JP2004183693A - グリース封入軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばすことにより、軸受性能の向上を図ることのできるグリース封入軸受を提供する。
【解決手段】本発明に係るグリース封入軸受10は、外径面に内輪軌道11a,11bが形成された内輪11と、内径面に外輪軌道12a,12bが形成された外輪12と、内外輪11,12に対して相対回転自在に配置された冠形保持器15と、冠形保持器15に設けられた複数のポケット14内にそれぞれ転動自在に保持された玉13とを有し、玉13の周囲に封入されたグリースによって潤滑され、内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bが、軸受10の軸方向における中心線Bに対して、冠形保持器15のポケット14の開口側に偏った位置に配置されている。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明に係るグリース封入軸受10は、外径面に内輪軌道11a,11bが形成された内輪11と、内径面に外輪軌道12a,12bが形成された外輪12と、内外輪11,12に対して相対回転自在に配置された冠形保持器15と、冠形保持器15に設けられた複数のポケット14内にそれぞれ転動自在に保持された玉13とを有し、玉13の周囲に封入されたグリースによって潤滑され、内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bが、軸受10の軸方向における中心線Bに対して、冠形保持器15のポケット14の開口側に偏った位置に配置されている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリース封入軸受に関し、例えば、エンジン補機に用いられるテンショナプーリ、アイドラプーリ用の軸受や、エンジンの動力で駆動されるベルトによって回転するカーエアコン用プーリ等に組み込まれるグリース封入軸受に関する。適用される軸受形式としては、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受、4点接触玉軸受等の玉軸受全般に係るグリース封入軸受である。
【0002】
【従来の技術】
自動車用及びその他エンジン補機において、エンジンの動力で駆動されるベルトによって回転するプーリに組み込まれる軸受には、一般に潤滑剤であるグリースを封入したグリース封入軸受が使用されている。
特に、最近の傾向として、自動車の設計は小型軽量化が進み、さらには、居住空間拡大の要望によりエンジンルーム空間の減少を余儀なくされている。そこで、電装部品やエンジン補機の小型、軽量化がより一層進められている。加えて、前記各部品にも高性能、高出力化がますます求められている。
【0003】
小型化による出力の低下を補うために、例えば、オルタネータやカーエアコン用の電磁クラッチでは高速運転が行われ、それに伴い、中間プーリも同様に高速化されることとなる。さらに、静粛性向上の要望により、エンジンルームの密閉化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されるため、前記各部品には、高温に耐えうる性能もより必要とされている。また、駆動ベルトの高張力化により、軸受に加わる荷重も大きくなっている。
【0004】
このような状況に伴い、前記各部品に使用される軸受に封入されるグリースにも、剥離寿命やグリース寿命が長いこと、トルク性能や防錆性能に優れること、軸受音響性能に優れること等が要求されている。
また、前記の電装部品やエンジン補機等は、エンジンルーム内の配置によっては、軸受中心と荷重中心とがずれた、所謂オフセット荷重を受けることがある。これらプーリに組み込まれる軸受には、合成樹脂製の保持器が組み込まれているものがあり、その軸受への組み込み性が良好なことから、軸方向の一方側が開口した冠形保持器が用いられる。
【0005】
冠形保持器が組み込まれたグリース封入軸受として、図3に示すようなグリース封入軸受50が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図3に示すように、グリース封入軸受50は、外径面に内輪軌道52が形成された内輪51と、内径面に外輪軌道54が形成された外輪53と、これら内輪51と外輪53との間に、内外輪51,53に対して相対回転自在に配置された冠形保持器60と、冠形保持器60に設けられた複数のポケット61内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道52と外輪軌道54との間に配置された玉55とを備えている。また、グリース封入軸受50は、玉55の周囲にグリースが封入されており、玉55と内輪軌道52及び外輪軌道54との間、また、玉55と冠形保持器60との間が潤滑されている。
【0007】
外輪53の軸方向両端部の内径面には、円環形状をなす一対のシール部材56,56の外径縁が係止されており、両シール部材56,56によって、軸受空間内に封入されたグリースが外部に漏洩したり、あるいは、外部に浮遊する塵芥が軸受空間内に入り込んだりしないようにしている。
【0008】
図4に示すように、グリース封入軸受50に用いられる冠形保持器60は、円環形状の主部62と、この主部62の軸方向(図中上下方向)片面に等間隔に設けられた複数のポケット61とを有する。各ポケット61は、互いに間隔をあけて配置された一対の弾性片63,63と、主部62の片面において弾性片63,63の間隙部分に設けた凹面部64とからなっている。このように、冠形保持器60は、通常の保持器と同様に内径側と外径側とに開口しているのみならず、軸方向の一方側にも開口している。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−248653号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、軸受空間内に封入されたグリースの一部は、軸受の回転とともに遠心力により軸受内部に飛ばされる。飛ばされたグリースは、図3に示すように、内輪51の外径部に付着したグリースg1,g2、外輪53の内径部に付着したグリースg3,g4、保持器60の内径部に付着したグリースg5,g6、保持器60の外径部に付着したグリースg7,g8、保持器60の背面部に付着したグリースg9、保持器60の背面側に配置されたシール部材56における内側面部(芯金部分)に付着したグリースg10、保持器60のポケット開口側に配置されたシール部材56における内側面部に付着したグリースg11である。これらの飛ばされたグリースg1〜g11は、その飛ばされた位置では玉55の潤滑に寄与しない。
【0011】
そして、これら飛ばされて付着したグリースg1〜g11のうち、例えば保持器60の内径部に付着したグリースg5と、内輪51のうち軸受の軸方向における中心線aに対して保持器60の背面部側に付着したグリースg1は、ある程度堆積すると、保持器60と内輪51との相対回転により、相互に接触して、内輪軌道52やポケット61内へと流れ込んでいく。このように、保持器60の内外径部及び背面部に付着したグリースg5〜g9、軸受の軸方向における中心線aに対して保持器60の背面部側に配置された内輪51及び外輪53に付着したグリースg1,g3は、それぞれ近接した位置のグリースと相互に接触して、各軌道52,54やポケット61内へと流れ込んでいく。各軌道52,54やポケット61内へ流れ込んだグリースは、再び玉55の潤滑に寄与することになる。
【0012】
しかし、中心線aに対してポケット61の開口側(図中右側)に飛ばされたグリースg2,g4,g6,g8,g11は、他のグリースとの接触による力を受けることが少ないため、初期の運転時に飛ばされて付着した後に、初期の状態のまま移動することがほとんどない。その結果、ポケット61内の玉55と各軌道輪52,54や、玉55とポケット61との間で潤滑に寄与するグリースの量は減少してしまう。そして、上述したような軸受の運転環境により、高荷重、高温、オフセット量の増大などが原因となって、軸受が焼き付いてしまうことがある。
【0013】
潤滑性能を高めるため、グリースの量を多くして封入することも考えられる。ところが、グリースの量を多くすると、グリースの攪拌抵抗等に基づく軸受の動トルクが増大し、この軸受を組み込んだ各種機器の消費電力が嵩むだけでなく、動トルクの変動も著しくなり、各種機器の性能維持が難しくなってしまう。また、グリース漏れ等の問題が発生することもあり得る。そのため、グリースの封入量を多くすることは好ましくない。
【0014】
本発明は、グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばすことにより、軸受性能の向上を図ることのできるグリース封入軸受を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係るグリース封入軸受は、外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、内輪と外輪との間に内輪及び外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道と外輪軌道との間に配置された玉とを備え、玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、内輪軌道及び外輪軌道が、軸受の軸方向における中心に対して、冠形保持器のポケット開口側に偏った位置に配置されていることを特徴としている。
【0016】
上記構成のグリース封入軸受によれば、内輪の内輪軌道の両側に形成される一対の肩部及び外輪の外輪軌道の両側に形成される一対の肩部のうち、冠形保持器のポケット開口側に配置される各肩部の長さが、ポケット開口側とは反対の背面側の各肩部の長さよりも短くなる。その結果、玉や内外輪及び冠形保持器の回転により、冠形保持器のポケット開口側に位置した各肩部に囲まれる軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、各軌道及び冠形保持器のポケット内に流れ込む。したがって、グリース全体が潤滑に寄与することになり、焼き付きを効果的に防止することができ、軸受性能の向上を図ることができる。
【0017】
また、上記目的を達成するための本発明に係るグリース封入軸受は、外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、内輪と外輪との間に内輪及び外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道と外輪軌道との間に配置された玉とを備え、玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、軸受の軸方向における中心に対して、冠形保持器のポケット開口側の軸受空間が、ポケット開口側とは反対の背面側の軸受空間よりも小さい容積であることを特徴としている。
なお、ここでいう軸受空間の容積とは、外輪と内輪との間の容積を指し、保持器によって埋められて実際は空間となっていない容積も、軸受空間の容積としてみなすこととする。
【0018】
上記構成のグリース封入軸受によれば、ポケット開口側の軸受空間に飛ばされたグリースが互いに近接した位置となるため、玉や内外輪及び冠形保持器の回転により、冠形保持器のポケット開口側に位置した各肩部に囲まれる軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、各軌道及び冠形保持器のポケット内に流れ込む。したがって、グリース全体が潤滑に寄与することになり、焼き付きを効果的に防止することができ、軸受性能の向上を図ることができる。
【0019】
また、上記のグリース封入軸受において、冠形保持器のポケット開口側が、軸受の軸方向における中心に対して、ラジアル荷重を負荷する側に配置されていることが望ましい。
このような構成のグリース封入軸受によれば、オフセットされたラジアル荷重を負荷する場合に、軸受の軸方向における中心に対してポケット開口側に偏って配置された玉が、ラジアル荷重を効果的に受けることができるため、軸受のモーメント荷重が減少して、焼き付き寿命を延ばすことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るグリース封入軸受の一実施形態を示す要部断面図である。図2は、図1に示したグリース封入軸受をカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチのプーリに用いた場合の要部断面図である。
【0021】
図1に示すグリース封入軸受10は、4点接触玉軸受であって、内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12間に複数配置された玉13と、複数の玉13を円周方向の等間隔に保持するポケット14を有する冠型保持器(以下、保持器と称す)15と、玉13の転動軸方向の両側に設けられた一対のシール部材16,16とを備えている。
【0022】
内輪11の外径面には、玉13との第1接触点を提供する第1溝11aと、玉13との第2接触点を提供する第2溝11bとが設けられ、それらによって内輪軌道が形成されている。外輪12の内径面にも、玉13との第3接触点を提供する第3溝12aと、玉13との第4接触点を提供する第4溝12bとが設けられ、それらによって外輪軌道が形成されている。また、内輪軌道及び外輪軌道は、ゴシックアーチ形状をなしている。
【0023】
内輪軌道11a,11bの軸方向両側における外周面には、第1,第2肩部11c,11dを有し、外輪軌道12a,12bの軸方向両側における内周面には、第3,第4肩部12c,12dを有する。そして、保持器15のポケット14の開口側に配置される第2,第4肩部11d,12dの軸方向の長さが、ポケット14の開口側と反対の背面側に位置する第1,第3肩部11c,12cの軸方向の長さよりも短く設定されている。それにより、内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bの溝中心Aは、内輪11の内径面11e及び外輪12の外径面12eの軸方向中心に相当する軸受10の軸方向における中心線Bに対し、ポケット14の開口側に所望の距離δだけ偏った位置に配置されている。
【0024】
保持器15は、図4に示した保持器60と同様の形状をなしている。円環形状をなす保持器本体部17上に、複数のポケット14が円周方向に等間隔で形成されている。また、ポケット14は、各一対の弾性片及び凹面部(図4参照)により形成されている。この保持器60は、内輪11及び外輪12の間に配置された玉13に対して、第1,第3肩部11c,12cの側から組み付けられている。したがって、軸受10の軸方向における中心線Bに対し、第2,第4肩部11d,12dの側にポケット開口側が配置されている。
【0025】
また、保持器15は、グリース封入軸受10が、軸受の軸方向の中心線Bに対して軸方向に偏ったラジアル荷重Fがかかる場合、ポケット14の開口部が、ラジアル荷重の加わる位置に向いて配置されている。
これにより、中心線Bに対してポケット14開口側に偏って配置された玉13が、ラジアル荷重Fの作用線上に位置することになり、ラジアル荷重Fを効果的に受けることができる。したがって、軸受10のモーメント荷重が減少して、焼き付き寿命を延ばすことができる。
【0026】
シール部材16は、芯材である心金16aが弾性体のゴム16bで覆われて成形されている。シール部材16は、内外輪11,12の間に玉13を配置した後に、外輪12に取り付けられたものであり、運転時に先端部が内輪11に摺接する接触タイプである。また、内周縁を内輪11に対してわずかに離して配置することにより、非接触タイプのラビリンスシールとする場合もある。
【0027】
また、一対のシール部材16,16によって囲まれた軸受空間内の玉13の周囲に、潤滑剤であるグリースが封入されている。シール部材16,16により囲まれることによって玉13の軸方向両側に形成された一対の軸受空間は、保持器15のポケット14の開口側に配置される第2,第4肩部11d,12dの軸方向長さが、保持器15の背面側に配置される第1,第3肩部11c,12cの軸方向長さよりも短く設定されているため、開口側の軸受空間の容積が、背面側の軸受空間の容積よりも小さくなっている。
【0028】
このような構造のグリース封入軸受10は、運転中に、各軸受空間に封入されたグリースは、玉13の回転とともに、玉13と各軌道11a,11b,12a,12bとの間や、玉13とポケット14との間に入り込む。そして、軸受の運転とともに、一部のグリースが遠心力によって軸受空間内に飛ばされる。その飛ばされたグリースは、内輪11の外径部に付着したグリースG1,G2、外輪12の内径部に付着したグリースG3,G4、保持器15の内径部に付着したグリースG5,G6、保持器15の外径部に付着したグリースG7,G8、保持器15の背面部に付着したグリースG9、保持器15の背面側に配置されたシール部材16における内側面部に付着したグリースG10、保持器15におけるポケット14の開口側に配置されたシール部材16の内側面部に付着したグリースG11である。
【0029】
そして、保持器15の内外径部及び背面部に付着したグリースG5〜G9、軸受の軸方向における中心線Bに対して保持器15の背面部側に配置された内輪11及び外輪12に付着したグリースG1,G3は、それぞれ近接した位置のグリースと相互に接触して、各軌道11a,11b,12a,12bやポケット14内へと流れ込んでいく。
【0030】
さらに、内輪11におけるポケット14の開口側に付着したグリースG2、外輪12におけるポケット14の開口側に付着したグリースG4、及びポケット14の開口側に位置するシール部材16の内側面部に付着したグリースG11も、互いに接触し合って流動され、各軌道11a,11b,12a,12bやポケット14内へと流れ込んでいく。それによって、ポケット14の開口側に飛ばされたグリースG2,G4,G11が、内輪11や外輪、シール部材16に付着したままとならずに効率良く移動されて、潤滑に対して有効活用されることになる。その結果、軸受空間内に封入されたグリースが、各部に付着したままとならずに全体的に有効活用されて、焼き付き寿命を延ばすように作用する。
【0031】
なお、各軌道11a,11b,12a,12bの溝中心Aが、軸受中心線Bに対してポケット14の開口側に距離δだけオフセットすることにより、保持器15の背面側の軸受空間の容積が、ポケット14の開口側の軸受空間の容積よりも大きくなる。これによって保持器15の背面側の軸受空間に封入されたグリースの流動性が悪くなってしまうことが考えられるが、保持器15の背面部側における、内輪11の外径部に付着したグリースG1、外輪12の内径部に付着したグリースG3は、保持器15の内径部に付着したグリースG5、保持器15の外径部に付着したグリースG7と接触し合うことによって効率良く流動される。このとき、保持器15の背面部に付着したグリースG9、保持器15の背面側に配置されたシール部材16の内側面部に付着したグリースG10は、流動性が多少悪くはなるが、これらの位置に飛ばされるグリースG9,G10の総量自体が多くなく、ごく少量であることから、全体的な問題にはなりにくい。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能である。
例えば、グリース封入軸受として用いた4点接触玉軸受に限らず、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受を用いた場合においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0033】
例えば、本発明のグリース封入軸受は、図2に示すカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチ20のプーリ21に適用することもできる。この電磁クラッチ20は、エンジンが発生する回転動力をカーエアコンの冷凍サイクル内のコンプレッサに伝達したり遮断したりするのに用いられる。
電磁クラッチ20は、コンプレッサハウジング22の中心から回転自在に突出した駆動軸23の先端部に回転円盤24が設けられ、回転円盤24の外周側には、可撓部材25を介してアーマチュア26が取り付けられている。駆動軸23の周囲を囲むようにして、コンプレッサハウジング22と一体に円筒軸27が突出するように設けられ、その外周面に、グリース封入軸受10の内輪11が外嵌されている。グリース封入軸受10の外輪12には、ロータ28が外嵌されており、ロータ28の外周面には、従動プーリ29が一体的に設けられている。従動プーリ29の外周面には、無端ベルト30(想像線にて示す)が掛け回されており、ロータ28のコンプレッサハウジング22とは反対側の側面には、アーマチュア26に接触した際に生ずる摩擦力によって回転力を伝達する摩擦面31が形成されている。ロータ28のコンプレッサハウジング22側の側面には凹部32が設けられている。凹部32内には、電磁コイル33が、ロータ28に非接触で収容されている。電磁コイル33は、コンプレッサハウジング22に固定されている。
【0034】
グリース封入軸受10は、軸受中心線Bに対してオフセット量L1だけずれた位置に、無端ベルト30の幅方向の中心位置Cであるラジアル荷重Fの中心が位置するように、ロータ28と円筒軸27との間に組み付けられており、保持器15のポケット14の開口部が、軸受中心線Bに対してラジアル荷重Fの加わる位置に向いて配置されている。内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bの溝中心Aは、軸受中心線Bに対し、ポケット14の開口側に所望の距離δだけ偏った位置に配置されている。
【0035】
このようなカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチ20では、電磁コイル33の非励磁時に、摩擦面31がアーマチュア26からエアギャップ(隙間)をもって配置される。そして、電磁コイル33に電流を流すと磁界が発生し、この磁界によってアーマチュア26が可撓部材25の弾性力に抗して電磁コイル33側に吸引され、摩擦面31に押圧接触する。これにより、プーリ21の回転力が、アーマチュア26、回転円盤24、駆動軸23を介してコンプレッサに伝達され、コンプレッサが駆動される。
そして、コンプレッサが駆動中、グリース封入軸受10は、保持器15のポケット14の開口側に配置された軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、ポケット14の開口側における内輪11の外径部や外輪12の内径部に付着したままとならずに効率良く移動される。そして、玉13と各軌道及び玉13と保持器15のポケット14内をグリース全体が流動して潤滑に寄与することによって、焼き付き寿命が延ばされて軸受性能の向上が図られることにより、コンプレッサ全体の耐久寿命を延長することができる。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のグリース封入軸受によれば、グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばすことにより、軸受性能の向上を図ることのできるグリース封入軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るグリース封入軸受の一実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1に示したグリース封入軸受をカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチのプーリに用いた場合の要部断面図である。
【図3】従来のグリース封入軸受を示す要部断面図である。
【図4】グリース封入軸受に用いられる保持器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 グリース封入軸受
11 内輪
11a 第1溝(内輪軌道)
11b 第2溝(内輪軌道)
12 外輪
12a 第3溝(外輪軌道)
12b 第4溝(外輪軌道)
13 玉
14 ポケット
15 保持器(冠形保持器)
16 シール部材
20 電磁クラッチ
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリース封入軸受に関し、例えば、エンジン補機に用いられるテンショナプーリ、アイドラプーリ用の軸受や、エンジンの動力で駆動されるベルトによって回転するカーエアコン用プーリ等に組み込まれるグリース封入軸受に関する。適用される軸受形式としては、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受、4点接触玉軸受等の玉軸受全般に係るグリース封入軸受である。
【0002】
【従来の技術】
自動車用及びその他エンジン補機において、エンジンの動力で駆動されるベルトによって回転するプーリに組み込まれる軸受には、一般に潤滑剤であるグリースを封入したグリース封入軸受が使用されている。
特に、最近の傾向として、自動車の設計は小型軽量化が進み、さらには、居住空間拡大の要望によりエンジンルーム空間の減少を余儀なくされている。そこで、電装部品やエンジン補機の小型、軽量化がより一層進められている。加えて、前記各部品にも高性能、高出力化がますます求められている。
【0003】
小型化による出力の低下を補うために、例えば、オルタネータやカーエアコン用の電磁クラッチでは高速運転が行われ、それに伴い、中間プーリも同様に高速化されることとなる。さらに、静粛性向上の要望により、エンジンルームの密閉化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されるため、前記各部品には、高温に耐えうる性能もより必要とされている。また、駆動ベルトの高張力化により、軸受に加わる荷重も大きくなっている。
【0004】
このような状況に伴い、前記各部品に使用される軸受に封入されるグリースにも、剥離寿命やグリース寿命が長いこと、トルク性能や防錆性能に優れること、軸受音響性能に優れること等が要求されている。
また、前記の電装部品やエンジン補機等は、エンジンルーム内の配置によっては、軸受中心と荷重中心とがずれた、所謂オフセット荷重を受けることがある。これらプーリに組み込まれる軸受には、合成樹脂製の保持器が組み込まれているものがあり、その軸受への組み込み性が良好なことから、軸方向の一方側が開口した冠形保持器が用いられる。
【0005】
冠形保持器が組み込まれたグリース封入軸受として、図3に示すようなグリース封入軸受50が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図3に示すように、グリース封入軸受50は、外径面に内輪軌道52が形成された内輪51と、内径面に外輪軌道54が形成された外輪53と、これら内輪51と外輪53との間に、内外輪51,53に対して相対回転自在に配置された冠形保持器60と、冠形保持器60に設けられた複数のポケット61内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道52と外輪軌道54との間に配置された玉55とを備えている。また、グリース封入軸受50は、玉55の周囲にグリースが封入されており、玉55と内輪軌道52及び外輪軌道54との間、また、玉55と冠形保持器60との間が潤滑されている。
【0007】
外輪53の軸方向両端部の内径面には、円環形状をなす一対のシール部材56,56の外径縁が係止されており、両シール部材56,56によって、軸受空間内に封入されたグリースが外部に漏洩したり、あるいは、外部に浮遊する塵芥が軸受空間内に入り込んだりしないようにしている。
【0008】
図4に示すように、グリース封入軸受50に用いられる冠形保持器60は、円環形状の主部62と、この主部62の軸方向(図中上下方向)片面に等間隔に設けられた複数のポケット61とを有する。各ポケット61は、互いに間隔をあけて配置された一対の弾性片63,63と、主部62の片面において弾性片63,63の間隙部分に設けた凹面部64とからなっている。このように、冠形保持器60は、通常の保持器と同様に内径側と外径側とに開口しているのみならず、軸方向の一方側にも開口している。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−248653号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、軸受空間内に封入されたグリースの一部は、軸受の回転とともに遠心力により軸受内部に飛ばされる。飛ばされたグリースは、図3に示すように、内輪51の外径部に付着したグリースg1,g2、外輪53の内径部に付着したグリースg3,g4、保持器60の内径部に付着したグリースg5,g6、保持器60の外径部に付着したグリースg7,g8、保持器60の背面部に付着したグリースg9、保持器60の背面側に配置されたシール部材56における内側面部(芯金部分)に付着したグリースg10、保持器60のポケット開口側に配置されたシール部材56における内側面部に付着したグリースg11である。これらの飛ばされたグリースg1〜g11は、その飛ばされた位置では玉55の潤滑に寄与しない。
【0011】
そして、これら飛ばされて付着したグリースg1〜g11のうち、例えば保持器60の内径部に付着したグリースg5と、内輪51のうち軸受の軸方向における中心線aに対して保持器60の背面部側に付着したグリースg1は、ある程度堆積すると、保持器60と内輪51との相対回転により、相互に接触して、内輪軌道52やポケット61内へと流れ込んでいく。このように、保持器60の内外径部及び背面部に付着したグリースg5〜g9、軸受の軸方向における中心線aに対して保持器60の背面部側に配置された内輪51及び外輪53に付着したグリースg1,g3は、それぞれ近接した位置のグリースと相互に接触して、各軌道52,54やポケット61内へと流れ込んでいく。各軌道52,54やポケット61内へ流れ込んだグリースは、再び玉55の潤滑に寄与することになる。
【0012】
しかし、中心線aに対してポケット61の開口側(図中右側)に飛ばされたグリースg2,g4,g6,g8,g11は、他のグリースとの接触による力を受けることが少ないため、初期の運転時に飛ばされて付着した後に、初期の状態のまま移動することがほとんどない。その結果、ポケット61内の玉55と各軌道輪52,54や、玉55とポケット61との間で潤滑に寄与するグリースの量は減少してしまう。そして、上述したような軸受の運転環境により、高荷重、高温、オフセット量の増大などが原因となって、軸受が焼き付いてしまうことがある。
【0013】
潤滑性能を高めるため、グリースの量を多くして封入することも考えられる。ところが、グリースの量を多くすると、グリースの攪拌抵抗等に基づく軸受の動トルクが増大し、この軸受を組み込んだ各種機器の消費電力が嵩むだけでなく、動トルクの変動も著しくなり、各種機器の性能維持が難しくなってしまう。また、グリース漏れ等の問題が発生することもあり得る。そのため、グリースの封入量を多くすることは好ましくない。
【0014】
本発明は、グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばすことにより、軸受性能の向上を図ることのできるグリース封入軸受を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係るグリース封入軸受は、外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、内輪と外輪との間に内輪及び外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道と外輪軌道との間に配置された玉とを備え、玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、内輪軌道及び外輪軌道が、軸受の軸方向における中心に対して、冠形保持器のポケット開口側に偏った位置に配置されていることを特徴としている。
【0016】
上記構成のグリース封入軸受によれば、内輪の内輪軌道の両側に形成される一対の肩部及び外輪の外輪軌道の両側に形成される一対の肩部のうち、冠形保持器のポケット開口側に配置される各肩部の長さが、ポケット開口側とは反対の背面側の各肩部の長さよりも短くなる。その結果、玉や内外輪及び冠形保持器の回転により、冠形保持器のポケット開口側に位置した各肩部に囲まれる軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、各軌道及び冠形保持器のポケット内に流れ込む。したがって、グリース全体が潤滑に寄与することになり、焼き付きを効果的に防止することができ、軸受性能の向上を図ることができる。
【0017】
また、上記目的を達成するための本発明に係るグリース封入軸受は、外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、内輪と外輪との間に内輪及び外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され内輪軌道と外輪軌道との間に配置された玉とを備え、玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、軸受の軸方向における中心に対して、冠形保持器のポケット開口側の軸受空間が、ポケット開口側とは反対の背面側の軸受空間よりも小さい容積であることを特徴としている。
なお、ここでいう軸受空間の容積とは、外輪と内輪との間の容積を指し、保持器によって埋められて実際は空間となっていない容積も、軸受空間の容積としてみなすこととする。
【0018】
上記構成のグリース封入軸受によれば、ポケット開口側の軸受空間に飛ばされたグリースが互いに近接した位置となるため、玉や内外輪及び冠形保持器の回転により、冠形保持器のポケット開口側に位置した各肩部に囲まれる軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、各軌道及び冠形保持器のポケット内に流れ込む。したがって、グリース全体が潤滑に寄与することになり、焼き付きを効果的に防止することができ、軸受性能の向上を図ることができる。
【0019】
また、上記のグリース封入軸受において、冠形保持器のポケット開口側が、軸受の軸方向における中心に対して、ラジアル荷重を負荷する側に配置されていることが望ましい。
このような構成のグリース封入軸受によれば、オフセットされたラジアル荷重を負荷する場合に、軸受の軸方向における中心に対してポケット開口側に偏って配置された玉が、ラジアル荷重を効果的に受けることができるため、軸受のモーメント荷重が減少して、焼き付き寿命を延ばすことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るグリース封入軸受の一実施形態を示す要部断面図である。図2は、図1に示したグリース封入軸受をカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチのプーリに用いた場合の要部断面図である。
【0021】
図1に示すグリース封入軸受10は、4点接触玉軸受であって、内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12間に複数配置された玉13と、複数の玉13を円周方向の等間隔に保持するポケット14を有する冠型保持器(以下、保持器と称す)15と、玉13の転動軸方向の両側に設けられた一対のシール部材16,16とを備えている。
【0022】
内輪11の外径面には、玉13との第1接触点を提供する第1溝11aと、玉13との第2接触点を提供する第2溝11bとが設けられ、それらによって内輪軌道が形成されている。外輪12の内径面にも、玉13との第3接触点を提供する第3溝12aと、玉13との第4接触点を提供する第4溝12bとが設けられ、それらによって外輪軌道が形成されている。また、内輪軌道及び外輪軌道は、ゴシックアーチ形状をなしている。
【0023】
内輪軌道11a,11bの軸方向両側における外周面には、第1,第2肩部11c,11dを有し、外輪軌道12a,12bの軸方向両側における内周面には、第3,第4肩部12c,12dを有する。そして、保持器15のポケット14の開口側に配置される第2,第4肩部11d,12dの軸方向の長さが、ポケット14の開口側と反対の背面側に位置する第1,第3肩部11c,12cの軸方向の長さよりも短く設定されている。それにより、内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bの溝中心Aは、内輪11の内径面11e及び外輪12の外径面12eの軸方向中心に相当する軸受10の軸方向における中心線Bに対し、ポケット14の開口側に所望の距離δだけ偏った位置に配置されている。
【0024】
保持器15は、図4に示した保持器60と同様の形状をなしている。円環形状をなす保持器本体部17上に、複数のポケット14が円周方向に等間隔で形成されている。また、ポケット14は、各一対の弾性片及び凹面部(図4参照)により形成されている。この保持器60は、内輪11及び外輪12の間に配置された玉13に対して、第1,第3肩部11c,12cの側から組み付けられている。したがって、軸受10の軸方向における中心線Bに対し、第2,第4肩部11d,12dの側にポケット開口側が配置されている。
【0025】
また、保持器15は、グリース封入軸受10が、軸受の軸方向の中心線Bに対して軸方向に偏ったラジアル荷重Fがかかる場合、ポケット14の開口部が、ラジアル荷重の加わる位置に向いて配置されている。
これにより、中心線Bに対してポケット14開口側に偏って配置された玉13が、ラジアル荷重Fの作用線上に位置することになり、ラジアル荷重Fを効果的に受けることができる。したがって、軸受10のモーメント荷重が減少して、焼き付き寿命を延ばすことができる。
【0026】
シール部材16は、芯材である心金16aが弾性体のゴム16bで覆われて成形されている。シール部材16は、内外輪11,12の間に玉13を配置した後に、外輪12に取り付けられたものであり、運転時に先端部が内輪11に摺接する接触タイプである。また、内周縁を内輪11に対してわずかに離して配置することにより、非接触タイプのラビリンスシールとする場合もある。
【0027】
また、一対のシール部材16,16によって囲まれた軸受空間内の玉13の周囲に、潤滑剤であるグリースが封入されている。シール部材16,16により囲まれることによって玉13の軸方向両側に形成された一対の軸受空間は、保持器15のポケット14の開口側に配置される第2,第4肩部11d,12dの軸方向長さが、保持器15の背面側に配置される第1,第3肩部11c,12cの軸方向長さよりも短く設定されているため、開口側の軸受空間の容積が、背面側の軸受空間の容積よりも小さくなっている。
【0028】
このような構造のグリース封入軸受10は、運転中に、各軸受空間に封入されたグリースは、玉13の回転とともに、玉13と各軌道11a,11b,12a,12bとの間や、玉13とポケット14との間に入り込む。そして、軸受の運転とともに、一部のグリースが遠心力によって軸受空間内に飛ばされる。その飛ばされたグリースは、内輪11の外径部に付着したグリースG1,G2、外輪12の内径部に付着したグリースG3,G4、保持器15の内径部に付着したグリースG5,G6、保持器15の外径部に付着したグリースG7,G8、保持器15の背面部に付着したグリースG9、保持器15の背面側に配置されたシール部材16における内側面部に付着したグリースG10、保持器15におけるポケット14の開口側に配置されたシール部材16の内側面部に付着したグリースG11である。
【0029】
そして、保持器15の内外径部及び背面部に付着したグリースG5〜G9、軸受の軸方向における中心線Bに対して保持器15の背面部側に配置された内輪11及び外輪12に付着したグリースG1,G3は、それぞれ近接した位置のグリースと相互に接触して、各軌道11a,11b,12a,12bやポケット14内へと流れ込んでいく。
【0030】
さらに、内輪11におけるポケット14の開口側に付着したグリースG2、外輪12におけるポケット14の開口側に付着したグリースG4、及びポケット14の開口側に位置するシール部材16の内側面部に付着したグリースG11も、互いに接触し合って流動され、各軌道11a,11b,12a,12bやポケット14内へと流れ込んでいく。それによって、ポケット14の開口側に飛ばされたグリースG2,G4,G11が、内輪11や外輪、シール部材16に付着したままとならずに効率良く移動されて、潤滑に対して有効活用されることになる。その結果、軸受空間内に封入されたグリースが、各部に付着したままとならずに全体的に有効活用されて、焼き付き寿命を延ばすように作用する。
【0031】
なお、各軌道11a,11b,12a,12bの溝中心Aが、軸受中心線Bに対してポケット14の開口側に距離δだけオフセットすることにより、保持器15の背面側の軸受空間の容積が、ポケット14の開口側の軸受空間の容積よりも大きくなる。これによって保持器15の背面側の軸受空間に封入されたグリースの流動性が悪くなってしまうことが考えられるが、保持器15の背面部側における、内輪11の外径部に付着したグリースG1、外輪12の内径部に付着したグリースG3は、保持器15の内径部に付着したグリースG5、保持器15の外径部に付着したグリースG7と接触し合うことによって効率良く流動される。このとき、保持器15の背面部に付着したグリースG9、保持器15の背面側に配置されたシール部材16の内側面部に付着したグリースG10は、流動性が多少悪くはなるが、これらの位置に飛ばされるグリースG9,G10の総量自体が多くなく、ごく少量であることから、全体的な問題にはなりにくい。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能である。
例えば、グリース封入軸受として用いた4点接触玉軸受に限らず、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受を用いた場合においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0033】
例えば、本発明のグリース封入軸受は、図2に示すカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチ20のプーリ21に適用することもできる。この電磁クラッチ20は、エンジンが発生する回転動力をカーエアコンの冷凍サイクル内のコンプレッサに伝達したり遮断したりするのに用いられる。
電磁クラッチ20は、コンプレッサハウジング22の中心から回転自在に突出した駆動軸23の先端部に回転円盤24が設けられ、回転円盤24の外周側には、可撓部材25を介してアーマチュア26が取り付けられている。駆動軸23の周囲を囲むようにして、コンプレッサハウジング22と一体に円筒軸27が突出するように設けられ、その外周面に、グリース封入軸受10の内輪11が外嵌されている。グリース封入軸受10の外輪12には、ロータ28が外嵌されており、ロータ28の外周面には、従動プーリ29が一体的に設けられている。従動プーリ29の外周面には、無端ベルト30(想像線にて示す)が掛け回されており、ロータ28のコンプレッサハウジング22とは反対側の側面には、アーマチュア26に接触した際に生ずる摩擦力によって回転力を伝達する摩擦面31が形成されている。ロータ28のコンプレッサハウジング22側の側面には凹部32が設けられている。凹部32内には、電磁コイル33が、ロータ28に非接触で収容されている。電磁コイル33は、コンプレッサハウジング22に固定されている。
【0034】
グリース封入軸受10は、軸受中心線Bに対してオフセット量L1だけずれた位置に、無端ベルト30の幅方向の中心位置Cであるラジアル荷重Fの中心が位置するように、ロータ28と円筒軸27との間に組み付けられており、保持器15のポケット14の開口部が、軸受中心線Bに対してラジアル荷重Fの加わる位置に向いて配置されている。内輪軌道11a,11b及び外輪軌道12a,12bの溝中心Aは、軸受中心線Bに対し、ポケット14の開口側に所望の距離δだけ偏った位置に配置されている。
【0035】
このようなカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチ20では、電磁コイル33の非励磁時に、摩擦面31がアーマチュア26からエアギャップ(隙間)をもって配置される。そして、電磁コイル33に電流を流すと磁界が発生し、この磁界によってアーマチュア26が可撓部材25の弾性力に抗して電磁コイル33側に吸引され、摩擦面31に押圧接触する。これにより、プーリ21の回転力が、アーマチュア26、回転円盤24、駆動軸23を介してコンプレッサに伝達され、コンプレッサが駆動される。
そして、コンプレッサが駆動中、グリース封入軸受10は、保持器15のポケット14の開口側に配置された軸受空間内に封入されたグリースが相互に接触し合い、ポケット14の開口側における内輪11の外径部や外輪12の内径部に付着したままとならずに効率良く移動される。そして、玉13と各軌道及び玉13と保持器15のポケット14内をグリース全体が流動して潤滑に寄与することによって、焼き付き寿命が延ばされて軸受性能の向上が図られることにより、コンプレッサ全体の耐久寿命を延長することができる。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のグリース封入軸受によれば、グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばすことにより、軸受性能の向上を図ることのできるグリース封入軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るグリース封入軸受の一実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1に示したグリース封入軸受をカーエアコンコンプレッサ用電磁クラッチのプーリに用いた場合の要部断面図である。
【図3】従来のグリース封入軸受を示す要部断面図である。
【図4】グリース封入軸受に用いられる保持器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 グリース封入軸受
11 内輪
11a 第1溝(内輪軌道)
11b 第2溝(内輪軌道)
12 外輪
12a 第3溝(外輪軌道)
12b 第4溝(外輪軌道)
13 玉
14 ポケット
15 保持器(冠形保持器)
16 シール部材
20 電磁クラッチ
Claims (3)
- 外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に前記内輪及び前記外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、前記冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に配置された玉とを備え、前記玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、
前記内輪軌道及び前記外輪軌道が、前記軸受の軸方向における中心に対して、前記冠形保持器のポケット開口側に偏った位置に配置されていることを特徴とするグリース封入軸受。 - 外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に前記内輪及び前記外輪に対して相対回転自在に配置された冠形保持器と、前記冠形保持器に設けられた複数のポケット内にそれぞれ転動自在に保持され前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に配置された玉とを備え、前記玉の周囲に封入されたグリースによって潤滑されるグリース封入軸受であって、
前記軸受の軸方向における中心に対して、前記冠形保持器のポケット開口側の軸受空間が、前記ポケット開口側とは反対の背面側の軸受空間よりも小さい容積であることを特徴とするグリース封入軸受。 - 前記冠形保持器のポケット開口側が、前記軸受の軸方向における中心に対して、ラジアル荷重を負荷する側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のグリース封入軸受。
Priority Applications (1)
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JP2002348417A JP2004183693A (ja) | 2002-11-29 | 2002-11-29 | グリース封入軸受 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2006250240A (ja) * | 2005-03-10 | 2006-09-21 | Ntn Corp | 密封型転がり軸受 |
-
2002
- 2002-11-29 JP JP2002348417A patent/JP2004183693A/ja active Pending
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