本発明は、明所から暗所を含む広範な環境で反射表示が可能で、かつ広視野角で高画質の透過表示が可能な液晶表示装置とその製造方法に関する。
現在、IPS(In Plane Switching)方式やVA(Vertical Alignment)方式等の広視野角の透過型液晶表示装置が各種機器のモニターとして普及しており、応答特性を向上してテレビとしても使われている。その一方で、携帯電話やデジタルカメラを始めとする携帯型の情報機器にも液晶表示装置が普及している。携帯型情報機器は、主に個人で使用するが、最近では表示部を角度可変にしたものが増加しており、斜め方向から観察する場合が多いため広視野角が望まれている。
携帯型情報機器用の表示装置は、晴天時の屋外から暗室までを含む多様な環境下で用いられるため、半透過型であることが望まれる。半透過型の液晶表示装置は、1画素内に反射表示部と透過表示部を有する。
反射表示部は、反射板を用いて周囲から入射する光を反射して表示を行い、周囲の明るさによらずコントラスト比が一定であるため、晴天時の屋外から室内までの比較的明るい環境下で良好な表示が得られる。一方、透過表示部は、バックライトを用いて、環境によらず輝度が一定であるため、屋内から暗室までの比較的暗い環境下で高コントラスト比の表示が得られる。この両者を兼ね備えた半透過型の液晶表示装置は、晴天時の屋外から暗室までを含む広範な環境下で高コントラスト比の表示が得られる。
従来から、広視野角の透過表示で知られるIPS方式を半透過型にすれば、反射表示と広視野角の透過表示が同時に得られるのではないかと期待されてきた。例えば、特許文献1には、半透過型IPS方式が記載されている。
この半透過型IPS方式の液晶表示装置では、二枚の透明基板の間に液晶層を封止してなる液晶パネルの上側と下側の外面の全面に位相差板を配置するが、位相差板には視角依存性がある。そのため、仮令、液晶層の法線方向において液晶層と複数の位相差板の位相差と軸配置を最適化しても、法線方向から離れるにつれて暗表示のための最適条件から急速に外れる。
位相差板の視角依存性はその位相差板の厚さ方向の屈折率を調節することにより低減できるが、完全に無くすことはできない。その結果、半透過型IPS方式では、視角方向における暗表示透過率の増大が大きく、その透過表示の視角特性は、透過型IPS方式に比べて低い。
また、非特許文献1は、外部設置の位相差板に替えて、パネル内部に位相差板(位相差層)を内蔵させた場合の設置構造と表示特性を開示する。
なお、特許文献2には、VA方式において、位相差層を液晶層に近接するように配置し、かつこれをパターンニングして反射表示部にのみに配置している。しかし、広視野角の透過表示を与えるIPS方式への応用については考慮されていない。なお、内蔵の位相差層を有する半透過型IPS方式を透過型IPS方式と同等の広視野角とするための考察を開示したものとしては、特許文献3がある。
特開平11−242226号公報
特開2003−279957号公報
特開2005−338256号公報
C.Doornkamp et al.,Philips Research,"Next generation mobile LCDs with in-cell retarders."International Display Workshops 2003,p685(2003)
透過型IPS方式では、液晶層がホモジニアス配向であり、第1の基板と第2の基板の外面に設置された偏光板(上下の偏光板)を透過軸が直交するように配置して、かつその透過軸の一方を液晶層の配向方向に平行にしている。液晶層に入射する光は直線偏光で、かつその振動方向は液晶層の配向方向に平行なため、液晶層によって位相差を与えられない。これにより低透過率の暗表示を実現できるとともに、液晶層と偏光板の間に位相差層(位相差板)が介在しないため視角方向に余分な位相差が発生せず、広視野角の暗表示が実現できる。このように、透過型IPS方式では本来的に位相差層(位相差板)を必要としない。
半透過型の液晶表示装置では、暗表示のための光学条件が本質的に異なる反射表示部と透過表示部とを1画素内に有する。すなわち、反射表示部においては、光は液晶表示装置を構成する液晶パネルの上面の基板(第1の基板)側の偏光板から入射して、液晶パネル内部の反射板で反射された後に、再び上面の偏光板を通過して使用者に向かう。一方、透過表示部においては、光は液晶パネルの下面の基板(第2の基板)側の偏光板から入射して、その後液晶パネルの上面の偏光板を通過して使用者に向かう。
このような光路の違いから、反射表示部と透過表示部では暗表示となる光の位相差が4分の1波長だけ異なる。そのため、反射表示部が明表示の時に透過表示部は暗表示になり、あるいはまたその逆になり、反射表示部と透過表示部は互いに異なる印加電圧依存性になってしまう。これらを同一の印加電圧依存性にするには、何らかの方法により反射表示部と透過表示部の位相差を4分の1波長だけシフトさせなければならない。
従来の半透過型IPS方式では、液晶パネルの上下に全面(外面)に位相差板を配置している。このうち液晶パネルの上側(第1の基板側)の位相差板は、反射表示部に外部から入射する光と、反射表示部の反射板で反射された光と、透過表示部を通過した光が通過する。このように、上側の位相差板は反射表示部と透過表示部の両方に作用する。これに対して、液晶パネルの下側(第2の基板側)の位相差板は透過表示部に入射する光源光のみが通過するため、透過表示部のみに作用する。このような反射表示部と透過表示部に対する上側位相板と下側位相板の作用の違いを利用して、両者の位相差を4分の1波長だけシフトしている。しかし、液晶層と偏光板の間に位相差板が介在することにより視角方向に余分な位相差が発生し、暗表示の視角特性が低下する。
以上のとおり、従来の半透過型の液晶表示装置は、透過型IPS方式並みの広視野角を実現できなかった。また、液晶パネルの内部に位相差層を内蔵させた場合、シール材と位相差層形成材料との固着力が弱いことから、液晶パネルの基板同士が外力でずれたり、剥離することがある。本発明の目的は、透過型IPS方式と同等の広視野角を有し、外力に対して堅固な構造とした半透過型の液晶表示装置を実現することにある。
なお、内蔵の位相差層を有する半透過型IPS方式は、特許文献3に開示されているが、第1の基板と第2の基板の固着構造については、特に考慮がなされていない。
本発明では、半透過型IPS方式の反射表示部のみに位相差板(位相差層)を配置して、偏光板は反射表示部と透過表示部で共通の仕様とする。偏光板は、液晶パネルを構成する第1の基板と第2の基板の上面と下面の全面に配置し、位相差板は、内蔵の位相差層としてその形成材料の残留層を含めて、シール材と前記第1の基板との対向部を除いた内側の表示領域側に配置し、位相差層は反射表示部のみに形成する。この時、上下の偏光板を透過型IPS方式と同様に配置することにより(透過軸が直交、かつその一方が液晶配向方向に平行)、透過型IPS方式と同じ透過表示視角特性を実現する。
また、この内蔵の位相差層は、偏光板を透過型IPS方式と同様に配置した上で、反射表示部と透過表示部の位相差を4分の1波長だけシフトするように配置する。具体的には、液晶層と内蔵の位相差層の積層体を広帯域の4分の1波長板の配置にする。すなわち、反射板に近接する方のリタデーションを4分の1波長とし、他方を2分の1波長とする。
IPS方式では電圧印加時に液晶層は、主にダイレクタ方位が層内で回転するように配向変化し、チルト角の変化は小さくリタデーションは殆ど変化しない。そのため、液晶層と位相差層のうち液晶層を反射電極に近接するように配置して、そのリタデーションを4分の1波長にする。
内蔵の位相差層の遅相軸は以下のように決定する。すなわち、方位角を、上側偏光板透過軸を0度として反時計回りに定義する。位相差層の遅相軸方位角をθPH、液晶層の配向方向の方位角をθLCとすると、広帯域の4分の1波長板とした時の方位角は、次式(1)で表される。
2θPH=±45°+θLC・・・(1)
ここで、θLCは透過表示部における偏光板配置を透過型IPSと同様にすることから、0度又は±90度の何れかにしなければならない。これよりθPHは±22.5度(作製上の余裕±10%をみて20度以上25度以下)又は±67.5度(作製上の余裕±10%をみて60度以上75度以下)になる。液晶層と内蔵の位相差板(位相差層)の積層体を広帯域の4分の1波長板の配置にすることにより、可視波長域全域に渡って反射率が低減し、低反射率かつ無彩色の反射表示が得られる。
反射表示部と透過表示部では、反射率と透過率を偏光板の光吸収により定められる限界値にするための液晶層リタデーションの最適値がそれぞれ異なり、反射表示部では4分の1波長、透過表示部では2分の1波長である。これを実現する為には、反射表示部の液晶層厚を透過表示部よりも小さくしなければならない。具体的には反射表示部に層厚調整層を配置して、層厚調整層の厚さの分だけ反射表示部の液晶層の層厚を減少させる。層厚調整層は反射表示部に対応するように配置しなければならない。
本発明では、位相差板としてパネルの内部に位相差層を内蔵させるが、この内蔵の位相差層は反射表示部に対応する位置に配置する。反射表示部と透過表示部に必要とされるリタデーションの差は4分の1波長であり、内蔵の位相差層に必要とされるリタデーションは2分の1波長である。
そのため、内蔵の位相差層の複屈折が液晶層の2倍以上であれば、位相差層の層厚は反射表示部と透過表示部に必要とされる液晶層の層厚差よりも小さくなる。この場合には、位相差層と層厚調整層を積層し、反射表示部に対応するようにパターンニングして、両者の層厚の合計を反射表示部と透過表示部に必要とされる液晶層の層厚差にすればよい。
あるいはまた、位相差層の複屈折が液晶層の2倍であれば、内蔵の位相差層の層厚は反射表示部と透過表示部に必要とされる液晶層の層厚差に等しくなる。この場合には層厚調整層が不要になるので、製造過程を簡略化できる。
また、前記位相差層とシール材の直下に設けられる配向膜との接着強度は弱く、外力の印加で剥がれが生じ、シール不良が起こり、最悪の場合、液晶パネルが分解する場合がある。本発明では、位相差層とその形成材料の残留層を、第1の基板と前記第2の基板の外周縁の間を周回して前記液晶層を封止するシール材と前記第1の基板との対向部を除いた表示領域側内部に設ける。位相差層形成材料の塗布は、凸版印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などで第1基板上のシール材と不領域の内側に選択的に塗布する。
また、本発明により、所謂モニター並みの高画質の表示装置を持ち運ぶことが可能になり、これを携帯電話の表示装置に用いることで、高画質の画像情報が再現可能になり、より高度な画像情報の取扱が可能になる。さらに、デジタルカメラに用いれば、撮影前の画像及び撮影済画像の確認が容易になる。今後、地上波デジタル放送の普及と共に、携帯型テレビの受信状態も大幅に向上することが予想されるが、携帯型テレビに用いれば、場所を選ばずに高画質の画像情報が再現可能となる。
本発明によれば、シール材の剥れがなく、強固なパネル構造で広視野角の全環境型液晶表示装置が実現する。つまり、本発明の液晶表示装置は、晴天時の屋外から暗室に渡る多様な環境下で表示が可能な全環境型の構造堅固な表示装置であり、かつ透過表示ではモニターに比肩する広視野角の表示を得ることができる。
以下、図面を用いて、本発明の最良の実施形態につき、実施例を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明による液晶表示装置の実施例1を構成する液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。また、図2は、図1のA―A’線に沿った断面図である。実施例1の液晶パネルは、第1の基板31と液晶層10と第2の基板32から構成され、第1の基板31と第2の基板32の対向間隙に液晶層10が挟持される。第1の基板31の主面(内面)にはカラーフィルタ36と平坦化層(第1の保護膜)37と第3の配向膜(内蔵の位相差層用配向膜)35と内蔵の位相差層(以下、単に位相差層)38と第1の配向膜33を順に積層して有する。
第3の配向膜35は液晶層組成物からなる位相差層の形成材料の配向を制御する配向制御能が付与されている。また、第1の配向膜33は表示光制御用の液晶層10の初期配向を制御する配向制御能が付与されている。隣接するカラーフィルタ36の間には遮光膜(ブラックマトリクス)が配置されるが、図示は省略した。
第2の基板32の主面には、画素を駆動する薄膜トランジスタTFTを有する。薄膜トランジスタTFTは走査配線21と信号配線22および画素電極28に接続されている。この他に共通配線23と共通電極29を有する。ここでは、薄膜トランジスタTFTは逆スタガ型構造であり、そのチャネル部はアモルファスシリコン(a‐Si)層25で形成されている。走査配線21と信号配線22は行方向と列方向に交差して二次元のマトリクスを形成しており、薄膜トランジスタTFTは概略その交差部付近に位置している。
共通配線23は走査配線21と平行に配置されており、第2のスルーホール27を通じて共通電極23に接続されている。画素電極28と薄膜トランジスタTFTのソース・ドレイン電極24は、第1のスルーホール26で結合されている。画素電極28の上には第2の配向膜34があり、液晶層10の初期配向を制御する配向制御能が付与されている。
実施例1における第1の基板31は、好適には、イオン性不純物の少ない硼珪酸系ガラスで構成され、厚さは例えば0.5mmである。カラーフィルタ36は、赤色、緑色、青色を呈する各部分(カラーサブピクセル)がストライプ状に繰り返して配列されており、各ストライプは信号電極22に平行である。カラーフィルタ36の形成面の凹凸は樹脂性の平坦化層(第1の保護膜、オーバコート膜)37で平坦化される。第1の配向膜33は、ポリイミド系有機膜であり、ラビング法で配向処理されている。
第2の基板32は、第1の基板31と同様の硼珪酸系ガラスが適しており、厚さは例えば0.5mmである。第2の配向膜34は、第1の配向膜33と同様に、水平配向性のポリイミド系有機膜である。信号配線22と走査配線21と共通配線23は、アルミニウム(Al)やその合金(アルミニウムとネオジムの合金:Al−Nd)、若しくはクロム(Cr)などで形成されており、画素電極28は、インジウム錫酸化物(インジウム・チン・オキサイド:ITO)等の透明導電膜が望ましく、共通電極29もITO等の透明導電膜で形成するのが望ましい。
画素電極28は走査配線21に対して平行なスリット30を有し、スリット30のピッチは、約4μmである。画素電極28と共通電極29は、層厚が0.5μmの第3の絶縁層53で隔てられており、電圧印加時には画素電極28と共通電極29の間に電界が形成されるが、第3の絶縁層53の影響により電界はアーチ状に歪められて液晶層10中を通過する。このことにより、電圧印加時に液晶層10に配向変化が生じる。上記の数値はあくまで一例であり、本発明はこの数値に限定されるものではない。
共通配線23は画素電極28と交差する部分において、画素電極28内に張り出した構造を有し、図2中に反射光62で示したように光を反射する。図1及び図2において、共通配線23が画素電極28と重畳する部分が反射表示部であり、これ以外の画素電極28と共通電極29の重畳部では、図2中に透過光61で示したようにバックライトの光を通過して透過表示部となる。透過表示部と反射表示部では最適な液晶層の層厚が異なるため、境界には段差が生じる。透過表示部と反射表示部の境界を短くするため、境界が画素の短辺に平行になるように透過表示部と反射表示部を配置した。
このように、共通配線23等の配線を反射板で兼用すれば製造過程を低減する効果が得られる。共通配線23を高反射率のアルミニウム等で形成すれば、より明るい反射表示が得られる。共通配線23をクロムとし、アルミニウムや銀合金の反射板を別途形成しても同様の効果が得られる。
液晶層10は、配向方向の誘電率がその法線方向よりも大きい正の誘電率異方性を示す液晶層組成物である。ここでは、その複屈折は25℃において0.067であり、室温域を含む広い温度範囲においてネマチック相を示す。また、薄膜トランジスタを用いて周波数60Hzで駆動した時の保持期間中において、反射率と透過率を充分に保持してフリッカを生じない高抵抗値を示す。
図3は、本発明の液晶表示装置の実施例1を説明する液晶パネルのシール部の要部断面図である。図3では、説明の複雑化を避けるため、第1の基板に有する第1の偏光版、第2の基板に有する薄膜トランジスタ、画素電極、共通電極、第2の偏光板は図示を省略してある。また、図4は、実施例1の液晶表示装置を構成する液晶パネルの製造プロセスの説明図である。
図3の紙面に向かって左側がシール部であり、第1の基板31の主面のシール部にはブラックマトリクス8の外延(周辺構成部分)と、透明樹脂の第1の保護膜(平坦化膜)37、同じく透明樹脂の第2の保護膜9が積層されている。そして、第2の基板32との間にシール材12が介在して液晶層10を封止している。図3の液晶パネルの構造を図4の製造プロセスを参照して説明する。
第1の基板の主面にブラックマトリクス8とカラーフィルタ36を形成し、その表面を第1の保護膜37で覆って平坦化する(図4のプロセス1、以下P−1のように表記)。この第1の保護膜37上に位相差層用配向膜35を塗布し、ラビングして配向制御能を付与し、第3の配向膜とする(P−2)。
位相差層用配向膜35は、表示領域とシール材の塗布される領域とで囲まれる領域に塗布する。すなわち、位相差層用配向膜35は表示領域ARよりもシール材の塗布される領域側に若干はみ出て、シール材の塗布される領域に入り込まないように塗布される。シール材の塗布される領域側にはみ出る範囲は、例えば表示領域ARの面積よりも10%程度広い範囲とする。第3の配向膜35は水平配向性であり、位相差層38の遅相軸方向を定める機能を有する。
第3の配向膜35の上に、光反応性のアクリル基を分子末端に有するネマチック液晶層を主成分とし、反応開始剤を有機溶媒に分散した有機材料からなる位相差層材料を塗布し(P―3)、プリベークして溶剤を除去する(P―4)。この時点で、位相差層材料の光反応性液晶層は第3の配向膜35の配向処理方向を向いて配向している。プリベークした位相差層材料に対しマスクを用いて反射表示部に対応する部分に紫外光を照射してアクリル基を光重合させて硬化させ、位相差層38とする(マスク路光=第1の露光工程、P―5)。このとき、塗布時の溶液濃度及び塗布条件を適宜調整して膜厚を調整し、位相差層38のリタデーションが波長550nmにおいて2分の1波長となるようにする。
その後、位相差層の形成材料をネマチック等方相移転温度以上に加熱すると共に、全面を露光して硬化させ、透明な残留層38nとする(加熱・全面露光=第2露光工程、P―6)。
位相差層38は液晶高分子からなるため、有機高分子フィルムを延伸して作成した従来の外付けの位相差板と比較して分子の配向性が高く、液晶層10と同程度の配向性を有する。そのため、位相差層38のΔnは、外付けの位相差板よりもはるかに大きく、分子構造並びに成膜条件を適宜調整すれば液晶層10と同程度若しくはこれ以上にすることができる。外付けの位相差板の層厚は数十μmもあり液晶層の層厚の10倍近くにもなるが、液晶高分子を用いて内蔵の位相差層とすれば、位相差層38の層厚を大幅に減少させることが可能となり、反射表示部と透過表示部の段差よりも薄くすることができる。これにより、位相差層38を反射表示部に合わせてパターンニングしても特別な平坦化は不要になる。
位相差層38とその透明な残留層(透過層)38nの上に透明なお有機層を塗布して第2の保護層9とする。第2の保護層9は、位相差層38とその残留層(透過層)38nを覆ってシール材12の塗布領域を含めた第1の基板31の全面に形成する(P−7)。
第2の保護層9を覆って感光性有機材料を塗布し、反射表示部(位相差層部)と同様の分布となるよう露光、現像によりパターンニングし、膜厚調整層39を形成する(P−8)。
位相差層38にΔnが液晶層層の2倍よりも大きいものを用いると、位相差層38のリタデーションを2分の1波長としたときに厚さが不十分になり、位相差層38だけでは、反射表示部と透過表示部との間のリタデーションの差は4分の1波長よりも小さくなる。そこで、位相差層38上に膜厚調整層39を形成することにより、反射表示部と透過表示部に4分の1波長のリタデーション差を確保する。
第1の基板31の主面最上層に第1の配向膜33を、第2の基板32の主面最上層に第2の配向膜34を塗布し、所定の角度で互いに交叉するような方向にラビング処理した後に、第1の基板31と第2の基板32の表示領域に柱状スペーサ11を介在し(P−8)、外周縁の内側にシール材12を塗布して両基板を貼り合わせて組立て、内側に液晶層10を封入する(LCD組立工程)。
最後に、図2に示したように、第1の基板31と第2の基板32の外側に第1の偏光板41と第2の偏光板42をそれぞれ配置する。第1の偏光板41と第2の偏光板42の透過軸は液晶層配向方向に対してそれぞれ直交、平行になるように配置する。
実施例1では、第1の偏光板41の粘着層43には、その内部に屈折率が粘着材とは異なる透明な微小球を多数混入した光拡散性の粘着層43を用いた。この様な構成としたことで、粘着材と微小球の界面において両者の屈折率が異なることによって生じる屈折の効果を利用して、入射光の光路を拡大する作用を有する。これにより、画素電極28と共通電極29における反射光の干渉で生じる虹色の着色を低減できる。しかし、粘着層43の構成はこのようなものに限らず、微小球なしの粘着材を用いてもよいことは言うまでもない。
以上のようにして作製した実施例1の半透過型液晶パネルの透過表示部は、第1の偏光板41の透過軸と第2の偏光板42の透過軸は直交し、かつ後者は液晶層配向方向に平行である。これは透過型IPS方式と同様の構成であるので、透過表示については透過型IPS方式と同様にモニター用途にも耐える広視野角が得られる。
一方、反射表示部は、ホモジニアス配向の液晶層層10と、位相差層38と、第1の偏光板41から構成される。位相差層38の遅相軸、液晶層配向方向、第1の偏光板41の透過軸角度の相互関係は次のようになる。すなわち、図1に示した画素電極28のスリット30が信号配線22に対して垂直なため、電界方向は、信号配線22の方向に対して平行になる。方位角を反時計回りに定義すると、液晶層の配向方向は電界方向に対して−75度で、これにより電圧印加時の配向変化を安定化するとともに配向変化が生じる閾値電圧を低減する効果が得られる。位相差層38の遅相軸方向と第1の偏光板41の透過軸は、液晶層の配向方向に対してそれぞれ67.5度と90度である。
さらに、反射表示部の液晶層10と位相差層38のリタデーションは、それぞれ4分の1波長と2分の1波長としたため、反射表示部において、液晶層10と位相差層38と第1の偏光板41の積層体は広帯域の円偏光板になる。電圧無印加時には、可視波長のほぼ全域において、入射光は円偏光又はこれに近い偏光状態になって反射板に入射する。反射後に、再び第1の偏光板41に入射する際には、それら振動方向が、第1の偏光板の吸収軸に対して平行な直線偏光になるため、無彩色の暗表示が得られる。
位相差層38の遅相軸方位角を定める(1)式と位相差層38と液晶層10のリタデーションは、ポアンカレ球表示を用いて以下のようにして導出される。ポアンカレ球表示は偏光状態を記述するストークスパラメータ(S1、S2、S3)を3軸とする空間内で定義され、ポアンカレ球上の各点は偏光状態に一対一に対応する。例えば、ポアンカレ球上の(S1、S2)平面との交線(赤道)は直線偏光に対応し、S3軸との交点(北極と南極)は円偏光に対応し、それ以外は楕円偏光に対応する。また、(S1、S2、S3)は電気ベクトルの任意のX軸成分Ex、任意のY軸成分Ey、ExとEyの位相差δを用いてそれぞれ次式(2)(3)(4)で表される。
S1=(Ex2−Ey2)/(Ex2+Ey2)・・・・・(2)
S2=2ExEycosδ/(Ex2+Ey2)・・・(3)
S3=2ExEysinδ/(Ex2+Ey2)・・・(4)
位相差層や捩れのない液晶層による偏光状態の変換は、ポアンカレ球上では(S1、S2)平面内に含まれ、ポアンカレ球の中心を通過する線の回りの回転として表される。この時の回転角は、位相板のリタデーションが1/2波長ならば1/2回転であり、1/4波長ならば1/4回転である。
可視光域のうちの代表的な波長、例えば、人間の視感度が最高になる波長550nmの入射光が、第1の偏光板41、位相差層38、反射表示部の液晶層10を順次通過して画素電極28又は共通電極29に到達する過程に着目する。
説明のため、ポアンカレ球を地球儀に擬してS3軸との交点を北極と南極、(S1、S2)平面との交線を赤道と呼ぶことにすると、第1の偏光板41によって直線偏光になった入射光はポアンカレ球上の赤道に位置するが、位相差層38により方位角が回転軸を中心に1/2回転して赤道の別の一点に移動して、振動方向の異なる直線偏光に変換される。次いで、液晶層10により方位角が回転軸を中心に1/4回転して北極に移動して、すなわち、円偏光に変換される。
次に、これ以外の波長の入射光に着目すると、リタデーションには波長依存性があり、位相差層でも液晶層でも短波長側ほどリタデーションが大きく、長波長側ほど小さい。そのために、回転角は波長によって異なり、位相差層38による回転において、550nm以外の波長の光は1/2回転にならずに赤道から外れた点に移動する。短波長側の青の光はリタデーションが1/2波長よりも大きいため、1/2回転よりも大きく回転して赤道上から外れた位置に移動する。長波長側の赤の光は、リタデーションが1/2波長よりも小さいため、1/2回転よりも小さく回転して赤道上から外れた位置に移動する。
しかし、これに次いで作用する液晶層10による回転では移動方向が概略反対方向になるために、位相差層38において生じた波長による回転角の違いが補償される。すなわち、短波長側の青の光は、液晶層10においても1/4回転よりも大きく回転するが、南半球上から移動を始めるため丁度北極上に達する。長波長側の赤の光は、液晶層10においても1/4回転よりも小さく回転するが、北半球上から移動を始めるため1/4回転よりも小さく回転することにより丁度北極上に達する。その結果、各波長の光は北極の近傍に集中して、各波長の光は、ほぼ同一の円偏光になる。これを液晶層の表示状態として観察すると、可視波長の広い領域で反射率が低減した無彩色の暗表示が得られる。
1/4回転方向を延長するように補助線を引くと、この補助線はその回転の中心を表す液晶層配向方向(方位角θ'LC)に直交する。また、1/2回転の中心を表す内蔵位相板の遅相軸方向(方位角θ'PH)は、S1軸と補助線間の角度を2等分する。S1軸と補助線との間の角度を2等分した角度は、θ'PH−180°であり、θ'LC−180°は(θ'PH−180°)×2+90°に等しいことから、次式(5)が求まる。
2θ'PH=90°+θ'LC・・・(5)
上記はポアンカレ球上の北極NPに各波長の入射光を集中させるが、ポアンカレ球の南極SPに集中しても同様の効果が得られる。この場合にはθ'PHとθ'LCの関係は、次式(6)で表される。
2θ'PH=−90°+θ'LC・・・(6)
さらには、各波長の入射光を北極NP又は南極SPに集中させるには、これ以外に、θ'PHとθ'LCの関係はそれぞれ式(5)(6)で表される。すなわち、360°−θ'LCは(360°−θ'PH)×2+90°に等しいことから、2θ'PH=360°+90°+θ'LCとなり、式(5)で表される。また、180°−θ'LCは(180°−θ'PH)×2+90°に等しいことから、2θ'PH=360°−90°+θ'LCとなり、式(6)で表される。
ポアンカレ球上での回転軸は、遅相軸の方位角θPHとθLCに対応しており、回転軸の方位角は、実空間における遅相軸の方位角の2倍(θ'PH=2θPH、θ'LC=2θLC)である。これを式(5)(6)に代入することにより、内蔵位相板と液晶層層の遅相軸方位角の関係を表す前記した式(1)が求まる。
実施例1では、透過表示の視角特性を透過型IPSと同等にするために、透過表示部における偏光板配置を透過型IPS方式と同様にする。このことによりθLC=90度とした。これを式(1)に代入してマイナス符号を選択すると、θPH=22.5度となり、位相差層の遅相軸方位角が求まる。なお、上記した位相差層の遅相軸方位角の設定に関する詳細については、特許文献3に開示されているので、これ以上の説明はしない。
以上のようにして作製した半透過型液晶パネルを駆動装置に接続し、背後にバックライトを配置して液晶表示装置を構成し、その表示状態を観察した。バックライトを消燈した状態で、明所において観察したところ、反射表示による表示画像を確認できた。次に、バックライトを点燈した状態にして暗所において観察したところ、透過表示による表示画像を確認できた。基板法線に対する観察方向を広い範囲で変えても階調反転が生じず、かつコントラスト比の低下は少なかった。
そして、シール材12と第1の基板31との間に、当該シール材とは接着力が小さい位相差層材料がないため、第1の基板31と第2の基板32は強固に固着され、外力の印加による両基板のずれや剥離が回避され、全環境型の構造堅固な表示装置が得られる。
図5は、本発明による液晶表示装置の実施例2を構成する液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。図5中、図1と同一の参照符号は同一機能部分に対応する。実施例2では、位相差層38の配向を制御する第3の配向膜(位相差層配向用配向膜)35をシール領域を含む第1の基板31の全面に形成した点を除いて、図1と同じ構成であるので、繰り返しの説明はしない。
図5に示した液晶パネルを用いた実施例2の液晶表示装置によっても、反射表示と透過表示は共に基板法線に対する観察方向を広い範囲で変えても階調反転が生じず、かつコントラスト比の低下は少なかった。そして、実施例2でも、シール材12と第1の基板31との間に、当該シール材とは接着力が小さい位相差層材料がないため、第1の基板31と第2の基板32は強固に固着され、外力の印加による両基板のずれや剥離が回避され、全環境型の構造堅固な表示装置が得られた。
比較例
図6は、本発明の液晶表示装置の効果を説明するための比較例である液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。図6中、図3および図5と同一の参照符号は同一機能部分に対応する。図6に示した液晶パネルでは、本発明の開発過程で試作されたものである。比較例の液晶パネルは、実施例2における位相差層材料をシール領域を含む第1の基板31の全面に形成した。
比較例の構成により、実施例1と実施例2で説明した反射表示と透過表示は共に基板法線に対する観察方向を広い範囲で変えても階調反転が生じず、かつコントラスト比の低下は少ないという本発明の効果を得ることはできた。しかし、位相差層材料がシール材と第1の基板の間に介在しているために、シール効果が低下し、第1の基板と第2の基板の固着力が十分でなかった。
次に、本発明の各実施例における位相差層の形成プロセスについてさらに説明する。図7は、位相差層の形成プロセスの具体的な説明図である。位相差層の形成材料38pは、アクリレート付の液晶モノマーと光重合開始剤とを有機溶剤に溶解させたものである。
まず、位相差層の形成材料38pをスクリーン印刷でシール領域の内側に塗布し、約100℃で2〜5分ホットプレートなどでベークして、膜中の溶剤を除き、透明な膜を形成する。この時点で、位相差層の形成材料38pは下層にある第3の配向膜35の配向制御能によって配向される。
位相差層の形成材料38pを塗布した第1の基板31に、当該位相差層の形成材料38pの反射表示部に相当する部分にのみ光が照射するように開口部が設けられたマスク110を配置し、ランプ120により露光する。露光量は、50〜200mJ/cm2程度である。これにより、位相差層の形成材料38pのマスク110の開口部に相当する部分のみアクリレートが重合し硬化する。
ランプ120は、20W程度の紫外線蛍光ランプを並列に並べたものでよいが、その一種であるブラックライトブルー蛍光ランプ(Black−light Blue (BL−B) Fluorescent Lamp)を用いるのが望ましい。ブラックライトブルー蛍光ランプは、近紫外光(Near−ultraviolet Light、公称波長帯域:300〜400nm)を主として放射し、例えば、360nmのピーク波長を示す。なお、ランプ120と第1の基板31との間に、紫外線フィルタ121を設けて、短波長光を遮断するのが望ましい。
次に、マスク110を外し、ヒータ130により全体を加熱しながら、全面に光を照射し完全に硬化させる。加熱する温度は、位相差板材料のネマチック等方相転移温度以上(例えば、110℃)である。これにより、マスク露光による未硬化部は、等方相になった後に硬化する。これにより、位相差性を有しない残留層38nが形成される。
次に、本発明に用いる位相差層の形成材料、照射する光の波長、光重合開始剤について説明する。ここでは、これらを適宜選択することにより、位相差層38及び残留層38nの着色を抑制することができる。
図8は、位相差層を形成する液晶物質の着色が生じる波長について説明するための図である。位相差層を形成するための液晶物質は、通常、300nm未満の波長の光を吸収すると着色を生じる。したがって、300nm未満の波長の光が照射されないようにする必要がある。
そのため、特定波長の光が照射可能なランプを用いる。例えば、300nm以上の波長の強度が強く、300nm未満の波長の光の強度が弱いランプを用いる。または、300nm未満の波長の光を遮断するフィルタを用いてもよい。例えば、短波長光を遮断する短波長カット紫外線フィルタなどを用いることができる。また、位相差板を形成する液晶物質の吸収波長を全てカットするようなフィルタを用いてもよい。その例として、帝人デュポンフィルム製のテイジンテトロンフィルムG2(商品名)を用いることができる。
また、このように、ランプやフィルタを選択することにより、300nm以上の光が照射するため、位相差層の材料38pは、300nm以上の波長の光の照射により硬化する必要がある。そこで、光重合開始剤は、300〜400nmに吸収があるものを選択する。好ましくは、溶媒であるメタノール中での吸光係数が、365nmで1000ml/gcm以上、405nmで100ml/gcm以上の範囲にある光重合開始剤である。
位相差板を形成する材料としては、[化1]、[化1]に示すような、アクリレート付の液晶モノマーを用いることができる。
光重合開始剤は、加熱露光に配慮して、不揮発性であるのが好ましい。例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)製のイルガキュア(IRUGACURE
(R))907、イルガキュア369、イルガキュア819、イルガキュア127、DAROCUR
(R) TPO、イルガキュアOXE01などを選ぶことができる。特に、イルガキュア819は着色が防げ、揮発性が低いことから、露光量も少なくて済む。
上記のように、位相差板の材料、照射する光の波長、光重合開始剤を適宜選択することにより、位相差層38及び残留層38nの透過率をそれぞれ、可視光(Visible Light、例えば、400nm乃至800nmの範囲にある波長の光)に対して90%以上の範囲にすることができ、これらの着色を抑制することができる。
位相差層38の形成後は、第1の基板31の主面(当該主面に形成された内蔵位相差板38及び残留層38nの上面)の全域に保護膜(絶縁膜)を形成する。保護膜は、例えば、前記した平坦化層と同じ材料又は光開始剤を含まない透明材料で形成される。残留層38nの上に形成された保護膜の上面に段差形成用のレジスト層39を形成したのち、液晶層10を配向させるための第1の配向膜33を形成する。なお、第1の配向膜33の形成前に、下地を平坦化するために平坦化層を形成し、その平坦化層上に第1の配向膜33を形成するようにしてもよい。
本発明による液晶表示装置の実施例1を構成する液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。
図1のA―A’線に沿った断面図である。
本発明の液晶表示装置の実施例1を説明する液晶パネルのシール部の要部断面図である。
実施例1の液晶表示装置を構成する液晶パネルの製造プロセスの説明図である。
本発明による液晶表示装置の実施例2を構成する液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。
本発明の液晶表示装置の効果を説明するための比較例である液晶パネルの1画素の構成例を説明する平面図である。
位相差層の形成プロセスの具体的な説明図である。
位相差層を形成する液晶物質の着色が生じる波長について説明するための図である。
符号の説明
10・・・液晶層、21・・・走査配線、22・・・信号配線、23・・・共通配線、25・・・アモルファスシリコン(a‐Si)層、26・・・第1のスルーホール、27・・・第2のスルーホール、28・・・画素電極、29・・・共通電極、30・・・スリット、31・・・第1の基板(カラーフィルタ基板)、32・・・第2の基板(TFT基板)、33・・・第1の配向膜、34・・・第2の配向膜、35・・・第3の配向膜、36・・・カラーフィルタ、37・・・(平坦化層)保護膜、38・・・内蔵の位相差層、38n・・・透明な残留層、39・・・膜厚調整層、41・・・第1の偏光板、42・・・第2の偏光板、43・・・粘着層、51,52,53・・・絶縁層、61・・・透過光、62・・・反射光。