JPWO2004111211A1 - 前駆脂肪細胞由来の分化細胞及びその取得方法 - Google Patents
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Abstract
Description
腎臓、心臓、肝臓などの臓器は多様な機能を持っており、これらの臓器が本来の機能を果たさなければ、人間は死に至る。そこで、生体の本来の機能を完全に補うために、他の人間や動物の健康な臓器と機能しない臓器を交換する生体由来の臓器移植による治療が行われるようになっている。生体由来の臓器を移植することにより、人工物による代替が困難であった心臓や肺、またほぼ人工物の開発が不可能であった肝臓においても、生体の機能を補うことが可能となった。臓器移植の治療を受ける人は年々増加しており、日本においては年間700件以上の腎臓移植や、400件以上の肝臓移植が行われている。また心臓移植や肺移植において件数はまだ少ないが、確実に患者の生存率を高めており、臓器移植は効果的な治療方法として確立されている。
しかし、一方で生体由来の臓器を移植することは、免疫的な拒絶反応や感染症などを引き起こす可能性が高く、移植した後にこれらの影響で死亡する例も多い。また、ドナー不足により移植を望みながら待機している患者が多く、年間の移植実施数に対し、待機者の死亡数が上回っている。さらに臓器移植を受けた場合でも、移植や予後の治療に莫大な費用がかかるなど、生体由来の臓器移植における問題点は多い。このような臓器移植の問題点を克服するために、新しい治療方法として再生医療が注目され、大きな関心が寄せられている。
再生医療とは、人間の体の失われた部分や機能しなくなった部分に対し、多能性および自己複製能力を有する細胞を分化させ、組織や器官を再構築することを特徴とした治療方法である。この治療は患者本人の細胞を使用する自家移植が可能であり、免疫的な拒絶反応や感染をひきおこす可能性が低い。また、細胞を用いて組織や器官を形成するため、ドナー不足の解決につながる新しい治療方法として期待されている。再生医療に使用可能なドナー細胞としては、受精卵に由来する胚性幹細胞(ES細胞;Embryonic Stem Cell)と骨髄間質由来の体性幹細胞(MS細胞;Marrow Stem Cell)などが知られている。
ES細胞は受精卵由来の未分化な細胞で、多種多様な組織、器官への分化誘導が可能である。しかし、細胞の樹立にヒトの受精卵を用いる必要があり、倫理的な問題がある。一方、骨髄間質由来の幹細胞であるMS細胞は再生医療のうち、骨、筋および脂肪組織の再生に有用であると考えられている。また体細胞であるため倫理的な問題はなく、成人の体から比較的容易に採取することができる。しかし、骨髄間質には多種多様な細胞が含まれるので多能性を有するMS細胞のみを単離するのは困難であり、MS細胞が得られても他細胞の混入によって増殖培養中に損失する確率が高く、移植治療には解決されるべき問題が多くある。また、採取時に麻酔が必要であることからドナーの負担が大きいことも問題となっている。
移植にはまとまった数の細胞が必要とされるため、再生医療の進展には簡単かつ安価に大量供給可能なドナー細胞の開発が必要不可欠である。幹細胞が再生医療のドナー細胞として集中的に研究されているが、これらのES細胞あるいはMS細胞の供給、維持、培養には特殊な試薬、機器および技術が必要であり、莫大な費用がかかる。これらの問題の解決において、多能性および自己複製能力を有し、さらに簡単に採取可能であり、かつ安定して特性が維持される細胞を得ることが必要であり、それらの条件を満たす細胞を取得する方法の確立が望まれる。
そこで本発明者はこれらの問題点を解決するために、従来の再生医療用ドナー細胞に対する考え方から大きく離れて、生体の各部位の体表面に存在する成熟脂肪細胞に着目した。成熟細胞とは分化が終了した細胞であり、終末分化した細胞は脱分化しないと一般的に考えられている。しかし、本発明者は成熟脂肪細胞の脱分化を誘導し、前駆脂肪細胞株を樹立する新しい培養方法を確立することに成功した(特開2000−83656)。この培養方法により樹立された前駆脂肪細胞株は均一で、維持、培養が容易であり、かつ特別な技術あるいは施設等が不必要である。したがって幹細胞における問題点をほぼ解決する新規の再生医療用ドナー細胞として期待される。
本発明者らが開発した前駆脂肪細胞株は皮下などの体表近くに存在する成熟脂肪細胞を由来とする。成熟脂肪細胞は他細胞の混入がない単一な細胞群として簡単に採取ができ、ドナー側の負担が少ない状態で大量かつ容易に採取することができる。また、新生児から高齢者まで皮下脂肪は存在するため、年齢を問わずドナー細胞を得ることができ、自家移植も可能である。免疫的な問題をクリアーすれば、美容整形外科等において廃棄される脂肪細胞等を利用するなど、工業的に量産ができる可能性も高い。本発明者が開発した成熟脂肪細胞を前駆脂肪細胞に脱分化させる方法およびその前駆脂肪細胞株を用い分化転換誘導することにより、骨細胞、筋細胞、軟骨細胞、上皮細胞、神経細胞などの他の機能を有する細胞を取得する方法を確立し、組織や器官の形成を行うことが、再生医療の自家移植システムの構築において望まれる。
すなわち、本発明は、次のとおりの他の細胞への分化転換を誘導する培養方法、及びこのような培養方法を用いて分化転換された細胞に関する。
1)脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を脱分化させた前駆脂肪細胞を分化転換誘導することにより、他の機能を有する細胞を取得する方法。
2)脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を脱分化させた前駆脂肪細胞株がFERM BP−08645である請求項1に記載の他の機能を有する細胞を取得する方法。
3)脂肪組織由来の成熟脂肪細胞が皮下組織由来の成熟脂肪細胞である前記1)に記載の他の機能を有する細胞を取得する方法。
4)分化転換された他の細胞が骨芽細胞である前記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
5)分化転換された他の細胞が筋芽細胞である前記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
6)分化転換された他の機能を有する細胞が軟骨細胞である前記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
7)分化転換された他の機能を有する細胞が上皮細胞である前記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
8)分化転換された他の機能を有する細胞が神経細胞である前記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
9)前記1)〜8)のいずれかの培養方法を用いて分化転換させた、成熟脂肪細胞由来の細胞。
10)細胞が骨芽細胞である前記9)に記載される細胞。
11)細胞が筋芽細胞である前記9)に記載される細胞。
12)細胞が軟骨細胞である前記9)に記載される細胞。
13)細胞が上皮細胞である前記9)に記載される細胞。
14)細胞が神経細胞である前記9)に記載される細胞。
本発明における脂肪組織由来の成熟脂肪細胞の脱分化は、たとえば、本発明者らによってなされた特開2000−83656号公報によっておこなうとよい。すなわち、皮下および内臓脂肪組織をコラゲナーゼ処理したのち、口径100および150μmのメッシュでフィルトレーションすると単胞性脂肪細胞のみからなる単一の画分が採取される(図1)。それら動物の単胞性脂肪細胞を天井培養して形成される線維芽細胞様脂肪細胞(FibroblastAdipocytes:以下、FAとする)を継代培養して分化誘導することによって前駆脂肪細胞(Porcine Peradipocytes derived from Matured Adipocytes:PPMA、以下PAとする)を得ることができる。このような動物の単胞脂肪由来細胞としては、ヒト、ブタ、ウシ、ニワトリ等の脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を挙げることができる、また、単胞性脂肪細胞としては、皮下脂肪組織、内臓脂肪組織等に由来する細胞が望ましい。
このようにして、成熟脂肪細胞から脱分化された一部のPAは、RT−PCR法を用いて種々の転写因子mRNAの発現状況を調べたところ、図2に示すように増殖期において脂肪細胞の分化の初期過程におけるコミットメントにかかわるペルオキシソーム増殖剤応答性因子γ(以下PPARγと略す、上段)、骨細胞の分化過程における決定にかかわるCbfa1(中段)および筋細胞の分化過程における決定にかかわるMyf5(下段)のそれぞれをすでに発現しているヘテロな細胞群である。すなわち、骨、筋あるいは脂肪細胞の初期マーカーをすでに発現しているヘテロな細胞群であり、「ゆらぎ」の状態にあり、幹細胞とは異なるユニークな細胞である。このような特徴を持つブタの成熟脂肪細胞由来のPA株は、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにブタペスト条約に基づく国際寄託し、受託番号FERM BP−08645(寄託日平成16年2月20日)が付されている。
A;ブタの成熟脂肪細胞のヘマトキシリン染色により、核が染色されている。
B;GFPマウス由来の成熟脂肪細胞の蛍光顕微鏡像を示した。核および細胞質が蛍光している。
図2は、マウスの成熟脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の増殖期における種々の転写因子群の発現状況を写真にて示す。PPARγ、(上段)、Cbfa1(中段)およびMyf5(下段)の発現を示す。
図3は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した骨芽細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導28日後におけるアルカリホスファターゼ陽性の骨芽細胞を示す。
B.倍率を高めたアルカリホスファターゼ陽性細胞の形態を示す。アルカリホスファターゼ陽性細胞が骨芽細胞特有の形態を示している。
図4は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した骨芽細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導4日後におけるマウス胎子頭蓋骨由来のアルカリホスファターゼ陽性の骨芽細胞(対照区)。
B.分化誘導14日後における成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞(青)を示す。骨芽細胞(青)と脂肪細胞(赤)とが混在する。
図5は、実施例のオステオカルシンを分泌した成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞の顕微鏡写真を示す。
矢印は、骨芽細胞への分化誘導24日後におけるオステオカルシン抗体および染色された成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞を示す。
図6は、実施例の成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞の骨マトリックス(カルシウムの沈着)の形成を顕微鏡写真にて示す。
矢印は、分化誘導20日後にコッサ染色されたカルシウム沈着部分が染色されている。
図7は、実施例のマウスの成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した骨芽細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導28日後におけるアルカリホスファターゼ陽性の骨芽細胞を示す。
B.実施例のオステオポンチンを分泌した成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞の顕微鏡写真を示す。矢印は、骨芽細胞への分化誘導12日後におけるオステオカルシン抗体および染色された成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞を示す。
C.実施例の成熟脂肪細胞由来の骨芽細胞の骨マトリックス(カルシウムの沈着)の形成を顕微鏡写真にて示す。分化誘導16日後にコッサ染色されたカルシウム沈着部分が染色されている。
図8は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した筋芽細胞の顕微鏡写真を示す。
A.対照区。核内にMyf5を発現していない。
B.分化誘導4日後、殆どの細胞の核内にMyf5の発現が観察される。
図9は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した筋芽細胞の顕微鏡写真を示す。
分化誘導6日後、殆どの細胞の核内にMyoDの発現が観察される。
図10は、実施例のミオゲニンを発現した成熟脂肪細胞由来の筋芽細胞の顕微鏡写真を示す。
分化誘導18日後、殆どの細胞の核内にミオゲニンの発現が観察される。
図11は、実施例のマウスの成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換した筋芽細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導4日後、殆どの細胞の核内にMyf5の発現が観察される。
B.分化誘導4日後、殆どの細胞の核内にMyoDの発現が観察される。
C.分化誘導7日後、殆どの細胞の核内にミオゲニンの発現が観察される。
図12は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換させた軟骨細胞の顕微鏡写真を示す。
A.培養16日後における対照区のPAを示す。軟骨細胞に分化転換誘導した場合に観察される細胞の凝集塊は観察されない。対照区の細胞はアルシアンブルー染色、トルイジンブルー染色およびコラーゲンタイプ2免疫染色されない(data not shown)。
B.分化誘導16日後におけるアルシアンブルー染色像を示した。細胞は凝集塊を形成し、その内部が染色される(矢頭参照)。
C.分化誘導16日後におけるトルイジンブルー染色像を示した。細胞は凝集塊を形成し、その内部が染色される(矢頭参照)。
D.分化誘導16日後におけるコラーゲンタイプ2免疫染色像を示した。細胞は凝集塊を形成し、その内部が染色される(矢頭参照)。
図13は、実施例のマウスの成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換させた軟骨細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導14日後におけるアルシアンブルー染色像を示した。殆どの細胞が染色される。
B.分化誘導14日後におけるトルイジンブルー染色像を示した。殆どの細胞が染色される。一部では凝集塊が形成される(矢頭参照)。
C.分化誘導14日後におけるコラーゲンタイプ2免疫染色像を示した。
図14は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPA(GFP−PA)を分化転換させた乳腺上皮細胞(ME)の顕微鏡写真を示す。
A.コラーゲンゲル3次元培養2日後におけるGFP−PAおよびME(矢頭)の光学顕微鏡像を示した。3次元培養下のGFP−PAおよびMEは,いずれも線維芽細胞様の形態を示した。
B.コラーゲンゲル3次元培養2日後におけるGFP−PAおよびME(矢頭)の蛍光顕微鏡像を示した。紫外線照射下において核が緑色に強く蛍光する線維芽細胞はGFP−PAであることが確認できる。野生型のMEは蛍光しない。
図15は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPA(GFP−PA)を分化転換させた乳腺上皮細胞(ME)の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導28日後、細胞は集合して乳管様の形態を示した(矢頭)。
B.分化誘導28日後、蛍光顕微鏡下で蛍光する乳管様の形態を示した細胞群はGFP−PA由来であり、それらは上皮細胞様の形態に変化し、腺胞構造を形成した。
図16は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPA(GFP−PA)を分化転換させた乳腺上皮細胞(ME)の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導28日後、ヘマトキシリン染色したGFP−PAおよびME(矢頭)の光学顕微鏡像を示した。コラーゲンゲル中の細胞は集合し、腺胞構造を形成した。
B.Aで腺胞構造を形成した細胞群の蛍光顕微鏡像を示した。腺胞構造を示した細胞の核が強く蛍光したことから、それらの上皮細胞様の細胞はGFP−PA由来であることが確認された。
C.Bと同様の標本におけるE−カドヘリン免疫染色像を示した。Bとは異なり、腺胞構造を形成する細胞全体が蛍光するのが確認された(矢頭)。
D.ケラチン免疫染色像を示した。Bとは異なり、腺胞構造を形成する細胞全体が蛍光するのが確認された(矢頭)。
図17は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPA(GFP−PA)を分化転換させた乳腺上皮細胞(ME)の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導28日後、ヘマトキシリン染色したGFP−PAおよびME(矢頭)の光学顕微鏡像を示した。コラーゲンゲル中の細胞は集合し、管状構造を形成した。
B.Aで腺胞構造を形成した細胞群の蛍光顕微鏡像を示した。管状構造を示した細胞が強く蛍光したことから、それらの上皮細胞様の細胞はGFP−PA由来であることが確認された。
C.Bと同様の標本におけるビンキュリン免疫染色像を示した。管状構造を形成する細胞全体が蛍光するのが確認された(矢頭)。
D.ZO−1免疫染色像を示した。管状構造を形成する細胞全体が蛍光するのが確認された(矢頭)。
図18は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換させた神経細胞の顕微鏡写真を示す。
A.神経細胞へと分化誘導しなかったPAを示した。いずれの細胞も線維芽細胞様の形態が維持されている。
B.分化誘導12時間後におけるPAの光学顕微鏡像を示した。線維芽細胞様のPAと神経細胞様の形態に変化した細胞(矢印)が観察される。
C.対照区としてNg108−15細胞株を示した。Ng108−15は分化誘導後に神経細胞特有の形態を示した。
図19は、実施例の成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換させた神経細胞の顕微鏡写真を示す。
A.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞のみがネスチン抗体で染色された(矢頭)。
B.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞のみがニューロン特異的エノラーゼ抗体で染色された(矢頭)。
C.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞のみがβIII−チューブリン抗体で染色された。
D.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞のみがMAP2抗体で染色された。
E.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞のみがニューロフィラメント抗体で染色された(矢頭)。
図20は、実施例のマウスの成熟脂肪細胞に由来するPAを分化転換させた神経細胞の顕微鏡写真を示す。
A.神経細胞へと分化誘導しなかったPAを示した。いずれの細胞も線維芽細胞様の形態が維持されている。
B.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞がネスチン抗体で染色された。
C.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞がニューロン特異的エノラーゼ抗体で染色された。
D.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞がβIII−チューブリン抗体で染色された。
E.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞がMAP2抗体で染色された。
F.分化誘導17時間後、神経細胞様の形態を示した細胞がニューロフィラメント抗体で染色された。
本発明において、ブタ及びマウスの成熟脂肪細胞由来のPAを分化転換誘導することにより骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、上皮細胞または神経細胞を取得する。この分化転換の方法としては、従来の細胞の分化転換に用いられるいずれの方法でも用いることができるが、特に、前記PA株を血清添加培地に浮遊させ、これを、コラーゲンタイプ1またはタイプ3を塗布した組織培養皿あるいはフラスコに播種し、5%炭酸ガス、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内で培養し、コンフルエントに到達したら、培地を分化誘導培地に交換し、10〜20日間培養を行うとよい。
この分化誘導培地は、従来分化誘導培地として用いられるいずれの培地を用いてもよいが、例えば骨芽細胞ではデキサメタゾンあるいは活性ビタミンD3、アスコルビン酸、β−グリセロリン酸及び血清を添加したダルベッコー変法イーグル培地を用い、10〜20日間培養を行うとよい。筋芽細胞では、ハイドロコルチゾン及び血清を添加したダルベッコー変法イーグル培地を用い、10〜18日間培養を行うとよく、軟骨細胞では、インスリン、アスコルビン酸、トランスフォーミング増殖因子β3及び血清を添加したダルベッコー変法イーグル培地を用い、2週間培養を行うとよい。また、上皮細胞では、プロラクチン、デキサメタゾン、ITS(インスリン・トランスフェリン・セレニウム)、Hepes(N−(2−Hydroxyethyl)piperazine−N’−(2−ethanesulfonic acid))及び血清を添加したダルベッコー変法イーグル培地を用い、10〜18日間培養を行うとよく、神経細胞では、β−メルカプトエタノール、血清を添加したダルベッコー変法イーグル培地で12時間培養した後、β−メルカプトエタノールを添加したダルベッコー変法イーグル培地で5時間培養を行うとよい。
このようにして培養した細胞から分化転換された骨芽細胞の同定は、アルカリホスファターゼ染色および比活性値の測定、オステオカルシン抗体による免疫染色、フォンコッサ染色法および石灰化した細胞外マトリックスの形成を指標として行うとよい。
そして、この培地から骨芽細胞の分離は、まず培地から細胞を遊離させ、細胞を培養液のなかに懸濁させ、遠心分離することによって上層に脂肪滴を蓄積した脂肪細胞が、下層(沈澱画分)に骨芽細胞が分離されるので、この下層の骨芽細胞を採取することによって行われる。
筋芽細胞の同定には、筋決定因子であるMyf5、MyoDおよびミオゲニン抗体による免疫染色法を指標として行うとよく、軟骨細胞の同定には、アルシアンブルー染色、ドルイジンブルー染色およびコラーゲンタイプIIによる免疫染色を指標として行うとよい。また、上皮細胞の同定にはE−カドヘリン、ビンキュリン、ケラチン及びZO−1抗体による免疫染色を指標として行うとよく、神経細胞の同定には、ネスチン、ニューロン特異的エノラーゼ、βチューブリン、MAP2及びニューロフィラメント抗体による免疫染色を指標として行うとよい。
(1)成熟脂肪細胞の骨芽細胞への分化転換誘導
ブタおよびマウスの皮下脂肪組織中の成熟脂肪細胞を用いて、(特開2000−83656号公報に記載した方法で成熟脂肪細胞由来のPA株を作出した。
すなわちブタのPA株は以下の工程より得られた。6ヶ月齢の雄豚より採取した皮下脂肪組織4gを1%コラゲナーゼ(TypeII;SIGMA)添加のHepes含有ダルベッコ変法イーグル培地(Hepes−DMEM;日水製薬)に入れ、コラゲナーゼ処理を行った後、ナイロンメッシュにて濾過し、細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液を3分間、106Gで遠心分離し、上層に分離される単胞性脂肪画分を新鮮な3%FCS添加Hepes−DMEM培地に加え、3分間、106Gの遠心分離を3回繰り返すことで、単胞性脂肪細胞を得た。単胞性脂肪細胞を組織培養フラスコ(Falcon,3107)に移し、20%FCS、1.8mg/ml NaHCO3および0.08mg/mlカナマイシン−硫酸塩を添加したDMEM培地でフラスコ内を完全に満たし、37℃、5%CO2,95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内にフラスコ底面が上となるように静置して6日間培養した。培養4日後には大部分の細胞がフラスコ天井面にしっかりと接着し、大型の脂肪滴の周辺に種々の大きさの脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞へと形態変化した。培養6日後には脂肪滴がさらに小さくなり、脂肪滴をまったく持たない繊維芽細胞様(FA)の形態に変化する細胞が多数観察された。培養6日後にフラスコ内の培地を20%FCS添加DMEM培地に交換し、細胞接着面が底面になるようにして炭酸ガス培養装置内で16日間培養を続けた。培地交換は4日毎に行った。脂肪滴を持たないFAは活発に増殖し、培養14日後にはフラスコ内の細胞はFAのみとなり、コンフルエントに達した。
ブタの成熟脂肪細胞由来のFAは、活発な増殖能を有し、またDEX、INS、IBMX等の分化誘導剤により、脂肪滴を有する脂肪細胞に再分化する分化能を有することから、単胞性脂肪細胞由来のPAとして作出された(図1A)。以下、実施例中のPAは同様に作出されたものを用いた。
作出されたPAを1×104cells/mlとなるように20%血清添加したDMEM培地に再浮遊させた。その後、コラーゲンタイプ1を塗布した組織培養用の培養皿(Falcon,3001)中に播種し、37℃、5%CO2、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内に静置して培養した。なお、培地の交換は4日ごとに行った。培養8日後、コンフルエントに到達したPAの培地を0.1μMデキサメタゾンおよび10%血清添加したDMEM培地(分化誘導培地)に交換し、10日間培養した。
またマウスのPA株は以下の工程より得られた。グリーンフローラセントタンパク質(GFP)遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの6週齢の雄マウスより採取した皮下脂肪組織2gを得て、上記と同様の方法で細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液より上記と同様の方法で、単胞性脂肪細胞を得て、上記と同様に培養することで、脂肪滴をまったく持たない繊維芽細胞様(FA)の形態に変化する細胞が多数観察された段階で、細胞接着面が底面になるようにして上記と同様に培養を継続することで、脂肪滴を持たず、活発に増殖するFAを得た。
マウスの成熟脂肪細胞由来のFAは、活発な増殖能を有し、またDEX、INS、IBMX等の分化誘導剤により、脂肪滴を有する脂肪細胞に再分化する分化能を有することから、単胞性脂肪細胞由来のPA株(GFP−PA)として作出された(図1B)。以下、実施例中のPAは同様に作出されたものを用いた。
作出されたPAは上記と同様の方法で培養し、培養8日後、コンフルエントに到達したPAの培地を0.1μMデキサメタゾンおよび10%血清添加したDMEM培地(分化誘導培地)に交換し、10日間培養した。また、増殖期における種々の転写因子群の発現状況を調べPPARγ、Cbfa1およびMyf5の発現を図2に示した。
(2)骨芽細胞の同定方法
前記(1)の方法により作出されたブタの成熟脂肪細胞由来のPAとマウスの成熟脂肪細胞由来のPAがそれぞれ骨芽細胞に分化されていることを次の方法で同定した。すなわち、骨芽細胞の同定は、アルカリホスファターゼ染色および比活性値の測定、オステオカルシン抗体による免疫染色、フォンコッサ染色法および石灰化した細胞外マトリックスの形成を指標として行った。
1)アルカリホスファターゼ(AP)およびオイルレッド(OR)O染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導8日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導7日後に、それぞれ以下に示す方法で細胞を固定したのち、アルカリホスファターゼ(AP)およびオイルレッド(OR)Oで二重染色した。培養皿中の分化誘導培地に1mlの4%ホルマリン液を添加し、室温で20分間静置して前固定を行なった。前固定液を除去したのち、新たに2mlの4%ホルマリン液を加え、室温で1時間静置した。固定液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。40mgのファストブルーBB(和光純薬)を溶解した0.1Mトリス緩衝液(Tris−HCl pH9.0)50mlに8mgナフトールAS−TRホスフェートNa(SIGMA)を予め添加した0.5ml n−nジメチルホルムアミド(和光純薬)を混合した。さらにMgCl2を加えた混合液を濾過し、AP染色液を準備した。ついで、準備したAP染色液を2mlを加え、37℃の恒温槽内に1時間静置した。AP染色液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。引き続き、0.5gのオイルレッドO(SIGMA)添加した100mlのイソプロピルアルコールと蒸留水を3:2の比率で混合したのち濾過した。2mlのORO染色液を加え、室温で20分間静置した。
2)オステオカルシン抗体による免疫染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導16日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導12日後に、それぞれ上記と同様の固定方法を用いて細胞を固定したのち、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。2%過酸化水素水PBSで3回洗浄して内因性パーオキシダーゼ活性を阻害した。さらに、内因性アビジン−ビオチンを阻害しのち、正常血清添加PBSで20分間ブロッキングしたのち、オステオカルシン抗体(400倍希釈)を4℃、20時間反応させた。PBSで2回洗浄後、希釈ビオチン化2次抗体で30分間反応させたのち、PBSで2回洗浄した。ついで、ABC試薬で60分間反応させた。反応後、Tris−HClで洗浄したのち、10分間DAB染色した。蒸留水で3回洗浄したのち、観察に供試した。
3)フォンコッサ染色法(von Kossa histochemical methods)
ブタの成熟脂肪細胞由来のPA及びマウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導16日後に、それぞれ上記と同様の固定方法を用いて細胞を固定したのち、リン酸緩衝液(PBS)で3回洗浄した。5%硝酸銀PBSで紫外線照射しながら60分間浸漬した。蒸留水で注意深く3回洗浄したのち、5%チオ硫酸ナトリウム溶液に3分間浸漬した。蒸留水で2回洗浄後、観察に供試した。
このようにして取得されたブタの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された骨芽細胞の顕微鏡写真を図3〜6に示した。またマウスの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された骨芽細胞の顕微鏡写真を図7に示した。これらの図に見られるようにブタ及びマウスの成熟脂肪細胞に由来するPAの分化転換誘導により骨芽細胞が取得されることが確認された。
(3)骨芽細胞と脂肪細胞の分離方法
細胞をカルシウムおよびマグネシウムを含まないPBSで3回洗浄したのち、0.1%トリプシンおよび0.01%EDTA添加PBSで3分間処理した。細胞が完全に遊離したのを確認したのち、20%ウシFCS添加DMEM培地を加えて細胞を浮遊させた。細胞を遠沈管に移したのち800Gで遠心分離し、上層に脂肪滴を蓄積した脂肪細胞と沈殿画分に骨芽細胞が分離された。上層の脂肪細胞を除去し、沈殿画分の骨芽細胞を取得した。
(4)成熟脂肪細胞の筋芽細胞への分化転換誘導
前記(1)記載の方法により作出されたブタの成熟脂肪細胞由来のPAとマウスの成熟脂肪細胞由来のPAを、それぞれ1×104cells/mlとなるように20%血清添加したDMEM培地に再浮遊させた。その後、コラーゲンタイプ1を塗布した組織培養用の培養皿(Falcon,3001)中に播種し、37℃、5%CO2、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内に静置して培養した。培地の交換は4日ごとに行った。ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは培養8日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは培養5日後にコンフルエントに到達したPAの培地を50μMハイドロコルチゾン、10%血清添加したDMEM培地(分化誘導培地)に交換し、10日間培養した。
(5)筋芽細胞の同定方法
培養された細胞が筋芽細胞に分化されていることを次の方法で同定した。すなわち、筋芽細胞の同定は、筋芽細胞の決定因子であるMyf5、MyoDおよび筋細胞のコミットメント因子であるミオゲニン抗体による免疫染色を指標として行った。
1)Myf5およびMyoD抗体による免疫染色
分化誘導4日後に以下に示す方法で細胞を固定した。培養皿中の分化誘導培地と等量の4%ホルマリン液を添加し、室温で20分間静置して前固定を行なった。前固定液を除去したのち、新たに2mlの4%ホルマリン液を加え、室温で1時間静置した。固定液を除去後、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。2%過酸化水素水PBSで3回洗浄して内因性パーオキシダーゼ活性を阻害した。さらに、内因性アビジン−ビオチンを阻害しのち、正常血清添加PBSで20分間ブロッキングしたのち、Myf5あるいはMyoD抗体(400倍希釈)を4℃、20時間反応させた。PBSで2回洗浄後、希釈ビオチン化2次抗体で30分間反応させたのち、PBSで2回洗浄した。ついで、ABC試薬で60分間反応させた。反応後、Tris−HClで洗浄したのち、10分間DAB染色した。蒸留水で3回洗浄したのち、観察に供試した。
2)ミオゲニン抗体による免疫染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導10〜18日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導7〜10日後に、上記と同様の固定方法を用いて細胞を固定したのち、リン酸緩衝液(PBS)で3回洗浄した。2%過酸化水素水PBSで3回洗浄して内因性パーオキシダーゼ活性を阻害した。さらに、内因性アビジン−ビオチンを阻害し、正常血清添加PBSで20分間ブロッキングしたのち、ミオゲニン抗体(300倍希釈)を4℃、20時間反応させた。PBSで2回洗浄後、希釈ビオチン化2次抗体で30分間反応させたのち、PBSで2回洗浄した。ついで、ABC試薬で60分間反応させた。反応後、Tris−HClで洗浄したのち、10分間DAB染色した。蒸留水で3回洗浄したのち、観察に供試した。
このようにして得られたブタの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された筋芽細胞の顕微鏡写真を図8〜10に示した。また、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された筋芽細胞の顕微鏡写真を図11に示した。これらの図に見られるように成熟脂肪細胞に由来するPAの分化転換誘導により筋芽細胞が取得されることが確認された。ブタの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された筋芽細胞は、分化転換誘導18日後には多くの細胞が筋芽細胞特異的なマーカーを発現した。また、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された筋芽細胞は、分化転換誘導10日後には、その殆どの細胞が筋芽細胞特異的なマーカーを発現した。
(6)成熟脂肪細胞の軟骨細胞への分化転換誘導
前記(1)記載の方法により作出されたブタの成熟脂肪細胞由来のPAとマウスの成熟脂肪細胞由来のPAを、それぞれ1×105cells/mlとなるように20%血清添加したDMEM培地に再浮遊させた。その後、コラーゲンタイプ1を塗布した組織培養用の培養皿(Falcon,3001)中に播種し、37℃、5%CO2、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内に静置して培養した。培地の交換は4日ごとに行った。ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは培養8日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは培養5日後に、コンフルエントに到達したPAの培地を5μgインスリン、50μMアスコルビン酸、10nMトランスフォーミング増殖因子β3および1%血清添加したDMEM培地(分化誘導培地)に交換し、ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは10〜18日間培養し、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは14日間培養した。なお、対照区としては、分化誘導しないPAを、また軟骨細胞に分化するラット由来のL6細胞株をポジティブコントロールに用いた。
(7)軟骨細胞の同定方法
培養された細胞が軟骨細胞に分化されていることを次の方法で同定した。すなわち、軟骨細胞の同定には、アルシアンブルー染色、ドルイジンブルー染色およびコラーゲンタイプII抗体による免疫染色を指標として行なった。
1)アルシアンブルー染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導8日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導14日後に、以下に示す方法で細胞を固定したのち、アルシアンブルー(AB)で染色した。培養皿中の分化誘導培地に1mlの4%ホルマリン液を添加し、室温で20分間静置して前固定を行なった。前固定液を除去したのち、新たに2mlの4%ホルマリン液を加え、室温で1時間静置した。固定液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。100mgのABを10mlの0.1N HClに溶解し、濾過してAB染色液を準備した。ついで、2mlの0.1N HClを細胞を固定した培養皿に入れ、5分間室温下で保持した。0.1N HClを除去したのち、2mlのAB染色液に30分間浸漬した。AB染色液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。
2)トルイジンブルー染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導8日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導14日後に、以下に示す方法で細胞を固定したのち、トルイジンブルー(TB)で染色した。培養皿中の分化誘導培地に1mlのRossman’s固定液を添加し、室温で20分間静置して前固定を行なった。前固定液を除去したのち、新たに2mlのRossman’s固定液を加え、室温で1時間静置した。固定液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。ついで、2mlの0.05%(%)TB染色液に60分間浸漬することによって染色した。TB染色液を除去したのち、2mlの蒸留水で3回洗浄した。
3)コラーゲンタイプ2抗体による免疫染色
ブタの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導16日後に、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAは分化誘導14日後に、上記と同様の固定方法を用いて細胞を固定したのち、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。2%過酸化水素水を加えたPBSで3回洗浄して内因性パーオキシダーゼ活性を阻害した。さらに、内因性アビジン−ビオチンを阻害しのち、正常血清添加PBSで20分間ブロッキングしたのち、コラーゲンタイプ2抗体(1000倍希釈)を4℃、20時間反応させた。PBSで2回洗浄後、希釈ビオチン化2次抗体で30分間反応させたのち、PBSで2回洗浄した。ついで、ABC試薬で60分間反応させた。反応後、Tris−HClで洗浄したのち、10分間DAB染色した。蒸留水で3回洗浄したのち、観察に供試した。
このようにして取得された対照区およびブタの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された軟骨細胞の顕微鏡写真を図12(A〜D)に示した。また、マウスの成熟脂肪細胞由来のPAより分化誘導された軟骨細胞の顕微鏡写真を図13に示した。ポジティブコントロールであるL6細胞株と同様にAB染色、TB染色およびコラーゲンタイプ2免疫染色によって、これらの図に見られるように成熟脂肪細胞に由来するPAの分化転換誘導により軟骨細胞が取得されることが確認された。
(8)成熟脂肪細胞の乳腺上皮細胞への分化転換誘導
グリーンフローラセントタンパク質(GFP)遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの皮下脂肪組織中の成熟脂肪細胞を用いて、前記(1)に記載した方法で成熟脂肪細胞由来のPA株(GFP−PA)を作出した。また、妊娠中期の野生型雌マウスの乳腺組織より、Emermanら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:4466−4470,1977)の方法に従って乳腺上皮細胞(ME)を採取した。すなわち、乳腺組織をPBSで3回洗浄したのち、0.5%(w/v)トリプシン+0.05%(w/v)EDTA液中にて組織を細切した。ついで、37℃で30分間水平震盪したのち、0.1%(w/v)I型コラゲナーゼおよび5%FCS(v/v)添加したDMEMを加えて、さらに37℃で45分間撹拌(100〜120回/分)した。その後、細胞懸濁液を遠心処理(×200g,、1分間)して上清を除去したのち、10mlの10%FCS添加DMEMで再浮遊させた。同様の遠心洗浄処理を3回することによって、血球系細胞や繊維芽細胞を除去した。細胞懸濁液を150μmのメッシュで濾過して未消化の組織を除去して、最終的に得られた乳腺上皮細胞を培養に用いた。得られた乳腺上皮細胞をGFP−PAおよびMEを20%血清添加したDMEM培地に再浮遊させ、1型コラーゲン(1.5%)内にて3次元培養を行なった。培養2日後まで20%血清添加DMEM培地で、それ以後は5.0mg/mlウシ血清アルブミン、5μg/mlプロラクチン、1μg/mlデキサメタゾン、0.01%(v/v)ITSおよび10mM Hepesを添加した培地(分化誘導培地)に交換し、37℃、5%CO2、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内に静置して2週間培養した。培養2週間後にコラーゲンを培養皿底面から引きはがして浮遊させ、更に2週間培養を行なった。
(9)乳腺上皮細胞の同定方法
共培養されたGFP−PAがMEに分化転換していることを次の方法で同定した。すなわち、GFP−PA由来のMEの同定には、GFP発現している細胞であることが大前提であるが、さらに上皮細胞特異的に発現しているE−カドヘリン、ビンキュリン、ケラチンおよびZO−1の抗体を用いた免疫染色を指標として行なった。なお、対照区には、野生型のMEを用いた。
1)E−カドヘリン、ビンキュリン、ケラチンおよびZO−1抗体による免疫染色
分化誘導28日後、培養皿中のコラーゲンゲルを取りだし、PBSで洗浄後に常法に従って凍結切片作製用のO.T.C.コンパウンド(Tissue Tek.)で包埋した。その後、コールドトームで0.5μmの凍結連続切片を作製した。切片を4%ホルマリン液に浸漬し、室温で1時間静置することによって固定したのち、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。0.1%(v/v)Tween20添加PBS(T−PBS)に5分間浸漬したのち、1.5%(v/v)ウサギ血清添加したPBSで60分間ブロッキングを行なった。その後、種々の濃度に希釈したE−カドヘリン、ビンキュリン、ケラチンおよびZO−1抗体(200〜1000倍希釈)で4℃、18時間反応させた。200倍希釈したTRITC標識したマウス抗体で室温下、30分反応させた。次いで、遮光下においてPBSで2回洗浄し、標本を風乾したのち、光学顕微鏡あるいは蛍光顕微を用いて観察を行なった。
このようにして得られた成熟脂肪細胞に由来するMEの顕微鏡写真を図14〜17に示した。GFP−PAは3次元培養下で集合して管状構造を形成すること(図17)、またそれらはポジティブコントロールと同様の中心に腺胞腔のあるドーナッツ状の腺胞構想をとり(図16)、上皮細胞様の形態を示した。免疫染色の結果、上皮細胞様の形態を示したGFP−PAはE−カドヘリン、ビンキュリン、ケラチンおよびZO−1抗体に染色された(図16〜17)。これらの図に見られるように成熟脂肪細胞に由来するGFP−PAがMEに分化転換し、乳腺胞を形成することが確認された。
(10)成熟脂肪細胞の神経細胞への分化転換誘導
前記(1)記載の方法により作出されたブタの成熟脂肪細胞由来のPAとマウスの成熟脂肪細胞由来のPAを、それぞれ1×105cells/mlとなるようにブタの細胞は20%血清添加したDMEM培地に、マウスの細胞は10%血清添加したDMEM培地に再浮遊する。その後、コラーゲンタイプ1あるいは3を塗布した組織培養用の培養皿(Falcon,3001)あるいはフラスコ(Falcon,3107)中に播種し、37℃、5%CO2、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内に静置して培養した。神経細胞への分化誘導は、Woodburyら(J.Neuro.Res.,61:364−370 2000)の方法に準じて行なった。すなわち、培養6〜7日後、80%コンフルエントに到達したブタのPAの培地を1−10mMβ−メルカプトエタノール(BME)、20%FCS添加DMEM培地に交換し、マウスのPAの培地を1−10mMβ−メルカプトエタノール(BME)、10%FCS添加DMEM培地に交換し、それぞれ12時間培養した。PBSで洗浄後、神経細胞へ分化転換誘導するために1mM BME添加DMEM培地でさらに5時間培養した。なお、対照区としては、分化誘導しないPAを、また神経細胞に分化するNg108−15細胞株をポジティブコントロールに用いた。
(11)神経細胞の同定方法
培養されたPAが神経細胞に分化されていることを次の方法で同定した。すなわち、神経細胞の同定には、ネスチン、ニューロン特異的エノラーゼ、βIII−チューブリン、MAP2(Microtubule−associated protein 2)およびニューロフィラメント抗体による免疫染色を指標として行なった。
培養後、分化誘導12時間後に培養皿中の分化誘導培地に1mlの4%ホルマリン液を添加し、室温で20分間静置して前固定を行なった。前固定液を除去したのち、新たに2mlの4%ホルマリン液を加え、室温で1時間静置し、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。2%過酸化水素−PBSで3回洗浄して内因性パーオキシダーゼ活性を阻害した。さらに内因性アビジン−ビオチンを阻害しのち、正常血清添加PBSで20分間ブロッキングしたのち、ネスチン、ニューロン特異的エノラーゼ、βIII−チューブリンおよびニューロフィラメント抗体(200〜1000倍希釈)を4℃、20時間反応させた。PBSで2回洗浄後、希釈ビオチン化2次抗体で30分間反応させたのち、PBSで2回洗浄した。ついで、ABC試薬で60分間反応させた。反応後、Tris−HClで洗浄したのち、10分間DAB染色した。蒸留水で3回洗浄したのち、常法に従いヘマトキシリンでカウンター染色し、観察に供試した。
このようにして取得されたブタの成熟脂肪細胞に由来する神経の顕微鏡写真を図18〜19に示した。また、マウスの成熟脂肪細胞に由来する神経の顕微鏡写真を図20に示した。ブタ及びマウスのPAを神経細胞へと分化誘導した結果、それらの細胞は神経細胞様の形態を示した(図18、図20)。免疫染色の結果、神経細胞様の形態を示したPAは対照区と同様に、神経細胞分化の指標であるネスチン、ニューロン特異的エノラーゼ、βIII−チューブリン、MAP2およびニューロフィラメント抗体にそれぞれ染色された(図19)。これらの図に見られるように成熟脂肪細胞に由来するブタ及びマウスのPAを分化転換誘導することにより神経細胞が得られることが確認された。
(1)本発明は、PAを分化転換誘導することで、骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、上皮細胞、神経細胞を取得するという分化転換機構解明のための唯一の方法である。これまで、脂肪細胞および骨細胞、筋細胞、軟骨細胞は同じ中胚葉性幹細胞を起源にもち、また、神経細胞、上皮細胞は外胚葉系幹細胞に由来することが知られているが、その分化の方向性は幹細胞からそれぞれの前駆細胞をへて脂肪細胞や骨細胞へと終末分化すると考えられてきた。本発明は、それらの常識を覆し、成熟脂肪細胞を脱分化させることによって得られたPAを分化転換誘導することで骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、上皮細胞、神経細胞を取得することができる唯一の方法として、分化転換機構の解明に著しく貢献する。
(2)新規の再生医療用のドナー細胞として以下のような効果がある。
1)皮下脂肪を用いるので採取しやすく、ドナーの麻酔による危険性が低く、負担が少ない。
2)多数の細胞が採取されるので、多くの成熟脂肪細胞数が得られ、それに比例して多数の骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、上皮細胞、神経細胞を得ることができる。従って骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、上皮細胞、神経細胞の採取が著しく低コストで行うことができる。
3)成熟脂肪細胞はその構造から、単一な細胞群として採取することができるので、均一な細胞群が特別な機器がなくても簡単に分採することができる。
4)成熟脂肪細胞由来のPAは線維芽細胞であるので、取り扱いが容易で特別な培養技術を必要としない。
5)新生児から高齢者まで皮下脂肪は存在するので、治療対象者の年齢を問わず実施できる。
6)受精卵を用いず実施できるので、倫理面の制約を受けることがない。また、美容整形外科等で廃棄されるものも再利用することができる。
Claims (14)
- 脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を脱分化させた前駆脂肪細胞株を分化転換誘導することにより、他の機能を有する細胞を取得する方法。
- 脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を脱分化させた前駆脂肪細胞株がFERM BP−08645である請求項1に記載の他の機能を有する細胞を取得する方法。
- 脂肪組織由来の成熟脂肪細胞が皮下脂肪組織由来の成熟脂肪細胞である請求項1に記載の他の機能を有する細胞を取得する方法。
- 分化転換された他の機能を有する細胞が骨芽細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 分化転換された他の機能を有する細胞が筋芽細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 分化転換された他の機能を有する細胞が軟骨細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 分化転換された他の機能を有する細胞が上皮細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 分化転換された他の機能を有する細胞が神経細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 請求項1〜8のいずれかの培養方法を用いて分化転換された細胞。
- 細胞が骨芽細胞である請求項9に記載の細胞。
- 細胞が筋芽細胞である請求項9に記載の細胞。
- 細胞が軟骨細胞である請求項9に記載の細胞。
- 細胞が上皮細胞である請求項9に記載の細胞。
- 細胞が神経細胞である請求項9に記載の細胞。
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