JP2004199944A - 非水電解質電池用セパレータの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】過充電時における安全性が高く且つ高い性能を発揮できる非水電解質電池用セパレータの製造方法を提供すること。
【解決手段】導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、該薄膜を延伸し該導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする多孔質化工程と、を有することを特徴とする。つまり、薄膜形成工程における導電性高分子材料及びマトリクス材料を含む材料の物理的な混合物であるポリマーブレンドによって薄膜を形成することで、多孔質化工程における延伸により導電性高分子材料及びマトリクス材料の界面を容易に剥離して微細な孔を形成することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、該薄膜を延伸し該導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする多孔質化工程と、を有することを特徴とする。つまり、薄膜形成工程における導電性高分子材料及びマトリクス材料を含む材料の物理的な混合物であるポリマーブレンドによって薄膜を形成することで、多孔質化工程における延伸により導電性高分子材料及びマトリクス材料の界面を容易に剥離して微細な孔を形成することができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質電池用セパレータの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の小型化に伴い、情報関連機器、通信機器等の携帯機器分野では、これらの機器に用いる電源としてエネルギー密度の高いリチウム二次電池等の非水電解質電池が実用化され広く普及するに至っている。また一方で、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、エネルギー密度の高い非水電解質電池が検討されている。
【0003】
非水電解質電池に用いられる非水電解質は一般的に可燃性である非水溶媒を含んでいる。従って、何らかの原因で電池内部からの漏液が起こると安全上問題となる。ここで、電池内部から漏液が起こる原因の一つとして、過充電による電池温度の上昇が挙げられる。従って、電池からの漏液を防止して、電池の安全性を向上するためには、過充電を防止することが有効である。
【0004】
電池の過充電を防止するための従来技術としては、イオンのドーピングにより導電性を発現する導電性高分子材料を電池を構成するセパレータの表面に被着させる技術がある(特許文献1)。セパレータに導電性高分子材料を被着させて正負極間に介在させることで、過電圧が印加された際に導電性高分子材料が正負極間を短絡して過充電を防止できる。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−199769号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、セパレータは、非水電解質電池用に限らず、高い絶縁性と高いイオン伝導性とをもつことが要求される。一般的にセパレータは正負極間を隔離して絶縁性をもたせると共に、開口面積の大きい多孔質膜とすることで電解液を保持してイオンの伝導性を確保している。
【0007】
特許文献1に記載のセパレータは多孔質膜からなる基材上に導電性高分子材料を被着させることで製造している。基材上に導電性高分子材料を被着する方法としては導電性高分子材料の溶液を基材上に塗布したり、基材上に導電性高分子材料を直接、重合させることにより行っていた。
【0008】
そのために、特許文献1に記載のセパレータは、多孔質膜に塗布等された導電性高分子材料により多孔質膜の孔が目詰まりし充分な開口径を確保することができなかったり、導電性高分子材料を均一に被着させることが困難であることからセパレータの膜の拡がり方向における孔径分布や導電性高分子材料の被着量等の制御が充分でない場合があった。
【0009】
その結果、セパレータのイオン伝導性が充分でなくなり電池の内部抵抗が上昇することとなった。導電性高分子材料を被着する前の基材に設ける孔を大きくすることで、導電性高分子材料の被着による孔の目詰まりを防止することも考えられるが、導電性高分子材料を均一に被着させることの困難さは依然解消されないばかりか、孔径が大きいことで基材の強度低下により取り扱いが煩雑になることが考えられる。
【0010】
そこで本発明では、過充電時における安全性が高く且つ高い性能を発揮できる非水電解質電池用セパレータの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決する本発明の非水電解質電池用セパレータの製造方法は、導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、該薄膜を延伸し該導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする多孔質化工程と、を有することを特徴とする(請求項1)。
【0012】
つまり、薄膜形成工程における導電性高分子材料及びマトリクス材料を含む材料の物理的な混合物であるポリマーブレンドによって薄膜を形成することで、多孔質化工程における延伸により導電性高分子材料及びマトリクス材料の間の界面等を容易に剥離して微細な孔を形成することができる。導電性高分子材料を含む材料であるポリマーブレンド材料からなる薄膜について多孔質化を行うので孔径の制御は容易であり、電池反応におけるイオン伝導と非水電解質電池用セパレータの強度とのバランスを容易に調整可能である。また、薄膜を製造する前の段階から導電性高分子材料を混合できるのでより均一に分散させることができるので、過充電防止機能もより確実に発揮させることができる。
【0013】
前記マトリクス材料は所定溶媒に溶解可能な高分子であり、前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料とを該所定溶媒に分散させる工程をもつことが好ましい(請求項2)。また、前記マトリクス材料は所定温度以上で融解する熱可塑性高分子であり、前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料との混合物を該所定温度以上の処理温度に加熱する工程をもつことが好ましい(請求項3)。マトリクス材料を所定溶媒に溶解する乃至は所定温度で融解することで、より強固でセパレータに適した薄膜をえることができる。
【0014】
前記薄膜形成工程に供する前記導電性高分子材料は粉末状とすることで(請求項4)、製造される非水電解質電池用セパレータ中により均一に分散することが可能となり、確実に過充電防止機能を発揮させることができる。
【0015】
前記マトリクス材料はオレフィン系高分子であることが好ましい(請求項5)。オレフィン系高分子は電器化学的に極めて安定であり、安価で入手性が良いからである。
【0016】
前記マトリクス材料と前記導電性高分子材料とは相溶性が低いことが好ましい(請求項6)。相溶性が低い材料を用いることで多孔質化工程における導電性高分子材料とマトリクス材料との間の剥離が容易に進行できるからである。
【0017】
前記薄膜形成工程においてマトリクス材料を所定溶媒に溶解する場合には、前記導電性高分子は前記所定溶媒に溶解しないことが好ましい(請求項7)。また、前記薄膜形成工程においてマトリクス材料を所定温度で融解する場合には、前記処理温度は前記導電性高分子材料の融点乃至は分解点より低い温度であることが好ましい(請求項8)。導電性高分子材料とマトリクス材料とが分子レベルまで混合することを防止でき、導電性高分子材料を海部分とする海−島構造等のミクロドメイン構造を形成できる。
【0018】
前記薄膜形成工程及び前記多孔質化工程の間に、前記導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料を含む第2ポリマーブレンド材料からなる被膜を前記薄膜の一面に形成する被膜形成工程を有することが好ましい(請求項9)。非水電解質電池用セパレータの両面で異なる導電性高分子材料を含ませることができる。例えば、前記導電性高分子材料はバイボーラ型導電性高分子材料であり、前記ポリマーブレンド材料が含む該導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料はP型導電性高分子材料である(請求項10)。つまり、高い電位領域(例えば、4V級の非水電解質電池では4V以上)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる正極近傍では4V付近まで導電化しないバイボーラ型導電性高分子材料を配設し、低い電位領域(0V付近)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる負極近傍では低い電位領域では導電化しないP型導電性高分子材料を配設することで、非水電解質電池の通常充放電時における短絡を防止できる。当然、正極が高い電位になる過充電時にはバイボーラ型導電性高分子材料は導電化するので、バイボーラ型導電性高分子材料に接するP型導電性高分子材料も導電化して正負極間を短絡することができるので過充電による電圧上昇を防止できる。
【0019】
従って、正極及び負極のそれぞれに適正な導電性高分子材料を個別に選択できるので導電性高分子材料の選択の自由度が高くなる。特に、4V級の非水電解質電池にも容易に適用できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の非水電解質電池用セパレータの製造方法について実施の形態に基づき詳細に説明する。本実施形態の非水電解質電池用セパレータの製造方法は薄膜形成工程と多孔質化工程とを有する。非水電解質電池用セパレータの両面で異なる導電性高分子材料を用いる場合には薄膜形成工程及び多孔質化工程との間に被膜形成工程を有することができる。
【0021】
本製造方法により製造される非水電解質電池用セパレータは微細な孔を多数有する多孔質膜である。この多孔質膜は多孔質膜の両面を貫通する導電性高分子材料をもつ。本非水電解質電池用セパレータが適用された非水電解質電池は過充電時の電圧上昇により導電性高分子材料が導電化し、本非水電解質電池用セパレータを狭持している正負極間を短絡することで更なる電圧上昇、過充電による熱暴走等を防止できる。
【0022】
(薄膜形成工程)
本工程は、導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する工程である。形成される薄膜の厚みは特に限定しないが一般的な非水電解質電池用セパレータを製造する場合には10〜30μmとすることができる。最終的に製造される非水電解質電池用セパレータにおいてその両面を貫通できるように、導電性高分子材料は薄膜中に配される。例えば、形成された薄膜の両面を貫通するように導電性高分子材料が配される。
【0023】
ポリマーブレンド材料は導電性高分子材料及びマトリクス材料を混合した材料であり、導電性高分子材料とマトリクス材料との間で物理的に分離可能である材料である。従って、本明細書における「ポリマーブレンド」には導電性高分子材料及びマトリクス材料の物理的な混合物である一般的な意味での材料のほか、導電性高分子材料及びマトリクス材料の一部が化学的に結合した材料をも含む。一部が化学的に結合した材料であっても結合部位が少なければ導電性高分子材料の部分とマトリクス材料の部分とは分離可能である。一部が化学的に結合した材料としては導電性高分子材料及びマトリクス材料の一方に他方がグラフト化された材料が例示できる。
【0024】
ポリマーブレンド材料において、導電性高分子材料及びマトリクス材料は海−島構造等のミクロドメイン構造を有する。ミクロドメイン構造の界面付近が剥離して孔を形成するので、ミクロドメイン構造の大きさとしては製造される非水電解質電池用セパレータに形成する孔の大きさに応じて適正値が変化する。ミクロドメイン構造の大きさの制御については後述する。
【0025】
導電性高分子材料及びマトリクス材料のポリマーブレンド材料を製造する方法としては特に限定せず、双方の材料を物理的に混合する方法等が採用できる。例えば、マトリクス材料として所定溶媒に溶解する高分子を採用し、所定溶媒にマトリクス材料を溶解させた溶液中に導電性高分子材料を分散させることで混合物を得ることができる。また、マトリクス材料として所定温度以上で融解するな高分子を採用し、所定溶媒温度以上の処理温度に加熱したマトリクス材料中に導電性高分子材料を分散させることでも混合物を得ることができる。これらの混合物を製膜することで薄膜が得られる。導電性高分子材料とマトリクス材料との混合比は特に限定されず、適正な性能が得られるように調節される。例えば、導電性高分子材料:マトリクス材料が質量比で1:3〜1:1程度とできる。
【0026】
導電性高分子材料が所定溶媒に溶解しない場合や所定温度以上で融解しない場合にはポリマーブレンド材料中でのミクロドメイン構造の大きさは、ほぼ混合する導電性高分子材料の大きさで決定される。導電性高分子材料はマトリクス材料と共に混合物中でスラリー状となっている。従って、導電性高分子材料は粉末状とすることが好ましい。導電性高分子材料の粉末の大きさは非水電解質電池用セパレータに形成する孔の大きさに応じて決定する。
【0027】
導電性高分子材料が所定溶媒に溶解する場合や所定温度以上で融解する場合には導電性高分子材料及びマトリクス材料の相溶性が低いことが望ましい。相溶性が低いことにより導電性高分子材料及びマトリクス材料を混合しても分子レベルにまで混合されず適正な大きさのミクロドメイン構造を形成できる。ミクロドメイン構造の大きさは溶解乃至は融解した混合物を撹拌し、その撹拌速度を変化させることで制御可能である。撹拌速度を大きくすることでミクロドメイン構造を小さくできる。
【0028】
なお、マトリクス材料について、溶解しない溶媒に分散させた状態で導電性高分子材料と混合することもできる。その場合に、導電性高分子材料について溶解する溶媒を用いたり、導電性高分子材料を加熱融解させたりして混合することもできるが双方を固体状のまま適正な液体中で混合しスラリー化することもできる。その場合にはそのスラリーを製膜しそのまま薄膜とするほか、成膜後加熱して導電性高分子材料及び/又はマトリクス材料を融解させる方法がある。
【0029】
導電性高分子材料としては特に限定されず、本非水電解質電池用セパレータが用いられる非水電解質電池が作動する電圧範囲に基づいて適正に選択される。導電性を発現する電位は導電性高分子材料の化学構造により制御できる。
【0030】
従って、導電性高分子材料の化学構造は適用される非水電解質電池に用いられる正負極活物質の種類に応じて選択することが好ましい。つまり、非水電解質電池の通常使用時に変化する電圧範囲では導電化せず、過充電時に初めて導電化する導電性高分子材料を用いることが好ましい。
【0031】
具体的な導電性高分子材料としてはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニル、ポリアセン、ポリピロール、ポリフラン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリセレノフェン等の基本構造をもつ高分子化合物が例示できる。これらの基本構造は対応するアセチレン、ピロール、ベンゼン、ビフェニル等のモノマーを化学的、電気化学的に重合させることで製造できる。
【0032】
導電性高分子材料が導電性を発現できる電位は、導電性高分子材料の各基本構造毎に以下の通りである。つまり、ポリアセチレンが3.7V、ポリパラフェニレンが4.1V、ポリパラフェニレンビニルが3.6V、ポリアセン、ポリピロールが3.3V、ポリフランが3.7V、ポリチオフェンが3.7V、ポリアニリンが3.5V、ポリセレノフェンが3.3Vである。
【0033】
例えば正極活物質に五酸化二バナジウム、負極活物質に金属リチウムを用いる場合に使用される電位は3.5Vまでであるので、同程度の電位以上において導電性を発現するポリチオフェン(3.7V以上で導電性を発現)の基本構造をもつ導電性高分子材料とすることが好ましい。また、正極活物質にニッケル酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、負極活物質にカーボンを用いたリチウム二次電池ではポリパラフェニレン(4.1V以上で導電性を発現)を導電性高分子材料の基本構造として採用することが好ましい。
【0034】
ところで、4V級の非水電解質電池の正負極はそれぞれ3〜4V程度(正極)及び0〜2.5V程度(負極)の電位領域で作動しているものがある。単一の一般的な導電性高分子材料(P型導電性高分子材料では3Vを超える程度の電位領域で導電化し、バイポーラ型導電性高分子材料は1Vを下回る程度の電位領域で導電化する)では、通常の充放電時の使用においても導電化してしまい、通常の充放電が不可能になるおそれがある。
【0035】
その場合には、後述する被膜形成工程を採用し、正極と接する面と負極と接する面とにおいてそれぞれ露出する導電性高分子材料の種類を変えて非水電解質電池用セパレータを形成することで解決可能である。導電性高分子材料の種類にはP型、N型、バイポーラ型がある。バイボーラ型導電性高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン等がある。P型導電性高分子材料としてはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等がある。
【0036】
正極に接する一面側にバイポーラ型導電性高分子材料を露出させ、負極に接する他面側にはP型導電性高分子材料を露出するように非水電解質電池用セパレータを形成する。バイポーラ型導電性高分子材料とP型導電性高分子材料とは電気的に接続(例えば直接接触させる)させる。つまり、高い電位領域(例えば、4V級の非水電解質電池では4V以上)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる正極近傍では4V付近まで導電化しないバイボーラ型導電性高分子材料を配設し、低い電位領域(0V付近)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる負極近傍では低い電位領域では導電化しないP型導電性高分子材料を配設することで、非水電解質電池の通常充放電時における短絡を防止できる。当然、正極が高い電位になる過充電時にはバイボーラ型導電性高分子材料は導電化するので、バイボーラ型導電性高分子材料に接するP型導電性高分子材料も導電化して正負極間を短絡することができるので過充電による電圧上昇を防止できる。
【0037】
マトリクス材料は本非水電解質電池用セパレータの物理的性質を決定する重要な因子である。マトリクス材料は非水電解質電池用セパレータの基材となる。マトリクス材料としては用いられる非水電解質電池内で物理的及び化学的に要求される安定性に応じて決定される。一般的な非水電解質電池用セパレータとして使用される高分子材料がそのまま使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、その他一般的な樹脂である。特に100℃〜150℃付近に融点乃至は軟化点をもつ樹脂が好ましい。非水電解質電池が過充電状態となった場合、導電性高分子材料により電極間を短絡してそれ以上の過充電を防止すると共にセパレータが溶融することによるいわゆるシャットダウン効果によっても安全性を向上できるからである。化学的な安定性及びコスト的な観点からオレフィン樹脂、特にポリエチレンが好ましい。
【0038】
(多孔質化工程)
本工程は、前述の薄膜形成工程で形成した薄膜を延伸し導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする工程である。延伸の結果、薄膜はポリマーブレンド材料中の導電性高分子材料とマトリクス材料との間で剥離し孔が形成される。非水電解質電池用セパレータのイオン透過性は形成された孔の大きさ、非水電解質電池用セパレータの空隙率等により制御する。形成する孔の孔径は特に限定しないが1〜10μm程度が好ましい。
【0039】
ポリマーブレンド材料中で剥離が進行する「導電性高分子材料とマトリクス材料との間」とは、導電性高分子材料とマトリクス材料との界面のほか、界面付近の相対的に強度の低い部分を含む。なお、本工程において剥離する部分は導電性高分子材料とマトリクス材料との界面乃至は導電性高分子材料内部が好ましい。導電性高分子材料が露出することで、電極との接触面積が増加するため、電極と接するセパレータの電位が電極電位とほぼ等しくなり、過充電時の応答が良好となる。
【0040】
延伸は一軸延伸、二軸延伸等通常の延伸方法を採用できる。延伸の程度は特に限定しないが形成する非水電解質電池用セパレータの空隙率、形成する孔の大きさ等により適正値を選択する。
【0041】
(被膜形成工程)
本工程を有することで、製造する非水電解質電池用セパレータの両面に露出する導電性高分子材料の種類を変えることができる。本工程は前述の薄膜形成工程及び多孔質化工程の間に行う工程である。本工程は、形成された薄膜に含有する導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料を含む第2ポリマーブレンド材料からなる被膜を前記薄膜の一面に形成する工程である。第2ポリマーブレンド材料を調製する方法は前述の薄膜形成工程で説明した方法と使用する導電性高分子材料の種類が異なる以外同じである。調製した第2ポリマーブレンド材料を薄膜の片面側に塗布することで被膜を形成する。
【0042】
【実施例】
以下に本発明の非水電解質電池用セパレータについて実施例のリチウム二次電池に基づいて説明する。
【0043】
〈試験用電池の製造〉
(実施例)
〔非水電解質電池用セパレータの製造〕
本実施例の非水電解質電池用セパレータは以下の方法で製造した。
・薄膜形成工程
導電性高分子材料としてのポリヘキシルチオフェンの合成:3−へキシルチオフェンを0.3mol/kgの濃度で電解液(1mol/Lの濃度でLiPF6を含有するエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7(容量比)溶液)に溶解し試料溶液とした。作用極に白金、対極と参照極とにLiをそれぞれ用いた3極式セル内で試料溶液について電解重合を行い作用極上にポリヘキシルチオフェンを析出させた。電解重合の条件は電流密度一定(1mA/cm2)で行った。
【0044】
その後、作用極と参照極との間の電圧が2Vとなるまで電位を掃引しポリヘキシルチオフェン中のアニオン(PF6)を脱ドープした。作用極上のポリヘキシルチオフェン中の支持塩をジエチルカーボネートで洗浄した。その後、乾燥したポリヘキシルチオフェンを作用極上から剥離して平均粒子径25μmにまで粉砕した。
【0045】
導電性高分子材料とマトリクス材料との混合:マトリクス材料としての高密度ポリエチレン(HDPE)とをジオクチルフタレート中、質量比1:1で混合しスラリー状とした。得られたスラリーから厚み25μmの薄膜を形成した。
・多孔質化工程
得られた薄膜に対して2軸延伸を行い多孔質化した。2軸延伸の条件としては縦、横方向共に9.8×105Pa(10kg/cm2)で行った。その結果、ポリヘキシルチオフェンとHDPEとの間の界面が剥離し本実施例の非水電解質電池用セパレータが得られた。得られた非水電解質電池用セパレータは空隙率が50%であった。
【0046】
〔リチウム二次電池の作製〕
正極活物質としての五酸化バナジウムと導電材としてのカーボンブラックと結着材としてのポリフッ化ビニリデンとを質量比で85:10:5で混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することでペースト状の正極合材を得た。この正極合材を厚さ15μmのAl箔製正極集電体の片面に塗布、乾燥し、プレス工程を経て、シート状の正極を作製した。リチウム金属箔を負極に用いた。
【0047】
上記正極及び負極をそれぞれ所定の大きさに裁断し、裁断した正極と負極との間に本実施例の非水電解質電池用セパレータを介装した。その後、非水電解質(1M LiPF6 エチレンカーボネート−ジエチルカーボネート混合溶媒(3:7容量比))と共に電池ケース内に密閉して、本実施例のリチウム二次電池(2032型コイン電池)を完成させた。
【0048】
その後、コンディショニングとして3V〜4.1V間を0.2Cで2サイクル充放電を行った。
【0049】
(比較例1)
実施例におけるポリヘキシルチオフェンに代えて平均粒子径25μm以下のシリコン粉末を用いた以外は実施例と同様にリチウム二次電池を作製した。
【0050】
(比較例2)
実施例における非水電解質電池用セパレータに代えて以下に説明する非水電解質電池用セパレータを用いた以外は実施例と同様にリチウム二次電池を作製した。
【0051】
〔非水電解質電池用セパレータの製造〕
HDPE製の多孔質膜(厚み25μm、空隙率50%)に対して、0.2mg/cm3でポリヘキシルチオフェンを被着されることで本比較例の非水電解質電池用セパレータを製造した。ポリヘキシルチオフェンはTHFに溶解して塗布した。
【0052】
〈過充電試験〉
実施例及び各比較例のリチウム二次電池について、正極中にLiイオンをドープした後、1C(1.5mA)の条件で充電を行った場合の電池の端子電圧を経時的に測定した。
【0053】
過充電試験の結果を図1に示す。図1には実施例及び各比較例のリチウム二次電池における端子電圧のSOC依存性を示したグラフである。比較例2のリチウム二次電池ではSOCが100%を超えたあたりから、端子電圧の上昇が急速に進行していった。比較例のリチウム二次電池は過充電に伴い発熱して、非常に高熱となった。
【0054】
実施例及び比較例2のリチウム二次電池ではSOC100%を超えた後に一旦端子電圧が上昇したものの3.7V付近で端子電圧の上昇は停止した。3.7Vの値はポリヘキシルチオフェンが導電を発現する電位とほぼ同じであることから、電池内において、非水電解質が含有する高分子材料の導電性高分子材料が導電性を発現することで実施例のリチウム二次電池の正負極間を短絡することで過充電を防止しているものと推測できる。
【0055】
〈出力密度の測定〉
実施例及び比較例2のそれぞれのリチウム二次電池について、1Cの電流値で2.5時間上限電圧にて充電した後にC/3の電流値で72分間放電することでDOD(Depth of Discharge:満充電状態からの放電深さ)を60%に調整した。その後、−30℃にてI−V法にて出力を測定した。その結果、実施例の電池では75W/kgであるのに対し、比較例2の電池では35W/kgであった。
【0056】
つまり、実施例及び比較例2のリチウム二次電池は双方とも高い安全を確保できるが、比較例2のリチウム二次電池は実施例のリチウム二次電池よりも出力密度が小さいことが明らかとなった。これは比較例2のリチウム二次電池における非水電解質電池用セパレータに形成された孔がポリヘキシルチオフェンの塗布により一部閉塞されたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各実施例及び比較例のリチウム二次電池に対して、充電を行った場合の端子電圧の値とSOCとの関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質電池用セパレータの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の小型化に伴い、情報関連機器、通信機器等の携帯機器分野では、これらの機器に用いる電源としてエネルギー密度の高いリチウム二次電池等の非水電解質電池が実用化され広く普及するに至っている。また一方で、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、エネルギー密度の高い非水電解質電池が検討されている。
【0003】
非水電解質電池に用いられる非水電解質は一般的に可燃性である非水溶媒を含んでいる。従って、何らかの原因で電池内部からの漏液が起こると安全上問題となる。ここで、電池内部から漏液が起こる原因の一つとして、過充電による電池温度の上昇が挙げられる。従って、電池からの漏液を防止して、電池の安全性を向上するためには、過充電を防止することが有効である。
【0004】
電池の過充電を防止するための従来技術としては、イオンのドーピングにより導電性を発現する導電性高分子材料を電池を構成するセパレータの表面に被着させる技術がある(特許文献1)。セパレータに導電性高分子材料を被着させて正負極間に介在させることで、過電圧が印加された際に導電性高分子材料が正負極間を短絡して過充電を防止できる。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−199769号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、セパレータは、非水電解質電池用に限らず、高い絶縁性と高いイオン伝導性とをもつことが要求される。一般的にセパレータは正負極間を隔離して絶縁性をもたせると共に、開口面積の大きい多孔質膜とすることで電解液を保持してイオンの伝導性を確保している。
【0007】
特許文献1に記載のセパレータは多孔質膜からなる基材上に導電性高分子材料を被着させることで製造している。基材上に導電性高分子材料を被着する方法としては導電性高分子材料の溶液を基材上に塗布したり、基材上に導電性高分子材料を直接、重合させることにより行っていた。
【0008】
そのために、特許文献1に記載のセパレータは、多孔質膜に塗布等された導電性高分子材料により多孔質膜の孔が目詰まりし充分な開口径を確保することができなかったり、導電性高分子材料を均一に被着させることが困難であることからセパレータの膜の拡がり方向における孔径分布や導電性高分子材料の被着量等の制御が充分でない場合があった。
【0009】
その結果、セパレータのイオン伝導性が充分でなくなり電池の内部抵抗が上昇することとなった。導電性高分子材料を被着する前の基材に設ける孔を大きくすることで、導電性高分子材料の被着による孔の目詰まりを防止することも考えられるが、導電性高分子材料を均一に被着させることの困難さは依然解消されないばかりか、孔径が大きいことで基材の強度低下により取り扱いが煩雑になることが考えられる。
【0010】
そこで本発明では、過充電時における安全性が高く且つ高い性能を発揮できる非水電解質電池用セパレータの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決する本発明の非水電解質電池用セパレータの製造方法は、導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、該薄膜を延伸し該導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする多孔質化工程と、を有することを特徴とする(請求項1)。
【0012】
つまり、薄膜形成工程における導電性高分子材料及びマトリクス材料を含む材料の物理的な混合物であるポリマーブレンドによって薄膜を形成することで、多孔質化工程における延伸により導電性高分子材料及びマトリクス材料の間の界面等を容易に剥離して微細な孔を形成することができる。導電性高分子材料を含む材料であるポリマーブレンド材料からなる薄膜について多孔質化を行うので孔径の制御は容易であり、電池反応におけるイオン伝導と非水電解質電池用セパレータの強度とのバランスを容易に調整可能である。また、薄膜を製造する前の段階から導電性高分子材料を混合できるのでより均一に分散させることができるので、過充電防止機能もより確実に発揮させることができる。
【0013】
前記マトリクス材料は所定溶媒に溶解可能な高分子であり、前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料とを該所定溶媒に分散させる工程をもつことが好ましい(請求項2)。また、前記マトリクス材料は所定温度以上で融解する熱可塑性高分子であり、前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料との混合物を該所定温度以上の処理温度に加熱する工程をもつことが好ましい(請求項3)。マトリクス材料を所定溶媒に溶解する乃至は所定温度で融解することで、より強固でセパレータに適した薄膜をえることができる。
【0014】
前記薄膜形成工程に供する前記導電性高分子材料は粉末状とすることで(請求項4)、製造される非水電解質電池用セパレータ中により均一に分散することが可能となり、確実に過充電防止機能を発揮させることができる。
【0015】
前記マトリクス材料はオレフィン系高分子であることが好ましい(請求項5)。オレフィン系高分子は電器化学的に極めて安定であり、安価で入手性が良いからである。
【0016】
前記マトリクス材料と前記導電性高分子材料とは相溶性が低いことが好ましい(請求項6)。相溶性が低い材料を用いることで多孔質化工程における導電性高分子材料とマトリクス材料との間の剥離が容易に進行できるからである。
【0017】
前記薄膜形成工程においてマトリクス材料を所定溶媒に溶解する場合には、前記導電性高分子は前記所定溶媒に溶解しないことが好ましい(請求項7)。また、前記薄膜形成工程においてマトリクス材料を所定温度で融解する場合には、前記処理温度は前記導電性高分子材料の融点乃至は分解点より低い温度であることが好ましい(請求項8)。導電性高分子材料とマトリクス材料とが分子レベルまで混合することを防止でき、導電性高分子材料を海部分とする海−島構造等のミクロドメイン構造を形成できる。
【0018】
前記薄膜形成工程及び前記多孔質化工程の間に、前記導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料を含む第2ポリマーブレンド材料からなる被膜を前記薄膜の一面に形成する被膜形成工程を有することが好ましい(請求項9)。非水電解質電池用セパレータの両面で異なる導電性高分子材料を含ませることができる。例えば、前記導電性高分子材料はバイボーラ型導電性高分子材料であり、前記ポリマーブレンド材料が含む該導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料はP型導電性高分子材料である(請求項10)。つまり、高い電位領域(例えば、4V級の非水電解質電池では4V以上)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる正極近傍では4V付近まで導電化しないバイボーラ型導電性高分子材料を配設し、低い電位領域(0V付近)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる負極近傍では低い電位領域では導電化しないP型導電性高分子材料を配設することで、非水電解質電池の通常充放電時における短絡を防止できる。当然、正極が高い電位になる過充電時にはバイボーラ型導電性高分子材料は導電化するので、バイボーラ型導電性高分子材料に接するP型導電性高分子材料も導電化して正負極間を短絡することができるので過充電による電圧上昇を防止できる。
【0019】
従って、正極及び負極のそれぞれに適正な導電性高分子材料を個別に選択できるので導電性高分子材料の選択の自由度が高くなる。特に、4V級の非水電解質電池にも容易に適用できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の非水電解質電池用セパレータの製造方法について実施の形態に基づき詳細に説明する。本実施形態の非水電解質電池用セパレータの製造方法は薄膜形成工程と多孔質化工程とを有する。非水電解質電池用セパレータの両面で異なる導電性高分子材料を用いる場合には薄膜形成工程及び多孔質化工程との間に被膜形成工程を有することができる。
【0021】
本製造方法により製造される非水電解質電池用セパレータは微細な孔を多数有する多孔質膜である。この多孔質膜は多孔質膜の両面を貫通する導電性高分子材料をもつ。本非水電解質電池用セパレータが適用された非水電解質電池は過充電時の電圧上昇により導電性高分子材料が導電化し、本非水電解質電池用セパレータを狭持している正負極間を短絡することで更なる電圧上昇、過充電による熱暴走等を防止できる。
【0022】
(薄膜形成工程)
本工程は、導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する工程である。形成される薄膜の厚みは特に限定しないが一般的な非水電解質電池用セパレータを製造する場合には10〜30μmとすることができる。最終的に製造される非水電解質電池用セパレータにおいてその両面を貫通できるように、導電性高分子材料は薄膜中に配される。例えば、形成された薄膜の両面を貫通するように導電性高分子材料が配される。
【0023】
ポリマーブレンド材料は導電性高分子材料及びマトリクス材料を混合した材料であり、導電性高分子材料とマトリクス材料との間で物理的に分離可能である材料である。従って、本明細書における「ポリマーブレンド」には導電性高分子材料及びマトリクス材料の物理的な混合物である一般的な意味での材料のほか、導電性高分子材料及びマトリクス材料の一部が化学的に結合した材料をも含む。一部が化学的に結合した材料であっても結合部位が少なければ導電性高分子材料の部分とマトリクス材料の部分とは分離可能である。一部が化学的に結合した材料としては導電性高分子材料及びマトリクス材料の一方に他方がグラフト化された材料が例示できる。
【0024】
ポリマーブレンド材料において、導電性高分子材料及びマトリクス材料は海−島構造等のミクロドメイン構造を有する。ミクロドメイン構造の界面付近が剥離して孔を形成するので、ミクロドメイン構造の大きさとしては製造される非水電解質電池用セパレータに形成する孔の大きさに応じて適正値が変化する。ミクロドメイン構造の大きさの制御については後述する。
【0025】
導電性高分子材料及びマトリクス材料のポリマーブレンド材料を製造する方法としては特に限定せず、双方の材料を物理的に混合する方法等が採用できる。例えば、マトリクス材料として所定溶媒に溶解する高分子を採用し、所定溶媒にマトリクス材料を溶解させた溶液中に導電性高分子材料を分散させることで混合物を得ることができる。また、マトリクス材料として所定温度以上で融解するな高分子を採用し、所定溶媒温度以上の処理温度に加熱したマトリクス材料中に導電性高分子材料を分散させることでも混合物を得ることができる。これらの混合物を製膜することで薄膜が得られる。導電性高分子材料とマトリクス材料との混合比は特に限定されず、適正な性能が得られるように調節される。例えば、導電性高分子材料:マトリクス材料が質量比で1:3〜1:1程度とできる。
【0026】
導電性高分子材料が所定溶媒に溶解しない場合や所定温度以上で融解しない場合にはポリマーブレンド材料中でのミクロドメイン構造の大きさは、ほぼ混合する導電性高分子材料の大きさで決定される。導電性高分子材料はマトリクス材料と共に混合物中でスラリー状となっている。従って、導電性高分子材料は粉末状とすることが好ましい。導電性高分子材料の粉末の大きさは非水電解質電池用セパレータに形成する孔の大きさに応じて決定する。
【0027】
導電性高分子材料が所定溶媒に溶解する場合や所定温度以上で融解する場合には導電性高分子材料及びマトリクス材料の相溶性が低いことが望ましい。相溶性が低いことにより導電性高分子材料及びマトリクス材料を混合しても分子レベルにまで混合されず適正な大きさのミクロドメイン構造を形成できる。ミクロドメイン構造の大きさは溶解乃至は融解した混合物を撹拌し、その撹拌速度を変化させることで制御可能である。撹拌速度を大きくすることでミクロドメイン構造を小さくできる。
【0028】
なお、マトリクス材料について、溶解しない溶媒に分散させた状態で導電性高分子材料と混合することもできる。その場合に、導電性高分子材料について溶解する溶媒を用いたり、導電性高分子材料を加熱融解させたりして混合することもできるが双方を固体状のまま適正な液体中で混合しスラリー化することもできる。その場合にはそのスラリーを製膜しそのまま薄膜とするほか、成膜後加熱して導電性高分子材料及び/又はマトリクス材料を融解させる方法がある。
【0029】
導電性高分子材料としては特に限定されず、本非水電解質電池用セパレータが用いられる非水電解質電池が作動する電圧範囲に基づいて適正に選択される。導電性を発現する電位は導電性高分子材料の化学構造により制御できる。
【0030】
従って、導電性高分子材料の化学構造は適用される非水電解質電池に用いられる正負極活物質の種類に応じて選択することが好ましい。つまり、非水電解質電池の通常使用時に変化する電圧範囲では導電化せず、過充電時に初めて導電化する導電性高分子材料を用いることが好ましい。
【0031】
具体的な導電性高分子材料としてはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニル、ポリアセン、ポリピロール、ポリフラン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリセレノフェン等の基本構造をもつ高分子化合物が例示できる。これらの基本構造は対応するアセチレン、ピロール、ベンゼン、ビフェニル等のモノマーを化学的、電気化学的に重合させることで製造できる。
【0032】
導電性高分子材料が導電性を発現できる電位は、導電性高分子材料の各基本構造毎に以下の通りである。つまり、ポリアセチレンが3.7V、ポリパラフェニレンが4.1V、ポリパラフェニレンビニルが3.6V、ポリアセン、ポリピロールが3.3V、ポリフランが3.7V、ポリチオフェンが3.7V、ポリアニリンが3.5V、ポリセレノフェンが3.3Vである。
【0033】
例えば正極活物質に五酸化二バナジウム、負極活物質に金属リチウムを用いる場合に使用される電位は3.5Vまでであるので、同程度の電位以上において導電性を発現するポリチオフェン(3.7V以上で導電性を発現)の基本構造をもつ導電性高分子材料とすることが好ましい。また、正極活物質にニッケル酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、負極活物質にカーボンを用いたリチウム二次電池ではポリパラフェニレン(4.1V以上で導電性を発現)を導電性高分子材料の基本構造として採用することが好ましい。
【0034】
ところで、4V級の非水電解質電池の正負極はそれぞれ3〜4V程度(正極)及び0〜2.5V程度(負極)の電位領域で作動しているものがある。単一の一般的な導電性高分子材料(P型導電性高分子材料では3Vを超える程度の電位領域で導電化し、バイポーラ型導電性高分子材料は1Vを下回る程度の電位領域で導電化する)では、通常の充放電時の使用においても導電化してしまい、通常の充放電が不可能になるおそれがある。
【0035】
その場合には、後述する被膜形成工程を採用し、正極と接する面と負極と接する面とにおいてそれぞれ露出する導電性高分子材料の種類を変えて非水電解質電池用セパレータを形成することで解決可能である。導電性高分子材料の種類にはP型、N型、バイポーラ型がある。バイボーラ型導電性高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン等がある。P型導電性高分子材料としてはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等がある。
【0036】
正極に接する一面側にバイポーラ型導電性高分子材料を露出させ、負極に接する他面側にはP型導電性高分子材料を露出するように非水電解質電池用セパレータを形成する。バイポーラ型導電性高分子材料とP型導電性高分子材料とは電気的に接続(例えば直接接触させる)させる。つまり、高い電位領域(例えば、4V級の非水電解質電池では4V以上)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる正極近傍では4V付近まで導電化しないバイボーラ型導電性高分子材料を配設し、低い電位領域(0V付近)においてまで導電化せずに使用できることが望まれる負極近傍では低い電位領域では導電化しないP型導電性高分子材料を配設することで、非水電解質電池の通常充放電時における短絡を防止できる。当然、正極が高い電位になる過充電時にはバイボーラ型導電性高分子材料は導電化するので、バイボーラ型導電性高分子材料に接するP型導電性高分子材料も導電化して正負極間を短絡することができるので過充電による電圧上昇を防止できる。
【0037】
マトリクス材料は本非水電解質電池用セパレータの物理的性質を決定する重要な因子である。マトリクス材料は非水電解質電池用セパレータの基材となる。マトリクス材料としては用いられる非水電解質電池内で物理的及び化学的に要求される安定性に応じて決定される。一般的な非水電解質電池用セパレータとして使用される高分子材料がそのまま使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、その他一般的な樹脂である。特に100℃〜150℃付近に融点乃至は軟化点をもつ樹脂が好ましい。非水電解質電池が過充電状態となった場合、導電性高分子材料により電極間を短絡してそれ以上の過充電を防止すると共にセパレータが溶融することによるいわゆるシャットダウン効果によっても安全性を向上できるからである。化学的な安定性及びコスト的な観点からオレフィン樹脂、特にポリエチレンが好ましい。
【0038】
(多孔質化工程)
本工程は、前述の薄膜形成工程で形成した薄膜を延伸し導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする工程である。延伸の結果、薄膜はポリマーブレンド材料中の導電性高分子材料とマトリクス材料との間で剥離し孔が形成される。非水電解質電池用セパレータのイオン透過性は形成された孔の大きさ、非水電解質電池用セパレータの空隙率等により制御する。形成する孔の孔径は特に限定しないが1〜10μm程度が好ましい。
【0039】
ポリマーブレンド材料中で剥離が進行する「導電性高分子材料とマトリクス材料との間」とは、導電性高分子材料とマトリクス材料との界面のほか、界面付近の相対的に強度の低い部分を含む。なお、本工程において剥離する部分は導電性高分子材料とマトリクス材料との界面乃至は導電性高分子材料内部が好ましい。導電性高分子材料が露出することで、電極との接触面積が増加するため、電極と接するセパレータの電位が電極電位とほぼ等しくなり、過充電時の応答が良好となる。
【0040】
延伸は一軸延伸、二軸延伸等通常の延伸方法を採用できる。延伸の程度は特に限定しないが形成する非水電解質電池用セパレータの空隙率、形成する孔の大きさ等により適正値を選択する。
【0041】
(被膜形成工程)
本工程を有することで、製造する非水電解質電池用セパレータの両面に露出する導電性高分子材料の種類を変えることができる。本工程は前述の薄膜形成工程及び多孔質化工程の間に行う工程である。本工程は、形成された薄膜に含有する導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料を含む第2ポリマーブレンド材料からなる被膜を前記薄膜の一面に形成する工程である。第2ポリマーブレンド材料を調製する方法は前述の薄膜形成工程で説明した方法と使用する導電性高分子材料の種類が異なる以外同じである。調製した第2ポリマーブレンド材料を薄膜の片面側に塗布することで被膜を形成する。
【0042】
【実施例】
以下に本発明の非水電解質電池用セパレータについて実施例のリチウム二次電池に基づいて説明する。
【0043】
〈試験用電池の製造〉
(実施例)
〔非水電解質電池用セパレータの製造〕
本実施例の非水電解質電池用セパレータは以下の方法で製造した。
・薄膜形成工程
導電性高分子材料としてのポリヘキシルチオフェンの合成:3−へキシルチオフェンを0.3mol/kgの濃度で電解液(1mol/Lの濃度でLiPF6を含有するエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7(容量比)溶液)に溶解し試料溶液とした。作用極に白金、対極と参照極とにLiをそれぞれ用いた3極式セル内で試料溶液について電解重合を行い作用極上にポリヘキシルチオフェンを析出させた。電解重合の条件は電流密度一定(1mA/cm2)で行った。
【0044】
その後、作用極と参照極との間の電圧が2Vとなるまで電位を掃引しポリヘキシルチオフェン中のアニオン(PF6)を脱ドープした。作用極上のポリヘキシルチオフェン中の支持塩をジエチルカーボネートで洗浄した。その後、乾燥したポリヘキシルチオフェンを作用極上から剥離して平均粒子径25μmにまで粉砕した。
【0045】
導電性高分子材料とマトリクス材料との混合:マトリクス材料としての高密度ポリエチレン(HDPE)とをジオクチルフタレート中、質量比1:1で混合しスラリー状とした。得られたスラリーから厚み25μmの薄膜を形成した。
・多孔質化工程
得られた薄膜に対して2軸延伸を行い多孔質化した。2軸延伸の条件としては縦、横方向共に9.8×105Pa(10kg/cm2)で行った。その結果、ポリヘキシルチオフェンとHDPEとの間の界面が剥離し本実施例の非水電解質電池用セパレータが得られた。得られた非水電解質電池用セパレータは空隙率が50%であった。
【0046】
〔リチウム二次電池の作製〕
正極活物質としての五酸化バナジウムと導電材としてのカーボンブラックと結着材としてのポリフッ化ビニリデンとを質量比で85:10:5で混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することでペースト状の正極合材を得た。この正極合材を厚さ15μmのAl箔製正極集電体の片面に塗布、乾燥し、プレス工程を経て、シート状の正極を作製した。リチウム金属箔を負極に用いた。
【0047】
上記正極及び負極をそれぞれ所定の大きさに裁断し、裁断した正極と負極との間に本実施例の非水電解質電池用セパレータを介装した。その後、非水電解質(1M LiPF6 エチレンカーボネート−ジエチルカーボネート混合溶媒(3:7容量比))と共に電池ケース内に密閉して、本実施例のリチウム二次電池(2032型コイン電池)を完成させた。
【0048】
その後、コンディショニングとして3V〜4.1V間を0.2Cで2サイクル充放電を行った。
【0049】
(比較例1)
実施例におけるポリヘキシルチオフェンに代えて平均粒子径25μm以下のシリコン粉末を用いた以外は実施例と同様にリチウム二次電池を作製した。
【0050】
(比較例2)
実施例における非水電解質電池用セパレータに代えて以下に説明する非水電解質電池用セパレータを用いた以外は実施例と同様にリチウム二次電池を作製した。
【0051】
〔非水電解質電池用セパレータの製造〕
HDPE製の多孔質膜(厚み25μm、空隙率50%)に対して、0.2mg/cm3でポリヘキシルチオフェンを被着されることで本比較例の非水電解質電池用セパレータを製造した。ポリヘキシルチオフェンはTHFに溶解して塗布した。
【0052】
〈過充電試験〉
実施例及び各比較例のリチウム二次電池について、正極中にLiイオンをドープした後、1C(1.5mA)の条件で充電を行った場合の電池の端子電圧を経時的に測定した。
【0053】
過充電試験の結果を図1に示す。図1には実施例及び各比較例のリチウム二次電池における端子電圧のSOC依存性を示したグラフである。比較例2のリチウム二次電池ではSOCが100%を超えたあたりから、端子電圧の上昇が急速に進行していった。比較例のリチウム二次電池は過充電に伴い発熱して、非常に高熱となった。
【0054】
実施例及び比較例2のリチウム二次電池ではSOC100%を超えた後に一旦端子電圧が上昇したものの3.7V付近で端子電圧の上昇は停止した。3.7Vの値はポリヘキシルチオフェンが導電を発現する電位とほぼ同じであることから、電池内において、非水電解質が含有する高分子材料の導電性高分子材料が導電性を発現することで実施例のリチウム二次電池の正負極間を短絡することで過充電を防止しているものと推測できる。
【0055】
〈出力密度の測定〉
実施例及び比較例2のそれぞれのリチウム二次電池について、1Cの電流値で2.5時間上限電圧にて充電した後にC/3の電流値で72分間放電することでDOD(Depth of Discharge:満充電状態からの放電深さ)を60%に調整した。その後、−30℃にてI−V法にて出力を測定した。その結果、実施例の電池では75W/kgであるのに対し、比較例2の電池では35W/kgであった。
【0056】
つまり、実施例及び比較例2のリチウム二次電池は双方とも高い安全を確保できるが、比較例2のリチウム二次電池は実施例のリチウム二次電池よりも出力密度が小さいことが明らかとなった。これは比較例2のリチウム二次電池における非水電解質電池用セパレータに形成された孔がポリヘキシルチオフェンの塗布により一部閉塞されたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各実施例及び比較例のリチウム二次電池に対して、充電を行った場合の端子電圧の値とSOCとの関係を示すグラフである。
Claims (10)
- 導電性高分子材料及びマトリクス材料を含むポリマーブレンド材料からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、
該薄膜を延伸し該導電性高分子材料とマトリクス材料との間を剥離させて多孔質膜とする多孔質化工程と、を有することを特徴とする非水電解質電池用セパレータの製造方法。 - 前記マトリクス材料は所定溶媒に溶解可能な高分子であり、
前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料とを該所定溶媒に分散させる工程をもつ請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。 - 前記マトリクス材料は所定温度以上で融解する熱可塑性高分子であり、
前記薄膜形成工程は前記導電性高分子材料と該マトリクス材料との混合物を該所定温度以上の処理温度に加熱する工程をもつ請求項1に記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。 - 前記薄膜形成工程に供する前記導電性高分子材料は粉末状である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記マトリクス材料はオレフィン系高分子である請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記マトリクス材料と前記導電性高分子材料とは相溶性が低い請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記導電性高分子は前記所定溶媒に溶解しない請求項2又は4に記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記処理温度は前記導電性高分子材料の融点乃至は分解点より低い温度である請求項3又は4に記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記薄膜形成工程及び前記多孔質化工程の間に、前記導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料を含む第2ポリマーブレンド材料からなる被膜を前記薄膜の一面に形成する被膜形成工程を有する請求項1〜8のいずれかに記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
- 前記導電性高分子材料はバイボーラ型導電性高分子材料であり、前記ポリマーブレンド材料が含む該導電性高分子材料と異なる導電性高分子材料はP型導電性高分子材料である請求項9に記載の非水電解質電池用セパレータの製造方法。
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JP2002365364A JP2004199944A (ja) | 2002-12-17 | 2002-12-17 | 非水電解質電池用セパレータの製造方法 |
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