜したアルミ板にフィチン酸0.005wt%とフッ素系レベリング剤(セイミケミカル株式会社製サーフロン(登録商標)S131)0.001wt%の濃度に添加調製された水溶液をスプレーコートし、表面に有機親水性化合物薄膜を形成した。室温で水分を揮発させて乾燥したのち、100℃20分間加熱し、印刷用原版を得た。
【0071】
[実施例3]
実施例2で得られた感光層を成膜したアルミ板に、グルコン酸ナトリウム0.003wt%とフィチン酸0.002wt%、メタノール5.0wt%の濃度に添加調製された水溶液をスプレーコートし、表面に有機親水性化合物薄膜を形成した。室温で水分を揮発させて乾燥したのち、120℃20分間加熱し、印刷用原版を得た。
【0072】
[実施例4]
実施例2で得られた感光層を成膜したアルミ板に、β−シクロデキストリン0.01wt%の濃度に添加調製された水溶液をスプレーコートし、表面に有機親水性化合物薄膜を形成した。室温で水分を揮発させて乾燥したのち、120℃10分間加熱し、印刷用原版を得た。
【0073】
[比較例2]
実施例2において、有機親水性化合物層を形成することなく印刷用原版を作製し、そのまま使用した。
【0074】
(評価)
この版を用いて、実施例1、比較例1と同じ方法で評価した。SEMで観察したところいずれの版も露光部の周辺には分解物等の飛沫は観察されなかった。
【0075】
実施例2〜4、比較例2ともに光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、且つ、分解物によると思われる印刷欠陥もなく、綺麗な印刷ができた。また、175線で網点、細線がきれいに印刷できた。
しかし、印刷機を止めて10分放置し印刷を再開した後は、実施例2ではやれ紙10枚、実施例3では5枚、実施例4では7枚で初期の印刷物の品質なみに回復したが、比較例2ではやれ紙25枚印刷後ほぼ地汚れが消えた。また、実施例2〜4では、印刷中、湿し水を絞って意図的に版表面にインクをつけた後、印刷機を止め、水を湿したウエスで非画像部を拭いたところ、強く擦らなくてもインクを取り除くことができた。
【0076】
【発明の効果】
本発明のダイレクトオフセット印刷用原版を用いることにより、表面へのインクの付着力を押さえることができるため、再印刷時のやれ紙の枚数を減らすことができ、クリーニングしやすい印刷版が得られる。また、印刷時にアルカリ現像や湿し水現像をする必要が全くないため、取り扱いの容易な印刷版とすることができる。
Claims (5)
- 基板上に直接又は他の層を介して積層された、親水性ポリマー、ポリマーエマルジョン、波長700〜1200nmの範囲内に吸収を持つ光吸収剤、架橋剤及び親水性添加剤を混合して得られる感光性樹脂組成物からなる親水性樹脂感光層に非画像部を形成する印刷用原版であって、該親水性樹脂感光層の表面に分子量が200以上の親水性有機化合物からなる薄膜が形成されていることを特徴とするダイレクトオフセット印刷用原版。
- 前記親水性有機化合物の分子量が5000以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトオフセット印刷用原版。
- 前記親水性有機化合物からなる薄膜が、該化合物をディップコート法、スプレーコート法、カーテンコート法から選ばれる方法によって親水性樹脂感光層表面に塗布後乾燥することにより形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のダイレクトオフセット印刷用原版。
- 波長700〜1200nmの範囲内のレーザー照射によって親水性樹脂感光層の親水性が親油性に変化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダイレクトオフセット印刷用原版。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のダイレクトオフセット印刷用原版の親水性樹脂感光層に、波長700〜1200nmの範囲内のレーザーを照射後、現像を行うことなく非画像部が形成されたダイレクトオフセット印刷版。
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