JP2004145674A - プレス曲げ成形型の型面の設計方法 - Google Patents

プレス曲げ成形型の型面の設計方法 Download PDF

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Yasuaki Sakai
酒井 庸鑑
Yoshimitsu Matsushita
松下 嘉光
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Abstract

【課題】板状体をプレス曲げ成形する技術において、シミュレーション技術を適用して、実際に曲げ成形することなく、予めプレス成形された板状体の形状を予測し、得ようとする形状との誤差量を把握し、それを用いて前記型面を適切に修正し、さらに仮想的なガラス板形状の局部的な凹凸をガウス曲率を用いて評価し、型面を局部的に修正する型面の設計方法を提供する。
【解決手段】コンピュータを用いたシミュレーション技術により、仮想的に成形後のガラス板形状を求めて、その形状の誤差評価を反映した型面の設計方法や、仮想的なガラス板形状の局部的な凹凸部分をガウス曲率を用いて判断し、型面を局部的に修正する型面の設計方法である。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、板状体のプレス曲げ成形に用いる成形型の型面の設計方法に関する。より詳しくは、コンピュータを用いたシミュレーション技術により、成形後の板形状を仮想的に求めて、その形状の誤差評価を反映した型面の設計方法や、成形後の仮想的な板形状における局部的な凹凸を評価することで、型面を局部的に修正する型面の設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
板状体をプレス曲げ成形する方法について、自動車用ガラス板の曲げ成形方法を例にとり、以下に説明する。
例えば、自動車用ガラス板の曲げ成形方法としては、次のようなものがある。
(1)ガラス板を加熱し、凹凸のプレス型を用い、ガラス板をプレス成形する曲げ成形方法
(2)ガラス板を加熱し、凹あるいは凸のどちらかのプレス型を用い、ガラス板をプレス成形する曲げ成形方法
【0003】
これら成形に用いるプレス型の型面形状は、実際にその型でガラス板をプレス成形して、成形されたガラス形状と、得ようとするガラス板形状とを比較しながら、幾度かの修正を重ねて、決定されてきた。これは、成形後のガラス形状を予測することが困難であるため、実際に成形するまで得ようとするガラス板形状が得られるかどうか、事前に判断できなかったためである。したがって、型面形状の決定までに型面の修正に時間が必要であり、また型面の修正コストが嵩むことになる。
【0004】
一方、コンピュータを用いたシミュレーション技術においては、成形後のガラス板形状を仮想的に求める方法や、成形条件を選定する方法が、これまでにも開発されてきた。
【0005】
しかし、シミュレーション技術を用い、成形後のガラス板形状を仮想的に求めて、その形状と与えられたガラス板形状との誤差を評価して型面を設計する方法や、仮想的なガラス板形状の局部的な凹凸部分の存在を判断することで、型面を局部的に修正して型面を設計する方法は、これまで知られていなかった。
【0006】
近年、ガラス板の形状として、球面形状や曲率の大きい形状などが求められている。また、要求されるガラス板形状の要求品質が上がってきており、ガラス板の面形状の精度とガラス板の光学的な品質、特に反射映像の見栄えがこれまで以上に要求されてきている。
【0007】
ところで、特開平10−269260号には、「形状データ検証方法」として、「形状面50の各検証ポイントでの曲率(ガウス曲率および平均曲率)を算出し、生産技術要件データに基づいて設定される判断基準値と比較することにより、前記形状面50の良否を判定するとともに、前記曲率を色別に段階表示させることにより、当該形状面50の凹凸の把握を容易とする。」技術が開示されている。
【0008】
この特開平10−269260号は、CADシステムを用いて、製品の形状データを検証する形状データ検証方法についての発明である。
具体的には、CADシステムによる車体の形状データから作成された金型から、車体を構成する各部品を製造する場合において、形状データに対して忠実に金型を作成すると、その金型によって製造された製品が所望の形状にならない場合があり、その際に用いられる製品の形状データを検証する方法である。
【0009】
この検証方法は、形状データが、実際に製造される製品の細部の構造、製品の材質特性、あるいはその製品を製造するための金型構造に基づく形状の制約等までは考慮されていない場合や、また金型の構造の制約から、デザインどおりの製品を製造することが技術的に困難となる場合に、有用な形状データ検証方法である。
【0010】
さらに、WO98/49524には、「自由曲面の形状誤差判別方法」として、「対象曲面S′と基準曲面Sの対応する位置の主曲率をそれぞれ求め、主曲率の差から、各部分を(a)2つの主曲率が増加している場合、(b)2つの主曲率が減少している場合、(c)一方が増加、他方が減少している場合に分類して(a)を山、(b)を谷、(c)をねじれと判別し、それぞれ異なる記号又は色で画像表示する。これにより、2つの三次元形状の相違部分を的確に把握することができ、部分的な曲がり等の誤差発生の原因把握が可能であり、全体としてどの程度の割合で形状が一致しているかを客観的な数値で把握することができ、かつ基準形状が複雑な場合でも容易に判別することができる。」技術が開示されている。
【0011】
このWO98/49524に開示された発明は、自動車のボディ等のようにプレス加工により成形する成形物における成形の不具合等の評価に関する。この発明は具体的には、自由曲面の評価を「目視」ではなく、CADによって加工時の変形をシミュレーションを行い、成形不具合を客観的に定義し画像表示する手段に関する。
【0012】
なお特開平4−276513号は、WO98/49524の国際調査報告で、一般技術水準を示す文献として指摘されたものである。
【0013】
非特許文献1には、コンピュータ上でガウス曲率を表示するという手法が記載されている。
【0014】
【特許文献1】
特開平10−269260号
【特許文献2】
国際公開番号WO98/49524
【特許文献3】
特開平4−276513号
【非特許文献1】
著者名:Ashoka G. Jinka and Alex G. Bueno
タイトル:A new paradigm for automotive glass design and analysis
学会名:EUROMECH 388− Modeling of Glass Forming Processes
セッション:Flat glass forming
分会:Colloquium on MODELLING OF GLASS FORMING PROCESS
開催日:1998, Oct. 13−15
発行者:EUROPEAN MECHANICS SOCIETY
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特開平10−269260号の開示は、製品の形状データを検証する形状データ検証する方法に留まり、形状データを用いて忠実に金型を作成しても、製品が所望の形状にならないことが指摘されているだけで、具体的な金型の製作に関しては言及されていない。
【0016】
上述したWO98/49524の開示も、プレス加工により成形する成形物における成形の不具合等の評価に留まり、具体的な金型の製作に関しては言及されていない。
【0017】
そこで本発明は、板状体のプレス曲げ成形において、シミュレーション技術を適用して、実際に曲げ成形することなく、予めプレス成形後の形状を予測し、得ようとする形状との誤差量を把握し、それを用いて前記型面を適切に修正することで、最適な型面を設計することができる型面の設計方法を提供するものである。
【0018】
また、仮想的なガラス板形状の局部的な凹凸をガウス曲率を用いて評価し、型面を局部的に修正する型面の設計方法を提供するものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載の発明として、
板状体のプレス曲げ成形型の型面をコンピュータを用いて設計する方法であって、
(a)得ようとする湾曲状の板形状のデータを取得する形状取得ステップと、
(b)前記成形型の型面モデルを作成し、その初期形状を前記湾曲形状とする型面モデル作成ステップと、
(c)前記板状体の板形状モデルを作成し、その初期形状を設定し、さらに前記型部材の物性値、および前記型面の運動を型面モデルに設定する成形条件設定ステップと、
(d)前記型面モデル、前記板形状モデルと前記成形条件に基づき、コンピュータ上で前記板形状モデルに対して曲げ成形を行い、成形後の板形状モデルをシミュレートする演算ステップと、
(e)前記演算により求められた板形状モデルから、成形後の仮想的な板形状を作成する板形状作成ステップと、
(f)前記仮想的な板形状と前記湾曲状の板形状との誤差量を求める誤差評価ステップと、
(g)前記誤差量が所定の許容範囲内であれば、(j)型面出力ステップへ進むことと、
前記誤差量が所定の許容範囲外であれば、(k1)型面モデルに対して前記誤差量分を修正する型面モデル修正ステップを実施し、前記(c)成形条件設定ステップへ戻ること、を判断する誤差判断ステップと、
(j)前記演算にて求められた型面モデルから、型面形状を出力する型面出力ステップと、
を有することを特徴とするプレス曲げ成形型の型面の設計方法である。
【0020】
請求項2に記載の発明として、
請求項1に記載のプレス曲げ成形型の型面の設計方法において、
さらに、
(h)前記成形後の仮想的な板形状の一主表面の各点における、2つの主曲率κ1,κ2より、ガウス曲率Κを求める曲率評価ステップと、
(i)前記一主表面の所定領域内の各点におけるガウス曲率Kが、
すべて正であれば、(j)型面出力ステップへ進むこと、
負となる領域があれば、(k2)前記板形状の領域に対応する型面を修正する型面局部修正ステップを実施し、前記(c)成形条件設定ステップへ戻ること、
を判断する曲率判断ステップと、
(j)前記演算にて求められた型面モデルより、型面形状を出力する型面出力ステップと、
を有するプレス曲げ成形型の型面の設計方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明として、
請求項1または2に記載のプレス曲げ成形型の型面の設計方法において、
前記板状体がガラス板であるプレス曲げ成形型の型面の設計方法である。
【0022】
曲げ成形後のガラス板形状における品質としては、例えば上述したように面形状の精度と光学的な品質、特に反射映像の見栄えがある。ここで、コンピュータを用いたシミュレーション技術を、型面の設計に適用しようとすると、仮想的に求められた成形後のガラス板形状において、その面精度や光学的な品質を評価する方法が必要となる。
【0023】
面形状の精度については、仮想的に求めた形状と得ようとする形状との誤差量により評価できる。光学的な品質、特に反射映像の見栄えについては、ガラス板全体として凸形状の場合、その表面に局部的な凹部がある場合、光学的な品質、特に反射映像の見栄えが劣化するので、この評価は重要である。局部的な凹部の存在の評価は、曲面の2つの主曲率から求められるガウス曲率によって、評価することができる。
【0024】
(ガウス曲率についての説明)
以下に、図面を用いてガウス曲率について説明する。
まず、二次元である平面上の曲線の曲率について、簡単に述べる。曲線上点Pの近傍形状を円で近似する。この円の半径を曲率半径といい、その逆数が点Pにおける曲率である。なお、直線の曲率は0である。
【0025】
次に、三次元である曲面上の点Pにおける単位接線ベクトルの1つtと、点Pにおける単位法線ベクトルnで決まる平面を法平面といい、法平面と曲面との交線を法断面という(図2(A))。法断面は法平面上の曲線である。そして、法断面上の点Pにおける曲率κを、点Pにおける法曲率と呼ぶ。法曲率κの値は、法平面のとり方によって異なる値をとる。
【0026】
さらに、点Pにおける法曲率κの最大値および最小値を考える。法平面を法線を中心として回転させると、法断面の形状が変化し、上で述べたように法曲率κもまた変化する。法断面の形状は、法平面を半回転させたところで元の状態に戻る。
【0027】
このとき法曲率κは、平面や球面を除く一般的な曲面において、法平面の2つの方向で最大値κ1および最小値κ2をとる。この2つの方向を主方向といい、2つの主方向は直交する。そして、2つの主方向の法曲率κ1,κ2を曲面の主曲率と呼ぶ(図2(B))。ここで、平均曲率Hとガウス曲率Kを、それぞれ次のように定義する。
【0028】
【数1】
H=0.5×(κ1+κ2)
【数2】
K=κ1×κ2
【0029】
平均曲率Hは、曲面が全体として凸か凹かを表す値であり、正の方向に値が大きいほど凹の程度が大きく、負の方向に値が大きいほど凸の程度が大きいことを表し、また値が0に近いほど、凹凸の程度がつりあっていることを表している。ガウス曲率Kは、値が正のとき曲面の形状は凹型か凸型であることを表しており、ガウス曲率Kが負のとき鞍型であることを表している。
【0030】
平均曲率Hとガウス曲率Kの符号によって、曲面の形状は図3に示すように、8種類に分類される。なお、H=0,K>0という状態はあり得ない。また、これら8種類の形状を、2つの主曲率κ1とκ2を軸とした二次元空間に配置すると、図4のようになる。
【0031】
以上のことから、平均曲率Hの正負に拘わらず、ガウス曲率Kが負となる場合は鞍型となっている。このことは、全体として凸形状や凹形状である曲面において、局部的に逆に反っている部分(以下、逆反り部分と呼ぶことがある)が存在していることを意味している。すなわち、曲面が凸形状であれば局部的に凹部が存在すること、一方曲面が凹形状であれば局部的に凸部が存在することである。
【0032】
自動車用ガラス板においては、プレス成形で製造されるガラス板は、一般に一方向に凸となるような形状が大多数である。すなわち、平均曲率Hとガウス曲率Kで表して、(H>0,K>0)あるいは(H<0,K>0)のガラス板である。
【0033】
図5は、このような形状にプレス曲げ成形したガラス板を撮影した写真であり、特にその反射映像を観察しようとしたものである。この図5に示した例では、ガラス板26をガラス置き台92の上に凸面を上向きに置き、ガラス置き台92に対して垂直な壁に等間隔の格子状テストパターン91を設置し、このテストパターンをガラス板26に写して、反射映像を評価している。曲げ成形したガラス板における反射映像の優劣は、この格子状テストパターンの映像歪みによって、判断することができる。
【0034】
ガラス板を凸面側から見て局部的に凹部(逆反り部分)がある場合には、テストパターンの格子間隔に乱れを生じる。図5においては、ガラス板面上に局部的な凹部がいくつか存在しているので、反射映像に歪みのあることがわかる。図5では、ガラス板を凸面側から見ているため、凹部の存在が問題となる。なお、ガラス板を凹面側から見れば、反射映像に歪みを与える部分は凸部となる。
【0035】
このようなガラス板を凸面側から見て、局部的に凹部が存在すると、その反射映像の見栄えはよいとはいえず、局部的な凹部は存在しないことが好ましい。この場合、与えられた湾曲状の一主表面すべての領域内における各点にて、ガウス曲率Kが正であれば、局部的な凹部は存在しないことになる。
【0036】
そこで、曲げ成形されたガラス板表面における局部的な凹部の存在と、ガウス曲率Kの正負の関係を確認する必要がある。図6には、図5に示した曲げ成形されたガラス板から曲げ形状のデータを取得して、その曲面のデータからガラス板表面の各点におけるガウス曲率Kを求めて、表示したものである。
【0037】
図6では、ガウス曲率Kの値の正または負に応じて、さらにその絶対値の大きさに応じて、それら領域を区別して表示している。なお、「+」の表示はガウス曲率Kが正を表し、「−」の表示はガウス曲率Kが負を表している。また「+」や「−」の数は、ガウス曲率Kの絶対値の大きさに対応して表示している。
【0038】
なお、一部の自動車のガラス板、例えばハッチバック車用のリアガラス板においては、図3に示された鞍型、すなわち平均曲率Hとガウス曲率Kで表して、(H<0,K<0)あるいは(H>0,K<0)のようなガラス板が用いられる場合がある。この場合は、与えられた湾曲形状の凸である領域内の各点において、ガウス曲率Kが正であれば、局部的な凹部は存在しないことになる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を、ガラス板をプレス曲げ成形する成形型の型面の設計方法を一例とし、図面を参照しながら説明する。
【0040】
まず、本実施形態におけるガラス板の曲げ成形装置の概略を図7に示す。曲げ成形前のガラス板は、当初平板である(図8(A)参照)。ガラス板は加熱炉内に搬入され、所定の温度まで加熱されて、出炉される。出炉後のガラス板は支持部材へ搬送され、ガラス板の周囲のみが支持部材により支持される。その後ガラス板は、凹凸の型面により、プレス曲げ成形される(図8(B))。なお図8は、リアガラス板の例である。
【0041】
図9にプレス曲げ装置の断面構造を示す。この曲げ成形によりガラス板は、例えば三次元湾曲状に成形されている。成形後のガラス板は、搬送ロールにより、次の工程に搬送される。
【0042】
本発明の特徴は、上述のようなガラス板を曲げ成形する技術において、実際にガラス板を曲げ成形することなく、成形後のガラス板形状を仮想的に求め、得ようとする形状との誤差量を求めて、型面を適切に修正することである。さらに、ガラス板表面の各点におけるガウス曲率Kを用いて、表面の局部的な凹凸を把握して型面を適切に修正することである。
【0043】
まず成形型の型面モデルを作成し、その初期形状を得ようとする湾曲状とする。続いて、ガラス板の初期形状の板形状モデルを作成し、さらにガラス物性値やガラス板の温度、さらには型面の運動などを設定して、プレス成形後のガラス板形状モデルをシミュレートする演算を行う。このようにして、プレス成形後のガラス板形状を仮想的に求める。
【0044】
このようなシミュレーション演算は、プロセッサを有するコンピュータおよびその周辺機器と、コンピュータ上で実行されるソフトウェアプログラムにより実現される。
なお、上述したガラス板や型面形状以外の搬送装置やガラス板支持部材なども、コンピュータ上にシミュレーションモデルの作成を行い、上述のシミュレート演算を行うとよい。
【0045】
上述のようなシミュレーションにて、所定の条件下でのガラス板形状を求めるとともに、最適な型面を設計する方法について、図1に示したフローチャートを参考にして、その手順を説明する。図1では、ガラス板のプレス成形型の型面の設計方法を例として示している。
【0046】
まず、与えられた湾曲形状をCADデータから取得し((a)形状取得ステップ)、この形状を有する凹面、凸面のシミュレーションモデルを作成する((b)型面作成ステップ)。本発明では、シミュレーションモデルの作成とは、形状を離散化し、メッシュモデルを作成することである。
【0047】
次に、与えられた湾曲形状を平面に展開し、曲げ成形される前のガラス板の板形状モデルを作成する。また型面、搬送装置やガラス板支持部などのメッシュモデルを作成する。最後に、前記板形状モデルにガラス物性値、板厚、温度を設定し、また搬送装置やガラス板支持部材などのシミュレーションモデルには、成形部材の物性値、板厚、成形部材の運動を設定する((c)成形条件設定ステップ)。
【0048】
図10は、曲げ成形装置を構成する要素を、シミュレーションモデル外形線を用いて表した図である。図11は、曲げ成形シミュレーションでのメッシュモデルで、(A)凸型面の解析メッシュモデル、(B)搬送装置の解析メッシュモデル、である。図12は、同じく、(C)ガラス板の解析メッシュモデル、(D)ガラス支持部の解析メッシュモデルの部分拡大、(E)凹型面の解析メッシュモデル、である。
【0049】
ここで、本発明で使用するシミュレーションにおいては、ガラス物性値として、粘弾性体を表す力学的物性値に密度、ヤング率、ポアソン比、粘度を入力し、熱力学的物性値に比熱、熱伝導率を入力する。また初期のガラス温度としては、所定の温度を入力し、温度履歴としては、周囲の装置との熱放射および空気との熱伝導を考慮したものとする。
【0050】
さらに、入力された成形条件に基づき、曲げ成形後のガラス板形状をシミュレートする演算を行い((d)演算ステップ)、前記演算より求められた仮想的な曲げ成形後のガラス板形状を作成する((e)ガラス板形状作成ステップ)。作成されたデータの出力形式は、例えばガラス板メッシュの各格子点の座標値、あるいは変位データであればよい。
【0051】
またこの演算には、有限要素法に基づく解析演算ソフトウェアプログラムを用いることができる。具体的には、被成形物体(ここではガラス板)の成形温度域での粘弾性物性値の設定、成形物体の運動の設定、および被成形物体と成形物体との接触解析を行うことが可能である解析演算ソフトウェアプログラムを用いるとよい。この条件を満たす汎用されているソフトウェアプログラムであれば、この演算に用いることができる。
【0052】
続いて、この演算より求められた仮想的な曲げ成形後のガラス板形状と、得ようとする湾曲状との誤差量を求める((f)誤差評価ステップ)。この誤差量が許容範囲以内であれば、(j)型面出力ステップか(h)曲率評価ステップへ進む。しかし、許容範囲外であれば、型面モデルを前記求められた誤差量だけ修正((k1)型面モデル修正ステップ)し、(c)成形条件設定ステップへ戻り、それ以下のステップを実行する。これらステップは、誤差の値が許容範囲以内になるまで繰り返される。
【0053】
ここで、(k1)型面モデル修正ステップについて説明する(図13参照)。
与えられた三次元湾曲状を型面形状とした場合、次のようになる。仮想的な曲げ成形後のガラス板形状のある点PでのZ座標値をBとする。与えられた三次元湾曲状のX,Y座標値が点Pに等しい場所でのZ座標値をAとする。このとき、仮想的な曲げ成形後のガラス板形状と与えられた三次元湾曲状との誤差Cは、(数3)のようになる。また点Pと接する場所での修正後の型面形状のZ座標値は、(A−C)となる。
【0054】
【数3】
C=B−A
【0055】
さらに請求項2に記載の発明では、求められた仮想的なガラス板形状の任意に分割した各点における2つの主曲率κ1,κ2より、ガウス曲率Κを求める((h)曲率評価ステップ)。ガウス曲率Κの評価は、仮想的なガラス板形状の任意の場所での、ガウス曲率Kの値が把握できればよい。この条件を満たすものであれば、汎用されているソフトウェアプログラムを用いることができる。
【0056】
そしてさらに、求められたガウス曲率Kがガラス板面の所定領域で正であれば、後述の型面出力ステップ(j)へ進行する。しかし、ガラス板面の所定領域で負となる領域があれば、前記負となる領域に接する型面の領域を局部的に修正((k2)型面モデル局部修正ステップ)し、成形条件設定ステップ(c)へ戻る。これらステップは、仮想的なガラス板形状において求められるガウス曲率Kの値が、ガラス板面の所定領域のすべてにおいて、正になるまで繰り返される。
【0057】
一方向に凸となるガラス板形状では、ガウス曲率Kの値がガラス板面のすべてで正となればよい。また、上述した鞍型形状のガラス板では、部分的に鞍型となっている部分を除き、凸である領域内の各点におけるガウス曲率Kが正であればよく、凹である領域内の各点においても、ガウス曲率Kが正であればよい。
【0058】
なおこのとき、求められたガウス曲率Kの値の正または負に応じて、コンピュータの画面上に、それら領域を区別して示すようにするとよい。さらには、ガウス曲率Kの値における正および負の絶対値の大きさに応じて、それら領域を区別して示してもよい(上述の図6参照)。
【0059】
ここで、(k2)型面モデル局部修正ステップについて説明する(図14参照)。
仮想的なガラス板形状の表面において、ガウス曲率Kが負となる領域をPとする。領域Pを含む仮想的なガラス板形状のある断面形状は、周囲の曲率と異なった形状をとる。このとき与えられた三次元湾曲状と仮想的なガラス板形状との誤差量をCpとする。領域Pと接する型面のZ座標をApとすると、修正後の型面Z座標Aoは次のように表される。
【0060】
【数4】
Ao=Ap+Cp+Yp
【0061】
ここで補正量Ypは、強制的に曲率を調整するための、型面の修正量であり、補正量Ypの大きさは、0.5mm以上3.0mm以下とすることが好ましい。
【0062】
図15は型面モデルの局部修正を実施する前の、図16は型面モデルの局部修正を実施した後の、ガウス曲率Kの値の正負および絶対値の大きさに応じて表示した図である。
【0063】
図15に示したように、型面の局部修正を実施する前では、ガラス板にガウス曲率Kが部分的に負となる領域が存在していることがわかる。これに対して、図16に示したように、型面の局部修正を実施した後では、ガラス板の表面におけるすべての点で、ガウス曲率Kが正となっていることがわかる。すなわち、+領域と++領域のみ存在している。
【0064】
そして最後に、シミュレート演算で用いた型面モデルより、型面形状をCADデータとして、出力する((j)型面出力ステップ)。
【0065】
以上の説明では、板状体がガラス板である場合について説明したが、本発明はこれに限られることなく、例えば自動車の外板として用いられる鋼板のプレス曲げ成形に用いる型面の設計方法にも適用することができる。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による型面の設計方法は、実際に曲げ成形することなく、予めプレス成形型の型面に起因する不具合を予測し、前記型面を適切に修正することで、最適な型面を設計することができる。このような設計方法を採用することにより、試作期間および試作コストの低減が可能となる。
【0067】
具体的には、シミュレーションによって求めた板形状と前記得ようとする湾曲状の板形状との誤差量を求め、さらには許容範囲外の誤差量分を修正することを特徴とする。このため、的確な型面の修正を行うことができる。
【0068】
さらに、板形状表面のガウス曲率Κを求めて、これが負となる領域があれば、この領域に対応する型面を修正することを特徴とする。このため、局部的な逆に反った部分を的確に型面を修正することができる。
以上より、型面を適切に修正することでき、この型面を使用して特に反射映像に優れた曲げ成形ガラス板を得ることができる。
【0069】
さらに本発明による形状の評価方法は、基体の表面の各点におけるガウス曲率を用いて、基体の表面の凹凸状態を画面上に表示することができる。このため、表面の凹凸状態を視覚的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による型面の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】曲面の曲率について説明する図である。(A)法平面、法断面と法曲率、(B)主方向と主曲率
【図3】平均曲率Hとガウス曲率K、および曲面の形状の関係について説明する図である。
【図4】2つの主曲率κ1とκ2を軸とした二次元空間に、8種類の曲面形状を配置し図示した説明図である。
【図5】曲げ成形されたガラス板の反射映像を観察する様子、および反射映像を示した写真である。
【図6】図5に示したガラス板のガウス曲率Kの分布を示す図である。
【図7】加熱されたガラス板を、凹凸の型面により、曲げ成形する装置の概略を示す図である。
【図8】成形前のガラス板形状と成形後のガラス板形状を示す図である。(A)成形前のガラス板形状、(B)成形後のガラス板形状
【図9】ガラス板のプレス曲げ成形装置の断面図である。
【図10】シミュレーションモデル外形線を用いた曲げ成形装置、およびガラス板の概略図である。
【図11】曲げ成形シミュレーションでのメッシュモデル(1)である。(A)凸型面の解析メッシュモデル、(B)搬送装置の解析メッシュモデル
【図12】曲げ成形シミュレーションでのメッシュモデル(2)である。(A)ガラス板の解析メッシュモデル、(B)ガラス板支持部の解析メッシュモデルの部分拡大図、(E)凹型面の解析メッシュモデル
【図13】得ようとする形状との誤差量をもとに、型面を修正する方法を説明する図である。
【図14】ガウス曲率Kをもとに、型面を修正する方法を説明する図である。
【図15】局部的な型面修正を実施する前のガウス曲率Kを示す図である。
【図16】局部的な型面修正を実施した後のガウス曲率Kを示す図である。
【符号の説明】
1:曲げ成形装置
2:ガラス板
3:凸部型
4:凹部型
5:加熱炉
6:搬送装置
7:ガラス板支持部材
91:等間隔の格子状テストパターン
92:ガラス台
26:成形されたガラス板
31:凸部型面
21:(プレス前の)ガラス板
41:凹部型面
32:凸部型面の解析モデルの外形線
22:ガラス板の解析モデルの外形線
62:搬送装置の解析モデルの外形線
42:凹部型面の解析モデルの外形線
72:ガラス板支持部の解析モデルの外形線
33:凸部型面の解析モデル
63:搬送装置の解析モデル
23:ガラス板の解析モデル
73:ガラス板支持部の解析モデル
43:凹部型面の解析モデル
24:得ようとする形状を型面とし、仮想的に求められた成形後のガラス板形状
20:得ようとするガラス形状
35:誤差量により修正した後の型面形状
36:ガウス曲率Kにより修正した後の型面形状
201:得ようとする形状に対する許容誤差の上限
20:得ようとするガラス形状
25:誤差量修正後の型面形状を用い、仮想的に求められた成形後のガラス板形状
202:得ようとする形状に対する許容誤差の下限

Claims (3)

  1. 板状体のプレス曲げ成形型の型面をコンピュータを用いて設計する方法であって、
    (a)得ようとする湾曲状の板形状のデータを取得する形状取得ステップと、
    (b)前記成形型の型面モデルを作成し、その初期形状を前記湾曲形状とする型面モデル作成ステップと、
    (c)前記板状体の板形状モデルを作成し、その初期形状を設定し、さらに前記型部材の物性値、および前記成形型の運動を型面モデルに設定する成形条件設定ステップと、
    (d)前記型面モデル、前記板形状モデルと前記成形条件に基づき、コンピュータ上で前記板形状モデルに対して曲げ成形を行い、成形後の板形状モデルをシミュレートする演算ステップと、
    (e)前記演算により求められた板形状モデルから、成形後の仮想的な板形状を作成する板形状作成ステップと、
    (f)前記仮想的な板形状と、前記湾曲状の板形状との誤差量を求める誤差評価ステップと、
    (g)前記誤差量が所定の許容範囲内であれば、(j)型面出力ステップへ進むことと、
    前記誤差量が所定の許容範囲外であれば、(k1)型面モデルに対して前記誤差量分を修正する型面モデル修正ステップを実施し、前記(c)成形条件設定ステップへ戻ること、を判断する誤差判断ステップと、
    (j)前記演算にて求められた型面モデルから、型面形状を出力する型面出力ステップと、
    を有することを特徴とするプレス曲げ成形型の型面の設計方法。
  2. 請求項1に記載のプレス曲げ成形型の型面の設計方法において、
    さらに、
    (h)前記成形後の仮想的な板形状の一主表面の各点における、2つの主曲率κ1,κ2より、ガウス曲率Κを求める曲率評価ステップと、
    (i)前記一主表面の所定領域内の各点におけるガウス曲率Kが、
    すべて正であれば、(j)型面出力ステップへ進むこと、
    負となる領域があれば、(k2)前記板形状の領域に対応する型面を修正する型面局部修正ステップを実施し、前記(c)成形条件設定ステップへ戻ること、
    を判断する曲率判断ステップと、
    (j)前記演算にて求められた型面モデルより、型面形状を出力する型面出力ステップと、
    を有するプレス曲げ成形型の型面の設計方法。
  3. 請求項1または2に記載のプレス曲げ成形型の型面の設計方法において、
    前記板状体がガラス板であるプレス曲げ成形型の型面の設計方法。
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