JP2000083656A - 前駆脂肪細胞株 - Google Patents

前駆脂肪細胞株

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JP2000083656A JP10378013A JP37801398A JP2000083656A JP 2000083656 A JP2000083656 A JP 2000083656A JP 10378013 A JP10378013 A JP 10378013A JP 37801398 A JP37801398 A JP 37801398A JP 2000083656 A JP2000083656 A JP 2000083656A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 動物の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の
新たな樹立方法及び該方法により得られる前駆脂肪細胞
株を提供することを課題とする。 【解決手段】 動物由来の単胞性脂肪細胞を天井培養し
て得られる線維芽細胞様脂肪細胞を長期間継代培養して
も形質転換なしに、かつ、均一な増殖及び分化能を保持
する前駆脂肪細胞が得られることを見い出した。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は動物の単胞性脂肪細
胞由来の前駆脂肪細胞株の樹立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】白色脂肪組織の大部分を占有する成熟脂
肪細胞は、生体が摂取した余剰エネルギーを中性脂肪に
変換して貯蔵するだけでなく、生体維持に必要なエネル
ギー収支の調節機能においても主要な役割を果たすこと
が明らかにされている。このため脂肪細胞では、脂質代
謝ならびに種々の生理活性物質の生成および分泌が活発
に行われている。成熟脂肪細胞の直径は、10〜200
μmと多様であるが、細胞質内に一つの大きな脂肪滴と
周辺部に押しやられた核を有する典型的な形態から単胞
性脂肪細胞と呼ばれている。脂肪細胞の形成過程は、ま
ず多能性中胚葉細胞から前駆脂肪細胞となり、活発に増
殖する。ついで、前駆脂肪細胞はコミットメントされた
のち、増殖停止して脂肪細胞へと終末分化するとされて
いる。この一連の分化過程において脂肪細胞特異的な遺
伝子が整然と発現されることが知られている。最近、脂
肪細胞の分化に関与する転写因子(核内受容体)の研究
が急速に進展し、脂肪細胞特異的な遺伝子群の発現誘導
および抑制を調節するマスターレギュレーターとしてペ
ルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPARγ)が
発見された。PPARγは脂肪細胞にのみ特異的に発現
し、栄養素である脂肪酸をリガンドとする核内受容体で
ある。また、PPARγはレチノイドX受容体と補因子
二量体を形成して標的遺伝子の応答配列(PPRE)に
結合して転写調節することも明らかにされた。
【0003】これと並行して、PPARγはインスリン
非依存型糖尿病(NIDDM)に対する治療薬であるチ
アゾリジン誘導体の細胞内標的タンパク質であることが
示され、糖尿病、肥満、高脂血症などの成人病と、脂肪
細胞分化を支配する転写調節の研究との緊密な接点が明
らかにされつつある。成人病との関連性では、脂肪細胞
が種々の生理活性物質を生成および分泌する内分泌細胞
との側面が注目されている。インスリン抵抗性は、肥満
症および糖尿病において最も頻繁に認められる病態であ
る。肥満を伴う糖尿病におけるインスリン抵抗性は、脂
肪細胞から分泌されるTNFαによって惹起されると考
えられている。実際、肥満のヒトあるいは動物では、内
臓脂肪からの脂肪細胞からTNFα分泌が亢進されてお
り、インスリン抵抗性の指標と相関することが示されて
いる。また、PAI−1(plasminogen a
ctivator inhibitor 1)は血液線
溶系における最も重要な物質であり、線溶性を低下させ
血栓形成を促進し、心筋梗塞などの原因となることが知
られている。肥満症およびNIDDM患者では血中PA
I−1が上昇するが、それらは主に内臓脂肪細胞由来で
あることも明らかにされている。さらに、肥満遺伝子の
産物であるレプチンは脂肪細胞で産生され、中枢に作用
して摂食抑制およびエネルギー消費を促進して体脂肪を
一定に調節する新しいホルモンであるが、これも肥満症
およびNIDDM患者において高く、またTNFαによ
って産生が亢進されることも明らかにされている。肥満
症あるいはNIDDMにおける血中のTNFα、PAI
−1およびレプチンの上昇は、チアゾリジン誘導体によ
って強く改善されることから、それら脂肪細胞由来の生
理活性物質の生成および分泌は脂肪細胞分化に直接関係
すると考えられる。しかし、疾患についての知見はヒト
において、また脂肪細胞分化の機構についてはマウス前
駆脂肪細胞株を用いた体外培養における知見がほとんど
であり、それらの疾患と脂肪細胞分化の関連性について
は未だ不明な点が多く残されている。
【0004】一方、家畜あるいは家禽などの産業動物の
体脂肪蓄積の制御および脂肪交雑肉の作出は、これまで
飼料エネルギーあるいは栄養素の調節によっておこなわ
れきた。しかし、経済効果優先の育種目標として、増体
量の向上が優先されたことから飼料摂取量の多い個体が
必然的に選抜されてきた。それにより、飼料摂取量が多
い個体ではエネルギー過剰に陥りやすく、脂肪として蓄
積される傾向を有する個体が多い。これに反して、ヒト
では肥満症の増加から低脂肪の畜肉が嗜好され、生産さ
れる大部分の脂肪は食されることなく廃棄されているの
が現状である。同時に、家畜あるいは家禽においても体
脂肪の過剰蓄積に起因する代謝障害による疾病の増加も
問題になっている。これらの解決策として、従来の間接
的な方法によって高い生産性を維持しつつ、体脂肪の過
剰蓄積を抑制することはすでに限界に達していると思わ
れる。そこで、根本的なテーマとして、脂肪組織を構成
する脂肪細胞の増殖および分化機構を直接的に制御する
ことができれば、体脂肪蓄積のより効果的な制御を可能
にすると考えられる。しかし、家畜あるいは家禽の脂肪
組織を構成する脂肪細胞の増殖および分化に関する細胞
レベルでの知見の集積はほとんどなされていないのが現
状であり、またそれを調べるための優れた実験系も未だ
確立されていない。
【0005】これまで脂肪細胞の増殖および分化に関す
る研究は、主に、Swiss−3T3由来の前駆脂肪細
胞株(3T3−L1や3T3−F443A)、或いは、
脂肪組織を酵素処理することによって得られる間質−血
管画分に含まれる前駆脂肪細胞(S−V細胞)の初代培
養系を用いて行われてきた。しかし、Swiss−3T
3由来の前駆脂肪細胞株には、1)パターンが異なった
染色体をもつ変異細胞が混入している、2)妊娠17〜
19日の胚由来であるため、アダルト由来の前駆脂肪細
胞とは分化特性が異なる、3)血清添加培地で培養する
と自発的に分化誘導されるので、本質的に分化誘導する
物質を特定できない、等の解決すべき課題がある。一
方、S−V細胞は、1)前駆脂肪細胞以外の細胞、たと
えば、血管内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞などが混
入しているため、前駆脂肪細胞自体の分化特性を調べる
ことかできない(他の細胞群の影響を無視できない)、
2)脂肪組織中には、中胚葉性の多能性細胞から前駆脂
肪細胞へと分化したばかりの細胞から、既にコミットメ
ントされ脂肪細胞への分化途上の細胞に至る、種々の段
階の分化過程にある細胞が存在する、3)初代培養系で
あるため、同一材料を用いて複数回の実験ができない、
4)前記2)及び3)の理由から細胞を調製する個体間
の差が大きいため、再現性の高いデータが得られない、
等の解決すべき課題がある。
【0006】これらの課題は、対象とする動物の前駆脂
肪細胞を限界希釈法などによってクローニングして、前
駆脂肪細胞株を樹立することにより解決できる可能性が
あるが、この様な操作は煩雑であり、且つ成功率が低
い。
【0007】
【発明が解決しょうとする課題】そこで、本発明は、動
物の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の新たな樹立方
法及び該方法により得られる前駆脂肪細胞株を提供する
ことを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決すべく鋭意研究を行った結果、すでに、終末分化
を遂げている、動物由来の単胞性脂肪細胞を天井培養
し、得られる線維芽細胞様脂肪細胞が、前駆脂肪細胞と
同様な増殖及び分化特性を有することを確認し、さら
に、該線維芽細胞様脂肪細胞を長期間継代培養しても形
質転換なしに、かつ、均一な増殖及び分化能を保持して
継代培養ができることを見出し、本発明を完成した。す
なわち、本発明は、1)動物の単胞性脂肪細胞を天井培
養して形成される線維芽細胞様脂肪細胞を継代培養し、
分化誘導することによって得られる該動物由来の前駆脂
肪細胞株、2)動物がヒトである1)に記載の前駆脂肪
細胞株、3)動物がブタである1)に記載の前駆脂肪細
胞株、4)動物がブタである1)に記載の前駆脂肪細胞
株、に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】動物の脂肪組織は、形成される部
位(腸間膜、腎臓周囲、皮下、精巣上体、筋肉組織内な
ど)ごとに異なる特性を有することが明らかにされつつ
ある。そこで、前駆脂肪細胞の樹立目的によって、動物
の年齢あるいは性別など、採取する脂肪組織を選択する
ことができる。例えば、家畜では、商品価値の高い畜肉
(例えば、霜降り肉)生産を目的として、筋肉組織内脂
肪細胞の形成機構解明のための筋肉組織由来の前駆脂肪
細胞株の樹立、肉用家畜あるいは家禽の枝肉率の向上を
目的として、腹腔内脂肪細胞の形成機構およびその特性
解明のための腹腔内脂肪由来の前駆脂肪細胞株の樹立、
乳脂肪と脂肪酸組成との関連の調査を目的とした乳腺組
織由来の前駆脂肪細胞株の樹立、或いはヒトにおいて、
特に肥満症あるいは成人病に深く関与する生理活性物質
(TNFα、レプチン、PAI−1など)の生成および
分泌の調節機構解明のための内臓脂肪組織由来の前駆脂
肪細胞株の樹立、などが考えられる。
【0010】1)単胞性脂肪細胞の分離 単胞性脂肪細胞の分離は、基本的には、Rodbelの
方法(RodbelM.:J.Biol.Chem.,
239:173−181,1964)に準じて行うこと
ができる。外科手術中のヒト、或いは家畜・家禽から目
的とする脂肪組織をすばやく採取する。太めの血管およ
び結合組織を除去する。抗生物質を含む基礎培地(例え
ばダルベッコー変法イーグル培地)、或いはリン酸緩衝
生理食塩水に脂肪組織を入れ、緩やかに脂肪組織を洗浄
する。次いで、脂肪組織を、ウシ血清アルブミンおよび
コラゲナーゼ、トリプシン、プロナーゼ、ディスパー、
エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、などの酵素を含む培
地中に入れ、外科用ハサミで細胞が挫滅しないよう細切
した後、45〜60分間震盪して細胞を分散する。分散
操作後、細胞懸濁液をナイロンメッシュで濾過して未消
化組織を除去する。濾液を緩やかに遠心分離すると、単
胞性脂肪細胞は上層に浮遊して集まる。一方、間質血管
細胞(前駆脂肪細胞を含む)は、沈殿に集まる。単胞性
脂肪細胞をビペットで吸引採取する。採取した単胞性脂
肪細胞は、さらに培地(例えば血清あるいはBSAを含
むダルベッコー変法イーグル培地)に移し、数回遠心洗
浄する。
【0011】2)単胞性脂肪細胞の培養 単胞性脂肪細胞の培養は、杉原らの方法(Sugiha
ra,H.et al.:Differentiati
on,31:42−49,1986)に準じて行うこと
ができる。すなわち、単胞性脂肪細胞は、細胞質内に含
まれる中性脂肪によって培養液中で浮遊するが、この浮
遊性を逆に利用して、培地を100%充満させたフラス
コの内側上面(天井面)に該細胞を接着させて培養する
方法(天井培養)である。この方法で、単胞性脂肪細胞
を数日間天井培養すると、大部分の細胞は細胞質の一部
を伸長あるいは拡張させ、フラスコ天井面にしっかりと
接着し、大型の脂肪滴の周辺に種々の大きさの脂肪滴を
有する多胞性脂肪細胞へと形態変化する。この時点で、
フラスコ内の培地を適量の培地に交換し、通常の培養法
に戻して培養を継続する。多胞性脂肪細胞に含まれる脂
肪滴はさらに分割され、小さくなるにつれて、多胞性脂
肪細胞は細胞質をさらに伸長させ、線維芽細胞様の形態
に変化する細胞が観察される。さらに培養を継続する
と、線維芽細胞様の形態を呈する多胞性脂肪細胞の周辺
部には、脂肪滴を僅かに、あるいはまったく持たない線
維芽細胞様脂肪細胞(FA)が多数観察されるようにな
る。FAは活発に増殖する一方で、多胞性脂肪細胞は徐
々に観察されなくなる。その後、フラスコ内の細胞はF
Aのみとなりコンフルエントに達する。ブタ、ニワト
リ、ラットあるいはヒトなど、いずれの種から採取した
単胞性脂肪細胞を天井培養した場合においても、上記に
示した形態変化したのち、活発に増殖するが、年齢、採
取した組織の部位(例えば、皮下あるいは内臓脂肪組
織)および性別などによって若干異なる。
【0012】3)線維芽細胞様脂肪細胞(FA)の増殖
および分化 上記2)において形成されたFAの採取および継代培養
は以下に示す方法を用いて行う。天井培養後、フラスコ
内にFAが形成され、活発に増殖することが確認された
ら、フラスコ内の培地を除去し、フラスコ内の細胞をト
リプシン処理および遠心分離する。この操作により、脂
肪滴を有する多胞性脂肪細胞を上層画分に、脂肪滴をも
たないFAを沈殿画分に分離することができる。この単
胞性脂肪細胞由来のFAを継代培養すると、培養24時
間後に、殆どの細胞は培養皿底面に接着し、線維芽細胞
様の形態を示しながら活発に増殖し、数日後には、ほぼ
コンフルエントに達する。この培養期間における増殖曲
線を作成することによって該動物あるいは組織由来のF
Aの増殖特性を調べる。動物種(ヒトあるいはラット)
によっては、細胞質内に微小な脂肪滴が観察されるが、
この場合は脂肪細胞の脱分化誘導作用を有するTNFa
添加した培地を用いるなど適宜に行う。細胞質内の脂肪
滴の有無の確認は、オイルレッド0染色法を用いて行
う。なお、ブタあるいはニワトリのFAでは、脂肪滴は
観察されない。
【0013】FAの分化特性については、以下に示す方
法を用いて行う。FAの培地を分化誘導剤を添加した培
地(動物種で若干異なる)に交換し、数日間培養培養し
て分化誘導を行う。分化誘導後、通常の培地に戻し、さ
らに培養を継続する。一般的に、FAを分化誘導後数日
経過すると、FAは星状あるいは敷石状に形態変化し、
細胞質内に小さな脂肪滴を有する細胞が観察されるよう
になる。さらに培養を継続すると、細胞質は拡張し、細
胞質内に種々の大きさの脂肪滴が観察されるようにな
る。分化誘導後におけるFA細胞質内の脂肪滴蓄積の確
認は、オイルレッド0染色法を用いて行う。また、脂肪
細胞の分化の後期マーカーであるglycerol−3
−phosphate−dehydrogenase
(GPDH)活性を分化の指標として測定し、分化誘導
後の培養期間中における活性の変化を観察する。以上の
結果として、該動物あるいは組織のFAが活発な増殖お
よび分化能を有することが示されれば、FAは単胞性脂
肪細胞由来の前駆脂肪細胞であることが示される。
【0014】4)前駆脂肪細胞株の樹立 単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の継代培養を行い、
各継代ごとの増殖および分化能を調べることによって前
駆脂肪細胞株の樹立を試みる。例えば、ブタおよびニワ
トリの単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞では、それぞ
れ37および33代目においても、継代初期と同様の均
一な増殖能力および分化能が維持されており、かつ、染
色体異常などの形質転換も観察されないことが確認され
ている。
【0015】以上のように、本発明は4行程からなる。
本発明では、実施例として以下にブタ皮下脂肪組織およ
びニワトリ腹腔内脂肪組織由来の前駆脂肪細胞株の樹立
を示したが、その他の家畜、例えばウシやヒツジ、或い
は家禽のアヒル、ウズラ、さらにはヒトなどにも、本発
明で開示された技術を用いて、或いは当業者であるなら
ば、必要な変更を加えて、目的の動物および組織由来の
前駆脂肪細胞株を樹立することが可能である。例えば培
養条件における培地、血清濃度、分化誘導剤などの選択
は、当業者であるならば、簡単な試行錯誤の結果、適宜
に最適条件を設定することが可能である。例えば、14
日齢ニワトリ腹腔脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の場合で
は、血清添加添加濃度は10%、分化誘導剤は脂肪酸を
用い、また、6〜7ヶ月齢ブタ皮下脂肪組織由来の前駆
脂肪細胞の場合では20%血清添加で分化誘導剤にはイ
ンスリン、デキサメタゾンおよびイソブチルメチルキサ
ンチンの同時添加が適当である。
【0016】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
るが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではな
い。
【0017】[実施例1]単胞性脂肪細胞の増殖特性 ブタ単胞性脂肪細胞の増殖特性を明らかにする目的で行
った。すなわち、天井培養法を用いて単胞性脂肪細胞を
培養し、増殖様式を観察した。ついで、単胞性脂肪細胞
から形成されるFAの増殖状況を調べることによって、
それらの効率的な採取が可能であるかについても検討し
た。
【0018】1)材料および方法 (1)脂肪組織の採取 と畜場において、6〜7ヶ月齢の雄あるいは雌ブタの皮
下脂肪組織を採取し、約37℃に調整しておいた保温瓶
に入れて1時間以内に実験室に持ち帰った。
【0019】(2)単胞性脂肪細胞の単離および培養 単胞性脂肪細胞の単離および培養方法の概略を図1に示
す。0.08mg/mlカナマイシン−硫酸塩(SIG
MA)および0.5mg/mlポリビニールアルコール
(SIGMA)添加のリン酸緩衝食塩水(PBS−PV
A)に、0.1%(v/v)セチルトリメチルアンモニ
ウムブロミドを添加した溶液で脂肪組織を洗浄した。さ
らに、PBS−PVAで組織を3回洗浄した。25mM
HEPES、1.8mg/ml NaHCOおよび
0.08mg/mlカナマイシン−硫酸塩を添加したダ
ルベッコ変法イーグル培地(HEPES−DMEM;日
水製薬)に、さらに2%ウシ血清アルブミン(BSA)
および0.1%コラゲナーゼ(Type II;SIG
MA)を添加した培地(pH7.4)中に約4gの脂肪
組織を移し、外科用ハサミを用いて細切した。ついで遠
沈管に移したのち、39℃の培養装置内で60分間震盪
培養した。コラゲナーゼ処理後、細胞懸濁液を口径25
0および150μmのナイロンメッシュ(共進理工)を
用いて濾過したのち、3%(v/v)ウシ胎子血清(F
CS;Filtron)を添加したHEPES−DME
Mでメッシュに付着した細胞を洗い流し、未消化組織と
細胞を分別した。細胞懸濁液を遠沈管に移し、3分間、
106Gで遠心分離するこによって、上層に単胞性脂肪
細胞からなる画分を得た。単胞性脂肪細胞画分をピペッ
トで吸引採取し、それを新鮮な3%FCS添加HEPE
S−DMEM中に移した。さらに、106G、3分間の
遠心洗浄を3回繰り返したのち、血球計算盤を用いて細
胞数を測定した。
【0020】単胞性脂肪細胞の培養は、Sugihar
aら(Sugihara,H.etal.:Diffe
rentiation,31:42−49,1986)
の方法に準じて行った。すなわち、3〜6×10個の
単胞性脂肪細胞を組織培養フラスコ(Falcon,3
107)に移し、20%FCS、1.8mg/mlNa
HCOおよび0.08mg/mlカナマイシン−硫酸
塩を添加したDMEMでフラスコ内を完全に満たした。
37℃、5%CO、95%空気の気相下の炭酸ガス培
養装置内に、フラスコ底面が上となるように静置して6
日間培養した。培養6日後、フラスコ内の培地を除去し
たのち、20%FCS添加DMEMに交換し、細胞接着
面が底面となるようにして炭酸ガス培養装置内でさらに
16日間培養を続けた。なお、天井培養後の培地交換は
4日毎に行った。単胞性脂肪細胞の増殖状況について
は、倒立顕微鏡下で毎日観察を行った。
【0021】(3)FA数の測定 培養6、10、14、18および22日後に、単胞性脂
肪細胞から増殖したFAを以下に示す方法で測定した。
フラスコ内の培地を除去したのち、PBS−PVAで4
回洗浄した。ついで、0.1%(w/v)トリプシン
(Difco)、0.1%(w/v)エチレンジアミン
四酢酸(EDTA;ナカライテスク)を添加したPBS
(トリプシンEDTA−PBS)をフラスコ内に加えた
のち、炭酸ガス培養装置内に5分間静置した。培養後、
3%FCS添加DMEMを加えたのち遠沈管に移し、さ
らに同培地でフラスコ内を2回洗浄して細胞を回収し
た。その後、165G、3分間遠心洗浄し、20%FC
S添加DMEMで細胞を再浮遊させたのち、血球計算盤
を用いて細胞数を計算した。
【0022】(4)組織化学的検索 細胞質内における脂肪蓄積の組織化学的検索には、オイ
ルレッド0染色(Hausman,G.J.:Stai
n Technology,56:149−154,1
981)を用いた。すなわち、10%ホルマリン(v/
v)添加PBS(ホルマリン−PBS)をフラスコ内の
培地に加えて20分間室温下で前固定した。さらに、フ
ラスコ内の培地を除去し、再び10%ホルマリン−PB
Sを加えて1時間室温下で後固定した。その後、フラス
コ内のホルマリン−PBSを除去し、蒸留水で2〜3回
洗浄した。0.5%(w/w)オイルレッド0−イソプ
ロピルアルコール溶液と蒸留水を3:2で混合したの
ち、定性濾紙(No.2、Advantec)で濾過し
て作成したオイルレッド0染色液をフラスコに入れ、1
時間室温下で染色した。染色後、蒸留水で2〜3回洗浄
し、風乾させたのち倒立顕微鏡下で単胞性、多胞性およ
びFAの脂肪蓄積状況を観察した。
【0023】2)結 果 コラゲナーゼ処理後の遠心分離操作によって、単胞性脂
肪細胞からなる単一な細胞画分が得られた(図2−
a)。皮下脂肪組織から採取された単胞性脂肪細胞数
は、4g当たり約3×10個であった。
【0024】フラスコ内に導入された全ての単胞性脂肪
細胞は、フラスコ天井面(底面)に浮き上がり、細胞質
に含まれる一つの大きな脂肪滴に押し出されて細胞の周
辺部に移動した核を有する典型的な形態を呈した。天井
培養2〜3日後、一部の単胞性脂肪細胞は不完全ではあ
るが、フラスコ天井面に接着した。培養4日後には、大
部分の細胞は細胞質の一部を伸長あるいは拡張させフラ
スコ天井面にしっかりと接着し、大型の脂肪滴の周辺に
種々の大きさの脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞へと形態
変化した。多胞性脂肪細胞に含まれる脂肪滴はさらに分
割され、小さくなるにつれて、多胞性脂肪細胞は細胞質
をさらに伸長させ、線維芽細胞様の形態に変化する細胞
が観察された。培養6日後には、線維芽細胞様の形態を
呈する多胞性脂肪細胞の周辺部には、脂肪滴をまったく
持たないFAが多数観察された(図2−a)。その後、
脂肪滴を持たないFAは活発に増殖したが、多胞性脂肪
細胞は徐々に観察されなくなった(図2−b)。培養1
4日後、フラスコ内の細胞はFAのみとなりコンフルエ
ントに達した(図2−c)。
【0025】天井培養終了後(培養6日後)には、フラ
スコ内の細胞をトリプシン処理および遠心分離すること
によって、脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞を上層画分
に、脂肪滴をもないFAを沈殿画分に分離することかで
きた。天井培養後におけるFAの増殖曲線を図3に示し
た。培養6日後に採取されたFAは、約6×10個/
25cmであったが、その後、急速に増加しコンフル
エントに達した培養18日後では、約1.4×10
/25cmと約23倍にまで増加した。以上の結果か
ら、ブタ単胞性脂肪細胞は多胞性脂肪細胞へ、さらには
FAへと形態変化したのち、活発に増殖し、コンフルエ
ントにまで達することが示された。したがって、ブタ単
胞性脂肪細胞を天井培養すれば、前駆脂肪細胞株樹立の
ための有用な材料であるFAを簡便かつ効率的に採取で
きることが明らかとなった。
【0026】[実施例2]ブタFAの増殖および分化特
性 ブタ単胞性脂肪細胞を天井培養すると細胞質に脂肪滴を
持たないFAの効率的な採取が可能であることを実施例
1で示した。もし、採取されたFAが継代培養後におい
ても活発な増殖能および脂肪細胞への再分化能を有する
とすれば、それらの細胞は、前駆脂肪細胞である。本実
施例では、単胞性脂肪細胞から得られたFAが前駆脂肪
細胞にまで脱分化するか、すなわち、FAは前駆脂肪細
胞であるかを調べる目的で行った。まず、FA細胞が前
駆脂肪細胞と同様な増殖および分化特性を有するかを、
脂肪組織から採取したS−V細胞を対照区として比較検
討した。さらに、FAの増殖および分化における至適条
件についても調べた。
【0027】1)材料および方法 (1)FAの増殖特性 FAの採取は、実施例1の(1)と同様の方法で行っ
た。天井培養14日後、フラスコ内の培地を除去したの
ち、PBS−PVAで4回洗浄した。トリプシンEDT
A−PBSをフラスコ内に加えたのち、炭酸ガス培養装
置内に5〜8分間静置した。培養後、3%FCS添加D
MEMを加えたのち遠沈管に移し、さらに同培地でフラ
スコ内を2回洗浄して細胞を回収した。その後、165
G、3分間遠心洗浄し、20%FCS添加DMEMで細
胞を再浮遊させたのち、血球計算盤を用いて細胞数を測
定した。
【0028】一方、対照区であるS−V細胞の採取は、
細胞懸濁液を遠心後、上層画分をピペットで吸引除去
し、沈殿層のS−V画分を採取した以外は、実施例1の
(2)と同様に行った。
【0029】10%FCSおよび20%FCSを添加し
たDMEMのそれぞれに対して、FAおよびS−V細胞
を10および10個/mlとなるように播種したの
ち、35mmの培養皿(FAlcon,3001J)に
播種した。5%CO炭酸ガス培養装置内に静置して、
培養16日後まで4日毎にそれぞれの細胞数を測定し
た。また、FAおよびS−V細胞の増殖状況の観察は、
倒立顕微鏡を用いて毎日行った。
【0030】(2)FAの分化特性 FAあるいはS−V細胞を、最終濃度1×10個/m
lとなるように20%FCS添加DMEMで調整して培
養皿に播種し、炭酸ガス培養装置内(37℃、5%CO
、95%空気)で10日間培養した。培養後、コンフ
ルエント状態を確認したのち、FCSについては種々の
濃度で、またデキサメタゾン(DEX;0〜2.5μ
M)、1−メチル−3−イソブチルキサンチン(IBM
X;0〜5mM)、あるいはインスリン(INS;0〜
50μ,g/ml)などの分化誘導剤については、種々
の濃度あるいは組み合わせで添加した分化誘導培地に交
換して4日間培養した。培養後、再び20%FCS添加
DMEMに交換し、さらに8日間培養した。分化状況
は、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PD
H)比活性値およびオイルレッド0染色を指標として調
べた。
【0031】G3PDH活性測定に用いる細胞の調整
は、PairaultとGreen(Pairaul
t,J.and Green,H.:Proc.Nat
l.Acad.Sci.USA,76:5138−51
42,1979)の方法に準じて行った。すなわち、培
養12後まで4日毎、あるいは培養12日後に培養皿の
培地を除去し、あらかじめ4℃に冷却しておいたPBS
で細胞を2回洗浄したのち、1mM EDTA添加した
25mMTris−HCl(pH7.5)を加え、ラバ
ーポリスマンで細胞をかき集めた。細胞塊を含むTri
s−HClをマイクロチューブに移し、150W、10
秒間の超音波破砕処理して細胞を破壊した。ついで、4
℃、12800Gで5分間遠心分離したのち、上清を超
遠心用チューブに移し、4℃、100000G、60分
間遠心分離した。遠心後に得られた上清(粗酵素液)を
マイクロチューブに移し、G3PDH活性測定の直前ま
で−80℃で保存した。
【0032】G3PDH活性の測定は、KozakとJ
ensen(Kozak,L.P.and Jense
n,J.T.:J.Biol.Chem.,249:7
775−7781,1974)の方法に従った。すなわ
ち、0.5Hトリエタノールアミン、10mM EDT
Aおよび10mMβ−メルカプトエタノールの混合溶液
50μ1、5mMジヒドロキシアセトンリン酸(SIG
MA)および0.5mM NADH(オリエンタル酵
母)を混合したものを反応液として用いた。融解直後の
粗酵素液を反応液に加えて、撹拌したのち、ただちに分
光光度計(25℃、340nm)を用いて、単位時間あ
たりの吸光度の変化を測定した。
【0033】粗酵素液中のタンパク質濃度はLowry
らの方法に従って測定した。すなわち、蒸留水で25倍
希釈した粗酵素液に2%(w/v)NaCOと1%
(w/v)CuSO・5HOおよび2%(w/v)
酒石酸カリナトリウムが50:1になるように混合した
ものを加えて10分間室温下に静置した。その後、IN
フェノール試薬を加えたのち、30分間静置した。発色
反応後、分光光度計(750nm)を用いて吸光度を測
定した。以上の操作によって得られたG3PDH活性値
およびタンパク質含有量からG3PDH比活性値(un
its/mgprotein)を以下に示す数式を用い
て算出した。
【0034】G3PDH比活性値(units/mg
protein)=(100×t分間の吸光度変化量/
1.25×t分)/粗酵素液中のタンパク質濃度(m
g) 2)結 果 (1)FAの増殖特性 継代培養したFAの増殖期における形態変化を調べた。
培養24時間後、FAおよびS−V細胞にかかわりな
く、播種されたほとんどの細胞は培養皿底面に接着し
た。その後、接着したFAおよびS−V細胞は伸長して
線維芽細胞様の形態を示し、活発に増殖した。培養10
日後には、いずれの細胞も培養皿一面に広がりほぼコン
フルエントに達した。増殖期におけるFAおよびS−V
細胞の形態的な差異は観察されなかった。FAおよびS
−V細胞の増殖曲線を図4に示した。FAおよびS−V
細胞の10個/ml播種区では、FCS濃度にかかわ
りなく急速に増殖し、培養8日後にはコンフルエントに
達した。一方、10個/ml播種区においてもFAお
よびS−V細胞は、FCS濃度にかかわりなく急速に増
加し、培養12日後にはほぼコンフルエントに達した。
しかし、FAの20%FCS添加区では培養12日後に
おいても細胞数の増加が認められ、培養16日後には1
個/ml播種区と同様の値を示した。
【0035】(2)FAの分化特性 FAの分化にともなう形態変化を図5に示した。分化誘
導直前のFAはコンフルエントに達しても線維芽細胞様
の典型的な形態を示し、細胞質内に脂肪滴は観察されな
かった(図5−a、b)。0.25μM DEX、5μ
g/ml INS、0.5mM IBMXおよび20%
FCSを添加したDMEMを用いて分化誘導すると、分
化誘導4日後には、FAは星状の形態を示し、細胞質内
に小さな脂肪滴を有するものも観察された(図5−
b)。分化誘導12日後には、細胞質は拡張し、細胞質
内に種々の大きさの脂肪滴が多数観察された(図5−
c)。また、図には示さなかったが、分化誘導後のS−
V細胞においても一部が星状になったが、他のほとんど
の細胞は線維芽細胞様の形態を維持した。しかし、培養
12日後にはFAと同様に細胞質は拡張し、細胞質内に
種々の大きさの脂肪滴を蓄積した細胞も観察された。
【0036】分化誘導直前のコンフルエントに達したF
Aをオイルレッド0染色しても、染色された細胞は全く
観察されなかった(図5−d)。しかし、分化誘導12
日後のFAをオイルレッド0染色すると、培養皿底面の
ほぼ全体がオイルレッド0染色され(図5−f)、培養
したFAのほとんどが成熟脂肪細胞へと分化することが
示された。一方、S−V細胞では、コロニー状にオイル
レッド0染色された部分が観察されたが、染色の程度は
FAに比べて少なかった(図5−g)。また、分化誘導
しないFAは、線維芽細胞様の形態が培養期間の全てに
おいて維持され、培養12日後においてもオイルレッド
0染色に陽性の細胞はほとんど観察されなかった(図5
−e)。
【0037】FAおよびS−V細胞の分化誘導後におけ
るG3PDH比活性値の変化を図6に示した。分化誘導
剤無添加区では、FAおよびS−V細胞のいずれにおい
てもG3PDH比活性値の上昇は培養12日後まで認め
られなかった。この結果は、FAが分化誘導剤によって
のみ分化誘導され、自発的な分化を起こさないことを示
している。一方、分化誘導剤添加区におけるFAおよび
S−V細胞のG3PDH比活性値は、それぞれ分化誘導
4および8日後から急速に上昇し、各培養日数間におけ
るその差は有意であった。分化誘導12日後におけるF
AおよびS−V細胞のG3PDH比活性値は、それぞれ
160および54units/mg proteinで
あり、FAのG3PDH比活性値はS−V細胞に比べて
約3倍高い値を示した。
【0038】FAの分化に及ぼす血清濃度の影響を調べ
た。0.25μM DEX、5μg/ml INSおよ
び0.5mM IBMX添加したDMEMに5、10、
20あるいは40%(v/v)FCS添加した培地で分
化誘導し、12日間培養した。その結果、G3PDH比
活性値は、5〜20%FCS添加区の間で濃度依存的に
増加し、各区間に有意差が認められた。しかし、40%
FCS添加区では、G3PDH比活性値は低下する傾向
が認められた。これらの結果から、FAの分化誘導には
分化誘導培地への20%FCS添加が至適濃度であるこ
とが示された。
【0039】培地に添加するDEX、IBMXおよびI
NSなどの分化誘導剤の組み合わせがFAの分化に及ぼ
す影響を調べた(図7)。3種の分化誘導剤をそれぞれ
単独あるいは組み合わせて添加し、培養12日後のG3
PDH比活性値を測定した。その結果、IBMXおよび
DEXのG3PDH比活性値は、INS添加区および対
照区に比べて有意に高い値を示した。2種の分化誘導剤
を組み合わせると、全ての区において対照区およびIN
S区と比べて有意に高い値を示した。特に、DEX+I
BMX区では相乗効果が認められ、INS+IBMX区
および全ての単独添加区と比べて有意に高い値を示し
た。さらに、3種を組み合せたDEX+IBMX+IN
S区の比活性値は、132units/mg prot
einと著しい相乗効果を示し、対照区および全ての実
験区に比べて有意(p<0.001)に高い値を示し
た。ついで、DEX+IBMX+INS区に含まれる各
分化誘導剤の至適濃度を調べた。その結果、DEX、I
BMXおよびINSのいずれにおいても、それぞれ0.
25μM、0.5mMおよび5μ/mlまで濃度依存的
に培養12日後におけるG3PDH比活性値を上昇させ
たが、それ以上の濃度では変化が認められなかった。
【0040】以上の結果から、単胞性脂肪細胞由来のF
Aは、活発な増殖および分化能を有する前駆脂肪細胞で
あることが明らかとなった。
【0041】[実施例3]ブタ前駆脂肪細胞の増殖およ
び分化に及ぼす継代回数の影響 実施例2において、単胞性脂肪細胞から形成されるFA
は前駆脂肪細胞であることが明らかとなった。したがっ
て、この単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞(Porc
ine Peradipocytes derived
from Matured Adipocytes:
PPMA)が継代可能であり、また継代を繰り返しても
安定した増殖および分化能が維持されるなら、PPMA
はブタ前駆脂肪細胞株であることが明らかでる。本実施
例では、ブタ前駆脂肪細胞株の樹立を目的として、PP
HAを長期間にわたって継代培養し、継代間における増
殖および分化能を比較検討した。
【0042】1)材料および方法 (1)ブタ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の採取 と畜場において、6〜7ヶ月齢の雄あるいは雌ブタ型5
頭から皮下脂肪組織を採取し、約37℃に調整しておい
た保温瓶に入れて1時間以内に実験室に持ち帰った。つ
いで、実施例1の方法で天井培養してPPMAを得た。
【0043】(2)ブタ前駆脂肪細胞の継代培養および
分化誘導 PPMAの継代培養法は前項に従って行われた。すなわ
ち、トリプシンEDTA−PBSを用いてPPMAを培
養皿底面から剥がし、遠心洗浄したのち、細胞数を血球
計算盤を用いて算出した。ついで、最終濃度1×10
個/mlとなるように20%FCS添加DMEMで再浮
遊させ、細胞懸濁液2mlを培養皿に移し、37℃、5
%CO、95%空気の気相下の炭酸ガス培養装置内で
10日間培養した。培地交換は4日毎に行い、以上の操
作を継代毎に繰り返した。また、増殖状況の観察につい
ては、倒立顕微鏡を用いて毎日観察した。
【0044】分化誘導については、継代培養10日後に
コンフルエントに達しているPPMAの培地を0.25
μM DEX、0.5mM IBMXおよび5μg/m
lINSを含む20%FCS添加DMEMに交換し、4
日間分化誘導した。その後、20%FCS添加DMEM
に培地交換し5、さらに6日間培養した。培養10日
後、PPMAをサンプリングし、前項2に示した方法に
したがってG3PDH比活性値を測定した。また、分化
誘導後における細胞形態変化の観察は倒立顕微鏡を用い
て毎日行った。
【0045】2)結 果 増殖期におけるPPMAは線維芽細胞様の形態を示し、
各継代間における形態的な違いは観察されなかった。P
PMAの増殖に及ぼす継代回数の影響を図8−aに示し
た。5個体のうち4個体のPPMAでは、継代6〜7代
目において培養10日後における細胞数の減少が認めら
れた。しかし、その後安定し、3個体由来のPPMAで
は、継代37代目においても継代初期と同様の増殖能力
が維持された。
【0046】図には示していないが、継代35代目にお
けるPPMAの染色体数の算定を分裂中期像の分析によ
って行った。PPMAの74%は2倍体(38染色体)
であり、11%が39染色体であった。さらに、8%が
38染色体以下であり、6%は構造異常および1%が5
8染色体以上であった。これらの結果は、PPMAが長
期継代培養後においても正常な表現型が維持されること
示している。
【0047】PPMAの分化誘導後に観察される形態変
化は、各継代間で違いは観察されなかった。また、3個
体由来のPPMAでは、35代以上の継代を繰り返して
も細胞質内に種々の大きさの脂肪滴を蓄積し、継代初期
との形態的な違いは認められなかった。PPMAの分化
に及ぼす継代回数の影響を図8−bに示した。3個体由
来のPPMAでは、継代37代目までG3PDH比活性
値は維持された。しかし、他の2個体由来のPPMAの
G3PDH比活性値は、それぞれ継代3および16代目
から急速に減少し、それぞれ継代12および22代目以
降のG3PDH比活性値はいずれも分化誘導しない対照
区(2〜6units/mg protein)と同様
の値まで低下した。以上の結果は、単胞性脂肪細胞由来
のPPMAが、長期継代を経ても均一な増殖および分化
特性を維持することを示しいる。したがって、PPMA
は長期継代培養が可能なブタ前駆脂肪細胞株であること
が明らかとなった。
【0048】[実施例4]ニワトリFAの分化特性 本実施例では、ニワトリの腹腔脂肪組織から採取した単
胞性脂肪細胞を天井培養し、得られたFAが前駆脂肪細
胞にまで脱分化するかについて調べた。腹腔内脂肪組織
から採取したS−V細胞を対照区とした。
【0049】1)材料および方法 14日齢雄ニワトリを放血と殺した後、直ちに腹腔内脂
肪を摘出し、重量を測定した。単胞性脂肪細胞およびF
Aの採取、ならびにそれらの培養法は、実施例1の
(1)とほぼ同様の方法で行った。一方、S−V細胞の
採取は、実施例2の(1)と同様の方法で行った。ニワ
トリの場合は、天井培養8日後に形成されるFAを継代
培養したものを用いた。FAあるいはS−V細胞を、最
終濃度1×10個/mlとなるように10%FCS添
加DMEMで調整して培養皿に播種し、炭酸ガス培養装
置内(37℃、5%CO、95%空気)に静置して8
日間培養した。培養後、コンフルエント状態を確認した
のち、1μg/mlインスリン、10μg/mlトラン
スフェリンおよび12mg/ml BSAを含むDME
Mに、0.1%脂肪酸濃縮液(GIBCO BRL)無
添加あるいは添加した培地に交換して12日間培養し
た。培地交換は、4日毎に行った。分化状況は、G3P
DH比活性値およびオイルレッド0染色を指標として調
べた。G3PDH活性測定に用いる細胞の調整およびG
3PDH比活性測定およびオイルレッド0染色の方法
は、実施例2の(2)に従った。
【0050】2)結 果 ニワトリFAおよびS−V細胞の分化誘導後におけるG
3PDH比活性値の変化を図9に示す。脂肪酸無添加区
では、FAおよびS−V細胞のいずれにおいても培養4
日後のG3PDH比活性値はやや上昇する傾向が認めら
れたが、その後、培養12日後まで低下し、G3PDH
比活性値の有意な上昇は認められなかった。また、脂肪
酸無添加区においては、培養期間のいずれにおいても細
胞質にオイルレッド0染色陽性の物質は観察されなかっ
た。一方、脂肪酸添加区における分化誘導4日後のFA
およびS−V細胞のG3PDH比活性値は、無添加区と
同様であり、有意な上昇は認められなかったが、分化誘
導8日後におけるFAおよびS−V細胞のG3PDH比
活性値はいずれも急速に上昇し、FAの比活性値はS−
V細胞に比べて有意に高い値を示した。さらに、分化誘
導12日後におけるG3PDH比活性値は、それぞれ7
9および60units/proteinといずれも最
高値を示した。これらの結果から、ニワトリFAは前駆
脂肪細胞であることが示された。また、それらは脂肪酸
によって分化誘導され、自発的な分化を起こさないこと
が示された。
【0051】[実施例5]ニワトリ前駆脂肪細胞の増殖
および分化に及ぼす継代回数の影響 実施例4において、ニワトリ単胞性脂肪細胞から形成さ
れるFAが前駆脂肪細胞であることが明らかとなった。
この単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞(Chick
Preadipocyte drived from
MaturedAdipocytes:CPMA)が継
代可能であり、また継代を繰り返しても安定した増殖お
よび分化能が維持されるとすれば、CPMAはニワトリ
前駆脂肪細胞株であると考えられる。本実施例では、ニ
ワトリ前駆脂肪細胞株の樹立を目的として、CPMAを
長期間にわたって継代培養し、継代間における増殖およ
び分化能を比較検討した。
【0052】1)材料および方法 CPMAの継代培養法は実施例3の(2)に従って行わ
れた。すなわち、トリプシンEDTA−PBSを用いて
CPMAを培養皿底面から剥がし、遠心洗浄したのち、
細胞数を血球計算盤を用いて算出した。最終濃度1×1
個/mlとなるように10%FCS添加DMEMで
再浮遊させ、細胞懸濁液2mlを培養皿に移し、37
℃、5%CO、95%空気の気相下の炭酸ガス培養装
置内で8日間培養した。培地交換は4日毎に行い、以上
の操作を継代毎に繰り返した。増殖状況の観察について
は、倒立顕微鏡を用いて毎日観察した。分化誘導につい
ては、継代培養8日後にコンフルエントに達しているC
PMAの培地を、実施例4の(2)に示した分化誘導培
地に交換することによって行った。その後、さらに分化
誘導培地中で12日間培養した。分化誘導12日後、C
PMAをサンプリングし、実施例2の(2)に示した方
法に従ってG3PDH比活性値を測定した。また、分化
誘導後における細胞形態変化の観察は倒立顕微鏡を用い
て毎日行った。
【0053】2)結 果 増殖期におけるCPMAは実施例3のブタ前駆脂肪細胞
に比べるとやや平滑筋細胞様の形態を示したが、各継代
間における形態的な違いについては観察されなかった。
CPMAの増殖に及ぼす継代回数の影響を図10に示し
た。5例中2例のCPMAにおいてのみ、継代10〜1
5代目の培養8日後における細胞数において減少が認め
られた。しかし、それ以外のCPMAでは、継代33代
目においても継代初期と同様の増殖能力が維持された。
【0054】分化誘導後に観察されるCPMAの形態変
化は、各継代間で違いは観察されなかった。また、5例
中2例のCPMAでは、33代以上の継代を繰り返して
も、分化誘導後において細胞質内に種々の大きさの脂肪
滴を蓄積し、継代初期との形態的な違いは認められなか
った。CPMAの分化に及ぼす継代回数の影響を図11
に示した。5例中2例のCPMAでは、継代33代目ま
でG3PDH比活性値は維持された。しかし、他の3例
のCPMAにおけるG3PDH比活性値は、それぞれ継
代6、8および25代目から急速に減少し、それぞれ継
代8、9および29代目以降のG3PDH比活性値はい
ずれも分化誘導しない対照区と同様の値(6〜18un
its/mg protein)まで低下した。以上の
結果は、単胞性脂肪細胞由来のCPMAが、長期継代を
経ても均一な増殖および分化特性を維持することを示し
いる。したがって、CPMAは長期継代培養が可能なニ
ワトリ前駆脂肪細胞株であることが明らかとなった。
【0055】
【発明の効果】本発明により得られる効果を列記すると
以下のようになる。
【0056】1)終末分化を遂げた単胞性脂肪細胞は前
駆脂肪細胞にまで脱分化することが明らかにされた。こ
れは、脂肪細胞分化のモデルだけでなく、分化および脱
分化の遺伝子レベルでの機構解明のための実験系となり
得る。
【0057】2)これらの前駆脂肪細胞は、形質転換
(染色体レベルでの異常など)なしに長期継代可能であ
る。すなわち、本発明により動物細胞由来の前駆脂肪細
胞株を簡便にかつ短期間で再現性よく樹立することが可
能となる。
【0058】3)家畜あるいは家禽由来の前駆脂肪細胞
株を用いて、増殖および分化を抑制する物質をスクリー
ニングすることができれば、それを家畜あるいは家禽に
投与することによって、より効果的な体脂肪蓄積の制御
が可能となる。この方法により現在行われている飼料エ
ネルギーあるいは栄養素の調節による従来法の限界を解
決するだけでなく、飼料効率のさらなる向上や、廃棄さ
れる脂肪を減少させ食料資源の効率化に貢献する。
【0059】4)脂肪組織は形成される部位(腸間膜、
腎臓周囲、皮下、精巣上体、筋肉組織など)ごとに異な
る特性を有することが明らかにされつつある。本発明に
より各部位由来の前駆脂肪細胞が各個体ごとに採取され
ることから、各部位ごとの脂肪細胞分化の特性を個体差
を含めて詳細に比較検討することが可能となる。
【0060】5)筋肉組織内に交雑する脂肪(霜降り
肉)は、食肉の商品価値を高めるが、本発明によって筋
肉組織由来の前駆脂肪細胞株を樹立し、それらの特性を
解明すれば、商品価値の高い畜肉生産を可能とする。
【0061】6)内臓由来の前駆脂肪細胞を用いて、該
細胞から生成および分泌される生理活性物質、特に肥満
症あるいは成人病に深く関与するTNFα、レプチン、
PAI−1などの生成機構を解明のための実験系とな
る。これによりインスリン抵抗性および肥満解消薬の開
発あるいは動脈硬化の指標作りなどが可能となる。
【0062】7)本発明によって単一な前駆脂肪細胞が
得られることから、成熟脂肪細胞、血管上皮細胞あるい
は血管周囲細胞、さらには筋細胞などとの共培養が可能
となり、それらの細胞が脂肪細胞分化に及ぼす影響につ
いて調べることが可能となる。
【0063】8)ダイオキシンあるいは合成樹脂などの
内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)は脂溶性であり、
脂肪組織に蓄積される。したがって、分化誘導した脂肪
細胞を用いて、それらの物質の取り込みと排出のメカニ
ズムを詳細に検討する実験系となる。
【0064】9)脂肪細胞は分化過程において脂肪細胞
特異的な遺伝子が整然と発現されることから、分化過程
のどの位置にある細胞かを明確にとらえることが出来
る。したがって、増殖期、分化前期、中期および後期さ
らには終末分化に至る任意の細胞を用意することができ
る。本発明をもちいれば、胎児期から成体由来の前駆脂
肪細胞を容易に準備することが可能であり、また染色体
異常を起こすことなく維持されることから体細胞クロー
ン作成時のドナー細胞として使用できる。
【0065】10)本発明は、成熟脂肪細胞が採取可能
であれば前駆脂肪細胞を得ることができることを主に唾
乳類および鳥類を対象として示した。このことは、爬虫
類、両生類あるいは魚類、また、無脊椎動物例えば昆虫
類などにおける脂肪細胞の分化特性等を調べるための実
験系や物質生産系を構築することができる。
【0066】
【図面の簡単な説明】
【図1】単胞性脂肪細胞の天井培養法を示す図である。
脂肪組織をコラゲナーゼ処理し、ろ過後に遠心分離して
単胞性脂肪細胞(成熟脂肪細胞)群と間質血管系細胞群
を分離した。培地を満たしたフラスコ内に単胞性脂肪細
胞を播種し、6日間培養した。その間に単胞性脂肪細胞
はフラスコ内において浮上し、天井面に接着する。培養
6日後、フラスコ内の培養液を適量にし、接着面を底面
に戻して培養を継続した。
【図2】ブタ単胞性脂肪細胞から形成された線維芽細胞
様脂肪細胞(FA)の増殖。 a;培養6日後、多胞性脂肪細胞と脂肪滴を持たないF
Aが混在している。 b;培養10日後、多胞性脂肪細胞は減少し、FAの活
発な増殖が観察される。 c;培養14日後、FAはほぼコンフルエントに達す
る。多胞性脂肪細胞は全く観察されない。
【図3】単胞性脂肪細胞から形成されたブタ線維芽細胞
様脂肪細胞の増殖曲線(n=5)。 ・20%FCS添加DMEM中で6日間天井培養した
後、フラスコ内の培養液を適量にし、接着面を底面に戻
してさらに16日間培養した。a〜d:p<0.05。
【図4】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞(FA)および間質
血管系(S−V)細胞の増殖曲線。 ・10%(●)あるいは20%(〇)FCS添加したD
MEMで細胞濃度10あるいは10個/mlで播種
し、培養16日まで4日毎にFAおよびS−V細胞の細
胞数を測定した。a〜c:p<0.05。
【図5】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞(FA)の分化に伴
う形態変化およびオイルレッド0染色像。 a;培養10日後、コンフルエントに達したFAの細胞
質には脂肪滴はまったく観察されない。 b;分化誘導4日後、FAは星状の形態を示し、細胞質
内に小さな脂肪滴を有する細胞も観察される。 c;分化誘導12日後、FAの細胞質は拡張し、細胞質
内に種々の大きさの脂肪滴が多数観察される。 d;分化誘導直前のコンフルエントに達しているFAの
オイルレッド0染色像。培養皿に染色された部分は観察
されない。 e;分化誘導しないFAは、培養12日後においても培
養皿に染色された部分がほとんど観察されない。 f;分化誘導12日後におけるFAのオイルレッド0染
色像。オイルレッド0染色されたFAが培養皿の全面に
観察される。 g;分化誘導12日後におけるS−V細胞のオイルレッ
ド0染色像。培養皿の底面にコロニー状に染色された部
分が観察される。
【図6】分化誘導後におけるブタ線維芽細胞様脂肪細胞
(FA)および間質血管系(S−V)細胞のグリセロー
ル3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)活性の変化
(n=4)。 ・0.25μMデキサメタゾン(DEX)、0.5mM
イソブチルメチルキサンチン(IBMX)および5μg
/mlインスリン(INS)を添加あるいは無添加した
20%FCS添加のDMEMで4日間分化誘導したの
ち、20%FCS添加DMEMでさらに8日間培養し
た。分化誘導後、4日毎にG3PDH比活性値を測定し
た。a〜c:p<0.05。
【図7】種々に分化誘導剤の組み合わせがブタ線維芽細
胞様脂肪細胞の分化に及ぼす影響(n=6)。 ・0.25μMデキサメタゾン(DEX)、0.5mM
イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、5μg/m
lインスリン(INS)を種々の組み合わせで添加した
20%FCS添加DMEMを用いて4日間分化誘導した
のち、20%FCS添加DMEMでさらに8日間培養し
た。a〜d:p<0.05。
【図8】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞の増殖(a)および
分化(b)に及ぼす継代回数の影響。 a)5個体由来のブタ前駆脂肪細胞を最終濃度1×10
個/mlとなるように20%FCS添加DMEM中に
播種したのち、培養10日後の細胞数を測定した。 b)コンフルエントに達した5個体由来のブタ前駆脂肪
細胞の培地を、0.25μMデキサメタゾン、0.5m
Mイソブチルメチルキサンチンおよび5μg/mlイン
スリンを含む20%FCS添加DMEMで4日間分化誘
導したのち、20%FCS添加DMEMでさらに6日間
培養した。
【図9】分化誘導後におけるニワトリ線維芽細胞様脂肪
細胞および間質血管系(S−V)細胞のG3PDH活性
の変化(n=5)。コンフルエントに達したニワトリ線
維芽細胞様脂肪細胞の培地を、1μg/mlインスリ
ン、10μg/mlのトランスフェリンおよび12mg
/ml BSA添加DMEMに0.1%(v/v)脂肪
酸濃縮液を添加、あるいは無添加の培地に交換し、12
日間培養した。分化誘導後、4日毎にG3PDH比活性
値を測定した。a〜c:p<0.05。
【図10】ニワトリ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞
の増殖に及ぼす継代回数の影響(n=5)。 ニワトリ
前駆脂肪細胞を最終濃度1×10個/mlとなるよう
に10%FCS添加DMEM中に播種したのち、培養8
日後の細胞数を測定した。
【図11】ニワトリ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞
の分化に及ぼす継代回数の影響(n=5)。コンフルエ
ントに達したニワトリ前駆脂肪細胞の培地を、0.1%
(v/v)脂肪酸濃縮液、1μg/mlインスリン、1
0μg/mlのトランスフェリンおよび12mg/ml
BSA添加DMEMに交換し、12日間培養した。分
化誘導12日後にG3PDH比活性値を測定した。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成10年9月29日(1998.9.2
9)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 前駆脂肪細胞株
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は動物の単胞性脂肪細
胞由来の前駆脂肪細胞株の樹立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】白色脂肪組織の大部分を占有する成熟脂
肪細胞は、生体が摂取した余剰エネルギーを中性脂肪に
変換して貯蔵するだけでなく、生体維持に必要なエネル
ギー収支の調節機能においても主要な役割を果たすこと
が明らかにされている。このため脂肪細胞では、脂質代
謝ならびに種々の生理活性物質の生成および分泌が活発
に行われている。成熟脂肪細胞の直径は、10〜200μmと
多様であるが、細胞質内に一つの大きな脂肪滴と周辺部
に押しやられた核を有する典型的な形態から単胞性脂肪
細胞と呼ばれている。脂肪細胞の形成過程は、まず多能
性中胚葉細胞から前駆脂肪細胞となり、活発に増殖す
る。ついで、前駆脂肪細胞はコミットメントされたの
ち、増殖停止して脂肪細胞へと終末分化するとされてい
る。この一連の分化過程において脂肪細胞特異的な遺伝
子が整然と発現されることが知られている。最近、脂肪
細胞の分化に関与する転写因子(核内受容体)の研究が
急速に進展し、脂肪細胞特異的な遺伝子群の発現誘導お
よび抑制を調節するマスターレギュレーターとして、ペ
ルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPARγ)が発見
された。PPARγは脂肪細胞にのみ特異的に発現し、栄養
素である脂肪酸をリガンドとする核内受容体である。ま
た、PPARγはレチノイドX受容体と補因子二量体を形成
して、標的遺伝子の応答配列(PPRE)に結合して転写調
節することも明らかにされた。
【0003】これと並行して、PPARγはインスリン非依
存型糖尿病(NIDDM)に対する治療薬であるチアゾリジ
ン誘導体の細胞内標的タンパク質であることが示され、
肥満症、糖尿病、および、高脂血症などの成人病と、脂
肪細胞分化を支配する転写調節の研究との緊密な接点が
明らかにされつつある。成人病との関連性では、脂肪細
胞が種々の生理活性物質を生成および分泌する内分泌細
胞としての側面が注目されている。インスリン抵抗性
は、肥満症および糖尿病において最も頻繁に認められる
病態である。肥満を伴う糖尿病におけるインスリン抵抗
性は、脂肪細胞から分泌されるTNFαによって惹起され
ると考えられている。実際、肥満のヒトあるいは動物で
は、内臓に形成された脂肪細胞からTNFα分泌が亢進さ
れており、インスリン抵抗性の指標と相関することが示
されている。また、PAI-1(plasminogen activator inh
ibitor 1)は血液線溶系における最も重要な物質であ
り、線溶性を低下させ血栓形成を促進し、心筋梗塞など
の原因となることが知られている。肥満症およびNIDDM
患者では血中PAI-1が上昇するが、それらは主に内臓脂
肪細胞由来であることも明らかにされている。さらに、
肥満遺伝子の産物であるレプチンは脂肪細胞で産生さ
れ、中枢に作用して摂食抑制およびエネルギー消費を促
進して体脂肪を一定に調節する新しいホルモンである
が、これも肥満症およびNIDDM患者において高く、またT
NFαによって産生が亢進されることも明らかにされてい
る。肥満症あるいはNIDDMにおける血中のTNFα、PAI-1
およびレプチンの上昇は、チアゾリジン誘導体によって
強く改善されることから、それら脂肪細胞由来の生理活
性物質の生成および分泌は脂肪細胞分化に直接関係する
と考えられる。しかし、疾患についての知見はヒトにお
いて、また脂肪細胞分化の機構についてはマウス前駆脂
肪細胞株を用いた体外培養における知見がほとんどであ
り、それらの疾患と脂肪細胞分化の関連性については未
だ不明な点が多く残されている。
【0004】一方、家畜あるいは家禽など産業動物の体
脂肪蓄積の制御および脂肪交雑肉の作出は、これまで飼
料エネルギーあるいは栄養素の調節によっておこなわれ
きた。しかし、経済効果優先の育種目標として、増体量
の向上が優先されたことから飼料摂取量の多い個体が必
然的に選抜されてきた。それにより、飼料摂取量が多い
個体ではエネルギー過剰に陥りやすく、脂肪として過剰
に蓄積する傾向を有する。これに反して、ヒトでは肥満
症の増加から低脂肪の畜肉が嗜好され、生産される大部
分の脂肪は食されることなく廃棄されているのが現状で
ある。同時に、家畜あるいは家禽においても体脂肪の過
剰蓄積に起因する代謝障害による疾病の増加も問題にな
っている。これらの解決策として、飼料成分の調整等に
よる従来の間接的な方法によって高い生産性を維持しつ
つ、体脂肪の過剰蓄積を抑制することはすでに限界に達
していると思われる。そこで、根本的なテーマとして、
脂肪組織を構成する脂肪細胞の増殖および分化機構を直
接的に制御することができれば、体脂肪蓄積のより効果
的な制御を可能にすると考えられる。しかし、家畜ある
いは家禽の脂肪組織を構成する脂肪細胞の増殖および分
化に関する細胞レベルでの知見の集積はほとんどなされ
ていないのが現状であり、またそれを調べるための優れ
た実験系も未だ確立されていない。
【0005】これまで脂肪細胞の増殖および分化に関す
る研究は、主に、Swiss-3T3由来の前駆脂肪細胞株(3T3
-L1や3T3-F443A)、或いは、脂肪組織を酵素処理するこ
とによって得られる間質-血管画分に含まれる前駆脂肪
細胞(S-V細胞)の初代培養系を用いて行われてきた。
しかし、Swiss-3T3由来の前駆脂肪細胞株には、1)パ
ターンが異なった染色体をもつ変異細胞が混入してい
る、2)妊娠17〜19日の胚由来であるため、アダルト由
来の前駆脂肪細胞とは分化特性が異なる、3)血清添加
培地で培養すると自発的に分化誘導されるので、本質的
に分化誘導する物質を特定できない、等の解決すべき課
題がある。一方、S-V細胞は、1)前駆脂肪細胞以外の
細胞、たとえば、血管内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細
胞などが混入しているため、前駆脂肪細胞自体の分化特
性を調べることができない(他の細胞群の影響を無視で
きない)、2)脂肪組織中には、中胚葉性の多能性細胞
から前駆脂肪細胞へと分化したばかりの細胞から、既に
コミットメントされ脂肪細胞への分化途上の細胞に至
る、種々の段階の分化過程にある細胞が存在する、3)
初代培養系であるため、同一材料を用いて複数回の実験
ができない、4)前記2)及び3)の理由から細胞を調
製する個体間の差が大きいため、再現性の高いデータが
得られない、等の解決すべき課題がある。
【0006】これらの課題は、対象とする動物の前駆脂
肪細胞を限界希釈法などによってクローニングして、前
駆脂肪細胞株を樹立することにより解決できる可能性が
あるが、この様な操作は煩雑であり、且つ成功率が低
い。
【0007】
【発明が解決しょうとする課題】そこで、本発明は、動
物の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の新たな樹立方
法及び該方法により得られる前駆脂肪細胞株を提供する
ことを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決すべく鋭意研究を行った結果、すでに、終末分化
を遂げている動物由来の単胞性脂肪細胞を天井培養し、
得られる線維芽細胞様脂肪細胞が、前駆脂肪細胞と同様
な増殖及び分化特性を有し、分化誘導により、形態学的
にも、分化特性においても脂肪細胞へ分化することを確
認し、さらに、該線維芽細胞様脂肪細胞を長期間継代培
養しても形質転換なしに、かつ、均一な増殖及び分化能
を保持して継代培養ができることを見出し、本発明を完
成した。すなわち、本発明は、1)動物の単胞性脂肪細
胞を天井培養して形成される線維芽細胞様脂肪細胞を継
代培養し、脱分化することによって得られる該動物由来
の前駆脂肪細胞株、2)動物がヒトである1)に記載の
前駆脂肪細胞株、3)動物がブタである1)に記載の前
駆脂肪細胞株、4)動物がニワトリである1)に記載の
前駆脂肪細胞株、に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】動物の脂肪組織は、形成される部
位(腸間膜、腎臓周囲、皮下、精巣上体、筋肉組織内な
ど)ごとに異なる特性を有することが明らかにされつつ
ある。そこで、前駆脂肪細胞の樹立目的によって、動物
の年齢あるいは性別など、採取する脂肪組織を選択する
ことができる。例えば、家畜では、商品価値の高い畜肉
(例えば、霜降り肉)生産を目的として、筋肉組織内脂
肪細胞の形成機構解明のための筋肉組織由来の前駆脂肪
細胞株の樹立、肉用家畜あるいは家禽の枝肉率の向上を
目的として、腹腔内脂肪細胞の形成機構およびその特性
解明のための腹腔内脂肪由来の前駆脂肪細胞株の樹立、
乳脂肪と脂肪酸組成との関連の調査を目的とした乳腺組
織由来の前駆脂肪細胞株の樹立、或いはヒトにおいて、
特に肥満症あるいは成人病に深く関与する生理活性物質
(TNFα、レプチン、PAI-1など)の生成および分泌の調
節機構解明のための内臓脂肪組織由来の前駆脂肪細胞株
の樹立、などが考えられる。
【0010】1)単胞性脂肪細胞の分離 単胞性脂肪細胞の分離は、基本的には、Rodbelの方法
(Rodbel M.: J. Biol.Chem., 239: 173-181, 1964)に
準じて行うことができる。外科手術中のヒト、或いは家
畜・家禽から目的とする脂肪組織をすばやく採取する。
太めの血管および結合組織を除去する。抗生物質を含む
基礎培地(例えばダルベッコー変法イーグル培地)、或
いはリン酸緩衝生理食塩水に脂肪組織を入れ、緩やかに
脂肪組織を洗浄する。次いで、脂肪組織を、ウシ血清ア
ルブミンおよびコラゲナーゼ、トリプシン、プロナー
ゼ、ディスパーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、
などの酵素を含む培地中に入れ、外科用ハサミで細胞が
挫滅しないよう細切した後、45〜60分間震盪して細胞を
分散する。分散操作後、細胞懸濁液をナイロンメッシュ
で濾過して未消化組織を除去する。濾液を緩やかに遠心
分離すると、単胞性脂肪細胞は上層に浮遊して集まる。
一方、間質血管細胞(前駆脂肪細胞を含む)は、沈殿に
集まる。単胞性脂肪細胞をピペットで吸引採取する。採
取した単胞性脂肪細胞は、さらに培地(例えば血清ある
いはBSAを含むダルベッコー変法イーグル培地)に移
し、数回遠心洗浄する。
【0011】2)単胞性脂肪細胞の培養 単胞性脂肪細胞の培養は、杉原らの方法(Sugihara, H.
et al.: Differentiation,31: 42-49, 1986)に準じて
行うことができる。すなわち、単胞性脂肪細胞は、細胞
質内に含まれる中性脂肪によって培養液中で浮遊する
が、この浮遊性を逆に利用して、培地を100%充満させ
たフラスコの内側上面(天井面)に該細胞を接着させて
培養する方法(天井培養)である。この方法で、単胞性
脂肪細胞を数日間天井培養すると、大部分の細胞は細胞
質の一部を伸長あるいは拡張させ、フラスコ天井面にし
っかりと接着し、大型の脂肪滴の周辺に種々の大きさの
脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞へと形態変化する。この
時点で、フラスコ内の培地を適量の培地に交換し、通常
の培養法に戻して培養を継続する。多胞性脂肪細胞に含
まれる脂肪滴はさらに分割され、小さくなるにつれて、
多胞性脂肪細胞は細胞質をさらに伸長させ、線維芽細胞
様の形態に変化する細胞が観察される。さらに培養を継
続すると、線維芽細胞様の形態を呈する多胞性脂肪細胞
の周辺部には、脂肪滴を僅かに、あるいはまったく持た
ない線維芽細胞様脂肪細胞(FA)が多数観察されるよう
になる。 FAは活発に増殖する一方で、多胞性脂肪細胞
は徐々に観察されなくなる。その後、フラスコ内の細胞
はFAのみとなりコンフルエントに達する。ブタ、ニワト
リ、ラットあるいはヒトなど、いずれの種から採取した
単胞性脂肪細胞を天井培養した場合においても、上記に
示した形態変化したのち、活発に増殖するが、年齢、採
取した組織の部位(例えば、皮下あるいは内臓脂肪組
織)および性別などによって若干異なる。
【0012】3)線維芽細胞様脂肪細胞(FA)の増殖お
よび分化 上記2)において形成されたFAの採取および継代培養は
以下に示す方法を用いて行う。天井培養後、フラスコ内
にFAが形成され、活発に増殖することが確認されたら、
フラスコ内の培地を除去し、フラスコ内の細胞をトリプ
シン処理および遠心分離する。この操作により、脂肪滴
を有する多胞性脂肪細胞を上層画分に、脂肪滴をもたな
いFAを沈殿画分に分離することができる。この単胞性脂
肪細胞由来のFAを継代培養すると、培養24時間後に、殆
どの細胞は培養皿底面に接着し、線維芽細胞様の形態を
示しながら活発に増殖し、数日後には、ほぼコンフルエ
ントに達する。この培養期間における増殖曲線を作成す
ることによって該動物あるいは組織由来のFAの増殖特性
を調べる。動物種(ヒトあるいはラット)によっては、
細胞質内に微小な脂肪滴が観察されるが、この場合は脂
肪細胞の脱分化誘導作用を有するTNFα添加した培地を
用いるなど適宜に行う。細胞質内の脂肪滴の有無の確認
は、オイルレッドO染色法を用いて行う。なお、ブタあ
るいはニワトリのFAでは、脂肪滴は観察されない。
【0013】FAの分化特性については、以下に示す方法
を用いて行う。FAの培地を分化誘導剤を添加した培地
(動物種で若干異なる)に交換し、数日間培養培養して
分化誘導を行う。分化誘導後、通常の培地に戻し、さら
に培養を継続する。一般的に、FAを分化誘導後数日経過
すると、FAは星状あるいは敷石状に形態変化し、細胞質
内に小さな脂肪滴を有する細胞が観察されるようにな
る。さらに培養を継続すると、細胞質は拡張し、細胞質
内に種々の大きさの脂肪滴が観察されるようになる。分
化誘導後におけるFA細胞質内の脂肪滴蓄積の確認は、オ
イルレッドO染色法を用いて行う。また、脂肪細胞の分
化の後期マーカーであるglycerol-3-phosphate-dehydro
genase(GPDH)活性を分化の指標として測定し、分化誘
導後の培養期間中における活性の変化を観察する。以上
の結果として、該動物あるいは組織のFAが活発な増殖お
よび分化能を有することが示されれば、FAは単胞性脂肪
細胞由来の前駆脂肪細胞であることが示される。
【0014】4)前駆脂肪細胞株の樹立 単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の継代培養を行い、
各継代ごとの増殖および分化能を調べることによって前
駆脂肪細胞株の樹立を試みる。例えば、ブタおよびニワ
トリの単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞では、それぞ
れ37および33代目においても、継代初期と同様の均一な
増殖能力および分化能が維持されており、かつ、染色体
異常などの形質転換も観察されないことが確認されてい
る。
【0015】以上のように、本発明は4行程からなる。
本発明では、実施例として以下にブタ皮下脂肪組織およ
びニワトリ腹腔内脂肪組織由来の前駆脂肪細胞株の樹立
を示したが、その他の家畜、例えばウシやヒツジ、或い
は家禽のアヒル、ウズラ、さらにはヒトなどにも、本発
明で開示された技術を用いて、或いは当業者であるなら
ば、必要な変更を加えて、目的の動物および組織由来の
前駆脂肪細胞株を樹立することが可能である。例えば培
養条件における培地、血清濃度、分化誘導剤などの選択
は、当業者であるならば、簡単な試行錯誤の結果、適宜
に最適条件を設定することが可能である。例えば、14日
齢ニワトリ腹腔脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の場合で
は、血清添加添加濃度は10%、分化誘導剤は脂肪酸を用
い、また、6〜7ヶ月齢ブタ皮下脂肪組織由来の前駆脂肪
細胞の場合では20%血清添加で分化誘導剤にはインスリ
ン、デキサメタゾンおよびイソブチルメチルキサンチン
の同時添加が適当である。
【0016】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
るが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではな
い。
【0017】[実施例1]単胞性脂肪細胞の増殖特性 ブタ単胞性脂肪細胞の増殖特性を明らかにする目的で行
った。すなわち、天井培養法を用いて単胞性脂肪細胞を
培養し、増殖様式を観察した。ついで、単胞性脂肪細胞
から形成されるFAの増殖状況を調べることによって、そ
れらの効率的な採取が可能であるかについても検討し
た。
【0018】1)材料および方法 (1) 脂肪組織の採取 と畜場において、6〜7ヶ月齢の雄あるいは雌ブタの皮下
脂肪組織を採取し、約37℃に調整しておいた保温瓶に入
れて1時間以内に実験室に持ち帰った。
【0019】(2) 単胞性脂肪細胞の単離および培養 単胞性脂肪細胞の単離および培養方法の概略を図1に示
す。0.08mg/mlカナマイシン一硫酸塩(SIGMA)および0.
5mg/mlポリビニールアルコール(SIGMA)添加のリン酸
緩衝食塩水(PBS-PVA)に、0.1%(v/v)セチルトリメチ
ルアンモニウムブロミドを添加した溶液で脂肪組織を洗
浄した。さらに、PBS-PVAで組織を3回洗浄した。25mM
HEPES、1.8mg/ml NaHCO3および0.08mg/mlカナマイシン
一硫酸塩を添加したダルベッコ変法イーグル培地(HEPE
S-DMEM;日水製薬)に、さらに2%ウシ血清アルブミン
(BSA)および0.1%コラゲナーゼ(Type II; SIGMA)を
添加した培地(pH7.4)中に約4gの脂肪組織を移し、外
科用ハサミを用いて細切した。ついで遠沈管に移したの
ち、39℃の培養装置内で60分間震盪培養した。コラゲナ
ーゼ処理後、細胞懸濁液を口径250および150μmのナイ
ロンメッシュ(共進理工)を用いて濾過したのち、3%
(v/v)ウシ胎子血清(FCS; Filtron)を添加したHEPES-
DMEMでメッシュに付着した細胞を洗い流し、未消化組織
と細胞を分別した。細胞懸濁液を遠沈管に移し、3分
間、106Gで遠心分離するこによって、上層に単胞性脂肪
細胞からなる画分を得た。単胞性脂肪細胞画分をピペッ
トで吸引採取し、それを新鮮な3%FCS添加HEPES-DMEM
中に移した。さらに、106G、3分間の遠心洗浄を3回繰
り返したのち、血球計算盤を用いて細胞数を測定した。
【0020】単胞性脂肪細胞の培養は、Sugiharaら(Su
gihara, H.et al.: Differentiation, 31: 42-49, 198
6)の方法に準じて行った。すなわち、3〜6×105個の
単胞性脂肪細胞を組織培養フラスコ(FALCON, 3107)に
移し、20%FCS、1.8mg/ml NaHCO3および0.08mg/mlカナ
マイシン一硫酸塩を添加したDMEMでフラスコ内を完全に
満たした。37℃、5%CO2、95%空気の気相下の炭酸ガ
ス培養装置内に、フラスコ底面が上となるように静置し
て6日間培養した。培養6日後、フラスコ内の培地を除
去したのち、20%FCS添加DMEMに交換し、細胞接着面が
底面となるようにして炭酸ガス培養装置内でさらに16日
間培養を続けた。なお、天井培養後の培地交換は4日毎
に行った。単胞性脂肪細胞の増殖状況については、倒立
顕微鏡下で毎日観察を行った。
【0021】(3)FA数の測定 培養6、10、14、18および22日後に、単胞性脂肪細胞か
ら増殖したFAを以下に示す方法で測定した。フラスコ内
の培地を除去したのち、PBS-PVAで4回洗浄した。つい
で、0.1%(w/v)トリプシン(Difco)、0.1%(w/v)エチ
レンジアミン四酢酸(EDTA; ナカライテスク)を添加し
たPBS(トリプシンEDTA-PBS)をフラスコ内に加えたの
ち、炭酸ガス培養装置内に5分間静置した。培養後、3
%FCS添加DMEMを加えたのち遠沈管に移し、さらに同培
地でフラスコ内を2回洗浄して細胞を回収した。その
後、165G、3分間遠心洗浄し、20%FCS添加DMEMで細胞
を再浮遊させたのち、血球計算盤を用いて細胞数を計算
した。
【0022】(4) 組織化学的検索 細胞質内における脂肪蓄積の組織化学的検索には、オイ
ルレッドO染色(Hausman, G. J.: Stain Technology, 5
6: 149-154, 1981)を用いた。すなわち、10%ホルマリ
ン(v/v)添加PBS(ホルマリン-PBS)をフラスコ内の培地
に加えて20分間室温下で前固定した。さらに、フラスコ
内の培地を除去し、再び10%ホルマリン-PBSを加えて1
時間室温下で後固定した。その後、フラスコ内のホルマ
リン-PBSを除去し、蒸留水で2〜3回洗浄した。0.5%
(w/w)オイルレッドO-イソプロピルアルコール溶液と蒸
留水を3:2で混合したのち、定性濾紙(No. 2、Advan
tec)で濾過して作成したオイルレッドO染色液をフラス
コに入れ、1時間室温下で染色した。染色後、蒸留水で
2〜3回洗浄し、風乾させたのち倒立顕微鏡下で単胞
性、多胞性およびFAの脂肪蓄積状況を観察した。
【0023】2)結 果 コラゲナーゼ処理後の遠心分離操作によって、単胞性脂
肪細胞からなる単一な細胞画分が得られた(図2-a)。
皮下脂肪組織から採取された単胞性脂肪細胞数は、4g
当たり約3×106個であった。
【0024】フラスコ内に導入された全ての単胞性脂肪
細胞は、フラスコ天井面(底面)に浮き上がり、細胞質
に含まれる一つの大きな脂肪滴に押し出されて細胞の周
辺部に移動した核を有する典型的な形態を呈した。天井
培養2〜3日後、一部の単胞性脂肪細胞は不完全ではあ
るが、フラスコ天井面に接着した。培養4日後には、大
部分の細胞は細胞質の一部を伸長あるいは拡張させフラ
スコ天井面にしっかりと接着し、大型の脂肪滴の周辺に
種々の大きさの脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞へと形態
変化した。多胞性脂肪細胞に含まれる脂肪滴はさらに分
割され、小さくなるにつれて、多胞性脂肪細胞は細胞質
をさらに伸長させ、線維芽細胞様の形態に変化する細胞
が観察された。培養6日後には、線維芽細胞様の形態を
呈する多胞性脂肪細胞の周辺部には、脂肪滴をまったく
持たないFAが多数観察された(図2-a)。 その後、脂
肪滴を持たないFAは活発に増殖したが、多胞性脂肪細胞
は徐々に観察されなくなった(図2-b)。培養14日後、
フラスコ内の細胞はFAのみとなり外観上コンフルエント
に達した(図2-c)。
【0025】天井培養終了後(培養6日後)には、フラ
スコ内の細胞をトリプシン処理および遠心分離すること
によって、脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞を上層画分
に、脂肪滴をもないFAを沈殿画分に分離することができ
た。天井培養後におけるFAの増殖曲線を図3に示した。
培養6日後に採取されたFAは、約6×104個/25cm2であ
ったが、急速に増加しコンフルエントに達した。例え
ば、培養18日後では、約1.4×106個/25cm2と約23倍にま
で増加した。以上の結果から、ブタ単胞性脂肪細胞は多
胞性脂肪細胞へ、さらにはFAへと形態変化したのち、活
発に増殖し、コンフルエントにまで達することが示され
た。したがって、ブタ単胞性脂肪細胞を天井培養すれ
ば、前駆脂肪細胞株樹立のための有用な材料であるFAを
簡便かつ効率的に採取できることが明らかとなった。
【0026】[実施例2]ブタFAの増殖および分化特性 ブタ単胞性脂肪細胞を天井培養すると細胞質に脂肪滴を
持たないFAの効率的な採取が可能であることを実施例1
で示した。もし、採取されたFAが継代培養後においても
活発な増殖能および脂肪細胞への再分化能を有するとす
れば、それらの細胞は、前駆脂肪細胞である。本実施例
では、単胞性脂肪細胞から得られたFAが前駆脂肪細胞に
まで脱分化するか、すなわち、FAは前駆脂肪細胞である
かを調べる目的で行った。まず、FA細胞が前駆脂肪細胞
と同様な増殖および分化特性を有するかを、脂肪組織か
ら採取したS-V細胞を対照区として比較検討した。さら
に、FAの増殖および分化における至適条件についても調
べた。
【0027】1)材料および方法 (1) FAの増殖特性 FAの採取は、実施例1の(1)と同様の方法で行った。天
井培養14日後、フラスコ内の培地を除去したのち、PBS-
PVAで4回洗浄した。トリプシンEDTA-PBSをフラスコ内
に加えたのち、炭酸ガス培養装置内に5〜8分間静置し
た。培養後、3%FCS添加DMEMを加えたのち遠沈管に移
し、さらに同培地でフラスコ内を2回洗浄して細胞を回
収した。その後、165G、3分間遠心洗浄し、20%FCS添
加DMEMで細胞を再浮遊させたのち、血球計算盤を用いて
細胞数を測定した。
【0028】一方、対照区であるS-V細胞の採取は、細
胞懸濁液を遠心後、上層画分をピペットで吸引除去し、
沈殿層のS-V画分を採取した以外は、実施例1の(2)と同
様に行った。
【0029】10%FCSおよび20%FCSを添加したDMEMのそ
れぞれに対して、FAおよびS-V細胞を104および105 個/m
lとなるように播種したのち、35mmの培養皿(FALCON、
3001J)に播種した。5%CO2炭酸ガス培養装置内に静置
して、培養16日後まで4日毎にそれぞれの細胞数を測定
した。また、FAおよびS-V細胞の増殖状況の観察は、倒
立顕微鏡を用いて毎日行った。
【0030】(2) FAの分化特性 FAあるいはS-V細胞を、最終濃度1×104個/mlとなるよ
うに20%FCS添加DMEMで調整して培養皿に播種し、炭酸ガ
ス培養装置内(37℃、5%CO2、95%空気)で10日間培養
した。培養後、コンフルエント状態を確認したのち、FC
Sについては種々の濃度で、またデキサメタゾン(DEX; 0
〜2.5μM)、1-メチル-3-イソブチルキサンチン (IBMX;
0〜5 mM)、あるいはインスリン (INS; 0〜50μg/ml)
などの分化誘導剤については、種々の濃度あるいは組み
合わせで添加した分化誘導培地に交換して4日間培養し
た。培養後、再び20%FCS添加DMEMに交換し、さらに8
日間培養した。分化状況は、グリセロール3リン酸デヒ
ドロゲナーゼ (G3PDH)比活性値およびオイルレッドO染
色を指標として調べた。
【0031】G3PDH活性測定に用いる細胞の調整は、Pai
raultとGreen (Pairault, J. andGreen, H.: Proc. Na
tl. Acad. Sci. USA, 76: 5138-5142 ,1979)の方法に
準じて行った。すなわち、培養12後まで4日毎、あるい
は培養12日後に培養皿の培地を除去し、あらかじめ4℃
に冷却しておいたPBSで細胞を2回洗浄したのち、1 mM
EDTA添加した25 mMTris-HCl (pH 7.5) を加え、ラバー
ポリスマンで細胞をかき集めた。細胞塊を含むTris-HCl
をマイクロチューブに移し、150W、10秒間の超音波破砕
処理して細胞を破壊した。ついで、4℃、12800 Gで5
分間遠心分離したのち、上清を超遠心用チューブに移
し、4℃、100000 G、60分間遠心分離した。遠心後に得
られた上清(粗酵素液)をマイクロチューブに移し、G3
PDH活性測定の直前まで-80℃で保存した。
【0032】G3PDH活性の測定は、KozakとJensen (Koza
k, L. P. and Jensen, J. T.: J. Biol. Chem., 249:77
75-7781, 1974) の方法に従った。すなわち、0.5 Mトリ
エタノールアミン、10 mM EDTAおよび10 mMβ-メルカプ
トエタノールの混合溶液50μl、5mMジヒドロキシアセ
トンリン酸 (SIGMA) および0.5 mM NADH (オリエンタル
酵母) を混合したものを反応液として用いた。融解直後
の粗酵素液を反応液に加えて、攪拌したのち、ただちに
分光光度計(25℃、340nm)を用いて、単位時間あたり
の吸光度の変化を測定した。
【0033】粗酵素液中のタンパク質濃度はLowryらの
方法に従って測定した。すなわち、蒸留水で25倍希釈し
た粗酵素液に2%(w/v) Na2CO3と1%(w/v) CuSO4・5H2O
および2%(w/v)酒石酸カリナトリウムが50:1になるよ
うに混合したものを加えて10分間室温下に静置した。そ
の後、1Nフェノール試薬を加えたのち、30分間静置し
た。発色反応後、分光光度計(750nm)を用いて吸光度を
測定した。以上の操作によって得られたG3PDH活性値お
よびタンパク質含有量からG3PDH比活性値(units/mg pro
tein) を以下に示す数式を用いて算出した。 G3PDH比活性値 (units/mg protein) =(100×t分間の
吸光度変化量/1.25×t分)/粗酵素液中のタンパク質濃
度(mg)
【0034】2)結 果 (1) FAの増殖特性 継代培養したFAの増殖期における形態変化を調べた。培
養24時間後、FAおよびS-V細胞にかかわりなく、播種さ
れたほとんどの細胞は培養皿底面に接着した。その後、
接着したFAおよびS-V細胞は伸長して線維芽細胞様の形
態を示し、活発に増殖した。培養10日後には、いずれの
細胞も培養皿一面に広がりほぼコンフルエントに達し
た。増殖期におけるFAおよびS-V細胞の形態的な差異は
観察されなかった。FAおよびS-V細胞の増殖曲線を図4
に示した。FAおよびS-V細胞の105個/ml播種区では、FCS
濃度にかかわりなく急速に増殖し、培養8日後にはコン
フルエントに達した。一方、104個/ml播種区においても
FAおよびS-V細胞は、FCS濃度にかかわりなく急速に増加
し、培養12日後にはほぼコンフルエントに達した。しか
し、FAの20%FCS添加区では培養12日後においても細胞
数の増加が認められ、培養16日後には105個/ml播種区と
同様の値を示した。
【0035】(2) FAの分化特性 FAの分化にともなう形態変化を図5に示した。分化誘導
直前のFAはコンフルエントに達しても線維芽細胞様の典
型的な形態を示し、細胞質内に脂肪滴は観察されなかっ
た(図5-a、 b)。0.25μM DEX、5μg/ml INS、0.5 m
M IBMXおよび20%FCSを添加したDMEMを用いて分化誘導
すると、分化誘導4日後には、FAは星状の形態を示し、
細胞質内に小さな脂肪滴を有するものも観察された(図
5-b)。分化誘導12日後には、細胞質は拡張し、細胞質
内に種々の大きさの脂肪滴が多数観察された(図5-c)。
また、図には示さなかったが、分化誘導後のS-V細胞に
おいても一部が星状になったが、他のほとんどの細胞は
線維芽細胞様の形態を維持した。しかし、培養12日後に
はFAと同様に細胞質は拡張し、細胞質内に種々の大きさ
の脂肪滴を蓄積した細胞も観察された。
【0036】分化誘導直前のコンフルエントに達したFA
をオイルレッドO染色しても、染色された細胞は全く観
察されなかった(図5-d)。しかし、分化誘導12日後の
FAをオイルレッドO染色すると、培養皿底面のほぼ全体
がオイルレッドO染色され(図5-f)、培養したFAのほ
とんどが成熟脂肪細胞へと分化することが示された。一
方、S-V細胞では、コロニー状にオイルレッドO染色され
た部分が観察されたが、染色の程度はFAに比べて少なか
った(図5-g)。また、分化誘導しないFAは、線維芽細
胞様の形態が培養期間の全てにおいて維持され、培養12
日後においてもオイルレッドO染色に陽性の細胞はほと
んど観察されなかった(図5-e)。
【0037】FAおよびS-V細胞の分化誘導後におけるG3P
DH比活性値の変化を図6に示した。分化誘導剤無添加区
では、FAおよびS-V細胞のいずれにおいてもG3PDH比活性
値の上昇は培養12日後まで認められなかった。この結果
は、FAが分化誘導剤によってのみ分化誘導され、自発的
な分化を起こさないことを示している。一方、分化誘導
剤添加区におけるFAおよびS-V細胞のG3PDH比活性値は、
それぞれ分化誘導4および8日後から急速に上昇し、各
培養日数間におけるその差は有意であった。分化誘導12
日後におけるFAおよびS-V細胞のG3PDH比活性値は、それ
ぞれ160および54 units/mg proteinであり、FAのG3PDH
比活性値はS-V細胞に比べて約3倍高い値を示した。
【0038】FAの分化に及ぼす血清濃度の影響を調べ
た。0.25μM DEX、5μg/ml INSおよび0.5 mM IBMX添加
したDMEMに5、10、20あるいは40% (v/v) FCS添加した
培地で分化誘導し、12日間培養した。その結果、G3PDH
比活性値は、5〜20%FCS添加区の間で濃度依存的に増
加し、各区間に有意差が認められた。しかし、40%FCS添
加区では、G3PDH比活性値は低下する傾向が認められ
た。これらの結果から、FAの分化誘導には分化誘導培地
への20%FCS添加が至適濃度であることが示された。
【0039】培地に添加するDEX、IBMXおよびINSなどの
分化誘導剤の組み合わせがFAの分化に及ぼす影響を調べ
た(図7)。3種の分化誘導剤をそれぞれ単独あるいは
組み合わせて添加し、培養12日後のG3PDH比活性値を測
定した。その結果、IBMXおよびDEXのG3PDH比活性値は、
INS添加区および対照区に比べて有意に高い値を示し
た。2種の分化誘導剤を組み合わせると、全ての区にお
いて対照区およびINS区と比べて有意に高い値を示し
た。特に、DEX+IBMX区では相乗効果が認められ、INS+IB
MX区および全ての単独添加区と比べて有意に高い値を示
した。さらに、3種を組み合せたDEX+IBMX+INS区の比活
性値は、132 units/mg proteinと著しい相乗効果を示
し、対照区および全ての実験区に比べて有意(p<0.00
1)に高い値を示した。ついで、DEX+IBMX+INS区に含ま
れる各分化誘導剤の至適濃度を調べた。その結果、DE
X、IBMXおよびINSのいずれにおいても、それぞれ0.25μ
M、0.5 mMおよび5μ/mlまで濃度依存的に培養12日後に
おけるG3PDH比活性値を上昇させたが、それ以上の濃度
では変化が認められなかった。
【0040】以上の結果から、単胞性脂肪細胞由来のFA
は、活発な増殖および分化能を有する前駆脂肪細胞であ
ることが明らかとなった。
【0041】[実施例3]ブタ前駆脂肪細胞の増殖およ
び分化に及ぼす継代回数の影響 実施例2において、単胞性脂肪細胞から形成されるFAは
前駆脂肪細胞であることが明らかとなった。したがっ
て、この単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞(Porcine
Peradipocytes derived from Matured Adipocytes : PP
MA)が継代可能であり、また継代を繰り返しても安定し
た増殖および分化能が維持されるなら、PPMAはブタ前駆
脂肪細胞株であることが明らかでる。本実施例では、ブ
タ前駆脂肪細胞株の樹立を目的として、PPMAを長期間に
わたって継代培養し、継代間における増殖および分化能
を比較検討した。
【0042】1)材料および方法 (1) ブタ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞の採取 と畜場において、6〜7ヶ月齢の雄あるいは雌ブタ型5頭
から皮下脂肪組織を採取し、約37℃に調整しておいた保
温瓶に入れて1時間以内に実験室に持ち帰った。つい
で、実施例1の方法で天井培養してPPMAを得た。
【0043】(2) ブタ前駆脂肪細胞の継代培養および分
化誘導 PPMAの継代培養法は前項に従って行われた。すなわち、
トリプシンEDTA-PBSを用いてPPMAを培養皿底面から剥が
し、遠心洗浄したのち、細胞数を血球計算盤を用いて算
出した。ついで、最終濃度1×104個/mlとなるように20
%FCS添加DMEMで再浮遊させ、細胞懸濁液2mlを培養皿
に移し、37℃、5%CO2、95%空気の気相下の炭酸ガス培
養装置内で10日間培養した。培地交換は4日毎に行い、
以上の操作を継代毎に繰り返した。また、増殖状況の観
察については、倒立顕微鏡を用いて毎日観察した。
【0044】分化誘導については、継代培養10日後にコ
ンフルエントに達しているPPMAの培地を0.25μM DEX、
0.5mM IBMXおよび5μg/ml INSを含む20%FCS添加DMEMに
交換し、4日間分化誘導した。その後、20%FCS添加DME
Mに培地交換し5、さらに6日間培養した。培養10日後、P
PMAをサンプリングし、前項2に示した方法にしたがっ
てG3PDH比活性値を測定した。また、分化誘導後におけ
る細胞形態変化の観察は倒立顕微鏡を用いて毎日行っ
た。
【0045】2)結 果 増殖期におけるPPMAは線維芽細胞様の形態を示し、各継
代間における形態的な違いは観察されなかった。PPMAの
増殖に及ぼす継代回数の影響を図8−aに示した。5個
体のうち4個体のPPMAでは、継代6〜7代目において培
養10日後における細胞数の減少が認められた。しかし、
その後安定し、3個体由来のPPMAでは、継代37代目にお
いても継代初期と同様の増殖能力が維持された。
【0046】継代35代目におけるPPMAの染色体数の算定
を分裂中期像の分析によって行った。PPMAの74%は2倍
体(38染色体)であり、11%が39染色体であった。さら
に、8%が38染色体以下であり、6%は構造異常および1
%が58染色体以上であった。これらの結果は、PPMAが長
期継代培養後においても正常な表現型が維持されること
示している。
【0047】PPMAの分化誘導後に観察される形態変化
は、各継代間で違いは観察されなかった。また、3個体
由来のPPMAでは、35代以上の継代を繰り返しても細胞質
内に種々の大きさの脂肪滴を蓄積し、継代初期との形態
的な違いは認められなかった。PPMAの分化に及ぼす継代
回数の影響を図8−bに示した。3個体由来のPPMAで
は、継代37代目までG3PDH比活性値は維持された。しか
し、他の2個体由来のPPMAのG3PDH比活性値は、それぞ
れ継代3および16代目から急速に減少し、それぞれ継代
12および22代目以降のG3PDH比活性値はいずれも分化誘
導しない対照区(2〜6units/mg protein)と同様の値
まで低下した。以上の結果は、単胞性脂肪細胞由来のPP
MAが、長期継代を経ても均一な増殖および分化特性を維
持することを示しいる。したがって、PPMAは長期継代培
養が可能なブタ前駆脂肪細胞株であることが明らかとな
った。
【0048】[実施例4]ニワトリFAの分化特性 本実施例では、ニワトリの腹腔脂肪組織から採取した単
胞性脂肪細胞を天井培養し、得られたFAが前駆脂肪細胞
にまで脱分化するかについて調べた。腹腔内脂肪組織か
ら採取したS-V細胞を対照区とした。
【0049】1)材料および方法 14日齢雄ニワトリを放血と殺した後、直ちに腹腔内脂肪
を摘出し、重量を測定した。単胞性脂肪細胞およびFAの
採取、ならびにそれらの培養法は、実施例1の(1)と
ほぼ同様の方法で行った。一方、S-V細胞の採取は、実
施例2の(1)と同様の方法で行った。ニワトリの場合
は、天井培養8日後に形成されるFAを継代培養したもの
を用いた。FAあるいはS-V細胞を、最終濃度1×105個/m
lとなるように10%FCS添加DMEMで調整して培養皿に播種
し、炭酸ガス培養装置内(37℃、5%CO2、95%空気)に
静置して8日間培養した。培養後、コンフルエント状態
を確認したのち、1μg/mlインスリン、10μg/mlトラン
スフェリンおよび12mg/ml BSAを含むDMEMに、0.1%脂肪
酸濃縮液(GIBCO BRL)無添加あるいは添加した培地に
交換して12日間培養した。培地交換は、4日毎に行っ
た。分化状況は、G3PDH比活性値およびオイルレッドO染
色を指標として調べた。G3PDH活性測定に用いる細胞の
調整およびG3PDH比活性測定およびオイルレッドO染色の
方法は、実施例2の(2)に従った。
【0050】2)結果 ニワトリFAおよびS-V細胞の分化誘導後におけるG3PDH比
活性値の変化を図9に示す。脂肪酸無添加区では、FAお
よびS-V細胞のいずれにおいても培養4日後のG3PDH比活
性値はやや上昇する傾向が認められたが、その後、培養
12日後まで低下し、G3PDH比活性値の有意な上昇は認め
られなかった。また、脂肪酸無添加区においては、培養
期間のいずれにおいても細胞質にオイルレッドO染色陽
性の物質は観察されなかった。一方、脂肪酸添加区にお
ける分化誘導4日後のFAおよびS-V細胞のG3PDH比活性値
は、無添加区と同様であり、有意な上昇は認められなか
ったが、分化誘導8日後におけるFAおよびS-V細胞のG3P
DH比活性値はいずれも急速に上昇し、FAの比活性値はS-
V細胞に比べて有意に高い値を示した。さらに、分化誘
導12日後におけるG3PDH比活性値は、それぞれ79および6
0 units/proteinといずれも最高値を示した。これらの
結果から、ニワトリFAは前駆脂肪細胞であることが示さ
れた。また、それらは脂肪酸によって分化誘導され、自
発的な分化を起こさないことが示された。
【0051】[実施例5]ニワトリ前駆脂肪細胞の増殖
および分化に及ぼす継代回数の影響 実施例4において、ニワトリ単胞性脂肪細胞から形成さ
れるFAが前駆脂肪細胞であることが明らかとなった。こ
の単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞(ChickPreadipoc
yte drived from Matured Adipocytes:CPMA)が継代可
能であり、また継代を繰り返しても安定した増殖および
分化能が維持されるとすれば、CPMAはニワトリ前駆脂肪
細胞株であると考えられる。本実施例では、ニワトリ前
駆脂肪細胞株の樹立を目的として、CPMAを長期間にわた
って継代培養し、継代間における増殖および分化能を比
較検討した。
【0052】1)材料および方法 CPMAの継代培養法は実施例3の(2)に従って行われ
た。すなわち、トリプシンEDTA-PBSを用いてCPMAを培養
皿底面から剥がし、遠心洗浄したのち、細胞数を血球計
算盤を用いて算出した。最終濃度1×105個/mlとなるよ
うに10%FCS添加DMEMで再浮遊させ、細胞懸濁液2mlを
培養皿に移し、37℃、5%CO2、95%空気の気相下の炭酸
ガス培養装置内で8日間培養した。培地交換は4日毎に
行い、以上の操作を継代毎に繰り返した。増殖状況の観
察については、倒立顕微鏡を用いて毎日観察した。分化
誘導については、継代培養8日後にコンフルエントに達
しているCPMAの培地を、実施例4の(2)に示した分化
誘導培地に交換することによって行った。その後、さら
に分化誘導培地中で12日間培養した。分化誘導12日後、
CPMAをサンプリングし、実施例2の(2)に示した方法
に従ってG3PDH比活性値を測定した。また、分化誘導後
における細胞形態変化の観察は倒立顕微鏡を用いて毎日
行った。
【0053】2)結果 増殖期におけるCPMAは実施例3のブタ前駆脂肪細胞に比
べるとやや平滑筋細胞様の形態を示したが、各継代間に
おける形態的な違いについては観察されなかった。CPMA
の増殖に及ぼす継代回数の影響を図10に示した。5例
中2例のCPMAにおいてのみ、継代10〜15代目の培養8日
後における細胞数において減少が認められた。しかし、
それ以外のCPMAでは、継代33代目においても継代初期と
同様の増殖能力が維持された。
【0054】分化誘導後に観察されるCPMAの形態変化
は、各継代間で違いは観察されなかった。また、5例中2
例のCPMAでは、33代以上の継代を繰り返しても、分化誘
導後において細胞質内に種々の大きさの脂肪滴を蓄積
し、継代初期との形態的な違いは認められなかった。CP
MAの分化に及ぼす継代回数の影響を図11に示した。5
例中2例のCPMAでは、継代33代目までG3PDH比活性値は維
持された。しかし、他の3例のCPMAにおけるG3PDH比活性
値は、それぞれ継代6、8および25代目から急速に減少
し、それぞれ継代8、9および29代目以降のG3PDH比活
性値はいずれも分化誘導しない対照区と同様の値(6〜1
8 units/mg protein)まで低下した。以上の結果は、単
胞性脂肪細胞由来のCPMAが、長期継代を経ても均一な増
殖および分化特性を維持することを示しいる。したがっ
て、CPMAは長期継代培養が可能なニワトリ前駆脂肪細胞
株であることが明らかとなった。
【0055】
【発明の効果】本発明により得られる効果を列記すると
以下のようになる。
【0056】1)終末分化を遂げた単胞性脂肪細胞は前
駆脂肪細胞にまで脱分化することが明らかにされた。こ
れは、脂肪細胞分化のモデルだけでなく、分化および脱
分化の遺伝子レベルでの機構解明のための実験系となり
得る。
【0057】2)これらの前駆脂肪細胞は、形質転換
(染色体レベルでの異常など)なしに長期継代可能であ
る。すなわち、本発明により動物細胞由来の前駆脂肪細
胞株を簡便にかつ短期間で再現性よく樹立することが可
能となる。
【0058】3)家畜あるいは家禽由来の前駆脂肪細胞
株を用いて、増殖および分化を抑制する物質をスクリー
ニングすることができれば、それを家畜あるいは家禽に
投与することによって、より効果的な体脂肪蓄積の制御
が可能となる。この方法により現在行われている飼料エ
ネルギーあるいは栄養素の調節による従来法の限界を解
決するだけでなく、飼料効率のさらなる向上や、廃棄さ
れる脂肪を減少させ食料資源の効率化に貢献する。
【0059】4)脂肪組織は形成される部位(腸間膜、
腎臓周囲、皮下、精巣上体、筋肉組織など)ごとに異な
る特性を有することが明らかにされつつある。本発明に
より各部位由来の前駆脂肪細胞が各個体ごとに採取され
ることから、各部位ごとの脂肪細胞分化の特性を個体差
を含めて詳細に比較検討することが可能となる。
【0060】5)筋肉組織内に交雑する脂肪(霜降り
肉)は、食肉の商品価値を高めるが、本発明によって筋
肉組織由来の前駆脂肪細胞株を樹立し、それらの特性を
解明すれば、商品価値の高い畜肉生産を可能とする。
【0061】6)内臓由来の前駆脂肪細胞を用いて、該
細胞から生成および分泌される生理活性物質、特に肥満
症あるいは成人病に深く関与するTNFα、レプチン、PAI
-1などの生成機構を解明のための実験系となる。これに
よりインスリン抵抗性および肥満解消薬の開発あるいは
動脈硬化の指標作りなどが可能となる。
【0062】7)本発明によって単一な前駆脂肪細胞が
得られることから、成熟脂肪細胞、血管上皮細胞あるい
は血管周囲細胞、さらには筋細胞などとの共培養が可能
となり、それらの細胞が脂肪細胞分化に及ぼす影響につ
いて調べることが可能となる。
【0063】8)ダイオキシンあるいは合成樹脂などの
内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)は脂溶性であり、
脂肪組織に蓄積される。したがって、分化誘導した脂肪
細胞を用いて、それらの物質の取り込みと排出のメカニ
ズムを詳細に検討する実験系となる。
【0064】9)脂肪細胞は分化過程において脂肪細胞
特異的な遺伝子が整然と発現されることから、分化過程
のどの位置にある細胞かを明確にとらえることが出来
る。したがって、増殖期、分化前期、中期および後期さ
らには終末分化に至る任意の細胞を用意することができ
る。本発明をもちいれば、胎児期から成体由来の前駆脂
肪細胞を容易に準備することが可能であり、また染色体
異常を起こすことなく維持されることから体細胞クロー
ン作成時のドナー細胞として使用できる。
【0065】10)本発明は、成熟脂肪細胞が採取可能で
あれば前駆脂肪細胞を得られることを主に哺乳類および
鳥類を対象として示した。このことは、爬虫類、両生類
あるいは魚類、また、無脊椎動物例えば昆虫類などにお
ける脂肪細胞の分化特性等を調べるための実験系や物質
生産系を構築することができる。
【0066】
【図面の簡単な説明】
【図1】単胞性脂肪細胞の天井培養法を示す図である。
脂肪組織をコラゲナーゼ処理し、ろ過後に遠心分離して
単胞性脂肪細胞(成熟脂肪細胞)群と間質血管系細胞群
を分離した。培地を満たしたフラスコ内に単胞性脂肪細
胞を播種し、6日間培養した。その間に単胞性脂肪細胞
はフラスコ内において浮上し、天井面に接着する。培養
6日後、フラスコ内の培養液を適量にし、接着面を底面
に戻して培養を継続した。
【図2】ブタ単胞性脂肪細胞から形成された線維芽細胞
様脂肪細胞(FA)の増殖。 a;培養6日後、多胞性脂肪細胞と脂肪滴を持たないFA
が混在している。 b;培養10日後、多胞性脂肪細胞は減少し、FAの活発な
増殖が観察される。 c;培養14日後、FAはほぼコンフルエントに達する。多
胞性脂肪細胞は全く観察されない。
【図3】単胞性脂肪細胞から形成されたブタ線維芽細胞
様脂肪細胞の増殖曲線(n=5)。 ・20%FCS添加DMEM中で6日間天井培養した後、フラスコ
内の培養液を適量にし、接着面を底面に戻してさらに1
6日間培養した。a〜d:p<0.05。
【図4】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞(FA)および間質血管
系(S-V)細胞の増殖曲線。 ・10%(●)あるいは20%(○)FCS添加したDMEMで細胞濃度1
04あるいは105個/mlで播種し、培養16日まで4日毎に
FAおよびS-V細胞の細胞数を測定した。a〜c:p<0.05。
【図5】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞(FA)の分化に伴う
形態変化およびオイルレッドO染色像。 a;培養10日後、コンフルエントに達したFAの細胞質に
は脂肪滴はまったく観察されない。 b;分化誘導4日後、FAは星状の形態を示し、細胞質内
に小さな脂肪滴を有する細胞も観察される。 c;分化誘導12日後、FAの細胞質は拡張し、細胞質内に
種々の大きさの脂肪滴が多数観察される。 d;分化誘導直前のコンフルエントに達しているFAのオ
イルレッドO染色像。培養皿に染色された部分は観察さ
れない。 e;分化誘導しないFAは、培養12日後においても培養皿
に染色された部分がほとんど観察されない。 f;分化誘導12日後におけるFAのオイルレッドO染色像。
オイルレッドO染色されたFAが培養皿の全面に観察され
る。 g;分化誘導12日後におけるS-V細胞のオイルレッドO染
色像。培養皿の底面にコロニー状に染色された部分が観
察される。
【図6】分化誘導後におけるブタ線維芽細胞様脂肪細胞
(FA)および間質血管系(S-V)細胞のグリセロール3リン
酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)活性の変化(n=4)。 ・0.25μMデキサメタゾン(DEX)、0.5mMイソブチルメチ
ルキサンチン(IBMX)および5μg/mlインスリン(INS)を添
加あるいは無添加した20%FCS添加のDMEMで4日間分化誘
導したのち、20%FCS添加DMEMでさらに8日間培養し
た。分化誘導後、4日毎にG3PDH比活性値を測定した。a
〜c:p<0.05。
【図7】種々に分化誘導剤の組み合わせがブタ線維芽細
胞様脂肪細胞の分化に及ぼす影響(n=6)。 ・0.25μMデキサメタゾン(DEX)、0.5mMイソブチルメチ
ルキサンチン(IBMX)、5μg/mlインスリン(INS)を種々の
組み合わせで添加した20%FCS添加DMEMを用いて4日間分
化誘導したのち、20%FCS添加DMEMでさらに8日間培養し
た。a〜d:p<0.05。
【図8】ブタ線維芽細胞様脂肪細胞の増殖(a)および
分化(b)に及ぼす継代回数の影響。 a)5個体由来のブタ前駆脂肪細胞を最終濃度1×104
個/mlとなるように20%FCS添加DMEM中に播種したのち、
培養10日後の細胞数を測定した。 b)コンフルエントに達した5個体由来のブタ前駆脂肪
細胞の培地を、0.25μMデキサメタゾン、0.5mMイソブチ
ルメチルキサンチンおよび5μg/mlインスリンを含む20%
FCS添加DMEMで4日間分化誘導したのち、20%FCS添加DME
Mでさらに6日間培養した。
【図9】分化誘導後におけるニワトリ線維芽細胞様脂肪
細胞および間質血管系(S-V)細胞のG3PDH活性の変化(n
=5)。コンフルエントに達したニワトリ線維芽細胞様
脂肪細胞の培地を、1μg/mlインスリン、10μg/mlのト
ランスフェリンおよび12mg/ml BSA添加DMEMに0.1%(v/
v)脂肪酸濃縮液を添加、あるいは無添加の培地に交換
し、12日間培養した。分化誘導後、4日毎にG3PDH比活
性値を測定した。a〜c:p<0.05。
【図10】ニワトリ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞
の増殖に及ぼす継代回数の影響(n=5)。 ニワトリ
前駆脂肪細胞を最終濃度1×105個/mlとなるように10%
FCS添加DMEM中に播種したのち、培養8日後の細胞数を
測定した。
【図11】ニワトリ単胞性脂肪細胞由来の前駆脂肪細胞
の分化に及ぼす継代回数の影響(n=5)。コンフルエ
ントに達したニワトリ前駆脂肪細胞の培地を、0.1%(v/
v)脂肪酸濃縮液、1μg/mlインスリン、10μg/mlのトラ
ンスフェリンおよび12mg/ml BSA添加DMEMに交換し、12
日間培養した。分化誘導12日後にG3PDH比活性値を測定
した。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】動物の単胞性脂肪細胞を天井培養して形成
    される線維芽細胞様脂肪細胞を継代培養し分化誘導する
    ことによって得られる該動物由来の前駆脂肪細胞株。
  2. 【請求項2】動物がヒトである請求項1記載の前駆脂肪
    細胞株。
  3. 【請求項3】動物がブタである請求項1記載の前駆脂肪
    細胞株。
  4. 【請求項4】動物がニワトリである請求項1記載の前駆
    脂肪細胞株。
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