JP2004149992A - エアバック用基布 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】総繊度100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物とエラストマーとからなるエアバッグ用基布であって、基布の示差走査熱量計による200℃/min昇温時の最高温側融点T(200)と10℃/min昇温時の最高温側融点T(10)とが、T(200)−T(10)≧10の関係を満足し、カンチレバー法による剛軟度が70mm以下であることを特徴とするエアバック用基布。
【選択図】 選択図なし。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車衝突時、乗員の安全確保のために設置されるエアバッグに用いられる基布、その製造方法及びエアバッグに関するものであり、更に詳しくは、エアバック展開時の、特に、耐溶融性に優れたエアバック用基布、その製造方法及びエアバックに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エアバッグは、通常、ステアリングホイールやインストルメントパネル等の狭い場所にインフレーターケースを含めたモジュールとして装着される。このような事情の下で、収納容積は小さく、軽いエアバッグが望まれている。最近は、更にステアリングホイールの空隙スペースを大きくして速度パネル等の計器を見やすくしたり、車内空間を大きくするためにエアバッグの収納容積を極力小さくすることが要求されるようになってきた。
【0003】
この要請に応えるために、エアバッグをコンパクト化するに際して、折り畳み性に加えて、バッグの展開性を損なわない織物物性と柔軟性の面で、より改良されたエアバッグ用基布が求められてきている。その手段として、収納容積をコンパクト化するために、織物に細い繊度の繊維を使用する方法、エアバッグの機密性保持のために、基布に各種エラストマーを塗布又はエラストマー膜をラミネートする方法、エマルジョン樹脂をディップする方法等が用いられている。
【0004】
例えば、エアバッグ基布に用いる布帛に使用される繊維は940dtexから470dtexへと細繊度化されている。併用されるエラストマーとして、クロロプレン系樹脂を90〜120g/m2塗布する方法から、シリコン系樹脂又はウレタン系樹脂を40〜60g/m2塗布する方法に変更されつつあり、現在では、470dtexの布帛にシリコン組成物を塗布したタイプの基布が使用されつつある。
【0005】
特許文献1には、低繊度織糸(67〜250dtex)を用い、個々のフィラメントあたりの繊度が細い(単糸繊度が0.5〜4.3dtex)織糸を用いるエアバッグ基布が開示されている。
特許文献2には、繊度210dの熱可塑性合成フィラメント糸の織物表面に15〜30g/m2のシリコン樹脂コーティングを施すことによって、軽量化、収納性の向上及びガスリーク防止を達成できることが開示されている。しかしながら、シリコン量が少量の場合にも、従来と同様又はそれ以上の展開時の耐溶融性を向上させることが望まれる。
【0006】
特許文献3には、総繊度210dの繊維からなる織物に、シリコンコーティング剤の皮膜を5〜20μmの厚さで形成したエアバッグ用基布が開示されている。この文献には、シリコン量が少量であっても、難燃特性に優れるエアバック用基布について開示されているが、耐溶融性及びコンパクト性に関してはなんら記載されていない。また本発明者の検討によれば、耐溶融性の更なる向上が望ましいことが明らかとなった。
【0007】
繊度250dtex以下の織糸からなる基布を用いたエアバッグは、従来のエアバックに対して非常に軽量化されているが、特に180kPa以上の高出力インフレーター展開や高温雰囲気下の展開においても、展開時のバースト抑止性能を、更に向上させることが望ましい。低繊度糸を用いた基布で構成されたエアバックは、中高繊度基布のものと比べて、インフレーターで展開した際、高温高圧ガスの膨張によりエアバックの外周縫製部の縫目が広がりやすい。そのため、そこを一気に高温ガスが通過すると、縫目周辺部が溶融し、中高繊度基布を用いたエアバッグに比べると、バーストに至りやすいために、改良が必要である。
【0008】
【特許文献1】
国際特許WO01/09416号パンフレット
【特許文献2】
特開2001−138849号公報
【特許文献3】
特開平07−300774号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐溶融性に優れ、軽量、柔軟で、収納性に優れたエアバック用基布を提供するものである。特に、高出力インフレーター展開及び高温展開時の耐バースト信頼性に一層優れたエアバック基布、その製造方法及びそれを用いたエアバッグを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために、特定のシリコン樹脂を用いたコーティング液を細繊度ポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物にコーティングすることにより基布を製造し、基布の溶融挙動を鋭意検討した。その結果、基布の示差走査熱量計における高速昇温速度が通常の昇温速度と差が大きく、かつ、カンチレバー法による剛軟度が特定値以下を同時に満足させることにより、細繊度のポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる基布であっても耐溶融性に優れ、、軽量、かつ、柔軟性を併せ持つたエアバッグ用基布が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1) 総繊度100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物とエラストマーとからなるエアバッグ用基布であって、基布の示差走査熱量計による200℃/min昇温時の最高温側融点T(200)と10℃/min昇温時の最高温側融点T(10)とが、T(200)−T(10)≧10の関係を満足し、カンチレバー法による剛軟度が70mm以下であることを特徴とするエアバック用基布。
(2) 総繊度100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物に、下記(a)〜(e)を含む組成物からなるエラストマー溶液を、固形分で5〜30g/m2コーティングすることを特徴とする(1)に記載のエアバック用基布の製造方法。
(a)25℃における粘度が100〜20,000mPa・sであり、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(b)25℃における粘度が20,000〜1,000,000mPa・sであって、かつ、(a)より高い粘度を有し、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(c)SiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン0.1〜30重量部
(d)脂肪族不飽和基にSiH基の付加を促進する能力のある触媒0.01〜10重量部
(e)有機溶剤30〜80重量部(ここで、(a)+(b)+(c)=100重量部である。)
(3) (1)又は(2)に記載の基布からなることを特徴とするエアバッグ。
【0012】
本発明について、以下、詳細に説明する。
本発明のエアバッグ用基布に用いられる織物は、総繊度が100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維から構成される。エアバッグ基布用の繊維素材として、各種樹脂が用いられているが、耐溶融性及び柔軟性の観点からはポリヘキサメチレンアジパミドが最も好ましい。本発明の織物を構成するポリヘキサメチレンアジパミド繊維は、ポリヘキサメチレンアジパミドを主体とする繊維であり、構成単位の90%以上がアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなるポリマーが好ましい。この繊維には、原糸の製造工程及び加工工程における生産性又は特性改善のために、通常、使用されている各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤として、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、難燃剤等が挙げられる。
【0013】
使用する繊維の総繊度は、従来、470dtex近傍が用いられてきたが、基布が厚くなり、硬くなるという問題があった。本発明に用いられる繊維の総繊度は100〜350dtex、好ましくは175〜250dtex、より好ましくは235dtexである。繊維の単糸繊度は、従来の6dtex近傍に対して、本発明では2〜3dtexが好ましい。その結果、織物の剛軟度を70mm以下とすることが可能となり、基布として軽量化及び薄地化が達成できる。
【0014】
本発明の繊維の全繊度とは、織物を構成する経方向、緯方向の繊維1本あたりの単糸繊度合計をいう。織物の織組織における経(又は緯)糸を構成する繊維は、複数のヤーンの撚糸、合糸、引き揃え糸であってもよい。この意味での全繊度が350dtex以下であれば、軽量性及びコンパクト性の優れた基布が得られる。全繊度100dtex以上の繊維で高密度織成を行うと、コーティングした基布の引張強力、引裂機械特性等のエアバッグ作動時の機械特性を満足させることができる。
【0015】
エアバッグは、非常時の展開には、一般的にインフレーターが用いられる。その際、インフレーターの発生するホットガスによりエアバッグ基布の損傷によるバーストの発生を防止する必要がある。この点を解決する手段として、ポリウレタン、シリコン、クロロプレンゴム等のエラストマー膜を基布の表面に設け、耐熱性向上と、ホットガスが基布断面を通過することによる、いわゆる、ガス抜けによる展開速度の遅延化防止手段が採用されている。本発明では、このための手段としてエラストマー膜を基布表面に設けることが必要であり、各種のエラストマーが用いられるが、中でも、好ましくは、後で詳しく述べる特定のシリコン組成物である。
【0016】
本発明のエアバッグ用基布を構成する織物は、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維を織成することにより得られる。織成方法としては、公知のウオータジェットルーム(WJL)、エアージェットルーム(AJL)等を用いることができ、AJLにより織成した場合は、そのままコーティングを行うと、それまでに付与された油剤が繊維表面に均一に残留するために好ましい。
エアバッグ用基布は、その構成上、経及び緯方向に等方的であることが好ましい。織機で織成する際には経糸、緯糸のクリンプの状態が多少異なるが、その程度の違いは、当業者であれば織り密度の調整や織機の調整により達成することが可能である。
【0017】
本発明者は、通常のエアバッグとしての展開挙動を詳細に検討した。その結果、エアバッグのバーストと基布との関係として、従来の一般的に知られている耐熱性の目安となる基布の融点は一定と考えてきたが、基布とコーティング方法と示差走査熱量計で測定する際の昇温速度により、示差走査熱量計で観測される融点が変化することを見出した。
通常、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維の、示差走査熱量計により測定される融解温度は260℃近傍である。これは、素材であるポリヘキサメチレンアジパミド繊維の示す融点であり、通常は変化しない。しかしながら、本発明者の検討によれば、基布の示差走査熱量計による融解温度は変化することが判明した。
【0018】
本発明において、繊度が100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用いた織物にエラストマーを付与した基布は、昇温速度が200℃/分による示差走査熱量計の融解温度(T(200))と、通常の測定温度である10℃/minの昇温速度での融解温度(T(10))との間に、T(200)―T(10)≧10の関係が満足された場合に、耐溶融性に優れ、高温下での展開時の耐バーストが向上した、小型で、軽量、かつ、柔軟なエアバッグ用基布がえられる。特に、T(200)は、基布としての高速昇温過程での融点の程度を示す指標であり、このT(200)を大きくすることにより、エアバッグ基布として用いたときに、耐溶融性に優れ、耐バースト性が向上するものである。
【0019】
本発明に用いられる織物を構成するポリヘキサメチレンアジパミド繊維の引張強度は5.7cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは6.2cN/dtex以上、最も好ましくは6.2〜11cN/dtexである。引張強度が5.7cN/dtex以上の場合、得られるエアバッグが、展開時において必要とされる耐圧強力が一層向上する。
【0020】
本発明の織物は、織物の経方向及び緯方向の各々において、織物を構成する繊維の全繊度と経(又は緯)糸本数/2.54cmで表される織密度との積が、好ましくは10000〜25000dtex・本/2.54cm、より好ましくは12000〜20000dtex・本/2.54cm、最も好ましくは12000〜16000dtex・本/2.54cmである。繊維の全繊度と経(又は緯)糸本数/2.54cmで表される織密度との積が25000dtex・本/2.54cm以下であると、エアバッグの軽量性及びコンパクト性がより向上し、10000dtex・本/2.54cm以上であると、コーティングされた基布の引張強力、引裂機械特性等のエアバッグ作動時の機械特性が一層向上する。
【0021】
本発明に用いるエラストマーとしては、例えば、クロロプレン、クロルスルホン化オレフィン、シリコンゴム、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレンブタジェン、ニトリルゴム、フッ素系ゴム、ポリウレタン等が挙げられる。中でも、耐熱性、耐寒性及び難燃性に優れたシリコンゴムが好ましい。
好ましいシリコンゴムは、以下の組成物である。
(a)25℃における粘度が100〜20,000mPa・sであり、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(b)25℃における粘度が20,000〜1,000,000mPa・sであって、かつ、(a)より高い粘度を有し、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(c)SiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン0.1〜30重量部
(d)脂肪族不飽和基にSiH基の付加を促進する能力のある触媒0.01〜10重量部
(e)有機溶剤30〜80重量部(ここで、(a)+(b)+(c)=100重量部である。)
上記の好ましい組成物においては、2種類の分子量の異なるシリコン樹脂を、特定の割合で用いられる。すなわち、
(a)のオルガノシロキサンの粘度は100〜20,000mPa・sであり、(b)のオルガノシロキサンの粘度は20,000〜1,000,000mPa・sであって、かつ、(a)よりも高い。
【0022】
この組成物中の、2種類の異なるオルガノシロキサンの粘度はその役割が異なる。この組成物中の(a)の、相対的に低粘度のオルガノシロキサンは、コーティング時に被コーティング織物の内部まで浸透し、更には、乾燥後(架橋後)に比較的多い架橋密度を達成する。この浸透させたオルガノシロキサンが織物を構成する繊維を包み込むことが耐溶融性向上に重要である。オルガノシロキサンが繊維を包み込むことによって繊維への熱伝導が抑制され耐溶融性が向上する。更には、粘度の低い、すなわち、末端基が多く、乾燥後(架橋後)に架橋度の高くなるオルガノシロキサンを用いる方がより効果的に耐溶融性を向上させることができる。
【0023】
この組成物中の(b)の、相対的に粘度の高いオルガノシロキサンは、コーティング時に被コーティング織物の強固な表面被覆を形成する効果がある。この粘度の高いオルガノシロキサンを表面被覆させることにより、表面のコーティング膜の強度及び伸度が向上する。表面コーティング膜の強度及び伸度が低いと、エアバックをインフレーターで展開した際、高温高圧ガスの膨張によりエアバックの外周縫製部の縫目が広がりやすくなる。縫目が広がると、熱風が集中的にそこを通過し、その付近の繊維が溶融しやすくなる。
【0024】
この組成物中の(c)は架橋剤であり、SiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサンである。本剤は、シリコン膜を強固にする働きを果たす。オルガノ水素ポリシロキサンは、好ましくは10:1〜1:1、より好ましくは、5:1〜1:1の珪素対水素の比を有する。このオルガノ水素ポリシロキサンは、好ましくは、(Si−結合した水素):(Si−結合した脂肪族不飽和基)が10:1〜1:1の範囲の量で本発明の組成物中に存在する。
【0025】
この組成物中の(d)は触媒であり、二酸化珪素、酸化アルミニウム又は活性炭のような担体上に、微細に分布した白金、白金ハロゲン化物、例えば、PtCl4、クロロ白金酸、Na2PtCl4・nH2 O等、白金オレフィン錯体、例えば、エチレン、プロピレン又はブタジエンとの錯体等、白金アルコール錯体、白金スチレン錯体、白金アルコラート錯体、白金アセチルアセトネート、クロロ白金酸とモノケトン、例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケ トン、アセトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトフェノン及びメシチル酸化物とからなる反応生成物等、白金ビニルシロキサン錯体、白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体等が挙げられる。その他、種々の白金触媒の混合物、例えば、クロロ白金酸とシクロヘキサノン、及び検出可能な無機ハロゲン化物を遊離している白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体との反応生成物からなる混合物等も使用することができる。
【0026】
この白金触媒は、一般に、白金量として計算され、かつ、珪素化合物の重量に対して、通常、0.5〜300 重量ppm、好ましくは2〜50重量ppmの量で使用される。
本組成物中は、さらに、(e)の有機溶媒を含有している。有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系の有機溶剤が好ましい。有機溶剤は、シリコン樹脂液(ドープ液)の織物へのしみ込み程度を調整するものである。
【0027】
この組成物のドープは、粘度を低くして織物にコーティングすることにより、織物の内部までドープ液が染み込むのを調整するものである。このシリコン組成物には、公知の難燃剤、充填剤、顔料及び安定剤を含有していてもよい。
例えば、充填材として、シリカが用いられる。このシリカは、熱分解法により製造された二酸化珪素又は沈殿された二酸化珪素であり、少なくとも50m2/g、好ましくは150〜500m2/gの表面積を有する。このシリカ充填材は、シリカ充填材を疎水性にする珪素化合物で処理される。前記シリカ充填材は、環式ポリシロキサ ン、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタ メチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペン タシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、 オクタデカメチルシクロノナシロキサン、ヘキサエチル シクロトリシロキサン、オクタエチルシクロテトラシロ キサン、トリメチルトリエチルシクロトリシロキサン、 テトラメチルテトラエチルシクロテトラシロキサン、ト リメチルトリビニルシクロトリシロキサン、テトラメチ ルテトラビニルシクロテトラシロキサン及びその混合物で処理してもよい。
【0028】
本発明に用いる織物はAJLで織成し、そのまま精練せずに用いるのが好ましい。
通常、織物は、精練及び熱セットにより油剤が除去されるが、無精練で紡糸油剤を繊維表面に残したままコーティングすることにより、シリコン膜が繊維に単糸間に入らず、繊維間(経糸と緯糸等)にわずかに入り、残りは織物の表面に強固なシリコン膜として存在させることができる。コーティング布の油剤分は0.5〜4.0%が好ましい。油剤とは、紡糸時及び整経時に付与する油剤のことである。
【0029】
織物に対するシリコンのコーティング量は、固形分換算で5〜30g/m2であることが好ましく、より好ましくは7〜25g/m2である。少量のシリコンコーティングをすることによりコーティング布の厚みが薄くなるとともに、ソフトで安価なコーティング布を得ることができる。
本発明においてシリコン組成物を塗布する方法としては、ナイフコート、ロールコート、リバースコート等の通常のコーティング法を用いることができる。乾燥条件は公知の条件でよく限定されるものではない。
【0030】
【発明実施の形態】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
エアバッグ用基布は次に示す方法で評価する。
(イ)融点
パーキンエルマー社製のDSC7(示差走査熱量計)を用いて測定する。標準試料はスズで温度校正を行う。試料を4mm×4mmに切断し、コーティング面を下向きにして測定パーンに設置して、かしめる。40℃にて1分間ホールド後、昇温速度10℃/min及び200℃にて330度まで測定を行う。その時の最高温側融点をその昇温速度での融点とする。
(ロ)剛軟度
JIS L 1096 6.19.1 A法(45°カンチレバー法)によって測定する。
(ハ)油剤分の測定
JIS L 1096 8.36に準じて測定する。溶剤としてn−ヘキサンを用いて抽出する。コーティング布をこの方法で抽出した場合、油剤分以外のものも抽出されるが、実施例では、抽出液をカラムクラマトグラムで分離したところ、その分量は10重量%以下であったので、抽出分はすべて油剤分として評価した。
(ニ)高温展開時外周縫製部損
国際公開第99/28164号パンフレットに記載の運転席用エアバック(60リットル)を縫製し、インフレーター(パイロ型最高タンク圧195kpa)を取り付けたモジュールとし、モジュールを85℃の恒温槽に1時間放置後、n=3で展開テストを行う。展開後バックの外周縫製部を観察する。評価基準は、以下のとおりである。
○:外周縫製部に損傷なし
×:外周縫製部に損傷あり
【0031】
【実施例1】
(1)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ8重量部、及び25℃で約20,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン25重量部(a)を混練機中で混合した。次に、エチニルシクロヘキサノール0.02重量部、及び白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.05重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
(2)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ8重量部、及び25℃で約20,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン18重量部(a)を混練機中で混合した。次に、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン6重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
(3)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ8重量部及び25℃で約500,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン18重量部(b)を混練機中で混合し、次に、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン3重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
【0032】
上記(1)で製造された混合物の33重量部と、上記(2)で製造された混合物32重量部と、上記(3)で製造された混合物の29重量部と、25℃で約20mPa・sの粘度を有する水素シロキサン1.5重量部と、テトラエトキシシラン0.9重量部と、白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.9重量部と、アルミニウムアセチルアセトナト2重量部と、顔料0.7重量部と、トルエン39重量部(e)とを混練機中で混合することによってシリコン組成物を製造した(ここで(a)+(b)+(e)=100)。
【0033】
ナイロン66からなる単糸繊度2.9dtex、全繊度235dtexの繊維を用いた織密度(経×緯)75×75本/インチの織物に、このシリコン組成物をフローティングナイフコーターにより固形分で30g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。
得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。基布のDSCチャートを図1に、コーティングされた基布断面の顕微鏡写真を図3に示す。
【0034】
基布の示差走査熱量計の結果、T(200)−T(10)=19であり、コーティングしたシリコン組成物は織物内部まで浸透していた。高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対しても外周縫製部に損傷は全く見られなかった。基布の剛軟度は、経が60mm、緯が62mmであった。
【0035】
【実施例2】
(1)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ5重量部、及び25℃で約1,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン7重量部(a)を混練機中で混合した。次に、エチニルシクロヘキサノール0.01重量部、及び白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.02重量部とを攪拌しながら混合物に添加した。
(2)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ5重量部、及び25℃で約1,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン7重量部(a)を混練機中で混合した。次いで、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン2重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
(3)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ5重量部、及び25℃で約200,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン25重量部(b)を混練機中で混合した。次いで、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン2重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
【0036】
上記(1)で製造された混合物の12重量部と、上記(2)で製造された混合物14重量部と、上記(3)で製造された混合物の32重量部と、25℃で約20mPa・sの粘度を有する水素シロキサン4重量部と、テトラエトキシシラン2.5重量部と、白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体1.5重量部と、アルミニウムアセチルアセトナト4重量部と、顔料0.5重量部とを、トルエン61重量部(e)を混練機中で混合することによってシリコン組成物を製造した(ここで(a)+(b)+(e)=100)。
【0037】
実施例1と同様の織物に、フローティングナイフコーターによりこのシリコン組成物を固形分で20g/m2コーティングし、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理してエアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=22であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対しても外周縫製部に損傷は全く見られなかった。基布の剛軟度は、経が58mm、緯が61mmであった。
【0038】
【実施例3】
実施例2と同様のシリコン組成物を、ナイロン66からなる単糸繊度2.2dtex、全繊度175dtexの繊維を用いた織密度(経×緯)86×86本/インチの織物にフローティングナイフコーターにより固形分で25g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理してエアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=16であり、コーティングしたシリコンは布帛内部まで浸透していた。高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対しても外周縫製部に損傷は全く見られなかった。基布の剛軟度は、経が57mm、緯が60mmであった。
【0039】
【比較例1】
(1)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ18重量部、及び25℃で約20,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン58重量部(a)を混練機中で混合した。次に、エチニルシクロヘキサノール0.05重量部、及び白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.12重量部とを攪拌しながら混合物に添加した。
【0040】
(2)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ18重量部、及び25℃で約20,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン42重量部(a)を混練機中で混合した。次いで、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン13重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
上記(1)で製造された混合物の76重量部と、上記(2)で製造された混合物73重量部と、25℃で約20mPa・sの粘度を有する水素シロキサン2重量部と、テトラエトキシシラン2重量部と、白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体1.2重量部と、アルミニウムアセチルアセトナト3重量部と、顔料1重量部とを混練機中で混合することによってコーティング組成物を製造した(ここで(a)=100)。
【0041】
実施例1と同様の織物にフローティングナイフコーターによりコーティング組成物を固形分で25g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。基布のDSCチャートを図2に、コーティングされた基布の断面を図4の顕微鏡写真で示す。
【0042】
比較例1では、単独のポリジメチルシロキサンを溶剤を使用せずに塗工を行った。基布の走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=6であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部に損傷が見られた。基布の剛軟度は、経が53mm、緯が56mmであった。
【0043】
【比較例2】
比較例1のコーティング組成物を、実施例1と同様の織物にフローティングナイフコーターにより固形分で45g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=8であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部に損傷が見られた。基布の剛軟度は、経が68mm、緯が76mmであった。
【0044】
【比較例3】
(1)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ5重量部、及び25℃で約500,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン15重量部(b)を混練機中で混合した。次に、エチニルシクロヘキサノール0.01重量部、及び白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.02重量部とを攪拌しながら混合物に添加した。
【0045】
(2)ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ5重量部、及び25℃で約500,000mPa・sの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン12重量部(b)を混練機中で混合し、25℃で約1,000mPa・sの粘度を有する水素シロキサン3重量部を攪拌しながら混合物に添加した。
上記(1)で製造された混合物の20重量部と、上記(2)で製造された混合物20重量部と、25℃で約20mPa・sの粘度を有する水素シロキサン2重量部と、テトラエトキシシラン2重量部と、白金重量1%を含有する白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体1.2重量部と、アルミニウムアセチルアセトナト3重量部と、顔料1重量部と、トルエン73重量部(e)を混練機中で混合することによってコーティング組成物を製造した(ここで(b)+(e)=100)。
【0046】
実施例1と同様の織物にフローティングナイフコーターにより、コーティング組成物を20g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を得た。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表1に示す。
【0047】
比較例3では、溶剤を使用し、コーティング組成物は布帛内部まで浸透していたが、架橋度が低いために耐溶融性は得られなかった。基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=8であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kpa)に対して外周縫製部に損傷が見られた。損傷の状況は、比較例1及び比較例2より改善されたが、実施例1には及ばなかった。
【0048】
【実施例4】
実施例1の処方のシリコン組成物を、ナイロン66からなる単糸繊度2.2dtex、全繊度110dtexの繊維を用いた織密度(経×緯)105×105本/インチの織物にフローティングナイフコーターにより固形分で30g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用コーティング布を得た。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表2に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=17であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部の損傷は全く見られなかった。損傷の状況は実施例1と同等レベルであった。基布の剛軟度は、経が52mm、緯が54mmであった。
【0049】
【実施例5】
実施例1の処方のシリコン組成物を、ナイロン66からなる単糸繊度3.1dtex、全繊度350dtexの繊維を用いた織密度(経×緯)59×59本/インチの織物にフローティングナイフコーターにより固形分で15g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表2に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=13となり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部の損傷は全く見られなかった。損傷の状況は実施例1と同等レベルであった。基布の剛軟度は、経が67mm、緯が69mmであった。
【0050】
【比較例4】
実施例1の処方のシリコン組成物に、更にトルエンを20重量部加えて混連し、実施例4と同様の織物にフローティングナイフコーターにより固形分で4g/m2コーティングした。次いで、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表2に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=6であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部に損傷が見られた。基布の剛軟度は、経が51mm、緯が52mmであった。
【0051】
【比較例5】
比較例1の処方のエラストマー組成物を、実施例3と同様の織物にフローティングナイフコーターにより固形分で20g/m2コーティングした。乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を得た。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表2に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=8となり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部に損傷が見られた。基布の剛軟度は、経が53mm、緯が55mmであった。
【0052】
【比較例6】
実施例1の処方のエラストマー組成物に、溶剤を250重量部さらに添加し、トータルで350重量部(したがって、(a)は12重量部、(b)は重量5部、(e)は83重量部となる)とし、実施例3と同様の織物を精練後に、フローティングナイフコーターにより固形分で12g/m2となるようコーティングした。乾燥機内で180℃、3分間、熱処理して、エアバッグ用基布を製造した。得られたエアバッグ用基布及びこの基布から作製したエアバッグを評価した結果を表2に示す。
基布の示差走査熱量計の結果はT(200)−T(10)=8であり、高温展開時の外周縫製部損傷を観察したところ、インフレーター圧(195kPa)に対して外周縫製部に損傷は見られなかった。基布の剛軟度は、経が78mm、緯が83mmであった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【発明の効果】
本発明によって、耐溶融性に優れ、かつ、軽量柔軟で収納性に優れたエアバック用基布が得られる。このエアバッグ用基布を用いたエアバッグは、特に、高出力インフレーター展開及び高温展開時の耐バースト信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の基布のDSCチャート。
【図2】比較例1の基布のDSCチャート。
【図3】実施例1の基布の断面の顕微鏡写真。
【図4】比較例1の基布断面の顕微鏡写真。
Claims (3)
- 総繊度100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物とエラストマーとからなるエアバッグ用基布であって、基布の示差走査熱量計による200℃/min昇温時の最高温側融点T(200)と10℃/min昇温時の最高温側融点T(10)とが、T(200)−T(10)≧10の関係を満足し、カンチレバー法による剛軟度が70mm以下であることを特徴とするエアバック用基布。
- 総繊度100〜350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる織物に、下記(a)〜(e)を含む組成物からなるエラストマー溶液を、固形分で5〜30g/m2コーティングすることを特徴とする請求項1記載のエアバック用基布の製造方法。
(a)25℃における粘度が100〜20,000mPa・sであり、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(b)25℃における粘度が20,000〜1,000,000mPa・sであって、かつ、(a)より高い粘度を有し、末端部位にSiC結合したビニル基を有するオルガノポリシロキサン5〜70重量部
(c)SiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン0.1〜30重量部
(d)脂肪族不飽和基にSiH基の付加を促進する能力のある触媒0.01〜10重量部
(e)有機溶剤30〜80重量部
(ここで、(a)+(b)+(c)=100重量部である。) - 請求項1又は2記載の基布からなることを特徴とするエアバッグ。
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