JP2004227654A - 磁気記録媒体、その評価方法および磁気記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体、この磁気記録媒体を使用した、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置等を提供する。
【解決手段】基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる。また、磁気記録媒体を作製する場合に、その表面の水素濃度を3原子%以下にする。
【選択図】 なし
【解決手段】基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる。また、磁気記録媒体を作製する場合に、その表面の水素濃度を3原子%以下にする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体、その評価方法およびその磁気記録媒体を含む磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ヘッドの浮上を伴う磁気記録装置(いわゆるハードディスクドライブ)は、コンピュータや各種携帯情報端末、たとえばモバイルパーソナルコンピュータ、携帯電話、ゲーム機、デジタルカメラ、車載ナビゲーション等の外部記憶装置として一般に広く使用されている。
【0003】
現在の磁気ディスク(磁気記録媒体)は、硬質非磁性基板上に、薄膜の磁性層として、良好な磁気特性を示すコバルト系の合金を設けたものからなるが、磁性層は耐久性、耐蝕性に著しく劣るため、磁気ヘッドとの接触、摺動による摩擦、摩耗や湿気吸着による腐食発生のため、磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷が生じ易い。そこで現状では、磁性層表面に数nmの厚さで保護膜層を設け、さらにその直上を潤滑剤層で被覆することで、耐久性、耐蝕性の向上を図っている。
【0004】
上記保護膜層にはSiO2やAl2O3など様々な材質が用いられるが、耐熱性、耐蝕性および耐摩耗性に優れている点から、現状では、アモルファス炭素膜や水素化アモルファス炭素膜等のアモルファス状の炭素系保護膜層が好適であるとされ、物理的気相成長法(PVD法)や化学的気相法(CVD法)など種々の堆積方法によって作製されている(たとえば特許文献1,2参照)。
【0005】
一方、潤滑剤層は、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における摩擦や磨耗を低減させることで磁気ヘッドクラッシュを防止するとともに、撥水表面を形成する性質により大気中コンタミネーションに起因する磁性層の腐食を抑制する役割を有する。
【0006】
磁気記録媒体に用いられる潤滑剤には、入手や性能の面で−CF2O−(C2F4O)m−(CF2O)n−CF2−に代表される主鎖を持つパーフルオロポリエーテル系ポリマー(PFPE系ポリマー)の使用が一般的であり、保護膜層への配向性を高めるために、その末端には各種官能基が付与されている。また、潤滑剤層の塗布方法としてはスピンコート法やスプレー法、気相蒸着法や浸漬法などが用いられている。
【0007】
ところで近年の情報化社会では、あらゆる用途において取り扱う情報量が増大傾向にあり、これに伴って磁気ディスクには、一層の高記録密度、大容量化が切望されている。
【0008】
高記録密度化への要求に応えるためには、磁性層と磁気ヘッドとの記録/読みとり部間の間隔、いわゆるマグネティックスペーシングを短縮することが不可欠であり、そのため磁気ヘッドの浮上量は年々縮小しており、さらに保護膜層および潤滑剤層そのものの薄層化が必要とされてきている。
【0009】
ただし、磁気ヘッドの浮上高さが低下すると磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触機会が増加し磁気ヘッドクラッシュが発生し易くなる。従って浮上高さを低下させるためには、磁気ヘッド−磁気記録媒体間の接触頻度を極力抑制しなければならず、そのためには、保護膜層表面で潤滑剤層が凝集状態にならず均一に濡れ広がっていることが必要である。
【0010】
この状態が達成されないと、たとえば潤滑剤層に被覆されていない保護膜層表面部分が生じ、その部分で、大気中に存在するSOx、NOx等の無機系汚れ(無機系コンタミネーション)やシロキサン等の有機系コンタミネーションの吸着・堆積が生じ、これにより磁性層の腐食が進行しやすくなる。すなわち、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない、良好な磁気記録媒体を実現する上で、潤滑剤層が保護膜層表面を良好に被覆できているかどうかという潤滑剤層の被覆性の良否は重要な指標である。
【0011】
また、保護膜層表面に対する潤滑剤層の配向が不完全であると、吸着性の高い潤滑剤末端基が磁気記録媒体表面に浮き上がって存在する確率が高くなるため、浮上している磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に吸着されるフライスティクションと呼ばれる浮上障害が引き起こされ、さらには磁気ヘッドクラッシュを生じるという、正常な記録/読みとり動作の阻害問題が生じる。すなわち、フライスティクション、磁気ヘッドクラッシュのない、良好な磁気記録媒体を実現する上で、潤滑剤層が保護膜層表面で良好に配向しているかどうかという潤滑剤層の配向性の良否は重要な指標である。
【0012】
図2は、保護膜層5の上にある潤滑剤層中のポリマーと保護膜層との付着状態をモデル的に表した図である。このモデル図は、多分このようなことが起こっているのであろうと想像して描いたものである。
【0013】
図2中、番号7は末端基を、番号8はポリマー主鎖を表す。ポリマー分子9,10は両末端基が保護膜層に付着しており、保護膜層表面に対し、良好な配向状態を保っている。これに対し、ポリマー分子11は片方の末端基が保護膜層に付着し、片方の末端基は浮き上がった状態であり、ポリマー分子12は、二つのポリマー分子が絡み合って凝集し、保護膜層表面近傍にある状態を表している。このような場合にフライスティクションが起こりやすくなり、磁気ヘッドクラッシュの原因となる。
【0014】
【特許文献1】
特開平7−326033号公報(段落番号0013)
【0015】
【特許文献2】
特開平10−31849号公報(特許請求の範囲)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように潤滑剤層の被覆・配向特性は良好な磁気記録媒体を実現する生命線的な役割を担っているが、塗布される潤滑剤層が2nm前後の極薄膜であるため、明確な物性値で規定することがこれまで困難であった。そのため作製した磁気記録媒体における良品/不良品の選定には、酸による耐蝕性試験など、複数の間接的な評価方法による統計的数値に頼らざるを得ず、膨大な工数と多大なコストを要していた。
【0017】
本発明の目的は、このような問題点を解決し、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体、および、この磁気記録媒体を使用した、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置等を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度が3原子%以下である磁気記録媒体が提供される。本態様により、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体が得られる。
【0020】
前記炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であること、前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものであることが好ましい。
【0021】
本発明の他の一態様によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の評価方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる磁気記録媒体の評価方法が提供される。本態様により、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法が得られる。
【0022】
本発明のさらに他の一態様によれば、磁気記録媒体として上記記載の磁気記録媒体を使用した磁気記録装置が提供される。本態様により、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置が得られる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0024】
磁気記録媒体の表面の水素濃度を潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いることができることが見出された。
【0025】
磁気記録媒体が、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびPFPE系ポリマー系物質よりなる潤滑剤層を順次積層した構造を有する場合、この潤滑剤層や保護膜層には、一定濃度の水素が含有されている。
【0026】
たとえば、現在主流となっているCVD法を使用して、水素化アモルファス炭素膜等の炭素系の保護膜層を成膜した場合、原料に炭化水素ガスを使用するため、保護膜層は主として炭素からなるが、かなりの量の水素が含有されている。
【0027】
また潤滑剤層に使用されるPFPE系ポリマーは、表面自由エネルギーの低減化を担うポリマー骨格がフッ素、炭素および酸素のみで構成されるが、保護膜層表面での潤滑剤層の配向性を促進するために、その末端基には水素を含有する官能基が導入されている。この末端基としては、水酸基、アミノ基、ピペロニル基および下記構造式(I)
−CH(OH)CH2OH・・・・・(I)
で表される末端基を例示することができる。
【0028】
このような場合に、磁気記録媒体表面の水素濃度を測定すれば、保護膜層表面が均一にPFPE系ポリマーで覆い尽くされている場合は、磁気記録媒体表面の水素濃度はゼロとなる。このような場合には、保護膜層表面が潤滑剤層に完全に被覆されるため、保護膜層に由来する水素は検出されない。また、潤滑剤層が保護膜層表面で良好な配向を示す場合には、PFPE系ポリマーの末端基が保護膜層表面に吸着された状態となるため、末端基に含有される水素はPFPE系ポリマー骨格により覆われた状態となり、潤滑剤層に由来する水素も検出されないからである。
【0029】
一方、保護膜層表面における潤滑剤層の被覆性が不十分な場合は、保護膜層由来の水素が観察される。また保護膜層表面での潤滑剤層の配向が不完全である場合はPFPE系ポリマーの末端基由来の水素が観察される。
【0030】
従って、磁気記録媒体の評価方法として、磁気記録媒体の表面の水素濃度の大小を、潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いることが可能となる。
【0031】
このような磁気記録媒体表面の水素濃度測定は、低エネルギー弾性反跳粒子検出法(LE−ERDA:Low−Energy Elastic Recoil
Detection Analysis)で可能である。
【0032】
LE−ERDAは、希ガスイオンを、keVオーダの低エネルギーでサンプルに照射し、標的原子の弾性的な反跳(Recoil)過程を利用する分析方法であり、電子遷移を利用する通常の分析手段では原理的に困難な水素濃度を評価できる。LE−ERDAで採用されるエネルギー領域では入射希ガスイオンが膜中に侵入できず、原子層レベルのごく表面の情報のみが取得されるため、上記のような磁気記録媒体表面の水素濃度測定が可能となるのである。
【0033】
このようにして測定した磁気記録媒体表面の水素濃度を3原子%以下にした磁気記録媒体は、潤滑剤層の被覆・配向性に優れたものとなることが判明した。
【0034】
すなわち、磁気記録媒体表面の水素濃度が3原子%以下であると、被覆性が向上し、その撥水表面を形成する性質により、大気中のコンタミネーションに起因する磁性層の腐食を良好に抑制できる。また、配向性が向上し、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における摩擦や磨耗を低減させることで、フライスティクションや磁気ヘッドクラッシュを防止できる。さらに、保護膜層が機械的または化学的損傷を受けにくくなり、このため、磁性層の腐食発生を良好に抑制できる。
【0035】
上記において、炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であることが好ましいことが判明した。アモルファス炭素とは炭素の結合にsp2軌道とsp3軌道とが混在したものと言われ、水素化アモルファス炭素は、炭素の他に水素をかなりの量含んでいる。水素化アモルファス炭素膜は、たとえばメタン、エタン、プロパン、エチレン、ベンゼン、アセチレン等の炭化水素を使用して、プラズマCVD法、イオンビーム蒸着法等により形成でき、この膜は、優れた保護膜層を形成する。水素含有量が40原子%以下であれば、耐熱性、耐蝕性および耐摩耗性に優れた水素化アモルファス炭素膜となり、PFPE系ポリマー被覆性、配向性も良好になる。水素含有量が40原子%を超えると膜の軟質化が進み、耐摩耗性が著しく劣るようになる。また、水素含有量が少ないと、膜の硬質性という点では有利であるが、膜形成の原理上、水素含有量を5原子%以下に抑制することは困難であり、さらに水素濃度の減少は内部応力の増加を引き起こし、膜剥離の原因となり得る。従って、膜剥離を抑制しつつ良好な保護膜特性を示す水素化アモルファス炭素膜の水素含有量は10〜40原子%が好ましい。
【0036】
上記の優れた性質の磁気記録媒体を使用して作製した磁気記録装置は、高記録密度においても、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない信頼性の高い磁気記録装置となる。
【0037】
また、本発明によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびPFPE系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層して磁気記録媒体を製造する際に、磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にすることで、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有し、高耐蝕性と高記録密度を同時に実現する信頼性の高い磁気記録媒体や、この磁気記録媒体を使用した磁気記録装置を低コストで作製できるようになる。
【0038】
上記の所定の範囲は、生産の実情に応じて任意に定めることができるが、磁気記録媒体表面の水素濃度が3原子%以下であることが好ましい。また、先に磁気記録媒体について説明したように、炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であること、PFPE系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものであることが好ましい。
【0039】
【実施例】
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。なお、評価は次の方法によった。
【0040】
(磁気記録媒体表面の水素濃度測定)
プローブとして2keVに加速したHeイオンを使用し、株式会社島津製作所のイオン散乱装置(TALIS9700)により測定した。
【0041】
(浮上試験)
磁気記録媒体サンプルを周速5m/秒で回転させ、アルミナチタンカーバイドにピエゾ素子を組み込んだスライダを用いた浮上試験を行った。なお、浮上試験結果における○は、ピエゾ出力が出荷判定基準内であったことを、×は基準値を超えたことを意味する。
【0042】
(耐蝕性試験:腐食量)
磁気記録媒体サンプルを、フッ酸、塩酸、酢酸および純水が、体積比で1:1:1:50の割合である混合液中に20分浸漬し、引き上げ乾燥した。その後顕微鏡を用いて観察した。光を斜めから当てることにより、腐食により生じた穴部分のみが白く反射する条件で写真を撮り、所定面積についての白い部分の面積の割合を求め、腐食量(腐食面積の割合)とした。
【0043】
[実施例1]
(浮上性への影響)
図1は本実施例で作製した磁気記録媒体の概略断面図である。アルミ合金基板1上にNi−Pめっき2を施し、その上にCr系下地層3および磁性層4をスパッタリング法により順次積層形成した。続いて炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層5としてプラズマCVD装置を用い、炭化水素および水素を原料ガスとして、プラズマ出力1000W、基板バイアス−300V、成膜室内圧力3Paの各条件下で5nmの成膜を行い、水素化アモルファス炭素膜を得た。
【0044】
本発明における炭素と水素とを主成分とした物質である、この水素化アモルファス炭素中の水素含有量としては、LE−ERDAで測定した保護膜層の表面水素濃度を使用した。この測定の結果、水素含有量は35原子%であった。
【0045】
次に、末端基としてピペロニル基を有する、イタリアのアウジモント社製のFomblin AM3001を3M社製のフッ素系溶媒、商品名フロリナートで0.05重量%に希釈した潤滑剤溶液を用い、浸漬時間10秒、引き上げ速度50mm/分の条件で保護膜層表面へ潤滑剤を塗布し、潤滑剤層6を得た。塗布後にXPS(X線光電子分光法,X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定から算出した潤滑剤層の膜厚は2.0nmであった。用いた潤滑剤の数平均分子量は3000であり、一分子当たりに含まれる水素濃度は8.4原子%であった。
【0046】
Fomblin AM3001は、下記式の構造の極性末端基を分子の両側に有しており、その水素濃度は、上記数平均分子量とこの極性末端基中に含まれる水素の数とから計算したものである。
【0047】
【化1】
【0048】
以上の条件で合計5枚の磁気記録媒体を作製し、それぞれをサンプルA〜Eとした。サンプル間における潤滑剤層の膜厚のバラツキは標準偏差で0.1nmであった。
【0049】
個々のサンプルについてLE−ERDAによる表面水素濃度測定を行った後、通常の磁気ヘッドを用いて9nmの浮上試験を行った。表1に各サンプルの表面水素濃度および浮上試験の結果をまとめてある。同じ潤滑剤層の膜厚であっても表面水素濃度が低いサンプルは浮上特性が良好であることがわかる。従来の技術では、このような明確な判断は困難であった。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例2]
(耐蝕性への影響)
実施例1と同様の方法で潤滑剤層の膜厚が、0.7,0.9,1.1,1.3,1.5nmの合計5条件の磁気記録媒体を作製した。
【0052】
個々のサンプルについてLE−ERDAによる表面水素濃度測定を行った後、耐蝕性試験を行った。表2に各サンプルの表面水素濃度および腐食面積の割合をまとめた。表面水素濃度が低いサンプルほど耐蝕性が向上していることが理解できる。
【0053】
【表2】
【0054】
(付記1) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度が3原子%以下である磁気記録媒体。
【0055】
(付記2) 前記炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素である、付記1に記載の磁気記録媒体。
【0056】
(付記3) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記1または2に記載の磁気記録媒体。
【0057】
(付記4) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の評価方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる磁気記録媒体の評価方法。
【0058】
(付記5) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の製造方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にする、磁気記録媒体の製造方法。
【0059】
(付記6) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0060】
(付記7) 磁気記録媒体として付記1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体を使用した磁気記録装置。
【0061】
(付記8) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体を使用し、
当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にする、磁気記録装置の製造方法。
【0062】
(付記9) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0063】
【発明の効果】
本発明により、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体、この磁気記録媒体を使用した、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置等を提供することができる。これらの磁気記録媒体や磁気記録装置は、特に磁気記録装置の高記録密度化、大容量化に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例で作製した磁気記録媒体の概略断面図である。
【図2】保護膜層上にある潤滑剤層中のポリマーと保護膜層との付着状態を表すモデル図。
【符号の説明】
1 基板
2 Ni−Pめっき層
3 Cr系下地層
4 磁性層
5 保護膜層
6 潤滑剤層
7 末端基
8 ポリマー主鎖
9,10,11,12
ポリマー分子
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体、その評価方法およびその磁気記録媒体を含む磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ヘッドの浮上を伴う磁気記録装置(いわゆるハードディスクドライブ)は、コンピュータや各種携帯情報端末、たとえばモバイルパーソナルコンピュータ、携帯電話、ゲーム機、デジタルカメラ、車載ナビゲーション等の外部記憶装置として一般に広く使用されている。
【0003】
現在の磁気ディスク(磁気記録媒体)は、硬質非磁性基板上に、薄膜の磁性層として、良好な磁気特性を示すコバルト系の合金を設けたものからなるが、磁性層は耐久性、耐蝕性に著しく劣るため、磁気ヘッドとの接触、摺動による摩擦、摩耗や湿気吸着による腐食発生のため、磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷が生じ易い。そこで現状では、磁性層表面に数nmの厚さで保護膜層を設け、さらにその直上を潤滑剤層で被覆することで、耐久性、耐蝕性の向上を図っている。
【0004】
上記保護膜層にはSiO2やAl2O3など様々な材質が用いられるが、耐熱性、耐蝕性および耐摩耗性に優れている点から、現状では、アモルファス炭素膜や水素化アモルファス炭素膜等のアモルファス状の炭素系保護膜層が好適であるとされ、物理的気相成長法(PVD法)や化学的気相法(CVD法)など種々の堆積方法によって作製されている(たとえば特許文献1,2参照)。
【0005】
一方、潤滑剤層は、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における摩擦や磨耗を低減させることで磁気ヘッドクラッシュを防止するとともに、撥水表面を形成する性質により大気中コンタミネーションに起因する磁性層の腐食を抑制する役割を有する。
【0006】
磁気記録媒体に用いられる潤滑剤には、入手や性能の面で−CF2O−(C2F4O)m−(CF2O)n−CF2−に代表される主鎖を持つパーフルオロポリエーテル系ポリマー(PFPE系ポリマー)の使用が一般的であり、保護膜層への配向性を高めるために、その末端には各種官能基が付与されている。また、潤滑剤層の塗布方法としてはスピンコート法やスプレー法、気相蒸着法や浸漬法などが用いられている。
【0007】
ところで近年の情報化社会では、あらゆる用途において取り扱う情報量が増大傾向にあり、これに伴って磁気ディスクには、一層の高記録密度、大容量化が切望されている。
【0008】
高記録密度化への要求に応えるためには、磁性層と磁気ヘッドとの記録/読みとり部間の間隔、いわゆるマグネティックスペーシングを短縮することが不可欠であり、そのため磁気ヘッドの浮上量は年々縮小しており、さらに保護膜層および潤滑剤層そのものの薄層化が必要とされてきている。
【0009】
ただし、磁気ヘッドの浮上高さが低下すると磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触機会が増加し磁気ヘッドクラッシュが発生し易くなる。従って浮上高さを低下させるためには、磁気ヘッド−磁気記録媒体間の接触頻度を極力抑制しなければならず、そのためには、保護膜層表面で潤滑剤層が凝集状態にならず均一に濡れ広がっていることが必要である。
【0010】
この状態が達成されないと、たとえば潤滑剤層に被覆されていない保護膜層表面部分が生じ、その部分で、大気中に存在するSOx、NOx等の無機系汚れ(無機系コンタミネーション)やシロキサン等の有機系コンタミネーションの吸着・堆積が生じ、これにより磁性層の腐食が進行しやすくなる。すなわち、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない、良好な磁気記録媒体を実現する上で、潤滑剤層が保護膜層表面を良好に被覆できているかどうかという潤滑剤層の被覆性の良否は重要な指標である。
【0011】
また、保護膜層表面に対する潤滑剤層の配向が不完全であると、吸着性の高い潤滑剤末端基が磁気記録媒体表面に浮き上がって存在する確率が高くなるため、浮上している磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に吸着されるフライスティクションと呼ばれる浮上障害が引き起こされ、さらには磁気ヘッドクラッシュを生じるという、正常な記録/読みとり動作の阻害問題が生じる。すなわち、フライスティクション、磁気ヘッドクラッシュのない、良好な磁気記録媒体を実現する上で、潤滑剤層が保護膜層表面で良好に配向しているかどうかという潤滑剤層の配向性の良否は重要な指標である。
【0012】
図2は、保護膜層5の上にある潤滑剤層中のポリマーと保護膜層との付着状態をモデル的に表した図である。このモデル図は、多分このようなことが起こっているのであろうと想像して描いたものである。
【0013】
図2中、番号7は末端基を、番号8はポリマー主鎖を表す。ポリマー分子9,10は両末端基が保護膜層に付着しており、保護膜層表面に対し、良好な配向状態を保っている。これに対し、ポリマー分子11は片方の末端基が保護膜層に付着し、片方の末端基は浮き上がった状態であり、ポリマー分子12は、二つのポリマー分子が絡み合って凝集し、保護膜層表面近傍にある状態を表している。このような場合にフライスティクションが起こりやすくなり、磁気ヘッドクラッシュの原因となる。
【0014】
【特許文献1】
特開平7−326033号公報(段落番号0013)
【0015】
【特許文献2】
特開平10−31849号公報(特許請求の範囲)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように潤滑剤層の被覆・配向特性は良好な磁気記録媒体を実現する生命線的な役割を担っているが、塗布される潤滑剤層が2nm前後の極薄膜であるため、明確な物性値で規定することがこれまで困難であった。そのため作製した磁気記録媒体における良品/不良品の選定には、酸による耐蝕性試験など、複数の間接的な評価方法による統計的数値に頼らざるを得ず、膨大な工数と多大なコストを要していた。
【0017】
本発明の目的は、このような問題点を解決し、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体、および、この磁気記録媒体を使用した、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置等を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度が3原子%以下である磁気記録媒体が提供される。本態様により、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体が得られる。
【0020】
前記炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であること、前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものであることが好ましい。
【0021】
本発明の他の一態様によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の評価方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる磁気記録媒体の評価方法が提供される。本態様により、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法が得られる。
【0022】
本発明のさらに他の一態様によれば、磁気記録媒体として上記記載の磁気記録媒体を使用した磁気記録装置が提供される。本態様により、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置が得られる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0024】
磁気記録媒体の表面の水素濃度を潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いることができることが見出された。
【0025】
磁気記録媒体が、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびPFPE系ポリマー系物質よりなる潤滑剤層を順次積層した構造を有する場合、この潤滑剤層や保護膜層には、一定濃度の水素が含有されている。
【0026】
たとえば、現在主流となっているCVD法を使用して、水素化アモルファス炭素膜等の炭素系の保護膜層を成膜した場合、原料に炭化水素ガスを使用するため、保護膜層は主として炭素からなるが、かなりの量の水素が含有されている。
【0027】
また潤滑剤層に使用されるPFPE系ポリマーは、表面自由エネルギーの低減化を担うポリマー骨格がフッ素、炭素および酸素のみで構成されるが、保護膜層表面での潤滑剤層の配向性を促進するために、その末端基には水素を含有する官能基が導入されている。この末端基としては、水酸基、アミノ基、ピペロニル基および下記構造式(I)
−CH(OH)CH2OH・・・・・(I)
で表される末端基を例示することができる。
【0028】
このような場合に、磁気記録媒体表面の水素濃度を測定すれば、保護膜層表面が均一にPFPE系ポリマーで覆い尽くされている場合は、磁気記録媒体表面の水素濃度はゼロとなる。このような場合には、保護膜層表面が潤滑剤層に完全に被覆されるため、保護膜層に由来する水素は検出されない。また、潤滑剤層が保護膜層表面で良好な配向を示す場合には、PFPE系ポリマーの末端基が保護膜層表面に吸着された状態となるため、末端基に含有される水素はPFPE系ポリマー骨格により覆われた状態となり、潤滑剤層に由来する水素も検出されないからである。
【0029】
一方、保護膜層表面における潤滑剤層の被覆性が不十分な場合は、保護膜層由来の水素が観察される。また保護膜層表面での潤滑剤層の配向が不完全である場合はPFPE系ポリマーの末端基由来の水素が観察される。
【0030】
従って、磁気記録媒体の評価方法として、磁気記録媒体の表面の水素濃度の大小を、潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いることが可能となる。
【0031】
このような磁気記録媒体表面の水素濃度測定は、低エネルギー弾性反跳粒子検出法(LE−ERDA:Low−Energy Elastic Recoil
Detection Analysis)で可能である。
【0032】
LE−ERDAは、希ガスイオンを、keVオーダの低エネルギーでサンプルに照射し、標的原子の弾性的な反跳(Recoil)過程を利用する分析方法であり、電子遷移を利用する通常の分析手段では原理的に困難な水素濃度を評価できる。LE−ERDAで採用されるエネルギー領域では入射希ガスイオンが膜中に侵入できず、原子層レベルのごく表面の情報のみが取得されるため、上記のような磁気記録媒体表面の水素濃度測定が可能となるのである。
【0033】
このようにして測定した磁気記録媒体表面の水素濃度を3原子%以下にした磁気記録媒体は、潤滑剤層の被覆・配向性に優れたものとなることが判明した。
【0034】
すなわち、磁気記録媒体表面の水素濃度が3原子%以下であると、被覆性が向上し、その撥水表面を形成する性質により、大気中のコンタミネーションに起因する磁性層の腐食を良好に抑制できる。また、配向性が向上し、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における摩擦や磨耗を低減させることで、フライスティクションや磁気ヘッドクラッシュを防止できる。さらに、保護膜層が機械的または化学的損傷を受けにくくなり、このため、磁性層の腐食発生を良好に抑制できる。
【0035】
上記において、炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であることが好ましいことが判明した。アモルファス炭素とは炭素の結合にsp2軌道とsp3軌道とが混在したものと言われ、水素化アモルファス炭素は、炭素の他に水素をかなりの量含んでいる。水素化アモルファス炭素膜は、たとえばメタン、エタン、プロパン、エチレン、ベンゼン、アセチレン等の炭化水素を使用して、プラズマCVD法、イオンビーム蒸着法等により形成でき、この膜は、優れた保護膜層を形成する。水素含有量が40原子%以下であれば、耐熱性、耐蝕性および耐摩耗性に優れた水素化アモルファス炭素膜となり、PFPE系ポリマー被覆性、配向性も良好になる。水素含有量が40原子%を超えると膜の軟質化が進み、耐摩耗性が著しく劣るようになる。また、水素含有量が少ないと、膜の硬質性という点では有利であるが、膜形成の原理上、水素含有量を5原子%以下に抑制することは困難であり、さらに水素濃度の減少は内部応力の増加を引き起こし、膜剥離の原因となり得る。従って、膜剥離を抑制しつつ良好な保護膜特性を示す水素化アモルファス炭素膜の水素含有量は10〜40原子%が好ましい。
【0036】
上記の優れた性質の磁気記録媒体を使用して作製した磁気記録装置は、高記録密度においても、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない信頼性の高い磁気記録装置となる。
【0037】
また、本発明によれば、基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびPFPE系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層して磁気記録媒体を製造する際に、磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にすることで、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有し、高耐蝕性と高記録密度を同時に実現する信頼性の高い磁気記録媒体や、この磁気記録媒体を使用した磁気記録装置を低コストで作製できるようになる。
【0038】
上記の所定の範囲は、生産の実情に応じて任意に定めることができるが、磁気記録媒体表面の水素濃度が3原子%以下であることが好ましい。また、先に磁気記録媒体について説明したように、炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素であること、PFPE系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものであることが好ましい。
【0039】
【実施例】
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。なお、評価は次の方法によった。
【0040】
(磁気記録媒体表面の水素濃度測定)
プローブとして2keVに加速したHeイオンを使用し、株式会社島津製作所のイオン散乱装置(TALIS9700)により測定した。
【0041】
(浮上試験)
磁気記録媒体サンプルを周速5m/秒で回転させ、アルミナチタンカーバイドにピエゾ素子を組み込んだスライダを用いた浮上試験を行った。なお、浮上試験結果における○は、ピエゾ出力が出荷判定基準内であったことを、×は基準値を超えたことを意味する。
【0042】
(耐蝕性試験:腐食量)
磁気記録媒体サンプルを、フッ酸、塩酸、酢酸および純水が、体積比で1:1:1:50の割合である混合液中に20分浸漬し、引き上げ乾燥した。その後顕微鏡を用いて観察した。光を斜めから当てることにより、腐食により生じた穴部分のみが白く反射する条件で写真を撮り、所定面積についての白い部分の面積の割合を求め、腐食量(腐食面積の割合)とした。
【0043】
[実施例1]
(浮上性への影響)
図1は本実施例で作製した磁気記録媒体の概略断面図である。アルミ合金基板1上にNi−Pめっき2を施し、その上にCr系下地層3および磁性層4をスパッタリング法により順次積層形成した。続いて炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層5としてプラズマCVD装置を用い、炭化水素および水素を原料ガスとして、プラズマ出力1000W、基板バイアス−300V、成膜室内圧力3Paの各条件下で5nmの成膜を行い、水素化アモルファス炭素膜を得た。
【0044】
本発明における炭素と水素とを主成分とした物質である、この水素化アモルファス炭素中の水素含有量としては、LE−ERDAで測定した保護膜層の表面水素濃度を使用した。この測定の結果、水素含有量は35原子%であった。
【0045】
次に、末端基としてピペロニル基を有する、イタリアのアウジモント社製のFomblin AM3001を3M社製のフッ素系溶媒、商品名フロリナートで0.05重量%に希釈した潤滑剤溶液を用い、浸漬時間10秒、引き上げ速度50mm/分の条件で保護膜層表面へ潤滑剤を塗布し、潤滑剤層6を得た。塗布後にXPS(X線光電子分光法,X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定から算出した潤滑剤層の膜厚は2.0nmであった。用いた潤滑剤の数平均分子量は3000であり、一分子当たりに含まれる水素濃度は8.4原子%であった。
【0046】
Fomblin AM3001は、下記式の構造の極性末端基を分子の両側に有しており、その水素濃度は、上記数平均分子量とこの極性末端基中に含まれる水素の数とから計算したものである。
【0047】
【化1】
【0048】
以上の条件で合計5枚の磁気記録媒体を作製し、それぞれをサンプルA〜Eとした。サンプル間における潤滑剤層の膜厚のバラツキは標準偏差で0.1nmであった。
【0049】
個々のサンプルについてLE−ERDAによる表面水素濃度測定を行った後、通常の磁気ヘッドを用いて9nmの浮上試験を行った。表1に各サンプルの表面水素濃度および浮上試験の結果をまとめてある。同じ潤滑剤層の膜厚であっても表面水素濃度が低いサンプルは浮上特性が良好であることがわかる。従来の技術では、このような明確な判断は困難であった。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例2]
(耐蝕性への影響)
実施例1と同様の方法で潤滑剤層の膜厚が、0.7,0.9,1.1,1.3,1.5nmの合計5条件の磁気記録媒体を作製した。
【0052】
個々のサンプルについてLE−ERDAによる表面水素濃度測定を行った後、耐蝕性試験を行った。表2に各サンプルの表面水素濃度および腐食面積の割合をまとめた。表面水素濃度が低いサンプルほど耐蝕性が向上していることが理解できる。
【0053】
【表2】
【0054】
(付記1) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度が3原子%以下である磁気記録媒体。
【0055】
(付記2) 前記炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素である、付記1に記載の磁気記録媒体。
【0056】
(付記3) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記1または2に記載の磁気記録媒体。
【0057】
(付記4) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の評価方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる磁気記録媒体の評価方法。
【0058】
(付記5) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の製造方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にする、磁気記録媒体の製造方法。
【0059】
(付記6) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0060】
(付記7) 磁気記録媒体として付記1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体を使用した磁気記録装置。
【0061】
(付記8) 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体を使用し、
当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を所定の範囲内にする、磁気記録装置の製造方法。
【0062】
(付記9) 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである、付記8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0063】
【発明の効果】
本発明により、簡便で信頼性の高い磁気記録媒体の被覆・配向特性の評価方法、良好な被覆・配向特性を示す潤滑剤層を有する磁気記録媒体、この磁気記録媒体を使用した、記録/読みとり動作の阻害問題が生じ難く、腐食発生による磁気特性の劣化や機械的または化学的損傷の少ない磁気記録装置等を提供することができる。これらの磁気記録媒体や磁気記録装置は、特に磁気記録装置の高記録密度化、大容量化に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例で作製した磁気記録媒体の概略断面図である。
【図2】保護膜層上にある潤滑剤層中のポリマーと保護膜層との付着状態を表すモデル図。
【符号の説明】
1 基板
2 Ni−Pめっき層
3 Cr系下地層
4 磁性層
5 保護膜層
6 潤滑剤層
7 末端基
8 ポリマー主鎖
9,10,11,12
ポリマー分子
Claims (5)
- 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度が3原子%以下である磁気記録媒体。
- 前記炭素と水素とを主成分とした物質が、水素を10〜40原子%含む水素化アモルファス炭素である請求項1に記載の磁気記録媒体。
- 前記パーフルオロポリエーテル系ポリマーが極性末端基を有しており、かつ水素を5原子%以上含有したものである請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
- 基板上に磁性層、炭素と水素とを主成分とした物質よりなる保護膜層およびパーフルオロポリエーテル系ポリマーよりなる潤滑剤層を順次積層した磁気記録媒体の評価方法において、当該磁気記録媒体の表面の水素濃度を当該潤滑剤層の被覆・配向性の指標として用いる磁気記録媒体の評価方法。
- 磁気記録媒体として請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体を使用した磁気記録装置。
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-
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