JP2004175310A - 操舵装置 - Google Patents
操舵装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004175310A JP2004175310A JP2002346966A JP2002346966A JP2004175310A JP 2004175310 A JP2004175310 A JP 2004175310A JP 2002346966 A JP2002346966 A JP 2002346966A JP 2002346966 A JP2002346966 A JP 2002346966A JP 2004175310 A JP2004175310 A JP 2004175310A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- steering
- airbag
- steering wheel
- driver
- column
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Steering Controls (AREA)
Abstract
【課題】エアバッグと運転者との間隔が小さい場合に、車両の衝突時にエアバッグを車体側へ移動させてエアバッグの展開スペースを確保する装置を含む操舵装置であって、構造の簡単なものを提供する。
【解決手段】ステアリングコラム18をインナコラム34とアウタコラム36とにより伸縮自在に構成し、通常の走行中は相対移動制御装置40により両コラム34、36の相対移動を阻止する。衝突時には抵抗変更用モータ42によりくさび部材48を一旦後退させ、摩擦パッド56の摩擦抵抗を低減させて両コラム34,36の相対移動を許容し、ステアリングホイールに加えられる反力によりエアバッグを移動させる。移動量測定装置70によりインナコラム34が設定量移動したことが検出されれば、抵抗変更用モータ42によりくさび部材48を前進させて相対移動制御装置40の摩擦抵抗を増大させ、運転者の慣性エネルギを吸収させる。
【選択図】 図2
【解決手段】ステアリングコラム18をインナコラム34とアウタコラム36とにより伸縮自在に構成し、通常の走行中は相対移動制御装置40により両コラム34、36の相対移動を阻止する。衝突時には抵抗変更用モータ42によりくさび部材48を一旦後退させ、摩擦パッド56の摩擦抵抗を低減させて両コラム34,36の相対移動を許容し、ステアリングホイールに加えられる反力によりエアバッグを移動させる。移動量測定装置70によりインナコラム34が設定量移動したことが検出されれば、抵抗変更用モータ42によりくさび部材48を前進させて相対移動制御装置40の摩擦抵抗を増大させ、運転者の慣性エネルギを吸収させる。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の操舵装置に関するものであり、特に、ステアリングホイールにエアバッグが設けられる形式の操舵装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の操舵装置は既に知られている。例えば、下記特許文献1には、ステアリングホイールにエアバッグを設置するとともに、ステアリングコラムを収縮可能とすることが記載されている。ステアリングコラムが互いに嵌合されたアウタコラムとインナコラムとを含むものとされ、それら両コラムの嵌合部にエネルギ吸収装置が配設されている。アウタコラムとインナコラムとの間にはさらに、インフレータが発生する窒素ガスにより作動させられるガスシリンダが設けられている。このインフレータは、エアバッグを膨らませるためのインフレータとは別のものである。ステアリングホイールと運転者との間隔が距離測定装置により測定され、測定された間隔が設定値以下である場合には、車両の衝突時に2つのインフレータが点火され、発生した窒素ガスによりエアバッグが膨らませられるとともに、ガスシリンダが作動させられて、ステアリングコラムがエネルギ吸収装置の抵抗に打ち勝って一定量収縮させられる。それによって、ステアリングホイールと運転者との間隔が狭い場合に、ステアリングホイールが運転者から離間させられ、ステアリングホイールに設置されているエアバッグが膨らむためのスペースが確保される。
【0003】
また、ステアリングホイールと運転者との間隔が設定値より大きい場合には、エアバッグが膨らむためのスペースが十分であるため、ガスシリンダは作動させられない。これらいずれの場合にも、運転者が膨らんだエアバッグを介してステアリングホイールに衝突した場合に、ステアリングコラムがエネルギ吸収装置の抵抗に打ち勝って収縮し、運転者の慣性エネルギがエネルギ吸収装置によって吸収される。さらに、距離測定装置により測定されたステアリングホイールと運転者との間隔が小さい場合には、運転者が小柄で慣性エネルギが小さいことを意味しているため、ステアリングコラムの単位長さの収縮に伴ってエネルギ吸収装置により吸収されるエネルギが小さくなるようにされている。
【0004】
特許文献2にもステアリングホイールにエアバッグを設置するとともに、ステアリングコラムを収縮可能とすることが記載されている。この操舵装置においては、1つのインフレータにより発生させられたガスにより、ステアリングコラムが収縮させられるとともに、エアバッグが膨らまされる。ステアリングコラムを収縮させるガスシリンダは、ステアリングコラムのアウタコラムとインナコラムとの間の円筒状の空間を利用して構成されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−79944号公報
【特許文献2】
特開2000−168481号公報
【特許文献3】
特開平6−227341号公報
【特許文献4】
特開平5−162646号公報
【0006】
上記のように、ガスシリンダにより、ステアリングコラムを収縮させれば、ステアリングホイールと運転者との間に、エアバッグが膨らむために十分なスペースを確保することができる。しかしながら、構成が複雑となり、製造コストが高くなることを避け得ない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
本発明は、以上の事情を背景とし、構成の複雑化を極力回避しつつステアリングホイールと運転者との間にエアバッグが膨らむに十分なスペースを確保することを課題としてなされたものであり、本発明によって、下記各態様の操舵装置がが得られる。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、一つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではない。一部の事項のみを選択して採用することも可能なのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(5)項と(6)項とを合わせたものが請求項5に、(5)項と(8)項とを合わせたものが請求項6にそれぞれ相当する。
【0009】
(1)ステアリングホイールにエアバッグが設置された操舵装置において、
前記エアバッグの展開時に前記ステアリングホイールに加えられる反力により、前記ステアリングホイールを車両の運転者から遠ざかる向きに移動させる反力利用移動装置を設けたことを特徴とする操舵装置。
エアバッグの展開時にステアリングホイールに加えられる反力には、例えば、ガスの噴出によりエアバッグが運転者に近づく向きに膨張させられることに基づく反力や、エアバッグが膨張し、運転者と接触した後にさらにエアバッグが膨張し続けるのに伴い運転者からエアバッグを介してステアリングホイールに運転者から遠ざかる向きに加えられる力等があり、反力利用移動装置はこれら反力の少なくとも1つにより作動させられるものとされる。
このようなエアバッグの膨張時にステアリングホイールに加えられる反力によって作動する反力利用移動装置により、ステアリングホイールを運転者から遠ざかる向きに移動させれば、ステアリングホイールと運転者との間にエアバッグが膨らむための十分なスペースを確保することができる。しかも、反力利用移動装置は、前記ガス圧により作動するガスシリンダに比較して安価に製造し得るため、操舵装置の製造コストの上昇を良好に抑制することができる。
(2)常には前記反力利用移動装置の作動を阻止する状態にあり、車両衝突時に作動を許容する状態となる作動規制装置を含む (1)項に記載の操舵装置。
常には反力利用移動装置の作動を阻止する状態にある作動規制装置を設ければ、エアバッグが設置されたステアリングホイールの不必要な移動を確実に防止することができる一方、車両の衝突時には、反力利用移動装置の作動が許容されることにより、ステアリングホイールが運転者から離間する向きに移動し、エアバッグの十分な膨張スペースが確保されるようにすることができる。
(3)前記ステアリングホイールと運転者との間隔を検出する間隔検出装置を含み、その間隔検出装置により検出される間隔が設定値以下である状態で車両が衝突した場合に、前記作動規制装置が前記反力利用移動装置の作動を許容する状態となる (2)項に記載の操舵装置。
本項の操舵装置においては、運転者が小柄でステアリングホイールとの間に十分なスペースを確保できない場合に、ステアリングホイールが運転者から遠ざかる向きに移動して、エアバッグが膨らむスペースを確保することができる。
間隔検出装置としては、ステアリングホイールと運転者との間隔を直接検出する直接検出装置や、間接的に検出する間接検出装置を採用することができる。前者は、例えば、超音波,レーザ光,ミリ波等を利用する非接触型の距離測定装置や画像認識等を包含し、後者は、例えば、シート位置検出装置や安全ベルトの引き出し量検出装置等を包含する。
(4)前記反力利用移動装置が、前記ステアリングホイールを保持するステアリングコラムの伸縮を許容する伸縮許容部を含む (1)項ないし (3)項のいずれかに記載の操舵装置。
ステアリングコラム全体が運転者から離間する向きに移動するようにすることも可能である。しかし、ステアリングコラムを伸縮可能にする方がステアリングホイールの移動距離を大きくすることが容易な場合が多く、伸縮許容部自体が反力利用移動装置として機能する態様は特に製造コストを低減させ得るものである。しかし、伸縮許容部とは別に反力利用移動装置を設けることも可能である。また、伸縮許容部に対応して圧縮コイルスプリング等の弾性部材を配設し、その弾性部材の弾性力とステアリングホイールに加えられる反力との関係で決まる状態でステアリングコラムの収縮が行われるようにすれば、衝撃少なくステアリングホイールの移動を停止させることができる。
(5)車両衝突時に運転者により前記エアバッグを介して与えられるエネルギを吸収しつつステアリングホイールの移動を許容するエネルギ吸収装置を含む (1)ないし (4)項のいずれかに記載の操舵装置。
エネルギ吸収装置は、エアバッグとステアリングホイールとの間に設けられても、車体に対してステアリングホイールの回転軸線に平行な方向に移動不能な部材とステアリングホイールとの間に設けられてもよく、両方に設けられてもよい。ステアリングコラムが、複数部材が摺動可能に嵌合されることにより伸縮可能とされる場合、ステアリングコラムの、車体に対して軸方向に相対移動不能な部分と移動可能な部分との間、ステアリングコラムの軸方向に移動可能な部分と車体との間、あるいは移動可能な部分とステアリングホイールとの間に、エネルギ吸収装置が設けられることが望ましい。また、エネルギ吸収装置は、エアバッグの単位移動距離当たりの吸収エネルギ量を調節可能な吸収エネルギ調節型とされることが望ましく、衝突前におけるステアリングホイールと運転者との間隔に応じて自動で調節されるものであることが望ましい。
(6)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置と前記ステアリングホイールとの間に設けられて両者の相対移動を許容するものである (5)項に記載の操舵装置。
エアバッグが膨張する際に反力利用移動装置の作動によってステアリングホイールが運転者から遠ざかる向きに移動させられ、エアバッグが十分に膨らんだ後、そのエアバッグを介して与えられる運転者の慣性エネルギが、エネルギ吸収装置により吸収されることとなる。
(7)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置と前記ステアリングホイールとの相対移動を許容する相対移動許容距離を変更する相対移動許容距離変更部を含む (6)項に記載の操舵装置。
本項に記載の特徴によれば、ステアリングホイールと運転者とのエアバッグ膨張用スペースの大きさを変更することができる。例えば、前述の間隔検出装置と組み合わせれば、運転者とステアリングホイールとの間隔の大小に応じてエアバッグ膨張用スペースの大きさを3段以上の多段階あるいは無限段階に変更することができるのである。
(8)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置が前記ステアリングホイールの移動を許容する領域のうち、初期に移動を許容する領域において、エネルギ吸収装置がエアバッグの単位移動距離当たり吸収するエネルギ量を低減させる吸収エネルギ低減装置を含む (5)項に記載の操舵装置。
本項に記載の操舵装置においては、エネルギ吸収装置の一部を反力利用移動装置として利用することができる。エネルギ吸収装置の、吸収エネルギ低減装置により単位移動距離当たりの吸収エネルギ量が低減させられた部分を、反力利用移動装置として機能させることができるのである。エアバッグの単位移動距離当たり吸収されるエネルギ量を0まで低減させることも可能である。
(9)前記吸収エネルギ低減装置が、吸収エネルギを低減させる領域の大きさを変更する領域変更部を含む (8)項に記載の操舵装置。
本項に記載の特徴によれば、 (7)項に関連して説明した作用,効果が得られる。
(10)前記エネルギ吸収装置が、前記ステアリングホイールの移動に伴って相対移動する2部材の間に摩擦抵抗を発生させる摩擦抵抗発生装置を含み、前記吸収エネルギ低減装置が、その摩擦抵抗発生装置が発生する摩擦力を低減させる摩擦抵抗低減装置を含む (8)項または (9)項に記載の操舵装置。
摩擦低減装置により摩擦抵抗発生装置が発生する摩擦力が低減させられている間、摩擦抵抗発生装置が反力利用移動装置として作動する。
(11)前記ステアリングホイールの移動距離を検出する移動距離検出装置を含み、前記吸収エネルギ低減装置がその移動距離検出装置の検出結果に基づいて前記吸収エネルギの低減制御を行う移動距離依拠低減制御部を含む (8)項ないし(10)項のいずれかに記載の操舵装置。
例えば、車両衝突時に、当初、吸収エネルギが低減させられ、移動距離検出装置により検出された移動距離が所定値に達したとき、吸収エネルギの低減が終了させられるようにするのである。上記所定値を、ステアリングホイールと運転者との間隔を検出する間隔検出装置の検出結果に応じて変更することも可能であり、各運転者に適した保護機能を発揮させることができる。また、移動距離検出装置により検出される移動距離に応じて、吸収エネルギ低減装置によるエネルギ吸収装置の吸収エネルギ量低減の程度を変化させることも可能であり、運転者の保護機能を高めることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態である操舵装置を図1ないし図4に基づいて詳細に説明する。操舵装置については一般によく知られているので、全体の説明は簡略に行い、本発明に直接関係のある部分についてのみ詳細に説明する。
図1に車室内部を概念的に示す。図において10は操舵装置である。操舵装置10は、車体側の部材12に2つのブラケット14,16を介して支持されるステアリングコラム18と、ステアリングコラム18内に相対回動可能に保持されたステアリングシャフト(図示省略)と、ステアリングシャフトの運転者側の端部に取り付けられたステアリングホイール22とを備える。ステアリングホイール22の中央部に図示を省略するステアリングパッドが設けられ、エアバッグ24およびエアバッグ展開用のインフレータ(図示省略)等が収納されている。
【0011】
この操舵装置10は、運転者30がステアリングホイール22を回転させると、ステアリングシャフトを介して、その回転力が図示しないステアリングギヤに伝達される。ステアリングギヤ内には、回転入力を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構等の運動変換機構が配設されており、さらにタイロッド等を介して転舵車輪の舵角が変化させられる。
【0012】
ステアリングパッドのエアバッグ24等と干渉しない部位に運転者30との間隔を測定する間隔測定装置32(図3参照)が配設されている。本実施形態においては、間隔測定装置32は、超音波を利用する非接触式の距離測定装置とされている。
【0013】
ステアリングコラム18は、図2に示すように、ステアリングホイール22側に位置するインナコラム34と車体側のアウタコラム36とを備え、それらが軸方向に相対移動可能に嵌合されることにより、ステアリングコラム18が伸縮可能とされている。インナコラム34とアウタコラム36との嵌合部には、摩擦抵抗を発生させるとともにその摩擦抵抗を制御することにより上記インナコラム34とアウタコラム36との相対移動を制御する相対移動制御装置40が設けられている。なお、図示は省略するが、ステアリングシャフトも、互いに軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合された2つのシャフト部材を備え、ステアリングコラム18の伸縮に伴って伸縮可能である。
【0014】
相対移動制御装置40は、アウタコラム36に固定され、摩擦抵抗を増減させるための抵抗変更用モータ42を備える。抵抗変更用モータ42は減速機付きの電動モータであって、それの軸線まわりに回転可能な出力軸44の外周に雄ねじ部46が形成され、くさび部材48の雌ねじ穴50に螺合されている。くさび部材48は、アウタコラム36に固定された案内部材52に摺動可能かつ回転不能に嵌合されており、ステアリングコラム18の軸方向(以下、単に軸方向と称する)に平行な方向にのみ移動可能である。くさび部材48は、ステアリングコラム18に対向する側の面が、ステアリングホイール22に近い部分ほどステアリングコラム18の軸線から離れる向きに傾斜した傾斜面54とされている。くさび部材48の傾斜面54とインナコラム34の外周面との間に摩擦パッド56が配設されている。摩擦パッド56は、アウタコラム36の周壁を貫通して形成された保持穴58に摺動可能に保持され、インナコラム34に接近・離間可能とされている。摩擦パッド56は概してくさび形に形成され、裏板60と摩擦材62とを備えている。裏板60の上記くさび部材48と接触する背面64がくさび部材48の傾斜面54に対応する傾斜角を有し、反対側のインナコラム34に対向する面に摩擦材62が固着されている。摩擦材62のインナコラム34側の面は、インナコラム34の外周面に対応する部分円筒凹面とされている。
【0015】
くさび部材48は、抵抗変更用モータ42の出力軸44の回転につれて、案内部材52に案内されつつ軸方向に移動する。このくさび部材48の軸方向移動により、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が変化するため、摩擦パッド56とインナコラム34との間の摩擦抵抗の大きさを制御することができる。具体的には、くさび部材48をステアリングホイール22に接近する向きに移動させれば、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が増大して、摩擦抵抗が増大する。抵抗変更用モータ42への供給電流が設定電流に達すれば、摩擦抵抗が設定抵抗となり、相対移動制御装置40はインナコラム34とアウタコラム36との相対移動を阻止する移動阻止状態となる。これに対して、くさび部材48をステアリングホイール22から離間する向きに移動させれば、摩擦パッド56の押付力が減少し、摩擦抵抗が減少してインナコラム34とアウタコラム36との相対移動が可能となる。
【0016】
この相対移動が可能な状態には、後に説明するように、エアバッグ24が膨張する際の反力とエアバッグ24が運転者30に接触した後も膨張することにより運転者30から受ける反力とがステアリングホイール22に加わえられてステアリングホイール22とともにインナコラム34が移動させられる状態と、運転者30がエアバッグ24を介してステアリングホイール22に衝突したとき、運転者30の身体の慣性運動のエネルギを吸収しつつエアバッグ24が移動することを許容する状態とが含まれる。前者の状態で作動するとき、相対移動制御装置40は反力利用移動装置の一部として機能し、後者の状態で作動するとき、エネルギ吸収装置の一部として機能する。さらに、前記移動阻止状態にあるとき、相対移動制御装置40は作動規制装置の一部として機能する。すなわち、本実施形態においては、インナコラム34とアウタコラム36とが相対移動可能に嵌合されることによりステアリングコラム18が伸縮可能とされている構成と、1つの相対移動制御装置40との組合わせが、作動規制装置,反力利用移動装置およびエネルギ吸収装置の3つを兼ねていることとなるのである。
【0017】
なお、抵抗変更用モータ42は、電流が供給されない状態においてみだりに回転せず、くさび部材48を所定の位置に維持し得るものであることが望ましい。例えば、電流の供給によって解除されるブレーキを備えた電動モータや、超音波モータが適している。あるいは、電動モータの回転部に常時摩擦材を接触させ、回転部にその摩擦部材の摩擦抵抗に打ち勝つ回転トルクが加えられない限り電動モータが回転しないようにしてもよい。
アウタコラム36の端部には、移動量測定装置70が設けられており、インナコラム34のアウタコラム36に対する移動量が測定される。
【0018】
本操舵装置10は、図3に示す制御装置80を備えている。制御装置80は、CPU82,ROM84,RAM86,それらを接続するバスおよび入出力インタフェース(図においてはI/Oインタフェースと表示)90を備えたコンピュータ88を主体とするものである。入出力インタフェース90には、間隔測定装置32および移動量測定装置70が接続され、さらに、駆動回路92を介して抵抗変更用モータ42が接続されている。以上コンピュータ88,間隔測定装置32,移動量測定装置70および駆動回路92により制御装置80が構成されている。
【0019】
次に、本操舵装置10の作動を説明する。まず概略的に説明する。走行中は、相対移動制御装置40が移動阻止状態に維持されていて、インナコラム34が移動することが阻止されている。走行中に間隔測定装置32により、運転者30とステアリングホイール22との間隔が繰り返し測定され、その測定値に基づいてエアバッグ24の膨張スペースが十分であるか否かが予め判断される。運転者30が小柄であって、運転者30とステアリングホイール22との間隔が小さく、十分な膨張スペースが確保できないと判断された場合には、車両の衝突時に、相対移動制御装置40が移動許容状態とされ、ステアリングホイール22がエアバッグ24の膨張に伴って加えられる反力により運転者30から離間する向きに移動させられる。その際には、ステアリングホイール22に設置されたインフレータから運転者30の側へ噴出するガスによってエアバッグ24が膨張させられるため、その反力がステアリングホイール22に加えられるのである。そして、エアバッグ24がさらに膨張して運転者30に接触すると、エアバッグ24は運転者30から膨張の向きと反対向きの力を受け、その力が、ステアリングホイール22に加えられる。ステアリングホイール22が移動させられる際、移動量測定装置70により、インナコラム34のアウタコラム36に対する移動量が監視されており、ステアリングホイール22が予め設定された移動量(エアバッグ24の適切な膨張スペース確保される量)移動した後、相対移動制御装置40がエネルギ吸収状態とされる。したがって、この後に運転者30の身体の慣性に基づいて、エアバッグ24を介してステアリングホイール22に与えられるエネルギが相対移動制御装置40により吸収される。このとき、ステアリングホイール22の単位移動距離当たりの吸収エネルギの大きさが、各運転者30の体格に適した大きさに制御される。
【0020】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。このプログラムは、車両の走行中、繰り返し実行される。
まず、ステップ1(以下、単にS1で表す。他のステップについても同じ)において、運転者30とステアリングホイール22との間隔の値が読み込まれる。図示を省略するプログラムの実行により、間隔測定装置32により測定された運転者30とステアリングホイール22との間隔が繰り返し読み込まれ、それら複数の測定値の平均的な値が現在の間隔の値として取得される。S1においては、この間隔の値が読み込まれるのである。
【0021】
次に、S2においてインナコラム34の移動量が設定される。相対移動制御装置40が移動許容状態に保たれ、エアバッグ24の膨張スペースが確保される際のインナコラム34の移動量が、上記間隔の値に基づいて設定されるのである。具体的には、間隔が小さいほど、移動量が大きく設定され、エアバッグ24の膨張に必要なスペースが確保される。続いてS3において、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗の大きさが設定される。相対移動制御装置40がエネルギ吸収状態とされる際の摩擦抵抗の大きさが、上記間隔の値に基づいて設定されるのである。具体的には、間隔が小さいほど、衝突時における摩擦抵抗が小さく設定され、インナコラム34が容易に移動できるようにされる。
【0022】
なお、インナコラム34の移動可能な距離は予め決まっているので、エアバッグ24の膨張スペースを確保するための移動量を大きくすれば、慣性エネルギを吸収するために利用可能な移動距離が短くなる。しかしながら、間隔が小さい場合には、運転者30の身体が有する慣性に基づく運動エネルギも小さいため差し支えない。むしろ、比較的小さい力でエアバッグ24およびステアリングホイール22が移動して、運転者30に対する衝撃が小さくなるようにされることが望ましい。それに対して、間隔が比較的大きい場合には、エアバッグ24を展開するためのインナコラム34の移動量が小さくて済み、慣性エネルギを吸収するために利用可能な移動距離が長くなるので、大きな運動エネルギを吸収することができる。また、エアバッグ24およびステアリングホイール22に加えられる力が大きくなるため、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗が大きく設定される。
【0023】
さらに付言すれば、運転者30が標準以上の体格であって、運転者30とステアリングホイール22との間隔が設定値より大きい場合には、車両の衝突時であっても相対移動制御装置40が移動阻止状態に維持され、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗が大きい値に保たれるとともに、インナコラム34の移動可能距離全体を利用して運転者30の慣性エネルギが吸収されるようにされる。
【0024】
S4において、車両に設定値以上の衝撃が加えられたか否かが問われる。車両には、図示は省略するが、振動センサや慣性力センサが設けられており、それらセンサの信号に基づいて、診断装置により車両が衝突したか否かが診断される。診断装置により衝突したことが診断されれば、診断装置からエアバッグ24のインフレータに点火信号が伝達される。S4においては、その点火信号に基づいて衝撃大と判定される。点火信号が検出されなければS4の判定がNOとなり、本プログラムの1回の実行が終了する。それに対して、点火信号が検出されれば、S4の判定がYESとなりS5に進む。
【0025】
S5においては摩擦抵抗が低減させられる。この摩擦抵抗は所定の大きさとされるようにすることも可能であるが、本実施形態では、抵抗変更用モータ42が、予め設定されている時間、逆方向に回転させられ、くさび部材48が案内部材52に沿ってステアリングホイール22から離間する向きに移動させられて、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が解除される。この状態において、前記点火信号に応じてインフレータからガスが運転者30の側へ噴出させられ、エアバッグ24が膨張させられれば、その反力によりステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに押され、さらに、エアバッグ24が運転者30の身体に接触するに到れば、エアバッグ24によって身体が後方へ押される際に、エアバッグ24も反力を受け、その反力によりステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに押される。そのステアリングホイール22に加えられた力が、ステアリングホイール22からインナコラム34に伝達され、インナコラム34がアウタコラム36に対して前方へ相対移動させられる。この移動量は移動量測定装置70により監視され、インナコラム34が、S2で設定された設定距離移動したことが認識されればS6の判定がYESとなり、S7に進んで、摩擦抵抗がS3で設定された値まで増大させられ、ステアリングコラム18の収縮に伴うエネルギ吸収が開始される。
【0026】
以上の説明から明らかなように、本操舵装置においては、制御装置80のうち、コンピュータ88の図4の制御プログラムのS5を実行する部分,移動量測定装置70および駆動回路92が「吸収エネルギ低減装置」を構成している。
【0027】
本操舵装置10は以上のように構成され、作動する結果、次のような効果が得られる。図5に運転者30の体格が標準的である場合を示す。この場合には、衝突時にステアリングホイール22が移動しないままエアバッグ24が展開させられる。ステアリングホイール22と運転者30との間隔が十分に広いので、エアバッグ24が展開した状態においても、エアバッグ24と運転者30の胸部との間に隙間が生じ、運転者30はその隙間を慣性力により空走し、エアバッグ24に接触する。図において、その空走距離をL1で示す。その後、運転者30はエアバッグ24をつぶしながら前進する。エアバッグ24は、運転者30の慣性に基づく運動エネルギを吸収しつつつぶれるので、運転者30の胸部は速度を減じながら前進する。図において、運転者30がエアバッグ24をつぶしながら前進する距離(エアバッグ吸収距離)をL2で示す。さらに、ステアリングホイール22およびステアリングコラム18に慣性力が加えられ、それらが変形したり、収縮したりして慣性エネルギを吸収する。ステアリングホイール18の塑性変形によりエネルギが吸収される距離(ホイール吸収距離)をL3、ステアリングコラム18が収縮することによりエネルギが吸収される距離(コラム吸収距離)をL4で示す。
【0028】
次に運転者30が小柄である場合について説明する。
まず、比較のために、エアバッグ24が展開する際にステアリングコラム94が収縮させられない従来の操舵装置92について、図6に基づいて説明する。この操舵装置92においては、ステアリングホイール22がエアバッグ24の展開時に移動しないので膨張する途中で運転者30と干渉する。すると、良好に膨張することができず、エアバッグ24によるエネルギ吸収が不十分になる。換言すれば、運転者30は、慣性エネルギを十分に吸収される前にステアリングホイール22に接触することとなるのであり、しかも、図においてL2で示すように、エアバッグ吸収距離が短くなる。運転者30の慣性エネルギは、ホイール吸収距離L3,コラム吸収距離L4で示す領域において吸収されるが、それらステアリングホイール22およびステアリングコラム94によるエネルギ吸収はエアバッグ24によるエネルギ吸収に比べて効果が小さい。
【0029】
それに対して、本実施形態の操舵装置10においては、エアバッグ24の展開時に、相対移動制御装置40が移動許容状態とされ、図7に示すように、エアバッグ24がガスの噴出により膨張させられることに基づく反力や、その膨張するエアバッグ24が運転者30に接触して運転者30から受ける反力等によりステアリングホイール22が運転者から遠ざかる向きに力を受けた際に、ステアリングコラム18が収縮させられてステアリングホイール22が移動するので、エアバッグ24が十分に膨張することが可能となり、エアバッグ24によるエネルギ吸収が良好に行われる(エアバッグ吸収距離L2)。しかも、ステアリングホイール22の移動距離が適正量に制御されるため、運転者30の空走距離L1を小さくすることができる。本操舵装置10においては、膨張時にステアリングホイール22を移動させる分だけコラム吸収距離L4は小さくなるが、運転者30が小柄であり、吸収すべき慣性エネルギが小さいため差し支えない。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における操舵装置10によれば、運転者30が小柄で、ステアリングホイール22との間隔が小さい場合であっても、車両の衝突時に、エアバッグ24を展開するのに十分なスペースが確保されるとともに、その後のステアリングコラム18の収縮に伴って、エネルギ吸収状態にある相対移動制御装置40により運転者30の慣性エネルギが十分に吸収され、ステアリングホイール22との衝突の衝撃が十分に緩和される。
【0031】
本実施形態においては、インナコラム34がステアリングホイール22側に設けられていたが、反対にアウタコラム36がステアリングホイール22側に設けられて、インナコラム34が車体に固定されてもよい。
間隔測定装置32は、超音波、レーザー光、ミリ波、画像認識などを利用した非接触式のセンサであってもよいし、シート位置、シートベルトの引き出し量、シートバックの角度、コラムのチルト量や伸縮量などを検知するセンサを設け、それらの測定値に基づいて運転者30とステアリングホイール22との間隔を間接的に取得(推定)するものであってもよい。さらに、運転者30とステアリングホイール22との間隔は直前に読み込まれた値にのみ基づいてもよい。
【0032】
次に、本発明の別の実施形態である操舵装置100について説明する。なお、本操舵装置100は上記操舵装置10と部分的に共通しているので、共通する部分については共通の符号を用いることにより説明を省略し、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0033】
本実施形態においては、図8に示すように、ステアリングシャフト102がステアリングホイール22側のアッパシャフト104と、車体側のロアシャフト106とを含み、円筒状のアッパシャフト104内にロアシャフト106が軸方向相対移動可能に、かつ相対回転不能に嵌合されることにより、ステアリングシャフト102が伸縮可能とされている。そのアッパシャフト104の外周にステアリングコラム108が相対回転可能に嵌合されている。ステアリングコラム108は2つのC形止め輪110,112によりアッパシャフト104に対する軸方向移動が防止されている。ステアリングコラム108は、スライド114に保持され、そのスライド114とステアリングコラム108との間にエネルギ吸収装置116が設けられている。
【0034】
スライド114は、ステアリングコラム108の軸方向(以下、単に軸方向と称する)に平行な本体部120と、本体部120のステアリングホイール22側の端部から直角に延び出た支持部122とを備える。本体部120は、車体側の部材12に固定された案内部材としてのガイド124に摺動可能に嵌合されている。ガイド124は、ステアリングシャフト102の軸方向に平行に配設されている。
【0035】
スライド114の支持部122を軸方向に貫通する嵌合穴126が形成され、それにステアリングコラム108が摺動可能に嵌合されている。その嵌合穴126に連通する係合穴128が形成されるとともに、ステアリングコラム108の外周の係合穴128に対向する部位にもほぼ同径の係合穴130が形成されている。それら係合穴128,130に、破損部材としての樹脂製の係止ピン132が挿通されて、スライド114とステアリングコラム108を相対移動不能に固定している。この係止ピン132は、一定以上の力が加えられれば破損してスライド114に対するステアリングコラム108の軸方向の相対移動を許容する。
【0036】
スライド114の本体部120には、上述のエネルギ吸収装置116が相対移動不能に保持されている。エネルギ吸収装置116は円筒状に形成され、ステアリングコラム108の外周に相対回転不能かつ軸方向相対移動不能に嵌合された塑性変形部材140を備える。塑性変形部材140は、金属製とすることも可能であるが、本実施形態においては合成樹脂製とされている。塑性変形部材140の外周に、複数の鋼球142を相対移動不能に保持する鋼球保持筒144が、軸方向に相対移動可能に嵌合されている。鋼球保持筒144の外周に金属製のスリーブ部146が相対移動不能に嵌合され、そのスリーブ部146がスライド114に固定的に保持されている。鋼球142は、それの直径がスリーブ部146の内周面と塑性変形部材140の外周面との隙間よりやや大きくされており、塑性変形部材140が鋼球保持筒144に対して軸方向に相対移動する場合には、鋼球142が塑性変形部材140を塑性変形させて外周面に塑性変形溝を形成する。
【0037】
なお、図において便宜的に、鋼球保持筒144が複数の鋼球142を同じ位相において保持するように描かれているが、実際には、各鋼球142は互いに異なる位相において保持されている。このエネルギ吸収装置116は、塑性変形部材140の外側に鋼球保持筒144を圧入して製造されており、塑性変形部材140の外周において各鋼球142より前方(ステアリングホイールとは反対側)の部分には既に塑性変形溝が形成されている。
【0038】
スライド114の支持部122に、ステアリングホイール22側の側面から軸方向に平行に延び出す耳片150が形成されている。耳片150には係合部としての係合穴152が形成され、車体側の部材12に固定された作動規制装置153に係合させられている。作動規制装置153は、駆動源たるソレノイド154を備え、耳片150に係合する係合部としての係合ピン156をそれの軸方向に移動可能に備えている。ソレノイド154は、係合ピン156を突出させ、耳片150の係合穴152に係合させて、スライド114のステアリングホイール22から離れる向きの移動を阻止する移動阻止状態と、係ピン156を係合穴152から抜け出させてスライド114の移動を許容する移動許容状態とに切り換えられる。スライド114には、さらに、スプリングリテーナ158が設けられて弾性部材たる引張コイルスプリング(以下、単にスプリングと称する)160の一方の端部が係合させられている。スプリング160の他方の端部は、スライド114よりステアリングホイール22側の図示しない車体の一部に係合させられ、スライド114をステアリングホイール22に接近する向きに付勢している。このスプリング160の初期荷重は小さく設定されており、スライド114がステアリングホイール22から離れる向きに移動する際、当初は殆どスライド114の移動に抗する抗力を加えないが、移動距離の増大に従って大きな抗力を加えるようにされている。ただし、抗力が最大の状態でも、エアバッグ24の膨張を妨げることはないように、ばね特性が選定されている。
【0039】
スライド114のステアリングホイール22とは反対側に、スライド114の移動限度を規定するストッパ装置170が、車体側の部材12に固定して設けられている。ストッパ装置170は、駆動源としての位置変更用モータ172を備え、その位置変更用モータ172から出力軸174がスライド114に向かって延び出している。出力軸174は位置変更用モータ172のロータに形成された雌ねじ部と螺合される雄ねじ部を備え、ロータの回転により、軸方向の位置が変更される。出力軸174の端部にはストッパ部材176が保持されている。ストッパ部材176は、スライド114に対向する側にクッション178を備え、スライド114の端面とストッパ部材176とが衝突する際の衝撃を緩和する。ストッパ部材176の位置を予め設定することにより、スライド114の移動量を任意に設定することができる。
【0040】
本操舵装置100は、図9に示す制御装置180を備えている。制御装置180は前述の実施形態における制御装置80と同様にコンピュータ88を備え、そのコンピュータ88の入出力インタフェース90に、間隔測定装置32が接続されている。入出力インタフェース90には、さらに、駆動回路92を介してソレノイド154および位置変更用モータ172が接続されている。以上のコンピュータ88,間隔測定装置32および2つの駆動回路92により制御装置180が構成されている。
【0041】
以下、本操舵装置100の作動を説明する。本実施形態においても、運転者30が小柄である場合について詳細に説明する。
車両の走行中は、作動規制装置153によりスライド114の移動が阻止されている。さらに、走行中に一定時間経過する毎にステアリングホイール22と運転者30との間隔が間隔測定装置32により測定される。その間隔が設定値より小さい場合には、車両の衝突時に、作動規制装置153によるスライド114の移動阻止が解除され、ステアリングホイール22から離間する向きの移動が許容されて、ステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに移動させられ、エアバッグ24の膨張スペースが確保される。また、上記間隔の測定値に基づいてステアリングホイール22の移動すべき距離が予め算出されており、それに基づいて、ストッパ装置170のストッパ部材176が位置決めされている。このことにより、スライド114の移動量が適正量に規制される。
【0042】
その後さらに、エアバッグ24を介してステアリングホイール22およびアッパシャフト104に運転者30の慣性力が加えられれば、係止ピン132が破損して、スライド114,スリーブ部146および鋼球保持筒144に対して塑性変形部材140,ステアリングコラム108およびアッパシャフト104が一体的に前方への移動(前進)を開始する。この移動により、塑性変形部材140の外周に塑性変形溝が形成されるとともに運転者30の慣性エネルギが吸収される。
【0043】
次に、図10に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。本実施形態においては、車両が走行している間は、本プログラムが繰り返し実行される。
まず、S11において、運転者30とステアリングホイール22との間隔の測定値が読み込まれ、S12においてそれら測定値の平均的な値が取得される。本プログラムは微小時間間隔で繰り返し実行され、この繰り返し毎にS11において1つずつの測定値が読み込まれ、S12において、例えば、移動平均値の演算等により間隔の平均的な値が取得される。取得された値に基づいて、S13でスライド114の移動距離が算出され、位置変更用モータ172が駆動されてストッパ176の位置が調節される。ただし、位置変更用モータ172は、スライド114の移動距離の変化量の絶対値が設定変化量を超えた場合にのみ作動させられる。位置変更用モータ172が頻繁に作動することがないようにされているのである。
【0044】
S14において、予め設定された値以上の大きさの衝撃が観測されたか否かが問われる。具体的には、制御装置180にインフレータの点火信号が入力されたか否かが判定される。点火信号の入力が検出されなければ、S14の判定がNOとなり、本プログラムの1回の実行が終了する。それに対して、点火信号が入力されれば、S14の判定がYESとなり、S15に進んでソレノイド154が駆動される。
【0045】
それにより、移動阻止装置153の係合ピン156が耳片150の係合穴152から抜け出してスライド114の移動が許容される。その状態で、前述したようにガスの噴出によりエアバッグ24が膨張させられる際に、ステアリングホイール22に運転者30から遠ざかる向きの力が加えられるので、スライド114がガイド124に沿って移動させられる。スライド114とともにアッパシャフト104およびステアリングコラム108が前方へ移動するが、これらのうちスライド114がストッパ部材176に当接することにより、スリーブ部146と鋼球保持筒144とが停止させられる。一方、アッパシャフト104およびステアリングコラム108の移動は制限されず、さらに運転者30から慣性力が加えられるので、係止ピン132が破損させられてステアリングコラム108およびアッパシャフト104がスライド114に対して相対移動を開始する。この相対移動により、鋼球142により塑性変形部材140の外周に塑性変形溝が形成されて、運転者30の慣性エネルギが吸収される。
【0046】
以上、運転者30が小柄であるなど、運転者30とステアリングホイール24との間隔が小さい場合について説明したが、運転者30とステアリングホイール24との間隔が予め設定された設定値より大きい場合には、車両の衝突時にソレノイド154が駆動されず、スライド114の移動が阻止される移動阻止状態が維持される。それにより、エアバッグ24を介して運転者30から慣性力が加えられれば、係止ピン132が破損させられて、ステアリングコラム108とアッパシャフト104とが移動しつつ慣性エネルギが吸収される。
【0047】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、スライド114とガイド124とが互いに共同して「反力利用移動装置」を構成し、制御装置180のうちの、コンピュータ88のS13を実行する部分,間隔測定装置32,および位置変更用モータ172を駆動する駆動回路92が、ストッパ装置170と共同して「相対移動許容距離変更部」構成している。
【0048】
本実施形態においては、運転者30とステアリングホイール22との間隔が狭い場合であっても、エアバッグ24が膨張する際に、反力利用移動装置のスライド114がステアリングホイール22とともに運転者30から遠ざかる向きに移動するため、エアバッグ24が十分に膨らむことができる。その後、衝突後の慣性力で運転者30がその膨らみきったエアバッグ24にぶつかる際には、そのエアバッグ24を介してエネルギ吸収装置116により運転者30の慣性エネルギが吸収されることとなる。
【0049】
本実施形態においては係止ピン132と係合穴128,130との係合により、エネルギ吸収装置の作動開始時期が決定されるようになっていたが、その他従来公知の種々の技術を利用することが可能である。例えば、カプセル樹脂モールドせん断,樹脂かじり,チューブ圧入力,カプセル締付けフリクションなどを利用するものでもよい。さらに、エネルギ吸収装置についても、従来の種々の技術を利用することができる。例えば、プレートしごき方式,プレート引き裂き方式,チューブ圧入方式,ベンディング方式,ボール圧入方式などを利用することができる。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である操舵装置を含む車両の車室内を示す側面図である。
【図2】図1における相対移動制御装置を拡大して示す側面断面図である。
【図3】本発明に係る操舵装置の制御装置の要部を抜き出して示すブロック図である。
【図4】本発明に係る操舵装置の制御プログラムを表すフローチャートである。
【図5】運転者が標準的な体格である場合における本発明に係る操舵装置の作動を説明するための図である。
【図6】運転者が小柄である場合における従来の操舵装置の作動を説明するための図である。
【図7】運転者が小柄である場合における本発明に係る操舵装置の作動を説明するための図である。
【図8】本発明の別の実施形態である操舵装置の要部を拡大して示す側面断面図である。
【図9】上記操舵装置の制御装置の要部を抜き出して示すブロック図である。
【図10】上記制御装置の制御プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
10:操舵装置 18:ステアリングコラム 22:ステアリングホイール 24:エアバッグ 30:運転者 32:間隔測定装置
34:インナコラム 36:アウタコラム 40:相対移動制御装置 42:抵抗変更用モータ 48:くさび部材 70:移動量測定装置 80:制御装置 82:CPU 84:ROM 86:RAM 88:コンピュータ 90:入出力インタフェース 100:操舵装置 102:ステアリングシャフト 104:アッパシャフト 106:ロアシャフト 108:ステアリングコラム 114:スライド 116:エネルギ吸収装置 170:ストッパ装置
180:制御装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の操舵装置に関するものであり、特に、ステアリングホイールにエアバッグが設けられる形式の操舵装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の操舵装置は既に知られている。例えば、下記特許文献1には、ステアリングホイールにエアバッグを設置するとともに、ステアリングコラムを収縮可能とすることが記載されている。ステアリングコラムが互いに嵌合されたアウタコラムとインナコラムとを含むものとされ、それら両コラムの嵌合部にエネルギ吸収装置が配設されている。アウタコラムとインナコラムとの間にはさらに、インフレータが発生する窒素ガスにより作動させられるガスシリンダが設けられている。このインフレータは、エアバッグを膨らませるためのインフレータとは別のものである。ステアリングホイールと運転者との間隔が距離測定装置により測定され、測定された間隔が設定値以下である場合には、車両の衝突時に2つのインフレータが点火され、発生した窒素ガスによりエアバッグが膨らませられるとともに、ガスシリンダが作動させられて、ステアリングコラムがエネルギ吸収装置の抵抗に打ち勝って一定量収縮させられる。それによって、ステアリングホイールと運転者との間隔が狭い場合に、ステアリングホイールが運転者から離間させられ、ステアリングホイールに設置されているエアバッグが膨らむためのスペースが確保される。
【0003】
また、ステアリングホイールと運転者との間隔が設定値より大きい場合には、エアバッグが膨らむためのスペースが十分であるため、ガスシリンダは作動させられない。これらいずれの場合にも、運転者が膨らんだエアバッグを介してステアリングホイールに衝突した場合に、ステアリングコラムがエネルギ吸収装置の抵抗に打ち勝って収縮し、運転者の慣性エネルギがエネルギ吸収装置によって吸収される。さらに、距離測定装置により測定されたステアリングホイールと運転者との間隔が小さい場合には、運転者が小柄で慣性エネルギが小さいことを意味しているため、ステアリングコラムの単位長さの収縮に伴ってエネルギ吸収装置により吸収されるエネルギが小さくなるようにされている。
【0004】
特許文献2にもステアリングホイールにエアバッグを設置するとともに、ステアリングコラムを収縮可能とすることが記載されている。この操舵装置においては、1つのインフレータにより発生させられたガスにより、ステアリングコラムが収縮させられるとともに、エアバッグが膨らまされる。ステアリングコラムを収縮させるガスシリンダは、ステアリングコラムのアウタコラムとインナコラムとの間の円筒状の空間を利用して構成されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−79944号公報
【特許文献2】
特開2000−168481号公報
【特許文献3】
特開平6−227341号公報
【特許文献4】
特開平5−162646号公報
【0006】
上記のように、ガスシリンダにより、ステアリングコラムを収縮させれば、ステアリングホイールと運転者との間に、エアバッグが膨らむために十分なスペースを確保することができる。しかしながら、構成が複雑となり、製造コストが高くなることを避け得ない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
本発明は、以上の事情を背景とし、構成の複雑化を極力回避しつつステアリングホイールと運転者との間にエアバッグが膨らむに十分なスペースを確保することを課題としてなされたものであり、本発明によって、下記各態様の操舵装置がが得られる。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、一つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではない。一部の事項のみを選択して採用することも可能なのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(5)項と(6)項とを合わせたものが請求項5に、(5)項と(8)項とを合わせたものが請求項6にそれぞれ相当する。
【0009】
(1)ステアリングホイールにエアバッグが設置された操舵装置において、
前記エアバッグの展開時に前記ステアリングホイールに加えられる反力により、前記ステアリングホイールを車両の運転者から遠ざかる向きに移動させる反力利用移動装置を設けたことを特徴とする操舵装置。
エアバッグの展開時にステアリングホイールに加えられる反力には、例えば、ガスの噴出によりエアバッグが運転者に近づく向きに膨張させられることに基づく反力や、エアバッグが膨張し、運転者と接触した後にさらにエアバッグが膨張し続けるのに伴い運転者からエアバッグを介してステアリングホイールに運転者から遠ざかる向きに加えられる力等があり、反力利用移動装置はこれら反力の少なくとも1つにより作動させられるものとされる。
このようなエアバッグの膨張時にステアリングホイールに加えられる反力によって作動する反力利用移動装置により、ステアリングホイールを運転者から遠ざかる向きに移動させれば、ステアリングホイールと運転者との間にエアバッグが膨らむための十分なスペースを確保することができる。しかも、反力利用移動装置は、前記ガス圧により作動するガスシリンダに比較して安価に製造し得るため、操舵装置の製造コストの上昇を良好に抑制することができる。
(2)常には前記反力利用移動装置の作動を阻止する状態にあり、車両衝突時に作動を許容する状態となる作動規制装置を含む (1)項に記載の操舵装置。
常には反力利用移動装置の作動を阻止する状態にある作動規制装置を設ければ、エアバッグが設置されたステアリングホイールの不必要な移動を確実に防止することができる一方、車両の衝突時には、反力利用移動装置の作動が許容されることにより、ステアリングホイールが運転者から離間する向きに移動し、エアバッグの十分な膨張スペースが確保されるようにすることができる。
(3)前記ステアリングホイールと運転者との間隔を検出する間隔検出装置を含み、その間隔検出装置により検出される間隔が設定値以下である状態で車両が衝突した場合に、前記作動規制装置が前記反力利用移動装置の作動を許容する状態となる (2)項に記載の操舵装置。
本項の操舵装置においては、運転者が小柄でステアリングホイールとの間に十分なスペースを確保できない場合に、ステアリングホイールが運転者から遠ざかる向きに移動して、エアバッグが膨らむスペースを確保することができる。
間隔検出装置としては、ステアリングホイールと運転者との間隔を直接検出する直接検出装置や、間接的に検出する間接検出装置を採用することができる。前者は、例えば、超音波,レーザ光,ミリ波等を利用する非接触型の距離測定装置や画像認識等を包含し、後者は、例えば、シート位置検出装置や安全ベルトの引き出し量検出装置等を包含する。
(4)前記反力利用移動装置が、前記ステアリングホイールを保持するステアリングコラムの伸縮を許容する伸縮許容部を含む (1)項ないし (3)項のいずれかに記載の操舵装置。
ステアリングコラム全体が運転者から離間する向きに移動するようにすることも可能である。しかし、ステアリングコラムを伸縮可能にする方がステアリングホイールの移動距離を大きくすることが容易な場合が多く、伸縮許容部自体が反力利用移動装置として機能する態様は特に製造コストを低減させ得るものである。しかし、伸縮許容部とは別に反力利用移動装置を設けることも可能である。また、伸縮許容部に対応して圧縮コイルスプリング等の弾性部材を配設し、その弾性部材の弾性力とステアリングホイールに加えられる反力との関係で決まる状態でステアリングコラムの収縮が行われるようにすれば、衝撃少なくステアリングホイールの移動を停止させることができる。
(5)車両衝突時に運転者により前記エアバッグを介して与えられるエネルギを吸収しつつステアリングホイールの移動を許容するエネルギ吸収装置を含む (1)ないし (4)項のいずれかに記載の操舵装置。
エネルギ吸収装置は、エアバッグとステアリングホイールとの間に設けられても、車体に対してステアリングホイールの回転軸線に平行な方向に移動不能な部材とステアリングホイールとの間に設けられてもよく、両方に設けられてもよい。ステアリングコラムが、複数部材が摺動可能に嵌合されることにより伸縮可能とされる場合、ステアリングコラムの、車体に対して軸方向に相対移動不能な部分と移動可能な部分との間、ステアリングコラムの軸方向に移動可能な部分と車体との間、あるいは移動可能な部分とステアリングホイールとの間に、エネルギ吸収装置が設けられることが望ましい。また、エネルギ吸収装置は、エアバッグの単位移動距離当たりの吸収エネルギ量を調節可能な吸収エネルギ調節型とされることが望ましく、衝突前におけるステアリングホイールと運転者との間隔に応じて自動で調節されるものであることが望ましい。
(6)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置と前記ステアリングホイールとの間に設けられて両者の相対移動を許容するものである (5)項に記載の操舵装置。
エアバッグが膨張する際に反力利用移動装置の作動によってステアリングホイールが運転者から遠ざかる向きに移動させられ、エアバッグが十分に膨らんだ後、そのエアバッグを介して与えられる運転者の慣性エネルギが、エネルギ吸収装置により吸収されることとなる。
(7)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置と前記ステアリングホイールとの相対移動を許容する相対移動許容距離を変更する相対移動許容距離変更部を含む (6)項に記載の操舵装置。
本項に記載の特徴によれば、ステアリングホイールと運転者とのエアバッグ膨張用スペースの大きさを変更することができる。例えば、前述の間隔検出装置と組み合わせれば、運転者とステアリングホイールとの間隔の大小に応じてエアバッグ膨張用スペースの大きさを3段以上の多段階あるいは無限段階に変更することができるのである。
(8)前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置が前記ステアリングホイールの移動を許容する領域のうち、初期に移動を許容する領域において、エネルギ吸収装置がエアバッグの単位移動距離当たり吸収するエネルギ量を低減させる吸収エネルギ低減装置を含む (5)項に記載の操舵装置。
本項に記載の操舵装置においては、エネルギ吸収装置の一部を反力利用移動装置として利用することができる。エネルギ吸収装置の、吸収エネルギ低減装置により単位移動距離当たりの吸収エネルギ量が低減させられた部分を、反力利用移動装置として機能させることができるのである。エアバッグの単位移動距離当たり吸収されるエネルギ量を0まで低減させることも可能である。
(9)前記吸収エネルギ低減装置が、吸収エネルギを低減させる領域の大きさを変更する領域変更部を含む (8)項に記載の操舵装置。
本項に記載の特徴によれば、 (7)項に関連して説明した作用,効果が得られる。
(10)前記エネルギ吸収装置が、前記ステアリングホイールの移動に伴って相対移動する2部材の間に摩擦抵抗を発生させる摩擦抵抗発生装置を含み、前記吸収エネルギ低減装置が、その摩擦抵抗発生装置が発生する摩擦力を低減させる摩擦抵抗低減装置を含む (8)項または (9)項に記載の操舵装置。
摩擦低減装置により摩擦抵抗発生装置が発生する摩擦力が低減させられている間、摩擦抵抗発生装置が反力利用移動装置として作動する。
(11)前記ステアリングホイールの移動距離を検出する移動距離検出装置を含み、前記吸収エネルギ低減装置がその移動距離検出装置の検出結果に基づいて前記吸収エネルギの低減制御を行う移動距離依拠低減制御部を含む (8)項ないし(10)項のいずれかに記載の操舵装置。
例えば、車両衝突時に、当初、吸収エネルギが低減させられ、移動距離検出装置により検出された移動距離が所定値に達したとき、吸収エネルギの低減が終了させられるようにするのである。上記所定値を、ステアリングホイールと運転者との間隔を検出する間隔検出装置の検出結果に応じて変更することも可能であり、各運転者に適した保護機能を発揮させることができる。また、移動距離検出装置により検出される移動距離に応じて、吸収エネルギ低減装置によるエネルギ吸収装置の吸収エネルギ量低減の程度を変化させることも可能であり、運転者の保護機能を高めることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態である操舵装置を図1ないし図4に基づいて詳細に説明する。操舵装置については一般によく知られているので、全体の説明は簡略に行い、本発明に直接関係のある部分についてのみ詳細に説明する。
図1に車室内部を概念的に示す。図において10は操舵装置である。操舵装置10は、車体側の部材12に2つのブラケット14,16を介して支持されるステアリングコラム18と、ステアリングコラム18内に相対回動可能に保持されたステアリングシャフト(図示省略)と、ステアリングシャフトの運転者側の端部に取り付けられたステアリングホイール22とを備える。ステアリングホイール22の中央部に図示を省略するステアリングパッドが設けられ、エアバッグ24およびエアバッグ展開用のインフレータ(図示省略)等が収納されている。
【0011】
この操舵装置10は、運転者30がステアリングホイール22を回転させると、ステアリングシャフトを介して、その回転力が図示しないステアリングギヤに伝達される。ステアリングギヤ内には、回転入力を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構等の運動変換機構が配設されており、さらにタイロッド等を介して転舵車輪の舵角が変化させられる。
【0012】
ステアリングパッドのエアバッグ24等と干渉しない部位に運転者30との間隔を測定する間隔測定装置32(図3参照)が配設されている。本実施形態においては、間隔測定装置32は、超音波を利用する非接触式の距離測定装置とされている。
【0013】
ステアリングコラム18は、図2に示すように、ステアリングホイール22側に位置するインナコラム34と車体側のアウタコラム36とを備え、それらが軸方向に相対移動可能に嵌合されることにより、ステアリングコラム18が伸縮可能とされている。インナコラム34とアウタコラム36との嵌合部には、摩擦抵抗を発生させるとともにその摩擦抵抗を制御することにより上記インナコラム34とアウタコラム36との相対移動を制御する相対移動制御装置40が設けられている。なお、図示は省略するが、ステアリングシャフトも、互いに軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合された2つのシャフト部材を備え、ステアリングコラム18の伸縮に伴って伸縮可能である。
【0014】
相対移動制御装置40は、アウタコラム36に固定され、摩擦抵抗を増減させるための抵抗変更用モータ42を備える。抵抗変更用モータ42は減速機付きの電動モータであって、それの軸線まわりに回転可能な出力軸44の外周に雄ねじ部46が形成され、くさび部材48の雌ねじ穴50に螺合されている。くさび部材48は、アウタコラム36に固定された案内部材52に摺動可能かつ回転不能に嵌合されており、ステアリングコラム18の軸方向(以下、単に軸方向と称する)に平行な方向にのみ移動可能である。くさび部材48は、ステアリングコラム18に対向する側の面が、ステアリングホイール22に近い部分ほどステアリングコラム18の軸線から離れる向きに傾斜した傾斜面54とされている。くさび部材48の傾斜面54とインナコラム34の外周面との間に摩擦パッド56が配設されている。摩擦パッド56は、アウタコラム36の周壁を貫通して形成された保持穴58に摺動可能に保持され、インナコラム34に接近・離間可能とされている。摩擦パッド56は概してくさび形に形成され、裏板60と摩擦材62とを備えている。裏板60の上記くさび部材48と接触する背面64がくさび部材48の傾斜面54に対応する傾斜角を有し、反対側のインナコラム34に対向する面に摩擦材62が固着されている。摩擦材62のインナコラム34側の面は、インナコラム34の外周面に対応する部分円筒凹面とされている。
【0015】
くさび部材48は、抵抗変更用モータ42の出力軸44の回転につれて、案内部材52に案内されつつ軸方向に移動する。このくさび部材48の軸方向移動により、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が変化するため、摩擦パッド56とインナコラム34との間の摩擦抵抗の大きさを制御することができる。具体的には、くさび部材48をステアリングホイール22に接近する向きに移動させれば、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が増大して、摩擦抵抗が増大する。抵抗変更用モータ42への供給電流が設定電流に達すれば、摩擦抵抗が設定抵抗となり、相対移動制御装置40はインナコラム34とアウタコラム36との相対移動を阻止する移動阻止状態となる。これに対して、くさび部材48をステアリングホイール22から離間する向きに移動させれば、摩擦パッド56の押付力が減少し、摩擦抵抗が減少してインナコラム34とアウタコラム36との相対移動が可能となる。
【0016】
この相対移動が可能な状態には、後に説明するように、エアバッグ24が膨張する際の反力とエアバッグ24が運転者30に接触した後も膨張することにより運転者30から受ける反力とがステアリングホイール22に加わえられてステアリングホイール22とともにインナコラム34が移動させられる状態と、運転者30がエアバッグ24を介してステアリングホイール22に衝突したとき、運転者30の身体の慣性運動のエネルギを吸収しつつエアバッグ24が移動することを許容する状態とが含まれる。前者の状態で作動するとき、相対移動制御装置40は反力利用移動装置の一部として機能し、後者の状態で作動するとき、エネルギ吸収装置の一部として機能する。さらに、前記移動阻止状態にあるとき、相対移動制御装置40は作動規制装置の一部として機能する。すなわち、本実施形態においては、インナコラム34とアウタコラム36とが相対移動可能に嵌合されることによりステアリングコラム18が伸縮可能とされている構成と、1つの相対移動制御装置40との組合わせが、作動規制装置,反力利用移動装置およびエネルギ吸収装置の3つを兼ねていることとなるのである。
【0017】
なお、抵抗変更用モータ42は、電流が供給されない状態においてみだりに回転せず、くさび部材48を所定の位置に維持し得るものであることが望ましい。例えば、電流の供給によって解除されるブレーキを備えた電動モータや、超音波モータが適している。あるいは、電動モータの回転部に常時摩擦材を接触させ、回転部にその摩擦部材の摩擦抵抗に打ち勝つ回転トルクが加えられない限り電動モータが回転しないようにしてもよい。
アウタコラム36の端部には、移動量測定装置70が設けられており、インナコラム34のアウタコラム36に対する移動量が測定される。
【0018】
本操舵装置10は、図3に示す制御装置80を備えている。制御装置80は、CPU82,ROM84,RAM86,それらを接続するバスおよび入出力インタフェース(図においてはI/Oインタフェースと表示)90を備えたコンピュータ88を主体とするものである。入出力インタフェース90には、間隔測定装置32および移動量測定装置70が接続され、さらに、駆動回路92を介して抵抗変更用モータ42が接続されている。以上コンピュータ88,間隔測定装置32,移動量測定装置70および駆動回路92により制御装置80が構成されている。
【0019】
次に、本操舵装置10の作動を説明する。まず概略的に説明する。走行中は、相対移動制御装置40が移動阻止状態に維持されていて、インナコラム34が移動することが阻止されている。走行中に間隔測定装置32により、運転者30とステアリングホイール22との間隔が繰り返し測定され、その測定値に基づいてエアバッグ24の膨張スペースが十分であるか否かが予め判断される。運転者30が小柄であって、運転者30とステアリングホイール22との間隔が小さく、十分な膨張スペースが確保できないと判断された場合には、車両の衝突時に、相対移動制御装置40が移動許容状態とされ、ステアリングホイール22がエアバッグ24の膨張に伴って加えられる反力により運転者30から離間する向きに移動させられる。その際には、ステアリングホイール22に設置されたインフレータから運転者30の側へ噴出するガスによってエアバッグ24が膨張させられるため、その反力がステアリングホイール22に加えられるのである。そして、エアバッグ24がさらに膨張して運転者30に接触すると、エアバッグ24は運転者30から膨張の向きと反対向きの力を受け、その力が、ステアリングホイール22に加えられる。ステアリングホイール22が移動させられる際、移動量測定装置70により、インナコラム34のアウタコラム36に対する移動量が監視されており、ステアリングホイール22が予め設定された移動量(エアバッグ24の適切な膨張スペース確保される量)移動した後、相対移動制御装置40がエネルギ吸収状態とされる。したがって、この後に運転者30の身体の慣性に基づいて、エアバッグ24を介してステアリングホイール22に与えられるエネルギが相対移動制御装置40により吸収される。このとき、ステアリングホイール22の単位移動距離当たりの吸収エネルギの大きさが、各運転者30の体格に適した大きさに制御される。
【0020】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。このプログラムは、車両の走行中、繰り返し実行される。
まず、ステップ1(以下、単にS1で表す。他のステップについても同じ)において、運転者30とステアリングホイール22との間隔の値が読み込まれる。図示を省略するプログラムの実行により、間隔測定装置32により測定された運転者30とステアリングホイール22との間隔が繰り返し読み込まれ、それら複数の測定値の平均的な値が現在の間隔の値として取得される。S1においては、この間隔の値が読み込まれるのである。
【0021】
次に、S2においてインナコラム34の移動量が設定される。相対移動制御装置40が移動許容状態に保たれ、エアバッグ24の膨張スペースが確保される際のインナコラム34の移動量が、上記間隔の値に基づいて設定されるのである。具体的には、間隔が小さいほど、移動量が大きく設定され、エアバッグ24の膨張に必要なスペースが確保される。続いてS3において、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗の大きさが設定される。相対移動制御装置40がエネルギ吸収状態とされる際の摩擦抵抗の大きさが、上記間隔の値に基づいて設定されるのである。具体的には、間隔が小さいほど、衝突時における摩擦抵抗が小さく設定され、インナコラム34が容易に移動できるようにされる。
【0022】
なお、インナコラム34の移動可能な距離は予め決まっているので、エアバッグ24の膨張スペースを確保するための移動量を大きくすれば、慣性エネルギを吸収するために利用可能な移動距離が短くなる。しかしながら、間隔が小さい場合には、運転者30の身体が有する慣性に基づく運動エネルギも小さいため差し支えない。むしろ、比較的小さい力でエアバッグ24およびステアリングホイール22が移動して、運転者30に対する衝撃が小さくなるようにされることが望ましい。それに対して、間隔が比較的大きい場合には、エアバッグ24を展開するためのインナコラム34の移動量が小さくて済み、慣性エネルギを吸収するために利用可能な移動距離が長くなるので、大きな運動エネルギを吸収することができる。また、エアバッグ24およびステアリングホイール22に加えられる力が大きくなるため、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗が大きく設定される。
【0023】
さらに付言すれば、運転者30が標準以上の体格であって、運転者30とステアリングホイール22との間隔が設定値より大きい場合には、車両の衝突時であっても相対移動制御装置40が移動阻止状態に維持され、インナコラム34とアウタコラム36との間の摩擦抵抗が大きい値に保たれるとともに、インナコラム34の移動可能距離全体を利用して運転者30の慣性エネルギが吸収されるようにされる。
【0024】
S4において、車両に設定値以上の衝撃が加えられたか否かが問われる。車両には、図示は省略するが、振動センサや慣性力センサが設けられており、それらセンサの信号に基づいて、診断装置により車両が衝突したか否かが診断される。診断装置により衝突したことが診断されれば、診断装置からエアバッグ24のインフレータに点火信号が伝達される。S4においては、その点火信号に基づいて衝撃大と判定される。点火信号が検出されなければS4の判定がNOとなり、本プログラムの1回の実行が終了する。それに対して、点火信号が検出されれば、S4の判定がYESとなりS5に進む。
【0025】
S5においては摩擦抵抗が低減させられる。この摩擦抵抗は所定の大きさとされるようにすることも可能であるが、本実施形態では、抵抗変更用モータ42が、予め設定されている時間、逆方向に回転させられ、くさび部材48が案内部材52に沿ってステアリングホイール22から離間する向きに移動させられて、摩擦パッド56のインナコラム34への押付力が解除される。この状態において、前記点火信号に応じてインフレータからガスが運転者30の側へ噴出させられ、エアバッグ24が膨張させられれば、その反力によりステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに押され、さらに、エアバッグ24が運転者30の身体に接触するに到れば、エアバッグ24によって身体が後方へ押される際に、エアバッグ24も反力を受け、その反力によりステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに押される。そのステアリングホイール22に加えられた力が、ステアリングホイール22からインナコラム34に伝達され、インナコラム34がアウタコラム36に対して前方へ相対移動させられる。この移動量は移動量測定装置70により監視され、インナコラム34が、S2で設定された設定距離移動したことが認識されればS6の判定がYESとなり、S7に進んで、摩擦抵抗がS3で設定された値まで増大させられ、ステアリングコラム18の収縮に伴うエネルギ吸収が開始される。
【0026】
以上の説明から明らかなように、本操舵装置においては、制御装置80のうち、コンピュータ88の図4の制御プログラムのS5を実行する部分,移動量測定装置70および駆動回路92が「吸収エネルギ低減装置」を構成している。
【0027】
本操舵装置10は以上のように構成され、作動する結果、次のような効果が得られる。図5に運転者30の体格が標準的である場合を示す。この場合には、衝突時にステアリングホイール22が移動しないままエアバッグ24が展開させられる。ステアリングホイール22と運転者30との間隔が十分に広いので、エアバッグ24が展開した状態においても、エアバッグ24と運転者30の胸部との間に隙間が生じ、運転者30はその隙間を慣性力により空走し、エアバッグ24に接触する。図において、その空走距離をL1で示す。その後、運転者30はエアバッグ24をつぶしながら前進する。エアバッグ24は、運転者30の慣性に基づく運動エネルギを吸収しつつつぶれるので、運転者30の胸部は速度を減じながら前進する。図において、運転者30がエアバッグ24をつぶしながら前進する距離(エアバッグ吸収距離)をL2で示す。さらに、ステアリングホイール22およびステアリングコラム18に慣性力が加えられ、それらが変形したり、収縮したりして慣性エネルギを吸収する。ステアリングホイール18の塑性変形によりエネルギが吸収される距離(ホイール吸収距離)をL3、ステアリングコラム18が収縮することによりエネルギが吸収される距離(コラム吸収距離)をL4で示す。
【0028】
次に運転者30が小柄である場合について説明する。
まず、比較のために、エアバッグ24が展開する際にステアリングコラム94が収縮させられない従来の操舵装置92について、図6に基づいて説明する。この操舵装置92においては、ステアリングホイール22がエアバッグ24の展開時に移動しないので膨張する途中で運転者30と干渉する。すると、良好に膨張することができず、エアバッグ24によるエネルギ吸収が不十分になる。換言すれば、運転者30は、慣性エネルギを十分に吸収される前にステアリングホイール22に接触することとなるのであり、しかも、図においてL2で示すように、エアバッグ吸収距離が短くなる。運転者30の慣性エネルギは、ホイール吸収距離L3,コラム吸収距離L4で示す領域において吸収されるが、それらステアリングホイール22およびステアリングコラム94によるエネルギ吸収はエアバッグ24によるエネルギ吸収に比べて効果が小さい。
【0029】
それに対して、本実施形態の操舵装置10においては、エアバッグ24の展開時に、相対移動制御装置40が移動許容状態とされ、図7に示すように、エアバッグ24がガスの噴出により膨張させられることに基づく反力や、その膨張するエアバッグ24が運転者30に接触して運転者30から受ける反力等によりステアリングホイール22が運転者から遠ざかる向きに力を受けた際に、ステアリングコラム18が収縮させられてステアリングホイール22が移動するので、エアバッグ24が十分に膨張することが可能となり、エアバッグ24によるエネルギ吸収が良好に行われる(エアバッグ吸収距離L2)。しかも、ステアリングホイール22の移動距離が適正量に制御されるため、運転者30の空走距離L1を小さくすることができる。本操舵装置10においては、膨張時にステアリングホイール22を移動させる分だけコラム吸収距離L4は小さくなるが、運転者30が小柄であり、吸収すべき慣性エネルギが小さいため差し支えない。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における操舵装置10によれば、運転者30が小柄で、ステアリングホイール22との間隔が小さい場合であっても、車両の衝突時に、エアバッグ24を展開するのに十分なスペースが確保されるとともに、その後のステアリングコラム18の収縮に伴って、エネルギ吸収状態にある相対移動制御装置40により運転者30の慣性エネルギが十分に吸収され、ステアリングホイール22との衝突の衝撃が十分に緩和される。
【0031】
本実施形態においては、インナコラム34がステアリングホイール22側に設けられていたが、反対にアウタコラム36がステアリングホイール22側に設けられて、インナコラム34が車体に固定されてもよい。
間隔測定装置32は、超音波、レーザー光、ミリ波、画像認識などを利用した非接触式のセンサであってもよいし、シート位置、シートベルトの引き出し量、シートバックの角度、コラムのチルト量や伸縮量などを検知するセンサを設け、それらの測定値に基づいて運転者30とステアリングホイール22との間隔を間接的に取得(推定)するものであってもよい。さらに、運転者30とステアリングホイール22との間隔は直前に読み込まれた値にのみ基づいてもよい。
【0032】
次に、本発明の別の実施形態である操舵装置100について説明する。なお、本操舵装置100は上記操舵装置10と部分的に共通しているので、共通する部分については共通の符号を用いることにより説明を省略し、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0033】
本実施形態においては、図8に示すように、ステアリングシャフト102がステアリングホイール22側のアッパシャフト104と、車体側のロアシャフト106とを含み、円筒状のアッパシャフト104内にロアシャフト106が軸方向相対移動可能に、かつ相対回転不能に嵌合されることにより、ステアリングシャフト102が伸縮可能とされている。そのアッパシャフト104の外周にステアリングコラム108が相対回転可能に嵌合されている。ステアリングコラム108は2つのC形止め輪110,112によりアッパシャフト104に対する軸方向移動が防止されている。ステアリングコラム108は、スライド114に保持され、そのスライド114とステアリングコラム108との間にエネルギ吸収装置116が設けられている。
【0034】
スライド114は、ステアリングコラム108の軸方向(以下、単に軸方向と称する)に平行な本体部120と、本体部120のステアリングホイール22側の端部から直角に延び出た支持部122とを備える。本体部120は、車体側の部材12に固定された案内部材としてのガイド124に摺動可能に嵌合されている。ガイド124は、ステアリングシャフト102の軸方向に平行に配設されている。
【0035】
スライド114の支持部122を軸方向に貫通する嵌合穴126が形成され、それにステアリングコラム108が摺動可能に嵌合されている。その嵌合穴126に連通する係合穴128が形成されるとともに、ステアリングコラム108の外周の係合穴128に対向する部位にもほぼ同径の係合穴130が形成されている。それら係合穴128,130に、破損部材としての樹脂製の係止ピン132が挿通されて、スライド114とステアリングコラム108を相対移動不能に固定している。この係止ピン132は、一定以上の力が加えられれば破損してスライド114に対するステアリングコラム108の軸方向の相対移動を許容する。
【0036】
スライド114の本体部120には、上述のエネルギ吸収装置116が相対移動不能に保持されている。エネルギ吸収装置116は円筒状に形成され、ステアリングコラム108の外周に相対回転不能かつ軸方向相対移動不能に嵌合された塑性変形部材140を備える。塑性変形部材140は、金属製とすることも可能であるが、本実施形態においては合成樹脂製とされている。塑性変形部材140の外周に、複数の鋼球142を相対移動不能に保持する鋼球保持筒144が、軸方向に相対移動可能に嵌合されている。鋼球保持筒144の外周に金属製のスリーブ部146が相対移動不能に嵌合され、そのスリーブ部146がスライド114に固定的に保持されている。鋼球142は、それの直径がスリーブ部146の内周面と塑性変形部材140の外周面との隙間よりやや大きくされており、塑性変形部材140が鋼球保持筒144に対して軸方向に相対移動する場合には、鋼球142が塑性変形部材140を塑性変形させて外周面に塑性変形溝を形成する。
【0037】
なお、図において便宜的に、鋼球保持筒144が複数の鋼球142を同じ位相において保持するように描かれているが、実際には、各鋼球142は互いに異なる位相において保持されている。このエネルギ吸収装置116は、塑性変形部材140の外側に鋼球保持筒144を圧入して製造されており、塑性変形部材140の外周において各鋼球142より前方(ステアリングホイールとは反対側)の部分には既に塑性変形溝が形成されている。
【0038】
スライド114の支持部122に、ステアリングホイール22側の側面から軸方向に平行に延び出す耳片150が形成されている。耳片150には係合部としての係合穴152が形成され、車体側の部材12に固定された作動規制装置153に係合させられている。作動規制装置153は、駆動源たるソレノイド154を備え、耳片150に係合する係合部としての係合ピン156をそれの軸方向に移動可能に備えている。ソレノイド154は、係合ピン156を突出させ、耳片150の係合穴152に係合させて、スライド114のステアリングホイール22から離れる向きの移動を阻止する移動阻止状態と、係ピン156を係合穴152から抜け出させてスライド114の移動を許容する移動許容状態とに切り換えられる。スライド114には、さらに、スプリングリテーナ158が設けられて弾性部材たる引張コイルスプリング(以下、単にスプリングと称する)160の一方の端部が係合させられている。スプリング160の他方の端部は、スライド114よりステアリングホイール22側の図示しない車体の一部に係合させられ、スライド114をステアリングホイール22に接近する向きに付勢している。このスプリング160の初期荷重は小さく設定されており、スライド114がステアリングホイール22から離れる向きに移動する際、当初は殆どスライド114の移動に抗する抗力を加えないが、移動距離の増大に従って大きな抗力を加えるようにされている。ただし、抗力が最大の状態でも、エアバッグ24の膨張を妨げることはないように、ばね特性が選定されている。
【0039】
スライド114のステアリングホイール22とは反対側に、スライド114の移動限度を規定するストッパ装置170が、車体側の部材12に固定して設けられている。ストッパ装置170は、駆動源としての位置変更用モータ172を備え、その位置変更用モータ172から出力軸174がスライド114に向かって延び出している。出力軸174は位置変更用モータ172のロータに形成された雌ねじ部と螺合される雄ねじ部を備え、ロータの回転により、軸方向の位置が変更される。出力軸174の端部にはストッパ部材176が保持されている。ストッパ部材176は、スライド114に対向する側にクッション178を備え、スライド114の端面とストッパ部材176とが衝突する際の衝撃を緩和する。ストッパ部材176の位置を予め設定することにより、スライド114の移動量を任意に設定することができる。
【0040】
本操舵装置100は、図9に示す制御装置180を備えている。制御装置180は前述の実施形態における制御装置80と同様にコンピュータ88を備え、そのコンピュータ88の入出力インタフェース90に、間隔測定装置32が接続されている。入出力インタフェース90には、さらに、駆動回路92を介してソレノイド154および位置変更用モータ172が接続されている。以上のコンピュータ88,間隔測定装置32および2つの駆動回路92により制御装置180が構成されている。
【0041】
以下、本操舵装置100の作動を説明する。本実施形態においても、運転者30が小柄である場合について詳細に説明する。
車両の走行中は、作動規制装置153によりスライド114の移動が阻止されている。さらに、走行中に一定時間経過する毎にステアリングホイール22と運転者30との間隔が間隔測定装置32により測定される。その間隔が設定値より小さい場合には、車両の衝突時に、作動規制装置153によるスライド114の移動阻止が解除され、ステアリングホイール22から離間する向きの移動が許容されて、ステアリングホイール22が運転者30から遠ざかる向きに移動させられ、エアバッグ24の膨張スペースが確保される。また、上記間隔の測定値に基づいてステアリングホイール22の移動すべき距離が予め算出されており、それに基づいて、ストッパ装置170のストッパ部材176が位置決めされている。このことにより、スライド114の移動量が適正量に規制される。
【0042】
その後さらに、エアバッグ24を介してステアリングホイール22およびアッパシャフト104に運転者30の慣性力が加えられれば、係止ピン132が破損して、スライド114,スリーブ部146および鋼球保持筒144に対して塑性変形部材140,ステアリングコラム108およびアッパシャフト104が一体的に前方への移動(前進)を開始する。この移動により、塑性変形部材140の外周に塑性変形溝が形成されるとともに運転者30の慣性エネルギが吸収される。
【0043】
次に、図10に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。本実施形態においては、車両が走行している間は、本プログラムが繰り返し実行される。
まず、S11において、運転者30とステアリングホイール22との間隔の測定値が読み込まれ、S12においてそれら測定値の平均的な値が取得される。本プログラムは微小時間間隔で繰り返し実行され、この繰り返し毎にS11において1つずつの測定値が読み込まれ、S12において、例えば、移動平均値の演算等により間隔の平均的な値が取得される。取得された値に基づいて、S13でスライド114の移動距離が算出され、位置変更用モータ172が駆動されてストッパ176の位置が調節される。ただし、位置変更用モータ172は、スライド114の移動距離の変化量の絶対値が設定変化量を超えた場合にのみ作動させられる。位置変更用モータ172が頻繁に作動することがないようにされているのである。
【0044】
S14において、予め設定された値以上の大きさの衝撃が観測されたか否かが問われる。具体的には、制御装置180にインフレータの点火信号が入力されたか否かが判定される。点火信号の入力が検出されなければ、S14の判定がNOとなり、本プログラムの1回の実行が終了する。それに対して、点火信号が入力されれば、S14の判定がYESとなり、S15に進んでソレノイド154が駆動される。
【0045】
それにより、移動阻止装置153の係合ピン156が耳片150の係合穴152から抜け出してスライド114の移動が許容される。その状態で、前述したようにガスの噴出によりエアバッグ24が膨張させられる際に、ステアリングホイール22に運転者30から遠ざかる向きの力が加えられるので、スライド114がガイド124に沿って移動させられる。スライド114とともにアッパシャフト104およびステアリングコラム108が前方へ移動するが、これらのうちスライド114がストッパ部材176に当接することにより、スリーブ部146と鋼球保持筒144とが停止させられる。一方、アッパシャフト104およびステアリングコラム108の移動は制限されず、さらに運転者30から慣性力が加えられるので、係止ピン132が破損させられてステアリングコラム108およびアッパシャフト104がスライド114に対して相対移動を開始する。この相対移動により、鋼球142により塑性変形部材140の外周に塑性変形溝が形成されて、運転者30の慣性エネルギが吸収される。
【0046】
以上、運転者30が小柄であるなど、運転者30とステアリングホイール24との間隔が小さい場合について説明したが、運転者30とステアリングホイール24との間隔が予め設定された設定値より大きい場合には、車両の衝突時にソレノイド154が駆動されず、スライド114の移動が阻止される移動阻止状態が維持される。それにより、エアバッグ24を介して運転者30から慣性力が加えられれば、係止ピン132が破損させられて、ステアリングコラム108とアッパシャフト104とが移動しつつ慣性エネルギが吸収される。
【0047】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、スライド114とガイド124とが互いに共同して「反力利用移動装置」を構成し、制御装置180のうちの、コンピュータ88のS13を実行する部分,間隔測定装置32,および位置変更用モータ172を駆動する駆動回路92が、ストッパ装置170と共同して「相対移動許容距離変更部」構成している。
【0048】
本実施形態においては、運転者30とステアリングホイール22との間隔が狭い場合であっても、エアバッグ24が膨張する際に、反力利用移動装置のスライド114がステアリングホイール22とともに運転者30から遠ざかる向きに移動するため、エアバッグ24が十分に膨らむことができる。その後、衝突後の慣性力で運転者30がその膨らみきったエアバッグ24にぶつかる際には、そのエアバッグ24を介してエネルギ吸収装置116により運転者30の慣性エネルギが吸収されることとなる。
【0049】
本実施形態においては係止ピン132と係合穴128,130との係合により、エネルギ吸収装置の作動開始時期が決定されるようになっていたが、その他従来公知の種々の技術を利用することが可能である。例えば、カプセル樹脂モールドせん断,樹脂かじり,チューブ圧入力,カプセル締付けフリクションなどを利用するものでもよい。さらに、エネルギ吸収装置についても、従来の種々の技術を利用することができる。例えば、プレートしごき方式,プレート引き裂き方式,チューブ圧入方式,ベンディング方式,ボール圧入方式などを利用することができる。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である操舵装置を含む車両の車室内を示す側面図である。
【図2】図1における相対移動制御装置を拡大して示す側面断面図である。
【図3】本発明に係る操舵装置の制御装置の要部を抜き出して示すブロック図である。
【図4】本発明に係る操舵装置の制御プログラムを表すフローチャートである。
【図5】運転者が標準的な体格である場合における本発明に係る操舵装置の作動を説明するための図である。
【図6】運転者が小柄である場合における従来の操舵装置の作動を説明するための図である。
【図7】運転者が小柄である場合における本発明に係る操舵装置の作動を説明するための図である。
【図8】本発明の別の実施形態である操舵装置の要部を拡大して示す側面断面図である。
【図9】上記操舵装置の制御装置の要部を抜き出して示すブロック図である。
【図10】上記制御装置の制御プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
10:操舵装置 18:ステアリングコラム 22:ステアリングホイール 24:エアバッグ 30:運転者 32:間隔測定装置
34:インナコラム 36:アウタコラム 40:相対移動制御装置 42:抵抗変更用モータ 48:くさび部材 70:移動量測定装置 80:制御装置 82:CPU 84:ROM 86:RAM 88:コンピュータ 90:入出力インタフェース 100:操舵装置 102:ステアリングシャフト 104:アッパシャフト 106:ロアシャフト 108:ステアリングコラム 114:スライド 116:エネルギ吸収装置 170:ストッパ装置
180:制御装置
Claims (6)
- ステアリングホイールにエアバッグが設置された操舵装置において、
前記エアバッグの展開時に前記ステアリングホイールに加えられる反力により、前記ステアリングホイールを車両の運転者から遠ざかる向きに移動させる反力利用移動装置を設けたことを特徴とする操舵装置。 - 常には前記反力利用移動装置の作動を阻止する状態にあり、車両衝突時に作動を許容する状態となる作動規制装置を含む請求項1に記載の操舵装置。
- 前記ステアリングホイールと運転者との間隔を検出する間隔検出装置を含み、その間隔検出装置により検出される間隔が設定値以下である状態で車両が衝突した場合に、前記作動規制装置が前記反力利用移動装置の作動を許容する状態となる請求項2に記載の操舵装置。
- 前記反力利用移動装置が、前記ステアリングホイールを保持するステアリングコラムの伸縮を許容する伸縮許容部を含む請求項1ないし3のいずれかに記載の操舵装置。
- 車両衝突時に運転者により前記エアバッグに加えられるエネルギを吸収しつつステアリングホイールの移動を許容するエネルギ吸収装置を含み、
前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置と前記エアバッグとの間に設けられて両者の相対移動を許容するものである請求項1ないし4のいずれかに記載の操舵装置。 - 車両衝突時に運転者により前記エアバッグを介して与えられるエネルギを吸収しつつステアリングホイールの移動を許容するエネルギ吸収装置を含み、
前記反力利用移動装置が、前記エネルギ吸収装置が前記ステアリングホイールの移動を許容する領域のうち、初期に移動を許容する領域において、エネルギ吸収装置がエアバッグの単位移動距離当たり吸収するエネルギ量を低減させる吸収エネルギ低減装置を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の操舵装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002346966A JP2004175310A (ja) | 2002-11-29 | 2002-11-29 | 操舵装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002346966A JP2004175310A (ja) | 2002-11-29 | 2002-11-29 | 操舵装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004175310A true JP2004175310A (ja) | 2004-06-24 |
Family
ID=32707702
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002346966A Withdrawn JP2004175310A (ja) | 2002-11-29 | 2002-11-29 | 操舵装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004175310A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009023408A (ja) * | 2007-07-17 | 2009-02-05 | Jtekt Corp | ステアリング装置 |
KR101047390B1 (ko) * | 2004-10-21 | 2011-07-07 | 주식회사 만도 | 차량용 스티어링 칼럼의 충격 흡수구조 |
KR20150106708A (ko) * | 2014-03-12 | 2015-09-22 | 남양공업주식회사 | 차량의 충격 흡수식 스티어링 장치 |
-
2002
- 2002-11-29 JP JP2002346966A patent/JP2004175310A/ja not_active Withdrawn
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
KR101047390B1 (ko) * | 2004-10-21 | 2011-07-07 | 주식회사 만도 | 차량용 스티어링 칼럼의 충격 흡수구조 |
JP2009023408A (ja) * | 2007-07-17 | 2009-02-05 | Jtekt Corp | ステアリング装置 |
KR20150106708A (ko) * | 2014-03-12 | 2015-09-22 | 남양공업주식회사 | 차량의 충격 흡수식 스티어링 장치 |
KR102076010B1 (ko) | 2014-03-12 | 2020-02-12 | 남양넥스모 주식회사 | 차량의 충격 흡수식 스티어링 장치 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US6463372B1 (en) | Vehicle collision damage reduction system | |
EP3730381B1 (en) | Steering device | |
CN108454560B (zh) | 用于车辆的可变式力限制器控制系统 | |
JP2008189300A (ja) | 車両乗員を自動的に支持するための装置 | |
CN111094060A (zh) | 车辆乘员约束设备和用于运行车辆乘员约束设备的方法 | |
JP3444344B2 (ja) | 車両のエアバッグ装置 | |
JP2004082758A (ja) | 衝撃吸収式ステアリングコラム装置 | |
JP4903575B2 (ja) | 安全装置 | |
JP2004175310A (ja) | 操舵装置 | |
EP1486383B1 (en) | Crew protection system | |
JP4455485B2 (ja) | 車両用シートベルト装置 | |
US20020059848A1 (en) | Steering device for a motor vehicle | |
JP2002079944A (ja) | 衝撃吸収式ステアリングコラム装置 | |
JP2019073088A (ja) | エアバッグ展開制御システム及びエアバッグ展開制御方法 | |
JP4175236B2 (ja) | 車両の乗員保護装置 | |
JP4404335B2 (ja) | シートベルトのリトラクター装置及びシートベルト装置 | |
JP2009083556A (ja) | コラム付けニーエアバッグを備えたステアリング装置 | |
JP2006015979A (ja) | ステアリングコラムの支持構造 | |
JP3922171B2 (ja) | 車両の乗員保護装置 | |
JP7363646B2 (ja) | ステアリング装置 | |
JP2002114156A (ja) | ステアリングコラム装置 | |
GB2340086A (en) | A motor vehicle with a collapsible steering column | |
JP4222222B2 (ja) | シートベルトのプリテンショナ装置 | |
JP2005319912A (ja) | 乗員保護装置 | |
JP2006192971A (ja) | 衝撃吸収式ステアリングコラム装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20051104 |
|
A761 | Written withdrawal of application |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A761 Effective date: 20061218 |