JP2004214057A - 電子線分光器、それを備えた電子顕微鏡及び分析方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】スペクトル検出器34に位置敏感型検出器35を取り付け、スペクトルの位置ずれを随時計測し、スペクトロメータ31の内部のドリフトチューブ40又は電子線偏向器32にフィードバックする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子線分光装置とそれを備えた電子顕微鏡に係り、特に、エネルギーロススペクトルを取得することを目的とする電子線分光装置とそれを備えた電子顕微鏡及び分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子線エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy Loss Spectroscopy)は、試料を透過した電子線が試料で失うエネルギーを分析して、試料の構成元素の種類や結合状態を決定する手法である。そのためには、電子線をエネルギー分光してエネルギーロススペクトルとして検出するための電子線分光装置が必要である。電子線分光装置には、電子顕微鏡の鏡体の途中に配置されるインカラム型と、電子顕微鏡の鏡体の後ろに配置されるポストカラム型がある。前者はエネルギーフィルターとも呼ばれ、キャスタンヘンリー型、オメガ型、ガンマ型などがあり、エネルギーロススペクトルだけでなく、エネルギー選択スリットを用いて、あるエネルギーロス領域の電子線のみで結像することが可能である。後者はエネルギーロススペクトルを取得するだけのものと、エネルギーフィルターとして決像作用も付加したタイプのものがある。これらの電子線分光装置は、蛍光体であるシンチレータ上にエネルギーロススペクトルを形成し、スペクトルの電子線強度を光強度に変換して検出する。
【0003】
エネルギーロススペクトルのエネルギー分解能を決定する要因は、基本的には試料に入射する電子線のエネルギー幅に依存する。これは、電子銃のタイプにより、概ね決まっている。冷陰極電界放出(Cold Field Emission)型電子銃が一般的に市販されている電子銃の中では最もエネルギー幅が狭く、0.5eV程度である。ショットキー電子放出(Schottky Emission)型電子銃や熱電子放出(Thermal Emission)型電子銃では、通常使用時で約1.2eV、エミッションを少なくした場合、0.8eV程度である。電子線を単色化(単一エネルギー化)する目的でモノクロメーターと言われる装置を用いれば、0.2eV程度、もしくはそれ以下のエネルギー幅も実現できる。
【0004】
エネルギー分解能は、加速電圧の安定度、電子線分光装置の安定度、外部磁場による電子線の偏向、機械的な振動、接地電圧の変動、周囲温度の変化、試料上の電子線の位置変動、シンチレータにおける滲みなど、装置的な要因によっても影響を受ける。これらの影響は変化の速さによって、ミリ秒以下の非常に速い成分、電源周波数(50Hzもしくは60Hz)やそれの整数倍の高調波周波数に同期した成分、数秒から数時間程度の非常に遅い成分に分類できる。
【0005】
エネルギー分解能を向上させる方法は、エネルギーロススペクトルのシフトが電子銃のエネルギー幅よりも小さく無視できるほどになるまで、それぞれの装置的な要因に対して対策することである。例えば、加速電圧の安定度や電子線分光装置の安定度は、1ppm/min程度に抑えなければならない。外部磁場による電子線の偏向を防ぐには、磁気シールドや磁場キャンセラーを用いたり、磁気を発生する部材(電源や磁性体でできた部品など)を近づけないようにしたりする。周辺温度や試料上の電子線の位置変動は、測定する条件にしてからの時間に大きく依存するので、装置が十分安定するまで待つのが最も有効な手段である。
【0006】
電源周波数同期成分は規則的に変動するため、電子線分光装置内に電源と同じ周波数で逆位相の変調を発生させてキャンセルする方法もある。入射電子線のエネルギー分布やシンチレータによる滲みはエミッションの条件が同一であれば一定なので、そのエネルギー分布でデコンボリューションの処理を行えば、低減することが可能である。
【0007】
試料のEELS分析は、特定の一点だけでなく、複数の点の分析(多点分析)、ライン状に並ぶ複数の点の分析(ライン分析)、矩形領域内の平均的な分析(面分析)、矩形領域内の複数の点の分析(マッピング)を行う場合が多い。この場合、試料の異なる点に電子線を照射すると、スペクトルが移動することがある。この移動量は、試料上の電子線の移動距離と移動方向の関係を基にスペクトロメータへの入射位置を補正することが可能である。
【0008】
光点の位置を高速で精度よく得る手段として、位置敏感型検出器(Position Sensitive Detector:PSD)がある。PSDは、受光面が光電面でできた抵抗体で、左右に分離して流れる電流の比率から受光面上の光のあたった場所(正確には重心位置)を求める素子である。その高速性と精度の高さの故に、写真カメラのオートフォーカス機構に用いられたりする。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、エネルギーロススペクトルのエネルギー分解能は、入射電子線のエネルギー幅だけでなく、加速電圧、レンズ電流、偏向コイル電流の安定性や、時には振動や漏洩磁場などの影響を受ける。これらの対策には限界があり、長時間エネルギーロススペクトルを蓄積するとエネルギー分解能が劣化していた。装置の安定度を向上させようとすると、より高価な部品を用いることになったり、より大げさな周辺環境設備を導入することになったりして、装置全体が非常に高価なものになってしまう。また、せっかく安定度を向上させても、実際に安定するには時間がかかり、操作性を制限したりスループットを下げたりする。
試料の複数点のEELS分析を行う場合、スペクトロメータへの入射位置を補正することが可能であるが、電子レンズの励磁条件などによって再現性が完全に保証されていない。
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、安定してエネルギー分解能のいいエネルギーロススペクトルを取得できる電子線分光装置とそれを備えた電子顕微鏡及び分析方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明では、エネルギーロススペクトル検知機構にPSDを配置した。PSDを配置することにより、PSDでスペクトルの位置の変化を検出し、スペクトルが移動しないように制御できるようになる。PSDの配置方法としては、エネルギーロススペクトルの短軸方向に並べて配置する方法とエネルギーロススペクトルの長軸方向に並べて配置する方法がある。エネルギーロススペクトルの短軸方向に並べて配置すれば、スペクトル検知器の脇に存在するスペクトルを用いてスペクトルが移動しないように制御できるようになる。また、エネルギーロススペクトルの長軸方向に並べて配置すれば、大きくエネルギーロスしたスペクトルを用いてスペクトルが移動しないように制御できるようになる。あるいは、スペクトル検知器上で光に変換された電子線強度分布を、レンズを用いてPSD上に結像するようにしてもよい。このような構成によれば、スペクトル検知器付近の空間的な制限を低減できる。PSDからの信号は、スペクトロメータのドリフトチューブにフィードバックしてもよいし、電子線偏向装置にフィードバックしてもよい。いずれの方法でも、スペクトルが移動しないように高速に制御できる。
【0012】
すなわち、本発明による電子線分光器は、入射電子線をそのエネルギーにより分光分離する電子線分光部と、電子線分光部から出射した電子線スペクトルを検出するスペクトル検出器とを備える電子線分光器において、電子線分光部から出射した電子線スペクトルの少なくとも一部を検出する位置敏感型検出器を備えることを特徴とする。
【0013】
位置敏感型検出器は、電子線分光部から出射した電子線スペクトルの少なくとも一部が位置敏感型検出器とスペクトル検出器に同時に入射するように、電子線分光部による電子線のエネルギー分散方向と直交する方向にスペクトル検出器と隣接して配置してもよい。あるいは、電子線分光部から出射した電子線スペクトルの異なる部分が位置敏感型検出器とスペクトル検出器にそれぞれ入射するように、電子線分光部による電子線のエネルギー分散方向にスペクトル検出器と隣接して配置してもよい。あるいは、光学系を備え、スペクトル検出器と位置敏感型検出器とを、互いにその光学系の物点と像点の位置関係においてもよい。
【0014】
本発明の電子線分光器は、位置敏感型検出器の出力が一定となるように制御する安定化制御機構を備える。安定化制御機構は、位置敏感型検出器が検出した位置変化に比例する電圧を電子線分光部が電子線通路に備える電気的に絶縁されたドリフトチューブに印加することによってスペクトル検出器上における電子線スペクトルの位置が変化しないように制御することができる。あるいは、安定化制御機構は、位置敏感型検出器が検出した位置変化をキャンセルするように、電子線分光部とスペクトル検出器との間に配置された電子線偏向部を作動させることによって前記スペクトル検出器上における電子線スペクトルの位置が変化しないように制御してもよい。
【0015】
本発明の電子線分光器は、エネルギーロススペクトルの位置ずれを計測してフィードバックすることにより、加速電圧、レンズ電流、偏向コイル電流の変動、あるいは振動や漏洩磁場などの影響があっても、スペクトル検出器上でエネルギーロススペクトルがシフトしないようになる。その結果、長時間エネルギーロススペクトルを蓄積してもエネルギー分解能が劣化しなくなる。また、試料上の異なる位置を分析する場合においても、エネルギーロススペクトルのエネルギー原点の位置ずれがないようになる。
本発明の電子線分光器は、透過型電子顕微鏡あるいは透過走査型電子顕微鏡に組み込むと有効である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は、本願発明による電子線分光器とそれを備えた電子顕微鏡の構成例を示すブロック図である。
【0017】
電子顕微鏡装置本体1は、電子銃2、集束レンズ系3、対物レンズ4、偏向コイル7、中間・投影レンズ系5を備える。対物レンズ4で励磁される磁界のうち、試料8よりも電子銃2側に存在する磁界(前方磁界)は集束レンズとして作用し、逆側に存在する磁界(後方磁界)は結像レンズとして作用する。したがって、電子銃2から放出された照射電子線20は、絞り37を通して試料8に照射されるとき、集束レンズ系3と、対物レンズ4の前方磁界によって細く絞られる。偏向コイル7は、試料8に照射する照射電子線20の位置と角度を制御するために用いられる。対物レンズ4の後方磁界及び中間・投影レンズ系5は、試料8を透過した電子線21を拡大して結像する。電子顕微鏡制御系10は、レンズ制御信号13によって集束レンズ系3、対物レンズ4、中間・投影レンズ系5を制御する。電子顕微鏡装置1が透過型電子顕微鏡の場合、拡大して結像した電子線21は、蛍光板43上で観察することができる。
【0018】
電子顕微鏡装置1が走査透過型電子顕微鏡の場合、走査信号12によって偏向コイル7を制御し、走査透過型電子顕微鏡用電子線検出器42で得られた電子線強度信号44を走査信号12と同期して表示することにより拡大像を観察する。電子顕微鏡装置本体1の対物レンズ4及び中間・投影レンズ系5によってスペクトロメータ31の物点位置に収束された試料透過電子線20は、EELS入射絞り36を通ってスペクトロメータ31に入射する。
【0019】
エネルギーロススペクトルの取得は以下のようにして行われる。スペクトロメータ31に入射した透過電子線21はエネルギー分光され、ゼロロス電子線23とエネルギーロス電子線24に分離し、エネルギーロススペクトルを形成する。偏向レンズ系33によってエネルギー分散を設定し、スペクトル検出器34で最終的なスペクトル38を得る。得られたエネルギーロススペクトル信号18はスペクトロメータ制御系11に取り込まれ、保存、表示、解析される。ドリフトチューブ40はスペクトロメータ31内に電気的に絶縁された電子線通路で、エネルギーロススペクトル38の位置をシフトするために用いられる。ドリフトチューブ制御信号14は任意の電位をドリフトチューブ40に与え、シフト量を決定する。電子線偏向器32は、偏向レンズ系33へのアライメントに用いられるほか、エネルギーロススペクトル38の位置調整にも用いられる。スペクトロメータ制御系11は、スペクトロメータ制御信号15によってスペクトロメータの励磁状態を制御する。
【0020】
図2は、スペクトロメータとドリフトチューブの構造例を示す図である。スペクトロメータ31は接地電位にあり、電磁石としてS極とN極に励磁され、スペクトロメータ31に入射する電子線21をある角度で偏向し、エネルギー分散している。一方、ドリフトチューブ40は、スペクトロメータ31の内部に電子線通路として組込まれ、変更可能な電位Vを与えることができる。エネルギーEoのゼロロス電子線が光軸上を運動するとき、エネルギーロス電子線(エネルギーE<Eo)は、ゼロロス電子線よりも内側の軌道を通過する。ここで、ドリフトチューブ40に電位Vを与えると、ゼロロス電子線のエネルギーはEo+Vとなり、エネルギーロス電子線のエネルギーはE+Vとなる。したがって、E+V=Eoの条件が満たされると、エネルギーロス電子線が光軸上を運動することになる。すなわち、ドリフトチューブ40に印加する電位を調整することにより、任意のエネルギー範囲のエネルギーロススペクトルを得ることができる。
【0021】
本発明による電子線分光器は、図1に示すように、スペクトル検出器34の近くに位置敏感型検出器(PSD)35を備える。エネルギーロススペクトル38の一部分は、PSD35に入射し、PSD35に入射したビームの重心位置をモニターすることによってスペクトルの位置ずれを検出する。検出された位置ずれは、PSD信号19としてスペクトロメータ制御系11に取り込まれ、位置ずれを戻す量に換算されたあと、ドリフトチューブ40への制御信号14又は電子線偏向器32への制御信号16へフィードバックされる。この操作を連続的に、且つ高速に行うことにより、エネルギーロススペクトル38がスペクトル検出器34上で動かない状態を実現できる。
【0022】
図3は、エネルギーロススペクトル検出器とPSDの位置関係の一例を表す模式図である。本例の場合、PSD35は、スペクトル検出器34の短軸方向、すなわちエネルギー分散方向と垂直な方向にスペクトル検出器34に近接して配置されている。この配置によると、スペクトル検出器34で記録されるスペクトルがゼロロスエネルギー(ゼロロス電子線23)を含むような場合、すなわち、エネルギー分散が小さい場合や、ゼロロスエネルギー(ゼロロス電子線23)付近のスペクトルを記録する場合でも、スペクトル検出器34からはみ出た電子線をPSD35が検出し、それらの強度の重心位置を特定することができる。何らかの原因によってエネルギーロススペクトルがエネルギー分散方向に移動すると、PSD35によって検出されるスペクトルの重心位置も移動するため、PSD35の出力からエネルギーロススペクトルの移動方向及び移動量を知ることができる。
【0023】
図4は、エネルギーロススペクトル検出器とPSDの位置関係の他の例を表す模式図である。この例の場合、PSD35は、スペクトル検出器34に対してその長軸方向、すなわちエネルギー分散方向に隣接して配置されている。この配置によると、スペクトル検出器34で記録されるスペクトルがゼロロスエネルギー(ゼロロス電子線23)を含まないような場合、すなわち、エネルギー分散が大きい場合やコアロスエネルギー付近のスペクトルを記録する場合でも、スペクトル検出器34からはみ出た電子線をPSD35が検出し、それらの強度の重心位置を特定することができる。従って、何らかの原因によってエネルギーロススペクトルがエネルギー分散方向に移動すると、PSD35によって検出されるスペクトルの重心位置も移動するため、PSD35の出力からエネルギーロススペクトルの移動方向及び移動量を知ることができる。
【0024】
図5は、スペクトル検出器上に現われたエネルギーロススペクトルを光学レンズを用いてPSDへ結像する方式の模式図である。図において、スペクトル検出器34に入射している発光しているゼロロス電子線23及びエネルギーロス電子線24は、光学レンズ39によって、PSD35上に像25,26として結像される。PSD35は、エネルギーロススペクトル像の強度の重心位置を検出する。この場合、PSD35はスペクトル検出器34とは異なる場所へ設置することが可能で、スペクトル検出器34周辺の機械的空間による制限を緩和することができる。
【0025】
図6は、ドリフトチューブとPSDを用いてエネルギーロススペクトルの位置ずれを補正する方法を説明する図である。PSD35でゼロロス電子線を検出するようにPSD35を配置した場合、ゼロロス電子線のPSD35への入射位置が電圧に変換され、PSD信号19となってスペクトロメータ制御系11に入力される。ゼロロス電子線の位置が低エネルギー側へずれたとき、PSD信号19は電圧が低くなり、ゼロロス電子線の位置が高エネルギー側へずれたとき、PSD信号19は電圧が高くなるとする。スペクトロメータ制御系11は比較回路を内蔵しており、PSD信号19の電圧値が初期値よりも高い場合は、ゼロロス電子線の位置を低エネルギー側へずらすように、ドリフトチューブ制御信号14を出力し、スペクトロメータ40に印加する電圧Vを調整する。逆に、PSD信号19の電圧値が初期値よりも低い場合は、ゼロロス電子線の位置を高エネルギー側へずらすように、ドリフトチューブ制御信号14を出力し、スペクトロメータ40に印加する電圧Vを調整する。このようにPSD信号19が一定になるようにフィードバック制御することで、常にゼロロス電子線の位置が初期位置と同じ場所になるようにできる。ドリフトチューブ40に印加する電圧Vとエネルギーロススペクトルの移動量は比例するので、ドリフトチューブ40には、PSD35上の位置ずれ量に比例する電圧を印加すればよい。
【0026】
多点分析、ライン分析、面分析、マッピングなど、試料8上の複数の点のEELS分析を行う場合、異なる点に照射電子線20を収束させると、エネルギーロススペクトル38のエネルギーの原点がずれることがある。このような場合においても、本発明を適用することが可能である。すなわち、異なる試料上の点に照射電子線20を収束させても、エネルギーの原点がずれないように制御することが可能になる。
【0027】
図8は、本発明の電子顕微鏡を用いた点分析の説明図である。図8(a)は試料と分析点の関係を示す模式図、図8(b)は分析点で測定されたエネルギーロススペクトルの例を示す模式図である。
【0028】
まず、図8(a)に示すように、照射電子線20を試料8上の分析点45に照射する。その状態で、エネルギーロススペクトル38を記録する。記録するときに本発明による制御を行うことで、図8(b)に示すように、特定の元素または結像状態の情報を有するコアロススペクトル46を、高いエネルギー分解能で得ることができる。
【0029】
図9は、本発明の電子顕微鏡を用いた多点分析の説明図である。図9(a)は試料上における分析点の配置を示す模式図、図9(b)は各分析点で測定されたエネルギーロススペクトルの例を示す模式図である。
【0030】
まず、図9(a)に示すように、試料8上の分析点45を決定する。本例では2つの領域8a,8bで構成される試料8を分析する場合を想定しており、分析点として▲1▼〜▲4▼の4ヶ所を指定している。指定方法は、試料8の走査透過型電子顕微鏡像などを予め撮影しておき、その像上で指定する。分析点▲1▼は第1の領域8aのみに位置し、分析点▲2▼は第1の領域8aと第2の領域8bの両方に位置し、分析点▲3▼は第2の領域8bのみに位置し、分析点▲4▼は第1の領域8aと第2の領域8bのいずれにも含まれない。分析点▲1▼から順に照射電子線20を照射していき、エネルギーロススペクトル38を順に記録する。その間、本発明による制御を行い、全てのエネルギーロススペクトルでエネルギーの原点がずれないようにする。
【0031】
その結果、図9(b)に示すように、この試料には少なくとも2種類の元素が含まれ、分析点▲1▼では第1の元素のみが検出され、分析点▲2▼では第1の元素と第2の元素の両方が検出され、分析点▲3▼では第2の元素のみが検出され、分析点▲4▼では第1の元素も第2の元素も検出されないことが分かる。
【0032】
図10は、本発明の電子顕微鏡を用いたライン分析の説明図である。図10(a)は試料と分析点の関係を示す模式図、図10(b)は各分析点で測定されたエネルギーロススペクトルの例を示す模式図である。
【0033】
まず、図10(a)に示すように、試料8上の分析点45を決定する。本例では、4つの領域8c〜8fで構成される試料を分析する場合を想定しており、分析点として▲1▼〜▲4▼の4ヶ所を指定している。指定方法は、試料8の走査透過型電子顕微鏡像などを予め撮影しておき、像上の2点を指定する。この2点間を等間隔に分割し、4ヶ所の分析点を決定する。分析点▲1▼〜▲4▼はそれぞれ異なる領域8c〜8fに位置する。分析点▲1▼から順に照射電子線20を照射していき、エネルギーロススペクトル38を順に記録する。その間、本発明による制御を行い、全てのエネルギーロススペクトルでエネルギーの原点がずれないようにする。
【0034】
その結果、図10(b)に示すように、この試料には少なくとも2種類の元素が含まれており、分析点▲1▼と▲4▼にはこれらの元素が含まれておらず、分析点▲2▼には第1の元素が存在し、分析点▲3▼には第1の元素と異なる第2の元素が存在することが分かる。
【0035】
図11は、本発明の電子顕微鏡を用いた面分析の説明図である。図11(a)は試料上の分析領域を示す模式図、図11(b)は測定されたエネルギーロススペクトルの例を示す模式図である。
【0036】
まず、図11(a)に示すように、試料8上の分析領域47を決定する。本例では、2つの領域8g,8hで構成される試料を分析する場合を想定しており、分析領域として両方の領域が重なった矩形領域を指定している。指定方法は、試料8の走査透過型電子顕微鏡像などを予め撮影しておき、像上の2点を指定し、その2点を対角とする長方形を決定する。分析領域を例えば左上から右下へ走査しながら、順に照射電子線20を照射していき、エネルギーロススペクトル38を連続して記録する。その間、本発明による制御を行い、全てのエネルギーロススペクトルでエネルギーの原点がずれないようにする。その結果、図11(b)に示すように、この試料に含まれる2種類の元素のエネルギーロススペクトル38を得ることができる。
【0037】
図12は、本発明の電子顕微鏡を用いたマッピングの説明図である。図12(a)は試料上の分析領域を示す模式図、図12(b)は分析によって得られた元素毎の濃度分布の画像表示例を示す模式図である。
【0038】
まず、図12(a)に示すように、試料8上の分析領域47を決定する。本例では、4つの微粒子8i〜8lで構成される試料を分析する場合を想定しており、分析領域としてこれらの微粒子8i〜8lを含む矩形領域を指定している。指定は、試料8の走査透過型電子顕微鏡像などを予め撮影しておき、例えば像上の2点を指定し、その2点を対角とする長方形を決定することで行う。分析領域を例えば左上から右下へ走査しながら、順に照射電子線20を照射していき、エネルギーロススペクトル38を順に記録する。その間、本発明による制御を行い、全てのエネルギーロススペクトルでエネルギーの原点がずれないようにする。
【0039】
その後、記録したエネルギーロススペクトル38を解析し、元素ごとの濃度分布を画像表示する。その結果、第1の元素は、図12(b)に示すように、左上と右下の微粒子8i,8lに含まれ、第2の元素は、図12(c)に示すように、右上と左下の微粒子8k,8jに含まれることがわかる。また、それらの位置、濃度も求められる。
【0040】
以上、スペクトロメータ31が電子顕微鏡鏡体1の下に取り付けられるような形態(ポストカラム型)によって説明してきたが、本発明は、スペクトロメータ31が電子顕微鏡装置本体1の中間レンズ系と投影レンズ系の間に配置されるインカラム型に対しても適用可能である。
【0041】
図7は、本発明を適用したインカラム型のエネルギーフィルターを備える電子顕微鏡の構成例を示すブロック図である。図7において、図1と同じ機能部分には図1と同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0042】
インカラム型エネルギーフィルター41は、中間レンズと投影レンズの間に配置され、入射電子線21をエネルギー分離し、光軸方向へゼロロス電子線23とエネルギーロス電子線24に分離して出射する。エネルギーロススペクトルを拡大投影するように投影レンズ系を設定し、ゼロロス電子線23をPSD35で検出するように配置すれば、前述の例と同様に、位置ずれのないエネルギーロススペクトルをスペクトル検出器34で検出できるようになる。
【0043】
【発明の効果】
本発明によると、エネルギーロススペクトルの移動を抑制してエネルギー分解能のよいエネルギーロススペクトルを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明による電子線分光器とそれを備えた電子顕微鏡の構成例を示すブロック図。
【図2】スペクトロメータとドリフトチューブの構造例を示す図である。
【図3】エネルギーロススペクトル検出器とPSDの位置関係の一例を表す模式図。
【図4】エネルギーロススペクトル検出器とPSDの位置関係の他の例を表す模式図。
【図5】スペクトル検出器上に現われたエネルギーロススペクトルを光学レンズを用いてPSDへ結像する方式の模式図。
【図6】ドリフトチューブとPSDを用いてエネルギーロススペクトルの位置ずれを補正する方法を説明する図。
【図7】本発明を適用したインカラム型のエネルギーフィルターを備える電子顕微鏡の構成例を示すブロック図。
【図8】本発明を用いて点分析を行う方法を説明する図。
【図9】本発明を用いて多点分析を行う方法を説明する図。
【図10】本発明を用いてライン分析を行う方法を説明する図。
【図11】本発明を用いて面分析を行う方法を説明する図。
【図12】本発明を用いてマッピングを行う方法を説明する図。
【符号の説明】
1…電子顕微鏡装置本体、2…電子銃、3…集束レンズ系、4…対物レンズ、5…中間・投影レンズ系、7…偏向コイル、8…試料、10…電子顕微鏡制御系、11…スペクトロメータ制御系、12…走査信号、13…レンズ制御信号、14…ドリフトチューブ制御信号、15…スペクトロメータ制御信号、16…電子線偏向器制御信号、17…偏向レンズ制御信号、18…エネルギーロススペクトル信号、19…PSD信号、20…照射電子線、21…透過電子線、23…ゼロロス電子線、24…エネルギーロス電子線、25…レンズで結像されたゼロロス電子線、26…レンズで結像されたエネルギーロス電子線、31…スペクトロメータ、32…電子線偏向器、33…偏向レンズ系、34…スペクトル検出器、35…PSD、36…EELS入射絞り、37…絞り、38…エネルギーロススペクトル、39…光学レンズ、40…ドリフトチューブ、41…インカラム型エネルギーフィルター、42…走査透過型電子顕微鏡用電子線検出器、43…蛍光板、44…電子線強度信号、45…分析点、46…コアロススペクトル、47…分析領域
Claims (14)
- 入射電子線をそのエネルギーにより分光分離する電子線分光部と、前記電子線分光部から出射した電子線スペクトルを検出するスペクトル検出器とを備える電子線分光器において、
前記電子線分光部から出射した電子線スペクトルの少なくとも一部を検出する位置敏感型検出器を備えることを特徴とする電子線分光器。 - 請求項1記載の電子線分光器において、前記位置敏感型検出器は、前記電子線分光部から出射した電子線スペクトルの少なくとも一部が当該位置敏感型検出器と前記スペクトル検出器に同時に入射するように、前記電子線分光部による電子線のエネルギー分散方向と直交する方向に前記スペクトル検出器と隣接して配置されていることを特徴とする電子線分光器。
- 請求項1記載の電子線分光器において、前記位置敏感型検出器は、前記電子線分光部から出射した電子線スペクトルの異なる部分が当該位置敏感型検出器と前記スペクトル検出器に入射するように、前記電子線分光部による電子線のエネルギー分散方向に前記スペクトル検出器と隣接して配置されていることを特徴とする電子線分光器。
- 請求項1記載の電子線分光器において、光学系を備え、前記スペクトル検出器と前記位置敏感型検出器とは、互いに前記光学系の物点と像点の位置関係にあることを特徴とする電子線分光器。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載の電子線分光器において、前記位置敏感型検出器の出力が一定となるように制御する安定化制御機構を備えていることを特徴とする電子線分光器。
- 請求項5記載の電子線分光器において、電子線分光部は電子線通路に電気的に絶縁されたドリフトチューブを備え、前記安定化制御機構は、前記位置敏感型検出器が検出した位置変化に比例する電圧を前記ドリフトチューブに印加することによって前記スペクトル検出器上における電子線スペクトルの位置が変化しないように制御することを特徴とする電子線分光器。
- 請求項5記載の電子線分光器において、前記電子線分光部と前記スペクトル検出器との間に電子線を偏向するための電子線偏向部を有し、前記安定化制御機構は、前記位置敏感型検出器が検出した位置変化をキャンセルするように前記電子線偏向部を作動させることによって前記スペクトル検出器上における電子線スペクトルの位置が変化しないように制御することを特徴とする電子線分光器。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載の電子線分光器を備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載の電子線分光器を備えたことを特徴とする透過走査型電子顕微鏡。
- 請求項8又は9に記載された電子顕微鏡装置を用いて、試料上の一点のエネルギーロススペクトルを取得することを特徴とする電子線エネルギー損失分光分析方法。
- 請求項8又は9に記載された電子顕微鏡装置を用いて、試料上の複数の点のエネルギーロススペクトルを取得することを特徴とする電子線エネルギー損失分光分析方法。
- 請求項8又は9に記載された電子顕微鏡装置を用いて、試料上の直線状に並ぶ複数の点のエネルギーロススペクトルを取得することを特徴とする電子線エネルギー損失分光分析方法。
- 請求項8又は9に記載された電子顕微鏡装置を用いて、試料上に指定された領域のエネルギーロススペクトルを取得することを特徴とする電子線エネルギー損失分光分析方法。
- 請求項8又は9に記載された電子顕微鏡装置を用いて、試料上に指定された領域に含まれる複数の点のエネルギーロススペクトルを取得することを特徴とする電子線エネルギー損失分光分析方法。
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