JP2004161527A - フェライト組成物、磁心およびインダクタ素子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Fe2 O3 に換算して12〜20モル%の酸化鉄と、ZnOに換算して10〜25モル%の酸化亜鉛と、残部が酸化ニッケルである基本組成を有するフェライト組成物であって、前記基本組成100質量%に対し、副成分として、酸化ビスマスをBi2 O3 換算で0.01〜10質量%と、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%と、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%とを含有し、酸化鉛を実質的に含まない。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえばインダクタンス素子の磁心材として好適に使用され、特に樹脂モールドタイプのチップインダクタの磁心材として使用されるフェライト組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、テレビ、ビデオレコーダー、ビデオカメラ、移動体通信機器等の分野で、需要が拡大している樹脂モールドタイプのチップインダクタ、固定コイル等の分野において、小型、軽量、高精度はもちろん更に環境に対する関心が高まってきており、これらの要求に応じるため、部品に対して狭公差化・高信頼化・低環境負荷への要求が高まってきている。このような要求に対し、これらの部品の磁芯として使用されるフェライト磁心材には、以下のような特性が求められる。
【0003】
▲1▼巻線によるインダクタンス微調整のため、低い初透磁率(μi)を有すること、特に縦置き型のフェライト磁心の場合、1/2ターンでの微調整を可能とするため初透磁率が低いことが必要である(μi:8以下)。
【0004】
▲2▼高焼結密度を有すること。
【0005】
▲3▼モールドされる樹脂による外部応力に対し、インダクタンス変化が少ないこと(以下、外部応力に対するインダクタンス変化率であって、棒状試料に磁化方向と平行に加えた荷重とその際のインダクタンス変化率を抗応力特性という)。つまり、優れた抗応力特性を有すること。
【0006】
▲4▼さらに、モールドされる樹脂による外部応力と、これに加えられる外部磁場に対して、インダクタンス変化が少ないこと(以下、外部応力と外部磁場に対するインダクタンス変化率であって、棒状試料に磁化方向と平行に加えた荷重と、外部磁場を印加し解除した際のインダクタンス変化率を抗応力抗磁場特性という)。つまり、優れた抗応力抗磁場特性を有すること。
【0007】
特に、抗応力抗磁場特性は、モールドされたインダクタ素子をアッセンブリする際に、高磁束密度の磁場に曝される場合があり、素子として所定のインダクタンスに調整されていても、実際に製品に組み込まれた段階で初期の特性を維持できるかが重要な課題であった。また、実際に製品に組み込まれた後でも、チップインダクタ自体は磁気シールドされていないため、周囲の電磁部品から生じる磁気による影響を回避する必要もある。
【0008】
このような要請を満足するために、たとえば下記の特許文献1に示すフェライト組成物が提案されている。
【0009】
ところが、ここ数年急速に環境に対する関心が高まってきており、欧州の鉛規制などの様に有害物を含まない製品への要求が出てきている。従来の樹脂モールドタイプのチップインダクタ、固定コイル等の部品の磁芯として使用されるフェライト磁心材には有害物である鉛を含んでおり、これらの鉛フリー化が望まれている。
【0010】
一般に、鉛をビスマスに置換することで鉛フリー化は可能であるが、諸特性が変化してしまい製品として求められる要求特性のバランスが崩れ製品として成り立たなくなるため、単純に置換すればよいわけではない。
【0011】
下記の特許文献1に記載されている組成で、環境負荷軽減を目的に鉛をビスマスに置換しようとすると、温度特性が悪くなり、製品としてのバランスがとれなくなることが判明した。更に添加物である酸化ビスマスと酸化珪素の添加量を変化させても、製品に要求される特性のバランスがとれる組成は見つからなかった。
【0012】
【特許文献1】
特許第3181560号公報。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、鉛フリーでありながら、温度特性に優れ、しかも、高信頼性の樹脂モールド型インダクタ素子(固定コイル含む)を実現可能で、低初透磁率、高焼結密度で、大きな外部応力に対してもインダクタンスの変化が小さく、外部磁場印加後のインダクタンスの低下が少ないフェライト組成物、磁心およびインダクタ素子を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、
Fe2 O3 に換算して12〜22モル%の酸化鉄と、ZnOに換算して8〜27モル%の酸化亜鉛と、残部が酸化ニッケルである基本組成を有するフェライト組成物であって、
前記基本組成100質量%に対し、副成分として、酸化ビスマスをBi2 O3 換算で0.1〜10質量%と、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%と、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%とを含有することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記基本組成100質量%に対し、酸化マグネシウムをMgO換算で0.5〜2質量%含有する。
【0016】
温度特性を改善する比較的安価な第三添加物の探索を行ったところ、酸化ビスマスと酸化珪素の他に第三添加物として酸化マグネシウムを添加することにより温度特性を改善できることが判明した。しかしながら、酸化マグネシウムの添加は、その添加量に比例して抗応力特性を劣化させることが実験によって確認された。従って、製品として求められる温度特性と抗応力特性のバランスを考慮して、適切な酸化マグネシウムの添加量を精密に制御することが肝要である。また、酸化マグネシウムは単独での添加に限定されるものではなく、コストや製造上の利便性によって珪素とマグネシウムの複合酸化物を用いてもかまわない。その複合酸化物としては、たとえばタルクが用いられる。
【0017】
本発明のフェライト組成物では、初透磁率μiが好ましくは8以下で、さらに好ましくは7以下であって、その下限としては特に制限されるものではないが2程度である。また、その焼結密度は、好ましくは4.8g/cm3 以上、さらに好ましくは5g/cm3 以上であって、その上限としては特に限定されるものではないが6g/cm3 程度である。初透磁率が8を越えると、巻線によるインダクタンスの微調整が困難となる。また、焼結密度が4.8g/cm3 に満たないと、抗応力特性が低下するとともにインダクタとして使用した場合、特性にばらつきが生じたり、モールド用樹脂や接着剤が磁心の気孔に染み込んだりする問題が生じる。
【0018】
本発明では、磁化方向に平行なP=約50MPaの圧縮応力下で100mTの磁場印加条件によるインダクタンス変化率ΔL/Lである抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内であるフェライト組成物を、工業的に量産することが可能である。
【0019】
本発明のフェライト組成物は、好ましくは、非磁性の相に磁性相であるフェライト相が島状に点在している。また、本発明のフェライト組成物は、好ましくは、亜鉛と珪素の複合酸化物、もしくはマグネシウムと珪素の複合酸化物を含む。さらに、本発明のフェライト組成物は、好ましくは、マグネシウム、亜鉛または珪素とは複合酸化物を実質的に形成していない酸化ビスマスが存在する。
【0020】
本発明に係る磁心は、上記に記載のフェライト組成物で構成してある。本発明に係るインダクタ素子(固定コイル含む)は、上記に記載のフェライト組成物で構成してある磁心の周囲に巻き線が巻回してある。この素子は、樹脂モールドしてあっても良い。
【0021】
なお、前記の特許文献1に記載されている組成で、環境負荷軽減を目的に、添加物である鉛をビスマスに置換しようとすると、温度特性が悪くなることが確認された。温度特性を改善しようとして添加物である酸化ビスマスと酸化珪素の添加量を変化させてみたが、温度特性は改善されなかった。そこで色々な添加元素を検討した結果、酸化マグネシウムが温度特性の改善に効果があることが判明した。温度特性が改善された酸化マグネシウム添加後のフェライト組成物を、EPMAにて元素のマッピングを行ったところ、Zn,Mg,Siがほぼ同じ位置にあることからZn−Si, Mg−Si,Mg−Zn−Siの各種化合物の生成が予想される。更に、酸化マグネシウム添加前後でXray回折にて生成相の定性分析を行ったところ、添加によって新たにMg−Si化合物のピークが認められた。Mg−Si化合物が温度特性の改善に寄与しているものと推定される。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るインダクタ素子の一部破断斜視図、図2〜図10は本発明の一実施例に係るフェライト組成物の元素マッピング結果を示す写真である。
【0023】
図1に示すように、インダクタ素子は、両端部に大径のフランジ部を持つ円柱状の磁心1を有し、その磁心1の胴部には巻き線2が巻回してある。磁心1の両端部には、端子6が接続してあり、巻き線2の両端部を外部回路に接続可能になっている。端子6の先端側一部を除き、磁心1、巻き線2および端子6の基部は、モールド用樹脂5で覆われている。
【0024】
なお、インダクタ素子の構成は、図示例に制限されるものではなく、種々の態様をとることができ、例えばリード線を磁心の円筒軸の中心部から軸方向に接続するような構成としてもよいし、箱形の樹脂ケース内に、磁心に巻線、リード線等を設けたコイル素体を挿入し、開口部をモールド材で封止するような構成としてもよい。また、磁心1の形状としては特に限定されるものではないが、例えば、外径・長さ共に2mm以下(例えば径1.8mm×長さ1.3mm)のドラム型磁心や、トロイダル磁心、I型磁心等が挙げられる。
【0025】
本実施形態では、モールド用樹脂5は、特に限定されるものではないが、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等であり、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。モールド用樹脂をモールドする手段としては、ディップ、塗布、吹き付け等や、射出成型、流し込み成型等が例示される。
【0026】
本実施形態では、磁心1が、以下に示すフェライト組成物で構成してある。このフェライト組成物は、Fe2 O3 に換算して12〜22モル%の酸化鉄と、ZnOに換算して8〜27モル%の酸化亜鉛と、残部が酸化ニッケルである基本組成を有するフェライト組成物であって、
前記基本組成100質量%に対し、副成分として、酸化ビスマスをBi2 O3 換算で0.1〜10質量%と、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%と、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%とを含有し、酸化鉛を実質的に含まないことを特徴としている。
【0027】
しかも、このフェライト組成物は、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3 以上で、かつ磁化方向に平行なP=約50MPaの圧縮応力下で100mTの磁場印加条件によるインダクタンス変化率ΔL/Lである抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内である。
【0028】
基本組成における酸化鉄の含有量は、Fe2 O3 換算で、12〜22モル%であり、好ましくは14〜19 モル%、特に好ましくは16〜19 モル%である。酸化鉄の含有量が22モル%を超えると、初透磁率を低くすることが困難となり、抗応力抗磁場特性が悪化する。酸化鉄は22モル%以下であれば微量でも含有されていればよいが、その下限値としては、上記範囲内が好ましい。酸化鉄の含有量が少なくなると、フェライト磁心中の磁性成分が少なくなり、磁性体としての作用が低下してくる。
【0029】
酸化鉄と置換する2価の金属としては、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅、酸化マグネシウム等が挙げられるが、本発明では、特に酸化亜鉛と酸化ニッケルを用いる。酸化亜鉛は、ZnOに換算して、8〜27 モル%、好ましくは、14〜22 モル%、特に、16〜20 モル%が好ましい。基本組成中の残部は酸化ニッケルとする。酸化亜鉛の添加量を上記範囲とすることにより、極めて優れた抗応力抗磁場特性が得られる。
【0030】
また、これらに加えて酸化銅がCuOに換算して0〜10 モル%、好ましくは0〜6 モル%添加されていてもよい。酸化銅は焼成温度の調整に使用されるが、添加量が多すぎるとCuOx が生成され、特性のバラツキが生じる原因となる。
【0031】
本実施形態のフェライト組成物は、前記基本組成に対し、副成分として、酸化ビスマスをBi2 O3 換算で0.1〜10質量%(好ましくは0.2〜10質量%)と、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%(好ましくは0.1〜8質量%)と、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%(好ましくは0.5〜2質量%)とを含有し、酸化鉛を実質的に含まない。
【0032】
これらの副成分を添加することにより、抗応力特性が向上し、上記基本組成の好ましい焼成温度を1100〜1300℃程度から、950〜1100℃、特に970〜1050℃程度と、約100〜300℃程度低下させることができる。従って、より低温で良好な焼結密度が得られ好ましい。副成分の添加量が少なすぎると、焼結助剤としての効果が得難くなり、添加量が25質量%を超えると、ガラスが磁心表面に析出し、磁心同士が付着したり、磁心がセッターへ付着する等の炉材、焼成窯具の汚染問題を生じる。
【0033】
本実施形態のフェライト組成物は、初透磁率μiが8以下であって、焼結密度が4.8 g/cm3 以上である。また、初透磁率は好ましくは7以下、特に6以下が好ましく、その下限値としては、特に制限されるものではないが、2程度である。焼結密度は、好ましくは5 g/cm3 以上、特に5.2 g/cm3 以上が好ましい。また、その上限としては、特に限定されるものではないが、6 g/cm3程度である。初透磁率が8を超えると、巻線によるインダクタンスの微調整が困難になる。焼結密度が4.8 g/cm3 に満たないと、抗応力特性が低下して、インダクタとして使用した場合に特性のバラツキが生じたり、モールド用樹脂や接着剤が磁心の気孔(ポア)へ染み込む等の問題を生じる。
【0034】
さらに、本実施形態のフェライト組成物は、磁化方向に平行なP=約50MPaの圧縮応力下で100mTの磁場印加条件によるインダクタンス変化率ΔL/Lである抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内、さらに好ましくは+2%〜−3%の範囲内である。また、150mTの直流磁場印加時におけるインダクタンスの変化率ΔL/Lである抗磁場特性は、好ましくは+2%〜−8%以内、さらに好ましくは+2%〜−5%以内である。抗磁場特性が上記範囲内であると、外部磁界による電気、磁気特性への影響を受け難く好ましい。なお、前記の直流磁場は、インダクタンス測定時に、測定試料の直近に加えられた(測定される)磁場強度を表す。
【0035】
また、本実施形態のフェライト組成物では、P=約50MPaの圧縮応力による磁場をかけないインダクタンス変化率ΔL/Lである抗応力特性は、好ましくは+5%〜−5%以内、さらに好ましくは+3%〜−3%以内である。
【0036】
本実施形態のフェライト組成物は、図1に示す磁心1の形状に成形され、必要な巻き線2が巻回された後、端子6が取り付けられ、モールド用樹脂5で樹脂モールドされ、インダクタ素子(固定インダクタ含む)等として、テレビ、ビデオレコーダ、携帯電話や自動車電話等の移動体通信等各種電子機器に使用される。
【0037】
次に、本実施形態のフェライト組成物の製造方法について説明する。
まず、基本組成原料と、副成分原料とを用意する。基本成分原料としては、酸化鉄(α−Fe2 O3 )、および上記添加金属酸化物、あるいは焼成により上記酸化物となる金属で、好ましくは上記例示金属の酸化物である。各原料は、フェライトの最終組成として前記した量比になるように混合される。
【0038】
次いで、基本組成の成分原料、必要により副成分原料とを混合し、仮焼する。仮焼は酸化性雰囲気中、通常は空気中で行えばよく、仮焼温度は800〜1000℃、仮焼時間は1〜3時間とすることが好ましい。仮焼物はボールミル等により所定の大きさに粉砕される。仮焼物を粉砕した後、適当なバインダー、例えばポリビニルアルコール等を適当量加えて、所望の形状に成形する。
【0039】
次いで、成形体を焼成する。焼成は酸化性雰囲気中、通常は空気中で行えばよく、焼成温度は1100〜1300℃、前記副成分を添加した場合には、950〜1100℃程度で、焼成時間は2〜5時間とすることが好ましい。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0042】
実施例1
原料として、Fe2 O3 、NiO、ZnO、Bi2 O3 、SiO2 、MgO粉末を用意した。これら原料粉末を、最終組成が下記の表1に示す組成となるよう混合し、900℃で、3時間仮焼成し、これを粉砕して、フェライト仮焼粉砕粉とした。さらに、これにバインダーを加え、外径:約35mm、内径:約22mm、高さ:約10mmのドーナッツ状のトロイダル磁心に加圧成形し、950〜1100℃で2時間焼成し、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。焼成後の磁心サンプルは、外径:約30mm、内径:約19mm、高さ:約9mmであった。なお、表1に示す副成分の質量%は、基本成分を100質量%とした場合の値である。
【0043】
次に、得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
初透磁率は、JIS C−2561により測定した。焼結密度は、寸法と質量を測定して、密度d=質量W/体積Vにより計算した。相対温度係数αμirは、以下の方法で測定した。すなわち、上記磁心サンプルを使用し、巻線φ0.35mm、50Tsとし、測定周波数を100kHzにした以外はJIS C−2561に準拠して、サンプルを高温槽に入れ、−20°C、+20°Cおよび60°Cにおける透磁率の変化割合を平均化することにより求めた。
【0045】
抗応力特性ΔL/L(%)は、以下の方法で測定した。すなわち、磁心サンプルの周囲に巻き線を巻回してコイルを構成し、そのコイルにより発生する磁力線と平行な方向に加圧機により圧縮応力(P=約50MPa)を印加し、その応力を印加する前後におけるインダクタンスの変化率ΔL/L(%)を測定して抗応力特性とした。
【0046】
抗応力抗磁場特性ΔL/L(%)は、以下の方法で測定した。すなわち、磁心サンプルの周囲に巻き線を巻回してコイルを構成し、そのコイルにより発生する磁力線と平行な方向に加圧機により圧縮応力(P=約50MPa)を印加し、しかも、応力印加時に応力の印加方向と直角方向に、外部磁界100mTを5秒間印加した後解放し、そのときのインダクタンスの変化率ΔL/L(%)を測定して抗応力抗磁場特性とした。
【0047】
【表1】
【0048】
また、本実施例の焼結後のフェライト組成物の所定断面について、EPMAにて元素のマッピングを行った結果を図2〜図10に示す。図2は、SEM像であり、図3はMg元素のマッピング写真であり、図4はO元素のマッピング写真であり、図5はPb元素のマッピング写真であり、図6はZn元素のマッピング写真であり、図7はBi元素のマッピング写真であり、図8はSi元素のマッピング写真であり、図9はFe元素のマッピング写真であり、図10はNi元素のマッピング写真である。なお、図2〜図10は、同じ断面についての元素マッピングの写真であり、白い領域ほど、その元素が多く存在することを示す。
【0049】
図2〜図10に示すように、非磁性の相に磁性相であるフェライト相が島状に点在していることが確認できた。また、図2〜図10に示すように、Zn,Mg,Siがほぼ同じ位置にあることから、亜鉛と珪素の複合酸化物、もしくはマグネシウムと珪素の複合酸化物が形成されていることが確認できた。さらに、図2〜図10に示すように、Biと、ZnまたはSiまたはMgとは、同じ位置にないことから、マグネシウム、亜鉛または珪素とは複合酸化物を実質的に形成していない酸化ビスマスが存在することが確認できた。さらにまた、図5に示すように、鉛は実質的に含まれていないことが確認できた。
【0050】
さらに、酸化マグネシウム添加前後でXray回折にて生成相の定性分析を行ったところ、添加によって新たにMg−Si化合物のピークが認められた。Mg−Si化合物が温度特性の改善に寄与しているものと推定される。
【0051】
実施例2〜6および比較例1および2
酸化マグネシウムの含有量を0.005〜7質量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
表1に示すように、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3以上で、温度特性が35ppm/°C以内で、抗応力特性が±5%以内で、抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内とするためには、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%、特に0.5〜2質量%とすることが良いことが確認できた。
【0053】
なお、本発明者等の実験によれば、酸化マグネシウムの添加量の増加に伴い、Si−Mg複合酸化物の生成量が増加することも確認された。この化合物が温度特性の改善と、インダクタンス変化率ΔL/Lで示される抗応力特性及び抗応力抗磁場特性の低下に起因しているものと推定される。製品に要求される特性に応じて酸化マグネシウムの添加量を適切に制御する必要があることが確認できた。
【0054】
実施例7〜11および比較例3〜5
酸化ビスマスの含有量を0.005〜12質量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
表1に示すように、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3以上で、温度特性が35ppm/°C以内で、抗応力特性が±5%以内で、抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内とするためには、酸化ビスマスをBi2O3 換算で0.1〜10質量%(好ましくは0.2〜10質量%)とすることが良いことが確認できた。なお、酸化ビスマスの含有量が10質量%を超えると、異常粒成長が起こりやすくなると共に、コスト高となる。
【0056】
実施例12〜15および比較例6および7
酸化珪素の含有量を0.005〜13質量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
表2に示すように、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3以上で、温度特性が35ppm/°C以内で、抗応力特性が±5%以内で、抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内とするためには、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%(好ましくは0.1〜8質量%)とすることが良いことが確認できた。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例16〜21および比較例8および9
酸化鉄のモル%を、11〜24モル%に変化させた以外は、実施例1と同様にして、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
表2に示すように、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3以上で、温度特性が35ppm/°C以内で、抗応力特性が±5%以内で、抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内とするためには、酸化鉄の含有量は、Fe2 O3 換算で、12〜22モル%であり、好ましくは14〜19 モル%、特に好ましくは16〜19 モル%とすることが良いことが確認できた。酸化鉄の含有量が12モル%より少なくなると、異常粒成長をまねく傾向にある。
【0061】
実施例22〜28および比較例10および11
酸化亜鉛のモル%を、6〜29モル%に変化させた以外は、実施例1と同様にして、フェライト組成物の磁心サンプルを得た。得られたトロイダル形状の磁心サンプルについて、初透磁率μi、焼結密度d、温度特性(相対温度係数αμir)、抗応力特性および抗応力抗磁場特性を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
表2に示すように、初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3以上で、温度特性が35ppm/°C以内で、抗応力特性が±5%以内で、抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内とするためには、酸化亜鉛の含有量は、ZnOに換算して、8〜27 モル%、好ましくは、14〜22 モル%、特に、16〜20 モル%とすることが良いことが確認できた。
【0063】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、鉛フリーでありながら、温度特性に優れ、しかも、高信頼性の樹脂モールド型インダクタ素子(固定コイル含む)を実現可能で、低初透磁率、高焼結密度で、大きな外部応力に対してもインダクタンスの変化が小さく、外部磁場印加後のインダクタンスの低下が少ないフェライト組成物、磁心およびインダクタ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るインダクタ素子の一部破断斜視図である。
【図2】図2は本発明の一実施例に係るフェライト組成物の一断面におけるSEM像である。
【図3】図3は図2と同じ断面のMg元素マッピング結果を示す写真である。
【図4】図4は図2と同じ断面のO元素マッピング結果を示す写真である。
【図5】図5は図2と同じ断面のPb元素マッピング結果を示す写真である。
【図6】図6は図2と同じ断面のZn元素マッピング結果を示す写真である。
【図7】図7は図2と同じ断面のBi元素マッピング結果を示す写真である。
【図8】図8は図2と同じ断面のSi元素マッピング結果を示す写真である。
【図9】図9は図2と同じ断面のFe元素マッピング結果を示す写真である。
【図10】図10は図2と同じ断面のNi元素マッピング結果を示す写真である。
【符号の説明】
1… 磁心
2… 巻き線
5… モールド用樹脂
6… 端子
Claims (6)
- Fe2 O3 に換算して12〜22モル%の酸化鉄と、ZnOに換算して8〜27モル%の酸化亜鉛と、残部が酸化ニッケルである基本組成を有するフェライト組成物であって、
前記基本組成100質量%に対し、副成分として、酸化ビスマスをBi2 O3 換算で0.1〜10質量%と、酸化珪素をSiO2 換算で0.01〜10質量%と、酸化マグネシウムをMgO換算で0.1〜5質量%とを含有することを特徴とするフェライト組成物。 - 初透磁率が8以下であって、焼結密度が4.8g/cm3 以上で、かつ磁化方向に平行なP=約50MPaの圧縮応力下で100mTの磁場印加条件によるインダクタンス変化率ΔL/Lである抗応力抗磁場特性が+2%〜−5%の範囲内である請求項1に記載のフェライト組成物。
- 亜鉛と珪素の複合酸化物、もしくはマグネシウムと珪素の複合酸化物を含む請求項1または2に記載のフェライト組成物。
- マグネシウム、亜鉛または珪素とは複合酸化物を実質的に形成していない酸化ビスマスが存在する請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト組成物で構成してある磁心。
- 請求項5に記載の磁心の周囲に巻き線が巻回してあるインダクタ素子。
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