JP2004204190A - 光重合性液晶組成物および液晶フィルム - Google Patents

光重合性液晶組成物および液晶フィルム Download PDF

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Abstract

【課題】光重合性液晶組成物に加えられた光重合開始剤は、塗膜自体またはその塗膜と接触する層の特性に悪影響を与えることがある。本発明の課題は、従来の光重合開始剤を用いなくてもよく、配向性に優れ、液晶表示素子の光学補償素子として有用なフィルムとすることができる光重合性液晶組成物を提供することである。
【解決手段】式(1)〜式(4)のそれぞれで表される化合物の少なくとも2つを含有する光重合性液晶組成物。これらの式において、m、n、qおよびrは独立して1〜20の整数であり、pおよびsは独立して0または1である。X〜Xは水素またはメチルである。RおよびRはシアノ、アルキルまたはアルコキシである。A〜Aは1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンである。Z〜Zは単結合、−CHCH−、−COO−または−OCO−である。
Figure 2004204190

【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光重合性液晶組成物およびこの組成物から得られる液晶フィルムに関する。更に、このフィルムを用いた光学素子および液晶表示装置にも関する。
【0002】
本発明で用いる用語について説明する。チルト角(配向ベクトルが基板平面と成す角度)が基板界面から自由界面にかけて一様にゼロに近く、特に0〜5°である配向状態を「ホモジニアス配向」と称する。チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様に一定であり、特に5〜85°である配向状態を「チルト配向」と称する。チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様に85〜90°である配向状態を「ホメオトロピック配向」と称する。「液晶性」の意味は、液晶相を有することだけに限定されない。それ自体は液晶相を持たなくても、他の液晶化合物と混合したときに、液晶組成物の成分として使用できる特性も、「液晶性」の意味に含まれる。「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意であることを示すが、個数が0である場合を含まない。アクリレートおよびメタクリレートの総称として、「(メタ)アクリレート」を用いることがある。
【0003】
【従来の技術】
【特許文献1】特開平3−140921号公報
【特許文献2】特開平6−281814号公報
耐久性の高い光学補償フィルムとするために、光重合性液晶組成物を光重合する例が報告されている。例えば、2つのアクリレート基を有する液晶化合物にキラルドーパントを添加して配向させ、これを重合させて光学補償層とした例が特許文献1に開示されている。この光学補償層を用いた超ねじれネマチック液晶表示装置は、コントラスト比が大きいとされている。2つのアクリレート基を有するキラルな液晶化合物(A)と1つのアクリレート基を有するアキラルな液晶化合物(B)からなる液晶組成物を用いた例が、特許文献2に開示されている。この文献では、これらの化合物の紫外線に対する反応性が異なるので、UV硬化時にそれぞれの濃度分布が膜厚方向で変化すること、これによって膜厚方向でピッチが連続的に変化するコレステリック層が形成されること、そしてこの層と1/4λ板を組み合わせることにより光利用効率の優れた偏光子が得られることなどが説明されている。光重合性液晶組成物を光重合するときには、流動性の高い状態において制御された配向が光重合によって固定化される。そのため、重合体の配向状態を望み通りに設定することが比較的容易である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
光重合性液晶組成物の結晶−ネマチック相転移温度が高い場合には、作業中に意図しない熱重合が起こって、不均一な配向状態が固定化されてしまうことがある。一方、ガラス転移点(Tg)より高温側では、分子の微視的な揺らぎが発生することによって配向が乱れ、光学異方性が著しく低下するため、Tgを材料の使用温度以上に設定する必要がある。しかしながら、Tgを高くすると、重合体の脆さが増すので、使用中にひび割れが発生するなどの問題が生じる。
【0005】
一般に光重合性液晶組成物は、その光重合を開始させるために光重合開始剤を必要とする。そしてこの光重合開始剤は、不純物として、塗膜自体またはその塗膜と接触する層の特性に悪影響を与えることがある。特に、液晶セルの内面に光重合性液晶組成物から得られる液晶フィルムを配置させた場合、光重合開始剤がセルに充填された液晶に溶出すると、液晶の電気特性に影響を与えて、表示品位の低下や信頼性の劣化を招く恐れがある。
【0006】
本発明の第1の目的は、従来の光重合開始剤を用いなくともよい光重合性液晶組成物を提供することである。本発明の第2の目的は、この組成物から光重合によって得られる、配向性に優れ、光学素子、特に液晶表示素子の光学補償素子として有用な液晶フィルムを提供することである。そして、本発明の第3の目的は、この液晶フィルムを有する光学素子や液晶表示素子を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の問題点は、下記の構成からなる本発明によって解決される。
[1]式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物の少なくとも2つを含有する光重合性液晶組成物。
Figure 2004204190
これらの式において、m、n、qおよびrは独立して1〜20の整数であり、pおよびsは独立して0または1である;X、XおよびXは独立して水素またはメチルである;RおよびRは独立して、シアノ、炭素数1〜20のアルキルまたは炭素数1〜20のアルコキシである;A、A、A、A、AおよびAは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または任意の水素がフッ素で置き換えられた1,4−フェニレンである;Z、Z、Z、およびZは独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、または−OCO−である。
[2]式(1)および式(2)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[3]式(2)および式(3)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[4]式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[5]式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[6]式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、これら以外の成分を含有してもよい、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[7]式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物の少なくとも2つに加えて、光学活性化合物を含有する、[1]項に記載の光重合性液晶組成物。
[8]式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物の1つとして光学活性化合物を含有する、[2]〜[6]のいずれか1項に記載の光重合性液晶組成物。
[29][1]〜[6]のいずれか1項に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、この組成物において形成された配向が固定化されている液晶フィルム。
[10]ハイブリッド配向が固定化されている、[9]項に記載の液晶フィルム。
[11]ホモジニアス配向が固定化されている、[9]項に記載の液晶フィルム。
[12]チルト配向が固定化されている、[9]項に記載の液晶フィルム。
[13]ホメオトロピック配向が固定化されている、[9]項に記載の液晶フィルム。
[14][7]項に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、光重合性液晶組成物のキラルネマチック相における螺旋構造が固定化されている液晶フィルム。
[15]螺旋構造におけるピッチが厚さ方向に連続的に変化している、[14]項に記載の液晶フィルム。
[16]波長100〜1500nmの領域の光を全てまたは選択的に反射する、[15]項に記載の液晶フィルム。
[17][8]項に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、光重合性液晶組成物のキラルネマチック相における螺旋構造が固定化されている液晶フィルム。
[18]螺旋構造におけるピッチが厚さ方向に連続的に変化している、[17]項に記載の液晶フィルム。
[19]波長100〜1500nmの領域の光を全てまたは選択的に反射する、[18]項に記載の液晶フィルム。
[20][9]項に記載の液晶フィルムを有する光学補償素子。
[21][9]項に記載の液晶フィルムと偏光板とを有する光学素子。
[22][10]〜[19]のいずれか1項に記載の液晶フィルムを有する光学補償素子。
[23][10]〜[19]のいずれか1項に記載の液晶フィルムと偏光板とを有する光学素子。
[24][9]項に記載の液晶フィルムを液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
[25][10]〜[19]のいずれか1項に記載の液晶フィルムを液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
[26][20]項に記載の光学補償素子または[21]項に記載の光学素子を有する液晶表示装置。
[27][22]項に記載の光学補償素子を有する液晶表示装置。
[28][23]項に記載の光学素子を有する液晶表示装置。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下の説明では、本発明の光重合性液晶組成物を光重合性組成物と称することがある。式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と称することがある。化合物(1)は、式(1)で表される化合物の2つ以上で構成されてもよい。他の式で表される化合物についても同様に簡略化して称することがある。
光重合性組成物は、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)および化合物(4)の少なくとも2つを含有する組成物である。
Figure 2004204190
【0009】
これらの式における記号は次のように定義される。m、n、qおよびrは独立して1〜20の整数であり、この範囲は1〜10が好ましい。pおよびsは独立して0または1である。X〜Xは独立して水素またはメチルである。RおよびRは独立して、シアノ、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数1〜20のアルコキシであり、シアノまたは炭素数1〜10のアルキルが好ましい。A〜Aは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または任意の水素がフッ素で置き換えられた1,4−フェニレンである。Z〜Zは独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、または−OCO−である。
【0010】
光重合性組成物の好ましい例は、次に挙げる組成物(1)〜組成物(5)である。各組成物に関する説明において、化合物の割合(%)はすべて組成物全量に基ずく重量%を示す。組成物(1)は化合物(1)と化合物(2)とを含有する組成物である。化合物(1)の好ましい割合は30〜95%であり、より好ましい割合は60〜95%である。化合物(2)の好ましい割合は5〜50%であり、より好ましい割合は5〜40%である。組成物(1)は、化合物(1)および化合物(2)以外に、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物、即ち、化合物(1)〜化合物(4)のいずれでもない成分を含有してもよい。以下の説明においては、化合物(1)〜化合物(4)のいずれでもない成分を、他の成分と称することがある。
【0011】
組成物(2)は、化合物(2)と化合物(3)とを含有する組成物である。化合物(2)の好ましい割合は5〜50%であり、より好ましい割合は5〜30%である。化合物(3)の好ましい割合は50〜95%であり、より好ましい割合は70〜95%である。組成物(2)は、化合物(2)および化合物(3)以外に他の成分を含有してもよい。
【0012】
組成物(3)は、化合物(3)と化合物(4)とを含有する組成物である。化合物(3)の好ましい割合は10〜95%であり、より好ましい割合は50〜95%である。化合物(4)の好ましい割合は5〜95%であり、より好ましい割合は5〜50%である。組成物(3)は、化合物(3)および化合物(4)以外に他の成分を含有してもよい。
【0013】
組成物(4)は、化合物(2)、化合物(3)および化合物(4)を含有する組成物である。化合物(2)の好ましい割合は5〜50%であり、より好ましい割合は5〜30%である。化合物(3)の好ましい割合は5〜90%であり、より好ましい割合は55〜90%である。化合物(4)好ましいの割合は5〜90%であり、より好ましい割合は5〜40%である。組成物(4)は、化合物(2)、化合物(3)および化合物(4)以外に他の成分を含有してもよい。
【0014】
組成物(5)は、化合物(1)〜化合物(4)のすべてを含有する組成物である。化合物(1)の好ましい割合は5〜85%であり、より好ましい割合は10〜70%である。化合物(2)の好ましい割合は5〜50%であり、より好ましい割合は5〜30%である。化合物(3)の好ましい割合は5〜85%であり、より好ましい割合は10〜80%である。化合物(4)の好ましい割合は5〜85%であり、より好ましい割合は5〜20%である。組成物(5)は、これら以外に他の成分を含有してもよい。
【0015】
他の成分の好ましい例は光学活性化合物である。即ち、光重合性組成物は、化合物(1)〜化合物(4)の少なくとも2つに加えて、光学活性化合物を含有することができる。光学活性化合物を含有する光重合性組成物については、後に詳しく説明する。
【0016】
化合物(1)〜化合物(4)は、有機合成化学における手法を適当に組み合わせることにより合成することができる。出発物質に目的の末端基、環および結合基を導入する方法は、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などに記載されている。下記の文献にも、それぞれの合成方法が記載されている。
化合物(1):Polymer, vol.34, No.8, p.1736-(1993)
化合物(2):特願2002−115270明細書
化合物(3):特願2001−378508明細書
化合物(4):WO01/53248A1公報
【0017】
化合物(1)の好ましい例を次に示す。
Figure 2004204190
【0018】
式(2)を更に具体化した式の例を次に示す。
Figure 2004204190
【0019】
Figure 2004204190
【0020】
式(2−1)〜式(2−20)において、n、ZおよびRは、式(2)におけるこれらの記号と同様に定義され、1,4−フェニレンの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよい。そして、1,4−シクロヘキシレンの立体配置はシスよりトランスが好ましい。これらの式の内、式(2−1)、式(2−5)、式(2−9)、および式(2−17)の例を次に示す。
【0021】
Figure 2004204190
【0022】
Figure 2004204190
【0023】
Figure 2004204190
【0024】
式(3)の具体例を次に示す。
Figure 2004204190
【0025】
式(4)を更に具体化した式の例を次に示す。
Figure 2004204190
【0026】
Figure 2004204190
【0027】
式(4−1)〜式(4−20)において、r、ZおよびRは、式(4)におけるこれらの記号と同様に定義され、1,4−フェニレンの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよい。そして、1,4−シクロヘキシレンの立体配置はシスよりトランスが好ましい。これらの式の内、式(4−1)、式(4−5)、式(4−9)、および式(4−17)の例を次に示す。
【0028】
Figure 2004204190
【0029】
化合物(2)は、光によって重合するとともに、化合物(1)、化合物(3)および化合物(4)を重合させるための光重合開始剤としての機能を有する。従って、化合物(2)を用いるときには通常の光重合開始剤が不要となるので、この開始剤を用いることによる前記の問題点が解消される。化合物(2)を用いるとき、その好ましい含有量は組成物全量を基準とする割合で50重量%以下である。より好ましい割合は40重量%以下である。液晶性の低下や架橋密度の低下を招かないためには、この含有量範囲内で化合物(2)を用いればよい。
【0030】
化合物(3)は極めて広いネマチック相温度範囲を有するとともに、大きな屈折率異方性(Δn)を有する。化合物(3)の含有量を、組成物全量を基準とする割合で30〜50重量%とするとき、結晶/ネマチック相転移温度を大きく上昇させることなく、広いネマチック相温度範囲を有し、かつΔnの大きい光重合性組成物を得ることができる。
【0031】
本発明の組成物においては、Δnを0.05〜0.25の間で調整することが可能である。所定の光学特性を得るためには、光学特性の1つであるレタデーション(屈折率異方性Δn×膜厚d)が一定でなければならない。Δnを大きくすることによって膜厚を減少させることができるので、硬化収縮、熱収縮に起因する不具合を軽減することができる。一方、Δnを小さくすることによって膜厚を増加させることができるので、面内のレタデーションの不均一性が軽減される。そして、Δnを小さくできれば、Δnの波長依存性も軽減できる。化合物(1)や化合物(2)の添加量を増加させるとΔnが大きくなる。pが0の化合物(2)やsが0の化合物(4)の添加量を増加させるとΔnは小さくなる。
【0032】
光重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において化合物(1)〜化合物(4)以外の重合性化合物を配合することができる。この重合性化合物は液晶性でなくてもよい。液晶性でない重合性化合物の好ましい使用量は、化合物(1)〜化合物(4)の構造やそれらの組成比などによって変動するが、通常は組成物全量を基準とする割合で40重量%以下である。より好ましい範囲は30重量%以下であり、更に好ましい範囲は20重量%以下である。組成物の液晶性が保たれ、液晶層が層分離しないためには、この割合が40重量%以下であることが好ましい。液晶性でない重合性化合物の例は、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂などである。ポリエステル(メタ)アクリレートは、多価アルコールと一塩基酸または多塩基酸とのポリエステルプレポリマーに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる。ポリウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールと2個のイソシアネート基を持つ化合物とを反応させた後、(メタ)アクリル酸を反応させて得られる。エポキシ樹脂の例は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪酸系エポキシ樹脂、脂環式系エポキシ樹脂、アミンエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂などである。
【0033】
非液晶性の重合性化合物の好ましい例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2−ジメチルブタン酸ビニル、2,2−ジメチルペンタン酸ビニル、2−メチル−2−ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2−エチル−2−メチルブタン酸ビニル、N−ビニルアセトアミド、p−t−ブチル安息香酸ビニル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、スチレン、o−、m−またはp−クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t−アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン、およびヘキサフルオロプロペンである。
【0034】
重合体の被膜形成能をより高めるために、多官能アクリレートを組成物に添加することもできる。好ましい多官能アクリレートは、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールAグリシジルジアクリレート、およびポリエチレングリコールジアクリレートである。
【0035】
液晶相の温度範囲を制御する目的で、液晶性の重合性化合物を用いてもよい。液晶性の重合性化合物の好ましい例を次に示す。
Figure 2004204190
これらの式において、Wは水素、フッ素、塩素またはメチルであり、yは1〜20の整数である。
【0036】
光重合性組成物の硬化速度を最適化するために、公知の光重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤の好ましい添加量は、組成物全量を基準とする割合で、0.01〜5重量%である。より好ましい割合は0.01〜1重量%である。光重合開始剤の例は、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(商品名:ダロキュアー1173)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:イルガキュアー184)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名:イルガキュアー651)、イルガキュアー500、イルガキュアー2959、イルガキュアー907、イルガキュアー369、イルガキュアー1300、イルガキュアー819、イルガキュアー1700、イルガキュアー1800、イルガキュアー1850、ダロキュアー4265、イルガキュアー784、p−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4−ジエチルキサントンとp−ジメチルアミノ安息香酸メチルとの混合物などである。
【0037】
光重合性組成物には、保存時の重合開始を防止するために重合防止剤を添加することができる。公知の重合防止剤を使用できるが、その好ましい例は、2,5−ジ(t−ブチル)ヒドロキシトルエン(BHT)、ハイドロキノン、メチルブルー、ジフェニルピクリン酸ヒドラジド(DPPH)、ベンゾチアジン、4−ニトロソジメチルアニリン(NIDI)、o−ヒドロキシベンゾフェノンなどである。
【0038】
光重合性組成物の保存性を向上させるために、酸素阻害剤を添加することもできる。組成物内で発生するラジカルは雰囲気中の酸素と反応しパーオキサイドラジカルを与え、重合性化合物との好ましくない反応が促進される。これを防ぐ目的で酸素阻害剤を添加することが好ましい。酸素阻害剤の例はリン酸エステル類である。
【0039】
以下の説明では、光重合性組成物から得られる本発明の液晶フィルムを単に液晶フィルムと称することがある。液晶フィルムは、次のようにして形成させることができる。まず、光重合性組成物を支持基板上に塗布して塗膜を形成させる。つぎに、その塗膜に光照射して液晶組成物を重合させ、塗膜中の組成物が液晶状態で形成するネマチック配向を固定化する。使用できる支持基板の例は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースおよびその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスチックフィルムである。これらはいずれも、その表面に液晶性組成物の膜を形成させることができる。
【0040】
これらのプラスチックフィルムは、一軸延伸フィルムであってよく、二軸延伸フィルムであってもよい。これらのプラスチックフィルムは、親水化処理や疎水化処理などの表面処理を施したものであってもよい。プラスチックフィルムは積層フィルムであってもよい。プラスチックフィルムに代えて、表面にスリット状の溝をつけたアルミニウム、鉄、銅などの金属基板や、表面をスリット状にエッチング加工したアルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板などを用いることもできる。
【0041】
支持基板には、塗膜形成に先立って、通常ラビング処理が施されるが、そのラビング処理は支持基板に直接施されていてもよく、また、支持基板上に予め配向膜を設け、その配向膜にラビング処理を施してもよい。配向膜の例は、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコールなどである。ラビング処理には任意の方法が採用できるが、通常はレーヨン、綿、ポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、支持基板または配向膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法、ロールを固定したまま支持基板側を移動させる方法などが採用される。支持基板の種類によっては、その表面に酸化珪素を斜め蒸着して配向能を付与することもできる。
【0042】
液晶フィルムを製造する際には、光重合性組成物をそのまま用いてもよいが、これに溶剤を加えてから塗布したり成形したりした後に、溶剤を除去して薄膜を製造してもよい。溶剤の好ましい例は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ビス(メトキシエチル)エーテル、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸エチル、ヘキサフルオロ−2−プロパノールなどである。これらの溶剤は、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、塩化メチレンなどの一般的な有機溶剤と混合して用いてもよい。均一な膜厚を得るための塗布方法の例は、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコード法、ディップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法などである。
【0043】
溶剤を用いた場合には、塗布後に溶剤を乾燥除去して、支持基板上に膜厚の均一な光重合性組成物の塗膜層を形成させる。溶剤除去の条件は特に限定されない。溶剤がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどを利用して溶剤を除去することができる。光重合性組成物に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜を乾燥する過程で、塗膜中の液晶組成物のネマチック配向が完了していることがある。従って、乾燥工程を経た塗膜は、後述する熱処理工程を経由することなく、硬化工程に供することができる。しかしながら、塗膜中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜を熱処理し、その後に光重合処理することが好ましい。
【0044】
塗膜を熱処理する際の温度および時間、光照射に用いられる光の波長、光源から照射する光の量などは、光重合性組成物に用いる化合物の種類と組成比、光重合開始剤の添加の有無やその添加量などによって、好ましい範囲が異なる。従って、以下に説明する塗膜の熱処理の温度および時間、光照射に用いられる光の波長、および光源から照射する光の量についての条件は、あくまでもおよその範囲を示すものである。
【0045】
塗膜の熱処理は、光重合性組成物の液晶相転移点以上で行われる。熱処理方法の一例は、前記組成物がネマチック液晶相を示す温度まで塗膜を加温して、塗膜中の組成物にネマチック配向を形成させる方法である。組成物がネマチック液晶相を示す温度範囲内で、塗膜の温度を変化させることによってネマチック配向を形成させてもよい。この方法は、上記温度範囲の高温域まで塗膜を加温することによって塗膜中にネマチック配向を概ね完成させ、次いで温度を下げることによってさらに秩序だった配向にする方法である。上記のどちらの熱処理方法を採用する場合でも、熱処理温度は室温〜120℃である。この温度の好ましい範囲は室温〜80℃であり、より好ましい範囲は室温〜70℃である。熱処理時間は5秒〜2時間である。この時間の好ましい範囲は10秒〜40分であり、より好ましい範囲は20秒〜20分である。光重合性組成物層の温度を所定の温度まで上昇させるためには、熱処理時間を5秒以上にすることが好ましい。生産性を低下させないためには、熱処理時間を2時間以内にすることが好ましい。
【0046】
塗膜中に形成された光重合性組成物のネマチック配向状態は、光照射により塗膜を重合させることによって固定化される。光照射に用いられる光の波長は特に限定されない。電子線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)などを利用することができる。通常は、紫外線または可視光線を用いればよい。波長の範囲は150〜500nmである。好ましい範囲は250〜450nmであり、より好ましい範囲は300〜400nmである。光源の例は、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などである。光源の好ましい例は、メタルハライドランプやキセノンランプ、および高圧水銀ランプである。光源と光重合性組成物の塗膜層との間にフィルターなどを設置して特定の波長領域のみを通すことにより、照射光源の波長領域を選択してもよい。光源から照射する光量は、2〜5000mJ/cm2である。光量の好ましい範囲は10〜3000mJ/cm2であり、より好ましい範囲は100〜2000mJ/cm2である。光照射時の温度条件は、上記の熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。
【0047】
光重合性組成物は、チルト角が厚み方向で連続的に変化し、基板界面から自由界面にかけて連続的に増加する配向を示す。このような配向状態をハイブリッド配向という。この液晶フィルムを様々な光学素子に用いる場合、または液晶表示装置に用いる光学補償素子として適用する場合には、厚み方向におけるチルト角の分布の制御が極めて重要となる。ホモジニアス配向では、チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様にゼロに近く、特に0〜5°である。チルト配向では、チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様に一定であり、特に5〜85°である。
【0048】
チルト角を制御する方法の一つは、光重合液晶組成物に用いる液晶性化合物の種類や組成比などを調整する方法である。この液晶組成物に他の成分を添加することによっても、チルト角を制御することができる。液晶フィルムのチルト角は、光重合性組成物に加える溶剤の種類や光重合性組成物溶液中の溶質濃度、他の成分の1つとして加える界面活性剤の種類や添加量などによっても制御することができる。支持基板または配向膜の種類やラビング条件、塗膜の乾燥条件や熱処理条件などによっても、液晶フィルムのチルト角を制御することができる。さらに、配向後の光重合工程での照射雰囲気や照射時の温度なども液晶フィルムのチルト角に影響を与える。即ち、液晶フィルム製造プロセスのほとんど全ての条件が多少なりともチルト角に影響を与えると考えてよい。従って、光重合性液晶性組成物の最適化と共に、液晶フィルム製造プロセスの諸条件を適宜選択することにより、任意のチルト角にすることができる。
【0049】
ホメオトロピック配向は、垂直配向剤を用いて配向膜を形成させることにより得られる。この配向状態では、チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様に85〜90°に分布している。垂直配向剤の例は、オクタデシルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤、レシチン、クロム錯体、垂直配向用のポリイミド配向膜などである。電場や磁場などを用いてチルト角を制御することも可能である。
【0050】
液晶フィルムの厚さは、目的とする素子に応じたレタデーションや液晶フィルムの複屈折率によって適当な厚さが異なる。従って、その範囲を厳密に決定することはできないが、好ましい液晶フィルムの厚さは、一応0.05〜50μmである。そして、より好ましい範囲は0.1〜20μmであり、さらに好ましい範囲は0.5〜10μmである。液晶フィルムの好ましいヘーズ値は1.5%以下であり、好ましい透過率は80%以上である。より好ましいヘーズ値は1.0%以下であり、より好ましい透過率で95%以上である。透過率については、可視光領域でこれらの条件を満たすことが好ましい。
【0051】
液晶フィルムは、液晶表示素子(特に、アクティブマトリックス型およびパッシブマトリックス型の液晶表示素子)に適用する光学補償素子として有効である。この液晶フィルムを光学補償膜として使用するのに適している液晶表示素子の型の例は、TN型(ツィステッドネマティック)、STN型(スーパーツィステッドネマティック)、ECB型(電気的に制御された複屈折)、OCB型(光学的に補償された複屈折)、DAP型(整列相の変形効果)、CSH型(カラー スーパーホメオトロピック)、VAN/VAC型(垂直配向したネマチック/コレステリック)、OMI型(光学モード干渉)、SBE型(超複屈折効果)などである。さらにゲスト−ホスト型、IPS型(イン・プレーン・スイッチング)、強誘電性型、反強誘電性型などの表示素子用の位相リターダーとして、この液晶フィルムを使用することもできる。なお、液晶フィルムに求められるチルト角の厚み方向の分布や厚みなどのパラメーターの最適値は、補償すべき液晶表示素子の種類とその光学パラメーターに強く依存するので、素子の種類によって異なる。
【0052】
液晶フィルムは、偏光板などと一体化した光学素子としても使用することができ、この場合は液晶セルの外側に配置させられる。しかしながら、光学補償素子としての液晶フィルムは、セルに充填された液晶への不純物の溶出がないかまたは少ないので、液晶セルの内部に配置させることも可能である。光重合性組成物を使用する際にフォトリソグラフィー技術を適用すれば、液晶表示素子の青、緑、赤などの波長域の異なる画素ごとに、または1画素を分割して区分された所定の領域に、光学パラメーターの異なる液晶フィルムから成る光学補償層を配置することができる。例えば、特開2001−222009公報に開示されている方法を応用すれば、1画素を反射表示部と、液晶フィルムからなる1/4λ板を配置した透過表示部に分割することによって、光利用効率が改善された半透過反射型液晶表示素子を構築することができる。即ち、液晶表示素子の表示性能を更に向上させることが可能である。
【0053】
光重合性組成物に非重合性の低分子液晶を加えた混合物は、高分子分散型液晶表示素子またはホログラフィック高分子分散型液晶表示素子にすることができる。光重合性組成物に強誘電性液晶または反強誘電性液晶を加えた混合物は、高分子安定化強誘電性液晶表示素子または高分子安定化反強誘電性液晶表示素子にすることができる。これらの素子に関する素子自体の具体的な構築方法は以下の文献に記載されている。
特開平6−340587号公報.
IDW '98, P.105, 1998.
J. of Photopoly. Sci. Technol., 295-300, 13(2),(2000).
【0054】
化合物(1)〜化合物(4)の少なくとも2つに加えて光学活性化合物を含有する光重合性組成物は、キラルネマチック相を有する。光学活性化合物は、螺旋構造を誘起する目的のために添加される。光学活性化合物の例は、以下に示すOp−1〜Op−20である。光学活性化合物は光重合性でなくてもよい。光重合性でない光学活性化合物の例は、Op−1〜Op−12である。光重合性の光学活性化合物の例は、Op−13〜Op−20である。
【0055】
Figure 2004204190
【0056】
Figure 2004204190
【0057】
光学活性化合物を含む光重合性組成物は、液晶骨格が螺旋を描くように規則的にねじれて配向している。そしてその螺旋ピッチの長さにより、得られる機能が異なる。螺旋ピッチの長さが数μm程度である場合、旋光子としての機能を有し、また、TN型(ツィステッドネマティック)、STN型(スーパーツィステッドネマティック)の光学補償素子への適用が可能である。
【0058】
螺旋ピッチの長さが可視光域程度になると、例えば、螺旋構造のねじれの方向が右である場合、液晶フィルムは、no×P<λ<ne×P(noは液晶層の常光に対する屈折率、neは液晶層の異常光に対する屈折率、Pは螺旋ピッチの長さ)の範囲の波長λを持つ右回りの円偏光のみを選択的に反射して、それ以外の波長を持つ右回りの円偏光や、全ての波長の左回りの円偏光を全て透過する。即ち、ある特定の波長の右円偏光と左円偏光を選択的に分離することが可能である。さらに、反射波長域は、入射光と相互作用する有効螺旋ピッチに依存するため、反射光および透過光の着色は視野角により変化する。
【0059】
このような反射光および透過光の着色を利用すれば、装飾部材などの意匠用途に応用することができる。液晶表示素子に用いるカラーフィルターへの応用も可能である。さらに、反射光および透過光が独特の金属光沢を有すること、視野角により色調が変化すること、そしてこのような光学特性を通常の複写機では複製できないことなどを考慮すると、偽造防止用途へ液晶フィルムを応用することも可能である。
【0060】
このような円偏光分離機能を応用して、液晶表示素子における光利用効率を改善することも可能である。例えば、螺旋構造を有し円偏光分離機能を発現する液晶フィルムをバックライトと偏光板で挟み、液晶フィルムと偏光板の間に、1/4λ板を挿入する。この表示素子においては、バックライトから出射された非偏光光が可視光の全波長域において効率よく直線偏光に変換され、偏光板における光の吸収を軽減できるので、光の利用効率が改善され液晶表示素子の輝度が向上する。
【0061】
液晶骨格が螺旋構造を有し、これによって円偏光分離機能を発現する液晶フィルムを、液晶セルの内面に設置することも可能である。Asia Display/IDW '01 P.129,2001などの文献に開示されている方法を応用する例を次に示す。まず、入射光を印加電圧に応じて1/2λずらす液晶セルを用意し、これの片側内面に液晶フィルムを設置する。次に、この液晶セルを向きが互いに相反する2枚の円偏光板で挟み、液晶フィルム側にバックライトを配置する。即ち、この液晶表示素子においては、1枚目の円偏光板、液晶セル、液晶フィルム(但し、液晶セル内面に設置)、2枚目の円偏光板、およびバックライトがこの順に重ねられている。このとき、液晶フィルムにおける液晶骨格の螺旋の向きと液晶フィルムの層数を、バックライト側の円偏光板と同じ向きの円偏光について、半分は反射し半分は透過するように調整すれば、高い透過率と反射率の半透過反射液晶表示素子が実現される。
【0062】
上記の用途においては、全可視光領域(波長350〜750nmの領域)で円偏光分離機能が発現されることが望まれることがある。これを実現するためには、光重合性組成物またはこれを硬化した液晶フィルムにおいて、膜厚方向に螺旋ピッチが連続的に変化するようにすればよい。これを解決するための1つの方法は、膜厚方向における光学活性化合物の濃度分布を連続的に変化させることである。具体的には、光重合性組成物と紫外線に対する反応性の異なる光学活性化合物を添加して、紫外線を照射し、重合させる。これによって膜厚方向に光学活性化合物の濃度分布が生じ、螺旋ピッチを連続的に変化させることが可能である。もう1つの方法は、照射する紫外線強度や紫外線吸収色素の添加により、光学活性化合物の濃度分布を調整することである。さらに、螺旋ピッチの長さが異なる光重合性組成物を重合させた液晶フィルムを積層させることによっても、螺旋ピッチを連続的に変化させることが可能である。円偏光分離機能は、可視光領域のみならず、紫外線領域(100〜350nm)または近赤外線領域(750〜1500nm)に適用することも可能である。この円偏光分離機能を応用した紫外線あるいは近赤外線の反射フィルター等の応用も可能である。
【0063】
下記の文献によれば、螺旋ピッチの長さが可視光より十分に短かい、例えば250nm程度以下の場合には、螺旋軸に垂直な面についての可視光域の屈折率は((ne+no)/2)0.5で表され、螺旋軸方向についての可視光域の屈折率はnoに等しいとされている。このような光学的特性を有する光学フィルムは、ネガティブC−プレートと呼ばれ、液晶表示素子のうちVAN型、VAC型、OCB型などの表示素子に適した光学補償膜となる。
W. H. de Jeu, Physical Properties of Liquid Crystalline Materials, Gordon and Breach, New York(1980)
【0064】
光学活性化合物の使用量は、これを含有する光重合性組成物の螺旋ピッチが上記の目的に適うような量でなければならない。この含有量は、設定する螺旋ピッチと光学活性化合物のHTP(螺旋誘起力)の大きさによって決まるが、通常は光重合性組成物の全量を基準とする割合で50重量%以下である。その好ましい割合は30重量%以下である。
【0065】
【実施例】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0066】
実施例1
<光重合性組成物の調製>
実施例1において、%は組成物全量を基準とする重量%を示す。
(1)組成物A
35%の化合物(1−9)、35%の化合物(1−11)、および30%の化合物(2−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Aとする。組成物Aは、55〜105℃の温度範囲でネマチック相を示した。
【0067】
(2)組成物B
25%の化合物(1−5)、25%の化合物(1−9)、25%の化合物(1−11)、および25%の化合物(2−1−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Bとする。組成物Bを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0068】
(3)組成物C
35%の化合物(3−5)、35%の化合物(3−10)、および30%の化合物(2−1−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Cとする。組成物Cを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで70℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0069】
(4)組成物D
25%の化合物(1−5)、25%の化合物(1−9)、25%の化合物(3−5)、および25%の化合物(2−1−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Dとする。組成物Dを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0070】
(5)組成物E
35%の化合物(3−5)、35%の化合物(3−10)、および30%の化合物(4−5−1)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Eとする。組成物Eを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0071】
(6)組成物F
30%の化合物(3−5)、30%の化合物(3−10)、15%の化合物(4−5−1)、および25%の化合物(2−1−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Fとする。組成物Fを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0072】
(7)組成物G
30%の化合物(1−11)、30%の化合物(3−10)、15%の化合物(4−5−1)、および25%の化合物(2−1−2)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Gとする。組成物Gを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解させ、ホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した。これを10分間乾燥して溶剤を除去し、ガラス基板上に形成された薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック相に特有のシュリーレン組織が一様に観察された。
【0073】
実施例2
ラビング処理を施したポリイミド配向膜付きガラス基板を、ラビング方向が180度の角度をなすように対向させて配置し、5μmの間隔を有するセルを作成した。60℃に加熱したホットプレート上にて、これに組成物Aを充填した。このセルを偏光顕微鏡を用いて観察したところ、組成物Aは均一にホモジニアス配向し、欠陥もないことを確認した。ベレックコンペンセーターを用いてレタデーションを求めたところ790nmの値を得た。このセルを60℃に加熱したホットプレート上に置き、250Wの超高圧水銀灯を用いて30mW/cm(365nm)の強度の光を5秒間照射し、組成物Aを重合させた。光重合処理後のセルを偏光顕微鏡を用いて観察したところ、配向欠陥もなく、均一にホモジニアス配向が保持されていた。ベレックコンペンセーターを用いてレタデーションを求め、光重合前と変わらないことを確認した。
【0074】
実施例3
組成物Aを重量比で5倍のテトラクロロエタンに溶解した溶液を、アプリケーターを用いて、ラビング処理を施したポリイミド配向膜付きガラス基板に塗布した。これを60℃に加熱したホットプレート上に10分間置き、乾燥および熱処理を行った。250Wの超高圧水銀灯を用いて、30mW/cm(365nm)の強度の光をこのガラス基板に20秒間照射し、窒素雰囲気中にて組成物Aを重合させた。このようにして液晶フィルムが形成されたガラス基板を光学素子Aとする。光学素子Aについて干渉波測定を行い、その結果と別途測定して得られた屈折率とから膜厚を計算したところ、液晶フィルムの膜厚は0.9μmであることがわかった。光学素子Aをラビング方向に傾けながらレタデーションを測定した結果を図1に示す。この結果から、光学素子Aにおいて液晶骨格の配向ベクトルはガラス基板面に対して傾いていることがわかった。そして、厚み方向においてチルト角が一定ではないハイブリッド配向であることが確認された。この測定結果から推測された、チルト角の厚み方向の平均値は25°であった。なお、レタデーションは、回転可能な偏光子および検光子で回転/傾斜ステージを挟んだ光学系を用い、光学素子Aをこのステージに設置して測定した。
【0075】
実施例4
光学素子AをTN型(ツィステッドネマティック)液晶表示素子の光学補償素子として適用した場合の効果を検証した。2枚の光学素子Aを、駆動用液晶表示素子を挟むように配置した。このとき、それぞれの液晶フィルム側が駆動用液晶表示素子に接するようにした。光学素子Aとの組み合わせで液晶表示素子の視野角−コントラスト特性を改善するために、厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(フジタック/富士写真フィルム株式会社製)2枚でこれを挟み、さらにこの上を偏光板(HEG1425DU/日東電工株式会社製)2枚で挟んだ。光学素子および駆動用液晶表示素子の軸配置を図2に示した。駆動用液晶表示素子のパラメーターは以下の通りである。
ne=1.5813、no=1.4875
ε‖=9.3、ε⊥=3.2
K11=8.9、K22=8.4、K33=18.6
セル厚=4.5μm、プレチルト角=3°
【0076】
得られた表示素子に30Hzの矩形波で電圧を印加し、全方位からのコントラスト比を測定して、等コントラスト曲線を作成した。コントラスト比は、白表示1V、黒表示6Vとしたときの、(白表示の輝度)/(黒表示の輝度)の比である。その結果を図3に示した。なお、コントラスト比を測定する際には、X、Y、Z可動の回転/傾斜ステージにバックライトと得られた表示素子を設置し、各方位角および仰角における白表示と黒表示のそれぞれの輝度を輝度計にて測定した。
【0077】
比較例1
光学素子Aを用いないこと以外は実施例4と全く同様にして、表示素子を作成し、全方位からのコントラスト比を測定した。得られた等コントラスト曲線を図4に示した。上記の図3を図4と比較するとき、実施例4で得られた液晶表示素子において、上視野角、左右視野角のコントラスト比の特性が改善されていることが分かる。即ち、広視野角の液晶表示素子が実現された。
【0078】
実施例5
30%の化合物(1−9)、30%の化合物(1−11)、30%の化合物(2−1−2)、および10%の化合物(OP−15)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Hとする。組成物Hをホットプレートで70℃に加熱したガラス基板に塗布した後、上からカバーガラスを被せてシェアリングし、グランジャン配向(ガラス基板に垂直な螺旋軸を有する配向)を誘起させたところ、反射光は緑色を呈した。
【0079】
実施例6
35%の化合物(3−5)、35%の化合物(3−10)、20%の化合物(4−5−1)、および10%の化合物(OP−15)からなる光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を組成物Iとする。組成物Iをホットプレートで60℃に加熱したガラス基板に塗布した後、上からカバーガラスを被せてシェアリングし、グランジャン配向を誘起させたところ、反射光は青色を呈した。
【0080】
実施例7
ラビング処理を施したポリイミド配向膜付きガラス基板を、ラビング方向が180度の角度をなすように対向させて配置し、5ミクロンの間隔を有するセルを作成した。70℃に加熱したホットプレート上にて、これに組成物Hを充填した。さらに5分間このホットプレート上に置いた後、250Wの超高圧水銀灯からの30mW/cm(365nm)の強度の光を、10秒間このセルに照射して組成物Hを重合させた。液晶フィルムが形成されたこの光学素子は、緑色の反射光を呈した。その波長は480〜520nmであった。
【0081】
【発明の効果】
本発明の光重合性液晶組成物を光重合して得られる液晶フィルムは、配向性に優れ、光学素子、特に液晶表示素子の光学補償素子として有用である。従来の光重合開始剤が不要な光重合性液晶組成物も提供することができるので、光重合開始剤に起因する汚染物の液晶材料への悪影響を軽減できる。従って、液晶セルの内部に光学補償素子を設ける際の材料として特に有用である。
【0082】
【図面の簡単な説明】
【図1】レタデーションと傾き角の関係/実施例3
【図2】各光学素子の軸配置図/実施例4
【図3】等コントラスト曲線(80°視野)/実施例4
【図4】等コントラスト曲線(80°視野)/比較例1

Claims (28)

  1. 式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物の少なくとも2つを含有する光重合性液晶組成物。
    Figure 2004204190
    これらの式において、m、n、qおよびrは独立して1〜20の整数であり、pおよびsは独立して0または1である;X、XおよびXは独立して水素またはメチルである;RおよびRは独立して、シアノ、炭素数1〜20のアルキルまたは炭素数1〜20のアルコキシである;A、A、A、A、AおよびAは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または任意の水素がフッ素で置き換えられた1,4−フェニレンである;Z、Z、Z、およびZは独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、または−OCO−である。
  2. 式(1)および式(2)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  3. 式(2)および式(3)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  4. 式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  5. 式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物を含有してもよい、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  6. 式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物を含有し、これら以外の成分を含有してもよい、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  7. 式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のそれぞれで表される化合物の少なくとも2つに加えて、光学活性化合物を含有する、請求項1に記載の光重合性液晶組成物。
  8. 式(1)、式(2)、式(3)および式(4)のいずれでも表されない化合物の1つとして光学活性化合物を含有する、請求項2〜6のいずれか1項に記載の光重合性液晶組成物。
  9. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、この組成物において形成された配向が固定化されている液晶フィルム。
  10. ハイブリッド配向が固定化されている、請求項9に記載の液晶フィルム。
  11. ホモジニアス配向が固定化されている、請求項9に記載の液晶フィルム。
  12. チルト配向が固定化されている、請求項9に記載の液晶フィルム。
  13. ホメオトロピック配向が固定化されている、請求項9に記載の液晶フィルム。
  14. 請求項7に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、光重合性液晶組成物のキラルネマチック相における螺旋構造が固定化されている液晶フィルム。
  15. 螺旋構造におけるピッチが厚さ方向に連続的に変化している、請求項14に記載の液晶フィルム。
  16. 波長100〜1500nmの領域の光を全てまたは選択的に反射する、請求項15に記載の液晶フィルム。
  17. 請求項8に記載の光重合性液晶組成物から光照射によって得られるフィルムであって、光重合性液晶組成物のキラルネマチック相における螺旋構造が固定化されている液晶フィルム。
  18. 螺旋構造におけるピッチが厚さ方向に連続的に変化している、請求項17に記載の液晶フィルム。
  19. 波長100〜1500nmの領域の光を全てまたは選択的に反射する、請求項18に記載の液晶フィルム。
  20. 請求項9に記載の液晶フィルムを有する光学補償素子。
  21. 請求項9に記載の液晶フィルムと偏光板とを有する光学素子。
  22. 請求項10〜19のいずれか1項に記載の液晶フィルムを有する光学補償素子。
  23. 請求項10〜19のいずれか1項に記載の液晶フィルムと偏光板とを有する光学素子。
  24. 請求項9に記載の液晶フィルムを液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
  25. 請求項10〜19のいずれか1項に記載の液晶フィルムを液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
  26. 請求項20に記載の光学補償素子または請求項21に記載の光学素子を有する液晶表示装置。
  27. 請求項22に記載の光学補償素子を有する液晶表示装置。
  28. 請求項23に記載の光学素子を有する液晶表示装置。
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