JP2004162135A - 銅と共存元素を分離回収する方法 - Google Patents

銅と共存元素を分離回収する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】非鉄金属精錬工程などから産出する、銅を含み、かつ鉄、銀等の共存元素を含む塩化物水溶液から、銅を有機溶媒を用いて選択的に抽出し、逆抽出する工程により、銅と共存元素を分離回収する方法の提供。
【解決手段】銅と共存元素を含む塩化物水溶液から、銅と共存元素を分離回収する方法において、塩化物水溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極に対して0〜350mVにした後、トリブチルフォスフェイトを含む有機溶媒に接触混合させて銅を選択的に抽出させる第一の工程、および銅を抽出した有機溶媒を水溶液に接触混合させて銅を逆抽出させる第二の工程を含むことを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法によって提供。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、銅と共存元素を分離回収する方法に関し、さらに詳しくは,非鉄金属精錬工程などから産出する、銅を含み、かつ鉄、銀等の共存元素を含む塩化物水溶液から、銅を有機抽出剤を用いて選択的に抽出し、逆抽出する工程により、銅と共存元素を分離回収する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
銅、ニッケルなどの非鉄金属精錬、あるいは銅を含む鉄鋼精錬の副産物、及び金属質廃棄物処理において、銅と種々の共存元素を分離する技術は、銅の収率と品質の向上、鉄の高純度化などにとって重要な技術課題であった。この一般的な方法としては、先ず、可能な場合には固形物を物理的手段によって粗分離し、次いで化学的手段による精製が行われる。ここで、銅と鉄等が溶液中に共存するときには、鉄を酸化して沈殿除去する方法が行われていた。しかし、沈殿された水酸化鉄は一般に含水率が高く、銅のほか、他の共存元素も含み純度が低いので、利用先が限られ多くは廃棄となる。このとき共沈殿した銅も同時に廃棄されてロスとなっていた。
【0003】
近年、非鉄金属原料の多様化、産業用及び民生用電気製品の廃棄物からの資源リサイクルなどに対応するため、金属資源の有効活用技術、特に有価物の徹底的な回収と利用による廃棄物削減のための技術が求められている。例えば、銅、ニッケルなどの非鉄金属精錬、あるいは銅を含む鉄鋼精錬の副産物、及び金属質廃棄物処理における課題として、(1)銅鉱石の原位置浸出法からの浸出生成液中の低濃度の銅の濃縮、及び鉄との分離回収、(2)銅メッキ被覆鉄系材料などから、銅の分離と鉄の再生、(3)自動車、家電製品等のシュレッダー処理産出物から、銅、貴金属、鉄等の分離回収等がある。すなわち、銅、貴金属、及び鉄を、製品化可能な品質で分離回収する技術が、上記課題の解決の基盤技術であるといえる。
【0004】
この手段として、液中に低濃度に含まれる元素を濃縮し、また他の元素との分離が工業的に可能な溶媒抽出法が用いられる。この溶媒抽出法の原液となる浸出生成液は、銅、ニッケルなどの非鉄金属精錬、あるいは銅を含む鉄鋼精錬の副産物、及び金属質廃棄物処理等からのものであり、通常は、原料として硫化物、酸化物、又は金属の状態のものが、硫酸、塩酸等の鉱酸によって、大気中で、酸化性の雰囲気で浸出されるので、銅は2価イオン、鉄は2価ないし3価イオンで浸出生成液に含まれる。
【0005】
銅と鉄を溶媒抽出法によって分離する代表的な方法として、例えば、一部硫化銅鉱物を含む酸化銅鉱石の硫酸溶液による浸出法においては、浸出生成液からの銅の溶媒抽出での抽出剤として商品名LIX64等の酸性抽出剤が使用されている。また、自動車、家電製品等の廃棄物処理過程で、アンミン浸出液中の銅イオンをLIX54で抽出する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一般に、酸性抽出剤による抽出では、銅が抽出されるにしたがって液のpHが下がるので、液のpHを1.5〜2.5に保つため水酸化ナトリウムやアンモニア等の中和剤の添加が必要となり、これら中和剤の成分の浸出液への蓄積が問題となる。また、抽出後の有機溶媒から銅を逆抽出するためには強酸性領域で行う必要がある。したがって、銅や鉄等が強酸性領域で浸出された浸出生成液の場合には、抽出や逆抽出工程において酸やアルカリを大量に消費するという問題がある。
【0006】
また、鉄イオンの分離に従来から使われているトリブチルフォスフェイト(TBP)やトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)等のような中性抽出剤は、液のpHにかかわらず金属イオンを抽出できるので、塩化物水溶液では、抽出および逆抽出において酸およびアルカリをほとんど必要としない。しかし、このような中性抽出剤は、2価の銅イオンに対する抽出性がなく、抽出後の有機溶媒相中の金属イオン濃度/水相中の金属イオン濃度の比で定義される分配比は0.1〜0.001という極めて小さい値でしかない。
従って、2価の銅イオン、2価及び3価の鉄イオンを含む塩化物水溶液に適用する場合、このままの状態では銅の抽出は困難で、かつ鉄の抽出は2価の鉄の存在のため不安定となる。ここで、銅イオンの中性抽出剤への抽出性の改良として、塩素ガスによる浸出で得られた浸出生成液中のニッケル及びコバルトから銅を溶媒抽出によって分離回収する方法において、液中の銅イオンを1価に還元した後、中性抽出剤を用いて銅を抽出することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これまで,液中に鉄及び銀が共存する場合における鉄及び銀と銅との分離については言及されていない。
【0007】
従って、銅と鉄の分離抽出剤として、例えばトリブチルフォスフェイトを用いる従来の技術では、トリブチルフォスフェイトを含む有機溶媒に3価の鉄イオンを抽出させ、それを逆抽出することで銅と鉄を分離できる。しかし、この場合、逆抽出で得られる鉄イオンは3価であり、抽出工程で抽出残液に分離された銅イオンも2価の状態であるので、その後の電解採取等で金属として回収する際には鉄イオンの場合で3価→2価→0価、銅イオンの場合で2価→1価→0価と、多段の還元が必要である。そこで、電解を行う場合は必要とされる電力が大きく、また電解液に存在する2価の銅イオンや3価の鉄イオンなど、高酸化状態のイオンによる電解析出した金属の再溶解が起るため電流効率が低下する問題がある。
このため、溶媒抽出で分離した後に、電解採取を行うのに先だって銅イオン及び鉄イオンを価数の小さい状態に還元することも出来るが、その際、不純物の共析を避けるために還元剤の選択幅が限られてしまい、例えば、回収銅量と同量以上の金属銅あるいは回収鉄量の半量以上金属鉄が必要であるなど高価な還元剤の使用ためのコストを上昇させる要因となる問題がある。
【0008】
さらに、銀イオンが共存する塩化物水溶液の場合、銀イオンは銅の2価イオンと同様にトリブチルフォスフェイトには抽出されないため、銅イオンと共存する銀イオンを分離するためには、この溶媒抽出工程とは別に銅と銀を分離する工程を設ける必要がある。塩化物水溶液中の銀と銅を分離するのはその化学的性質のため容易でなく、一般に、水銀を用いたアマルガム法が用いられる。この場合水銀を大量に用いるため、その工業的な取り扱いには、環境保全上、及び経済性の課題がある。他にも銀を中和、硫化により沈殿として取り除く方法があるが、これらは沈殿を生成したときに銅も同時に沈殿するため、分離効率は良くない。
【0009】
以上から、塩化物水溶液中の、銅と鉄を溶媒抽出法で分離する際に、酸性抽出剤を用いた場合は、酸やアルカリを多量に用いることなく選択的に分離することは困難であり、また、中性抽出剤を用いた場合でも分離された鉄や銅の溶液は鉄の3価や銅の2価であり、この液を用いて電解採取等により還元回収するには多大なエネルギーを要する等の問題があり、工業的に効率的な銅イオンと鉄イオンを分離する溶媒抽出法が望まれていた。また、銅イオンと銀イオンを効率良く分離する方法も求められていた。
【0010】
【特許文献1】
特開平06−240373号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】
特開平08−176693号公報(第2頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、非鉄金属精錬工程などから産出する、銅を含み、かつ鉄、銀等の共存元素を含む塩化物水溶液から、銅を有機抽出剤を用いて選択的に抽出し、逆抽出する工程により、銅と共存元素を分離回収する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために、銅と共存元素を分離回収する方法について、鋭意検討を重ねた結果、銅を含み、かつ鉄、銀等の共存元素を含む塩化物水溶液に対して、その酸化還元電位を特定範囲に調整した後、特定の有機抽出剤を用いて銅を抽出したところ、銅と鉄及び銀を効率よく分離回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銅と共存元素を含む塩化物水溶液から、溶媒抽出法で銅と共存元素を分離回収する方法において、該塩化物水溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極に対して0〜350mVにした後、トリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤に接触混合させて銅を選択的に抽出させる第一の工程、および銅を抽出した有機溶媒を水溶液に接触混合させて銅を逆抽出させる第二の工程を含むことを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、第一の工程において、塩化物水溶液の酸化還元電位が、銀/塩化銀電極に対して250〜300mVであることを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、第一の工程に用いられる抽出剤中のトリブチルフォスフェイト濃度が、40容量%以上であることを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、第二の工程に用いられる水溶液は、銅濃度が70g/L以下、塩素イオン濃度が50〜350g/Lであることを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、第二の工程において、逆抽出の温度が、40〜90℃であることを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0018】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、共存元素が、鉄及び/又は銀であることを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法が提供される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の銅と共存元素を分離回収する抽出方法について詳細に説明する。
1.銅と共存元素を含む塩化物水溶液
本発明の溶媒抽出法で用いる銅と共存元素を含む塩化物水溶液とは、主に非鉄金属精錬工程などから産出する銅、鉄、銀等を含む浸出生成液である塩化物水溶液、銅メッキ被覆鉄系材料などからの銅、鉄等の回収用塩化物水溶液、自動車、家電製品等のシュレッダー処理産出物からの銅、貴金属、鉄等の分離回収用塩化物水溶液等を挙げることができる。
【0020】
本発明においては、上記銅と共存元素を含む塩化物水溶液の酸化還元電位は、銀/塩化銀電極に対して、0〜350mV、好ましくは0〜300mV、特に好ましくは250〜300mVにする必要がある。
すなわち、非鉄金属精錬工程などから産出する浸出生成液である塩化物水溶液は、2価の銅イオン、2価及び3価の鉄イオン等を含む溶液であり、銅イオンは、2価の状態では中性抽出剤には抽出されない。しかしながら、水溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極に対して0〜350mVにすることにより、銅、鉄それぞれのイオンの状態は還元されて、銅イオンで1価、鉄イオンで2価の状態となり、1価の銅イオンは、選択的に中性抽出剤に抽出されるようになる。
【0021】
酸化還元電位が350mVを超えると、銅イオンは、2価となり中性抽出剤に抽出されず、さらにこの2価の銅イオンが酸化剤として働いて鉄イオンも一部3価の状態となってしまい、この3価の鉄イオンは抽出剤で抽出されるので、溶媒抽出の分離性能が低下する。一方、酸化還元電位が0mV未満であると、場合によって目的とする金属イオン、すなわち鉄イオン又は銅イオンあるいは銀イオンが金属状態まで還元されて沈殿することがあるため好ましくない。
【0022】
本発明において塩化物水溶液の酸化還元電位の調整方法は、特に限定されず、従来公知の方法、例えば、不活性雰囲気で金属銅、あるいは銅より卑な金属鉄等を加える方法、二酸化硫黄ガス等の還元剤を添加する方法等によって行うことができる。
ここで、酸化還元電位の測定は、銀/塩化銀電極を参照電極として行った。
【0023】
2.銅イオンの抽出
本発明の方法において、上記酸化還元電位が調整された塩化物水溶液からの銅イオンの抽出は、トリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤と接触混合することによって行う。塩化物水溶液中の1価の銅イオンは、選択的にトリブチルフォスフェイトに抽出される。
本発明の抽出剤においては、トリブチルフォスフェイトは、流動性を保つために、ケロシン等の希釈剤で希釈しても良いが、銅イオンの抽出率は、塩化物水溶液中の塩化物イオンの濃度と、接触混合させるトリブチルフォスフェイトの濃度に依存するので、トリブチルフォスフェイトの希釈は極力行わない方が好ましい。しかしながら、工業的に期待するCu/Feの分離係数を得るには、トリブチルフォスフェイト濃度は、好ましくは40〜100容量%、さらに好ましくは50〜100容量%である。また、抽出剤中のトリブチルフォスフェイトの濃度を調整することによって、銅と鉄の抽出率の制御も行える。
【0024】
また、抽出工程の工業的な実施形態として、必要に応じて抽出後の残液を再度新規のトリブチルフォスフェイトと接触混合させ、溶液中に残った銅イオンを抽出する操作を行い、この繰り返しにより残液中の銅イオンを殆どトリブチルフォスフェイト中に抽出させることができる。
さらに、塩化物水溶液中の銀は、トリブチルフォスフェイトに全く抽出されないため、銅を溶媒に抽出することで、銅と銀を各々抽出溶媒の逆抽出生成液と抽出残液に分離回収することができる。
【0025】
3.逆抽出
本発明では、抽出された銅イオンを含むトリブチルフォスフェイト溶液を水溶液と接触混合させ、抽出された銅イオンを水溶液側に逆抽出することにより銅を回収する。この逆抽出工程は、必要に応じて、繰り返すことにより抽出率を上げることができる。
【0026】
逆抽出に用いる水溶液の銅濃度は、0〜70g/Lが好ましく、より好ましくは0〜30g/Lである。すなわち、新液の場合、逆抽出液の銅濃度は、0であるが、繰り返し使用の場合、銅イオンが含まれることとなる。この逆抽出に供せられる水溶液中の銅濃度の上限は、70g/Lとすることが好ましい。これ以上逆抽出液の銅濃度が高いと、逆に溶媒側に銅が移動する現象が起こる。例えば、銅濃度100〜110g/Lの塩化物水溶液を抽出した場合、抽出率は40%程度、すなわち60〜70g/Lの銅が水溶液に残る。逆抽出の場合でも同様の平衡状態となるので、逆抽出液の銅濃度を70g/L以上にするのは好ましくない。
【0027】
また、逆抽出に用いる水溶液の塩素イオン濃度は、50〜350g/Lが好ましい。塩素イオン濃度は、逆抽出される銅濃度にあわせて決められる。すなわち、逆抽出される1価の銅イオンは水への溶解度が小さいため、逆抽出された銅イオンが溶液の状態を保つために、逆抽出に用いる溶液は逆抽出される銅濃度にあわせて塩素イオン濃度を高く保つ必要がある。具体的には、Cuの1価イオン濃度が5g/L以上になるようであれば、塩素イオン濃度50g/L以上、50g/L程度になると予想される場合は塩素イオン濃度150g/L以上、Cuの1価イオン濃度が80g/L以上になるようであれば塩素イオン濃度200g/L以上に保つ必要がある。また、実用的には、塩素イオン濃度の上限は、350g/L程度であるので、この値が塩素イオン濃度の上限となる。
なお、逆抽出に用いる水溶液の塩素イオン濃度は、塩酸、NaCl等の塩化物イオンを加えることにより調整することができる。
【0028】
水溶液中に逆抽出された銅イオンは、1価のCuClの水溶液として回収されるが、逆抽出されてくる銅イオンをCuClの結晶として沈殿させることを目的とする場合は、上記塩素イオン濃度を高く保つ必要は無いが、一般に固体として逆抽出された場合は、溶媒と固体の分離が困難であるため溶液として逆抽出することが望ましい。本発明の液組成の逆抽出液を用いて逆抽出処理することにより、銅イオンをほとんど含まず再度使用可能なトリブチルフォスフェイトを含む溶媒を、少ない逆抽出回数で効率良く得ることができる。
【0029】
逆抽出時の温度は、室温〜90℃が好ましく、より好ましくは40〜90℃である。室温以上にすることによりトリブチルフォスフェイト中の銅イオンは、より多く水相側へ排出され、逆抽出率が大きくなる。一方、90℃を超えると放熱量が多くなり、温度を保つことが困難になる上、溶媒の蒸散量も多くなるため現実的ではなく、溶媒相及び水相が安定な状態を保つことができない。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた分析方法は以下の通りである。また、塩素イオン濃度は、試薬の使用量から算出した。
【0031】
(1)金属イオンの分析:ICP発光分析法に準拠して測定した。
(2)酸化還元電位(ORP):銀/塩化銀電極を参照電極として測定した。
【0032】
実施例1〜3、比較例1
銅濃度で50g/L、鉄濃度で70g/Lとなるように、塩化銅(銅2価)と塩化第2鉄(鉄3価)とを含む水溶液を合成し、さらに、この水溶液液に食塩を添加して塩素イオン濃度を200g/Lとした。この液を60℃に加温し、鉄粉を投入して酸化還元電位を275mV、300mV、350mV、380mVに調整した。酸化還元電位を調整した溶液を室温にてトリブチルフォスフェイト液と接触混合させてトリブチルフォスフェイト中に金属イオンを抽出し、銅、鉄それぞれの抽出率を求めた。なお、接触混合時には混合時の気液界面接触による酸化を防ぐため窒素により不活性雰囲気とした。
得られた銅と鉄の抽出率を酸化還元電位に対してプロットした結果を図1に示す。また、この結果を用いて算出したCu/Fe分離係数を図2に示す。
ここで、Cu/Fe分離係数は、抽出始液の銅/鉄濃度比に対する、抽出後液中の銅/鉄濃度比の比率で、分離係数が大きい程、銅が鉄に対して高濃度に抽出され分配されていることを表している。
【0033】
図1より、抽出前の液の酸化還元電位が380mV(比較例1)であると銅イオンはほとんど抽出されないが、酸化還元電位を275mV、300mV、350mVにすると銅イオンの抽出率は大きく改善され、逆に鉄イオンの抽出率が下がることが分かる(実施例1、2、3)。また、図2より、酸化還元電位を350mV、300mV、275mVに下げるにつれて銅/鉄の分離係数は上昇し、銅が鉄に対して選択的に抽出されることが分かる(実施例1〜3)。一方、酸化還元電位が380mVであると銅/鉄の分離係数は1以下となり、選択的抽出は不可能である(比較例1)。
【0034】
実施例4〜7
銅濃度を80g/L、鉄濃度を50g/Lとなる合成水溶液を用い、その溶液の酸化還元電位を300mVとし、ケロシンで希釈した抽出剤中のトリブチルフォスフェイト濃度が40容積%、60容積%、80容積%及び100容積%(希釈なし)の溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして銅イオンの抽出を行い、その結果を図3及び図4に示した。
図3は、トリブチルフォスフェイト濃度に対して、銅及び鉄の抽出率をプロットした図である。図3より、トリブチルフォスフェイトの濃度を上昇させると銅の抽出率は大きくなるが、鉄の抽出率はあまり変化がないことがわかる。図4は、トリブチルフォスフェイト濃度に対してCu/Fe分離係数をプロットした図である。図4より、トリブチルフォスフェイトの濃度が高いと銅/鉄の分離係数も良くなることがわかる。
【0035】
実施例8
銅濃度が118g/L、鉄濃度が90g/L、銀濃度が9mg/Lとなるように塩化銅(銅2価)、塩化第2鉄(鉄3価)、塩化銀(銀1価)を含む銅精鉱浸出液を作製し、この液を60℃に加温し、鉄粉を投入して酸化還元電位を300mVに調整した。酸化還元電位を調整した溶液を室温にてトリブチルフォスフェイト液と接触混合させてトリブチルフォスフェイト中に金属イオンを抽出した。
次に、塩酸でpH=1.0に調整し、NaClで塩素イオン濃度を50g/Lに調整した逆抽出液を用いて、50℃で、溶媒中の銅イオンを逆抽出した。抽出の結果、抽出後の抽出残液中の銅濃度は60g/L、鉄濃度は90g/L、銀濃度は8mg/Lであり、逆抽出生成液中の銅濃度は28g/L、鉄濃度は5g/L、銀濃度は1mg/L以下であった。銀はトリブチルフォスフェイトに抽出されず、抽出残液に残り、銅と銀は殆ど完全に分離できることが分かる。
【0036】
実施例9〜12
実施例1におけるトリブチルフォスフェイト抽出後の溶液を、塩酸でpH=0.5に調整し、NaClで塩素イオン濃度を100g/Lに調整した逆抽出液を用いて、30℃、40℃、60℃、75℃で、溶媒中の銅を逆抽出した。抽出率を求め、その結果を図5に示した。図5は、抽出温度に対して抽出率をプロットした図である。図5より、温度を上げることにより逆抽出率は大きくなり、溶媒中の銅の50%以上を逆抽出するには、50℃以上が好ましいことがわかる。
【0037】
実施例13
非鉄精錬過程からの銅濃縮物の塩素浸出工程の生成液を用いた。この生成液の組成は、銅濃度118g/L、鉄濃度90g/L、銀濃度9mg/L、塩素イオン濃度200g/Lであった。この液の1リットルを抽出始液としてビーカーに採取し、60℃に加温し、鉄粉を投入して酸化還元電位を300mV(銀/塩化銀電極規準)に調整した後、室温でトリブチルフォスフェイト(濃度100容量%)2リットルと10分間接触混合(スターラー撹拌)させて溶媒抽出工程を行った。接触混合時には混合時の気液界面接触による酸化を防ぐため窒素により不活性雰囲気とした。次いで、有機相と水相を分離して、水相(抽出残液)を分析して、銅と鉄の有機相(トリブチルフォスフェイト)への抽出率を得た。水相(抽出残液)の組成は、銅濃度60g/L、鉄濃度90g/L、銀濃度8mg/Lであった。銅及び鉄の抽出率は、各々59.6%、11.6%であった。銅が鉄に対して選択的に抽出されていることが示された。銀は、その大部分が水相(抽出後液)に残存していた。
次ぎに、有機相(トリブチルフォスフェイト)に、塩酸とNaClを添加して、pH0.5、塩素イオン濃度50g/Lに調整した逆抽出液1リットルを、2分間接触混合させて逆抽出工程を行った。接触混合は、60℃に加温して行った。次いで、有機相と水相を分離して、水相(逆抽出生成液)を分析して、銅の有機相から水相への逆抽出率を得た。水相(逆抽出生成液)の組成は、銅濃度28g/L、鉄濃度5g/L、銀濃度1mg/L以下であった。銅の逆抽出率は、58%であった。銅が効果的に逆抽出されていた。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、非鉄金属精錬工程などから産出する、銅を含み、かつ鉄、銀等の共存元素を含む塩化物水溶液から、銅を有機溶媒を用いて選択的に抽出し、逆抽出する工程により、銅と共存元素を分離回収することが出来るのでその工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】塩化物水溶液の酸化還元電位に対して銅、鉄の抽出率をプロットした実施例1〜3、比較例1の結果の図である。
【図2】塩化物水溶液の酸化還元電位に対して銅/鉄の分離係数をプロットした実施例1〜3、比較例1の結果の図である。
【図3】トリブチルフォスフェイト濃度に対して銅、鉄の抽出率をプロットした実施例4〜7の図である。
【図4】トリブチルフォスフェイト濃度に対して銅と鉄の分離係数をプロットした実施例4〜7の図である。
【図5】逆抽出温度に対するトリブチルフォスフェイトからの銅の逆抽出率をプロットした実施例9〜12の図である。

Claims (6)

  1. 銅と共存元素を含む塩化物水溶液から、溶媒抽出法で銅と共存元素を分離回収する方法において、該塩化物水溶液の酸化還元電位を銀/塩化銀電極に対して0〜350mVにした後、トリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤に接触混合させて銅を選択的に抽出させる第一の工程、および銅を抽出した有機溶媒を水溶液に接触混合させて銅を逆抽出させる第二の工程を含むことを特徴とする銅と共存元素を分離回収する方法。
  2. 第一の工程において、塩化物水溶液の酸化還元電位が、銀/塩化銀電極に対して250〜300mVであることを特徴とする請求項1に記載の銅と共存元素を分離回収する方法。
  3. 第一の工程に用いられる抽出剤中のトリブチルフォスフェイト濃度が、40容量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅と共存元素を分離回収する方法。
  4. 第二の工程に用いられる水溶液は、銅濃度が70g/L以下、塩素イオン濃度が50〜350g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の銅と共存元素を分離回収する方法。
  5. 第二の工程において、逆抽出の温度が、40〜90℃であることを特徴とする請求項1に記載の銅と共存元素を分離回収する方法。
  6. 共存元素が、鉄及び/又は銀であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅と共存元素を分離回収する方法。
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