JP2004143388A - 複合イオン交換膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を提供する。
【解決手段】イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、前記支持体膜は、前記空隙中に前記イオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、前記イオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜。
【選択図】 図1
【解決手段】イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、前記支持体膜は、前記空隙中に前記イオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、前記イオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合イオン交換膜に関する。さらに詳しくは、本発明は、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂を含む膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、たとえば米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
【0004】
しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜は100℃以上では軟化するため、この膜を用いた燃料電池では運転温度が80℃以下に制限されていた。運転温度が上がると、エネルギー効率、装置の小型化、触媒活性の向上など、さまざまな利点があるため、耐熱性の高分子固体電解質膜が検討されてきた。
【0005】
そこで、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜に代わる高分子固体電解質膜として、ポリエーテルエーテルケトン系やポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系などのポリマーに、スルホン酸基などのイオン性基を導入したポリマーを含有する、いわゆる炭化水素系高分子固体電解質が近年盛んに検討されている。しかし、このような炭化水素系高分子固体電解質は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜に比べて、水和、膨潤しやすく、高湿度下での耐水性に問題があった。
【0006】
このような膨潤を抑制する方策の一つとして、塩基性ポリマーとの混合による技術が検討されている。この技術は、高分子固体電解質膜中のスルホン酸基を、塩基性ポリマーによって架橋することで膨潤を抑制しようとするものである。たとえば、スルホン酸基を有するポリエーテルスルホン系ポリマーや、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトン系ポリマー(酸性ポリマー)などと、ポリベンズイミダゾール系ポリマー(塩基性ポリマー)との混合物を用いる技術などがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
また、イオン性基であるスルホン酸基間を共有結合により架橋することで、膨潤を抑制する技術も検討されている(たとえば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0008】
しかし、上記の技術は、いずれも膨潤自体は抑制できるものの、イオン性基が架橋反応によりイオン性を示さなくなるため、イオン伝導性が低下するという問題点があった。
【0009】
ここで、架橋構造を有する高分子固体電解質膜として、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体のスルホン化物を含む膜は、初期の固体高分子形燃料電池に使用されたことで良く知られている。しかし、この高分子固体電解質膜は、ポリマー骨格そのものの耐水性に乏しく、燃料電池として満足な性質を示さなかった。
【0010】
また、ルイス酸を触媒としてポリマー中のクロロメチル基を架橋反応させて得られるイオン交換体に関する技術もある(たとえば、特許文献5、特許文献6参照)。しかし、この技術の架橋反応には、触媒が必要である。よって、ポリマーと触媒を混合してイオン交換体の成形体を得る場合には、触媒の残留が問題となる。また、ポリマーの成形体を触媒で処理してイオン交換体の成形体を得る場合には、ポリマーの成形体の内部で架橋反応が起こりにくいことが問題となる。
【0011】
さらに、高分子固体電解質膜の機械的強度を向上させ、寸法変化を抑制する技術として、高分子固体電解質膜に種々の補強材を組合わせた複合高分子固体電解質膜が提案されている。
【0012】
具体例としては、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む膜の空隙部に、イオン交換樹脂であるパーフルオロカーボン系スルホン酸ポリマーを含むイオン交換樹脂組成物を含浸し、一体化した複合高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献7参照)や、パーフルオロカーボン系スルホン酸ポリマーを含む膜内に、補強材としてフィブリル化されたポリテトラフルオロエチレン系ポリマーが分散された複合高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献8参照)や、ポリベンゾオキサゾール多孔質膜と、種々のイオン交換樹脂と、を複合化した高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献9参照)などに関する技術が、それぞれ検討されている。
【0013】
しかし、これらの技術では、高分子固体電解質膜の強度向上と寸法変化抑制を補強材にのみ依存しているため、イオン交換樹脂の膨潤性が大きい場合には、強度向上と寸法変化抑制の効果が充分ではなかった。
【0014】
また、多孔性基材中にプロトン伝導性を有するポリマーを充填した高分子固体電解質膜に関する技術も検討されている(たとえば、特許文献10参照)。しかし、このプロトン伝導性ポリマーは、多孔質基材中に浸透させたモノマーを重合して得られたポリマーである。そのため、高分子固体電解質膜の表面のプロトン伝導性ポリマーを含む層の厚みを大きくすることができないので、高分子固体電解質膜への電極の接合が難しかった。
【0015】
【特許文献1】
国際公開第99/54389号パンフレット
【0016】
【特許文献2】
特開平6−93114号公報
【0017】
【特許文献3】
国際公開第99/61141号パンフレット
【0018】
【特許文献4】
特開2001−522401号公報
【0019】
【特許文献5】
特開平2−248434号公報
【0020】
【特許文献6】
特開平2−245035号公報
【0021】
【特許文献7】
特開平8−162132号公報
【0022】
【特許文献8】
特開2001−35508号公報
【0023】
【特許文献9】
国際公開第WO00/22684号パンフレット
【0024】
【特許文献10】
特開2002−83612号公報
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
上記の現状に基づき、本発明の主要な課題は、燃料電池などのプロトン交換膜に好適に用いることのできる、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を提供することである。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するためには、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に架橋性基を有するイオン交換樹脂と、多孔質の支持体膜とを用い、多孔質の支持体膜にイオン交換樹脂を含浸させた上で架橋させて、複合イオン交換膜を得ればよいとの着想を得、そのような複合イオン交換膜の中から、燃料電池における高分子固体電解質膜として好適な特性を有するものを見出すべく、鋭意研究開発を行った。
【0027】
その結果、本発明者らは、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物を、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜に含浸させた上で光架橋および/または熱架橋させることにより、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を得られることを見出した。
【0028】
また、本発明者らは、上記の分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂が特定の化学構造を有する場合には、さらに複合イオン交換膜の性能が向上することを明らかにした。そして、本発明者らは、上記の複合イオン交換膜を特定の構造にすることによって、さらに複合イオン交換膜の性能が向上することを明らかにし、本発明の完成に至った。
【0029】
すなわち、本発明の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、この支持体膜は、この空隙中にこのイオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、このイオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜である。
【0030】
ここで、この光架橋性基は、化学式1で表される化学構造の架橋性基および化学式2で表される化学構造の架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0031】
【化3】
【0032】
(化学式1および化学式2において、Rは炭素数が1〜10の範囲の脂肪族炭化水素基を表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
そして、この熱架橋性基は、化学式3〜化学式8で表される化学構造の熱架橋性基からなる群より選ばれる1種類以上の熱架橋性基であることが望ましい。
【0033】
【化4】
【0034】
(化学式3〜化学式8において、R1〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基、ハロゲン原子のいずれかを表わす。Zは、水素原子、炭素数1〜10の範囲の炭化水素基、ハロゲン、ニトロ基、−SO3X基のいずれかを表わす。Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
また、このイオン性基は、スルホン酸基および/またはホスホン酸基であることが好ましい。さらに、このイオン交換樹脂のポリマー主鎖は、ポリエーテルスルホン系主鎖またはポリエーテルケトン系主鎖であることが望ましい。
【0035】
そして、本発明の複合イオン交換膜は、このイオン交換樹脂組成物からなる表面層をこの支持体膜の両面に備えることが好ましい。
【0036】
ここで、この表面層のそれぞれの厚みは、1〜50μmの範囲であり、かつこの複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることが望ましい。また、この支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率は、40〜95%の範囲にあることが推奨される。
【0037】
さらに、この支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として含むことが好ましい。
【0038】
そして、この支持体膜は、このポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型されたこの溶液を凝固させてこの支持体膜を得ることにより得られる支持体膜であることが望ましい。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
【0040】
<複合イオン交換膜>
本発明の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、この支持体膜は、この空隙中にこのイオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、このイオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂(本明細書において、架橋済イオン交換樹脂とも記載する)を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜である。
【0041】
<未架橋イオン交換樹脂>
ここで、上記の分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂(本明細書において、未架橋イオン交換樹脂とも記載する)の数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、特に5,000以上であることがより好ましい。また、この数平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、特に500,000以下であることが特に好ましい。
【0042】
この数平均分子量が上記の範囲内にある場合には、未架橋イオン交換樹脂の物性と加工性のバランスが取れるために好ましい。この分子量が1,000未満の場合には、膜の形成が困難になる傾向があり、この分子量が1,000,000を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取扱いが困難になるという傾向がある。
【0043】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の重合度は、後述する対数粘度で表わすこともできる。すなわち、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂を0.25g/dlのN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解した場合の30℃における対数粘度は、0.1以上であることが好ましく、特に0.4以上であることがより好ましい。また、この対数粘度は、2.0以下であることが好ましく、特に1.5以下であることがより好ましい。
【0044】
この対数粘度が0.1未満の場合には、膜の形成が困難になる傾向があり、この対数粘度が2.0を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取扱いが困難になるという傾向がある。
【0045】
さらに、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂が分子中に有するイオン性基は、特に限定するものではないが、たとえば、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などのイオン性基であることが好ましい。ここで、本明細書において、イオン性基とは、イオンに解離することのできる基を示す。
【0046】
なお、これらのイオン性基の中でも、スルホン酸基は、イオン伝導性が高いため、特に好ましい。また、ホスホン酸基も、高温でもイオン伝導性を示すため、特に好ましい。
【0047】
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中のイオン性基の平均含有量は、0.1mmol/g以上であることが好ましく、特に1.0mmol/g以上であることがより好ましい。また、このイオン性基の平均含有量は、5.0mmol/g以下であることが好ましく、特に3.0mmol/g以下であることがより好ましい。
【0048】
このイオン性基の平均含有量が0.1mmol/g未満の場合には、イオン伝導性が著しく低下する傾向があり、このイオン性基の平均含有量が5.0mmol/gを超えると、架橋で抑制できないほど膜の膨潤性が著しく大きくなるという傾向がある。
【0049】
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中には、イオン性基を有する結合単位とイオン性基を有さない結合単位との共重合などの反応によって、イオン性基の量を制御しながらイオン性基を導入することができる。
【0050】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する架橋性基は、熱架橋性基および/または光架橋性基などの架橋性の反応性基であることが必要である。ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する架橋性基は、少なくとも熱架橋性基または光架橋性基を含んでいる必要があるが、他の架橋性の反応性基を含んでいても構わない。
【0051】
なお、本明細書において、熱架橋性基とは、加熱することによって架橋する性質を有する基を示す。また、本明細書において、光架橋性基とは、光照射によって架橋する性質を有する基を示す。さらに、本明細書において、架橋性基とは、熱架橋性基と光架橋性基とをともに含み、さらには他の架橋性の反応性基をも含む概念である。
【0052】
さらに、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中のこれらの架橋性基の平均含有量は、1分子中1個以上であることが好ましく、特に1mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この平均含有量は、5,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0053】
この架橋性基の平均含有量が1分子中1個未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この架橋性基の平均含有量が5,000mmol/kgを超えると、イオン伝導性が低下したり、架橋後の膜の柔軟性が失われて取扱いが困難になるという傾向がある。
【0054】
そして、これらの架橋性基は、それぞれの反応性に応じた方法で処理することにより架橋させることができる。すなわち、熱架橋性基は、加熱処理により架橋させることができ、光架橋性基は、光照射処理により架橋させることができる。
【0055】
<熱架橋性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、特に限定するものではないが、たとえば、エチレン基、エチニル基などの多重結合基や、ベンゾオキサジン基、オキサゾール基などを挙げることができる。
【0056】
さらに、これらの基は、メチル基、フェニル基などの置換基を有していてもよい。なお、これらの熱架橋性基は、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の主鎖中に存在してもよく、側鎖として存在してもよく、末端基として存在してもよいが、未架橋イオン交換樹脂の末端基として存在することが特に好ましい。
【0057】
ここで、このような熱架橋性基は、熱架橋性基を有する化学構造を有する原料モノマーを、熱架橋性基を有さない化学構造を有する他の原料モノマーと混合して、共重合モノマーや末端停止剤の役割を担う原料モノマーとして重合反応させることで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂に導入することができる。
【0058】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の熱架橋性基の平均含有量は、1mmol/kg以上であることが好ましく、特に5mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この熱架橋性基の平均含有量は、1,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0059】
この熱架橋性基の平均含有量が1mmol/kg未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この熱架橋性基の平均含有量が1,000mmol/kgを超えると、未架橋イオン交換樹脂の分子量が低下して膜の形成が困難になる傾向がある。
【0060】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基の架橋は、加熱処理によって行なうことができる。なお、この加熱処理は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0061】
また、この加熱処理の温度は、100℃以上であることが好ましく、特に200℃以上であることがより好ましい。さらに、この加熱処理の温度は、400℃以下であることが好ましく、特に300℃以下であることがより好ましい。この加熱処理の温度が100℃未満の場合には、架橋反応が十分に進行しない傾向があり、この加熱処理の温度が400℃を超えると、イオン交換樹脂そのものの熱分解が起こりやすくなるという傾向がある。
【0062】
さらに、この加熱処理の時間は、1秒以上であることが好ましく、特に60秒以上であることがより好ましい。また、この加熱処理の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることがより好ましい。この加熱処理の時間が1秒未満の場合には、膜の内部まで十分に熱が伝わらず架橋反応が不均一になるという傾向があり、この加熱処理の時間が100時間を超えると、イオン交換樹脂そのものの分解や変性が起こりやすくなるという傾向がある。
【0063】
そして、この加熱処理を行なう場合に応じて、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂を含有する樹脂組成物中には、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤などの公知の任意の重合開始剤を添加してもよい。
【0064】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、化学式3〜化学式8で表される化学構造の熱架橋性基からなる群より選ばれる1種類以上の熱架橋性基であることが望ましい。
【0065】
【化5】
【0066】
(化学式3〜化学式8において、R1〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基、ハロゲン原子のいずれかを表わす。Zは、水素原子、炭素数1〜10の範囲の炭化水素基、ハロゲン、ニトロ基、−SO3X基のいずれかを表わす。Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
なお、これらの熱架橋性基は、単一の種類のみであってもよいが、複数の種類の熱架橋性基が同一の未架橋イオン交換樹脂の分子中に混在していてもよい。
【0067】
<光架橋性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、特に限定するものではないが、たとえば、ベンゾフェノン基、α−ジケトン基、アシロイン基、アシロインエーテル基、ベンジルアルキルケタール基、アセトフェノン基、多核キノン類からなる基、チオキサントン基、アシルフォスフィン基などを挙げることができる。
【0068】
また、これらの光架橋性基の中でも、ベンゾフェノン基などの光によりラジカルを発生することのできる基と、メチル基やエチル基などの飽和炭化水素基を有する芳香族基、エチレン性不飽和基などの、ラジカルと反応することのできる基とを組合わせて用いることが特に好ましい。
【0069】
もっとも、未架橋イオン交換樹脂の骨格構造によっては、ベンゾフェノン基などの光でラジカルを発生する基だけでも、架橋反応が起きる場合がある。その場合には、ラジカルと反応することのできる基は必ずしも必要ではなく、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂は、ラジカル発生基だけを有していてもよい。
【0070】
なお、これらの光架橋性基は、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の主鎖中に存在してもよく、側鎖として存在してもよく、末端基として存在してもよいが、未架橋イオン交換樹脂の末端基として存在することが特に好ましい。
【0071】
ここで、このような光架橋性基は、光架橋性基を有する化学構造を有する原料モノマーを、光架橋性基を有さない化学構造を有する他の原料モノマーと混合して、共重合モノマーや末端停止剤の役割を担う原料モノマーとして重合反応させることで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂に導入することができる。
【0072】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の光架橋性基の平均含有量は、1mmol/kg以上であることが好ましく、特に5mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この光架橋性基の平均含有量は、5,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0073】
この光架橋性基の平均含有量が1mmol/kg未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この光架橋性基の平均含有量が5,000mmol/kgを超えると、イオン伝導性が低下したり、架橋後の膜の柔軟性が失われて取扱いが困難になるという傾向がある。
【0074】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する光架橋性基の架橋は、光照射処理によって行なうことができる。なお、この光照射処理は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0075】
また、この光照射処理の際の温度は、室温(25℃)以上であることが好ましく、特に50℃以上であることがより好ましい。さらに、この光照射処理の際の温度は、250℃以下であることが好ましく、特に200℃以下であることがより好ましい。この光照射処理の際の温度が室温(25℃)未満の場合には、架橋反応が進行し難い傾向があり、この光照射処理の際の温度が250℃を超えると、分解などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0076】
さらに、この光照射処理の時間は、1秒以上であることが好ましく、特に30秒以上であることがより好ましい。また、この光照射処理の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることがより好ましい。この光照射処理の時間が1秒未満の場合には、架橋反応の進行度が膜の面方向で不均一になる傾向があり、この光照射処理の時間が100時間を超えると、イオン交換樹脂の分解や劣化などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0077】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する光架橋性基は、化学式1で表される化学構造の架橋性基および化学式2で表される化学構造の架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0078】
【化6】
【0079】
(化学式1および化学式2において、Rは炭素数が1〜10の範囲の脂肪族炭化水素基を表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂は、化学式1および化学式2で表される化学構造の二種類の光架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0080】
<その他の架橋性を有する反応性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有するその他の架橋性を有する反応性基としては、特に限定するものではないが、たとえば、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、ハロメチル基、カルボキシル基などの反応性基が挙げられる。
【0081】
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖としては、特に限定されず、公知の任意のポリマー主鎖を用いることができる。具体例としては、ポリエーテルスルホン系主鎖、ポリエーテルケトン系主鎖、ポリスルフィド系主鎖、ポリフェニレン系主鎖、ポリベンズオキサゾール系主鎖、ポリベンズイミダゾール系主鎖、ポリベンズチアゾール系主鎖、ポリケトン系主鎖、ポリスルホン系主鎖などが、耐水性に優れるため好ましい。なお、これらのポリマー主鎖の中でも、合成の容易さからは、ポリエーテルスルホン系主鎖、ポリエーテルケトン系主鎖が特に好ましい。
【0082】
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖として好ましい、ポリエーテルスルホン系主鎖やポリエーテルケトン系主鎖は、たとえば、電子吸引性基を有する芳香族ジハロゲン系化合物と、ビスフェノール系化合物とを縮合重合することで得られる。
【0083】
ここで、上記の縮合重合反応に用いる芳香族ジハロゲン化合物としては、特に限定されないが、たとえば、下記の化学式9A〜化学式9Iで表される化学構造を有する化合物を挙げることができる。
【0084】
【化7】
【0085】
(化学式9A〜化学式9Iにおいて、XはH,Li,Na,Kのいずれかを表わす。)
なお、これらの芳香族ジハロゲン化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0086】
また、上記の縮合重合反応に用いるビスフェノール化合物としては、特に限定されないが、たとえば、下記の化学式10A〜化学式10Pで表される化学構造を有する化合物を挙げることができる。
【0087】
【化8】
【0088】
なお、これらのビスフェノール化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0089】
また、この縮合重合反応は、公知の方法で行なうことができる。すなわち、この縮合重合反応は、有機溶媒中で塩基の存在下、電子吸引性基を有する芳香族ジハロゲン系化合物と、ビスフェノール系化合物とを含む混合溶液を加熱することで行なうことができ、ポリエーテルスルホン系主鎖やポリエーテルケトン系主鎖を得ることができる。
【0090】
この縮合重合反応において用いる有機溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。なお、これらの有機溶媒の中でも、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0091】
また、この縮合重合反応において用いる塩基としては、たとえば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。なお、これらの塩基の中でも、炭酸カリウムが特に好ましい。
【0092】
さらに、この縮合重合反応において、ビスフェノール化合物と塩基との反応で生成する水は、トルエンやベンゼンとの共沸で除くことができる。この共沸脱水は100〜150℃の範囲で行なうことが好ましい。そして、この脱水が完了後に、この縮合重合反応を行なうことが望ましい。
【0093】
この縮合重合反応の温度は、120℃以上であることが好ましい。また、この縮合重合反応の温度は、300℃以下であることが好ましく、特に250℃以下であることが好ましい。この縮合重合反応の温度が120℃未満の場合には、重合度が十分に上がらない傾向があり、この縮合重合反応の温度が300℃を超えると、架橋や分解などの副反応が著しくなるという傾向がある。
【0094】
この縮合重合反応の時間は、3時間以上であることが好ましく、特に5時間以上であることがより好ましい。また、この縮合重合反応の時間は、50時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることが好ましい。この縮合重合反応の時間が3時間未満の場合には、ポリマーの重合度や回収率が低下する傾向があり、この縮合重合反応の時間が50時間を超えると、架橋や分解などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0095】
さらに、この縮合重合反応は窒素、アルゴンなど不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0096】
そして、この縮合重合反応の終了後、重合反応溶液を、水、アセトンなど、得られた樹脂が不溶の溶媒に投入することで、これらの樹脂を含む樹脂組成物を再沈させることができる。さらに、再沈した樹脂は、公知の方法で精製することができる。
【0097】
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖への架橋性基の導入>
上記のポリマー主鎖を有するイオン交換樹脂のうち、芳香族ジハロゲン化合物と、ビスフェノール化合物との共重合で得られるポリマー主鎖を有し、かつスルホン酸基を有するスルホン化樹脂は公知である(たとえば、米国特許出願公開第2002/0091225号明細書参照)。しかし、このスルホン化樹脂への架橋性基の導入についての記載、あるいはその導入を示唆する記載は、この文献には記載されていない。
【0098】
よって、芳香族ジハロゲン化合物と、ビスフェノール化合物との共重合で得られるポリマー主鎖を有し、かつスルホン酸基を有するスルホン化樹脂に、特定の架橋性基を導入して得られるイオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂組成物を、特定の他孔性の支持体膜に含浸させて、さらにこの架橋性基を架橋させることによって、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を得るという技術的思想は、本出願により初めて明らかにされるものである。
【0099】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖への架橋性基の導入を行うためには、架橋性基の原料となる特定の化合物を用いることが好ましい。なお、これらの化合物は、ポリマー主鎖を得るための縮合重合反応系に最初から原料として加えておいてもよいし、この縮合重合反応がある程度進んだ段階で加えてもよい。
【0100】
また、上記の架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入してもよい。あるいは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂など、市場で入手できる、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖となり得る樹脂に、イオン性基および架橋性基を導入してもよい。
【0101】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に熱架橋性基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式11A〜化学式11Kで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0102】
【化9】
【0103】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0104】
これらの化合物を用いて導入される熱架橋性基の中でも、上記の化学式3で表される化学構造を有する熱架橋性基は、下記の化学式12に表されるように、フェノール性水酸基末端を有するポリマー主鎖に、ホルムアルデヒドおよびアミンを反応させることで得ることができる。
【0105】
【化10】
【0106】
(化学式12において、Rは水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基のいずれかを表わす。)
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0107】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に光架橋性基の一種であるラジカル発生基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式13A〜化学式13Dで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0108】
【化11】
【0109】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0110】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に光架橋性基の一種であるラジカルと反応する基(本明細書において、ラジカル反応性基とも記載する)を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式14A〜化学式14Fで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0111】
【化12】
【0112】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0113】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂においては、上記のラジカル発生基とラジカル反応性基とは、同一のポリマー主鎖にあっても、別々のポリマー主鎖にあってもよい。
【0114】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂としては、ラジカル発生基を有する未架橋イオン交換樹脂と、ラジカル反応性基を有する未架橋イオン交換樹脂とを含む二種以上の未架橋イオン交換樹脂を混合して用いてもよいし、あるいはラジカル発生基とラジカル反応性基とをともに有する未架橋イオン交換樹脂を単独で用いてもよい。
【0115】
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂として、二種以上の未架橋イオン交換樹脂を混合して用いる場合には、イオン性基はいずれの未架橋イオン交換樹脂の主鎖にあってもよい。
【0116】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の化学構造の具体例を下記の化学式15A〜化学式15Iとして表わす。なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の化学構造は、これらの化学構造に限定されるものではない。
【0117】
【化13】
【0118】
(化学式15A〜化学式15Iにおいて、Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。mおよびpは、それぞれ独立して、任意の正の整数を表わす。)
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖へのイオン性基の導入>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖へのイオン性基の導入を行うためには、イオン性基の原料となる特定の化合物を用いることが好ましい。なお、これらの化合物は、ポリマー主鎖を得るための縮合重合反応系に最初から原料として加えておいてもよいし、この縮合重合反応がある程度進んだ段階で加えてもよい。
【0119】
また、上記の架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入してもよい。あるいは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂など、市場で入手できる、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖となり得る樹脂に、イオン性基および架橋性基を導入してもよい。
【0120】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖にイオン性基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、イオン性基がスルホン酸基である場合には、無水硫酸、無水硫酸の錯体、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤などを用いることができる。
【0121】
ここで、上記のように架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入するためには、たとえば、架橋性基を有するポリマー主鎖の成形体を、無水硫酸、無水硫酸の錯体、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤で処理する方法を用いることができる。
【0122】
あるいは、架橋性基を有するポリマー主鎖を、スルホン化剤に対して不活性な溶媒に溶解した状態で、スルホン化剤を反応させる方法を用いることもできる。また、架橋性基を有するポリマー主鎖を、適当な溶媒で膨潤させた状態で、スルホン化剤を反応させる方法を用いることもできる。さらに、架橋性基を有するポリマー主鎖を、直接スルホン化剤と反応させる方法を用いることもできる。
【0123】
なお、上記のスルホン化剤はそのまま用いてもよいし、適当な溶媒に溶解、分散した状態で用いることもできる。また、上記のスルホン化反応は、気相や液相で行なうことができる。
【0124】
そして、上記のスルホン化反応の温度は、−100℃以上であることが好ましく、特に−30℃以上であることがより好ましい。また、このスルホン化反応の温度は、100℃以下であることが好ましく、特に80℃以下であることがより好ましい。このスルホン化反応の温度が−100℃未満の場合には、溶液の粘度が著しく上昇したり、反応速度が低下して所望のスルホン化物を得ることが困難になる傾向があり、このスルホン化反応の温度が100℃を超えると、ポリマーの分解や架橋などの副反応が起きやすくなる傾向がある。
【0125】
また、上記のスルホン化反応の時間は、1時間以上であることが好ましく、特に2時間以上であることがより好ましい。また、このスルホン化反応の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に80時間以下であることがより好ましい。このスルホン化反応の時間が1時間未満の場合には、スルホン化が不均一になったり、十分に進行しなかったりする傾向があり、このスルホン化反応の温度が100時間を超えると、ポリマーの分解や架橋などの副反応が起きやすくなる傾向がある。
【0126】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖において、ポリマー主鎖を構成する結合単位のうち、スルホン化反応を受けやすい結合単位とスルホン化反応を受けにくい結合単位の比率を調整することによって、ポリマー主鎖中に導入されるスルホン酸基の量を制御することができる。
【0127】
さらに、上記のスルホン化反応の、反応温度、反応時間などのスルホン化条件を変えることによっても、ポリマー主鎖中に導入されるスルホン酸基の量を制御することができる。
【0128】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖としては、たとえば、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂として例示した、上記の化学式15A〜化学式15Iで表される化学構造を有する未架橋イオン交換樹脂からイオン性基を除いた化学構造の、架橋性基を有するポリマー主鎖が挙げられる。
【0129】
ただし、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖は、これらの化学構造の架橋性基を有するポリマー主鎖に限定されるものではない。
【0130】
<支持体膜>
本発明の複合イオン交換膜に用いる支持体膜は、膜を貫通する連続した空隙を有する多孔性の支持体膜である必要がある。膜を貫通する連続した空隙内にイオン交換樹脂組成物が含浸されていなければ、良好なイオン伝導性を得ることができないからである。
【0131】
ここで、本発明の支持体膜の空隙率は90体積%以上であることが好ましく、特に95体積%以上であることがより好ましい。そして、この空隙率は、当然に100体積%以下であり、99体積%以下であることが好ましい。
【0132】
この空隙率が95体積%未満の場合には、イオン交換樹脂組成物を支持体膜に含浸させた場合の本発明の複合イオン交換膜中に含まれるイオン交換樹脂の含有率が小さくなってイオン伝導性が低下する傾向がある。また、この空隙率が99体積%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0133】
本発明の支持体膜は、少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることが好ましく、特に50%以上であることがより好ましく、さらに60%以上であれば最も好ましい。また、この開孔率は、当然に100%以下であるが、95%以下であることが好ましい。
【0134】
この開孔率が40%未満である場合には、支持体膜中にイオン交換樹脂組成物を含浸させる際に、支持体膜の空隙内部にイオン交換樹脂が含浸されにくくなるため、イオン伝導性が低下する場合がある。また、この開孔率が95%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0135】
本発明に用いる支持体を形成する材質としては、特に限定されず、たとえば、ポリエチレン系、ポリプロピレン系などのポリマーを含むポリオレフィン系樹脂多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン系などのポリマーを含むフッ素系樹脂多孔質膜、ポリイミド系ポリマーを含むポリイミド系樹脂多孔質膜、ポリアミド系ポリマーを含むポリアミド系樹脂多孔質膜、セルロース系ポリマーを含むセルロース系樹脂系多孔質膜、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が挙げられる。
【0136】
なお、これらの材質の中でも、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が、耐熱性、強度に優れ、薄膜化が可能であるため、本発明に用いる支持体膜を形成する材質として特に好ましい。
【0137】
ここで、本発明に用いる支持体膜がポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜を材質とする場合には、本発明に用いる支持体膜は、このポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型されたこの溶液を凝固させてこの支持体膜を得ることにより得られる支持体膜であることが好ましい。
【0138】
また、このようなポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液から製膜され、貧溶媒と接触させて凝固させられることにより得られた膜を洗浄することにより得られる。
【0139】
ここで、上記のポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液が光学異方性を示す溶液である場合には、イオン交換樹脂を大量に含浸できるような、空隙率の大きな連続した空隙を有する多孔質のポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む膜が得られない場合があるため、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液としては、等方性の溶液を用いることが好ましい。
【0140】
なお、本発明に用いる支持体膜に使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)ホモポリマー、ポリベンゾチアゾール(PBT)ホモポリマーおよびポリベンズイミダゾール(PBI)ホモポリマー、もしくは、それらPBO、PBT、PBIのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーをいう。ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾールおよびそれらのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーは公知のものが数多く知られている(たとえば、米国特許出願公開第2002/0091225号明細書、米国特許第4703103号明細書、米国特許4533692号明細書、米国特許第4533724号明細書、米国特許第4533693号明細書、米国特許第4539567号明細書、米国特許第4578432号明細書など参照)。
【0141】
また、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーに含まれる結合単位としては、特に限定するものではないが、たとえば、ライオトロピック液晶ポリマーを形成し得る結合単位から選択されることが好ましい。
【0142】
本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーを形成し得る結合単位の大部分は、化学式(a)〜(s)および(t)〜(aa)に記載されている結合単位からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位であることが好ましい。また、この結合単位の大部分は、これらの中でも、化学式(a)〜(g)および(w)〜(aa)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位であることがより好ましい。
【0143】
さらに、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、そのポリマーを形成する結合単位の大部分が、化学式(a)〜(b)、(w)および(x)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位からなるPBOポリマーであることがより一層好ましい。あるいは、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、そのポリマーを形成する結合単位の大部分が、化学式(e)〜(g)および(aa)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位からなるPBIポリマーであってもより一層好ましい。
【0144】
【化14】
【0145】
【化15】
【0146】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、上記のような結合単位をポリ燐酸溶媒中で縮合重合させることにより得られる。
【0147】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの重合度は極限粘度で表され、この極限粘度は、15dL/g以上であることが好ましく、特に20dL/g以上であることがより好ましい。また、この極限粘度は、35dL/g以下であることが好ましく、特に26dL/g以下であることがより好ましい。
【0148】
この極限粘度が15dL/g未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として得られる支持体膜の強度が低くなる傾向があり、この極限粘度が35dL/gを超えると、等方性の溶液が得られるポリベンザゾール系ポリマー溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度範囲が限られ、等方性の条件での支持体膜の製膜が困難となる場合がある。
【0149】
また、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液からの支持体膜の製膜方法としては、ドクターブレードなどを用いて、このポリマー溶液を基板上にキャスティングする流延法と呼ばれる製膜方法のほかにも、直線状スリットダイからこのポリマー溶液を押出す方法や、円周状スリットダイからこのポリマー溶液をブロー押出しする方法、二枚の基体に挟んだこのポリマー溶液をローラーでプレスするサンドイッチ法、スピンコート法など、このポリマー溶液を膜状に成型するあらゆる方法が使用できる。
【0150】
そして、これらの製膜方法の中でも、本発明に用いる支持体膜の目的に適した特に好ましい製膜方法は、流延法、サンドイッチ法である。流延法の基板やサンドイッチ法の基体には、ガラス板や金属板、樹脂フィルムなどの他、凝固時の支持体膜の空隙構造を制御することなどの目的で、種々の多孔質材料を基板、基体として好ましく用いることができる。
【0151】
また、本発明で用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液は、均一でかつ空隙率の大きな支持体膜を得るためには、等方性条件の組成で支持体膜に製膜することが重要である。
【0152】
そのため、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度は、0.5%以上であることが好ましく、特に0.8%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、2%以下であることが好ましく、特に1.5%以下であることがより好ましい。
【0153】
この濃度が0.5%未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の粘度が小さくなり、適用できる製膜方法が限られ、得られる支持体膜の強度が小さくなる場合がある。また、この濃度が2%を超えると、空隙率の大きな支持体膜が得にくい場合や、ポリベンザゾール系ポリマーのポリマー組成や重合度によっては、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液が異方性を示す場合がある。
【0154】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには、次に示すような方法をとる事ができる。すなわち、重合反応により得られたポリベンザゾール系ポリマーの溶液から一旦ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行なう方法などが具体例として挙げられる。
【0155】
さらには、ポリ燐酸中で縮合重合反応により得られた状態のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から、ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離することなく、そのポリベンザゾール系ポリマーの溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行なう方法なども挙げられる。あるいは、ポリベンザゾール系ポリマーの重合組成を調整することで、上記濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を直接得る方法なども挙げられる。
【0156】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、たとえば、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。これらの中でも、メタンスルホン酸、ポリリン酸が特に好ましい。
【0157】
本発明に用いる支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、たとえば、製膜された等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を、貧溶媒と接触させて凝固させる方法を用いる。この貧溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の溶媒と混和できる溶媒であることが好ましく、液相状態であっても気相状態であってもよい。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組合わせる方法も好ましく用いることができる。
【0158】
ここで、上記の凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液、無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒などを利用することができる。ただし、使用するポリベンザゾール系ポリマーの溶液との組合せによっては、支持体膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じる場合があるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。
【0159】
また、本発明における等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒を選択し、さらに凝固条件を選択することにより、支持体膜の表面および内部の構造、空隙率を制御することができる。
【0160】
これらの中でも、特に好ましい凝固の手段は、水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、およびメタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0161】
そして、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の凝固が進むと、支持体膜は収縮しようとする。そのため、凝固が進行する間は、支持体膜の不均一な収縮によるシワの発生などを抑制する目的で、テンターや固定枠を用いる場合もある。また、ガラス板などの基板上に成型したポリベンザゾール系ポリマーの溶液を凝固する場合には、基板面の粗さを制御することで、基板上での支持体膜の収縮を制御する場合もある。
【0162】
さらに、上記のようにして凝固された支持体膜は、残留する溶媒によるポリベンザゾール系ポリマーの分解の促進や、複合イオン交換膜の材質として使用する際に残留溶媒が流出するなどの問題を避ける目的で、十分に洗浄することが望ましい。この洗浄は、支持体膜を洗浄液に浸漬することで行なうことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、支持体膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行なうことが好ましく、pHが6.5〜7.5の範囲になるまで行なうことがさらに好ましい。
【0163】
そして、上記に述べた特定の濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマーの等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより、本発明に用いる支持体膜の目的に最も適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に適当な開孔率の開孔部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。この支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有する。
【0164】
<複合イオン交換膜の製造方法>
上述のような方法で得られたポリベンザゾール系ポリマーを材質とする多孔質の支持体膜にイオン交換樹脂組成物を含浸させ、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。
【0165】
すなわち、この支持体膜を乾燥させずに、イオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬し、この支持体膜の内部の液をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に置換してから乾燥させる方法により、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。
【0166】
なお、この支持体膜内部の液がイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成にあわせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法を採る場合もある。
【0167】
ここで、等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から得られる多孔質の支持体膜は、乾燥により支持体膜の空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって、空隙構造が収縮するため、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。
【0168】
そのため、この支持体膜の内部にイオン交換樹脂組成物を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、この支持体膜における乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5〜10%の範囲になることが通常である。
【0169】
なお、本発明に用いる支持体膜以外の多孔質支持体膜、たとえば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマーを材質とする多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0170】
本発明に用いる支持体膜のこのような特徴により、この支持体膜の空隙内部の液をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に置換してから乾燥させた場合には、空隙内部に含浸されたこのイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒が蒸発して、このイオン交換樹脂組成物を含む溶液の体積が減少するにつれて、この支持体膜も収縮する。そのため、この支持体膜の内部の空隙が析出したイオン交換樹脂組成物によって満たされた、緻密な複合イオン交換膜の構造を容易に得ることができる。この複合イオン交換膜の構造によって、本発明の複合イオン交換膜は、優れた寸法安定性と機械強度を示すことになる。
【0171】
そして、上記に記述したイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつイオン交換樹脂組成物を溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。
【0172】
ただし、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を支持体膜に含浸させた後に、溶媒を除去してイオン交換樹脂組成物を析出させるためには、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。
【0173】
このような溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどの極性溶媒、クレゾールなどのフェノール類、水、およびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0174】
本発明に用いる支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜である場合には、高い耐熱性を有する。そのため、100℃程度の温度からクリープを生じるポリテトラフルオロエチレン製の支持体膜を用いる従来公知の複合イオン交換膜の作製では使用できない、高沸点の溶媒を含むイオン交換樹脂組成物の溶液を使用して複合イオン交換膜を作製できる。このことからも、本発明に用いる支持体膜は、多くの種類のイオン交換樹脂組成物が選択できるという観点から優れた特徴を有するといえる。
【0175】
なお、本発明に用いるイオン交換樹脂組成物の溶液中のイオン交換樹脂の濃度は、特に限定されるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、50質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることがより好ましい。この濃度が1質量%未満の場合には、複合膜中のイオン交換樹脂含有量が低下するという傾向があり、この濃度が50質量%を超えると、複合膜中で複合層の厚みが占める割合が低下して補強効果が小さくなったり、複合膜の膜厚が大きくなりすぎて発電性能が低下したり、支持体膜へのイオン交換樹脂溶液の含浸が不完全になって複合膜中に空隙が生じやすくなるという傾向がある。
【0176】
さらに、本発明の複合イオン交換膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、特に80質量%以上であることがより好ましい。また、この含有率は当然に100質量%未満であるが、99質量%以下であることが好ましい。この含有率が50質量%未満の場合には、複合イオン交換膜の導電抵抗が大きくなったり、複合イオン交換膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない傾向がある。また、この含有率が99質量%を超えると、複合膜の強度や耐膨潤性が低下するという傾向がある。
【0177】
<複合イオン交換膜の構造>
本発明の複合イオン交換膜の厚みは、10μm以上であることが好ましく、特に20μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、500μm以下であることが好ましく、特に100μm以下であることがより好ましい。この厚みが10μm未満の場合には、燃料のクロスオーバーなどが大きくなるという問題が生じやすくなる。また、この厚みが500μmを超えると、複合イオン交換膜の導電抵抗が増大する傾向がある。
【0178】
本発明の複合イオン交換膜の厚みは、支持体膜を作製する際に支持体膜を形成するポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度やクリアランスを調整したり、イオン交換樹脂組成物を含む溶液の濃度を調整することによって、制御することができる。
【0179】
また、本発明の複合イオン交換膜は、上記のイオン交換樹脂組成物からなる表面層を上記の支持体膜の両面に備えることが好ましい。
【0180】
すなわち、本発明の複合イオン交換膜は、図1に示すように、支持体膜とイオン交換樹脂組成物とを備える複合層2を挟む形で、この複合層2の両面に支持体膜を含まないイオン交換樹脂組成物からなる表面層1,3を有しているとさらに優れた特性を示す。このような構造を有することにより、本発明の複合イオン交換膜は、高い機械的強度を有し、かつ表面に電極層を形成させた場合の電極層との密着性に優れるという優れた特性を有することとなるためである。
【0181】
ここで、この表面層のそれぞれの厚みは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、50μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることがより好ましい。さらに、この厚みは、複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えないことが好ましい。
【0182】
この厚みが1μm未満の場合には、電極層との密着性が低下し、イオン伝導性が低下する場合がある。またこの厚みが50μmを超えるか、あるいは複合イオン交換膜の全厚みの半分を超える場合には、複合層による補強の効果が複合イオン交換膜の最外表面まで及ばず、複合イオン交換膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離する場合がある。
【0183】
また、本発明の複合イオン交換膜においては、機械的強度やイオン伝導性、表面に形成される架橋イオン交換樹脂組成物層の耐剥離性などの特性をさらに向上させる目的で、複合イオン交換膜を適当な条件で熱処理する方法も好ましく用いることができる。
【0184】
また、本発明の複合イオン交換膜においては、表面に形成されるイオン交換樹脂組成物の表面層の厚みを調整するために、この複合イオン交換膜をさらにイオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬してもよい。さらに、本発明の複合イオン交換膜においては、この複合イオン交換膜にイオン交換樹脂組成物を含む溶液を塗布したりしてから乾燥することにより、イオン交換樹脂組成物の層の付着量を増加させてもよい。
【0185】
あるいは、本発明の複合イオン交換膜においては、この複合イオン交換膜をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬した後に、支持体膜の表面に付着したイオン交換樹脂組成物を含む溶液の一部を、スクレーパー、エアナイフ、ローラーなどで掻落としたり、ろ紙やスポンジのような溶液吸収性のある材料で吸収したりすることにより、イオン交換樹脂組成物の層の付着量を減少させたりする方法も用いることができる。
【0186】
さらには、本発明の複合イオン交換膜においては、熱プレスをかけることによりイオン交換樹脂組成物の層の密着性をさらに向上させるなどの方法を併せて用いることもできる。
【0187】
そして、このような構造を有する、本発明の複合イオン交換膜は、高いイオン伝導性を有しながら、機械的強度、耐水性、耐膨潤性に優れる。また、その特性を生かして、本発明の複合イオン交換膜は、固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0188】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0189】
<イオン交換樹脂の合成>
まず、本発明の実施例および比較例に用いるイオン交換樹脂を、下記の合成例のようにして合成した。
【0190】
(i)合成例1:架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)の合成
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ39.30g(80.0mmol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン4.28g(20.0mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン25.63g(100.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン200ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1,000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0191】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を5000mlの純水に注ぎイオン交換樹脂を再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は50℃で減圧乾燥した。
【0192】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.63dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、45.3g(収率74%)だった。
【0193】
(ii)合成例2:架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ29.48g(60.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン11.49g(40.0mmol)、4,4’−ビフェノール18.25g(98.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン170ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1,000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0194】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、反応溶液を140℃まで冷却してから、4−エチニルフェノール0.240g(2.0mmol)とトルエン30mlとを加え、さらに2時間攪拌した。その後、室温まで冷却した溶液を5000mlの純水に注ぎイオン交換樹脂を再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は50℃で減圧乾燥した。
【0195】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.61dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、48.0g(収率92%)だった。
【0196】
(iii)比較合成例1:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ34.38g(70.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン8.62g(30.0mmol)、4,4’−ビフェノール18.62g(100.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン170ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0197】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を5,000mlの純水に注ぎポリマーを再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は、50℃で減圧乾燥した。
【0198】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.77dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、52.5g(収率97%)だった。
【0199】
(iv)比較合成例2:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ12.28g(25.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン21.54g(75.0mmol)を用いた他は、比較合成例1と同様にして、イオン交換樹脂を合成した。
【0200】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.72dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、44.7g(収率99%)だった。
【0201】
(v)比較合成例3:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ19.65g(40.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン17.23g(60.0mmol)を用いた他は、比較合成例1と同様にして、イオン交換樹脂を合成した。
【0202】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.69dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、47.3g(収率98%)だった。
【0203】
<実施例1>
まず、ポリ燐酸中に極限粘度24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14質量%含んだドープに、メタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1質量%の等方性溶液を調製した。
【0204】
次いで、この溶液を、90℃に加熱したガラス板上に、クリアランス300μmのアプリケータを用いて、製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜を、そのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜を作成した。
【0205】
続いて、作成した支持体膜は、両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する多孔質の膜であることを、原子間力顕微鏡による表面形態観察および、透過型電子顕微鏡による断面形態観察により確認した。なお、観察による測定の結果、支持体膜の開孔率は69%、空隙率は98%だった。
【0206】
その後、この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、ジメチルアセトアミド(DMAc)25%水溶液、DMAc50%水溶液、DMAc75%水溶液の順にそれぞれ1時間づつ浸漬した後、最終的にDMAcに浸漬して支持体膜に含まれる溶媒を水からDMAcに置換した。
【0207】
そして、合成例1で重合した架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)20gを、80gのDMAcとともに3日間攪拌して、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を作成した。
【0208】
次いで、上記のようにして得た支持体膜を、このイオン交換樹脂組成物を含む溶液に25℃で15時間浸漬した後、溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液中の溶媒を熱風により揮発させ乾燥させた。
【0209】
そして、乾燥させた膜は、120℃で一晩減圧乾燥を行なった後、金属製の枠に固定したまま、窒素雰囲気下、50℃の条件下、紫外線ランプを用いて1時間光照射した。
【0210】
その後、膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理してスルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。そして、洗浄した膜を風乾したところ、厚み47μmの複合イオン交換膜が得られた。
【0211】
なお、得られた複合イオン交換膜のイオン性基濃度は、2.1meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は93%であり、複合層の厚みは14μmだった。
【0212】
また、得られた複合イオン交換膜は、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.30S/cmであった。
【0213】
さらに、得られた複合イオン交換膜は、良好な耐水性とイオン伝導性を示し、柔軟かつ強靭でハンドリング性に優れていた。
【0214】
<実施例2>
まず、実施例1と同様にして支持体膜を作製し、この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、ジメチルアセトアミド(DMAc)25%水溶液、DMAc50%水溶液、DMAc75%水溶液の順にそれぞれ1時間ずつ浸漬した後、最終的にDMAcに浸漬して支持体膜に含まれる溶媒を水からDMAcに置換した。
【0215】
次いで、合成例2で重合した架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)20gを、80gのDMAcとともに3日間撹拌して、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を作製した。
【0216】
続いて、上記のようにして得た支持体膜をこのイオン交換樹脂組成物を含む溶液に25℃で15時間浸漬した後、この溶液から取出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液中の溶媒を熱風により揮発させ乾燥させた。
【0217】
その後、乾燥させた膜は、70℃で3日間減圧乾燥を行った後、金属製の枠に固定したまま、窒素雰囲気下200℃で、1時間加熱処理した。
【0218】
そして、枠から取外した膜を、80℃の1mol/L硫酸中で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに遊離の酸が検出できなくなるまで水で洗浄し、風乾して厚み0.0048cmの複合イオン交換膜を得た。
【0219】
なお、得られた複合イオン交換膜のイオン性基濃度は、1.9meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は92%であり、複合層の厚みは14μmだった。
【0220】
また、得られた複合イオン交換膜は、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.29S/cmであった。
【0221】
さらに、得られた複合イオン交換膜は、良好な耐水性とイオン伝導性を示し、柔軟かつ強靭でハンドリング性に優れていた。
【0222】
<比較例1>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例1の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)を用いた他は、実施例1と同様にして、複合イオン交換膜を作製したところ、硫酸および水洗の過程で、膜の膨潤が著しかった。
【0223】
本比較例の複合イオン交換膜の厚みは11μmであり、実施例1および実施例2の場合に比べて薄かった。
【0224】
さらに、本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は1.1meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は65%であり、複合層の厚みは8μmであり、耐水性試験での質量減少率は50%であり、イオン伝導性は0.09S/cmだった。
【0225】
加えて、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落が大きく、イオン伝導性が低かった。
【0226】
<比較例2>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例2の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)を用いた他は、実施例1と同様にして、厚み50μmの複合イオン交換膜を得た。
【0227】
本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は0.8meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は90%であり、複合層の厚みは15μmであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.07S/cmだった。
【0228】
また、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落は起こらず良好な複合膜が得られたが、イオン伝導性は低かった。
【0229】
<比較例3>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例3の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)を用いた他は、実施例1と同様にして、厚み46μmの複合イオン交換膜を得た。
【0230】
本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は1.3meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は89%であり、複合層の厚みは13μmであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.13S/cmだった。
【0231】
また、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落は起こらず良好な複合膜が得られたが、イオン伝導性は低かった。
【0232】
<比較例4>
本比較例では、一般的なイオン交換膜として、ナフィオン(登録商標)112について同様の評価を行なった。
【0233】
その結果、本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は0.9meq/gであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.18S/cmだった。
【0234】
<比較例5>
まず、合成例1の架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0235】
次いで、ガラス板から膜を剥離した後、金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下において、50℃で紫外線ランプで1時間光照射した。
【0236】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み47μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0237】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.2meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.33S/cmであり、良好な耐水性とイオン伝導性を示したが、膜は固くて柔軟性に欠け、やや脆かった。
【0238】
<比較例6>
まず、合成例2の架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0239】
次いで、ガラス板から膜を剥離した後、金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下200℃で1時間処理した。
【0240】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み49μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0241】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.1meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.33S/cmであり、良好な耐水性とイオン伝導性を示したが、この膜も固くて柔軟性に欠け、やや脆かった。
【0242】
<比較例7>
まず、比較合成例1の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0243】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み49μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0244】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.3meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験では、膜が溶解してしまい固形分が回収できなかった。
【0245】
そして、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.27S/cmだったが、測定中の膜の膨潤が著しく、測定後で膜は原型を留めていなかった。
【0246】
<比較例8>
まず、イオン交換樹脂として、比較合成例2の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)を用いた他は、比較例7と同様にして、厚み50μmの透明なイオン交換膜を得た。
【0247】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は0.8meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%だった。
【0248】
しかし、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.07S/cmと低かった。
【0249】
<比較例9>
まず、イオン交換樹脂として、比較合成例3の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)を用いた他は、比較例7と同様にして、厚み44μmの透明なイオン交換膜を得た。
【0250】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は1.4meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は5%だった。
【0251】
そして、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.18S/cmとNafion(商品名)と同等だった。
【0252】
<各種測定方法および評価方法>
本発明の実施例および比較例においては、各種測定方法および評価方法は以下の方法に従って行なった。
【0253】
(i)極限粘度の測定方法
支持体膜を形成するポリマーについて、メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/Lの濃度に調整したポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、極限粘度を算出した。
【0254】
(ii)支持体膜の表面開孔率の測定方法
支持体膜の表面開孔率は次の方法により測定した。
【0255】
まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、(株)日立製作所製、臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO2臨界点乾燥を施した。
【0256】
次いで、このようにして臨界点乾燥した支持体膜に、厚さ150オングストロームの白金コートを施し、(株)日立製作所製、SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
【0257】
続いて、図2で示すように、撮影した支持体膜の表面の撮影倍率1万倍の走査型電子顕微鏡写真上で、5μm角に相当する視野を選び、膜の最外表面に相当するポリマー部分を白、それ以外の部分を黒に色分けした後、イメージスキャナーを用いて画像をコンピューターに取り込み、米国Scion社製の画像解析ソフトである、Scion Imageを用いて、画像のヒストグラムから画像中の黒部分が占める比率を測定した。なお、図2において、符号4は支持体膜のフィブリルを示し、符号5は空隙を示す。
【0258】
そして、上記の操作を一つのサンプルに対して各3回行い、その平均値を計算して、支持体膜の表面開孔率とした。
【0259】
(iii)支持体膜の空隙率の測定方法
支持体膜の空隙率は次の方法により測定した。
【0260】
まず、含水状態の支持体膜の重量と、絶乾状態の支持体膜の重量と、の差から求められた水の重量を、水の密度で除して、膜内の空隙を満たす水の体積Vw[mL]を得た。
【0261】
次いで、Vwと含水状態の膜の体積Vm[mL]から以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
支持体膜の空隙率[%]=Vw/Vm×100
(iv)イオン交換膜を構成する各層の厚さの測定方法
イオン交換膜を構成する複合層の厚さ、およびこの複合層を挟む形で複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂組成物からなる表面層の厚さは、下記のようにして測定した。
【0262】
まず、幅300μm×長さ5mmに切り出したイオン交換膜片を、ルベアック812(ナカライテスク(株)製)/ルベアックNMA(ナカライテスク(株)製)/DMP30(TAAB製)=100/89/4の組成とした樹脂で包埋し、60℃で12時間硬化させて試料ブロックを作製した。
【0263】
次いで、ウルトラミクロトーム(LKB製、2088ULTROTOME V)を用いて、平滑な断面が露出するようブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電気工業(株)製、SK2045)で切削した。
【0264】
続いて、このようにして露出させたイオン交換膜の断面を光学顕微鏡で写真撮影し、既知の長さのスケールを同倍率で撮影したものと比較することで各層の厚みを測定した。
【0265】
支持体膜の空隙率が大きい場合などで、少なくとも一方の面の表面層とその内側の複合層とが明確な界面を形成せずに、界面付近の構造が連続的に変化している場合があるが、その場合は光学顕微鏡で連続的な構造の変化が確認できる部分のうち、イオン交換膜の外表面に最も近い部分を複合層の最外表面として、そこからイオン交換膜の外表面までの距離を表面層の厚みとした。
【0266】
(v)イオン伝導性の測定方法
まず、自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で、短冊状イオン交換膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃95%RHの恒温、恒湿オーブン((株)ナガノ科学機械製作所製、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間の10KHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社製、1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。
【0267】
その際、極間距離を変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした勾配から、以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルしたイオン伝導率を算出した。
イオン伝導率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
(vi)イオン交換樹脂の対数粘度の測定方法
イオン交換樹脂を、ポリマー濃度0.25g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0268】
(vii)イオン交換膜のイオン性基含有量の測定方法
まず、イオン交換膜100mgを、0.01NのNaOH水溶液50mlに浸漬し、25℃で一晩攪拌した。その後、0.05NのHCl水溶液で中和滴定した。中和滴定には、平沼産業(株)製、電位差滴定装置COMTITE−980を用いた。イオン性基含有量は下記式で計算して求めた。
イオン性基含有量[meq/g]=(10−滴定量[ml])/2
(viii)イオン交換膜のイオン交換樹脂(ICP)含有率の測定方法
イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。
【0269】
まず、110℃で6時間真空乾燥させたイオン交換膜の目付けDc[g/m2]を測定した。次いで、イオン交換膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜を、イオン交換樹脂組成物を複合化させずに乾燥させて乾燥支持体膜の目付けDs[g/m2]を測定した。そして、これらの値から、以下の計算によりイオン交換膜のイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[質量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
(ix)耐水性試験
まず、イオン交換膜50mgを、5mlのイオン交換水と共に、ガラスアンプル中に封入した。次いで、このアンプルを105℃で3日間加熱した。そして、冷却後にアンプルを開封し、1G2のガラスフィルターで固形物を濾取した。
【0270】
そして、フィルターは80℃で一晩減圧乾燥し、濾過前後の質量の変化から、固形分の質量を求め、質量減少率を求めた。
質量減少率[%]=残留物質量[mg]/50×100
これらの測定結果および評価結果から分かるように、比較例1〜8の複合イオン交換膜またはイオン交換膜は、イオン伝導性、耐膨潤性、機械的強度、耐水性などのいずれかの指標において欠点が認められ、燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に用いることは困難である。
【0271】
また、比較例9の従来公知のイオン交換膜は、特に著しい欠点は認められないが、実施例1および実施例2に比べると、イオン伝導性も低く、耐水性でも劣るため、燃料電池の高分子固体電解質膜としての適性は、実施例1および実施例2の複合イオン交換膜に対して劣る。
【0272】
一方で、実施例1および実施例2の複合イオン交換膜は、イオン伝導性が良好であるとともに、複合化の点でも良好であり、さらに膨潤についても抑制されており、耐水性にも優れているため、燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に用いることができる、優れた特性を有する複合イオン交換膜であることが明らかとなった。
【0273】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0274】
【発明の効果】
上記の結果より、本発明の複合イオン交換膜は、耐膨潤性が高く、機械的強度と、耐水性と、イオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜である。
【0275】
そのため、本発明の複合イオン交換膜は、固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合イオン交換膜の一例の断面構造の概略を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる支持体膜の一例を、イオン交換樹脂組成物との複合化前に臨界点乾燥して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した像の写真を写した図である。
【符号の説明】
1,3 表面層、2 複合層、4 支持体膜のフィブリル、5 空隙。
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合イオン交換膜に関する。さらに詳しくは、本発明は、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂を含む膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、たとえば米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
【0004】
しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜は100℃以上では軟化するため、この膜を用いた燃料電池では運転温度が80℃以下に制限されていた。運転温度が上がると、エネルギー効率、装置の小型化、触媒活性の向上など、さまざまな利点があるため、耐熱性の高分子固体電解質膜が検討されてきた。
【0005】
そこで、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜に代わる高分子固体電解質膜として、ポリエーテルエーテルケトン系やポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系などのポリマーに、スルホン酸基などのイオン性基を導入したポリマーを含有する、いわゆる炭化水素系高分子固体電解質が近年盛んに検討されている。しかし、このような炭化水素系高分子固体電解質は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜に比べて、水和、膨潤しやすく、高湿度下での耐水性に問題があった。
【0006】
このような膨潤を抑制する方策の一つとして、塩基性ポリマーとの混合による技術が検討されている。この技術は、高分子固体電解質膜中のスルホン酸基を、塩基性ポリマーによって架橋することで膨潤を抑制しようとするものである。たとえば、スルホン酸基を有するポリエーテルスルホン系ポリマーや、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトン系ポリマー(酸性ポリマー)などと、ポリベンズイミダゾール系ポリマー(塩基性ポリマー)との混合物を用いる技術などがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
また、イオン性基であるスルホン酸基間を共有結合により架橋することで、膨潤を抑制する技術も検討されている(たとえば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0008】
しかし、上記の技術は、いずれも膨潤自体は抑制できるものの、イオン性基が架橋反応によりイオン性を示さなくなるため、イオン伝導性が低下するという問題点があった。
【0009】
ここで、架橋構造を有する高分子固体電解質膜として、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体のスルホン化物を含む膜は、初期の固体高分子形燃料電池に使用されたことで良く知られている。しかし、この高分子固体電解質膜は、ポリマー骨格そのものの耐水性に乏しく、燃料電池として満足な性質を示さなかった。
【0010】
また、ルイス酸を触媒としてポリマー中のクロロメチル基を架橋反応させて得られるイオン交換体に関する技術もある(たとえば、特許文献5、特許文献6参照)。しかし、この技術の架橋反応には、触媒が必要である。よって、ポリマーと触媒を混合してイオン交換体の成形体を得る場合には、触媒の残留が問題となる。また、ポリマーの成形体を触媒で処理してイオン交換体の成形体を得る場合には、ポリマーの成形体の内部で架橋反応が起こりにくいことが問題となる。
【0011】
さらに、高分子固体電解質膜の機械的強度を向上させ、寸法変化を抑制する技術として、高分子固体電解質膜に種々の補強材を組合わせた複合高分子固体電解質膜が提案されている。
【0012】
具体例としては、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む膜の空隙部に、イオン交換樹脂であるパーフルオロカーボン系スルホン酸ポリマーを含むイオン交換樹脂組成物を含浸し、一体化した複合高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献7参照)や、パーフルオロカーボン系スルホン酸ポリマーを含む膜内に、補強材としてフィブリル化されたポリテトラフルオロエチレン系ポリマーが分散された複合高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献8参照)や、ポリベンゾオキサゾール多孔質膜と、種々のイオン交換樹脂と、を複合化した高分子固体電解質膜(たとえば、特許文献9参照)などに関する技術が、それぞれ検討されている。
【0013】
しかし、これらの技術では、高分子固体電解質膜の強度向上と寸法変化抑制を補強材にのみ依存しているため、イオン交換樹脂の膨潤性が大きい場合には、強度向上と寸法変化抑制の効果が充分ではなかった。
【0014】
また、多孔性基材中にプロトン伝導性を有するポリマーを充填した高分子固体電解質膜に関する技術も検討されている(たとえば、特許文献10参照)。しかし、このプロトン伝導性ポリマーは、多孔質基材中に浸透させたモノマーを重合して得られたポリマーである。そのため、高分子固体電解質膜の表面のプロトン伝導性ポリマーを含む層の厚みを大きくすることができないので、高分子固体電解質膜への電極の接合が難しかった。
【0015】
【特許文献1】
国際公開第99/54389号パンフレット
【0016】
【特許文献2】
特開平6−93114号公報
【0017】
【特許文献3】
国際公開第99/61141号パンフレット
【0018】
【特許文献4】
特開2001−522401号公報
【0019】
【特許文献5】
特開平2−248434号公報
【0020】
【特許文献6】
特開平2−245035号公報
【0021】
【特許文献7】
特開平8−162132号公報
【0022】
【特許文献8】
特開2001−35508号公報
【0023】
【特許文献9】
国際公開第WO00/22684号パンフレット
【0024】
【特許文献10】
特開2002−83612号公報
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
上記の現状に基づき、本発明の主要な課題は、燃料電池などのプロトン交換膜に好適に用いることのできる、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を提供することである。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するためには、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に架橋性基を有するイオン交換樹脂と、多孔質の支持体膜とを用い、多孔質の支持体膜にイオン交換樹脂を含浸させた上で架橋させて、複合イオン交換膜を得ればよいとの着想を得、そのような複合イオン交換膜の中から、燃料電池における高分子固体電解質膜として好適な特性を有するものを見出すべく、鋭意研究開発を行った。
【0027】
その結果、本発明者らは、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物を、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜に含浸させた上で光架橋および/または熱架橋させることにより、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を得られることを見出した。
【0028】
また、本発明者らは、上記の分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂が特定の化学構造を有する場合には、さらに複合イオン交換膜の性能が向上することを明らかにした。そして、本発明者らは、上記の複合イオン交換膜を特定の構造にすることによって、さらに複合イオン交換膜の性能が向上することを明らかにし、本発明の完成に至った。
【0029】
すなわち、本発明の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、この支持体膜は、この空隙中にこのイオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、このイオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜である。
【0030】
ここで、この光架橋性基は、化学式1で表される化学構造の架橋性基および化学式2で表される化学構造の架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0031】
【化3】
【0032】
(化学式1および化学式2において、Rは炭素数が1〜10の範囲の脂肪族炭化水素基を表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
そして、この熱架橋性基は、化学式3〜化学式8で表される化学構造の熱架橋性基からなる群より選ばれる1種類以上の熱架橋性基であることが望ましい。
【0033】
【化4】
【0034】
(化学式3〜化学式8において、R1〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基、ハロゲン原子のいずれかを表わす。Zは、水素原子、炭素数1〜10の範囲の炭化水素基、ハロゲン、ニトロ基、−SO3X基のいずれかを表わす。Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
また、このイオン性基は、スルホン酸基および/またはホスホン酸基であることが好ましい。さらに、このイオン交換樹脂のポリマー主鎖は、ポリエーテルスルホン系主鎖またはポリエーテルケトン系主鎖であることが望ましい。
【0035】
そして、本発明の複合イオン交換膜は、このイオン交換樹脂組成物からなる表面層をこの支持体膜の両面に備えることが好ましい。
【0036】
ここで、この表面層のそれぞれの厚みは、1〜50μmの範囲であり、かつこの複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲であることが望ましい。また、この支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率は、40〜95%の範囲にあることが推奨される。
【0037】
さらに、この支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として含むことが好ましい。
【0038】
そして、この支持体膜は、このポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型されたこの溶液を凝固させてこの支持体膜を得ることにより得られる支持体膜であることが望ましい。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
【0040】
<複合イオン交換膜>
本発明の複合イオン交換膜は、イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、この支持体膜は、この空隙中にこのイオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、このイオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂(本明細書において、架橋済イオン交換樹脂とも記載する)を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜である。
【0041】
<未架橋イオン交換樹脂>
ここで、上記の分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂(本明細書において、未架橋イオン交換樹脂とも記載する)の数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、特に5,000以上であることがより好ましい。また、この数平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、特に500,000以下であることが特に好ましい。
【0042】
この数平均分子量が上記の範囲内にある場合には、未架橋イオン交換樹脂の物性と加工性のバランスが取れるために好ましい。この分子量が1,000未満の場合には、膜の形成が困難になる傾向があり、この分子量が1,000,000を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取扱いが困難になるという傾向がある。
【0043】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の重合度は、後述する対数粘度で表わすこともできる。すなわち、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂を0.25g/dlのN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解した場合の30℃における対数粘度は、0.1以上であることが好ましく、特に0.4以上であることがより好ましい。また、この対数粘度は、2.0以下であることが好ましく、特に1.5以下であることがより好ましい。
【0044】
この対数粘度が0.1未満の場合には、膜の形成が困難になる傾向があり、この対数粘度が2.0を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取扱いが困難になるという傾向がある。
【0045】
さらに、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂が分子中に有するイオン性基は、特に限定するものではないが、たとえば、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などのイオン性基であることが好ましい。ここで、本明細書において、イオン性基とは、イオンに解離することのできる基を示す。
【0046】
なお、これらのイオン性基の中でも、スルホン酸基は、イオン伝導性が高いため、特に好ましい。また、ホスホン酸基も、高温でもイオン伝導性を示すため、特に好ましい。
【0047】
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中のイオン性基の平均含有量は、0.1mmol/g以上であることが好ましく、特に1.0mmol/g以上であることがより好ましい。また、このイオン性基の平均含有量は、5.0mmol/g以下であることが好ましく、特に3.0mmol/g以下であることがより好ましい。
【0048】
このイオン性基の平均含有量が0.1mmol/g未満の場合には、イオン伝導性が著しく低下する傾向があり、このイオン性基の平均含有量が5.0mmol/gを超えると、架橋で抑制できないほど膜の膨潤性が著しく大きくなるという傾向がある。
【0049】
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中には、イオン性基を有する結合単位とイオン性基を有さない結合単位との共重合などの反応によって、イオン性基の量を制御しながらイオン性基を導入することができる。
【0050】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する架橋性基は、熱架橋性基および/または光架橋性基などの架橋性の反応性基であることが必要である。ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する架橋性基は、少なくとも熱架橋性基または光架橋性基を含んでいる必要があるが、他の架橋性の反応性基を含んでいても構わない。
【0051】
なお、本明細書において、熱架橋性基とは、加熱することによって架橋する性質を有する基を示す。また、本明細書において、光架橋性基とは、光照射によって架橋する性質を有する基を示す。さらに、本明細書において、架橋性基とは、熱架橋性基と光架橋性基とをともに含み、さらには他の架橋性の反応性基をも含む概念である。
【0052】
さらに、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中のこれらの架橋性基の平均含有量は、1分子中1個以上であることが好ましく、特に1mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この平均含有量は、5,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0053】
この架橋性基の平均含有量が1分子中1個未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この架橋性基の平均含有量が5,000mmol/kgを超えると、イオン伝導性が低下したり、架橋後の膜の柔軟性が失われて取扱いが困難になるという傾向がある。
【0054】
そして、これらの架橋性基は、それぞれの反応性に応じた方法で処理することにより架橋させることができる。すなわち、熱架橋性基は、加熱処理により架橋させることができ、光架橋性基は、光照射処理により架橋させることができる。
【0055】
<熱架橋性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、特に限定するものではないが、たとえば、エチレン基、エチニル基などの多重結合基や、ベンゾオキサジン基、オキサゾール基などを挙げることができる。
【0056】
さらに、これらの基は、メチル基、フェニル基などの置換基を有していてもよい。なお、これらの熱架橋性基は、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の主鎖中に存在してもよく、側鎖として存在してもよく、末端基として存在してもよいが、未架橋イオン交換樹脂の末端基として存在することが特に好ましい。
【0057】
ここで、このような熱架橋性基は、熱架橋性基を有する化学構造を有する原料モノマーを、熱架橋性基を有さない化学構造を有する他の原料モノマーと混合して、共重合モノマーや末端停止剤の役割を担う原料モノマーとして重合反応させることで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂に導入することができる。
【0058】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の熱架橋性基の平均含有量は、1mmol/kg以上であることが好ましく、特に5mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この熱架橋性基の平均含有量は、1,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0059】
この熱架橋性基の平均含有量が1mmol/kg未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この熱架橋性基の平均含有量が1,000mmol/kgを超えると、未架橋イオン交換樹脂の分子量が低下して膜の形成が困難になる傾向がある。
【0060】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基の架橋は、加熱処理によって行なうことができる。なお、この加熱処理は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0061】
また、この加熱処理の温度は、100℃以上であることが好ましく、特に200℃以上であることがより好ましい。さらに、この加熱処理の温度は、400℃以下であることが好ましく、特に300℃以下であることがより好ましい。この加熱処理の温度が100℃未満の場合には、架橋反応が十分に進行しない傾向があり、この加熱処理の温度が400℃を超えると、イオン交換樹脂そのものの熱分解が起こりやすくなるという傾向がある。
【0062】
さらに、この加熱処理の時間は、1秒以上であることが好ましく、特に60秒以上であることがより好ましい。また、この加熱処理の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることがより好ましい。この加熱処理の時間が1秒未満の場合には、膜の内部まで十分に熱が伝わらず架橋反応が不均一になるという傾向があり、この加熱処理の時間が100時間を超えると、イオン交換樹脂そのものの分解や変性が起こりやすくなるという傾向がある。
【0063】
そして、この加熱処理を行なう場合に応じて、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂を含有する樹脂組成物中には、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤などの公知の任意の重合開始剤を添加してもよい。
【0064】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、化学式3〜化学式8で表される化学構造の熱架橋性基からなる群より選ばれる1種類以上の熱架橋性基であることが望ましい。
【0065】
【化5】
【0066】
(化学式3〜化学式8において、R1〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基、ハロゲン原子のいずれかを表わす。Zは、水素原子、炭素数1〜10の範囲の炭化水素基、ハロゲン、ニトロ基、−SO3X基のいずれかを表わす。Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
なお、これらの熱架橋性基は、単一の種類のみであってもよいが、複数の種類の熱架橋性基が同一の未架橋イオン交換樹脂の分子中に混在していてもよい。
【0067】
<光架橋性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する熱架橋性基は、特に限定するものではないが、たとえば、ベンゾフェノン基、α−ジケトン基、アシロイン基、アシロインエーテル基、ベンジルアルキルケタール基、アセトフェノン基、多核キノン類からなる基、チオキサントン基、アシルフォスフィン基などを挙げることができる。
【0068】
また、これらの光架橋性基の中でも、ベンゾフェノン基などの光によりラジカルを発生することのできる基と、メチル基やエチル基などの飽和炭化水素基を有する芳香族基、エチレン性不飽和基などの、ラジカルと反応することのできる基とを組合わせて用いることが特に好ましい。
【0069】
もっとも、未架橋イオン交換樹脂の骨格構造によっては、ベンゾフェノン基などの光でラジカルを発生する基だけでも、架橋反応が起きる場合がある。その場合には、ラジカルと反応することのできる基は必ずしも必要ではなく、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂は、ラジカル発生基だけを有していてもよい。
【0070】
なお、これらの光架橋性基は、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の主鎖中に存在してもよく、側鎖として存在してもよく、末端基として存在してもよいが、未架橋イオン交換樹脂の末端基として存在することが特に好ましい。
【0071】
ここで、このような光架橋性基は、光架橋性基を有する化学構造を有する原料モノマーを、光架橋性基を有さない化学構造を有する他の原料モノマーと混合して、共重合モノマーや末端停止剤の役割を担う原料モノマーとして重合反応させることで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂に導入することができる。
【0072】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂中の光架橋性基の平均含有量は、1mmol/kg以上であることが好ましく、特に5mmol/kg以上であることがより好ましい。また、この光架橋性基の平均含有量は、5,000mmol/kg以下であることが好ましく、特に500mmol/kg以下であることがより好ましい。
【0073】
この光架橋性基の平均含有量が1mmol/kg未満の場合には、架橋による膨潤抑制効果は極めて小さくなるという傾向があり、この光架橋性基の平均含有量が5,000mmol/kgを超えると、イオン伝導性が低下したり、架橋後の膜の柔軟性が失われて取扱いが困難になるという傾向がある。
【0074】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する光架橋性基の架橋は、光照射処理によって行なうことができる。なお、この光照射処理は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0075】
また、この光照射処理の際の温度は、室温(25℃)以上であることが好ましく、特に50℃以上であることがより好ましい。さらに、この光照射処理の際の温度は、250℃以下であることが好ましく、特に200℃以下であることがより好ましい。この光照射処理の際の温度が室温(25℃)未満の場合には、架橋反応が進行し難い傾向があり、この光照射処理の際の温度が250℃を超えると、分解などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0076】
さらに、この光照射処理の時間は、1秒以上であることが好ましく、特に30秒以上であることがより好ましい。また、この光照射処理の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることがより好ましい。この光照射処理の時間が1秒未満の場合には、架橋反応の進行度が膜の面方向で不均一になる傾向があり、この光照射処理の時間が100時間を超えると、イオン交換樹脂の分解や劣化などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0077】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有する光架橋性基は、化学式1で表される化学構造の架橋性基および化学式2で表される化学構造の架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0078】
【化6】
【0079】
(化学式1および化学式2において、Rは炭素数が1〜10の範囲の脂肪族炭化水素基を表わす。nは、1〜4の範囲の整数を表わす。)
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂は、化学式1および化学式2で表される化学構造の二種類の光架橋性基をともに含むことが好ましい。
【0080】
<その他の架橋性を有する反応性基>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の有するその他の架橋性を有する反応性基としては、特に限定するものではないが、たとえば、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、ハロメチル基、カルボキシル基などの反応性基が挙げられる。
【0081】
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖としては、特に限定されず、公知の任意のポリマー主鎖を用いることができる。具体例としては、ポリエーテルスルホン系主鎖、ポリエーテルケトン系主鎖、ポリスルフィド系主鎖、ポリフェニレン系主鎖、ポリベンズオキサゾール系主鎖、ポリベンズイミダゾール系主鎖、ポリベンズチアゾール系主鎖、ポリケトン系主鎖、ポリスルホン系主鎖などが、耐水性に優れるため好ましい。なお、これらのポリマー主鎖の中でも、合成の容易さからは、ポリエーテルスルホン系主鎖、ポリエーテルケトン系主鎖が特に好ましい。
【0082】
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖として好ましい、ポリエーテルスルホン系主鎖やポリエーテルケトン系主鎖は、たとえば、電子吸引性基を有する芳香族ジハロゲン系化合物と、ビスフェノール系化合物とを縮合重合することで得られる。
【0083】
ここで、上記の縮合重合反応に用いる芳香族ジハロゲン化合物としては、特に限定されないが、たとえば、下記の化学式9A〜化学式9Iで表される化学構造を有する化合物を挙げることができる。
【0084】
【化7】
【0085】
(化学式9A〜化学式9Iにおいて、XはH,Li,Na,Kのいずれかを表わす。)
なお、これらの芳香族ジハロゲン化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0086】
また、上記の縮合重合反応に用いるビスフェノール化合物としては、特に限定されないが、たとえば、下記の化学式10A〜化学式10Pで表される化学構造を有する化合物を挙げることができる。
【0087】
【化8】
【0088】
なお、これらのビスフェノール化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0089】
また、この縮合重合反応は、公知の方法で行なうことができる。すなわち、この縮合重合反応は、有機溶媒中で塩基の存在下、電子吸引性基を有する芳香族ジハロゲン系化合物と、ビスフェノール系化合物とを含む混合溶液を加熱することで行なうことができ、ポリエーテルスルホン系主鎖やポリエーテルケトン系主鎖を得ることができる。
【0090】
この縮合重合反応において用いる有機溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。なお、これらの有機溶媒の中でも、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0091】
また、この縮合重合反応において用いる塩基としては、たとえば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。なお、これらの塩基の中でも、炭酸カリウムが特に好ましい。
【0092】
さらに、この縮合重合反応において、ビスフェノール化合物と塩基との反応で生成する水は、トルエンやベンゼンとの共沸で除くことができる。この共沸脱水は100〜150℃の範囲で行なうことが好ましい。そして、この脱水が完了後に、この縮合重合反応を行なうことが望ましい。
【0093】
この縮合重合反応の温度は、120℃以上であることが好ましい。また、この縮合重合反応の温度は、300℃以下であることが好ましく、特に250℃以下であることが好ましい。この縮合重合反応の温度が120℃未満の場合には、重合度が十分に上がらない傾向があり、この縮合重合反応の温度が300℃を超えると、架橋や分解などの副反応が著しくなるという傾向がある。
【0094】
この縮合重合反応の時間は、3時間以上であることが好ましく、特に5時間以上であることがより好ましい。また、この縮合重合反応の時間は、50時間以下であることが好ましく、特に30時間以下であることが好ましい。この縮合重合反応の時間が3時間未満の場合には、ポリマーの重合度や回収率が低下する傾向があり、この縮合重合反応の時間が50時間を超えると、架橋や分解などの副反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0095】
さらに、この縮合重合反応は窒素、アルゴンなど不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0096】
そして、この縮合重合反応の終了後、重合反応溶液を、水、アセトンなど、得られた樹脂が不溶の溶媒に投入することで、これらの樹脂を含む樹脂組成物を再沈させることができる。さらに、再沈した樹脂は、公知の方法で精製することができる。
【0097】
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖への架橋性基の導入>
上記のポリマー主鎖を有するイオン交換樹脂のうち、芳香族ジハロゲン化合物と、ビスフェノール化合物との共重合で得られるポリマー主鎖を有し、かつスルホン酸基を有するスルホン化樹脂は公知である(たとえば、米国特許出願公開第2002/0091225号明細書参照)。しかし、このスルホン化樹脂への架橋性基の導入についての記載、あるいはその導入を示唆する記載は、この文献には記載されていない。
【0098】
よって、芳香族ジハロゲン化合物と、ビスフェノール化合物との共重合で得られるポリマー主鎖を有し、かつスルホン酸基を有するスルホン化樹脂に、特定の架橋性基を導入して得られるイオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂組成物を、特定の他孔性の支持体膜に含浸させて、さらにこの架橋性基を架橋させることによって、耐膨潤性が高く、機械的強度と耐水性とイオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜を得るという技術的思想は、本出願により初めて明らかにされるものである。
【0099】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖への架橋性基の導入を行うためには、架橋性基の原料となる特定の化合物を用いることが好ましい。なお、これらの化合物は、ポリマー主鎖を得るための縮合重合反応系に最初から原料として加えておいてもよいし、この縮合重合反応がある程度進んだ段階で加えてもよい。
【0100】
また、上記の架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入してもよい。あるいは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂など、市場で入手できる、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖となり得る樹脂に、イオン性基および架橋性基を導入してもよい。
【0101】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に熱架橋性基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式11A〜化学式11Kで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0102】
【化9】
【0103】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0104】
これらの化合物を用いて導入される熱架橋性基の中でも、上記の化学式3で表される化学構造を有する熱架橋性基は、下記の化学式12に表されるように、フェノール性水酸基末端を有するポリマー主鎖に、ホルムアルデヒドおよびアミンを反応させることで得ることができる。
【0105】
【化10】
【0106】
(化学式12において、Rは水素原子、炭素数1〜10の範囲のアルキル基、フェニル基、炭素数6〜20の範囲の芳香族基のいずれかを表わす。)
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0107】
そして、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に光架橋性基の一種であるラジカル発生基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式13A〜化学式13Dで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0108】
【化11】
【0109】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0110】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖に光架橋性基の一種であるラジカルと反応する基(本明細書において、ラジカル反応性基とも記載する)を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記の化学式14A〜化学式14Fで表される化学構造を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物を挙げることができる。
【0111】
【化12】
【0112】
なお、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いてもよい。
【0113】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂においては、上記のラジカル発生基とラジカル反応性基とは、同一のポリマー主鎖にあっても、別々のポリマー主鎖にあってもよい。
【0114】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂としては、ラジカル発生基を有する未架橋イオン交換樹脂と、ラジカル反応性基を有する未架橋イオン交換樹脂とを含む二種以上の未架橋イオン交換樹脂を混合して用いてもよいし、あるいはラジカル発生基とラジカル反応性基とをともに有する未架橋イオン交換樹脂を単独で用いてもよい。
【0115】
なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂として、二種以上の未架橋イオン交換樹脂を混合して用いる場合には、イオン性基はいずれの未架橋イオン交換樹脂の主鎖にあってもよい。
【0116】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の化学構造の具体例を下記の化学式15A〜化学式15Iとして表わす。なお、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の化学構造は、これらの化学構造に限定されるものではない。
【0117】
【化13】
【0118】
(化学式15A〜化学式15Iにおいて、Xは、H原子あるいは1価の金属イオンを表わす。mおよびpは、それぞれ独立して、任意の正の整数を表わす。)
<未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖へのイオン性基の導入>
本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖へのイオン性基の導入を行うためには、イオン性基の原料となる特定の化合物を用いることが好ましい。なお、これらの化合物は、ポリマー主鎖を得るための縮合重合反応系に最初から原料として加えておいてもよいし、この縮合重合反応がある程度進んだ段階で加えてもよい。
【0119】
また、上記の架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入してもよい。あるいは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニルスルホン系樹脂など、市場で入手できる、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖となり得る樹脂に、イオン性基および架橋性基を導入してもよい。
【0120】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂のポリマー主鎖にイオン性基を導入するための化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、イオン性基がスルホン酸基である場合には、無水硫酸、無水硫酸の錯体、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤などを用いることができる。
【0121】
ここで、上記のように架橋性基を既に導入されたポリマー主鎖にイオン性基を導入するためには、たとえば、架橋性基を有するポリマー主鎖の成形体を、無水硫酸、無水硫酸の錯体、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤で処理する方法を用いることができる。
【0122】
あるいは、架橋性基を有するポリマー主鎖を、スルホン化剤に対して不活性な溶媒に溶解した状態で、スルホン化剤を反応させる方法を用いることもできる。また、架橋性基を有するポリマー主鎖を、適当な溶媒で膨潤させた状態で、スルホン化剤を反応させる方法を用いることもできる。さらに、架橋性基を有するポリマー主鎖を、直接スルホン化剤と反応させる方法を用いることもできる。
【0123】
なお、上記のスルホン化剤はそのまま用いてもよいし、適当な溶媒に溶解、分散した状態で用いることもできる。また、上記のスルホン化反応は、気相や液相で行なうことができる。
【0124】
そして、上記のスルホン化反応の温度は、−100℃以上であることが好ましく、特に−30℃以上であることがより好ましい。また、このスルホン化反応の温度は、100℃以下であることが好ましく、特に80℃以下であることがより好ましい。このスルホン化反応の温度が−100℃未満の場合には、溶液の粘度が著しく上昇したり、反応速度が低下して所望のスルホン化物を得ることが困難になる傾向があり、このスルホン化反応の温度が100℃を超えると、ポリマーの分解や架橋などの副反応が起きやすくなる傾向がある。
【0125】
また、上記のスルホン化反応の時間は、1時間以上であることが好ましく、特に2時間以上であることがより好ましい。また、このスルホン化反応の時間は、100時間以下であることが好ましく、特に80時間以下であることがより好ましい。このスルホン化反応の時間が1時間未満の場合には、スルホン化が不均一になったり、十分に進行しなかったりする傾向があり、このスルホン化反応の温度が100時間を超えると、ポリマーの分解や架橋などの副反応が起きやすくなる傾向がある。
【0126】
また、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖において、ポリマー主鎖を構成する結合単位のうち、スルホン化反応を受けやすい結合単位とスルホン化反応を受けにくい結合単位の比率を調整することによって、ポリマー主鎖中に導入されるスルホン酸基の量を制御することができる。
【0127】
さらに、上記のスルホン化反応の、反応温度、反応時間などのスルホン化条件を変えることによっても、ポリマー主鎖中に導入されるスルホン酸基の量を制御することができる。
【0128】
ここで、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖としては、たとえば、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂として例示した、上記の化学式15A〜化学式15Iで表される化学構造を有する未架橋イオン交換樹脂からイオン性基を除いた化学構造の、架橋性基を有するポリマー主鎖が挙げられる。
【0129】
ただし、本発明に用いる未架橋イオン交換樹脂の架橋性基を有し、かつイオン性基を未だ有さないポリマー主鎖は、これらの化学構造の架橋性基を有するポリマー主鎖に限定されるものではない。
【0130】
<支持体膜>
本発明の複合イオン交換膜に用いる支持体膜は、膜を貫通する連続した空隙を有する多孔性の支持体膜である必要がある。膜を貫通する連続した空隙内にイオン交換樹脂組成物が含浸されていなければ、良好なイオン伝導性を得ることができないからである。
【0131】
ここで、本発明の支持体膜の空隙率は90体積%以上であることが好ましく、特に95体積%以上であることがより好ましい。そして、この空隙率は、当然に100体積%以下であり、99体積%以下であることが好ましい。
【0132】
この空隙率が95体積%未満の場合には、イオン交換樹脂組成物を支持体膜に含浸させた場合の本発明の複合イオン交換膜中に含まれるイオン交換樹脂の含有率が小さくなってイオン伝導性が低下する傾向がある。また、この空隙率が99体積%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0133】
本発明の支持体膜は、少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることが好ましく、特に50%以上であることがより好ましく、さらに60%以上であれば最も好ましい。また、この開孔率は、当然に100%以下であるが、95%以下であることが好ましい。
【0134】
この開孔率が40%未満である場合には、支持体膜中にイオン交換樹脂組成物を含浸させる際に、支持体膜の空隙内部にイオン交換樹脂が含浸されにくくなるため、イオン伝導性が低下する場合がある。また、この開孔率が95%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0135】
本発明に用いる支持体を形成する材質としては、特に限定されず、たとえば、ポリエチレン系、ポリプロピレン系などのポリマーを含むポリオレフィン系樹脂多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン系などのポリマーを含むフッ素系樹脂多孔質膜、ポリイミド系ポリマーを含むポリイミド系樹脂多孔質膜、ポリアミド系ポリマーを含むポリアミド系樹脂多孔質膜、セルロース系ポリマーを含むセルロース系樹脂系多孔質膜、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が挙げられる。
【0136】
なお、これらの材質の中でも、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が、耐熱性、強度に優れ、薄膜化が可能であるため、本発明に用いる支持体膜を形成する材質として特に好ましい。
【0137】
ここで、本発明に用いる支持体膜がポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜を材質とする場合には、本発明に用いる支持体膜は、このポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型されたこの溶液を凝固させてこの支持体膜を得ることにより得られる支持体膜であることが好ましい。
【0138】
また、このようなポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液から製膜され、貧溶媒と接触させて凝固させられることにより得られた膜を洗浄することにより得られる。
【0139】
ここで、上記のポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液が光学異方性を示す溶液である場合には、イオン交換樹脂を大量に含浸できるような、空隙率の大きな連続した空隙を有する多孔質のポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む膜が得られない場合があるため、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液としては、等方性の溶液を用いることが好ましい。
【0140】
なお、本発明に用いる支持体膜に使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)ホモポリマー、ポリベンゾチアゾール(PBT)ホモポリマーおよびポリベンズイミダゾール(PBI)ホモポリマー、もしくは、それらPBO、PBT、PBIのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーをいう。ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾールおよびそれらのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーは公知のものが数多く知られている(たとえば、米国特許出願公開第2002/0091225号明細書、米国特許第4703103号明細書、米国特許4533692号明細書、米国特許第4533724号明細書、米国特許第4533693号明細書、米国特許第4539567号明細書、米国特許第4578432号明細書など参照)。
【0141】
また、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーに含まれる結合単位としては、特に限定するものではないが、たとえば、ライオトロピック液晶ポリマーを形成し得る結合単位から選択されることが好ましい。
【0142】
本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーを形成し得る結合単位の大部分は、化学式(a)〜(s)および(t)〜(aa)に記載されている結合単位からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位であることが好ましい。また、この結合単位の大部分は、これらの中でも、化学式(a)〜(g)および(w)〜(aa)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位であることがより好ましい。
【0143】
さらに、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、そのポリマーを形成する結合単位の大部分が、化学式(a)〜(b)、(w)および(x)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位からなるPBOポリマーであることがより一層好ましい。あるいは、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、そのポリマーを形成する結合単位の大部分が、化学式(e)〜(g)および(aa)からなる群より選ばれた1種類以上の結合単位からなるPBIポリマーであってもより一層好ましい。
【0144】
【化14】
【0145】
【化15】
【0146】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、上記のような結合単位をポリ燐酸溶媒中で縮合重合させることにより得られる。
【0147】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの重合度は極限粘度で表され、この極限粘度は、15dL/g以上であることが好ましく、特に20dL/g以上であることがより好ましい。また、この極限粘度は、35dL/g以下であることが好ましく、特に26dL/g以下であることがより好ましい。
【0148】
この極限粘度が15dL/g未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として得られる支持体膜の強度が低くなる傾向があり、この極限粘度が35dL/gを超えると、等方性の溶液が得られるポリベンザゾール系ポリマー溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度範囲が限られ、等方性の条件での支持体膜の製膜が困難となる場合がある。
【0149】
また、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液からの支持体膜の製膜方法としては、ドクターブレードなどを用いて、このポリマー溶液を基板上にキャスティングする流延法と呼ばれる製膜方法のほかにも、直線状スリットダイからこのポリマー溶液を押出す方法や、円周状スリットダイからこのポリマー溶液をブロー押出しする方法、二枚の基体に挟んだこのポリマー溶液をローラーでプレスするサンドイッチ法、スピンコート法など、このポリマー溶液を膜状に成型するあらゆる方法が使用できる。
【0150】
そして、これらの製膜方法の中でも、本発明に用いる支持体膜の目的に適した特に好ましい製膜方法は、流延法、サンドイッチ法である。流延法の基板やサンドイッチ法の基体には、ガラス板や金属板、樹脂フィルムなどの他、凝固時の支持体膜の空隙構造を制御することなどの目的で、種々の多孔質材料を基板、基体として好ましく用いることができる。
【0151】
また、本発明で用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液は、均一でかつ空隙率の大きな支持体膜を得るためには、等方性条件の組成で支持体膜に製膜することが重要である。
【0152】
そのため、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度は、0.5%以上であることが好ましく、特に0.8%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、2%以下であることが好ましく、特に1.5%以下であることがより好ましい。
【0153】
この濃度が0.5%未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の粘度が小さくなり、適用できる製膜方法が限られ、得られる支持体膜の強度が小さくなる場合がある。また、この濃度が2%を超えると、空隙率の大きな支持体膜が得にくい場合や、ポリベンザゾール系ポリマーのポリマー組成や重合度によっては、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液が異方性を示す場合がある。
【0154】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには、次に示すような方法をとる事ができる。すなわち、重合反応により得られたポリベンザゾール系ポリマーの溶液から一旦ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行なう方法などが具体例として挙げられる。
【0155】
さらには、ポリ燐酸中で縮合重合反応により得られた状態のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から、ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離することなく、そのポリベンザゾール系ポリマーの溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行なう方法なども挙げられる。あるいは、ポリベンザゾール系ポリマーの重合組成を調整することで、上記濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を直接得る方法なども挙げられる。
【0156】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、たとえば、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。これらの中でも、メタンスルホン酸、ポリリン酸が特に好ましい。
【0157】
本発明に用いる支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、たとえば、製膜された等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を、貧溶媒と接触させて凝固させる方法を用いる。この貧溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の溶媒と混和できる溶媒であることが好ましく、液相状態であっても気相状態であってもよい。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組合わせる方法も好ましく用いることができる。
【0158】
ここで、上記の凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液、無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒などを利用することができる。ただし、使用するポリベンザゾール系ポリマーの溶液との組合せによっては、支持体膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じる場合があるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。
【0159】
また、本発明における等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒を選択し、さらに凝固条件を選択することにより、支持体膜の表面および内部の構造、空隙率を制御することができる。
【0160】
これらの中でも、特に好ましい凝固の手段は、水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、およびメタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0161】
そして、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の凝固が進むと、支持体膜は収縮しようとする。そのため、凝固が進行する間は、支持体膜の不均一な収縮によるシワの発生などを抑制する目的で、テンターや固定枠を用いる場合もある。また、ガラス板などの基板上に成型したポリベンザゾール系ポリマーの溶液を凝固する場合には、基板面の粗さを制御することで、基板上での支持体膜の収縮を制御する場合もある。
【0162】
さらに、上記のようにして凝固された支持体膜は、残留する溶媒によるポリベンザゾール系ポリマーの分解の促進や、複合イオン交換膜の材質として使用する際に残留溶媒が流出するなどの問題を避ける目的で、十分に洗浄することが望ましい。この洗浄は、支持体膜を洗浄液に浸漬することで行なうことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、支持体膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行なうことが好ましく、pHが6.5〜7.5の範囲になるまで行なうことがさらに好ましい。
【0163】
そして、上記に述べた特定の濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマーの等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより、本発明に用いる支持体膜の目的に最も適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に適当な開孔率の開孔部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。この支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有する。
【0164】
<複合イオン交換膜の製造方法>
上述のような方法で得られたポリベンザゾール系ポリマーを材質とする多孔質の支持体膜にイオン交換樹脂組成物を含浸させ、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。
【0165】
すなわち、この支持体膜を乾燥させずに、イオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬し、この支持体膜の内部の液をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に置換してから乾燥させる方法により、複合イオン交換膜を得る方法について説明する。
【0166】
なお、この支持体膜内部の液がイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成にあわせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法を採る場合もある。
【0167】
ここで、等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から得られる多孔質の支持体膜は、乾燥により支持体膜の空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって、空隙構造が収縮するため、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。
【0168】
そのため、この支持体膜の内部にイオン交換樹脂組成物を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、この支持体膜における乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5〜10%の範囲になることが通常である。
【0169】
なお、本発明に用いる支持体膜以外の多孔質支持体膜、たとえば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマーを材質とする多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0170】
本発明に用いる支持体膜のこのような特徴により、この支持体膜の空隙内部の液をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に置換してから乾燥させた場合には、空隙内部に含浸されたこのイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒が蒸発して、このイオン交換樹脂組成物を含む溶液の体積が減少するにつれて、この支持体膜も収縮する。そのため、この支持体膜の内部の空隙が析出したイオン交換樹脂組成物によって満たされた、緻密な複合イオン交換膜の構造を容易に得ることができる。この複合イオン交換膜の構造によって、本発明の複合イオン交換膜は、優れた寸法安定性と機械強度を示すことになる。
【0171】
そして、上記に記述したイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつイオン交換樹脂組成物を溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。
【0172】
ただし、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を支持体膜に含浸させた後に、溶媒を除去してイオン交換樹脂組成物を析出させるためには、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。
【0173】
このような溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどの極性溶媒、クレゾールなどのフェノール類、水、およびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0174】
本発明に用いる支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜である場合には、高い耐熱性を有する。そのため、100℃程度の温度からクリープを生じるポリテトラフルオロエチレン製の支持体膜を用いる従来公知の複合イオン交換膜の作製では使用できない、高沸点の溶媒を含むイオン交換樹脂組成物の溶液を使用して複合イオン交換膜を作製できる。このことからも、本発明に用いる支持体膜は、多くの種類のイオン交換樹脂組成物が選択できるという観点から優れた特徴を有するといえる。
【0175】
なお、本発明に用いるイオン交換樹脂組成物の溶液中のイオン交換樹脂の濃度は、特に限定されるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、50質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることがより好ましい。この濃度が1質量%未満の場合には、複合膜中のイオン交換樹脂含有量が低下するという傾向があり、この濃度が50質量%を超えると、複合膜中で複合層の厚みが占める割合が低下して補強効果が小さくなったり、複合膜の膜厚が大きくなりすぎて発電性能が低下したり、支持体膜へのイオン交換樹脂溶液の含浸が不完全になって複合膜中に空隙が生じやすくなるという傾向がある。
【0176】
さらに、本発明の複合イオン交換膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、特に80質量%以上であることがより好ましい。また、この含有率は当然に100質量%未満であるが、99質量%以下であることが好ましい。この含有率が50質量%未満の場合には、複合イオン交換膜の導電抵抗が大きくなったり、複合イオン交換膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない傾向がある。また、この含有率が99質量%を超えると、複合膜の強度や耐膨潤性が低下するという傾向がある。
【0177】
<複合イオン交換膜の構造>
本発明の複合イオン交換膜の厚みは、10μm以上であることが好ましく、特に20μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、500μm以下であることが好ましく、特に100μm以下であることがより好ましい。この厚みが10μm未満の場合には、燃料のクロスオーバーなどが大きくなるという問題が生じやすくなる。また、この厚みが500μmを超えると、複合イオン交換膜の導電抵抗が増大する傾向がある。
【0178】
本発明の複合イオン交換膜の厚みは、支持体膜を作製する際に支持体膜を形成するポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度やクリアランスを調整したり、イオン交換樹脂組成物を含む溶液の濃度を調整することによって、制御することができる。
【0179】
また、本発明の複合イオン交換膜は、上記のイオン交換樹脂組成物からなる表面層を上記の支持体膜の両面に備えることが好ましい。
【0180】
すなわち、本発明の複合イオン交換膜は、図1に示すように、支持体膜とイオン交換樹脂組成物とを備える複合層2を挟む形で、この複合層2の両面に支持体膜を含まないイオン交換樹脂組成物からなる表面層1,3を有しているとさらに優れた特性を示す。このような構造を有することにより、本発明の複合イオン交換膜は、高い機械的強度を有し、かつ表面に電極層を形成させた場合の電極層との密着性に優れるという優れた特性を有することとなるためである。
【0181】
ここで、この表面層のそれぞれの厚みは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、50μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることがより好ましい。さらに、この厚みは、複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えないことが好ましい。
【0182】
この厚みが1μm未満の場合には、電極層との密着性が低下し、イオン伝導性が低下する場合がある。またこの厚みが50μmを超えるか、あるいは複合イオン交換膜の全厚みの半分を超える場合には、複合層による補強の効果が複合イオン交換膜の最外表面まで及ばず、複合イオン交換膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離する場合がある。
【0183】
また、本発明の複合イオン交換膜においては、機械的強度やイオン伝導性、表面に形成される架橋イオン交換樹脂組成物層の耐剥離性などの特性をさらに向上させる目的で、複合イオン交換膜を適当な条件で熱処理する方法も好ましく用いることができる。
【0184】
また、本発明の複合イオン交換膜においては、表面に形成されるイオン交換樹脂組成物の表面層の厚みを調整するために、この複合イオン交換膜をさらにイオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬してもよい。さらに、本発明の複合イオン交換膜においては、この複合イオン交換膜にイオン交換樹脂組成物を含む溶液を塗布したりしてから乾燥することにより、イオン交換樹脂組成物の層の付着量を増加させてもよい。
【0185】
あるいは、本発明の複合イオン交換膜においては、この複合イオン交換膜をイオン交換樹脂組成物を含む溶液に浸漬した後に、支持体膜の表面に付着したイオン交換樹脂組成物を含む溶液の一部を、スクレーパー、エアナイフ、ローラーなどで掻落としたり、ろ紙やスポンジのような溶液吸収性のある材料で吸収したりすることにより、イオン交換樹脂組成物の層の付着量を減少させたりする方法も用いることができる。
【0186】
さらには、本発明の複合イオン交換膜においては、熱プレスをかけることによりイオン交換樹脂組成物の層の密着性をさらに向上させるなどの方法を併せて用いることもできる。
【0187】
そして、このような構造を有する、本発明の複合イオン交換膜は、高いイオン伝導性を有しながら、機械的強度、耐水性、耐膨潤性に優れる。また、その特性を生かして、本発明の複合イオン交換膜は、固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0188】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0189】
<イオン交換樹脂の合成>
まず、本発明の実施例および比較例に用いるイオン交換樹脂を、下記の合成例のようにして合成した。
【0190】
(i)合成例1:架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)の合成
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ39.30g(80.0mmol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン4.28g(20.0mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン25.63g(100.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン200ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1,000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0191】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を5000mlの純水に注ぎイオン交換樹脂を再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は50℃で減圧乾燥した。
【0192】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.63dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、45.3g(収率74%)だった。
【0193】
(ii)合成例2:架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ29.48g(60.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン11.49g(40.0mmol)、4,4’−ビフェノール18.25g(98.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン170ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1,000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0194】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、反応溶液を140℃まで冷却してから、4−エチニルフェノール0.240g(2.0mmol)とトルエン30mlとを加え、さらに2時間攪拌した。その後、室温まで冷却した溶液を5000mlの純水に注ぎイオン交換樹脂を再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は50℃で減圧乾燥した。
【0195】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.61dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、48.0g(収率92%)だった。
【0196】
(iii)比較合成例1:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ34.38g(70.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン8.62g(30.0mmol)、4,4’−ビフェノール18.62g(100.0mmol)、炭酸カリウム15.89g(115.0mmol)、N−メチル−2−ピロリドン170ml、トルエン30mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0197】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を5,000mlの純水に注ぎポリマーを再沈させた。そして、濾過したイオン交換樹脂は、50℃で減圧乾燥した。
【0198】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.77dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、52.5g(収率97%)だった。
【0199】
(iv)比較合成例2:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ12.28g(25.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン21.54g(75.0mmol)を用いた他は、比較合成例1と同様にして、イオン交換樹脂を合成した。
【0200】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.72dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、44.7g(収率99%)だった。
【0201】
(v)比較合成例3:架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ19.65g(40.0mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン17.23g(60.0mmol)を用いた他は、比較合成例1と同様にして、イオン交換樹脂を合成した。
【0202】
なお、測定したイオン交換樹脂の対数粘度は、0.69dl/gだった。また、得られたイオン交換樹脂の収量は、47.3g(収率98%)だった。
【0203】
<実施例1>
まず、ポリ燐酸中に極限粘度24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14質量%含んだドープに、メタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1質量%の等方性溶液を調製した。
【0204】
次いで、この溶液を、90℃に加熱したガラス板上に、クリアランス300μmのアプリケータを用いて、製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜を、そのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜を作成した。
【0205】
続いて、作成した支持体膜は、両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する多孔質の膜であることを、原子間力顕微鏡による表面形態観察および、透過型電子顕微鏡による断面形態観察により確認した。なお、観察による測定の結果、支持体膜の開孔率は69%、空隙率は98%だった。
【0206】
その後、この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、ジメチルアセトアミド(DMAc)25%水溶液、DMAc50%水溶液、DMAc75%水溶液の順にそれぞれ1時間づつ浸漬した後、最終的にDMAcに浸漬して支持体膜に含まれる溶媒を水からDMAcに置換した。
【0207】
そして、合成例1で重合した架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)20gを、80gのDMAcとともに3日間攪拌して、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を作成した。
【0208】
次いで、上記のようにして得た支持体膜を、このイオン交換樹脂組成物を含む溶液に25℃で15時間浸漬した後、溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液中の溶媒を熱風により揮発させ乾燥させた。
【0209】
そして、乾燥させた膜は、120℃で一晩減圧乾燥を行なった後、金属製の枠に固定したまま、窒素雰囲気下、50℃の条件下、紫外線ランプを用いて1時間光照射した。
【0210】
その後、膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理してスルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。そして、洗浄した膜を風乾したところ、厚み47μmの複合イオン交換膜が得られた。
【0211】
なお、得られた複合イオン交換膜のイオン性基濃度は、2.1meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は93%であり、複合層の厚みは14μmだった。
【0212】
また、得られた複合イオン交換膜は、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.30S/cmであった。
【0213】
さらに、得られた複合イオン交換膜は、良好な耐水性とイオン伝導性を示し、柔軟かつ強靭でハンドリング性に優れていた。
【0214】
<実施例2>
まず、実施例1と同様にして支持体膜を作製し、この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、ジメチルアセトアミド(DMAc)25%水溶液、DMAc50%水溶液、DMAc75%水溶液の順にそれぞれ1時間ずつ浸漬した後、最終的にDMAcに浸漬して支持体膜に含まれる溶媒を水からDMAcに置換した。
【0215】
次いで、合成例2で重合した架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)20gを、80gのDMAcとともに3日間撹拌して、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を作製した。
【0216】
続いて、上記のようにして得た支持体膜をこのイオン交換樹脂組成物を含む溶液に25℃で15時間浸漬した後、この溶液から取出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液中の溶媒を熱風により揮発させ乾燥させた。
【0217】
その後、乾燥させた膜は、70℃で3日間減圧乾燥を行った後、金属製の枠に固定したまま、窒素雰囲気下200℃で、1時間加熱処理した。
【0218】
そして、枠から取外した膜を、80℃の1mol/L硫酸中で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに遊離の酸が検出できなくなるまで水で洗浄し、風乾して厚み0.0048cmの複合イオン交換膜を得た。
【0219】
なお、得られた複合イオン交換膜のイオン性基濃度は、1.9meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は92%であり、複合層の厚みは14μmだった。
【0220】
また、得られた複合イオン交換膜は、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.29S/cmであった。
【0221】
さらに、得られた複合イオン交換膜は、良好な耐水性とイオン伝導性を示し、柔軟かつ強靭でハンドリング性に優れていた。
【0222】
<比較例1>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例1の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)を用いた他は、実施例1と同様にして、複合イオン交換膜を作製したところ、硫酸および水洗の過程で、膜の膨潤が著しかった。
【0223】
本比較例の複合イオン交換膜の厚みは11μmであり、実施例1および実施例2の場合に比べて薄かった。
【0224】
さらに、本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は1.1meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は65%であり、複合層の厚みは8μmであり、耐水性試験での質量減少率は50%であり、イオン伝導性は0.09S/cmだった。
【0225】
加えて、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落が大きく、イオン伝導性が低かった。
【0226】
<比較例2>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例2の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)を用いた他は、実施例1と同様にして、厚み50μmの複合イオン交換膜を得た。
【0227】
本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は0.8meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は90%であり、複合層の厚みは15μmであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.07S/cmだった。
【0228】
また、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落は起こらず良好な複合膜が得られたが、イオン伝導性は低かった。
【0229】
<比較例3>
本比較例では、イオン交換樹脂として、比較合成例3の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)を用いた他は、実施例1と同様にして、厚み46μmの複合イオン交換膜を得た。
【0230】
本比較例の複合イオン交換膜のイオン性基濃度は1.3meq/gであり、イオン交換樹脂の含有率は89%であり、複合層の厚みは13μmであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.13S/cmだった。
【0231】
また、本比較例の複合イオン交換膜では、イオン交換樹脂の脱落は起こらず良好な複合膜が得られたが、イオン伝導性は低かった。
【0232】
<比較例4>
本比較例では、一般的なイオン交換膜として、ナフィオン(登録商標)112について同様の評価を行なった。
【0233】
その結果、本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は0.9meq/gであり、耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.18S/cmだった。
【0234】
<比較例5>
まず、合成例1の架橋性基を有するイオン交換樹脂(1)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0235】
次いで、ガラス板から膜を剥離した後、金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下において、50℃で紫外線ランプで1時間光照射した。
【0236】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み47μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0237】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.2meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.33S/cmであり、良好な耐水性とイオン伝導性を示したが、膜は固くて柔軟性に欠け、やや脆かった。
【0238】
<比較例6>
まず、合成例2の架橋性基を有するイオン交換樹脂(2)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0239】
次いで、ガラス板から膜を剥離した後、金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下200℃で1時間処理した。
【0240】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み49μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0241】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.1meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%であり、イオン伝導性は0.33S/cmであり、良好な耐水性とイオン伝導性を示したが、この膜も固くて柔軟性に欠け、やや脆かった。
【0242】
<比較例7>
まず、比較合成例1の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(1)0.4gを、1.6gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を、300μmの厚みでガラス板上にキャストし、70℃で3日間減圧乾燥した。
【0243】
その後、この膜を80℃の1mol/L硫酸で1時間処理して、スルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄した。洗浄した膜は風乾したところ、厚み49μmの透明なイオン交換膜が得られた。
【0244】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は2.3meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験では、膜が溶解してしまい固形分が回収できなかった。
【0245】
そして、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.27S/cmだったが、測定中の膜の膨潤が著しく、測定後で膜は原型を留めていなかった。
【0246】
<比較例8>
まず、イオン交換樹脂として、比較合成例2の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(2)を用いた他は、比較例7と同様にして、厚み50μmの透明なイオン交換膜を得た。
【0247】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は0.8meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は0%だった。
【0248】
しかし、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.07S/cmと低かった。
【0249】
<比較例9>
まず、イオン交換樹脂として、比較合成例3の架橋性基を有さないイオン交換樹脂(3)を用いた他は、比較例7と同様にして、厚み44μmの透明なイオン交換膜を得た。
【0250】
本比較例のイオン交換膜のイオン性基濃度は1.4meq/gだった。
また、本比較例のイオン交換膜の耐水性試験での質量減少率は5%だった。
【0251】
そして、本比較例のイオン交換膜のイオン伝導性は0.18S/cmとNafion(商品名)と同等だった。
【0252】
<各種測定方法および評価方法>
本発明の実施例および比較例においては、各種測定方法および評価方法は以下の方法に従って行なった。
【0253】
(i)極限粘度の測定方法
支持体膜を形成するポリマーについて、メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/Lの濃度に調整したポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、極限粘度を算出した。
【0254】
(ii)支持体膜の表面開孔率の測定方法
支持体膜の表面開孔率は次の方法により測定した。
【0255】
まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、(株)日立製作所製、臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO2臨界点乾燥を施した。
【0256】
次いで、このようにして臨界点乾燥した支持体膜に、厚さ150オングストロームの白金コートを施し、(株)日立製作所製、SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
【0257】
続いて、図2で示すように、撮影した支持体膜の表面の撮影倍率1万倍の走査型電子顕微鏡写真上で、5μm角に相当する視野を選び、膜の最外表面に相当するポリマー部分を白、それ以外の部分を黒に色分けした後、イメージスキャナーを用いて画像をコンピューターに取り込み、米国Scion社製の画像解析ソフトである、Scion Imageを用いて、画像のヒストグラムから画像中の黒部分が占める比率を測定した。なお、図2において、符号4は支持体膜のフィブリルを示し、符号5は空隙を示す。
【0258】
そして、上記の操作を一つのサンプルに対して各3回行い、その平均値を計算して、支持体膜の表面開孔率とした。
【0259】
(iii)支持体膜の空隙率の測定方法
支持体膜の空隙率は次の方法により測定した。
【0260】
まず、含水状態の支持体膜の重量と、絶乾状態の支持体膜の重量と、の差から求められた水の重量を、水の密度で除して、膜内の空隙を満たす水の体積Vw[mL]を得た。
【0261】
次いで、Vwと含水状態の膜の体積Vm[mL]から以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
支持体膜の空隙率[%]=Vw/Vm×100
(iv)イオン交換膜を構成する各層の厚さの測定方法
イオン交換膜を構成する複合層の厚さ、およびこの複合層を挟む形で複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂組成物からなる表面層の厚さは、下記のようにして測定した。
【0262】
まず、幅300μm×長さ5mmに切り出したイオン交換膜片を、ルベアック812(ナカライテスク(株)製)/ルベアックNMA(ナカライテスク(株)製)/DMP30(TAAB製)=100/89/4の組成とした樹脂で包埋し、60℃で12時間硬化させて試料ブロックを作製した。
【0263】
次いで、ウルトラミクロトーム(LKB製、2088ULTROTOME V)を用いて、平滑な断面が露出するようブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電気工業(株)製、SK2045)で切削した。
【0264】
続いて、このようにして露出させたイオン交換膜の断面を光学顕微鏡で写真撮影し、既知の長さのスケールを同倍率で撮影したものと比較することで各層の厚みを測定した。
【0265】
支持体膜の空隙率が大きい場合などで、少なくとも一方の面の表面層とその内側の複合層とが明確な界面を形成せずに、界面付近の構造が連続的に変化している場合があるが、その場合は光学顕微鏡で連続的な構造の変化が確認できる部分のうち、イオン交換膜の外表面に最も近い部分を複合層の最外表面として、そこからイオン交換膜の外表面までの距離を表面層の厚みとした。
【0266】
(v)イオン伝導性の測定方法
まず、自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で、短冊状イオン交換膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃95%RHの恒温、恒湿オーブン((株)ナガノ科学機械製作所製、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間の10KHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社製、1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。
【0267】
その際、極間距離を変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした勾配から、以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルしたイオン伝導率を算出した。
イオン伝導率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
(vi)イオン交換樹脂の対数粘度の測定方法
イオン交換樹脂を、ポリマー濃度0.25g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0268】
(vii)イオン交換膜のイオン性基含有量の測定方法
まず、イオン交換膜100mgを、0.01NのNaOH水溶液50mlに浸漬し、25℃で一晩攪拌した。その後、0.05NのHCl水溶液で中和滴定した。中和滴定には、平沼産業(株)製、電位差滴定装置COMTITE−980を用いた。イオン性基含有量は下記式で計算して求めた。
イオン性基含有量[meq/g]=(10−滴定量[ml])/2
(viii)イオン交換膜のイオン交換樹脂(ICP)含有率の測定方法
イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。
【0269】
まず、110℃で6時間真空乾燥させたイオン交換膜の目付けDc[g/m2]を測定した。次いで、イオン交換膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜を、イオン交換樹脂組成物を複合化させずに乾燥させて乾燥支持体膜の目付けDs[g/m2]を測定した。そして、これらの値から、以下の計算によりイオン交換膜のイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[質量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
(ix)耐水性試験
まず、イオン交換膜50mgを、5mlのイオン交換水と共に、ガラスアンプル中に封入した。次いで、このアンプルを105℃で3日間加熱した。そして、冷却後にアンプルを開封し、1G2のガラスフィルターで固形物を濾取した。
【0270】
そして、フィルターは80℃で一晩減圧乾燥し、濾過前後の質量の変化から、固形分の質量を求め、質量減少率を求めた。
質量減少率[%]=残留物質量[mg]/50×100
これらの測定結果および評価結果から分かるように、比較例1〜8の複合イオン交換膜またはイオン交換膜は、イオン伝導性、耐膨潤性、機械的強度、耐水性などのいずれかの指標において欠点が認められ、燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に用いることは困難である。
【0271】
また、比較例9の従来公知のイオン交換膜は、特に著しい欠点は認められないが、実施例1および実施例2に比べると、イオン伝導性も低く、耐水性でも劣るため、燃料電池の高分子固体電解質膜としての適性は、実施例1および実施例2の複合イオン交換膜に対して劣る。
【0272】
一方で、実施例1および実施例2の複合イオン交換膜は、イオン伝導性が良好であるとともに、複合化の点でも良好であり、さらに膨潤についても抑制されており、耐水性にも優れているため、燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に用いることができる、優れた特性を有する複合イオン交換膜であることが明らかとなった。
【0273】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0274】
【発明の効果】
上記の結果より、本発明の複合イオン交換膜は、耐膨潤性が高く、機械的強度と、耐水性と、イオン伝導性とに優れる複合イオン交換膜である。
【0275】
そのため、本発明の複合イオン交換膜は、固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合イオン交換膜の一例の断面構造の概略を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる支持体膜の一例を、イオン交換樹脂組成物との複合化前に臨界点乾燥して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した像の写真を写した図である。
【符号の説明】
1,3 表面層、2 複合層、4 支持体膜のフィブリル、5 空隙。
Claims (10)
- イオン交換樹脂組成物と、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と、を備える複合イオン交換膜であって、前記支持体膜は、前記空隙中に前記イオン交換樹脂組成物を含浸する支持体膜であり、前記イオン交換樹脂組成物は、分子中にイオン性基を有し、かつ分子中に光架橋性基および/または熱架橋性基を有するイオン交換樹脂を架橋して得られる架橋イオン交換樹脂を含有するイオン交換樹脂組成物である、複合イオン交換膜。
- 前記イオン性基は、スルホン酸基および/またはホスホン酸基である、請求項1〜3のいずれかに記載の複合イオン交換膜。
- 前記イオン交換樹脂のポリマー主鎖は、ポリエーテルスルホン系主鎖またはポリエーテルケトン系主鎖である、請求項1〜4のいずれかに記載の複合イオン交換膜。
- 前記イオン交換樹脂組成物からなる表面層を前記支持体膜の両面に備える、請求項1〜5のいずれかに記載の複合イオン交換膜。
- 前記表面層のそれぞれの厚みは、1〜50μmの範囲であり、かつ前記複合イオン交換膜の全厚みの半分を超えない範囲である、請求項6に記載の複合イオン交換膜。
- 前記支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率は、40〜95%の範囲にある、請求項6または7に記載の複合イオン交換膜。
- 前記支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む、請求項6〜8のいずれかに記載の複合イオン交換膜。
- 前記支持体膜は、前記ポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型された前記溶液を凝固させて前記支持体膜を得ることにより得られる支持体膜である、請求項9に記載の複合イオン交換膜。
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