JP2004132209A - 軸流形流体機械 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】軸流形流体機械のケーシング2内面に、羽根車1の入口側とケーシング内面の羽根存在域内を結ぶ圧力勾配方向の溝5を周方向に複数本形成する。各溝の幅は、羽根車の直径をDとしたとき、0.03D〜0.1Dの大きさとし、且つ周方向に複数本設けられた溝の溝幅合計(総溝幅)を、該溝の平均深さ部分におけるケーシング円周長で割った値(溝幅比WR)は0.1〜0.8とされている。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は非容積型の羽根車を有する軸流形流体機械に係わり、特に、羽根入口の再循環流の正流における予旋回および羽根旋回失速を抑制することにより流動不安定性を防止することが可能で、軸流ポンプやポンプ水車に適用して特に好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
ターボ機械と総称される回転機械は、取り扱う流体および形式によって以下のように分類可能である。
1.取り扱う流体
液体、気体
2.形式
軸流、斜流、遠心 現在、主に使用されているポンプは、上流から下流に向かってベルマウス、ケーシング、ポンプ及びディフューザ等から構成される。
【0003】
ポンプのケーシング内で回転する羽根車(インペラ)は回転軸によって回転駆動され、サクションケーシングから吸い込まれた液体にエネルギを与える。ディフューザは流体の速度エネルギの一部を静圧に変換する機能を有する。
【0004】
図15は図3に示すようなターボ機械の典型的な揚程−流量特性曲線であって、横軸は流量を表わすパラメータ、縦軸は揚程を表わすパラメータである。この図に示すように、低流量域では流量が増加するにつれて揚程は低下するが、流量がS領域にある間は流量が増加するにつれて揚程も増加する右上がり特性を示す。更に、流量が右上がり特性領域以上に増加すると、流量が増加するにつれ揚程は低下する。
【0005】
右上がり特性領域Sの流量でターボ機械を運転した場合には、流体のかたまりが管路内で自励振動するサージングが発生する。ターボ機械を流れる流体流量が減少したときインペラ入口外縁で再循環流が発生するが、このとき羽根に入る流体の流路が狭められ、流体に旋回が生じるため、前記右上がり特性が発生する(図15参照)。
【0006】
サージングはターボ機械だけでなく、上流および下流に接続される配管にも損傷を与えるため低流領域での運用は禁止されている。また、ターボ機械の運転領域を拡大するため羽根の形状(プロフィル)を改善するほか、下記に示すようなサージングを抑制する方法は知られている。
【0007】
1.ケーシングトリートメント
インペラが存在するケーシング領域に、羽根弦長の10〜20%の細い溝を形成することにより失速マージンを改善するものである。即ち、既に提案されているケーシングトリートメントは、ケーシング内壁の羽根の存在領域に、軸方向、周方向、もしくは斜め方向に、径向き、もしくは斜めに相当な深さを有する溝を形成するものである。
【0008】
2.セパレータ
低流領域で羽根入口外縁に発生する再循環流の逆流部分を順流部分と分離するためにセパレータを配置し、再循環流の拡大を防止するものである。
【0009】
軸流形流体機械(ターボ機械の一つ)に適用されているセパレータの例としては、吸込リング方式、ブレードセパレータ方式、及びエアセパレータ方式がある。
【0010】
吸込リング方式は、逆流を吸込リング外側に閉じ込めるものであり、ブレードセパレータ方式は、ケーシングとリングの間にフィンを設けるものである。また、エアセパレータ方式は、動翼(羽根)先端部を開放して逆流をケーシング外の流路に導き、フィンによって逆流の旋回を防止するものであり、前二者に比較して効果は大であるものの、装置が大規模となる。
【0011】
安定な運転が可能である右上がりの揚程曲線を得るための従来技術としては、上述のように、ケーシングトリートメントやセパレータを設けることは既に知られている。
【0012】
なお、遠心圧縮機のこの種公知例としては、特許文献1に記載されたものなどがある。また、特許文献2には、斜流ポンプのケーシング内面に、羽根入口側とケーシング内面の羽根存在域内を結ぶ複数本の溝を具備して、入口の旋回を抑制し右上がり特性のない揚程曲線を得るようにしたものもある。
【0013】
【特許文献1】
米国特許第4,212,585号
【特許文献2】
特開2000−303995号公報 (図5)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術のケーシングトリートメント及びセパレータによれば、揚程曲線の上記右上がり特性をより低流量側に移動して安定運転領域を拡大することは可能であるものの、ケーシングトリートメントにおいて失速マージンを10%向上させるごとに軸流形流体機械の効率は1%低下する。
【0015】
また、羽根入口側とケーシング内面の羽根存在域内を結ぶ溝を形成するようにしたものでは、溝の加工が容易で、効率低下も少なく、かつ右上がり特性のない揚程曲線を得ることができる。しかし、ケーシング内面に形成した複数の溝を羽根が回転しながら通過する時に、羽根からの流れと溝が干渉することにより圧力脈動が発生し、振動・騒音を増大させる可能性があることについては考慮されていない。
【0016】
更に、軸流形流体機械などのターボ機械においては、羽根入口付近などにキャビテーションが発生することがある。キャビテーションとはポンプを流れる液体の圧力が飽和蒸気圧近くまで低下した際、液体中には気化により多数の気泡が発生する現象であり、発生した気泡はポンプ内部を流動しポンプ内部の圧力回復に伴い気泡が崩壊する。キャビテーションの発生は、羽根車やケーシング壁面に損傷を与えると共に振動・騒音の増加、性能の低下といった弊害を生じることがある。
【0017】
ポンプがある運転状態においてキャビテーションを生じないためにポンプとして必要とするNPSHを”Re.NPSH”と呼ぶ。NPSHとは有効吸込ヘッドのことで、羽根車の基準面上の液体が持つ全圧が、その液体のその温度における飽和蒸気圧よりいくら高いかを表すものである。NPSHが低くなればなるほど飽和蒸気圧に近づき、キャビテーションが発生しやすい状態になる。つまり”Re.NPSH”は低ければ低いほど、そのポンプはキャビテーションを発生しにくいということを表す。
【0018】
キャビテーションは運転条件において、その発生状態は様々であるが、軸流形や斜流形のポンプでは、右上がり特性の発生する小流量においては”Re.NPSH”が高くなる傾向がある。つまり、キャビテーションを発生し易い状態となる。
【0019】
本発明の目的は、揚程−流量特性曲線の右上がり特性を改善し、運転範囲の拡大を図れる軸流形流体機械を得ることにある。
【0020】
本発明の他の目的は、設計点付近の安定な運転範囲においては、効率低下や振動・騒音の増大を抑制することのできる軸流形流体機械を得ることにある。
【0021】
本発明の更に他の目的は、キャビテーションによる性能低下を改善できる軸流形流体機械を得ることにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴は、ケーシング内面に、多数の羽根を有する軸流羽根車を回転自在に配置して構成された軸流形流体機械であって、ポンプの回転速度をN(rpm)、全揚程をH(m)、吐出量をQ(m3/min)としたとき、ポンプの特性を示す指数である比速度Ns(Ns=N×Q0.5/H0.75)が1000〜2200程度で、前記羽根車外径が200〜4000mmとしたものにおいて、前記ケーシングの内面に、前記羽根の入口側と羽根存在域内とを流体圧力の勾配方向に結ぶ溝を周方向に複数本設けると共に、前記各溝の幅を、前記羽根車の直径をDとしたとき、0.03D〜0.1D(好ましくは、0.03D〜0.08D)の大きさとし、且つ前記周方向に複数本設けられた溝の溝幅合計(総溝幅)を、該溝の平均深さ部分におけるケーシング円周長で割った値(溝幅比WR)を0.1〜0.8(好ましくは、0.25〜0.65)としたことにある。
【0023】
なお、前記軸流羽根車の最外径部である羽根先端の入口部側からの前記溝の下流端側までの距離L2を、該溝の深さdで割った値(下流長さ・深さ比DLDR)を4〜17(好ましくは5〜12)にすると良い。
【0024】
更に、前記圧力勾配方向の溝の溝幅を該溝の深さの2〜10倍(好ましくは3〜10倍)の大きさにすると良い。また、周方向に複数本設けた前記溝の総体積(総溝体積nWD)を、前記羽根車部体積で割った値(体積比VR)を0.01〜0.03(好ましくは0.015〜0.03)にすると良い。
【0025】
更にまた、前記圧力勾配方向の溝を周方向に接続する第2の溝を少なくとも1本以上設け、この第2溝の溝幅合計を、羽根先端部における軸方向長さ(子午面長さ)の約25%〜50%とすると、騒音低減効果が得られる。
【0026】
【発明の実施の形態】
効率を重視したポンプにおいては、最高効率流量を100%流量としたときに、50%〜70%流量付近の揚程曲線の一部に右上がり特性が顕著に現われる傾向がある。効率を重視しないものでも、50%流量〜70%流量付近で揚程曲線に平らな部分が生じる傾向がある。
【0027】
ポンプの運転流量は、ポンプ機場の吸込み側水位と吐き出し側水位との差として決まる実揚程とそのポンプ機場の配管抵抗を合計して決まる抵抗曲線とポンプの揚程曲線との交点として決まる。揚程曲線に右上がりの領域があると、揚程曲線と抵抗曲線との交点が複数になる場合があり、その場合交点が1つに定まらず、流量が定まらないためポンプの吐出量が不安定な範囲で変動し、ポンプの制御ができないことがある。特に、実揚程が高く、配管抵抗が小さい場合に顕著である。
【0028】
このため、最高効率と揚程の安定性とをバランスさせて右上がり特性のない揚程曲線になるようにするため、最高効率が下がる傾向にあった。また、ポンプに不安定領域がある場合には、ポンプ運転範囲が不安定な範囲に入らないように運転手順をつくり、制御していた。しかし、ポンプを回転速度制御するものでは、抵抗曲線との交点が不安定領域に入らない範囲までしか運転できず、そのため不安定領域に入ってしまう運転範囲を要求される場合にはポンプ容量を小さくて台数制御も併用する必要があった。このため、設備、制御方法が複雑になり、コスト上昇を招く問題があった。
【0029】
また、ポンプの揚程曲線の安定化を得る従来の方法では効率が下がり、消費動力が大きくなる問題もあった。
上記特許文献2に記載されたものは斜流ポンプに関するものであるが、これを軸流形流体機械に適用することについては考慮されていない。また、特許文献2記載の発明を軸流形流体機械に適用した場合、羽根が溝を通過する際に溝と羽根車からの流れが干渉することにより圧力脈動が生じ、その圧力脈動がポンプを加振し、ポンプ本体や配管より発生する振動及び騒音を増大させるという新たな課題もあることがわかった。ポンプ機場が住宅地に近接して据付けられる場合や、ポンプ機場周辺に住宅地が建設される場合には騒音・振動対策も必要になる。
【0030】
この騒音・振動対策も考慮し、かつ右上がり特性を改善でき、更に小流量のキャビテーションを改善した本発明の実施例を以下説明する。
なお、本実施例は、ポンプの回転速度をN(rpm)、全揚程をH(m)、吐出量をQ(m3/min)としたとき、ポンプの特性を示す指数である比速度Ns(Ns=N×Q0.5/H0.75)が1000〜2200程度、前記羽根車外径は200〜4000mm程度のものに対して効果があり、またそのポンプ機場の吸込水位と吐出水位から決まる実揚程がポンプの仕様点揚程の50%以上である場合に、特に効果がある。
【0031】
本発明の一実施例を添付図面を参照し、説明する。
図3は軸流形流体機械の一つである軸流ポンプの代表的な例を示す全体縦断面図である。図3において、1は軸流羽根を有する羽根車で、ケーシング2内に回転軸4により回転自在に設けられている。3はケーシング2に取り付けられた案内羽根で、羽根車1からの流れを案内しかつ回転軸4を支持する軸受11も支えている。図3の二点鎖線で囲ったA部付近の構造は、例えば図1に示すように、羽根入口側と羽根存在域内とを流体圧力の勾配方向に結ぶ軸方向の溝5が周方向に複数本設けられている。図2は図1のC−C線矢視図で、ケーシング2及び羽根車1を正面から見た図である。溝5は、ケーシング2の内面に、周方向に多数本設けられ、その溝の深さはその幅より小さい浅い溝の構成となっている。また、溝5は羽根先端部における軸方向の中程から、低流量時に再循環流が発生する羽根入口側の位置にかけて、流体圧力勾配方向に形成されている。このような溝5を設けることにより、羽根車1により圧力上昇した流体が溝5内を溝の下流側終端位置から溝の上流側終端位置に向かって逆流し、低流量時に発生する再循環流(羽根入口逆流)の発生場所に噴出して再循環流の発生を抑制し、再循環流により正流が予旋回を受けるのを抑制することができ、羽根旋回失速の発生を防止できる。
【0032】
本実施例の特徴の一つは、前記圧力勾配方向の溝5は、前記圧力勾配方向の溝の幅を前記軸流羽根車の直径で割った値が0.03〜0.1であり、また前記溝の溝幅合計(総溝幅)を該溝の平均深さにおけるケーシング円周長で割った値が0.1〜0.8となるようにしたことである。また、前記軸流羽根車の最外径側における羽根入口部から前記溝の下流側までの距離を溝深さの4〜17倍とし、更に前記溝の溝幅を溝深さの2〜10倍にする。前記溝の総溝体積を軸流羽根車部の体積で割った値は0.01〜0.03とされている。
【0033】
次に、本実施例における好ましい具体例を、図4〜図12により説明する。
図4は溝の具体的構成を説明するための寸法の定義を示す図である。
図5は、溝なし(溝5が形成されていない)の場合と、溝付きケース1および溝付きケース2の場合の一般性能を示す。供試ポンプは比速度2100、羽根車外径280mmである。図5の軸の定義は以下である。
【0034】
流量係数φ:
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、 Q:吐出し量(m3/min)、 A2:羽根車出口面積(m2)、 u2:羽根車出口径周速度(m/s) である。
【0037】
なお、
【0038】
【数2】
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、 N:回転速度(min−1)、 D2:羽根車外径(m)、 Dh:ハブ径(m) である。
【0041】
揚程係数ψ:
【0042】
【数4】
【0043】
ここで、H:全揚程(m)、 u2: 羽根車出口径周速度(m/s)、 g:重力加速度 9.81m/s2 である。
【0044】
軸動力係数ν:
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、P:軸動力(kW)、 ρ:密度(kg/m3)、 u2:羽根車出口径周速度(m/s)、 A2: 羽根車出口面積(m2) である。
【0047】
無次元効率η*:
【0048】
【数6】
【0049】
ここで、η:効率(%)、 ηnbep:溝なしの場合の最高効率(%) である。
【0050】
溝付きケース1は溝本数25本、溝幅11mm、溝深さ2.2mm、下流長さ12.3mmである。また、溝付きケース2は溝本数25本、溝幅22mm、溝深さ2.2mm、下流長さ24.5mmである。図5によれば、溝無しの場合、流量係数φが0.1〜0.2付近において揚程曲線に凹みがあり、揚程曲線が右上がりになる不安定を示している。これに対して、溝付きケース1および溝付きケース2は、いずれも揚程曲線の凹みが小さくなり、右上がりはほぼ解消されている。したがって前記のケーシング2に設ける溝5は不安定に効果があることが示されている。また図5において、溝付きケース1と溝付きケース2を比較すると、揚程曲線は、溝付きケース2の方がケース1よりも、さらに改善されている。一方効率については、溝付きケース1については、溝無しとほとんど差がないが、溝付きケース2については、溝無しのときより効率が低下している。溝の形状と安定化の効果、および効率の低下の3者には相関があるので、それについて次に述べる。
【0051】
図6に幅直径比WD2Rと不安定度ΔHRおよび無次元効率低下量Δη*を示す。
幅直径比WD2Rは、溝幅Wを羽根車直径D2で割った値であり、次式で示す。
【0052】
WD2R=溝幅W/羽根車直径D2
不安定度は次の次式で示す。
ΔHR=(Δψ)groove/(Δψ)no groove(%)×100(%)
ここで添字は、 groove:溝付き、 no groove:溝なし である。
また、無次元効率低下量Δη*は次式で示す。
Δη*=[(ηmax)no groove−(ηmax)groove]/[(ηmax)no groove]×100(%)
図6によれば、幅直径比WD2Rを大きくすると、不安定度ΔHRは単調に小さくなり、すなわち揚程曲線は安定になっていくが、無次元効率低下量Δη*については、あるところから急激に大きくなる傾向にある。幅直径比WD2Rの範囲としては、0.03〜0.1であり、好ましくは0.03〜0.08である。
【0053】
図7に溝幅比WRと不安定度ΔHRおよび無次元効率低下量Δη*を示す。
溝幅比WRは、総溝幅を溝平均深さにおけるケーシング円周長で割った値であり、次式で示す。
WR=溝本数n×溝幅W/溝平均深さにおけるケーシング円周長
図7によれば、溝幅比WRを大きくすると、不安定度ΔHRは単調に小さくなり、すなわち揚程曲線は安定になっていくが、無次元効率低下量Δη*については、あるところから急激に大きくなる傾向にある。溝幅比WRの範囲としては、0.1〜0.8であり、好ましくは0.25〜0.65である。
【0054】
図8に下流長さ・深さ比DLDRと不安定度ΔHRおよび無次元効率低下量Δη*を示す。下流長さ・深さ比DLDRは、最外径側である羽根先端の入口部側から測った溝の下流側端部までの距離L2を溝深さdで割った値であり、次式で示す。
DLDR=最外径側羽根先端から測った溝の下流側距離L2/溝深さd
図8によれば、下流長さ比DLDRを大きくすると、不安定度ΔHRは40%付近で頭打ちになるが、無次元効率低下量Δη*については、あるところから急激に大きくなる傾向にある。下流長さ・深さ比DLDRの範囲としては、4〜17であり、好ましくは5〜12である。
【0055】
図9に幅深さ比WDRと不安定度ΔHRおよび無次元効率低下量Δη*を示す。
幅深さ比WDRは、溝幅Wを深さdで割った値であり、次式で示す。
WDR=溝幅W/深さd
図9によれば、幅深さ比WDRを大きくすると、不安定度ΔHRは小さくなり、WDRが10付近で最小値を示しているが、無次元効率低下量Δη*については、あるところから急激に大きくなる傾向にある。幅深さ比WDRの範囲としては、2〜10であり、好ましくは3〜10である。
【0056】
図10は、体積比VRと不安定度ΔHRおよび無次元効率低下量Δη*を示す。
体積比VRは、溝総体積を羽根車部体積で割った値であり、次式で示す。
VR=総溝体積nWd/(羽根入口面積×最大外径側羽根軸方向長さ)
図10によれば、体積比VRを大きくすると、不安定度ΔHRは小さくなるが、無次元効率低下量Δη*については、あるところから急激に大きくなる傾向にある。体積比VRの範囲としては、0.01〜0.03であり、好ましくは0.015〜0.03である。
【0057】
図11は、指標JE N0.と不安定度ΔHRを示す。図中には、今回の発明の対象である比速度2100の軸流ポンプ(Ns2100)の結果と、参考に比速度830の斜流ポンプ(Ns830)と比速度1130の斜流ポンプ(Ns1120)の結果を示している。
【0058】
JE N0とは、溝形状の溝本数・溝幅・溝深さ・溝長さを用いて求める値であり、次式で示す。
JE No.=WR×VR×WDR×DLDR
ここで、WR:溝幅比、 VR:体積比、 WDR:幅深さ比、 DLDR:下流長さ・深さ比 である。
図11によれば、JE No.の範囲は0.3〜3.0であり、好ましくは0.7〜2.5である。
【0059】
図12に、吸込性能を示す。横軸を最高効率点の流量Qnとの比Q/Qnとし、縦軸は、溝なしにおける100%Qのときの3%揚程低下点のNPSHであるNPSHRnとの比NPSHR/NPSHRnで示した。Q/Qn=0.8〜1.2の間は溝の有無の影響はほとんどない。Q/Qn=0.6では、溝によりNPSHRが大幅に改善されている。改善された順番はQ/Qn=0.6における全揚程の大きさの順になっている。
【0060】
次に、前記圧力勾配方向の溝を周方向に接続する第2の溝(連通溝)を備えた場合の実施例について説明する。
図13は、前記圧力勾配方向の溝5を周方向に接続する第2の溝(連通溝)6を備えたときの羽根車1との関係を示す図である。本実施例では第2の溝6は1本であり、その溝幅は羽根1の先端部における軸方向長さの25%〜50%としている。溝6を複数本設ける場合には、複数の溝6の幅の合計が羽根先端部軸方向長さの25%〜50%とする。
【0061】
図14は、図13に示す第2の溝(連通溝)6を備えた場合の吐出し量と騒音との関係を示す線図で、横軸は、最高効率点の流量Qnとの比Q/Qnとし、縦軸は溝無し(Q/Qn=1.0)のときの騒音の値(単位dB デシベル)を基準値として、各測定点の騒音の値(単位:デシベルdB)を割った値である。またこの図には、溝なしの場合、溝付きケース2で連通溝がない場合、溝付きケース2でさらに溝幅が羽根先端部における軸方向長さ(子午面における軸方向長さ)の25%である連通溝をつけた場合、および溝付きケース2でさらに溝幅が羽根先端部軸方向長さの50%である連通溝をつけた場合を示している。この図から、第2の溝(連通溝)が前記圧力勾配方向の溝を周方向に接続することにより、騒音を低下させることができることがわかる。また、その第2の溝の幅は、羽根先端部軸方向長さの25%〜50%で少なくとも効果があることがわかる。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば、ケーシングの内面に、羽根の入口側と羽根存在域内とを流体圧力の勾配方向に結ぶ溝を周方向に複数本設けると共に、各溝の幅を、羽根車の直径の0.03〜0.1倍の大きさとし、且つ周方向に複数本設けられた溝の溝幅合計(総溝幅)を、該溝の平均深さ部分におけるケーシング円周長で割った値(溝幅比WR)を0.1〜0.8としているので、羽根で昇圧した流体の一部がケーシングに形成した溝を逆流し、再循環流の発生場所に噴出することにより、羽根車へ流入する流体中に予旋回が発生するのを抑制できる。これにより、羽根入口における、再循環流による旋回の発生および羽根旋回失速の発生を抑制できるので、効率低下を抑制しつつ右上がり特性が改善された揚程−流量特性曲線を有する軸流形流体機械が得られ、軸流形流体機械の運転範囲の拡大できる効果がある。
【0063】
また、前記溝を設けることにより、小流量運転側でのキャビテーション発生も抑制でき、キャビテーションによる性能低下も改善できる。
更に、羽根車入口側とケーシング内面の羽根存在域内を結ぶ圧力勾配方向の溝を周方向に接続する第2の溝を設ける構造としたことにより、該溝と羽根車の干渉による振動・騒音が少なく、効率もより良好な運転状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す軸流形流体機械の要部を示す子午面断面図である。
【図2】図1のc−c線矢視図である。
【図3】従来の軸流形流体機械の全体構成を示す子午面断面図である。
【図4】本発明の実施例における溝形状の定義を説明する図である。
【図5】本発明の一実施例におけるポンプの性能を示す線図である。
【図6】本発明における溝の幅直径比WD2Rと、不安定度ΔHR及び効率低下量Δη*との関係を説明する線図である。
【図7】本発明における溝の溝幅比WRと、不安定度ΔHR及び効率低下量Δη*との関係を説明する線図である。
【図8】本発明における溝の下流長さ・深さ比DLDRと、不安定度ΔHR及び効率低下量Δη*との関係を説明する線図である。
【図9】本発明における溝の幅深さ比WDRと、不安定度ΔHR及び効率低下量Δη*との関係を説明する線図である。
【図10】本発明における溝の体積比VRと、不安定度ΔHR及び効率低下量Δη*との関係を説明する線図である。
【図11】本発明におけるJE No.と不安定度との関係を説明する線図である。
【図12】本発明における吸込性能を説明する線図である。
【図13】周方向に連絡する第2の溝(連通溝)を有する本発明の実施例の構成を説明する図である。
【図14】図13に示す実施例における効果を説明する線図である。
【図15】従来の軸流形流体機械の典型的な揚程−流量特性曲線を示す図である。
【符号の説明】
1…羽根車、2…ケーシング、3…案内羽根、4…回転軸、5…溝、6…第2の溝(連通溝)、11…軸受。
Claims (9)
- ケーシング内面に、多数の羽根を有する軸流羽根車を回転自在に配置して構成された軸流形流体機械であって、ポンプの回転速度をN(rpm)、全揚程をH(m)、吐出量をQ(m3/min)としたとき、ポンプの特性を示す指数である比速度Ns(Ns=N×Q0.5/H0.75)が1000〜2200程度で、前記羽根車外径が200〜4000mmとしたものにおいて、
前記ケーシングの内面に、前記羽根の入口側と羽根存在域内とを流体圧力の勾配方向に結ぶ溝を周方向に複数本設けると共に、前記各溝の幅を、前記羽根車の直径をDとしたとき、0.03D〜0.1Dの大きさとし、且つ前記周方向に複数本設けられた溝の溝幅合計(総溝幅)を、該溝の平均深さ部分におけるケーシング円周長で割った値(溝幅比WR)を0.1〜0.8としたことを特徴とする軸流形流体機械。 - 請求項1において、前記軸流羽根車の最外径部である羽根先端の入口部側からの前記溝の下流端側までの距離L2を、該溝の深さdで割った値(下流長さ・深さ比DLDR)を4〜17としたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項1または2において、前記圧力勾配方向の溝の溝幅を該溝の深さの2〜10倍の大きさにしたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、周方向に複数本設けた前記溝の総体積(総溝体積nWD)を、前記羽根車部体積で割った値(体積比VR)を0.01〜0.03としたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項1において、前記各溝の幅を、前記羽根車の直径をDとしたとき、0.03D〜0.08Dの大きさとし、且つ前記周方向に複数本設けられた溝の溝幅合計(総溝幅)を、該溝の平均深さ部分におけるケーシング円周長で割った値(溝幅比WR)を0.25〜0.65としたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項2において、前記下流長さ・深さ比DLDRを5〜12としたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項3において、前記圧力勾配方向の溝の溝幅を該溝の深さの3〜10倍の大きさにしたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項4において、前記体積比VRを0.015〜0.03としたことを特徴とする軸流形流体機械。
- 請求項1〜8の何れかにおいて、前記圧力勾配方向の溝を周方向に接続する第2の溝を少なくとも1本以上設け、この第2の溝の幅の合計を、羽根先端部における軸方向長さ(子午面長さ)の約25%〜50%としたことを特徴とする軸流形流体機械。
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