JP2004138194A - 気体軸受及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡便な手段により、耐久性および軸受性能が優れた安価な気体軸受およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】軸受スリーブ4,5に設けた軸受面4a,5aと主軸1に設けた外径面1aとを微小な軸受隙間29を介して対向させ、軸受隙間29の気体の圧力によって主軸1を軸受スリーブ4,5に対して非接触で支持する気体軸受において、前記軸受スリーブ4,5の軸受面4a,5aまたは主軸1の外径面1aのうち、少なくとも一方が金属材料からなり、その軸受面4a,5aまたは外径面1aに、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層27,28を形成する。この表面層27,28の形成は、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により仕上げ加工後の軸受面4a,5aまたは外径面1aに噴射して打ち込むことにより実現される。
【選択図】 図1
【解決手段】軸受スリーブ4,5に設けた軸受面4a,5aと主軸1に設けた外径面1aとを微小な軸受隙間29を介して対向させ、軸受隙間29の気体の圧力によって主軸1を軸受スリーブ4,5に対して非接触で支持する気体軸受において、前記軸受スリーブ4,5の軸受面4a,5aまたは主軸1の外径面1aのうち、少なくとも一方が金属材料からなり、その軸受面4a,5aまたは外径面1aに、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層27,28を形成する。この表面層27,28の形成は、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により仕上げ加工後の軸受面4a,5aまたは外径面1aに噴射して打ち込むことにより実現される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、精密機械や高速回転機などに組み込まれ、主軸を非接触支持する気体軸受及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、気体軸受は、二つの物体間に微小な軸受隙間を設け、その軸受隙間内の気体の圧力によって二つの物体間に作用する荷重を非接触状態で支持する構造を具備する。この気体軸受は、二つの物体が相対運動する場合の摩擦係数が非常に小さく、高速な運動を比較的容易に実現でき、また、滑らかで高精度な運動を実現できるという特長を有する。
【0003】
この種の気体軸受は、コンプレッサ等で圧縮した高圧の気体を外部から軸受隙間に導入することにより二つの物体間の軸受隙間内で圧力を発生させる静圧気体軸受と、二つの物体の相対運動に伴う軸受隙間内での気体の流動によって圧力を発生させる動圧気体軸受とに大別される。
【0004】
これらの気体軸受は、前述したような特長を持つ反面、気体が潤滑油のような境界潤滑特性を持たないことから、過大な荷重などの原因によって、二つの物体が互いに接触した場合には、かじりや焼き付け等の故障が発生し易い。特に、動圧気体軸受の場合、二つの物体の相対運動速度が小さく、軸受隙間内での気体の圧力が荷重に対して十分でないと、二つの物体は接触する。つまり、動圧気体軸受では、起動停止時に二つの物体が必ず接触した状態で摺動する。
【0005】
そこで、過負荷による接触や、動圧気体軸受の起動停止時などでの接触により、かじりや焼き付け等の故障が発生することを未然に防止し、気体軸受の耐久性を向上させて長寿命化を図るために、従来から気体軸受の軸受面に固体潤滑剤を付与する様々な手段が提案されている。
【0006】
その代表的な例としては、気体軸受の軸受面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤の被膜をスパッタリングにより設ける手段がある(例えば、特許文献1参照)。被膜の製作法としては、固体潤滑剤そのもので被膜を作る方法や、メッキや樹脂コーティングの被膜に固体潤滑剤の微粒子を分散させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、気体軸受の母材がアルミ合金の場合、その表面にアルマイト層を形成し、そのアルマイト層の空孔に固体潤滑剤を含浸する手段もある(例えば、特許文献3参照)。さらに、軸受部材そのものを固体潤滑性を有する材料で構成する手段もある。この例としては、黒鉛材や、固体潤滑剤の粒子を配合した焼結金属を用いたものがある(例えば、特許文献4,5参照)。
【0007】
以上で説明したように、気体軸受の対向する二つの軸受面と被軸受面のうちの一方を、前述した潤滑性に優れたものとし、他方を熱処理や硬質メッキ、溶射などによって硬度を上げて耐磨耗性を持たせたものが多い。また、気体軸受の軸受面と被軸受面の両方を潤滑性に優れた面とする場合もある。
【0008】
【特許文献1】
実開平2−30526号公報
【特許文献2】
特開平6−307450号公報
【特許文献3】
特開平11−159532号公報
【特許文献4】
実開平2−14825号公報
【特許文献5】
実開平4−95123号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した特許文献1〜5に開示されたような手段により気体軸受の軸受面に固体潤滑性を持たせる場合、以下のような問題が生じる。
【0010】
まず、特許文献1に開示されているように、気体軸受の軸受面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤の被膜を設ける場合、例えばスパッタリング等によって製作された固体潤滑剤のみからなる被膜では、その膜厚が薄く、比較的軟らかい材質なので、軸受面が繰り返し接触する場合の耐久性に問題がある。
【0011】
一般的に、気体軸受の軸受隙間は数μm〜20μm程度であり、軸受面の形状を非常に精度良く仕上げる必要があるが、特許文献2で開示されているように、メッキや樹脂コーティングの被膜に固体潤滑剤の微粒子を分散させる手段の場合、表面にメッキや樹脂コーティングにより固体潤滑剤を分散させた被膜では、その膜厚が不均一で、軸受面を所望の精度に仕上げて表面処理を行った後、さらに最終仕上げ工程が必要になる場合が多く、そのため、製作費用が嵩むという問題がある。
【0012】
また、微粒子を分散させるため、軸受の表面に露出する固体潤滑剤の量は比較的少量となり、十分な潤滑性能を得ることが困難な場合がある。特に、樹脂コーティングの場合は、高速で運動中の軸受面が接触すると、摩擦による発熱が著しいことから樹脂が変質して十分な潤滑性能を得ることが困難となる。さらに、被膜を構成する材料は、一般的に軸受面の母材とは線膨張係数が異なるため、高温または低温で使用する場合や、高温と低温の温度サイクルを繰り返す場合には、被膜に割れや剥離を生じ易いという懸念がある。
【0013】
特許文献3で開示されているように、気体軸受の母材がアルミ合金の場合、その表面にアルマイト層を形成し、そのアルマイト層の空孔に固体潤滑剤を含浸する手段では、母材が線膨張係数の大きいアルミ合金に限られるため、モータ等の発熱による熱変形の影響によって、軸受性能が劣化し易くなる。さらに、アルマイト処理を施すと表面粗さが大きくなるので、所定の形状精度を得るために処理後に研削加工を行う必要があるが、通常、アルマイト層は厚さが40μm程度しかないので、処理前に高精度の加工が必要になり工数増加を招来するという問題がある。
【0014】
特許文献4,5で開示されているように軸受部材を黒鉛などで構成すると、通常の金属に比べて弾性係数が大幅に小さいので、加工時に使用する工具の接触圧による変形のために十分な加工精度を得ることが困難となる。さらに、静圧気体軸受の動作時に圧縮気体が軸受隙間に供給され、軸受隙間の圧力が上昇すると、その圧力のために軸受面に変形を生じて軸受性能が低下するという問題もある。
【0015】
そこで、本発明は前記問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡便な手段により、耐久性および軸受性能が優れた安価な気体軸受およびその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための技術的手段として、本発明は、固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受において、前記軸受面または被軸受面を構成する部材のうち、少なくとも一方が金属材料からなり、その軸受面または被軸受面に、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層を形成したことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る気体軸受では、その軸受面または被軸受面に固体潤滑剤の表面層を形成したことにより、気体軸受に過大な荷重が加わった時や動圧気体軸受の起動停止時などに、対向する軸受面と被軸受面が接触しても、表面層の固体潤滑剤の作用によりかじりや焼き付けが防止できる。従来のように固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、本発明のように固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層としたことにより、軸受面または被軸受面に対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。また、固体潤滑剤は、固定部または可動部の母材に直接的に固着しているので、軸受面と被軸受面が接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、軸受面または被軸受面を構成する部材は通常の金属材料を使用するので、部材の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を防止できる。
【0018】
本発明は、外部より圧縮気体を軸受隙間に導入することにより固定部に対して可動部を静圧で支持する静圧気体軸受、あるいは、固定部と可動部の相対運動により軸受隙間内の気体に生じる動圧で固定部に対して可動部を支持する動圧気体軸受のいずれにも適用可能である。動圧気体軸受としては、可動部と軸受隙間を介して対向する金属薄板と、その金属薄板を支持する弾性部材とを備えたフォイル軸受がある。また、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛のうちから選択される一つを使用することが望ましい。
【0019】
また、本発明は、固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受の製造方法において、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により仕上げ加工後の軸受面または被軸受面に噴射し、前記固体潤滑剤の微粒子を分散させて前記軸受面または被軸受面に打ち込むことを特徴とする。
【0020】
この本発明方法では、処理前後の部材の寸法、形状の変化は非常に小さく、特に後加工が不要であるために加工費用の面でも有利である。また、固体潤滑剤の微粒子が部材の表面に衝突する際の加工硬化によって、部材の耐磨耗性が向上し、軸受面または被軸受面の接触に対する耐久性が向上する。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1および図2は本発明の実施形態で、静圧気体軸受を用いたスピンドル装置を例示する。この実施形態の静圧気体軸受は、固定部であるハウジング3に軸受スリーブ4,5,6を適宜の手段で固定し、可動部である主軸1を、二つの軸受スリーブ4,5により形成されたジャーナル軸受部7,8で微小な軸受隙間29を介して非接触状態で径方向に支持すると共に、主軸1に一体に設けたスラスト板2を、その両面から二つの軸受スリーブ5,6で挟み込むことで形成された一対のスラスト軸受部9,10で微小な軸受隙間30を介して非接触状態で軸方向に支持する。
【0022】
この静圧気体軸受を具備するスピンドル装置では、主軸1と同軸的に駆動源22が設けられ、この駆動源22は、主軸1にモータロータ11が一体に取り付けられ、モータステータ12との間に作用する電磁力により発生する駆動力でもって主軸1を回転させる。モータには、主軸1を非接触支持する静圧気体軸受の特色を生かすため、同期型または誘導型のACモータ等、ブラシを用いないモータが用いられる。なお、ACサーボモータを使用する場合には主軸1の回転角を検出するセンサが必要であり、例えば主軸1を図示右側に延長してロータリーエンコーダ(図示せず)が取り付けられる。
【0023】
ジャーナル軸受部7,8を構成する軸受スリーブ4,5には、主軸1の被軸受面である外径面1aと対向する軸受面4a,5aに開口する複数個の微細な給気孔13を円周方向等間隔に配置した軸方向二列の給気列23がそれぞれ設けられている。また、主軸1の外径面1aには、軸受スリーブ4,5に形成された二列の給気列23と対向する位置に円周溝18がそれぞれ設けられている。このような比較的単純な構造により、ジャーナル軸受部7,8における静剛性を大きくしている。
【0024】
なお、スラスト軸受部9,10を構成する軸受スリーブ5,6には、スラスト板2の被軸受面である端面2aと対向する軸受面5b,6bに開口する複数個の微細な給気孔14を円周方向等間隔に配置した円周上一列の給気列24がそれぞれ設けられている。このスラスト軸受部9,10における静剛性を上げるため、軸受スリーブ5,6に形成された給気列24の給気孔14を連結する形で円周溝を設ける場合もある。
【0025】
この静圧気体軸受では、軸受給気口15から圧縮気体を供給すると、圧縮気体は、ハウジング3に設けられた給気通路16を経由して給気列23,24の給気孔13,14からジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10の軸受隙間29,30に流入し、軸受隙間29,30内の圧縮気体の圧力によって主軸1の自重や外部負荷に釣り合う軸受反力を生じる。このジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10により、主軸1を非接触状態で支持しながら回転駆動させることによって、高精度の回転運動を実現している。なお、ジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10から流出する気体は、軸受端部から直接、または、排気通路17を通ってハウジング3の外部に排出される。
【0026】
軸受スリーブ4と5の間には、シールスリーブ19が配設されている。このシールスリーブ19には、内径面と外径面間で貫通する排気孔25およびその排気孔25と連通する円周溝26が内径面と外径面にそれぞれ形成されている。この排気孔25および円周溝26を介して、主軸1に設けた排気通路21とハウジング3に設けた排気通路20とが連通している。シールスリーブ19の内径面に形成された円周溝26の両側は、ジャーナル軸受部7,8の軸受隙間29と同等の微小なシール隙間を介して主軸1の外径面1aと対向し、非接触シール構造を呈する。
【0027】
このスピンドル装置では、排気通路20に接続された外部の真空ポンプ(図示せず)によって、シールスリーブ19を経由して主軸1の排気通路21から吸引排気することにより、主軸1の先端に真空チャック(図示せず)などを取付けて使用する。
【0028】
この実施形態の静圧気体軸受では、主軸1をステンレス等の金属材料で構成し、ジャーナル軸受部7,8を構成する主軸1の外径面1a、およびスラスト軸受部9,10を構成するスラスト板2の端面2aに、その最終仕上げ加工後、例えば二硫化モリブデンの微粒子を分散させて打ち込んだ表面層27,28を形成する。この表面層27,28の厚みは、1〜数μm程度が望ましい。表面層27,28の厚みが1μmより小さいと、表面層の十分な耐久性が得られず、逆に、数μmより大きいと、潤滑剤微粒子を打ち込むために多大なエネルギーを要して経済的ではない。
【0029】
これにより、静圧気体軸受に過大な荷重が加わった過負荷時や給気圧低下などの原因によって、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aが主軸1の外径面1aに接触したり、スラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bがスラスト板2の端面2aに接触したりした場合でも、表面層27,28の固体潤滑剤の作用により、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aの焼き付けや損傷を防止する。
【0030】
固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んでいるので、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aに対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。また、固体潤滑剤は、主軸1およびスラスト板2の金属材料に直接的に固着しているので、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aが軸受面4a,5a,5b,6bに接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、主軸1およびスラスト板2を構成する部材として通常の金属材料を使用できるので、主軸1およびスラスト板2の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を抑制できる。
【0031】
固体潤滑剤を分散させて打ち込んだ表面層27,28は、二硫化モリブデンの微粒子を高速気流により主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに噴射して衝突させることによって形成することができる。このような処理方法によれば、部材の形状、寸法の変化は非常に小さいので、仕上げ加工後の主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに対して処理を行えばよい。
【0032】
なお、この実施形態では、主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに表面層27,28を形成したが、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aまたはスラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bに表面層を形成してもよく、主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aと、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aおよびスラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bの両者に表面層を形成するようにしてもよい。また、固体潤滑剤としては、前述した二硫化モリブデン以外に、二硫化タングステンや黒鉛を使用することが可能である。
【0033】
以上で説明した静圧気体軸受は、微細な給気孔と浅い溝を組み合わせた複合絞り形式の実施形態を例示するものであるが、他形式の静圧気体軸受にも適用可能である。また、静圧気体軸受以外の他の気体軸受の一種である動圧気体軸受にも適用可能である。図3および図4は動圧気体軸受の一種であるフォイル軸受を例示する他の実施形態である。
【0034】
このフォイル軸受は、柔軟に変形する金属薄板で軸受フォイル33を構成し、その軸受フォイル33と円筒状のハウジング31の間に配した弾性部材32によって軸受フォイル33を弾性的に支持した構造を具備する。軸受フォイル33はほぼ長方形の金属薄板であり、その一端をハウジング31に対して固定している。ハウジング31に内挿された主軸34の被軸受面である外径面34aと軸受フォイル33の軸受面33aとの間に軸受隙間35が形成される。
【0035】
主軸34が図中矢印方向に回転すると、その主軸34と軸受フォイル33の相対運動により軸受フォイル33と主軸34の間に周囲の気体が引き込まれ、その軸受隙間35内の気体に生じる動圧によって軸受フォイル33が変形して軸受隙間35の形状が自動的に最適化され、主軸34は軸受フォイル33に対して非接触で支持される。
【0036】
このフォイル軸受における主軸34の外径面34aには、前述した静圧気体軸受の実施形態の場合と同様、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を、高速気流で噴射して衝突させることにより分散させて打ち込んだ表面層36を設けている。この実施形態では、主軸34の外径面34aに固体潤滑剤を分散させて打ち込んだ表面層36を設けているが、軸受フォイル33の軸受面33aに同様の処理を行ってもよく、主軸34の外径面34aまたは軸受フォイル33の軸受面33aのいずれか一方だけではなく、両方の面に固体潤滑剤の表面層を形成するようにしてもよい。また、このフォイル軸受以外の他の動圧気体軸受にも適用可能である。
【0037】
フォイル軸受は、主軸34の振れ回りに対して軸受フォイル33が変形して軸受隙間35の形状が最適化されると共に、軸受フォイル33と弾性部材32の間や、弾性部材32とハウジング31の間、および弾性部材32の内部で発生する摩擦力によって振れ回りが減衰されるため、主軸34の不釣合による振れ回りが小さく、高速安定性に優れる。
【0038】
このフォイル軸受では、起動停止時のように主軸34の回転速度が低い場合、軸受隙間35に十分な圧力が発生しにくいことから、軸受フォイル33と主軸34は接触して摺動する。この場合、軸受フォイル33の軸受面33aと摺動する主軸34の外径面34aに、表面層36による固体潤滑剤の被膜が形成されているため、その固体潤滑剤の微粒子によって焼き付けやかじり等の不具合を防止することができる。
【0039】
この表面層36は、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により噴射させて主軸34の外径面34aに打ち込む手法を採用したことにより、比較的寸法の大きい微粒子を高密度に分布させることができるので、固体潤滑剤が安定して主軸34の外径面34aに供給され、起動停止を繰り返す場合でも長期に亘って性能を維持することができる。
【0040】
また、フォイル軸受は、その軸受面33aが変形可能であるため、高温または低温で使用する場合でも熱変形の影響を受け難いという特長があるが、この実施形態では、主軸34の外径面34aに固体潤滑剤を直接的に打ち込むので、固体潤滑剤を含む表面層36と母材である主軸34の線膨張係数は等しく、温度が変化した場合でも表面層36と主軸34の熱変形の差のために表面層36が損傷または剥離することはない。このため、従来よりもさらに高温または低温での使用に適したフォイル軸受を提供できる。
【0041】
【発明の効果】
本発明では、軸受面または被軸受面に固体潤滑剤の表面層を形成したことにより、気体軸受に過大な荷重が加わった時や動圧気体軸受の起動停止時などに、対向する軸受面と被軸受面が接触しても、表面層の固体潤滑剤の作用により焼き付けや損傷が防止できる。
【0042】
従来のように固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、本発明のように固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層としたことにより、軸受面または被軸受面に対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。
【0043】
また、固体潤滑剤は、固定部または可動部の母材に直接的に固着しているので、軸受面と被軸受面が接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、軸受面または被軸受面を構成する部材は通常の金属材料を使用できるので、部材の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を防止できる。
【0044】
以上のように、簡便な手段により、耐久性および軸受性能が優れた安価な気体軸受を提供することができてその実用的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの実施形態で、静圧気体軸受を有するスピンドル装置を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態で、動圧気体軸受を示す断面図である。
【図4】図3のB−B線に沿う断面図である。
【符号の説明】
1 可動部(主軸)
1a 被軸受面(外径面)
2 可動部(スラスト板)
2a 被軸受面(端面)
3 固定部(ハウジング)
4,5,6 固定部(軸受スリーブ)
4a,5a,5b,6b 軸受面
27,28 表面層
29,30 軸受隙間
31 固定部(ハウジング)
32 固定部、弾性部材
33 固定部、金属薄板(軸受フォイル)
33a 軸受面
34 可動部(主軸)
34a 被軸受面
36 表面層
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、精密機械や高速回転機などに組み込まれ、主軸を非接触支持する気体軸受及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、気体軸受は、二つの物体間に微小な軸受隙間を設け、その軸受隙間内の気体の圧力によって二つの物体間に作用する荷重を非接触状態で支持する構造を具備する。この気体軸受は、二つの物体が相対運動する場合の摩擦係数が非常に小さく、高速な運動を比較的容易に実現でき、また、滑らかで高精度な運動を実現できるという特長を有する。
【0003】
この種の気体軸受は、コンプレッサ等で圧縮した高圧の気体を外部から軸受隙間に導入することにより二つの物体間の軸受隙間内で圧力を発生させる静圧気体軸受と、二つの物体の相対運動に伴う軸受隙間内での気体の流動によって圧力を発生させる動圧気体軸受とに大別される。
【0004】
これらの気体軸受は、前述したような特長を持つ反面、気体が潤滑油のような境界潤滑特性を持たないことから、過大な荷重などの原因によって、二つの物体が互いに接触した場合には、かじりや焼き付け等の故障が発生し易い。特に、動圧気体軸受の場合、二つの物体の相対運動速度が小さく、軸受隙間内での気体の圧力が荷重に対して十分でないと、二つの物体は接触する。つまり、動圧気体軸受では、起動停止時に二つの物体が必ず接触した状態で摺動する。
【0005】
そこで、過負荷による接触や、動圧気体軸受の起動停止時などでの接触により、かじりや焼き付け等の故障が発生することを未然に防止し、気体軸受の耐久性を向上させて長寿命化を図るために、従来から気体軸受の軸受面に固体潤滑剤を付与する様々な手段が提案されている。
【0006】
その代表的な例としては、気体軸受の軸受面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤の被膜をスパッタリングにより設ける手段がある(例えば、特許文献1参照)。被膜の製作法としては、固体潤滑剤そのもので被膜を作る方法や、メッキや樹脂コーティングの被膜に固体潤滑剤の微粒子を分散させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、気体軸受の母材がアルミ合金の場合、その表面にアルマイト層を形成し、そのアルマイト層の空孔に固体潤滑剤を含浸する手段もある(例えば、特許文献3参照)。さらに、軸受部材そのものを固体潤滑性を有する材料で構成する手段もある。この例としては、黒鉛材や、固体潤滑剤の粒子を配合した焼結金属を用いたものがある(例えば、特許文献4,5参照)。
【0007】
以上で説明したように、気体軸受の対向する二つの軸受面と被軸受面のうちの一方を、前述した潤滑性に優れたものとし、他方を熱処理や硬質メッキ、溶射などによって硬度を上げて耐磨耗性を持たせたものが多い。また、気体軸受の軸受面と被軸受面の両方を潤滑性に優れた面とする場合もある。
【0008】
【特許文献1】
実開平2−30526号公報
【特許文献2】
特開平6−307450号公報
【特許文献3】
特開平11−159532号公報
【特許文献4】
実開平2−14825号公報
【特許文献5】
実開平4−95123号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した特許文献1〜5に開示されたような手段により気体軸受の軸受面に固体潤滑性を持たせる場合、以下のような問題が生じる。
【0010】
まず、特許文献1に開示されているように、気体軸受の軸受面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤の被膜を設ける場合、例えばスパッタリング等によって製作された固体潤滑剤のみからなる被膜では、その膜厚が薄く、比較的軟らかい材質なので、軸受面が繰り返し接触する場合の耐久性に問題がある。
【0011】
一般的に、気体軸受の軸受隙間は数μm〜20μm程度であり、軸受面の形状を非常に精度良く仕上げる必要があるが、特許文献2で開示されているように、メッキや樹脂コーティングの被膜に固体潤滑剤の微粒子を分散させる手段の場合、表面にメッキや樹脂コーティングにより固体潤滑剤を分散させた被膜では、その膜厚が不均一で、軸受面を所望の精度に仕上げて表面処理を行った後、さらに最終仕上げ工程が必要になる場合が多く、そのため、製作費用が嵩むという問題がある。
【0012】
また、微粒子を分散させるため、軸受の表面に露出する固体潤滑剤の量は比較的少量となり、十分な潤滑性能を得ることが困難な場合がある。特に、樹脂コーティングの場合は、高速で運動中の軸受面が接触すると、摩擦による発熱が著しいことから樹脂が変質して十分な潤滑性能を得ることが困難となる。さらに、被膜を構成する材料は、一般的に軸受面の母材とは線膨張係数が異なるため、高温または低温で使用する場合や、高温と低温の温度サイクルを繰り返す場合には、被膜に割れや剥離を生じ易いという懸念がある。
【0013】
特許文献3で開示されているように、気体軸受の母材がアルミ合金の場合、その表面にアルマイト層を形成し、そのアルマイト層の空孔に固体潤滑剤を含浸する手段では、母材が線膨張係数の大きいアルミ合金に限られるため、モータ等の発熱による熱変形の影響によって、軸受性能が劣化し易くなる。さらに、アルマイト処理を施すと表面粗さが大きくなるので、所定の形状精度を得るために処理後に研削加工を行う必要があるが、通常、アルマイト層は厚さが40μm程度しかないので、処理前に高精度の加工が必要になり工数増加を招来するという問題がある。
【0014】
特許文献4,5で開示されているように軸受部材を黒鉛などで構成すると、通常の金属に比べて弾性係数が大幅に小さいので、加工時に使用する工具の接触圧による変形のために十分な加工精度を得ることが困難となる。さらに、静圧気体軸受の動作時に圧縮気体が軸受隙間に供給され、軸受隙間の圧力が上昇すると、その圧力のために軸受面に変形を生じて軸受性能が低下するという問題もある。
【0015】
そこで、本発明は前記問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡便な手段により、耐久性および軸受性能が優れた安価な気体軸受およびその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための技術的手段として、本発明は、固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受において、前記軸受面または被軸受面を構成する部材のうち、少なくとも一方が金属材料からなり、その軸受面または被軸受面に、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層を形成したことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る気体軸受では、その軸受面または被軸受面に固体潤滑剤の表面層を形成したことにより、気体軸受に過大な荷重が加わった時や動圧気体軸受の起動停止時などに、対向する軸受面と被軸受面が接触しても、表面層の固体潤滑剤の作用によりかじりや焼き付けが防止できる。従来のように固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、本発明のように固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層としたことにより、軸受面または被軸受面に対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。また、固体潤滑剤は、固定部または可動部の母材に直接的に固着しているので、軸受面と被軸受面が接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、軸受面または被軸受面を構成する部材は通常の金属材料を使用するので、部材の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を防止できる。
【0018】
本発明は、外部より圧縮気体を軸受隙間に導入することにより固定部に対して可動部を静圧で支持する静圧気体軸受、あるいは、固定部と可動部の相対運動により軸受隙間内の気体に生じる動圧で固定部に対して可動部を支持する動圧気体軸受のいずれにも適用可能である。動圧気体軸受としては、可動部と軸受隙間を介して対向する金属薄板と、その金属薄板を支持する弾性部材とを備えたフォイル軸受がある。また、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛のうちから選択される一つを使用することが望ましい。
【0019】
また、本発明は、固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受の製造方法において、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により仕上げ加工後の軸受面または被軸受面に噴射し、前記固体潤滑剤の微粒子を分散させて前記軸受面または被軸受面に打ち込むことを特徴とする。
【0020】
この本発明方法では、処理前後の部材の寸法、形状の変化は非常に小さく、特に後加工が不要であるために加工費用の面でも有利である。また、固体潤滑剤の微粒子が部材の表面に衝突する際の加工硬化によって、部材の耐磨耗性が向上し、軸受面または被軸受面の接触に対する耐久性が向上する。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1および図2は本発明の実施形態で、静圧気体軸受を用いたスピンドル装置を例示する。この実施形態の静圧気体軸受は、固定部であるハウジング3に軸受スリーブ4,5,6を適宜の手段で固定し、可動部である主軸1を、二つの軸受スリーブ4,5により形成されたジャーナル軸受部7,8で微小な軸受隙間29を介して非接触状態で径方向に支持すると共に、主軸1に一体に設けたスラスト板2を、その両面から二つの軸受スリーブ5,6で挟み込むことで形成された一対のスラスト軸受部9,10で微小な軸受隙間30を介して非接触状態で軸方向に支持する。
【0022】
この静圧気体軸受を具備するスピンドル装置では、主軸1と同軸的に駆動源22が設けられ、この駆動源22は、主軸1にモータロータ11が一体に取り付けられ、モータステータ12との間に作用する電磁力により発生する駆動力でもって主軸1を回転させる。モータには、主軸1を非接触支持する静圧気体軸受の特色を生かすため、同期型または誘導型のACモータ等、ブラシを用いないモータが用いられる。なお、ACサーボモータを使用する場合には主軸1の回転角を検出するセンサが必要であり、例えば主軸1を図示右側に延長してロータリーエンコーダ(図示せず)が取り付けられる。
【0023】
ジャーナル軸受部7,8を構成する軸受スリーブ4,5には、主軸1の被軸受面である外径面1aと対向する軸受面4a,5aに開口する複数個の微細な給気孔13を円周方向等間隔に配置した軸方向二列の給気列23がそれぞれ設けられている。また、主軸1の外径面1aには、軸受スリーブ4,5に形成された二列の給気列23と対向する位置に円周溝18がそれぞれ設けられている。このような比較的単純な構造により、ジャーナル軸受部7,8における静剛性を大きくしている。
【0024】
なお、スラスト軸受部9,10を構成する軸受スリーブ5,6には、スラスト板2の被軸受面である端面2aと対向する軸受面5b,6bに開口する複数個の微細な給気孔14を円周方向等間隔に配置した円周上一列の給気列24がそれぞれ設けられている。このスラスト軸受部9,10における静剛性を上げるため、軸受スリーブ5,6に形成された給気列24の給気孔14を連結する形で円周溝を設ける場合もある。
【0025】
この静圧気体軸受では、軸受給気口15から圧縮気体を供給すると、圧縮気体は、ハウジング3に設けられた給気通路16を経由して給気列23,24の給気孔13,14からジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10の軸受隙間29,30に流入し、軸受隙間29,30内の圧縮気体の圧力によって主軸1の自重や外部負荷に釣り合う軸受反力を生じる。このジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10により、主軸1を非接触状態で支持しながら回転駆動させることによって、高精度の回転運動を実現している。なお、ジャーナル軸受部7,8およびスラスト軸受部9,10から流出する気体は、軸受端部から直接、または、排気通路17を通ってハウジング3の外部に排出される。
【0026】
軸受スリーブ4と5の間には、シールスリーブ19が配設されている。このシールスリーブ19には、内径面と外径面間で貫通する排気孔25およびその排気孔25と連通する円周溝26が内径面と外径面にそれぞれ形成されている。この排気孔25および円周溝26を介して、主軸1に設けた排気通路21とハウジング3に設けた排気通路20とが連通している。シールスリーブ19の内径面に形成された円周溝26の両側は、ジャーナル軸受部7,8の軸受隙間29と同等の微小なシール隙間を介して主軸1の外径面1aと対向し、非接触シール構造を呈する。
【0027】
このスピンドル装置では、排気通路20に接続された外部の真空ポンプ(図示せず)によって、シールスリーブ19を経由して主軸1の排気通路21から吸引排気することにより、主軸1の先端に真空チャック(図示せず)などを取付けて使用する。
【0028】
この実施形態の静圧気体軸受では、主軸1をステンレス等の金属材料で構成し、ジャーナル軸受部7,8を構成する主軸1の外径面1a、およびスラスト軸受部9,10を構成するスラスト板2の端面2aに、その最終仕上げ加工後、例えば二硫化モリブデンの微粒子を分散させて打ち込んだ表面層27,28を形成する。この表面層27,28の厚みは、1〜数μm程度が望ましい。表面層27,28の厚みが1μmより小さいと、表面層の十分な耐久性が得られず、逆に、数μmより大きいと、潤滑剤微粒子を打ち込むために多大なエネルギーを要して経済的ではない。
【0029】
これにより、静圧気体軸受に過大な荷重が加わった過負荷時や給気圧低下などの原因によって、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aが主軸1の外径面1aに接触したり、スラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bがスラスト板2の端面2aに接触したりした場合でも、表面層27,28の固体潤滑剤の作用により、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aの焼き付けや損傷を防止する。
【0030】
固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んでいるので、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aに対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。また、固体潤滑剤は、主軸1およびスラスト板2の金属材料に直接的に固着しているので、主軸1の外径面1aやスラスト板2の端面2aが軸受面4a,5a,5b,6bに接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、主軸1およびスラスト板2を構成する部材として通常の金属材料を使用できるので、主軸1およびスラスト板2の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を抑制できる。
【0031】
固体潤滑剤を分散させて打ち込んだ表面層27,28は、二硫化モリブデンの微粒子を高速気流により主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに噴射して衝突させることによって形成することができる。このような処理方法によれば、部材の形状、寸法の変化は非常に小さいので、仕上げ加工後の主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに対して処理を行えばよい。
【0032】
なお、この実施形態では、主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aに表面層27,28を形成したが、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aまたはスラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bに表面層を形成してもよく、主軸1の外径面1aおよびスラスト板2の端面2aと、ジャーナル軸受部7,8の軸受面4a,5aおよびスラスト軸受部9,10の軸受面5b,6bの両者に表面層を形成するようにしてもよい。また、固体潤滑剤としては、前述した二硫化モリブデン以外に、二硫化タングステンや黒鉛を使用することが可能である。
【0033】
以上で説明した静圧気体軸受は、微細な給気孔と浅い溝を組み合わせた複合絞り形式の実施形態を例示するものであるが、他形式の静圧気体軸受にも適用可能である。また、静圧気体軸受以外の他の気体軸受の一種である動圧気体軸受にも適用可能である。図3および図4は動圧気体軸受の一種であるフォイル軸受を例示する他の実施形態である。
【0034】
このフォイル軸受は、柔軟に変形する金属薄板で軸受フォイル33を構成し、その軸受フォイル33と円筒状のハウジング31の間に配した弾性部材32によって軸受フォイル33を弾性的に支持した構造を具備する。軸受フォイル33はほぼ長方形の金属薄板であり、その一端をハウジング31に対して固定している。ハウジング31に内挿された主軸34の被軸受面である外径面34aと軸受フォイル33の軸受面33aとの間に軸受隙間35が形成される。
【0035】
主軸34が図中矢印方向に回転すると、その主軸34と軸受フォイル33の相対運動により軸受フォイル33と主軸34の間に周囲の気体が引き込まれ、その軸受隙間35内の気体に生じる動圧によって軸受フォイル33が変形して軸受隙間35の形状が自動的に最適化され、主軸34は軸受フォイル33に対して非接触で支持される。
【0036】
このフォイル軸受における主軸34の外径面34aには、前述した静圧気体軸受の実施形態の場合と同様、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を、高速気流で噴射して衝突させることにより分散させて打ち込んだ表面層36を設けている。この実施形態では、主軸34の外径面34aに固体潤滑剤を分散させて打ち込んだ表面層36を設けているが、軸受フォイル33の軸受面33aに同様の処理を行ってもよく、主軸34の外径面34aまたは軸受フォイル33の軸受面33aのいずれか一方だけではなく、両方の面に固体潤滑剤の表面層を形成するようにしてもよい。また、このフォイル軸受以外の他の動圧気体軸受にも適用可能である。
【0037】
フォイル軸受は、主軸34の振れ回りに対して軸受フォイル33が変形して軸受隙間35の形状が最適化されると共に、軸受フォイル33と弾性部材32の間や、弾性部材32とハウジング31の間、および弾性部材32の内部で発生する摩擦力によって振れ回りが減衰されるため、主軸34の不釣合による振れ回りが小さく、高速安定性に優れる。
【0038】
このフォイル軸受では、起動停止時のように主軸34の回転速度が低い場合、軸受隙間35に十分な圧力が発生しにくいことから、軸受フォイル33と主軸34は接触して摺動する。この場合、軸受フォイル33の軸受面33aと摺動する主軸34の外径面34aに、表面層36による固体潤滑剤の被膜が形成されているため、その固体潤滑剤の微粒子によって焼き付けやかじり等の不具合を防止することができる。
【0039】
この表面層36は、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により噴射させて主軸34の外径面34aに打ち込む手法を採用したことにより、比較的寸法の大きい微粒子を高密度に分布させることができるので、固体潤滑剤が安定して主軸34の外径面34aに供給され、起動停止を繰り返す場合でも長期に亘って性能を維持することができる。
【0040】
また、フォイル軸受は、その軸受面33aが変形可能であるため、高温または低温で使用する場合でも熱変形の影響を受け難いという特長があるが、この実施形態では、主軸34の外径面34aに固体潤滑剤を直接的に打ち込むので、固体潤滑剤を含む表面層36と母材である主軸34の線膨張係数は等しく、温度が変化した場合でも表面層36と主軸34の熱変形の差のために表面層36が損傷または剥離することはない。このため、従来よりもさらに高温または低温での使用に適したフォイル軸受を提供できる。
【0041】
【発明の効果】
本発明では、軸受面または被軸受面に固体潤滑剤の表面層を形成したことにより、気体軸受に過大な荷重が加わった時や動圧気体軸受の起動停止時などに、対向する軸受面と被軸受面が接触しても、表面層の固体潤滑剤の作用により焼き付けや損傷が防止できる。
【0042】
従来のように固体潤滑剤を単に分散させただけで形成した被膜と比較して、本発明のように固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層としたことにより、軸受面または被軸受面に対して固体潤滑剤の占有する割合が大きいので良好な潤滑性を現出する。
【0043】
また、固体潤滑剤は、固定部または可動部の母材に直接的に固着しているので、軸受面と被軸受面が接触して繰り返し摺動しても、耐久性に優れる。また、軸受面または被軸受面を構成する部材は通常の金属材料を使用できるので、部材の剛性が大きく、加工時および使用時の変形を防止できる。
【0044】
以上のように、簡便な手段により、耐久性および軸受性能が優れた安価な気体軸受を提供することができてその実用的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの実施形態で、静圧気体軸受を有するスピンドル装置を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態で、動圧気体軸受を示す断面図である。
【図4】図3のB−B線に沿う断面図である。
【符号の説明】
1 可動部(主軸)
1a 被軸受面(外径面)
2 可動部(スラスト板)
2a 被軸受面(端面)
3 固定部(ハウジング)
4,5,6 固定部(軸受スリーブ)
4a,5a,5b,6b 軸受面
27,28 表面層
29,30 軸受隙間
31 固定部(ハウジング)
32 固定部、弾性部材
33 固定部、金属薄板(軸受フォイル)
33a 軸受面
34 可動部(主軸)
34a 被軸受面
36 表面層
Claims (7)
- 固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受において、前記軸受面または被軸受面を構成する部材のうち、少なくとも一方が金属材料からなり、その軸受面または被軸受面に、固体潤滑剤の微粒子を分散させて打ち込んだ表面層を形成したことを特徴とする気体軸受。
- 前記固定部および可動部は、外部より圧縮気体を軸受隙間に導入することにより固定部に対して可動部を静圧で支持する静圧気体軸受を構成したことを特徴とする請求項1に記載の気体軸受。
- 前記固定部および可動部は、その固定部と可動部の相対運動により軸受隙間内の気体に生じる動圧で固定部に対して可動部を支持する動圧気体軸受を構成したことを特徴とする請求項1に記載の気体軸受。
- 前記動圧気体軸受は、可動部と軸受隙間を介して対向する金属薄板と、その金属薄板を支持する弾性部材とを備えたフォイル軸受であることを特徴とする請求項3に記載の気体軸受。
- 前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛のうちから選択される一つであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の気体軸受。
- 固定部に設けた軸受面と可動部に設けた被軸受面とを微小な軸受隙間を介して対向させ、前記軸受隙間の気体の圧力によって可動部を固定部に対して非接触で支持する気体軸受の製造方法において、固体潤滑剤の微粒子を高速気流により仕上げ加工後の軸受面または被軸受面に噴射し、前記固体潤滑剤の微粒子を分散させて前記軸受面または被軸受面に打ち込むことを特徴とする気体軸受の製造方法。
- 前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛のうちから選択される一つであることを特徴とする請求項6に記載の気体軸受の製造方法。
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Cited By (3)
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CN115614375A (zh) * | 2022-12-15 | 2023-01-17 | 天津飞旋科技股份有限公司 | 一种箔片空气轴承、燃料电池空压机及故障诊断方法 |
-
2002
- 2002-10-18 JP JP2002304677A patent/JP2004138194A/ja not_active Withdrawn
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