JP2004143011A - 光学部材用合成石英ガラス材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】パルス当たりエネルギー密度が0.03mJ/cm2以下のエネルギー密度領域に使用されるArFエキシマレーザー光学部材用合成石英ガラス材料であって、ArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、発振周波数200Hzで1×104パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり1%以上2%以下、同照射条件で2×106パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり0.5%以上1%以下であるようにした。
【選択図】 図5
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学部材用合成石英ガラス材料に関し、詳しくは、ArFエキシマレーザーを光源とするディープUVリソグラフィーの露光装置に使用される光学系に用いられる、三方向に脈理がなく高均質で低複屈折性を有し、紫外線に対して高い透過性を有すると共に、その照射に対して安定な光学部材用の合成石英ガラス材料に関するものであり、特に照射エネルギー密度の少ない領域により好適に使用される合成石英ガラスに関する。したがって、本発明による光学部材用石英ガラス材料はエキシマレーザー露光装置の光学系を構成する、例えばレンズ、プリズム、ビームスプリッター等の合成石英ガラス光学部材用として好適に用いられるものである。
【0002】
【関連技術】
半導体素子の高集積化は止まることなく、ウエハー上に描くパターンは微細化の一途をたどり、近年ではクォータミクロン(0.25μm)以下の超微細パターンが描画されたULSIが量産として製造されている。特に最先端では0.2μm以下の微細パターンが描画されたULSIも製造されつつある。このような微細化を達成していくために、パターンを描画する露光装置も年々改良が進められており、特に露光光源の短波長化や超解像技術の駆使などにより超微細パターンの形成が達成されている。露光光源の短波長化は、従来、水銀ランプのi線(365nm)が用いられてきたものが、近年ではKrFエキシマレーザー(248nm)が主流となり、更に波長の短いArFエキシマレーザー(193nm)の量産への導入が進められている。このような厳しい微細化の要求やそれに伴う露光光源の短波長化は、露光装置のレンズやビームスプリッターなどの光学材料に対しても従来とは比較にならないほど高品質であることが要求されている。例えば、クリアーな超微細パターンを形成するために露光装置のレンズ材料はあらゆる光学的な収差を小さくする必要があり、レンズ材料に対しても非常に高い屈折率均質性や低い複屈折特性が要求されている。また、露光装置光源の短波長化により、紫外線領域の高透過性、更には耐紫外線性が求められている。一般的に光は短波長になるほど光子エネルギーが高いため、石英ガラスなどの透過材料に対して光学的なダメージを与えやすくなる。したがって、i線よりもKrF、更にはArFとより短波長になるほど高い紫外線耐性が要求される。
【0003】
エキシマレーザー照射による石英ガラスの光学的ダメージ(以降レーザーダメージ)は当初、エキシマレーザー露光機における最大の課題とされ、1990年代初めから盛んに研究が行われてきた。
【0004】
レーザーダメージの代表的な現象として、極めてエネルギーの強いレーザー光の吸収により石英ガラスの構造が破壊され、E’センター(イープライムセンター)と呼ばれる波長215nmに吸収ピークを有する常磁性欠陥が生成することにより紫外線透過率が低下する現象、及びレーザー光の透過に伴い、石英ガラス構造の緻密化が生じ(レーザーコンパクション)、屈折率が上昇する現象等が有名であるが、これらはそのまま露光時の結像特性に影響を与えるばかりでなく、光学素子自体の寿命を決定するために、これらダメージの解決に向けて盛んに研究が行われてきた。
【0005】
このような研究の結果、E’センターの抑制とレーザーコンパクションに対して極めて有効な手段が発明され、エキシマレーザー露光の実現に大きく貢献した。即ち、特許文献1(主としてKrFレーザー耐久性を課題としている)、特許文献2及び3(主としてArFレーザー耐久性を課題としている)にそれぞれ示される様に、レーザーの種類に応じてある濃度以上の水素分子を石英ガラス中に存在させることで、石英ガラスのレーザーダメージを大幅に改善するという技術である。
【0006】
この水素分子の石英ガラスに対するレーザーダメージ抑制効果は非常に有効なものであり、水素分子を適当量石英ガラスに含有させることで全てのレーザーダメージが克服されたかのように思われた時期もあった。しかしながら、実際の操業条件を模して、より詳細にレーザーダメージの挙動を評価してみると、事態はそれ程単純ではなく、幾つかの細かな問題が新しく提起されてきている。
【0007】
第1の問題は、照射初期の透過率低下の問題である。水素分子は例えばArFエキシマレーザーを20mJ/cm2程度のエネルギー密度で1,000,000パルス以上照射したような、比較的長期にわたるエキシマレーザーの照射に対しては飛躍的な安定性を石英ガラスに与えるものであるが、レーザー照射初期、例えば同じ照射条件で10,000パルス程度照射するような短時間の照射段階においては一時的に透過率を低下させる場合があることが判った。この現象はその後の研究により水素により石英ガラスの構造が一部還元され還元性欠陥を生じるためであることが判り、これを避けるために石英ガラスを製造する際の成長速度を著しく遅くする(特許文献4)、あるいは石英ガラス中に含まれる水素を完全に除去した後、還元性欠陥を生じないような比較的低温(300℃〜600℃)の温度範囲で水素分子を再ドープする方法(特許文献5)、スート法により作成した多孔質シリカを高真空で透明化した合成石英ガラスを還元性欠陥を生じないような比較的低温(300℃〜600℃)の温度範囲で水素分子をドープする(特許文献6)等の発明がなされている。
【0008】
しかしながら、これらの技術はいずれも製造に時間がかかったり、あるいは水素ドープの工程に多大な時間がかかったりするために、大きな部材を作ることが困難で、また製造コストが高くなる等の問題があった。
【0009】
例えば、直径300mm、厚み80mm程度の比較的大きなレンズを形成するために必要な合成石英ガラスブランクスの場合、500℃の処理温度では水素を十分に拡散させるためには1500時間以上の拡散時間が必要で、工業的には非常にコストと時間のかかる工程となってしまう。
【0010】
第2の問題は、低エネルギーのレーザー光の長時間照射による屈折率の低下現象(レーザーレアファクション)である。これは石英ガラスに非常に低いエネルギー密度(例えば0.1mJ/cm2)のArFエキシマレーザーを1010パルス以上照射した場合、従来観察されてきたような緻密化(コンパクション)とは逆の疎密化(レアファクション)が生じるというものである(非特許文献1)。
【0011】
このレーザーレアファクション現象は発見されてから今だ数年しか経っていないことと、評価に時間がかかるために、現在、詳細な研究がなされている最中であるが、現象が生じるエネルギー密度が実際に露光機において石英ガラス光学部材が被曝するエネルギー密度に相当するために深刻な問題として捉えられている。
【0012】
【特許文献1】
特開平3−88742号公報
【特許文献2】
特開平11−292551号公報
【特許文献3】
特開2000−258601号公報
【特許文献4】
特開平7−61823号公報
【特許文献5】
特開平6−166528号公報
【特許文献6】
特開平6−166522号公報
【特許文献7】
特開平11−240728号公報
【特許文献8】
特開平5−186234号公報
【特許文献9】
特開平7−267662号公報
【非特許文献1】
Proceedings of SPIE Vol. 4000 (2000) pp496〜510
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ArFエキシマレーザー光学部材用合成石英ガラス材料において必要なレーザー照射初期及び長期の透過率低下の問題、及び低いエネルギー密度の照射によって生じるレアファクションの問題の解決を課題とし、ArFエキシマレーザーを光源とする露光機の光学系を構成するに最適な光学特性を有する合成石英ガラス材料を与えるものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の光学部材用合成石英ガラス材料は、3方向に脈理を有せず、屈折率の均質性Δnが1×10−6以下で、使用方向における最大複屈折量0.3nm/cm以下、波長193nmの紫外線に対する内部透過率が99.7%以上である、含有する水素分子濃度が2×1016分子/cm3以上、6×1016分子/cm3以下、OH基濃度が0.1ppm以上300ppm以下、仮想温度が850℃以上1000℃以下の、パルス当たりエネルギー密度が0.03mJ/cm2以下のエネルギー密度領域に使用されるArFエキシマレーザーを光源とする露光機に用いられる石英ガラス光学部材用の合成石英ガラス材料であって、ArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、発振周波数200Hzで10,000パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり1%以上2%以下、同照射条件で2,000,000パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり0.5%以上1%以下であることを特徴とする。なお、本発明において透過率低下及び透過率変化とは、レーザー照射前もしくは照射開始直後の透過率を100%として換算した値を意味するものである。
【0015】
本発明の合成石英ガラス材料は、揮発性珪素化合物を原料として、煤状シリカを基体上に堆積させた後ガラス化を行う、スート法により作成された合成石英ガラスであって、かつ含有される水素が、600℃以上1000℃以下の温度で石英ガラス中にドープされたものであることが好ましい。
【0016】
本発明の合成石英ガラス材料においては、脈理特性及び屈折率の均質性を、機械的撹拌を伴う均質化操作により達成させることが好適である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、以下、例を挙げて説明するが、本発明は、以下の説明及び例示によって、何等制限されるものではない。
【0018】
長期的なレーザー耐久性を高めるためには合成石英ガラスに必要量以上の水素分子を含有させる必要がある。水素分子濃度の必要量としては、ArFエキシマレーザーの場合には上記特許文献2あるいは上記特許文献3によると最低でも2×1017分子/cm3の濃度が必要であるとされる。これらの水素濃度の必要量は実際にはレーザー照射によって生じる欠陥を補修するといった意味合いを含んでいるので、当然、ダメージの入り方によっては必要量自体増減するべきものであったが、水素分子が合成石英ガラスのレーザー耐久性に悪い働きを及ぼすという認識があまりなかったため、実際にはより少量の水素分子濃度で十分な場合においても、保険的な意味合いから必要以上の水素分子濃度を含ませるということが行われてきた。
【0019】
しかしながら、関連技術において問題点として示した如く、水素分子が逆にレーザーダメージを促進させる場合があることが判ってきた。この典型的な例が、水素がシリカ構造をアタックして還元性欠陥を生成し、これがレーザー照射時に初期的なダメージとして合成石英ガラスの透過率を低下させるという現象である。
【0020】
これを回避する方法は、水素を、還元反応を生じないような低温でドープすることであるが、この場合、拡散に時間がかかる大きなブランクスの場合は工業的に不利益を伴うことは前述した通りである。また、合成石英ガラスインゴットの成長時間を非常に遅くすることにより欠陥を回避する場合も大きなブランクスの製法として向かないことは同様である。
【0021】
還元性欠陥を回避するための方法に伴うこのような工業生産上の障害は、大きな体積の光学部材を構成するための大きな石英ガラス材料で特に大きいが、そのような大きな光学部材はほとんどの場合、レーザーの照射面積が広い、即ち、レーザービームが拡大されている領域に用いられるため、透過するレーザーエネルギー密度が相対的に小さいと考えることが出来る。このような低エネルギー密度の領域では発生するダメージが少ないため、長期的なレーザーダメージを抑制するための水素分子の最低必要量は低下することになるから、必要最低量を把握して余分な水素分子を含ませないことにより、水素によってもたらされる還元性欠陥の量を低減することが出来る。この結果、水素分子濃度を低減することにより、より高いドープ温度を選択しても、還元性欠陥の生成量が抑制され、このために、より高い温度での水素ドープが可能となった。これにより、大きな合成石英ガラス部材を製造する際の障害であった、水素ドープ処理時間を短縮することが出来るようになった。
【0022】
また、低エネルギー密度のArFエキシマレーザーの長時間照射により生じるレアファクションの問題についても、水素分子濃度が少ない方が発生しにくいために、水素分子を低減することがこの問題の解決にも効果的であることが判った。
【0023】
発明者等はこのような観点から、より製造に時間がかかり、結果的に工業的な経済性の不利益が大きい、サイズの大きな合成石英ガラス材料用として、使用されるArFエキシマレーザーのエネルギー密度を0.03mJ/cm2以下の領域に限定した上で、長期耐性を保証するために必要な水素分子濃度を正確に見積もると同時に、過剰な水素分子を排除することで、水素がもたらす弊害である短期的なレーザー耐久性と長期的なレーザー耐久性の両立を図り最適な素材特性の組合せを見出すと同時に、水素ドープ処理のための温度をより高温に設定することが可能となる。さらに、大型の合成石英ガラスを製造する際の処理時間を大幅に短縮することが出来るようになった。
【0024】
【実施例】
以下に本発明を実施例をあげてさらに具体的に説明する。これらの実施例は例示的に示されるもので、限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0025】
(実験例1)
まず、長期的なレーザー耐久性を確保するために必要な水素分子濃度をArFエキシマレーザー照射に伴う水素分子の消費という観点から調査を行った。
【0026】
この調査の結果、エキシマレーザー照射に伴う水素分子の消費量は、素材依存性及びレーザー照射によって生じる欠陥の量と密接な関係があることが判った。
【0027】
素材の物性との関係で見ると、OH基濃度が少ないほどエキシマレーザー照射に伴う水素分子の消費量は少なくなるが、全く無い(0ppm)と照射初期に急激なE’センターの増加が生じることがあり、これを補修するための水素分子の消費が大きくなることがある。OH基濃度が少しでも観察されればこのような現象は認められないので、OH基濃度の最低値としては0.1ppmあれば十分である。一方、後述する図1に示すように、OH基濃度の最大値は300ppm以下でないと水素分子の消費量が相対的に大きく、後述する初期特性によって規定される水素分子量の上限値を上回る水素分子が必要であることが判った。
【0028】
このような低濃度のOH基を有する合成石英ガラスを製造するには、原料珪素化合物を酸水素火炎に導入して生成した微粒子をそのまま透明化して合成石英ガラスを製造するいわゆる直接法によるよりも、一度多孔質体(スート体)を経由した後に透明化して合成石英ガラスを得るスート法による方が好ましいことも判った。
【0029】
塩素濃度は少ない方が良いが、10ppm以下であればほとんど影響がない。
【0030】
不純物濃度は他の物性ともあわせて少ないほど好ましいが、特にアルカリ金属についてはNaが20ppb以下、K、Liが各々10ppb以下、アルカリ土類金属、Ca、Mgは各々5ppb以下、Fe、Cu、TI等の金属元素は各々5ppb以下、及びAlは10ppb以下であることが望ましい。これらの不純物濃度は特に193nmにおける紫外線透過率を確保するために重要である。
【0031】
次いで長期耐性を確保する上で重要な水素分子の必要最低量についての見積もりを行った。合成石英ガラス中の水素分子はArFエキシマレーザーの照射と共に減少し、消費されていく。この水素分子が消費された分はArFエキシマレーザーの照射によって生じるE’センターの補修に充てられると考えられる。つまり、水素分子の消費量はArFエキシマレーザー照射によって生じる紫外域の透過率変化量により決定されるため、その透過率変化が適切な値になっていることが重要である。
【0032】
今、ArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、発振周波数200Hzで2,000,000パルス照射した時の透過率低下が光路長1cm当たり1%以内である場合、レーザー照射によって生じた吸光係数の増加量は、後述する式(2)によって0.00436と計算される。但し、この場合は変化量に着目しているので、便宜的にTに99(%)を、T0に100(%)を代入することにより吸光係数の増加量(Δα193)を求めている。
【0033】
次いで、後述する式(3)を用いて、Iに20mJ/cm2を、nに2,000,000パルスを代入してCについて解くと、C値として、5.45×10−12(cm4/mJ2)を得る。ここで実使用におけるパルス当たりエネルギー密度を0.03mJ/cm2、照射パルス数として1011パルスを代入すると、予想されるΔα193は4.91×10−4となり、これは実際の透過率低下に換算して0.11%となるので問題がない領域である。
【0034】
一方、ArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2で2,000,000パルス照射した時の透過率低下が光路長1cm当たり0.5%未満とするためには、より過剰の水素分子濃度が必要になり、過剰な水素分子がもたらす弊害が無視できなくなるため好ましくない。
【0035】
従って、具体的には発振周波数200Hz、パルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2のArFエキシマレーザー光を2,000,000パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり0.5%から1%の間にあれば良いことが判明した。
【0036】
(実験例2)
各種のOH基濃度の合成石英ガラスにArFエキシマレーザーを照射した際の水素分子消費量を調べた。
【0037】
OH基濃度を変化させた実験を行うために、スート法および直接法により合成石英ガラスを試作した。スート法による場合、スート密度、脱水条件、ガラス化条件を変化させてOH基濃度50ppmから300ppmまでの合成石英ガラスを作成した。即ち、OH基濃度50ppmのものは真空で熱処理を行い、脱水を行ういわゆる真空脱水により作成したもので、処理中の真空度、処理時間および温度を変えることによりOH基濃度を制御する。真空度が高くなるとOH基濃度は低下し、また処理時間が長くてもOH基濃度は低下することを利用している。
【0038】
OH基濃度が200ppm及び300ppmの合成石英ガラスはスート体を特に処理せず1500℃以上の高温で、He雰囲気中で透明ガラス化することにより得られる。
【0039】
さらにOH基濃度が900ppmの高濃度合成石英ガラスは直接法にて得られる。直接法で石英ガラスを成長する際、水素ガスと酸素ガス比を制御することによりOH基濃度を制御できる。即ち、水素ガスの割合を高くすれば高濃度のOH基が、酸素ガスの割合を高くすれば低い濃度のOH基を導入することができる。
【0040】
上記のようにして作成した合成石英ガラスについて、レーザーラマン分光光度法により測定を行い、レーザー照射前と照射後の水素分子量を比較し、その差を水素分子消費量とした。
【0041】
結果を表1及び図1に示す。図1は、実験例2より得られる、OH基濃度と1ユニバーサルドーズ量当たりの水素分子消費量との関係を示すグラフである。なお、ユニバーサルドーズ量(単位mJ2/cm4、UD)は、(エネルギー密度(単位:mJ/cm2))2×照射パルス数で求められる量である。図1に示した如く、OH基濃度と水素分子消費量はほぼ比例関係にあるが、OH基濃度が300ppmの場合の水素分子消費量は8×107分子/cm3/UD(即ち、8×107分子・cm/mJ2)である。水素分子消費量は、8×107分子/cm3/UD以下であることが好ましい。従って、水素分子消費量を8×107分子/cm3/UD以下に抑える為には、OH基濃度を300ppm以下とすればよいことが判った。
【0042】
【表1】
【0043】
OH基濃度が300ppm以下の合成石英ガラスにおいては、1ユニバーサルドーズ当たりの水素分子消費量が8×107分子/cm3/UD以下に抑制されるために、長期の安定性、一般的には露光装置の寿命照射数として0.03mJ/cm2のエネルギー密度で1011パルスを照射した場合(即ち、9×107ユニバーサルドーズ量)でも消費される水素分子濃度は、7.2×1015分子/cm3と予想される。測定精度を考慮に入れてこれを多めに見積もって1×1016分子/cm3として、照射終了後、水素濃度が半分位残っている必要があることを考慮すると、最低値として2×1016分子/cm3の水素分子濃度とすることで、従来必要とされていた濃度の1/10程度に低減することが可能であることを見出した。なお、照射数として想定した1011パルスとは1KHzのレーザーを24時間休みなく稼動させた場合の3年強に相当する量であり、照射数としては十分な想定である。
【0044】
(実験例3)
一方で、レーザー照射初期におけるレーザー耐久性についても詳細な検討を行ったところ、次のような条件▲1▼〜▲3▼が重要であることを見出した。
▲1▼水素分子濃度がある程度低いこと
▲2▼石英ガラスの構造中に還元性欠陥が生じていないこと
▲3▼石英ガラスの物性及び構造が適切に設定されていること
【0045】
水素分子濃度はレーザー照射初期の急激な透過率低下に密接な関係がある。例えば水素分子を全く含有しない合成石英ガラスにおいてはこのようなレーザー照射初期に見られる透過率の急激な変化は観察されない。レーザー照射初期の急激な透過率低下はOH基濃度、塩素濃度、仮想温度等石英ガラスの物性に大きく依存するものであるが、これら物性が一定であるとすると、後述する表5及び図5に示すように、水素分子濃度が低いほど初期の急激な透過率変化は小さくなる。
【0046】
このような観点から水素分子濃度の上限値を決定すると、6×1016分子/cm3以下であることが重要であることが判明した。このようなことから水素分子濃度の範囲としては2×1016分子/cm3以上6×1016分子/cm3以下であって、好ましくは3×1016分子/cm3以上5×1016分子/cm3以下である。
【0047】
また、水素分子濃度と同様に非常に重要なパラメーターとして、石英ガラス中に還元性欠陥が生じていないことが挙げられる。このような還元性欠陥の構造は厳密には同定されていない。一般的にはSiHであると言われているが、現実にSiH濃度を測定する手段があまりない上、測定する有力な方法であるラマンスペクトルにおいてはその検出感度が低い上、キャリブレーションが出来ないためにレーザー照射初期に生じる吸収を抑制するための最低濃度を決定することがなかなか出来ない。特許文献7では還元性欠陥として酸素欠損(Si−Si)及びSiH基を挙げているが、特にSiH基の濃度を特定するために、SiH基のレーザーラマンスペクトルの2250cm−1における散乱強度I2250に対するシリカのSi−O−Si結合の800cm−1における散乱強度I800の比で特定している。しかし、この比の数値は、実際にはI2250の強度としてSiHの検出下限値である1×10−4以下として設定されていているものの、SiHのレーザーラマンにおける検出感度がかなり悪いため、実用上問題となる程度のレーザー照射における初期吸収が観察される場合であっても、レーザーラマンスペクトル測定ではSiHの散乱ピークとして検出されないことがままあって、実際に許容されるSiH基の濃度の下限値はおそらくもっと低い数値であると考えられる。
【0048】
この石英ガラスに含まれる還元性欠陥を抑制する最も有効な手段は、特許文献5に示される様に合成石英ガラス中に存在する還元性欠陥を完全に除去した後、比較的低温で水素分子をドープすることであるが、この方法では水素の拡散に多大な時間がかかり、大きなサイズの合成石英ガラス材料を製造することは工業的に不利である。
【0049】
尚、スート法によった合成石英ガラスの場合は水素が無い状態では問題となる還元性欠陥を含まないので、特許文献5の方法による場合には直接法に比べて有利である。
【0050】
発明者等はこの点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特許文献8、特許文献5あるいは特許文献6等に示される方法で不利益が生じる大きなサイズの合成石英ガラス材料について、使用するArFエキシマレーザーのエネルギー密度が0.03mJ/cm2に特定した場合、実用上問題無い程度の吸収量を設定することにより、かかる不利益を回避する方法を見出した。
【0051】
今、発振周波数200Hz、パルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2のArFエキシマレーザー光で10,000パルス照射時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下(照射初期の透過率変化)が光路長1cm当たり2%以内である場合について考察する。後述する表3,4及び図3,4に示すように、照射初期の透過率変化は、その吸光係数の増加が照射エネルギー密度及び発振周波数に比例することから、異なる照射条件における吸光係数の変化に換算することが可能である。パルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2のArFエキシマレーザー光で10,000パルス照射時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり2%ということは、後述する式(2)のTに98(%)を、T0に100(%)を代入することにより吸光係数の増加量(Δα193)として求めることができ、その値は8.77×10−3である。
【0052】
これを実際の使用条件として、発振周波数2000Hz、パルス当たりエネルギー密度0.03mJ/cm2を想定し、吸光係数の変化を計算すると、0.03mJ/cm2・2KHz時の吸光係数変化Δα* 193=20mJ/cm2・200Hz時の吸光係数変化Δα193×(0.03/20)×(2000/200)=1.32×10−4となる。この値は透過率に換算して99.97%となり問題のない量であることが判る。
【0053】
一方で、照射初期の透過率変化が1%未満にするためには、水素分子濃度をより低減しなくてはならず、またOH基濃度や仮想温度等物性の設定も極めて困難な領域に入ってくるのに対して、照射初期の透過率変化が1%未満の領域と1%〜2%の領域間の透過率差は実用上無視できるレベルなので、工業的損失を考えると1%未満にする必要はない。
【0054】
即ち、発振周波数200Hz、パルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2のArFエキシマレーザー光で10,000パルス照射時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり1%以上2%以内の領域であれば、実際の使用条件である、エネルギー密度0.03mJ/cm2以下の範囲では実質的に問題を生じないことが判明した。
【0055】
このため、水素分子のドーピングは600℃〜1000℃というかなりの高温域でのドーピングが可能となり、上記したような不利益を解消することが出来た。
【0056】
実際、φ300×80mmの石英ガラス円盤を500℃と1000℃で水素ドープを行った場合の処理時間を比較すると前者は1500時間以上かかるのに対し、後者は僅か100時間前後で処理が可能となり、経済的な効果を含め多大な有利性を見出すことが出来る。
【0057】
同様に重要なことは石英ガラスの物性、構造が適切に設定されていることである。レーザー照射初期の急激な透過率低下に影響を与える石英ガラスの物性的、構造的因子を列挙すると、まず、物性としてはOH基濃度、塩素濃度、金属不純物は低い方が好ましい。これらの量はレーザー長期耐性を決定する因子として先に規定しているが、同じ条件を満たしていれば好ましい状態となる。
【0058】
次いで構造的な因子であるが、レーザー照射初期の透過率低下はかなりはっきりとした仮想温度依存性を示す。後記する図6は縦軸が193nm吸光係数、横軸に仮想温度値を示すものであるが、図6から明らかなように、仮想温度は1000℃以下であることが好ましい。一方で仮想温度をあまり低く設定すると長時間の徐冷操作が必要となり、金属不純物の増加や紫外域での透過率の低下といった不具合も生じるので、仮想温度の下限値は850℃程度が好ましい。
【0059】
また、発明者等が研究を行った結果、石英ガラスを物理的に撹拌することにより、このレーザー照射初期の透過率低下をかなり改善出来ることを見出した。この石英ガラスの物理的撹拌とは実施例に示すように石英ガラスを局部的に軟化点温度以上に加熱して、その部分を機械的に撹拌する方法で、一般的には帯域溶融法と呼ばれ、石英ガラス中のOH基濃度、不純物を均質化し屈折率の均質性を向上させたり、脈理を除去するための操作であるが、この操作を行うことにより、測定上得られる物性は全く同一であっても、レーザー照射初期の透過率低下を低減できることが判明した。
【0060】
(実験例4)
(レアファクション特性を向上させるための合成石英ガラス物性の特定)
従来、石英ガラスのエキシマレーザーに対する耐久試験は5mJ/cm2以上のエネルギー密度で行うのが一般的であった。これは加速試験的な意味合いが強く、生じる光学的変化を迅速にかつ正確に測定するためである。しかしながら、エキシマレーザー露光装置の光学部品として使用される場合、石英ガラス光学部品として実際に照射されるエネルギー密度はこれら評価のためのエネルギー密度の数分の一で、一般的には0.1mJ/cm2程度である。
【0061】
このような実際の使用条件を想定した低いエネルギー密度で石英ガラスにArFエキシマレーザーを照射してみると、それまで知られていた現象と全く逆の挙動を示すことが判ってきた。即ち、従来石英ガラスはArFエキシマレーザーの照射により緻密化するレーザーコンパクションを起こすのに対し、0.5mJ/cm2以下という低いエネルギー密度のレーザー照射では逆に疎密化し、レーザーレアファクションという現象を生じることが判った。
【0062】
この現象は発見され、正式に報告されたのが2000年のことであり(非特許文献1)、また、現象が観察されるまでに1×109パルスという膨大な照射数を必要とするために詳細には調べられていない。しかしながら、発明者等が実験を行った結果、このレーザーレアファクションは水素分子濃度と密接な関係があって、その濃度が2×1018分子/cm2を超えると急激に大きくなることが判った。このようなことから、レアファクションの観点からは石英ガラスに含まれる水素分子濃度は2×1018分子/cm2以下なら問題ないことが判明した。よって、水素分子濃度6×1016分子/cm2以下は上記条件を満たすものである。
【0063】
(実施例1)
1.合成石英インゴットの作成
四塩化珪素を酸水素火炎中に導入し、回転する基体上に堆積し多孔質石英ガラス体(スート体)を得た。これを1.33×10−3KPaの真空下1100℃で20時間加熱後、徐々に温度を上げ、最終的に1500℃で10時間保持して直径100mm長さ1000mmの透明合成石英ガラスインゴットを作成した。得られた合成石英ガラスインゴットからサンプルを切り出してOH基濃度を測定したところ、最大値が180ppm、最小値が150ppmであった。また、水素分子濃度をラマン分光光度法にて測定したところ、水素分子は検出されず、検出下限値である1×1015分子/cm3未満であることが判った。
【0064】
2.水素ドープ処理
この合成石英ガラスインゴットを水素2気圧の加圧下、800℃で130時間保持して水素分子を含侵させた。得られたインゴットの水素分子濃度は外周部で8×1017分子/cm3、中央部で8×1016分子/cm3、平均値で4×1017分子/cm3であった。
【0065】
3.均質化工程
得られた合成石英ガラスインゴットについて機械的撹拌を伴う、脈理除去、均質化処理を行った。この処理は、特許文献9に示される帯域溶融法と呼ばれる方法で、合成石英ガラスインゴットの長手方向の両端を支持部材で支持し、その支持端を結ぶ軸を中心に回転させながら、合成石英ガラスインゴットの一部をバーナーで加熱して溶融帯域を形成した後、両支持軸を逆方向に回転させ、溶融帯域内を機械的に撹拌しつつ、バーナーを移動させることにより溶融帯域をインゴット全体に移動させてインゴット内を均質化する方法である。
【0066】
スート体の場合、インゴットの軸方向のみの均質化で3方向に脈理が認められない、所謂脈理フリーの石英ガラス隗が得られることもあるが、より好ましくは上記均質化処理をインゴットの軸と垂直な方向に対しても行い、完全に脈理を除去し、完全な脈理フリーな石英ガラス隗とする。
【0067】
インゴットの軸と垂直な方向に均質化処理を行うためには1方向に均質化処理の終わったインゴットを旋盤上で押し潰し、球状に成型した後、これを支持部材から切り離し、元の軸と垂直な方向に支持部材を付け直して、引き出して棒状に成型して、1方向目と同様の溶融帯域法による均質化処理を施せば良い。
【0068】
このように3方向に均質化処理を行うことによって、目視では認められないような微細な欠陥を除去することが出来るので、レーザー照射初期における透過率の急速な低下の度合いを低減することが出来る。
【0069】
また、均質化処理を施す場合、石英ガラス体が高温に保持される時間が非常に長いため、外部からの汚染には特に注意を払わなければならない。本実施例ではこれらの旋盤作業をクラス1000のクリーンルーム内で行い、インゴットの有する高純度性を維持している。この時クリーンルームに使用されるヘパフィルターに一般的なガラスフィルターを用いると雰囲気中にホウ素やNaが混入することがあり、処理された合成石英ガラスにこれらの元素が混入し、合成石英ガラスの透過率が低下してしまうことがあるので、やや高価ではあるが、樹脂系のへパフィルターを用いることが肝要である。
【0070】
4.成型工程
次いで、3方向に均質化した石英ガラス体を高純度グラファイト型内に設置して、型ごと窒素雰囲気炉に入れ、全体を1800℃に加熱して石英ガラス体を自重変形せしめて直径320mm厚さ100mmの合成石英ガラス成型体を得た。得られた合成石英ガラス成型体の外周及び上下面をグラファイトとの汚染を除去するためにそれぞれ10mmカットして外径300mm厚さ80mmの石英ガラス成型体を得た。
【0071】
5.徐冷操作
合成石英ガラス成型体を合成石英ガラスで出来た容器内に収容して、全体を電気炉内で1150℃に50時間保持後、毎時2℃の徐冷速度でゆっくりと900℃まで徐冷後、炉の通電を停止し、室温まで冷却した。
【0072】
このようにして作成した合成石英ガラス成型体の屈折率の均質性、複屈折をそれぞれ干渉計及び複屈折計にて測定したが、屈折率の均質性Δnが1×10−6、複屈折は最大値0.3nm/cmであった。更に合成石英ガラス成型体から直径60mm、厚さ10mmのサンプルを切り出し高精度に研磨を行い波長193nmの紫外線に対する透過率を紫外分光光度法にて測定を行った結果、見掛け透過率が90.66%であり、内部透過率は99.78%と極めて良好な数字を示した。内部透過率とは、分光光度計で測定した見掛け透過率をサンプルの反射損失を除いた理論透過率で除した数字である。本実施例では理論透過率として90.858%を用いた。
【0073】
また、OH基濃度は170ppm±5ppmで均質化処理により非常に均質化されていることが判った。一方、水素分子濃度は成型体中心で5×1016分子/cm3、外周部より10mm内側で3×1016分子/cm3であった。更に成型体の仮想温度をラマン分光光度法にて測定したところ、中心部分で920℃、外周部分で900℃であった。
【0074】
更に得られた合成石英ガラス成型体について金属不純物濃度をICP−AES法(inductively coupled plasma atomic emission spectrometry)にて純度分析を行った。表2に純度分析表を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
6.サンプリング
得られた合成石英ガラス成型体から20mm×20mm×60mmのサンプルを切り出してレーザー照射試験を行った。
【0077】
照射試験を行ったサンプルのOH基濃度、水素分子濃度、仮想温度はそれぞれ170ppm、3.9×1016分子/cm3、910℃であった。
【0078】
7.レーザー照射試験
(初期段階)
まず、合成石英ガラスサンプルに対し、ArFエキシマレーザー光をパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、発振周波数200Hzにて10,000パルス照射した。エキシマレーザー光に対する透過率の測定図を図2に示す。図2に示した如く、レーザービームを矢印の向きで照射するエキシマレーザー光照射の際、合成石英ガラスサンプル10の前後にそれぞれ1枚のビームスプリッター(ビームスプリッター12a,ビームスプリッター−12b)を配置し、これにより切り出された光をセンサー(センサー14a,センサー14b)によって検知し、下記式(1)で示すように、入射側の強度Iinで出射側の強度Ioutを除すことにより合成石英ガラスサンプルの透過率を連続的に測定するものである。
【0079】
【数1】
【0080】
上記式(1)において、Tはサンプルのレーザー透過率、Iinはセンサー14aで検出される入射側の光エネルギー、Ioutはセンサー14bで検出される出射側の光エネルギーをそれぞれ示す。
【0081】
更に、10,000パルス照射した際の透過率変化とは、このように測定したエキシマレーザー透過率について、照射開始直後の透過率で10,000パルス照射時の透過率を割った値である。言い換えると照射開始直後の透過率を100%としたときの、10,000パルス照射時の透過率の相対値を示したものである。これは厳密には透過率の定義とは異なるが、透過率変化に着目した場合には結果は正しく、簡便法としてよく利用される方法である。本発明において、透過率は、照射前もしくは照射開始直後の透過率を100%として換算した透過率を意味するものとする。
【0082】
その結果、レーザー照射初期段階(10,000パルス照射後)の透過率は光路長1cm当たりに換算して98.49%であり、透過率低下量は光路長1cm当たり1.51%であった。下記式(2)を用いて吸光係数の変化量を求めると、レーザー照射初期段階の波長193nmにおける吸光係数の変化量は、6.60×10−3であった。
【0083】
(長期段階)
更に、同様の条件にて照射を継続し、2,000,000パルスまで連続照射を行った。この結果、合成石英ガラスサンプルのレーザー光に対する透過率は、10,000パルス照射後は徐々に回復して約50,000パルス照射程度で殆ど照射前の透過率まで回復した後漸増して、最終的には光路長1cm当たり透過率99.3%になった。
【0084】
更に照射後のサンプルの水素分子濃度を測定したところ、2×1016分子/cm3であり、まだ水素分子が残っていることが判った。
【0085】
これらの照射結果から、実際にエネルギー密度0.03mJ/cm2での透過率変化を予測した。
【0086】
(照射初期の透過率変化)
照射初期の透過率変化に関して、ArFエキシマレーザー光をパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2にて発振周波数を変化させて照射した場合、並びに発振周波数200Hzにてエネルギー密度を変化させて照射した場合について照射初期の透過率変化を調査したところ、照射時の吸光係数の変化量がエネルギー密度及び発振周波数に比例して変化することが判った。エネルギー密度と照射時の吸光係数の変化量との関係を表3及び図3に、この発振周波数と照射時の吸光係数の変化量との関係を表4及び図4にそれぞれ示す。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
得られた比例関係を利用して照射実験の結果を換算すると、本実施例1のサンプルに関してはエネルギー密度0.03mJ/cm2、発振周波数2KHzでの使用において生じる吸光係数は9.8×10−5で、これを透過率に換算すると光路長1cm当たり99.98%と、問題のないレベルであることが判る。
【0090】
(長期照射における透過率変化)
石英ガラスのレーザー照射に伴う一般的なダメージの挙動はユニバーサルドーズ量により把握できることが知られている。即ち、レーザー照射により生じるコンパクションや誘起されるE’センター濃度はユニバーサルドーズを用いてエネルギー密度や照射数の換算が可能である。
【0091】
E’センター濃度は波長215nmの吸光係数に比例するが、波長193nmの吸光係数も波長215nmの吸光係数に比例するため、結果的には波長193nmの吸光係数はユニバーサルドーズ量を用いて照射数、エネルギー密度の換算ができる。
【0092】
即ち、長期照射において、波長193nmにおける吸光係数の変化量をΔα193として下記式(2)及び(3)が成立する。
【0093】
【数2】
【0094】
ここにTは測定時の193nmにおける見掛け透過率、T0は照射前の193nmにおける見掛け透過率を表わす。但し、T0が理論透過率に近い値である場合、便宜的にT0を100%として計算しても問題ないものである。
【0095】
【数3】
Δα193=C×I2×n ・・・(3)
【0096】
ここにCは比例定数、Iはエネルギー密度(mJ/cm2)、nは照射パルス数である。
【0097】
上記式(2)及び(3)に本実施例1の結果(即ち、T=99.3(%)、T0=100(%))を当てはめてCを求めると3.81×10−12となるので、本実施例1の合成石英ガラスの吸光係数の変化量は下記式(4)で示される。
【0098】
【数4】
Δα193=3.81×10−12×I2×n ・・・(4)
【0099】
ここにエネルギー密度を0.03mJ/cm2として、照射パルス数を1011パルスと想定した場合、I2×nの値としては9×107mJ2/cm4となり、この場合の波長193nmにおける吸光係数の変化量は上記式(4)にこれらの数値を代入して、3.43×10−4となる。これは透過率に換算すると光路長1cm当たり99.92%であり、問題のない値であることが判った。
【0100】
尚、照射数として想定した1011パルスとは1KHzのレーザーを24時間休みなく稼動させた場合の3年強に相当する量であり、照射数としては十分な想定である。
【0101】
(実施例2、3及び比較例1,2)
実施例1と水素ドープ処理における水素圧力を表5の如く変えた以外は全く同様に合成石英ガラス成型体を作成した。
【0102】
これらのサンプルにArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、200Hzで10,000パルス照射してレーザー光(波長193nm)の透過率変化及び吸光係数の変化量を調べた。得られた結果を実施例1のサンプルの結果と共に表5及び図5に示す。尚、表中の193nm透過率低下量とはレーザー照射前の透過率と照射後の透過率の差を示している。
【0103】
水素ドープ処理における条件の差異は表5中に記す。この結果、得られた合成石英ガラスサンプルにおいては、水素分子濃度がそれぞれ異なっており、水素分子濃度が低い程、初期の急激な透過率変化が小さくなることが判った。
【0104】
【表5】
【0105】
(実施例4及び比較例3,4)
徐冷時の冷却速度及び徐冷最終温度を表6の如く変えた以外は実施例1と同様に合成石英ガラス成型体を作成した。得られた合成石英ガラスサンプルの水素分子濃度、仮想温度、レーザー照射初期(10,000パルス照射後)の193nm吸収係数の変化化量及び透過率の変化量を実施例1のサンプルの結果と共に表6に示す。レーザー照射初期(10,000パルス照射後)の193nm吸収係数の変化量と仮想温度の関係を図6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
なお、徐冷無しとは石英ガラス成型体を1150℃に50時間保持後、そのまま炉中で自然冷却することを意味する。
【0108】
図6に示されている“水素濃度による補正値”とは、純粋に仮想温度の寄与を確認するために、水素濃度とレーザー照射初期の透過率低下量が比例すると仮定して、実測値された透過率低下量に対する水素分子濃度の寄与を削除して、補正計算をした値である。この結果、仮想温度が1000℃を超えると仮想温度の寄与によるレーザー照射初期の吸収が現れることが分かった。
【0109】
【発明の効果】
以上述べた如く、本発明によれば、ArFエキシマレーザー光学部材用合成石英ガラス材料において必要なレーザー照射初期及び長期の透過率低下の問題、及び低いエネルギー密度の照射によって生じるレアファクションの問題を解消した、ArFエキシマレーザーを光源とする露光機の光学系を構成するに最適な光学特性を有する合成石英ガラス材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験例2の結果を示すグラフである。
【図2】実施例1で用いた装置を示す概略模式図である。
【図3】実施例1におけるレーザー照射初期の193nm吸光係数の変化量とエネルギー密度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるレーザー照射初期の193nm吸光係数の変化量と発振周波数の関係を示すグラフである。
【図5】実施例1〜3、及び比較例1、2におけるレーザー照射初期の193nm吸光係数の変化量と水素分子濃度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例1、4及び比較例3、4におけるレーザー照射初期の193nm吸光係数の変化量と仮想温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10:合成石英ガラスサンプル、12a:ビームスプリッター−1、12b:ビームスプリッター−2、14a:センサー−1、14b:センサー−2。
Claims (3)
- 3方向に脈理を有せず、屈折率の均質性Δnが1×10−6以下で、使用方向における最大複屈折量0.3nm/cm以下、波長193nmの紫外線に対する内部透過率が99.7%以上である、含有する水素分子濃度が2×1016分子/cm3以上、6×1016分子/cm3以下、OH基濃度が0.1ppm以上300ppm以下、仮想温度が850℃以上1000℃以下の、パルス当たりエネルギー密度が0.03mJ/cm2以下のエネルギー密度領域に使用されるArFエキシマレーザーを光源とする露光機に用いられる石英ガラス光学部材用の合成石英ガラス材料であって、ArFエキシマレーザーをパルス当たりエネルギー密度20mJ/cm2、発振周波数200Hzで10,000パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり1%以上2%以下、同照射条件で2,000,000パルス照射した時のArFエキシマレーザー光に対する透過率低下が光路長1cm当たり0.5%以上1%以下であることを特徴とする光学部材用合成石英ガラス材料。
- 前記合成石英ガラス材料が、揮発性珪素化合物を原料として、煤状シリカを基体上に堆積させた後ガラス化を行う、スート法により作成された合成石英ガラスであって、かつ含有される水素が、600℃以上1000℃以下の温度で石英ガラス中にドープされたものであることを特徴とする請求項1記載の光学部材用合成石英ガラス材料。
- 脈理特性及び屈折率の均質性が、機械的撹拌を伴う均質化操作により達成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の光学部材用合成石英ガラス材料。
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