JP2004175626A - 高熱伝導性ダイヤモンド焼結体とそれを用いた半導体搭載用ヒートシンク及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】物質中最高の熱伝導度を持つダイヤモンドと、大きな熱膨張係数を持つ銅およびIVa、Va族金属により複合体を形成し、ダイヤモンドの粒度、含有率を調整することによって必要とされる熱伝導度および熱膨張率を有するヒートシンク用高熱伝導度焼結体を提供する。焼結方法は、実質的に気孔を含まない組織とする為に、超高圧・高温焼結法を用い、また、銅の酸化物の混入を避けるため、原料および製造工程での酸素の混入を防止する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体レーザーや高性能MPU(マイクロプロセッシングユニット)等のエレクトロニクス素子用ヒートシンクとして優れた特性を有するダイヤモンドを主成分とする高熱伝導性焼結体とその製造方法およびその焼結体を用いたヒートシンクに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開平02−170452号公報
【特許文献2】特開平04−259305号公報
【特許文献3】特開平10−223812号公報
【特許文献4】特開平11−067991号公報
【特許文献5】特公昭55−008447号公報
【特許文献6】特公昭56−014634号公報
【0003】
光通信等に使用される半導体レーザー素子や高性能MPU等の半導体素子では素子自体の発熱による動作不良を防止するためには熱放散が非常に重要である。これら半導体素子の発熱を効率よく放散するために、該半導体素子に対して放熱基材(ヒートシンク)がハンダ等で接合する形で接触配置されている。
【0004】
従来、このような半導体素子用のヒートシンク素材としては窒化アルミニウム(AlN)や炭化珪素(SiC)の焼結体が主として使用されている。しかしながら、近年、半導体レーザーの高出力化やMPUの高集積化にともない、素子からの発熱量も大きくなってきている。AlN焼結体やSiC焼結体の熱伝導率は、それぞれせいぜい250W/m・K、270W/m・Kであり、これらの値では放熱能力が不足する事態が生じてきている。
【0005】
AlN焼結体やSiC焼結体に代わる高熱伝導性材料として物質中最高の熱伝導率をもつダイヤモンドやダイヤモンドに次ぐ熱伝導率のcBN(立方晶窒化硼素)からなる材料が考えられる。このうち、ダイヤモンドは近年、メタンガス等の炭化水素ガスを原料としたCVD法や黒鉛等の固体炭素原料を超高圧・高温下で変換・成長させる超高圧法による製造技術の進歩により工業的にも安定生産が可能となっている。また、cBNに関してはその同素体であるhBN(六方晶窒化硼素)を超高圧・高温下で変換・焼結させて製造することが可能となっている。これらの超高熱伝導性材料は高熱負荷で使用される半導体素子用の信頼性の高いヒートシンクとして使用されている。
【0006】
半導体素子はその技術の進歩に伴い、MPUでは集積度の向上、レーザーでは出力の増大が要求されている。これらを満たすために各々の素子はその寸法が大きくなってきており、半導体素子とヒートシンクとの熱膨張のミスマッチの問題が顕在化してきた。特にレーザーダイオードでは、従来長さ1mm以下の素子が利用されてきたが、高出力化のために活性層の長さが長くなり素子としては1mmを超える物が使用され、また、熱負荷も従来以上に大きくなってきており、熱膨張のミスマッチは重大な問題となっている。ダイヤモンドの熱膨張係数は2.3×10−6/Kと半導体材料であるGaAs(5.9×10−6/K)やInP(4.5×10−6/K)と比較して小さいことから、半導体素子をヒートシンクへハンダ付けする際の熱応力により素子が破損するという問題が発生したり、使用中に発生する熱サイクルによって発光特性の変化や劣化が短時間のうちに起こることがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記の問題点の解決を図るためには、高熱伝導度という特性と半導体素子との熱膨張のマッチングを両立するヒートシンク材料の開発が急務である。この解決策として、ダイヤモンドの持つ高い熱伝導率と金属の持つ大きな熱膨張係数とを組み合わせて、高い熱伝導率を持つと同時に熱膨張係数が半導体材料に近い金属−ダイヤモンド複合体が、
【特許文献1】(対応する米国特許第5,008,737号明細書、対応する米国特許第5,130,771号明細書)、
【特許文献2】(対応する米国特許第5,045,972号明細書)、
【特許文献3】および
【特許文献4】等で開示されている。
【0008】
【特許文献1】で開示された金属−ダイヤモンド複合体は、銅、銀、金やアルミニウムから成る群から選ばれた少なくとも1種の金属マトリックス中に埋め込まれたダイヤモンド粒子から成る複合体で半導体の熱膨張率と実質的に同じ熱膨張率を有することを特徴としている。しかしながら、銅、銀、金やアルミニウム等の金属とダイヤモンドとは濡れ性が非常に悪くまた炭化物を形成しないため、これら金属とダイヤモンドとの混合物を加熱焼結させても若干量の気孔が残留する、成型体を所定の形状に加工する際に加工表面のダイヤモンド粒子が脱落する、等の問題がある。複合体の気孔はそれ自身の熱伝導率に対して悪影響を及ぼす。また、加工の際のダイヤモンド粒子の脱落はヒートシンクと半導体を接合させる際の熱的接触が悪く所定の放熱効果が得られないという問題点がある。
【0009】
【特許文献2】で開示された金属−ダイヤモンド複合体は、アルミニウム、マグネシウム、銅、銀の1種以上から成る粉末とダイヤモンド粉末との混合粉を加圧下で加熱して焼結する。しかしながら、通常の真空ホットプレスや粉末冶金の方法では
【特許文献1】の場合と同様の問題がある。また、単純に圧力・温度を高めた工具用ダイヤモンド焼結体の製造方法では、空気中の酸素や窒素の影響でダイヤモンドと銅とは焼結しない。
【0010】
【特許文献3】および
【特許文献4】で開示された金属−ダイヤモンド複合体は、上記の金属とダイヤモンドとの濡れ性を改善するためにダイヤモンドの表面に金属炭化物を形成して金属とダイヤモンドの界面の密着性を向上させ複合体の特性を向上させている。しかしながら、この方法では不純物として金属炭化物が熱伝導率に対して悪影響をおよぼすため、銅とダイヤモンドのみからなる焼結体に比べて高い熱伝導率は得られない。
【0011】
金属−ダイヤモンド複合体の製造方法としては上記の技術では、ダイヤモンド粒子と混合した金属粉の融解、ホットプレス焼結法、超高圧焼結法などが開示されている。これらのうち本発明が目的とする実質的に気孔を含まない複合体を得るためには超高圧・高温焼結法が最も適している。超高圧・高温焼結法は、ダイヤモンドを主成分とする工具用焼結体を製造する方法として採用されており、Co等の鉄属金属を結合材として使用している。鉄属金属は超高圧・高温下で炭素原子を溶解・析出する作用がある。そのため、ダイヤモンド粒子同士を強固に結合するため、製造された焼結体の熱膨張係数は、ダイヤモンドの熱膨張係数より大幅に大きくなることはない。また、熱伝導率の低い結合材の影響で熱伝導率は400W/m・K程度である。結合材に銅を使用する焼結方法としては、
【特許文献5】、
【特許文献6】等に焼結時のカプセルに開口部を設け銅または銅合金を隣接させてカプセル内に供給する方法が開示されている。この方法は結合材の一部を銅で置換して非磁性のダイヤモンド焼結体を製造する方法を提供している。しかしながら、この方法では超高圧・高温下でこのカプセルを処理する際に、カプセルが一部破れるため非常に微量であるが銅が酸化されるという問題が不可避である。従って、銅の酸化が原因で500W/m・Kという高い熱伝導率を持つ焼結体は得られない。
【0012】
本発明の目的は、熱伝導率が500W/m・K以上でありAlNやSiC焼結体の熱伝導率よりも高く、かつ熱膨張係数が3.0〜6.5×10−6/KとInPやGaAsといった半導体素子用素材に近く、更に、表面加工時にスムーズな面粗度が得られやすい材料を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは理論熱伝導率が2000W/m・Kと物質中最高の熱伝導率をもつダイヤモンドを、本発明で開示する方法で銅を結合材として用いて焼結することにより、500W/m・K以上の高熱伝導率をもつと同時に3.0〜6.5×10−6/Kの熱膨張係数をもつダイヤモンド焼結体が得られることを見出した。
【0014】
さらに、結合材にIVa、Va族元素を添加することにより、ダイヤモンドと銅との界面結合力を高めて、加工時のダイヤモンド粒子の脱落を防止し、表面粗度の向上を図ることができることを見出した。
【0015】
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであって、内部に気孔を含まず、粒度分布のピークが5μm以上100μm以下であるダイヤモンド粒子を主成分とし、残部が実質的に銅とIVa、Va族元素の1種もしくは2種以上およびそれらの炭化物からなる焼結体であり、該焼結体中の酸素量が0.025重量%以下であることを特徴とする。通常、ダイヤモンド焼結体では焼結時にダイヤモンド粒子の成長が起こるため、原料として用いるダイヤモンド粉末の粒度分布と、焼結体に含まれるダイヤモンドの結晶粒径分布は異なるが、本願発明では焼結時に、基本的にダイヤモンドの粒成長は発生しないので、原料に用いるダイヤモンド粉末の粒度分布が焼結体のダイヤモンドの粒径分布と一致する。この構成をとることにより、本発明の目的である、高熱伝導度と熱膨張のマッチングとを併せ持ったヒートシンク材料を提供することができる。
【0016】
前記焼結体では、焼結体を構成するダイヤモンド粒子のうち、複数個の粒子同士が直接結合していることが好ましい。
ダイヤモンド粒子同士の直接の結合により、高熱伝導率の確保が可能となるからである。また、これらのダイヤモンド粒子は、焼結体全体に対して60体積%以上90体積%以下を占めることが好ましい。同範囲のダイヤモンドの含有により、本願発明のヒートシンク材料は、半導体素子に対して良好な熱伝導率と熱膨張係数が具現される。さらに、前記焼結体中に含まれる1種もしくは2種以上のIVa、Va族元素は、該焼結体中のダイヤモンドの重量に対して1%以上10%以下であることが好ましい。該元素がこの範囲内にあることにより、熱伝導率と銅−ダイヤモンド間の接着強度が両立できる。
【0017】
本発明によるダイヤモンド焼結体では、室温から300℃までの熱膨張係数を3.0〜6.5×10−6/Kとすることができる。同範囲の熱膨張係数は、銅とダイヤモンドの含有比率によって調節することができ、搭載する半導体素子によって選択することができる。
【0018】
本発明のダイヤモンド焼結体を用いたヒートシンクでは、該焼結体を母材とし、互いに対向する、少なくとも1組2面以上の表面に金属膜を被覆する。金属被膜により、その表面への半導体素子の搭載、およびヒートシンクの基板材料への接着が容易となる。該金属被覆膜は、ニッケル、クロム、チタン、タンタルから選ばれる少なくとも1種類の金属、もしくはそれらの合金から選ばれ、さらにその外側表面が、モリブデン、白金、金、銀、錫、鉛、ゲルマニウム、インジウムから選ばれる少なくとも1種類の金属、もしくはそれらの合金層によって少なくとも1層もしくは複数層被覆されることもできる。
【0019】
また、本発明のダイヤモンド焼結体を用いたヒートシンクでは、半導体素子が搭載される面の平面度が30μm/10mm以下にすることが好ましい。平面度の測定は、ヒートシンクの半導体素子が搭載される面を表面粗さ計で走査し、計測される表面のマクロ的なうねりから算出する。半導体素子との間の熱抵抗を小さくするためである。また、同じ目的で、半導体素子が搭載される面の面粗度がRa=0.2μm以下にすることも好ましい態様となる。さらに、半導体素子が搭載される面の辺を構成する少なくとも1つのエッヂの欠けおよび曲率半径が20μm以下とすることにより、半導体素子から放射されるレーザー光の光路に干渉することなく、半導体素子の端部付近からも効率よく熱を除去できる。
【0020】
本発明のダイヤモンド焼結体は、粒径が5μm以上100μm以下のダイヤモンド粒子からなる粉末と該ダイヤモンド粉末の重量に対して1%以上10%以下のIVa、Va族元素粉末の1種もしくは2種以上を添加、混合し該混合粉末と無酸素銅板とを接するように配置し、該銅板と接してIVa、Va金属のうちの1種もしくは2種以上の板を挿入した金属カプセルを真空中もしくは不活性ガス中もしくは還元ガス中で封止する工程と、該金属カプセルを1GPa以上6GPa以下の圧力、1100℃以上1500℃以下の温度で処理することで、ダイヤモンド粉末体に溶融した銅を溶浸させた後、圧力を保持した状態で900℃以下まで下げて銅を凝固させる工程と、その後に圧力と温度を常圧、常温に戻し、カプセルを回収する工程と、を有する工程によって製造することができる。
【0021】
また、本発明のダイヤモンド焼結体は、粒径が5μm以上100μm以下のダイヤモンド粒子からなる粉末と該ダイヤモンド粉末の重量に対して1%以上10%以下のIVa、Va族元素粉末の1種もしくは2種以上を添加、混合した後、該混合粉末と純度99.9%以上の高純度銅粉末とを混合し、該混合粉末を装填した金属カプセルを真空中もしくは不活性ガス中もしくは還元ガス中で封止する工程と、該金属カプセルを1GPa以上6GPa以下の圧力、1100℃以上1500℃以下の温度で処理することで、銅粉末を融解した後、圧力を保持した状態で温度900℃以下まで下げて銅を凝固させる工程と、その後に圧力と温度を常圧、常温に戻しカプセルを回収する工程、とを有する工程によっても製造することができる。
【0022】
この焼結体をヒートシンクの素材として利用することにより、従来は熱膨張のミスマッチの影響で実現が困難であった高熱伝導率を有する少なくとも1辺の長さが3mm以上の半導体素子搭載用ヒートシンクを提供することができるようになった。特にこのヒートシンクでは少なくとも1辺が1mm以上の長さを持つ半導体素子の搭載において特性の向上や寿命の長期化といった顕著な効果を奏することができる。すなわち、ヒートシンクの大きさが、1辺3mm角以上のとき、本発明の効果は顕著である。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の詳細を述べる。
【0024】
本発明者らは、既に1GPa以上の高圧下で焼結し、焼結時の酸化を防止した銅を結合材としてダイヤモンドを焼結させることにより実質的に気孔が存在せず、熱膨張係数が3.0〜6.5×10−6/Kで熱伝導率が500W/m・K以上の焼結体が作製できることを見出し製造することに成功している。先ず、この焼結体の詳細を説明し、次に問題点の解決策としての本発明の内容を説明する。
【0025】
焼結体中の気孔は熱伝導率を阻害する因子であり、実質的に気孔が存在しない緻密な焼結体を作製するのには、最低1GPaの圧力が必要である。ただし、1GPa程度の低い圧力で1000℃以上の高温下に長時間保持するとダイヤモンドから黒鉛への変換が始まることから、できることなら、熱力学的にダイヤモンドが安定な領域で保持できる装置で焼結することが望ましい。具体的な圧力レベルとしては、4GPa以上の圧力で保持することが好ましく、工業的に使用されている超高圧発生装置を用いて4GPa以上6GPa以下の圧力で焼結することが望ましい。この条件で焼結を行うことにより実質的に気孔が存在せず、隣接するダイヤモンド粒子の一部が接触、結合した焼結体を得られると予測される。
【0026】
この様にして超高圧・高温下で焼結・作製したダイヤモンド−銅複合焼結体の熱伝導率に影響を及ぼす要因としては、ダイヤモンドと銅の比率、ダイヤモンド粒子の純度、焼結体中の不純物量、ダイヤモンド粒子のサイズ等が挙げられる。
【0027】
ダイヤモンドと銅の体積比率に関しては、ダイヤモンドの配合比率が高ければ高いほど熱伝導率は高くなるが、逆に熱膨張係数は小さくなる。搭載する半導体の種類によって最適な熱膨張係数は異なるため、本発明に開示する比率の範囲で熱膨張係数から最適な体積比率を定めればよく、粉末を混合する方法では配合比で制御可能であり、銅板を使用して含浸させる方法では下記のダイヤモンド粒子の粒度分布によってコントロールでき、微粒成分を多くすれば銅の含有比率が多くなり、粗粒成分を多くすれば銅の含有率が少なくなる傾向にある。
【0028】
ダイヤモンド粒子の純度は高純度であればあるほど熱伝導率にとっては好ましいが、そのような高純度の粒子を入手するコストは高いため、コストの観点から市販ダイヤモンド粒子の最高級グレードの窒素含有量である10ppm以上200ppm以下、好ましくは50ppm以上150ppm以下であれば、好適に用いられる。
【0029】
焼結体を構成するダイヤモンドおよび銅やIVa、Va金属の純度は、高ければ高い方が熱伝導率は高く特性的には好ましい。従って、可能な限り純度を高めるためにカプセル作製の際に、真空もしくは不活性ガス中で封入することが必要である。しかしながら、従来の方法で超高圧・高温下でこのカプセルを処理すると、カプセルが一部破れるため非常に微量であるがIVa、Va族金属粉末や銅が酸化されることは不可避である。
【0030】
本発明の方法では、たとえカプセルの一部が破れたとしても、IVa、Va金属、すなわち、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルはいずれも、銅と比較して高温下での酸化物生成エネルギーが低いために、銅の酸化を防ぐ役割を果たす。
【0031】
ダイヤモンド粒子のサイズに関しては、前記の効果の他に、一般的にサイズが大きい方が粒界による影響が少なくなるため、熱伝導率は高くなる。しかしながら、ヒートシンク製品を製造する際、焼結体素材の切断や研磨工程において、ダイヤモンドの粒子径が大きすぎるとチッピング等が生じやすく加工性が悪いという問題が生じる。従って、ダイヤモンド粒子の粒径は5μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上80μm以下、さらに好ましくは20μm以上70μm以下であると高い熱伝導率を維持したままで大きなチッピング等を生じさせることなく加工が可能である。
【0032】
次に、この焼結体の熱膨張係数はダイヤモンドと銅との体積比率によって決まる。ダイヤモンドの熱膨張係数が2.3×10−6/Kに対して、銅の熱膨張係数は16.79×10−6/Kと大きく焼結体中の銅の比率を増やせば熱膨張係数が大きくなることは自明である。本発明者らはダイヤモンドと銅との体積比率を変化させた材料の熱膨張係数を調べたところ第1図に示す関係にあることを見いだした。この関係から、熱膨張係数の範囲である3.0〜6.5×10−6/Kを実現するダイヤモンドの体積含有率は60%以上90%以下、好ましくは70%以上80%以下である。ダイヤモンドと銅との体積含有率を制御するには前記のとおりダイヤモンド粒子の粒径によって制御することや銅粉末を出発原料とする場合はダイヤモンドと銅との配合比率によって制御可能である。
【0033】
上述のとおり、ダイヤモンドと銅とからなる焼結体は、成分の最適化を図ることにより、熱伝導率500W/mK以上でかつ熱膨張係数3.0〜6.5×10−6/KというInPやGaAs半導体素子用のヒートシンクとして理想的な特性を実現することができた。また、本焼結体は従来のSi素子用のヒートシンクとしても使用できることは言うまでもない。
【0034】
更に、上述の高熱伝導率焼結体を利用した半導体搭載用ヒートシンクを作製するためには、焼結体素材を半導体チップ搭載のための形状、大きさに加工した後、該半導体チップと接合させるための金属膜被覆を施す必要がある。通常、焼結体素材の厚みを要求される寸法・面粗さに仕上げる加工を行った後に、ヒートシンクとして要求される形状、寸法に切断する。この切断後の素材に金属膜の被覆を施し、半導体搭載用ヒートシンクとして使用される。
【0035】
焼結体素材を要求される厚み、面粗度に仕上げる加工方法としては、レジンボンドもしくはメタルボンドのダイヤモンド砥石を装着した研磨機を用いて乾式研磨で仕上げる方法と、レジンボンドもしくはビトリファイドボンドのダイヤモンド砥石を装着した平面研削盤を用いて湿式研削で仕上げる方法のいずれを用いてもよい。ダイヤモンド粒子と銅だけからなる素材では、この工程において、Ra:0.2μm以下といった非常に高い面粗度を要求される製品の場合に所期の面粗度が出しにくい場合がある。これは、研削もしくは研磨中にダイヤモンド粒子が脱落し易いことが原因で、要求を満たす面粗度を得るために限られた条件の中で研磨を行う必要がある。
【0036】
本発明者らは、IVa、Va族元素を添加することにより、焼結体の熱伝導率や熱膨張係数に悪影響を与えることなく、ダイヤモンド粒子と銅との結合力を高める効果があることを見いだし、特にダイヤモンドの重量に対して1%以上10%以下、好ましくは1%以上5%以下の範囲にあることが効果的であるとの結果を得た。この効果により、焼結体を研削もしくは研磨することにより表面を仕上げる際にダイヤモンド粒子の脱落が生じにくく、添加しない場合と比較してスムーズな面が得られやすくなる。
【0037】
本発明を要約すると、本焼結体は、超高圧・高温下で焼結したものであり、高純度の銅とIVa、Va族元素の混合体を結合材としてダイヤモンドを焼結することにより、高い熱伝導率もつと同時に半導体材料との熱膨張係数のミスマッチが小さい焼結体材料で、表面をよりスムーズな面粗度に加工できる。
【0038】
【実施例1】
表1に示す所定の粒径の市販ダイヤモンド粉末と、純度が99.9%で粒径15μm以下の銅粉とを表1の配合比率で混合し、該混合粉にTi粉をダイヤモンド粉末に対して表に示す割合で添加し、混合粉末体を作製した。該混合粉末体をニオブ板、チタン板とともに第2図のカプセル内部に示される構成で内径25mm、深さ5mmのモリブデン製の容器に充填し、2t/cm2の荷重でプレスし、厚さ2mmの圧粉体にした。この圧粉体を装填した容器にロー材を介してモリブデン製のフタをし、真空中で加熱することにより容器とフタとをロー付け封止した。
【0039】
また、比較例として、同様のカプセルに充填したダイヤモンド粒径が5μmに満たないもの、ダイヤモンド粒径が5〜100μmのものでTi粉末を添加しないものを同様の工程で準備したものを表1の比較例1〜9に示す。
【0040】
これらの容器をベルト型超高圧発生装置に装填し、圧力5GPa、温度1100℃の条件で5分間保持した後、温度を500℃まで下げた状態で30分間保持すると同時に圧力を徐々に大気圧まで下げた。回収したモリブデン容器の上下を平面研削盤で研削して成形体を得た。この成形体を厚み1mmに平面研削盤で加工した後、長さ10mm、幅4mm、に加工して、試料の両端に温度差をつけて試料中の温度勾配から熱伝導率を求める方法(定常法)にて熱伝導率測定を行った。同じ試料を縦型熱膨張計にて室温から300℃まで加熱して熱膨張の測定を行った。各ダイヤモンド粒径の熱伝導率、熱膨張係数、面粗度(算術平均粗さ:Ra)を測定した結果を表1にまとめる。面粗度は10mm×4mmの面内で5点測定した中で最大の値を表に示す。また、表中、銅粉配合比率および銅含有率はいずれも焼結体全体に対する体積%を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【実施例2】
表2に示す所定の粒径の市販ダイヤモンド粉末とV(バナジウム)粉末との混合体を第3図の構成で内径25mm、深さ5mmのモリブデン製の容器に充填し、2t/cm2の荷重でプレスし、厚さ2mmの圧粉体にした。圧粉体に接して直径25mm、厚み0.5mmの無酸素銅板を配し、その上に直径25mm、厚み0.1mmのZr箔を配した。このように装填した容器にロー材を介してモリブデン製のフタをし、真空中で加熱することにより容器とフタとをロー付け封止した。また、比較例として、V粉末の添加なしのものを同様の工程で準備したものを表2の比較例に示す。
【0043】
これらの容器をベルト型超高圧発生装置に装填し、圧力5GPa、温度1100℃の条件で5分間保持した後、温度を500℃まで下げた状態で30分間保持すると同時に圧力を徐々に大気圧まで下げた。回収したモリブデン容器の上下を平面研削盤で研削して成形体を得た。この成形体を長さ10mm、幅4mm、厚み1mmに加工して、試料の両端に温度差をつけて試料中の温度勾配から熱伝導率を求める方法(定常法)にて熱伝導率測定を行った。同じ試料を縦型熱膨張計にて室温から300℃まで加熱して熱膨張の測定を行った。各ダイヤモンド粒径の熱伝導率、熱膨張係数、面粗度(算術平均粗さ:Ra)を測定した結果を表2にまとめる。面粗度は10mm×4mmの面内で5点測定した中で最大の値を表に示す。同時に発光分光分析法で銅の重量%を分析し体積含有率に換算したものを表に示す。表中、銅粉配合比率および銅含有率はいずれも焼結体全体に対する体積%を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【実施例3】
実施例1で作製した焼結体素材を厚み0.5mmになるように放電加工で加工を行った後、表裏両面を#400のダイヤモンド砥石でラッピングした。ラッピングされた焼結体を出力3WのYAGレーザーを用いて3mm×1mmの寸法に切断加工した。切断加工後の製品50個を摘出し、ラッピング面の面粗さを測定した。Ra≦0.2μmを規格として歩留を表3に示す。比較例1〜9で焼結した素材を同様に加工した後の面粗度歩留まりを表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、高出力の半導体レーザーや高性能MPU等のような、サイズが大きく熱負荷の高い半導体素子を搭載するのに最適な、高熱伝導度と熱膨張のマッチングとを併せ持ったヒートシンクを提供することができる。また、熱伝導率および熱膨張率という特性を比較的自由に調整することができるので、搭載する素子の特徴、設計に合わせて最適なヒートシンクを選択できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ダイヤ含有量と熱膨張係数の関係
【図2】カプセル構成図
【図3】カプセル構成図
【符号の説明】
1 モリブデンふた
2 モリブデンカプセル
3 ロウ材
4 チタン板
5 ニオブ板
6 圧粉体
11 モリブデンふた
12 モリブデンカプセル
13 ロウ材
14 ジルコニウム板
15 ジルコニウム箔
16 無酸素銅板
17 ダイヤモンド粉末
Claims (12)
- 内部に気孔を含まず、粒度分布のピークが5μm以上100μm以下であるダイヤモンド粒子を主成分とし、残部が実質的に銅とIVa、Va族元素の1種もしくは2種以上およびそれらの炭化物からなる焼結体であり、該焼結体中の酸素量が0.025重量%以下であることを特徴とする高熱伝導性ダイヤモンド焼結体。
- 前記焼結体を構成するダイヤモンド粒子のうち、複数個の粒子同士が直接結合していることを特徴とする請求項1に記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体。
- 前記焼結体中に含まれるダイヤモンド粒子が焼結体全体に対して60体積%以上90体積%以下を占めることを特徴とする請求項1または2に記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体。
- 前記焼結体中に含まれる1種もしくは2種以上のIVa、Va族元素が該焼結体中のダイヤモンドの重量に対して1%以上10%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体。
- 室温から300℃までの熱膨張係数が3.0〜6.5×10−6/Kであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体。
- 前記焼結体を母材とし互いに対向する、少なくとも1組2面以上の表面に金属膜が被覆されていることを特徴とする半導体搭載用ダイヤモンドヒートシンク。
- 互いに対向する、少なくとも1組2面以上の表面が、ニッケル、クロム、チタン、タンタルから選ばれる少なくとも1種類の金属、もしくはそれらの合金によって被覆され、さらにその外側表面が、モリブデン、白金、金、銀、錫、鉛、ゲルマニウム、インジウムから選ばれる少なくとも1種類の金属、もしくはそれらの合金層によって少なくとも1層もしくは複数層被覆されていることを特徴とする請求項6に記載の半導体搭載用ダイヤモンドヒートシンク。
- 半導体素子が搭載される面の平面度が30μm/10mm以下であることを特徴とする請求項6〜7に記載の半導体搭載用ダイヤモンドヒートシンク。
- 半導体素子が搭載される面の面粗度がRa=0.2μm以下であることを特徴とする請求項6〜8に記載の半導体搭載用ダイヤモンドヒートシンク。
- 半導体素子が搭載される面の辺を構成する少なくとも1つのエッヂの欠けおよび曲率半径が20μm以下であることを特徴とする請求項6〜9に記載の半導体搭載用ダイヤモンドヒートシンク。
- 粒径が5μm以上100μm以下のダイヤモンド粒子からなる粉末と該ダイヤモンド粉末の重量に対して1%以上10%以下のIVa、Va族元素粉末の1種もしくは2種以上を添加、混合し該混合粉末と無酸素銅板とを接するように配置し、該銅板と接してIVa、Va金属のうちの1種もしくは2種以上の板を挿入した金属カプセルを真空中もしくは不活性ガス中もしくは還元ガス中で封止する工程と、該金属カプセルを1GPa以上6GPa以下の圧力、1100℃以上1500℃以下の温度で処理することで、ダイヤモンド粉末体に溶融した銅を溶浸させた後、圧力を保持した状態で900℃以下まで下げて銅を凝固させる工程と、その後に圧力と温度を常圧、常温に戻し、カプセルを回収する工程と、を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体の製造方法。
- 粒径が5μm以上100μm以下のダイヤモンド粒子からなる粉末と該ダイヤモンド粉末の重量に対して1%以上10%以下のIVa、Va族元素粉末の1種もしくは2種以上および純度99.9%以上の高純度銅粉末とを混合し、該混合粉末を装填した金属カプセルを真空中もしくは不活性ガス中もしくは還元ガス中で封止する工程と、該金属カプセルを1GPa以上6GPa以下の圧力、1100℃以上1500℃以下の温度で処理することで、銅粉末を融解した後、圧力を保持した状態で温度900℃以下まで下げて銅を凝固させる工程と、その後に圧力と温度を常圧、常温に戻しカプセルを回収する工程、とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高熱伝導性ダイヤモンド焼結体の製造方法。
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