JP2004156097A - シャドウマスク用低熱膨張合金およびシャドウマスク - Google Patents
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Abstract
【課題】熱膨張と共に地磁気に起因する電子ビームのドリフトによる色ずれを防止できるFe−Ni−Co系のシャドウマスク用低熱膨張合金を提供する。
【解決手段】化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%を含有し、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金である。さらに、Mn:0.01〜0.5%以下を含有し、不純物は、C:0.01%以下、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすること、また、これらの発明において更に、板厚が0.3mm以下、最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tが5×102以上、保磁力が60A/m以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【選択図】 図1
【解決手段】化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%を含有し、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金である。さらに、Mn:0.01〜0.5%以下を含有し、不純物は、C:0.01%以下、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすること、また、これらの発明において更に、板厚が0.3mm以下、最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tが5×102以上、保磁力が60A/m以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカラー表示装置のブラウン管のシャドウマスクに用いられるFe−Ni−Co系低熱膨張合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラーテレビ等のカラー表示装置のブラウン管は、蛍光面の所定位置に電子ビームが照射されるように、色選別用マスクが用いられる。この色選別用マスクの一種に、多数の小孔を設けた金属板をプレス成形して得られるシャドウマスクが使用されている。シャドウマスクは、電子銃と蛍光面の間に設置されており、極めて高い位置精度が求められている。
【0003】
しかし、ブラウン管を長時間使用すると、シャドウマスクが電子ビームの照射により加熱されて、熱膨張による歪みが発生する。そのため、シャドウマスクを通過した電子ビームが蛍光面に対して所定位置からずれ、結果として画像の色ずれが生じる。そこでこの問題への対策として、従来から、ブラウン管のシャドウマスクには熱膨張係数の小さい、Fe−36%Ni合金等のFe−Ni系合金が使用されてきた。
【0004】
近年、カラー表示装置の高精細化と同時に高輝度化が求められており、これに伴い熱膨張による歪み量をより低減することへの要求が厳しさを増している。そのため、従来のFe−Ni系合金よりも更に熱膨張係数の小さい合金が使用されつつある。
【0005】
例えば、特開平6−57383号公報(特許文献1)には、磁気特性、特に50Hz以上の周波数帯域での透磁率を優れたものとし、この周波数帯域での迷走磁場遮蔽(シールド)を充分に行い得るシャドウマスク用Fe−Ni合金薄板およびFe−Ni−Co合金薄板が提案されている。この技術は、Ni:30〜8%,Mn≦0.35%, Si≦0.05%,Cr≦0.05%,Ti≦0.02%,Mo≦0.05%,W≦0.05%,Nb≦0.02%,V≦0.05%,Cu≦0.05%,Co≦6%であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+〔Si〕+〔Mo〕+〔W〕+〔Nb〕+〔V〕+〔Cu〕≦0.25%を含有するFe−Ni合金およびFe−Ni−Co合金であって、黒化処理後の合金板表面への{331}、{210}、{211}の結晶面の集積度が所定の値(表形式で表示)を満足し、かつビッカース硬度(Hv) が140以下であるというものである。
【0006】
また、特開平4−358042号公報(特許文献2)には、エッチング穿孔性、プレス成形性及び磁気特性に優れ、熱膨張係数が低いFe−Ni−Co系合金が提案されている。この技術は、Niを28〜34%、Coを2〜7%に、Siを0.10%以下、Mnを0.1〜1.0%に規制し、平均結晶粒径を30μm以下にするというものである。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−57383号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平4−358042号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、シャドウマスクに従来技術による熱膨張係数の著しく小さいFe−Ni−Co合金を使用した場合、熱膨張に起因する色ずれは低減されるものの、別の要因による色ずれが問題となる場合が生じる。それは、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによるもので、単に、熱膨張係数を低下させるだけでは解決できない。
【0010】
特許文献1(特開平6−57383号公報)記載の技術は、50Hz以上の周波数帯域での透磁率の向上により、商用電力周波数およびその高調波に対する磁気遮蔽の効果を高めるというものであり、地磁気のような直流磁場に対する磁気遮蔽については記載されていない。透磁率については50Hz〜30kHzの周波数帯域での測定値しか記載されておらず、また、測定に用いている磁界の強さは5mOeであり、地磁気の数百mOeとは桁が違う。
【0011】
特許文献2(特開平4−358042号公報)記載の技術は、磁気特性に優れたFe−Ni−Co系合金とは言うものの、主として熱膨張係数とエッチング穿孔性(エッチングファクター)について説明されており、磁気特性としては保持力が記載されているのみである。従って、この技術では、地磁気に起因する電子ビームのドリフトについては、解決することができない。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決し、熱膨張に起因する色ずれの低減と共に、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによる色ずれを防止することのできるFe−Ni−Co系のシャドウマスク用低熱膨張合金を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は次の発明により解決される。その発明は、化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%を含有し、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金である。
【0014】
この発明において、さらに化学成分として質量%で、Mn:0.01〜0.5%以下を含有し、不純物は、C:0.01%以下、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【0015】
また、これらの発明において更に、板厚が0.3mm以下、最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tが5×102以上、保磁力が60A/m以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【0016】
これらの発明は、エッチング穿孔されたFe−Ni−Co合金のシャドウマスクについて、その磁気シールド性を詳細に検討した結果なされた。その結果、最大比透磁率の向上が、磁気シールド性の向上に必要であるという知見を得た。
【0017】
まず、各成分の添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0018】
Ni:30〜34%
Niは、Coと共に添加することにより顕著なインバー効果(低熱膨張特性)を発現させる元素である。Coを添加する場合、Ni量が30%未満あるいは34%超では、熱膨張係数が十分に低くならない。従って、Ni量を30〜34%の範囲内とする。
【0019】
Co:2〜6%
Coは、Niと共に添加することにより顕著な低熱膨張特性を発現させる元素である。Co量が2%未満あるいは6%超では、熱膨張係数が十分に低くならない。従ってCo量を2〜6%の範囲内とする。
【0020】
Mn: 0.01〜0.5%以下
Mnは、Fe−Ni−Co合金の熱間加工性を改善する元素であり、そのためには0.01%以上添加する必要がある。一方、0.5%を超えると低熱膨張特性を阻害する。従って、Mn量を0.5%以下、好ましくは0.3%以下とする。
【0021】
次に、不純物元素の限定理由について説明する。
【0022】
C:0.01%以下
Cは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはC量を0.01%以下とする必要があり、好ましくは0.005%以下とする。
【0023】
Si:0.1%以下
Siは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはSi量を0.1%以下とする必要があり、好ましくは0.07%以下とする。
【0024】
P:0.01%以下
Pは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはP量を0.01%以下とする必要がある。
【0025】
S:0.01%以下
Sは、Fe−Ni−Co合金の熱間加工性を劣化させる元素であり、その含有量は低いほど好ましい。熱間加工を比較的容易とするにはS量を0.01%以下とする必要があり、好ましくは0.004%以下とする。
【0026】
本発明の化学成分以外の項目については、次のようになる。
【0027】
最大比透磁率:5×103以上
最大比透磁率は、エッチング加工されたシャドウマスクの磁気シールド性に大きな影響を及ぼす。後述のように、実際の使用時のシャドウマスクをシミュレートした試験結果から明らかなように、最大比透磁率を5×103以上とすることにより、シャドウマスクとしての良好な磁気シールド性を得ることが可能となる。
【0028】
板厚:0.3mm以下
板厚は、エッチング処理による穿孔においては、薄い方が孔の間隔を狭くすることができるので、高精細化に有利となる。そのため、板厚は実用上0.3mm以下であることを必要とする。
【0029】
最大比透磁率と板厚の積:5×102以上
地磁気のシールドにおいては、板厚が薄いほど高い最大比透磁率が求められる。検討の結果、磁気シールド性を確保するには、最大比透磁率と板厚の積を一定値以上とする必要がある。最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tを5×102以上とすることにより、シャドウマスクとしての良好な磁気シールド性を得ることができる。
【0030】
保磁力:60A/m以下
ブラウン管の使用開始の際には、一般に消磁(デガウス)が行われるが、その際、保磁力が大きい場合は十分な消磁が行われず、シャドウマスクの残留磁化による色ずれが残ることがある。デガウス時に十分に消磁されるためには保磁力を60A/m以下とする必要がある。
【0031】
これらの発明の低熱膨張合金を用いたシャドウマスクの発明は、上記のシャドウマスク用低熱膨張合金をプレス成形および黒化処理することにより製造されたシャドウマスクである。
【0032】
シャドウマスクの製造は、上記の発明の低熱膨張合金を材料としてエッチング処理し、軟化焼鈍およびプレス成形を行った後、黒化処理することにより可能である。ここで、材料の磁気特性はプレス成形による歪の影響を受けるが、この歪は黒化処理を行う際に除去される。その結果、後述のように、材料の磁気特性の劣化を考慮しても、シャドウマスクとしての磁気シールド性が大きく損なわれることはない。
【0033】
【発明の実施の形態】
発明の実施に当たっては、前記成分組成で溶製し、造塊法または連続鋳造法によりスラブとする。スラブは、熱間圧延により熱延鋼板とする。この熱延板について、酸洗または研削により表面のスケールを除去した後、冷間圧延と回復焼鈍または再結晶焼鈍を複数回施して、薄板を得る。このようにして本発明のFe−Ni−Co系合金は製造される。
【0034】
ブラウン管は、その内部を、シャドウマスク、フレーム、内部磁気シールドといった磁性体からなる部材で囲むことにより、電子ビームの走査空間を地磁気からシールドしている。磁気シールド性を向上させるためには、一般にシールド部材の軟磁気特性が優れていることが好ましい。しかし、特に高輝度、高精細が求められるFe−Ni−Co合金からなるシャドウマスクにおいては、孔(開口部の面積)が大きく磁気回路を形成し難い形状であり、板厚も磁気シールド材としては極端に薄い。そのため、磁気シールド性の評価が困難であり、従来、詳細に検討されたことはなかったと言える。
【0035】
そこで、本発明のシャドウマスク用低熱膨張合金に関する詳細な検討結果について、次に説明する。Ni:32.2%、Co:4.8%を含有するFe−Ni−Co合金を、真空溶製後、熱間圧延、冷間圧延により、板厚0.15mmの鋼板とした。この鋼板から、軟磁気特性試験用にリング形状の試験片を採取し、500〜1000℃で軟化焼鈍を施した後、直流磁気特性を測定した。
【0036】
磁気シールド性については、エッチング穿孔によりフラットマスクを作成し、500〜1000℃の軟化焼鈍、プレス成形、600℃の黒化処理を施した試験材を用いて測定した。測定は、シャドウマスクを、図1に示す純鉄製の箱の開口部に取付けて、箱内部の磁場の強さをガウスメータで測定した。結果を図2に示す。図より、最大比透磁率が5000以上の場合に、シャドウマスクの良好な磁気シールド性が得られることがわかる。
【0037】
【実施例】
表1に示す化学成分を有するFe−Ni−Co合金を溶製し、仕上板厚2.1mmに熱間圧延し、酸洗後、途中に軟化焼鈍を挟んで板厚0.09〜0.13mmに冷間圧延した。これらの材料から、軟磁気特性試験用にリング形状の試験片を採取し、700〜1000℃で軟化焼鈍を施した後、直流磁気特性を測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
また、地磁気のシールド特性を測定するため、エッチング穿孔によりフラットマスクを作成し、700〜1000℃の軟化焼鈍、プレス成形、600℃の黒化処理を施し、試験用のシャドウマスクとした。磁気シールド性の評価は、前述(図1)の磁気シールド性測定箱に、シャドウマスクを取付けた時の箱内部の磁場をガウスメータで測定し、シャドウマスクが無い場合に比べて磁場が30%以上低減するものを良好(○印)とした。以上の測定結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表より、板厚t(mm)と最大比透磁率μmaxの積μmax×tが、本発明の範囲(5×102以上)を満足するサンプル2〜4,7,8は、優れた磁気シールド性が得られることがわかる。
【0042】
【発明の効果】
この発明は、エッチング穿孔されたFe−Ni−Co合金のシャドウマスクについて、材料の最大比透磁率を規定することにより、磁気シールド性を向上させている。その結果、熱膨張に起因する色ずれの低減と共に、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによる色ずれを防止することのできるFe−Ni−Co系のシャドウマスク用低熱膨張合金を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】シャドウマスクの磁気シールド性の測定方法を示す図。
【図2】シャドウマスクの磁気シールド性に及ぼす材料の最大比透磁率の影響を示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明はカラー表示装置のブラウン管のシャドウマスクに用いられるFe−Ni−Co系低熱膨張合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラーテレビ等のカラー表示装置のブラウン管は、蛍光面の所定位置に電子ビームが照射されるように、色選別用マスクが用いられる。この色選別用マスクの一種に、多数の小孔を設けた金属板をプレス成形して得られるシャドウマスクが使用されている。シャドウマスクは、電子銃と蛍光面の間に設置されており、極めて高い位置精度が求められている。
【0003】
しかし、ブラウン管を長時間使用すると、シャドウマスクが電子ビームの照射により加熱されて、熱膨張による歪みが発生する。そのため、シャドウマスクを通過した電子ビームが蛍光面に対して所定位置からずれ、結果として画像の色ずれが生じる。そこでこの問題への対策として、従来から、ブラウン管のシャドウマスクには熱膨張係数の小さい、Fe−36%Ni合金等のFe−Ni系合金が使用されてきた。
【0004】
近年、カラー表示装置の高精細化と同時に高輝度化が求められており、これに伴い熱膨張による歪み量をより低減することへの要求が厳しさを増している。そのため、従来のFe−Ni系合金よりも更に熱膨張係数の小さい合金が使用されつつある。
【0005】
例えば、特開平6−57383号公報(特許文献1)には、磁気特性、特に50Hz以上の周波数帯域での透磁率を優れたものとし、この周波数帯域での迷走磁場遮蔽(シールド)を充分に行い得るシャドウマスク用Fe−Ni合金薄板およびFe−Ni−Co合金薄板が提案されている。この技術は、Ni:30〜8%,Mn≦0.35%, Si≦0.05%,Cr≦0.05%,Ti≦0.02%,Mo≦0.05%,W≦0.05%,Nb≦0.02%,V≦0.05%,Cu≦0.05%,Co≦6%であって、〔Ti〕+〔Cr〕+〔Al〕+〔Si〕+〔Mo〕+〔W〕+〔Nb〕+〔V〕+〔Cu〕≦0.25%を含有するFe−Ni合金およびFe−Ni−Co合金であって、黒化処理後の合金板表面への{331}、{210}、{211}の結晶面の集積度が所定の値(表形式で表示)を満足し、かつビッカース硬度(Hv) が140以下であるというものである。
【0006】
また、特開平4−358042号公報(特許文献2)には、エッチング穿孔性、プレス成形性及び磁気特性に優れ、熱膨張係数が低いFe−Ni−Co系合金が提案されている。この技術は、Niを28〜34%、Coを2〜7%に、Siを0.10%以下、Mnを0.1〜1.0%に規制し、平均結晶粒径を30μm以下にするというものである。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−57383号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平4−358042号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、シャドウマスクに従来技術による熱膨張係数の著しく小さいFe−Ni−Co合金を使用した場合、熱膨張に起因する色ずれは低減されるものの、別の要因による色ずれが問題となる場合が生じる。それは、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによるもので、単に、熱膨張係数を低下させるだけでは解決できない。
【0010】
特許文献1(特開平6−57383号公報)記載の技術は、50Hz以上の周波数帯域での透磁率の向上により、商用電力周波数およびその高調波に対する磁気遮蔽の効果を高めるというものであり、地磁気のような直流磁場に対する磁気遮蔽については記載されていない。透磁率については50Hz〜30kHzの周波数帯域での測定値しか記載されておらず、また、測定に用いている磁界の強さは5mOeであり、地磁気の数百mOeとは桁が違う。
【0011】
特許文献2(特開平4−358042号公報)記載の技術は、磁気特性に優れたFe−Ni−Co系合金とは言うものの、主として熱膨張係数とエッチング穿孔性(エッチングファクター)について説明されており、磁気特性としては保持力が記載されているのみである。従って、この技術では、地磁気に起因する電子ビームのドリフトについては、解決することができない。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決し、熱膨張に起因する色ずれの低減と共に、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによる色ずれを防止することのできるFe−Ni−Co系のシャドウマスク用低熱膨張合金を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は次の発明により解決される。その発明は、化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%を含有し、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金である。
【0014】
この発明において、さらに化学成分として質量%で、Mn:0.01〜0.5%以下を含有し、不純物は、C:0.01%以下、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【0015】
また、これらの発明において更に、板厚が0.3mm以下、最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tが5×102以上、保磁力が60A/m以下であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金とすることもできる。
【0016】
これらの発明は、エッチング穿孔されたFe−Ni−Co合金のシャドウマスクについて、その磁気シールド性を詳細に検討した結果なされた。その結果、最大比透磁率の向上が、磁気シールド性の向上に必要であるという知見を得た。
【0017】
まず、各成分の添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0018】
Ni:30〜34%
Niは、Coと共に添加することにより顕著なインバー効果(低熱膨張特性)を発現させる元素である。Coを添加する場合、Ni量が30%未満あるいは34%超では、熱膨張係数が十分に低くならない。従って、Ni量を30〜34%の範囲内とする。
【0019】
Co:2〜6%
Coは、Niと共に添加することにより顕著な低熱膨張特性を発現させる元素である。Co量が2%未満あるいは6%超では、熱膨張係数が十分に低くならない。従ってCo量を2〜6%の範囲内とする。
【0020】
Mn: 0.01〜0.5%以下
Mnは、Fe−Ni−Co合金の熱間加工性を改善する元素であり、そのためには0.01%以上添加する必要がある。一方、0.5%を超えると低熱膨張特性を阻害する。従って、Mn量を0.5%以下、好ましくは0.3%以下とする。
【0021】
次に、不純物元素の限定理由について説明する。
【0022】
C:0.01%以下
Cは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはC量を0.01%以下とする必要があり、好ましくは0.005%以下とする。
【0023】
Si:0.1%以下
Siは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはSi量を0.1%以下とする必要があり、好ましくは0.07%以下とする。
【0024】
P:0.01%以下
Pは、シャドウマスクのエッチング加工性を阻害する元素であり、その含有量は低いほど好ましい。エッチング加工を比較的容易とするにはP量を0.01%以下とする必要がある。
【0025】
S:0.01%以下
Sは、Fe−Ni−Co合金の熱間加工性を劣化させる元素であり、その含有量は低いほど好ましい。熱間加工を比較的容易とするにはS量を0.01%以下とする必要があり、好ましくは0.004%以下とする。
【0026】
本発明の化学成分以外の項目については、次のようになる。
【0027】
最大比透磁率:5×103以上
最大比透磁率は、エッチング加工されたシャドウマスクの磁気シールド性に大きな影響を及ぼす。後述のように、実際の使用時のシャドウマスクをシミュレートした試験結果から明らかなように、最大比透磁率を5×103以上とすることにより、シャドウマスクとしての良好な磁気シールド性を得ることが可能となる。
【0028】
板厚:0.3mm以下
板厚は、エッチング処理による穿孔においては、薄い方が孔の間隔を狭くすることができるので、高精細化に有利となる。そのため、板厚は実用上0.3mm以下であることを必要とする。
【0029】
最大比透磁率と板厚の積:5×102以上
地磁気のシールドにおいては、板厚が薄いほど高い最大比透磁率が求められる。検討の結果、磁気シールド性を確保するには、最大比透磁率と板厚の積を一定値以上とする必要がある。最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tを5×102以上とすることにより、シャドウマスクとしての良好な磁気シールド性を得ることができる。
【0030】
保磁力:60A/m以下
ブラウン管の使用開始の際には、一般に消磁(デガウス)が行われるが、その際、保磁力が大きい場合は十分な消磁が行われず、シャドウマスクの残留磁化による色ずれが残ることがある。デガウス時に十分に消磁されるためには保磁力を60A/m以下とする必要がある。
【0031】
これらの発明の低熱膨張合金を用いたシャドウマスクの発明は、上記のシャドウマスク用低熱膨張合金をプレス成形および黒化処理することにより製造されたシャドウマスクである。
【0032】
シャドウマスクの製造は、上記の発明の低熱膨張合金を材料としてエッチング処理し、軟化焼鈍およびプレス成形を行った後、黒化処理することにより可能である。ここで、材料の磁気特性はプレス成形による歪の影響を受けるが、この歪は黒化処理を行う際に除去される。その結果、後述のように、材料の磁気特性の劣化を考慮しても、シャドウマスクとしての磁気シールド性が大きく損なわれることはない。
【0033】
【発明の実施の形態】
発明の実施に当たっては、前記成分組成で溶製し、造塊法または連続鋳造法によりスラブとする。スラブは、熱間圧延により熱延鋼板とする。この熱延板について、酸洗または研削により表面のスケールを除去した後、冷間圧延と回復焼鈍または再結晶焼鈍を複数回施して、薄板を得る。このようにして本発明のFe−Ni−Co系合金は製造される。
【0034】
ブラウン管は、その内部を、シャドウマスク、フレーム、内部磁気シールドといった磁性体からなる部材で囲むことにより、電子ビームの走査空間を地磁気からシールドしている。磁気シールド性を向上させるためには、一般にシールド部材の軟磁気特性が優れていることが好ましい。しかし、特に高輝度、高精細が求められるFe−Ni−Co合金からなるシャドウマスクにおいては、孔(開口部の面積)が大きく磁気回路を形成し難い形状であり、板厚も磁気シールド材としては極端に薄い。そのため、磁気シールド性の評価が困難であり、従来、詳細に検討されたことはなかったと言える。
【0035】
そこで、本発明のシャドウマスク用低熱膨張合金に関する詳細な検討結果について、次に説明する。Ni:32.2%、Co:4.8%を含有するFe−Ni−Co合金を、真空溶製後、熱間圧延、冷間圧延により、板厚0.15mmの鋼板とした。この鋼板から、軟磁気特性試験用にリング形状の試験片を採取し、500〜1000℃で軟化焼鈍を施した後、直流磁気特性を測定した。
【0036】
磁気シールド性については、エッチング穿孔によりフラットマスクを作成し、500〜1000℃の軟化焼鈍、プレス成形、600℃の黒化処理を施した試験材を用いて測定した。測定は、シャドウマスクを、図1に示す純鉄製の箱の開口部に取付けて、箱内部の磁場の強さをガウスメータで測定した。結果を図2に示す。図より、最大比透磁率が5000以上の場合に、シャドウマスクの良好な磁気シールド性が得られることがわかる。
【0037】
【実施例】
表1に示す化学成分を有するFe−Ni−Co合金を溶製し、仕上板厚2.1mmに熱間圧延し、酸洗後、途中に軟化焼鈍を挟んで板厚0.09〜0.13mmに冷間圧延した。これらの材料から、軟磁気特性試験用にリング形状の試験片を採取し、700〜1000℃で軟化焼鈍を施した後、直流磁気特性を測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
また、地磁気のシールド特性を測定するため、エッチング穿孔によりフラットマスクを作成し、700〜1000℃の軟化焼鈍、プレス成形、600℃の黒化処理を施し、試験用のシャドウマスクとした。磁気シールド性の評価は、前述(図1)の磁気シールド性測定箱に、シャドウマスクを取付けた時の箱内部の磁場をガウスメータで測定し、シャドウマスクが無い場合に比べて磁場が30%以上低減するものを良好(○印)とした。以上の測定結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表より、板厚t(mm)と最大比透磁率μmaxの積μmax×tが、本発明の範囲(5×102以上)を満足するサンプル2〜4,7,8は、優れた磁気シールド性が得られることがわかる。
【0042】
【発明の効果】
この発明は、エッチング穿孔されたFe−Ni−Co合金のシャドウマスクについて、材料の最大比透磁率を規定することにより、磁気シールド性を向上させている。その結果、熱膨張に起因する色ずれの低減と共に、地磁気に起因する電子ビームのドリフトによる色ずれを防止することのできるFe−Ni−Co系のシャドウマスク用低熱膨張合金を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】シャドウマスクの磁気シールド性の測定方法を示す図。
【図2】シャドウマスクの磁気シールド性に及ぼす材料の最大比透磁率の影響を示す図。
Claims (4)
- 化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%を含有し、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金。
- 化学成分として質量%で、Ni:30〜34%、Co:2〜6%、Mn:0.01〜0.5%以下を含有し、不純物は、C:0.01%以下、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下であり、残部が実質的に鉄からなり、最大比透磁率が5×103以上であることを特徴とするシャドウマスク用低熱膨張合金。
- 板厚が0.3mm以下、最大比透磁率μmaxと板厚t(mm)の積μmax×tが5×102以上、保磁力が60A/m以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシャドウマスク用低熱膨張合金。
- 請求項1ないし請求項3記載のシャドウマスク用低熱膨張合金をプレス成形および黒化処理することにより製造されたシャドウマスク。
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