JP2004227967A - 非水電解質二次電池及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】非水電解質にビニルエチレンカーボネートが含まれており、該ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量が70%以上となる温度、例えば、50℃以下の温度で、ラジカル重合性モノマーの重合を行うことを特徴としている。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱重合型ポリマー電解質を用いた非水電解質二次電池及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
非水電解質二次電池は、その高いエネルギー密度と優れた電池特性から、数多くの携帯用機器等で使用されている。これらの電池では、優れた放電特性を有する黒鉛系負極が一般に使用されている。この黒鉛系負極を使用する場合、充放電サイクルや高温保存に伴い、電解液と負極活物質の間で反応が発生する。このような反応は、負極活物質の表面に皮膜を形成することにより抑制できることが知られている。このような皮膜としては、炭酸リチウム(Li2CO3)が優れていることが知られている。特許文献1においては、ビニルエチレンカーボネートを含有する非水電解質を用い、充電時に負極の上でビニルエチレンカーボネートが還元分解することにより、炭酸リチウムの皮膜を負極上に形成し、電池特性を改善することが提案されている。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−6729号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、電解液の漏れがなく、安全性に優れる非水電解質二次電池として、ポリマー電解質を用いた電池が注目されている。ポリマー電解質を用いた代表的な電池としては、モノマーを電池内部で重合させてゲルポリマーとし、このゲルポリマーにより電解液を保持させた電池が知られている。このタイプの電池においては、電池内のモノマーを熱または光の照射により重合させてポリマーとしているが、熱重合によるネットワークの形成が、反応の均一性などの観点から、もっとも良好なポリマー電解質となる。
【0005】
本発明者等は、熱重合型ポリマー電解質において、上記のビニルエチレンカーボネートを添加した場合、電池特性の改善が十分に得られないことを見出した。すなわち、モノマーを重合してポリマーのネットワークを形成するため電解質を加熱すると、ビニルエチレンカーボネートが重合し、初期充電時において重合体として存在するため、負極活物質の表面に炭酸リチウムの皮膜を形成することができなくなることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、ビニルエチレンカーボネートを含む熱重合型ポリマー電解質を用いた非水電解質二次電池において、保存特性及び充放電サイクル特性などの電池特性が改善された非水電解質二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の非水電解質二次電池は、ラジカル重合性モノマーを含む非水電解質を加熱し該モノマーを重合して得られるポリマー電解質と、正極と、負極とを備え、非水電解質にビニルエチレンカーボネートが含まれており、50℃以下の温度でモノマーの重合が行われることを特徴としている。
【0008】
本発明者等は、50℃以下の温度の加熱であれば、ビニルエチレンカーボネートの自己重合反応による減少が抑制されることを見出した。このため、本発明に従い50℃以下の温度でモノマーを重合させることにより、ビニルエチレンカーボネートの重合による消費を抑制することができ、初期の充電時にビニルエチレンカーボネートの分解により炭酸リチウムの皮膜を負極活物質の表面に十分に形成することが可能になる。このため、保存特性及び充放電サイクル特性などの電池特性を改善することができる。
【0009】
本発明の他の局面に従う非水電解質二次電池は、ラジカル重合性モノマーを含む非水電解質を加熱し該モノマーを重合して得られるポリマー電解質と、正極と、負極とを備え、非水電解質にビニルエチレンカーボネートが含まれており、ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量が、仕込み量の70%以上となる温度でモノマーの重合が行われることを特徴としている。
【0010】
ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量は、70%以上であることが好ましく、さらに好ましくは85%以上である。このような残存量となる温度でモノマーを重合することにより、ビニルエチレンカーボネートが自己重合反応により消費される量が抑制され、この結果炭酸リチウムの皮膜を負極活物質表面に十分に形成することができるようになる。このため、保存特性及び充放電サイクル特性などの電池特性を改善することができる。
【0011】
本発明における非水電解質には、一般にモノマーを重合させるためのラジカル重合開始剤が含まれている。例えば、このラジカル重合開始剤として、60℃半減期が10時間以下であるラジカル重合開始剤を用いることにより、50℃以下の温度でのモノマーの重合、または、ビニルエチレンカーボネートの残存量が70%以上となる温度でのモノマーの重合を効率良く行うことができる。
【0012】
60℃半減期が10時間以下であるラジカル重合開始剤としては、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、アゾイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0013】
非水電解質中のビニルエチレンカーボネートの含有量は、0.1〜5重量%の範囲内であることが好ましい。ビニルエチレンカーボネートの含有量が少ないと、負極活物質の表面に形成される皮膜の量が不十分となり、本発明の効果を十分に得ることができない場合がある。また、ビニルエチレンカーボネートの量が5重量%を越えると、電池の内部抵抗が増加し、高率放電及び低温放電などの特性が低下する場合がある。
【0014】
本発明において非水電解質に用いられる溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネートと、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートとの混合溶媒が例示される。また、上記環状カーボネートとγ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル系溶媒との混合溶媒も例示される。環状カーボネートと、鎖状カーボネートまたはエーテル系溶媒との混合比率(環状カーボネート/鎖状カーボネートまたはエーテル系溶媒)は、体積比で10/90〜70/30であることが好ましい。
【0015】
本発明において非水電解質に溶解される溶質としては、特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。
【0016】
また、本発明においては、非水電解質に、γ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートを添加しておくことにより、ビニルエチレンカーボネートの自己重合反応を抑制することができる。これらは単独で添加してもよいし、混合して添加してもよい。添加量としては、非水電解質中において5体積%以上となるように添加することが好ましい。
【0017】
本発明において、非水電解質に添加するラジカル重合性モノマーは、加熱重合によりゲル化して非水電解質をポリマー電解質とすることができるものであれば特に限定されるものではないが、好ましいモノマーとしては、ポリアルキレンオキシド系モノマーが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールジアクリレート及びポリアルキレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。好ましくは、ポリエチレングリコールジアクリレート及びポリエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0018】
本発明において、ラジカル重合性モノマーの添加量は、ラジカル重合性モノマーを含まない非水電解質100重量部に対し、1〜10重量部であることが好ましい。
【0019】
上記のビニルエチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、及びプロピレンカーボネートの含有量の基準となる非水電解質全体の量は、ラジカル重合性モノマーを含まない非水電解質全体の量である。
【0020】
非水電解質に含まれるラジカル重合開始剤の量は、ラジカル重合開始剤の種類等により適宜調整されるものであるが、一般にはラジカル重合性モノマーを含む非水電解質に対し、50〜30000ppm程度の濃度で含まれることが好ましい。
【0021】
本発明における負極の活物質としては、黒鉛系材料が挙げられる。黒鉛系材料を負極活物質として用いる場合、電解液と負極活物質の間で反応が発生し易いため、特に本発明の効果が顕著に得られる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の炭素材料や、リチウムと合金化し得る材料(例えば珪素、錫、アルミニウムなど)を負極活物質として用いてもよい。
【0022】
本発明に用いられる正極の活物質としては、非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるものを一般に用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの遷移金属酸化物を好適に用いることができる。
【0023】
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、上記本発明の非水電解質二次電池を製造することができる方法である。具体的には、外装体内に正極と負極とを配置し、ラジカル重合性モノマー及びビニルエチレンカーボネートを含む非水電解質を注入した後、封止して仮電池を作製する工程と、この仮電池内の非水電解質を50℃以下の温度に加熱してラジカル重合性モノマーを重合することによりポリマー電解質にする工程とを備えることを特徴としている。
【0024】
本発明においては、仮電池内の非水電解質を50℃以下の温度に加熱して非水電解質に含まれるラジカル重合性モノマーを重合することによりゲル化してポリマー電解質としている。50℃以下の温度で加熱しているので、ビニルエチレンカーボネートの自己重合反応による消費が抑制され、ポリマー電解質内に、十分な量のビニルエチレンカーボネートを存在させることができる。このため、初期の充電時に十分な量のビニルエチレンカーボネートが分解し、負極活物質表面に炭酸リチウムの皮膜を十分に形成することができる。
【0025】
本発明の他の局面に従う非水電解質二次電池の製造方法は、上記本発明の他の局面に従う非水電解質二次電池を製造することができる方法であり、外装体内に正極と負極とを配置し、ラジカル重合性モノマー及びビニルエチレンカーボネートを含む非水電解質を注入した後、封止して仮電池を作製する工程と、ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量が仕込み量の70%以上となる温度に仮電池内の非水電解質を加熱してラジカル重合性モノマーを重合することによりゲル化してポリマー電解質にする工程とを備えることを特徴としている。
【0026】
本発明に従う他の局面の製造方法においては、ビニルエチレンカーボネートの残存量が70%以上となる温度に非水電解質を加熱してラジカル重合性モノマーを重合させているので、ポリマー電解質において十分な量のビニルエチレンカーボネートが存在している。このため、初期の充電時に十分な量のビニルエチレンカーボネートが分解し、炭酸リチウムの皮膜を負極活物質表面に十分に形成することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することが可能なものである。
【0028】
(実施例1)
[正極の作製]
コバルト酸リチウムからなる正極活物質と、導電助剤としての黒鉛及びケッチエンブラックと、結着剤としてのフッ素樹脂とを、重量比で90:3:2:5の割合となるように混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる有機溶剤に溶解してペーストとした。
【0029】
このペーストをドクターブレード法により、厚み20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布した。次に、加熱した乾燥機中を通過させ、100〜150℃の真空下で熱処理して有機溶剤を除去した。その後、厚みが0.17mmとなるようにロールプレス機により圧延して正極を作製した。
【0030】
[負極の作製]
天然黒鉛からなる負極活物質と、結着剤としてのフッ素樹脂とを、重量比で95:5の割合となるように混合して、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる有機溶剤に溶解してペーストとした。
【0031】
このペーストをドクターブレード法により、厚み20μmの銅箔の両面に均一に塗布した。次に、加熱した乾燥機中を通過させ、100〜150℃の温度で真空下に熱処理して有機溶剤を除去した。その後、厚みが0.14mmとなるようにロールプレス機により圧延して負極を作製した。
【0032】
[電池の作製]
上記のようにして得られた正極及び負極に、それぞれ正極集電タブ及び負極集電タブを取り付けた後、それらの間にセパレータを挟み重ね合わせた。重ね合わせた正極及び負極を、巻き取り機により巻き取り、最外周をテープで止め、渦巻き状電極体とした後、この渦巻き状電極体を扁平に押しつぶして板状にした。
【0033】
このようにして得られた電極体を、アルミニウムラミネート材で作製した筒型の外装体中に挿入し、外装体の一方端部から正極集電タブ及び負極集電タブが出る状態に配置し、この状態で加熱することにより、外装体の一方端部を封止した。
【0034】
次に、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1となるように混合した溶媒に、溶質としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解させ、さらにこれに2.0重量%の割合となるようにビニルエチレンカーボネートを添加して電解液とした。
【0035】
次に、この電解液に、ラジカル重合性モノマーとして、ポリエチレングリコールジアクリレートを、電解液に対する重量比で1:15となるように混合した。従って、ポリエチレングリコールジアクリレートは、6.25重量%の割合で電解液中に含まれている。
【0036】
次に、重合開始剤として、t−ヘキシルパーオキシピバレート(60℃半減期:4時間)を、10000ppmの濃度となるように添加し、ポリマー電解質前駆体である非水電解質とした。
【0037】
上記の電極体を挿入した外装体内に、他方の開口部から、上記の非水電解質を5ml注入した後、上記と同様にして他方端部を加熱し、外装体を封止した。これを、表1に示す加熱温度で3時間保持し、非水電解質中のラジカル重合性モノマーを加熱重合して非水電解質をゲル化し、ポリマー電解質として、電池1−2〜1−6を得た。
【0038】
なお、比較として、ラジカル重合性モノマーを非水電解質に添加しないこと以外は、上記と同様にして非水電解質を作製し、この非水電解質を用いて電池1−1を作製した。なお、電池1−1においては、ラジカル重合性モノマーが含まれていないので、加熱処理を施していない。
【0039】
[保存特性の評価]
上記で作製した電池1−1〜1−6を、1.0C(600mA)の定電流で充電し、4.2Vに到達した後、定電圧で2時間充電を行ない、満充電状態とした。15分間放置した後、1.0Cの定格電流で3.0Vまで放電し、放電容量を測定した。
【0040】
放電後の各電池を、60℃の恒温槽中で20日間放置した後、再び充放電を行ない、容量回復率を測定した。なお、ここで容量回復率は、保存前の放電容量に対する保存後の放電容量の割合を示したものである。測定結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示す結果から明らかなように、加熱温度が50℃以下である電池1−2〜1−4においては、良好な容量回復率が得られていることがわかる。特に、加熱温度が45℃以下である電池1−2及び1−3においては、熱重合型ポリマー電解質を用いていない、加熱なしの比較電池1−1とほぼ同程度の容量回復率が得られている。
【0043】
また、60℃以上の温度に加熱した電池1−5及び1−6においては、容量回復率が低くなっており、また保存により電池内部にガスが発生し、電池の厚みが増加していることが確認された。
【0044】
[ビニルエチレンカーボネートの残存量の測定]
ラジカル重合性モノマーを添加した上記と同様の非水電解質を、容器中に入れ、これを密封し、上記各電池におけるのと同様の加熱条件で加熱し、モノマーを加熱重合した後、電解質中に残存しているビニルエチレンカーボネートの定量を行った。加熱を行わなかった比較電池1−1中の電解質に含まれるビニルエチレンカーボネートの量を100%として、ビニルエチレンカーボネートの残存量を表2に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示す結果から明らかなように、加熱温度が高くなるにつれて、ビニルエチレンカーボネートの残存量が減少している。これは、加熱温度が高くなるにつれて、ビニルエチレンカーボネートが自己重合反応を起こすためであると考えられる。加熱温度が50℃以下の場合に良好な保存特性が得られているので、ビニルエチレンカーボネートの残存量が70%以上であることが好ましいことがわかる。加熱温度が45℃以下で、さらに良好な保存特性が得られているので、ビニルエチレンカーボネートの残存量が85%以上であることが特に好ましいことがわかる。
【0047】
以上のように、非水電解質中のモノマーを重合するための加熱により、ビニルエチレンカーボネートの自己重合反応が副反応として生じる。このビニルエチレンカーボネートの自己重合反応を抑制することにより、ビニルエチレンカーボネートが非水電解質中に十分な量残存させることができ、この結果良好な皮膜を負極活物質の表面に形成することができるので、電池特性の劣化を抑制することができる。
【0048】
また、ビニルエチレンカーボネートの残存量が、初期添加量の半分程度以下になると、負極活物質と電解液との反応が著しくなり、負極電位が上昇し、ガス発生を伴う電解液の分解が生じることにより、電池の厚みが増加することがわかる。
【0049】
(実施例2)
ラジカル重合開始剤として、表3に示す60℃半減期を有するラジカル重合開始剤を用いる以外は、上記実施例1と同様にしてポリマー電解質前駆体である非水電解質を作製した。これを用いて仮電池を作製し、45℃に加熱してこの温度を3時間保持することにより、電池内の非水電解質をポリマー電解質とした。
【0050】
なお、表3に示す60℃半減期を有するラジカル重合開始剤としては、以下のものを用いた。
60℃半減期5時間:t−ブチルパーオキシピバレート
60℃半減期10時間:3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド
60℃半減期15時間:オクタノイルパーオキサイド
60℃半減期18時間:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート
作製した各電池について、実施例1と同様にして容量回復率を測定した。測定結果を表3に示す。
【0051】
また、作製した各電池の外装体の封止部を長さ5mmとなるように切り、開封部を形成した。電池全体の上に1tの重量が均一にかかるように10秒間加圧し、開封部から漏れ出した電解液の重量を測定した。この重量を、重量減少分として表3に示した。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示す結果から明らかなように、いずれの電池についても良好な容量回復率が得られている。開封部から漏れ出した電解液の重量については、60℃半減期が10時間以下である重合開始剤を用いた電池2−1及び2−2が良好な値を示している。これは、このような重合開始剤を用いることにより、非水電解質内のモノマーを十分に重合することができ、良好なポリマーネットワークを形成することができるためであると思われる。
【0054】
(実施例3)
ラジカル重合性モノマーを含まない非水電解質全体に対するビニルエチレンカーボネートの添加量を、表4に示すように、0〜10.0重量%の範囲内で変化させる以外は、実施例1と同様にして非水電解質を作製し、これを用いて仮電池を作製し、この仮電池を、45℃または60℃の温度に加熱し、この温度を3時間保持して、非水電解質中のモノマーを重合させ、ポリマー電解質として電池を作製した。
【0055】
【表4】
【0056】
作製した各電池について、1.0C(600mA)の定電流で充電し、4.2Vに到達した後、定電圧で2時間充電を行ない満充電状態とした。15分間放置後、1.0Cの定格電流で3.0Vまで放電した。
【0057】
その後周波数1kHzで電池の内部抵抗を測定した。測定結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、ビニルエチレンカーボネートを添加していない電池3−1及び3−9においては、負極表面における皮膜形成が不十分であるため、電解液の分解反応が充放電時に継続的に進行するため、高い抵抗値を示している。
【0060】
また、60℃で加熱を行った電池3−10〜3−16においては、全て高い内部抵抗値を示している。これは、加熱によりビニルエチレンカーボネートが自己重合反応し、負極活物質表面における皮膜形成が不十分であったため電解液との反応が進行し、リチウムイオン導電性を有しない物質が活物質表面やセパレータ表面に堆積したためであると推測される。
【0061】
これに対し、45℃で加熱を行った電池3−2〜3−8においては、低い内部抵抗値を示している。従って、ビニルエチレンカーボネートが0.1重量%以上添加されていれば、負極活物質の表面において皮膜が十分に形成され、電解液との反応が抑制されることがわかる。特に、ビニルエチレンカーボネートの含有量が0.1〜5.0重量%の範囲内において低い内部抵抗値を示している。これは、ビニルエチレンカーボネートの含有量が5.0重量%を越えると、ビニルエチレンカーボネートの自己重合反応は抑制されるものの、含有量が多いために、多量の重合生成物が負極活物質やセパレータ表面に堆積するため、電池の内部抵抗が増加するものと考えられる。このような内部抵抗値の増加は、高率放電や低温放電などの特性が低下する原因となる。従って、ビニルエチレンカーボネートの含有量は、0.1〜5.0重量%の範囲内が好ましいことがわかる。
【0062】
なお、電池3−1〜3−8について、実施例1と同様にして保存特性試験を行ない、容量回復率を測定した。測定結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
(実施例4)
モノマーを添加する前の電解液に、以下の表7に示す量のγ−ブチロラクトン(GBL)を添加し、その後にモノマーと重合開始剤を添加する以外は、実施例1と同様にして仮電池を作製し、この仮電池を45℃に加熱し、この温度を3時間保持して、非水電解質中のモノマーを加熱重合してポリマー電解質とした。なお、表7に示すGBL添加量は、モノマー及び重合開始剤を添加する前の電解液に対する体積%である。
【0065】
【表7】
【0066】
以上のようにして作製した各電池を、1.0C(600mA)の定電流で充電し、4.2Vに到達した後、定電圧で2時間充電を行ない満充電状態とした。15分間放置後、1.0Cの定格電流で3.0Vまで放電し、放電容量を測定した。
【0067】
その後、環境温度60℃において、上記と同じ条件で充放電サイクルを100サイクル実施した。100サイクル経過後の容量維持率を表8に示す。ここで、容量維持率は、以下の式により求めた。
【0068】
容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100
なお、表8に示すγ−ブチロラクトンの添加量と、容量維持率との関係を図1に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表8及び図1に示すように、ビニルエチレンカーボネートを添加した電池4−1〜4−6においては、γ−ブチロラクトンを添加することにより、容量維持率が高くなることがわかる。これに対し、ビニルエチレンカーボネートを添加していない電池4−7〜4−12においては、γ−ブチロラクトンを添加することにより容量維持率が低下しており、その低下の度合いは、γ−ブチロラクトンの添加量のが大きくなるにつれて著しくなっている。加熱後の電解液中に残存するビニルエチレンカーボネートの量を定量したところ、γ−ブチロラクトンの添加量の増加に比例して、ビニルエチレンカーボネートの残存量が増加していることが確認された。この原因について詳細は現段階では不明であるが、ビニルエチレンカーボネートの加熱による自己重合反応は、γ−ブチロラクトン中で進行しにくくなり、充電による皮膜形成時まで良好にビニルエチレンカーボネートが存在できるようになるものと推測される。
【0071】
電池4−1〜4−6について、実施例1と同様にして保存特性試験を行ない、保存後の容量回復率を測定した。測定結果を表9に示す。
【0072】
【表9】
【0073】
表9に示すように、γ−ブチロラクトンを添加した各電池においても、良好な容量回復率が得られている。
次に、γ−ブチロラクトンに代えて、プロピレンカーボネートを電解液に添加し、上記と同様の実験を行った。電池5−1〜5−12におけるビニルエチレンカーボネート(VEC)の添加量及びプロピレンカーボネート(PC)の添加量を表10に示す。
【0074】
【表10】
【0075】
電池5−1〜5−12について、上記と同様に容量維持率を測定した。表11及び図1に、プロピレンカーボネート添加量と容量維持率との関係を示す。
【0076】
【表11】
【0077】
表11及び図1に示すように、γ−ブチロラクトンと同様に、プロピレンカーボネートを添加した場合にも、容量維持率の増加が認められる。また、γ−ブチロラクトンの場合と同様に、ビニルエチレンカーボネートを添加していない場合には、プロピレンカーボネートを添加することにより、容量維持率が顕著に低下している。これは、充放電を行うリチウムの吸蔵・放出において、負極活物質内にプロピレンカーボネートがリチウムと共に吸蔵され、このとき負極活物質の結晶破壊及び剥離を引き起こすため、電池の特性の劣化を生じるものと思われる。ビニルエチレンカーボネートを添加することにより、負極の表面に炭酸リチウムの皮膜を形成することができるので、このような負極活物質の結晶破壊及び剥離を防止することができるものと思われる。
【0078】
なお、電池5−1〜5−6について、実施例1と同様にして保存特性試験を行ない、容量回復率を測定した。測定結果を表12に示す。
【0079】
【表12】
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、ビニルエチレンカーボネートを含む熱重合型ポリマー電解質を用いた非水電解質二次電池において、負極活物質の表面にビニルエチレンカーボネートの分解により生成する炭酸リチウムの皮膜を良好に形成することができ、負極活物質と電解液との反応を抑制することができるので、保存特性及び充放電サイクル特性などの電池特性を著しく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】γ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートの添加量と容量維持率との関係を示す図。
Claims (7)
- ラジカル重合性モノマーを含む非水電解質を加熱し前記モノマーを重合して得られるポリマー電解質と、正極と、負極とを備える非水電解質二次電池において、
前記非水電解質にビニルエチレンカーボネートが含まれており、50℃以下の温度で前記重合が行われることを特徴とする非水電解質二次電池。 - ラジカル重合性モノマーを含む非水電解質を加熱し前記モノマーを重合して得られるポリマー電解質と、正極と、負極とを備える非水電解質二次電池において、
前記非水電解質にビニルエチレンカーボネートが含まれており、ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量が初期添加量の70%以上となる温度で前記重合が行われることを特徴とする非水電解質二次電池。 - 前記非水電解質に含まれているラジカル重合開始剤が、10時間以下の60℃半減期を有することを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
- 前記非水電解質に0.1〜5重量%のビニルエチレンカーボネートが含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
- 前記非水電解質にγ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートが5体積%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
- 外装体内に正極と負極とを配置し、ラジカル重合性モノマー及びビニルエチレンカーボネートを含む非水電解質を注入した後、封止して仮電池を作製する工程と、
前記仮電池内の前記非水電解質を50℃以下の温度に加熱して前記ラジカル重合性モノマーを重合することによりポリマー電解質にする工程とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。 - 外装体内に正極と負極とを配置し、ラジカル重合性モノマー及びビニルエチレンカーボネートを含む非水電解質を注入した後、封止して仮電池を作製する工程と、
ビニルエチレンカーボネートが重合せずに残存する量が初期添加量の70%以上となる温度に前記仮電池内の前記非水電解質を加熱して前記ラジカル重合性モノマーを重合することによりポリマー電解質にする工程とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
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