JP2004169859A - ローラクラッチ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のローラクラッチ10は、ランプ部19が形成されたクラッチ軌道面12を有する一方の軌道輪11と、クラッチ軌道面12に対向した軌道面14を有する他方の軌道輪13とを備えている。また、両軌道面12,14の間に転動自在に配されたニードルローラ15と、ニードルローラ15をランプ部19に押し付けてクラッチ作用を司るばね部材17とを備えている。そして、ばね部材17に、耐摩耗性に優れた表面処理が施されている。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばエンジンのクランクシャフトに結合してベルト等の動力伝達手段を介して、オルタネータにクランクシャフトの回転力を伝達したり、或いはスタータに結合して動力伝達手段を介してエンジンのクランクシャフトにスタータモータの回転力を伝達したりするのに用いるプーリ用のローラクラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ベルト等の動力伝達手段を用いるベルト駆動システムにおいては、駆動側の微小な回転速度変動によって、ベルトのばたつきやスリップ、それに伴う異音が発生する場合がある。
さらには、ベルト寿命が短縮されるという問題があり、その回転速度変動を吸収するため、駆動軸が減速されたときに、その速度変動をクラッチのオーバーランニング機能によって吸収し、従動軸を変動の少ない回転速度で回転させるローラクラッチが用いられている。
【0003】
プーリ用のローラクラッチとして、図7に示すものが知られている。図7に示すローラクラッチ50は、SCM材を用いた外輪51の内径面に周方向に傾斜した複数のカム面52が形成されている。
これらの各カム面52と対向する位置にステンレス鋼製のころ53が樹脂製の保持器54で保持され、保持器54に取付けられたステンレス鋼製のばね55で、各ローラ53がカム面52でロックされる方向に押圧されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記ローラクラッチ50は、第1例として、外輪51、ローラ53およびばね55の各部品に亜鉛めっき処理が施される。
また、第2例として、外輪51に亜鉛めっき処理が施され、ローラ53とばね55とに絶縁性の樹脂皮膜処理が施される。
また、第3例として、外輪51とローラ53に亜鉛めっき処理が施され、ばね55に絶縁性の樹脂皮膜処理が施される。
また、第4例として、外輪51のみに亜鉛−鉄の合金めっき処理が施される。
また、第5例として、外輪51のみに無電解ニッケルめっき処理が施される。
また、第6例として、外輪51に亜鉛めっき処理が施され、さらに絶縁性の樹脂皮膜処理が施され、ローラ53とばね55に絶縁性の樹脂皮膜処理が施される。
更に、第7例として、ステンレス鋼製のばね55の替わりに熱可塑性樹脂製の弾性部材を用いたローラクラッチにおいて、外輪51とローラ53に亜鉛めっき処理が施される。
【0005】
そして、ローラクラッチ50では、鋼製の外輪51,ローラ53,場合によってはばね55も含めて、これら部品表面に金属めっき処理や絶縁皮膜処理が施される。これにより、各部品表面間の電位差をなくすか、若しくは非常に近い電位差とするか、部品表面間を絶縁することにより、各部品の電解腐食を防止し、金属めっきや絶縁皮膜で各部品を防錆することにより、優れた防錆防食性能を発揮するようにしている。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−120730号公報(第3−4頁、図2)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ローラクラッチのうち、オルタネータ用のローラクラッチでは、クラッチのオーバーランニング状態において、ローラが、内輪,保持器,ばねとともに一体的に回転する。そして、スタータ用のローラクラッチでは、ローラが、クラッチのオーバーランニング状態において、外輪,保持器,ばねとともに一体的に回転しながら自転する。
その際、ローラとばねとの間には、すべり運動が起きており、ばねに摩耗が発生する。そして、ローラとばねとの間に生じるすべり運動の摩擦力は、ローラとばねとの接触点が小さいため、長時間の運転により面圧が大きくなり、すべり運動によるばねの摩耗が発生するという問題があった。
そして、摩擦が起きることによって、ばねにおけるローラとの接触部が偏摩耗し、ばねの弾性力に変動が生じる。その結果、エッジロードが生じて、ローラに負荷を与えたり、クラッチのロック不良が起きたりするという問題があった。なお、エッジロードとは、局所的な面圧増大を生じた際に、そこを起点に早期剥離を生じることである。
【0008】
更に、上記特許文献1では、鋼製の外輪51,ローラ53,場合によってはばね55も含めて、それら部品表面に金属めっき処理や絶縁皮膜処理を施すため、表面処理を施す部品数が極端に多くなり、各表面処理の工程管理が複雑になるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ばね部材に耐摩耗性に優れた表面処理を施すことによって、ばね部材の摩耗を軽減し、寿命を飛躍的に向上することができるローラクラッチを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載のローラクラッチは、ランプ部が形成されたクラッチ軌道面を有する一方の軌道輪と、前記クラッチ軌道面に対向した軌道面を有する他方の軌道輪と、前記両軌道面の間に転動自在に配されたニードルローラと、前記ニードルローラを前記ランプ部に押し付けてクラッチ作用を司るばね部材と、を備えたローラクラッチであって、前記ばね部材は、耐摩耗性に優れた表面処理が施されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成のローラクラッチによれば、耐摩耗性に優れた表面処理が施されたばね部材が用いられる。
したがって、オーバーランニング状態におけるばね部材とローラとの間にすべり運動が起きても、ばね部材の摩耗が多くならない。これにより、ばね部材におけるローラとの接触部が偏摩耗することがなくなり、エッジロードの発生が回避され、ばね部材の摩耗を軽減することによって、寿命を飛躍的に向上することができる。
【0012】
また、請求項2記載のローラクラッチは、前記ばね部材の表面処理が、硬質クロムめっき処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチである。また、請求項3記載のローラクラッチは、前記ばね部材の表面処理が、無電解ニッケルりんめっき処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチである。
また、請求項4記載のローラクラッチは、前記ばね部材の表面処理が、ダイアモンドライクカーボン膜処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチである。
【0013】
前記構成のローラクラッチに用いられるばね部材の表面処理は、硬質クロムめっき処理や無電解ニッケルりんめっき処理やダイアモンドライクカーボン膜処理とすることが好ましい。これにより、オーバーランニング状態におけるばね部材とローラとの間にすべり運動が起きても、硬質クロムめっき処理や無電解ニッケルりんめっき処理やダイアモンドライクカーボン膜処理等の表面処理が施されたばね部材の摩耗が大幅に抑制される。
また、ばね部材におけるローラとの接触部が偏摩耗することがなくなり、エッジロードの発生が回避され、ばね部材の摩耗を軽減することによって、寿命を飛躍的に向上することができる。
【0014】
また、請求項5記載のローラクラッチは、前記ニードルローラが、耐摩耗性に優れた表面処理を施されている請求項1〜4のいずれかに記載のローラクラッチである。
【0015】
前記構成のローラクラッチによれば、ニードルローラに耐摩耗性に優れた表面処理が施されているので、ばね部材とローラの両方に表面処理が施されることになる。
したがって、ローラクラッチの使用条件がきつく、ニードルローラの偏摩耗により、ばね部材に大きな負荷がかかり、ばね部材の弾性力に変動が生じてばね部材とローラとの間にすべり運動が起きるオーバーランニング状態でも、ばね部材とローラとの接触部が偏摩耗することがなくなり、エッジロードの発生が確実に回避され、寿命を一層飛躍的に向上することができる。
【0016】
また、請求項6記載のローラクラッチは、一対の転がり軸受を軸方向両側に配したプーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチである。
【0017】
前記構成のローラクラッチによれば、ローラクラッチの軸方向両側に一対の転がり軸受を配したプーリユニットを構成すれば、転がり軸受がサポート用となり、駆動側プーリと従動側プーリとの取付け角度誤差により、ベルトから発生するアキシアル荷重やプーリ溝オフセットによって発生する偏荷重を支持するため、取付け角度誤差を広い範囲で許容することができるとともに、各部の摩耗や発熱も抑制することができる。
【0018】
また、請求項7記載のローラクラッチは、前記一方の軌道輪が外輪であり、スタータ用プーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチである。
【0019】
前記構成のローラクラッチによれば、一方の軌道輪を外輪として、外輪の軌道面にランプ部を形成したローラクラッチを用いてスタータ用プーリユニットを構成すれば、ばね部材の摩耗が軽減されたローラクラッチにより、エッジロードの発生が回避され、スタータ用プーリユニットの長寿命化を図ることができる。
【0020】
更に、請求項8記載のローラクラッチは、前記一方の軌道輪が内輪であり、オルタネータ用プーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチである。
【0021】
前記構成のローラクラッチによれば、一方の軌道輪を内輪として、内輪の軌道面にランプ部を形成したローラクラッチを用いてオルタネータ用プーリユニットを構成すれば、ばね部材の摩耗が軽減されたローラクラッチにより、エッジロードの発生が回避され、オルタネータ用プーリユニットの長寿命化を図ることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のローラクラッチの一実施形態を図1乃至図6に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る一実施形態のローラクラッチの要部断面図、図2は図1に示すローラクラッチの断面図、図3は図1に示すローラクラッチに用いられるばね部材の断面図、図4は図1に示すローラクラッチに施すめっきの特性図、図5は図1に示すローラクラッチに施すめっきの摩耗試験結果表、図6は図1に示すローラクラッチを用いたプーリユニットの断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のローラクラッチ10は、クラッチ軌道面12を有するクラッチ外輪11と、軌道面14を有するクラッチ内輪13と、両軌道面12,14間に転動自在に配された複数個のニードルローラ15と、ニードルローラ15を円周方向に移動可能に保持する保持器16と、保持器16に固定されたばね部材17とを備えている。
【0024】
クラッチ外輪11は、円筒形状に形成されており、内径面18の円周方向に等間隔で複数個のクラッチ軌道面12が形成されている。そして、クラッチ軌道面12の端部にランプ部19が設けられている。
ランプ部19は、ニードルローラ15がクラッチ軌道面12上を円周方向に移動することによって、クラッチ内輪13の軌道面14とでニードルローラ15の回転を阻止したり、ニードルローラ15の回転を許容したりする機能を有する。
クラッチ軌道面12は、内径面18に対してくさび形状に形成されており、ニードルローラ15の外径が変化しても、そのくさび形状が変化しないようなスパイラル形状を有する。
クラッチ内輪13は、円筒形状に形成されており、外径面が軌道面14になっている。
【0025】
ニードルローラ15は、円筒ころ形状をなし、クラッチ外輪11のクラッチ軌道面12と、クラッチ内輪13の軌道面14との間で、クラッチ外輪11及びクラッチ内輪13の円周方向に移動可能にしてクラッチ外輪11及びクラッチ内輪13に対して相対的に回転する。
【0026】
保持器16は、クラッチ外輪11の内径面18とクラッチ内輪13の軌道面14との間にクラッチ外輪11及びクラッチ内輪13に対して相対的に回転自在に配されている。
保持器16には、円周方向の等間隔に複数個のポケット20が形成されており、ポケット20内に配されたニードルローラ15をポケット20の円周方向に移動可能にして転動自在に保持している。保持器16のポケット19側には、ばね部材取付部21が形成されている。
【0027】
ばね部材17は、図1中の右端部に配された基端部に、保持器固定部22が形成されており、図1中の左端部に配された先端部に、ローラ当接面23が形成されている。ばね部材17は、弾性を有する鋼等の金属を素材とした板部材をプレス加工することにより成形される。
そして、ばね部材17には、耐摩耗性に優れた硬質クロムめっきの表面処理が施されている。ばね部材17は、ローラ当接面23が予め定められた弾性反発力でニードルローラ15を図1中左方向(反時計回転方向)であるロック方向に常時押圧している。
【0028】
硬質クロムめっきは、白色光沢を有し、大気中で不働態皮膜に覆われ、化学薬品に侵されにくく耐食性が良好である。疎水及び疎油性で、物質が付着しにくく、汚れにくい表面をもつ。
硬さは、Hv850程度であり、400℃まで軟化せず、優れた耐摩耗性を有する。めっき表面は、鏡面光沢から無光沢梨地までの幅広い光沢度と粗さをもち、鏡面及び梨地面の光沢は加工製品に反映し、梨地面の表面粗さは、離型性を良好にし、すべりを良くして摩耗を少なくする機能を持っている。
【0029】
ばね部材17に施す表面処理としては、硬化クロムめっきの他、無電解ニッケルりんめっき、ダイアモンドライクカーボン膜(DLC膜)を用いるのが好ましい。
無電解ニッケルりんめっき(Ni−P)は、JIS H 8645に規定されためっきであり、次亜りん酸還元による自己触媒型ニッケル−りんめっきで、析出物はニッケルを主として、りん2〜15%を含む。
【0030】
ダイアモンドライクカーボン膜は、絶縁性や耐食性、高硬度、離型性などの優れた性質を持つために、オイルフリーの摺動部品へのコーティング等に広く利用されている。その作製方法は、スパッタリング法やイオンビーム蒸着法、CVD法等様々な方法により行われている。
【0031】
図2に示すように、クラッチ軌道面12は、クラッチ外輪11の外径面24に向けて凹状をなす、くさび形状にされている。
【0032】
図3に示されているばね部材17は、平坦面状をなす固定部23側が保持器に装着され、アーム部25がローラに接触する側となる。ローラは、アーム部25とアーム部先端22の間の凸部で接触している。
【0033】
表面処理を施さない、通常のばね部材に用いられるステンレス鋼帯(SUS301,SUS304,SUS420J2,SUS631,SUS632J1)のビッカース硬さは、調質後で400程度である。
一方、図4に示すように、ばね部材17の表面処理に用いられる金属のビッカース硬さを見ると、クロム,ニッケルでは、ステンレス鋼よりも概ね大きく、耐摩耗性に優れていることがわかる。
【0034】
図5に示すように、養腎堂出版−社団法人日本トライポロジー学会編−トライポロジーハンドブック−p.563に記載された摩耗試験表によると、無電解ニッケルめっきや硬質クロムめっきは、硬度が高く、母材に耐摩耗性をもたせるために好ましい。
【0035】
この他、すず,亜鉛,ニッケル,ニッケルクロム,金,銀等のめっきも適用することができるが、すず,亜鉛,ニッケル,ニッケルクロムは、防食を目的とし、金,銀は、電子部品等の機能目的のために通常めっきされるため、これらのめっきも耐摩耗性は劣る。ただし、すず,亜鉛,銀,金については、展延性があり、自己潤滑性をもつため、潤滑性の向上には適している。
【0036】
また、物理蒸着(PVD)による窒化チタン(TiN),炭化チタン(TiC),炭窒化チタン(TiCN),チタンアルミ複合窒化物(TiAlN),炭化タングステン(WC)皮膜,化学蒸着(CVD)によるSiC,Al2O3皮膜も耐摩耗性,耐久性の向上のために利用されるため、これらのコーティングを用いても良い。
【0037】
このようなローラクラッチ10は、図6示すプーリユニット30に用いられる。プーリユニット30は、アイドルストップシステムに適用されるスタータ用プーリユニットであり、スリーブ31と、プーリ32と、一対の玉軸受33,34と、ローラクラッチ10とから構成されている。
ここで、アイドルストップシステムとは、自動車や2輪車に用いられ、信号待ちなどで車両を停止させると、電子制御によって自動的にアイドリングを停止し、発進の際にアクセルを開けたり、或いはクラッチ・シフトレバー操作をしたりすることによって、自動的にエンジンを再始動させるものあって、排出ガスと騒音を低減し、燃費も一層向上させることができる。
【0038】
スリーブ31は、外径部にローラクラッチ10のクラッチ内輪13が圧入されている。スリーブ31の内径部31aには、駆動軸であるスタータモータの回転軸が結合される。
【0039】
プーリ32は、外径部32aに軸方向に沿って複数個のベルト掛止溝32bが形成されており、内径部32cにローラクラッチ10のクラッチ外輪11が圧入されている。プーリ32のベルト掛止溝32bには、エンジンのクランクシャフトに結合されたプーリとの間に無端ベルトが掛け渡される。
【0040】
一対の玉軸受33,34は、サポート用の薄肉玉軸受であって、各外輪33a,34aがプーリ32の内径部32cに圧入され、各内輪33b,34bがスリーブ31の外径部31bに圧入されている。
玉軸受33,34は、ローラクラッチ10の軸方向両側に配されるため、ローラクラッチ10の軸方向における位置決めの機能をもち、プーリ32に加わるラジアル荷重を支承するとともに、スリーブ31とプーリ32との相対回転を自在にする機能を持っている。
また、玉軸受33,34は、玉33c,34cの軸方向両側に一対のシール部材33d,34dを配しているため、密封された軸受空間内に潤滑剤が封入されている。
【0041】
プーリユニット30は、エンジンがアイドルストップされた後に再始動するとき、スタータモータが回転することによって、スリーブ31,クラッチ内輪13が図2中時計回転方向に回転する。クラッチ内輪13が図2中時計回転方向に回転するため、ばね部材17によって図2中反時計回転方向に押圧されているニードルローラ15は、クラッチ外輪11のクラッチ軌道面12においてロックされ、クラッチ外輪11,プーリ32が、図2中時計回転方向に回転され、無端ベルトを介してエンジンのクランクシャフトに回転動力が伝達され、エンジンが再始動される。
【0042】
そして、エンジンが動き始めると、スタータモータは回転を中止するため、スリーブ31の回転がプーリ32の回転よりも遅くなり、ニードルローラ15がクラッチ外輪11のクラッチ軌道面12において図2中時計回転方向へ変位されてオーバーランニング状態(アンロック状態)となり、クラッチ外輪11のみがプーリ32とともに空転される。
【0043】
このとき、ニードルローラ15は、クラッチ外輪11,保持器16,ばね部材17とともに一体的に回転しながら自転をするため、ニードルローラ15とばね部材17との間にすべり運動が起きている。
しかし、オーバーランニング状態におけるニードルローラ15とばね部材17との間にすべり運動が起きても、ばね部材17に硬質クロムめっき処理や無電解ニッケルりんめっき処理やダイアモンドライクカーボン膜処理等の耐摩耗性に優れた表面処理が施されているため、ばね部材17は、摩耗が多くならず、ばね部材17におけるニードルローラ15との接触部が偏摩耗することがなく、エッジロードの発生が回避される。
【0044】
本実施形態のローラクラッチ10によれば、耐摩耗性に優れた硬質クロムめっき処理や無電解ニッケルりんめっき処理やダイアモンドライクカーボン膜処理等の表面処理が施されたばね部材17が用いられる。
したがって、オーバーランニング状態におけるばね部材17とニードルローラ15との間にすべり運動が起きても、硬質クロムめっき処理や無電解ニッケルりんめっき処理やダイアモンドライクカーボン膜処理等の表面処理が施されたばね部材17の摩耗が大幅に抑制され、ばね部材17の摩耗が多くならない。
これにより、ばね部材17におけるニードルローラ15とのローラ当接部23が偏摩耗することがなく、エッジロードの発生が回避され、ばね部材17の摩耗を軽減することによって、スタータ用のプーリユニット30の寿命を飛躍的に向上することができる。
【0045】
また、クラッチ外輪11のクラッチ軌道面12にランプ部19を形成したローラクラッチ10を用い、ローラクラッチ10の軸方向両側に一対の玉軸受33,34を配したプーリユニット30を構成しているため、一対の玉軸受33,34がサポート用となり、スタータモータ側のプーリ32とエンジン側のプーリとの取付け角度誤差により、ベルトから発生するアキシアル荷重やプーリ溝オフセットによって発生する偏荷重を支持するため、取付け角度誤差を広い範囲で許容することができるとともに、各部の摩耗や発熱も抑制することができる。
【0046】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能である。
例えば、内輪にクラッチ軌道面とランプ部を設けてオルタネータ用プーリユニットに用いても良い。その場合、内輪にスリーブを介してエンジンのクランクシャフトを結合し、プーリに無端ベルトを介してオルタネータやダイナモに結合したプーリを掛け渡す。
これにより、クランクシャフトが減速されたときの速度変動をローラクラッチのオーバーランニング機能により吸収して、オルタネータを変動の少ない回転速度で回転させることができ、ばね部材の摩耗が軽減されたローラクラッチにより、エッジロードの発生が回避され、オルタネータ用プーリユニットの長寿命化を図ることができる。
また、ばね部材として、板ばね形状に代えてねじりコイルばねを用いても良く、ステンレス鋼線材(SUS)に限らず、ピアノ線(SWPA,SWPB)や硬鋼線(SWB,SWC)等を用いても良い。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のローラクラッチによれば、耐摩耗性に優れた表面処理が施されたばね部材が用いられる。
したがって、オーバーランニング状態におけるばね部材とローラとの間にすべり運動が起きても、ばね部材の摩耗が多くならない。これにより、ばね部材におけるローラとの接触部が偏摩耗することがなくなり、エッジロードの発生が回避され、ばね部材の摩耗を軽減することによって、寿命を飛躍的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る一実施形態のローラクラッチの要部断面図である。
【図2】図1に示したローラクラッチの断面図である。
【図3】図1に示したローラクラッチに用いられるばね部材の断面図である。
【図4】図1に示したローラクラッチに施すめっきの特性図である。
【図5】図1に示したローラクラッチに施すめっきの摩耗試験結果表である。
【図6】図1に示したローラクラッチを用いたプーリユニットの断面図である。
【図7】従来のローラクラッチの部分断面図である。
【符号の説明】
10 ローラクラッチ
11 クラッチ外輪(一方の軌道輪)
12 クラッチ軌道面
13 クラッチ内輪(他方の軌道輪)
14 軌道面
15 ニードルローラ
17 ばね部材
19 ランプ部
30 プーリユニット(スタータ用プーリユニット)
33 玉軸受(転がり軸受)
34 玉軸受(転がり軸受)
Claims (8)
- ランプ部が形成されたクラッチ軌道面を有する一方の軌道輪と、前記クラッチ軌道面に対向した軌道面を有する他方の軌道輪と、前記両軌道面の間に転動自在に配されたニードルローラと、前記ニードルローラを前記ランプ部に押し付けてクラッチ作用を司るばね部材と、を備えたローラクラッチであって、
前記ばね部材は、耐摩耗性に優れた表面処理が施されていることを特徴とするローラクラッチ。 - 前記ばね部材の表面処理が、硬質クロムめっき処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチ。
- 前記ばね部材の表面処理が、無電解ニッケルりんめっき処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチ。
- 前記ばね部材の表面処理が、ダイアモンドライクカーボン膜処理であることを特徴とする請求項1に記載のローラクラッチ。
- 前記ニードルローラは、耐摩耗性に優れた表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のローラクラッチ。
- 一対の転がり軸受を軸方向両側に配したプーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチ。
- 前記一方の軌道輪が外輪であり、スタータ用プーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチ。
- 前記一方の軌道輪が内輪であり、オルタネータ用プーリユニットに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のローラクラッチ。
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