JP2004175210A - 車両用操舵装置 - Google Patents

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Hirotada Otake
宏忠 大竹
Takehiro Yanaka
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Abstract

【課題】車両偏向状態において運転者の負担を軽減することのできる操作部・転舵部分離型操舵装置を得る。
【解決手段】転舵部を制御する制御装置14に、偏向対処部122を設ける。具体的には、ヨーレイトの偏差に基づくフィードバック制御を行う場合に、偏向状態において、そのフィードバックゲインを通常状態における値と比較して大きくする。その場合、偏向状態であることをブレーキ装置からの情報に基づいて認定するようにしてもよく、また、ブレーキ操作の指標となるパラメータに基づいてゲインを変更することもできる。また、常時偏向が発生するような状態では、フィードフォワード制御において目標制御量を補正することもできる。偏向対処部122を設けたことにより、偏向状態にあっても、運転者が希望する操舵を、通常状態における場合と同様の操作で実現可能である。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操作部材の操作に応じた車輪の転舵を行う車両用操舵装置に関し、詳しくは、操作部材からの駆動力によらず別途設けられた駆動源の駆動力によって車輪を転舵する車両用操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
運転者によって操作される操作部と車輪を転舵する転舵部とが機械的に分離され、運転者が操作部材に与える操作力によらず、別の駆動源による駆動力で車輪を転舵する形式の車両用操舵装置(以下、「操作部・転舵部分離型操舵装置」あるいは、単に「分離型操舵装置」と呼ぶことがある)が提案されている。かかる分離型操舵装置では、一般に、操作部材の操作量に応じて車輪の転舵量を制御するための制御装置が設けられ、制御に関して種々の方式が検討されている。その一例として、特開平10−264838号公報には、車両の走行状態に応じた転舵制御に関する技術が記載されている。詳しく言えば、上記公報に記載の技術は、操作部材の操作量と車輪の転舵量とを一致させることを前提として、車速,舵角,舵角等で示されるパラメータに基づく制御を行っている。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−264838号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
車両は、操舵装置以外にも数々のブレーキ装置,車輪等の種々の装置,デバイス等を含んで構成されている。例えば、そのような装置,デバイス等に異常がある場合、車両は操作する方向からズレた方向に走行するあるいはズレた方向に走行する可能性がある。つまり、偏向状態に陥るのである。上記公報に記載の技術を採用した場合であっても、そのような偏向状態に対応した制御を行い得ず、偏向状態における運転者への負担軽減にはつながらない。
【0005】
そこで、本発明は、車両偏向状態において運転者の負担を軽減することのできる操作部・転舵部分離型操舵装置を得ることを課題としてなされたものであり、本発明によって、下記各態様の車両用操舵装置が得られる。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、一つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではない。一部の事項のみを選択して採用することも可能である。
【0006】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(5)項が請求項3に、(7)項と(8)項とを合わせたものが請求項4に、(11)項が請求項5に、それぞれ相当する。
【0007】
(1)車両の操舵のために運転者に操作される操作部材を備えた操作装置と、その操作装置の駆動によらず自らが有する駆動源によって車輪を転舵する転舵装置と、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現すべく前記転舵装置を制御する転舵制御装置とを含む車両用操舵装置であって、
前記転舵制御装置が、車両の偏向が発生するあるいは発生する可能性のある偏向状態においてその偏向を軽減するように対処する偏向対処部を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【0008】
本項に記載の態様の操舵装置は、車両が偏向状態にある場合にその偏向状態に対処するように車輪が転舵されるため、車両偏向状態においても、通常時に行う操作により通常時の走行状態に近い走行状態が得られ、運転者の負担が軽減される。本項にいう偏向状態は、その原因が限定されるものではないが、例えば、ブレーキ装置,サスペンション装置,転舵される車輪等、車両に装備された各種装置,各種デバイスの異常に起因するものであることが望ましい。車両自体が抱える異常に起因する偏向状態は、偏向の予測が容易に行い得るため、効果的な対処が可能である。
【0009】
(2)前記偏向対処部が、車両に装備されたブレーキ装置の片系統の異常,ブレーキ片効き,異径タイヤ装着,タイヤ圧異常から選ばれる1以上の事象に起因する偏向に対処するものである(1)項に記載の車両用操舵装置。
【0010】
本項に記載の態様は、対処する偏向状態の原因についての限定を加えた態様である。上記列挙した事象は、いずれも車両自体の異常に該当する。「ブレーキ装置の片系統の異常」には、例えば、右前輪と左後輪とが1系統を構成し、左前輪と右後輪とが別の1系統を構成するようなブレーキ装置(フェイルセーフの観点から一般的な車両に多く採用されている)において、そのうちの1系統が失陥したような場合等が含まれる。「ブレーキの片効き」には、例えば、複数の車輪のうちの1つに備わるブレーキパッドが摩滅する,ブレーキシリンダ液圧が上昇しない等して、左右それぞれの側の制動トルクにアンバランスが生じている場合等が含まれる。「異径タイヤ装着」には、例えば、予備タイヤを装着した状態であって、その予備タイヤへの負担を軽くするためにその予備タイヤが小さな径のものとされているような場合等が含まれる。「タイヤ圧異常」には、例えば、複数の車輪のうちの1つの車輪のタイヤの空気が抜けた状態であるような場合等が含まれる。上記列挙した事象が発生する場合は、偏向を生じる可能性が充分に高いため、そのような事象に起因する偏向状態に対処できる本操舵装置は実用的なものとなる。
【0011】
(3)前記偏向対処部が、前記偏向状態として走行中常時偏向が発生する常時偏向状態においてその偏向に対処する常時偏向対処部を有する(1)項または(2)項に記載の車両用操舵装置。
【0012】
(4)前記偏向対処部が、前記偏向状態としてブレーキ時にのみ偏向が発生するブレーキ時偏向状態においてその偏向に対処するブレーキ時偏向対処部を有する(1)項ないし(3)項に記載の車両用操舵装置。
【0013】
上記2つの項の各々は、偏向状態を類型化した場合において、その一類型に応じた転舵制御を行う態様である。例えば、前述した異径タイヤ装着,タイヤ圧異常等に起因する偏向状態が、概ね「常時偏向状態」として扱うことができる。また、例えば、前述したブレーキ装置の片系統の異常,ブレーキ片効き等に起因する偏向状態が、概ね「ブレーキ時偏向状態」として扱うことができる。なお、常時偏向対処部とブレーキ時偏向対処部とをともに有して、それぞれの対処部の制御態様を互いに異ならせるようにすれば、きめ細かに対処することが可能である。
【0014】
(5)前記転舵制御装置が、前記操作部材の操作量に基づいて目標制御量を決定する目標制御量決定部を備えて、その目標制御量に基づいて前記転舵装置を制御するものであり、
前記偏向対処部が、前記目標制御量に対して車両の偏向の程度に応じた補正を行う目標制御量補正部を有する(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用操舵装置。
【0015】
本項に記載されるところの偏向対処制御には、フィードフォワード制御によるものが含まれる。フィードフォワード制御による場合、例えば、偏向量を推定して、その推定偏向量に対応する量の補正を目標制御量に対して行うような態様が含まれる。より詳しく言えば、例えば、上記列挙した事象のうちの異径タイヤ装着,タイヤ圧異常に起因する偏向状態においては、ブレーキ操作の有無,操舵の有無に関わらず所定量(一定量であっても、何らかのパラメータに応じて変化する量であってもよい)の偏向が生じるものとみなし、その偏向量に応じた補正量を目標制御量に加えるといった制御を行う態様等が含まれる。このような態様を採用可能であることから、フィードフォワード制御は、前述の常時偏向状態に対処する制御として有効であるといえる。なお、「目標制御量」は、転舵を行う目標となる制御量であり、例えば、転舵角,転舵ロッドの変位量等の転舵量を直接的に制御量とすることもでき、また、駆動源として転舵モータを備える場合等には、そのモータの回転角度,そのモータへ出力される電流値等、転舵量に関連する種々の転舵関連量を制御量とすることもできる。つまり、転舵制御装置から出力される制御量は、制御の実態に応じて種々のものから採択すればよい。
【0016】
(6)前記目標制御量補正部が、車両に装備されたブレーキ装置からの情報に基づいて前記目標制御量に対する補正を行うものである(5)項に記載の車両用操舵装置。
【0017】
一般に、車両はブレーキ装置を備え、ブレーキ装置は、ABS(アンチスキッド)制御,TRC(トラクションコントロール)制御等の制御を行うために、種々のセンサと電子制御装置(ブレーキECU)を備える場合が多い。その場合、ブレーキ装置の異常等は、ブレーキ装置自身がブレーキECUにおいて自己診断することが多く、また、タイヤの状態もブレーキECUで診断可能である。したがって、ブレーキ装置からの情報は、偏向状態の判定,偏向量の推定等に適した情報となる。本項に記載の態様は、それらの情報を利用した転舵制御を行う態様である。なお、ブレーキECUが偏向状態を判断し、転舵制御装置がその判断内容に基づいて転舵制御を行う場合も、また、ブレーキ装置が備える各種センサによる各種パラメータの検出値に基づいて転舵制御装置自身が偏向状態であることを判断し、その自己判断の内容に基づいて転舵制御を行う場合も、本項に記載の態様に含まれる。
【0018】
(7)前記転舵制御装置が、さらに、前記操作部材の操作量に基づいて目標ヨーレイトを決定する目標ヨーレイト決定部と、車両に発生する実ヨーレイトを取得する実ヨーレイト取得部と、前記目標ヨーレイトと前記実ヨーレイトとの偏差に基づくフィードバック制御を行うフィードバック制御部とを備える(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用操舵装置。
【0019】
運転者は、自らが想定する走行ライン沿った車両の旋回動作を得るために、操作部材を操作する。その点からすれば、運転者の操作に応じた操舵状態にあるか否かは、操作に応じたヨーが得られているか否かによって判断することが望ましい。本項に記載の態様は、操作部材の操作に応じたヨーレイトとなるように転舵制御を行う態様であり、実用的な制御となる。
【0020】
(8)前記偏向対処部が、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを変更するゲイン変更部を有する(7)項に車両用操舵装置。
【0021】
(9)前記ゲイン変更部が、前記偏向状態において通常状態と比較して前記フィードバックゲインを大きくするものである(8)項に記載の車両用操舵装置。
【0022】
ヨーレイト偏差に基づくフードバック制御を行う場合、フィードバックゲインを変更することによって、より適切な転舵制御を行うことができる。偏向状態にある場合、通常状態と比較してヨーレイト偏差が大きくなることもある。そのような場合には、フィードバックゲインを大きくすることにより俊敏な対応が可能となる。
【0023】
(10)前記ゲイン変更部が、車両に装備されたブレーキ装置からの情報に基づいて前記フィードバックゲインを変更するものである(8)項または(9)項に記載の車両用操舵装置。
【0024】
前述したように、ブレーキ装置からの情報は、偏向状態の判定等に適した情報となる。本項に記載の態様は、前記態様と同様、ブレーキ装置の異常,タイヤの状態等の情報をブレーキ装置から取得して、それを利用した転舵制御を行う態様である。
【0025】
(11)前記ゲイン変更部が、ブレーキ操作に関連するブレーキ操作関連情報に基づいて前記フィードバックゲインの変更を行うブレーキ操作対応部を有する(8)項ないし(10)項のいずれかに記載の車両用操舵装置。
【0026】
例えば、車両が偏向状態にある場合、ブレーキ操作の程度に依存して偏向の程度が変化することがある。特に、前述したところのブレーキ装置の片系統の異常,ブレーキの片効き等のブレーキ装置に起因する偏向状態の場合は、その傾向が強い。より具体的には、例えば、ブレーキ操作部材を早く操作する,ブレーキ操作部材を強く操作する等、ブレーキ操作を急激に行った場合には、大きな偏向を生じ得る。本項に記載の態様は、ブレーキ操作の程度を示すパラメータであるブレーキ操作関連情報に基づいてフィードバックゲインを変更するため、かかる場合に、より適切な転舵制御が可能となる。なお、前述したブレーキ時偏向状態に対処する制御として、本項に記載の態様を有効的に利用することができる。
【0027】
(12)前記ブレーキ操作対応部が、前記ブレーキ操作関連情報としての、ブレーキ装置が備えるマスタシリンダの液圧,ブレーキシリンダの液圧,ブレーキ操作部材の操作量,車輪に与える制動トルクおよびそれらの変化勾配から選ばれる1以上の情報に基づいて前記フィードバックゲインの変更を行うものである(11)項に記載の車両用操舵装置。
【0028】
ブレーキ操作の指標となるパラメータとして、上記列挙したものが有効である。これらは、ブレーキ装置にそれらを検出するセンサを有する場合には、ブレーキ装置からそれらの情報を取得すればよく、また、有していない場合には、転舵制御のために別途設けて検出すればよい。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、決して以下の実施形態等に限定されず、以下の実施形態等の他、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0030】
<操舵装置の全体構成>
図1に、実施形態の車両用操舵装置の全体構成を模式的に示す。なお、図1は、本発明に関係の深い部分のみを示しており、他の部分については省略してある。本操舵装置は、操作部と転舵部とが機械的に分離された構造をなす操作部・転舵部分離型操舵装置であり、操作部である操作装置10と、転舵部である転舵装置12と、操作装置10の操作に応じた車輪の転舵を行うために転舵装置12を制御する転舵制御装置としてのステアリング電子制御ユニット(ステアリングECU)14とを含んで構成されている。本操舵装置が装備されている車両は、前後左右に各々1つの車輪16,18を有しており、フロント側の車輪16(右前輪をFR、左前輪をFLと表示)は、転舵輪として本操舵装置によって操舵され、リア側の車輪18(右後輪をRR、左後輪をRLと表示)は、操舵されない車輪とされている(以下、車輪16を転舵輪16と称する場合がある)。
【0031】
操作装置10は、操作部材としてのステアリングホイール20と、ステアリングホイール20の操作量である操作角δを検出するための操作角センサ22とを含んで構成されている。操作角センサ22は、ロータリーエンコーダを主体とするものであり、ステアリングホイール20の中立位置からの左右回転方向の操作角δが検出可能とされている。なお、操作装置10には、他に、図では省略するが、駆動源としての電動モータを有してステアリングホイール20に操作反力を与える操作反力付与装置が備えられている。操作角センサ22,操作反力付与装置はよく知られたものであるため、これらの詳しい説明は省略する。なお、操作装置10の構成は、上記のものに限定されず、本操舵装置には、既に公知の種々の構成の操作装置を採用することができる。
【0032】
転舵装置12は、転舵のためのアクチュエータとして機能して転舵ロッド30を車幅方向に移動させるロッド駆動装置32を備え、転舵ロッド30の両端のそれぞれがタイロッド34,ナックルアーム36を介して左右の転車輪16のそれぞれに接続されて構成されている。構造についての図示を省略するが、ロッド駆動装置32は転舵モータを主体とする装置である。転舵モータは、転舵ロッド30と同軸的に設けられ、ロッド駆動装置32のハウジングの内部に周設されたコイルを含むステータと、磁石を有して転舵ロッド30を貫通させる概ね円筒状のロータとを含んで構成されている。転舵ロッド30は、軸方向に移動可能にかつ回転不能にハウジングに支持されており、その外周にボールねじが設けられたねじ部を有している。このねじ部にベアリングボールを介してボールナットが螺合されており、ロータがこのボールナットを回転させることで、転舵ロッド30が軸方向に動かされるのである。また、ロッド駆動装置32は、パルスロータおよび電磁ピックアップを主体としてロータの回転角度を検出するモータ回転センサを有しており、その検出値に基づいてクローズドな回転制御が行われる。ロッド駆動装置32によって転舵ロッド30が軸方向(左右方向)に移動させられることによって、その移動位置に応じた転舵角に、転舵輪16が転舵される。ロッド駆動装置32の構造は既によく知られたものであり、ここでの詳しい説明は省略する。また、図示は省略するが、タイロッド34には軸力センサが設けられており、転舵に伴って生じる路面からの反力が検出可能とされている。転舵装置12の構成は、上記のものに限定されず、本操舵装置には、他の形式のアクチュエータ,センサ等を配備した既に公知の種々の構成の転舵装置を採用することができる。
【0033】
ステアリングECU14は、コンピュータ40を主体とする装置であり、コンピュータ40は、CPU42,ROM44,RAM46,入出力インターフェース(I/O)48,それらをつなぐバス50等を含んで構成されている。また、ステアリングECU14は、ロッド駆動装置32を駆動させるための駆動回路(ドライバ)52を備えており、駆動回路52は入出力インターフェース48に接続され、コンピュータ40からの出力信号に基づいて、ロッド駆動装置32が有する転舵モータの回転制御を行う。
【0034】
本操舵装置が装備される車両には各種センサが設けられている。たとえば、各車輪16,18に設けられて各車輪16,18の回転速度である車輪速Vwを検出する車輪速センサ60,車体に設けられて車両に生じるヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサ62および加速度Gを検出する加速度センサ64等である。先に説明した操作角センサ22を始めとして、それら車輪速センサ60,ヨーレイトセンサ62,加速度センサ64等が入出力インターフェース48に接続されている。さらには、後に説明するところの、車両が備えるブレーキ装置70の制御装置であるブレーキ電子制御ユニット(ブレーキECU)72およびタイヤ空気圧警報システム74も、入出力インターフェース48に接続され、これらからの情報信号が入力可能とされている。図示は省略するが、前記操作反力付与装置がそれの駆動回路を介して、入出力インターフェース48に接続され、また、前記軸力センサも入出力インターフェース48に接続されており、ステアリングECU14は、路面からの反力に応じた大きさの操作反力をステアリングホイール20に付与するように、操作反力付与装置の制御を行う。
【0035】
本操舵装置に関連するものとして、本車両が備えるブレーキ装置70およびタイヤ空気圧警報システム74について簡単に説明する。ブレーキ装置70は、一般的なものであり、操作部材であるブレーキペダル80の踏力によって液圧を発生するマスタシリンダ82と、液圧ポンプ,電磁弁,リザーバ等を備えてマスタシリンダ82および各車輪16,18の有するブレーキシリンダに接続されるブレーキアクチュエータ84と、ブレーキロータ,パッド,ブレーキシリンダ,キャリパ等から構成されて各車輪16,18に設けられた車輪配備部86と、ブレーキペダルの踏力に応じた制動力を各車輪16,18に与えるようにブレーキアクチュエータ84を制御するブレーキ電子制御ユニット(ブレーキECU)72とを含んで構成されている。ブレーキ装置70の動作は一般的なものであるため説明は省略するが、本ブレーキ装置70は、右前輪FRと左後輪RLに関する1系統および左前輪FLと右後輪RRに関する1系統とを含み、2系統のブレーキ装置として構成されている。また、ブレーキECU72は、マスタシリンダ82の液圧であるマスタシリンダ液圧Pmを検出するマスタシリンダ圧センサ88,前述の車輪速センサ60等のセンサが接続されており、それらの検出値に基づいてABS制御,TRC制御等を行うとともに、後に説明するように、ブレーキ装置70の異常についての自己診断,装着されているタイヤ径の異常についての診断等を行うようにされている。タイヤ空気圧警報システム74は、各車輪16,18に設けられて各車輪16,18のタイヤの空気圧Ptを測定するタイヤ空気圧センサ90を有しており、タイヤ空気圧センサ90の測定値に基づいて、いずれかの車輪16,18の空気圧が異常である場合に運転者に警報を発するシステムである。以上、説明したブレーキ装置およびタイヤ空気圧警報システムは、上記構成のものに限られず、既に公知である種々の装置,システムを採用することが可能である。
【0036】
<転舵制御装置の機能ブロック>
図2に、ステアリングECU14の転舵制御装置としての機能ブロック図を示す。なお、図は、本発明に関係の深い部分のみを示している。ステアリングECU14は、目標制御量としての目標転舵角θo(実際は転舵ロッド30の位置であるが、理解を容易にするため、転舵角と表現する)を決定する目標転舵角決定部110と、目標とされるヨーレートである目標ヨーレートγoを決定する目標ヨーレート決定部112とを有している。目標転舵角決定部110および目標ヨーレート112は、操作角センサ22によって検出されたステアリングホイール20の操作角δ,車輪速センサ60によって検出された車輪速Vw,加速度センサ64によって検出された加速度Gに基づいて、ROM44に格納された車両モデルに従って、目標転舵角θoおよび目標ヨーレートγoを決定する。また、ステアリングECU14は、ヨーレートセンサ62によって検出された実際のヨーレートである実ヨーレートγを取得する実ヨーレイト取得部114と、目標ヨーレートγoと実ヨーレイトγとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック制御部116を有しており、車輪の転舵角の制御は、フィードバック制御によって行われる。
【0037】
さらに、ステアリングECU14は、ブレーキECU72およびタイヤ空気圧警報システムの情報に基づいて、所定条件においてフィードバック制御におけるフィードバックゲインFbGを変更するゲイン変更部118と、所定条件において目標転舵角θoを補正する目標転舵角補正部120とを有している。ゲイン変更部118および目標転舵角補正部120は、車両が偏向状態にある場合にその偏向に対処する偏向対処部122の一部分をなしている。以上に掲げた転舵制御装置の各構成部分の詳しい機能は、下記の転舵制御の説明において詳しく説明する。
【0038】
<操舵装置における転舵制御>
ステアリングECU14による転舵装置12の制御は、ROM44に格納された転舵制御プログラムが実行されて行われる。図3に、転舵制御プログラムのフローチャートを示す。転舵制御プログラムは、イグニッションスイッチがONとされた場合に、所定の初期処理の後に行われる。転舵制御プログラムは、イグニッションスイッチがON状態であるときに、所定のごく短い時間間隔をおいて、繰り返し何度も実行される。以下に、図3のフローチャートに従って、転舵制御を説明する。
【0039】
まず、ステップ1(以下、S1と略す。他のステップも同様とする。)において、操作角センサ22によって検出されたステアリングホイール20の操作角δ,車輪速センサ60によって検出された車輪速Vw,加速度センサ64によって検出された車両の加速度Gが取得される。続いて、取得された操作角δ,車輪速Vw,加速度Gの各パラメータに基づいて、S2において、目標制御量である目標操作角θoが決定され、S3において、目標ヨーレイトγoが決定される。ROM44には、車両モデルが格納されており、その車両モデルに従って目標操作角θoおよび目標ヨーレイトγoが決定される。車両モデルは、所定の走行速度,加速度において、ステアリングホイール20を所定量操作した場合に、どのようなヨーを発生させるのか、および、そのヨーを発生させるためにはどのような転舵角に車輪を転舵させるかが記憶されたものであり、この車両モデルを変更することにより、操舵特性を種々に変更することができるのである。なお、4つの車輪16,18に基づく車両の走行速度の決定も、車両モデルに従って行われる。図2に示す機能ブロックに依拠する説明を加えれば、ステアリングECU14において、S2を実行する部分が目標転舵角決定部110となり、S3を実行する部分が目標ヨーレイト決定部112となる。
【0040】
続いて、S4において、車両が常時偏向状態であるか否かが判断される。本実施形態では、いずれかの車輪に異径タイヤが装着されている場合、および、いずれかの車輪のタイヤの空気圧が異常(主に空気が抜けている状態)である場合に、常時偏向状態としている。ブレーキECU72は、各車輪16,18の車輪速Vwをモニタリングしており、車輪がスリップしていない状態において、例えば、いずれかの車輪16,18の車輪速Vwが他に比べて大くなる傾向にある場合に、その車輪16,18の外径(タイヤの外径)が小さいと認識する。小径のタイヤが装着されている場合も、タイヤの空気圧が低い場合も、車輪16,18の外径が小さくなり、いずれの場合もその車輪速Vwは大きくなる。その車輪16,18の車輪速Vwと他の車輪16,18の車輪速Vwとの差が所定の閾値を超えた場合に、異径タイヤ装着およびタイヤ空気圧異常のいずれかであると認定し、その認定結果情報として、どの車輪16,18が異常であるかおよびその車輪と正常な車輪との車輪径の差が、ステアリングECU14に出力されるのである。また、タイヤ空気圧警報システム74は、各車輪16,18のタイヤの空気圧をモニタリングしており、いずれかの車輪16,18のタイヤの空気圧が所定の閾値を下回った場合、その車輪16,18のタイヤが空気圧異常であると認定し、その認定結果情報として、どの車輪16,18のタイヤが空気圧異常であるかが、ステアリングECU14に出力される。それらブレーキECU72およびタイヤ空気圧警報システム74からの認定結果情報に基づいて、ステアリングECU14は、異径タイヤ装着であるかタイヤ空気圧異常であるかを認定する。以上のようにして、ステアリングECU14は、常時偏向状態であると判断するのである。なお、いずれかの車輪16,18に他より大きな径の車輪が装着されている場合、あるいは、いずれかの車輪16,18のタイヤの空気圧が高すぎる場合についても、同様に判断される。
【0041】
S4における判断の結果、常時偏向状態とされた場合には、続くS5において、決定されている目標転舵角θoが補正される。具体的には、先に説明したように、ブレーキECU72から、異常である車輪16,18がどれであるかおよびその車輪径と他の正常である車輪径との車輪径差が出力されており、それらに基づいて、ROM44に格納されている常時偏向時偏向量モデルに従って、偏向量が推定されるとともに、常時偏向をなくすための補正転舵角Δθ1が決定される。そして、目標転舵角θoに補正転舵角Δθ1が加えられて、補正後の目標転舵角θoとされるのである。このS5を実行する部分が、目標転舵角補正部120に相当する。また、S5を実行する部分は、常時偏向対処部として機能する。なお、この目標転舵角補正は、フィードフォワード制御の一部を構成している。本実施形態では、車輪径差のみに基づいて補正転舵角Δθ1が決定されているが、これに代え、操作角,車両速度,車両加速度等の他のパラメータを加味して補正転舵角Δθ1を決定してもよく、また逆に簡略化して、常時偏向状態にある場合に偏向量を一定とみなし、補正転舵角Δθ1を一定の値としてもよい。S4による判断の結果、常時偏向状態でないとされた場合は、S5はスキップされる。
【0042】
次に、S6において、ヨーレイトセンサ62によって検出された実ヨーレートγが取得される。このS6を実行する部分が、実ヨーレート取得部114に相当する。続くS7において、フィードバック制御において、駆動回路52に出力する制御量としての転舵角θを決定するための転舵角修正量Δθ2が決定される。具体的には、目標ヨーレイトγoと実ヨーレイトγとの偏差Δγが算出され、ROM44に格納されている、偏差修正量モデルに従って、その偏差Δγに相当する修正量Δθ2が決定されるのである。本実施形態では、偏差Δγにのみ基づいて修正量Δθ2が決定されるが、これに代え、車両走行速度,加速度,操作角等を加味して修正量Δθ2を決定してもよい。
【0043】
次いで、S8において、車両が偏向状態にあるか否かが判断される。常時偏向状態にある場合は、先のS4の判断に従う。本実施形態においては、車両偏向状態して、先の常時偏向状態とブレーキ時偏向状態とを対象としており、ブレーキ時偏向状態として、ブレーキ装置70の片系統の異常およびブレーキの片効きを想定している。ブレーキの片系統の異常は、片系統の液漏れ等の場合が該当し、通常ブレーキ時において、前述の2つの系統のうち1つの系統に属する2つの車輪16,18の車輪速Vwが望む減速値とならない状態として認識され、モニタリングの結果からブレーキECU72によって認定される。また、ブレーキの片効きは、ブレーキシリンダへの管路の詰まり,ブレーキパッドの摩滅等の場合が該当し、通常ブレーキ時において、いずれかの車輪16,18の車輪速Vwが望む減速値とならない状態として認識され、モニタリングの結果からブレーキECU72によって認定される。片系統の異常,片効きであると認定された場合、その認定結果情報がブレーキECU72からステアリングECU14に出力され、ステアリングECU14は、その認定結果情報に基づいて、ブレーキ時偏向状態であるか否かが判断するのである。
【0044】
S8の判断において偏向状態であると判断された場合は、次のS9において、ブレーキECU72から、ブレーキ操作関連情報として、マスタシリンダ82のマスタシリンダ液圧Pmが取得される。そして続くS10において、フィードバック制御におけるフィードバックゲインFbGの変更処理が行われる。偏向状態でない通常状態において、フィードバックゲインは通常時ゲインFbGoとされている。偏向状態である場合は、この値が大きくされるのである。本実施形態では、ブレーキ操作の程度に応じてフィードバックゲインFbGが変更される。具体的には、図4にチャートで示す関係に従って決定される。図4(a)は、常時偏向状態にある場合のチャートであり、図4(b)はブレーキ時偏向状態にある場合のチャートである。いずれの偏向状態である場合も、マスタシリンダ液圧Pmの増加につれてフィードバックゲインFbGが増加し、マスタシリンダ液圧Pmがある一定値Pm1,Pm2より大きくなる場合に、最高値FbG1,FbG2となるようにされる。偏向の特性を考慮して、ブレーキ時偏向状態の場合、常時偏向状態の場合に比較してフィードバックゲインFbGが大きくなるようにされているのである。
【0045】
本実施形態は、ブレーキ操作関連情報すなわちブレーキ操作の指標となるパラメータとしてマスタシリンダ液圧Pmを採用しているが、これに代えあるいはこれとともに、例えば、マスタシリンダ液圧の変化勾配を採用してもよい。また、各種センサをブレーキ装置70に設ける等して、ブレーキシリンダの液圧,ブレーキ操作部材の操作量,車輪に与える制動トルクおよびそれらの変化勾配を取得し、それらに基づいてフィードバックゲインFbGを決定するものであってもよい。さらに、本実施形態は、偏向状態の類型,ブレーキ操作の程度に応じてフィードバックゲインFbGの値を変更するようにしているが、制御の簡略化を目的として、フィードバックゲインFbGの値を一定の値に偏向するようにしてもよい。S8において、偏向状態でないと認定された場合は、S9およびS10はスキップされ、フィードバックゲインFbGは、通常状態値FbGoのままとされる。このS10を実行する部分が、先に述べたゲイン変更部118に相当する。なお、S10は、ブレーキ時偏向状態においては、ブレーキ偏向対処部として機能し、常時偏向状態においては、常時偏向対処部として機能する。
【0046】
次に、S11において、S7で決定された転舵角修正量Δθ2とフィードバックゲインFbGとに基づいて、目標転舵角θoが修正され、駆動回路52への出力値としての転舵角θが決定される。このように、本実施形態では、ヨーレイトの偏差に基づくフィードバック制御が行われており、S3,S6,S7,S11を実行する部分を含んで前述のフィードバック制御部116が構成されているのである。S11を終了して、本転舵制御プログラムの1回の実行が終了する。先に述べたように、本転舵制御プログラムは、イグニッションスイッチがOFFとされるまでの間、短い時間間隔で繰り返し実行されるのである。
【0047】
駆動回路52は、出力された転舵角θに基づいて、転舵モータへの回転指令値を決定し、その回転指令値とモータ回転センサによるモータ回転角の検出値とに基づいてクローズドな回転制御を行う。これにより、ステアリングホイール20の操作に応じた転舵が行われるのであるが、本実施形態では、車両が偏向状態にある場合でも、その偏向に柔軟に対処することで、操舵特性は良好な状態を維持するのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の車両用操舵装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】実施形態の車両用操舵装置が有するステアリング電子制御ユニットの転舵制御装置としての機能を示す機能ブロック図である。
【図3】転舵装置の制御のためにステアリング電子制御ユニットが実行する転舵制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】ゲイン変更処理におけるマスタシリンダ液圧とフィードバックゲインとの関係を示すチャートである。
【符号の説明】
10:操作装置 20:転舵装置 14:ステアリング電子制御ユニット(ECU)(転舵制御装置) 16:車輪 18:車輪(転舵輪) 20:ステアリングホイール(操作部材) 22:操作角センサ 30:転舵ロッド 32:ロッド駆動装置 52:駆動回路 60:車輪速センサ 62:ヨーレイトセンサ64:加速度センサ 70:ブレーキ装置 72:ブレーキ電子制御ユニット(ECU) 74:タイヤ空気圧警報システム 82:マスタシリンダ 88:マスタシリンダ圧センサ 110:目標転舵角決定部 112:目標ヨーレイト決定部 114:実ヨーレイト取得部 116:フィードバック制御部 118:ゲイン変更部 120:目標転舵角補正部 122:偏向対処部

Claims (5)

  1. 車両の操舵のために運転者に操作される操作部材を備えた操作装置と、その操作装置の駆動によらず自らが有する駆動源によって車輪を転舵する転舵装置と、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現すべく前記転舵装置を制御する転舵制御装置とを含む車両用操舵装置であって、
    前記転舵制御装置が、車両の偏向が発生するあるいは発生する可能性のある偏向状態においてその偏向を軽減するように対処する偏向対処部を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
  2. 前記偏向対処部が、車両に装備されたブレーキ装置の片系統の異常,ブレーキ片効き,異径タイヤ装着,タイヤ圧異常から選ばれる1以上の事象に起因する偏向に対処するものである請求項1に記載の車両用操舵装置。
  3. 前記転舵制御装置が、前記操作部材の操作量に基づいて目標制御量を決定する目標制御量決定部を備えて、その目標制御量に基づいて前記転舵装置を制御するものであり、
    前記偏向対処部が、前記目標制御量に対して車両の偏向の程度に応じた補正を行う目標制御量補正部を有する請求項1または請求項2に記載の車両用操舵装置。
  4. 前記転舵制御装置が、さらに、前記操作部材の操作量に基づいて目標ヨーレイトを決定する目標ヨーレイト決定部と、車両に発生する実ヨーレイトを取得する実ヨーレイト取得部と、前記目標ヨーレイトと前記実ヨーレイトとの偏差に基づくフィードバック制御を行うフィードバック制御部とを備え、
    前記偏向対処部が、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを変更するゲイン変更部を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用操舵装置。
  5. 前記ゲイン変更部が、ブレーキ操作に関連するブレーキ操作関連情報に基づいて前記フィードバックゲインの変更を行うブレーキ操作対応部を有する請求項4に記載の車両用操舵装置。
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