JP2004183789A - 二重巻バンドブレーキ装置 - Google Patents

二重巻バンドブレーキ装置 Download PDF

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Abstract

【課題】制動初期の動摩擦係数の急増を防止しつつ、制動制御の容易・確実化等を実現した二重巻バンドブレーキ装置を提供する。
【解決手段】二重巻ブレーキバンド3では、中間バンド11におけるアプライブラケット25側に所定の範囲(中間バンド11の全長の3/5程度)がドラム27との間の動摩擦係数が比較的小さな低摩擦面(第1の摩擦面)33とされ、外側バンド15との連結部31近傍から低摩擦面33との境界までが低摩擦面33より動摩擦係数の大きな高摩擦面(第2の摩擦面)35とされている。
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用自動変速機等に用いられる二重巻バンドブレーキ装置に係り、制動制御の容易・確実化等を実現する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の自動変速機や一般産業機械では、変速要素や回転要素を制動するため、バンドブレーキ装置が多く用いられている。バンドブレーキ装置は、通常、環状に形成された一枚の鋼板の内周面に摩擦材を貼着させてブレーキバンドとし、このブレーキバンドをアクチュエータによって縮径させることにより、内側に配置された変速要素や回転要素を締め付けて制動を行う。そして、近年、アクチュエータの作動力の低減や制動制御性の向上を図るべく、二重巻ブレーキバンドを用いた二重巻バンドブレーキ装置が提案されている。
【0003】
図20,図21(図20中のF矢視図)に自動車用自動変速機に採用された例を示したように、二重巻バンドブレーキ装置の二重巻ブレーキバンド3は、環状の中間バンド11と、この中間バンド11の自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結プレート13を介して溶接接合される環状の一対の外側バンド15とを主要構成部材としている。中間バンド11および外側バンド15の内周面には、それぞれ摩擦材17,19が貼着されている。また、外側バンド15の作用端側には、本体ケーシング1側のアンカピン5に係止されるアンカブラケット21が溶接される一方、中間バンド11の作用端側には、中間バンド11および外側バンド15が縮径する方向の力をアクチュエータ7のプッシュロッド(アプライピン)23により受けるアプライブラケット25が溶接されている。この二重巻ブレーキバンド3では、アクチュエータ7のアプライピン23が図18中矢印で示した方向に作動すると、中間バンド11および外側バンド15が縮径し、二重巻ブレーキバンド3に内嵌した変速要素(以下、ドラムと記す)27が制動される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の二重巻バンドブレーキ装置は、自動変速機の回転要素等の制動に供された場合、円滑な変速作動を実現する上での阻害要因となることがあった。例えば、上述した二重巻ブレーキバンド3では、アプライピン23に駆動されることにより縮径してドラム27に摺接すると、セルフエンゲージ作用によりバンド11,15がドラム27に巻き付いてしまう。その結果、図4に破線で示したように、制動初期の動摩擦係数の値が一時的に高くなり、ドラム27の制動が急激に行われることになる。これにより、図5に破線で示したように、トルク伝達率がごく短時間で100%に到達し、比較的大きな変速ショックがもたらされる。特に、伝達トルクが比較的小さくなるスロットル開度の小さい領域では正確な制動制御が求められるが、二重巻バンドブレーキ装置では、アプライピン23の作動ストロークが大きいためにレスポンスが悪い他、トルク容量が大きいことから、サーボ圧力とサーボ作動量との制御が非常に困難なものとなっていた。すなわち、制動初期にはバンド11,15がドラム27に対して所定の滑りをもって摺接することが望ましいが、サーボ圧力とサーボ作動量とにばらつきが生じた場合、滑り量が少ないあるいはまったく滑りを伴わずに制動が行われて大きな変速ショックが生起されてしまうのである。
【0005】
一方、発明者等は、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間に自動変速機油を積極的に導入し、上述したセルフエンゲージ作用が殆ど起こらないようにすることも試みた。ところが、この場合には、二重巻ブレーキバンド3の縮径が進行して自動変速機油が排除されるに従い、図4に二点鎖線で示したように、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数が徐々に増大する。これにより、ドラム27の制動が緩慢に行われることになり、図5に破線で示したように、トルク伝達率が100%になるまでに比較的長い時間が掛かる。その結果、二重巻バンドブレーキ装置の制動開始時点を感知することが困難となり、自動変速機における他の変速要素の駆動制御を円滑に行えなくなる問題があった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みなされたもので、制動初期の動摩擦係数の急増を防止しつつ、制動制御の容易・確実化等を実現した二重巻バンドブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1の発明では、内周側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、この中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内周側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか一方の作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか他方の作用端側に固着され、当該中間バンドおよび当該外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻ブレーキバンドを有し、当該二重巻ブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻バンドブレーキ装置であって、前記中間バンドと前記外側バンドとの少なくとも一方には、制動初期に前記回転体と第1の動摩擦係数をもって摺接する第1の摩擦面と、制動初期に当該回転体と当該第1の動摩擦係数より大きな第2の動摩擦係数をもって摺接する第2の摩擦面とが形成されたものを提案する。
【0008】
また、請求項2の発明では、請求項1の二重巻バンドブレーキ装置において、前記第1の摩擦面が前記アプライブラケット側に形成され、前記第2の摩擦面が前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に形成されたものを提案する。
【0009】
また、請求項3の発明では、請求項1または2の二重巻バンドブレーキ装置において、前記第1および第2の摩擦面は共に摩擦材が貼着されてなり、当該第2の摩擦面に貼着された摩擦材の前記回転体との間の動摩擦係数が当該第1の摩擦面に貼着された摩擦材と当該回転体との間の動摩擦係数より大きいものを提案する。
【0010】
また、請求項4の発明では、請求項1の二重巻バンドブレーキ装置において、前記二重巻ブレーキバンドは液体により潤滑されており、前記制動初期に前記第1の摩擦面と前記回転体との間に当該液体による液膜が形成されるものを提案する。
【0011】
また、請求項5の発明では、請求項4の二重巻バンドブレーキ装置において、前記制動初期に前記第2の摩擦面と前記回転体との間からは前記液膜が排除されるものを提案する。
【0012】
また、請求項6の発明では、請求項4または5の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜を形成するべく、前記第1の摩擦面には前記回転体の回転方向に沿って厚みが増大する摩擦材が貼着されたものを提案する。
【0013】
また、請求項7の発明では、請求項6の二重巻バンドブレーキ装置において、前記第1の摩擦材は、前記二重巻ブレーキバンドを平面に展開した状態で、側面視において当該二重巻ブレーキバンドに対して0.01゜〜30゜の角度を有する楔状をなすものを提案する。
【0014】
また、請求項8の発明では、請求項4または5の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜を形成するべく、前記第1の摩擦面を形成する摩擦材は前記第2の摩擦面を形成する摩擦材より薄肉に設定されたものを提案する。
【0015】
また、請求項9の発明では、請求項5の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜の排除は、前記二重巻ブレーキバンドに形成された軸方向溝に臨む前記第2の摩擦材の端面角部により行われるものを提案する。
【0016】
また、請求項10の発明では、請求項9の二重巻バンドブレーキ装置において、前記端面角部の角度は、前記二重巻ブレーキバンドを平面に展開した状態で、側面視において、側面視で当該二重巻ブレーキバンドに対して10゜〜90゜に設定されたものを提案する。
【0017】
また、請求項11の発明では、請求項8〜10の二重巻バンドブレーキ装置において、前記第2の摩擦面には、前記第1の摩擦面との間に段差が生じなくするべく、傾斜部が形成されたものを提案する。
【0018】
また、請求項12の発明では、請求項5〜11の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜の排除は、軸方向に形成された一対の溝に挟まれた前記第2の摩擦面において行われるものを提案する。
【0019】
また、請求項13の発明では、請求項12の二重巻バンドブレーキ装置において、前記一対の溝のうち前記液膜の排除に供されるものは、前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に設けられたものを提案する。
【0020】
また、請求項14の発明では、請求項13の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜の排除に供される溝は、前記中間バンドに設けられると共に前記外側バンド側に連通しているものを提案する。
【0021】
また、請求項15の発明では、請求項5〜11の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液膜の排除は、前記第2の摩擦面に設けられた液溜部であるものを提案する。
【0022】
また、請求項16の発明では、請求項15の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液溜部は、前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に設けられたものを提案する。
【0023】
また、請求項17の発明では、請求項16の二重巻バンドブレーキ装置において、前記液溜部は、前記液膜の排除に供される溝は、前記中間バンドに設けられたものを提案する。
【0024】
上記発明の二重巻バンドブレーキ装置によれば、ブレーキバンドと回転体との制動初期における動摩擦係数が減少し、滑らかな制動が実現されて自動変速機に採用された場合等には変速ショックが低減される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づき、本発明を自動車用自動変速機の二重巻バンドブレーキ装置に適用したいくつかの実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る二重巻バンドブレーキ装置の側面図であり、図2は図1中のA矢視図(正面視図)であり、図3は摩擦面側から見た二重巻ブレーキバンドの展開図である。これらの図に示したように、本実施形態の二重巻バンドブレーキ装置は、本体ケーシング(変速機ケーシング)1と、本体ケーシング1内にセットされた二重巻ブレーキバンド3と、二重巻ブレーキバンド3を本体ケーシング1に固定するアンカピン5と、二重巻ブレーキバンド3を駆動するアクチュエータ7とからなっている。
【0026】
二重巻ブレーキバンド3は、環状の中間バンド11と、この中間バンド11の自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結プレート13を介して溶接接合される環状の一対の外側バンド15とを主要構成部材としている。中間バンド11および外側バンド15の内周面には、それぞれ摩擦材17,19が貼着されている。また、外側バンド15の作用端側には、本体ケーシング1側のアンカピン5に係止されるアンカブラケット21が溶接される一方、中間バンド11の作用端側には、中間バンド11および外側バンド15が縮径する方向の力をアクチュエータ7のアプライピン23により受けるアプライブラケット25が溶接されている。この二重巻ブレーキバンド3では、アクチュエータ7のアプライピン23が図1中矢印で示した方向に作動すると、中間バンド11および外側バンド15が縮径し、二重巻ブレーキバンド3に内嵌したドラム27が制動される。尚、二重巻ブレーキバンド3は、ドラム27の軸芯側から供給された自動変速機油(ATF)により潤滑される。
【0027】
第1実施形態の二重巻ブレーキバンド3では、図3に示したように、中間バンド11におけるアプライブラケット25側に所定の範囲(中間バンド11の全長の3/5程度)がドラム27との間の動摩擦係数が比較的小さな低摩擦面(第1の摩擦面)33とされ、外側バンド15との連結部31近傍から低摩擦面33との境界までが低摩擦面33より動摩擦係数の大きな高摩擦面(第2の摩擦面)35とされている。
【0028】
第1実施形態では、このような構成を採ったことにより、アプライピン23に駆動された二重巻ブレーキバンド3が縮径してドラム27に摺接すると、高摩擦面35がセルフエンゲージ作用によってドラム27と比較的急速に係合する一方、低摩擦面33はドラム27と比較的緩やかに係合するため、図4に実線で示したように、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数が短時間で上昇した後に略一定に保たれるようになる。これにより、ドラム27の制動は速やかかつ滑らかに行われることになり、図5に実線で示したように、トルク伝達率が比較的短時間で100%になる。
【0029】
第1実施形態では、低摩擦面33や高摩擦面35の素材を適宜選択したり、低摩擦面33と高摩擦面35との面積比を適宜設定することにより、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数の変化を自在に調整することができる。そのため、二重巻バンドブレーキ装置のトルク容量が種々に変化したり、トルク伝達率が100%になるまでの要求時間が変わっても、同一の装置で対応できることになる。
【0030】
図6は摩擦面側から見た第2実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの展開図であり、図7は同二重巻ブレーキバンドの側面図である。これらの図に示したように、第2実施形態の二重巻ブレーキバンド3では、中間バンド11におけるアプライブラケット25側に所定の範囲(中間バンド11の全長の3/5程度)がドラム27との間に油膜が形成される油膜形成面(第1の摩擦面)37とされ、外側バンド15との連結部31近傍から油膜形成面37との境界付近までが油膜排除面(第2の摩擦面)39とされている。また、油膜形成面37の油膜排除面39側の端部には傾斜面41が形成されると共に、油膜排除面39の両端にはそれぞれ軸方向溝43,45が形成されている。
【0031】
第2実施形態では、このような構成を採ったことにより、アプライピン23に駆動された二重巻ブレーキバンド3が縮径してドラム27に摺接すると、図8に示したように、ドラム27との間に存在していたATFが傾斜面41から油膜形成面37上に導入されて油膜51となる。一方、油膜排除面39では、図9に示したように、軸方向溝43側の角部53で油膜51が除去される。これにより、第1実施形態と同様に、油膜排除面39がセルフエンゲージ作用によってドラム27と比較的急速に係合する一方、油膜形成面37ではドラム27との間の油膜51が排除されるまで係合が行われないため、図4に実線で示したように、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数が短時間で上昇した後に略一定に保たれるようになる。これにより、ドラム27の制動は速やかかつ滑らかに行われることになり、図5に実線で示したように、トルク伝達が比較的短時間で100%になる。
【0032】
第2実施形態においては、図10(図7中のB部拡大図)に示す傾斜面41の角度αや図11(図7中のC部拡大図)に示す角部53の角度βを適宜設定することで、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数の変化を自在に調整することができる。そのため、二重巻バンドブレーキ装置のトルク容量が種々に変化したり、トルク伝達率が100%になるまでの要求時間が変わっても、同一の装置で対応できることになる。
【0033】
第2実施形態においては、傾斜面41の角度αは0.01゜〜30゜の範囲にあることが望ましい。その理由は、角度αを0.01゜以下とした場合、二重巻ブレーキバンド3の製造が非常に困難となると共に、長期間の使用に伴う摩耗等に起因して油膜形成機能が失われていくことが避けられないことにある。また、角度αを30゜以上とした場合、抵抗が大きくなり過ぎ、油膜形成面37に十分な油膜51を形成できなくなることにある。一方、角部53の角度βは10゜〜90゜の範囲にあることが望ましい。その理由は、角度βを10゜以下とした場合、角部53が弾性変形を起こし、油膜51の除去が行えなくなることがある他、強度も不十分となる虞が生じることにある。また、角度βを90゜以上とした場合、油膜51が除去されず逆に形成されてしまう虞が生じる
【0034】
図12は摩擦面側から見た第3実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの展開図であり、図13は同二重巻ブレーキバンドの側面図である。また、図14は図13中のD部拡大図であり、図15は図12中のE部拡大図である。これらの図に示したように、第3実施形態の二重巻ブレーキバンド3では、中間バンド11におけるアプライブラケット25側に所定の範囲(中間バンド11の全長の1/3程度)がドラム27との間に油膜が形成される薄肉面(第1の摩擦面)61とされ、外側バンド15との連結部31近傍から薄肉面61との境界までが厚肉面(第2の摩擦面)63とされている。また、厚肉面63には、外側バンド15との連結部31近傍に油溜部65が形成される一方、薄肉面61側の端面近傍に傾斜部67が形成されている。傾斜部67は、図14に示したように、薄肉面61と厚肉面63との間の段差tを無くすような形状・寸法となっている。
【0035】
第3実施形態では、このような構成を採ったことにより、アプライピン23に駆動された二重巻ブレーキバンド3が縮径してドラム27に摺接すると、図16に示したように、薄肉面61ではドラム27との間に存在するATFにより油膜51が形成される。また、厚肉面63では油溜部65の周囲の面圧が上昇して動摩擦係数が高くなり、油膜51が除去される。これにより、第2実施形態と同様に、厚肉面63がセルフエンゲージ作用によってドラム27と比較的急速に係合する一方、薄肉面61ではドラム27との間の油膜51が排除されるまで係合が行われないため、図4に実線で示したように、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数が短時間で上昇した後に略一定に保たれるようになる。これにより、ドラム27の制動は速やかかつ滑らかに行われることになり、図5に実線で示したように、トルク伝達率が比較的短時間で100%になる。
【0036】
また、本実施形態では、厚肉面63における薄肉面61側の端面近傍に傾斜部67が形成されているため、ドラム27と二重巻ブレーキバンド3とが逆方向に回転するディエナージ回転時にも、図17に示したように、薄肉面61側に存在していたATFが傾斜部67に沿って厚肉面63側に円滑に導入される。尚、傾斜部67が存在しない場合、ディエナージ回転時にATFが厚肉面63の端面に衝突し、異音や振動が発生する不具合が生じる。
【0037】
第3実施形態においても、薄肉面61における厚みを適宜変更したり、油溜部65の位置や寸法、形状を変更することで、二重巻ブレーキバンド3とドラム27との間の動摩擦係数の変化を自在に調整することができる。そのため、二重巻バンドブレーキ装置のトルク容量が種々に変化したり、トルク伝達率が100%になるまでの要求時間が変わっても、同一の装置で対応できることになる。
【0038】
第3実施形態においては、図15に示したように、油溜部65の横幅をWとし、長さをLとし、摩擦材17の幅をHとし、ドラム27の直径をΦとすると、W/Hが0.05〜1.0、L/Φが0.02〜3の範囲にあることが望ましく、W/Hが0.05以下、L/Φが0.02以下では油膜51の除去が不十分となる。図18は、摩擦材17の幅Hを27mm、ドラム27の直径Φを172.6mmとした場合での、上述した数値範囲における試験データを示すグラフである。図17から、油溜部65の横幅Wが広く、長さLが長いものほど制動初期の伝達トルクが大きくなり、油溜部65の横幅Wが狭く、長さLが短いものほど制動初期の伝達トルクが小さくなることが判る。
【0039】
一方、第3実施形態においては、薄肉面61の長さを中間バンド11の全長の1/3程度としたが、この値は要求される伝達トルクに応じて適宜変更加工である。図19は、アプライブラケット25側の端部から軸方向溝45までの距離(角度)を変えた場合の伝達トルクの計測値であるが、角度が小さくなる程伝達トルクが大きくなることが判る。尚、第3実施形態における角度は104.2゜である。
【0040】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、上記各実施形態は自動車用自動変速機に内装される二重巻バンドブレーキ装置に本発明を適用したものであるが、産業機械等に用いられる二重巻バンドブレーキ装置に適用してもよい。また、上記実施形態では第1の摩擦面と第2の摩擦面とを中間バンドに形成したが、これらを外側バンドに形成するようにしてもよいし、中間バンドと外側バンドとの双方に形成するようにしてもよい。また、第1の摩擦面や第2の摩擦面の具体的構造を始め、二重巻バンドブレーキ装置の具体的構成についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0041】
【発明の効果】
本発明の二重巻バンドブレーキ装置によれば、内周側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、この中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内周側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか一方の作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか他方の作用端側に固着され、当該中間バンドおよび当該外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻ブレーキバンドを有し、当該二重巻ブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻バンドブレーキ装置であって、前記中間バンドと前記外側バンドとの少なくとも一方には、制動初期に前記回転体と第1の動摩擦係数をもって摺接する第1の摩擦面と、制動初期に当該回転体と当該第1の動摩擦係数より大きな第2の動摩擦係数をもって摺接する第2の摩擦面とを形成するようにしたため、ブレーキバンドと回転体との制動初期における動摩擦係数が減少し、滑らかな制動が実現されて自動変速機に採用された場合等には変速ショックが低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る二重巻バンドブレーキ装置を示す側面図である。
【図2】図1中のA矢視図である。
【図3】摩擦面側から見た第1実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの展開図である。
【図4】二重巻ブレーキバンドとドラムとの間の動摩擦係数の時間的変化を示すグラフである。
【図5】二重巻ブレーキバンドとドラムとの間のトルク伝達率の時間的変化を示すグラフである。
【図6】摩擦面側から見た第2実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの展開図である。
【図7】第2実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの側面図である。
【図8】第2実施形態の作用を示す説明図である。
【図9】第2実施形態の作用を示す説明図である。
【図10】図7中のB部拡大図である。
【図11】図7中のC部拡大図である。
【図12】摩擦面側から見た第3実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの展開図である。
【図13】第3実施形態に係る二重巻ブレーキバンドの側面図である。
【図14】図13中のD部拡大図である。
【図15】図12中のE部拡大図である。
【図16】第3実施形態の作用を示す説明図である。
【図17】第3実施形態の作用を示す説明図である。
【図18】第3実施形態に係る試験データを示すグラフである。
【図19】第3実施形態に係る試験データを示すグラフである。
【図20】従来の二重巻バンドブレーキ装置を示す側面図である。
【図21】図20中のF矢視図である。
【符号の説明】
1‥‥本体ケーシング
3‥‥二重巻ブレーキバンド
5‥‥アンカピン
7‥‥アクチュエータ
11‥‥中間バンド
13‥‥連結プレート
15‥‥外側バンド
17,19‥‥摩擦材
21‥‥アンカブラケット
23‥‥アプライピン
25‥‥アプライブラケット
27‥‥ドラム
31‥‥連結部
33‥‥低摩擦面(第1の摩擦面)
35‥‥高摩擦面(第2の摩擦面)
37‥‥油膜形成面(第1の摩擦面)
39‥‥油膜排除面(第2の摩擦面)
41‥‥傾斜面
43,45‥‥軸方向溝
51‥‥油膜
53‥‥角部
61‥‥薄肉面(第1の摩擦面)
63‥‥厚肉面(第2の摩擦面)
65‥‥油溜部65
67‥‥傾斜部

Claims (17)

  1. 内周側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、
    この中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内周側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、
    前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか一方の作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、
    前記中間バンドと前記外側バンドとのいずれか他方の作用端側に固着され、当該中間バンドおよび当該外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットと
    を構成要素とする二重巻ブレーキバンドを有し、
    当該二重巻ブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻バンドブレーキ装置であって、
    前記中間バンドと前記外側バンドとの少なくとも一方には、制動初期に前記回転体と第1の動摩擦係数をもって摺接する第1の摩擦面と、制動初期に当該回転体と当該第1の動摩擦係数より大きな第2の動摩擦係数をもって摺接する第2の摩擦面とが形成されたことを特徴とする二重巻バンドブレーキ装置。
  2. 前記第1の摩擦面が前記アプライブラケット側に形成され、前記第2の摩擦面が前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に形成されたことを特徴とする、請求項1記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  3. 前記第1および第2の摩擦面は共に摩擦材が貼着されてなり、当該第2の摩擦面に貼着された摩擦材の前記回転体との間の動摩擦係数が当該第1の摩擦面に貼着された摩擦材と当該回転体との間の動摩擦係数より大きいことを特徴とする、請求項1または2記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  4. 前記二重巻ブレーキバンドは液体により潤滑されており、
    前記制動初期に前記第1の摩擦面と前記回転体との間に当該液体による液膜が形成されることを特徴とする、請求項1記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  5. 前記制動初期に前記第2の摩擦面と前記回転体との間からは前記液膜が排除されることを特徴とする、請求項4記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  6. 前記液膜を形成するべく、前記第1の摩擦面には前記回転体の回転方向に沿って厚みが増大する摩擦材が貼着されたことを特徴とする、請求項4または5記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  7. 前記第1の摩擦材は、前記二重巻ブレーキバンドを平面に展開した状態で、側面視において当該二重巻ブレーキバンドに対して0.01゜〜30゜の角度を有する楔状をなすことを特徴とする、請求項6記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  8. 前記液膜を形成するべく、前記第1の摩擦面を形成する摩擦材は前記第2の摩擦面を形成する摩擦材より薄肉に設定されたことを特徴とする、請求項4または5記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  9. 前記液膜の排除は、前記二重巻ブレーキバンドに形成された軸方向溝に臨む前記第2の摩擦材の端面角部により行われることを特徴とする、請求項5記載の二重巻ブレーキバンド。
  10. 前記端面角部の角度は、前記二重巻ブレーキバンドを平面に展開した状態で、側面視において、側面視で当該二重巻ブレーキバンドに対して10゜〜90゜に設定されたことを特徴とする、請求項9記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  11. 前記第2の摩擦面には、前記第1の摩擦面との間に段差が生じなくするべく、傾斜部が形成されたことを特徴とする、請求項8〜10記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  12. 前記液膜の排除は、軸方向に形成された一対の溝に挟まれた前記第2の摩擦面において行われることを特徴とする、請求項5〜11記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  13. 前記一対の溝のうち前記液膜の排除に供されるものは、前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に設けられたことを特徴とする、請求項12記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  14. 前記液膜の排除に供される溝は、前記中間バンドに設けられると共に前記外側バンド側に連通していることを特徴とする、請求項13記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  15. 前記液膜の排除は、前記第2の摩擦面に設けられた液溜部であることを特徴とする、請求項5〜11記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  16. 前記液溜部は、前記中間バンドと前記外側バンドとの連結部位の近傍に設けられたことを特徴とする、請求項15記載の二重巻バンドブレーキ装置。
  17. 前記液溜部は、前記液膜の排除に供される溝は、前記中間バンドに設けられたことを特徴とする、請求項16記載の二重巻バンドブレーキ装置。
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