JP2004129549A - 脂肪由来細胞群からの間葉系幹細胞の選択的増殖方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】間葉系組織の再建医療に必要な症例当たり108個以上の間葉系幹細胞を患者に負担をかけることなく得ることができ、選択的に間葉系幹細胞を増殖させることができる手段を提供することである。また、間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化が可能な手段を提供することである。
【解決手段】ヒトから採取した少量の脂肪片を酵素処理して得られる細胞型の混合集団から、遠心分離によって浮遊性の脂肪細胞集団を分離し、これを培養液を満たした培養器の天井面に接触させた状態で静置した時に下床面に沈降して増殖する線維芽様細胞で、継代培養によって増殖し、少なくとも骨、軟骨、脂肪の細胞に分化できる間葉系幹細胞を得る方法を提供する。
【選択図】図2
【解決手段】ヒトから採取した少量の脂肪片を酵素処理して得られる細胞型の混合集団から、遠心分離によって浮遊性の脂肪細胞集団を分離し、これを培養液を満たした培養器の天井面に接触させた状態で静置した時に下床面に沈降して増殖する線維芽様細胞で、継代培養によって増殖し、少なくとも骨、軟骨、脂肪の細胞に分化できる間葉系幹細胞を得る方法を提供する。
【選択図】図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂肪細胞集団から分化能の異なる間葉系幹細胞を選択的に得る方法またはその方法により得た間葉系幹細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
(産業上の利用分野)
「医薬」に依存してきた医療に代わって、人体内の複雑系を人体外で量産し、障害や機能不全に陥った複雑系と置換する再生医療の時代が始まっている。これからは、「医薬」が「医療材料」に主役を謙り、「医療材料」を生産する産業が製薬産業と肩を並べる時代になる。このような「医療材料」の中で、最も重要視されるのが幹細胞である。最近、高い増殖性と多分化能を持つ多くの幹細胞が各国で発見されて、これを人体から分離して増殖させたり、人体の部分構造を形成させる技術開発が活発に進められている。このような幹細胞には、人体のあらゆる細胞に分化する胚性幹細胞(万能細胞)、血球系細胞を生み出す血球系幹細胞、パーキンソン病などの中枢神経系の障害の治療に利用できる神経系幹細胞などがある。人体の骨組みを形成している骨、軟骨、骨格筋、心筋、平滑筋、および脂肪などの間葉系組織の細胞に分化できる間葉系幹細胞も発見されている。この間葉系幹細胞を患者から簡便かつ安全に分離して体外で大量に増殖させる技術が開発されれば、失われたり機能低下した間葉系組織を補強、修復、および再生させる医療分野に根底的な改革をもたらすものと期待される。
【0003】
(従来の技術)
白血病、再生不良性貧血、およびリンパ腫などの血球系細胞の異常による疾病を治療するために、健常者の骨髄から採取した血球系幹細胞を含む細胞集団を患者に移植する骨髄移植法が確立されている。この骨髄移植法では、組織適合性の不一致による拒絶反応を回避するために、骨髄バンクという公的システムを発達させて多数の登録者の中から患者と組織適合性が一致する供与者を検索し、血縁者間だけでなく他人間で移植できる体制が整備されている。この骨髄移植法では、採取した骨髄液に何の操作も加えず患者に移植しており、幹細胞を体外で増殖培養させることはなかった。
【0004】
重度の熱傷、糖尿病患者の慢性皮膚潰瘍、高齢者の床ずれ、色素性母斑等の治療に用いることを目的にした培養皮膚が開発されている。これには培養真皮と培養表皮があるが、何れの場合にも、用いられている細胞が線維芽細胞または表皮角化細胞にしか分化せず、多分化能を持つ間葉系幹細胞を利用していない。また、救急治療に用いることを目的に、培養皮膚では組織適合性が一致しない個人間の移植も想定されている。
【0005】
多様な間葉系組織の細胞に分化する能力を持っている間葉系幹細胞が骨髄液に潜在することが数年前に発見され、これを分離する方法が開発されている。この間葉系幹細胞は骨髄液に含まれる細胞の0.01から0.001%に過ぎず、間葉系組織の再生治療に必要となる108個以上の細胞数を準備するには、100から1000リットルもの骨髄液が必要になる。臨床現場の研究者が患者の骨髄液から分離したこの種の細胞を培養操作を加えずに自家移植する治療を試みているが、大量の骨髄液の採取は患者に大きな負担を与えるだけでなく危険を伴う。
【0006】
多分化能を持つ幹細胞が結合組織に内在していることを我々は1998年に発見している(Kawaguchi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1998; 95: 1062 −1066)が、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校のMarc H. Hedrickらはこの幹細胞の分離を目指して、肥満患者から吸引採取した大量の脂肪組織を遠心分離して、沈降画分(SVF)の細胞集団に間葉幹細胞が含まれることを発表した(Zuk et al., Tissue Engineering, 2001; 7, 211−228)。しかし、彼らのSVFは血管内皮細胞や周細胞などが混在する細胞集団なので、間葉系幹細胞の取得効率は極めて低い。事実、彼らは330 mlもの吸引脂肪を用いてはじめて間葉系幹細胞の分離に成功したが、このように大量の脂肪を採取できる肥満患者は少ないので実用性に乏しい。
【0007】
加野浩一郎ら(特開2000−83656)は、動物の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞株を天井培養によって樹立する方法を開示しているが、この細胞は脂肪にのみ分化する細胞であって、それ以外に分化する間葉系幹細胞を開示するものではない。また、性質の異なる間葉系幹細胞を分離する方法を開示するものでもない。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−83656号公報
【非特許文献1】
スギハラら(Sugihara, H. et al.),ディファレンシエイション(Differentiation),第31巻,1986年,p.42−49
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
失われたり、機能不全に陥った骨、軟骨、骨格筋、心筋および脂肪等の間葉系組織を、患者自身または組織適合性が一致する他者から採取した間葉系幹細胞を移植することにより補強、修復および再建する治療が為されている。かかる治療には、症例当たり108個以上の間葉系幹細胞が必要である。
【0010】
ところが、この種の間葉系幹細胞を分離する従来技術では、大量の骨髄液または脂肪組織が必要であり、その採取のために患者には大きな負担をかけ、また患者を危険にさらすことさえある。また、この種の間葉系幹細胞の移植治療が普及するには、間葉系幹細胞の分離法と増殖技術の効率化が必要である。
【0011】
従って、患者には大きな負担をかけずに症例当たり108個以上の分化能を持つ間葉系幹細胞を得ることができる手段、または移植に用いる間葉系幹細胞の分離および効率的な増殖を可能とする手段の提供が期待されている。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の分化能を持つ間葉系幹細胞を患者に負担をかけることなく得ることができる手段、または移植に必要な間葉系幹細胞を選択的に増殖させることができる手段を提供することである。また、移植に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化が可能な手段を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、発明者らは、
▲1▼増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法、
▲2▼増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法、ならびに
▲3▼増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法、
を発明した。
【0014】
本明細書では、発明の第一の態様として、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法を提供する。
【0015】
すなわち、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。
【0016】
特に、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面(培養器の内側上面)に接触させて培養すること、
5)当該培養器の下床面(培養器の内側下面)上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0017】
本明細書において、間葉系幹細胞とは、骨、軟骨、骨格筋、心筋、脂肪、腱および靱帯の細胞、および間質細胞に分化する能力を有する幹細胞をいい、少なくとも骨、軟骨、脂肪の細胞に分化する能力を有する幹細胞をいう。なお、本明細書において、「細胞に分化する」と記載した場合には、当該細胞とは断定できないものの、少なくとも当該細胞の特徴を持つ細胞に分化する場合も含まれる。
【0018】
本明細書において、酵素処理とは、ステップ1)により採取した脂肪片を細切した後に細胞型混合集団を分散させ、そして当該集団を得る処理のことをいい、当該脂肪片の細切物をコラゲナーゼ、トリプシン、プロナーゼ、ディスパーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼのいずれかを用い消化することにより行う。当該処理は、当業者に既知の手法および条件により可能である(R. I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A JohnWiley & Aones Inc., Publication)。例えば、実施例に記載の手法および条件により行うこともできる。
【0019】
かかる酵素処理、すなわち、脂肪片の酵素処理は、細胞型混合集団を得ることを目的としている。従って、かかる目的を達成できるならば、ステップ2)以外の任意のステップでもよい。ここで、得られた当該細胞型混合集団には、2種類以上の異種性の細胞が含まれ、例えば、少なくとも2種類の間葉系幹細胞、様々な成熟段階にある脂肪細胞集団、内皮細胞、周細胞、間質細胞、および様々な血球系細胞などが含まれている。
【0020】
また、本明細書において、脂肪細胞集団とは、ステップ3)において、ステップ2)により得られた細胞型混合集団を遠心分離することにより得られる細胞集団をいい、当該脂肪細胞集団には、少なくとも2種類の間葉系幹細胞、様々な成熟段階にある脂肪細胞集団などが含まれている。かかる脂肪細胞集団は、細胞中に多少の脂肪油滴を有する脂肪細胞であるか、当該脂肪細胞に結合している。そのため比重が軽く、培養液中で浮遊し、遠心分離による分離が容易である。なお、上述のように、ステップ3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ3)以外の任意のステップでもよい。
【0021】
更に、本明細書において、「培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養する」と述べているのは、いわゆる「天井培養」を行うことを明確に示すためである。簡単に述べると、天井培養とは、脂肪細胞などが培養液中を浮遊する性質を利用して行う培養方法であって、培養器中の天井面に脂肪細胞などを接触させて培養する方法(Sugihara, H. et al.: Differentiation, 31: 42−49, 1986)をいう。
【0022】
「天井培養」後、増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を次ステップで継代培養する。本明細書において、「線維芽様」なる用語は、細胞が線維芽のごとき形状を呈することをいう。従って、「線維芽様の間葉系幹細胞」とは、線維芽のごとき形状を呈する間葉系幹細胞をいい、また、間葉系幹細胞に限らず、単に「線維芽様細胞」とあれば、線維芽細胞のごとき形状を呈する細胞をいう。
【0023】
ステップ4)における「天井培養」を行うことにより、天井面では、脂肪細胞に結合していた線維芽様の間葉系幹細胞が増殖し、一部は天井面でコンフルエント状態に達する。同時に、脂肪細胞との結合が弱かった線維芽様の間葉系幹細胞は培養液中で沈降し、下床面上において増殖してコンフルエント状態に達する。上記本発明の方法では、下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。そうすると、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得ることができる。これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0024】
本発明の第二の態様として、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法を提供する。
【0025】
すなわち、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。
【0026】
特に、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
5)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0027】
本発明において、「間葉系幹細胞」、「酵素処理」、「細胞型混合集団」、「脂肪細胞集団」、「天井培養」および「線維芽様の間葉系幹細胞」なる用語などの定義または意義は、上記のとおりである。
【0028】
本発明の第二の態様の方法においても上記の「天井培養」を行う。かかる「天井培養」後のステップでは、発明の第一の態様とは異なり、培養器の天井面に接着して増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。すなわち、本明細書の記載の発明の第一の態様では、培養器の下床面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養したが、発明の第二の態様では、培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。その結果、発明の第一の態様の方法により得られる骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とは性質の異なる脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞が得られる。
【0029】
また、本明細書において、「脂肪細胞に分化しやすい」とは、脂肪への分化誘導処理によって脂肪滴を蓄積する細胞が高い効率で出現することをいい、「骨芽細胞に分化しやすい」とは、骨芽細胞への分化誘導処理によってより強い骨細胞の指標(例えば、アルカリフォスファターゼ反応およびVon Kossa染色)を示す細胞が高い効率で出現することをいう。
【0030】
従って、第二の態様の発明を実施することにより、増殖させた、「脂肪細胞に分化しやすい」間葉系幹細胞を得ることができるが、これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0031】
上記二態様の方法の発明によって得られる線維芽様の間葉系幹細胞はいずれも高い増殖活性を持つので、継代培養によって効率よく増殖させることができる。このため、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の間葉系幹細胞を得ることができる。その結果、患者の負担は軽減されることになる。
【0032】
また、上記二態様の方法の発明は、同時に実施することができる。「天井培養」によって、性質の異なる間葉系幹細胞(骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞、ならびに脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞)が同一培養器内の下床面および天井面において同時に個別に増殖するが、かかる下床面および天井面は物理的に分離していることから、相互に混合することはないためである。単に当該二発明の同時実施が可能ということにとどまらず、むしろ、積極的に同時に実施すれば、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞との分離および増殖が効率よく行うことができる。
【0033】
そこで、本発明の第三の態様として、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法を提供する。
【0034】
すなわち、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞、および当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ別々に得ること、
iii)ii)により得られた線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ継代培養すること、のステップを含む当該方法を提供する。
【0035】
特に、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得る方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
5)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞、および当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ別々に得ること、
6)5)により得られた線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0036】
本発明において、「間葉系幹細胞」、「酵素処理」、「細胞型混合集団」、「脂肪細胞集団」、「天井培養」および「線維芽様の間葉系幹細胞」なる用語などの定義または意義は、上記のとおりである。
【0037】
上記第三の態様の方法の発明を実施すれば、当然、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の間葉系幹細胞を得ることができる。更には、再生しようとする間葉系組織の種類に応じた間葉系幹細胞を選択的に得ることができる。上述のように、異なる種類の間葉系組織に応じた細胞が下床面および天井面において個別に増殖するためである。また、再生医療に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化も可能となる。性質の異なる間葉系幹細胞の分離および増殖を同時に行うことができるからである。これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0038】
上記三態様の方法の発明のいずれの場合においても、ステップ1)で脂肪細胞集団の源である脂肪片を採取している。ところが、本発明では、脂肪細胞集団が得られるならば、当該源は脂肪片に限られず、任意の源であってもよい。
【0039】
また、脂肪細胞集団の源が脂肪片である場合、ステップ2)および3)を経て、脂肪細胞集団を得ることができるものであれば、生体内のいずれの組織または器官由来の脂肪であってもよい。例えば、皮下脂肪、腸間膜や腎臓周囲の内臓脂肪、精巣上体脂肪、および筋肉組織内脂肪が挙げられる。より好ましくは、皮下脂肪および内蔵脂肪が挙げられる。更には、当該ステップ2)および3)を経て、脂肪細胞集団を得ることができるものであれば、いずれの生物種由来の脂肪であってもよい。例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、およびニワトリが挙げられる。より好ましくは、ヒトおよびマウスが挙げられる。なお、採取される生物種がヒトの場合、当該ヒトの負担を考えれば、採取する脂肪片は、0.5g以内とすべきである。
【0040】
また、更なる本発明の態様として、上記のいずれかの方法により得た間葉系幹細胞、すなわち、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞および脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞も本発明として提供する。
【0041】
【発明の実施の形態】
局部麻酔を施した被験者(患者または組織適合性が一致する供与者)の体表面を幅1cmと長さ2cmの範囲で紡錘状に0.5cmの深さで切り込んで得られる皮膚と皮下脂肪を含む標本から少量の脂肪片を採取する(図1)。
【0042】
得られた脂肪片を細切した後にコラゲナーゼ処理によって細胞外マトリックスを部分消化して細胞型の混合集団の分散液を得る(図2)。
【0043】
この細胞分散液を遠心分離して、間質細胞、血管内皮細胞、および血球系細胞の混合集団 (SVF) を沈降画分として、脂肪滴を持つために浮遊する成熟脂肪細胞を主に含む脂肪細胞集団を上層画分として得る(図2)。
【0044】
得られた成熟脂肪細胞を主に含む画分を培地で満たしたTフラスコ中に移し、成熟脂肪細胞がTフラスコの天井面に接触した状態で培養する(図2)。
【0045】
この状態で2週間静置すると、天井面に弱く接着した成熟脂肪細胞の間隙に線維芽様細胞が増殖してコンフルエント状態に達する(図3)。これらの線維芽様細胞は、脂肪細胞が脱分化したものか、あるいは、成熟脂肪細胞に強く結合していた間葉系幹細胞が天井面に接着して増殖したものと考えられる。
【0046】
この時、下床面にも線維芽様細胞が旺盛に増殖する(図3)。これらの細胞は、成熟脂肪細胞に弱く結合していた間葉系幹細胞が増殖状態に入るとともに成熟脂肪細胞との結合力が弱まって沈降し、下床面で増殖したものと考えられる。
【0047】
下床面および天井面で増殖した線維芽様細胞を個別に剥離して常法で継代培養すると、それぞれに特徴的な形態を維持しながら旺盛に増殖する(図4)。
【0048】
2歳男児の大腿部から得た0.46グラムの皮下脂肪片を用いた例では、初代培養終了時に下床面の線維芽様細胞数と天井面の細胞数は8x105個と 4x105個であったものが、9回または8回にわたる継代培養の後に、それぞれ、1013個と1012個にまで増殖したと計算された(図5)。この高い増殖能は、これらの細胞が平均24回以上の分裂増力を持つことを示す。
【0049】
平均10回分裂増殖したそれぞれの線維芽様細胞集団に対して、脂肪細胞への分化誘導処理を施すと、初代培養時に天井面で増殖した細胞は高い効率で脂肪様細胞に分化する間葉系幹細胞の特徴を示したが、下床面で増殖した細胞は低い脂肪様細胞への分化能しか示さなかった(図6)。
【0050】
初代培養時に2週間静置する代わりに、2日目ごとに天地を逆転させて天井面に弱く接触している成熟脂肪細胞を倒立顕微鏡で検鏡する操作を加えると、天井面で増殖する間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化確率は減少し、下床面で増殖する線維芽様の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化確率は増加した(図7)。このことは、天井面と下床面で増殖する線維芽様細胞の分化能力は異なっており、前者が脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞であるのに対して、後者は骨、軟骨にも分化できる間葉系幹細胞であったものが、天地を逆転させる操作によって混合したことを示している。
【0051】
平均10回分裂増殖した天井面と下床面の線維芽様細胞に対して、骨芽細胞への分化誘導処理を施すと、初代培養時に天井面で増殖した細胞は低い確率で脂肪様細胞に分化したが、下床面で増殖した細胞は高い分化能を示した(図8)。
【0052】
同様の細胞に細胞塊を形成させた後に軟骨への分化誘導培地中に置くと、天井面と下床面で増殖した細胞は共に軟骨特異的なグルコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸)に対する陽性反応を示した。これらの結果は、下床面で増殖した線維芽様細胞がより広範囲の多分化能を持つ幹細胞であるのに対して、天井面で増殖した線維芽様細胞は脂肪細胞への分化段階に踏み込んだ幹細胞であることを示した。
【0053】
参照として並行的に培養したSVF画分の細胞は、培養当初は高い増殖能を示した後に緩やかな増殖曲線を示した(図5)。また、SVF画分から増殖する細胞集団の脂肪様細胞への分化確率は低いが(図6)軟骨には分化できることが判明した(図8)。このSVF画分の細胞集団の顕微鏡像は分離当初から不揃いな形態を示したが(図4)、その不均一性は骨芽細胞への分化能力でも明らかであった。すなわち、SVF画分から増殖する細胞集団には骨芽細胞に分化する細胞も含まれていたが、骨芽細胞には分化しない細胞も含まれていた(図10)。
【0054】
マウスの脂肪組織に対して同様の分離操作を施すことによって、同じく天井面と下床面で増殖し、継代培養が繰り返せる高い増殖能と脂肪、骨芽細胞、筋芽細胞等への分化能を示す間葉系幹細胞が得られた。
【0055】
以上のように、生体から採取した少量の脂肪組織片から分散させた細胞集団を天井培養することによって、すでに樹立法が発明されている前駆脂肪細胞株(特開2000−83656)だけでなく、骨、軟骨、脂肪に分化できる間葉系幹細胞を下床面で増殖する線維芽様細胞として取得する方法を新たに発明した。この方法によれば、0.5グラム以内の脂肪組織片から、少なくとも、移植による間葉系組織の補強、修復、再建に利用するに十分な量の間葉系幹細胞を得ることが可能である。
【0056】
【実施例】
[実施例1]
細胞培養培地の調製
ヒト脂肪組織由来細胞集団、ヒト線維芽様細胞の培養、および細胞分離にはウシ胎児血清(UIN:53141 Lot:B01249−500、TRACE SCIENTIFIC LTD)を20%含む、ハムF12培地(code:05910日水製薬社)とダルベッコ変法イーグル培地(code:05919日水製薬社)高グルコース組成の等倍量混合液に50unit/mlペニシリン(明治製薬社)と50μg/mlストレプトマイシン(明治製薬社)を加えた合成培地(培地1)を用いた。培地1は使用前に予め37℃で5時間、5%CO2/95%空気のもとで飽和処理した。
【0057】
[実施例2]
ヒト成熟脂肪細胞画分の分離
2歳男児の下腹部から皮下脂肪組織片0.98g(これから得られた脂肪細胞集団を実施例3で2分割したので、実験例当たりでは0.4949gに相当する。)を採取した後、30mlの培地1で三度洗浄し、脂肪組織を直径10cmペトリディッシュ(NUNC社)に移した。尖刃刀を用いて脂肪組織片を2mm角片以内に細切した後、50mL容の遠心管に移した。1mg/mlコラゲナーゼ溶液(COLLAGENASE TYPE1 274u/mg Worthington社)を切片重量の約二倍量にあたる2ml加え、37℃で1時間振盪しながら細胞外マトリックスを消化した。新たに培地1を20ml添加してピペッティングで分散した細胞を、金属篩を通して別の遠心管に入れ、卓上遠心機(himac CT 6D 日立製作所社)を用いて室温下1200rpmで5分間遠心分離した。遠心後、成熟脂肪細胞を主に含む液面の画分を採取し、別の遠心管に移して新たに培地1を約20ml加えて洗浄した。この洗浄操作を更に二度繰り返した後、少量の細胞分散液を等量のチュルク液(code:372−12 ナカライテスク社)で二分間染色して、油滴を持つ有核細胞数を測定し脂肪細胞集団の分離数とした。
【0058】
[実施例3]
ヒト脂肪細胞集団の播種
4×105細胞の脂肪細胞集団を培養面積25cm2のTフラスコ(全容量70ml Nuncイージーフラスコ カタログNo.156340 NUNC社)二つにそれぞれ播種した。0.5μg/ml になるようにFungizone(code:15290−018 GIBCO社)を加え、培地1でフラスコを完全に満たした後に密栓し、浮かび上がる脂肪細胞集団がフラスコの非コーティング面側に接触するようにフラスコを静置し、37℃で培養した。
【0059】
[実施例4]
ヒト間質−血管系(SVF)画分の分離
脂肪細胞集団の分離と同時に、細胞分散液を卓上遠心機で1200rpm、5分間遠心分離して底に沈んだ細胞を間質−血管系画分(SVF)とした。SVFを別の遠心管に移し、20mlの培地1を加えてピペッティングした後、1200rpmで5分間遠心分離した。得られた沈殿画分を、20mlの培地1で同様の洗浄操作を更に二回繰り返した。細胞分散液を等量のチュルク液で二分間染色し、有核細胞数を測定してSVFの細胞数とした。
【0060】
[実施例5]
ヒト間質−血管系画分の播種
2.3×105細胞のSVFを7mlの培地1に懸濁し、培養面積25cm2のTフラスコに播種した。37℃、5%CO2/95%空気の飽和下で培養した。
【0061】
[実施例6]
ヒト脂肪細胞集団の初代培養
作製した二つのフラスコを、一方は一週間完全に静置した後にフラスコを天地逆転させて観察を始め、もう一方は播種二日目以後からフラスコを天地逆転させて毎日観察した。観察には倒立型システム顕微鏡(IMT−2 OLYMPUS社)を用い、適宜に細胞の形態をAE一眼レフカメラ(167MT CONTAX社)で撮影した。脂肪細胞集団の分離から天井培養までの流れを図2にまとめた。播種から4日目から線維芽様細胞がフラスコの天井側と下床側に付着して分裂増殖し始めた。播種から9日目には脂肪細胞集団が天井面に接着を示すとともに多胞性脂肪細胞が出現した。線維芽様細胞はその後活発な増殖を示し、播種から2週間後には天井、下床面の両方ともコンフルエント状態に達した。播種から2週間までは培地の交換を行わなかった。播種から7日目の天井面と下床面で増殖しはじめた線維芽様細胞の形態を図3に示す。
【0062】
[実施例7]
初代培養中に現れたヒト線維芽様細胞の分離
播種から二週間後に天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞をそれぞれ別に剥離させた。初めに下床面で増殖した線維芽様細胞のみを剥離させ、次に天井面で増殖した細胞を剥離させた。下床側を5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液(code:345−08165Wako社)で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液(T−4799 シグマ社)を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。その後、6mlの培地1を加えてピペッティングにより細胞を分散させ、別のフラスコに移した。次に同様に天井側を5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量を加え、37℃で2分間静置した。その後、6mlの培地1を加えてピペッティングにより細胞を分散させ、別のフラスコに移した。それぞれ分散液の細胞数を数え、4分の1量(1〜2×105細胞)を新しい培養面積25cm2 Tフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。37℃、5%CO2/95%空気の飽和飽和下で培養し、播種から24時間後に、培地を新しい培地1と交換した。分離した天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞の形態を図4に示す。
【0063】
[実施例8]
天井面と下床面で増殖したヒト線維芽様細胞の継代培養
天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞はそれぞれ播種から4日後にコンフルエント状態に達した。コンフルエント状態になる直前に細胞継代を行った。すなわち、培地を除去した後に5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。8mlの培地1を加えピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量(1〜2×105細胞)を新しいTフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。細胞は37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養し、24時間後に培地を新しい試料1と交換した。培地の交換は二日毎に行った。
【0064】
[実施例9]
ヒト間質−血管系(SVF)画分の継代培養
播種から約4日後にコンフルエント状態に達したので、4日毎に細胞を希釈して継代培養を行った。培地を除去した後、1mM EDTAリン酸緩衝液(Wako社)で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る程度に加え、37℃で2分間静置した。8mlの試料1を加えてピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量を新しいTフラスコに播種した。試料1を7mlに満たし、37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養した。播種から24時間後に培地を新しい培地1に交換した。
【0065】
[実施例10]
脂肪細胞への分化誘導
SVF、天井面で増殖した線維芽様細胞と下床面で増殖した線維芽様細胞、また早期にフラスコを天地逆転させる検鏡操作を加えた場合に天井面で増殖した線維芽様細胞と下床面で増殖した線維芽様細胞のそれぞれを、25cm2Tフラスコ上で培養し、コンフルエントの直前に脂肪細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、10%ウシ胎児血清、0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(L−6768 シグマ社)、1μM デキサメサゾン(D−1756 シグマ社)、10μM インシュリン(I−5500 シグマ社))を7ml加えて、37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下4日間培養し、その後は10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地中で37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下、3週間培養した。培地は4日毎に新鮮な培地に交換した。脂肪細胞特異的な形態変化を、倒立型システム顕微鏡を用いて観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。誘導から3週間後の形態を図6と図7に示す。SVFは低い脂肪分化率を示したのに対し(図6(1))、天井面で増殖した線維芽様細胞は非常に高い脂肪分化効率を示した(図6(2))。逆に下床面で増殖した線維芽様細胞は低い分化効率を示した(図6(3))。早期にフラスコを天地逆転させた場合には、天井面と下床面の両者に脂肪誘導が見られた(図7(1))、(図7(2))。
【0066】
[実施例11]
骨芽細胞への分化誘導
SVF、天井側線維芽様細胞、下床面側線維芽様細胞のそれぞれを25cm2のTフラスコ上で培養し、コンフルエントの直前に骨芽細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、10%ウシ胎児血清、0.1μM デキサメサゾン、50μM L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物(code:013−12061 和光純薬社)、10mM β−グリセロリン酸(G−9891 シグマ社))を7ml加えて37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で3週間培養した。培地は4日毎に新鮮な同骨芽細胞誘導培地に交換した。
【0067】
[実施例12]
アルカリフォスファターゼ反応とVon Kossa染色(骨芽細胞分化の確認)
誘導を始めてから3週間後に培地を除き、冷リン酸緩衝液で一度洗浄した。冷10%中性フォルムアルデヒド−リン酸緩衝液中に15分間浸して細胞を固定した後、蒸留水で一度洗浄し、更に蒸留水に15分間浸した。アルカリフォスファターゼ基質液(Naphthol AS MX−PO_(N−5000 シグマ社)、N,N−ジメチルホルムアミド(code:045−02916 和光純薬社)、トリス緩衝液(pH8.3)、Red Violet LB salt(F−1625 シグマ社)を加えて室温で45分間反応させた後、蒸留水で3度洗浄した。2.5%硝酸銀水溶液を加え、室温で30分間反応させ後、蒸留水で3度洗浄し、すぐに倒立型システム顕微鏡を用いて染色を観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。染色の様子を図8に示す。下床面に増殖した線維芽様細胞は非常に高い骨芽細胞誘導率を示し(図8(2))、天井面に増殖した線維芽様細胞はやや高い骨芽細胞誘導率を示した(図8(3))。SVFは非常に高い骨芽細胞誘導を示す領域と骨芽細胞誘導を示さない領域が混在していた(図10)。
【0068】
[実施例13]
軟骨細胞への分化誘導
SVF、天井側線維芽様細胞、下床側線維芽様細胞のそれぞれを、1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る程度に加えて37℃で2分間静置して細胞を剥離させた。細胞数を測定した後、1000rpmで3分間遠心分離して上清を除いた。細胞懸濁液の濃度が8×106細胞/mlになるように培地1を加えて調整し、その10μlを直径6cmディッシュ(NUNC社)中央に滴下した。37℃で2時間、CO2インキュベーター内で静置して細胞塊を作製した後、軟骨細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、1%FBS、6.25μg/ml インシュリン、10ng/ml TGF−β1(カタログ#:100−21R、PEPRO TECH EC LTD)、50μM L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物)を重層した。これを2週間、培地交換を行わずに培養した。またSVFを用いて、軟骨細胞誘導培地の代わりに培地1で培養した非誘導の検体を用意した。
【0069】
[実施例14]
Alcian Blue染色(軟骨細胞への分化の確認)
誘導を始めてから2週間後に培地を除き、冷リン酸緩衝液で一度洗浄した。冷10%中性フォルムアルデヒド−リン酸緩衝液中に15分間浸して細胞を固定した後、蒸留水で一度洗浄した。1%(w/v) Alcian Blue(A−5268,シグマ社)を0.1N塩酸(pH1.0)に溶解させた染色液を4ml加え、30分間室温で保温した。過剰な染色を除くために0.1N塩酸(pH0.1)を4ml加えて5分間保温した後、蒸留水で一度洗浄した。すぐに倒立型システム顕微鏡を用いて染色を観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。染色の様子を図9に示す。非誘導は全く染色されなかったが、分化誘導したSVF、天井側線維芽様細胞、下床側線維芽様細胞はいずれも軟骨特異的グルコサミノグリカンであるコンドロイチン硫酸陽性を示す緑青色に染色され、軟骨細胞への分化能力を示した。
【0070】
[実施例15]
マウス脂肪細胞集団の分離
マウスである(C57BL/6)雄6月齢一匹を頚椎脱臼により殺し、大腿上部の脂肪組織0.5gを採取した。20mlのハンクス塩類緩衝液中で脂肪組織を洗浄した後、尖刃刀を用いて脂肪組織を2mm角片以内に細かく分散させた。50ml容遠心管に移し、2mlの1mg/mlコラゲナーゼ溶液を加え、37℃で1時間振盪しながら細胞外マトリックスの消化を行った。新たに培地1を10ml添加してピペッティングした細胞分散液を、金属篩を通して別の遠心管に入れ、卓上遠心分離機を用いて室温下1200rpmで5分間遠心分離した。遠心後、成熟脂肪細胞を主に含む液面の画分を採取して別の試験管に移し、培地1を約20ml加えて洗浄した。この洗浄操作を更に二度繰り返した後、少量の細胞分散液を等量のチュルク液で二分間染色して、油滴を持つ有核細胞数を測定し脂肪細胞集団の分離数とした。
【0071】
[実施例16]
マウス脂肪細胞集団の初代培養
8.5×105の成熟脂肪細胞を25cm2のTフラスコ(全容量70ml NuncイージーフラスコカタログNo.156340 NUNC社)に播種した。0.5μg/ml Fungizoneを加えた培地1でフラスコを完全に満たした後に密栓し、浮かび上がる成熟脂肪細胞がフラスコの非コーティング面側に接触するようにフラスコを静置し、37℃で培養した。
【0072】
[実施例17]
天井面と下床面で増殖したマウス線維芽様細胞の継代培養
天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞はそれぞれ播種から4日後にコンフルエント状態に達した。コンフルエント状態になる直前に細胞継代を行った。すなわち、培地を除去した後に5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。8mlの培地1を加えピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量(1〜2×105細胞)を新しいTフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。細胞は37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養し、24時間後に培地を新しい試料1と交換した。培地の交換は二日毎に行った。これらの細胞は、少なくとも、6回の継代培養にわたって旺盛な増殖能を示し、脂肪および骨芽細胞への高い分化効率を示した。
【0073】
【発明の効果】
本発明により、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞ならびに脂肪脂肪に分化しやすい間葉系幹細胞を患者に負担をかけることなく得ることができる。また、本発明により、移植に必要な間葉系幹細胞を選択的に増殖させることができる。更には、本発明により、移植に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化も可能となる。これらの発明の効果は、単に「天井培養」を行ったのみでは得られないものであり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない効果である。
【0074】
更には、この発明によって、間葉系組織に分化できる患者自身の幹細胞が大量に準備できるようになるので、これを移植することによって、失われたり機能低下した骨、軟骨や脂肪組織などを再建する医療が可能になる。外傷や癌によって軟部組織を失った患者や、顔面の半側の皮下結合組織だけが萎縮する顔面半側萎縮症の患者などの治療には、患者自身の脂肪組織を必要とする部位に自家移植する方法が採用されてきが、移植後に吸収や瘢痕化が起こりやすく、移植した体積が失われる難点があった。これは移植脂肪の大半を占めていた成熟脂肪細胞が壊死するためと考えられるが、体外で選択的に増殖させた幹細胞を移植すればこの問題は解決できると期待される。このような軟部組織の再建術は、豊胸術などの美容外科分野への発展も期待される。この幹細胞の多分化能を活用すれば、開放骨折などで失われた骨格の大規模な再建も可能になる。この幹細胞が心筋細胞にも分化することが確かめられれば、働き盛りの中高年層を襲う心臓病の克服が期待できる。この発明が可能にした患者の幹細胞を大量に増殖させる技術は、このような新しい再生医療分野の開拓にもつながるので、その効果は計り知れない。安全かつ簡便に採取できる0.5グラム以下の脂肪から幹細胞が量産できるこのシステムを健常人に拡大すれば、「間葉系幹細胞バンク」の構築が可能になり、組織適合個体間の若年者から老人への移植も展望できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、皮下脂肪組織片の採取例を示す。
【図2】図2は、(1)実施例2、実施例3、実施例6における間葉系幹細胞の選択的増殖法のフローチャートおよび(2)その模式図を示す。
【図3】図3は、(1)実施例6における培養中に天井面に現れた線維芽様細胞、および(2)実施例6における培養中に下床面に現れた線維芽様細胞を示す。
【図4】図4は、(1)実施例5におけるSVFの細胞の形態、(2)実施例7において下床面で増殖した線維芽様細胞の形態、および(3)実施例7において天井面で増殖した線維芽様細胞の形態を示す。
【図5】図5は、実施例8、実施例9におけるSVF、天井面で増殖した線維芽様細胞、下床面で増殖した線維芽様細胞のそれぞれの増殖曲線を示す。
【図6】図6は、(1)実施例10におけるSVFの脂肪誘導、(2)実施例10における天井面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導、および(3)実施例10における下床面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導を示す。
【図7】図7は、(1)実施例10における天地逆転して毎日観察した際の天井面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導、および(2)実施例10における毎日観察した際の下床面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導を示す。
【図8】図8は、(1)実施例11における非誘導のSVF(コントロール実験)の骨誘導、(2)実施例11における下床面で増殖した線維芽様細胞の骨誘導、および(3)実施例11における天井面で増殖した線維芽様細胞の骨誘導を示す。
【図9】図9は、実施例13における軟骨誘導で、(1)軟骨誘導培地に置かなかったSVF、(2)軟骨誘導培地に置いたSVF、(3)軟骨誘導培地に置いた下床面で増殖した線維芽様細胞、および(4)軟骨誘導培地に置いた天井面で増殖した線維芽様細胞のAlcian Blueによる染色像を示す。カラー撮影した画像から抽出した青色要素を黒色に変換して示した。
【図10】図10は、(1)〜(3)実施例11におけるSVFの骨誘導を示す。同一検体中の顕微鏡像の異なる視野を撮影した写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂肪細胞集団から分化能の異なる間葉系幹細胞を選択的に得る方法またはその方法により得た間葉系幹細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
(産業上の利用分野)
「医薬」に依存してきた医療に代わって、人体内の複雑系を人体外で量産し、障害や機能不全に陥った複雑系と置換する再生医療の時代が始まっている。これからは、「医薬」が「医療材料」に主役を謙り、「医療材料」を生産する産業が製薬産業と肩を並べる時代になる。このような「医療材料」の中で、最も重要視されるのが幹細胞である。最近、高い増殖性と多分化能を持つ多くの幹細胞が各国で発見されて、これを人体から分離して増殖させたり、人体の部分構造を形成させる技術開発が活発に進められている。このような幹細胞には、人体のあらゆる細胞に分化する胚性幹細胞(万能細胞)、血球系細胞を生み出す血球系幹細胞、パーキンソン病などの中枢神経系の障害の治療に利用できる神経系幹細胞などがある。人体の骨組みを形成している骨、軟骨、骨格筋、心筋、平滑筋、および脂肪などの間葉系組織の細胞に分化できる間葉系幹細胞も発見されている。この間葉系幹細胞を患者から簡便かつ安全に分離して体外で大量に増殖させる技術が開発されれば、失われたり機能低下した間葉系組織を補強、修復、および再生させる医療分野に根底的な改革をもたらすものと期待される。
【0003】
(従来の技術)
白血病、再生不良性貧血、およびリンパ腫などの血球系細胞の異常による疾病を治療するために、健常者の骨髄から採取した血球系幹細胞を含む細胞集団を患者に移植する骨髄移植法が確立されている。この骨髄移植法では、組織適合性の不一致による拒絶反応を回避するために、骨髄バンクという公的システムを発達させて多数の登録者の中から患者と組織適合性が一致する供与者を検索し、血縁者間だけでなく他人間で移植できる体制が整備されている。この骨髄移植法では、採取した骨髄液に何の操作も加えず患者に移植しており、幹細胞を体外で増殖培養させることはなかった。
【0004】
重度の熱傷、糖尿病患者の慢性皮膚潰瘍、高齢者の床ずれ、色素性母斑等の治療に用いることを目的にした培養皮膚が開発されている。これには培養真皮と培養表皮があるが、何れの場合にも、用いられている細胞が線維芽細胞または表皮角化細胞にしか分化せず、多分化能を持つ間葉系幹細胞を利用していない。また、救急治療に用いることを目的に、培養皮膚では組織適合性が一致しない個人間の移植も想定されている。
【0005】
多様な間葉系組織の細胞に分化する能力を持っている間葉系幹細胞が骨髄液に潜在することが数年前に発見され、これを分離する方法が開発されている。この間葉系幹細胞は骨髄液に含まれる細胞の0.01から0.001%に過ぎず、間葉系組織の再生治療に必要となる108個以上の細胞数を準備するには、100から1000リットルもの骨髄液が必要になる。臨床現場の研究者が患者の骨髄液から分離したこの種の細胞を培養操作を加えずに自家移植する治療を試みているが、大量の骨髄液の採取は患者に大きな負担を与えるだけでなく危険を伴う。
【0006】
多分化能を持つ幹細胞が結合組織に内在していることを我々は1998年に発見している(Kawaguchi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1998; 95: 1062 −1066)が、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校のMarc H. Hedrickらはこの幹細胞の分離を目指して、肥満患者から吸引採取した大量の脂肪組織を遠心分離して、沈降画分(SVF)の細胞集団に間葉幹細胞が含まれることを発表した(Zuk et al., Tissue Engineering, 2001; 7, 211−228)。しかし、彼らのSVFは血管内皮細胞や周細胞などが混在する細胞集団なので、間葉系幹細胞の取得効率は極めて低い。事実、彼らは330 mlもの吸引脂肪を用いてはじめて間葉系幹細胞の分離に成功したが、このように大量の脂肪を採取できる肥満患者は少ないので実用性に乏しい。
【0007】
加野浩一郎ら(特開2000−83656)は、動物の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞株を天井培養によって樹立する方法を開示しているが、この細胞は脂肪にのみ分化する細胞であって、それ以外に分化する間葉系幹細胞を開示するものではない。また、性質の異なる間葉系幹細胞を分離する方法を開示するものでもない。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−83656号公報
【非特許文献1】
スギハラら(Sugihara, H. et al.),ディファレンシエイション(Differentiation),第31巻,1986年,p.42−49
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
失われたり、機能不全に陥った骨、軟骨、骨格筋、心筋および脂肪等の間葉系組織を、患者自身または組織適合性が一致する他者から採取した間葉系幹細胞を移植することにより補強、修復および再建する治療が為されている。かかる治療には、症例当たり108個以上の間葉系幹細胞が必要である。
【0010】
ところが、この種の間葉系幹細胞を分離する従来技術では、大量の骨髄液または脂肪組織が必要であり、その採取のために患者には大きな負担をかけ、また患者を危険にさらすことさえある。また、この種の間葉系幹細胞の移植治療が普及するには、間葉系幹細胞の分離法と増殖技術の効率化が必要である。
【0011】
従って、患者には大きな負担をかけずに症例当たり108個以上の分化能を持つ間葉系幹細胞を得ることができる手段、または移植に用いる間葉系幹細胞の分離および効率的な増殖を可能とする手段の提供が期待されている。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の分化能を持つ間葉系幹細胞を患者に負担をかけることなく得ることができる手段、または移植に必要な間葉系幹細胞を選択的に増殖させることができる手段を提供することである。また、移植に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化が可能な手段を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、発明者らは、
▲1▼増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法、
▲2▼増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法、ならびに
▲3▼増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法、
を発明した。
【0014】
本明細書では、発明の第一の態様として、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法を提供する。
【0015】
すなわち、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。
【0016】
特に、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面(培養器の内側上面)に接触させて培養すること、
5)当該培養器の下床面(培養器の内側下面)上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0017】
本明細書において、間葉系幹細胞とは、骨、軟骨、骨格筋、心筋、脂肪、腱および靱帯の細胞、および間質細胞に分化する能力を有する幹細胞をいい、少なくとも骨、軟骨、脂肪の細胞に分化する能力を有する幹細胞をいう。なお、本明細書において、「細胞に分化する」と記載した場合には、当該細胞とは断定できないものの、少なくとも当該細胞の特徴を持つ細胞に分化する場合も含まれる。
【0018】
本明細書において、酵素処理とは、ステップ1)により採取した脂肪片を細切した後に細胞型混合集団を分散させ、そして当該集団を得る処理のことをいい、当該脂肪片の細切物をコラゲナーゼ、トリプシン、プロナーゼ、ディスパーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼのいずれかを用い消化することにより行う。当該処理は、当業者に既知の手法および条件により可能である(R. I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A JohnWiley & Aones Inc., Publication)。例えば、実施例に記載の手法および条件により行うこともできる。
【0019】
かかる酵素処理、すなわち、脂肪片の酵素処理は、細胞型混合集団を得ることを目的としている。従って、かかる目的を達成できるならば、ステップ2)以外の任意のステップでもよい。ここで、得られた当該細胞型混合集団には、2種類以上の異種性の細胞が含まれ、例えば、少なくとも2種類の間葉系幹細胞、様々な成熟段階にある脂肪細胞集団、内皮細胞、周細胞、間質細胞、および様々な血球系細胞などが含まれている。
【0020】
また、本明細書において、脂肪細胞集団とは、ステップ3)において、ステップ2)により得られた細胞型混合集団を遠心分離することにより得られる細胞集団をいい、当該脂肪細胞集団には、少なくとも2種類の間葉系幹細胞、様々な成熟段階にある脂肪細胞集団などが含まれている。かかる脂肪細胞集団は、細胞中に多少の脂肪油滴を有する脂肪細胞であるか、当該脂肪細胞に結合している。そのため比重が軽く、培養液中で浮遊し、遠心分離による分離が容易である。なお、上述のように、ステップ3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ3)以外の任意のステップでもよい。
【0021】
更に、本明細書において、「培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養する」と述べているのは、いわゆる「天井培養」を行うことを明確に示すためである。簡単に述べると、天井培養とは、脂肪細胞などが培養液中を浮遊する性質を利用して行う培養方法であって、培養器中の天井面に脂肪細胞などを接触させて培養する方法(Sugihara, H. et al.: Differentiation, 31: 42−49, 1986)をいう。
【0022】
「天井培養」後、増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を次ステップで継代培養する。本明細書において、「線維芽様」なる用語は、細胞が線維芽のごとき形状を呈することをいう。従って、「線維芽様の間葉系幹細胞」とは、線維芽のごとき形状を呈する間葉系幹細胞をいい、また、間葉系幹細胞に限らず、単に「線維芽様細胞」とあれば、線維芽細胞のごとき形状を呈する細胞をいう。
【0023】
ステップ4)における「天井培養」を行うことにより、天井面では、脂肪細胞に結合していた線維芽様の間葉系幹細胞が増殖し、一部は天井面でコンフルエント状態に達する。同時に、脂肪細胞との結合が弱かった線維芽様の間葉系幹細胞は培養液中で沈降し、下床面上において増殖してコンフルエント状態に達する。上記本発明の方法では、下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。そうすると、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得ることができる。これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0024】
本発明の第二の態様として、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法を提供する。
【0025】
すなわち、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。
【0026】
特に、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
5)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0027】
本発明において、「間葉系幹細胞」、「酵素処理」、「細胞型混合集団」、「脂肪細胞集団」、「天井培養」および「線維芽様の間葉系幹細胞」なる用語などの定義または意義は、上記のとおりである。
【0028】
本発明の第二の態様の方法においても上記の「天井培養」を行う。かかる「天井培養」後のステップでは、発明の第一の態様とは異なり、培養器の天井面に接着して増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。すなわち、本明細書の記載の発明の第一の態様では、培養器の下床面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養したが、発明の第二の態様では、培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養する。その結果、発明の第一の態様の方法により得られる骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とは性質の異なる脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞が得られる。
【0029】
また、本明細書において、「脂肪細胞に分化しやすい」とは、脂肪への分化誘導処理によって脂肪滴を蓄積する細胞が高い効率で出現することをいい、「骨芽細胞に分化しやすい」とは、骨芽細胞への分化誘導処理によってより強い骨細胞の指標(例えば、アルカリフォスファターゼ反応およびVon Kossa染色)を示す細胞が高い効率で出現することをいう。
【0030】
従って、第二の態様の発明を実施することにより、増殖させた、「脂肪細胞に分化しやすい」間葉系幹細胞を得ることができるが、これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0031】
上記二態様の方法の発明によって得られる線維芽様の間葉系幹細胞はいずれも高い増殖活性を持つので、継代培養によって効率よく増殖させることができる。このため、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の間葉系幹細胞を得ることができる。その結果、患者の負担は軽減されることになる。
【0032】
また、上記二態様の方法の発明は、同時に実施することができる。「天井培養」によって、性質の異なる間葉系幹細胞(骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞、ならびに脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞)が同一培養器内の下床面および天井面において同時に個別に増殖するが、かかる下床面および天井面は物理的に分離していることから、相互に混合することはないためである。単に当該二発明の同時実施が可能ということにとどまらず、むしろ、積極的に同時に実施すれば、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞との分離および増殖が効率よく行うことができる。
【0033】
そこで、本発明の第三の態様として、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法を提供する。
【0034】
すなわち、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞、および当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ別々に得ること、
iii)ii)により得られた線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ継代培養すること、のステップを含む当該方法を提供する。
【0035】
特に、増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得る方法であって、
1)脂肪片を採取すること、
2)1)の脂肪片を酵素処理し、細胞型混合集団を得ること、
3)2)の細胞型混合集団を遠心分離し、脂肪細胞集団を得ること、
4)培養液で完全に満たした培養器中で3)の脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
5)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞、および当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ別々に得ること、
6)5)により得られた線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ継代培養すること、
のステップを含む当該方法を提供する。なお、ステップ1)〜3)は本発明の本質的部分ではなく、脂肪細胞集団を得ることができるならば、当該ステップ1)〜3)以外の任意のステップでもよい。
【0036】
本発明において、「間葉系幹細胞」、「酵素処理」、「細胞型混合集団」、「脂肪細胞集団」、「天井培養」および「線維芽様の間葉系幹細胞」なる用語などの定義または意義は、上記のとおりである。
【0037】
上記第三の態様の方法の発明を実施すれば、当然、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の間葉系幹細胞を得ることができる。更には、再生しようとする間葉系組織の種類に応じた間葉系幹細胞を選択的に得ることができる。上述のように、異なる種類の間葉系組織に応じた細胞が下床面および天井面において個別に増殖するためである。また、再生医療に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化も可能となる。性質の異なる間葉系幹細胞の分離および増殖を同時に行うことができるからである。これは、単に「天井培養」を行ったのみでは得られない発明の効果であり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない発明の効果である。
【0038】
上記三態様の方法の発明のいずれの場合においても、ステップ1)で脂肪細胞集団の源である脂肪片を採取している。ところが、本発明では、脂肪細胞集団が得られるならば、当該源は脂肪片に限られず、任意の源であってもよい。
【0039】
また、脂肪細胞集団の源が脂肪片である場合、ステップ2)および3)を経て、脂肪細胞集団を得ることができるものであれば、生体内のいずれの組織または器官由来の脂肪であってもよい。例えば、皮下脂肪、腸間膜や腎臓周囲の内臓脂肪、精巣上体脂肪、および筋肉組織内脂肪が挙げられる。より好ましくは、皮下脂肪および内蔵脂肪が挙げられる。更には、当該ステップ2)および3)を経て、脂肪細胞集団を得ることができるものであれば、いずれの生物種由来の脂肪であってもよい。例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、およびニワトリが挙げられる。より好ましくは、ヒトおよびマウスが挙げられる。なお、採取される生物種がヒトの場合、当該ヒトの負担を考えれば、採取する脂肪片は、0.5g以内とすべきである。
【0040】
また、更なる本発明の態様として、上記のいずれかの方法により得た間葉系幹細胞、すなわち、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞および脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞も本発明として提供する。
【0041】
【発明の実施の形態】
局部麻酔を施した被験者(患者または組織適合性が一致する供与者)の体表面を幅1cmと長さ2cmの範囲で紡錘状に0.5cmの深さで切り込んで得られる皮膚と皮下脂肪を含む標本から少量の脂肪片を採取する(図1)。
【0042】
得られた脂肪片を細切した後にコラゲナーゼ処理によって細胞外マトリックスを部分消化して細胞型の混合集団の分散液を得る(図2)。
【0043】
この細胞分散液を遠心分離して、間質細胞、血管内皮細胞、および血球系細胞の混合集団 (SVF) を沈降画分として、脂肪滴を持つために浮遊する成熟脂肪細胞を主に含む脂肪細胞集団を上層画分として得る(図2)。
【0044】
得られた成熟脂肪細胞を主に含む画分を培地で満たしたTフラスコ中に移し、成熟脂肪細胞がTフラスコの天井面に接触した状態で培養する(図2)。
【0045】
この状態で2週間静置すると、天井面に弱く接着した成熟脂肪細胞の間隙に線維芽様細胞が増殖してコンフルエント状態に達する(図3)。これらの線維芽様細胞は、脂肪細胞が脱分化したものか、あるいは、成熟脂肪細胞に強く結合していた間葉系幹細胞が天井面に接着して増殖したものと考えられる。
【0046】
この時、下床面にも線維芽様細胞が旺盛に増殖する(図3)。これらの細胞は、成熟脂肪細胞に弱く結合していた間葉系幹細胞が増殖状態に入るとともに成熟脂肪細胞との結合力が弱まって沈降し、下床面で増殖したものと考えられる。
【0047】
下床面および天井面で増殖した線維芽様細胞を個別に剥離して常法で継代培養すると、それぞれに特徴的な形態を維持しながら旺盛に増殖する(図4)。
【0048】
2歳男児の大腿部から得た0.46グラムの皮下脂肪片を用いた例では、初代培養終了時に下床面の線維芽様細胞数と天井面の細胞数は8x105個と 4x105個であったものが、9回または8回にわたる継代培養の後に、それぞれ、1013個と1012個にまで増殖したと計算された(図5)。この高い増殖能は、これらの細胞が平均24回以上の分裂増力を持つことを示す。
【0049】
平均10回分裂増殖したそれぞれの線維芽様細胞集団に対して、脂肪細胞への分化誘導処理を施すと、初代培養時に天井面で増殖した細胞は高い効率で脂肪様細胞に分化する間葉系幹細胞の特徴を示したが、下床面で増殖した細胞は低い脂肪様細胞への分化能しか示さなかった(図6)。
【0050】
初代培養時に2週間静置する代わりに、2日目ごとに天地を逆転させて天井面に弱く接触している成熟脂肪細胞を倒立顕微鏡で検鏡する操作を加えると、天井面で増殖する間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化確率は減少し、下床面で増殖する線維芽様の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化確率は増加した(図7)。このことは、天井面と下床面で増殖する線維芽様細胞の分化能力は異なっており、前者が脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞であるのに対して、後者は骨、軟骨にも分化できる間葉系幹細胞であったものが、天地を逆転させる操作によって混合したことを示している。
【0051】
平均10回分裂増殖した天井面と下床面の線維芽様細胞に対して、骨芽細胞への分化誘導処理を施すと、初代培養時に天井面で増殖した細胞は低い確率で脂肪様細胞に分化したが、下床面で増殖した細胞は高い分化能を示した(図8)。
【0052】
同様の細胞に細胞塊を形成させた後に軟骨への分化誘導培地中に置くと、天井面と下床面で増殖した細胞は共に軟骨特異的なグルコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸)に対する陽性反応を示した。これらの結果は、下床面で増殖した線維芽様細胞がより広範囲の多分化能を持つ幹細胞であるのに対して、天井面で増殖した線維芽様細胞は脂肪細胞への分化段階に踏み込んだ幹細胞であることを示した。
【0053】
参照として並行的に培養したSVF画分の細胞は、培養当初は高い増殖能を示した後に緩やかな増殖曲線を示した(図5)。また、SVF画分から増殖する細胞集団の脂肪様細胞への分化確率は低いが(図6)軟骨には分化できることが判明した(図8)。このSVF画分の細胞集団の顕微鏡像は分離当初から不揃いな形態を示したが(図4)、その不均一性は骨芽細胞への分化能力でも明らかであった。すなわち、SVF画分から増殖する細胞集団には骨芽細胞に分化する細胞も含まれていたが、骨芽細胞には分化しない細胞も含まれていた(図10)。
【0054】
マウスの脂肪組織に対して同様の分離操作を施すことによって、同じく天井面と下床面で増殖し、継代培養が繰り返せる高い増殖能と脂肪、骨芽細胞、筋芽細胞等への分化能を示す間葉系幹細胞が得られた。
【0055】
以上のように、生体から採取した少量の脂肪組織片から分散させた細胞集団を天井培養することによって、すでに樹立法が発明されている前駆脂肪細胞株(特開2000−83656)だけでなく、骨、軟骨、脂肪に分化できる間葉系幹細胞を下床面で増殖する線維芽様細胞として取得する方法を新たに発明した。この方法によれば、0.5グラム以内の脂肪組織片から、少なくとも、移植による間葉系組織の補強、修復、再建に利用するに十分な量の間葉系幹細胞を得ることが可能である。
【0056】
【実施例】
[実施例1]
細胞培養培地の調製
ヒト脂肪組織由来細胞集団、ヒト線維芽様細胞の培養、および細胞分離にはウシ胎児血清(UIN:53141 Lot:B01249−500、TRACE SCIENTIFIC LTD)を20%含む、ハムF12培地(code:05910日水製薬社)とダルベッコ変法イーグル培地(code:05919日水製薬社)高グルコース組成の等倍量混合液に50unit/mlペニシリン(明治製薬社)と50μg/mlストレプトマイシン(明治製薬社)を加えた合成培地(培地1)を用いた。培地1は使用前に予め37℃で5時間、5%CO2/95%空気のもとで飽和処理した。
【0057】
[実施例2]
ヒト成熟脂肪細胞画分の分離
2歳男児の下腹部から皮下脂肪組織片0.98g(これから得られた脂肪細胞集団を実施例3で2分割したので、実験例当たりでは0.4949gに相当する。)を採取した後、30mlの培地1で三度洗浄し、脂肪組織を直径10cmペトリディッシュ(NUNC社)に移した。尖刃刀を用いて脂肪組織片を2mm角片以内に細切した後、50mL容の遠心管に移した。1mg/mlコラゲナーゼ溶液(COLLAGENASE TYPE1 274u/mg Worthington社)を切片重量の約二倍量にあたる2ml加え、37℃で1時間振盪しながら細胞外マトリックスを消化した。新たに培地1を20ml添加してピペッティングで分散した細胞を、金属篩を通して別の遠心管に入れ、卓上遠心機(himac CT 6D 日立製作所社)を用いて室温下1200rpmで5分間遠心分離した。遠心後、成熟脂肪細胞を主に含む液面の画分を採取し、別の遠心管に移して新たに培地1を約20ml加えて洗浄した。この洗浄操作を更に二度繰り返した後、少量の細胞分散液を等量のチュルク液(code:372−12 ナカライテスク社)で二分間染色して、油滴を持つ有核細胞数を測定し脂肪細胞集団の分離数とした。
【0058】
[実施例3]
ヒト脂肪細胞集団の播種
4×105細胞の脂肪細胞集団を培養面積25cm2のTフラスコ(全容量70ml Nuncイージーフラスコ カタログNo.156340 NUNC社)二つにそれぞれ播種した。0.5μg/ml になるようにFungizone(code:15290−018 GIBCO社)を加え、培地1でフラスコを完全に満たした後に密栓し、浮かび上がる脂肪細胞集団がフラスコの非コーティング面側に接触するようにフラスコを静置し、37℃で培養した。
【0059】
[実施例4]
ヒト間質−血管系(SVF)画分の分離
脂肪細胞集団の分離と同時に、細胞分散液を卓上遠心機で1200rpm、5分間遠心分離して底に沈んだ細胞を間質−血管系画分(SVF)とした。SVFを別の遠心管に移し、20mlの培地1を加えてピペッティングした後、1200rpmで5分間遠心分離した。得られた沈殿画分を、20mlの培地1で同様の洗浄操作を更に二回繰り返した。細胞分散液を等量のチュルク液で二分間染色し、有核細胞数を測定してSVFの細胞数とした。
【0060】
[実施例5]
ヒト間質−血管系画分の播種
2.3×105細胞のSVFを7mlの培地1に懸濁し、培養面積25cm2のTフラスコに播種した。37℃、5%CO2/95%空気の飽和下で培養した。
【0061】
[実施例6]
ヒト脂肪細胞集団の初代培養
作製した二つのフラスコを、一方は一週間完全に静置した後にフラスコを天地逆転させて観察を始め、もう一方は播種二日目以後からフラスコを天地逆転させて毎日観察した。観察には倒立型システム顕微鏡(IMT−2 OLYMPUS社)を用い、適宜に細胞の形態をAE一眼レフカメラ(167MT CONTAX社)で撮影した。脂肪細胞集団の分離から天井培養までの流れを図2にまとめた。播種から4日目から線維芽様細胞がフラスコの天井側と下床側に付着して分裂増殖し始めた。播種から9日目には脂肪細胞集団が天井面に接着を示すとともに多胞性脂肪細胞が出現した。線維芽様細胞はその後活発な増殖を示し、播種から2週間後には天井、下床面の両方ともコンフルエント状態に達した。播種から2週間までは培地の交換を行わなかった。播種から7日目の天井面と下床面で増殖しはじめた線維芽様細胞の形態を図3に示す。
【0062】
[実施例7]
初代培養中に現れたヒト線維芽様細胞の分離
播種から二週間後に天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞をそれぞれ別に剥離させた。初めに下床面で増殖した線維芽様細胞のみを剥離させ、次に天井面で増殖した細胞を剥離させた。下床側を5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液(code:345−08165Wako社)で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液(T−4799 シグマ社)を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。その後、6mlの培地1を加えてピペッティングにより細胞を分散させ、別のフラスコに移した。次に同様に天井側を5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量を加え、37℃で2分間静置した。その後、6mlの培地1を加えてピペッティングにより細胞を分散させ、別のフラスコに移した。それぞれ分散液の細胞数を数え、4分の1量(1〜2×105細胞)を新しい培養面積25cm2 Tフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。37℃、5%CO2/95%空気の飽和飽和下で培養し、播種から24時間後に、培地を新しい培地1と交換した。分離した天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞の形態を図4に示す。
【0063】
[実施例8]
天井面と下床面で増殖したヒト線維芽様細胞の継代培養
天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞はそれぞれ播種から4日後にコンフルエント状態に達した。コンフルエント状態になる直前に細胞継代を行った。すなわち、培地を除去した後に5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。8mlの培地1を加えピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量(1〜2×105細胞)を新しいTフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。細胞は37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養し、24時間後に培地を新しい試料1と交換した。培地の交換は二日毎に行った。
【0064】
[実施例9]
ヒト間質−血管系(SVF)画分の継代培養
播種から約4日後にコンフルエント状態に達したので、4日毎に細胞を希釈して継代培養を行った。培地を除去した後、1mM EDTAリン酸緩衝液(Wako社)で30秒間浸した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る程度に加え、37℃で2分間静置した。8mlの試料1を加えてピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量を新しいTフラスコに播種した。試料1を7mlに満たし、37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養した。播種から24時間後に培地を新しい培地1に交換した。
【0065】
[実施例10]
脂肪細胞への分化誘導
SVF、天井面で増殖した線維芽様細胞と下床面で増殖した線維芽様細胞、また早期にフラスコを天地逆転させる検鏡操作を加えた場合に天井面で増殖した線維芽様細胞と下床面で増殖した線維芽様細胞のそれぞれを、25cm2Tフラスコ上で培養し、コンフルエントの直前に脂肪細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、10%ウシ胎児血清、0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(L−6768 シグマ社)、1μM デキサメサゾン(D−1756 シグマ社)、10μM インシュリン(I−5500 シグマ社))を7ml加えて、37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下4日間培養し、その後は10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地中で37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下、3週間培養した。培地は4日毎に新鮮な培地に交換した。脂肪細胞特異的な形態変化を、倒立型システム顕微鏡を用いて観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。誘導から3週間後の形態を図6と図7に示す。SVFは低い脂肪分化率を示したのに対し(図6(1))、天井面で増殖した線維芽様細胞は非常に高い脂肪分化効率を示した(図6(2))。逆に下床面で増殖した線維芽様細胞は低い分化効率を示した(図6(3))。早期にフラスコを天地逆転させた場合には、天井面と下床面の両者に脂肪誘導が見られた(図7(1))、(図7(2))。
【0066】
[実施例11]
骨芽細胞への分化誘導
SVF、天井側線維芽様細胞、下床面側線維芽様細胞のそれぞれを25cm2のTフラスコ上で培養し、コンフルエントの直前に骨芽細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、10%ウシ胎児血清、0.1μM デキサメサゾン、50μM L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物(code:013−12061 和光純薬社)、10mM β−グリセロリン酸(G−9891 シグマ社))を7ml加えて37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で3週間培養した。培地は4日毎に新鮮な同骨芽細胞誘導培地に交換した。
【0067】
[実施例12]
アルカリフォスファターゼ反応とVon Kossa染色(骨芽細胞分化の確認)
誘導を始めてから3週間後に培地を除き、冷リン酸緩衝液で一度洗浄した。冷10%中性フォルムアルデヒド−リン酸緩衝液中に15分間浸して細胞を固定した後、蒸留水で一度洗浄し、更に蒸留水に15分間浸した。アルカリフォスファターゼ基質液(Naphthol AS MX−PO_(N−5000 シグマ社)、N,N−ジメチルホルムアミド(code:045−02916 和光純薬社)、トリス緩衝液(pH8.3)、Red Violet LB salt(F−1625 シグマ社)を加えて室温で45分間反応させた後、蒸留水で3度洗浄した。2.5%硝酸銀水溶液を加え、室温で30分間反応させ後、蒸留水で3度洗浄し、すぐに倒立型システム顕微鏡を用いて染色を観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。染色の様子を図8に示す。下床面に増殖した線維芽様細胞は非常に高い骨芽細胞誘導率を示し(図8(2))、天井面に増殖した線維芽様細胞はやや高い骨芽細胞誘導率を示した(図8(3))。SVFは非常に高い骨芽細胞誘導を示す領域と骨芽細胞誘導を示さない領域が混在していた(図10)。
【0068】
[実施例13]
軟骨細胞への分化誘導
SVF、天井側線維芽様細胞、下床側線維芽様細胞のそれぞれを、1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る程度に加えて37℃で2分間静置して細胞を剥離させた。細胞数を測定した後、1000rpmで3分間遠心分離して上清を除いた。細胞懸濁液の濃度が8×106細胞/mlになるように培地1を加えて調整し、その10μlを直径6cmディッシュ(NUNC社)中央に滴下した。37℃で2時間、CO2インキュベーター内で静置して細胞塊を作製した後、軟骨細胞誘導培地(ダルベッコ変法イーグル培地、1%FBS、6.25μg/ml インシュリン、10ng/ml TGF−β1(カタログ#:100−21R、PEPRO TECH EC LTD)、50μM L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物)を重層した。これを2週間、培地交換を行わずに培養した。またSVFを用いて、軟骨細胞誘導培地の代わりに培地1で培養した非誘導の検体を用意した。
【0069】
[実施例14]
Alcian Blue染色(軟骨細胞への分化の確認)
誘導を始めてから2週間後に培地を除き、冷リン酸緩衝液で一度洗浄した。冷10%中性フォルムアルデヒド−リン酸緩衝液中に15分間浸して細胞を固定した後、蒸留水で一度洗浄した。1%(w/v) Alcian Blue(A−5268,シグマ社)を0.1N塩酸(pH1.0)に溶解させた染色液を4ml加え、30分間室温で保温した。過剰な染色を除くために0.1N塩酸(pH0.1)を4ml加えて5分間保温した後、蒸留水で一度洗浄した。すぐに倒立型システム顕微鏡を用いて染色を観察し、AE一眼レフカメラで撮影した。染色の様子を図9に示す。非誘導は全く染色されなかったが、分化誘導したSVF、天井側線維芽様細胞、下床側線維芽様細胞はいずれも軟骨特異的グルコサミノグリカンであるコンドロイチン硫酸陽性を示す緑青色に染色され、軟骨細胞への分化能力を示した。
【0070】
[実施例15]
マウス脂肪細胞集団の分離
マウスである(C57BL/6)雄6月齢一匹を頚椎脱臼により殺し、大腿上部の脂肪組織0.5gを採取した。20mlのハンクス塩類緩衝液中で脂肪組織を洗浄した後、尖刃刀を用いて脂肪組織を2mm角片以内に細かく分散させた。50ml容遠心管に移し、2mlの1mg/mlコラゲナーゼ溶液を加え、37℃で1時間振盪しながら細胞外マトリックスの消化を行った。新たに培地1を10ml添加してピペッティングした細胞分散液を、金属篩を通して別の遠心管に入れ、卓上遠心分離機を用いて室温下1200rpmで5分間遠心分離した。遠心後、成熟脂肪細胞を主に含む液面の画分を採取して別の試験管に移し、培地1を約20ml加えて洗浄した。この洗浄操作を更に二度繰り返した後、少量の細胞分散液を等量のチュルク液で二分間染色して、油滴を持つ有核細胞数を測定し脂肪細胞集団の分離数とした。
【0071】
[実施例16]
マウス脂肪細胞集団の初代培養
8.5×105の成熟脂肪細胞を25cm2のTフラスコ(全容量70ml NuncイージーフラスコカタログNo.156340 NUNC社)に播種した。0.5μg/ml Fungizoneを加えた培地1でフラスコを完全に満たした後に密栓し、浮かび上がる成熟脂肪細胞がフラスコの非コーティング面側に接触するようにフラスコを静置し、37℃で培養した。
【0072】
[実施例17]
天井面と下床面で増殖したマウス線維芽様細胞の継代培養
天井面と下床面で増殖した線維芽様細胞はそれぞれ播種から4日後にコンフルエント状態に達した。コンフルエント状態になる直前に細胞継代を行った。すなわち、培地を除去した後に5mlの1mM EDTAリン酸緩衝液で30秒間洗浄した後、0.25%トリプシン溶液を培養面が浸る量だけ加え、37℃で2分間静置した。8mlの培地1を加えピペッティングにより細胞を分散させた後、細胞数を計測して約4分の1量(1〜2×105細胞)を新しいTフラスコに播種し、7mlの培地1で満たした。細胞は37℃、5%CO2/95%空気の飽和条件下で培養し、24時間後に培地を新しい試料1と交換した。培地の交換は二日毎に行った。これらの細胞は、少なくとも、6回の継代培養にわたって旺盛な増殖能を示し、脂肪および骨芽細胞への高い分化効率を示した。
【0073】
【発明の効果】
本発明により、間葉系組織の再生医療に必要な症例当たり108個以上の、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞ならびに脂肪脂肪に分化しやすい間葉系幹細胞を患者に負担をかけることなく得ることができる。また、本発明により、移植に必要な間葉系幹細胞を選択的に増殖させることができる。更には、本発明により、移植に用いる間葉系幹細胞の分離手段および増殖技術の効率化も可能となる。これらの発明の効果は、単に「天井培養」を行ったのみでは得られないものであり、また、特開2000−83656に開示の発明では得られない効果である。
【0074】
更には、この発明によって、間葉系組織に分化できる患者自身の幹細胞が大量に準備できるようになるので、これを移植することによって、失われたり機能低下した骨、軟骨や脂肪組織などを再建する医療が可能になる。外傷や癌によって軟部組織を失った患者や、顔面の半側の皮下結合組織だけが萎縮する顔面半側萎縮症の患者などの治療には、患者自身の脂肪組織を必要とする部位に自家移植する方法が採用されてきが、移植後に吸収や瘢痕化が起こりやすく、移植した体積が失われる難点があった。これは移植脂肪の大半を占めていた成熟脂肪細胞が壊死するためと考えられるが、体外で選択的に増殖させた幹細胞を移植すればこの問題は解決できると期待される。このような軟部組織の再建術は、豊胸術などの美容外科分野への発展も期待される。この幹細胞の多分化能を活用すれば、開放骨折などで失われた骨格の大規模な再建も可能になる。この幹細胞が心筋細胞にも分化することが確かめられれば、働き盛りの中高年層を襲う心臓病の克服が期待できる。この発明が可能にした患者の幹細胞を大量に増殖させる技術は、このような新しい再生医療分野の開拓にもつながるので、その効果は計り知れない。安全かつ簡便に採取できる0.5グラム以下の脂肪から幹細胞が量産できるこのシステムを健常人に拡大すれば、「間葉系幹細胞バンク」の構築が可能になり、組織適合個体間の若年者から老人への移植も展望できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、皮下脂肪組織片の採取例を示す。
【図2】図2は、(1)実施例2、実施例3、実施例6における間葉系幹細胞の選択的増殖法のフローチャートおよび(2)その模式図を示す。
【図3】図3は、(1)実施例6における培養中に天井面に現れた線維芽様細胞、および(2)実施例6における培養中に下床面に現れた線維芽様細胞を示す。
【図4】図4は、(1)実施例5におけるSVFの細胞の形態、(2)実施例7において下床面で増殖した線維芽様細胞の形態、および(3)実施例7において天井面で増殖した線維芽様細胞の形態を示す。
【図5】図5は、実施例8、実施例9におけるSVF、天井面で増殖した線維芽様細胞、下床面で増殖した線維芽様細胞のそれぞれの増殖曲線を示す。
【図6】図6は、(1)実施例10におけるSVFの脂肪誘導、(2)実施例10における天井面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導、および(3)実施例10における下床面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導を示す。
【図7】図7は、(1)実施例10における天地逆転して毎日観察した際の天井面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導、および(2)実施例10における毎日観察した際の下床面で増殖した線維芽様細胞の脂肪誘導を示す。
【図8】図8は、(1)実施例11における非誘導のSVF(コントロール実験)の骨誘導、(2)実施例11における下床面で増殖した線維芽様細胞の骨誘導、および(3)実施例11における天井面で増殖した線維芽様細胞の骨誘導を示す。
【図9】図9は、実施例13における軟骨誘導で、(1)軟骨誘導培地に置かなかったSVF、(2)軟骨誘導培地に置いたSVF、(3)軟骨誘導培地に置いた下床面で増殖した線維芽様細胞、および(4)軟骨誘導培地に置いた天井面で増殖した線維芽様細胞のAlcian Blueによる染色像を示す。カラー撮影した画像から抽出した青色要素を黒色に変換して示した。
【図10】図10は、(1)〜(3)実施例11におけるSVFの骨誘導を示す。同一検体中の顕微鏡像の異なる視野を撮影した写真である。
Claims (8)
- 増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法。 - 増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞を得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞を継代培養すること、
のステップを含む当該方法。 - 増殖させた、骨芽細胞に分化しやすい間葉系幹細胞と、増殖させた、脂肪細胞に分化しやすい間葉系幹細胞とを分離してそれぞれ得るための方法であって、
i)培養液で完全に満たした培養器中で脂肪細胞集団を培養器の天井面に接触させて培養すること、
ii)当該培養器の天井面で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞、および当該培養器の下床面上で増殖した線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ別々に得ること、
iii)ii)により得られた線維芽様の間葉系幹細胞をそれぞれ継代培養すること、のステップを含む当該方法。 - 脂肪細胞集団がヒト由来である、請求項1から3のいずれかの方法。
- 脂肪細胞集団がマウス由来である、請求項1から3のいずれかの方法。
- 脂肪細胞集団が皮下脂肪由来である、請求項1から5のいずれかの方法。
- 脂肪細胞集団が内臓脂肪由来である、請求項1から5のいずれかの方法。
- 請求項1から7のいずれかの方法により得た間葉系幹細胞。
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