JP2004236504A - 酵素配列複合体及び固定化酵素配列複合体とそれらの製造方法、担体分子及び酵素 - Google Patents
酵素配列複合体及び固定化酵素配列複合体とそれらの製造方法、担体分子及び酵素 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】新規で有利な酵素配列複合体を提供する。
【解決手段】セルロース結合蛋白質に構造的に由来する蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC1,C2,・・・として互いに異なる生物種起源であって所定の結合特異性の確認されたものを用い、一方、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素には上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、所定の結合特異性の確認された対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加し、これらの対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの特異的結合により複数の酵素を制御して配列する。
【選択図】 図2
【解決手段】セルロース結合蛋白質に構造的に由来する蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC1,C2,・・・として互いに異なる生物種起源であって所定の結合特異性の確認されたものを用い、一方、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素には上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、所定の結合特異性の確認された対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加し、これらの対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの特異的結合により複数の酵素を制御して配列する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、任意の特定逐次反応に関与する酵素群からなる複合酵素であって、これらの酵素群をミクロな蛋白質担体分子上に線状に配列させた酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素に関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、これらの発明において特定の複数種類の酵素をミクロな蛋白質担体分子上に線状に配列させるための手段として蛋白質担体分子側に具備させる対酵素結合ドメイン(C)と、同手段として酵素側に具備させる対担体分子結合ドメイン(D)との結合特異性が、必ずしも起源生物種の区別に従わない場合がある、との新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0003】
【従来の技術】
酵素による触媒反応は、常温,常圧と言う緩やかな条件で進行し、公害等の心配が少なく、しかも基質特異性が優れていて反応効率が良い、等の理由から、食品工業,医薬品工業,各種の検査もしくは診断技術等に多用されている処であるが、基本的に「一酵素一反応」と言う大きな制約を持っていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−120525号公報
【特許文献2】特開昭59−48080号公報
そこで近年、例えば特開昭57−120525号公報に開示された「固定化複合酵素製剤」の発明や、特開昭59−48080号公報に開示された「固定化複合酵素」の発明のように、一連の逐次反応に関与する酵素群を、その酵素活性を損なわない何らかの手段によって一体化することにより、逐次反応を連続的に遂行させ得るようにした複合酵素が注目されている。
【0005】
前記した逐次反応は、食品加工プロセス,医薬品の製造プロセス,ヒトを含む各種生物体内での正常もしくは異常な生化学反応等に限らず、自然界のあらゆる有機物質変化の場において広汎に見られるものであるため、もし実際的に有効な複合酵素が提供された場合、その技術的意義は極めて大きく、かつ、その用途には殆ど限界がない。
【0006】
しかしながら、上記に例示したような従来の複合酵素には、2,3の大きな不具合があった。
【0007】
例えば前記特開昭57−120525号公報に係る発明では、生体内逐次反応の一種であるオルニチンサイクルに関与する酵素群を、フィブリン重合物中に混合状態で埋没又は結合させている。このような複合酵素系の一体化形態は、要するに各酵素をランダムに混合させているに過ぎないため、分子レベルでは各酵素が非常に不均一な(過不足の多い)分散状態となることが避けられない。しかも、各酵素間の空間距離も、混合される酵素の濃度によって調節するしかないために、極めて大雑把で、しかも平均的な調節しかできない。これらの点から、拡散抵抗が大きく、反応効率の低い反応系となる。
【0008】
次に、前記特開昭59−48080号公報に係る発明では、逐次反応に関与する各酵素群を、金属に被覆した樹脂等の担体表面において順次膜状に積層固定している。この場合、各酵素はそれぞれ特定の順序で膜状に偏在して固定されているため、全体として基質との接触効率が非常に悪い。又、この積層体を所定の方向に(即ち、各積層膜を所定の順序で)通過する基質以外は逐次反応が円滑に進行しない。これらの点から、やはり拡散抵抗が大きく、反応効率の低い反応系となる。
【0009】
なお、上記いずれの従来技術においても、酵素の複合化手段がそのまま酵素の固定化手段となっており、従って若し可溶性の複合酵素が望まれる場合、これに応えることはできない。
【0010】
以上のような問題点に鑑み、本願発明者は既に、特願平10−338671号において、これらの不具合のない酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素を提案している。
【0011】
これらの発明によって、逐次反応に関与する一連の酵素を、蛋白質分子と言うミクロな担体上において正確に1個ずつ、しかも空間的に任意の順序であるいは希望する特定の順序(逐次反応に関与するプロセス上の順序に従う場合を含む)で配列させた酵素配列複合体であって、容易に可溶性状態又は不溶性の担体固定化状態とできるものを提供することが可能となった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特願平10−338671号に係る発明は、その後の本願発明者の研究により、大半の場合において確実に上記の効果を確保できるが、例外的な場合があり得ることが見出された。
【0013】
即ち、特願平10−338671号に係る発明において、セルロース結合蛋白質に構造的に由来する蛋白質担体分子上に所定の複数の酵素を正確に配列させる手段は、酵素側に付加するドッケリン等の対担体分子結合ドメイン(D)と、蛋白質担体分子側に構成された対酵素結合ドメインの複数の繰返しにおけるコヘシン等の対酵素結合ドメイン(C)との選択的な組み合わせである。そしてその組み合わせの原理は、「一般的に、同一生物種に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない。」と言う技術常識であった。
【0014】
しかしながら、本願発明者の行った、同一微生物種に由来しあるいは生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの結合特異性の確認実験により、一定の例外的な場合において、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとが結合性を示す場合があると言う、従来の技術常識を覆す事実が見出された。
【0015】
この新たな知見によれば、上記特願平10−338671号に係る発明は、大半の場合において極めて有効な効果を確保できるとしても、一定の例外的な場合にはその効果を確保できない恐れがある。
【0016】
そこで本発明は、このような新たな知見に基づき、更に改良された酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素を提案することを、解決すべき課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明(請求項1に記載の発明)の構成は、以下の担体分子(1)における複数の対酵素結合ドメインに対して、任意の特定逐次反応に順次関与する以下の複数の酵素(2)が、C1とD1、C2とD2、・・・はそれぞれ同一生物種起源であると言う関係を有する対酵素結合ドメインC1,C2,・・・と対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・との特異的結合を介して、任意の順序で配列されて結合している、酵素配列複合体である。
(1)担体分子:セルロース分解酵素の対担体分子結合ドメイン(D)に対して結合力を示す対酵素結合ドメイン(C)の複数の繰返しを有するセルロース結合蛋白質に構造的に由来し、該セルロース結合蛋白質が本来有するセルロース結合ドメイン(CBD )をそのまま含むかあるいはこのセルロース結合ドメインを除外した蛋白質担体分子であって、
前記複数の対酵素結合ドメイン(C)のそれぞれを、互いに異なる生物種起源であって、酵素(2)に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えた構造を有する。
(2)複数の酵素:任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素であって、それぞれの酵素のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加した複数の酵素。
【0018】
【非特許文献1】平成9年12月1日 三重大学生物資源紀要第19号
なお、このような第1発明の構成に関して、以下のイ)〜ニ)の事項は、例えば「分子生物学的アプローチが明らかにしたセルラーゼの姿(大宮邦雄ら、三重大学生物資源紀要第19号、71〜96頁.平成9年12月1日)」等の文献によって公知である。
【0019】
イ) Clostridium cellulovorans由来の CbpA と呼ばれるセルロース結合蛋白質や、 Clostridium josui由来の CipA と呼ばれるセルロース結合蛋白質が存在し、これらのセルロース結合蛋白質は、複数のコヘシン( Cohesin)と呼ばれる酵素との結合用のドメイン(アミノ酸配列)と、CBD と呼ばれるセルロースとの結合用のドメイン(アミノ酸配列)とを有する。そしてセルロース結合蛋白質はCBD によって基質としてのセルロースに結合する。
【0020】
ロ)同上微生物由来のセルラーゼ即ちセルロース分解酵素には、ドッケリン又はドックリン(Dockerin)と呼ばれる、セルロース結合蛋白質との結合用の1個のドメイン(アミノ酸配列)が備わっており、このドッケリンと前記コヘシンとの結合によってセルロース分解酵素がセルロース結合蛋白質と結合する。
【0021】
ハ)Clostridium thermocellumにおいては、セルロース結合蛋白質が、複数のコヘシンと共にドッケリンをも備えており、このドッケリンはやはりコヘシンに対する結合性を持つと考えられる。
【0022】
ニ)コヘシン/ドッケリンにはそれぞれ複数種類のものがあり、互いに相手のドメイン(ドッケリン/コヘシン)に対する結合特異性が異なる。
【0023】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明(請求項2に記載の発明)の構成は、前記第1発明に係る複数の酵素の配列の順序が、前記逐次反応に関与するプロセス上の順序に従う、酵素配列複合体である。
【0024】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明(請求項3に記載の発明)の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る酵素配列複合体において、対酵素結合ドメインC1,C2,・・・には Clostridium josui由来であって他の生物種起源の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・とは結合性を示さない対酵素結合ドメイン( Cjcos)が少なくとも含まれ、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・には C. josui 由来であって他の生物種起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さない対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が少なくとも含まれる、酵素配列複合体である。
【0025】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明(請求項4に記載の発明)の構成は、前記第3発明に係る対酵素結合ドメイン(Cjcos )が C. josui 由来のコヘシンである Cjcos1 〜 Cjcos6 のいずれかから選ばれ、前記対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が C. josui 由来のドッケリンである CjCelBdoc又は CjAgaAdocのいずれかから選ばれる、酵素配列複合体である。
【0026】
なお、 Cjcos1 のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に、 Cjcos2 のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に、 Cjcos3 のアミノ酸配列を配列表の配列番号3に、 Cjcos4 のアミノ酸配列を配列表の配列番号4に、 Cjcos5 のアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、 Cjcos6 のアミノ酸配列を配列表の配列番号6に、 CjCelBdocのアミノ酸配列を配列表の配列番号7に、 CjAgaAdocのアミノ酸配列を配列表の配列番号8に、それぞれ示す。
【0027】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明(請求項5に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る担体分子(1)の構成を有する、担体分子である。
【0028】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明(請求項6に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る複数の酵素(2)のいずれかである、酵素である。
【0029】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明(請求項7に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る複数の酵素(2)と、第1発明〜第4発明のいずれかに係る担体分子(1)とを用い、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・と対酵素結合ドメインC1,C2,・・・との間の特異的結合を利用することにより、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体を構成する、酵素配列複合体の製造方法である。
【0030】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明(請求項8に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体が固定化担体の表面に固定されている、固定化酵素配列複合体である。
【0031】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明(請求項9に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体における担体分子が前記セルロース結合ドメインをそのまま含む場合において、第7発明に係る酵素配列複合体を構成する工程と、該酵素配列複合体の前記担体分子を前記セルロース結合ドメインの機能を利用してセルロース質の固定化担体の表面に固定する工程とを、同時に又は任意の順序で行う、固定化酵素配列複合体の製造方法である。
【0032】
【発明の作用・効果】
(第1発明の作用・効果)
第1発明においては、複数種類の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・を備えた担体分子に対して、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素(1セットの酵素群)であって、それぞれ付加された対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・によって担体分子に対する結合位置を特異的に決定されたものを結合させるので、蛋白質分子と言うミクロな担体上において逐次反応に関与する一連の酵素を正確に1個ずつ配列させた酵素配列複合体となっている。
【0033】
即ち、酵素配列複合体の担体分子(1)においては、公知のセルロース結合蛋白質に構造的に由来すると共に、その複数の対酵素結合ドメイン(C)のそれぞれを、互いに異なる生物種起源であって、複数の酵素(2)に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えた構造を有する。又、酵素配列複合体の複数の酵素(2)においては、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加している。
【0034】
その結果、対担体分子結合ドメインD1を付加した特定の酵素は、蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC1の位置に確実に結合されている。次に、対担体分子結合ドメインD2を付加した特定の酵素は、蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC2の位置に確実に結合されている。同様にして、複数ないし多数の種類の特定の酵素が、蛋白質担体分子における所定の対酵素結合ドメインの位置に確実に結合されている。
【0035】
又、この酵素配列複合体は、逐次反応の遂行に必要な一連の酵素が分子レベルにおいて全く過不足なく配列しているので、ミクロに見て基質との接触効率が最高であり、マクロに見て各酵素の完全に均一な分散系を提供できる。更に蛋白質分子と言うミクロな担体上において各酵素の空間距離を極めて小さく設定することができ、かつその空間距離を厳密に制御することができる。これらの理由から、拡散抵抗が極小である反応効率の高い逐次反応系を提供できる。
【0036】
又、この酵素配列複合体は蛋白質としての変性を受けない環境において可溶性であり、酵素の複合化手段がそのまま酵素の固定化手段とはなっていない。従って可溶性の複合酵素としても提供できるし、第8発明又は第9発明のように固定化担体の表面に固定された不溶性の複合酵素としても提供できる。
【0037】
(第2発明の作用・効果)
酵素配列複合体において、各酵素に付加する対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・の選択により、第1発明のように特定逐次反応に順次関与する複数の酵素が任意の順序で配列された酵素配列複合体とすることもできるし、第2発明のように各酵素が逐次反応に関与する順序に従って配列された酵素配列複合体とすることもできるが、一般的に拡散抵抗は後者の方が更に小さいと考えられる。
【0038】
(第3発明の作用・効果)
第1発明又は第2発明に係る酵素配列複合体の更に具体的な態様として、第3発明に係る酵素配列複合体が好ましく例示される。
【0039】
(第4発明の作用・効果)
第3発明に係る酵素配列複合体の更に具体的な態様として、第4発明に係る酵素配列複合体が好ましく例示される。
【0040】
(第5発明の作用・効果)
第5発明の担体分子は、後述の第7発明において第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体の調製に用いられる構成要素として、極めて有用である。
【0041】
(第6発明の作用・効果)
第6発明の酵素は、後述の第7発明において第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体の製造に用いられる構成要素として、極めて有用である。
【0042】
(第7発明の作用・効果)
第7発明によって、第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体を有効に製造することができる。
【0043】
(第8発明の作用・効果)
第8発明のように適当な手段によって酵素配列複合体を固定化担体の表面に固定することにより、酵素の固定化の一般的なメリット、即ち、酵素の回収・再利用や、酵素の安定性の増大等の効果を期待できる。
【0044】
(第9発明の作用・効果)
第9発明においては、酵素配列複合体の担体分子に含まれるセルロース結合ドメインをそのまま利用してセルロース質の固定化担体に固定するので、複合酵素の固定化操作が簡易化される他、セロビオース等の脱離剤と組合わせることにより酵素複合体の精製を容易に行うことができる等の効果も期待できる。
【0045】
【発明の実施の形態】
次に、第1発明〜第9発明の実施の形態について説明する。以下において単に「本発明」と言う時は、第1発明〜第9発明を一括して指している。
【0046】
〔酵素配列複合体〕
本発明に係る酵素配列複合体における担体分子は、例えば前記公知文献に記載されたような各種のセルロース結合蛋白質に構造的に由来する(その構造が各種のセルロース結合蛋白質に由来する)蛋白質分子であって、少なくとも対酵素結合ドメインであるアミノ酸配列部分の複数の繰返しを有すると共に、これらの対酵素結合ドメイン(C)が、互いに対担体分子結合ドメインに対する結合特異性の明確に異なる複数種類の対酵素結合ドメイン、即ち、互いに異なる生物種起源であって、酵素配列複合体の酵素に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えられている。
【0047】
これらの対酵素結合ドメインC1,C2,・・・は、代表的には、各生物種(特に各微生物種)に見られるコヘシンと総称されるドメインの各一種であるが、コヘシンと称されないアミノ酸配列であって機能的にコヘシンと同等のものであっても良い。対酵素結合ドメインC1,C2,・・・の一部に、各生物種(特に各微生物種)に見られるドッケリン又はドックリンと総称されるドメインが用いられることがあり得る。
【0048】
本発明に係る酵素配列複合体における複数の酵素は、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素であって、それぞれの酵素のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加した複数の酵素である。
【0049】
これらの対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・は、代表的には、各生物種(特に各微生物種)に見られるドッケリン又はドックリンと総称されるドメインの各一種であるが、ドッケリン又はドックリンと称されないアミノ酸配列であって機能的にドッケリンと同等のものであっても良い。対酵素結合ドメインC1,C2,・・・の一部にドッケリンが用いられる場合においては、これに対応する対担体分子結合ドメインにコヘシンが用いられるケースがあり得る。
【0050】
対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインに関して、一般的には、同一生物種(同一微生物種等)に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種(微生物種等)の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない傾向がある。しかし本願発明者の研究により、このような傾向の例外もあることが見出された。そのため、上記のような対酵素結合ドメインC1,C2,・・・と対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・との選択が要求されるのである。
【0051】
前記した、「一般的に、同一生物種に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない。」と言う技術常識に従わない結合特異性の例外の具体的な一例を以下の表1に示す。この表1は、縦の欄に示す数種類の対酵素結合ドメインと、横の欄に示す数種類の対担体分子結合ドメインとのそれぞれの組み合わせにおける結合特異性を調べた結果を表している。
【0052】
【表1】
表1の縦の欄において、「Cjcos1」、「Cjcos2」、「Cjcos5」、「Cjcos6」とはそれぞれ C. josui 由来の6種類のコヘシンの内のcos1、cos2、cos5、cos6と呼ばれるものを、「Ctcos1」、「Ctcos2」、「Ctcos3」、「Ctcos4」、「Ctcos7」とはそれぞれ C. thermocellum由来の9種類のコヘシンの内の cos1 、cos2、cos3、cos4、cos7と呼ばれるものを、「CtcosII 」とは C. thermocellum由来のSdbA に見出された typeII のコヘシンを、それぞれ示している。上記の表1の横の欄において、「 CjAgaAdoc」とは C. josui 由来のアガロース分解酵素 AgaA に見出されたドッケリンを、「 CjCelBdoc」とは C. josui 由来のセルロース分解酵素CelBに見出されたドッケリンを、「 CtXynAdoc」とは C. thermocellum由来のキシロース分解酵素 XynA に見出されたドッケリンを、「 CtXynCdoc」とは C. thermocellum由来のキシロース分解酵素 XynC に見出されたドッケリンを、「 CtCipAdoc」とは C. thermocellum由来のスカッホールディン蛋白質(Cip)に見出されたドッケリンを、それぞれ示す。これらの内の一定のものについては、後述の実施例に関して、図及び/又は配列表にそのアミノ酸配列を示す。
【0053】
表1における結合特異性の判定方法は次の通りである。即ち、センサーチップ上に固定したコヘシンに対し種々のドッケリンを添加し、両者が結合することにより生じる質量変化を表面プラズモン共鳴の原理によって測定することにより、コヘシン−ドッケリンの結合特性を解析し、判定した。この解析には、ビアコア社の BIAcoreを用いた。
【0054】
又、上記の判定方法におけるコヘシン−ドッケリンの結合特異性の評価基準は、解離定数(KD)がKD≦10−9である場合には「++」、KD>10−9である場合には「+」、結合しなかった場合には「−」と、それぞれ評価した。
【0055】
上記の表1によれば、担体分子の対酵素結合ドメインの一種として、 Cjcos1、 Cjcos2 、 Cjcos5 あるいは Cjcos6 が含まれる場合において、酵素に付加する対担体分子結合ドメインの一種として CtXynAdocが含まれる、と言う組み合わせは好ましくない。一方、この組み合わせを除いては、表1から考えられる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの任意の組み合わせは問題がない。従って、例えば前記第4発明に係る組み合わせは、問題のない好ましい組み合わせの一例である。
【0056】
なお、生物種の由来に基づく結合特異性の例外のケースには、▲1▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが1種類だけ知られ、それが該当する場合、▲2▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが2種類以上知られ、それらのすべてが該当する場合、▲3▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが2種類以上知られ、それらの一部のものが該当する場合、が考えられる。
【0057】
コヘシン又はこれに機能的に同等なドメインのアミノ酸配列を例示すれば、後述の配列表における配列番号1〜配列番号6に挙げるものの他、0. Shoseyov ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3483−3487(1992) 、U.T. Gerngrossら、Molecular Microbiology, 8, 325−334(1993)、E. Leibovitzら、J. Bacteriol., 178, 3077−3084(1996) 、M. Kakiuchi ら、J. Bacteriol., 180, 4303−4308(1998) 、P. Beguin ら、Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 31, 201−236(1996) 等で公知のコヘシン配列を利用することができる。
【0058】
次に、ドッケリン又はこれに機能的に同等なドメインのアミノ酸配列を例示すれば、後述の配列表の配列番号7又は配列番号8に挙げるものの他、K.Ohmiyaら、Biotechnol. Genet. Engineer. Rev., 14, 365−413(1997)、P. Beguin ら、Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 31, 201−236(1996) 等で公知のドッケリン配列を利用することができる。
【0059】
担体分子は、天然の各種のセルロース結合蛋白質に構造的に由来すれば足りるのであって、取得源がこれらのセルロース結合蛋白質である必要はなく、任意の合成手段、例えば遺伝子工学的手段により作製すれば足りる。又その際、天然のセルロース結合蛋白質が本来備えているセルロース結合ドメイン(CBD )を含ませても良く、これを除外しても良い。
【0060】
本発明に係る酵素配列複合体における複数の酵素は、任意の特定逐次反応に関与する酵素である。逐次反応とは、複数の素反応が連鎖的に進行する反応を言うが、その種類もしくは内容には全く限定がない。逐次反応に順次関与する一揃いの酵素群が完全に一個ずつ結合されていることが最も好ましいが、各酵素が少なくとも一個ずつ結合されている限りにおいて、任意の酵素が例えば2,3個重複して結合していても良い。特定の逐次反応に順次関与する一揃いの酵素群としては、必ずしも当該逐次反応として通常認識される全てのプロセスに関与する酵素が揃っている必要はない。なぜなら、例えば、アンモニアから尿素に至るオルニチンサイクルに関連して、一例としてアンモニアからアルギニンに至るまでの、あるいはシトルリンから尿素に至るまでの生化学変化に関与する酵素群が揃えば、特定の検査や診断等の目的を達する場合があるからである。
【0061】
又、酵素は、その本来のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対酵素結合ドメインに対する特異的な結合性の異なる複数種類の対担体分子結合ドメインの内のいずれかが付加されたアミノ酸配列を有する。ここに「適宜な位置」とは、ドメインの付加によって酵素活性を阻害しない任意の位置を言い、その限りにおいて酵素の元々のアミノ酸配列のアミノ基末端(N末端)やカルボキシル基末端(C末端)に付加しても良く、酵素の元々のアミノ酸配列の任意部分に割り込む状態で付加しても構わない。
【0062】
酵素に対担体分子結合ドメインを付加するに当たり、必ずしも天然の酵素に付加する必要はなく、任意の合成手段、例えば遺伝子工学的手段により対担体分子結合ドメインの付加された酵素を一体的に作製しても良い。
【0063】
〔酵素配列複合体の製造方法〕
酵素配列複合体の製造方法は限定されないが、好ましくは第7発明の方法によって製造され、担体分子と上記酵素群との結合手段として両者に備わる対酵素結合ドメイン−対担体分子結合ドメイン間の結合が利用される。
【0064】
そして担体分子における複数種類の対酵素結合ドメインの配列順序とこれらに結合する複数の酵素の対担体分子結合ドメインとを選択することにより、複数の酵素が任意の順序で配列されて結合した酵素配列複合体としたり、複数の酵素が逐次反応に関与する順序に従う配列で結合した酵素配列複合体とすることができるが、後者がより好ましい。
【0065】
なお、担体分子における複数の酵素の配列は担体分子の高分子鎖に従う線状の配列となるが、担体分子の立体構造次第で必ずしも空間的に直線状の配列になるとは限らない。
【0066】
〔固定化酵素配列複合体及びその製造方法〕
第8発明における固定化担体の種類や、これに対して酵素配列複合体を固定化する方法には限定がなく、公知の任意の実施形態、例えば有機ポリマー樹脂,多孔質ガラス,セラミックス等を固定化担体とし、これらの表面に物理吸着,架橋試薬等を利用した共有結合,表面電荷を利用したイオン結合等の方法によって固定化する方法等を任意に採用することができる。
【0067】
第9発明においては、酵素配列複合体における担体分子にセルロース結合ドメインをそのまま含ませておき、このドメインの機能を利用してセファセル,セファロース等のセルロース質の固定化担体の表面に酵素配列複合体を固定的に形成することができる。
【0068】
その際、上記の酵素配列複合体を構成する工程と、担体分子をセルロース質の固定化担体の表面に固定する工程とは、同時に又は任意の順序で行うことができる。即ち、固定化担体の表面に担体分子を固定した後に、これに所定の酵素群を結合させても良く、所定の酵素群を結合させた後の担体分子を固定化担体の表面に固定しても良く、更に双方のプロセスを同時進行させても良い。
【0069】
【実施例】
(実施例1:コヘシン、ドッケリンの発現と精製)
C. josui由来の CipA のコヘシン Cjcos1, Cjcos2, Cjcos5, Cjcos6 、C. thermocellum 由来の CipA のコヘシン Ctcos1, Ctcos2, Ctcos3, Ctcos4, Ctcos7、及び C. thermocellum由来の SdbA のコヘシン CtcosII、更に、それぞれのコヘシンに結合する5種類のドッケリン( CjAgaAdoc、 CjCelBdoc、 CtXynAdoc、CtXynCdoc、CtCipAdoc )をコードする遺伝子を、図1にそれぞれ示すテンプレートとプライマー(Foward プライマー及びReverseプライマー)を用いて PCRにより合成した。これらの合計30種類の各Foward プライマー及びReverseプライマーの塩基配列を、図1の上方から下方へ記載した順序に従って、それぞれ配列表の配列番号9〜配列番号38に順次示す。
【0070】
これらの合成遺伝子を適当な制限酵素で切断した後、大腸菌の蛋白質発現ベクター pQE30(キアゲン製)に挿入することにより、 HisTag 配列の下流にインフレームで連結した。即ち、これらの発現ベクターにおいて、コヘシン,ドッケリンは HisTag とのキメラタンパク質として発現される。この発現ベクターを大腸菌 E. coli R15株に導入し、得られた形質転換体のうち、目的とする断片長の DNA断片を有するクローンを LB 培地中で37°Cにて振とう培養した。培養液の600nmにおける吸光度が0.4となったところで、最終濃度1mMとなるように IPTG を添加し、更に5時間培養を続けることにより、コヘシン,ドッケリンの発現を誘導した。
【0071】
誘導の終了後、培養液から遠心分離により菌体を回収し、これを抽出バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、10mM イミダゾール)に懸濁して、超音波処理を1min.×3回行った。遠心分離により不溶画分を除き、Ni−NTA アガロースビーズ(キアゲン製)を添加して HisTag ラベルされたタンパク質を吸着させた。これを洗浄バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、50mM イミダゾール)で数回洗浄した後、溶出バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、250mM イミダゾール)を用いて HisTag ラベルされたタンパク質をビーズから溶出した。
【0072】
得られた各タンパク質(コヘシン及びドッケリン)は、 SDS−PAGE の後にクマシー染色で検出することにより、単一バンドに精製されていること、及び予測される分子量と一致することを確認した。
【0073】
(実施例2:コヘシン−ドッケリンの結合特性解析)
コヘシンとドッケリンの結合特性を解析するため、上記の各コヘシン Cjcos1,Cjcos2, Cjcos5, Cjcos6, Ctcos1, Ctcos2, Ctcos3, Ctcos4, Ctcos7, CtcosIIを、センサーチップ( CE5、ビアコア社)上にアミンカップリングキット(ビアコア社)により固定した。一方、HBS バッファー(10mM HEPES(pH7.5)、0.15M NaCl )に、1.5〜10nMの各濃度で、上記の各ドッケリンCjAgaAdoc, CjCelBdoc, CtXynAdoc, CtXynCdoc, CtCipAdocを溶解した。
【0074】
そして、上記の各固定化コヘシンに対し、各濃度の各ドッケリン溶液をそれぞれ120 uL/min.の割合で240秒間添加した。その後、上記のHBS バッファーを240秒間流下して、各コヘシンと各ドッケリン間の結合速度定数、解離速度定数を測定し、これらの値から解離定数 KD を算出した。
【0075】
これらの解離定数 KD をまとめて示したものが、前記の表1である。もともと、コヘシン−ドッケリンの結合は概ね種特異性を示し、異なる起源のものとは結合しない傾向である。しかし、表1のように C. thermocellum由来のドッケリンCtXynAdocは起源の異なる C. josui 由来の各コヘシンとも結合することが確認され、種特異性を示さないドッケリンがあることが分かった。
【0076】
このことは、キメラコヘシンを連結させて酵素配列複合体の担体分子を構築するに当たり、他のコヘシンとは結合しないコヘシン−ドッケリンの組み合わせを良く確認してから担体分子設計を行わないと、設計通りにドッケリンを配列させることができない場合があることを示している。
【0077】
(実施例3:配向制御タンパク質の合成)
実施例2において確認したコヘシン−ドッケリン結合特性を考慮して、Cjcos2−CjAgaAdoc、 Ctcos4−CtXynCdoc 、CtcosII−CtCipAdoc の3組を利用して担体分子を設計した。この担体分子は、図2に示すように、 C. josui 由来 CipA のコヘシン Cjcos2 のアミノ酸配列の下流に、 C. thermocellum由来 CipA のコヘシン Ctcos4 及び SbdA のコヘシンCtcosII をそれぞれ連結した構造を有する。担体分子の合成は、組換え遺伝子技術により行った。
【0078】
即ち、 C. josui 由来の CipA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーA(5’−aag gat ccg atc cta caa atg ctc tta aag−3’ )及びプライマーB(5’−gag gct tta tct gcc ctt gca aga tct tct gta ggt tct ggg−3’ )により、C. josuiの CipA のうちコヘシンドメイン Cjcos2 をコードする遺伝子を合成した。
【0079】
同様に、 C. thermocellum由来の CipA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーC(5’−ccc aga acc tac aga aga tct tgc aag ggcaga taa agc ctc−3’ )及びプライマーD(5’−atc ctt act gca ttc gaa tca tcc ggc tgt att acc tca tat cc−3’)により、 C. thermocellumの CipA のうちコヘシンドメイン Ctcos4 をコードする遺伝子を合成した。
【0080】
同様に、 C. thermocellum由来の SbdA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーE(5’−ata agg taa tac agc cgg atg att cga atgcag taa gga tt−3’)及びプライマーF(5’−gga agc ttt gtt gta tct cca acattt ac−3’)により、 C. thermocellumの SbdA のうちコヘシンドメイン Ctcos
II をコードする遺伝子を合成した。
【0081】
これらの際に使用したプライマーの末端には、前あるいは後ろに連結される遺伝子の末端部の配列を付加した。上記3種の合成遺伝子をテンプレートとし、上記のプライマーA,Fを用いて、リコンビナント PCRの手法により担体分子の全長をコードする遺伝子を合成した。
【0082】
この遺伝子を制限酵素 Bam HI, Hind III で切断した後、大腸菌のタンパク質発現ベクター pQE30の Bam HI, Hind III サイト間に挿入し、 HisTag 配列の下流にインフレームで連結した。この発現ベクターを大腸菌 R15株に導入し、得られた形質転換体の内、目的とする1.5kbp 程度の DNA断片を有するクローンをLB 培地中で37°Cにて振とう培養した。培養液の600nmにおける吸光度が0.4となったところで、最終濃度1mMとなるように IPTG を添加し、担体分子の発現を誘導した。
【0083】
担体分子の発現を4時間誘導した後、遠心分離により菌体を回収し、実施例1と同様の方法で担体分子を精製した。担体分子は SDS−PAGE による分離後のクマシー染色により、ほぼ単一バンドにまで精製されていること、及び設計通りの分子量(約50 kDa)であることを確認した。
【0084】
(実施例4:担体分子とドッケリンの結合特性)
担体分子とドッケリンの結合特性を実施例2と同様の方法により解析した。即ち、担体分子をセンサーチップ( CE5、ビアコア社)上にアミンカップリングキット(ビアコア社)により固定し、一方でそれぞれのコヘシンに対して特異的に結合する3種類のドッケリン( CjAgaAdoc, CtCipAdoc, CtXynCdoc)をHBS バッファー(10mM HEPES(pH7.5)、0.15M NaCl )に5nMの濃度溶解し、これらをドッケリンの種類ごとに順次120 uL/min.の割合で300秒間添加した。
【0085】
1種類目のドッケリンを添加し始めると、センサーチップ上に結合するドッケリン量が時間と共に増加し、一定量結合したところで飽和に達する結果が観測された。次に2種類目の異なるドッケリンを添加すると、再びセンサーチップ上への結合が観測され、同様に一定量結合後、飽和した。3種類目のドッケリンについても同じ結果が観測された。これらの様子を図3に示す。図3において「RU」は結合量を表す単位である。
【0086】
図3の結果は、添加したドッケリンが担体分子を構成する特定のコヘシンと結合し、他のコヘシンには結合していないことを示しており、本発明により合成した担体分子は、設計通りの特異性の高い結合特性を有することが確認された。
【0087】
(酵素配列複合体の活性)
上記のような担体分子に基づいて作成される本発明の酵素配列複合体については、例えば公知文献である特願平10−338671の明細書に記載された実施例4等により、酵素複合体としての高い活性を有することが、一般に承知されている。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例に係るテンプレートとプライマーの一覧である。
【図2】
実施例に係る担体分子の概念図である。
【図3】
実施例に係る担体分子とコヘシンの結合特性を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、任意の特定逐次反応に関与する酵素群からなる複合酵素であって、これらの酵素群をミクロな蛋白質担体分子上に線状に配列させた酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素に関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、これらの発明において特定の複数種類の酵素をミクロな蛋白質担体分子上に線状に配列させるための手段として蛋白質担体分子側に具備させる対酵素結合ドメイン(C)と、同手段として酵素側に具備させる対担体分子結合ドメイン(D)との結合特異性が、必ずしも起源生物種の区別に従わない場合がある、との新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0003】
【従来の技術】
酵素による触媒反応は、常温,常圧と言う緩やかな条件で進行し、公害等の心配が少なく、しかも基質特異性が優れていて反応効率が良い、等の理由から、食品工業,医薬品工業,各種の検査もしくは診断技術等に多用されている処であるが、基本的に「一酵素一反応」と言う大きな制約を持っていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−120525号公報
【特許文献2】特開昭59−48080号公報
そこで近年、例えば特開昭57−120525号公報に開示された「固定化複合酵素製剤」の発明や、特開昭59−48080号公報に開示された「固定化複合酵素」の発明のように、一連の逐次反応に関与する酵素群を、その酵素活性を損なわない何らかの手段によって一体化することにより、逐次反応を連続的に遂行させ得るようにした複合酵素が注目されている。
【0005】
前記した逐次反応は、食品加工プロセス,医薬品の製造プロセス,ヒトを含む各種生物体内での正常もしくは異常な生化学反応等に限らず、自然界のあらゆる有機物質変化の場において広汎に見られるものであるため、もし実際的に有効な複合酵素が提供された場合、その技術的意義は極めて大きく、かつ、その用途には殆ど限界がない。
【0006】
しかしながら、上記に例示したような従来の複合酵素には、2,3の大きな不具合があった。
【0007】
例えば前記特開昭57−120525号公報に係る発明では、生体内逐次反応の一種であるオルニチンサイクルに関与する酵素群を、フィブリン重合物中に混合状態で埋没又は結合させている。このような複合酵素系の一体化形態は、要するに各酵素をランダムに混合させているに過ぎないため、分子レベルでは各酵素が非常に不均一な(過不足の多い)分散状態となることが避けられない。しかも、各酵素間の空間距離も、混合される酵素の濃度によって調節するしかないために、極めて大雑把で、しかも平均的な調節しかできない。これらの点から、拡散抵抗が大きく、反応効率の低い反応系となる。
【0008】
次に、前記特開昭59−48080号公報に係る発明では、逐次反応に関与する各酵素群を、金属に被覆した樹脂等の担体表面において順次膜状に積層固定している。この場合、各酵素はそれぞれ特定の順序で膜状に偏在して固定されているため、全体として基質との接触効率が非常に悪い。又、この積層体を所定の方向に(即ち、各積層膜を所定の順序で)通過する基質以外は逐次反応が円滑に進行しない。これらの点から、やはり拡散抵抗が大きく、反応効率の低い反応系となる。
【0009】
なお、上記いずれの従来技術においても、酵素の複合化手段がそのまま酵素の固定化手段となっており、従って若し可溶性の複合酵素が望まれる場合、これに応えることはできない。
【0010】
以上のような問題点に鑑み、本願発明者は既に、特願平10−338671号において、これらの不具合のない酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素を提案している。
【0011】
これらの発明によって、逐次反応に関与する一連の酵素を、蛋白質分子と言うミクロな担体上において正確に1個ずつ、しかも空間的に任意の順序であるいは希望する特定の順序(逐次反応に関与するプロセス上の順序に従う場合を含む)で配列させた酵素配列複合体であって、容易に可溶性状態又は不溶性の担体固定化状態とできるものを提供することが可能となった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特願平10−338671号に係る発明は、その後の本願発明者の研究により、大半の場合において確実に上記の効果を確保できるが、例外的な場合があり得ることが見出された。
【0013】
即ち、特願平10−338671号に係る発明において、セルロース結合蛋白質に構造的に由来する蛋白質担体分子上に所定の複数の酵素を正確に配列させる手段は、酵素側に付加するドッケリン等の対担体分子結合ドメイン(D)と、蛋白質担体分子側に構成された対酵素結合ドメインの複数の繰返しにおけるコヘシン等の対酵素結合ドメイン(C)との選択的な組み合わせである。そしてその組み合わせの原理は、「一般的に、同一生物種に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない。」と言う技術常識であった。
【0014】
しかしながら、本願発明者の行った、同一微生物種に由来しあるいは生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの結合特異性の確認実験により、一定の例外的な場合において、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとが結合性を示す場合があると言う、従来の技術常識を覆す事実が見出された。
【0015】
この新たな知見によれば、上記特願平10−338671号に係る発明は、大半の場合において極めて有効な効果を確保できるとしても、一定の例外的な場合にはその効果を確保できない恐れがある。
【0016】
そこで本発明は、このような新たな知見に基づき、更に改良された酵素配列複合体及びその製造方法と、該酵素配列複合体を固定化担体上に固定した固定化酵素配列複合体及びセルロース結合ドメインを利用したその製造方法と、これらの製造に利用可能なように構成された蛋白質担体分子及び酵素を提案することを、解決すべき課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明(請求項1に記載の発明)の構成は、以下の担体分子(1)における複数の対酵素結合ドメインに対して、任意の特定逐次反応に順次関与する以下の複数の酵素(2)が、C1とD1、C2とD2、・・・はそれぞれ同一生物種起源であると言う関係を有する対酵素結合ドメインC1,C2,・・・と対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・との特異的結合を介して、任意の順序で配列されて結合している、酵素配列複合体である。
(1)担体分子:セルロース分解酵素の対担体分子結合ドメイン(D)に対して結合力を示す対酵素結合ドメイン(C)の複数の繰返しを有するセルロース結合蛋白質に構造的に由来し、該セルロース結合蛋白質が本来有するセルロース結合ドメイン(CBD )をそのまま含むかあるいはこのセルロース結合ドメインを除外した蛋白質担体分子であって、
前記複数の対酵素結合ドメイン(C)のそれぞれを、互いに異なる生物種起源であって、酵素(2)に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えた構造を有する。
(2)複数の酵素:任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素であって、それぞれの酵素のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加した複数の酵素。
【0018】
【非特許文献1】平成9年12月1日 三重大学生物資源紀要第19号
なお、このような第1発明の構成に関して、以下のイ)〜ニ)の事項は、例えば「分子生物学的アプローチが明らかにしたセルラーゼの姿(大宮邦雄ら、三重大学生物資源紀要第19号、71〜96頁.平成9年12月1日)」等の文献によって公知である。
【0019】
イ) Clostridium cellulovorans由来の CbpA と呼ばれるセルロース結合蛋白質や、 Clostridium josui由来の CipA と呼ばれるセルロース結合蛋白質が存在し、これらのセルロース結合蛋白質は、複数のコヘシン( Cohesin)と呼ばれる酵素との結合用のドメイン(アミノ酸配列)と、CBD と呼ばれるセルロースとの結合用のドメイン(アミノ酸配列)とを有する。そしてセルロース結合蛋白質はCBD によって基質としてのセルロースに結合する。
【0020】
ロ)同上微生物由来のセルラーゼ即ちセルロース分解酵素には、ドッケリン又はドックリン(Dockerin)と呼ばれる、セルロース結合蛋白質との結合用の1個のドメイン(アミノ酸配列)が備わっており、このドッケリンと前記コヘシンとの結合によってセルロース分解酵素がセルロース結合蛋白質と結合する。
【0021】
ハ)Clostridium thermocellumにおいては、セルロース結合蛋白質が、複数のコヘシンと共にドッケリンをも備えており、このドッケリンはやはりコヘシンに対する結合性を持つと考えられる。
【0022】
ニ)コヘシン/ドッケリンにはそれぞれ複数種類のものがあり、互いに相手のドメイン(ドッケリン/コヘシン)に対する結合特異性が異なる。
【0023】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明(請求項2に記載の発明)の構成は、前記第1発明に係る複数の酵素の配列の順序が、前記逐次反応に関与するプロセス上の順序に従う、酵素配列複合体である。
【0024】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明(請求項3に記載の発明)の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る酵素配列複合体において、対酵素結合ドメインC1,C2,・・・には Clostridium josui由来であって他の生物種起源の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・とは結合性を示さない対酵素結合ドメイン( Cjcos)が少なくとも含まれ、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・には C. josui 由来であって他の生物種起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さない対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が少なくとも含まれる、酵素配列複合体である。
【0025】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明(請求項4に記載の発明)の構成は、前記第3発明に係る対酵素結合ドメイン(Cjcos )が C. josui 由来のコヘシンである Cjcos1 〜 Cjcos6 のいずれかから選ばれ、前記対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が C. josui 由来のドッケリンである CjCelBdoc又は CjAgaAdocのいずれかから選ばれる、酵素配列複合体である。
【0026】
なお、 Cjcos1 のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に、 Cjcos2 のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に、 Cjcos3 のアミノ酸配列を配列表の配列番号3に、 Cjcos4 のアミノ酸配列を配列表の配列番号4に、 Cjcos5 のアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、 Cjcos6 のアミノ酸配列を配列表の配列番号6に、 CjCelBdocのアミノ酸配列を配列表の配列番号7に、 CjAgaAdocのアミノ酸配列を配列表の配列番号8に、それぞれ示す。
【0027】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明(請求項5に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る担体分子(1)の構成を有する、担体分子である。
【0028】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明(請求項6に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る複数の酵素(2)のいずれかである、酵素である。
【0029】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明(請求項7に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る複数の酵素(2)と、第1発明〜第4発明のいずれかに係る担体分子(1)とを用い、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・と対酵素結合ドメインC1,C2,・・・との間の特異的結合を利用することにより、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体を構成する、酵素配列複合体の製造方法である。
【0030】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明(請求項8に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体が固定化担体の表面に固定されている、固定化酵素配列複合体である。
【0031】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明(請求項9に記載の発明)の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに係る酵素配列複合体における担体分子が前記セルロース結合ドメインをそのまま含む場合において、第7発明に係る酵素配列複合体を構成する工程と、該酵素配列複合体の前記担体分子を前記セルロース結合ドメインの機能を利用してセルロース質の固定化担体の表面に固定する工程とを、同時に又は任意の順序で行う、固定化酵素配列複合体の製造方法である。
【0032】
【発明の作用・効果】
(第1発明の作用・効果)
第1発明においては、複数種類の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・を備えた担体分子に対して、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素(1セットの酵素群)であって、それぞれ付加された対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・によって担体分子に対する結合位置を特異的に決定されたものを結合させるので、蛋白質分子と言うミクロな担体上において逐次反応に関与する一連の酵素を正確に1個ずつ配列させた酵素配列複合体となっている。
【0033】
即ち、酵素配列複合体の担体分子(1)においては、公知のセルロース結合蛋白質に構造的に由来すると共に、その複数の対酵素結合ドメイン(C)のそれぞれを、互いに異なる生物種起源であって、複数の酵素(2)に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えた構造を有する。又、酵素配列複合体の複数の酵素(2)においては、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加している。
【0034】
その結果、対担体分子結合ドメインD1を付加した特定の酵素は、蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC1の位置に確実に結合されている。次に、対担体分子結合ドメインD2を付加した特定の酵素は、蛋白質担体分子における対酵素結合ドメインC2の位置に確実に結合されている。同様にして、複数ないし多数の種類の特定の酵素が、蛋白質担体分子における所定の対酵素結合ドメインの位置に確実に結合されている。
【0035】
又、この酵素配列複合体は、逐次反応の遂行に必要な一連の酵素が分子レベルにおいて全く過不足なく配列しているので、ミクロに見て基質との接触効率が最高であり、マクロに見て各酵素の完全に均一な分散系を提供できる。更に蛋白質分子と言うミクロな担体上において各酵素の空間距離を極めて小さく設定することができ、かつその空間距離を厳密に制御することができる。これらの理由から、拡散抵抗が極小である反応効率の高い逐次反応系を提供できる。
【0036】
又、この酵素配列複合体は蛋白質としての変性を受けない環境において可溶性であり、酵素の複合化手段がそのまま酵素の固定化手段とはなっていない。従って可溶性の複合酵素としても提供できるし、第8発明又は第9発明のように固定化担体の表面に固定された不溶性の複合酵素としても提供できる。
【0037】
(第2発明の作用・効果)
酵素配列複合体において、各酵素に付加する対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・の選択により、第1発明のように特定逐次反応に順次関与する複数の酵素が任意の順序で配列された酵素配列複合体とすることもできるし、第2発明のように各酵素が逐次反応に関与する順序に従って配列された酵素配列複合体とすることもできるが、一般的に拡散抵抗は後者の方が更に小さいと考えられる。
【0038】
(第3発明の作用・効果)
第1発明又は第2発明に係る酵素配列複合体の更に具体的な態様として、第3発明に係る酵素配列複合体が好ましく例示される。
【0039】
(第4発明の作用・効果)
第3発明に係る酵素配列複合体の更に具体的な態様として、第4発明に係る酵素配列複合体が好ましく例示される。
【0040】
(第5発明の作用・効果)
第5発明の担体分子は、後述の第7発明において第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体の調製に用いられる構成要素として、極めて有用である。
【0041】
(第6発明の作用・効果)
第6発明の酵素は、後述の第7発明において第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体の製造に用いられる構成要素として、極めて有用である。
【0042】
(第7発明の作用・効果)
第7発明によって、第1発明〜第4発明に係る酵素配列複合体を有効に製造することができる。
【0043】
(第8発明の作用・効果)
第8発明のように適当な手段によって酵素配列複合体を固定化担体の表面に固定することにより、酵素の固定化の一般的なメリット、即ち、酵素の回収・再利用や、酵素の安定性の増大等の効果を期待できる。
【0044】
(第9発明の作用・効果)
第9発明においては、酵素配列複合体の担体分子に含まれるセルロース結合ドメインをそのまま利用してセルロース質の固定化担体に固定するので、複合酵素の固定化操作が簡易化される他、セロビオース等の脱離剤と組合わせることにより酵素複合体の精製を容易に行うことができる等の効果も期待できる。
【0045】
【発明の実施の形態】
次に、第1発明〜第9発明の実施の形態について説明する。以下において単に「本発明」と言う時は、第1発明〜第9発明を一括して指している。
【0046】
〔酵素配列複合体〕
本発明に係る酵素配列複合体における担体分子は、例えば前記公知文献に記載されたような各種のセルロース結合蛋白質に構造的に由来する(その構造が各種のセルロース結合蛋白質に由来する)蛋白質分子であって、少なくとも対酵素結合ドメインであるアミノ酸配列部分の複数の繰返しを有すると共に、これらの対酵素結合ドメイン(C)が、互いに対担体分子結合ドメインに対する結合特異性の明確に異なる複数種類の対酵素結合ドメイン、即ち、互いに異なる生物種起源であって、酵素配列複合体の酵素に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えられている。
【0047】
これらの対酵素結合ドメインC1,C2,・・・は、代表的には、各生物種(特に各微生物種)に見られるコヘシンと総称されるドメインの各一種であるが、コヘシンと称されないアミノ酸配列であって機能的にコヘシンと同等のものであっても良い。対酵素結合ドメインC1,C2,・・・の一部に、各生物種(特に各微生物種)に見られるドッケリン又はドックリンと総称されるドメインが用いられることがあり得る。
【0048】
本発明に係る酵素配列複合体における複数の酵素は、任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素であって、それぞれの酵素のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加した複数の酵素である。
【0049】
これらの対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・は、代表的には、各生物種(特に各微生物種)に見られるドッケリン又はドックリンと総称されるドメインの各一種であるが、ドッケリン又はドックリンと称されないアミノ酸配列であって機能的にドッケリンと同等のものであっても良い。対酵素結合ドメインC1,C2,・・・の一部にドッケリンが用いられる場合においては、これに対応する対担体分子結合ドメインにコヘシンが用いられるケースがあり得る。
【0050】
対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインに関して、一般的には、同一生物種(同一微生物種等)に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種(微生物種等)の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない傾向がある。しかし本願発明者の研究により、このような傾向の例外もあることが見出された。そのため、上記のような対酵素結合ドメインC1,C2,・・・と対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・との選択が要求されるのである。
【0051】
前記した、「一般的に、同一生物種に由来する対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは特異的に結合し、生物種の由来の異なる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとは結合性を示さない。」と言う技術常識に従わない結合特異性の例外の具体的な一例を以下の表1に示す。この表1は、縦の欄に示す数種類の対酵素結合ドメインと、横の欄に示す数種類の対担体分子結合ドメインとのそれぞれの組み合わせにおける結合特異性を調べた結果を表している。
【0052】
【表1】
表1の縦の欄において、「Cjcos1」、「Cjcos2」、「Cjcos5」、「Cjcos6」とはそれぞれ C. josui 由来の6種類のコヘシンの内のcos1、cos2、cos5、cos6と呼ばれるものを、「Ctcos1」、「Ctcos2」、「Ctcos3」、「Ctcos4」、「Ctcos7」とはそれぞれ C. thermocellum由来の9種類のコヘシンの内の cos1 、cos2、cos3、cos4、cos7と呼ばれるものを、「CtcosII 」とは C. thermocellum由来のSdbA に見出された typeII のコヘシンを、それぞれ示している。上記の表1の横の欄において、「 CjAgaAdoc」とは C. josui 由来のアガロース分解酵素 AgaA に見出されたドッケリンを、「 CjCelBdoc」とは C. josui 由来のセルロース分解酵素CelBに見出されたドッケリンを、「 CtXynAdoc」とは C. thermocellum由来のキシロース分解酵素 XynA に見出されたドッケリンを、「 CtXynCdoc」とは C. thermocellum由来のキシロース分解酵素 XynC に見出されたドッケリンを、「 CtCipAdoc」とは C. thermocellum由来のスカッホールディン蛋白質(Cip)に見出されたドッケリンを、それぞれ示す。これらの内の一定のものについては、後述の実施例に関して、図及び/又は配列表にそのアミノ酸配列を示す。
【0053】
表1における結合特異性の判定方法は次の通りである。即ち、センサーチップ上に固定したコヘシンに対し種々のドッケリンを添加し、両者が結合することにより生じる質量変化を表面プラズモン共鳴の原理によって測定することにより、コヘシン−ドッケリンの結合特性を解析し、判定した。この解析には、ビアコア社の BIAcoreを用いた。
【0054】
又、上記の判定方法におけるコヘシン−ドッケリンの結合特異性の評価基準は、解離定数(KD)がKD≦10−9である場合には「++」、KD>10−9である場合には「+」、結合しなかった場合には「−」と、それぞれ評価した。
【0055】
上記の表1によれば、担体分子の対酵素結合ドメインの一種として、 Cjcos1、 Cjcos2 、 Cjcos5 あるいは Cjcos6 が含まれる場合において、酵素に付加する対担体分子結合ドメインの一種として CtXynAdocが含まれる、と言う組み合わせは好ましくない。一方、この組み合わせを除いては、表1から考えられる対酵素結合ドメインと対担体分子結合ドメインとの任意の組み合わせは問題がない。従って、例えば前記第4発明に係る組み合わせは、問題のない好ましい組み合わせの一例である。
【0056】
なお、生物種の由来に基づく結合特異性の例外のケースには、▲1▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが1種類だけ知られ、それが該当する場合、▲2▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが2種類以上知られ、それらのすべてが該当する場合、▲3▼その微生物種由来のコヘシン又はドッケリンが2種類以上知られ、それらの一部のものが該当する場合、が考えられる。
【0057】
コヘシン又はこれに機能的に同等なドメインのアミノ酸配列を例示すれば、後述の配列表における配列番号1〜配列番号6に挙げるものの他、0. Shoseyov ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3483−3487(1992) 、U.T. Gerngrossら、Molecular Microbiology, 8, 325−334(1993)、E. Leibovitzら、J. Bacteriol., 178, 3077−3084(1996) 、M. Kakiuchi ら、J. Bacteriol., 180, 4303−4308(1998) 、P. Beguin ら、Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 31, 201−236(1996) 等で公知のコヘシン配列を利用することができる。
【0058】
次に、ドッケリン又はこれに機能的に同等なドメインのアミノ酸配列を例示すれば、後述の配列表の配列番号7又は配列番号8に挙げるものの他、K.Ohmiyaら、Biotechnol. Genet. Engineer. Rev., 14, 365−413(1997)、P. Beguin ら、Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 31, 201−236(1996) 等で公知のドッケリン配列を利用することができる。
【0059】
担体分子は、天然の各種のセルロース結合蛋白質に構造的に由来すれば足りるのであって、取得源がこれらのセルロース結合蛋白質である必要はなく、任意の合成手段、例えば遺伝子工学的手段により作製すれば足りる。又その際、天然のセルロース結合蛋白質が本来備えているセルロース結合ドメイン(CBD )を含ませても良く、これを除外しても良い。
【0060】
本発明に係る酵素配列複合体における複数の酵素は、任意の特定逐次反応に関与する酵素である。逐次反応とは、複数の素反応が連鎖的に進行する反応を言うが、その種類もしくは内容には全く限定がない。逐次反応に順次関与する一揃いの酵素群が完全に一個ずつ結合されていることが最も好ましいが、各酵素が少なくとも一個ずつ結合されている限りにおいて、任意の酵素が例えば2,3個重複して結合していても良い。特定の逐次反応に順次関与する一揃いの酵素群としては、必ずしも当該逐次反応として通常認識される全てのプロセスに関与する酵素が揃っている必要はない。なぜなら、例えば、アンモニアから尿素に至るオルニチンサイクルに関連して、一例としてアンモニアからアルギニンに至るまでの、あるいはシトルリンから尿素に至るまでの生化学変化に関与する酵素群が揃えば、特定の検査や診断等の目的を達する場合があるからである。
【0061】
又、酵素は、その本来のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対酵素結合ドメインに対する特異的な結合性の異なる複数種類の対担体分子結合ドメインの内のいずれかが付加されたアミノ酸配列を有する。ここに「適宜な位置」とは、ドメインの付加によって酵素活性を阻害しない任意の位置を言い、その限りにおいて酵素の元々のアミノ酸配列のアミノ基末端(N末端)やカルボキシル基末端(C末端)に付加しても良く、酵素の元々のアミノ酸配列の任意部分に割り込む状態で付加しても構わない。
【0062】
酵素に対担体分子結合ドメインを付加するに当たり、必ずしも天然の酵素に付加する必要はなく、任意の合成手段、例えば遺伝子工学的手段により対担体分子結合ドメインの付加された酵素を一体的に作製しても良い。
【0063】
〔酵素配列複合体の製造方法〕
酵素配列複合体の製造方法は限定されないが、好ましくは第7発明の方法によって製造され、担体分子と上記酵素群との結合手段として両者に備わる対酵素結合ドメイン−対担体分子結合ドメイン間の結合が利用される。
【0064】
そして担体分子における複数種類の対酵素結合ドメインの配列順序とこれらに結合する複数の酵素の対担体分子結合ドメインとを選択することにより、複数の酵素が任意の順序で配列されて結合した酵素配列複合体としたり、複数の酵素が逐次反応に関与する順序に従う配列で結合した酵素配列複合体とすることができるが、後者がより好ましい。
【0065】
なお、担体分子における複数の酵素の配列は担体分子の高分子鎖に従う線状の配列となるが、担体分子の立体構造次第で必ずしも空間的に直線状の配列になるとは限らない。
【0066】
〔固定化酵素配列複合体及びその製造方法〕
第8発明における固定化担体の種類や、これに対して酵素配列複合体を固定化する方法には限定がなく、公知の任意の実施形態、例えば有機ポリマー樹脂,多孔質ガラス,セラミックス等を固定化担体とし、これらの表面に物理吸着,架橋試薬等を利用した共有結合,表面電荷を利用したイオン結合等の方法によって固定化する方法等を任意に採用することができる。
【0067】
第9発明においては、酵素配列複合体における担体分子にセルロース結合ドメインをそのまま含ませておき、このドメインの機能を利用してセファセル,セファロース等のセルロース質の固定化担体の表面に酵素配列複合体を固定的に形成することができる。
【0068】
その際、上記の酵素配列複合体を構成する工程と、担体分子をセルロース質の固定化担体の表面に固定する工程とは、同時に又は任意の順序で行うことができる。即ち、固定化担体の表面に担体分子を固定した後に、これに所定の酵素群を結合させても良く、所定の酵素群を結合させた後の担体分子を固定化担体の表面に固定しても良く、更に双方のプロセスを同時進行させても良い。
【0069】
【実施例】
(実施例1:コヘシン、ドッケリンの発現と精製)
C. josui由来の CipA のコヘシン Cjcos1, Cjcos2, Cjcos5, Cjcos6 、C. thermocellum 由来の CipA のコヘシン Ctcos1, Ctcos2, Ctcos3, Ctcos4, Ctcos7、及び C. thermocellum由来の SdbA のコヘシン CtcosII、更に、それぞれのコヘシンに結合する5種類のドッケリン( CjAgaAdoc、 CjCelBdoc、 CtXynAdoc、CtXynCdoc、CtCipAdoc )をコードする遺伝子を、図1にそれぞれ示すテンプレートとプライマー(Foward プライマー及びReverseプライマー)を用いて PCRにより合成した。これらの合計30種類の各Foward プライマー及びReverseプライマーの塩基配列を、図1の上方から下方へ記載した順序に従って、それぞれ配列表の配列番号9〜配列番号38に順次示す。
【0070】
これらの合成遺伝子を適当な制限酵素で切断した後、大腸菌の蛋白質発現ベクター pQE30(キアゲン製)に挿入することにより、 HisTag 配列の下流にインフレームで連結した。即ち、これらの発現ベクターにおいて、コヘシン,ドッケリンは HisTag とのキメラタンパク質として発現される。この発現ベクターを大腸菌 E. coli R15株に導入し、得られた形質転換体のうち、目的とする断片長の DNA断片を有するクローンを LB 培地中で37°Cにて振とう培養した。培養液の600nmにおける吸光度が0.4となったところで、最終濃度1mMとなるように IPTG を添加し、更に5時間培養を続けることにより、コヘシン,ドッケリンの発現を誘導した。
【0071】
誘導の終了後、培養液から遠心分離により菌体を回収し、これを抽出バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、10mM イミダゾール)に懸濁して、超音波処理を1min.×3回行った。遠心分離により不溶画分を除き、Ni−NTA アガロースビーズ(キアゲン製)を添加して HisTag ラベルされたタンパク質を吸着させた。これを洗浄バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、50mM イミダゾール)で数回洗浄した後、溶出バッファー(50mM リン酸バッファー(pH8.0)、250mM イミダゾール)を用いて HisTag ラベルされたタンパク質をビーズから溶出した。
【0072】
得られた各タンパク質(コヘシン及びドッケリン)は、 SDS−PAGE の後にクマシー染色で検出することにより、単一バンドに精製されていること、及び予測される分子量と一致することを確認した。
【0073】
(実施例2:コヘシン−ドッケリンの結合特性解析)
コヘシンとドッケリンの結合特性を解析するため、上記の各コヘシン Cjcos1,Cjcos2, Cjcos5, Cjcos6, Ctcos1, Ctcos2, Ctcos3, Ctcos4, Ctcos7, CtcosIIを、センサーチップ( CE5、ビアコア社)上にアミンカップリングキット(ビアコア社)により固定した。一方、HBS バッファー(10mM HEPES(pH7.5)、0.15M NaCl )に、1.5〜10nMの各濃度で、上記の各ドッケリンCjAgaAdoc, CjCelBdoc, CtXynAdoc, CtXynCdoc, CtCipAdocを溶解した。
【0074】
そして、上記の各固定化コヘシンに対し、各濃度の各ドッケリン溶液をそれぞれ120 uL/min.の割合で240秒間添加した。その後、上記のHBS バッファーを240秒間流下して、各コヘシンと各ドッケリン間の結合速度定数、解離速度定数を測定し、これらの値から解離定数 KD を算出した。
【0075】
これらの解離定数 KD をまとめて示したものが、前記の表1である。もともと、コヘシン−ドッケリンの結合は概ね種特異性を示し、異なる起源のものとは結合しない傾向である。しかし、表1のように C. thermocellum由来のドッケリンCtXynAdocは起源の異なる C. josui 由来の各コヘシンとも結合することが確認され、種特異性を示さないドッケリンがあることが分かった。
【0076】
このことは、キメラコヘシンを連結させて酵素配列複合体の担体分子を構築するに当たり、他のコヘシンとは結合しないコヘシン−ドッケリンの組み合わせを良く確認してから担体分子設計を行わないと、設計通りにドッケリンを配列させることができない場合があることを示している。
【0077】
(実施例3:配向制御タンパク質の合成)
実施例2において確認したコヘシン−ドッケリン結合特性を考慮して、Cjcos2−CjAgaAdoc、 Ctcos4−CtXynCdoc 、CtcosII−CtCipAdoc の3組を利用して担体分子を設計した。この担体分子は、図2に示すように、 C. josui 由来 CipA のコヘシン Cjcos2 のアミノ酸配列の下流に、 C. thermocellum由来 CipA のコヘシン Ctcos4 及び SbdA のコヘシンCtcosII をそれぞれ連結した構造を有する。担体分子の合成は、組換え遺伝子技術により行った。
【0078】
即ち、 C. josui 由来の CipA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーA(5’−aag gat ccg atc cta caa atg ctc tta aag−3’ )及びプライマーB(5’−gag gct tta tct gcc ctt gca aga tct tct gta ggt tct ggg−3’ )により、C. josuiの CipA のうちコヘシンドメイン Cjcos2 をコードする遺伝子を合成した。
【0079】
同様に、 C. thermocellum由来の CipA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーC(5’−ccc aga acc tac aga aga tct tgc aag ggcaga taa agc ctc−3’ )及びプライマーD(5’−atc ctt act gca ttc gaa tca tcc ggc tgt att acc tca tat cc−3’)により、 C. thermocellumの CipA のうちコヘシンドメイン Ctcos4 をコードする遺伝子を合成した。
【0080】
同様に、 C. thermocellum由来の SbdA タンパク質をコードする遺伝子をテンプレートとして、プライマーE(5’−ata agg taa tac agc cgg atg att cga atgcag taa gga tt−3’)及びプライマーF(5’−gga agc ttt gtt gta tct cca acattt ac−3’)により、 C. thermocellumの SbdA のうちコヘシンドメイン Ctcos
II をコードする遺伝子を合成した。
【0081】
これらの際に使用したプライマーの末端には、前あるいは後ろに連結される遺伝子の末端部の配列を付加した。上記3種の合成遺伝子をテンプレートとし、上記のプライマーA,Fを用いて、リコンビナント PCRの手法により担体分子の全長をコードする遺伝子を合成した。
【0082】
この遺伝子を制限酵素 Bam HI, Hind III で切断した後、大腸菌のタンパク質発現ベクター pQE30の Bam HI, Hind III サイト間に挿入し、 HisTag 配列の下流にインフレームで連結した。この発現ベクターを大腸菌 R15株に導入し、得られた形質転換体の内、目的とする1.5kbp 程度の DNA断片を有するクローンをLB 培地中で37°Cにて振とう培養した。培養液の600nmにおける吸光度が0.4となったところで、最終濃度1mMとなるように IPTG を添加し、担体分子の発現を誘導した。
【0083】
担体分子の発現を4時間誘導した後、遠心分離により菌体を回収し、実施例1と同様の方法で担体分子を精製した。担体分子は SDS−PAGE による分離後のクマシー染色により、ほぼ単一バンドにまで精製されていること、及び設計通りの分子量(約50 kDa)であることを確認した。
【0084】
(実施例4:担体分子とドッケリンの結合特性)
担体分子とドッケリンの結合特性を実施例2と同様の方法により解析した。即ち、担体分子をセンサーチップ( CE5、ビアコア社)上にアミンカップリングキット(ビアコア社)により固定し、一方でそれぞれのコヘシンに対して特異的に結合する3種類のドッケリン( CjAgaAdoc, CtCipAdoc, CtXynCdoc)をHBS バッファー(10mM HEPES(pH7.5)、0.15M NaCl )に5nMの濃度溶解し、これらをドッケリンの種類ごとに順次120 uL/min.の割合で300秒間添加した。
【0085】
1種類目のドッケリンを添加し始めると、センサーチップ上に結合するドッケリン量が時間と共に増加し、一定量結合したところで飽和に達する結果が観測された。次に2種類目の異なるドッケリンを添加すると、再びセンサーチップ上への結合が観測され、同様に一定量結合後、飽和した。3種類目のドッケリンについても同じ結果が観測された。これらの様子を図3に示す。図3において「RU」は結合量を表す単位である。
【0086】
図3の結果は、添加したドッケリンが担体分子を構成する特定のコヘシンと結合し、他のコヘシンには結合していないことを示しており、本発明により合成した担体分子は、設計通りの特異性の高い結合特性を有することが確認された。
【0087】
(酵素配列複合体の活性)
上記のような担体分子に基づいて作成される本発明の酵素配列複合体については、例えば公知文献である特願平10−338671の明細書に記載された実施例4等により、酵素複合体としての高い活性を有することが、一般に承知されている。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例に係るテンプレートとプライマーの一覧である。
【図2】
実施例に係る担体分子の概念図である。
【図3】
実施例に係る担体分子とコヘシンの結合特性を示すグラフである。
Claims (9)
- 以下の担体分子(1)における複数の対酵素結合ドメインに対して、任意の特定逐次反応に順次関与する以下の複数の酵素(2)が、C1とD1、C2とD2、・・・はそれぞれ同一生物種起源であると言う関係を有する対酵素結合ドメインC1,C2,・・・と対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・との特異的結合を介して、任意の順序で配列されて結合していることを特徴とする酵素配列複合体。
(1)担体分子:セルロース分解酵素の対担体分子結合ドメイン(D)に対して結合力を示す対酵素結合ドメイン(C)の複数の繰返しを有するセルロース結合蛋白質に構造的に由来し、該セルロース結合蛋白質が本来有するセルロース結合ドメイン(CBD )をそのまま含むかあるいはこのセルロース結合ドメインを除外した蛋白質担体分子であって、
前記複数の対酵素結合ドメイン(C)のそれぞれを、互いに異なる生物種起源であって、酵素(2)に付加された同一生物種以外の起源の対担体分子結合ドメイン(D)とは結合性を示さないことが確認された対酵素結合ドメインC1,C2,・・・に置換えた構造を有する。
(2)複数の酵素:任意の特定逐次反応に順次関与する複数の酵素であって、それぞれの酵素のアミノ酸配列中の適宜な位置に、対担体分子結合ドメイン(D)のうち、上記対酵素結合ドメインC1,C2,・・・のいずれかに対して同一生物種起源であって、同一生物種以外の起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さないことが確認された複数種類の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・のいずれかを付加した複数の酵素。 - 前記複数の酵素の配列の順序が、前記逐次反応に関与するプロセス上の順序に従うことを特徴とする請求項1に記載の酵素配列複合体。
- 前記酵素配列複合体において、対酵素結合ドメインC1,C2,・・・には Clostridium josui由来であって他の生物種起源の対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・とは結合性を示さない対酵素結合ドメイン( Cjcos)が少なくとも含まれ、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・には C. josui 由来であって他の生物種起源の対酵素結合ドメインC1,C2,・・・とは結合性を示さない対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が少なくとも含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酵素配列複合体。
- 前記対酵素結合ドメイン( Cjcos)が C. josui 由来のコヘシンである Cjcos1 〜 Cjcos6 のいずれかから選ばれ、前記対担体分子結合ドメイン( Cjdoc)が C. josui 由来のドッケリンである CjCelBdoc又は CjAgaAdocのいずれかから選ばれることを特徴とする請求項3に記載の酵素配列複合体。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の担体分子(1)の構成を有することを特徴とする担体分子。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の複数の酵素(2)のいずれかであることを特徴とする酵素。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の複数の酵素(2)と、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の担体分子(1)とを用い、対担体分子結合ドメインD1,D2,・・・と対酵素結合ドメインC1,C2,・・・との間の特異的結合を利用することにより、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酵素配列複合体を構成することを特徴とする酵素配列複合体の製造方法。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酵素配列複合体が固定化担体の表面に固定されていることを特徴とする固定化酵素配列複合体。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酵素配列複合体における担体分子が前記セルロース結合ドメインをそのまま含む場合において、
請求項7に記載の酵素配列複合体を構成する工程と、該酵素配列複合体の前記担体分子を前記セルロース結合ドメインの機能を利用してセルロース質の固定化担体の表面に固定する工程とを、同時に又は任意の順序で行うことを特徴とする固定化酵素配列複合体の製造方法。
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