JP2004155890A - ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性および良好な熱安定性を有するポリカーボネート樹脂組成物、殊に従来の繊維状充填材と板状充填材では実用的に得ることが困難であった低い比重、高い曲げ弾性率、および低い異方性のポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部、(C)芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部、および(D)繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材(D成分)1〜150重量部よりなるポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネート、特定の層状珪酸塩、芳香族ポリカーボネートと親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物、並びに繊維状充填材および/または板状充填材からなるポリカーボネート樹脂組成物に関する。より詳しくは本発明はかかる構成により低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性、並びに良好な熱安定性などを有する樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、OA機器分野や自動車分野、電気・電子部品分野などといった用途に広く用いられている。近年の軽薄短小といった技術動向により、更に高い剛性や強度が求められる場合がある。高い剛性や強度を得るためには、ガラス繊維などの繊維状強化材や板状強化材を混合する方法が代表的である。しかしながら多くの方法は高い剛性(曲げ弾性率)および低い反りの両立が達成されにくいことも広く知られている。一部の特定の充填材を除けば、概して繊維状充填材は異方性の影響で低反りが達成できず、一般的な板状充填材は繊維状充填材に匹敵する高い曲げ弾性率が得られない。
【0003】
前記を改良する目的でガラス繊維などの繊維状充填材とガラスフレーク等の板状強化材を併用する方法も広く知られている。しかしながらかかる併用は多くの場合両者の中間的な特性を達成するに過ぎない場合が多い。よって低い反りを達成するために曲げ弾性率への寄与率が低い板状充填材を比較的多く配合する必要があった。かかる多くの充填材の配合は材料の比重(密度)を増加させる。
【0004】
一方で比較的少量の充填材で高い曲げ弾性率を達成する技術の1つとして、無機充填剤として層状珪酸塩を、より好ましくはかかる層状珪酸塩の層間イオンを各種の有機オニウムイオンにイオン交換させた層状珪酸塩を、樹脂中へ微分散させた樹脂組成物が既に知られている。かかる樹脂組成物の技術はポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂において多く提案され、一部実用化されている。
【0005】
更にかかる層状珪酸塩を含有する樹脂組成物を改良した樹脂組成物も提案されている。例えば、ポリアミド樹脂に、層状珪酸塩およびトリアジン系化合物からなる珪酸塩複合体、繊維状強化材、および難燃剤を配合し高剛性、低反り、および難燃性を有するポリアミド樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
芳香族ポリカーボネート樹脂と層状珪酸塩、特に層状珪酸塩の層間イオンを各種の有機オニウムイオンにイオン交換させた層状珪酸塩とを組み合わせた樹脂組成物も既に広く知られている(特許文献2〜特許文献7参照)。更に他樹脂を介在させることによりその分散性を改良する提案も知られている(特許文献2および特許文献6参照)。
【0007】
またポリスチレン樹脂においてもポリスチレンに極性基を導入することにより層状珪酸塩の分散性を改良する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−53858号公報
【特許文献2】
特開平03−215558号公報
【特許文献3】
特開平07−207134号公報
【特許文献4】
特開平07−228762号公報
【特許文献5】
特開平07−331092号公報
【特許文献6】
特開平09−143359号公報
【特許文献7】
特開平10−060160号公報
【非特許文献1】
長谷川ほか、「ポリスチレンクレイハイブリッドの合成と物性」、高分子学会予稿集、社団法人高分子学会、平成11年5月12日発行、第48巻、第4号、687頁
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性および良好な熱安定性を有するポリカーボネート樹脂組成物、殊に従来の繊維状充填材と板状充填材では実用的に得ることが困難であった低い比重、高い曲げ弾性率、および低い異方性のポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
本発明者らはかかる目的を達成すべく鋭意検討した。その結果、芳香族ポリカーボネート、特定の層状珪酸塩、ポリカーボネートと親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(より好適にはカルボキシル基および/またはその誘導体からなる官能基を有する重合体)、並びに繊維状充填材および/または板状充填材からなる樹脂組成物が、低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性、および良好な熱安定性を有するポリカーボネート樹脂組成物となり得ることを見出した。更に検討を進めた結果、特定の繊維径を有する繊維状充填材との組み合せにおいて、より高い曲げ弾性率、かつ低い異方性を有するというより良好な相乗効果を奏する樹脂材料となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)(A)芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部、(C)芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部、および(D)繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材(D成分)1〜150重量部よりなるポリカーボネート樹脂組成物にかかるものである。
【0012】
かかる構成(1)によれば、低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性、並びに良好な熱安定性(以下単に“本発明の特徴”と称する場合がある)を有するポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0013】
本発明のより好適な態様の1つは、(2)前記B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつその陽イオン交換基の少なくとも40%が有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であることを特徴とする前記(1)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(2)によれば、本発明の特徴を有しかつより高い曲げ弾性率を有する(よって同一の曲げ弾性率で比較すれば低い比重を有する)ポリカーボネート樹脂組成物が達成される。
【0014】
本発明のより好適な態様の1つは、(3)前記B成分における有機オニウムイオンが、下記一般式(I)で示されることを特徴とする前記(2)のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0015】
【化2】
Figure 2004155890
【0016】
〔上記一般式(I)中、Mは窒素原子またはリン原子を表わす。また、R〜Rは互いに同一もしくは相異なる有機基を表わし、その少なくとも1つは炭素原子数6〜20のアルキル基または炭素原子数6〜12のアリール基であり、残りの基は炭素原子数1〜5のアルキル基である。〕
かかる構成(3)によれば、本発明の特徴を有しかつより熱安定性において優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0017】
本発明のより好適な態様の1つは、(4)前記B成分における有機オニウムイオンが、上記一般式(I)において、RおよびRがそれぞれ同一もしくは相異なる炭素原子数6〜16のアルキル基、Rが炭素原子数1〜16のアルキル基、Rが炭素原子数1〜4のアルキル基である前記(3)のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(4)によれば、本発明の特徴を有し更に曲げ弾性率および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供され、かかるB成分は、B成分として最も好ましい態様である。
【0018】
本発明のより好適な態様の1つは、(5)前記C成分は、前記A成分と親和性を有し、かつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する重合体であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(5)によれば、本発明の特徴を有し更に熱安定性においてより優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0019】
本発明のより好適な態様の1つは、(6)前記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体であることを特徴とする前記(5)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(6)によれば、本発明の特徴を有し、熱安定性において更に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0020】
本発明のより好適な態様の1つは、(7)前記C成分は、スチレン−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする前記(6)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(7)によれば、本発明の特徴を有し、特に曲げ弾性率および熱安定性の点で優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供され、かかるC成分は、C成分として最も好ましい態様である。
【0021】
本発明のより好適な態様の1つは、(8)前記B成分と前記C成分とを予め溶融混練した後に、該溶融混練物と前記A成分とを溶融混練して調製されたものであることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(8)は層状珪酸塩は更に微細な分散を達成し、それにより樹脂組成物は更に高い曲げ弾性率を有し、低い異方性も効果的に発揮される。加えてかかる構成(8)は層状珪酸塩の熱安定化を促進する。したがってかかる構成(8)によれば、本発明の特徴のいずれにおいても更に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0022】
本発明のより好適な態様の1つは、(9)前記D成分は、繊維状充填材を主体とするものである前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(9)によれば、本発明の特徴において、より高い曲げ弾性率と低い異方性が達成され、特に異方性という繊維状充填材の欠点が大きく解消されたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明のより好適な態様の1つは、(10)前記D成分は、繊維状充填材を主体とするものであり、かつかかる繊維状充填材の繊維径が0.1〜10μmである前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(10)によれば、本発明の特徴を有し、かつ更に高い曲げ弾性率を有するポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0024】
本発明のより好適な態様の1つは、(11)前記D成分における繊維状充填材は炭素繊維である前記(9)または(10)のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物である。かかる構成(11)によれば、本発明の特徴を有し、そしてその期待されるよりも更に優れた曲げ弾性率を与える、すなわち更に優れた相乗効果を与えるポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0025】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0026】
<A成分について>
本発明のA成分である芳香族ポリカーボネート樹脂について説明する。代表的な芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0027】
二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましい。
【0028】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0029】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0030】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
【0031】
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる割合は、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%であるものが好ましい。尚、かかる割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0032】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
【0033】
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0034】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述した各種二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体など各種の芳香族ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。さらに下記に示す製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネートなど各種についても2種以上を混合したものが使用できる。
【0035】
芳香族ポリカーボネートの重合反応において界面重縮合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0036】
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールなどの単官能フェノール類を用いるのが好ましい。さらに単官能フェノール類としては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノールなどを挙げることができる。また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を1.33×10〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0038】
カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0039】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物などの触媒を用いることができる。さらにアルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10−8〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−7〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。
【0040】
溶融エステル交換法による反応ではフェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることができる。
【0041】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後のポリカーボネートに対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩なとが好ましく挙げられる。
【0042】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は特定されない。しかしながら粘度平均分子量は、10,000未満であると強度などが低下し、50,000を超えると成形加工特性が低下するようになるので、10,000〜50,000の範囲が好ましく、12,000〜30,000の範囲がより好ましく、15,000〜28,000の範囲がさらに好ましい。この場合粘度平均分子量が前記範囲外であるポリカーボネートとを混合することも当然に可能である。すなわち、粘度平均分子量が50,000を超える高分子量の芳香族ポリカーボネート成分を含有することができる。
【0043】
本発明でいう粘度平均分子量はまず次式にて算出される比粘度を20℃で塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0044】
なお、本発明の樹脂組成物における粘度平均分子量を測定する場合は次の要領で行う。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、かかる可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上式により算出される20℃における比粘度を、オストワルド粘度計を用いて求め、上記の式より粘度平均分子量Mを算出する。
【0045】
<B成分について>
本発明の樹脂組成物を構成するB成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量をする層状珪酸塩である。好適には、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上、特に50〜100%、が有機オニウムイオンにてイオン交換された層状珪酸塩である(以下、この層状珪酸塩を“有機化層状珪酸塩”と略称することがある)。
【0046】
B成分の層状珪酸塩は、SiO連鎖からなるSiO四面体シート構造とAl、Mg、Li等を含む八面体シート構造との組合せからなる層からなり、その層間に交換性陽イオンの配位した珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)である。これらの珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)は、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイトおよび膨潤性雲母等に代表される。具体的には、スメクタイト系鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スチブンサイト等が挙げられ、膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母およびLi型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの層状珪酸塩は、天然品、合成品のいずれも使用可能である。合成品は、例えば、水熱合成、溶融合成、固体反応によって製造される。
【0047】
層状珪酸塩のなかでも、陽イオン交換容量等の点から、モンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母等の膨潤性を持ったフッ素雲母が好適に用いられ、ベントナイトを精製して得られるモンモリロナイトや合成フッ素雲母が、純度等の点からより好適である。さらに、良好な機械特性が得られる合成フッ素雲母が特に好ましい。
【0048】
前記B成分である層状珪酸塩の陽イオン交換容量(陽イオン交換能ともいう)は、50〜200ミリ当量/100gであることが必要とされ、好ましくは80〜150ミリ当量/100g、さらに好ましくは100〜150ミリ当量/100gである。陽イオン交換容量は、土壌標準分析法として国内の公定法となっているショーレンベルガー改良法によってCEC値として測定される。層状珪酸塩の陽イオン交換容量は、A成分である芳香族ポリカーボネートへの良好な分散性を得るために、50ミリ当量/100g以上必要であるが、200ミリ当量/100gより大きくなると芳香族ポリカーボネートの熱劣化が大きくなり、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱劣化への影響が大きくなってくる。この層状珪酸塩は、そのpHの値が7〜10であることが好ましい。pHの値が10より大きくなると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が低下する傾向が現われる。
【0049】
B成分の層状珪酸塩としては、有機オニウムイオンが層状珪酸塩の層間にイオン交換されたもの(有機化層状珪酸塩)が好適である。該有機オニウムイオンは、通常、ハロゲンイオン等との塩として取り扱われる。ここで有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、複素芳香環由来のオニウムイオン等が挙げられる。オニウムイオンは1級、2級、3級、4級のいずれも使用できるが、4級オニウムイオンが好ましく、オニウムイオンとして4級アンモニウムイオンおよび4級ホスホニウムイオンが好適である。
【0050】
該イオン化合物には各種の有機基が結合したものが使用できる。かかる有機基としては、アルキル基が代表的であるが、芳香族基を有するものでもよく、また、エーテル基、エステル基、二重結合部分、三重結合部分、グリシジル基、カルボン酸基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、アミド基、オキサゾリン基等の各種官能基を含有するものでもよい。
【0051】
有機オニウムイオンの具体例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムの如き同一のアルキル基を有する4級アンモニウム;トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルデシルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルテトラデシルアンモニウム、トリメチルヘキサデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム,トリメチルイコサニルアンモニウムの如きトリメチルアルキルアンモニウム;トリメチルオクタデセニルアンモニウムの如きトリメチルアルケニルアンモニウム;トリメチルオクタデカジエニルアンモニウムの如きトリメチルアルカジエニルアンモニウム;トリエチルドデシルアンモニウム、トリエチルテトラデシルアンモニウム、トリエチルヘキサデシルアンモニウム、トリエチルオクタデシルアンモニウムの如きトリエチルアルキルアンモニウム;トリブチルドデシルアンモニウム、トリブチルテトラデシルアンモニウム、トリブチルヘキサデシルアンモニウム、トリブチルオクタデシルアンモニウムの如きトリブチルアルキルアンモニウム;ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジテトラデシルアンモニウム、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムの如きジメチルジアルキルアンモニウム;ジメチルジオクタデセニルアンモニウムの如きジメチルジアルケニルアンモニウム;ジメチルジオクタデカジエニルアンモニウムの如きジメチルジアルカジエニルアンモニウム;ジエチルジドデシルアンモニウム、ジエチルジテトラデシルアンモニウム、ジエチルジヘキサデシルアンモニウム、ジエチルジオクタデシルアンモニウムの如きジエチルジアルキルアンモニウム;ジブチルジドデシルアンモニウム、ジブチルジテトラデシルアンモニウム、ジブチルジヘキサデシルアンモニウム、ジブチルジオクタデシルアンモニウムの如きジブチルジアルキルアンモニウム;トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム、トリテトラデシルメチルアンモニウムの如きトリアルキルメチルアンモニウム;トリオクチルエチルアンモニウム、トリドデシルエチルアンモニウムの如きトリアルキルエチルアンモニウム;トリオクチルブチルアンモニウム、トリデシルブチルアンモニウムの如きトリアルキルブチルアンモニウムが挙げられる。
【0052】
また、メチルベンジルジヘキサデシルアンモニウムの如きメチルベンジルジアルキルアンモニウム;ジベンジルジヘキサデシルアンモニウムの如きジベンジルジアルキルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム等の芳香環を有する4級アンモニウム等を例示することができる。さらに、トリメチルフェニルアンモニウムの如き芳香族アミン由来の4級アンモニウム;メチルジエチル[PEG]アンモニウムおよびメチルジエチル[PPG]の如きトリアルキル[PAG]アンモニウム;メチルジメチルビス[PEG]アンモニウムの如きジアルキルビス[PAG]アンモニウム;エチルトリス[PEG]アンモニウムの如きアルキルトリス[PAG]アンモニウムが挙げられる。また、前記アンモニウムイオンの窒素原子がリン原子に置換したホスホニウムイオンを用いることもできる。
【0053】
これらの有機オニウムイオンは、単独使用および2種以上の組合せ使用のいずれも選択できる。なお、前記“PEG”の表記はポリエチレングリコールを、“PPG”の表記はポリプロピレングリコールを“PAG”の表記はポリアルキレングリコールを示す。ポリアルキレングリコールの分子量としては100〜1,500のものが使用できる。
【0054】
これら有機オニウムイオン化合物の分子量は、100〜600であることが好ましい。より好ましくは150〜500である。分子量が600より多いときには、場合により芳香族ポリカーボネートの熱劣化を促進したり樹脂組成物の耐熱性を損なう傾向が現れる。なお、かかる有機オニウムイオンの分子量は、ハロゲンイオン等のカウンターイオン分を含まない有機オニウムイオン単体の分子量を指す。
【0055】
本発明において、B成分の好適な態様は、下記一般式(I)で示される有機オニウムイオンでイオン交換されたものである。
【0056】
【化3】
Figure 2004155890
【0057】
上記一般式(I)中、Mは窒素原子またはリン原子を表わす。また、R〜Rは互いに同一もしくは相異なる有機基を表わし、その少なくとも1つは炭素原子数6〜20のアルキル基または炭素原子数6〜12のアリール基であり、残りの基は炭素原子数1〜5のアルキル基である。これらのR〜Rは、前記の条件を満たす限り、その一部が互いに同一の基であってもよく、全部または一部が相異なる基であってもよい。
【0058】
本発明のB成分において使用される有機オニウムイオンのさらに好適な態様は、上記一般式(I)において次の条件を満足するものである。すなわち、Mは窒素原子またはリン原子であり、RおよびRはそれぞれ炭素原子数6〜16のアルキル基である。Rは炭素原子数1〜16のアルキル基であり、かつRは炭素原子数1〜4のアルキル基である。なお、RとRとは互いに同一の基であっても相異なる基であってもよく、また、RとRとは互いに同一の基であっても相異なる基であってもよい。
【0059】
上記一般式(I)で示される有機オニウムイオンのより好適な態様は、(i)前記Rが炭素原子数1〜4のアルキル基の場合である。より好しくは(ii)RおよびRがそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基であって、かつRおよびRがそれぞれ炭素原子数7〜14のアルキル基の場合である。さらに好ましくは、(iii)RおよびRがそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基で、かつRおよびRは炭素原子数7〜12、特に好ましくは炭素原子数8〜11、のアルキル基の場合である。なお、これらのうちでも、RおよびRが炭素原子数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基またはエチル基、さらに好ましくはメチル基の4級アンモニウムイオンが特に好適である。
【0060】
これら(i)〜(iii)のより好適な態様(さらに好ましい態様を含む)によれば、樹脂組成物の耐加水分解性が特に優れたものとなり、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に良好な長期実用特性を与える。
【0061】
なお、上記式(I)においてR〜Rはいずれも直鎖状および分岐状のいずれも選択できる。
【0062】
かかる好適な4級アンモニウムイオンの例としては、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジテトラデシルアンモニウム、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム、ジエチルジドデシルアンモニウム、ジエチルジテトラデシルアンモニウム、ジエチルジヘキサデシルアンモニウム、ジブチルジオクチルアンモニウム、ジブチルジデシルアンモニウム、ジブチルジドデシルアンモニウム等が例示される。
【0063】
層状珪酸塩への有機オニウムイオンのイオン交換は、極性溶媒中に分散させた層状珪酸塩に、有機オニウムイオン化合物を添加し、析出してくるイオン交換化合物を収集することによって作成することができる。通常、このイオン交換反応は、有機オニウムイオン化合物を、層状珪酸塩のイオン交換容量の1当量に対し1.0〜1.5当量の割合で加えて、ほぼ全量の層間の金属イオンを有機オニウムイオンで交換させるのが一般的である。しかし、このイオン交換容量に対する交換割合を一定の範囲に制御することも、芳香族ポリカーボネートの熱劣化を抑制する上で有効である。ここで有機オニウムイオンでイオン交換される割合は、層状珪酸塩のイオン交換容量に対して40%以上であることが好ましい。かかるイオン交換容量に対する割合は好ましくは40〜95%であり、特に好ましくは40〜80%である。ここで、有機オニウムイオンの交換割合は、交換後の化合物について、熱重量測定装置等を用いて、有機オニウムイオンの熱分解による重量減少を求めることにより算出することができる。
【0064】
<C成分について>
本発明のC成分はA成分である前記芳香族ポリカーボネートと親和性を有し、かつ親水性成分を有する化合物が好適である。このC成分は、A成分との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物であるため、芳香族ポリカーボネート及び層状珪酸塩の双方に対する良好な親和性を生み出す。これら双方に対する親和性は2種の成分の相溶性を向上させ、層状珪酸塩がマトリックスの芳香族ポリカーボネート(A成分)中で微細かつ安定して分散するようになる。さらにC成分における親水性成分はその極性作用により層状珪酸塩の層間の電気的な反発力を中和すること又は該層間の電荷を吸引することにより、層間を縮小させるものと考えられる。
【0065】
層状珪酸塩の分散に関するC成分の機能は、異種ポリマー同士を相溶化させるために使用されるポリマーアロイ用相溶化剤(コンパティビライザー)と同様と推測される。従って、C成分は、低分子化合物よりも重合体であることが好ましい。また、重合体の方が混練加工時の熱安定性にも優れる。該重合体の平均繰り返し単位数は2以上であることが必要であり、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。一方、該重合体の平均分子量の上限においては数平均分子量で2,000,000以下であることが好ましい。かかる上限を超えない場合には良好な成形加工性が得られる。
【0066】
本発明の樹脂組成物に配合されるC成分が重合体である場合、その基本的構造としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
ア)前記芳香族ポリカーボネートに親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αとβとからなるグラフト共重合体(主鎖がα、グラフト鎖がβ、並びに主鎖がβ、グラフト鎖がαのいずれも選択できる。)、αとβとからなるブロック共重合体(ジ−、トリ−、等ブロックセグメント数は2以上を選択でき、ラジアルブロックタイプ等を含む。)並びにαとβとからなるランダム共重合体。ここで、α及びβは重合体セグメント単位及び単量体単位のいずれをも意味するが、α成分は芳香族ポリカーボネートとの親和性の観点から重合体セグメント単位であることが好ましい。
イ)前記特殊ポリカーボネートに親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αの機能は重合体全体によって発現され、βが該α内に含まれる構造を有する重合体。すなわち、α単独では前記ポリカーボネートとの親和性が十分ではないものの、αとβとが組み合わされ一体化されることにより、良好な親和性が発現する場合である。α単独の場合にも前記ポリカーボネートとの親和性が良好であって、かつβとの組合せによってさらに親和性が向上する場合もある。従ってこれらの構造ア)及びイ)はその一部において重複することがある。
【0067】
本発明におけるC成分成分としては、α分のみでも前記ポリカーボネートに対する親和性が高く、さらにβが付加したC成分全体においてその親和性が一段と高くなるものが好適である。
【0068】
かかるC成分における前記ポリカーボネートに親和性を有する成分(以下αと称する場合がある)について説明する。前記の如くC成分は、ポリマーアロイにおける相溶化剤との同様の働きをすると考えられることから、αには相溶化剤と同様の重合体に対する親和性が求められる。従ってαは非反応型と反応型とに大略分類できる。
【0069】
非反応型では、以下の要因を有する場合に親和性が良好となる。すなわち、前記ポリカーボネートとαとの間に、▲1▼化学構造の類似性、▲2▼溶解度パラメータの近似性(溶解度パラメータの差が1(cal/cm1/2以内、すなわち約2.05(MPa)1/2以内が目安とされる)、▲3▼分子間相互作用(水素結合、イオン間相互作用等)及びランダム重合体特有の擬引力的相互作用等の要因を有することが望まれる。これらの要因は相溶化剤とポリマーアロイのベースになる重合体との親和性を判断する指標としても知られている。
【0070】
反応型では、相溶化剤において前記ポリカーボネートと反応性を有する官能基を有するものを挙げることができる。例えば、前記ポリカーボネートに対して反応性を有する、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、エステル基、エステル結合、カーボネート基及びカーボネート結合等を例示することができる。
【0071】
一方で、前記ポリカーボネートとαとが良好な親和性をもつ場合、その結果として前記ポリカーボネートとαとの混合物において単一のガラス転移温度(Tg)を示すか又は前記ポリカーボネートのTgがαのTgの側に移動する挙動が認められるので、前記ポリカーボネートと親和性を有する成分(α)は、かかる挙動により判別することができる。
【0072】
前記の如く、本発明の組成物の構成成分として有用なC成分における前記芳香族ポリカーボネートと親和性を有する成分(α)は、非反応型であることが好ましく、殊に溶解度パラメータが近似することにより良好な親和性を発揮することが好ましい。これは反応型に比較して前記ポリカーボネートとの親和性により優れるためである。また反応型は過度に反応性を高めた場合、副反応によって重合体の熱劣化が促進される欠点がある。
【0073】
前記ポリカーボネート(A成分)及びC成分のαの溶解度パラメータは次の関係を有することが好ましい。すなわち、前記ポリカーボネート(A成分)の溶解度パラメータをδ((MPa)1/2)とし、C成分におけるαの溶解度パラメータ又はC成分全体の溶解度パラメータをδα((MPa)1/2)としたとき、次式:
δα=δ±2 ((MPa)1/2
の関係を有することが好ましい。
【0074】
例えば、A成分の溶解度パラメータは通常約10(cal/cm1/2(すなわち約20.5((MPa)1/2))とされていることから、δαは18.5〜22.5((MPa)1/2)の範囲が好ましく、19〜22((MPa)1/2)の範囲がより好ましい。
【0075】
かかる溶解度パラメータδαを満足する重合体成分の具体例としては、スチレンポリマー、アルキル(メタ)アクリレートポリマー、アクリロニトリルポリマー(例えばポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリメチルメタクリレート、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等に代表される)等のビニル系重合体を挙げることができる。本発明の組成物の耐熱性の保持のためには、Tgの高い重合体成分を用いることが好ましい。
【0076】
ここで溶解度パラメータは、「ポリマーハンドブック 第4版」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION,1999年)中に記載されたSmallの値を用いた置換基寄与法(Group contribution methods)による理論的な推算方法が利用できる。芳香族ポリカーボネートのTgは既に述べたようにJIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求めることが可能である。
【0077】
前記のA成分の芳香族ポリカーボネートと親和性を有する成分αは、C成分中5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が特に好ましい。C成分全体をαとする態様も可能であることから上限は100重量%であってよい。
【0078】
一方、C成分における親水性成分(以下、βと称する場合がある)は、親水基(水との相互作用の強い有機性の原子団)を有する単量体及び親水性重合体成分(重合体セグメント)より選択される。親水基はそれ自体広く知られ、下記の基が例示される。
1)強親水性の基:−SOH、−SOM、−OSOH、−OSOH、−COOM、−NRX(R:アルキル基、X:ハロゲン原子、M:アルカリ金属、−NH) 等、
2)やや小さい親水性を有する基:−COOH、−NH、−CN、−OH、−NHCONH 等、
3)親水性が無いか又は小さい基:−CHOCH、−OCH、−COOCH、−CS 等
本発明の組成物に配合するC成分としては、親水基が上の1)及び2)に分類されるものが使用され、なかでも、前記2)の親水基は芳香族ポリカーボネートの溶融加工時の熱安定性により優れるため好ましい。親水性が高すぎる場合には特殊ポリカーボネートの熱劣化が生じやすくなる。これはかかる親水基が直接カーボネート結合と反応し、熱分解反応を生じるためである。
【0079】
なお、かかる親水基は1価及び2価以上の基のいずれであってもよい。C成分が重合体の場合、2価以上の官能基とは該基が主鎖を構成しないものをいい、主鎖を構成するものは結合として官能基とは区別する。具体的には、主鎖を構成する炭素等の原子に付加した基、側鎖の基及び分子鎖末端の基は、2価以上であっても官能基である。
【0080】
親水基のより具体的な指標は、溶解度パラメータである。溶解度パラメータの値が大きいほど親水性が高くなることは広く知られている。基ごとの溶解度パラメータは、Fedorsによる基ごとの凝集エネルギー(Ecoh)及び基ごとのモル体積(V)より算出することができる(「ポリマー・ハンドブック 第4版」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION),VII/685頁、1999年、Polym.Eng.Sci.,第14巻,147及び472頁,1974年、等参照)。さらに親水性の大小関係のみを比較する観点からは、凝集エネルギー(Ecoh)をモル体積(V)で除した数値(Ecoh/V;以下単位は“J/cm”とする)を親水性の指標として使用できる。
【0081】
C成分におけるβに含まれる親水基は、Ecoh/Vが600以上であることが必要であり、好ましくはEcoh/Vは800以上である。800以上の場合にはA成分の芳香族ポリカーボネートにおけるカーボネート結合のEcoh/Vを超え、カーボネート結合よりも高い親水性を有する。Ecoh/Vは900以上がより好ましく、950以上がさらに好ましい。
【0082】
上述のとおり、親水性が高すぎる場合には、芳香族ポリカーボネートの熱劣化が生じやすくなる。従ってEcoh/Vは2,500以下が好ましく、2,000以下がより好ましく、1,500以下がさらに好ましい。
【0083】
C成分の親水性成分(β)として、親水性重合体成分(重合体セグメント)も選択される。C成分の重合体中に含まれる親水性重合体のセグメントはβとなる親水性重合体としては、例えばポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩(キレート型を含む)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びポリヒドロキシエチルメタクリレート等が例示される。これらのなかでも、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく例示される。これらは良好な親水性と本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂に対する熱安定性(溶融加工時の芳香族ポリカーボネートの分解の抑制)とを両立できるためである。なお、ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドが好ましい。
【0084】
親水基を有する単量体及び親水性重合体成分のいずれにおいても、βは酸性の官能基(以下単に“酸性基”と称することがある)を有するのが好ましい。かかる酸性基は本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融加工時の熱劣化を抑制する。とりわけ、窒素原子を含まない酸性基がより好適である。好適な酸性基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基及びホスフィン酸基等が例示される。
【0085】
これに比して、アミド基やイミド基等の窒素原子を含む官能基は溶融加工時の芳香族ポリカーボネートの熱劣化を十分には抑制しない場合がある。これは窒素原子が局所的に塩基性を有しカーボネート結合の熱分解を生じさせるためと考えられる。
【0086】
C成分におけるβの割合は、βが親水基を有する単量体の場合、官能基1つ当たりの分子量である官能基当量として、60〜10,000であり、70〜8,000が好ましく、80〜6,000がより好ましく、100〜3,000がさらに好ましい。また、βが親水性重合体セグメントの場合、C成分100重量%中βが5〜95重量%であることが適当であり、10〜90重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、30〜50重量%がさらに好ましい。
【0087】
前記特殊ポリカーボネートに対して親和性を有する成分(α)と親水性成分(β)とを有する有機化合物(C成分)の製造方法としては、βの単量体とαを構成する単量体とを共重合する方法、βの重合体成分をαとブロック又はグラフト共重合する方法、及びβをαに直接反応させて付加する方法等が例示される。
【0088】
C成分の具体例として、前記ポリカーボネートとの親和性を有しかつ酸性の官能基を有する重合体、前記ポリカーボネートとの親和性を有しかつポリアルキレンオキシドセグメントを有する重合体、前記ポリカーボネートとの親和性を有しかつオキサゾリン基を有する重合体、あるいは、前記ポリカーボネートとの親和性を有しかつ水酸基を有する重合体、が例示される。これらのC成分として好ましい重合体においては、その分子量は重量平均分子量において1万〜100万の範囲が好ましく、5万〜50万の範囲がより好ましい。かかる重量平均分子量は標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出される。
【0089】
<C−1成分について>
前記C成分のなかでも、前記ポリカーボネートとの親和性を有しかつ酸性の官能基を有する重合体が好ましく、さらに好ましくは親和性を有しかつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基とを有する重合体である。また、前記ポリカーボネートの耐熱性保持効果の観点から、重合体は芳香環成分を主鎖に有するもの及びスチレン成分を主鎖に有するものが好ましい。前記の点からカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体(C−1成分)が本発明のC成分として特に好適である。ここでスチレン含有重合体とはスチレンなどの芳香族ビニル化合物を重合した繰返し単位を重合体成分として含有する重合体を指す。
【0090】
かかるカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基の割合としては、0.1〜12ミリ当量/gが好ましく、0.5〜5ミリ当量/gがより好ましい。ここでC−1成分における1当量とは、カルボキシル基が1モル存在することをいい、その値は水酸化カリウム等の逆滴定により算出することが可能である。
【0091】
カルボキシル基の誘導体からなる官能基としては、カルボキシル基の水酸基を(i)金属イオンで置換した金属塩(キレート塩を含む)、(ii)塩素原子で置換した酸塩化物、(iii)−ORで置換したエステル(Rは一価の炭化水素基)、(iv)−O(CO)Rで置換した酸無水物(Rは一価の炭化水素基)、(v)−NRで置換したアミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)、(vi)2つのカルボキシル基の水酸基を=NRで置換したイミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)等、を挙げることができる。
【0092】
カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基(以下、単に“カルボキシル基類”と称する)を有するスチレン含有重合体の製造方法としては、従来公知の各種の方法を取ることができる。例えば、(a)カルボキシル基を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合する方法、及び(b)スチレン含有重合体に対してカルボキシル基類を有する化合物又は単量体を結合又は共重合する方法等を挙げることができる。
【0093】
前記(a)の共重合においては、ランダム共重合体の他に交互共重合体、ブロック共重合体、テーパード共重合体等の各種形態の共重合体が使用できる。また共重合の方法においても溶液重合、懸濁重合、塊状重合等のラジカル重合法の他、アニオンリビング重合法やグループトランスファー重合法等の各種重合方法をとることができる。さらに一旦マクロモノマーを形成した後重合する方法も可能である。
【0094】
前記(b)の方法は、一般的にはスチレン含有重合体又は共重合体に必要に応じて、パーオキサイドや2,3−ジメチル−2,3ジフェニルブタン(通称ジクミル)等のラジカル発生剤を加えて、高温下で反応又は共重合する方法を挙げることができる。かかる方法はスチレン含有重合体又は共重合体に熱的に反応活性点を生成し、かかる活性点に反応する化合物又は単量体を反応させるものである。反応に要する活性点を生成するその他の方法として、放射線や電子線の照射やメカノケミカル手法による外力の付与等の方法も挙げられる。さらにスチレン含有共重合体中に予め反応に要する活性点を生成する単量体を共重合しておく方法も挙げられる。反応のための活性点としては不飽和結合、パーオキサイド結合、立体障害が高く熱的に安定なニトロオキシドラジカル等を挙げることができる。
【0095】
前記カルボキシル基類を有する化合物又は単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等の無水マレイン酸の誘導体、グルタルイミド構造やアクリル酸と多価の金属イオンで形成されたキレート構造等が挙げられる。これらのなかでも金属イオンや窒素原子を含まない官能基を有する単量体が好適であり、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基を有する単量体、特に無水マレイン酸がより好適である。
【0096】
また、スチレン系単量体化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができるが、特にスチレンが好ましい。
【0097】
さらに、これらの化合物と共重合可能な他の化合物、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として使用しても差し支えない。
【0098】
本発明において好適なものは、カルボキシル基類を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体である。かかる共重合体においては比較的多くのカルボキシル基類を安定してスチレン含有重合体中に含むことが可能となるためである。より好適な態様としてカルボキシル基類を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合してなるスチレン含有共重合体を挙げることができ、殊に好適なものはスチレン−無水マレイン酸共重合体である。スチレン−無水マレイン酸共重合体は、層状珪酸塩中のイオン成分及び芳香族ポリカーボネートのいずれに対しても高い相溶性を有することから、層状珪酸塩(B成分)を良好に微分散させる。さらに、カルボン酸無水物基の作用により層状珪酸塩、殊に有機化層状珪酸塩を含有する樹脂組成物において良好な熱安定性が得られる。。またかかる共重合体それ自体の熱安定性が良好であるため、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工に必要な高温条件に対しても高い安定性を有する。
【0099】
カルボキシル基類を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体の組成については上述のβの割合における条件を満足する範囲内において何ら制限はないが、カルボキシル基類を有する単量体からの成分を1〜30重量%(好ましくは5〜25重量%)、スチレン系単量体化合物成分99〜70重量%(好ましくは95〜75重量%)を含み、共重合可能な他の化合物成分を0〜29重量%を含むものを用いるのが好ましく、カルボキシル基類を有する単量体を1〜30重量%(好ましくは5〜25重量%)、スチレン系単量体化合物99〜70重量%(好ましくは95〜75重量%)の共重合体が特に好ましい。
【0100】
前記C−1成分の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量は1万〜100万の範囲にあることが好ましく、5万〜50万の範囲がより好ましい。なお、ここで示す重量平均分子量は、標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出されたものである。
【0101】
<C−2成分について>
他の好適なC成分としては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有する重合体、殊に好ましいポリエーテルエステル共重合体(C−2成分)がある。このポリエーテルエステル共重合体は、ジカルボン酸、アルキレングリコール及びポリ(アルキレンオキシド)グリコール並びにこれらの誘導体から重縮合を行うことで製造される重合体である。殊に好適なものは、重合度10〜120のポリ(アルキレンオキシド)グリコールあるいはその誘導体(C−2−1成分)、テトラメチレングリコールを65モル%以上含有するアルキレングリコールあるいはその誘導体(C−2−2成分)及びテレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸あるいはその誘導体(C−2−3成分)から製造される共重合体である。
【0102】
前記C−2−1成分としては、ポリポリアルキレンオキシド成分がポリエチレンオキシド成分のみからなるものが好ましい。ポリエーテルエステル共重合体におけるC−2−1成分の共重合割合は、全グリコール成分の30〜80重量%であり、より好適には40〜70重量%である。C−2−1成分が30重量%より少ない場合には層状珪酸塩は十分に分散されず、機械特性の低下や外観の悪化を生ずる場合がある。C−2−1成分が80重量%より多い場合にも層状珪酸塩は十分に分散されず、またポリエーテルエステル共重合体自身の強度低下も加わることで、機械特性の低下や外観の悪化を生ずる場合がある。
【0103】
ポリエーテルエステル共重合体を構成するC−2−2成分においては、テトラメチレングリコール以外のジオールを共重合することができる。かかるジオールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが例示される。C−2−2成分中テトラメチレングリコール成分の割合は65モル%以上であり、75モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましい。テトラメチレングリコールが65モル%未満のポリエーテルエステル共重合体は、樹脂組成物の成形性の低下を招く。
【0104】
ポリエーテルエステル共重合体のジカルボン酸あるいはその誘導体(C−2−3成分)においては、テレフタル酸以外のジカルボン酸(カルボキシル基の数が2を超えるものを含む)を共重合することができる。かかるジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が例示される。イソフタル酸を共重合したポリエーテルエステル共重合体はC−2−3成分として特に好適である。C−2−3成分中テレフタル酸は60モル%以上であり、70モル%以上が好ましく、75〜95モル%がより好ましい。テレフタル酸が60モル%未満のポリエーテルエステル共重合体は、共重合体の重合度が低下しやすく、十分な重合度のポリエーテルエステル共重合体の製造が困難となるため好ましくない。
【0105】
<C−3成分について>
他の好適なC成分としては、親水基としてオキサゾリン基を含有するスチレン含有共重合体(C−3成分)が挙げられる。かかる共重合体を形成するスチレン系単量体化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができる。さらに、これらの化合物と共重合可能な他の化合物、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等、を共重合成分として使用しても差し支えない。特に好適なC−2成分の具体例としては、スチレン(2−イソプロペニル−2−オキサゾリン)−スチレン−アクリロニトリル共重合体が例示される。
【0106】
<D成分について>
本発明のD成分は、繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材である。ここで繊維状充填材はその形状が繊維状(棒状、針状、またはその軸が複数の方向に伸びた形状をいずれも含む)であり、板状充填材はその形状が板状(表面に凹凸を有したり、湾曲するものを含む)である充填材である。上記繊維状や板状の形状は充填材の形状観察より明らかな場合が多いが、例えばいわゆる不定形との差異としては、そのアスペクト比が3以上であるものは繊維状や板状といえる。更にD成分のより好ましい態様は、繊維状充填材を主体とするものである。ここで主体とするとは少量の板状充填材を含んでよいことをいい、その目安としてはD成分100重量%中板状充填材が20重量%以下(好ましくは10重量%以下)である態様をいう。
【0107】
ここでD成分の板状充填材としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリン、メタルフレーク、カーボンフレーク、およびグラファイト、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した板状充填材等が例示される。これらの中でも高い曲げ弾性率が得られやすい、ガラスフレーク、タルク、およびマイカが好ましく、特にマイカは曲げ弾性率の点ではより好適である。一方、強度や熱安定性の点ではガラスフレークが有利であり、外観などの点ではタルクが有利である。ここでマイカにおいては、更に剛性に優れた白雲母(マスコバイト)が好適であり、その平均粒径は10〜300μm(マイクロトラックレーザー回折法)が好ましく、20〜200μmがより好ましい。マイカの厚みは電子顕微鏡観察により実測した厚みにおいて好ましくは0.01〜1μmであり、より好ましくは0.03〜0.3μmである。。更にかかるマイカは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、更に各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0108】
本発明のD成分において好ましい態様である繊維状充填材は、その繊維径が0.1〜10μmの範囲であることを特徴とする。かかる範囲の繊維状充填材は、その期待値以上に良好な曲げ弾性率を達成する。繊維径の上限は9μmが好ましく、8μmが更に好ましい。一方繊維径の下限は1μmが好ましく、1.5μmがより好ましく、2μmが更に好ましい。
【0109】
ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形品を溶剤に溶解したり、樹脂(芳香族ポリカーボネート)を塩基性化合物で分解した後に採取される残渣やるつぼで灰化を行った後に採取される灰化残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。
【0110】
繊維径が前記範囲の繊維状充填材において、より良好な曲げ弾性率が得られる理由は明確ではないが、次のように考えられる。微分散した層状珪酸塩は、板状であることから繊維状充填材の周囲を取り巻く形で配向すると考えられる。繊維状充填材は例えば射出成形品中では厚み方向で異なる方向に配向し、厚み方向での中間層では、樹脂の流動方向に対して通常直角方向に配向する。したがってかかる繊維状充填材の周囲に存在する層状珪酸塩の一部は、その法線が流れ方向に平行となっている配向状態にあり曲げ弾性率の向上に寄与しない。一方、繊維径が細くなると厚み方向での中間層部分においても繊維の塊が板の如く作用するようになるため、その法線が厚み方向に平行な層状珪酸塩の割合が増加し、本来の特性を発揮するものと考えられる。
【0111】
その一方で繊維状充填材の場合、流れ方向に配向した各繊維状充填材の間の層状珪酸塩は、その法線が流れ方向にもまた厚み方向にも直角となった配向状態となる。かかる状態は剛性を大きく向上させる。これによって期待値を上回る曲げ弾性率が得られるのではないかと考えられる。尚、繊維径があまりに細い場合が逆に好ましくないのは、あまりに細い繊維はかかる繊維自体のアスペクト比が溶融混練した際に維持されにくく、繊維の寄与する曲げ弾性率の向上が逆に低下しやすいためである。また細くて折れ難い繊維は比重が高い場合が多い。
【0112】
本発明のD成分としては、例えば、ガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、カーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、セピオライト、および黒鉛ウイスカーなどの繊維状無機充填材、および耐熱有機繊維(アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維など)などの繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維状充填材等が例示される。異種材料を表面被覆した充填材としては例えば金属コートガラスファイバー、金属コートガラスフレーク、酸化チタンコートガラスフレーク、金属コートカーボンファイバー等を挙げることができる。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。
【0113】
ここで繊維状充填材とは、アスペクト比が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である繊維状の充填材をいう。
【0114】
前記の中でも剛性の向上により効果的な繊維状無機充填材が好ましく、特に剛性向上効果に優れるカーボンフィラーが好ましい。かかる効果の理由は定かではないが、繊維の比重が低いことから単位重量あたりの本数が高くなり、そのためより層状珪酸塩との相乗効果が発揮されやすいことが予想される。そして前記のとおり殊に好ましいのはその繊維径が0.1〜10μmの範囲(好適な上限は9μm、より好適な上限は8μm、好適な下限は1μm、より好適な下限は1.5μm、更に好適な下限は2μm)である。
【0115】
本発明のカーボンフィラーとしては、例えばカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、気相成長カーボンファイバー等が挙げられ、殊にカーボンファイバーが好ましい。
【0116】
カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系などのいずれも使用可能であり、また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を防止または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。更に汎用タイプ、中弾性率タイプ、高弾性率タイプのいずれも使用可能であるが、特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。
【0117】
また、カーボンファイバーの好ましい繊維長としては、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中で数平均繊維長として60〜500μm、好ましくは80〜400μm、特に好ましくは100〜300μmのものである。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、薬品による分解等の処理で採取されるカーボンファイバーの残さから光学顕微鏡観察などから画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維径以下の繊維長を有する成分はカウントしない方法による値である。さらにカーボンファイバーの表面はマトリックス樹脂との密着性を高め、機械的強度を向上する目的で酸化性ガス中でファイバーを加熱する気相酸化、酸化剤の溶液を用いる液相酸化、電解浴中でカーボンファイバーを陽極酸化するなどの方法により表面酸化処理されていることが望ましい。
【0118】
金属コートカーボンファイバーとしては、カーボンファイバーの表面に金属層をメッキ等の上述した各種方法によってコートしたものである。金属としては、銅、ニッケル、アルミニウムが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては前記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。かかる金属コート層の厚みは、あまりに厚いと比重が増加し、また薄いと導電性などの期待とする特性が得られ難いため、10〜1000nmの範囲が好適であり、50〜800nmの範囲がより好適である。
【0119】
かかるカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等で集束処理あるいは造粒処理されたものが好ましく、特にエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂で処理されたものが特に機械的強度の向上の点から特に好ましい。
【0120】
次に各成分の組成割合について説明する。B成分の層状珪酸塩はA成分100重量部あたり、0.1〜50重量部であり、好ましくは0.5〜20重量部であり、更に好ましくは0.5〜10重量部である。B成分のかかる組成割合が前記下限より少ないときには、層状珪酸塩の効果が不十分となりやすい。したがって低い比重、高い曲げ弾性率、および低い異方性の点で不十分となる。B成分のかかる組成割合が前記上限より多いときには、組成物の熱安定性が低下し実用的な樹脂組成物は得られにくい。
【0121】
C成分のA成分の芳香族ポリカーボネートと親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物の組成割合は、好ましくは0.1〜50重量部であり、より好ましくは0.5〜20重量部であり、更に好ましくは1〜12重量部である。前記範囲においては層状珪酸塩の良好な微分散および熱安定性の向上が達成される。よって低い比重、高い曲げ弾性率、低い異方性、良好な強度、および良好な熱安定性において、より優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0122】
D成分の繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材は、A成分100重量部あたり、1〜150重量部であり、好ましくは1〜100重量部であり、更に好ましくは3〜50重量部であり、特に好ましくは5〜40重量部である。かかるD成分の組成割合が前記下限より少ないときには強度および曲げ弾性率が不十分となりやすい。一方前記上限より多いときには低い比重、および低い異方性の点で不十分となりやすい。
【0123】
<必要により配合し得る他の成分>
本発明の樹脂組成物は、A成分である前記の芳香族ポリカーボネート、B成分である前記層状珪酸塩、前記C成分、およびD成分である前記充填材にて構成されるが、さらに、所望により付加的成分として、A成分、C成分以外の重合体やその他の添加剤を加えても差し支えない。かかる重合体としては、前記C成分以外のスチレン系樹脂、および芳香族ポリエステル樹脂等を例示することができる。
【0124】
かかるスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)(シンジオタクチックポリスチレンを含む)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましく使用され、なかでもABS樹脂が最も好ましい。これらスチレン系樹脂2種以上混合して使用することも可能である。
【0125】
芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等の他、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレート(いわゆるPET−G)、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレートのような共重合ポリエステルも使用できる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。また、成形性及び機械的性質のバランスが求められる場合、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートが好ましく、さらに重量比でポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレートが2〜10の範囲のブレンドや共重合体が好ましい。芳香族ポリエステル樹脂の分子量については特に制限されないが、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.2、好ましくは0.6〜1.15である。
【0126】
さらに本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、他の非晶性熱可塑性樹脂(例えば、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂等)や結晶性熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等)を配合しても差し支えない。
【0127】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、B成分およびD成分以外の充填材をさらに配合することもできる。かかる強化充填材としては、ガラスビーズやカーボンビーズなどの球状充填材、ガラスバルーンやセラミックバルーンなどの中空状充填材、並びに炭酸カルシウム、各種珪酸塩鉱物、およびセメントなどの各種不定形充填材が例示される。
【0128】
また、必要に応じ、難燃剤(例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、シリコーン系難燃剤等)、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)、核剤(例えば、ステアリン酸ナトリウム、エチレン−アクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤等)、衝撃改良剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、滑剤、着色剤(染料、無機顔料等)、光拡散剤、帯電防止剤、流動改質剤、無機及び有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛等)、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤、及び蛍光増白剤等を配合してもよい。
【0129】
更に光拡散剤の配合による光拡散機能、白色顔料の配合による光高反射機能の付与や、蛍光染料や蓄光顔料等の特殊染料の配合によってより高度な機能の付与をできる場合がある。例えば、白色顔料により隠蔽効果を向上させて光反射特性を向上させることも可能である。光拡散剤としては、アクリル架橋粒子及びシリコーン架橋粒子等の高分子微粒子、ガラスパウダー、及び炭酸カルシウム粒子等の無機微粒子が使用でき、白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛及び硫化亜鉛等が使用できる。また染料類としては、アンスラキノン系染料、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、チオキサントン系染料等に代表される各種の蛍光染料;ビスベンゾオキサゾリル−スチルベン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−ナフタレン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−チオフェン誘導体及びクマリン誘導体等の蛍光増白剤が例示される。
【0130】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン含有熱安定剤を含むことが好ましい。かかるリン含有熱安定剤としてはトリメチルホスフェート等のリン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリト−ルジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ルジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト及びビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル並びにテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等の亜ホスホン酸エステル等が例示される。かかるリン含有熱安定剤は全組成物100重量%中0.001〜1重量%を含むことが好ましく、0.01〜0.5重量%を含むことがより好ましく、0.01〜0.2重量%を含むことがさらに好ましい。かかるリン含有熱安定剤の配合によりさらに熱安定性が向上し良好な成形加工特性を得ることができる。
【0131】
<樹脂組成物の調製及び成形>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式二軸押出機に代表される多軸押出機が好ましい。かかる多軸押出機を用いることにより強力なせん断力で有機化層状珪酸塩は基体樹脂中に微分散させられる。
【0132】
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融混練機による溶融混練において次の態様がより好適である。すなわち、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)と、A成分の芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)、殊に好適にはカルボキシル基および/またはその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体(C−1成分)とを予め溶融混練しておく。その後該溶融混練物とA成分の芳香族ポリカーボネートとを多軸押出機により溶融混練する。更にD成分の繊維状充填材などをサイドフィーダーなどを用いて多軸押出機の途中から溶融した樹脂中に供給する。かかる溶融混練方法は層状珪酸塩の微分散を達成し、更に芳香族ポリカーボネートの熱安定性を向上させるため好ましい。そして繊維状充填材などのD成分はその折れや割れを最小限としつつ均一な分散が達成され、高い曲げ弾性率が樹脂組成物に与えられる。
【0133】
もちろん他の混合方法によっても本発明の効果は発揮される。例えばA成分とD成分との樹脂組成物のペレットとB成分とC成分とを予め溶融混練したペレットとを成形加工機(例えば射出成形機)に同時に供給して成形加工機中において混合する製造方法が挙げられる。
【0134】
したがって本発明によれば、B成分およびC成分を予め溶融混練することによって得られた組成物は、繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材を含有するポリカーボネート樹脂組成物の添加剤としてそれ自体価値を有することが見出された。
【0135】
かくして本発明によれば、(C)芳香族ポリカーボネートと親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)100重量部および(B)50〜200ミリ当量/gの陽イオン交換容量を有しかつその陽イオン交換容量の少なくとも40%が有機オニウムイオンでイオン交換されている層状珪酸塩(B成分)1〜100重量部よりなる充填材を含有する樹脂の物性強化のための樹脂添加剤が提供される。
【0136】
この樹脂添加剤においてC成分はスチレン−無水マレイン酸共重合体であることが好ましい。またこの樹脂添加剤は芳香族ポリカーボネート樹脂またはそれを50重量%以上含有する樹脂100重量部当たりと繊維状充填材1〜150重量部を含有する樹脂組成物に配合するために有利に利用される。
【0137】
本発明の樹脂組成物の有利な製造法は、より具体的には、例えば、(i)B成分とC成分をベント式二軸押出機にて溶融混練しペレット化したものを、再度A成分と溶融混練する方法や、(ii)B成分とC成分をベント式二軸押出機の主供給口より投入し、A成分の一部または全部を二軸押出機の途中段階に設けられた供給口から、B成分とC成分が既に溶融混練された状態の中へ投入する方法などが挙げられる。これらB成分とC成分を予め溶融混練する方法においては、その溶融混練時に、A成分の一部を含んでいても構わない。更に前記(i)および(ii)のいずれの場合においても充填材は押出機のスクリュー根元部分から樹脂原料などと供給されることもでき、また押出機の途中の位置から供給されることもできる。押出機の途中の位置から充填材を供給する方法はより好ましく、更に充填材が溶融混合物中に供給される方法が好ましい。
【0138】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は通常前記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0139】
また本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明のポリカーボネート樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより中空成形品とすることも可能である。
【0140】
さらに本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、および雑貨などの各種用途にも有用である。本発明の熱可塑性樹脂組成物は高剛性であり、また強度にも優れた樹脂組成物であることから、例えば、スピーカーフレーム、ヨーク本体、プラズマディスプレーのフレーム、高周波回路機器の筐体、コネクターベース、モーターフレーム、液晶プロジェクターのミラー保持シャーシ、誘電体共振器シャーシ、および金属−樹脂複合構造材の樹脂材料などにおいて好適である。更に本発明のポリカーボネート樹脂組成物は成形加工性にも優れていることから、各種薄肉成形品にも好適であり、薄肉射出成形品の具体例としては、電池ハウジングなどの各種ハウジング成形品、鏡筒、メモリーカード、スピーカーコーン、ディスクカートリッジ、面発光体、マイクロマシン用機構部品、銘板、およびICカードなどが例示される。特に携帯電話、携帯ノートコンピューター(PDA含む)、デジタルビデオ・カメラなどの携帯精密電子・電気機器におけるハウジング、鏡筒、フレームなど好適でありね例えば携帯ノートコンピューター向けリチウムイオン電池用ハウジング、ハンディビデオ用液晶画面フレーム、およびデジタルカメラ用鏡筒などが例示される。
【0141】
本発明の樹脂成形品には、表面改質を施すことにより更に他の機能を付与するとこが可能である。ここでいう表面改質とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂成形品に用いられる方法が適用できる。
【0142】
樹脂成形品の表面に金属層または金属酸化物層を積層する方法としては特に限定されるものではない。かかる方法としては例えば蒸着法、溶射法、およびメッキ法が挙げられる。蒸着法としては物理蒸着法および化学蒸着法のいずれも使用できる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリング、およびイオンプレーティングが例示される。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法などが例示される。
【0143】
溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、および減圧プラズマ溶射法などが例示される。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキおよび電気メッキ法などが挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を使用することができる。
【0144】
前記の中でも蒸着法およびメッキ法が本発明の樹脂成形品の金属層を形成する上で好ましく、蒸着法が本発明の樹脂成形品の金属酸化物層を形成する上で好ましい。蒸着法およびメッキ法は組合せて使用することができる。例えば蒸着法で形成された金属層を利用し電気メッキを行う方法などが例示される。
【0145】
【実施例】
以下に実施例を示し本発明を具体的に説明する。本発明はこれに限定されるものではない。なお、評価は下記の(1)〜(6)の方法により行った。
(1)組成物における粘度平均分子量
試験片の粘度平均分子量を本文中記載の方法にて測定した(試験片形状:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)。
(2)比重(密度)
試験片の比重(真密度(g/cm))をJIS−K7112準拠の方法にて測定した(試験片形状:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)。
(3)収縮異方性
幅50mm×長さ100mm×厚み4mmの角板試験片を成形後、温度23℃および相対湿度50%RHの雰囲気下に24時間放置して状態調節した。その後かかる角板試験片の寸法を3次元測定機(ミツトヨ(株)製)により測定して、流れ方向および直角方向の成形収縮率を算出し、かかる値より下記式に基づき成形収縮率の異方性(収縮異方性)を算出し評価した。かかる値が0に近いほど異方性の低い材料であるといえる。
(収縮異方性)=(直角方向の成形収縮率(%))−(流れ方向の成形収縮率(%))
(4)反り
幅150mm×長さ150mm×厚み1.5mmの板状試験片をを成形後、温度23℃および相対湿度50%RHの雰囲気下に24時間放置して状態調節した。その後かかる板状試験片を水平な定盤の上に置き、板状成形品の角の1個所を、角の直角部分を頂角とし15mm×15mmの二等辺を有する三角形を形成する部分を定盤と密着するよう押さえ、他の角部の浮き上がりを観察した。浮き上がりのない場合を○、多少浮き上がりのある場合を△、浮き上がりのある場合を×と判定した。
(5)曲げ弾性率
温度23℃および相対湿度50%RHの雰囲気下においてASTM−D790に準拠の方法により曲げ弾性率(MPa)を測定した(試験片形状:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)。
【0146】
[実施例1〜9、比較例1〜10]
繊維状充填材および板状充填材(MC)を除いた各成分を表2記載の配合割合でポリエチレン袋中に量り入れ、かかる袋を上下方向および左右方向に十分に回転させることにより、各成分を均一にドライブレンドした。尚、全ての例においてリン酸トリメチル(大八化学工業(株)製;TMP)をA成分100重量部に対して0.1重量部となる割合で配合した。かかる配合には、粘度平均分子量22,500のポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)と該リン酸トリメチルとを、リン酸トリメチルの濃度が10重量%となるように配合し均一に混合したマスターを使用した。また実施例9のみ、表2記載以外の成分として更にA成分100重量部に対して下記の“(その他)”に示すホスフェートオリゴマー(FR)を8.1重量部、およびポリテトラフルオロエチレン(AD)を0.4重量部配合した。
【0147】
前記のドライブレンドされた混合物から押出機を用いて溶融混練しペレットを製造した。押出機としてスクリュー直径30mのベント付2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30XSST;完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を用いた。その第1供給口上部に原料供給装置であるカセットウェイングフィーダー(久保田鉄工(株)製CE−T−1 0S01)を1台設置し、前記のドライブレンドされた混合物を供給した。第2供給口にはサイドフィーダーを接続し、その上部のカセットウェイングフィーダーには繊維状充填材または板状充填材(MC)を供給した。重量式定量供給制御装置(久保田鉄工(株)製KF−Cコントローラー)を用いてそれぞれの供給口に所定量の原料が供給されるよう設定し押出を行った。排出量の合計は20,000g/hrに設定した。押出温度は第1供給口からサイドフィーダーまでの区間を260℃、それ以降の区間を250℃とした。またスクリュー回転数180rpm、ベントの真空度3kPaで行った。
【0148】
尚、各供給口、混練ゾーン、およびベント口の配置は次のとおりであった(スクリューのL/Dで表示。スクリュー根元部分を0とする。またスクリューのL/Dは31.5である)。第1供給口はL/D:約1〜2、第2供給口(サイドフィーダー)はL/D:約15〜16、混練ゾーンはL/D:約11〜14(第1ゾーン)、およびL/D:約23〜24(第2ゾーン)、並びにベント口はL/D:約26〜27の位置であった。また混練ゾーンのニーディングディスクの構成はすべて45°位相の5枚1組のセグメント(L/D=1)を使用した。第1ゾーンは根元部からトーピードリング、正方向、逆方向、および正方向の組合せとし、第2ゾーンはトーピードリング、および正方向の組合せとした。前記の方法を表2中“方法1”と称する(実施例5および比較例1〜5、8、10)。
【0149】
一方、一部の例(実施例1〜4、6〜9、および比較例6、7、9)においては、B成分とC成分を前記と同様の装置を用いて一旦ペレット化(シリンダー温度200℃)した後に、かかるペレットとA成分などの他の成分とを混合する方法によって、同様の条件によりペレットを作成した。かかる方法を表2中“方法2”と称する。
【0150】
得られたペレットを100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥した後、所定の試験片を射出成形機[住友重機械工業(株)SG−150U]を用いて作成した。曲げ試験などに使用する試験片、および角板試験片における成形条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃とした。射速は30mm/秒、保圧は50MPa前後とした。板状試験片における成形条件は、シリンダ温度300℃、および金型温度100℃とした以外ほぼ同様の条件とした。
これらについての評価結果を表3に示す。
【0151】
更に、表1および表2記載の各成分を示す記号は下記の通りである。
(A成分)
粘度平均分子量23,700の芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂(帝人化成(株)製 パンライトL−1250)
【0152】
(B成分)
B−1:トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドでほぼ完全にイオン交換された有機化合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフ MTE、合成フッ素雲母の陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)
B−2:トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライドで不完全にイオン交換された有機化合成フッ素雲母(合成フッ素雲母の陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)
B−3:ジメチルジ−n−デシルアンモニウムクロライドでほぼ完全にイオン交換された有機化合成フッ素雲母(合成フッ素雲母の陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)
(B成分との比較用の板状充填材)
TA:造粒形態のタルク(林化成(株)製「UPN HS−T0.8」)
【0153】
(B−2の製法)
合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフME−100)約100gを精秤しこれを室温の水10リットルに撹拌分散し、ここにオニウムイオンのクロライド(トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド)を合成フッ素雲母の陽イオン交換当量に対して0.8倍当量を添加して6時間撹拌した。生成した沈降性の固体を濾別し、次いで30リットルの脱塩水中で撹拌洗浄後再び濾別した。この洗浄と濾別の操作を3回行った。得られた固体は5日の風乾後乳鉢で粉砕し、更に50℃の温風乾燥を10時間行い、再度乳鉢で最大粒径が100μm程度となるまで粉砕した。かかる温風乾燥により窒素気流下120℃で1時間保持した場合の熱重量減少で評価した残留水分量が3重量%とした。かかる操作を繰り返して必要量を得た。
【0154】
(B−3の製法)
合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフME−100)約100gを精秤しこれを室温の水10リットルに撹拌分散し、ここにオニウムイオンのクロライド(ジメチルジ−n−デシルアンモニウムクロライド)を合成フッ素雲母の陽イオン交換当量に対して1.2倍当量を添加して6時間撹拌した。生成した沈降性の固体を濾別し、次いで30リットルの脱塩水中で撹拌洗浄後再び濾別した。この洗浄と濾別の操作を3回行った。得られた固体は5日の風乾後乳鉢で粉砕し、更に50℃の温風乾燥を10時間行い、再度乳鉢で最大粒径が100μm程度となるまで粉砕した。かかる温風乾燥により窒素気流下120℃で1時間保持した場合の熱重量減少で評価した残留水分量が3重量%とした。かかる操作を繰り返して必要量を得た。
【0155】
各層状珪酸塩の陽イオン交換容量に対する有機オニウムイオンのイオン交換割合を、窒素気流下500℃で3時間保持した場合の残渣の重量分率を測定することにより求めた。この評価結果を表1に示す。またかかる重量分率よりB成分における無機分の組成物中における割合を換算し、表2に記載した。
【0156】
【表1】
Figure 2004155890
【0157】
(C成分)
C−1:スチレン−無水マレイン酸共重合体(ノヴァケミカルジャパン(株)製:DYLARK 332−80、無水マレイン酸量約15重量%)
C−2:(2−イソプロペニル−2−オキサゾリン)−スチレン−アクリロニトリル共重合体((株)日本触媒製:EPOCROS RAS−1005、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン量約5重量%)
【0158】
(D成分)
CF:炭素繊維(東邦テナックス(株)製ベスファイト MCHTA−C6−US(I)、繊維径7.5μm、カット長6mm)
GF−1:ガラス繊維(日東紡績(株)製 CS−3B−455、繊維径3μm、カット長3mm)
GF−2:ガラス繊維(日本電気硝子(株)製 ECS−03T−511、繊維径13μm、カット長3mm)
MC:マスコバイト(山口雲母(株)製 A−41)
【0159】
(その他)
FR:レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)(旭電化工業(株)製アデカスタブFP−500)
AD:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製 ポリフロンMPA FA500)
【0160】
【表2】
Figure 2004155890
【0161】
【表3】
Figure 2004155890
【0162】
上記表で明らかなように、例えば比較例10と実施例1との比較から本発明の構成は比重、曲げ弾性率、および異方性のいずれにおいても優れ、また熱安定性もほぼ同等の特性を有していることが分かる。更に上記MCは板状充填材の中でも高剛性化を可能とする充填材であるが、比較例10の組成においてTAの代わりにかかるMCが樹脂組成物中5重量%となる配合比率で同様に試験を行った場合(A成分:100部、MC:6.7部、C−1:13.9部、CF:14.2部、TMP:0.1部(部は全て重量部))においても、その曲げ弾性率は7,900MPaにとどまり、異方性においてもやや劣るものであった。
【0163】
更にかかるデータを樹脂組成物中の充填材の割合を横軸に、曲げ弾性率を縦軸に取りプロットした図1より明らかなように、特定の繊維径の充填材を含む場合には、特定の層状珪酸塩を配合した場合に期待されるよりも良好な曲げ弾性率が達成されると共に、異方性が低減されよって反りの少ない成形品が得られることがわかる。特に曲げ弾性率の向上は炭素繊維において顕著である。また前記においてB成分とC成分をあらかじめ溶融混練することにより、さらに高い曲げ弾性率が得られ、また耐熱性の良好な分子量低下の少ない樹脂組成物が得られることがわかる。
【0164】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、従来にない高剛性かつ低異方性を有する樹脂組成物であり、かつかかる特性を低い比重(密度)で達成することから軽量化に貢献でき、逆に同一重量で比較すればその成形品肉厚の増加によって曲げ剛性を大幅に向上することが可能である。かかる特性は、カバー、ハウジングやOA機構部品、自動車部品、電気・電子部品といった幅広い用途に有用であり、特に高レベルな薄肉化と低ソリが要求される携帯精密電子・電気機器向けハウジング、フレーム及び鏡筒用途に有用であり、その奏する産業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1〜8および比較例1〜10の各例のデータを組成物100重量%中の充填材の割合(重量%)を横軸に、曲げ弾性率(MPa)縦軸に取りプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1 層状珪酸塩(B−1)単独時の組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
2 炭素繊維(CF)単独時の組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
3 ガラス繊維(GF−1)単独時の組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
4 ガラス繊維(GF−2)単独時の組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
5 CF約10重量%と層状珪酸塩(B−1)を組み合わせて物性の加成性が成立すると仮定した場合に予想される組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
6 CF約5重量%と層状珪酸塩(B−1)を組み合わせて物性の加成性が成立すると仮定した場合に予想される組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
7 GF−1約15重量%と層状珪酸塩(B−1)を組み合わせて物性の加成性が成立すると仮定した場合に予想される組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線
8 GF−2約15重量%と層状珪酸塩(B−1)を組み合わせて物性の加成性が成立すると仮定した場合に予想される組成割合と曲げ弾性率の関係を示す線

Claims (11)

  1. (A)芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部、(C)芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部、および(D)繊維状充填材および板状充填材から選択される少なくとも1種の充填材(D成分)1〜150重量部よりなるポリカーボネート樹脂組成物。
  2. 前記B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつその陽イオン交換基の少なくとも40%が有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  3. 前記B成分における有機オニウムイオンは下記一般式(I)で示されることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
    Figure 2004155890
    〔上記一般式(I)中、Mは窒素原子またはリン原子を表わす。また、R〜Rは互いに同一もしくは相異なる有機基を表わし、その少なくとも1つは炭素原子数6〜20のアルキル基または炭素原子数6〜12のアリール基であり、残りの基は炭素原子数1〜5のアルキル基である。〕
  4. 前記B成分における有機オニウムイオンは、上記一般式(I)において、RおよびRがそれぞれ同一もしくは相異なる炭素原子数6〜16のアルキル基、Rが炭素原子数1〜16のアルキル基、Rが炭素原子数1〜4のアルキル基であることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  5. 前記C成分は、前記A成分と親和性を有し、かつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  6. 前記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  7. 前記C成分は、スチレン−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  8. 前記B成分と前記C成分とを予め溶融混練した後に、該溶融混練物と前記A成分とを溶融混練して調製されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  9. 前記D成分は、繊維状充填材を主体とするものである請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  10. 前記D成分は、繊維状充填材を主体とするものであり、かつかかる繊維状充填材の繊維径が0.1〜10μmである請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  11. 前記D成分における繊維状充填材は炭素繊維である請求項9または10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
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