JP2004131799A - 変形性能および低温靱性ならびにhaz靱性に優れた高強度鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】母材部の組織が、平均粒径で5μm以下のフェライトを面積率で20%以上含有するベイナイト主体組織であり、かつフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧オーステナイト粒界上に生成した組織中に下部ベイナイトを面積率で5%以上含有することを特徴とする変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変形能、低温靱性およびHAZ靱性に優れた高強度ラインパイプ鋼管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、経済性、安全性等の面から溶接構造物(建築、圧力容器、造船、ラインパイプ)における、高張力鋼の使用は多岐にわたり、溶接性高張力鋼の需要は着実な増加を示している。溶接構造物に使用される鋼は当然のことながら高強度に加え、安全性、作業性の面から、高靱性と優れた変形能を併せ持つことが要求されるが、これらの特性を満足する鋼の製造法として現在ではラインパイプ材の製造に広く使用されている制御圧延制御冷却法(TMCP法)と制御圧延法(CR法)がよく知られている。しかしながら、制御冷却法(TMCP法)で製造した鋼では、圧延後急冷を行った場合、ベイナイト組織となり、強度が高すぎるため延性が低下する問題がある。さらに制御圧延(CR法)の方法では、圧延組織はフェライト・パーライトであり、フェライト粒径も大きくなるため得られる低温靱性は良好でなくなる。
【0003】
例えば、特許文献1,特許文献2および特許文献3における提案では低温靱性については優れた特性を有することが可能なものの延性特性、特に、一様伸びについては議論されておらず、この方法では延性に優れた鋼板あるいは鋼管を製造することができないという問題があった。
【特許文献1】
特公平1−27128号公報
【特許文献2】
特公昭62−5216号公報
【特許文献3】
特公平7−76377号公報
【0004】
さらに、ラインパイプなどの内外面の溶接を行う場合には、溶接熱影響部靱性(HAZ靱性)に優れた鋼管を開発する必要がある。一般的にラインパイプにおいては粗粒再熱HAZ部の靱性が著しく低下することが知られており、この部位に優れた特性を有する鋼管を製造する必要がある。
【0005】
例えば、特公平6−94569「溶接熱影響部の低温靱性に優れた鋼の製造方法」、特公平5−41683「溶接部靱性の優れた低温用高張力鋼の製造法」あるいは、特公平5−27703「溶接熱影響部靱性の優れた高張力鋼」における提案では、HAZ靱性に関して粗粒HAZ部の靱性しか記載されておらず、粗粒再熱HAZ部の靱性については記載がなく、HAZ靱性に優れた鋼管を開発することはできない。さらに、特公平5−25580号公報「低温靱性に優れた大径鋼管の製造方法」においては溶接熱影響部のどの位置を調査しているのか不明であり、また、特公平8−19461号公報「高張力鋼板の製造法」においては50%溶接金属と50%溶接熱影響部の場所にノッチを入れて評価しているものの、その靱性(−20℃でのシャルピー吸収エネルギー)は70J程度しか得られておらず、良好な結果が得られていないという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、変形性能に優れ、かつ低温靱性、HAZ靭性に優れたX80グレード(降伏応力が560MPa以上、引張り応力が630MPa以上830MPa未満)の機械的性質を有するラインパイプ用高強度鋼管とその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)母材部の組織が、平均粒径で5μm以下のフェライトを面積率で20%以上含有するベイナイト主体組織であり、かつフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧オーステナイト粒界上に生成した組織中に下部ベイナイトを面積率で5%以上含有することを特徴とする変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
(2)前記母材部が、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.6〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.0050%以下、Nb:0.01〜0.10%、Mo:0.05〜0.50%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる上記(1)に記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
(3)前記母材部が、さらに、質量で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜1.5%、V:0.01〜0.10%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0001〜0.0050%、および、Mg:0.0001〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する上記(1)および(2)の何れかに記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
(4)質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.6〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.0050%以下、Nb:0.01〜0.10%、Mo:0.05〜0.50%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼片を再加熱し、再結晶温度域で圧延後、900℃以下の未再結晶温度域で累積圧下率50%以上の仕上圧延を行い、その後、Ar3点以上の温度から500℃までを1〜40℃/sの冷却速度で冷却し、その後、前記の冷却速度より速くかつ5℃/s以上の冷却速度で300℃以下までを加速冷却させて鋼板とし、該鋼板を管状に冷間成形した後、該鋼板の突き合わせ部をシーム溶接して鋼管とし、さらに、該鋼管のシーム溶接部を200℃〜Ac1点未満の温度で加熱処理を行うことを特徴とする変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管の製造方法。
(5)前記鋼片が、さらに、質量で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜1.5%、V:0.01〜0.10%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0001〜0.0050%、および、Mg:0.0001〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する上記(4)に記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、変形性能(延性)、特に一様の伸びと低温靱性、HAZ靭性に優れた高強度鋼管の製造法について上記課題を解決すべく様々な制御圧延・制御冷却法(TMCP法)に適した成分系、加熱圧延、冷却プロセスについて多数の実験と詳細な検討を実施した。その結果、母材部の組織が、平均粒径で5μm以下のフェライトを面積率で20%以上含有するベイナイト主体組織であり、かつフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧オーステナイト粒界上に生成した組織中に下部ベイナイトを面積率で5%以上含有する母材を作り出せば一様伸びが10%以上で、かつ0℃でのシャルピー吸収エネルギーが200J以上の変形性能に優れ、かつ低温靭性、HAZ靭性に優れた高強度鋼管を製造しうることを知見した。
【0009】
即ち、強度・延性バランスにおいて、延性、特に一様伸びを向上させるためにはフェライトを多く析出させることが重要である。この理由は、フェライト、ベイナイト、マルテンサイトの3者の一様伸びを比較した場合、フェライトが最も柔らかいために一様伸びが最も大きくなるからである。しかしながら、ただ単にフェライトを多く析出させるだけでは制御圧延後空冷処理を行えばよいというものでなく、制御圧延法だけでは強度が低下するため合金元素を多量に添加せざるを得ず、必然的にコスト高になるという問題がある。また、フェライト中に転位が多く存在するような加工フェライトが生成する場合にはポリゴナルフェライトに比べて一様伸びが著しく低下するため好ましくない。
【0010】
また、強度・低温靱性バランスにおいて低温靱性、特に0℃のシャルピー吸収エネルギーを向上させるには低Cとし、かつフェライトおよび第2相(ベイナイト)を微細に分散させてシャルピー吸収エネルギーを向上させることが必要である。低Cにするということは第2相(ベイナイト)を微細に分散させるということを意味する。
【0011】
上述したような強度・延性バランス、あるいは強度・低温靱性バランスに優れた鋼管を製造するためには、再結晶・未再結晶温度域でそれぞれ十分な圧延を行い、平均γ粒径を十分細粒化した後、500℃以上の温度域では冷却速度を小さくし、20%以上のフェライトを生成させた後、できる限り大きな冷却速度で300℃以下に冷却させて残部をベイナイト組織とすることによって、フェライト粒径が5μm以下で、かつフェライト分率が20%以上で、第2相(ベイナイト)が均一に分散し、一様伸びと0℃のシャルピー吸収エネルギーに優れた母材を製造することが必要である。
【0012】
上記ミクロ組織を達成させるための圧延後の冷却条件については、まずフェライト粒径が5μm以下でかつ、フェライトを20%以上生成させるには、500℃以上での冷却速度の制御が重要となるため、500℃以上での冷却速度について検討した結果、冷却速度を40℃/s以下にすることでフェライト粒径が5μm以下でかつ、フェライトを面積率で20%以上の組織が得られる。しかしながら、500℃未満の温度でも5℃/s以下にすると降伏強度あるいは引張り強度がX80グレードを達成できなくなるため、500℃未満の冷却速度を5℃/s以上にする必要がある。
【0013】
上述した母材を用いてUOE成形等により鋼管に造管後、実施部をシーム溶接するが、シーム溶接部近傍のHAZ部組織が高強度鋼管を作る上で重要なものとなる。
【0014】
溶接熱影響部靱性(HAZ靱性)について述べる。X80グレードの高強度鋼管のHAZ靱性を良好にするには、特に粗粒再熱HAZ部の靱性を向上させる必要があり、そのための溶接部の熱処理条件について検討を実施した。その結果、図1の粗粒再熱HAZ部の模式図、また、図2の粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界を拡大したミクロ組織の模式図に示したように、粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界上の組織中に下部ベイナイトを5%以上含有することで、粗粒再熱HAZ部の靱性が向上することが明らかとなった。
【0015】
ここでいう粗粒再熱HAZ部とは、鋼管内側および外側からの何れかの最初のシーム溶接の溶接熱により形成されたHAZ部が、その後のシーム溶接の溶接熱により再加熱された領域のうちで、特に、溶接金属と溶接熱影響部の境界(フュージョンライン)近傍で、かつAc1〜Ac3の温度で再加熱された領域をいう。図2(a)に示すように、粗粒再熱HAZ部は、最初のシーム溶接の溶接熱により形成されたHAZ部のうちで、フュージョンライン近傍領域は、特に加熱温度が高いためにγ粒の粒成長により粗大化する結果、粗大粒径の旧γ粒(ベーナイト主体組織)が多く生成する。このように、フュージョンライン近傍領域に多く存在する粗大な旧γ粒(ベーナイト主体組織)が、さらに、その後のシーム溶接の溶接熱によりAc1〜Ac3の温度に再加熱されると、粗大な旧γ粒界上を取り囲むようにγが生成、成長後、冷却により変態して粗大なマルテンサイトに変態する。この粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界に生成した粗大なマルテンサイトは破壊の発生点となり、シャルピー吸収エネルギーを低下させる要因となる。そのため、HAZ靱性を向上させるには、この粗大なマルテンサイトを減少させる必要がある。
【0016】
そこで、鋼管の粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界上に生成した粗大なマルテンサイトを減少させるためのシーム溶接部の熱処理条件について鋭意検討した。
【0017】
図3に鋼管シーム溶接部の熱処理温度と粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界に生成した組織中の下部ベイナイト分率および−10℃でのシャルピー吸収エネルギーの関係を示す。シーム溶接部をAc1点以下の加熱温度で熱処理することによって、図2(b)に示すように粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界に生成したマルテンサイトの一部がセメンタイトに分解後、下部ベイナイト組織に変態し、粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界に生成した組織中の下部ベイナイト分率の増加にともなってHAZ靱性が向上し、−10℃でのシャルピー吸収エネルギーを100J以上にするには、下部ベイナイト分率が5%以上であれば良いことが判明した。この下部ベイナイトを5%以上生成させるためには、シーム溶接部を熱処理する際の加熱温度を200℃以上Ac1点未満の温度とすれば良いことも明らかとなった。
【0018】
そこで、本発明では、HAZ靱性を十分に向上させるためにフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧γ粒界上に生成した組織が下部ベイナイトを面積率で5%以上含有するものとする。
【0019】
また、本発明でフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧γ粒界上に生成した組織中に下部ベイナイトを面積率で5%以上含有させるために、鋼管シーム溶接部を熱処理する際の加熱温度を200℃〜Ac1点未満の温度、好ましくは、この加熱温度を200〜400℃の温度範囲とするのがよりHA靱性を向上できる。
【0020】
なお、母材成分でC量が0.07%以下の鋼管では、粗粒再熱HAZ部に旧γ粒界上に生成する粗大なマルテンサイト量が少なくなり、それによるHAZ靱性の低下が顕著に見られなくなるが、この場合でもシーム溶接部の熱処理の実施によりさらにHA靱性を向上する必要がある場合に有効となる。
【0021】
以下、本発明の成分の限定理由について述べる。
【0022】
Cは、鋼における母材強度を向上させる基本的な元素として欠かせない元素であり、その有効な下限値として0.02%以上の添加が必要であるが、0.12%を越える過剰の添加では、鋼材の溶接性や靱性の低下を招くので、その上限を0.12%とした。
【0023】
Siは、製鋼上脱酸元素として必要な元素であり、鋼中に0.02%以上の添加が必要であるが、0.5%を越えると溶接部ならびに低温靱性およびHAZ靱性を低下させるのでそれを上限とする。
【0024】
Mnは、母材の強度および靱性の確保に必要な元素であるが、2.2%を越えると焼き入れ性が増加し、ベイナイトあるいは島状マルテンサイトが多量に生成し、母材ならびに溶接部の靱性を著しく阻害するが、逆に0.6%未満では、母材の強度確保が困難になるために、その範囲を0.6〜2.2%とする。
【0025】
Pは、鋼の靱性に影響を与える元素であり、0.01%を越えて含有すると鋼材の母材だけでなく溶接部の靱性を著しく阻害するのでその含有される上限を0.01%とした。
【0026】
Sは、0.0050%を越えて過剰に添加されると粗大な硫化物の生成の原因となり、母材ならびに溶接部の靱性を劣化させるのでその含有される上限を0.0050%とした。
【0027】
Nbは、圧延組織の細粒化、焼き入れ性の向上と析出硬化のため含有させるもので強度・低温靱性を共に向上させる重要な元素である。制御圧延材では0.1%を越えて添加しても材質効果がなく、また、溶接性およびHAZ靱性に有害であるために上限を0.1%に限定した。また、下限0.01%は材質上の効果を有する最小値である。
【0028】
Moは、母材の強度・低温靱性をともに向上させる元素であるが、0.05%未満では顕著な効果がない。一方多すぎると焼き入れ性を増大させ、母材、溶接部の靱性を劣化させるので上限を0.50%とした。
【0029】
Alは、通常脱酸材として添加されるが、0.05%を越えると溶接部の靱性が劣化するために下限を0.05%とした。Alは必ずしも添加する必要がない。
【0030】
Tiは、添加量が少ない範囲(Ti:0.005〜0.03%)では微細なTiNを形成し、圧延組織およびHAZの細粒化、つまり、靱性向上に効果的である。この場合NとTiは化学量論的に当量近傍が望ましく、0%≦Ti−3.4N≦0.02%が良好である。また、本発明では、Nを固定、Bの焼き入れ性を保護する効果を併せ持つ。Ti添加量の上限は微細なTiNが鋼片中に通常の製法で得られ、また、TiCによる靱性劣化が起きない条件から0.030%とした。また、0.005%未満ではTiNの十分な効果が得られないので下限を0.005%とした。
【0031】
Nは、溶鋼中に不可避的に混入し、鋼の靱性を劣化させる。特に多量のフリーNはHAZ部に島状マルテンサイトを発生させやすく、HAZ部を大幅に劣化させる。このHAZ部靱性および母材靱性を改善する目的で前記したようにTiを添加するが、Nが0.006%を越えると鋼中のTiNサイズが大きくなり、TiNの効果が減少するためにNの上限を0.006%とした。また、0.0001%以下ではTiNが十分生成されないために下限とした。
【0032】
次に選択元素について述べる。
【0033】
Niは、HAZの硬化性および靱性に悪影響を与えることなく母材の強度・低温靱性を向上させる特性を持つが、0.1%未満ではその効果が無く、1.0%を越えるとHAZの硬化性および靱性上好ましく無いため、下限を0.1%、上限を1.0%とした。
【0034】
Crは、母材の強度を高め、耐水素誘起割れ性にも効果を有するが、0.1%未満では顕著な効果が無く、1.0%を越えるとHAZの硬化性を増大させ、低温靱性・溶接性の低下が大きくなり好ましくない。このため、下限を0.1%、上限を1.0%とした。
【0035】
Cuは、Niとほぼ同等の効果を持つと共に、耐食性、耐水素誘起割れ性にも効果がある。しかし、0.1%未満ではNi同様顕著な効果が無く、1.5%を越えるとNiを添加しても圧延中に割れが発生し、製造が難しくなる。このため、下限を0.1%、上限を1.5%とした。
【0036】
Vは、Nbとほぼ同様の効果をもつが、0.01%以下では顕著な効果が無く、上限は0.10%まで許容できる。
【0037】
Bは、圧延中にオーステナイト粒界に偏析し、焼き入れ性を上げ、ベイナイト組織を生成しやすくするが、0.0001%未満では顕著な焼き入れ性改善効果が無く、0.003%超になるとBNやBconstituentを多く生成するようになるために母材やHAZの靱性を劣化させる。このため、下限を0.0001%、上限を0.003%とした。
【0038】
Ca、REMは、MnSを球状化させ、シャルピー吸収エネルギ−衝撃値を向上させる他、圧延によって、延伸化したMnSと水素による内部欠管の発生防止を防止する。REMの含有用については0.0001%未満であると事実上効果が無く、また、0.005%を越えて添加するとREM−SまたはREM−O−Sが大量に生成して大型介在物となり、鋼の低温靱性のみならず清浄度を害し、また溶接性についても悪影響を及ぼす。CaについてもREMと同様の効果をもち、その有効範囲は0.0001〜0.005%である。
【0039】
Mgは、Tiとの複合脱酸によって微細な酸化物が微細分散し、溶接部の粗大粒成長の防止、粒内フェライトが生成、MnSの球状化によってシャルピー吸収エネルギ−、延性脆性遷移温度が向上する。0.0001%未満であると事実上効果が無く、また、0.005%を越えて添加すると粗大なMg酸化物、Mg硫化物が生成して大型介在物となり、鋼の低温靱性のみならず清浄度を害し、また溶接性についても悪影響を及ぼす。
【0040】
次に製造条件について述べる。
【0041】
以上のような化学成分を有していても、適正な製造条件を採用しなければ所望の組織は得られない。微細なフェライトが分散して存在するベイナイト組織を得る原理的な方法は、再結晶粒を未再結晶温度域で加工し、板厚方向に偏平したオーステナイト粒とし、これをフェライト生成が微細に生成する冷却速度で冷却し、その後急冷して残りの組織を低温変態させることである。以下に具体的な製造条件を述べる。
【0042】
鋼片の加熱温度は1000〜1250℃とすることが好ましい。この理由は、加熱時のオーステナイト粒を小さく保ち圧延組織の細粒化を図るためである。1250℃は加熱時のオーステナイト粒が極端に粗大化しない上限であって、加熱温度がこれを超えるとオーステナイト粒が粗大混粒化し、冷却後の上部ベイナイト組織も粗大化するため、鋼の靱性が著しく劣化する。一方、加熱温度が余りに低すぎると、Nb,Vなどの析出硬化元素が十分に固溶せず強度・低温靱性バランスが劣化するだけでなく、圧延温度が下がりすぎるために、制御冷却による十分な材質向上効果が期待できない。このため、下限を1000℃とする必要がある。
【0043】
熱間圧延における未再結晶圧延は900℃以下、好ましくは700〜850℃、で行い、その未再結晶温度域での圧下量を50%以上とすることが好ましい。この理由は未再結晶温度での十分な圧延を加えることによってオーステナイト粒の細粒化・延伸化を徹底するためである。しかし、仕上げ温度が不適当であると良好な強度・低温靱性が得られない。また、未再結晶圧延温度の下限が700℃未満では、過度の変態点以下の(γ+α)域圧延によって加工フェライトが多く生成し、延靱性が劣化すると同時に、制御圧延による十分な強度上昇効果が期待できない。一方、未再結晶圧延温度が余りにも高すぎると制御圧延によるオーステナイト粒の細粒化効果が期待できず靱性が低下する可能性があり、上限を900℃、好ましくは850℃とする。
【0044】
その後、Ar3点以上の温度から500℃までの温度域を1〜40℃/sの冷却速度で冷却し、引続き前記の冷却速度より速く5℃/s以上の冷却速度で300℃以下までを加速冷却して鋼板とする。この理由は、フェライト生成が500℃で終了するので、その後、強加速冷却して残部を低温変態させベイナイト組織とする。複相組織とするためには、前段よりも急速冷却する必要があるが、一般に1℃/s以下、40℃/s以上の冷却速度では十分な低温変態が生じない。望ましくは30℃/秒程度以上で冷却するのが望ましい。なお、冷却速度は板厚中心での平均速度である。また、300℃超で冷却を停止すると十分低温変態が完了せず、X80の強度を満足させられないので、300℃以下までを5℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。熱延鋼帯の場合は、300℃以下で巻き取ることと同義である。前段と後段の冷却は連続的に行われるのが望ましいが、設備配置によっては、不連続となることがある。この場合も、フェライトの粗大化を抑制するために前段と後段の間は30秒以下程度にする必要がある。
【0045】
次に鋼管造管後の溶接部の熱処理条件について述べる。200℃〜Ac1点以下の温度で溶接部の加熱処理を行うことによって、粗粒再熱HAZ部での旧γ粒界に生成したマルテンサイトが一部下部ベイナイト組織に変わり、シャルピーエネルギーが向上するためにAc1点以下の熱処理条件を行う必要がある。好ましくは200〜400℃の範囲で内外面溶接後に行うことが望ましい。上述したが、C量が0.07%以下の鋼では、粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界に生成するマルテンサイトが微細になるため、シーム溶接部にAc1点以下の熱処理を必ずしも行う必要はない。
【0046】
【実施例】
次に、本発明の実施例について述べる。
【0047】
転炉、連続鋳造工程で製造した表1、表2(表1のつづき)に示す種々の化学成分の鋳片を用い、製造プロセスを変えて板厚10〜20mmの鋼板を製造した。この時の鋼板の機械的性質を表3〜表6(表4〜表6は表3のつづき)に示す。これらの鋼板を冷間成形し、仮付け溶接、内外面溶接、シーム熱処理を行った後、拡管を行いUOE鋼管とした。その鋼管の母材および溶接部の機械的性質を表3〜表6に示した。なお、粗粒再熱HAZ部の靱性としてはノッチ位置を溶接会合部から母材側に1mm離れた場所としたシャルピー試験を行った。本発明に従って製造した鋼管1〜24はいずれも優れた母材、溶接部の特性を有している。なお、鋼11、鋼14については、シーム熱処理を実施していないがこれは用いた鋼板のC量が0.07%以下であるためである。
【0048】
これに対して、本発明の範囲を外れる比較鋼25〜40は母材延性或いは母材低温靱性あるいは溶接部の靱性のいずれかが不満足で、溶接鋼管としてのバランスに欠けている。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【発明の効果】
本発明により強度・低温靱性、延性および溶接性の優れたラインパイプ用鋼板およびラインパイプ鋼管の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】粗粒再熱HAZ部の模式図である。
【図2】粗粒再熱HAZ部の旧γ粒界を拡大したミクロ組織の模式図で、(a)は熱処理なしの組織を、(b)は400℃加熱の場合の組織を示す模式図である。
【図3】溶接部の熱処理温度と下部ベイナイト分率とHAZ靱性の関係を示す図である。
Claims (5)
- 母材部の組織が、平均粒径で5μm以下のフェライトを面積率で20%以上含有するベイナイト主体組織であり、かつフュージョンライン近傍の溶接熱影響部の粗大な旧オーステナイト粒界上に生成した組織中に下部ベイナイトを面積率で5%以上含有することを特徴とする変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
- 前記母材部が、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.6〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.0050%以下、Nb:0.01〜0.10%、Mo:0.05〜0.50%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる請求項1に記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
- 前記母材部が、さらに、質量で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜1.5%、V:0.01〜0.10%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0001〜0.0050%、および、Mg:0.0001〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する請求項1および2の何れかに記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管。
- 質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.6〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.0050%以下、Nb:0.01〜0.10%、Mo:0.05〜0.50%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0060%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼片を再加熱し、再結晶温度域で圧延後、900℃以下の未再結晶温度域で累積圧下率50%以上の仕上圧延を行い、その後、Ar3点以上の温度から500℃までを1〜40℃/sの冷却速度で冷却し、その後、前記の冷却速度より速くかつ5℃/s以上の冷却速度で300℃以下までを加速冷却して鋼板とし、該鋼板を管状に冷間成形した後、該鋼板の突き合わせ部をシーム溶接して鋼管とし、さらに、該鋼管のシーム溶接部を200℃〜Ac1点未満の温度で加熱処理を行うことを特徴とする変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管の製造方法。
- 前記鋼片が、さらに、質量で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜1.5%、V:0.01〜0.10%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0001〜0.0050%、および、Mg:0.0001〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する請求項4に記載の変形性能および低温靱性ならびにHAZ靱性に優れた高強度鋼管の製造方法。
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