JP2004216227A - 複合イオン交換膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】イオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適しており、かつ耐熱性にも優れている複合イオン交換膜の提供。
【解決手段】両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する、ポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜の該空隙に、該支持体膜と組成の異なるイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された該支持体膜と組成の異なる該イオン交換樹脂の層との三層構造からなることを特徴とする複合イオン交換膜において、特定構造のイオン交換樹脂を用いる。
【解決手段】両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する、ポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜の該空隙に、該支持体膜と組成の異なるイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された該支持体膜と組成の異なる該イオン交換樹脂の層との三層構造からなることを特徴とする複合イオン交換膜において、特定構造のイオン交換樹脂を用いる。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は機械的強度とイオン伝導性に優れる複合イオン交換膜、特に高分子固体電解質膜に関するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。
中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有し、電気自動車や分散発電等の電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素等の透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては例えば米国デュポン社製ナフィオン(商品名)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の高出力化や高効率化のためには高分子固体電解質膜のイオン伝導抵抗を低減させることが有効であり、その方策のひとつとして膜厚の低減が挙げられる。ナフィオン(商品名)に代表されるような高分子固体電解質膜でも膜厚を低減させる試みが行われている。しかしながら、膜厚を低減させると機械的強度が小さくなり、高分子固体電解質膜と電極をホットプレスで接合させる際などに膜が破損しやすくなったり、膜の寸法の変動により、高分子固体電解質膜に接合した電極がはがれて発電特性が低下したりするなどの問題点を有していた。さらに、膜厚を低減させることで燃料透過抑止性が低下し、起電力の低下や燃料の利用効率の低下を招くなどの問題点を有していた。さらにナフィオン(商品名)は耐熱性が低く、事実上100℃以上の使用に耐えないという欠点を有していた。
【0004】
さらに高分子固体電解質膜は上記に示した燃料電池のイオン交換樹脂膜としての用途だけでなく、アルカリ電解や水からの水素製造のような電解用途、リチウム電池やニッケル水素電池などの種々の電池における電解質用途などの電気化学分野での用途、微小アクチュエータや人工筋肉のような機械的機能材料用途、イオンや分子等の認識・応答機能材料用途、分離・精製機能材料用途など幅広い用途にも適用が可能であり、それぞれの用途においても高分子固体電解質膜の高強度化や薄膜化を達成することでこれまでにない優れた機能を提供することができると考えられる。
【0005】
高分子固体電解質膜の機械的強度を向上させ、寸法変化を抑制する方法として、高分子固体電解質膜に種々の補強材を組み合わせた複合高分子固体電解質膜が提案されている。その例として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の空隙部にイオン交換樹脂であるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含浸し、一体化した複合高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献1参照)。しかしながら、これらの複合高分子固体電解質膜は補強材がポリテトラフルオロエチレンでできているため、発電時の熱により補強材が軟化し、クリープによる寸法変化を生じやすく、また補強材にパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの溶液を含浸して乾燥する際に、補強材の空隙部分の容積がほとんど変化しないために補強材の空隙の内部で析出したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーが偏在しやすく、空隙が該ポリマーで完全に充填されるためにはイオン交換樹脂溶液の含浸と乾燥のプロセスを複数回繰り返すなどの複雑なプロセスが必要であり、また、空隙が残りやすいために燃料透過抑止性に優れた膜が得られにくいといった問題点を有していた。また、その他の例として、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの膜内に補強材としてフィブリル化されたポリテトラフルオロエチレンが分散された複合高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献2参照)。しかしながら、このような複合高分子固体電解質膜は、補強材が不連続な構造のため十分な機械的強度が得られず、膜の変形が抑制できないために電極のはがれが生じるなどの問題点を有していた。
【0006】
ポリベンゾオキサゾール(PBO)やポリベンズイミダゾール(PBI)のようなポリベンザゾール系ポリマーは高耐熱性、高強度、高弾性率の点で優れることから、高分子固体電解質膜の補強材料に適していることが期待される。PBO多孔質膜と種々のイオン交換樹脂を複合化した高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献3参照)。しかしながら、これに記載されているような製膜したPBO溶液を直接水浴で凝固する方法で得られるPBO多孔質膜の空隙率はせいぜい90容積%以下である。この複合膜では空隙率が低いため、多孔質膜の空隙へのイオン交換樹脂の浸透が不充分になり、複合膜中の空隙をイオン交換樹脂で充填するために熱処理が必要となる。そのため、熱処理の際にイオン交換樹脂のスルホン酸基が熱によって分解を起こしイオン伝導性が低下するという問題を有している。また、空隙率が低いことで、複合膜中のイオン交換樹脂の含有率が低くなり、膜としてのイオン伝導性が大幅に低下するといった問題点を有していた。さらに、この複合イオン交換膜は表面のイオン交換樹脂層の形成やその厚みを特に規定していないが、複合イオン交換膜における表面層の存在やその厚み、複合イオン交換膜の表面に電極を形成する場合などにバインダーとなるイオン交換樹脂と高分子固体電解質膜を形成するイオン交換樹脂との密着性などに影響し、これらを最適に制御することが重要である。
【0007】
また、PBI多孔質膜の空隙に酸をトラップした燃料電池用ポリマーフィルムの製造方法がある(特許文献4参照)。しかしながら、これに記載されているような方法で得られる遊離の酸をトラップしたフィルムは、100℃以下といった低温領域でのイオン伝導性が先述のナフィオンのようなイオン交換膜に比べて低いほか、酸が漏出しやすいなどの問題点を有していた。さらに、光学異方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液を製膜してから吸湿による等方化の過程を経て凝固しポリベンザゾールフィルムを得る方法がある(例えば特許文献5参照)が、これに記載されているような方法で得られるポリベンザゾールフィルムは透明な緻密性の高いフィルムであり、イオン交換樹脂を含浸してイオン交換膜とする目的には適していなかった。
【0008】
本発明者らは、連続した空隙を有するポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜にイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で該複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有する複合イオン交換膜であって、該表面層のそれぞれの厚みが、1μm以上50μm以下でありかつ該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることを特徴とする複合イオン交換膜、及び支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることを特徴とする該複合イオン交換膜が、機械的強度とイオン伝導性に優れるイオン交換膜であることを見出していた。しかしながら該発明において、イオン交換樹脂としてナフィオン(商品名)をはじめとするパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを用いると、高温でのスルホン酸基の脱離や、膜の変形などが起こり耐熱性に問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−162132号公報
【特許文献2】
特開2001−35508号公報
【特許文献3】
国際公開第00/22684号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第98/14505号パンフレット
【特許文献5】
特開2000−273214号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、イオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適しており、かつ耐熱性にも優れている複合イオン交換膜を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討した結果、本発明者らがすでに発明していた複合イオン交換膜において、特定構造のイオン交換樹脂を用いると、優れたイオン伝導性を示すのみならず、耐熱性が非常に優れることを見い出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち本発明は
(1) 両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する、ポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜の該空隙に、該支持体膜と組成の異なるイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された該支持体膜と組成の異なる該イオン交換樹脂の層との三層構造からなることを特徴とする複合イオン交換膜において、該イオン交換樹脂が、下記一般式(1)〜(3);
【化2】
[上記一般式(1)〜(3)において、X1及びX2は、−CH2−,−S(=O)2−,−O−,−S−,−C(=O),−C(−CH3)2−,−C(−CF3)2−,単結合のいずれかを、Y1〜Y6は、−NH−,−O−,−S−のいずれかを、Z1〜Z3は、スルホン酸基又はその塩、ホスホン酸基又はその塩のいずれかを、Ar1〜Ar6は1個以上の芳香環を含む二価の基をそれぞれ表す。p,q,rはぞれぞれ1〜4の整数を、n1〜n3は1〜1000の整数を、m1〜m3は0〜1000の整数をそれぞれ表す。]
からなる群より選ばれる一種以上のポリマーであることを特徴とする複合イオン交換膜、
(2) 両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有する複合イオン交換膜のそれぞれの厚みが、1μm以上50μm以下でありかつ該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることを特徴とする請求項1に記載の複合イオン交換膜、
(3) 支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合イオン交換膜、
(4) 該支持体膜が、0.3重量%以上3重量%以下のポリベンザゾール系ポリマーを含む等方性溶液を膜状に成型した後に凝固して製造した膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合イオン交換膜、
である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の支持体膜として使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリマー鎖中にオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を含む構造のポリマーをいい、下記一般式で表される繰り返し単位をポリマー鎖中に含むものをいう。
【0014】
【化3】
【0015】
ここで、Ar7,Ar8,Ar9は、芳香族単位を示し、各種脂肪族基、芳香族基、ハロゲン基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等の置換基を有していても良い。これら芳香族単位は、ベンゼン環などの単環系単位、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合環系単位、それらの芳香族単位が2個以上任意の結合を介してつながった多環系芳香族単位でも良い。また、芳香族単位におけるNおよびYの位置はベンザゾール環を形成できる配置であれば特に限定されるものではない。さらに、これらは炭化水素系芳香族単位だけでなく、芳香環内にN,O,S等を含んだヘテロ環系芳香族単位でも良い。YはO,S,NHを示す。
上記Ar7は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0016】
【化4】
【0017】
ここで、W1、W2はCHまたはNを示し、X3は直接結合、−O−,−S−,−SO2−,−C(CH3)2−,−C(CF3)2−,−CO−を示す。
Ar8は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0018】
【化5】
【0019】
ここで、X4は−O−,−S−,−SO2−,−C(CH3)2−,−C(CH3)2−,−CO−を示す。
Ar3は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0020】
【化6】
【0021】
これらポリベンザゾール系ポリマーは、上述の繰り返し単位を有するホモポリマーであっても良いが、上記構造単位を組み合わせたランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良く、例えば米国特許第4703103号、米国特許第4533692号、米国特許第4533724号、米国特許第4533693号、米国特許第4539567号、米国特許第4578432号等に記載されたものなども例示される。
【0022】
これらポリベンザゾール系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
【化11】
【0028】
【化12】
【0029】
【化13】
【0030】
さらに、これらポリベンザゾール系構成単位だけでなく、他のポリマー構成単位とのランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良い。この時、他のポリマー構成単位としては耐熱性に優れた芳香族系ポリマー構成単位から選ばれることが好ましい。具体的には、ポリイミド系構成単位、ポリアミド系構成単位、ポリアミドイミド系構成単位、ポリオキシジアゾール系構成単位、ポリアゾメチン系構成単位、ポリベンザゾールイミド系構成単位、ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位などを挙げることができる。
【0031】
ポリイミド系構成単位の例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0032】
【化14】
【0033】
ここで、Ar10は4価の芳香族単位で表されるが、下記構造で表されるものが好ましい。
【0034】
【化15】
【0035】
また、Ar11は二価の芳香族単位であり、下記構造で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0036】
【化16】
【0037】
これらポリイミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0038】
【化17】
【0039】
【化18】
【0040】
ポリアミド系構成単位の例としては、下記構造式で表されるのもが挙げられる。
【0041】
【化19】
【0042】
ここで、Ar12,Ar13,Ar14はそれぞれ独立に下記構造から選ばれるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0043】
【化20】
【0044】
これらポリアミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0045】
【化21】
【0046】
ポリアミドイミド系構成単位の例としては、下記構造で表されるものが挙げられる。
【0047】
【化22】
【0048】
ここで、Ar15は上記Ar11の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0049】
これらポリアミドイミド構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0050】
【化23】
【0051】
ポリオキシジアゾール系構成単位の例としては、下記構造式で表されるものが挙げられる。
【0052】
【化24】
【0053】
ここで、Ar16は上記Ar11の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0054】
これらポリオキシジアゾール系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0055】
【化25】
【0056】
ポリアゾメチン系構成単位の例としては、下記構造で表されるものが挙げられる。
【0057】
【化26】
【0058】
ここで、Ar17,Ar18は、上記Ar12の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0059】
これらポリアゾメチン系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0060】
【化27】
【0061】
ポリベンザゾールイミド系構成単位の例としては、下記構造式で表されるものが挙げられる。
【0062】
【化28】
【0063】
ここで、Ar19、Ar20は上記Ar10の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0064】
これらポリベンザゾールイミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0065】
【化29】
【0066】
ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位は、一般に芳香族ユニットをエーテル結合とともにケトン結合やスルホン結合で連結した構造を有するものであり、下記構造式から選択される構造成分を含む。
【0067】
【化30】
【0068】
ここで、Ar21〜Ar29はそれぞれ独立に下記構造で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0069】
【化31】
【0070】
これらポリエーテルケトン系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0071】
【化32】
【0072】
これらポリベンザゾール系ポリマー構成単位と共に共重合できる芳香族ポリマー構成単位は、厳密にポリマー鎖内の繰り返し単位を指しているのではなく、ポリマー主鎖中にポリベンザゾール系構成単位と共に存在できる構成単位を示しているものである。これら共重合できる芳香族ポリマー構成単位は一種だけでなく二種以上を組み合わせて共重合することもできる。このような共重合体を合成するには、ポリベンザゾール系ポリマー構成単位からなるユニット末端にアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基等を導入して、これらの芳香族系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良いし、これらの芳香族系ポリマー構成単位を含むユニット末端にカルボキシル基を導入してポリベンザゾール系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良い。
【0073】
前記ポリベンザゾール系ポリマーは、ポリ燐酸溶媒中で縮合重合されポリマーが得られる。ポリマーの重合度は極限粘度で表され、15dL/g以上が好ましく、より好ましくは20dL/g以上である。この範囲を下回った場合、得られる支持体膜の強度が低く好ましくない。また極限粘度は、35dL/g以下が好ましく、26dL/g以下がより好ましい。この範囲を上回った場合、等方性の溶液が得られるポリベンザゾール系ポリマー溶液の濃度範囲が限られ、等方性の条件での製膜が困難となるため好ましくない。
【0074】
ポリベンザゾール系ポリマー溶液の製膜方法としては、ドクターブレード等を用いてポリマー溶液を基体上にキャスティングする流延法と呼ばれる製膜方法のほかにも、直線状スリットダイから押し出す方法や円周状スリットダイからブロー押し出しする方法、二枚の基体に挟んだポリマー溶液をローラーでプレスするサンドイッチ法、スピンコート法など、溶液を膜状に成型するあらゆる方法が使用できる。本発明の目的に適した好ましい製膜方法は流延法、サンドイッチ法である。流延法の基板やサンドイッチ法の基体にはガラス板や金属板、樹脂フィルム等の他、凝固時の支持体膜の空隙構造を制御する等の目的で種々の多孔質材料を基板、基体として好ましく用いることができる。
【0075】
本発明で用いるポリベンザゾール系ポリマー溶液は、均一でかつ空隙率の大きな支持体膜を得るために等方性条件の組成で製膜することが重要であり、ポリベンザゾール系ポリマー溶液の好ましい濃度範囲は、0.3%以上であり、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上である。この範囲よりも濃度が低いとポリマー溶液の粘度が小さくなり、適用できる製膜方法が限られるほか、得られる支持体膜の強度が小さくなるため好ましくない。またさらに、濃度範囲は、3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。この範囲よりも濃度が高いと空隙率の大きな支持体膜が得られないばかりか、ポリベンザゾール系ポリマーのポリマー組成や重合度によっては溶液が異方性を示すため好ましくない。
【0076】
ポリベンザゾール系ポリマー溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには次に示すような方法をとる事ができる。すなわち、重合されたポリベンザゾール系ポリマー溶液から一旦ポリマー固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行なう方法。さらには、ポリ燐酸中で縮合重合されたままのポリマー溶液からポリマー固体を分離することなく、そのポリマー溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行なう方法。さらにはポリマーの重合組成を調整することで上記濃度範囲のポリマー溶液を直接得る方法などである。
【0077】
ポリマー溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などがあげられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。中でも特にメタンスルホン酸、ポリリン酸が好ましい。
【0078】
支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、製膜された等方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法を用いる。貧溶媒はポリマー溶液の溶媒と混和できる溶媒であって、液相状態であっても気相状態であっても良い。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組み合わせることも好ましく用いることができる。凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液や無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒等を利用することができるが、使用するポリベンザゾール系ポリマー溶液との組み合わせによっては、支持体膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。本発明における等方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒と凝固条件を選択することにより支持体膜表面および内部の構造、空隙率を制御するに至った。特に好ましい凝固の手段は水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、メタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0079】
ポリマーの凝固が進むと、支持体膜は収縮しようとする。凝固が進行する間は支持体膜の不均一な収縮によるシワの発生などを抑制する目的でテンターや固定枠を用いる場合もある。また、ガラス板などの基板上に成型したポリマー溶液を凝固する場合には、基板面の粗さを制御することで基板上での収縮を制御する場合もある。
【0080】
上記のようにして凝固された支持体膜は、残留する溶媒によるポリマーの分解の促進や、複合電解質膜を使用する際に残留溶媒が流出するなどの問題を避ける目的で、十分に洗浄することが望ましい。洗浄は支持体膜を洗浄液に浸漬することで行なうことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、支持体膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行なうことが好ましく、さらに好ましくはpHが6.5〜7.5の範囲である。
【0081】
上記に述べた特定の濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマー等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより本発明の目的に適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーよりなる支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に開口部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。支持体膜はポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有することを、実施例に示したような原子間力顕微鏡を用いる水中での支持体膜表面の観察、および、エポキシ包埋−脱エポキシにより水中の構造を保持した支持体膜の透過型電子顕微鏡観察による断面観察から確認した。特開2002−203576には膜の厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体にイオン伝導性物質が導入された電解質膜が記載されているが、これに記載されているような連通孔の方向性が主に膜の厚さ方向に限定されている支持体を燃料電池の電解質膜に用いた場合、膜の面方向のイオン伝導性物質の連続性が小さいために燃料電池のイオン交換膜に用いた場合に燃料ガスの濃度分布や電極触媒の付着量など面方向に不均一な状態が生じるとイオン交換膜の局所的な劣化が生じやすいなどの問題があるため好ましくない。
【0082】
本発明の支持体膜の空隙率は90体積%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95体積%以上である。空隙率がこの範囲よりも小さいと、イオン交換樹脂を複合化させた場合のイオン交換樹脂の含有率が小さく、イオン伝導性が低下するため好ましくない。
【0083】
本発明の支持体膜は、少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上である。少なくとも一方の面の開孔率がこの範囲よりも小さいと、支持体膜とイオン交換樹脂を複合化させる際に支持体膜の空隙内部にイオン交換樹脂が含浸されにくくなるため好ましくない。
【0084】
上述のような方法で得られたポリベンザゾール系ポリマーよりなる多孔質の該支持体膜にイオン交換樹脂を複合化させ、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。即ち、該支持体膜を乾燥させずに、イオン交換樹脂溶液に浸漬し、該支持体膜内部の液をイオン交換樹脂溶液に置換してから乾燥させる方法により複合イオン交換膜を得る方法である。支持体膜内部の液がイオン交換樹脂溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成にあわせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法も採られる。
【0085】
本発明の支持体膜は乾燥により空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって空隙構造が収縮し、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。該支持体膜の内部にイオン交換樹脂を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、該支持体膜の乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5%から10%の範囲である。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0086】
該支持体膜のこのような特徴により、該支持体膜の空隙内部の液をイオン交換樹脂溶液に置換してから乾燥させた場合、空隙内部に含浸された該イオン交換樹脂溶液の溶媒が蒸発して、該イオン交換樹脂溶液の体積が減少するにつれて該支持体膜も収縮するので、該支持体膜内部の空隙が析出したイオン交換樹脂によって満たされた緻密な複合膜構造を容易に得ることができる。この複合膜構造により、本発明の複合イオン交換膜は優れた燃料透過抑止性を示す。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜では空隙内部に含浸されたイオン交換樹脂溶液の溶媒が蒸発して該イオン交換樹脂溶液の体積が減少しても、それに伴う支持体膜の収縮が少ないため、乾燥後の複合膜内部にはイオン交換樹脂で満たされていない空隙が多数できるばかりでなく、支持体膜の両面に支持体を含まないイオン交換樹脂の表面層が形成されないため好ましくない。
【0087】
該複合イオン交換膜はまた、該支持体膜が大幅に収縮するため、該イオン交換樹脂溶液の濃度や粘度、溶媒の揮発性などの物性と、該支持体膜の膜厚や空隙率等の組み合わせを調整することで、該イオン交換樹脂が該支持体膜の内部空隙を満たした複合層を形成するのと並行して該支持体膜の両面に付着していた過剰なイオン交換樹脂溶液や、該支持体膜の収縮に伴って該支持体膜内部から排出されたイオン交換樹脂溶液が該支持体膜の表面外部で乾燥して該支持体を含まないイオン交換樹脂層を形成することにより、結果として該複合層を挟む形で該複合層の両面に支持体膜を含まないイオン交換樹脂の表面層を形成した構造を容易に実現することができる。
【0088】
本発明の支持体膜以外の膜、例えばポリテトラフルオロエチレンポリマーからなる多孔質支持体膜は上記で述べたように、大幅な収縮が起こらないため、イオン交換樹脂溶液を含浸して乾燥する際に支持体膜内部にイオン交換樹脂が析出しても空隙が残ったままの状態となり、また、支持体膜複合層を挟む形のイオン交換樹脂層も形成されない。この状態を解消するためにはイオン交換樹脂溶液の含浸、乾燥を複数回繰り返す必要があり、工程が複雑になるため好ましくない。
【0089】
本発明の複合イオン交換膜に使用されるイオン交換樹脂は上記一般式(1)〜(3)からなる群より選ばれる一種以上のポリマーである。一般式(2)又は(3)で表される構造ではより多数のイオン性基を導入することが可能であるためイオン伝導性の面では好ましい。上記一般式(1)において、X1及びX2は、ポリマーの溶解性の点から、−S(=O)2−,−O−,−S−,−C(=O),−C(−CH3)2−,−C(−CF3)2−が好ましい。Y1〜Y6は、イオン伝導性の面からは−O−,−S−が好ましく、耐久性の面からは−NH−が好ましい。Z1〜Z3は、スルホン酸基であると、100℃以下で高湿度下でのイオン伝導性に優れ、ホスホン酸基であると100℃以上低湿度下でのイオン伝導性に優れる。Ar1〜Ar6の好ましい例を以下に示す。
【0090】
【化33】
これらの中でも、化学式33−1、33−3、33−8、33−9、33−10、33−12、33−13で表される構造が好ましい。
【0091】
n1〜n3はそれぞれ30以上であることが好ましい。nとmの合計はぞれぞれ30〜1000の範囲であることが好ましい。また、nとmの合計に対するnの割合は、50〜100%であることが好ましい。nの割合が大きくなるほどイオン伝導性が大きくなるが、同時に水による膨潤性も大きくなる。本発明の複合イオン交換膜は、nの割合が大きくても、支持体膜によって膨潤が抑制され良好なイオン伝導性を示す。
【0092】
Ar1,Ar3,Ar5におけるZの置換位置は特に限定されないが、ベンザゾール基に対してオルト位にあるよりも、メタ位、パラ位に置換する方がイオン伝導性が高くなり好ましい。また、Zで表されるイオン性基の置換数は特に限定されないが、同一の芳香環に2個以上のイオン性基が導入されるとより耐熱性が高くなるため好ましい。
【0093】
本発明の複合イオン交換膜に使用することのできるイオン交換樹脂の例を以下に示すが、これらに限定されるわけではない。
【0094】
【化34】
【0095】
【化35】
【0096】
【化36】
【0097】
【化37】
【0098】
【化38】
【0099】
上記のイオン交換樹脂は公知の任意の方法を用いて重合することができる。例えば、4,6−ジアミノレゾルシノール、3,3’−ジヒドロキシベンジジンなどのビス(o−アミノフェノール)化合物、2,5−ジメルカプトハイドロキノン、3,3’−ジメルカプトベンジジンなどのビス(o−アミノチオフェノール)化合物、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホンなどのオルト位に隣接する2個のアミノ基を有するテトラアミノ化合物と、2−スルホテレフタル酸、5−ホスホイソフタル酸などのイオン性基を含むジカルボン酸とを、場合によってテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのイオン性基を含まないジカルボン酸と共に、重縮合することで得ることができる。これらのモノマーは、例えばポリリン酸中100〜200℃で1〜20時間反応させることで重合することができる。モノマーは、アミノ基が塩酸塩やリン酸塩であったり、スルホン酸基やホスホン酸基がナトリウムやカリウム塩であるものを用いてもよい。イオン交換樹脂は重合溶液をから、例えば水で再沈させることで回収できる。イオン交換樹脂の分子量は特に限定されないが、膜の強度や溶液のハンドリング性の面からは、30℃、0.05dL/gのメタンスルホン酸溶液の対数粘度が0.2〜30.0dL/gであることが好ましい。イオン交換樹脂中のイオン性量は、上記のイオン性基含有ジカルボン酸の割合を変えることによって制御できる。イオン交換樹脂中のイオン交換当量(IEC)としては1.0〜4.0meq/gであることが好ましく、1.5〜3.5meq/gであるとより好ましい。IECが小さすぎると、イオン伝導性が低下し、大きすぎる水溶性が大きくなってしまう。
【0100】
上記のイオン交換樹脂の溶媒はポリベンザゾール系ポリマー支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつイオン交換樹脂を溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。ただし、イオン交換樹脂溶液を支持体膜に含浸させた後に溶媒を除去してイオン交換樹脂を析出させる為、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどの極性溶媒、クレゾールなどのフェノール類、水、及びこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0101】
上記のイオン交換樹脂のスルホン酸基やホスホン酸基は、塩基性物質との塩にしておくと、溶媒に対する溶解性が向上する場合がある。塩基性物質としては、例えばNa,K,Li,Mg,Caなどの金属イオンや、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、水酸化アンモニウムなどのアミン系化合物などを挙げることができる。塩に変換したイオン交換樹脂を用いる場合には、支持体膜と複合化した後で、酸処理によって酸に戻すことができる。酸処理には、0.1〜10mol/Lの塩酸、硫酸、リン酸など強酸の水溶液を用いることができる。
【0102】
本発明のイオン交換樹脂溶液の濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜40重量%である。
【0103】
上記のようにして得られる複合イオン交換膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は50重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは80重量%以上である。この範囲より小さい含有率の場合、膜の導電抵抗が大きくなったり、膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない。
【0104】
また、本発明の複合イオン交換膜は、上記で記述したように複合層を挟む形で複合層の両面に支持体を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有することを特徴とする。複合イオン交換膜が該複合層と該表面層を有することにより、該複合イオン交換膜は高い機械的強度を有し、かつ、表面に電極層を形成させた場合の電極層との密着性に優れるという特長を有する。該表面層の厚みはそれぞれ1μm以上50μm以下であり、かつ、それぞれが該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることが好ましい。該表面層の厚みが上記範囲よりも小さいと電極層との密着性が悪くなり、イオン伝導性が低下するなどするため好ましくない。また該表面層の厚みが上記範囲よりも大きいと、複合層による補強の効果が複合イオン交換膜の最外表面まで及ばず、複合イオン交換膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離するなどするため好ましくない。該表面層の厚みのさらに好ましい範囲は2μm以上30μm以下である。
【0105】
複合イオン交換膜は機械的強度やイオン伝導性、表面に形成されるイオン交換樹脂層の耐剥離性などの特性をさらに向上させる目的で、複合イオン交換膜を適当な条件で熱処理する方法も好ましく用いることができる。また、表面に形成されるイオン交換樹脂の表面層の厚みを調整するために、該複合イオン交換膜をさらにイオン交換樹脂溶液に浸漬したり、該複合イオン交換膜にイオン交換樹脂溶液を塗布したりしてから乾燥することによりイオン交換樹脂層の付着量を増加させたり、あるいは、イオン交換樹脂溶液に浸漬した後に支持体膜の表面に付着したイオン交換樹脂溶液の一部をスクレーパー、エアナイフ、ローラーなどで掻き落としたり、ろ紙やスポンジのような溶液吸収性のある材料で吸収したりすることにより、イオン交換樹脂層の付着量を減少させたりする方法も用いることができる。あるいは、熱プレスをかけることによりイオン交換樹脂層の密着性をさらに向上させるなどの方法を併せて用いることもできる。
【0106】
本発明の複合イオン交換膜は高いイオン伝導性を有しながら、機械的強度及び耐熱性に優れる。また、その特性を生かして、複合イオン交換膜特に固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0107】
実施例
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
評価法・測定法
<透過型電子顕微鏡による構造観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)による膜の断面構造の観察は以下の方法で行った。
まず、観察用試料切片を次のようにして作製した。すなわち、水洗後の支持体膜試料内部の水をエタノールに置換、さらにエポキシモノマーに十分置換した。試料はそのままエポキシモノマー中で45℃、6時間保持した後、さらに60℃、20時間熱処理することでエポキシを硬化させた(エポキシ包埋)。このようにしてエポキシ包埋された試料はダイヤモンドナイフを備えたミクロトームを用いて、干渉色が銀から金色を示す程度の厚みの超薄切片に調製し、KOH飽和エタノール溶液で15分処理することでエポキシを除去した(脱エポキシ)。さらにエタノール、続いて水で洗浄し、RuO4で染色した試料にカーボン蒸着し、JEOL製TEM(JEM−2010)を用いて加速電圧200kVで観察した。
【0108】
<原子間力顕微鏡による構造観察>
原子間力顕微鏡(AFM)による構造観察は以下の方法で行った。すなわち、Seiko Instruments社製のAFM(SPA300[観察モード:DFMモード、カンチレバー:SI−DF3、スキャナー:FS−100A])を使用し、水中の試料ステージに保持した未乾燥の支持体膜の表面構造を観察した。
【0109】
<走査型電子顕微鏡による構造観察>
走査型電子顕微鏡(SEM)による構造観察は以下の方法で行った。まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、日立製臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO2臨界点乾燥を施した。このようにして臨界点乾燥した支持体膜に厚さ150オングストロームの白金コートを施し、日立製SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で観察を行った。
【0110】
<極限粘度>
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/Lの濃度に調整したポリマー溶液の対数粘度をウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、算出した。
【0111】
<支持体膜厚み>
未乾燥の支持体膜の厚みは次に示す方法により測定した。測定荷重を変更可能なマイクロメータを用い、各荷重における水中での支持体膜の厚みを測定した。測定した厚みを荷重に対してプロットし、直線部分を荷重0に外挿したときの切片の値を厚みとし、一つの試料について5ヶ所で測定した厚みの平均値を支持体膜の厚みとした。
【0112】
<支持体膜の表面開孔率>
支持体膜の表面開孔率は次の方法により測定した。すなわち、上述した方法で撮影した支持体膜の表面の撮影倍率1万倍の走査型電子顕微鏡写真上で5μm角に相当する視野を選び、膜の最外表面に相当するポリマー部分を白、それ以外の部分を黒に色分けした後、イメージスキャナーを用いて画像をコンピューターに取り込み、米国Scion社製の画像解析ソフトScion Imageを用いて画像中の黒部分が占める比率を測定した。この操作を一つのサンプルに対して3回行い、その平均を表面開孔率とした。
【0113】
<支持体膜の空隙率>
支持体膜の空隙率は次の方法により測定した。含水状態の支持体膜の重量と絶乾状態の支持体膜の重量の差から求められた水の重量を水の密度で除して膜内の空隙を満たす水の体積Vw[mL]が得られる。Vwと含水状態の膜の体積Vm[mL]から以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
支持体膜の空隙率[%]=Vw/Vm×100
【0114】
<複合イオン交換膜の厚さおよび、それを構成する層の厚さ>
該複合イオン交換膜を構成する複合層および該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層の厚さは、幅300μm×長さ5mmに切り出した複合膜片を、ルベアック812(ナカライテスク製)/ルベアックNMA(ナカライテスク製)/DMP30(TAAB製)=100/89/4の組成とした樹脂で包埋し、60℃で12時間硬化させて試料ブロックを作製した。ウルトラミクロトーム(LKB製2088ULTROTOME 5)を用いて平滑な断面が露出するようブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電工製SK2045)で切削した。このようにして露出させた複合膜の断面を光学顕微鏡で写真撮影し、既知の長さのスケールを同倍率で撮影したものと比較することで測定した。支持体の空隙率が大きい場合等で、少なくとも一方の面の表面層とその内側の複合層とが明確な界面を形成せずに界面付近の構造が連続的に変化している場合があるが、その場合は光学顕微鏡で連続的な構造の変化が確認できる部分のうち、複合イオン交換膜の外表面に最も近い部分を複合層の最外表面として、そこから複合イオン交換膜の外表面までの距離を該表面層の厚みとした。
【0115】
<複合イオン交換膜のイオン交換樹脂(ICP)含有率>
複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。110℃で6時間真空乾燥させた複合イオン交換膜の目付けDc[g/m2]を測定し、複合イオン交換膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜をイオン交換樹脂を複合化させずに乾燥させて測定した乾燥支持体膜の目付けDs[g/m2]とから、以下の計算によりイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[重量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
また、複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法によって測定することもできる。すなわち、複合イオン交換膜を複合イオン交換膜中の支持体膜成分あるいは、イオン交換樹脂成分のいずれかのみを溶解可能な溶剤に浸漬して一方の成分を抽出、除去した後、元の複合イオン交換膜との重量変化を測定することでイオン交換樹脂の含有率を求めることができる。
【0116】
<加熱時のクリープ性評価>
熱機械分析装置(ブルーカー・エイエスエックス社製)を用いてアルゴン雰囲気下、0.5gfの一定応力を加えつつ10℃/minの速度で室温から200℃まで昇温し、サンプルの長さの変化を測定した。サンプル幅及び初期チャック長はそれぞれ、2,10mmとした。初期長に対する200℃での長さの変化率を熱クリープ性とした。
【0117】
<イオン伝導率>
イオン伝導率σは次のようにして測定した。自作測定用プローブ(ポリテトラフルオロエチレン製)上で幅10mmの短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽中に試料を保持し、白金線間の10kHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を10mmから40mmまで10mm間隔で変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした直線の勾配Dr[Ω/cm]から下記の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルして算出した。
σ[S/cm]=1/(膜幅×膜厚[cm]×Dr)
【0118】
<耐熱性評価>
島津製作所製熱重量分析機TGA−50を用いて、約2mgのサンプルポリマーを、アルゴン雰囲気下で100℃で10分間予備乾燥の後、10℃/分の速度で昇温して測定した。重量変化曲線の変曲点の温度を熱減量開始温度とした。
【0119】
<膨潤性>
サンプル膜を25℃の水に1日浸漬し、浸漬前後の厚みを測定した。厚みの変化率を膨潤性とした。
【0120】
<イオン交換樹脂溶液の調製>
各種のイオン交換樹脂を、それぞれに適切な溶媒に溶解した。一覧を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
<支持体膜の調整>
ポリ燐酸中にIV=24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度0.9重量%の等方性溶液を調製した。この溶液を、70℃に加熱したガラス板上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜Aを作製した。濃度1.4重量%のポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール溶液から同様にして支持体膜Bを作製した。また、ポリ燐酸中に極限粘度18dL/gのポリ{2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(以下PIPDと略)ポリマーを19重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈して調製した、PIPDポリマー濃度1.4重量%の等方性溶液からも上記と同様にして支持体膜Cを作製した。作製した支持体膜は両面に開口部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜であることを原子間力顕微鏡による表面形態観察および、透過型電子顕微鏡による断面形態観察により確認した。この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定して、イオン交換樹脂との複合化に用いた。
【0123】
(実施例1)
支持体膜Aをジメチルスルホキシドに浸漬して、内部に含まれている水をイオン交換樹脂溶液の溶媒に置換した後、60℃に保持したイオン交換樹脂溶液A中に浸漬して1日間放置してから、イオン交換樹脂溶液を含む支持体膜を取りだした。取り出した支持体膜は窒素雰囲気下でしばらく放置して余分な溶液を取り除いた後、70℃で3日間減圧乾燥し、実施例1の複合イオン交換膜Aを得た。
【0124】
(実施例2〜10)
イオン交換樹脂溶液Aの代わりにイオン交換樹脂溶液B〜Jを用いた他は実施例1と同様にして、実施例2〜10の複合イオン交換膜を得た。なお実施例5,6,9,10では、支持体膜の溶媒置換にジメチルスルホキシドではなくN,N−ジメチルアセトアミドを用い、イオン交換樹脂溶液への浸漬は25℃で行なった。
【0125】
(実施例11)
イオン交換樹脂溶液Aの代わりにイオン交換樹脂溶液Kを、ジメチルスルホキシドの代わりにイオン交換樹脂のスルホン酸基と等モルのトリエチルアミンを含むジメチルアセトアミドを用い、イオン交換樹脂溶液への浸漬を25℃で行なった他は実施例1と同様にして複合膜を得た。得られた複合膜を1M硫酸に室温で10時間浸漬した後、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した後、50℃で減圧乾燥して実施例10の複合イオン交換膜を得た。
【0126】
(実施例12〜13)
支持体膜Aの代わりに支持体膜B〜Cを用いた他は、実施例1と同様にして実施例12〜13の複合イオン交換膜を調製した。
【0127】
(比較例1)
あらかじめ、水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒に浸漬して内部の水を置換しておいた支持体膜Aを、20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより比較例1の複合イオン交換膜を調製した。
【0128】
(比較例2〜11)
イオン交換樹脂溶液A〜Jを、支持体膜と複合させずに、単独でガラス板上に流延した後、70℃で3日間減圧乾燥してイオン交換樹脂単独からなる比較例2〜11の膜を得た。
【0129】
(比較例12)
イオン交換樹脂溶液Aに用いたイオン交換樹脂に、支持体膜Aの作製に用いたポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールドープとメタンスルホン酸を加えて混合溶液を作製した。イオン交換樹脂とポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールの重量比は5/1になるようにした。この混合溶液をガラス板に流延し、水に浸漬して凝固させ、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄して、比較例12のブレンドイオン交換膜を得た。
【0130】
(比較例13)
比較例13として、市販されているデュポン社製ナフィオン112(商品名)膜を用いた。この膜はパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーからなるプロトン交換膜であり、固体高分子形燃料電池用のプロトン交換膜として広く用いられているものである。
【0131】
実施例及び比較例で得られた膜の評価結果を表2に示す。
【0132】
【表2】
【0133】
実施例の複合イオン交換膜は比較例13の市販のナフィオン112(商品名)膜と対比して、熱減量開始温度が高くて熱クリープ性が小さく、耐熱性に優れたイオン交換膜であることがわかる。また、実施例1〜5,12,13の複合イオン交換膜は、比較例1のナフィオン(商品名)複合膜に比べて同等以上のイオン伝導性を示しており、特に優れた膜であることが分かる。また、実施例6,10,11の膜は最も高い熱減量開始温度を示し、特に優れた耐熱性を有していることが分かる。実施例7〜9の複合イオン交換膜は、イオン伝導性はやや低いが、膨潤しにくいという特性を備えた膜であるということが分かる。また、実施例1〜10の複合イオン交換膜は、同じイオン交換樹脂を用いた比較例2〜11のイオン交換膜に比べて膨潤性が著しく抑制されている。また、補強ポリマーを単にブレンドしただけの比較例12では膨潤があまり抑制されていない。これらのことから、実施例の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂の特徴である優れた耐熱性やイオン伝導性を損なうことなく、イオン交換樹脂の欠点であった膨潤性が支持体膜によって効果的に抑制されていることが示されており、本発明の複合イオン交換膜は優れた特性を備えていることがわかる。
【0134】
【発明の効果】
イオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適しており、かつ耐熱性にも優れている複合イオン交換膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】複合イオン交換膜の断面構造の模式図である。
【図2】イオン交換樹脂複合化前の支持体膜を臨界点乾燥して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した像の模式図である。
【符号の説明】1 表面層A、 2 複合層、 3 表面層B、 4 支持体膜のフィブリル、 5 空隙
【発明の属する技術分野】
本発明は機械的強度とイオン伝導性に優れる複合イオン交換膜、特に高分子固体電解質膜に関するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。
中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有し、電気自動車や分散発電等の電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素等の透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては例えば米国デュポン社製ナフィオン(商品名)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の高出力化や高効率化のためには高分子固体電解質膜のイオン伝導抵抗を低減させることが有効であり、その方策のひとつとして膜厚の低減が挙げられる。ナフィオン(商品名)に代表されるような高分子固体電解質膜でも膜厚を低減させる試みが行われている。しかしながら、膜厚を低減させると機械的強度が小さくなり、高分子固体電解質膜と電極をホットプレスで接合させる際などに膜が破損しやすくなったり、膜の寸法の変動により、高分子固体電解質膜に接合した電極がはがれて発電特性が低下したりするなどの問題点を有していた。さらに、膜厚を低減させることで燃料透過抑止性が低下し、起電力の低下や燃料の利用効率の低下を招くなどの問題点を有していた。さらにナフィオン(商品名)は耐熱性が低く、事実上100℃以上の使用に耐えないという欠点を有していた。
【0004】
さらに高分子固体電解質膜は上記に示した燃料電池のイオン交換樹脂膜としての用途だけでなく、アルカリ電解や水からの水素製造のような電解用途、リチウム電池やニッケル水素電池などの種々の電池における電解質用途などの電気化学分野での用途、微小アクチュエータや人工筋肉のような機械的機能材料用途、イオンや分子等の認識・応答機能材料用途、分離・精製機能材料用途など幅広い用途にも適用が可能であり、それぞれの用途においても高分子固体電解質膜の高強度化や薄膜化を達成することでこれまでにない優れた機能を提供することができると考えられる。
【0005】
高分子固体電解質膜の機械的強度を向上させ、寸法変化を抑制する方法として、高分子固体電解質膜に種々の補強材を組み合わせた複合高分子固体電解質膜が提案されている。その例として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の空隙部にイオン交換樹脂であるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含浸し、一体化した複合高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献1参照)。しかしながら、これらの複合高分子固体電解質膜は補強材がポリテトラフルオロエチレンでできているため、発電時の熱により補強材が軟化し、クリープによる寸法変化を生じやすく、また補強材にパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの溶液を含浸して乾燥する際に、補強材の空隙部分の容積がほとんど変化しないために補強材の空隙の内部で析出したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーが偏在しやすく、空隙が該ポリマーで完全に充填されるためにはイオン交換樹脂溶液の含浸と乾燥のプロセスを複数回繰り返すなどの複雑なプロセスが必要であり、また、空隙が残りやすいために燃料透過抑止性に優れた膜が得られにくいといった問題点を有していた。また、その他の例として、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの膜内に補強材としてフィブリル化されたポリテトラフルオロエチレンが分散された複合高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献2参照)。しかしながら、このような複合高分子固体電解質膜は、補強材が不連続な構造のため十分な機械的強度が得られず、膜の変形が抑制できないために電極のはがれが生じるなどの問題点を有していた。
【0006】
ポリベンゾオキサゾール(PBO)やポリベンズイミダゾール(PBI)のようなポリベンザゾール系ポリマーは高耐熱性、高強度、高弾性率の点で優れることから、高分子固体電解質膜の補強材料に適していることが期待される。PBO多孔質膜と種々のイオン交換樹脂を複合化した高分子固体電解質膜がある(例えば特許文献3参照)。しかしながら、これに記載されているような製膜したPBO溶液を直接水浴で凝固する方法で得られるPBO多孔質膜の空隙率はせいぜい90容積%以下である。この複合膜では空隙率が低いため、多孔質膜の空隙へのイオン交換樹脂の浸透が不充分になり、複合膜中の空隙をイオン交換樹脂で充填するために熱処理が必要となる。そのため、熱処理の際にイオン交換樹脂のスルホン酸基が熱によって分解を起こしイオン伝導性が低下するという問題を有している。また、空隙率が低いことで、複合膜中のイオン交換樹脂の含有率が低くなり、膜としてのイオン伝導性が大幅に低下するといった問題点を有していた。さらに、この複合イオン交換膜は表面のイオン交換樹脂層の形成やその厚みを特に規定していないが、複合イオン交換膜における表面層の存在やその厚み、複合イオン交換膜の表面に電極を形成する場合などにバインダーとなるイオン交換樹脂と高分子固体電解質膜を形成するイオン交換樹脂との密着性などに影響し、これらを最適に制御することが重要である。
【0007】
また、PBI多孔質膜の空隙に酸をトラップした燃料電池用ポリマーフィルムの製造方法がある(特許文献4参照)。しかしながら、これに記載されているような方法で得られる遊離の酸をトラップしたフィルムは、100℃以下といった低温領域でのイオン伝導性が先述のナフィオンのようなイオン交換膜に比べて低いほか、酸が漏出しやすいなどの問題点を有していた。さらに、光学異方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液を製膜してから吸湿による等方化の過程を経て凝固しポリベンザゾールフィルムを得る方法がある(例えば特許文献5参照)が、これに記載されているような方法で得られるポリベンザゾールフィルムは透明な緻密性の高いフィルムであり、イオン交換樹脂を含浸してイオン交換膜とする目的には適していなかった。
【0008】
本発明者らは、連続した空隙を有するポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜にイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で該複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有する複合イオン交換膜であって、該表面層のそれぞれの厚みが、1μm以上50μm以下でありかつ該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることを特徴とする複合イオン交換膜、及び支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることを特徴とする該複合イオン交換膜が、機械的強度とイオン伝導性に優れるイオン交換膜であることを見出していた。しかしながら該発明において、イオン交換樹脂としてナフィオン(商品名)をはじめとするパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを用いると、高温でのスルホン酸基の脱離や、膜の変形などが起こり耐熱性に問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−162132号公報
【特許文献2】
特開2001−35508号公報
【特許文献3】
国際公開第00/22684号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第98/14505号パンフレット
【特許文献5】
特開2000−273214号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、イオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適しており、かつ耐熱性にも優れている複合イオン交換膜を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討した結果、本発明者らがすでに発明していた複合イオン交換膜において、特定構造のイオン交換樹脂を用いると、優れたイオン伝導性を示すのみならず、耐熱性が非常に優れることを見い出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち本発明は
(1) 両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する、ポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜の該空隙に、該支持体膜と組成の異なるイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された該支持体膜と組成の異なる該イオン交換樹脂の層との三層構造からなることを特徴とする複合イオン交換膜において、該イオン交換樹脂が、下記一般式(1)〜(3);
【化2】
[上記一般式(1)〜(3)において、X1及びX2は、−CH2−,−S(=O)2−,−O−,−S−,−C(=O),−C(−CH3)2−,−C(−CF3)2−,単結合のいずれかを、Y1〜Y6は、−NH−,−O−,−S−のいずれかを、Z1〜Z3は、スルホン酸基又はその塩、ホスホン酸基又はその塩のいずれかを、Ar1〜Ar6は1個以上の芳香環を含む二価の基をそれぞれ表す。p,q,rはぞれぞれ1〜4の整数を、n1〜n3は1〜1000の整数を、m1〜m3は0〜1000の整数をそれぞれ表す。]
からなる群より選ばれる一種以上のポリマーであることを特徴とする複合イオン交換膜、
(2) 両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有する複合イオン交換膜のそれぞれの厚みが、1μm以上50μm以下でありかつ該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることを特徴とする請求項1に記載の複合イオン交換膜、
(3) 支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合イオン交換膜、
(4) 該支持体膜が、0.3重量%以上3重量%以下のポリベンザゾール系ポリマーを含む等方性溶液を膜状に成型した後に凝固して製造した膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合イオン交換膜、
である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の支持体膜として使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリマー鎖中にオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を含む構造のポリマーをいい、下記一般式で表される繰り返し単位をポリマー鎖中に含むものをいう。
【0014】
【化3】
【0015】
ここで、Ar7,Ar8,Ar9は、芳香族単位を示し、各種脂肪族基、芳香族基、ハロゲン基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等の置換基を有していても良い。これら芳香族単位は、ベンゼン環などの単環系単位、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合環系単位、それらの芳香族単位が2個以上任意の結合を介してつながった多環系芳香族単位でも良い。また、芳香族単位におけるNおよびYの位置はベンザゾール環を形成できる配置であれば特に限定されるものではない。さらに、これらは炭化水素系芳香族単位だけでなく、芳香環内にN,O,S等を含んだヘテロ環系芳香族単位でも良い。YはO,S,NHを示す。
上記Ar7は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0016】
【化4】
【0017】
ここで、W1、W2はCHまたはNを示し、X3は直接結合、−O−,−S−,−SO2−,−C(CH3)2−,−C(CF3)2−,−CO−を示す。
Ar8は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0018】
【化5】
【0019】
ここで、X4は−O−,−S−,−SO2−,−C(CH3)2−,−C(CH3)2−,−CO−を示す。
Ar3は、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0020】
【化6】
【0021】
これらポリベンザゾール系ポリマーは、上述の繰り返し単位を有するホモポリマーであっても良いが、上記構造単位を組み合わせたランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良く、例えば米国特許第4703103号、米国特許第4533692号、米国特許第4533724号、米国特許第4533693号、米国特許第4539567号、米国特許第4578432号等に記載されたものなども例示される。
【0022】
これらポリベンザゾール系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
【化11】
【0028】
【化12】
【0029】
【化13】
【0030】
さらに、これらポリベンザゾール系構成単位だけでなく、他のポリマー構成単位とのランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良い。この時、他のポリマー構成単位としては耐熱性に優れた芳香族系ポリマー構成単位から選ばれることが好ましい。具体的には、ポリイミド系構成単位、ポリアミド系構成単位、ポリアミドイミド系構成単位、ポリオキシジアゾール系構成単位、ポリアゾメチン系構成単位、ポリベンザゾールイミド系構成単位、ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位などを挙げることができる。
【0031】
ポリイミド系構成単位の例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0032】
【化14】
【0033】
ここで、Ar10は4価の芳香族単位で表されるが、下記構造で表されるものが好ましい。
【0034】
【化15】
【0035】
また、Ar11は二価の芳香族単位であり、下記構造で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0036】
【化16】
【0037】
これらポリイミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0038】
【化17】
【0039】
【化18】
【0040】
ポリアミド系構成単位の例としては、下記構造式で表されるのもが挙げられる。
【0041】
【化19】
【0042】
ここで、Ar12,Ar13,Ar14はそれぞれ独立に下記構造から選ばれるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0043】
【化20】
【0044】
これらポリアミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0045】
【化21】
【0046】
ポリアミドイミド系構成単位の例としては、下記構造で表されるものが挙げられる。
【0047】
【化22】
【0048】
ここで、Ar15は上記Ar11の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0049】
これらポリアミドイミド構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0050】
【化23】
【0051】
ポリオキシジアゾール系構成単位の例としては、下記構造式で表されるものが挙げられる。
【0052】
【化24】
【0053】
ここで、Ar16は上記Ar11の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0054】
これらポリオキシジアゾール系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0055】
【化25】
【0056】
ポリアゾメチン系構成単位の例としては、下記構造で表されるものが挙げられる。
【0057】
【化26】
【0058】
ここで、Ar17,Ar18は、上記Ar12の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0059】
これらポリアゾメチン系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0060】
【化27】
【0061】
ポリベンザゾールイミド系構成単位の例としては、下記構造式で表されるものが挙げられる。
【0062】
【化28】
【0063】
ここで、Ar19、Ar20は上記Ar10の具体例として示される構造から選ばれるものが好ましい。
【0064】
これらポリベンザゾールイミド系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0065】
【化29】
【0066】
ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位は、一般に芳香族ユニットをエーテル結合とともにケトン結合やスルホン結合で連結した構造を有するものであり、下記構造式から選択される構造成分を含む。
【0067】
【化30】
【0068】
ここで、Ar21〜Ar29はそれぞれ独立に下記構造で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0069】
【化31】
【0070】
これらポリエーテルケトン系構成単位の具体例としては、下記構造式で表すものを例示することができる。
【0071】
【化32】
【0072】
これらポリベンザゾール系ポリマー構成単位と共に共重合できる芳香族ポリマー構成単位は、厳密にポリマー鎖内の繰り返し単位を指しているのではなく、ポリマー主鎖中にポリベンザゾール系構成単位と共に存在できる構成単位を示しているものである。これら共重合できる芳香族ポリマー構成単位は一種だけでなく二種以上を組み合わせて共重合することもできる。このような共重合体を合成するには、ポリベンザゾール系ポリマー構成単位からなるユニット末端にアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基等を導入して、これらの芳香族系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良いし、これらの芳香族系ポリマー構成単位を含むユニット末端にカルボキシル基を導入してポリベンザゾール系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良い。
【0073】
前記ポリベンザゾール系ポリマーは、ポリ燐酸溶媒中で縮合重合されポリマーが得られる。ポリマーの重合度は極限粘度で表され、15dL/g以上が好ましく、より好ましくは20dL/g以上である。この範囲を下回った場合、得られる支持体膜の強度が低く好ましくない。また極限粘度は、35dL/g以下が好ましく、26dL/g以下がより好ましい。この範囲を上回った場合、等方性の溶液が得られるポリベンザゾール系ポリマー溶液の濃度範囲が限られ、等方性の条件での製膜が困難となるため好ましくない。
【0074】
ポリベンザゾール系ポリマー溶液の製膜方法としては、ドクターブレード等を用いてポリマー溶液を基体上にキャスティングする流延法と呼ばれる製膜方法のほかにも、直線状スリットダイから押し出す方法や円周状スリットダイからブロー押し出しする方法、二枚の基体に挟んだポリマー溶液をローラーでプレスするサンドイッチ法、スピンコート法など、溶液を膜状に成型するあらゆる方法が使用できる。本発明の目的に適した好ましい製膜方法は流延法、サンドイッチ法である。流延法の基板やサンドイッチ法の基体にはガラス板や金属板、樹脂フィルム等の他、凝固時の支持体膜の空隙構造を制御する等の目的で種々の多孔質材料を基板、基体として好ましく用いることができる。
【0075】
本発明で用いるポリベンザゾール系ポリマー溶液は、均一でかつ空隙率の大きな支持体膜を得るために等方性条件の組成で製膜することが重要であり、ポリベンザゾール系ポリマー溶液の好ましい濃度範囲は、0.3%以上であり、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上である。この範囲よりも濃度が低いとポリマー溶液の粘度が小さくなり、適用できる製膜方法が限られるほか、得られる支持体膜の強度が小さくなるため好ましくない。またさらに、濃度範囲は、3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。この範囲よりも濃度が高いと空隙率の大きな支持体膜が得られないばかりか、ポリベンザゾール系ポリマーのポリマー組成や重合度によっては溶液が異方性を示すため好ましくない。
【0076】
ポリベンザゾール系ポリマー溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには次に示すような方法をとる事ができる。すなわち、重合されたポリベンザゾール系ポリマー溶液から一旦ポリマー固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行なう方法。さらには、ポリ燐酸中で縮合重合されたままのポリマー溶液からポリマー固体を分離することなく、そのポリマー溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行なう方法。さらにはポリマーの重合組成を調整することで上記濃度範囲のポリマー溶液を直接得る方法などである。
【0077】
ポリマー溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などがあげられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。中でも特にメタンスルホン酸、ポリリン酸が好ましい。
【0078】
支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、製膜された等方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法を用いる。貧溶媒はポリマー溶液の溶媒と混和できる溶媒であって、液相状態であっても気相状態であっても良い。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組み合わせることも好ましく用いることができる。凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液や無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒等を利用することができるが、使用するポリベンザゾール系ポリマー溶液との組み合わせによっては、支持体膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。本発明における等方性のポリベンザゾール系ポリマー溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒と凝固条件を選択することにより支持体膜表面および内部の構造、空隙率を制御するに至った。特に好ましい凝固の手段は水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、メタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0079】
ポリマーの凝固が進むと、支持体膜は収縮しようとする。凝固が進行する間は支持体膜の不均一な収縮によるシワの発生などを抑制する目的でテンターや固定枠を用いる場合もある。また、ガラス板などの基板上に成型したポリマー溶液を凝固する場合には、基板面の粗さを制御することで基板上での収縮を制御する場合もある。
【0080】
上記のようにして凝固された支持体膜は、残留する溶媒によるポリマーの分解の促進や、複合電解質膜を使用する際に残留溶媒が流出するなどの問題を避ける目的で、十分に洗浄することが望ましい。洗浄は支持体膜を洗浄液に浸漬することで行なうことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、支持体膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行なうことが好ましく、さらに好ましくはpHが6.5〜7.5の範囲である。
【0081】
上記に述べた特定の濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマー等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより本発明の目的に適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーよりなる支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に開口部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。支持体膜はポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有することを、実施例に示したような原子間力顕微鏡を用いる水中での支持体膜表面の観察、および、エポキシ包埋−脱エポキシにより水中の構造を保持した支持体膜の透過型電子顕微鏡観察による断面観察から確認した。特開2002−203576には膜の厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体にイオン伝導性物質が導入された電解質膜が記載されているが、これに記載されているような連通孔の方向性が主に膜の厚さ方向に限定されている支持体を燃料電池の電解質膜に用いた場合、膜の面方向のイオン伝導性物質の連続性が小さいために燃料電池のイオン交換膜に用いた場合に燃料ガスの濃度分布や電極触媒の付着量など面方向に不均一な状態が生じるとイオン交換膜の局所的な劣化が生じやすいなどの問題があるため好ましくない。
【0082】
本発明の支持体膜の空隙率は90体積%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95体積%以上である。空隙率がこの範囲よりも小さいと、イオン交換樹脂を複合化させた場合のイオン交換樹脂の含有率が小さく、イオン伝導性が低下するため好ましくない。
【0083】
本発明の支持体膜は、少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上である。少なくとも一方の面の開孔率がこの範囲よりも小さいと、支持体膜とイオン交換樹脂を複合化させる際に支持体膜の空隙内部にイオン交換樹脂が含浸されにくくなるため好ましくない。
【0084】
上述のような方法で得られたポリベンザゾール系ポリマーよりなる多孔質の該支持体膜にイオン交換樹脂を複合化させ、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。即ち、該支持体膜を乾燥させずに、イオン交換樹脂溶液に浸漬し、該支持体膜内部の液をイオン交換樹脂溶液に置換してから乾燥させる方法により複合イオン交換膜を得る方法である。支持体膜内部の液がイオン交換樹脂溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成にあわせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法も採られる。
【0085】
本発明の支持体膜は乾燥により空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって空隙構造が収縮し、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。該支持体膜の内部にイオン交換樹脂を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、該支持体膜の乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5%から10%の範囲である。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0086】
該支持体膜のこのような特徴により、該支持体膜の空隙内部の液をイオン交換樹脂溶液に置換してから乾燥させた場合、空隙内部に含浸された該イオン交換樹脂溶液の溶媒が蒸発して、該イオン交換樹脂溶液の体積が減少するにつれて該支持体膜も収縮するので、該支持体膜内部の空隙が析出したイオン交換樹脂によって満たされた緻密な複合膜構造を容易に得ることができる。この複合膜構造により、本発明の複合イオン交換膜は優れた燃料透過抑止性を示す。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜では空隙内部に含浸されたイオン交換樹脂溶液の溶媒が蒸発して該イオン交換樹脂溶液の体積が減少しても、それに伴う支持体膜の収縮が少ないため、乾燥後の複合膜内部にはイオン交換樹脂で満たされていない空隙が多数できるばかりでなく、支持体膜の両面に支持体を含まないイオン交換樹脂の表面層が形成されないため好ましくない。
【0087】
該複合イオン交換膜はまた、該支持体膜が大幅に収縮するため、該イオン交換樹脂溶液の濃度や粘度、溶媒の揮発性などの物性と、該支持体膜の膜厚や空隙率等の組み合わせを調整することで、該イオン交換樹脂が該支持体膜の内部空隙を満たした複合層を形成するのと並行して該支持体膜の両面に付着していた過剰なイオン交換樹脂溶液や、該支持体膜の収縮に伴って該支持体膜内部から排出されたイオン交換樹脂溶液が該支持体膜の表面外部で乾燥して該支持体を含まないイオン交換樹脂層を形成することにより、結果として該複合層を挟む形で該複合層の両面に支持体膜を含まないイオン交換樹脂の表面層を形成した構造を容易に実現することができる。
【0088】
本発明の支持体膜以外の膜、例えばポリテトラフルオロエチレンポリマーからなる多孔質支持体膜は上記で述べたように、大幅な収縮が起こらないため、イオン交換樹脂溶液を含浸して乾燥する際に支持体膜内部にイオン交換樹脂が析出しても空隙が残ったままの状態となり、また、支持体膜複合層を挟む形のイオン交換樹脂層も形成されない。この状態を解消するためにはイオン交換樹脂溶液の含浸、乾燥を複数回繰り返す必要があり、工程が複雑になるため好ましくない。
【0089】
本発明の複合イオン交換膜に使用されるイオン交換樹脂は上記一般式(1)〜(3)からなる群より選ばれる一種以上のポリマーである。一般式(2)又は(3)で表される構造ではより多数のイオン性基を導入することが可能であるためイオン伝導性の面では好ましい。上記一般式(1)において、X1及びX2は、ポリマーの溶解性の点から、−S(=O)2−,−O−,−S−,−C(=O),−C(−CH3)2−,−C(−CF3)2−が好ましい。Y1〜Y6は、イオン伝導性の面からは−O−,−S−が好ましく、耐久性の面からは−NH−が好ましい。Z1〜Z3は、スルホン酸基であると、100℃以下で高湿度下でのイオン伝導性に優れ、ホスホン酸基であると100℃以上低湿度下でのイオン伝導性に優れる。Ar1〜Ar6の好ましい例を以下に示す。
【0090】
【化33】
これらの中でも、化学式33−1、33−3、33−8、33−9、33−10、33−12、33−13で表される構造が好ましい。
【0091】
n1〜n3はそれぞれ30以上であることが好ましい。nとmの合計はぞれぞれ30〜1000の範囲であることが好ましい。また、nとmの合計に対するnの割合は、50〜100%であることが好ましい。nの割合が大きくなるほどイオン伝導性が大きくなるが、同時に水による膨潤性も大きくなる。本発明の複合イオン交換膜は、nの割合が大きくても、支持体膜によって膨潤が抑制され良好なイオン伝導性を示す。
【0092】
Ar1,Ar3,Ar5におけるZの置換位置は特に限定されないが、ベンザゾール基に対してオルト位にあるよりも、メタ位、パラ位に置換する方がイオン伝導性が高くなり好ましい。また、Zで表されるイオン性基の置換数は特に限定されないが、同一の芳香環に2個以上のイオン性基が導入されるとより耐熱性が高くなるため好ましい。
【0093】
本発明の複合イオン交換膜に使用することのできるイオン交換樹脂の例を以下に示すが、これらに限定されるわけではない。
【0094】
【化34】
【0095】
【化35】
【0096】
【化36】
【0097】
【化37】
【0098】
【化38】
【0099】
上記のイオン交換樹脂は公知の任意の方法を用いて重合することができる。例えば、4,6−ジアミノレゾルシノール、3,3’−ジヒドロキシベンジジンなどのビス(o−アミノフェノール)化合物、2,5−ジメルカプトハイドロキノン、3,3’−ジメルカプトベンジジンなどのビス(o−アミノチオフェノール)化合物、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホンなどのオルト位に隣接する2個のアミノ基を有するテトラアミノ化合物と、2−スルホテレフタル酸、5−ホスホイソフタル酸などのイオン性基を含むジカルボン酸とを、場合によってテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのイオン性基を含まないジカルボン酸と共に、重縮合することで得ることができる。これらのモノマーは、例えばポリリン酸中100〜200℃で1〜20時間反応させることで重合することができる。モノマーは、アミノ基が塩酸塩やリン酸塩であったり、スルホン酸基やホスホン酸基がナトリウムやカリウム塩であるものを用いてもよい。イオン交換樹脂は重合溶液をから、例えば水で再沈させることで回収できる。イオン交換樹脂の分子量は特に限定されないが、膜の強度や溶液のハンドリング性の面からは、30℃、0.05dL/gのメタンスルホン酸溶液の対数粘度が0.2〜30.0dL/gであることが好ましい。イオン交換樹脂中のイオン性量は、上記のイオン性基含有ジカルボン酸の割合を変えることによって制御できる。イオン交換樹脂中のイオン交換当量(IEC)としては1.0〜4.0meq/gであることが好ましく、1.5〜3.5meq/gであるとより好ましい。IECが小さすぎると、イオン伝導性が低下し、大きすぎる水溶性が大きくなってしまう。
【0100】
上記のイオン交換樹脂の溶媒はポリベンザゾール系ポリマー支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつイオン交換樹脂を溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。ただし、イオン交換樹脂溶液を支持体膜に含浸させた後に溶媒を除去してイオン交換樹脂を析出させる為、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどの極性溶媒、クレゾールなどのフェノール類、水、及びこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0101】
上記のイオン交換樹脂のスルホン酸基やホスホン酸基は、塩基性物質との塩にしておくと、溶媒に対する溶解性が向上する場合がある。塩基性物質としては、例えばNa,K,Li,Mg,Caなどの金属イオンや、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、水酸化アンモニウムなどのアミン系化合物などを挙げることができる。塩に変換したイオン交換樹脂を用いる場合には、支持体膜と複合化した後で、酸処理によって酸に戻すことができる。酸処理には、0.1〜10mol/Lの塩酸、硫酸、リン酸など強酸の水溶液を用いることができる。
【0102】
本発明のイオン交換樹脂溶液の濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜40重量%である。
【0103】
上記のようにして得られる複合イオン交換膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は50重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは80重量%以上である。この範囲より小さい含有率の場合、膜の導電抵抗が大きくなったり、膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない。
【0104】
また、本発明の複合イオン交換膜は、上記で記述したように複合層を挟む形で複合層の両面に支持体を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有することを特徴とする。複合イオン交換膜が該複合層と該表面層を有することにより、該複合イオン交換膜は高い機械的強度を有し、かつ、表面に電極層を形成させた場合の電極層との密着性に優れるという特長を有する。該表面層の厚みはそれぞれ1μm以上50μm以下であり、かつ、それぞれが該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることが好ましい。該表面層の厚みが上記範囲よりも小さいと電極層との密着性が悪くなり、イオン伝導性が低下するなどするため好ましくない。また該表面層の厚みが上記範囲よりも大きいと、複合層による補強の効果が複合イオン交換膜の最外表面まで及ばず、複合イオン交換膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離するなどするため好ましくない。該表面層の厚みのさらに好ましい範囲は2μm以上30μm以下である。
【0105】
複合イオン交換膜は機械的強度やイオン伝導性、表面に形成されるイオン交換樹脂層の耐剥離性などの特性をさらに向上させる目的で、複合イオン交換膜を適当な条件で熱処理する方法も好ましく用いることができる。また、表面に形成されるイオン交換樹脂の表面層の厚みを調整するために、該複合イオン交換膜をさらにイオン交換樹脂溶液に浸漬したり、該複合イオン交換膜にイオン交換樹脂溶液を塗布したりしてから乾燥することによりイオン交換樹脂層の付着量を増加させたり、あるいは、イオン交換樹脂溶液に浸漬した後に支持体膜の表面に付着したイオン交換樹脂溶液の一部をスクレーパー、エアナイフ、ローラーなどで掻き落としたり、ろ紙やスポンジのような溶液吸収性のある材料で吸収したりすることにより、イオン交換樹脂層の付着量を減少させたりする方法も用いることができる。あるいは、熱プレスをかけることによりイオン交換樹脂層の密着性をさらに向上させるなどの方法を併せて用いることもできる。
【0106】
本発明の複合イオン交換膜は高いイオン伝導性を有しながら、機械的強度及び耐熱性に優れる。また、その特性を生かして、複合イオン交換膜特に固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0107】
実施例
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
評価法・測定法
<透過型電子顕微鏡による構造観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)による膜の断面構造の観察は以下の方法で行った。
まず、観察用試料切片を次のようにして作製した。すなわち、水洗後の支持体膜試料内部の水をエタノールに置換、さらにエポキシモノマーに十分置換した。試料はそのままエポキシモノマー中で45℃、6時間保持した後、さらに60℃、20時間熱処理することでエポキシを硬化させた(エポキシ包埋)。このようにしてエポキシ包埋された試料はダイヤモンドナイフを備えたミクロトームを用いて、干渉色が銀から金色を示す程度の厚みの超薄切片に調製し、KOH飽和エタノール溶液で15分処理することでエポキシを除去した(脱エポキシ)。さらにエタノール、続いて水で洗浄し、RuO4で染色した試料にカーボン蒸着し、JEOL製TEM(JEM−2010)を用いて加速電圧200kVで観察した。
【0108】
<原子間力顕微鏡による構造観察>
原子間力顕微鏡(AFM)による構造観察は以下の方法で行った。すなわち、Seiko Instruments社製のAFM(SPA300[観察モード:DFMモード、カンチレバー:SI−DF3、スキャナー:FS−100A])を使用し、水中の試料ステージに保持した未乾燥の支持体膜の表面構造を観察した。
【0109】
<走査型電子顕微鏡による構造観察>
走査型電子顕微鏡(SEM)による構造観察は以下の方法で行った。まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、日立製臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO2臨界点乾燥を施した。このようにして臨界点乾燥した支持体膜に厚さ150オングストロームの白金コートを施し、日立製SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で観察を行った。
【0110】
<極限粘度>
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/Lの濃度に調整したポリマー溶液の対数粘度をウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、算出した。
【0111】
<支持体膜厚み>
未乾燥の支持体膜の厚みは次に示す方法により測定した。測定荷重を変更可能なマイクロメータを用い、各荷重における水中での支持体膜の厚みを測定した。測定した厚みを荷重に対してプロットし、直線部分を荷重0に外挿したときの切片の値を厚みとし、一つの試料について5ヶ所で測定した厚みの平均値を支持体膜の厚みとした。
【0112】
<支持体膜の表面開孔率>
支持体膜の表面開孔率は次の方法により測定した。すなわち、上述した方法で撮影した支持体膜の表面の撮影倍率1万倍の走査型電子顕微鏡写真上で5μm角に相当する視野を選び、膜の最外表面に相当するポリマー部分を白、それ以外の部分を黒に色分けした後、イメージスキャナーを用いて画像をコンピューターに取り込み、米国Scion社製の画像解析ソフトScion Imageを用いて画像中の黒部分が占める比率を測定した。この操作を一つのサンプルに対して3回行い、その平均を表面開孔率とした。
【0113】
<支持体膜の空隙率>
支持体膜の空隙率は次の方法により測定した。含水状態の支持体膜の重量と絶乾状態の支持体膜の重量の差から求められた水の重量を水の密度で除して膜内の空隙を満たす水の体積Vw[mL]が得られる。Vwと含水状態の膜の体積Vm[mL]から以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
支持体膜の空隙率[%]=Vw/Vm×100
【0114】
<複合イオン交換膜の厚さおよび、それを構成する層の厚さ>
該複合イオン交換膜を構成する複合層および該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層の厚さは、幅300μm×長さ5mmに切り出した複合膜片を、ルベアック812(ナカライテスク製)/ルベアックNMA(ナカライテスク製)/DMP30(TAAB製)=100/89/4の組成とした樹脂で包埋し、60℃で12時間硬化させて試料ブロックを作製した。ウルトラミクロトーム(LKB製2088ULTROTOME 5)を用いて平滑な断面が露出するようブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電工製SK2045)で切削した。このようにして露出させた複合膜の断面を光学顕微鏡で写真撮影し、既知の長さのスケールを同倍率で撮影したものと比較することで測定した。支持体の空隙率が大きい場合等で、少なくとも一方の面の表面層とその内側の複合層とが明確な界面を形成せずに界面付近の構造が連続的に変化している場合があるが、その場合は光学顕微鏡で連続的な構造の変化が確認できる部分のうち、複合イオン交換膜の外表面に最も近い部分を複合層の最外表面として、そこから複合イオン交換膜の外表面までの距離を該表面層の厚みとした。
【0115】
<複合イオン交換膜のイオン交換樹脂(ICP)含有率>
複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。110℃で6時間真空乾燥させた複合イオン交換膜の目付けDc[g/m2]を測定し、複合イオン交換膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜をイオン交換樹脂を複合化させずに乾燥させて測定した乾燥支持体膜の目付けDs[g/m2]とから、以下の計算によりイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[重量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
また、複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法によって測定することもできる。すなわち、複合イオン交換膜を複合イオン交換膜中の支持体膜成分あるいは、イオン交換樹脂成分のいずれかのみを溶解可能な溶剤に浸漬して一方の成分を抽出、除去した後、元の複合イオン交換膜との重量変化を測定することでイオン交換樹脂の含有率を求めることができる。
【0116】
<加熱時のクリープ性評価>
熱機械分析装置(ブルーカー・エイエスエックス社製)を用いてアルゴン雰囲気下、0.5gfの一定応力を加えつつ10℃/minの速度で室温から200℃まで昇温し、サンプルの長さの変化を測定した。サンプル幅及び初期チャック長はそれぞれ、2,10mmとした。初期長に対する200℃での長さの変化率を熱クリープ性とした。
【0117】
<イオン伝導率>
イオン伝導率σは次のようにして測定した。自作測定用プローブ(ポリテトラフルオロエチレン製)上で幅10mmの短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽中に試料を保持し、白金線間の10kHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を10mmから40mmまで10mm間隔で変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした直線の勾配Dr[Ω/cm]から下記の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルして算出した。
σ[S/cm]=1/(膜幅×膜厚[cm]×Dr)
【0118】
<耐熱性評価>
島津製作所製熱重量分析機TGA−50を用いて、約2mgのサンプルポリマーを、アルゴン雰囲気下で100℃で10分間予備乾燥の後、10℃/分の速度で昇温して測定した。重量変化曲線の変曲点の温度を熱減量開始温度とした。
【0119】
<膨潤性>
サンプル膜を25℃の水に1日浸漬し、浸漬前後の厚みを測定した。厚みの変化率を膨潤性とした。
【0120】
<イオン交換樹脂溶液の調製>
各種のイオン交換樹脂を、それぞれに適切な溶媒に溶解した。一覧を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
<支持体膜の調整>
ポリ燐酸中にIV=24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度0.9重量%の等方性溶液を調製した。この溶液を、70℃に加熱したガラス板上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜Aを作製した。濃度1.4重量%のポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール溶液から同様にして支持体膜Bを作製した。また、ポリ燐酸中に極限粘度18dL/gのポリ{2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(以下PIPDと略)ポリマーを19重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈して調製した、PIPDポリマー濃度1.4重量%の等方性溶液からも上記と同様にして支持体膜Cを作製した。作製した支持体膜は両面に開口部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜であることを原子間力顕微鏡による表面形態観察および、透過型電子顕微鏡による断面形態観察により確認した。この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定して、イオン交換樹脂との複合化に用いた。
【0123】
(実施例1)
支持体膜Aをジメチルスルホキシドに浸漬して、内部に含まれている水をイオン交換樹脂溶液の溶媒に置換した後、60℃に保持したイオン交換樹脂溶液A中に浸漬して1日間放置してから、イオン交換樹脂溶液を含む支持体膜を取りだした。取り出した支持体膜は窒素雰囲気下でしばらく放置して余分な溶液を取り除いた後、70℃で3日間減圧乾燥し、実施例1の複合イオン交換膜Aを得た。
【0124】
(実施例2〜10)
イオン交換樹脂溶液Aの代わりにイオン交換樹脂溶液B〜Jを用いた他は実施例1と同様にして、実施例2〜10の複合イオン交換膜を得た。なお実施例5,6,9,10では、支持体膜の溶媒置換にジメチルスルホキシドではなくN,N−ジメチルアセトアミドを用い、イオン交換樹脂溶液への浸漬は25℃で行なった。
【0125】
(実施例11)
イオン交換樹脂溶液Aの代わりにイオン交換樹脂溶液Kを、ジメチルスルホキシドの代わりにイオン交換樹脂のスルホン酸基と等モルのトリエチルアミンを含むジメチルアセトアミドを用い、イオン交換樹脂溶液への浸漬を25℃で行なった他は実施例1と同様にして複合膜を得た。得られた複合膜を1M硫酸に室温で10時間浸漬した後、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した後、50℃で減圧乾燥して実施例10の複合イオン交換膜を得た。
【0126】
(実施例12〜13)
支持体膜Aの代わりに支持体膜B〜Cを用いた他は、実施例1と同様にして実施例12〜13の複合イオン交換膜を調製した。
【0127】
(比較例1)
あらかじめ、水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒に浸漬して内部の水を置換しておいた支持体膜Aを、20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより比較例1の複合イオン交換膜を調製した。
【0128】
(比較例2〜11)
イオン交換樹脂溶液A〜Jを、支持体膜と複合させずに、単独でガラス板上に流延した後、70℃で3日間減圧乾燥してイオン交換樹脂単独からなる比較例2〜11の膜を得た。
【0129】
(比較例12)
イオン交換樹脂溶液Aに用いたイオン交換樹脂に、支持体膜Aの作製に用いたポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールドープとメタンスルホン酸を加えて混合溶液を作製した。イオン交換樹脂とポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールの重量比は5/1になるようにした。この混合溶液をガラス板に流延し、水に浸漬して凝固させ、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄して、比較例12のブレンドイオン交換膜を得た。
【0130】
(比較例13)
比較例13として、市販されているデュポン社製ナフィオン112(商品名)膜を用いた。この膜はパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーからなるプロトン交換膜であり、固体高分子形燃料電池用のプロトン交換膜として広く用いられているものである。
【0131】
実施例及び比較例で得られた膜の評価結果を表2に示す。
【0132】
【表2】
【0133】
実施例の複合イオン交換膜は比較例13の市販のナフィオン112(商品名)膜と対比して、熱減量開始温度が高くて熱クリープ性が小さく、耐熱性に優れたイオン交換膜であることがわかる。また、実施例1〜5,12,13の複合イオン交換膜は、比較例1のナフィオン(商品名)複合膜に比べて同等以上のイオン伝導性を示しており、特に優れた膜であることが分かる。また、実施例6,10,11の膜は最も高い熱減量開始温度を示し、特に優れた耐熱性を有していることが分かる。実施例7〜9の複合イオン交換膜は、イオン伝導性はやや低いが、膨潤しにくいという特性を備えた膜であるということが分かる。また、実施例1〜10の複合イオン交換膜は、同じイオン交換樹脂を用いた比較例2〜11のイオン交換膜に比べて膨潤性が著しく抑制されている。また、補強ポリマーを単にブレンドしただけの比較例12では膨潤があまり抑制されていない。これらのことから、実施例の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂の特徴である優れた耐熱性やイオン伝導性を損なうことなく、イオン交換樹脂の欠点であった膨潤性が支持体膜によって効果的に抑制されていることが示されており、本発明の複合イオン交換膜は優れた特性を備えていることがわかる。
【0134】
【発明の効果】
イオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適しており、かつ耐熱性にも優れている複合イオン交換膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】複合イオン交換膜の断面構造の模式図である。
【図2】イオン交換樹脂複合化前の支持体膜を臨界点乾燥して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した像の模式図である。
【符号の説明】1 表面層A、 2 複合層、 3 表面層B、 4 支持体膜のフィブリル、 5 空隙
Claims (4)
- 両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する、ポリベンザゾール系ポリマーからなる支持体膜の該空隙に、該支持体膜と組成の異なるイオン交換樹脂が含浸されてなる複合層と、該複合層を挟む形で複合層の両面に形成された該支持体膜と組成の異なる該イオン交換樹脂の層との三層構造からなることを特徴とする複合イオン交換膜において、該イオン交換樹脂が、下記一般式(1)〜(3);
からなる群より選ばれる一種以上のポリマーであることを特徴とする複合イオン交換膜。 - 両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層を有する複合イオン交換膜のそれぞれの厚みが、1μm以上50μm以下でありかつ該複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることを特徴とする請求項1に記載の複合イオン交換膜。
- 支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合イオン交換膜。
- 該支持体膜が、0.3重量%以上3重量%以下のポリベンザゾール系ポリマーを含む等方性溶液を膜状に成型した後に凝固して製造した膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合イオン交換膜。
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