JP2004137087A - 新規な低次酸化チタンおよびその製造方法 - Google Patents

新規な低次酸化チタンおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】二酸化チタンの結晶構造を保持したままで、その一部の酸素原子の脱離した、酸素吸収能力が大きく、かつ光触媒作用を有し、酸素吸収剤を含む品質保持剤などに有用な新規な低次酸化チタンを提供すること。
【解決手段】本発明は、二酸化チタンのオリジナルの結晶構造を保持し、一般式TiO2−x(ここで、xは0.1から0.5の実数を示す)で表される化学構造を有する、新規な低次酸化チタン、及び、硫酸根及び/又はニッケル種を含む低次酸化チタン複合体、並びにその製造方法を提供するものである。二酸化チタンはアナターゼ型が好ましい。この低次酸化チタンは、硫酸根及び/又はニッケル種を含む二酸化チタンを、350℃以下の温度で還元剤を用いて還元することによって製造することができる。
【選択図】    なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸素吸収能およびエチレンガス分解などの光触媒作用を有し二酸化チタンの結晶構造を保持した新規な低次酸化チタンに関する。さらに詳しくは、加工食品・農水産品などの食品類、金属製品、精密機械などの工業製品、医薬品、美術工芸品、文化財などの広い分野の物品の保存用に適する新規な低次酸化チタンに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、食品類の品質保持については、好気性菌、カビなどの繁殖による腐敗や、乾性油の酸化劣化を防止する目的で、鉄系を中心とした種々の脱酸素剤が提案されている(例えば、特許文献1、2および3参照)。しかし、この鉄系の脱酸素剤を封入した食品包装品は、針や金属片などの金属異物の混入防止のために用いる金属探知機に感応し誤動作を生じる欠点が以前から指摘されている(例えば、特許文献4参照)。また、この鉄系の脱酸素剤を封入した食品包装品は電子レンジに使用することができないなどさらに改善されるべき実用上の重大な課題を残している。
【0003】
このような脱酸素剤の金属探知機への誤動作を改善する方法として、有機化合物であって酸素吸収能を有するアスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤や、フェノール誘導体を主剤とする脱酸素剤などが提案されている(例えば、特許文献5、6および7参照)。しかし、これらの脱酸素剤は何れも有機物質であるため、使用の条件によっては溶融、溶解を生じることが危惧され、また、有機化合物であるため反応などに伴う発熱による燃焼の危険性も指摘されている(例えば、特許文献8参照)。
【0004】
一方、酸素欠損を有する二酸化チタンを用いて、食品、衣料品などを、カビ、菌、虫、および酸化などによる品質の劣化から防止するための酸素吸収剤として使用することが提案されている(例えば、特許文献9参照)。この酸素吸収剤は、酸素欠損を有する二酸化チタンの光触媒作用に基づく酸化力により酸素吸収能力が高められることを記載しているが、該二酸化チタン単独による酸素吸収量の具体的な数値は記載されていない。そして、この酸素欠損を有する二酸化チタンは、二酸化チタンを無酸素雰囲気下で加熱することにより製造することができることが記載され、酸素吸収能力を大きくするには加熱温度が高いほどよく800℃までの加熱が好ましいとしているが、その再現は困難である。また、加熱温度が800℃のような高温なると二酸化チタンの結晶転移が急激に起こり、アナターゼ型結晶からルチル型結晶になることが報告されていところから(例えば、非特許文献1および2参照)、800℃では二酸化チタンの結晶構造の転移や、酸素欠損個所に歪みを生じることが予想されるため、良好な酸素吸収能を付与することは難しい。
【0005】
従来、二酸化チタンの還元に関する詳しい報告は少ないが、ミューラーらによる二酸化チタンの光還元に関する報告がみられる(例えば、非特許文献3参照)。ミューラーらは、二酸化チタンに紫外線照射下で還元剤としてメチルアルコールを用いて還元反応を行っており、二酸化チタンが白色から青色に変化し、その際二酸化チタンの還元量は0.1〜0.2mmol/g(2.2〜4.5ml/gのHO(ガス))程度であり、紫外線の照射を続けてもその量は増えることはなく、空気に触れると青色はすぐに元の白色に戻るが、酸素のない状態では青色は数年間その色が保たれることなどを報告している。一般に、二酸化チタンの結晶構造を保持した形で二酸化チタンの粒子内部まで還元・脱酸素を行なうことは難いとされ、二酸化チタンに還元剤を作用させても、その結晶表面のみが還元される金属酸化物であることが記載されている(例えば、非特許文献4および5参照)。
【0006】
以上のように、従来の技術では二酸化チタンは、結晶の表面のみがわずかに還元されるか、或いは加熱温度を高くして脱酸素を試みると、結晶構造の転移や結晶構造に歪や崩落が発生し、もとの二酸化チタンの結晶構造をそのまま保持することが難しいため、酸素吸収能力の大きい二酸化チタンを得ることが困難であるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
特開昭56−2845号公報
【特許文献2】
特開昭56−130222号公報
【特許文献3】
特開昭58−128145号公報
【特許文献4】
特開平10−314581号公報
【特許文献5】
特開昭59−29033号公報
【特許文献6】
特許第2658640号公報
【特許文献7】
特開2000−50849号公報
【特許文献8】
特開平10−314581号公報
【特許文献9】
特許3288265号公報
【非特許文献1】
田部浩三、清山哲郎、笛木和夫編、「金属酸化物と複合酸化物」講談社サイエンティフィク(1978年)、103頁
【非特許文献2】
西本精一、大谷文章、坂本章、鍵谷勉、日本化学会誌、1984、246−252(1984)
【非特許文献3】
R.P.Muller, J.Steinle, H.P.Boehm,”Z.Naturforsch.”45b, 864(1990)
【非特許文献4】
尾崎萃ほか編「触媒調製化学」169頁、講談社サイエンティフィク(1980)
【非特許文献5】
清山哲郎著「金属酸化物とその触媒作用」179頁、講談社サイエンティフィク(1978)
【非特許文献6】
尾崎萃ほか編「触媒調製化学」49頁、講談社サイエンティフィク(1980)
【非特許文献7】
触媒学会主催「第9回キャタリシススクールテキスト」P52、触媒学会(1998)
【非特許文献8】
R. Sanjines, et. al., J. Appl. Phys. 75(6) 2945(1994).
【非特許文献9】
G. S. Herman, et. al., Surface Science 447, 201(2000).
【非特許文献10】
M. Iwaki, et. al., Nuclear Instruments and Methods B4, 212(1990).
【非特許文献11】
日本表面学会編、X線光電子分光法、P−218、丸善 (1998).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、二酸化チタンの結晶構造を保持したままで、その一部の酸素原子の脱離した、大きな酸素吸収能力を有する新規な低次酸化チタンを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、安全性が高く、金属探知機等への影響がなく、また酸素の吸収に際して水分の関与がないものとすることも可能な、食品類、金属製品、精密機械、医薬品、および文化財などの分野において脱酸素剤、鮮度保持剤を含む品質保持剤などの広い用途に好適な低次酸化チタンを提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上の状況に鑑み、また上記の諸課題を解決するため鋭意研究を行い、硫酸根及び/又はニッケル種を含有する二酸化チタンを用いることにより、従来困難であった比較的低い温度で水素ガス等の還元剤を用いて容易に二酸化チタンを還元することができ、従来の課題を一挙に解決する優れた酸素吸収能と光触媒作用を有する新規な低次酸化チタンが得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)二酸化チタンの結晶構造を保持し、一般式TiO2−x(ここで、xは0.1から0.5の実数を示す)の化学式で表されるものであることを特徴とする低次酸化チタン。
(2)アナターゼの結晶構造を保持することを特徴とする、前記(1)記載の低次酸化チタン。
(3)前記(1)又は(2)に記載の低次酸化チタンに硫酸根を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
(4)前記(1)又は(2)に記載の低次酸化チタンにニッケル種を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
(5)ニッケル種が、ニッケル原子を必須成分とする化合物、および/またはニッケル原子を必須成分とする金属であることを特徴とする、前記(4)記載の低次酸化チタン複合体。
(6)前記(1)又は(2)に記載の低次酸化チタンに、硫酸根及びニッケル種を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
(7)酸素吸収能を有することを特徴とする、前記(1)乃至(6)のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体。
(8)硫酸根及び/又はニッケル種を含む二酸化チタンを、350℃以下の温度で、還元剤を用いて還元することを特徴とする、前記(1)乃至(7)のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体の製造方法。
(9)還元剤が水素である、前記(8)記載の低次酸化チタン又はその複合体の製造方法。
(10)前記(1)ないし(7)のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体に酸素を吸収させた後、再び還元剤を用いて還元することを特徴とする、低次酸化チタン又はその複合体の再使用方法。
(11)前記(1)ないし(7)のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体に塩基性物質を添加することを特徴とする、低次酸化チタン又はその複合体の酸素の吸収速度を加速する方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明の低次酸化チタンは、二酸化チタンのオリジナルの結晶構造をそのまま保持し、かつその中の酸素の一部が脱離して、一般式TiO2−xの化学式で表される新規な低次酸化チタンである。ここで、xは0.1から0.5の実数である。
この低次酸化チタンの構造は、後述するようにX線回折装置(X−ray diffraction、 XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、 XPS)などの機器分析の結果によって確認することができ、xの値は酸素の吸収量により算出することができる。なお、二酸化チタンの還元に伴って水(還元水)が発生し、この水の量は基本的には二酸化チタンの還元の程度、即ちxの値に関連するが、二酸化チタンは親水性が強く還元水の外に吸着水が混入する傾向が見られるため、xの値は酸素吸収量から求めるのがよい。
【0012】
また、本発明の低次酸化チタン複合体は、原料の二酸化チタンに含まれている硫酸根をそのまま含み、或いは原料の二酸化チタンに含浸、吸着、共沈殿又は物理的混合によって硫酸根又はニッケル種を含ませ、これを還元して得られる、二酸化チタンのオリジナルの結晶構造をそのまま保持し、酸素原子が一部脱離したTiO2−xの化学式で表される新規な低次酸化チタンと、硫酸根及び/又はニッケル種とが複合化した、新規な低次酸化チタン複合体である。
【0013】
本発明において用いる原料の二酸化チタン(TiO)は、アナターゼ型、ルチル型若しくはブルッカイト型の結晶系のもの、又はアモルファスのもののいずれも使用し得るが、アナターゼ型の二酸化チタンが好適である。それらの粒径は、1nm(10 m)から1μm(10−6m)程度のものまでを使用でき、より好ましくは3nm(3×10 m)から0.1μm(10−5m)のものが使用できるが、一般には粒径の小さいものが好ましい。また、望ましくは、直径1mm程度の大きさの粒状に造粒した二酸化チタンを使用してもよい。比表面積は5m/gから400m/g程度、好ましくは50m/gから390m/gのものを使用することができるが、比較的に大きな値を有するものが還元処理には効果的である。以上の二酸化チタンは製品として市販されているものを原料としてそのまま使用することも可能であり、あるいは硫酸チタン、四塩化チタン、硝酸チタンなど無機酸のチタン塩あるいはチタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシドあるいはチタンテトラ(2−エチルヘキサノエート)などのチタン化合物を加水分解あるいは苛性ソーダで中和、沈殿などの方法により調製することもできる。
【0014】
市販のアナターゼ型二酸化チタンの代表的な製品としては、堺化学工業株式会社製のSSP25、CSPM、石原産業株式会社製のST01あるいはMC−50、テイカ株式会社製のAMT−100などが知られ、これらの二酸化チタンを使用して以下に詳しく記載するニッケル種又は硫酸根を含む二酸化チタンを調製することにより何れも低温での還元を実施することが可能になる。
【0015】
本発明に使用するニッケル種とは、ニッケル原子を必須成分とする化合物、又はニッケル原子を必須成分とする金属若しくは合金を言う。また、ここでニッケル原子にはいわゆる電離したイオン状態のものも含む。
ニッケル原子を必須成分とする化合物は、例えば、無機酸のニッケル塩、有機酸のニッケル塩、ニッケルアルコキシド、および配位子を配位したニッケル錯塩からなる群から選ばれるニッケル原子を必須成分として含む化合物である。このような化合物としては、例えば、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケルなどの無機酸のニッケル塩;酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、蓚酸ニッケルなどの有機酸のニッケル塩;その無水和物、結晶水を持つ水和物が挙げられ、あるいはそれらにアンモニア、エチレンジアミンなどの配位したニッケル錯塩、アセチルアセトンなどを配位したニッケル化合物、ニッケルイソプロポキシドなどのニッケルアルコキシドを用いることができる。
【0016】
また、ニッケル原子を必須成分とする金属は、例えば、ニッケル金属そのものまたはニッケルと他の元素から構成される合金、ニッケル金属と他の金属との混合物である。このような合金又は金属混合物としては、例えば、ニッケルとコバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどから選ばれる金属との合金又は混合物が挙げられる。
【0017】
次に、本発明の低次酸化チタン又はその複合体の製造方法について説明する。
まず、二酸化チタン(TiO)の結晶構造を保持した本発明の低次酸化チタン(TiO −x)を還元により得るためには、二酸化チタンをそのままの形で使用するのではなく、二酸化チタンの還元に先立ち少量の硫酸根を予め含有せしめておくことが有効な手段である。更には、二酸化チタンの還元に先立ち少量のニッケル種を予め含ませておくことが第二の有効な手段である。このように少量の硫酸根及び/又は少量のニッケル種を含む二酸化チタンを用いることによって、驚くべきことにアルゴンあるいは窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下において350℃以下、好ましくは150から300℃範囲、さらに好ましくは180から280℃、最も好ましくは180から260℃という低い温度で、容易に還元反応が進行して水を生成し、本発明の低次酸化チタン(TiO2−X)を生成する。
【0018】
本発明において、二酸化チタンの還元を容易にする手段として硫酸根を含ませる方法としては、特に制約は設けないが、市販の二酸化チタンに硫酸を0.01から20%程度水溶液に希釈して加え、よく混合して均一化をはかり200から450℃程度の温度で数時間乾燥、焼成した後、粉粒化して硫酸根を含む二酸化チタンを調製すればよい。二酸化チタンはチタンと鉄の酸化物を主成分とするイルメナイト鉱に硫酸を加え硫酸チタンを生成させ均一液を加水分解により水酸化チタンに変え、溶解度の差を利用して硫酸鉄を除いて精製される。二酸化チタンは、硫酸根に対して親和力の強いことが知られているため、二酸化チタンを得る際に硫酸根を残したかたちのものをそのまま使用してもよい。二酸化チタンに含ませる硫酸根の量は、二酸化チタンに対して通常0.01から10質量%(以下、単に%と記載する)程度であるが、特に望むなら20%あるいはそれ以上の量を用いてもよい。なお、上記市販の二酸化チタンの中にあって、CSPMとMC−50は数%の硫酸根を含むため、硫酸根の添加工程を省略して用いることも可能である。
【0019】
ニッケル種を含む二酸化チタンを得る方法としては、二酸化チタンに前記のニッケル化合物を溶液の形で含浸または吸着する方法、無機酸のチタン塩等のチタン化合物の水溶液と前記ニッケル化合物の水溶液を共沈殿する方法、さらに特に望むなら二酸化チタンと前記ニッケル化合物又はニッケル原子含有金属粉をごく微細な状態にして単に混合する方法などがある。また、本発明に使用するニッケル種を含む二酸化チタンとしては、上記のように含浸、吸着、共沈殿、あるいは混合により得られるもののほかに、これらのニッケル種を含む二酸化チタンを、更にその後、洗浄、加熱乾燥、焼成、粉砕等の諸工程で熱分解などにより化学構造変化を生じたものも含む。
【0020】
本発明に使用するニッケル種を含む二酸化チタンにおけるニッケル金属の含有割合は、二酸化チタンを還元するために必要な量であって特別な制限を求めないが、後述するように還元の際に触媒としての作用を発揮する量であればよく、少量でよい。一般的に、二酸化チタンに対して、ニッケル原子として0.01から15パーセント、好ましくは0.03から10%の範囲で用いるのがよい。
【0021】
含浸による上記のニッケル種を含む二酸化チタンの調製は、種々の文献などに記載されている方法を参考にして行うことができる。通常の方法は、前記のニッケル原子を必須成分とするニッケル化合物またはニッケル金属の溶液を二酸化チタンに含浸せしめ、この含浸したものを加熱乾燥、焼成、粉砕などの工程の一部、あるいは全ての工程を経て調製される(例えば、非特許文献6および7参照)。なお、このニッケル化合物を含浸した二酸化チタンは、通常は200℃から300℃程度の温度で2から3時間程度の間乾燥する。得られた塊状物は粉砕した後、300℃から450℃程度までの温度で2から10時間の保持にして焼成するが、二酸化チタンの結晶構造の変化を生じさせないように配慮して行う。
【0022】
共沈殿によるニッケル種を含む二酸化チタンの調製も、同様に種々の文献に記載の方法を参考にして行うことができる。一般的な方法としては、前記のニッケル原子を必須成分とするニッケル化合物の溶液と、チタン化合物の溶液を予め調製し、攪拌下にこれらの二つの溶液に苛性ソーダなどの塩基性化合物の水溶液を加えて上記の混合溶液中で共沈殿、あるいは加水分解により共沈殿を生成せしめ、この沈殿物を加熱乾燥、焼成、粉砕などの工程の一部、あるいは全ての工程を経て調製される(例えば、非特許文献6および7参照)。加熱乾燥は通常200℃から300℃程度の温度で2から3時間の範囲で行い、粉砕の後、通常350℃から450℃で焼成する。ここでチタン化合物としては、四塩化チタンあるいは硫酸チタンなどの無機酸のチタン塩、あるいは上記のチタンアルコキシドなどが挙げられる。また、共沈殿のより簡便で実用的な方法として、二酸化チタンの微粒子を予め水中に分散し、そこにニッケル強酸塩、例えば硝酸ニッケルの水溶液を加え、攪拌下に苛性ソーダなどの強塩基を滴下することによっても均一で比表面積の高いニッケル種を含む二酸化チタンを得ることができる。
【0023】
上記の記載においては、硫酸根を含ませる工程とニッケル種を含ませる工程を、それぞれの工程を分けて記述したが、場合によってはこれら2つの工程を同時に行うことを妨げるものではなく、必要に応じて任意に実施してもよい。また、以上の工程は基本的に硫酸根およびニッケル種を二酸化チタンに物理的に混合しているものであるが、特に望むならチタン酸ニッケル(NiTiO)、さらに望むならチタン酸ニッケルカルシウム(Ca0.5Ni0.5TiO)などの複合金属酸化物を二酸化チタンの代り、あるいは二酸化チタンにニッケル種を含ませる原料として使用することを妨げるものではない。
【0024】
本発明の二酸化チタンの結晶構造を保持した低次酸化チタンは、硫酸根及び/又はニッケル種を含む二酸化チタンを還元剤を用いて還元することにより容易に製造することができる。還元温度は350℃以下の温度で実施することが二酸化チタンの結晶構造をそのままに保つ上から望ましく、好ましくは150から300℃範囲、さらに好ましくは180から280℃、最も好ましくは180から260℃の範囲で行うことが二酸化チタンの結晶構造を保持し、その品質を最上に保つ点から好ましい。このように低い温度での還元反応は、製造装置のシール部分にゴムパッキング等の材料の使用を可能にし、製造設備のコストを削減できるメリットもある。無定形の二酸化チタンを用いる場合にも上記の温度において還元処理中に望ましいアナターゼ型の結晶に変わる。
【0025】
本発明においては、還元剤としては水素ガスが最も好ましく、水素ガスによって支障なく還元を行い得るが、従来から還元剤として知られる化合物、例えば、エチルアルコールなどのアルコール類、プロピレンなどの炭化水素化合物を使用してもよい。また、特に望むなら、紫外線などの照射による反応を促進する方法も妨げるものではない。
【0026】
還元反応は、酸素ガスを遮断し、酸素の混入のない装置で行なうことが求められる。本発明では還元に用いる装置について特別の制限は設けない。通常はステンレス製反応管式で耐圧性を備えたものを用いる。具体的には、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタンを装置内に置き、不活性ガスをキャリヤーガスに用い、加圧、加熱下に還元剤、例えば水素ガスを導入して還元反応を行う。キャリヤーガスとしてはアルゴンガスなどの希ガスが特に好ましく用いられるが、望むなら窒素ガスをキャリヤーガスに用いてもよい。反応器内の圧力は通常0.01MPaから0.7MPa程度、好ましくは0.05MPaから0.5MPaの範囲で行う。還元反応は、反応器内を上記の圧力に保ち、還元温度は、上述の如く350℃以下、好ましくは150℃から350℃の範囲で、2〜20時間程度を要して反応を行う。このような条件が、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタンの還元を促進し、かつ二酸化チタンの結晶構造をそのまま維持した優れた品質を保つた低次酸化チタンを得るのに適した条件である。その際、該硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタンは、水素ガスなどの還元剤により還元処理を行うと二酸化チタンの酸素の一部が水素との反応により脱離して水を生成する。還元反応を終了して得られる反応物は、冷却後、反応器と共にグローブボックスに移し酸素を遮断した窒素ガス気流中で密封容器中に取出される。
【0027】
この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタンは水素ガスなどの還元剤による還元反応を終了すると、暗灰色から黒色を呈する反応物となり、本発明の低次酸化チタンが得られる。この反応物を、上記のグローブボックス内で窒素ガスで完全に置換した無酸素の条件下で気密なプラスチック容器やプラスチック製の袋などに移し、グローブボックスより取出す。このプラスチック容器やプラスチック製の袋の中に一定量の空気(酸素濃度20.6%)を挿入すると時間の経過と共に容器や袋内の酸素濃度が減少し反応物が酸素を吸収していることが分る。反応物の酸素吸収が終了すると、初期の暗灰色から黒色を呈した反応物は、当初見られた色とは明かに異なる淡色化した灰色に変化する。
【0028】
このようにして得られた本発明の低次酸化チタンは、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造をそのまま保持し、かつ二酸化チタンの酸素原子が一部脱離したTiO2−x(xは0.1から0.5)の一般式で表わされる、従来にない新規な低次酸化チタンである。更に、本発明は、このような低次酸化チタンの中に硫酸根及び/又はニッケル種を含有した低次酸化チタン複合体である。一般的には、本発明の低次酸化チタンは粉末状の固体として得られるため、製造工程で加えたニッケル種或いは硫酸根がその中に残留した複合体である。
本発明の低次酸化チタンは粉末状で空気に触れると酸素を吸収する性質を有するため、これらの除去は難しい。純度の高い低次二酸化チタンを得るには使用するニッケル種或いは硫酸根の量を少なくすることが好ましい。硫酸根は、必要に応じて無酸素の状態で水洗浄・乾燥によって除去することができる。
【0029】
本発明の低次酸化チタンは、ガス透過性のないプラスチック製フィルムで造られたガスバリヤー性の優れた袋(ガスバリヤー袋)に空気と共に装入すると、通常、室温下で比較的ゆっくりと空気中の酸素を吸収する。酸素の吸収量は、基本的に水素還元の際に二酸化チタンの還元によって生成する水の量の半分に相当する量である。本発明の低次酸化物は酸素を吸収した後に、再度水素還元を行うと、先と同様に酸素の吸収を繰り返す。この事実は二酸化チタン(TiO)の還元による低次酸化チタン(TiO2−X)の生成と、その酸素の吸収による二酸化チタンの再生が繰り返し起こるサイクルを意味するものであり、再利用が可能で環境に適する素材であるといえる。本発明の低次酸化チタンの酸素吸収量は、上記の方法により簡単に求めることができる。
【0030】
本発明の低次酸化チタンは、通常100から600時間をかけてゆっくりと酸素を吸収する。しかし、驚くべきことに硫酸根を含む本発明の低次酸化チタンの場合には、その中に塩基性物質、例えばアンモニア水、炭酸ソーダまたは重炭酸ソーダ水溶液などの塩基性物質を加えると、酸素吸収の速度が急に早まり20から40時間程度で酸素の吸収を完了することができる。この現象は恐らく本発明の低次酸化チタン中に含まれる硫酸根が塩基性物質により中和されることにより酸素吸収が早まったものと推定される。
【0031】
上記の現象とそのメカニズムは未だ調査中の部分もあるが、表面分析として知られるXPSなどの測定結果から次のように推定される。すなわち、Sanjinesらと Hermanらは夫々の論文の中で4価のチタン原子で構成される高純度の二酸化チタン(TiO)の4価チタン原子(Ti4+ 2P2/3)に基づく結合エネルギーのシグナルとして、458.9 eVの値を報告し(非特許文献8及び9参照)、IwakiらはTiO(チタン原子は4価)、 Ti(3価)、 TiO(2価)、 Ti(金属原子、0価))とチタンの原子価が低下するほどそのシグナルは低い値に移行し、金属チタン(0価)では453.9 eVの値を示すことを報告している(非特許文献10及び11参照)。少量の硫酸根を含む二酸化チタンにおけるXPSのチタン原子のシグナルは後述する実施例1の結果の如く458.3eV附近に観測され(図1)、還元され易い状態にあり、水素還元により生じた低次酸化チタン(TiO2−X )のシグナルは458.1eV附近に観測されるところから(図2)、4価のチタン原子から一部は3価のチタンに還元され、4価と3価のチタン原子の混在していることを示しているものと推定される。さらに、硫酸根を含む低次酸化チタンは4価のチタンに復帰する力が弱く酸素吸収速度は遅いが、硫酸根が中和によりその影響が解消され酸素吸収速度が早まったものと推定される。
【0032】
本発明の還元処理に際しては、特に望むならばアルミナあるいはシリカなどを併用してもよく、また、ニッケル以外の原子、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの原子を必須成分とする化合物および/または金属をニッケル種とともに使用してもよい。
【0033】
また、本発明の低次酸化チタンは、酸素を吸収して通常の二酸化チタンに戻った後に、再度不活性ガス雰囲気下で還元剤、特に水素ガスにより還元することにより、再び容易にTiO2−xの化学式で表される酸素原子の一部脱離した低次酸化チタンとなり、再び同程度の酸素吸収能を回復するという特徴を有する。従って、本発明の低次酸化チタンは酸素吸収剤として使用した場合には、使用済みのものを還元することによって、繰り返して使用することができる。
【0034】
このような本発明の低次酸化チタンは、これを酸素吸収剤として使用した場合には、従来から使用されている鉄系の酸素吸収剤と異なり、水がまったく関与しない場合にも鉄系の酸素吸収剤と同程度の優れた酸素吸収能を有しており、しかも金属探知機での誤動作や電子レンジ等での使用に問題を生じない。また、必要に応じて、例えば塩基性物質を添加するなどの方法によって、酸素の吸収速度を速めることもできる。本発明の低次酸化チタンは、無機化合物であるため、従来の有機化合物を使用した酸素吸収剤に見られる融解、溶解、燃焼などのトラブルの心配も存在しないため安全性が高く、品質保持剤として広い用途に適用し得るものである。
【0035】
また、アナターゼ型の二酸化チタンを出発原料に用いた場合には、光触媒作用をも兼ね備えているので、エチレン分解性、抗菌性などの付加的な機能を有する従来にない脱酸素剤、鮮度保持剤を含む、より一層広い用途の品質保持剤などに用い得る低次酸化物を提供しうるものである。
【0036】
本発明の低次酸化チタンは、酸素吸収剤、品質保持剤などの用途で金属製あるいはプラスチック製などの容器に充填、あるいはフィルムに担持、内包した形で実用に供される。
さらにこれら酸素吸収剤などの製品には、補助的な成分として、シリカ、モンモリロナイトなどの天然産の鉱物、活性白土などの加工された鉱物、合成シリカ、ゼオライトなどの合成鉱物、活性炭などの吸着剤あるいはこれらの物質に水を含ませるなどの物質を必要に応じて使用してもよい。また、必要に応じアンモニア水、重炭酸ソーダあるいは炭酸ソーダなどの塩基性物質を酸素吸収の促進剤として、本発明の特徴を損なわない範囲で併用することもできる。
【0037】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、「%」は、特別に記載しない限り質量基準である。
【0038】
実施例1:
1.1 酢酸ニッケルの含浸による二酸化チタン複合体( 1−2 )の調製
堺化学工業株式会社より提供された硫酸根(SO)10.0%を含むアナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタン(1−1、比表面積 268.0 m/g)の20.0g(250mmol)を磁性のシャーレーに入れ、次いで酢酸ニッケル(Ni(CHCOO)・4HO)3.1g(12.5mmol)と水20.0gの均一溶液を加えて、よく混合した後、一夜放置する。マッフル炉で250℃、2.5時間乾燥し、冷却後、粉砕し、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1−2)[TiO・(Ni(CHCOO)0.05 、MW:88.7、硫酸根は分子量の計算に含めない]の20.4g(88.3%)を得た。この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1−2)は、X線回折装置(XRD)の測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられ、X線光電子分光装置(XPS)によるスペクトルの測定結果は図1の通りであって、チタン原子の2Pに基づく結合エネルギーのシグナルが458.29eVに観測され、4価のチタン原子(TiO)の標準値458.9 eVから低エネルギー側にシフトしていることが認められた。
なお、X線回折装置(XRD)はマックサイエンス社製、全自動回折装置、MXP3A を用い、X線光電子分光装置(XPS)は日本電子株式会社製、JPS9010MCを用いてX線光電子分光スペクトルを測定した。
【0039】
1.2 二酸化チタン複合体( 1−2 )の水素還元
ステンレス製1/8インチ管に圧力ゲージの付いたイナートガスライン、同じく水素ガスラインを、温度計を付したステンレス製の内径35mm、高さ130mmの円筒形のステンレス製反応器に接続し、反応器の排出ガス用ステンレス製1/8インチ管ラインに組成分析用のガスクロマトグラム、トラップ、バックプレッシャーバルブを付した反応装置を用意した。この反応装置を用い、上記の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン(1−2)の5.0g(56.4mmol)を反応器内に仕込んだ。キャリヤガスとしてアルゴンガスを付加圧力0.4MPa、流速 100ml/minで導入し、加熱を開始した。180℃の温度で水素ガスの付加圧力0.4MPa、バックプレッシャーバルブのゲージ圧を0.3MPaに設定し、すなわち反応装置内の圧力を0.3MPaに保って、水素ガスの流速を 22ml/minで導入して還元反応を開始し、反応状況をガスクロマトグラムにより調べた。180℃で水素ガスの導入を開始すると水素ガスが二酸化チタンの酸素原子を還元したことによると推定される水の生成が認められた。180℃の温度で60分を経過すると水の生成量の低下がみられたため、200℃に昇温して水の生成量の低下するまで継続し、以後、反応温度を220℃、240℃、260℃と段階的に高めて合計480分間(8時間)水素ガスを導入して還元反応を行った。この間に生成した水の量を積算すると硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1−2)[TiO・(Ni(CHCOO)0.05、分子量:88.7]の1グラム(11.3mmol)当たり水47.8ml(2.13mmol 、0℃の換算値)であった。反応器を冷却した後バルブを閉じ加状態で、グローブボックス内に反応物を移し窒素ガスで完全に置換してグローブボックス内の酸素濃度が30ppm以下に到達した後、窒素ガス流通下に酸素濃度を50ppm以下に保ちながら反応物(1−3)を反応器から気密な二つのプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に分けて取り出した。これを計量し、黒色の反応物(1−3)の4.4gを得た。
【0040】
この二つのプラスチック袋に納められた反応物(1−3)のうちの一つの、反応物(1−3)2.0gを含むプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に空気500mlを導入し、その後の酸素濃度を測定した。その結果を図3に示す。この結果から、反応物(1−3)は約30日で酸素の吸収を終了し、酸素の吸収量は23.8ml/g(1.06mmol/g、0℃の換算値)であることが判明した。この酸素吸収量から算出したxの値は0.188(=1.06×2/11.3)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.81である酸化チタンが得られた。この反応物(1−3) は、X線回折装置(XRD)の測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられた。また、この反応物(1−3)のX線光電子分光スペクトル(XPS)の測定結果を図2に示す。この結果から、チタン原子の2P軌道に基づく結合エネルギーのシグナルが還元前に458.29eVであったものが458.09 eVに観測されるところから、4価のチタン原子の1部が3価のチタンに移行していると見られる。これらの結果から、反応物(1−3) は、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造を保持した本発明の低次酸化チタン複合体(TiO 1.81)であることが確かめられた。グローブボックスから取り出した際は黒色であった反応物(1−3)は、酸素を吸収した後、淡い灰色に変化した(1−4)。この酸素を吸収した淡い灰色の反応物(1−4)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確認された。
なお、X線回折装置(XRD)はマックサイエンス社製、全自動回折装置、MXP3A を用い、X線光電子分光装置(XPS)は日本電子株式会社製、JPS9010MCを用いてX線光電子分光スペクトルを測定した。酸素濃度の分析にはPBI‐Dansensor A/S社製、酸素濃度計Check Mate O2/CO2を使用した。以下の実施例においても同じ装置を用いて測定した。
【0041】
1.3  低次酸化チタン( 1−3 )へアンモニア水の添加による酸素吸収の加速
上記の反応物、すなわち本発明の低次酸化チタン(1−3)2.4gを、気密なプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に取出す際に、少量の脱脂綿を同時に袋内の反応物に触れない状態で収め、ヒートシールにより密封し600mlの空気を封入した。12.5%濃度のアンモニア水1gを袋内の脱脂綿に注射器で注入した。なお、封入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け注入の際における外気の混入を防いだ。脱脂綿の部分を外部から15分間暖めてアンモニアガスを気化させ、5時間放置した後における酸素吸収量を測定したところ、酸素吸収量は21.1ml/g(25℃)、24時間後における累積の酸素吸収量は25.8ml/g(25℃)に達し、この値は48時間経過した後も同じであった。また、比較のため反応物(1−3)の代りに還元処理しないアナターゼ型二酸化チタンを用い、全く同様にアンモニア水1gを加えて上記と同じ試験を行ったが、空気中の酸素濃度の変化はなく酸素の吸収は認められなかった。
上記のように、反応物(1−3)に空気を封入しそのまま放置した場合には酸素を吸収するのに30日余りを要するが、塩基性物質であるアンモニア水の添加により酸素吸収が加速され、1日から2日(24から48時間)程度で同程度の酸素吸収量に達することが分った。
【0042】
1.4 酸素を吸収した反応物( 1−4 )の光触媒作用によるエチレンガスの分解
酸素を吸収した反応物(1−4)の0.1gを内径8.5cm(57cm)のガラス製シャーレに採り、3gの純水を加えて均一に混合し、乾燥して薄膜状にし、後述する蛍光灯(BL)を3時間照射して反応物(1−4)の表面を清浄な状態にした。このシャーレをテドラーバッグ(Tedlar bags、材質 フッ素樹脂、サイズ170mm×250mm、井内盛栄堂製)に収め、熱シールする。袋内の空気をアルゴン/酸素=80/20の混合ガスで置換し、次いでエチレンガス1000ppmを注射器で注入した。封入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け注入の際における外気の混入を防いだ。この試料などを収めたテドラーバッグを光照射箱に収め、40ワット蛍光灯(ブラックライト(BL)、0.1mW/cm(光の波長436nm)、1mW/cm(光の波長365nm))で照射したところ、5時間経過後で当初のエチレンガス濃度が1000ppmから500ppm以下に半減した。従って、酸素吸収後の反応物(1−4)は優れた光触媒作用を有することがわかる。
【0043】
1.5 酸素を吸収した反応物( 1−4 )より低次酸化チタンの再生とその酸素吸収
1.1で調製したアナターゼ型の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン(1−2) の5.0gを用い、前記1.1および1.2に記載したと同様の方法で合成した反応物(1−3)の酸素を吸収させた淡い灰色の反応物(1−4)の3.0gを出発原料として還元反応装置に仕込んだ。キャリヤガスとしてアルゴンガス100ml/min、水素ガス14ml/minの条件で再還元を行い、反応物(1−3)に相当する黒色の反応物(1−3b)2.4gを得た。この反応物(1−3b)、すなわち再生された低次酸化チタンの酸素吸収量の測定結果は24.3ml/g(1.08 mmol/g、0℃換算値)であった。この結果より算出したxの値は0.192(= 1.08×2/11.3)であり、これはTiO2−xで表した場合にTiO1.81である低次酸化チタンであり、酸素吸収前の反応物(1−3)が再生されたことが確認された。
【0044】
1.6 低次酸化チタン( 1−3b )へ炭酸ナトリウムの添加による酸素吸収の加速
1.5にて得た反応物、すなわち低次酸化チタン(1−3b)14gをガスバリヤー袋に入れ、併せて炭酸ナトリウム(NaCO)0.7gを水2gに溶解し、更に合成シリカ(日本シリカ工業株式会社製のニップシールNS‐K)の1gを加えて調製した均一混合物の3.7gを同じガスバリヤー袋に加え、ヒートシールにより密封し、350mlの空気を封入した。1時間放置した後における酸素吸収量は12ml/g(25℃)、24時間後における累計の酸素吸収量は20.8ml/g(25℃)に達し、この値は48時間後も同じであった。
上記のように、反応物に空気を封入しそのままの放置した場合には30日余りを要する酸素吸収が、塩基性物質の添加により加速されたことがわかった。
【0045】
実施例2:
2.1  酢酸ニッケルの含浸による二酸化チタン複合体( 2−2 )の調製
堺化学工業株式会社より提供された硫酸根を含むアナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタン CSPM(2−1)[比表面積 120m/g、蛍光X線による硫黄(S)の分析値 2.68%であり、硫酸根への換算値8.0%]の20.0g(250mmol)を磁性のシャーレーに入れ、次いで酢酸ニッケル[Ni(CHCOO)・4HO]3.1g(12.5mmol)と水19.2gの均一溶液を加えて、よく混合した後、一夜放置した。マッフル炉で250℃で2.0時間乾燥し、冷却後、粉砕し、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2−2)[TiO・Ni(CHCOO)0.05 、MW:88.7、硫酸根は分子量の計算に含めない]の20.8g(89.7%)を得た。この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2−2)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられ、XPSによるスペクトルの測定結果は、チタン原子の2Pに基づく結合エネルギーのシグナルは458.42 eVに観測され、4価のチタン原子(TiO)の標準値458.9 eVから低エネルギー側にシフトしていることが認められた。
【0046】
2.2二酸化チタン複合体( 2−2 )の水素還元
実施例1と同じ反応装置を用い、上記の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(2−2)の5.0g(56.4mmol)を反応器内に仕込んだ。イナートガスとして窒素ガスを付加圧力0.2MPa、流速 100ml/minで導入し、240℃の温度に加熱し水素ガスの付加圧力0.4MPa、バックプレッシャーバルブのゲージ圧を0.1MPaに設定、すなわち反応装置内の圧力を0.1MPaに保って、水素ガスの流速を22ml/minで導入して還元反応を開始し、反応状況をガスクロマトグラムにより調べた。235℃から240℃の反応温度で水素ガスの導入を開始すると水素ガスが二酸化チタンの酸素原子を還元したことによると推定される水の生成が認められた。合計320分間水素ガスを導入して反応を終了した。この間に生成した水の量を積算すると硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン[TiO・(Ni(CHCOO)0.05、分子量:88.7]の1グラム(11.3mmol)当たり水49.5ml(2.21mmol、0℃の換算値)であった。反応器を冷却した後バルブを閉じ加圧状態で、グローブボックス内に反応物を移し窒素ガスで完全に置換してグローブボックス内の酸素濃度が30ppm以下に到達した後、窒素ガス流通下に酸素濃度を50ppm以下に保ちながら反応物(2−3)を反応器から気密な二つのプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に分けて取り出した。これを計量し、黒色の反応物(2−3)の4.3gを得た。
【0047】
この二つのプラスチック袋に納められた反応物(1−3)のうちの一つの、反応物(2−3)の2.4gを含むガスバリヤー袋に空気600mlを導入し、30日余り後の酸素濃度を測定した結果から、反応物(2−3)は22.6ml/g(1.01mmol/g、0℃の換算値)の酸素を吸収していることが判明した。酸素ガス吸収量から算出したxの値は0.18(= 1.01×2/11.3)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.82である酸化チタンを得た。この反応物(2−3) はXRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられ、XPSのスペクトルからチタン原子の2Pに基づく結合エネルギーのシグナルが457.83 eVに観測され、4価のチタン原子のかなりの部分が3価のチタンに移行していると見られる。これらの結果から、反応物(2−3) は、オリジナルの二酸化チタンの結晶構造を保持した本発明の低次酸化チタン複合体(TiO 1.82)であることが確かめられた。
また、グローブボックスから取り出した際は黒色であった反応物(2−3)は酸素を吸収した後、淡い灰色に変化した(2−4)。この酸素を吸収した淡い灰色の反応物(2−4)は、XRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確認され、もとの結晶構造の酸化チタン(TiO)が再生していることがわかった。
【0048】
2.3 低次酸化チタン( 2−3 )へアンモニア水の添加による酸素吸収の加速
反応物、すなわち本発明の低次酸化チタン複合体(2−3)1.9gを、気密なプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に取出す際に、少量の脱脂綿を同時に袋内に反応物に触れない状態で収め、密封し、475mlの空気を封入した。12.5%濃度のアンモニア水0.8gを袋内の脱脂綿に注射器で注入した。注入の際には、ゴムテープを袋に貼り付け注入の際における外気の混入を防いだ。脱脂綿の部分を外部から15分間、暖めてアンモニアガスを気化させ、24時間放置した後における酸素吸収量を測定したところ21.8ml/gであり、48時間後における合計の酸素吸収量は22.7ml/gであった。また、比較のためアナターゼ型二酸化チタンを反応物の代りに用い、全く同じアンモニア水を加えて上記と同じ試験を行ったが、空気中の酸素濃度の変化はなく酸素の吸収は認められなかった。
以上のように、反応物(2−3)に空気を封入しそのまま放置した場合には酸素を吸収するのに30日余りを要するが、塩基性物質であるアンモニア水の添加により酸素吸収が加速され、1日から2日程度で同程度の酸素吸収量に達することが分った。
【0049】
2.4 酸素を吸収した反応物( 2−4 )の光触媒作用によるエチレンガスの分解
酸素を吸収した反応物(2−4)の0.1gを用いて、実施例1に記載したと同じ方法でエチレンガスの分解を試験した結果、5時間で当初の1000ppmから500ppm以下の濃度に半減した。
【0050】
2.5 酸素を吸収した反応物( 2−4 )より低次酸化チタンの再生とその酸素吸収
2.1で調製したアナターゼ型の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン(2−2) の5.0gを用い、2.1および2.2に記載したと同じ還元装置と方法で合成した反応物(2−3)の酸素を吸収した淡い灰色の反応物(2−4)の3.0gを出発原料として還元反応装置に仕込んだ。キャリヤガスとして窒素ガス100ml/min、水素ガス14ml/minの条件で再還元を行い、反応物(2−3)に相当する黒色の反応物(2−3b)2.3gを得た。この反応物(2−3b)、すなわち再生された低次酸化チタンの酸素吸収量の測定結果は23.1ml/g(1.03mmol/g、0℃換算値)であった。この結果より算出したxの値は0.182(= 1.03×2/11.3)であり、これはTiO2−xで表した場合にTiO1.82である低次酸化チタンであり、酸素吸収前の反応物(2−3)が再生されたことが確認された。
【0051】
比較例1:
堺化学工業株式会社製のアナターゼ型結晶構造を有する白色の二酸化チタンSSP25(C1−1、MW 79.9、粒子径 9nm、比表面積 270m/g)の3.0g(37.5mmol)を実施例1に記載したと同じステンレス製の還元装置に仕込んだ。キャリヤガスとしてアルゴンガス100ml/min、水素ガス14ml/minの条件で、300℃から350℃、400℃、450℃と段階的に反応温度に高めて還元を合計7時間行ったところ、その間に合計4.5ml/g(0.2mmol)の水の生成が認められた。これを実施例1と同様にしてグローブボックス内から取り出したところ、褐色を呈する反応物(C1−3)の2.3gを得た。この反応物(C1−3)の酸素吸収量の測定結果は僅かに0.8ml/g(0.04mmol、0℃換算値)であった。この結果より算出したxの値は0.006(=0.04×2/12.5)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.994である酸化チタンであり、硫酸根及びニッケル種を含まない二酸化チタンを使用した場合には、原料の二酸化チタンは極めてわずかしか還元されていなかった。
【0052】
比較例2:
昭和タイタニウム株式会社製のアナターゼ型結晶構造を有する白色の二酸化チタンF6(C2−1、MW 79.9、粒子径 15nm、比表面積 95m/g)の16.0g(200.3mmol)を石英製の舟形の皿にはかりとる。この舟形の皿を電気炉に移し、無酸素雰囲気下に800℃の温度で2.5時間加熱した。その後、これを室温(25℃)に冷却して反応物(C2−3)を得た。この反応物(C2−3)を機密なプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に移し、この中に空気200mlを導入し、20日放置した後に酸素吸収量を測定した。その結果は、酸素吸収量が0.25ml/g(0.01mmol/g)であることが判明した。この結果より算出したxの値は0.002(= 0.01×2/12.5)であり、TiO2−xで表した場合にTiO1.998である酸化チタンであり、無酸素雰囲気下で二酸化チタンを加熱した場合にも、原料の二酸化チタンはほとんど還元されないことがわかった。
【0053】
実施例3;
3.1 硝酸ニッケルの含浸による二酸化チタン複合体の調製
堺化学工業株式会社製のアナターゼ型二酸化チタンCSPM (3−1)[TiO、比表面積 115 m/g、蛍光X線による硫黄(S)の分析値 1.6%であり、硫酸根への換算値4.8%]の10.0g(125.2mmol)を、関東化学株式会社製の試薬特級の硝酸ニッケル(II)6水和物[(Ni(NO・6HO、分子量:290.79]の1.8g(6.2mmol)を7.3gのイオン交換水で希釈して調製した20%濃度の水溶液と共に、ビーカー内でよく混合した後に磁性のシャレーに移す。1日放置して自然乾燥した後、電気炉で250℃の温度で2.5時間乾燥した。冷却した後、塊状の乾燥物を乳鉢でよく粉砕し、5モルパーセントの硝酸ニッケルを含む硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(3−2)[(TiO・(Ni(NO0.05、分子量:89.0、硫酸根は分子量の計算に含めない)の9.1gを得た。この硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(3−2)は、X線回折装置(XRD)の測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられた。
【0054】
3.2二酸化チタン複合体( 3−2 )の水素還元
実施例1と同じ装置、同様の方法を用い、上記の硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(3−2)の3.0g(33.7mmol)を反応器内に仕込む。アルゴンガスを付加圧力0.4MPa、流速 100ml/minで導入し、バックプレッシャーゲージ圧を0.3MPaに設定、すなわち反応装置内の圧力を0.3MPaに保って450℃の温度で3.0時間焼成する。アルゴンガスの導入を継続して200℃の温度に放冷後、水素ガスの付加圧力0.4MPa、水素ガスの流速を 14ml/minで導入して還元反応を継続の後、反応状況を観察しながら220℃に昇温、以後240℃、260℃と段階的に反応温度を高めて合計390分間、反応を行った。この間に、硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(3−2)の1グラム(11.2mmol)当たり水43.8ml(1.96mmol)が生成した。この反応物を冷却後、グローブボックス内に反応物を移し窒素ガスで完全に置換してグローブボックス内の酸素濃度を40ppm以下に保ちながら反応物(3−3)を反応器から気密な二つのプラスチック包装容器(ガスバリヤー袋)に分けて取り出し、黒色の反応物(3−3)を得た。
【0055】
反応物(3−3)の入ったプラスチック包装容器に空気を導入し30日余り後の酸素濃度を測定した結果から、反応物(3−3)は20.4ml/g(0.91mmol/g、0℃の換算値)の酸素を吸収していることが判明した。この反応物(3−3) はXRDの測定結果からアナターゼ型の結晶構造を有することが確かめられ、酸素ガスの吸収量から算出したxの値は0.16(= 0.91×2/11.2)であった。従って、ここで得られた反応物(3−3)は、TiO2−xで表した場合にTiO1.84であるアナターゼ型の結晶を保持した本発明の低次酸化チタン複合体であった。また、グローブボックスから取り出した際は黒色であった反応物(3−3)は、酸素を吸収した後には淡い灰色に変化した(3−4)。
【0056】
【発明の効果】
本発明のオリジナルの結晶構造を保持する新規な低次酸化チタンは、優れた酸素吸収能を示し再利用も可能であり、アナターゼ型の二酸化チタンは光触媒作用をも有するため、従来にみられない酸素吸収剤などの品質保持剤として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得た硫酸根とニッケル種を含む二酸化チタン複合体(1−2)のX線光電子分光スペクトルのチャートである。
【図2】実施例1で得た硫酸根とニッケル種を含む低次酸化チタン複合体(1−3)のX線光電子分光スペクトルのチャートである。
【図3】実施例1で得た硫酸根とニッケル種を含む低次酸化チタン複合体(1−3)の酸素の吸収量を示すグラフである。

Claims (11)

  1. 二酸化チタンの結晶構造を保持し、一般式TiO2−x(ここで、xは0.1から0.5の実数を示す)の化学式で表されるものであることを特徴とする低次酸化チタン。
  2. アナターゼの結晶構造を保持することを特徴とする、請求項1記載の低次酸化チタン。
  3. 請求項1又は2記載の低次酸化チタンに硫酸根を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
  4. 請求項1又は2記載の低次酸化チタンにニッケル種を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
  5. ニッケル種が、ニッケル原子を必須成分とする化合物、及び/又はニッケル原子を必須成分とする金属であることを特徴とする、請求項4記載の低次酸化チタン複合体。
  6. 請求項1又は2記載の低次酸化チタンに、硫酸根及びニッケル種を含むことを特徴とする、低次酸化チタン複合体。
  7. 酸素吸収能を有することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体。
  8. 硫酸根及び/又はニッケル種を含む二酸化チタンを、350℃以下の温度で、還元剤を用いて還元することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体の製造方法。
  9. 還元剤が水素である、請求項8記載の低次酸化チタン又はその複合体の製造方法。
  10. 請求項1乃至7のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体に酸素を吸収させた後、再び還元剤を用いて還元することを特徴とする、低次酸化チタン又はその複合体の再使用方法。
  11. 請求項1乃至7のいずれかに記載された低次酸化チタン又はその複合体に塩基性物質を添加することを特徴とする、低次酸化チタン又はその複合体の酸素の吸収速度を加速する方法。
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