JP2004193749A - 広指向性スピーカシステム - Google Patents

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Abstract

【課題】中央部に開口を設けた絞り込み部材をスピーカユニットの振動板の前方に配置した広指向性スピーカシステムがあるが、特に中音域または高音域において、なおも所望の指向性が得られない場合がある。開口部をより小径にすることによる指向性の拡大は、スピーカユニットが発生する音響エネルギーを充分に外部に放射できなくなる事態を招く可能性があり、現実的ではない。
【解決手段】広指向性スピーカシステム1は、コーン型スピーカユニット2と、絞り込み部材10Aとを具備する。絞り込み部材10Aには、中央部に中央孔11が、その外側に周辺孔12が形成されている。絞り込み部材10Aにおいて、中央孔11よりも半径方向外側であって周辺孔12よりも半径方向内側に、環状の遮蔽部19が形成されている。遮蔽部19の半径方向外端は、中央孔11の半径方向外端と周辺孔12の半径方向外端の略中間位置 又は 該中間位置よりも半径方向外側の位置にある。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願に係る発明は、指向性をより広くすることができる広指向性スピーカシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、スピーカシステムの指向性を広げようとする試みがある(例えば、特許文献1参照)。図15は、従来の広指向性スピーカシステム101の縦断面図である。
【0003】
このスピーカシステム101では、振動板の前方に、開口部111を有するパネル110が配置されている。開口部111はスピーカユニット102と同心状に形成されている。開口部111の前方には、滴形状のディフューザ104が配置されている。
【0004】
パネル110の開口部111の面積はスピーカユニット102の振動板の面積よりも小さい。つまり、スピーカユニット102の振動板の見掛け上の開口面積をパネル110によって絞り込んでいるのである。このような絞り込み部材(開口部111を有するパネル110)を設けると、振動板の前方にディフューザ104のみを配置した場合に比べて、より指向性を広げることができるのである。
【0005】
なお、振動板の前方に、中央開口部を有するパネルが配置されたスピーカシステムであって、パネルの全体に渡って多数の円孔が形成されたものもあるが(例えば、特許文献2参照)、パネルの全体に渡って多数の円孔が形成されているため、このパネルは実質的に絞り込みの効果が薄く、十分に広い指向性を得ることは出来ない。
【0006】
【特許文献1】
実開平4−59696号公報(第1頁、第1図)
【特許文献2】
特開平8−331684号公報(第2頁、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図15に、絞り込み部材としてのパネル110を用いるスピーカシステム101を示したが、かかる構造でも指向性を充分に広げることができない場合がある。特に中音域または高音域において、所望の指向性が得られない場合がある。
【0008】
図15のような構造のスピーカシステム101において、大幅な構造の変更を行うことなく中音域や高音域での指向性をより広くするには、例えば、パネル110の開口部111をより小径にすることも考えられる。しかし、開口部111の面積を小さくしすぎると、換言すれば、振動板の見掛け上の開口面積を絞り込みすぎると、スピーカユニット102が発生する音響エネルギーを、充分に外部に放射できなくなる事態も予想される。従って、パネル110の開口部111の面積を小さくすることによる指向性の拡大には限界がある。
【0009】
本願発明は、指向性をより広くすることができるような、広指向性スピーカシステムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この出願発明に係る広指向性スピーカシステムは、コーン型スピーカユニットと、絞り込み部材と、を具備する広指向性スピーカシステムであって、該コーン型スピーカユニットは、振動板を有し、該絞り込み部材は、該振動板の前方を覆い、該絞り込み部材には、中央孔と周辺孔とが形成され、該中央孔は、該振動板の中央部の前方に位置し、該周辺孔は、該中央孔よりも半径方向外側に位置し、該中央孔と該周辺孔の面積の総和が、該振動板の面積よりも小さく、該絞り込み部材において、該中央孔よりも半径方向外側であって該周辺孔よりも半径方向内側に、環状の遮蔽部が形成され、該遮蔽部の半径方向外端が、該中央孔の半径方向外端と該周辺孔の半径方向外端の略中間位置 又は 該中間位置よりも半径方向外側の位置にある(請求項1)。
【0011】
かかる構造によれば、中央孔と周辺孔とを音波が通過する。広指向性スピーカシステムの指向性は、中央孔からの音波と、周辺孔からの音波との干渉の結果として生ずるものとなる。中央孔からの音波と、周辺孔からの音波をそれぞれ単独で抽出することができるとすれば、中央孔からの音波によっては比較的広い指向性が、周辺孔からの音波によっては比較的狭い指向性が形成される。中央孔からの音波と周辺孔からの音波には位相差が生じており、特に正面方向において両者の干渉が顕著となる。その結果、相対的に正面方向において音圧レベルが低下する。つまり、正面方向の音圧レベルの加算度が悪くなり、その結果として、周波数によって広指向性スピーカシステムの指向性が拡大する。
【0012】
上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔の半径方向外端が、半径方向において、該振動板の周縁部近傍に位置するようにしてもよい(請求項2)。振動板がコーン部の周縁にエッジ部を有するものであれば、周辺孔の半径方向外端が半径方向においてコーン部の周縁部近傍に位置するように、または、エッジ部近傍に位置するようにするとよい。振動板がエッジ部を有しないエッジレスタイプのものであれば、周辺孔の半径方向外端が半径方向においてコーン部の周縁部近傍に位置するようにするとよい。このように、周辺孔の位置を極力半径方向外側に位置させることにより、周辺孔からの音波で形成される指向性がより狭くなり、また、中央孔からの音波との位相差も大きくなる。その結果、広指向性スピーカシステムの指向性がより拡大する。
【0013】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔が、該中央孔の全周をとりまくように形成されていてもよいし(請求項3)、該周辺孔が複数であり、該複数の周辺孔が、該中央孔の全周をとりまくように分散して形成されていてもよい(請求項4)。かかる構造によれば、全周方向において均一な指向性の拡大を期待できる。
【0014】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔が、該中央孔をとりまくように形成され、かつ、該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした180度以上の角度範囲に形成されていることが好ましい(請求項5)。また、該周辺孔が複数であり、該複数の周辺孔が、該中央孔をとりまくように、かつ、該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした180度以上の角度範囲に分散して形成されていることが好ましい(請求項6)。
【0015】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした45度以上の角度範囲において、該周辺孔が形成されないようにしてもよい(請求項7)。
【0016】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔が、半径方向に伸延するスリット状の孔であってもよい(請求項8)。周辺孔の伸延方向が半径方向であるので、多数の周辺孔を形成しても絞り込み部材の剛性低下は少ない。よって、周辺孔の総面積を比較的自由に設定でき、周辺孔からの音波レベルを調整することができるという効果を奏する。これにより、周辺孔からの音波のレベルが足りないという問題や、逆にレベルが高くなりすぎて、周辺孔からの音波の指向性が支配的になり、所望の指向性が得られないという問題を解決することが出来る。
【0017】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔のスリット幅を該周辺孔の深さよりも狭くしてもよい(請求項9)。非常に高い周波数においては、スリット幅を孔の深さより狭くすると、周辺孔が音波の抵抗として作用するので、周辺孔からの音波のレベルを中央孔からの音波のレベルよりも充分に小さくすることができる。よって、非常に高い周波数帯域では、中央孔からの音波レベルのみが出力されるものとみなすことができ、指向性の乱れをやわらげることができる。
【0018】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該周辺孔の配置形態が、該コーン型スピーカユニットの中心軸に対して非対称であってもよい(請求項10)。周辺孔の配置形態を該中心軸に対して対称にすると、広指向性スピーカシステム正面の音圧レベル周波数特性上、急峻なディップが生ずる場合がある。配置形態を非対称にすることにより、この急峻なディップが生ずることをやわらげることができる。
【0019】
また上記広指向性スピーカシステムにおいて、該中央孔の前方に、ディフューザが設けられていてもよい(請求項11)。中央孔を小さくすることによって指向性を拡大することができるとしても限界があるが、ディフューザを設けることによって、特に高い周波数帯域において、より指向性が拡大されることが期待される。
【0020】
【発明の実施の形態】
この出願発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。まず図1〜5を参照しつつ、本願発明の一実施形態たる広指向性スピーカシステム1の基本的な構造を説明する。
【0021】
図1は、天井壁30に取り付けられた広指向性スピーカシステム1の縦断面図であり、図2は広指向性スピーカシステム1の正面図であり、図3は天井壁30に取り付けられた広指向性スピーカシステム1を斜め下方から見た斜観図である。
【0022】
広指向性スピーカシステム1は、動電型のコーン型スピーカユニット2と、絞り込み部材10Aと、ディフューザ4とを有する。
【0023】
天井壁30には円形の取付孔30aが形成されている。この取付孔30aに絞り込み部材10Aが嵌め込まれて、天井壁30に固定されている。これにより、広指向性スピーカシステム1が天井壁30に取り付けられている。このように、本実施形態における絞り込み部材10Aは、後述する絞り込み機能のみならず、壁面に広指向性スピーカシステム1を取り付けるための取付部材としての機能をも併せ持つ。
【0024】
コーン型スピーカユニット2は絞り込み部材10Aにその裏面側から取り付けられている。コーン型スピーカユニット2は振動板7を有する。振動板7はコーン部3とその周辺に設けられたエッジ部5とを有する。図中の符号6で示すものは、コーン部3とエッジ部5との境界である。コーン型スピーカユニット2の振動板7は、絞り込み部材10Aによって前方から覆われている。
【0025】
絞り込み部材10Aには中央孔11と複数の周辺孔12とが形成されている。中央孔11はコーン型スピーカユニット2の振動板7の中央部の前方に位置し、周辺孔12は中央孔11よりも半径方向外側に位置する。つまり、周辺孔12は中央孔11の周辺に位置する。中央孔11と複数の周辺孔12の開口面積の総和は、振動板7の面積よりも小さい。すなわち、振動板7の見掛け上の開口面積が、絞り込み部材10Aによって絞り込まれている。
【0026】
絞り込み部材10Aにおいて、中央孔11と周辺孔12の間の環状の部分は、遮蔽部19として形成されている。遮蔽部19は、音波の通過をほぼ遮蔽する構造である。具体的には、遮蔽部19には何らの孔部も形成されておらず、遮蔽部19が音波の経路となることはない。なお、遮蔽部として機能するには、本実施形態の遮蔽部19のように全く孔部のない構造である必要はなく、実質的に音波の経路とならないものであればよい。よって、若干数の微少孔が形成されていても、実質的に音波を遮蔽するものであればよい。このように、中央孔11の外側に遮蔽部19を設けるのは、絞り込み部材10Aの絞り込み効果を有効たらしめるためである。つまり、中央孔11の外側に音波の通過を遮蔽する部分がなければ、中央孔11で見掛け上の開口面積を絞り込んでスピーカシステムの指向性を拡大させることができないからである。
【0027】
ディフューザ4は、上半部が略円錐形状、下半部が略半球状に形成されており、全体として滴形状をなしている。ディフューザ4は、絞り込み部材10Aの中央孔11の周縁から中央に向かって伸びる4本の支持部13(図1では支持部13が省略されている。)によって上端部を支持され、中央孔11の前方に位置している。ディフューザ4の直径は中央孔11の直径に略等しい。このディフューザ4は、特に高帯域の周波数において指向性を拡大させるために設けられている。つまり、中央孔11を形成して見掛け上の開口面積を小さくすることによって、高帯域の周波数の指向性を拡大させることができるとしても、指向性拡大のみを目的としてあまりに中央孔11を小さくし過ぎると、音圧レベルの低下を招く可能性がある。よって、中央孔11を小さくすることによる指向性拡大には限界がある。ディフューザ4を設けることによって、中央孔11をある程度の大きさに確保したまま、特に高帯域の周波数においてより指向性を拡大させることが期待できる。
【0028】
なお、絞り込み部材10Aやディフューザ4をその表側からカバーする透音性のカバー部材(図示せず)を設けるようにしてもよい。
図4は、支持部13を省略した絞り込み部材10Aの正面図である。絞り込み部材10Aにはその中心部に円形の中央孔11が形成されている。絞り込み部材10Aにコーン型スピーカユニット2が取り付けられたとき、この中央孔11はコーン型スピーカユニット2と同心状となる。中央孔11の面積は、コーン型スピーカユニット2の振動板7の面積の20%以上50%以下とすることが好ましい。
【0029】
絞り込み部材10Aの中央孔11の周辺には、11個の周辺孔12が形成されている。周辺孔12の形状は、半径方向に伸延するスリット状である。周辺孔12の形状をスリット状とし、その伸延方向を半径方向に一致させたのは、絞り込み部材10Aの剛性低下を極力少なくするためである。伸延方向が半径方向であるので、多数の周辺孔12を形成しても絞り込み部材10Aの剛性低下は少ない。よって、周辺孔12の数の設定が比較的自由であり、その総面積も比較的自由に設定できる。
【0030】
周辺孔12はコーン型スピーカユニット2の中心軸を中心とする略225度の角度範囲において、22.5度間隔で分散して配置されている。周辺孔12は絞り込み部材10Aにおいて中央孔11よりも半径方向外側に形成されている。周辺孔12は振動板7におけるコーン部3とエッジ部5の境界6の前方付近に位置する。すべての周辺孔12の半径方向位置は略等しい。11個の周辺孔12の面積の総和を、中央孔11の面積の1%以上25%以下とすることが好ましい。
【0031】
11個のスリット状の周辺孔12が、コーン型スピーカユニット2の中心軸を中心とする略225度の角度範囲において配置されている一方、その残りの角度範囲(すなわち略135度の角度範囲)においては周辺孔12が形成されていない。よって、周辺孔12の配置形態は、該中心軸に対して非対称となっている。
【0032】
図4において符号P1の円は、中央孔11の縁、つまり、中央孔11の半径方向外端の位置を示す。符号P2の円(仮想線の円)は、周辺孔12の半径方向内端の位置を示す。そして、円P1と円P2とで囲まれた環状の部分が遮蔽部19である。つまり、中央孔11の半径方向外端は遮蔽部19の半径方向内端に一致し、周辺孔12の半径方向内端は遮蔽部19の半径方向外端に一致している。
【0033】
図5は、広指向性スピーカシステム1の縦断面図である。図中の符号P1で示す引き出し線は、中央孔11の半径行方向外端の位置(遮蔽部19の半径方向内端の位置)を示す。符号P2で示す引き出し線は、周辺孔12の半径行方向内端の位置(遮蔽部19の半径方向外端の位置)を示す。符号P3で示す引き出し線は、周辺孔12の半径行方向外端の位置を示す。
【0034】
線P1は中心軸線(図中の一点鎖線)から約30mm離れており、線P2は中心軸線から約45mm離れており、線P3は中心軸線から約54mm離れている。
【0035】
図5から理解されるように、線P2は、線P1と線P3との略中央点に位置している。このように、遮蔽部19の半径方向外端は、中央孔11の半径方向外端と周辺孔12の半径方向外端の略中間位置にあるか、又は それ(中間位置)よりも半径方向外側の位置にあることが望ましい。つまり、遮蔽部19の半径方向幅があまり短いと、絞り部材10Aの中央孔11による絞り込み効果が有効に生じないからである。
【0036】
また図5から理解されるように、線P3の位置は半径方向において振動板7の周縁部近傍にある。このように周辺孔12の半径方向外端が、振動板7の周縁部近傍に位置するようにしたのは、周辺孔12をできるだけ半径方向外側に位置させるためである。
【0037】
図5には、周辺孔12の深さDが表れている。この深さDは絞り込み部材10Aの厚みに一致する。一方、図4には、周辺孔12のスリット幅Wが表れている。周辺孔12においては、幅Wは深さDよりも狭い(短い)。このようにすると、特に、高帯域の周波数において、周辺孔12を音波が通過するときの抵抗となる。広指向性スピーカシステム1では、振動板7によって生ずる音波が中央孔11を通過して外部に放射されるとともに、周辺孔12を通過して外部に放射されるのであるが、周辺孔12は音波の通過に対してある程度の抵抗を示すので、広指向性スピーカシステム1の指向性において、周辺孔12を通過する音波が支配的な役割を果たすことはない。
【0038】
次に、広指向性スピーカシステム1の作用を説明する。
【0039】
図6は、本実施形態の広指向性スピーカシステム1の作用を(a)〜(c)により模式的に説明するための図である。前述したように、広指向性スピーカシステム1では、振動板7によって生ずる音波が中央孔11を通過して外部に放射されるとともに、周辺孔12を通過して外部に放射される。ここでは、2種の孔(中央孔11と周辺孔12)のそれぞれを独立した音源として考える。
【0040】
(a)は中央孔11のみを音源として考えた場合の指向角を、模式的に表したものである。図中のRaは指向角を示す。中央孔11は振動板7に比べて充分に径が小さく、よって、ある程度高い周波数であっても、比較的広い指向角を持つ。
【0041】
(b)は周辺孔11のみを音源として考えた場合の指向角を、模式的に表したものである。図中のRbは指向角を示す。周辺孔12は振動板7におけるコーン部3とエッジ部5の境界6の前方付近に位置する。振動板7は、ある程度周波数の高い領域では、その中央部のみが振動するに等しい挙動を示すのであるが、周辺孔12を仮想的な音源とすると、振動板7の周縁部(つまり、コーン部3の周縁部やエッジ部5)のみが振動したときと同様の指向角を有する。よって、比較的狭い指向角となる。
【0042】
(c)は両音源(中央孔11と周辺孔12)の模式的な指向角を重ねて示す図である。音源としての中央孔11と、音源としての周辺孔12とは、一般的に位相差を有する。よって、中央孔11からの音波と周辺孔12からの音波は位相干渉を起こす。位相干渉は、両音源の指向角のオーバーラップした角度範囲で特に顕著となる。図中、中央孔11からの音波の指向角をRaで示し、周辺孔12からの音波の指向角をRbで示しているが、指向角のオーバーラップした角度範囲はRbの角度範囲である。周辺孔12の総面積は中央孔11の面積よりも小さく、しかも前述したように、周辺孔12のスリット幅Wは周辺孔12の深さDよりも狭いので、音波の通過に対してある程度の抵抗となる。よって、周辺孔12からの音波が中央孔11からの音波よりも支配的となることはないが、Rbの角度範囲においては位相干渉によって、音圧レベル(中央孔11と周辺孔12の両方を音源とした場合の音圧レベル)は、中央孔11のみが音源となる場合よりも低下していると考えることができる。
【0043】
一方、Raの角度範囲内において、Rbの角度範囲の外側(Rcの角度範囲)では、周辺孔12からの音波のレベルが小さいので、顕著な位相干渉は起こらない。よって、Rcの角度範囲においては、音圧レベル(中央孔11と周辺孔12の両方を音源とした場合の音圧レベル)は、中央孔11のみが音源となる場合とほぼ等しいと考えることができる。これにより、(a)の場合に比べて、正面方向(Rbの角度範囲)の音圧レベルの加算度が悪くなり、その結果として、広指向性スピーカシステム1の指向性が拡大する。
【0044】
出願人は、自らが保有する2種のスピーカシステムS1,S2の指向性を測定した。スピーカシステムS1は、図1〜5に示す広指向性スピーカシステム1と同様の構造のスピーカシステムであり、スピーカシステムS2は、比較対象のスピーカシステムである。スピーカシステムS1とスピーカシステムS2との相違は、周辺孔の有無のみである。つまり、スピーカシステムS2には周辺孔が形成されていない。その他の構造はスピーカシステムS1と同一である。スピーカシステムS1,S2の指向性測定結果を、図7,図8に示す。
【0045】
図7は、各周波数において測定された指向性パターンを示す図であり、(a)は2kHzの周波数において測定された指向性パターンを、(b)は4kHzの周波数において測定された指向性パターンを、(c)は8kHzの周波数において測定された指向性パターンを、それぞれ示す図である。図中、実線で示す指向性パターンがスピーカシステムS1に関するものであり、破線で示す指向性パターンがスピーカシステムS2に関するものである。各周波数において、スピーカシステムS2に比べ、スピーカシステムS1の方が指向性が広いことが理解される。
【0046】
図8は、1〜10kHzの周波数において測定した指向性パターンから指向角(音圧レベルが正面方向の音圧レベルよりも6dB小さくなる、二つの方向の開き角)を求め、周波数特性として示したものである。図中、実線で示す特性がスピーカシステムS1に関するものであり、破線で示す特性がスピーカシステムS2に関するものである。1〜10kHzの周波数のほとんどの範囲において、スピーカシステムS2よりもスピーカシステムS1の方が指向角が大きいことが理解される。
【0047】
前述したように、図1〜5の広指向性スピーカシステム1では、11個の周辺孔12は、コーン型スピーカユニット2の中心軸を中心とする略225度の角度範囲において配置されている一方、その残りの角度範囲においては、周辺孔12が形成されておらず、よって、周辺孔12の配置形態は、該中心軸に対して非対称となっている。
【0048】
このように非対称な配置形態としたのは、特に正面方向の音圧レベルの周波数特性において、急峻なディップが生ずることを回避するためである。
【0049】
広指向性スピーカシステム1では、中央孔11からの音波と周辺孔12からの音波との干渉によって、正面方向の音圧レベルの周波数特性において、急峻なディップが生ずる場合があることも想定される。このディップをなるべく緩和すべく、周辺孔12の配置形態を中心軸に対して非対称としているのである。
【0050】
すなわち、周辺孔12を、該中心軸の全周囲(中心軸まわりの全角度範囲)に等角度間隔で配置した場合に、干渉によって急峻なディップが生じたとしても、一部の角度範囲において周辺孔12を塞いで非対称とすると、干渉の形態がより複雑となり、特定の周波数における音波の極端な干渉が回避されると考えられる。
【0051】
図9は、出願人が保有する2種のスピーカシステムS3,S4の正面方向における音圧レベル周波数特性を測定した結果を示すものである。スピーカシステムS3は、図1〜5に示す広指向性スピーカシステム1と同様の構造のスピーカシステムである。スピーカシステムS4は、図10のような絞り込み部材10Bを有するスピーカシステムである。図10は、絞り込み部材10Bの正面図である。スピーカシステムS4も本願発明の実施形態であるが、スピーカシステムS3とは異なり、16個の周辺孔12が全周に等角度間隔で形成されている。その他の構造はスピーカシステムS3と同一である。
【0052】
図9において、実線で示す音圧レベルがスピーカシステムS3に関するものであり、破線で示す音圧レベルがスピーカシステムS4に関するものである。この図から理解されるように、スピーカシステムS4では約4.5kHz、約6.1kHz、7.2kHzの周波数において急峻なディップが生じているが、スピーカシステムS3ではこれらのディップが解消又は緩和されている。
【0053】
以上、図1〜10を参照しつつ、本願発明に係る広指向性スピーカシステムの一実施形態を説明した。以下、本願発明の他の実施形態を説明する。
【0054】
図11は、絞り込み部材10Cの正面図(図11(a))および縦断面図(図11(b))である。図1の広指向性スピーカシステム1において、絞り込み部材10Aに替えて、図11のような絞り込み部材10Cを適用してもよい。図11の絞り込み部材10Cには、中央孔11の略全周をとりまくような一の周辺孔14が形成されている。なお、絞り込み部材10Cの周辺孔14よりも内側の部分10Cbは、外側の部分10Caから伸延する4本の支持部材15によって支持されている。この絞り込み部材10Cでは、周辺孔14の配置形態は、コーン型スピーカユニット2の中心軸に対して対称である。
【0055】
図12は、絞り込み部材10Dの正面図である。図1の広指向性スピーカシステム1において、絞り込み部材10Aに替えて、図12のような絞り込み部材10Dを適用してもよい。図12の絞り込み部材10Dには、一の周辺孔16が形成されている。周辺孔16は、中央孔11を、コーン型スピーカユニット2の中心軸を中心とした約270度の角度範囲をとりまくように形成されている。この絞り込み部材10Dでは、周辺孔16の配置形態が、コーン型スピーカユニット2の中心軸に対して非対称である、
図13は、絞り込み部材10Eの正面図である。図1の広指向性スピーカシステム1において、絞り込み部材10Aに替えて、図13のような絞り込み部材10Eを適用してもよい。図13の絞り込み部材10Eには、中央孔11の略全周をとりまくように、円周方向に伸延する16個のスリット状の周辺孔17,18が分散して形成されている。この絞り込み部材10Eでは、周辺孔17,18の配置形態が、コーン型スピーカユニット2の中心軸に対して対称である。
【0056】
図14は、広指向性スピーカシステム1Fの縦断面図である。この広指向性スピーカシステム1Fは、コーン型スピーカユニット2と、絞り込み部材10Fと、取付部材20とを有する。天井壁30に形成された円形の取付孔30aに取付部材20が嵌め込まれて、天井壁30に固定されている。コーン型スピーカユニット2は取付部材20にその裏面側から取り付けられており、絞り込み部材10Fは取付部材20にその表面側から取り付けられている。絞り込み部材10Fは、中央孔11と周辺孔12とが形成された、パネル状の部材である。図1の絞り込み部材10Aは、取付部材としての機能をも有するが、図14の絞り込み部材10Fは、取付部材としての機能を有しない。また、図1の広指向性スピーカシステム1はディフューザ4を有するが、図14の広指向性スピーカシステム1Fはディフューザを有しない。図14の広指向性スピーカシステム1Fも、本願発明の一実施形態である。
【0057】
以上、図1〜14を参照しつつ、本願発明の実施形態を種々説明した。なお、以上では、コーン型スピーカユニットとして動電型のものを示したが、コーン型スピーカユニットは動電型に限らず、他の駆動方式のものでもよい。また以上では、コーン型スピーカユニットとして振動板がエッジ部を有するものを示したが、エッジレスタイプのものでもよい。
【0058】
また、上記実施形態の説明では天井埋め込み型のスピーカシステムとして説明したが、それに限らず例えばボックス型スピーカシステムなど他の形式のスピーカシステムに適用してもよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したような形態で実施され、指向性をより広くすることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】天井壁に取り付けられた広指向性スピーカシステムの縦断面図である。
【図2】広指向性スピーカシステムの正面図である。
【図3】天井壁に取り付けられた広指向性スピーカシステムを斜め下方から見た斜観図である。
【図4】支持部を省略した絞り込み部材の正面図である。
【図5】広指向性スピーカシステムの縦断面図である。
【図6】広指向性スピーカシステムの作用を(a)〜(c)により模式的に説明するための図である。
【図7】各周波数において測定された指向性パターンを示す図であり、(a)は2kHzの周波数において測定された指向性パターンを、(b)は4kHzの周波数において測定された指向性パターンを、(c)は8kHzの周波数において測定された指向性パターンを、それぞれ示す図である。
【図8】1〜10kHzの周波数において測定した指向角の周波数特性図である。
【図9】出願人が保有する2種のスピーカシステムについて測定した、正面方向における音圧レベル周波数特性図である。
【図10】絞り込み部材の正面図である。
【図11】絞り込み部材の図であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図12】絞り込み部材の正面図である。
【図13】絞り込み部材の正面図である。
【図14】広指向性スピーカシステムの縦断面図である。
【図15】従来の広指向性スピーカシステムの縦断面図である。
【符号の説明】
1,1F 広指向性スピーカシステム
2 コーン型スピーカユニット
3 コーン部
4 ディフューザ
5 エッジ部
7 振動板
10A〜10F 絞り込み部材
11 中央孔
12,14,16,17,18 周辺孔
13 支持部
15 支持部材
19 遮蔽部
20 取付部材
30 天井壁

Claims (11)

  1. コーン型スピーカユニットと、絞り込み部材と、を具備する広指向性スピーカシステムであって、
    該コーン型スピーカユニットは、振動板を有し、
    該絞り込み部材は、該振動板の前方を覆い、
    該絞り込み部材には、中央孔と周辺孔とが形成され、
    該中央孔は、該振動板の中央部の前方に位置し、
    該周辺孔は、該中央孔よりも半径方向外側に位置し、
    該中央孔と該周辺孔の面積の総和が、該振動板の面積よりも小さく、
    該絞り込み部材において、該中央孔よりも半径方向外側であって該周辺孔よりも半径方向内側に、環状の遮蔽部が形成され、
    該遮蔽部の半径方向外端が、該中央孔の半径方向外端と該周辺孔の半径方向外端の略中間位置 又は 該中間位置よりも半径方向外側の位置にある、広指向性スピーカシステム。
  2. 該周辺孔の半径方向外端が、半径方向において、該振動板の周縁部近傍に位置する、請求項1記載の広指向性スピーカシステム。
  3. 該周辺孔が、該中央孔の全周をとりまくように形成された、請求項1又は2記載の広指向性スピーカシステム。
  4. 該周辺孔が複数であり、該複数の周辺孔が、該中央孔の全周をとりまくように分散して形成された、請求項1又は2記載の広指向性スピーカシステム。
  5. 該周辺孔が、該中央孔をとりまくように形成され、かつ、該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした180度以上の角度範囲に形成された、請求項1又は2記載の広指向性スピーカシステム。
  6. 該周辺孔が複数であり、該複数の周辺孔が、該中央孔をとりまくように、かつ、該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした180度以上の角度範囲に分散して形成された、請求項1又は2記載の広指向性スピーカシステム。
  7. 該コーン型スピーカユニットの中心軸を中心とした45度以上の角度範囲において、該周辺孔が形成されていない、請求項5又は6記載の広指向性スピーカシステム。
  8. 該周辺孔が、半径方向に伸延するスリット状の孔である、請求項4又は6記載の広指向性スピーカシステム。
  9. 該周辺孔のスリット幅が該周辺孔の深さよりも狭い、請求項8記載の広指向性スピーカシステム。
  10. 該周辺孔の配置形態が、該コーン型スピーカユニットの中心軸に対して非対称である、請求項1乃至9のいずれか一の項に記載の広指向性スピーカシステム。
  11. 該中央孔の前方に、ディフューザが設けられた、請求項1乃至10のいずれか一の項に記載の広指向性スピーカシステム。
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