JP2004154026A - 植栽用シート、天然植物構造体、天然植物構造体タイル及び天然植物構造体ユニット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】主たる素材繊維として親水性ポリエステル繊維を用いた不織布であって、保水率が500〜3500%であり、かつ、保水安定指数が75%以上のポリエステル系不織布を主体に構成したことを特徴とする植栽用シート、この植栽用シートに植物を植栽してなる天然植物構造体、タイル状とした該天然植物構造体を底板に水抜き孔を穿設したトレイに収容してなる、天然植物構造体ユニット。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、家庭の庭やベランダ、建造物の屋内や屋上等の緑化のための植栽用土壌や天然芝グランドの芝を植栽する土壌等の代替材としての、不織布を主体に構成される植栽用シートの改良に関し、より詳しくは、保水性が大きく改善された植栽用シート、該植栽用シートに植物を植栽した天然植物構造体及び天然植物構造体タイル、並びに、当該天然植物構造体タイルを並列に配置して、天然植物を所望の領域に敷設するための天然植物構造体ユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
学校、スポーツ施設等では天然芝グランドが利用されている。しかし、グランドの土壌に直接育成した天然芝は、その育成管理、成長後の維持管理が困難であることや、芝が損傷したとき、その再生に時間を要するという問題がある。このため、整備した下地等の上に別途育成した天然芝を設置し、損傷が発生すると、その部分を新しいものに交換することがある。この取り換え可能な天然芝は、別途天然土壌で育成した天然芝を適当寸法に切り取ったものが用いられてきたが、搬入、搬出時に根付き部分の土が飛散するために周囲環境が汚れるという問題や、土を含むために軽量とはいいがたく、一度に多量を運搬しにくいという問題がある。このような背景から、土(土壌)の替わりに、不織布に芝を植栽した天然芝構造体が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、近年、オフィスビルや家庭内での緑を強調した環境づくりが注目され、緑化運動が盛んである。特に屋上緑化によって、輻射熱の軽減(ヒートアイランド現象の防止)効果を有するとの報告があり、冷房費の節約等にも大きく貢献するものとして期待されている。この緑化運動の一環として、特に、家屋や建造物(ビル)の屋内、屋上、ベランダ、テラスなどに芝生を敷設する試みが盛んに行われている。しかし、このような家庭の庭やベランダ、建造物の屋内や屋上等に芝生等の植物を敷設する場合、運搬作業の煩雑さや周囲環境への土の飛散等が懸念されることから、植栽用土壌の代替として、合成樹脂発泡体や不織布等を主体に構成された植栽用基材が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
このような背景のもと、本発明者等においても、不織布を用いて植物を育成することを試みたが、植物の安定な育成を促すためには、不織布への散水を頻繁に行う必要があり、その作業が非常に面倒であることが分かった。すなわち、不織布を植栽用シートに適用する場合、保水性が十分でないことが分かった。また、特に芝を植栽する場合には、育成した芝生の上を人間が歩行した場合に、過度に圧縮されて歩行に違和感を生じたり、繊維間が固結してその後の芝の育成が阻害されることがあるため、かかる観点からの改良も必要であることがわかった。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−284328号公報
【特許文献2】
特開平7−158010号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、不織布を主体とする植栽用シートであって、保水性に優れ、少ない散水回数で植物を栽培できる植栽用シート、該植栽用シートに植物を植栽してなる天然植物構造体及び天然植物構造体タイル、並びに、該天然植物構造体タイルを並列状態に複数連結して配置することを可能にする天然植物構造体ユニットを提供することを目的とする。
また、本発明は、不織布を主体とする植栽用シートであって、保水性に優れ、少ない散水回数で植物を栽培でき、しかも、優れた耐荷重圧縮性を有する植栽用シート、該植栽用シートに植物を植栽してなる天然植物構造体及び天然植物構造体タイル、並びに、該天然植物構造体タイルを並列状態に複数連結して配置することを可能にする天然植物構造体ユニットを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、合成繊維の中でも力学特性に優れるポリエステル繊維に親水化処理を施した親水性ポリエステル繊維を主たる素材繊維に用いた不織布によれば良好な保水性を達成でき、また、荷重を受けた場合の過度の圧縮や固結も抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)主たる素材繊維として親水性ポリエステル繊維を用いた不織布であって、保水率が500〜3500%であり、かつ、保水安定指数が75%以上のポリエステル系不織布を主体に構成したことを特徴とする植栽用シート、
(2)不織布の素材繊維中の親水性ポリエステル繊維の占める割合が50〜100%である、上記(1)記載の植栽用シート、
(3)不織布の密度が0.03〜0.20g/cm3である、上記(1)または(2)記載の植栽用シート、
(4)不織布の密度が0.03〜0.12g/cm3である、上記(1)または(2)記載の植栽用シート、
(5)不織布の硬度(250kg/150mmφ荷重時の圧縮率)が50%以下である、上記(1)または(2)記載の植栽用シート、
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の植栽用シートに植物が植栽されてなる、天然植物構造体、
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の植栽用シートをタイル状とし、該タイル状の植栽用シートに植物が植栽されてなる、天然植物構造体タイル、
(8)上記(7)記載の天然植物構造体タイルを、底板に水抜き孔を穿設したトレイに収容してなる、天然植物構造体ユニット、及び
(9)トレイの側壁又は/及び底板に、該トレイを複数個並列状態に連結するための構造部が設けられている、上記(8)記載の天然植物構造体ユニット、に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の植栽用シートは、主たる素材繊維として親水性ポリエステル繊維を用いた不織布であって、保水率が500〜3500%であり、かつ、保水安定指数が75(%)以上のポリエステル系不織布を主体に構成したことを特徴とするものであり、また、本発明の天然植物構造体は、かかる植栽用シートに植物を植栽したものである。また、本発明の天然植物構造体は、本発明の植栽用シートに植物を植栽したものであり、特に、タイル状にした植栽用シートに植物が植栽されたものが本発明の天然植物構造体タイルである。また、本発明の天然植物構造体ユニットは、タイルを底板に水抜き孔を穿設したトレイに前記天然植物構造体収容したものである。
【0010】
本発明における「植物」とは、草類、草花、花木等の各種植物であり、「主たる素材繊維として親水性ポリエステル繊維を用いた不織布」とは、不織布の素材繊維のうちの50重量%以上が親水性ポリエステル繊維であることを意味する。また、「不織布を主体に構成する」とは、不織布のみで植栽用シートが構成される態様、不織布にその他の機能層を積重して植栽用シートが構成される態様の両方が包含されることを意味する。
【0011】
本発明で使用する「親水性ポリエステル繊維」とは、以下の親水性評価方法による初期および耐久後の親水性値がともに20秒以下を示す、親水化処理されたポリエステル繊維である。
(親水性評価方法)
オープナーで解繊したステープル繊維1gで直径約6〜7cmの綿玉を作製し、500mlのビーカーに純水を入れ、水面にこの綿玉を静かに置いてから、完全に水没するまでの秒数(初期親水性値)を測定する。
1000mlのトールビーカーに1000mlの純水を入れ、この中に綿(オープナーで解繊したステープル繊維1gの直径約6〜7cmの綿玉)1gを入れ、30分間5cmのスターラーにて200〜300rpmで攪拌し、この後、綿を風乾し、風乾後の綿玉の完全水没到達秒数(耐久親水性値)を前記と同様に測定する。
【0012】
親水性ポリエステル繊維における親水化処理は、例えば、ポリエステルの紡糸時に親水性物質(水溶性高分子、親水性界面活性剤等)を添加する方法、繊維表面に親水性物質をグラフト重合する方法、繊維を低温プラズマで処理する方法(例えば、減圧下で酸素を高周波エネルギーで励起して処理し、繊維の表面をカルボニル化する等)、親水性基を含有するポリエステルポリエーテル共重合体を繊維表面に付着させる方法等の公知の方法を使用できるが、なかでも、特開昭55−103311号公報に記載の、ポリエステル(ポリマー)の重合反応開始前、重合反応中または重合反終了後の任意の段階でポリオキシアルキレングリコール及び/またはその誘導体(ポリエーテル類)をブレンドするか、ポリエステルチップとポリエーテル類とをブレンダー中でブレンドするか、または、ポリエステルとポリエーテル類を別々に溶融した後、紡糸直前に混合する等の方法で変性したポリエステルを溶融紡糸する方法が好適である。なお、該方法でのポリオキシアルキレングリコール及び/またはその誘導体(ポリエーテル類)とは、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、それらの共重合体若しくは混合物、または、それらの末端がメチル、エチル、フェニル、ベンジル等で封鎖されたもの等である。また、当該方法で親水化処理されたポリエステル繊維(親水性ポリエステル繊維)におけるポリオキシアルキレングリコール及び/またはその誘導体の含有量、繊維の断面形状(横断面変形比)等は特開昭55−103311号公報に記載の範囲で調整するのが好ましい。
【0013】
本発明における親水性ポリエステル繊維の母体繊維(親水化処理されるポリエステル繊維)としては、主単位がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステル繊維が好ましい。ここで、主単位がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステル繊維とは、ポリエチレンテレフタレートの他、酸成分の50モル%以上がテレフタル酸で、テレフタル酸以外の酸成分としてイソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジカルボン酸等から選ばれる1種類または2種類以上が共重合した共重合ポリエステル(当該共重合ポリエステルのグリコール成分は100モル%がエチレングリコールからなるか、次に示すエチレングリコールを主体とする共重合組成である。)、グリコール成分の70モル%以上がエチレングリコールで、エチレングリコール以外のグリコール成分として、ジエチレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等から選ばれる1種類または2種類以上が共重合した共重合ポリエステル(当該共重合ポリエステルの酸成分は100モル%がテレフタル酸からなるか、上記のテレフタル酸を主体とする共重合組成である。)を包含する。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、本発明における親水性ポリエステル繊維は、融点または軟化点が20℃以上異なるポリエステルを芯鞘型あるいは並列型に複合して繊維を形成したものであってもよい。すなわち、かかる繊維化工程中または工程後に前記の親水化処理を施すことによって製造することできる。なお、繊維化工程中に、必要により、艶消し剤、顔料、抗菌剤、芳香剤等を繊維化の過程で混入させてもよい。また、親水性ポリエステル繊維の断面形状は丸、中空丸、異形、中空・異形等、いずれの形状でも差し支えない。
【0014】
本発明の植栽用シートにおいて、不織布の保水率が500〜3500%であるとは、散水した水が不織布内に植物の育成に必要な通気性を維持する空気相を残しながら、水を十分量保持し得る特性を有することを意味する。すなわち、保水率が3500%を越える場合、保水状態での不織布内の通気性が悪く(空隙が少なく)、植物の育成(発芽、発芽後の成長)が阻害される傾向となるため、好ましくない。一方、保水率が500%に満たない場合、不織布内の単位体積当たりの水の量が不足し、好ましくない。当該保水率は好ましくは上限が2000%以下、下限が800%以上である。
【0015】
また、不織布の保水安定指数とは、後述するように、JIS L 0217 103に準拠する洗濯前後の保水性(値)の比で表されるもので、該保水安定指数が75(%)以上とは、不織布が十分な保水耐久性を有していることを意味する。すなわち、不織布の保水率が高くても、保水耐久性(保水力の維持性)が十分でないと、植物の安定育成のために散水を頻繁に行うことが必要となってしまう。当該保水安定指数(%)は80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは100%である。
【0016】
本発明の植栽用シートにおいて、不織布の密度は一般に0.03〜0.20g/cm3であり、好ましくは0.05〜0.15g/cm3である。不織布の密度が0.03〜0.20g/cm3の範囲であれば、良好な保水性を維持しながら、不織布内に根が十分に成長し、植物の安定育成が促される。なお、草花、花木等を植栽する場合、不織布は0.03(好ましくは0.05)〜0.12g/cm3の範囲の低密度のものが好ましく、上限はより好ましくは0.10g/cm3未満であり、とりわけ好ましくは0.80g/cm3未満である。
【0017】
本発明において、親水性ポリエステル繊維は、初期および耐久後の親水性値がともに10秒以下であるのが好ましく、5秒以下であるのが特に好ましい。また、不織布(素材繊維)中の親水性ポリエステル繊維の占める割合は、植栽する植物の種類によって適宜調整できるが、50〜100%(重量%)が好ましく、特に好ましくは65〜100%(重量%)であり、とりわけ好ましくは100%(重量%)である。
【0018】
本発明の植栽シートは、前記の通り、草類、草花、花木等の各種植物の植栽に使用できるが、芝等の植栽後にその上を人間が歩行するような植物(下地植物)の栽培用である場合、不織布はある程度硬いものが好ましい。すなわち、歩行による荷重を受けた場合の圧縮が大きいと、歩行時に違和感を伴ったり、歩行後に不織布中の繊維同士が固結して、植物の成長が阻害されてしまうこともある。従って、不織布の硬度は50%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。ここで、「不織布の硬度」とは、不織布に250kg/150mmφ荷重を加えた時の不織布の圧縮率を意味し、後述の方法で測定される。該不織布の硬度が10%未満の場合、そのような不織布を得るには、素材繊維の繊度(太さ)をかなり大きくすることが必要となることから、保水性に支障を来たしてしまう。よって、不織布の硬度の下限は好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。
【0019】
不織布の硬度(すなわち、250kg/150mmφ荷重時圧縮率)は、不織布の密度、素材繊維の繊度、素材繊維の断面形状(異形、中空等)、素材繊維絡合時の熱処理条件、絡合をサーマルボンド法で行う場合の低融点繊維の混率等によって調整される。50%以下の硬度を達成するためには、不織布の密度は0.08g/cm3以上であることが必要であり、好ましくは0.10g/cm3以上である。しかし、密度を大きくし過ぎると、前記のように、根の成長性(根付き)が阻害されてしまうので、不織布の密度は0.20g/cm3が上限である。例えば、繊度が5.0デシテックス(T)以上(好ましくは8.0デシテックス(T)以上)の繊維を素材繊維全体の50%以上使用して、0.08〜0.20g/cm3の密度(見掛け密度)の不織布を作製することで、硬度(250kg/150mmφ荷重時圧縮率)が50%以下の不織布を達成できる。この時、素材繊維に中空断面、異形断面及び中空・異形断面から選ばれる少なくとも1種の繊維を使用するか、及び/または、繊維の絡合をニードルパンチで絡合後、低融点繊維をバインダーに使用したサーマルボンド法で更に絡合する等の手段を用いると、硬度の上昇がより顕著となる。なお、ここでの低融点繊維をバインダーに使用したサーマルボンド法での低融点繊維の混率は素材繊維全体当たり20〜50重量%程度が好適である。また、断面が中空または異形の繊維、好ましくは断面が中空・異形の繊維を使用すると比較的低い密度で50%以下の硬度を達成できる。
【0020】
本発明において、不織布を構成する素材繊維に、親水性ポリエステル繊維以外の繊維を使用する場合、当該繊維としては、例えば、コットン、晒綿、シルク等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック等の再生繊維;ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル等の合成繊維;ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリプロピレン等の複合繊維等が挙げられ、これらの繊維はいずれか1種類または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、材料の分解劣化、強度等の点から合成繊維系が好ましく、特に好ましくはポリエステル繊維である。
【0021】
本発明で使用する不織布は、公知の繊維絡合方法、例えば、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、水流交絡法、スティッチボンド法、レジンボンド法等によって作製できるが、好ましくは水流交絡法、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、スティッチボンド法であり、特に好ましくはニードルパンチ法、サーマルボンド法である。ニードルパンチ法による不織布は、微細な縦状孔が数多く発生することから、植物の根付きが良く、散水した水が横方向へ広がり易い。また、芝等のその上を歩行する植物の植栽に使用する植栽用シートに適用する高硬度の不織布の作製にあっては、前記のように、ニードルパンチ法で絡合後、さらに低融点繊維をバインダーに使用したサーマルボンド法(低融点繊維を混綿し、熱処理する方法)で絡合するのが好ましい。
【0022】
なお、本発明において、不織布は、ポリエステル繊維(未親水化処理)を主たる素材繊維とする不織布を作成しておき、この不織布中のポリエステル繊維に対して親水化処理を行ってもよい。
【0023】
本発明の植栽用シートにおいて、不織布の厚みは5mm以上、好ましくは10〜100mm、さらに好ましくは20〜60mmである。不織布の厚みが5mm未満の場合、植物の根が十分に生育せず、また、厚みが100mmを越えると、取扱い性が悪く、コストも高くなる。なお、ここでの厚みは、保水前の乾燥状態での不織布の厚みである。
【0024】
本発明の植栽用シートは以上説明した不織布を必須として構成されるが、該不織布にその他の機能層を積重(一体化)することもできる。その他の機能層としては、透水性防根シート、網状構造体(排水層)等が挙げられる。
【0025】
透水性防根シートとは、不織布の植物が発芽する側の面(散水する側の面)とは反対側の面に積重されて、植物の根が不織布の外に這い出していくことを防止し、かつ、不織布に水が過剰に溜まった場合には、不織布内の水を外部へ排出するためのものである。すなわち、植物を育成により植物の根が植栽用シート(不織布)の外部に這い出すと、根が切れて植物の育成上問題になったり、また、屋上やベランダ等に植栽用シートを敷設して植栽を行う場合には、植物の根が植栽用シート(不織布)の外部に這い出すと、コンクリート床やタイルの目地等のごく小さいクラックにも根が入り込んで雨漏り(水漏り)の原因となり、建造物の耐用期限を縮めてしまうことも懸念され、また、不織布(植栽用シート)に水が過剰に溜まると、植物の生育を阻害してしまうので、このような不具合を防止するために透水性防根シートが設けられる。かかる透水性防根シートは、水が透過し得、かつ、根の這い出しを防止し得るシートであればよく、その材質、形態は特に限定されないが、例えば、合成樹脂繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル等)の発泡体(連続性の気泡(空隙)を有するもの)や、合成樹脂繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等)、炭素繊維、金属繊維等を素材とする織布、編布、不織布、メッシュ体等が挙げられる。また、網状構造体(排水層)とは、過剰量の水が不織布に滞留しないように、植栽用シートとこれを敷設する下地との間に十分な隙間を設けるために使用する、比較的高弾性の合成樹脂や金属等で形成された3次元網状構造層である。なお、透水性防根シート及び網状構造体(排水層)は、従来からこの種の植栽用シートとともに市販されている市販品をそのまま使用できる。
【0026】
例えば、透水性防根シートを不織布に一体化することで、ユニット(本発明の天然植物構造体ユニット)の組み立て作業時の植栽用シートと透水性防根シート間の位置ずれによる根の這い出し事故等を防止することができる。
【0027】
本発明の植栽用シートは、長尺物(ロール状物)であっても、短尺物(タイル状物)であってもよい。長尺物(ロール状物)である場合、広範な面積の植栽予定領域(運動場、グランド、道路の植栽ゾーン等)に対して少ない作業で植栽用シートを敷設でき、有利である。一方、短尺物(タイル状物)は、家屋やビル建造物のベランダ、屋上、屋内における比較的狭い緑化予定場所に対して植栽領域の画定を容易に行える利点がある。なお、短尺物(タイル状物)の形状(タイル形状)は特に限定されないが、植栽領域の画定の容易さから、正方形、長方形等が好ましい。ただし、設置場所の特殊条件又は景観の特異性を出すために、円形、三角形、及び他の形状等にしてもよい。
【0028】
図1に示すように、以上説明した本発明の植栽用シート13にて天然植物1を植栽することで本発明の天然植物構造体10が得られる。
本発明の植栽用シートで、植物を植栽する場合、不織布に直接植物を植生できるが、不織布の上に培養材を蒔いてから植物を植生してもよい。培養材としては養土等周知の培養材を適宜用いることができる。その場合、不織布上の培養材層の厚さは10〜20mm程度が好ましい。また、植栽は、種子を植栽用シートに蒔いて発芽から実生させても、他で育成した苗を株分け移植し、育成してもよい。
本発明における植物としては、草類、草花、花木等の各種植物であり、特に限定はされないが、具体的には、芝(高麗芝、野芝、ティフトン等のベント系)、竜のひげ、タマリュウ、バリエガタ、なでしこ、アリッサム、ヒメコスモス、ペパーミント、美女桜、セラスチウム・シルバーカーペット、ピンクシルエット、カランコエ、ランタナ、ハナツル草、宿根ツメキリ草、いわだれ草等が挙げられる。
【0029】
本発明の天然植物構造体10は、不織布を主体とする植栽用シート13に天然植物1が植設されているので、軽量で、移動が容易であり、また、従来の土壌に植栽された取り換え可能な天然芝における土の飛散という問題も解消できる。また、短尺(タイル状)の植栽用シートに植物を植栽することで、天然植物のタイル状物、すなわち、天然植物構造体タイルを作製でき、取扱い性がさらに向上する。なお、長尺の植栽用シートに植物を植栽してから、これを適当な大きさにカットすることで、天然植物構造体タイルを作製してもよい。すなわち、天然植物構造体タイルであれば、家庭の庭や、家屋やビル建造物のベランダ、屋上、屋内における緑化予定領域に天然植物構造体タイルを敷設するだけで緑化でき、また、軽量であるため、その増設、撤去も容易に行うことができ、緑化領域の拡大、縮小を簡単に行うことができる。なお、天然植物構造体タイルのタイル形状は特に限定されないが、緑化領域の画定の容易さから、正方形、長方形等が好ましい。また、設置場所の特殊条件又は景観の特異性を出すために、円形、三角形、及び他の形状等にしてもよい。
【0030】
本発明の天然植物構造体タイルは、屋外、屋内、屋上における緑化予定領域(下地)に配置するだけで、その領域を天然植物で緑化できるという利点を有するが、軽量なために不意の外力を受けた場合に配置場所から移動しやすい。よって、図2に示すように、底板21に水抜き孔21aが穿設されたトレイ(ケース)20に天然植物構造体タイル10Aを収容して天然植物構造体ユニット100を構成し、該ユニット100を緑化予定領域に配置すれば、上記の不意の外力を受けた場合の天然植物構造体タイルの移動が起こりにくくなる。また、天然植物構造体タイルの持ち運びも容易になる。該トレイ(ケース)20の素材は、特に限定されず、樹脂、木、金属及びこれらの複合材料等の各種材料を使用できる。
【0031】
なお、図2に示す天然植物構造体ユニット100において、天然植物構造体タイル10Aにおける植栽用シート13は不織布11に透水性防根シート12を接合、一体化したものであるが、図3に示すように、不織布11のみからなる植栽用シート13に植物1を植栽して得た天然植物構造体タイル10Bを用いる場合、別途用意した透水性防根シート12をトレイ20の底板21上に載置し、該透水性防根シート12上に天然植物構造体タイル10Bを配置して、天然植物構造体ユニット100を作製するようにしてもよい。
【0032】
また、天然植物構造体ユニット100を所望の緑化予定領域の下地(例えば、ベランダのコンクリート面)に配置した時に、該表面にトレイ20の底板21が密着してしまうと、天然植物構造体タイルからの水がトレイから外部へ排水されにくくなるので、図2、図3に示すように、トレイ20の底板21の外面には突起(足部)30を突設しておくのが好ましい。この突起30の突出高さは特に限定されないが2mm〜10mm程度が一般的である。
【0033】
また、天然植物構造体ユニット100を複数並列状態に配置した際のユニット相互間の移動を抑制するために、各ユニット100のトレイ20の側壁22及び/または底板21に対して、ユニット100間を連結するための構造部を形成しておくのが好ましい。
【0034】
そのような構造部としては、例えば、図4に示す、トレイ20の側壁22の開口側端部に形成した凹状溝22Aと、該凹状溝22Aに嵌合し、並列するトレイ20の側壁22間を挟着する部材23とからなるものや、図5に示す、トレイ20の底板21外面の周縁部に形成した凹穴24と、並列するトレイ20に在る互いの凹部24に嵌入する部材25とからなるもの等が挙げられる。なお、図5に示すように、上記の凹穴24に嵌入する部材25を凹穴24に嵌入した状態で、その一部がトレイ20の底板21の外面から突出する大きさ乃至形状とすることで、緑化予定領域(下地)へのトレイ20の底板21の密着を回避するための突起(足部)30としても兼用することができる。なお、上記連結用の部材23、25の素材は特に限定されず、特に限定されず、樹脂、木、金属及びこれらの複合材料等の各種材料を使用できる。
【0035】
次に、本発明の特性値の測定方法(評価方法)について説明する。
(1)不織布の保水率
不織布を25cm×25cmにカットし、80℃で120分乾燥後、20℃、65%RHの部屋で24時間調湿し、この調湿後の不織布の重量(W1(g))を測定し、次いで、該不織布を20℃の純水に浸漬し、手で十分に脱泡後、30分放置してから引き上げ、水滴が止まるまで放置(約20分)し、その重量(W2(g))を測定し、下記の計算式により算出する。なお、不織布の純水中に浸漬後の放置は、不織布の全面が開放される状態で行う。
保水率=(W2−W1)/W1×100(%)
【0036】
(2)不織布の保水安定指数
▲1▼不織布を10cm×10cmにカットして測定サンプルとする。
▲2▼サンプルを80℃で120分乾燥後、20℃、65%RHの部屋で24時間調湿し、調湿後の重量(X1(g))を測定する。
▲3▼図6に示すように、直径約80mmの受け皿(ビーカー)51の上にサンプル52を載せ、その上に注水用の筒(外径(φ):90mm±3mm、内径(φ):78mm±3mm、高さ75mm±5mm、重量850g±30g)53を載せ、この状態で注水用筒53の開口から水をすばやく注水し、注水開始から5秒後に注水用筒53をサンプル上から除去して注水を止める(ここで、注水量は、注水量(g)=サンプル厚み(mm)×10である(例えば、厚み20mmのサンプルであれば20×10=200g))。この後、サンプルからの水滴落下がなくなった時点で、サンプルの重量(X2(g))を測定する。
▲4▼初期保水性値(A1)を下記式より求める。
A1=(X2−X1)/X1×100(%)
▲5▼不織布を10cm×10cmにカットして測定サンプルとし、JIS L 0217 103法に準拠してサンプルを1回洗濯後、自然乾燥する。次に、上記▲2▼と同様にして、サンプルを加熱乾燥、調湿し、その重量(X3(g))を測定する。次に、このサンプルに上記▲3▼と同様の注水テストを実施し、注水後の重量(X4(g))を測定する。そして、下記式より耐久保水性値(A2)を求める。
A2=(X4−X3)/X3×100(%)
▲6▼初期保水性値(A1)と耐久保水性値(A2)から下記式より保水安定指数を求める。
保水安定指数(S)=A2/A1×100(%)
【0037】
(3)不織布の密度(見掛け密度)
JIS K 6400.5に準拠して行う。
フォームに変形を与えない状態で、厚さ、幅及び長さのそれぞれについて、異なった場所3ヶ所以上測定し、それぞれ平均値を出し、各々の試験片の体積(V)を算出する。次に、各々の試験片の質量(W)を0.5%の精度まで計り、グラムで表す。
見掛け密度(ρ)=W/V
ρ=g/cm3
W=試験片の質量(g)
V=試験片の体積(cm3)
サンプルは80℃で120分間乾燥後、20℃、65%RHで調湿する。
【0038】
(4)不織布硬度
25cm角にカットしたサンプルの厚み(H1)を測定する。該サンプルに150mmφの圧縮を50mm/分のスピードで行い、250kg荷重時の厚みH2を求める。下記式より圧縮率を求め、該圧縮率(%)を不織布硬度とする。
圧縮率=(H1−H2)/H1×100(%)
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例を挙げてより具体的に説明する。
(実施例1)
親水性ポリエステル短繊維「11T×64−K45」(東洋紡株式会社製)65%と、バインダー繊維(低融点ポリエステル繊維)「4.4T×51−K45」(東洋紡株式会社製)35%を混合し、カードウェッブをクロスレイにて積層し、ニードルパンチで交絡後、160℃で2分処理し、密度0.10g/cm3、厚み:20mmの不織布を作製した。なお、親水性ポリエステル短繊維「11T×64−K45」の初期親水性値は3.0(秒)、耐久親水性値は3.5(秒)であった。また、不織布の保水率は900%、保水安定指数は93%、硬度は36%であった。この不織布を積重、カットして厚み50mmの植栽用シート(基盤A)とし、下記の植栽実験Iに供した。
【0040】
(実施例2)
上記実施例1で作製した植栽用シート(基板A)の上に養土を厚さ2cmとなるように敷設し、これを植栽用シート(基盤B)とし、下記の植栽実験Iに供した。
【0041】
(比較例1)
ポリエステル繊維とアクリル繊維との混合不織布(密度0.1g/cm3、厚み45mm)(市販品)の上に養土を厚さ2cmとなるように敷設し、これを植栽用シート(基盤C)とし、下記の植栽実験Iに供した。
【0042】
(比較例2)
軽量土(材質:パーライト、粒径:5mm以下、嵩比重:0.17g/cm3)からなる土壌(基盤D)にて、下記の植栽実験Iを行った。
【0043】
【0044】
(註)判定 ○:良好、△:一部枯れ状態、×:枯れた
【0045】
また、基盤Aに植栽した芝(芝生)の上を歩行したところ、落ち込み感がなく違和感なく歩行することができた。
【0046】
(実施例3)
実施例1と同じ素材繊維を使用し、密度0.06g/cm3、厚み:20mmの不織布を作製した。この不織布の保水率は1600%、保水安定指数(%)は84%、硬度は77%であった。この不織布を積重、カットして厚み30mmの植栽用シート(基盤)とし、下記の植栽実験IIに供した。
【0047】
[植栽実験II]
(1)実施植物(草花、花木)
タマリュウ、バリエガタ、なでしこ、アリッサム、ヒメコスモス、ペパーミント、美女桜、セラスチュウム・シルバーカーペット、ピンクシルエット、カランコエ、ランタナ、ハナツル草、宿根ツメキリ草
(2)育苗方法
▲1▼株分けによる育苗法
タマリュウ、バリエガタ、カランコエ、ランタナ、ハナアツル草、宿根ツメキリ草
▲2▼実生(種子から)による育苗法
なでしこ、アリッサム、ヒメコスモス、ペパーミント、美女桜、セラスチュウム・シルバーカーペット、ピンクシルエット、カランコエ、
(3)植生観察期間:7月〜10月の4ヶ月間
(4)実施結果
給水頻度 2回/週(1回の給水量は前記と同じ)で、いずれの植物も安定育成し、根が十分不織布の中に張っていた。株分け、種子からの実生による場合も花の場合は開花し、花を持たない植物も枯れることなく成長した。発芽、開花時期など土の場合と変化は無かった。
【0048】
【発明の効果】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、不織布を主体とする植栽用シートであって、保水性に優れ、従来よりも少ない散水回数で植物を安定育成できる植栽用シートを得ることができる。また、保水性に優れるとともに、優れた耐荷重圧縮性を有する植栽用シートを得ることができる。本発明の植栽用シートに植物を植栽してなる本発明の天然植物構造体においては、散水を頻繁に行う必要がないので手入れも簡単である。また、芝を植栽した場合にその上を歩行しても違和感なく歩行できる。また、天然植物構造体のうちでもタイル状としたもの(すなわち、天然植物構造体タイル)においては、家庭の庭や、家屋やビル建造物のベランダ、屋上、屋内における緑化予定領域に天然植物構造体タイルを敷設するだけで緑化でき、また、軽量であるため、その増設、撤去も容易に行うことができ、緑化領域の拡大、縮小を簡単に行うことができる。また、かかる天然植物構造体タイルをトレイに収容した本発明の天然植物構造体ユニットによれば、不意の外力を受けた場合の天然植物構造体タイルの移動を抑制でき、また、天然植物構造体タイルの持ち運びが容易になり、緑化予定領域への増設、撤去がより簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の植栽用シートを用いた天然植物構造体の一例の概略断面図である。
【図2】本発明の天然植物構造体ユニットの第1の例の概略断面図である。
【図3】本発明の天然植物構造体ユニットの第2の例の概略断面図である。
【図4】本発明の天然植物構造体ユニットのトレイ間の連結構造部の説明図である。
【図5】本発明の天然植物構造体ユニットのトレイ間の連結構造部の説明図である。
【図6】不織布の保水安定指数を測定する際の注水試験の説明図である。
【符号の説明】
1 植物(天然植物)
13 植栽用シート
10 天然植物構造体
100 天然植物構造体ユニット
Claims (9)
- 主たる素材繊維として親水性ポリエステル繊維を用いた不織布であって、保水率が500〜3500%であり、かつ、保水安定指数が75%以上のポリエステル系不織布を主体に構成したことを特徴とする植栽用シート。
- 不織布の素材繊維中の親水性ポリエステル繊維の占める割合が50〜100%である、請求項1記載の植栽用シート。
- 不織布の密度が0.03〜0.20g/cm3である、請求項1または2記載の植栽用シート。
- 不織布の密度が0.03〜0.12g/cm3である、請求項1または2記載の植栽用シート。
- 不織布の硬度(250kg/150mmφ荷重時の圧縮率)が50%以下である、請求項1または2記載の植栽用シート。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の植栽用シートに植物が植栽されてなる、天然植物構造体。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の植栽用シートをタイル状とし、該タイル状の植栽用シートに植物が植栽されてなる、天然植物構造体タイル。
- 請求項7記載の天然植物構造体タイルを、底板に水抜き孔を穿設したトレイに収容してなる、天然植物構造体ユニット。
- トレイの側壁又は/及び底板に、該トレイを複数個並列状態に連結するための構造部が設けられている、請求項8記載の天然植物構造体ユニット。
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