本発明の典型的な一態様においては、まず、予め形成した非晶質珪素膜の表面に珪素の結晶化を助長する金属元素を導入し、当該金属元素を利用して結晶性珪素膜を形成する。次いでこの結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成することにより、当該金属元素を該熱酸化膜中へ移行ないしはゲッタリングさせ、該結晶性珪素膜中における当該金属元素の濃度を低下させ又は当該金属元素を除去する。
上記非晶質珪素膜の形成は、プラズマCVD法や減圧熱CVD法、その他適宜の手法により行うことができる。該非晶質珪素膜は適宜の固体の面上に形成するが、半導体装置として構成する場合には基板上に形成される。基板としては特に限定はなく、ガラス基板や石英基板のほか、セラミックス基板その他の基板が使用される。また、該非晶質珪素膜は、それらの基板の表面上に形成された、例えば酸化珪素膜等の膜上にも形成されるが、本明細書中基板とは、これらの場合をも含めた意味である。
次いで、上記のように予め形成した非晶質珪素膜の表面に珪素の結晶化を助長する金属元素を導入する。この珪素の結晶化を助長する金属元素としては鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスニウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、銅(Cu)及び金(Au)から選ばれた一種又は複数種類の金属元素が用いられる。これら金属元素については、本明細書に記載する何れの発明においても珪素の結晶化を助長する金属元素として使用される金属元素であり、本明細書中、これらを含めて、適宜「ニッケルで代表される珪素の結晶化を助長する金属元素」と指称している。
これら金属元素を導入する箇所としては、(ア)非晶質珪素膜の全面、(イ)非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面(この態様では、好ましくは非晶質珪素膜の面上にスリット状の開口部が設けられる)、(ウ)非晶質珪素膜の面の端部(例えば非晶質珪素膜の膜面が矩形の面であるとすれば、その一方の端部、二方の端部、三方の端部又は四方の端部、また非晶質珪素膜の膜面が円形の面であれば、その周縁部分、等)、(エ)非晶質珪素膜の膜面中央部、(オ)点状(すなわち、非晶質珪素膜の膜面に所定間隔を置いた点状)等、特に限定はないが、好ましくは上記(ア)〜(イ)の態様で導入される。
上記(イ)の態様におけるスリット状の面に導入する態様における、スリット状の開口部の寸法としては、特に限定はないが、例えばその導入の仕方として、下記のとおり金属塩の溶液を塗布する態様では、該溶液の濡れ性や流動性等の如何にもよるが、その幅は例えば20μm以上とすることができる。またその長手方向の長さは任意に決めればよく、例えば数十μm〜30cm程度の範囲とすることができる。また、当該金属元素を非晶質珪素膜の裏面に導入する態様も採られ、その表裏両面に導入することもできる。
また、非晶質珪素膜への、それら金属元素の導入の仕方としては、当該金属元素を非晶質珪素膜の表面又はその内部に存在させ得る手法であれば特に限定はなく、例えばスパッタ法、CVD法、プラズマ処理法(含:プラズマCVD法)、吸着法、金属塩の溶液を塗布する方法を使用することができる。このうち溶液を用いる方法は簡便であり、金属元素の濃度調整が容易であるという点で有用である。金属塩としては各種塩を用いることができ、溶媒としては水のほか、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類その他の有機溶媒、或いは水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができ、また、それら金属塩が完全に溶解した溶液とは限らず、金属塩の一部又は全部が懸濁状態で存在する溶液であってもよい。
金属塩の種類については、上記のように溶液又は懸濁液として存在し得る塩であれば有機塩や無機塩を問わず何れも使用できる。例えば、鉄塩としては臭化第1鉄、臭化第2鉄、酢酸第2鉄、塩化第1鉄、塩化第1鉄、フッ化塩化第2鉄、硝酸第2鉄、リン酸第1鉄、リン酸第2鉄等が挙げられ、コバルト塩としては、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルト、フッ化コバルト、硝酸コバルト等が挙げられる。
また、ニッケル塩としては、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、蓚酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、蟻酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、ニッケルアセチルアセテート、4ーシクロヘキシル酪酸ニッケル、2ーエチルヘキサン酸ニッケル等を挙げることができる。また、ルテニウム塩の例としては塩化ルテニウム等が、ロジウム塩の例としては塩化ロジウム等が、パラジウム塩の例としては塩化パラジウム等が、オスミウム塩の例としては塩化オスミウム等が、イリジウム塩の例としては3塩化イリジウムや4塩化イリジウム等が、白金塩の例としては塩化第2白金等が、銅塩の例としては酢酸第2銅、塩化第2銅、硝酸第2銅が、金塩の例としては3塩化金、塩化金等が挙げられる。
以上のようにして金属元素を非晶質珪素膜へ導入した後、当該金属元素を利用して結晶性珪素膜を形成する。この結晶化は加熱処理(熱結晶化:Solid Phase Crystalization)、レーザー光又は紫外線、赤外線等の強光の照射によって行うが、好ましくは加熱処理が用いられる。また加熱処理で行う場合には、その後にレーザー光の照射又は強光の照射を行ってもよい。この熱結晶化は加熱雰囲気として水素或いは酸素を含む雰囲気でも進行するが、好ましくは窒素やアルゴン等の不活性雰囲気が用いられる。なお、この加熱処理又はこの加熱処理温度を、本明細書中、適宜「第1の加熱処理」又は「第1の加熱処理温度」と指称している。
上記第1の加熱処理は、温度約450〜1100℃の範囲で行うことができ、好ましくは約550〜1050℃の範囲で行うことができる。結晶化は温度400℃程度でも進行するが、この場合には結晶化速度が遅く、長時間を要することから、その温度は、約450℃以上、好ましくは550℃程度以上である。基板として石英基板等の耐熱性基板を用いる場合には、その温度は、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは750℃以上である。その加熱処理温度がより高ければ、より良質の結晶が得られ、また結晶化速度を上げることができる。
基板として、例えば歪点667℃のガラス基板を用いる場合には、その歪点との関係で第1の加熱温度は600〜650℃程度が限度であるが、耐熱性がより高いガラス基板であれば、その以上の温度でもよいことはもちろんである。石英基板の場合には約1100℃まで適用することができるが、1050℃程度以下であるのが好ましい。約1050℃を越えると、石英で形成された治具が歪んでしまったり、装置に負担がかかるからである。この意味では980℃以下とすることが好ましいが、より耐熱性の治具を用いる場合等では1100℃程度でも実施することができる。また、この加熱処理の後に、レーザー光の照射又は赤外線や紫外線等の強光の照射を行うこともできる。
次いで、この結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成する。本発明においては、これによって、当該金属元素を該熱酸化膜中へ移行、或いはゲッタリングさせ、結晶性珪素膜中における当該金属元素の濃度を低下させ又は当該金属元素を除去することができる。熱酸化膜の形成には酸化性雰囲気を用いるが、その好ましい態様としては、(カ)酸素雰囲気、(キ)酸素を含む雰囲気、(ク)熱酸化膜形成時の温度で酸素を放出する化合物を含む雰囲気、(ケ)ハロゲンを含む雰囲気、(コ)、(カ)〜(ク)の酸素とハロゲンを含む雰囲気等が用いられる。
この熱酸化膜の形成は、前記熱結晶化で適用した温度と同様の範囲、すなわち約450〜1100℃の範囲で行うことができ、好ましくは約700〜1050℃の範囲、さらに好ましくは約800〜1050℃の範囲で行うことができる。この温度は、熱結晶化で適用した温度(第1の加熱処理温度)と同程度でも行えるが、熱結晶化で適用した温度よりも高い温度であるのがより好ましい。これによって熱酸化膜を形成するとともに、第1の加熱処理温度と同程度の温度で行った場合に比べて、熱結晶化をさらに進めることができる。
こうして結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成するが、この時、酸化性雰囲気中の酸素の作用、ハロゲンの作用又は酸素とハロゲンの作用により、熱酸化膜中に、当該金属元素がゲッタリングされ、結晶性珪素膜中の当該金属元素の濃度が低下するか又は当該金属元素が除去される。さらに熱酸化膜の形成に従い、結晶性珪素膜の結晶性の改善が行われる。なお、この熱酸化膜の形成のための加熱処理又はその温度を、本明細書中、適宜「第2の加熱処理」又は「第2の加熱処理温度」と指称している。
次いで、当該金属元素をゲッタリングした該熱酸化膜を除去する。この熱酸化膜を除去する手法としては、該熱酸化膜を除去できる手法であれば特に限定はないが、例えばバッファーフッ酸、その他フッ酸系のエッチャントを用いて行うことができる。こうして、高い結晶性を有し、且つ、当該金属元素が除去され又は当該金属元素の濃度が低い結晶性珪素膜が得られる。この結晶性珪素膜は、半導体装置における各種素子として優れた特性を有し、特にその活性層として極めて優れた特性を有する。
図1〜図4は、本発明によって得られた結晶性珪素膜の数例についての顕微鏡写真である。図1〜図2は光学顕微鏡による倍率450倍の拡大写真、図3は透過型電子顕微鏡(TEM)による倍率50000倍(5万倍)の拡大写真、図4は、同じく透過型電子顕微鏡による倍率250000倍(25万倍)の拡大写真である。
このうち図1は、ニッケル元素を長方形の非晶質珪素膜の一端部に導入、適用して結晶化させて得た結晶性珪素膜であり、図2は、ニッケル元素を非晶質珪素膜の全面に導入、適用して結晶化させて得た結晶性珪素膜である。図1の写真から明らかなとおり、結晶が一端から他の端に向けて平行又はほぼ平行に成長していることが分かる。またニッケル元素を非晶質珪素膜の全面に適用して成長させた場合である、図2の写真では、星状の濃淡が見られ、結晶が多数の点を中心として放射状に成長していることが分かる。
次に、図3〜図4は透過型電子顕微鏡による拡大写真であるが、これら図3〜図4に示す結晶性珪素膜は、概略、以下(A)〜(G)の工程で得たものである(なお、これらの工程は後述実施例21の工程と類似の工程である)。これら(A)〜(G)の工程を模式的に図5として示している。
(A)充分平滑な平面を有する石英基板を洗浄し、その表面に減圧熱CVD法(LPCVD法)により、非晶質珪素膜を500オングストロームの厚さに成膜した。(B)次に、TEOS(テトラエトキシシラン)を用いたCVD法により酸化珪素膜を700オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより開口を形成した。ここではその開口の幅を30μm、長さを3cmとした。この開口の底部では非晶質珪素が露呈した状態となる。
(C)ニッケルが100ppmの濃度(重量換算)のニッケル酢酸塩水溶液をスピンコーターにより、図5中(C)として示すように塗布した。(D)ニッケル酢酸塩水溶液は付着した状態で、窒素雰囲気中、温度600℃(第1の加熱処理温度に相当する)、8時間の加熱処理を行った。(E)酸化珪素膜のマスクを除去し、横成長した領域を有する結晶性珪素膜を得た。
(F)HClを3体積%含有した酸素雰囲気(常圧)中で、温度950℃(第2の加熱処理温度に相当する)、20分の加熱処理を行った。この結果200オングストロームの酸化膜が形成され、珪素膜の膜厚は400オングストロームとなった。なお、この熱酸化膜の形成時における、結晶性珪素膜の膜厚の減少に従い、未結晶状態、或いは完全には結晶化していない珪素が、熱酸化膜の形成に消費され、結晶性の改善、結晶粒界の不活性化が進行すると推認される。次いで、(G)、(F)で形成された酸化膜をバッファーフッ酸を用いて除去した。
図3〜図4から明らかなとおり、本発明に係る結晶性珪素膜中の結晶は、下記(サ)〜(ス)の特徴を有していることが分かる。(サ)結晶格子の構造がほぼ特定方向に連続的に連なっている。(シ)細い棒状結晶又は細い扁平棒状結晶に成長している。(ス)複数の細い棒状結晶又は細い扁平棒状結晶に成長し、且つ、それらが間隔を置いて平行又はほぼ平行に成長している。また、図4の写真を見ると、例えば左下から右上への斜め方向に0.15μm程度の幅の細い棒状結晶が延びており、両幅端縁には明確な境界(結晶粒界)があることが分かる。なお、図3〜図4の写真に線状等の濃淡が観られるのは、各棒状結晶間の結晶面の向きの違いによるものである。
この点、後述各実施例で得られた結晶性珪素膜についても、光学顕微鏡及び透過型電子顕微鏡により個々に観察したが、結晶径(幅)には相違が観られるが、何れも上記(サ)〜(ス)のような特徴を有していた〔なお、各結晶棒の径(幅)には、0.1〜1μm程度というように、ある程度の相違が観られた〕。
このように、本発明に係る結晶性珪素膜中の結晶は、巨視的に観ても、微視的に観ても、平行又はほぼ平行に成長し、上記(サ)〜(ス)の特徴を有している。そしてその見方を変えると、それら各結晶のそれぞれは単結晶であるが、それらの集合体としてみれば、一種の多結晶(Polyーcrystal)状態であると云うこともできる。
図7(a)〜(b)は、本発明で得られた結晶性珪素膜について、上記図1〜図4で代表される数多くの顕微鏡写真から観察された結果を基に想定される結晶成長の形態を模式的に図示したものである。まず、図7(a)は、一例として非晶質珪素膜面の一端に珪素の結晶化を助長する金属元素を存在させて成長させた場合である。この場合、珪素の結晶は、金属の添加領域から結晶格子が連続的に連なり、線状に、しかも平行又はほぼ平行に成長する。
次に、図7(b)は、珪素の結晶化を助長する金属元素を非晶質珪素膜面の全面に存在させて成長させた場合である。この場合には、珪素の結晶は、非晶質珪素膜面の全面において無数の点中心から放射状に成長し、放射状の各結晶は結晶格子が連続的に連なって棒状に成長している。また各点中心から延びる相隣る放射状結晶棒の位置関係をみると、各結晶棒が相互に平行又はほぼ平行に成長する(全体として観れば放射状、即ち末広がりになっているが、結晶成長方向の一部分をカットして観ると、各結晶棒は相互に平行又はほぼ平行になっている)。
ところで、例えばTFT(一般のMOS型トランジスタも同じであるが、ここではTFTを例にし、これを中心に記載する)の動作速度を高くするには、チャネル長を短かくすることが有効である。しかしチャネル長を1μm以下というように短かくすると、短チャネル効果と呼ばれる不都合が生じる。具体的にはサブスレッシュルド特性の悪化、しきい値の減少といった問題が発生する。
ここで、サブスレッショルド特性(S値とも指称される)とは、図8に模式的に示すように、TFTのスイッチをONとした時点における立ち上がり特性を意味する。具体的には立ち上がりが急峻ならば、サブスレッショルド特性は良く、そのTFTは高速動作をさせることができる。他方、サブスレッショルド特性が悪いTFTは立ち上がり曲線の傾きが小さく(=曲線が寝ている)、高速動作には向かないものとなる。
短チャネル効果におけるサブスレッショルド特性の悪化は、現時点での技術的知識(現時点での技術的知識ないしは従来の理論)からすると、以下のように説明することができる。まずチャネルが短かくなるということは、ソース領域とドレイン領域の距離が短かくなることを意味する。一般にチャネルは真性(I型半導体)であり、ソース領域、ドレイン領域はN型又はP型である。例えば真性半導体とN型半導体とが接すれば、N型半導体の半導体としての性質が真性半導体の内部へ影響を及ぼすが、このことはPN接合モデルの例からも理解される。
TFTの場合、上記の影響はチャネルの内部へと及ぼされることになる。すなわち、ソース領域、ドレイン領域からチャネル内部へとN型又はP型の影響が及ぶことになる。この影響の具合い、すなわち該影響が及ぶ距離はチャネルが短かくなっても変わらない。
チャネル長がどんどん短かくなってゆくと、チャネル長の寸法に対する上記ソース領域、ドレイン領域からチャネルへ及ぼされる影響が無視できなくなる。極端な場合には、ソース領域、ドレイン領域からチャネル内部へと及ぼされる影響の距離がチャネル長よりも長くなる場合もあり得る。このような状態においてはゲイト電極からの電界の印加によって、チャネルの導電型の変化が制御され、ソース領域、ドレイン間の導電率が変化するというTFT(MOS型トランジスタについても同じ)の動作に障害が出てくる。そして、この結果、サブスレッショルド特性の悪化という状態が生じる。
従って、以上のような技術認識(現時点での技術的知識ないしは従来の理論)からすると、本発明により得られる結晶性珪素膜を使用したTFTにおいても、当然、短チャネル効果が現われることが予想される。ところが、本発明により得られる結晶性珪素膜を使用したTFTでは、1μm以下のチャネル長であっても短チャネル効果が現われず、そのような障害や悪化がないことが分かった。
本発明で得られる、前述(サ)〜(ス)の特徴を有する結晶性珪素膜の結晶、即ち、(サ)結晶格子構造が概略特定方向において連続的に連なっている、(シ)細い棒状結晶又は細い扁平棒状結晶に成長している、或いは(ス)複数の細い棒状結晶又は細い扁平棒状結晶に成長し、且つ、それらが間隔を置いて平行又はほぼ平行に成長している、結晶においては、短チャネル効果がみられないばかりか、従来の技術認識では説明の付かないきわめて良好なサブスレッショルド特性を示し、そしてこれに見合った高速動作をすることが分かった。
表1〜表2及び図9はその一例を示すものである。ここで使用した半導体装置は、前述図5に示す工程に続き、概略、以下の(H)〜(L)の工程で作製したものである。これらの工程を図6として図示している。なお、図6中(G)の工程については図5に示す工程中の(G)工程に相当している。
(H)、(A)〜(F)までの工程で形成された結晶性珪素膜をパターニングし、薄膜トランジスタの活性層を形成した。(I)次いで、GI膜(ゲイトインシュレイター膜)として、酸化珪素膜を、成膜ガスとしてSiH4+N2Oの混合ガスを用いてプラズマCVD法により成膜した。
(J)HClを3体積%含有した酸素雰囲気(常圧)中で、温度950℃、28分の加熱処理を行った。この結果、300オングストロームの熱酸化膜が形成され、結晶性珪素膜の膜厚は250オングストロームであった。なお、この熱酸化膜の形成時における、結晶性珪素膜の膜厚の減少に従い、未結晶状態、或いは完全には結晶化していない珪素が、熱酸化膜の形成に消費され、結晶性の改善、結晶粒界の不活性化が進行すると推認される。また、ここで形成された熱酸化膜は、GI膜中に活性化された酸素分子が侵入する関係から、活性層の表面に形成されている。
(K)スパッタ法により、4000オングストローム厚のアルミニウム膜を形成し、また、このアルミニウムにはスカンジウムを0.18重量%含有させた。さらにアルミニウム膜の表面に約100オングストロームの陽極酸化膜を形成した。(L)次いで、レジストマスクを配置し、アルミニウム膜をパターニングして、ゲイト電極の原型を作製した。
表1はNチャネル型のTFT、表2はPチャネル型のTFTとして構成したものについての実測値である。表1〜表2中、測定点1〜20とは、上記のとおり作製した一バッチの結晶性珪素膜の膜面の各箇所を用いて作製したものという意味である。まず表1から明らかなとおり、Nチャネル型TFTとして構成した場合、そのうち特にS値(Sーvalue)についてみると、その値は非常に小さく、ほぼ80mV/decade前後、全体としても70〜90mV/decadeの範囲におさまり、特に測定点13の場合には72.53mV/decadeという小さな値を示している。
S値(サブスレッショルド係数)は、図8に示すようなIDーVGカーブの立ち上がり部分における最大傾きの逆数として定義され、換言すれば、ドレイン電流を1桁増加させるのに必要なゲイト電圧の増加分と把握される。即ち、S値が小さいほど、立ち上がり部分の傾きが急峻となり、スイッチング素子としての応答性が優れ、高速動作をさせることができる。
理論式から導かれるS値の理想値は60mV/decadeであり、これまで単結晶ウェハーを用いたトランジスタではこれに近い値が得られているが、従来の一般的な低温ポリシリコンを用いたTFTでは300〜500mV/dacade程度が限界である。このことからして、上記本発明に係る結晶性珪素膜を用いたTFTにおける80mV/decade前後というS値は、極めて優れた特性であり、驚異的な特性と云える。
また、表2は本発明に係る結晶性珪素膜を用いてPチャネル型のTFTとして構成した場合についての実測値である。この場合のS値(Sーvalue)についてみると、Nチャネル型TFTの場合と同じく、この場合にも、そのS値は非常に小さく、ほぼ80mV/decade前後、全体としても70〜100mV/dcadeの範囲におさまり、特に測定点4では72.41mV/decadeという小さな値を示している。これらの値の意味は、プラス(+)、マイナス(−)を逆に見るだけで、上記Nチャネル型TFTの場合と同じである。
以上のほか、表1〜表2中の各特性(符号)の意味は以下のとおりである。表1〜表2から明らかなとおり、これら何れの特性についても実用上充分に耐え得る値を示している。Ionとは、TFTがON状態にある時に流れるドレイン電流であり、VD=1V(1ボルト)の時をIonー1(なお、Ionー1における横棒「ー」については、通常、表1のとおり文字中心より下に記載されるが、ここでは文字中心に引いている。この点、横棒「ー」を持つ以下の各符号についても同じである)、VD=5Vの時をIonー2としている。Ionの大きいTFTほど、短時間に多くの電流を流すことができる。
Ioffとは、TFTがOFF状態にある時に流れるドレイン電流であり、VD=1V(1ボルト)の時をIoffー1、VD=5Vの時をIoffー2としている。OFF状態の時に電流が流れると、その分だけ電力を消費するので、Ioffを小さくすることは極めて重要であり、またIoffが大きいと、例えば液晶に保持した電荷がIoffによって流出するといった問題も生じる。
Ion/Ioffー1、Ion/Ioffー2については、例えばIon/Ioffー1とは、Ionー1とIoffー1との比をとったもので、ON電流とOFF電流がどれだけの桁数だけ異なるかを表わしている。Ion/Ioffの比が大きいほど、スイッチング特性に優れており、パネルのコントラストを高める上でも重要である。
Vthとは、一般にしきい値電圧と呼ばれるパラメータであり、例えばTFTがON状態に切り替わる電圧と定義される。表中の値は、VD=5の時を評価対象とし、ルートID外挿法で得た値である。Vthが大きいと、ゲイト電極に印加する電圧を高く設定しなければならないので、駆動電圧の増加、さらには消費電力の増加を招くことになる。
μFEとは、電界効果移動度であり、モビリティとも呼ばれる。μFEはキャリアの移動し易さを示すパラメータであり、μFEが大きいTFTは高速動作に適していると云える。表1〜表2から明らかなとおり、これらの何れの特性についても実用上充分に耐え得る値を示している。
図9(a)〜(b)は、以上の実測データから代表的な値のものを選んで、IDーVG特性を実測してグラフ化した図である。このうち図9(a)はNチャネル型TFTの場合、図9(b)はPチャネル型TFTの場合であり、何れもVD=1V(1ボルト)の場合について示している。図9(a)〜(b)における横軸はゲイト電圧(V)、縦軸はドレイン電流(A)を示し、縦軸の目盛は「1Eー13」〜「1Eー01」の範囲、即ち1×10-13〜1×10-1 A(アンペア)の範囲である。
まず、図9(a)のNチャネル型TFTの場合につていみると、IDーVGカーブの立ち上がり部分の傾き、即ち線形領域のカーブが極めて急峻に出ていることが分かる。これは、前述S値が小さいことに対応した特性がそのまま現われたもので、完全にON状態となる時間が非常に短かく、スイッチング素子としての応答性に優れ、高速動作をさせ得ることを示している。また図9(a)中、ゲイト電圧−6〜−0.5Vの範囲が前記表1中のIoffに対応する部分であるが、OFF状態にある時に流れるドレイン電流は極めて小さく、この点でも優れた性質を有することが分かる。
次に、図9(b)についてみると、Pチャネル型TFTの場合にも、線形領域のカーブが極めて急峻であり、OFF状態にある時に流れるドレイン電流は極めて小さく、上記Nチャネル型TFTの場合と同様、優れた特性を示している。なお、これらの技術的意味については、Nチャネル型TFTの場合に比して、プラス(+)、マイナス(−)の符号が逆になるだけである。
表3〜表4及び図10は、非晶質珪素膜へのニッケル酢酸塩溶液塗布後の結晶化に際して、以上に述べた場合に比べて、第2の加熱処理温度をより低温とし(700℃)、併わせてレーザー光の照射を行って作製した結晶性珪素膜の場合を示すものである。ここでの結晶性珪素膜は、下記(1)〜(3)のとおり、後述実施例28における製造工程に準じて作製し、また、ここで使用した半導体装置は、前記(H)〜(L)と同様の工程で作製したものである。
すなわち、(1)基板として石英基板を用い、その面への非晶質珪素膜の作製にプラズマCVD法を用い、(2)100ppm濃度のニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜の全面に塗布し(結晶成長の方向は膜面に垂直な方向、即ち縦方向の成長となっている)、(3)これを窒素雰囲気中で温度600℃、4時間加熱処理し、第2の加熱温度を700℃とした点以外は、レーザー光を照射した(該照射時に、基板は加熱せず)点その他の工程については実施例28の場合と同様にして作製した。
表3〜表4から明らかなとおり、前記表1〜表2のデータに比べればある程度の差異はあるが、この場合にも、S値を含めて優れた特性を示しており、また図10(a)〜(b)から明らかなとおり、IDーVGカーブの立ち上がり部分の傾き、即ち線形領域のカーブは、図9(a)〜(b)に比べれば、ある程度寝てはいるが、それでも相当に急峻に出ていることが分かる。
次に、図11(a)は、Nチャネル型TFTについて、図9(a)及び図10(a)に示す曲線を纏めてグラフ化したものである。ここで図中11(a)中符号Kで示す曲線は図9(a)の曲線に相当し、符号Tで示す曲線は図10(a)の曲線に相当している。図11(a)から明らかなとおり、何れも線形領域の傾きは急峻であるが、K曲線の場合は、T曲線に比べてより急峻であり、これは線形領域におけるS値がより小さいことに対応している。
さらに、飽和領域におけるON電流〔図11(a)中、横軸におけるゲイト電圧値0.5V(V=0.5)近辺から右側の領域:Ion〕についてみると、K曲線の場合は、T曲線に比べて、より大きい。さらにOFF領域〔図11(a)中、横軸におけるゲイト電圧値−0.3V近辺から左側の領域:Ioff〕における電流については、K曲線の場合は、T曲線に比べてより小さい。
また、図11(b)は、非晶質(アモルファス)珪素膜を用いたTFTの代表的な特性であり、これは、現時点においては、恐らく非晶質珪素膜を用いたTFTにおける理想的な特性と解される。これを図11(a)と対比すると、図11(b)の曲線に対して、曲線Kの場合には、線形領域のカーブ(S値)についても、OFF領域の電流値についても格段の差異があり、また曲線Tの場合には、図11(b)の曲線に対して、OFF領域の電流値についてはほぼ同等又は僅かに下回るが、線形領域のカーブ(S値)については、より急峻であり、より優れた特性を示している。
表1〜表2及び図9は、表3〜表4及び図10の場合の第2加熱温度(700℃)よりも、第2の加熱温度(950℃)を高くして作製した結晶性珪素膜の場合である。そして、表1〜表2及び図9の場合が、表3〜表4及び図10の場合よりも、S値を含めて、より優れた特性が得られることを示している。しかし、上記のとおり、表3〜表4及び図10の場合にも、従来の非晶質珪素膜のうちでも最も優れた非晶質珪素膜を用いたとみられるTFTに比べて、相当に優れており、有効な特性を示すことが明らかである。
さらに、図13(a)〜(b)は、上記図9に示す特性を有するNチャネル型TFTとPチャネル型TFTとを組合せた回路を組んで9段リングオシレータを作製し、これを作動させて得たオシロスコープ(発振波形)である。この回路はNチャネル型TFTとPチャネル型TFTとが同時に互いにその動作を補うように働き、一方のTFTが電荷を吐き出す場合には、他方のTFTが電荷を吸い込むように作動する。
図12は、図13の説明用の模式図であるが、図12を全体として見た場合、発振波形の+側の波形は主にNチャネル型の動作が関係し、−側の波形は主にPチャネル型の動作が関係する。従って、例えば152.0MHzとか、252.9MHzとかという周波数で発振を行っている場合に、その発振波形が+側と−側とにおいて対称性を保っていれば、その周波数において、Nチャネル型のTFTとPチャネル型のTFTとが対称動作をし、同様な特性で正常に動作していることになる。
そこで、図13(a)〜(b)のオシロスコープを見ると、発振波形は正に正弦波で、しかも線形に歪みは見られず、上下、左右ともに対称である。このように、本発明に係る結晶性珪素膜によれば、これをNチャネル型として適用した場合にも、Pチャネル型として適用した場合にも優れた特性を示し、しかも両者間に、実質上、特性上の差異がないことが分かる。
以上の現象、特性を説明し得るモデルとしては以下のように考えられる。まず図3〜図4で代表される電子顕微鏡写真にも示されるように、本発明において得られた結晶性珪素膜で構成したTFTを構成する珪素半導体薄膜は、前述のとおり、特定の方向に結晶の連続性を有した構造となっており、数多くのサンプルについての電子顕微鏡による詳細な観察により、特定方向へ結晶格子の構造が連続していることが確認された。
そして、同じく上記観察結果によれば、その状態は特定方向へ単結晶状態が所定の間隔を置いて連続している状態と解される。これは、当然、この格子構造が連続している方向へとキャリアが移動し易いものと理解される。すなわち、本発明により得られる結晶性珪素膜を用いたTFTにおいては細長いチャネルが無数に集まってチャネル領域が構成されているものと考えられる。
ここで、微小なチャネルとチャネルとを仕切るのが、図3〜図4で代表される透過型電子顕微鏡写真によって観察される、線状に見える結晶粒界(grain boundary)であるが、この結晶粒界には特に不純物が偏析している様子は観察されていない。
この結晶粒界は、電気的に活性度の低い不活性な粒界であり、深いギャップ内準位が存在しないか、または殆んど存在しない構造を有している。しかし、不均一性や非連続性に起因してエネルギー的には他の領域よりも高いものと考えられる。従って、キャリアの移動を結晶構造が連続した方向へと規制する機能を有しているものと推認される。またこのように狭い微小なチャネルが形成されると、この微小なチャネルの内部へと及ぼされるソース領域及びドレイン領域からの影響の浸透距離は、その狭さに対応して、それなりに小さくなる考えられる。
上記のような電気的な影響は、例えば障害物のない場所での電磁波の広がり方から類推されるように、理想的には2次元的或いは3次元的に等方性をもって広がることから類推される。そう考えると、本発明で得られる結晶性珪素膜を用いたTFTでは、微小な幅の狭いチャネルが多数形成されている状態が実現されているため、個々のチャネルにおいてはソース領域及びドレイン領域からのチャネルへの影響が抑制され、それが全体として短チャネル効果の抑制になっていると理解することができる。
さらに、図14及び図15に示す図は、本発明に至るまでに実施した数多くの研究、試験の過程において、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して形成した結晶性珪素膜中の該金属元素の濃度を低下させた結晶性珪素膜を用いて、本発明者らが試作したプレーナ型の薄膜トランジスタのゲイト電流の値の計測値である。図14と図15との違いは、ゲイト絶縁膜の形成方法に熱酸化法を用いたのかプラズマCVD法を用いたのかの違いによる。
即ち、図14が熱酸化膜によってゲイト絶縁膜を形成した場合の計測値、図15がプラズマCVD法によりゲイト絶縁膜を形成した場合の計測値である。図14及び図15において、横軸はゲイト電流を示し、縦軸は計測サンプル数を示している。ここでの基板としては石英基板を用いた。また活性層の形成は、非晶質珪素膜の表面にニッケル元素を接触して保持させ、温度640℃、4時間の加熱処理により結晶化させる方法を用いた。さらに熱酸化膜の形成は温度950℃の酸素雰囲気中で実施した。
図14からは、サンプルによってゲイト電流値が大きくばらついていることが分かる。これはゲイト絶縁膜の膜質にばらつきがあることを示している。一方、図15に示すゲイト絶縁膜をプラズマCVD法で形成した薄膜トランジスタにおいては、ゲイト電流のばらつきが少なく、またその値も極めて小さい。図14と図15に示される計測値の違いは以下のような理由として説明される。
即ち、熱酸化膜でもってゲイト絶縁膜を形成したサンプルは、熱酸化膜の形成時にニッケル元素が活性層中から熱酸化膜中に吸い上げられる。その結果、熱酸化膜中にその絶縁性を阻害するニッケル元素が存在することになる。このニッケル元素の存在によって、ゲイト絶縁膜中をリークする電流値が増え、またその値がバラツクことになる。
このことは、SIMS(2次イオン分析方法)によって、図14及び図15の計測値が得られたサンプルのゲイト絶縁膜中のニッケル元素の濃度を計測することによっても裏付けられた。即ち、熱酸化法で形成されたゲイト絶縁膜中には、1017cm-3台以上のニッケル元素が計測されるが、プラズマCVD法で形成されたゲイト絶縁膜中においては、ニッケル元素の濃度は1016cm-3台以下であることが確認された。なお、本明細書に記載している不純物濃度は、SIMS(2次イオン分析法)で計測された計測値の最小値として定義される。
以上は、本発明に至るまでに実施し、またその特性、効果等を確認する上で実施した数多くの実験、検討の過程において、本発明者らが得た知見のうちの数例であるが、本発明はこのような知見にも基づくものである。そして、以上の事実は、本発明における各種態様に共通するものである。
非晶質珪素膜であると、結晶性珪素膜であるとを問わず、珪素膜を使用した薄膜トランジスタ(TFT等)からなる半導体装置においては、上記金属元素は、通常有害物質であり、このため当該金属元素は珪素膜から可及的に除去する必要がある。本発明によれば、それら珪素の結晶化を助長する金属元素を、結晶性珪素膜の形成に使用した後に、極めて有効に除去又は減少させることができる。
本発明においては、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して得られた結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成することにより、この熱酸化膜中に当該金属元素をゲッタリングさせ、結果として結晶性珪素膜中における当該金属元素の濃度を低下させ又は当該金属元素を除去する。そして、本発明は、これによって優れた特性を備えた半導体装置を得ることができたものである。
前記(1)〜(6)の発明の主な態様については以下のとおりである。(1)〜(2)の発明においては、まず非晶質珪素膜を成膜する。次いで、この非晶質珪素膜をニッケルで代表される珪素の結晶化を助長する金属元素の作用により結晶化させて結晶性珪素膜を得る。この結晶化は加熱処理によって行う。この加熱処理後の状態では結晶性珪素膜中には意図的に導入された当該金属元素がある程度高い濃度で含まれている。
上記状態の結晶性珪素膜に対して酸化性雰囲気中において加熱処理を行い、結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成する。この時、酸化性雰囲気中の酸素の作用によって、熱酸化膜中に、当該金属元素がゲッタリングされ、結晶性珪素膜中の当該金属元素の濃度が低下するか又は当該金属元素が除去される。次いで当該金属元素をゲッタリングした熱酸化膜を除去する。
これらの処理により高い結晶性を有し、且つ、当該金属元素が除去された結晶性珪素膜又は当該金属元素の濃度が低い結晶性珪素膜が得られる。上記熱酸化膜の除去は、例えばバッファーフッ酸、その他フッ酸系のエッチャントを用いて行うことができる。この熱酸化膜の除去処理については、以下に述べる各発明における熱酸化膜の除去処理についても同様である。
(3)の発明においては、以上の工程に続き、パターニングを施し薄膜トランジスタの活性層を形成する。この活性層は、上記当該金属元素が除去された結晶性珪素膜又は当該金属元素の濃度が低い結晶性珪素膜で構成される。次いで、熱酸化によりゲイト絶縁膜の少なくとも一部を構成する熱酸化膜を該活性層の表面に形成することにより半導体装置を構成する。
(4)の発明では、まず非晶質珪素膜を成膜した後、この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を選択的に導入する。この金属元素を選択的に導入する態様としては、該非晶質珪素膜中で珪素を膜面に平行に結晶化させ得る態様であれば、(a)非晶質珪素膜の一端部に導入する、(b)非晶質珪素膜の一端部に間隔を置いて導入する、(c)非晶質珪素膜の全面に間隔を置いて点状に導入する等、特に限定はないが、好ましくは前記(ア)〜(オ)の態様のうちの(イ)、即ち非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面から導入する。この後、第1の加熱処理により、該金属元素が選択的に導入された領域から膜に平行な方向に結晶成長を行わせる。
次いで、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該結晶成長が行われた領域の表面に熱酸化膜を形成する。この時、酸化性雰囲気中の酸素の作用によって、熱酸化膜中に、当該金属元素がゲッタリングされ、結晶性珪素膜中の当該金属元素の濃度が低下するか又は当該金属元素が除去される。さらに該熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した領域を用いて半導体装置の活性層を形成する。
また、これらの何れの形態の場合においても、第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高い方が好ましく、また熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気によるアニールを行うことが好ましい。さらに非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であるのが好ましい。
さらに、(5)の発明では、まずガラス基板又は石英基板上に酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を形成する。次いで、以上と同様にして、第1及び第2の酸化膜に挟まれた結晶性珪素膜を有し、該結晶性珪素膜は珪素の結晶化を助長する金属元素を含有しており、該結晶性珪素膜中において、該金属元素は該第1及び/又は第2の酸化膜との界面近傍において高い濃度分布を有した半導体装置が得られる。この半導体装置の態様としては、第1の酸化膜はガラス基板又は石英基板上に形成された酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜であり、結晶性珪素膜は薄膜トランジスタの活性層を構成し、第2の酸化膜は、ゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜として構成することができる。
また、(6)の発明では、上記と同様にして、酸化膜でなる下地膜と、該下地膜上に形成された結晶性珪素膜と、該結晶性珪素膜上に形成された熱酸化膜とを有し、該結晶性珪素膜中には珪素の結晶化を助長する金属元素が含まれ、該珪素の結晶化を助長する金属元素が下地及び/又は熱酸化膜との界面近傍において高い濃度分布を有し、該熱酸化膜が薄膜トランジスタのゲイト絶縁膜の少なくとも一部を構成する半導体装置が得られる。
前記(7)〜(12)の発明の主な態様については以下のとおりである。(7)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。これに珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入して第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得る。この結晶化は加熱処理によって行う。この加熱処理後の状態においては、結晶性珪素膜中に当該金属元素が含まれている。次いでハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、熱酸化膜を形成する。
この時、酸素の作用、ハロゲンの作用、並びに、ハロゲン及び酸素の作用によって、当該金属元素が該熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングされ、その際、同時に、塩素等のハロゲンの作用によりニッケル元素が外部に気化除去される。結晶性珪素膜中の当該金属元素の濃度が低下し又は当該金属元素が除去される。次いで、そこで形成された熱酸化膜を除去した後、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(8)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。これに非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入した後、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱酸化処理を行い、該結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成し、該熱酸化膜に当該金属元素を移行ないしはゲッタリングさせ、その際、同時に、塩素等のハロゲンの作用によりニッケル元素が外部に気化除去される。これにより該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。その後、そこで形成された熱酸化膜を除去した後、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(9)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。これに非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入した後、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得る。次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱酸化処理を行い、この時形成される熱酸化膜に当該金属元素を移行ないしはゲッタリングさせ、その際、同時に、塩素等のハロゲンの作用によりニッケル元素が外部に気化除去される。
これにより該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。ここで形成された熱酸化膜を除去した後、パターニングを施し、薄膜トランジスタの活性層を形成し、さらに熱酸化によりゲイト絶縁膜の少なくとも一部を構成する熱酸化膜を該活性層の表面に形成する。
(10)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。これに非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を選択的に導入する。この金属元素を選択的に導入する態様としては、該非晶質珪素膜中で珪素を膜面に平行に結晶化させ得る態様であれば、(a)非晶質珪素膜の一端部に導入する、(b)非晶質珪素膜の一端部に間隔を置いて導入する、(c)非晶質珪素膜の全面に間隔を置いて点状に導入する等特に限定はないが、好ましくは前記(ア)〜(オ)の態様のうちの(イ)、即ち非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面から導入する。この後、第1の加熱処理により、該金属元素が選択的に導入された領域から膜に平行な方向に結晶成長を行わせる。
次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って該結晶成長が行われた領域の表面に熱酸化膜を形成すし、該熱酸化膜に当該金属元素を移行ないしはゲッタリングさせ、同時に、塩素等のハロゲンの作用によりニッケル元素が外部に気化除去される。これにより該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。次に、該熱酸化膜を除去した後、該熱酸化膜を除去した領域を用いて半導体装置の活性層を形成する。この活性層は、上記当該金属元素が除去された結晶性珪素膜又は当該金属元素の濃度が低い結晶性珪素膜結晶性珪素膜で構成される。
以上(7)〜(10)の半導体装置の作製方法でのハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気としては、O2 雰囲気中に、HCl、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又は複数種類のガスが添加された雰囲気を用いることができる。各加熱温度としては、第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高いことが好ましく、また熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気でのアニールを行うことが好ましい。さらに、非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であるのが好ましい。
(11)の発明では、まずガラス基板又は石英基板上に酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を形成する。次いで、以上と同様にして、第1及び第2の酸化膜に挟まれた結晶性珪素膜を有し、該結晶性珪素膜は珪素の結晶化を助長する金属元素を含有しており、該結晶性珪素膜中において、該金属元素は該第1及び/又は第2の酸化膜との界面近傍において高い濃度分布を有した半導体装置が得られる。
この半導体装置においては、第1の酸化膜中及び/又は第1の酸化膜と結晶性珪素膜との界面近傍には高い濃度分布でハロゲン元素が含有されており、また結晶性珪素膜中における第2の酸化膜との界面近傍には、高い濃度分布でハロゲン元素が含有されている。そして、この場合には、第1の酸化膜はガラス基板又は石英基板上に形成された酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜であって、結晶性珪素膜は薄膜トランジスタの活性層を構成し、第2の酸化膜はゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜で構成される。
(12)の発明では、上記と同様にして、酸化膜からなる下地膜と、該下地膜上に形成された結晶性珪素膜と、該結晶性珪素膜上に形成された熱酸化膜とを有し、該結晶性珪素膜中には珪素の結晶化を助長する金属元素及び水素及びハロゲン元素が含まれ、該珪素の結晶化を助長する金属元素が下地及び/又は熱酸化膜との界面近傍において高い濃度分布を有し、また該ハロゲン元素は下地及び/又は熱酸化膜との界面近傍において高い濃度分布を有し、該熱酸化膜は薄膜トランジスタのゲイト絶縁膜の少なくとも一部を構成する半導体装置が構成される。
前記(13)〜(17)の発明の主な態様については以下のとおりである。(13)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。これに珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入し、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。その後、該結晶性珪素膜に対してレーザー光又は強光の照射を行う。次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。さらに、ここで形成された熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(14)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入し、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。該結晶性珪素膜に対してレーザー光又は強光の照射を行って該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を該結晶性珪素膜中において拡散させる。
次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って、該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングする。ここで形成された熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(15)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的かつ選択的に導入する。この金属元素を選択的に導入する態様としては、該非晶質珪素膜中で珪素を膜面に平行に結晶化させ得る態様であれば、(a)非晶質珪素膜の一端部に導入する、(b)非晶質珪素膜の一端部に間隔を置いて導入する、(c)非晶質珪素膜の全面に間隔を置いて点状に導入する等、特に限定はないが、好ましくは前記(ア)〜(オ)の態様のうちの(イ)、即ち非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面から導入する。
その後、該非晶質珪素膜に対して、第1の加熱処理を施し、該金属元素が選択的に導入された領域から膜に平行な方向に結晶成長を行わせる。次いで、レーザー光又は強光の照射を行って該結晶成長した領域中に存在する当該金属元素を拡散させる。さらに、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って該結晶成長した領域に存在する当該金属元素を、当該第2の加熱処理により形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングする。次に、ここで形成された熱酸化膜を除去した後、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
上記(13)〜(15)の発明においては、第2の処理温度が600℃を超えて750℃以下の温度で行われるのが好ましく、また再度の熱酸化膜を利用してゲイト絶縁膜を形成するのが好ましい。また、これらの発明において、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気は、O2 雰囲気中にHCl、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又は複数種類のガスが添加された雰囲気が使用される。
さらに、これら(13)〜(15)の発明においては、第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高いことが好ましく、また熱酸化膜を除去した後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気でのアニールを行うことができる。またこれら発明においては、非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度は5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であるのが好ましい。
前記(16)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入した後、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成し、該活性層に対してレーザー光又は強光の照射を行う。その後、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該活性層中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。続いて、ここで形成された熱酸化膜を除去し、該活性層の表面に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
前記(17)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入し、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得る。該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成し、該活性層に対してレーザー光又は強光の照射を行う。次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該活性層中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。その後、ここで形成された熱酸化膜を除去し、該活性層の表面に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。この時、該活性層はその側面が下地面とのなす角が20°〜50°を有する傾斜した形状を有するように構成する。
上記(16)〜(17)の発明においては、再度の熱酸化膜を利用してゲイト絶縁膜を構成することができる。また、第1の加熱処理温度と第2の加熱処理温度の上限は750℃以下であることが好ましく、またハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気としては、好ましくはO2 雰囲気中にHCl、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又は複数種類のガスが添加された雰囲気が使用される。
さらに、これらの発明においては、第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高いことが好ましく、また熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気でのアニールを行うことができる。また非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度は5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であるのが好ましい。
前記(18)〜(22)の発明の主な態様については以下のとおりである。(18)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入し、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで、該結晶性珪素膜に対してレーザー光又は強光の照射を行い、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。その後、該工程で形成された熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(19)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入した後、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで該結晶性珪素膜に対してレーザー光又は強光の照射を行うことにより、該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を該結晶性珪素膜中において拡散させる。その後、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該結晶性珪素膜中に存在する当該金属元素を、形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングする。さらに、ここで形成された熱酸化膜を除去した後、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(20)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的且つ選択的に導入する。この金属元素を選択的に導入する態様としては、該非晶質珪素膜中で珪素を膜面に平行に結晶化させ得る態様であれば、(a)非晶質珪素膜の一端部に導入する、(b)非晶質珪素膜の一端部に間隔を置いて導入する、(c)非晶質珪素膜の全面に間隔を置いて点状に導入する等、特に限定はないが、好ましくは前記(ア)〜(オ)の態様のうちの(イ)、即ち非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面から導入する。
次に、該非晶質珪素膜に対して第1の加熱処理を施し、該意図的かつ選択的に金属元素が導入された領域から膜に平行な方向に結晶成長を行わせる。その後、レーザー光又は強光の照射を行って該結晶成長した領域中に存在する当該金属元素を拡散させる。次いで、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該結晶成長した領域に存在する当該金属元素を、当該第2の加熱処理で形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングする。さらに、ここで形成された熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した領域の表面上に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
上記(18)〜(20)の発明においては、第2の加熱処理温度は600℃を超えて750℃以下の温度で行われることが好ましく、また再度の熱酸化膜を利用してゲイト絶縁膜が形成することができる。またこれら発明においては第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高いことが好ましい。さらに、これら発明において、熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気でのアニールを行うことができる。また非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であるのが好ましい。
(21)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入して第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得る。次いで該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成し、該活性層に対してレーザー光又は強光の照射を行う。その後、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該活性層中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。次いでここで形成された熱酸化膜を除去し、該活性層の表面に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。
(22)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。この非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入した後、第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで、該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成し、該活性層に対してレーザー光又は強光の照射を行う。その後、酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って該活性層中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。ここで形成された熱酸化膜を除去し、該活性層の表面に再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。この時、該活性層における、その側面が下地面とのなす角を、好ましく20°〜50°を有する傾斜した形状となるように構成する。
上記(21)〜(22)の発明においては、再度の熱酸化膜を利用してゲイト絶縁膜を構成することができる。また第2の処理温度は600℃を超えて750℃以下の温度で行うのが好ましく、また第1の加熱処理温度よりも第2の加熱処理温度の方が高いことが好ましい。さらに、これらの発明においては、熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気でのアニールを行うことが好ましく、また非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であることが好ましい。
前記(23)〜(25)の発明の主な態様については以下のとおりである。(23)の発明においては、まず絶縁表面を有する基板上に非晶質珪素膜を成膜し、該非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入する。次いで温度750℃〜1100℃の第1の加熱処理により該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得た後、該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成する。
その後、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行って該活性層中に存在する当該金属元素を除去又は減少させる。ここで形成された熱酸化膜を除去し、該熱酸化膜を除去した後に、再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。この時、好ましくは、該第2の加熱処理の温度を該第1の加熱処理の温度よりも高い条件で実施する。
(24)の発明においては、まず絶縁表面を有する基板上に非晶質珪素膜を成膜した後、該非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的に導入する。次いで、温度750℃〜1100℃の第1の加熱処理により、該非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜を得る。その後、該結晶性珪素膜をパターニングして半導体装置の活性層を形成した後、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該活性層中に存在する当該金属元素を、当該第2の加熱処理で形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングさせる。次いで該工程で形成された熱酸化膜を除去した後、再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。この時、好ましくは、該第2の加熱処理の温度を、該第1の加熱処理の温度よりも高い条件とする。
(25)の発明においては、まず絶縁表面を有する基板上に非晶質珪素膜を成膜し、該非晶質珪素膜に珪素の結晶化を助長する金属元素を意図的且つ選択的に導入する。この金属元素を選択的に導入する態様としては、該非晶質珪素膜中で珪素を膜面に平行に結晶化させ得る態様であれば、(a)非晶質珪素膜の一端部に導入する、(b)非晶質珪素膜の一端部に間隔を置いて導入する、(c)非晶質珪素膜の全面に間隔を置いて点状に導入する等、特に限定はないが、好ましくは前記(ア)〜(オ)の態様のうちの(イ)、即ち非晶質珪素膜の膜面における適宜箇所のスリット状の面から導入する。
次いで、温度750℃〜1100℃の第1の加熱処理により、該非晶質珪素膜の当該金属元素が意図的且つ選択的に導入した領域から膜に平行な方向に結晶成長を行わせる。次に、パターニングを行って該膜に平行な方向に結晶成長した領域を用いて半導体装置の活性層を形成する。その後、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中で第2の加熱処理を行い、該活性層中に存在する当該金属元素を、当該第2の加熱処理で形成される熱酸化膜中に移行ないしはゲッタリングさせる。さらに、該熱酸化膜を除去した後、再度の熱酸化により熱酸化膜を形成する。この時、好ましくは、該第2の加熱処理の温度を該第1の加熱処理の温度よりも高い条件とする。
以上、(23)〜(25)の発明においては、非晶質珪素膜を形成する基板として好ましくは石英基板が用いられ、また再度の熱酸化膜を利用してゲイト絶縁膜が形成される。さらに、これら(23)〜(25)の発明においては、熱酸化膜の除去後に酸素と水素とを含むプラズマ雰囲気においてアニールを行うことができ、また非晶質珪素膜中に含まれる酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3の範囲であることが好ましい。
前記(26)〜(29)の発明の主な態様については以下のとおりである。(26)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。該非晶質珪素膜の表面に珪素の結晶化を助長する金属元素を接して保持させた後、第1の加熱処理を行って該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで、酸素と水素とフッ素とを含む雰囲気中において、温度500℃〜700℃での第2の加熱処理を行って該結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成した後、該熱酸化膜を除去する。
(27)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。該非晶質珪素膜の表面に珪素の結晶化を助長する金属元素を接して保持させた後、第1の加熱処理を行って該非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜を得る。次いで、酸素と水素とフッ素と塩素とを含む雰囲気中において温度500℃〜700℃での第2の加熱処理を行って該結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を形成した後、該熱酸化膜を除去する。
(28)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成する。該非晶質珪素膜の表面に珪素の結晶化を助長する金属元素を接して保持させた後、加熱処理を行って該非晶質珪素膜を結晶化させ結晶性珪素膜を得る。次いで、フッ素及び/又は塩素を含む雰囲気中において、ウエット酸化膜を前記結晶性珪素膜の表面に形成した後、該酸化膜を除去する。
以上、(26)〜(28)の発明においては、酸化膜中における当該金属元素の濃度は、結晶性珪素膜中における当該金属元素の濃度よりも高いことが好ましい。また、第2の加熱処理を行う雰囲気中には、水素が1容量%以上、爆発限界以下の濃度で含まれていることが好ましい。さらに、第1の加熱処理を還元雰囲気で行うことが好ましく、また第1の加熱処理の後に結晶性珪素膜に対してレーザー光の照射を行うことができる。
(29)の発明は、結晶性を有する珪素膜を有する半導体装置であって、該珪素膜には珪素の結晶化を助長する金属元素が1×1016cm-3〜5×1018cm-3の濃度で含まれ、フッ素原子が1×1015cm-3〜1×1020cm-3の濃度で含まれ、水素原子が1×1017cm-3〜1×1021cm-3の濃度で含まれていることを特徴とする半導体装置である。この半導体装置は上記(26)〜(28)の作製方法により作製することができる。また、半導体装置における珪素膜は、好ましくは絶縁膜上に形成され、該絶縁膜と該珪素膜との界面近傍においてフッ素原子が高い濃度分布で存在していることが好ましい。
前記(30)〜(33)の発明の主な態様については以下のとおりである。(30)の発明においては、まず非晶質珪素膜を形成し、この非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成する。次いで、この結晶性珪素膜をフッ素化合物気体が添加された酸化性雰囲気中で加熱して、結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を成長させた後、結晶性珪素膜表面の熱酸化膜を除去する。その後、結晶性珪素膜の表面に絶縁膜を堆積することにより半導体装置を作製する。
(31)の発明においては、非晶質珪素膜を形成し、これにレーザー光を照射して結晶化して結晶性珪素膜を形成する。次いで、この結晶性珪素膜をフッ素化合物気体が添加された酸化性雰囲気中で加熱して、結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を成長させた後、結晶性珪素膜表面の熱酸化膜を除去する。その後、結晶性珪素膜の表面に絶縁膜を堆積することにより半導体装置を作製する。
(32)の発明は、絶縁表面を有する基板上に薄膜トランジスタを作製する方法である。まず非晶質珪素膜を形成し、該非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成する。その後、フッ素化合物気体が添加された酸化性雰囲気中で加熱して、該結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を成長させた後、該結晶性珪素膜表面の熱酸化膜を除去する。
次いで、該結晶性珪素膜を整形して薄膜トランジスタの活性層を形成した後、該活性層の表面に絶縁膜を堆積して、少なくともチャネル領域の表面にゲイト絶縁膜を形成する。さらに、該ゲイト絶縁膜の表面にゲイト電極を形成し、該ゲイト電極をマスクにして該活性層に導電型を付与する不純物イオンを注入し、ソース、ドレインを自己整合的に形成することにより半導体装置を作製する。
(33)の発明は、絶縁表面を有する基板上に薄膜トランジスタを作製する方法であって、まず非晶質珪素膜を形成し、非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成する。次いで、結晶性珪素膜にレーザー光を照射した後、フッ素化合物気体が添加された酸化性雰囲気中で加熱して、結晶性珪素膜の表面に熱酸化膜を成長させた後、結晶性珪素膜表面の熱酸化膜を除去する。
次に、上記結晶性珪素膜を整形して薄膜トランジスタの活性層を形成し、該活性層の表面に絶縁膜を堆積して少なくともチャネル領域の表面にゲイト絶縁膜を形成し、また該ゲイト絶縁膜の表面にゲイト電極を形成する。さらに、該ゲイト電極をマスクにして該活性層に導電型を付与する不純物イオンを注入して、ソース、ドレインを自己整合的に形成することにより半導体装置を作製する。
以上(30)〜(33)の発明においては、該熱酸化膜の膜厚は好ましくは200〜500オングストロームであり、また該非晶質珪素膜を形成する工程の後に非晶質珪素膜に金属元素を1×1016〜5×1019原子(atoms)/cm3 の濃度で添加するのが好ましい。また、結晶性珪素膜の形成に際して好ましくは金属元素を使用するが、金属元素としては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Cu、Auから選ばれた少なくとも1種類以上の元素を用いることができる。そしてこの点は、前述発明の場合についても同じである。
以下、実施例を基に本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは勿論である。まず、実施例1〜実施例3として、当該金属元素を使用し、当該金属元素の作用によって結晶化させた結晶性珪素膜中の当該金属元素の除去又は減少効果やハロゲン濃度を示す実施例を示し、続いて上記(1)〜(33)の発明に対応する実施例を順次記載している。
《実施例1》
図16は、非晶質珪素膜を当該金属元素としてニッケルを利用して結晶化した後、熱酸化膜を形成した時点で、膜断面方向におけるニッケル元素の濃度分布を計測した結果である。この計測はSIMS(2次イオン分析方法)によって行った。この計測値を得た試料の作製工程は、その概略、以下のとおりである。
石英基板上に下地膜として酸化珪素膜を4000オングストロームの厚さに成膜した後、減圧熱CVD法により非晶質珪素膜を500オングストロームの厚さに成膜した。次いで、この非晶質珪素膜に対してニッケル酢酸塩の水溶液を用いてニッケル元素を導入した。さらに温度650℃、4時間の加熱処理により結晶化させ、結晶性珪素膜を得た。その後、温度950℃の酸素雰囲気中において加熱処理を行い、700オングストローム厚の熱酸化膜を形成した。
図16から明らかなとおり、ニッケル元素は、結晶性珪素膜(PolyーSi膜)から酸化珪素膜(熱酸化膜)へ移行して、熱酸化膜に含まれている。また、ニッケル元素は、結晶性珪素膜中の方が熱酸化膜中より相対的に多いが、これは熱酸化膜中にSiO2 としてOが大量に取り込まれた結果と解される。なお、熱酸化膜の表面においてニッケル元素の濃度が高くなっているのは、表面の凹凸や吸着物等による表面状態の影響を受けた計測誤差と解されるものであるため、有意なものではない。また同様な理由で界面付近のデータについても多少の誤差が含まれている。
《実施例2》
次に、熱酸化膜の形成方法として、温度950℃、3容量%のHClを含んだ酸素雰囲気中において加熱処理を行い、その他の工程は実施例1の工程と同様にして、500オングストローム厚の熱酸化膜を形成した。図17は、この場合のサンプルについての測定データである。図17から明らかなように、結晶性珪素膜中におけるニッケル濃度はさらに低下し、代わりに熱酸化膜中におけるニッケル濃度が相対的に増加している。これは形成した熱酸化膜中にニッケル元素がさらに吸い出された(即ち、ゲッタリングされた)ことを意味している。
図16と図17の違いは、酸化膜の形成の際に雰囲気中にHClを含有させたか否かの点のみである。従って、上記のゲッタリングの効果は、酸素のほか、HClが大幅に関与しているものと結論することができる。また、HClの成分であるH(水素)によるゲッタリング効果は確認されていないから、より正確にはCl(塩素)の作用によって、図16と図17の違いに示されるようなゲッタリング効果が得られることが分かる。
このニッケル元素をゲッタリングした熱酸化膜を除去することにより、ニッケル濃度を低くした結晶性珪素膜を得ることができる。さらに、図18は、図17のデータが得られた試料と同じ条件で作製した試料におけるCl元素の濃度分布を示すグラフである。図18から明らかなとおり、Cl元素は結晶性珪素膜と熱酸化膜の界面近傍に集中して存在している。
《実施例3》
本実施例3は、実施例1〜実施例2に記載したデータが得られた結晶性珪素膜の出発膜である非晶質珪素膜に代えて、プラズマCVD法で成膜した非晶質珪素膜を利用した場合の例であり、他の作製条件は実施例1の場合と同じくしたものである。プラズマCVD法で成膜された非晶質珪素膜は、減圧熱CVD法で成膜された非晶質珪素膜とはその膜質が異なるので、結晶性珪素膜とした後のゲッタリングの作用も異なるものとなる。
まず、図19に示すのは、熱酸化膜を温度950℃の酸素雰囲気中で形成した場合のサンプルの測定データである。図19から明らかなように、ニッケル元素は熱酸化膜へも移行しているが、結晶性珪素膜中には比較的高濃度にニッケル元素が存在している。なお、ニッケルの導入条件は同じであるのに、図16と比較すると結晶性珪素膜中におけるニッケル濃度が高い。これは、プラズマCVD法で成膜された非晶質珪素膜の膜質が緻密でなく、欠陥が多いために、ニッケル元素がより膜中に拡散し易いためであると推認される。
上記事実を別の観点から見ると、次のような別の見方をすることができる。即ち、ニッケル酢酸水溶液を塗布する前に、濡れ性を改善するために、非晶質珪素膜の表面にUV(紫外線)酸化法によって極めて薄い酸化膜を形成したが、この酸化膜の膜厚が下地の非晶質珪素膜の膜質の違いの影響を受けて異なっている可能性がある。この場合、その膜厚の違いによって、珪素膜中に拡散するニッケル元素の量が異なるので、その影響が図16と図19の違いに現れたものと見ることもできる。
さらに、図20は、熱酸化膜の形成に際し、その雰囲気として酸素に対してHClを1容量%含有させた場合のデータである。図20から明らかように、結晶性珪素膜中におけるニッケル濃度は、図19に示すデータに比較してさらに低下している。これに対応して熱酸化膜中のニッケル濃度が高くなっている。
この事実は、ニッケル元素が、熱酸化膜中に塩素の作用によってゲッタリングされたことを意味している。このように、塩素を含んだ酸化性雰囲気中において熱酸化膜を形成することにより、その熱酸化膜中に結晶性珪素膜中に存在するニッケル元素をより効果的にゲッタリングさせることができる。そして、ニッケル元素をゲッタリングした該熱酸化膜を除去することにより、ニッケル濃度を低くした結晶性珪素膜を得ることができる。
また、図21に示すグラフは、図20に示したデータが得られた試料と同じ作製条件によって得た試料における塩素濃度を調べた結果である。図21から明らかなとおり、塩素は、下地膜と結晶性珪素膜との界面近傍及び結晶性珪素膜と熱酸化膜の界面近傍に高濃度に存在している。図21は図18に対応するものであるが、塩素濃度の分布が図21のように形成されるのは、出発膜である非晶質珪素膜がプラズマCVD法によるものであり、その膜質が緻密でないことによるものと推認される。
さらに、図20から明らかなとおり、この場合には、下地膜と結晶性珪素膜との界面近傍においてもニッケル濃度が高くなっている傾向が認められる。これは下地膜との界面近傍(または下地膜中)に存在する塩素の作用によって、下地膜に向かってニッケルのゲッタリングが行われた結果であると理解される。そしてこのような現象は、下地膜にハロゲン元素を添加した場合にも得られるものと考えられる。
以上、実施例1〜実施例3で実証された効果については、本発明に係る金属元素の熱酸化膜への移行、ゲッタリング条件等の如何により、さらに有効に行うことができるものである。以下、前記(1)〜(33)の発明に対応する各実施例を、変形態様等を適宜含めて、記載している。
《実施例4》
本実施例4は、ガラス基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得た実施例である。まずニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得た。次いで、熱酸化法によってこの結晶性珪素膜上に形成した。この時、結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素が熱酸化膜中にゲッタリングされている。次いで、そのゲッタリングの結果、高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、ガラス基板上に高い結晶性を有するとともに、ニッケル元素の濃度の低い結晶性珪素膜が得られた。
図22は、本実施例4における作製工程を示す図である。まず、コーニング1737ガラス基板(歪点:667℃)1上に下地膜として酸化窒化珪素膜2を3000オングストロームの厚さに成膜した。酸化窒化珪素膜の成膜は、例えば原料ガスとしてシランとN2O ガスと酸素とを用いたプラズマCVD法、或いはTEOSガスとN2O ガスとを用いたプラズマCVD法等を用いて形成されるが、ここでは前者を使用した。
この酸化窒化珪素膜は、後の工程においてガラス基板からの不純物(ガラス基板中には半導体の作製レベルで見て、多量の不純物が含まれている)の拡散を抑制する機能を有している。また、下地膜としては、酸化窒化珪素膜に代えて、酸化珪素膜を用いることもできる。なお、該不純物の拡散を抑制する機能を最大限に得るためには窒化珪素膜が最適であるが、窒化珪素膜は応力の関係でガラス基板からはがれてしまうので、ガラス基板の場合は実用的ではない。
また、この下地膜2は、可能な限りなるべく高い硬度とすることが重要なポイントとなる。これは、最終的に得られた薄膜トランジスタの耐久試験において、下地膜の硬さが硬い方が(即ち、そのエッチングレートが小さい方が)信頼性が高いことから結論される。その理由については、詳細には不明であるが、恐らく薄膜トランジスタの作製工程中におけるガラス基板からの不純物の遮蔽効果によるものと推認される。
また、この下地膜2中に塩素で代表されるハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素をハロゲン元素によってゲッタリングすることができる。また下地膜を成膜した後に水素プラズマ処理を加えることは有効であり、また酸素と水素とを混合した雰囲気でプラズマ処理を行うことは有効である。これらの処理は下地膜の表面に吸着している炭素成分を除去し、後に形成される半導体膜との界面特性を向上させることに効果がある。
次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜3を500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法で成膜した。ここで減圧熱CVD法を用いたのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからであり、具体的には膜質が緻密であるからである。また、上記減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法等を用いることができる。ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。これは、後の工程である珪素の結晶化を助長する金属元素のゲッタリング工程において、酸素が重要な役割を果たすからである。
ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合は、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。また、他の不純物の濃度、例えば、窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。具体的には、2×1019cm-3以下の濃度とすることが必要である。ここでの非晶質珪素膜3の膜厚は1600オングストロームとした。この非晶質膜の膜厚は、最終的に必要とするされる膜厚より厚くすることが必要である。
この非晶質珪素膜3を加熱のみよって結晶化させる場合は、この出発膜(非晶質珪素膜)3の膜厚を800オングストローム〜5000μm、好ましく1500〜3000オングストロームとする。この膜厚範囲より厚い場合は、成膜時間が長くなるので生産コストの点から不経済となる。またこの膜厚範囲よりも薄い場合は、結晶化が不均一になったり、工程の再現性が悪くなる。こうして図20(A)に示す状態が得られた。次に、非晶質珪素膜3を結晶化させるためにニッケル元素を導入する。ここでは、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜3の表面に塗布することによってニッケル元素を導入した。
ニッケル元素の導入方法としては、上記のようにニッケル塩の溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらにプラズマ処理法や吸着法を用いることができる。これらのうち溶液を用いる方法は簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点でも有用である。ニッケル塩としては各種ニッケル塩を用いることができ、溶媒としては水のほか、アルコール類その他の有機溶媒、或いは水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。
本実施例では、上記のようにニッケル酢酸塩溶液を塗布することにより、図22(B)に示すように水膜4を形成した。この状態において、図示しないスピンコーターを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。このようにしてニッケル元素が非晶質珪素膜3の表面に接して保持された状態とする。なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩溶液を用いる代わりに炭素を含まないニッケル塩を含む溶液、例えば硫酸ニッケル溶液を用いることが好ましい。この理由は、酢酸ニッケル塩溶液は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中に残留することが懸念されるからである。ニッケル元素の導入量の調整は、溶液中におけるニッケル塩の濃度を調整することにより行うことができる。
次いで、図22(C)に示す状態において、450℃〜650℃の温度での加熱処理を行い、非晶質珪素膜3を結晶化させ、結晶性珪素膜5を得た。この加熱処理は還元雰囲気中で行う。ここでは水素を3容量%含んだ窒素雰囲気中で温度620℃、4時間の加熱処理を行った。このようにして図22(C)に示すように結晶性珪素膜5を得た。この加熱処理による結晶化の工程において雰囲気を還元雰囲気とするのは、加熱処理工程中において酸化物が形成されてしまうことを防止するためであり、より具体的には、ニッケルと酸素とが反応してNiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。
ところで、酸素は、後のゲッタリング工程において、ニッケルと結合してニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。しかし、上記結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化の工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要である。この結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度はppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。
また、上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素やアルゴン等の不活性ガス、それらの混合ガス等を利用することができるが、ここでは窒素を用いた。また上記の結晶化のための加熱処理温度の下限は、その効果及び再現性から見て、450℃以上とすることが好ましい。一方、その上限については使用するガラス基板の歪点以下とすることが好ましく、本実施例では歪点が667℃のコーニング1737ガラス基板を用いているので、多少の余裕をみてその上限は650℃程度とする。
この点、基板として石英基板を用いれば、さらに900℃程度、或いはそれ以上の温度まで加熱温度を高くすることができる。この場合には、より高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得ることができ、しかも、より短時間で結晶性珪素膜を得ることができる。結晶性珪素膜5を得た後、再度の加熱処理を行った。この加熱処理はニッケル元素を含有した熱酸化膜を形成するために行われる。ここではこの加熱処理を酸素100%の雰囲気中で行った。
図22(D)はこの加熱処理工程を説明する図である。この工程は、結晶化のために初期の段階で意図的に混入させたニッケル元素(その他珪素の結晶化を助長する金属元素)を結晶性珪素膜5中から除去するための工程である。この加熱処理は、前述の結晶化を行うために行った加熱処理よりも高い温度で行う。これはニッケル元素のゲッタリングを効果的に行うために重要な条件である。
この加熱処理は、上記の条件を満たした上で、550℃〜1050℃、好ましくは600℃〜980℃の温度で行う。これは600℃以下ではその効果が得られず、逆に1050℃を越えると、石英で形成された治具が歪んでしまったり、装置に負担がかかるからである(この意味では980℃以下とすることが好ましい)。また、この加熱処理温度の上限は、使用するガラス基板の歪点によって制限される。使用するガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を行うと、基板が変形するので注意が必要である。
本実施例では、歪点が667℃のコーニング1737ガラス基板を利用しているので、加熱温度を640℃とした。このような条件で加熱処理を行うと、図22(D)に示されるように熱酸化膜6が形成される。ここでは12時間の加熱処理を行い、200オングストロームの厚さの熱酸化膜6を成膜した。熱酸化膜6が形成されることで、結晶性珪素膜3の膜厚は約1500オングストローム程度となる。この加熱処理においては加熱温度が600℃〜750℃の場合は処理時間(加熱時間)を10時間〜48時間程度、代表的には24時間とする。なお、加熱温度が750℃〜900℃の場合は処理時間を5時間〜24時間程度、代表的には12時間とする。
また、加熱温度が900℃〜1050℃の範囲の場合は処理時間を1時間〜12時間程度、代表的には6時間とする。勿論これらの処理時間は、得ようとする酸化膜の膜厚によって適宜設定される。この工程においては、形成される熱酸化膜6中にニッケル元素がゲッタリングされる。このゲッタリングにおいては、酸素雰囲気のほか、結晶性珪素膜中に存在する酸素が重要な役割を果たす。即ち、酸素とニッケルが結合することによって酸化ニッケルが形成され、この形でニッケル元素が熱酸化膜6中にゲッタリングされる。
前述したように、酸素は、その濃度が多過ぎると、図22(C)に示す結晶化工程において、非晶質珪素膜3の結晶化を阻害する要素となる。しかし、上述のようにその存在はニッケルのゲッタリング過程においては重要な役割を果たす。従って、出発膜となる非晶質珪素膜中に存在する酸素濃度の制御は重要なものとなる。この工程を経ることにより、結晶性珪素膜5中におけるニッケル元素を除去し、或いはその濃度を初期濃度よりも低下させることができる。
また、上記の工程においては、形成される酸化膜中にニッケル元素がゲッタリングされるので、酸化膜中におけるニッケル濃度が他の領域に比較して当然高くなる。また、珪素膜5と酸化膜6の界面における珪素膜5側の近傍においてニッケル元素が高くなる傾向が観察された。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や欠陥の存在、さらには有機物が要因であると考えられる。
熱酸化膜6の形成が終了した後、当該ニッケルを高濃度に含んだ熱酸化膜6を除去した。この熱酸化膜6の除去は、例えばバッファーフッ酸(その他フッ酸系のエッチャント)を用いたウェットエッチングやドライエッチングを用いて行うが、ここでは前者を適用した。こうして、図22(E)に示すように、含有ニッケル濃度が低減した結晶性珪素膜7が得られた。得られた結晶性珪素膜7の表面近傍には、比較的ニッケル元素が高濃度に含まれているので、上記の熱酸化膜6のエッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜7の表面を少しオーバーエッチングすることが有効である。
《実施例5》
本実施例5は、実施例4に示す構成において、図22(C)に示す加熱処理により結晶性珪素膜を得た後、さらにレーザー光の照射を行い、その結晶性を助長させた場合の例を示す。図22(C)に示す加熱処理の温度が低かったり、処理時間が短い場合、即ち、作製工程上の理由で、加熱温度が制限されたり、加熱時間が制限されてしまう場合等に、必要とする結晶性が得られないことがある。このような場合には、レーザー光の照射によるアニールを施すことにより、必要とする高い結晶性を得ることができる。
この場合のレーザー光の照射は、非晶質珪素膜を直接結晶化させる場合に比較して、許容されるレーザー照射条件の幅が広く、また、その再現性も高いものとすることができる。レーザー光の照射は図22(C)に示す工程の後に行えばよい。また図22(A)において成膜される出発膜となる非晶質珪素膜3の膜厚を200オングストローム〜2000オングストロームとすることが重要である。これは非晶質珪素膜の膜厚が薄い方がレーーザー光の照射によるアニール効果が高いものとなるからである。
また、使用するレーザー光としては特に限定はないが、好ましくは紫外領域のレーザー光、例えば紫外領域のエキシマレーザーを使用する。具体的にはKrFエキシマレーザー(波長248nm)やXeClエキシマレーザー(波長308nm)等を用いることができるが、本実施例ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)を用いた。またレーザー光ではなく、紫外線ランプや赤外線ランプを用いた強光の照射を行ってアニールを行うこともできる。
《実施例6》
本実施例6は、実施例5におけるレーザー光に代えて赤外線ランプを利用した場合の例である。赤外線を用いた場合、ガラス基板をあまり加熱せずに珪素膜を選択的に加熱することができる。従って、ガラス基板に対して熱的ダメージを与えずに効果的な加熱処理を行うことができた。
《実施例7》
本実施例7は、実施例4に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。銅元素の場合、Cuを導入するための溶液としては、例えば酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2 O)等の溶液を用いればよいが、本実施例では酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕の水溶液を用いた。
《実施例8》
本実施例8は、実施例4に示す構成において、基板1として石英基板を用いた例である。本実施例においては、出発膜となる非晶質珪素膜3の膜厚を2000オングストロームとした。また、図22(C)で示す加熱処理による熱酸化膜の形成時における加熱温度を950℃とした。この場合、酸化膜の形成が速く、ゲッタリングの効果が充分に得られないので、雰囲気中の酸素濃度を低くする。具体的には、窒素雰囲気中における酸素濃度を10容量%とした。
本実施例での上記処理時間は300分とした。このような条件とすると、約500オングストロームの膜厚を有する熱酸化膜を得ることができる。また、同時にゲッタリングに必要な時間を稼ぐことができる。なお、酸素100%の雰囲気中で950℃の加熱処理を行った場合、約30分で500オングストローム以上の厚さを有する熱酸化膜が得られてしまう。
この場合には、ニッケルのゲッタリングを充分に行うことができないので、結晶性珪素膜7内には、比較的高濃度にニッケル元素が残留してしまう。従って本実施例に示すように酸素濃度を調整し、充分なゲッタリング効果が得れる時間を稼いで、熱酸化膜を形成することが好ましい。この方法のように、熱酸化膜の厚さや形成温度を変化させた場合に、雰囲気の酸素濃度を調整することにより、金属元素のゲッタリングに必要とされる時間を設定することができる。
《実施例9》
本実施例9は、実施例4とは異なる形態の結晶成長を行わせる例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。図23は本実施例9の作製工程を示す図である。まずコーニング1737ガラス基板8上に下地膜9として、減圧熱CVD法により、酸化窒化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。該ガラス基板に代えて石英基板でもよいことは勿論である。
次に、結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜10を減圧熱CVD法によって2000オングストロームの厚さに成膜した。この非晶質珪素膜の厚さは、前述したように2000オングストローム以下とすることが好ましい。なお、減圧熱CVD法の代わりにプラズマCVD法等を用いてもよい。次いで、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号11で示されるマスクを形成した。このマスクは12で示される領域で開口が形成されている。この開口12が形成されている領域においては非晶質珪素膜10が露呈している。
開口12は、図面の奥行から手前方向への長手方向に細長い長方形を有している。この開口12の幅は20μm以上とするのが適当であり、またその長手方向の長さは任意に決めればよいが、ここではその幅を30μm、長さを5cmとした。そして実施例4で示したように、重量換算で10ppmのニッケル元素を含む酢酸ニッケル水溶液を塗布した後、図示しないスピナーを用いてスピンドライを行って余分な溶液を除去した。こうしてニッケル元素が、溶液として、図23(A)の点線13で示されるように、非晶質珪素膜10の露呈した表面に接して保持された状態が実現された。
次に、水素を3容量%含有した極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度640℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図23(B)の14で示されるような、基板に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長は、ニッケル元素が導入された開口12の領域から周囲に向かって進行する。この基板に平行な方向への結晶成長を本明細書中横成長又はラテラル成長と指称している。
本実施例9のような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する結晶性珪素膜15を得た。なお、開口12が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって、縦成長とよばれる垂直方向への結晶成長が進行する。次いで、ニッケル元素を選択的に導入するための酸化珪素膜であるマスク11を除去した。こうして図23(C)に示す状態を得た。この状態においては、珪素膜15中に縦成長領域、横成長領域、結晶成長が及ばなかった領域(非晶質状態の領域)が存在している。
この状態で、酸素雰囲気中において、温度640℃の加熱処理を12時間行った。この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ酸化膜16が形成され、同時に珪素膜15中のニッケル元素濃度を相対的に減少させることができる。ここでは、熱酸化膜16が200オングストロームの厚さに成膜された。この熱酸化膜中には、ゲッタリングされたニッケル元素が高濃度に含まれている。また、熱酸化膜16が成膜されることにより、結晶性珪素膜15は当初の2000オングストロームから1900オングストローム程度の膜厚となった。
次に、前記実施例4の場合と同様にしてニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜16を除去した。この状態の結晶性珪素膜においては、ニッケル元素が結晶性珪素膜の表面に向かって高濃度に存在するような濃度分布を有している。従って、熱酸化膜16を除去した後に、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングすることにより、ニッケル元素が高濃度に存在している領域を除去することが有用である。即ち、高濃度にニッケル元素が存在している結晶性珪素膜の表面をエッチングすることにより、ニッケル元素濃度がより低減した結晶性珪素膜を得ることができる。
次に、パターニングを行うことにより、図23(E)のように、横成長領域からなるパターン17を形成した。ここで、パターン17には、縦成長領域と非晶質領域、さらに横成長の先端領域が存在しないようにすることが重要である。これは、縦成長と横成長の先端領域においては、ニッケル元素の濃度が相対的に高く、また結晶成長が及ばなかった非晶質領域はその電気的な特性が劣るからである。こうして、パターン17中に残留するニッケル元素の濃度を、実施例4で示した場合に比較してさらに低いものとすることができる。
これは、横成長領域中に含まれる金属元素の濃度がそもそも低いことにも起因している。具体的には、横成長領域からなるパターン17中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。また、横成長領域を利用して薄膜トランジスタを形成した場合、実施例4に示したような縦成長(実施例4の場合は全面が縦成長する)領域を利用した場合に比較して、より高移動度を有する半導体装置を得ることができる。
なお、図23(E)に示すパターンを形成した後に、さらにエッチング処理を行い、パターン表面に存在しているニッケル元素を除去することは有用である。また、パターン17を形成した後に、ゲッタリングのために熱酸化膜を形成することは有効ではない。この場合には、熱酸化膜によるゲッタリング効果は確かに得られるが、熱酸化膜の除去時に下地膜のエッチングも進行するので、島状に形成された結晶性珪素膜の下側までえぐられるようにエッチングが進行してしまうからである。
このような状態は、後に配線の断線や素子の動作不良の要因となる。本実施例では、パターン17を形成した後に、熱酸化膜18を形成した。この熱酸化膜18は、薄膜トランジスタを構成するのであれば、後にゲイト絶縁膜の一部となる部分であり、上記ゲッタリング効果を伴うが、除去するためのものではない。
《実施例10》
本実施例10は、本発明に係る結晶性珪素膜を利用して、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製する例である。図24は本実施例10の作製工程を示した図である。
まず、実施例4或いは実施例9に示した工程によりガラス基板上に結晶性珪素膜を形成するが、本実施例では実施例4の工程を用いた。ここで得られた結晶性珪素膜をパターニングすることにより、図24(A)に示す状態を得た。図24(A)において、符号20はガラス基板、21は下地膜、22は結晶性珪素膜で構成された活性層である。図24(A)に示す状態を得た後、酸素と水素を混合した減圧雰囲気でのプラズマ処理を施した。このプラズマは高周波放電によって形成した。
上記プラズマ処理によって、活性層22の露呈した表面に存在している有機物が除去される。正確には、酸素プラズマによって活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマにより、そこで酸化した有機物が還元、気化される。こうして活性層22の露呈した表面に存在する有機物が除去される。この有機物の除去は、活性層22の表面における固定電荷の存在を抑制する上で非常に効果がある。有機物の存在に起因する固定電荷は、デバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるものであり、その存在を少なくすることは非常に有用である。
上記有機物の除去後、温度640℃の酸素雰囲気中において熱酸化を行って、100オングストロームの熱酸化膜19を形成した。この熱酸化膜は、半導体層との界面特性が高く、後にゲイト絶縁膜の一部を構成することとなる。こうして図24(A)に示す状態を得た。その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜23を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法としては、酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法、或いはTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法等が使用し得るが、ここでは前者を用いた。この酸化窒化珪素膜23は熱酸化膜19と合わせてゲイト絶縁膜として機能する。
また、酸化窒化珪素膜23中にハロゲン元素を含有させることは有効である。即ち、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することで、活性層22中に存在するニッケル元素(その他珪素の結晶化を助長する金属元素の場合も同じ)の影響により、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを防ぐことができる。酸化窒化珪素膜とすることは、その緻密な膜質から、ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入し難くなるという有意性がある。ゲイト絶縁膜中に金属元素が侵入すると、絶縁膜としての機能が低下し、薄膜トランシスタの特性の不安定性やバラツキの原因となる。なお、ゲイト絶縁膜としては、通常利用されている酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜23を成膜した後、後にゲイト電極として機能するアルミニウム膜(図示せず)をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させたのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここで、ヒロックやウィスカーとは、加熱が行われることによって、アルミニウムの異常成長が発生し、針状或いは刺状の突起部が形成されてしまうことを意味している。
アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とする。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。
次に、レジストマスク25を形成し、アルミニウム膜を24で示されるパターンにパターニングした。こうして図24(B)に示す状態を得た。ここで再度の陽極酸化を行う。ここでは3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン26を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号27で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク25が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜27が形成される。
この陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここではその膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化時間によって制御することができる。次いで、レジストマスク25を除去し、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含むエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び行った。すると、多孔質状の陽極酸化膜27中に電解溶液が進入する関係から、符号28で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成された。
この緻密な陽極酸化膜28の膜厚は1000オングストロームとした。この膜厚の制御は印加電圧の調整によって行った。ここで露呈した酸化窒化珪素膜23と熱酸化膜19をエッチングした。このエッチングにはドライエッチングを利用した。そして酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜27を除去した。こうして図24(D)に示す状態を得た。
図24(D)に示す状態を得た後、不純物イオンの注入を行った。ここでは、Nチャネル型の薄膜トランジスタを作製するためにP(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法によって行った。この工程においてはヘビードープがされる領域(30と34)とライトドープがされる領域(31と33)が形成される。これは残存した酸化珪素膜29の一部が半透過なマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。
次いで、レーザー光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。なおレーザー光に代えて強光の照射で行うこともできる。こうしてソース領域30、チャネル形成領域32、ドレイン領域34、低濃度不純物領域31と33が自己整合的に形成された。ここで、図24(D)中符号33で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。なお、緻密な陽極酸化膜28の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚によってチャネル形成領域32の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。
本実施例においても、オフセットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいので、その存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になることから、図24(D)中には記載していない。次に、層間絶縁膜35として酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成する。ここでは酸化珪素膜を用いた。なお、層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料でなる層を形成して構成してもよい。次いでコンタクトホールの形成を行い、ソース電極36とドレイン電極37の形成を行った。こうして図24(E)に示す薄膜トランジスタを完成した。
《実施例11》
本実施例11は、実施例10に示す構成において、ゲイト絶縁膜23の形成方法に関する実施例である。基板として石英基板や耐熱性の高いガラス基板等を用いた場合には、ゲイト絶縁膜の形成方法として、熱酸化法を適用することができる。熱酸化法は、その膜質を緻密なものとすることができ、安定した特性を有する薄膜トランジスタを得る上で有用なものとなる。即ち、熱酸化法で成膜された酸化膜は、絶縁膜として緻密で内部に存在する可動電荷を少なくすることができるので、ゲイト絶縁膜として最適なものの一つである。
本実施例では、熱酸化膜の形成方法としては、950℃の温度の酸化性雰囲気中において加熱処理を行った。この際、酸化性雰囲気中にHCl等を混合させることは有効である。このようにすることで、熱酸化膜の形成と同時に活性層中に存在する金属元素を固定化することができる。また、酸化性雰囲気中にN2O ガスを混合し、窒素成分を含有した熱酸化膜を形成することも有効である。ここでN2O ガスの混合比を最適化すれば、熱酸化法による酸化窒化珪素膜を得ることも可能である。なお、本実施例のような場合、特に熱酸化膜19を形成する必要はなく、本実施例では熱酸化膜19は形成しなかった。
《実施例12》
本実施例12は、実施例10〜11に示す工程とは異なる工程で薄膜トランジスタを作製した例である。図25は本実施例の作製工程を示す図である。まず、実施例4又は実施例5に示した工程によりガラス基板上に結晶性珪素膜を形成するが、ここでは実施例4の工程に従って形成した。次いで、それをパターニングすることにより、図25(A)に示す状態を得た。
その後、酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。図25(A)に示す状態において、39がガラス基板、40が下地膜、41が結晶性珪素膜で構成された活性層である。また、符号38はゲッタリングのための熱酸化膜を除去した後に再度形成された熱酸化膜である。図25(A)に示す状態を得た後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜42を1000オングストロームの厚さに成膜した。
成膜方法は、酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法、或いはTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法等を適用し得るが、ここではTEOSとN2O との混合ガスを用いた。酸化窒化珪素膜42は熱酸化膜38とともにゲイト絶縁膜を構成する。なお、酸化窒化珪素膜に代えて、酸化珪素膜を用いることもできる。ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜42を成膜した後、後にゲイト電極として機能する図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。
アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いて形成した。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とする。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧を調整することによって制御することができる。
次に、レジストマスク43を形成し、アルミニウム膜を44で示されるパターンにパターニングした。次いで、ここで再度の陽極酸化を行った。この陽極酸化には3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン44を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号45で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク43が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に該陽極酸化膜45が形成される。この陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は陽極酸化時間の調整によって制御することができる。
次いで、レジストマスク43を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜45中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、図25(C)中符号46で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。
ここで最初の不純物イオンの注入を行った。なおこの工程はレジストマスク43を除去してから、その時点で行ってもよい。この不純物イオンの注入により、ソース領域47とドレイン領域49が形成される。また48の領域には不純物イオンは注入されない。次に酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜45を除去した。こうして図25(D)に示す状態を得た。
図25(D)に示す状態を得た後、再度不純物イオンの注入を実施した。この不純物イオンは最初の不純物イオンの注入条件よりライトドーピングの条件で行う。この工程において、ライトドープされる領域(50と51)が形成され、そして図25(D)中、符号52で示される領域がチャネル形成領域となる。次いで紫外線ランプによる強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。なお、強光に代えてレーザー光を用いることもできる。こうしてソース領域47、チャネル形成領域52、ドレイン領域49、低濃度不純物領域50、51が自己整合的に形成される。
ここで、図25(D)中符号51で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。次に、層間絶縁膜53として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは窒化珪素膜を使用した。なお、層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。その後、コンタクトホールの形成を行い、ソース電極54とドレイン電極55の形成を行った。こうして図25(E)に示す薄膜トランジスタを完成した。
《実施例13》
本実施例13は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができ、また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。
図26は本実施例13の作製工程を示す図である。まず図26(A)に示すようにガラス基板57上に下地膜58として酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を成膜する。このうち好ましくは酸化窒化珪素膜を用いるが、ここでは酸化窒化珪素膜を使用した。次いで、図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法や減圧熱CVD法等によって成膜するが、ここでは減圧熱CVD法で成膜した。
さらに、実施例4に示したのと同様の方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した後、熱酸化膜の形成によるニッケル元素のゲッタリングを行った。次いで酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理を実施した後、得られた結晶性珪素膜をパターニングして活性層(59と60)を得た。さらにゲイト絶縁膜を構成する熱酸化膜56を成膜した。
こうして図26(A)に示す状態を得た後、酸化窒化珪素膜61を成膜した。なお、基板として石英を使用する場合には、前述の熱酸化法を用いて熱酸化膜のみでもってゲイト絶縁膜を構成することが望ましい。次いで、ゲイト電極を構成するための図示しないアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さに成膜した。アルミニウム膜以外の膜としては、陽極酸化が可能な金属、例えばタンタル等を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に極薄の緻密な陽極酸化膜を形成した。
次に、アルミニウム膜上に図示しないレジストマスクを配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った後、得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜(64と65)を形成した。この多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。さらに、再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を行い、緻密な陽極酸化膜(66と67)を形成した。ここで緻密な陽極酸化膜66と67の膜厚は800オングストロームとした。こうして図26(B)に示す状態を得た。
さらに、露呈した酸化珪素膜61と熱酸化膜56をドライエッチングによって除去し、図26(C)に示す状態を得た。その後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸を用いて、多孔質状の陽極酸化膜64と65を除去した。こうして図26(D)に示す状態を得た。ここで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(リン)イオンを、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンを注入した。
これらの不純物イオンの注入によって、高濃度のN型を有するソース領域70とドレイン領域73が自己整合的に形成された。また低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域71が同時に形成され、またチャネル形成領域72が同時に形成された。符号71で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜68が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜68を透過したPイオンがゲイト絶縁膜68によって一部遮蔽されるからである。
また、同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域77とドレイン領域74が自己整合的に形成され、同時に低濃度不純物領域76が同時に形成され、またチャネル形成領域75が同時に形成された。なお、緻密な陽極酸化膜66と67の膜厚が例えば2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。
本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜66と67の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。そして、レーザー光又は強光の照射を行い、不純物イオンが注入された領域のアニールを行うが、ここでは赤外線ランプにより照射した。次いで、図26(E)に示すように層間絶縁膜として窒化珪素膜78と酸化珪素膜79を成膜し、それぞれの膜厚を1000オングストロームとした。なお、この場合、酸化珪素膜79は成膜しなくてもよい。
ここで、窒化珪素膜によって薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることで、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。さらに樹脂材料からなる層間絶縁膜80をスピンコート法により形成したが、ここでは層間絶縁膜80の厚さを1μmとした。次いで、コンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極81とドレイン電極82を形成した。また同時に右側の薄膜トランジスタのソース電極83とドレイン電極82を形成した。ここでのドレイン電極82は共通に配置されたものとなる。こうして図26(F)に示す状態を得た。
以上のようにして、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路を構成することができる。本実施例に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られた。この構成は、可動イオンや水分が侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。さらには、多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例14》
本実施例14は、実施例4又は実施例5で得た結晶性珪素膜に対して、さらにレーザー光の照射を行うことにより、単結晶又は実質的に単結晶と見なせる領域を形成する構成に関する例である。
まず、前記実施例4に示したようにニッケル元素の作用を利用して結晶性珪素膜を得た。次いで、その膜に対してKrFエキシマレーザーを照射して、さらにその結晶性を助長させた。この際、450℃以上の温度での加熱処理を併用し、さらにレーザー光の照射条件を最適化することにより、単結晶又は実質的に単結晶と見なせる領域を形成した。
このような方法で結晶化を大きく助長させた膜は、ESRで計測した電子スピン密度が3×1017個cm-3以下であり、またSIMSで計測した最低値として当該ニッケル元素濃度を3×1017cm-3以下で有し、さらに単結晶と見なすことができる領域を有するものとなった。また、この領域には実質的に結晶粒界が存在しておらず、単結晶珪素ウエハーに匹敵する高い電気的な特性を得ることができる。
また、この単結晶と見なせる領域は、水素を5原子%以下〜1×1015cm-3程 度含んでいる。この値は、SIMS(2次イオン分析方法)による計測より明 らかにされた。このような単結晶又は単結晶と見なせる領域を利用して薄膜トランジスタを作製することにより、単結晶ウエハーを利用して作製したMOS型トランジスタに匹敵する半導体装置を得ることができる。
《実施例15》
本実施例15は、前記実施例4に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例を示す。この場合、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。本実施例では、下地膜の形成後にニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素(当該金属元素)が接して保持された状態とした。なお、このニッケル元素の導入方法としては、溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらには吸着法を用いることができる。
《実施例16》
本実施例16は、ガラス基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得た実施例である。本実施例では、まずニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜を形成した。次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化膜を、熱酸化法によって、その結晶性珪素膜上に形成した。この時、得られた結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素が酸素及びハロゲン元素の作用により熱酸化膜中にゲッタリングされる。
次いで、上記ゲッタリングの結果、高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、ガラス基板上に高い結晶性を有していながら、かつニッケル元素の濃度の低い結晶性珪素膜を得ることができる。図27は本実施例における作製工程を示す図である。
まず、コーニング1737ガラス基板(歪点667℃)84上に下地膜として酸化窒化珪素膜85を3000オングストロームの厚さに成膜した。酸化窒化珪素膜の成膜は、原料ガスとしてシランとN2O ガスと酸素とを用いたプラズマCVD法を用いて行った。なお、この成膜は、例えばTEOSガスとN2O ガスとを用いたプラズマCVD法を用いて行ってもよい。
酸化窒化珪素膜は、後の工程においてガラス基板からの不純物(ガラス基板中には半導体の作製レベルで見て、多量の不純物が含まれている)の拡散を抑制する機能を有している。なお、この不純物の拡散を抑制する機能を最大限に得るためには、窒化珪素膜が最適であるが、窒化珪素膜は応力の関係でガラス基板からはがれてしまうので、本実施例のような場合には実用的ではない。また下地膜としては酸化珪素膜を用いることもできる。
ここで、上記下地膜85は可能な限り、なるべく高い硬度とすることが重要なポイントとなる。これは、最終的に得られた薄膜トランジスタの耐久試験において、下地膜の硬さが硬い方が(即ち、そのエッチングレートが小さい方が)信頼性が高いことから結論される。なお、その理由は、薄膜トランジスタの作製工程中におけるガラス基板からの不純物の遮蔽効果によるものと考えられる。
また、下地膜85中に塩素で代表されるハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素をハロゲン元素によってゲッタリングすることができる。また、下地膜の成膜後に、水素プラズマ処理を加えることは有効である。また、酸素と水素とを混合した雰囲気でのプラズマ処理を行うことは有効である。これは、下地膜の表面に吸着している炭素成分を除去し、後に形成される半導体膜との界面特性を向上させることに効果がある。
次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜86を500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法で成膜した。減圧熱CVD法を使用したのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからで、具体的には、膜質が緻密であるからである。なお、減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法等を用いることができる。
ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。これは、後に珪素の結晶化を助長する金属元素をゲッタリングする工程において、酸素が重要な役割を果たすからである。ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合は、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。また他の不純物濃度、例えば、窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。具体的には、2×1019cm-3以下の濃度とすることが必要である。
本実施例では、上記非晶質珪素膜86の膜厚を1600オングストロームとした。この膜厚は、後述するように最終的に必要とするされる膜厚より厚くすることが必要である。この非晶質珪素膜86を加熱のみよって結晶化させる場合は、この出発膜(非晶質珪素膜)86の膜厚を800オングストローム〜5000μm、好ましくは1500〜3000オングストロームとする。この膜厚範囲より厚い場合は、成膜時間が長くなるので生産コストの点から不経済となる。またこの膜厚範囲より薄い場合は、結晶化が不均一になったり、工程の再現性が悪くなる。こうして図27(A)に示す状態を得た。
次に、非晶質珪素膜86を結晶化させるためにニッケル元素を導入した。ここでは、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜86の表面に塗布することによってニッケル元素を導入した。ニッケル元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらにプラズマ処理や吸着法を用いることができる。このうち上記の溶液を用いる方法は、簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点でも有用である。
ニッケル酢酸塩水溶液を塗布することにより、図27(B)に示すように水膜(液膜)87が形成される。この状態において、図示しないスピンコーターを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。こうして、ニッケル元素が非晶質珪素膜86の表面に接して保持された状態とした。なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩を用いる代わりに例えば硫酸ニッケルを用いることが好ましい。これは、酢酸ニッケル塩は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中に残留することが懸念されるからである。ニッケル元素の導入量の調整は、溶液中におけるニッケル塩の濃度を調整することにより行うことができる。
次いで、図27(C)に示す状態において、450℃〜650℃の温度での加熱処理を行って結晶化させる。この加熱処理は還元性雰囲気中で行うが、ここでは水素を3容量%含んだ窒素雰囲気中で温度620℃、4時間の加熱処理を行った。こうして、非晶質珪素膜86を結晶化させて結晶性珪素膜88を得た。
上記加熱処理による結晶化工程において、雰囲気を還元雰囲気とするのは、加熱処理工程中において、酸化物が形成されてしまうことを防止するためである。具体的には、ニッケルと酸素とが反応して、NiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。
酸素は、後のゲッタリング工程においてニッケルと結合して、ニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。しかし、上記結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要となる。
ここで、上記結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度は、ppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。また上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素とは限らず、アルゴン等の不活性ガス、或いはこれらの混合ガスを使用することができる。上記結晶化のための加熱処理温度の下限は、その効果及び再現性から見て450℃以上とすることが好ましい。またその上限は、使用するガラス基板の歪点以下とすることが好ましく、本実施例のように歪点が667℃のコーニング1737ガラス基板を用いる場合には、多少の余裕をみてその上限は約650℃とする。
この点、基板として、より高温耐熱性を有する材料、例えば石英基板を用いる場合には最高1100℃程度まで(好ましくは1050℃程度まで)の温度で行うことができる。この場合には、より高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得ることができ、また、より短時間で結晶性珪素膜を得ることができる。こうして図27(C)に示すように、結晶性珪素膜88を形成した。
上記結晶性珪素膜88を得た後、再度の加熱処理を行った。この加熱処理は、ハロゲン元素を含有した熱酸化膜を形成するために行われる。ここではこの加熱処理をハロゲン元素を含んだ雰囲気中で実施した。この工程は、結晶化のために初期の段階で意図的に混入させたニッケル元素を結晶性珪素膜88中から除去するための工程である。
この加熱処理は、前述の結晶化を行うために行った加熱処理よりも高い温度で行うのが好ましい。これは、ニッケル元素のゲッタリングを効果的に行うために重要な条件である。なお、この加熱処理は、結晶化を行うために行った加熱処理と同程度の温度でもよいが、より高い温度であるがより効果的であり、より高品質の結晶を得ることができる。
この加熱処理は、上記の条件を満たした上で550℃〜1100℃、好ましくは約700〜1050℃の範囲、さらに好ましくは800℃〜980℃の温度で行う。これは、600℃を下回るとその効果が小さく、1050℃を越えることは、石英で形成された治具が歪んでしまったり、装置に負担がかかるからである(この意味では980℃以下とすることが好ましいが、より耐熱性の治具を用いる場合等では1100℃程度でも実施することができる)。また、この加熱処理温度の上限は、使用する基板の歪点によっても制限される。使用する基板の歪点以上の温度で加熱処理を行うと、基板が変形するので注意が必要である。
ここでは、歪点が667℃のコーニング1737ガラス基板を使用しているので、上記加熱温度を650℃とした。また、この2度目の加熱処理の雰囲気は酸素にHClを5容量%含有させた雰囲気中で行った。HClは酸素に対して0.5〜10%(体積%)の割合で混合することが好ましい。なお、この濃度以上に混合すると、膜の表面が膜厚と同程度以上の凹凸に荒れてしまうので注意が必要である。
このような条件で加熱処理を行うことにより、図27(D)に示されるように塩素が含まれた熱酸化膜89が形成される。本実施例では12時間の加熱処理を行い、200オングストローム厚の熱酸化膜89を成膜した。熱酸化膜89が形成されることにより、結晶性珪素膜86の膜厚は約1500オングストローム程度となった。
この加熱処理においては、加熱温度が600℃〜750℃の場合は処理時間(加熱時間)を10時間〜48時間、代表的には24時間とする。なお加熱温度が750℃〜900℃の場合は処理時間を5時間〜24時間、代表的には12時間とする。また加熱温度が900℃〜1050℃の場合は処理時間を1時間〜12時間、代表的には6時間とする。勿論これらの処理時間は、得ようとする酸化膜の膜厚によって適宜設定される。
この工程においては、酸素の作用及びハロゲン元素の作用、特にハロゲン元素の作用により、ニッケル元素が結晶性珪素膜の膜外にゲッタリングされる。ここでは特に塩素の作用により、形成される自然酸化膜89中にニッケル元素がゲッタリングされている。このゲッタリングにおいては、結晶性珪素膜中に存在する酸素が重要な役割を果たす。即ち、酸素とニッケルが結合することによって形成される酸化ニッケルに塩素によるゲッタリング効果が作用して、効果的にニッケル元素のゲッタリングが進行する。
前述したように、酸素は、その濃度が多過ぎると、図27(C)に示す結晶化工程において、非晶質珪素膜86の結晶化を阻害する要素となる。しかし、上述のように、その存在はニッケルのゲッタリング過程においては重要な役割を果たす。従って、出発膜となる非晶質珪素膜中に存在する酸素濃度の制御は重要なものとなる。本実施例ではハロゲン元素としてClを選択し、その導入方法としてHClを使用する例を示した。HCl以外のガスとしては、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又は複数種類の混合ガスを用いることができる。これらのほか、一般に、ハロゲンの水素化物を用いることができる。
これらのガスは、雰囲気中での含有量(容量)を、HFであれば0.25〜5%、HBrであれば1〜15%、Cl2 であれば0.25〜5%、F2 であれば0.125〜2.5%、Br2 であれば0.5〜10%とすることが好ましい。上記の範囲以下の濃度とすると、有意な効果が得られるなくなる。また、上記範囲の上限を超える濃度とすると、結晶性珪素膜の表面が荒れてしまう。
この工程を経ることにより、ニッケル元素の濃度を初期の1/10以下とすることができる。これは、ハロゲン元素によるゲッタリングを何ら行わない場合に比較して、ハロゲン元素によりニッケル元素を1/10以下にできることを意味する。この効果は、ニッケル以外の他の、珪素の結晶化を助長する金属元素を用いた場合でも同様に得られる。また、上記の工程においては、形成される酸化膜中にニッケル元素がゲッタリングされるので、酸化膜中におけるニッケル濃度が他の領域に比較して当然高くなる。
また、結晶性珪素膜88と酸化膜89との界面近傍においてニッケル元素が高くなる傾向が観察される。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、結晶性珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。また、両膜の界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や欠陥の存在が要因であると考えられる。
次いで、ニッケルを高濃度に含んだ酸化膜89を除去した。この酸化膜89の除去はバッファーフッ酸、その他フッ酸系のエッチャントを用いたウェットエッチングや、ドライエッチングを用いて行うことができるが、ここではバッファーフッ酸を用いて実施した。
こうして、図27(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜90を得た。この場合、得られた結晶性珪素膜90の表面近傍には、比較的ニッケル元素が高濃度で含まれているので、上記エッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜90の表面を少しオーバーエッチングすることは有効である。
《実施例17》
本実施例17は、実施例16に示す構成において、図27(C)に示す加熱処理工程により結晶性珪素膜を得た後、さらにKrFエキシマレーザー(波長248nm)によるレーザー光の照射を行い、その結晶性を助長させた場合の例である。本実施例では、図27(C)の加熱処理工程の後、レーザー光の照射を行ってアニールを施し、その他の工程は実施例16と同様にして、図27(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜90を得た。
図27(C)に示す加熱処理の温度が低かったり、処理時間が短かい場合、即ち、作製工程上の理由で、加熱温度が制限されたり、加熱時間が制限されてしまう場合には、必要とする結晶性が得られないことがある。このような場合は、レーザー光の照射によるアニールを施すことにより、必要とする高い結晶性を得ることができる。この場合のレーザー光の照射は、これにより非晶質珪素膜を直接結晶化させる場合に比較して、許容されるレーザー照射条件の幅が広く、またその再現性も高いものとすることができる。
上記レーザー光の照射は、図27(C)に示す工程の後に行う。また、図27(A)において成膜される出発膜となる非晶質珪素膜86の膜厚を200〜2000オングストロームとすることが重要である。これは、非晶質珪素膜の膜厚が薄い方がレーザー光の照射によるアニール効果が高いものとなるからである。使用するレーザー光としては、特に限定はないが、紫外領域のエキシマレーザーを使用することが好ましい。具体的には、例えばKrFエキシマレーザー(波長248nm)やXeClエキシマレーザー(波長308nm)を用いることができる。またレーザー光ではなく、例えば紫外線ランプを用いた強光の照射を行ってアニールを行うこともできる。
《実施例18》
本実施例18は、実施例17におけるレーザー光の代わりに赤外線ランプを利用した場合の例である。本実施例では、図27(C)の加熱処理工程の後、赤外線ランプの照射を行ってアニールを施し、その他の工程は実施例16と同様にして、図27(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜90を得た。赤外線を用いた場合、ガラス基板をあまり加熱せずに珪素膜を選択的に加熱することができる。従って、ガラス基板に対して熱ダメージを与えずに効果的な加熱処理を行うことができる。
《実施例19》
本実施例19は、実施例16に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。この場合、Cuを導入するための溶液として酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2O)等を用いればよいが、本実施例では酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕を用いた。その他の工程は実施例16と同様にして、図27(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜90を得た。
《実施例20》
本実施例20は、実施例16に示す構成において、基板84として石英基板を用いた例である。本実施例においては、出発膜となる非晶質珪素膜86の膜厚を2000オングストロームとした。また、図27(C)で示す加熱処理による熱酸化膜の形成時における加熱温度を950℃とした。この場合、酸化膜の形成が速く、ゲッタリングの効果が充分には得られないので、雰囲気中の酸素濃度を低くする。具体的には、窒素雰囲気中における酸素濃度を10容量%とし、さらに酸素に対するHClの濃度を3容量%とした雰囲気で加熱酸化を行った。
また、処理時間は300分とした。このような条件とすると、約500オングストロームの膜厚を有する熱酸化膜を得ることができる。また、同時にゲッタリングに必要な時間を稼ぐことができる。なお、酸素97容量%、HClを3容量%とした雰囲気中で950℃の加熱処理を行った場合、約30分で500オングストロームの厚さを有する熱酸化膜が得られてしまう。
上記の場合、ニッケルのゲッタリングを充分に行うことができないので、結晶性珪素膜90内には、比較的高濃度にニッケル元素が残留してしまう。従って、本実施例のように酸素濃度を調整し、充分なゲッタリング効果が得れる時間を稼いで、熱酸化膜を形成することが好ましい。この方法を利用することにより、熱酸化膜の厚さや形成温度を変化させた場合に、雰囲気の酸素濃度を調整することにより、ゲッタリングに必要とされる時間を設定することができる。
《実施例21》
本実施例21は、実施例16とは異なる形態の結晶成長を行わせた例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる、基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。図28は本実施例21の作製工程を示す図である。
まず、コーニング1737ガラス基板91上に下地膜92として酸化窒化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。なお、基板としては石英基板等の基板でもよい。次に、結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜93を減圧熱CVD法により、2000オングストロームの厚さに成膜した。この非晶質珪素膜の厚さは、前述したように2000オングストローム以下とすることが好ましい。なお、減圧熱CVD法の代わりにプラズマCVD法を用いてもよい。
次に、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号94で示されるマスクを形成した。このマスクは符号95で示される領域で開口が形成されている。この開口95が形成されている領域においては、非晶質珪素膜93が露呈している。開口95は、図面の奥行から手前方向(長手方向)に細長い長方形を有している。この開口95の幅は20μm以上とするのが適当であり、その長手方向の長さは任意に決めればよいが、本実施例では開口95の幅を30μm、長手方向の長さを200μmとした。
次いで、前述実施例16の場合と同様にして、重量換算で10ppmのニッケル元素を含んだ酢酸ニッケル溶液を塗布した。さらに、図示しないスピナーを用いてスピンドライを行い、余分な溶液を除去した。こうして酢酸ニッケル溶液が図28(A)の点線96で示されるように、非晶質珪素膜93が露呈した表面に接して保持された状態が実現された。
次に、水素を3容量%含有した極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度640℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図28(B)の97で示されるような基板に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長は、ニッケル元素が導入された開口95の領域から周囲に向かって進行する。この基板に平行な方向への結晶成長を、本明細書中、横成長又はラテラル成長と指称する。
本実施例に示すような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する珪素膜98を得た。なお、開口95が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって縦成長とよばる垂直方向への結晶成長が進行している。次いで、ニッケル元素を選択的に導入するための酸化珪素膜からなるマスク94を除去した。こうして図28(C)に示す状態を得た。この状態では、珪素膜98中には、縦成長領域、横成長領域、結晶成長が及ばなかった領域(非晶質状態)が存在している。
上記の状態で、HClを3容量%含んだ酸素雰囲気中において、温度650℃の加熱処理を12時間行った。この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ酸化膜99が形成される。これと同時に、珪素膜98中のニッケル元素濃度を相対的に減少させることができる。ここでは、符号99で示される熱酸化膜が200オングストロームの厚さに成膜された。この熱酸化膜中には、酸素の作用及び塩素の作用、特に塩素の作用によりゲッタリングされたニッケル元素が高濃度に含まれている。また、熱酸化膜99が成膜されることにより、結晶性珪素膜98は1900オングストローム程度の膜厚となった。
次に、ニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜99を除去した。この状態における結晶性珪素膜においては、ニッケル元素が結晶性珪素膜の表面に向かって高濃度に存在するような濃度分布を有している。従って、この熱酸化膜99を除去した後に、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングし、このニッケル元素が高濃度に存在している領域を除去することは有用である。即ち、高濃度にニッケル元素が存在している結晶性珪素膜の表面をエッチングすることで、よりニッケル元素濃度を低減した結晶性珪素膜を得ることができる。
次に、パターニングを行うことにより、横成長領域からなるパターン100を形成した。ここで、パターン100には、縦成長領域と非晶質領域、さらに横成長の先端領域が存在しないようにすることが重要である。これは、縦成長と横成長の先端領域においては、ニッケル元素の濃度が相対的に高く、また非晶質領域はその電気的な特性が劣るからである。
このようにして得られた横成長領域からなるパターン100中に残留するニッケル元素の濃度は、実施例16で示した場合に比較してさらに低いものとすることができる。これは、横成長領域中に含まれる金属元素の濃度がそもそも低いことにも起因する。具体的には、横成長領域からなるパターン100中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。
また、横成長領域を利用して薄膜トランジスタを形成した場合、実施例16に示したような縦成長(実施例16の場合は全面が縦成長する)領域を利用した場合に比較して、より高移動度を有する半導体装置を得ることができる。なお、図28(E)に示すパターンを形成した後に、さらにエッチング処理を行い、パターン表面に存在しているニッケル元素を除去することは有用である。
他方、結晶性珪素膜を島状の形状にパターニングした後に、ハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中における熱酸化を行い、その後に熱酸化膜を除去することは有用ではない。この構成においては、熱酸化膜によるゲッタリング効果は確かに得られるが、熱酸化膜の除去時に下地膜のエッチングも進行するので、エッチングが、島状に形成された結晶性珪素膜の下側までえぐられるように進行してしまうからである。
このような状態は、後に、半導体装置における配線の断線や素子の動作不良の要因となる。次いで、以上のようにして形成されたパターン100に対して、熱酸化膜101を形成した。この熱酸化膜101は、薄膜トランジスタを構成する場合には、後にゲイト絶縁膜の一部となる。
《実施例22》
本実施例22は、本発明による結晶性珪素膜を利用して、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製した例である。図29は、本実施例の作製工程を示す図である。
まず、実施例16及び実施例21に示した工程により、それぞれガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。そのそれぞれを基に、同様にして薄膜トランジスタを作製した。以下、実施例16に示した構成による結晶性珪素膜を用いた場合について記載するが、実施例21に示した構成による結晶性珪素膜を使用した場合についても同じである。該結晶性珪素膜をパターニングすることにより、図27(A)に示す状態を得た。図29(A)に示す状態において、103がガラス基板、104が下地膜、105が結晶性珪素膜で構成された活性層である。
次いで、酸素と水素を混合した減圧雰囲気でのプラズマ処理を施した。このプラズマは高周波放電によって生成させた。このプラズマ処理によって、活性層105の露呈した表面に存在している有機物が除去される。正確には、酸素プラズマによって、活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマによって、該酸化した有機物が還元、気化される。こうして活性層105の露呈した表面に存在する有機物が除去された。この有機物の除去は、活性層105の表面における固定電荷の存在を抑制する上で非常に効果がある。
上記有機物の存在に起因する固定電荷はデバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるので、その存在を少なくすることは非常に有用である。次いで、有機物の除去を行った後、温度640℃の酸素雰囲気中において熱酸化を行い、100オングストロームの熱酸化膜102を形成した。この熱酸化膜は、半導体層(活性層)との界面特性が高く、後にゲイト絶縁膜の一部を構成することとなる。こうして図29(A)に示す状態を得た。
その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜106を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法としては、例えばシランとN2O との混合ガスを用いるプラズマCVD法又はTEOSとN2O との混合ガスを用いるプラズマCVD法等が使用されるが、ここではシランとN2O との混合ガス後者を用いた。この酸化窒化珪素膜106は熱酸化膜102と合わせてゲイト絶縁膜として機能する。
また酸化窒化珪素膜中にハロゲン元素を含有させることは有効である。即ち、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することで、活性層中に存在するニッケル元素(その他、珪素の結晶化を助長する金属元素)の影響で、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを防ぐことができる。
そのように酸化窒化珪素膜とすることは、その緻密な膜質から、ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入しにくくなるという有意性がある。ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入すると、絶縁膜として機能が低下し、薄膜トランシスタの特性の不安定性やバラツキの原因となる。なおゲイト絶縁膜としては、通常利用されている酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜106を成膜した後、後にゲイト電極として機能するアルミニウム膜(図示せず、後述のパターニング後、パターン107となる)をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させるのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここでヒロックやウィスカーとは、加熱が行われることによって、アルミニウムの異常成長が発生し、針状或いは刺状の突起部が形成されてしまうことを意味する。
アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化時の印加電圧の調整によって制御することができる。
次に、レジストマスク108を形成し、アルミニウム膜を符号107で示されるパターンにパターニングした。こうして図29(B)に示す状態を得た。ここで再度の陽極酸化を行った。ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン107を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号110で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
上記工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク108が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜110が形成される。この陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここではその膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化時間によって制御することができる。次いでレジストマスク108を除去した。
さらに、再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜110中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号111で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。該緻密な陽極酸化膜111の膜厚は1000オングストロームとした。この膜厚の制御は印加電圧の調整によって行った。
ここで、露呈した酸化窒化珪素膜106と熱酸化膜102をエッチングした。このエッチングにはドライエッチングを利用した。次いで、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜110を除去した。こうして図29(D)に示す状態を得た。その後、不純物イオンの注入を行った。ここではNチャネル型の薄膜トランジスタを作製するために、P(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法によって実施した。
この工程においては、ヘビードープがされる113と117の領域とライトドープがされる114と116の領域が形成される。これは、残存した酸化珪素膜112の一部が半透過のマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。次いでレーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行うが、ここではレーザー光を用いた。こうしてソース領域113、チャネル形成領域115、ドレイン領域117、低濃度不純物領域114と116が自己整合的に形成された。
ここで、符号116で示されるのがLDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。なお、緻密な陽極酸化膜111の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚でもってチャネル形成領域115の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例においてもオフセットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいので、その存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になるので図中には記載していない。
次に、層間絶縁膜118として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは窒化珪素膜を用いた。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。次いでコンタクトホールの形成を行い、ソース電極119とドレイン電極120の形成を行った。こうして図29(E)に示す薄膜トランジスタを完成させた。
《実施例23》
本実施例23は、実施例22に示す構成において、ゲイト絶縁膜106の形成方法に関する。基板として石英基板や耐熱性の高いガラス基板を用いた場合、ゲイト絶縁膜の形成方法として、熱酸化法を用いることができる。熱酸化法は、その膜質を緻密なものとすることができ、安定した特性を有する薄膜トランジスタを得る上では有用なものとなる。即ち、熱酸化法で成膜された酸化膜は、絶縁膜として緻密で内部に存在する可動電荷を少なくすることができるので、ゲイト絶縁膜として最適なものの一つである。
本実施例では、熱酸化膜の形成方法として、950℃の温度の酸化性雰囲気中において加熱処理を実施した。この際、酸化性雰囲気中にHCl等を混合させることは有効である。このようにすることで、熱酸化膜の形成と同時に活性層中に存在する金属元素を固定化することができる。また、酸化性雰囲気中にN2O ガスを混合し、窒素成分を含有させた熱酸化膜を形成することも有効である。ここでN2O ガスの混合比を最適化すれば、熱酸化法による酸化窒化珪素膜を得ることも可能である。なお本実施例においては、特に熱酸化膜102を形成する必要はない。
《実施例24》
本実施例24は、上記実施例22〜23に記載した工程とは異なる工程で薄膜トランジスタを作製する例である。図30に本実施例の作製工程を示す。まず、前記実施例16又は実施例17に示した工程によりガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。そして、それをパターニングすることにより、図30(A)に示す状態を得た。
次いで、酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。図30(A)に示す状態において、122がガラス基板、123が下地膜、124が結晶性珪素膜で構成された活性層である。また符号121で示す部分はゲッタリングのための熱酸化膜の除去後に再度形成された熱酸化膜である。
次に、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜125を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法は、酸素とシランとN2O との混合ガス又はTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法等を用いるが、ここでは前者を用いた。酸化窒化珪素膜125は熱酸化膜121とともにゲイト絶縁膜を構成する。なお、酸化窒化珪素膜のほかに酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜125を成膜したのに続き、後にゲイト電極として機能する図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は3重量%の酒石酸を含むエチレングルコール溶液を電解溶液として実施した。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことにより、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。
上記図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。次に、レジストマスク126を形成し、そしてアルミニウム膜を127で示されるパターンにパターニングした。
ここで再度の陽極酸化を行った。ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン127を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号128で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク126が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜128が形成される。
この陽極酸化膜はその膜厚を数μmまで成長させることができる。ここではその膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化時間の調整によって制御することができる。次いで、レジストマスク126を除去した後、再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含むエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜128中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号129で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。
次に、最初の不純物イオンの注入を行った。この工程はレジストマスク126を除去してから行ってもよい。この不純物イオンの注入によって、ソース領域130とドレイン領域132が形成される。なお、符号131で示す領域には不純物イオンが注入されない。次に、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜128を除去した。こうして図30(D)に示す状態を得た。
その後、再度不純物イオンの注入を行った。この不純物イオンは最初の不純物イオンの注入条件よりもライトドーピングの条件で行った。この工程において、ライトドープ領域133と134が形成され、そして符号135で示される領域がチャネル形成領域となる。次いで、赤外線ランプを用いた強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。なお、該強光に代えてレーザー光を用いることもできる。こうして、ソース領域130、チャネル形成領域135、ドレイン領域132、低濃度不純物領域133と134が自己整合的に形成された。
ここで、符号134で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。次に、層間絶縁膜136として酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは窒化珪素膜を形成した。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。次いで、コンタクトホールの形成を行い、ソース電極137とドレイン電極138の形成を行った。こうして図30(E)に示す薄膜トランジスタを完成した。
《実施例25》
本実施例25は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。図31に本実施例25の作製工程を示している。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができる。また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。
まず、図31(A)に示すようにガラス基板140上に下地膜141として酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を成膜した。好ましくは酸化窒化珪素膜を用いることがよく、ここではこれを使用した。さらに図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法又は減圧熱CVD法により成膜するが、ここでは減圧熱CVD法を用いた。さらに実施例16に示した方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した。
次いで、酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理を行い、さらに得られた結晶性珪素膜をパターニングして、活性層142と143を得た。こうして図31(A)に示す状態を得た。なおここでは、活性層の側面を移動するキャリアの影響を抑制するために、図31(A)に示した状態において、HClを3容量%含んだ窒素雰囲気中で、温度650℃、10時間の加熱処理を行った。
活性層の側面に金属元素の存在によるトラップ準位が存在すると、OFF電流特性の悪化を招くので、上記のような処理を行い、活性層の側面における準位の密度を低下させておくことは有用である。さらにゲイト絶縁膜を構成する熱酸化膜139酸化窒化珪素膜144を成膜した。ここで、基板として石英を用いる場合には、前述の熱酸化法を用いた熱酸化膜のみによってゲイト絶縁膜を構成することが望ましい。
次いで、後にゲイト電極を構成するための図示しないアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さに成膜した。アルミニウム膜以外には、陽極酸化可能な金属(例えばタンタル)を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に極薄い緻密な陽極酸化膜を形成した。次にアルミニウム膜上に図示しないレジストマスクを配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った。そして、得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜147と148を形成した。
上記多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。さらに再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を行い、緻密な陽極酸化膜149と150を形成した。ここで緻密な陽極酸化膜149と150の膜厚は800オングストロームとする。こうして図31(B)に示す状態を得た。さらに露呈した酸化珪素膜144と熱酸化膜139をドライエッチングによって除去して、図31(C)に示す状態を得た。
図31(C)に示す状態を得た後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜147と148を除去した。こうして図31(D)に示す状態を得た。ここで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(燐)イオンが、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンが注入されるようにした。この不純物イオンの注入によって、高濃度のN型を有するソース領域153とドレイン領域156が自己整合的に形成される。
また、低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域154が同時に形成され、同時にチャネル形成領域155が形成される。符号154で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜151が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜151を透過したPイオンがゲイト絶縁膜151によって一部遮蔽されるからである。
また同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域160とドレイン領域157が自己整合的に形成される。同時に、低濃度不純物領域159が形成され、またチャネル形成領域158が同時に形成される。なお、緻密な陽極酸化膜149と150の膜厚が例えば2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。
本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜149と150の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。次いでレーザー光の照射を行い、不純物イオンが注入された領域のアニールを行った。なお、レーザー光に代えて強光を用いることができる。続いて図31(E)に示すように層間絶縁膜として窒化珪素膜161と酸化珪素膜162を成膜した。それぞれの膜厚は1000オングストロームとした。なお、酸化珪素膜162は成膜しなくてもよい。
ここで、窒化珪素膜によって、薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることにより、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。さらに樹脂材料からなる層間絶縁膜163をスピンコート法を用いて形成し、ここでの層間絶縁膜163の厚さは1μmとした。
次いで、コンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極164とドレイン電極165を形成し、同時に右側の薄膜トランジスタのソース電極166とドレイン電極165を形成し、図31(F)に示す構成を得た。ここで、ドレイン電極165は共通に配置されたものとなる。こうして、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路を構成することができる。
本実施例に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られる。この構成により、可動イオンや水分の侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。また、さらに多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例26》
本実施例26は、実施例16又は実施例17で得た結晶性珪素膜に対して、さらにレーザー光の照射を行うことにより、単結晶又は実質的に単結晶と見なせる領域を形成する例である。
まず、実施例16に示したようにニッケル元素の作用を利用して結晶性珪素膜を得た。次いで、その膜に対してレーザー光を照射することにより、さらにその結晶性を助長させた。ここでのレーザー光としてはKrFエキシマレーザーを用いた。なおその際、450℃以上の温度での加熱処理を併用し、さらにレーザー光の照射条件を最適化することにより単結晶又は実質的に単結晶と見なせる領域を形成することができる。
このような方法で結晶化を大きく助長させた膜は、ESRで計測した電子スピン密度が3×1017個cm-3以下であり、またSIMSで計測した最低値として当該ニッケル元素濃度を3×1017cm-3以下で有し、さらに単結晶と見なすことができる領域を有するものとなる。この領域には実質的に結晶粒界が存在しておらず、単結晶珪素ウエハーに匹敵する高い電気的特性を得ることができる。
また、上記単結晶と見なせる領域は、水素を5原子%以下〜1×1015cm-3程 度含んでいる。この値は、SIMS(2次イオン分析方法)による計測より明 らかにされた。このような単結晶又は単結晶とみなせる領域を利用して薄膜トランジスタを作製することにより、単結晶ウエハーを利用して作製したMOS型トランジスタに匹敵する半導体装置を得ることができる。
《実施例27》
本実施例27は、実施例16に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例である。この場合、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。本実施例では、下地膜の形成後にニッケル酢酸塩水溶液を塗布することによりニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素(当該金属元素)が接して保持された状態とした。その他の工程は実施例16の場合と同様にして図27(E)に示すのと同様の薄膜トランジスタを完成した。上記ニッケル元素の導入方法としては、溶液を用いる方法の他に、スパッタ法やCVD法、さらに吸着法を用いることができる。
《実施例28》
本実施例28は、ガラス基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得る実施例である。本実施例では、まずニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得た後、レーザー光の照射を行い、膜の結晶性を高めるとともに、局所的に集中して存在しているニッケル元素を膜中に拡散させた。即ち、ニッケルの固まりを消滅させた。
次いで、ハロゲン元素を含んだ酸化膜を熱酸化法によって、上記結晶性珪素膜上に形成した。この時、上記結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素が酸素及びハロゲン元素の作用により熱酸化膜中にゲッタリングされる。同時に、ニッケル元素が先のレーザー光の照射によって分散して存在しているので、効果的にゲッタリングが進行する。次いで、ゲッタリングの結果、高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、ガラス基板上に高い結晶性を有していながら、ニッケル元素の濃度の低い結晶性珪素膜が得られる。
図32は本実施例の作製工程を示す図である。まず、コーニング1737ガラス基板(歪点667℃)167上に、下地膜としての酸化窒化珪素膜168を3000オングストロームの厚さに成膜した。酸化窒化珪素膜の成膜は、原料ガスとしてシランとN2O ガスと酸素との混合ガスを用いたプラズマCVD法で実施した。なお、その原料ガスとしてはTEOSガスとN2O ガスの混合ガスを用いもよい。
上記酸化窒化珪素膜は、後の工程においてガラス基板からの不純物(ガラス基板中には半導体の作製レベルで見て、多量の不純物が含まれている)の拡散を抑制する機能を有している。なお、この不純物の拡散を抑制する機能を最大限に得るためには、窒化珪素膜が最適であるが、窒化珪素膜は応力の関係でガラス基板からはがれてしまうので実用的ではない。なお、下地膜としては酸化珪素膜を用いることもできる。
また、この下地膜168は、可能な限り、なるべく高い硬度とすることが重要なポイントとなる。これは、最終的に得られた薄膜トランジスタの耐久試験において、下地膜の硬さが硬い方が(即ち、そのエッチングレートが小さい方が)信頼性が高いことから結論される。なお、その理由は、薄膜トランジスタの作製工程中におけるガラス基板からの不純物の遮蔽効果によるものと考えられる。
また、この下地膜168中に塩素で代表されるハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素をハロゲン元素によってゲッタリングすることができる。また、下地膜を成膜した後に、水素プラズマ処理を加えることは有効である。また、酸素と水素とを混合した雰囲気でのプラズマ処理を行うことは有効である。これは、下地膜の表面に吸着している炭素成分を除去し、後に形成される半導体膜との界面特性を向上させることに効果がある。
次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜169を500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法で成膜した。減圧熱CVD法を用いるのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからであり、具体的には、膜質が緻密であるからである。なお、減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法等を用いることができる。ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。これは、後の金属元素(珪素の結晶化を助長する金属元素)のゲッタリング工程において、酸素が重要な役割を果たすからである。ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合には、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。
また、他の不純物濃度、例えば窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。具体的には2×1019cm-3以下の濃度とすることが必要である。この非晶質珪素膜の膜厚の上限は2000オングストローム程度である。これは、後のレーザー光の照射による効果を得るには、あまり厚い膜であことは不利であるからである。厚い膜が不利であるのは、珪素膜に照射されるレーザー光の殆んどは膜の表面において吸収されてしまうことに原因がある。なお、非晶質珪素膜169の膜厚の下限は、成膜方法の如何にもよるが、実用的には200オングストローム程度である。
次に、非晶質珪素膜169を結晶化させるためにニッケル元素を導入した。ここでは、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩の水溶液を非晶質珪素膜169の表面に塗布することによってニッケル元素を導入した。ニッケル元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法のほか、スパッタ法やCVD法、さらにプラズマ処理や吸着法を用いることができる。
それらのうち、上記の溶液を用いる方法は簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点で有用である。ニッケル酢酸塩水溶液を塗布することにより、図32(A)の符号170で示されるように、ニッケル酢酸塩溶液の水膜が形成される。この状態を得た後、図示しないスピナーを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。このようにしてニッケル元素が非晶質珪素膜169の表面に接して保持された状態とした。
なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩水溶液を用いる代わりに、例えば硫酸ニッケルを用いることが好ましい。これは、酢酸ニッケル塩水溶液は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中に残留することが懸念されるからである。ニッケル元素の導入量の調整は、溶液中におけるニッケル塩の濃度を調整することにより行うことができる。
次に、図32(B)に示す状態において、550℃〜650℃の温度での加熱処理を行い、非晶質珪素膜169を結晶化させて結晶性珪素膜171を形成するが、この加熱処理の温度はガラス基板の歪点以下の温度で行うことが好ましい。ここで用いているコーニング1737ガラス基板の歪点は667℃であるので、その上限は余裕を見て650℃程度とすることが好ましい。またこの加熱処理は還元雰囲気中で行う。本実施例では、この加熱処理の雰囲気を水素を3容量%含んだ窒素雰囲気とし、加熱の温度を620℃、加熱時間を4時間とした。
上記の加熱処理による結晶化工程において、雰囲気を還元雰囲気とするのは加熱処理工程中において、酸化物が形成されてしまうことを防止するためである。具体的には、ニッケルと酸素とが反応してNiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。酸素は、後のゲッタリング工程においてニッケルと結合してニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。
しかし、この結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化の工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要となる。このため、上記結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度は、ppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。
また、上記結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素以外に、アルゴン等の不活性ガス、或いはそれらの混合ガスを利用することができる。上記の加熱処理による結晶化工程の後においては、ニッケル元素がある程度の固まりで残存している。このことは、TEM(透過型電子顕微鏡)による観察から確認された。ニッケルがある程度の固まりで存在しているという事実についての原因は明らかではないが、何らかの結晶化のメカニズムと関係しているものと考えられる。
次に、図32(C)に示すようにレーザー光の照射を行う。ここでは、KrFエキシマレーザー(波長248nm)を用い、レーザー光のビーム形状を線状としたものを走査しながら照射する方法を採用した。このレーザー光の照射を行うことで、前述の加熱処理による結晶化の結果、局所的に集中していたニッケル元素が、ある程度、膜171中に分散する。即ち、レーザー光の照射によりニッケル元素の固まりを消滅させ、ニッケル元素を分散させることができる。
次に、図32(D)に示す工程において再度の加熱処理を行った。この加熱処理は、ニッケル元素をゲッタリングするための熱酸化膜を形成するために行われる。ここでは、その加熱処理をハロゲン元素を含んだ雰囲気中で行った。具体的には、HClを5容量%含んだ酸素雰囲気中で加熱処理を行った。この工程は、結晶化のために初期の段階で意図的に混入させたニッケル元素(他の珪素の結晶化を助長する金属元素の場合も同じ)を結晶性珪素膜171中から除去するための工程である。
上記加熱処理は、前述の結晶化を行うために実施した加熱処理よりも高い温度で行う。これは、ニッケル元素のゲッタリングを効果的に行うために重要な条件である。なお、結晶化を行うために実施した加熱処理温度と同等又はそれ以下の温度でも行えるが、効果が少ない。
この加熱処理は上記の条件を満たした上で600℃〜750℃の温度で行う。この工程におけるニッケル元素のゲッタリング効果は、600℃より高い温度とした場合に顕著に得ることができるが、本実施例では温度650℃で実施した。この工程において、前述のレーザー光の照射によって分散されたニッケル元素が効果的に酸化膜中にゲッタリングされて行く。また、この加熱処理温度の上限は使用するガラス基板の歪点によって制限される。なお、使用するガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を行うと、基板が変形するので注意が必要である。
また、HClは酸素に対して0.5〜10容積%の割合で混合することが好ましい。なお、HClをこの濃度以上に混合すると、膜の表面が膜厚と同程度上の凹凸に荒れてしまうので特に注意が必要である。このような条件で加熱処理を行うと、図32(D)に示されるように、塩素が含まれる熱酸化膜172が形成される。本実施例では加熱処理時間を12時間とし、熱酸化膜172の膜厚を100オングストロームとした。
熱酸化膜172が形成されることにより、結晶性珪素膜169の膜厚は約450オングストローム程度となる。この加熱処理においては、加熱温度が600℃〜750℃の場合は処理時間(加熱時間)を10時間〜48時間、代表的には24時間とする。勿論この処理時間は、得ようとする酸化膜の膜厚によって適時設定すればよい。この工程においては、酸素の作用及びハロゲン元素の作用によりニッケル元素が珪素膜外にゲッタリングされる。ここでは、特に塩素の作用により、形成される熱酸化膜172中にニッケル元素がゲッタリングされる。
上記ゲッタリングには、酸素も関与する。このゲッタリングにおいては、結晶性珪素膜中に存在する酸素が重要な役割を果たす。即ち、酸素とニッケルが結合することによって形成される酸化ニッケルに、塩素によるゲッタリング効果が作用して、効果的にニッケル元素のゲッタリングが進行する。前述したように酸素は、その濃度が多過ぎると、図32(B)に示す結晶化工程において、非晶質珪素膜169の結晶化を阻害する要素となる。しかし、上述のようにその存在はニッケルのゲッタリング過程においては重要な役割を果たす。従って、出発膜となる非晶質珪素膜中に存在する酸素濃度の制御は重要なものとなる。
本実施例では、ハロゲン元素としてClを選択し、またその導入方法としてHClを用いる例を示した。HCl以外のガスとしては、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又は複数種類のガスを用いることができる。また一般にハロゲンの水素化物を用いることができる。これらのガスは、雰囲気中での含有量(体積)をHFであれば0.25〜5%、HBrであれば1〜15%、Cl2 であれば0.25〜5%、F2 であれば0.125〜2.5%、Br2 であれば0.5〜10%とすることが好ましい。
上記の範囲を下回る濃度とすると、有意な効果が得られるなくなり、逆に、上記の範囲を上回る濃度とすると、珪素膜の表面が荒れてしまう。この工程を経ることにより、ニッケル元素の濃度を初期の1/10以下とすることができる。これはハロゲン元素によるゲッタリングを何ら行わない場合に比較して、ニッケル元素を1/10以下にできることを意味する。この効果は、他の金属元素を用いた場合でも同様に得られる。また上記の工程においては、形成される酸化膜中にニッケル元素がゲッタリングされるので、酸化膜中におけるニッケル濃度が他の領域に比較して当然高くなっている。
また、結晶性珪素膜171と熱酸化膜172との界面近傍においてニッケル元素が高くなる傾向が観察される。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、結晶性珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。また、両者の界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や欠陥の存在が要因であると考えられる。
次いで、ニッケルを高濃度に含んだ酸化膜172を除去した。この酸化膜172の除去はバッファーフッ酸(その他フッ酸系のエッチャント)を用いたウェットエッチングや、ドライエッチングを用いて行うが、本実施例ではバッファーフッ酸を用いたウェットエッチングで行った。
こうして、図32(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜173を得た。また、得られた結晶性珪素膜173の表面近傍には比較的ニッケル元素が高濃度に含まれるので、上記の酸化膜172のエッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜173の表面を少しオーバーエッチングすることは有効である。
熱酸化膜172を除去した後に、再びレーザー光を照射して、得られた結晶性珪素膜173の結晶性をさらに助長することは有効である。即ち、ニッケル元素のゲッタリングが行われた後に、再度のレーザー光の照射を行うことは有効である。本実施例においては使用するレーザー光としてKrFエキシマレーザー(波長248nm)を用いた例を示した。しかし、XeClエキシマレーザー(波長308nm)やその他の種類のレーザーを用いることもできる。またレーザー光ではなく、例えば紫外線や赤外線の照射を行う構成としてもよい。
《実施例29》
本実施例29は、実施例28に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。この場合、Cuを導入するための溶液として、酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2O)等を用いればよいが、本実施例では塩化第2銅(CuCl2 2H2O)を用い、その他の工程は実施例28の場合と同様にして、図32(E)に示す状態を得た。
《実施例30》
本実施例30は、実施例28とは異なる形態の結晶成長を行わせる例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。図33は本実施例の作製工程を示す図である。
まず、コーニング1737ガラス基板174上に下地膜175として酸化窒化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。なお、ガラス基板の代えて石英基板を用いてもよい。次いで、結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜176を減圧熱CVD法によって、600オングストロームの厚さに成膜した。この非晶質珪素膜の厚さは、前述したように2000オングストローム以下とすることが好ましい。なお、減圧熱CVD法の代えてプラズマCVD法を用いてもよい。
次に、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号177で示されるマスクを形成した。このマスクは178で示される領域に開口が形成されている。開口178が形成されている領域においては、非晶質珪素膜176が露呈している。開口178は、図面の奥行から手前方向(長手方向)の細長い長方形を有している。この開口178の幅は20μm以上とするのが適当であり、その長手方向の長さは必要とする長さでよいが、本実施例ではその幅を30μm、長さを4cmとした。
次いで、実施例28で示したと同様にして、重量換算で10ppmのニッケル元素を含んだ酢酸ニッケル水溶液を塗布し、図示しないスピナーを用いてスピンドライを行い、余分な溶液を除去した。こうして、ニッケル元素が図33(A)の点線179で示されるように、非晶質珪素膜176の露呈した表面に接して保持された状態が実現された。
次に、水素を3容量%含有した極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度640℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図33(B)の180で示されるような基板174に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長は、ニッケル元素が導入された開口178の領域から周囲に向かって進行する。この基板に平行な方向への結晶成長を、本明細書中、横成長又はラテラル成長と指称する。
本実施例30に示すような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する結晶性珪素膜181を得た。なお、開口178が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって縦成長と呼ばれる垂直方向への結晶成長が進行する。
次いで、ニッケル元素を選択的に導入するための酸化珪素膜からなるマスク177を除去し、図33(C)に示す状態を得た。この状態では、珪素膜181中には、縦成長領域、横成長領域、結晶成長が及ばなかった領域(非晶質状態)が存在しており、またこの状態においては、ニッケル元素が膜中に偏在している。特に、開口178が形成されていた領域と、符号180で示される結晶成長方向の先端部分においては、ニッケル元素が比較的高濃度に存在している。
次に、レーザー光の照射を行う。ここでは実施例28と同様にKrFエキシマレーザーの照射を行った。この工程で偏在したニッケル元素を拡散させ、後のゲッタリング工程においてゲッタリングを行い易い状態が得られる。レーザー光の照射終了後、HClを3容量%含んだ酸素雰囲気中において、温度650℃の加熱処理を12時間行った。この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ酸化膜182が形成され、同時に珪素膜181中のニッケル元素濃度を相対的に減少させる。
ここでは、182で示される熱酸化膜が100オングストロームの厚さに成膜された。この熱酸化膜中には、酸素の作用及び塩素の作用、特に塩素の作用によりゲッタリングされたニッケル元素が高濃度に含まれている。また熱酸化膜182が成膜されることで、結晶性珪素膜181は500オングストローム程度の膜厚となる。次にニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜182を除去した。
この状態における結晶性珪素膜においては、ニッケル元素が結晶性珪素膜の表面に向かって高濃度に存在するような濃度分布を有している。この状態は、熱酸化膜182の形成の際に、熱酸化膜にニッケル元素がゲッタリングされていったことに起因する。従って、この熱酸化膜182を除去した後に、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングし、このニッケル元素が高濃度に存在している領域を除去することは有用である。即ち、高濃度にニッケル元素が存在している結晶性珪素膜の表面をエッチングすることで、よりニッケル元素濃度を低減させた結晶性珪素膜を得ることができる。ただし、この場合には、最終的に得られる珪素膜の膜厚を考慮することが必要となる。
次に、パターニングを行うことにより、横成長領域からなるパターン183を形成した。このようにして得られた横成長領域からなるパターン183中に残留するニッケル元素の濃度は、実施例28で示した場合に比較してさらに低いものとすることができる。これは、横成長領域中に含まれる金属元素の濃度がそもそも低いことにも起因する。具体的には、横成長領域からなるパターン183中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。
また、横成長領域を利用して薄膜トランジスタを形成した場合、実施例28に示したような縦成長(実施例28の場合は全面が縦成長する)領域を利用した場合に比較して、より高移動度を有する半導体装置を得ることができる。なお、図33(E)に示すパターンを形成した後に、さらにエッチング処理を行い、パターン表面に存在しているニッケル元素を除去することは有用である。
次いで、パターン183に熱酸化膜184を形成した。この熱酸化膜の形成は温度650℃の酸素雰囲気中での加熱処理を12時間行うことにより、200オングストロームの厚さに成膜した。なお、この熱酸化膜は、薄膜トランジスタを構成する場合には、後にゲイト絶縁膜の一部となる。その後、薄膜トランジスタを作製するのであれば、熱酸化膜184を覆って、さらにプラズマCVD法等で酸化珪素膜を成膜し、ゲイト絶縁膜を形成する。
《実施例31》
本実施例31は、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製した例である。図34に本実施例の作製工程を示す。まず本実施例では、実施例28及び実施例30に示した工程により、ガラス基板上に、それぞれ結晶性珪素膜を形成した。
以下においては、実施例28に示した工程による場合を中心に記載するが、実施例30に示した工程によった場合も同じである。実施例28に示した構成で結晶性珪素膜を得た後、それをパターニングすることにより、図34(A)に示す状態を得た。図34(A)に示す状態において、符号186がガラス基板、187が下地膜、188が結晶性珪素膜で構成された活性層である。図34(A)に示す状態を得た後、酸素と水素を混合した減圧雰囲気においてプラズマ処理を実施した。このプラズマは高周波放電によって生成させた。
上記プラズマ処理によって、活性層188の露呈した表面に存在している有機物が除去される。正確には、酸素プラズマによって活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマによって該酸化した有機物が還元、気化される。こうして活性層188の露呈した表面に存在する有機物が除去される。この有機物の除去は、活性層188の表面における固定電荷の存在を抑制する上で非常に効果がある。有機物の存在に起因する固定電荷は、デバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるものであり、その存在を少なくすることは非常に有用である。
上記有機物の除去を行った後、温度640℃の酸素雰囲気中において熱酸化を行って100オングストロームの熱酸化膜185を形成した。この熱酸化膜は、半導体層との界面特性が高く、後にゲイト絶縁膜の一部を構成することとなる。こうして図34(A)に示す状態を得た。その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜189を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法としては、酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法を用いた。なお、TEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法を用いることもできる。
この酸化窒化珪素膜189は熱酸化膜185と合わせてゲイト絶縁膜として機能する。また酸化窒化珪素膜中にハロゲン元素を含有させることは有効である。即ち、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することで、活性層中に存在するニッケル元素(他の珪素の結晶化を助長する金属元素を用いた場合も同じ)の影響で、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを防ぐことができる。
上記のように酸化窒化珪素膜とすることは、その緻密な膜質から、ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入しにくくなるという有意性がある。ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入すると、絶縁膜として機能が低下し、薄膜トランシスタの特性の不安定性やバラツキの原因となる。なお、ゲイト絶縁膜としては、通常利用されている酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜189を成膜した後、後にゲイト電極として機能する図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させたのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここでヒロックやウィスカーとは、加熱が行われることによって、アルミニウムの異常成長が発生し、針状或いは刺状の突起部が形成されてしまうことを意味する。
上記アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とする。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。
次に、レジストマスク191を形成した。そしてアルミニウム膜を符号190で示されるパターンにパターニングを行い、こうして図34(B)に示す状態を得た。ここで再度の陽極酸化を行ったが、ここでは3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン190を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号193で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
上記工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク191が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜193が形成される。この陽極酸化膜193は、その膜厚を数μmまで成長させることができるが、ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化時間によって制御することができる。
次いで、レジストマスク191を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び行った。すると、多孔質状の陽極酸化膜193中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号194で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この緻密な陽極酸化膜194の膜厚は1000オングストロームとした。この膜厚の制御は印加電圧によって行った。
次いで、露呈した酸化窒化珪素膜189と熱酸化膜185をエッチングした。このエッチングにはドライエッチングを使用した。さらに酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜193を除去した。こうして図34(D)に示す状態を得た。その後、不純物イオンの注入を行った。
ここでは、Nチャネル型の薄膜トランジスタを作製するためにP(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法によって実施した。この工程においては、ヘビードープがされる196と200の領域とライトドープがされる197と199の領域が形成される。これは、残存した酸化珪素膜195の一部が半透過のマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。
次いで、レーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。ここでは紫外線ランプによる強光の照射により実施した。こうしてソース領域196、チャネル形成領域198、ドレイン領域200、低濃度不純物領域197と199が自己整合的に形成された。ここで、符号199で示されるのがLDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
なお、緻密な陽極酸化膜194の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚でもってチャネル形成領域198の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例においてもオフットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいので、その存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になるので図面中には記載していない。
次に、層間絶縁膜201として酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成する。ここでは窒化珪素膜を用いた。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。さらにコンタクトホールの形成を行い、ソース電極202とドレイン電極203の形成を行った。こうして図34(E)に示す薄膜トランジスタを完成した。
《実施例32》
本実施例32は、実際例31(図34)に示す構成における、ゲイト絶縁膜189の形成方法に関する例である。基板として石英基板や耐熱性の高いガラス基板を用いた場合、ゲイト絶縁膜の形成方法として、熱酸化法を用いることができる。熱酸化法は、その膜質を緻密なものとすることができ、安定した特性を有する薄膜トランジスタを得る上では有用なものとなる。
即ち、熱酸化法で成膜されや酸化膜は、絶縁膜として緻密で内部に存在する可動電荷を少なくすることができるので、ゲイト絶縁膜として最適なものの一つとなる。本実施例では、950℃の温度の酸化性雰囲気中において、加熱処理を行った。他の工程は実施例31と同様にして図34(E)に示すような薄膜トランジスタを完成した。この際、酸化性雰囲気中にHCl等を混合させることが有効である。
このようにすることにより、熱酸化膜の形成と同時に活性層中に存在する金属元素を固定化することができる。また酸化性雰囲気中にN2O ガスを混合し、窒素成分を含有した熱酸化膜を形成することも有効である。ここでN2O ガスの混合比を最適化すれば、熱酸化法による酸化窒化珪素膜を得ることも可能である。なお、本実施例においては、特に熱酸化膜185を形成する必要はない。
《実施例33》
本実施例33は、実施例31(図34)の工程とは異なる工程で薄膜トランジスタを作製した例である。図35に本実施例の作製工程を示す。まず、実施例28及び実施例30に示した工程により、ガラス基板上に、それぞれ結晶性珪素膜を形成した。次いで、それらをパターニングすることにより、図35(A)に示す状態を得た。以下においては、実施例30に示した工程による場合を中心に記載するが、実施例28に示した工程によった場合も同じである。
図35(A)に示す状態を得た後、酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。図35(A)に示す状態において、205がガラス基板、206が下地膜、207が結晶性珪素膜で構成された活性層である。また符号204はゲッタリングのための熱酸化膜を除去した後に、再度形成された熱酸化膜である。その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜208を1000オングストロームの厚さに成膜した。この成膜には酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法で実施した。なお、成膜方法としては、TEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法を用いてもよい。
該酸化窒化珪素膜208は、熱酸化膜204とともに、ゲイト絶縁膜を構成する。なお、該酸化窒化珪素膜に代えてに酸化珪素膜を用いることもできる。ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜208を成膜した後、後にゲイト電極として機能する、図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中にはスカンジウムを0.2重量%含有させた。
次いで、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含むエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。該図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とする。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。
次に、レジストマスク209を形成した。そしてアルミニウム膜を符号210で示されるパターンにパターニングした。ここで再度の陽極酸化を行うが、ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン210を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号211で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク209が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜211が形成される。この陽極酸化膜211は、その膜厚を数μmまで成長させることができるが、ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化の時間によって制御することができる。
次いで、レジストマスク209を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含むエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び行った。すると、多孔質状の陽極酸化膜211中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号212で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。ここで最初の不純物イオンの注入を実施したが、この工程は、レジストマスク209を除去してから行ってもよい。この不純物イオンの注入によってソース領域213とドレイン領域215を形成した。なお、符号214で示す領域には不純物イオンは注入されない。
次に、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜211を除去した。こうして図35(D)に示す状態を得た。その後、再度不純物イオンの注入を行った。この不純物イオンは、最初の不純物イオンの注入条件よりライトドーピングの条件で実施した。この工程において、ライトドープ領域216と217が形成される。そして符号218で示される領域がチャネル形成領域となる。
次いで、レーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行うが、ここではレーザー光により実施した。こうして、ソース領域213、チャネル形成領域218、ドレイン領域215、低濃度不純物領域216と217が自己整合的に形成された。ここで、符号217で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
次に、層間絶縁膜219として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは酸化珪素膜と窒化珪素膜との積層膜を形成した。なお、層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。そして、コンタクトホールの形成を行い、ソース電極220とドレイン電極221の形成を行った。こうして図35(E)に示す薄膜トランジスタを完成した。
《実施例34》
本実施例34は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができる。また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。図36に本実施例の作製工程を示す。
まず、図36(A)に示すように、ガラス基板223上に、下地膜224として酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を成膜する。このうち好ましくは酸化窒化珪素膜を使用するが、ここではこれを用いた。次いで、図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法により成膜した。なお、減圧熱CVD法により成膜してもよい。さらに実施例28に示した方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した。
次いで、酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理を行い、さらに得られた結晶性珪素膜をパターニングして、活性層225と226を得た。こうして図36(A)に示す状態を得た。さらに、ここでは、活性層の側面を移動するキャリアの影響を抑制するために、図36(A)に示した状態において、HClを3容量%含んだ窒素雰囲気中において、温度650℃、10時間の加熱処理を行った。
活性層の側面に金属元素の存在によるトラップ準位が存在すると、OFF電流特性の悪化を招くので、上記のような処理を行い、活性層の側面における準位の密度を低下させておくことは有用である。さらに、ゲイト絶縁膜を構成する熱酸化膜222と酸化窒化珪素膜227を成膜した。なお、ここで基板として石英を用いる場合には、前述の熱酸化法を用いた熱酸化膜のみによって、ゲイト絶縁膜を構成することが望ましい。
次いで、後にゲイト電極を構成するための図示しないアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さに成膜した。アルミニウム以外の金属としては、陽極酸化可能な金属(例えばタンタル)を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に極薄い緻密な陽極酸化膜を形成した。次に、アルミニウム膜上に図示しないレジストマスクを配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った。
続いて、上記で得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜230と231を形成した。この多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。さらに再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を行い、緻密な陽極酸化膜232と233を形成した。ここで緻密な陽極酸化膜232と233の膜厚は800オングストロームとした。こうして図36(B)に示す状態を得た。
さらに、露呈した酸化珪素膜227と熱酸化膜222をドライエッチングによって除去し、図36(C)に示す状態を得た。その後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸を用いて、多孔質状の陽極酸化膜230と231を除去した。こうして図36(D)に示す状態を得た。ここで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(リン)イオンが、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンが注入されるようにした。
上記不純物イオンの注入によって、高濃度のN型を有するソース領域236とドレイン領域239が自己整合的に形成された。また、同時に、低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域237が形成され、さらにチャネル形成領域238が同時に形成された。符号237で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜234が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜234を透過したPイオンがゲイト絶縁膜234によって一部遮蔽されるからである。
上記と同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域243とドレイン領域240が自己整合的に形成される。同時に、低濃度不純物領域242が同時に形成され、さらにチャネル形成領域241が同時に形成される。なお、緻密な陽極酸化膜232と233の膜厚が2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。
本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜232と233の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。次いで、レーザー光の照射により、不純物イオンが注入された領域のアニールを行った。なお、レーザー光に代えて、強光の照射により行うこともできる。次いで図36(E)に示すように、層間絶縁膜として窒化珪素膜244と酸化珪素膜245を成膜した。それぞれの膜厚は1000オングストロームとした。なお、酸化珪素膜245は成膜しなくてもよい。
ここで、上記窒化珪素膜によって、薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることにより、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。さらに樹脂材料からなる層間絶縁膜246をスピンコート法を用いて形成したが、ここでは、層間絶縁膜246の厚さを1μmとした。
そして、コンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極247とドレイン電極248を形成した。同時に右側の薄膜トランジスタのソース電極249とドレイン電極248を形成し(なお、ドレイン電極248は共通に配置されたものとなる)、図36(F)に示す薄膜トランジスタを完成させた。こうして、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路を構成することができる。
本実施例34に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られる。この構成は、可動イオンや水分の侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。また、さらに多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例35》
本実施例35は、前記実施例28に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例である。この場合、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。本実施例では、下地膜を形成した後に、ニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素が接して保持された状態とした。
本実施例においては、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩の水溶液を下地膜の表面に塗布することによってニッケル元素を導入し、この面に非晶質珪素膜を形成した。その他の工程については実施例28の場合と同様にして、図32(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜173を得た。珪素の結晶化を助長する金属元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法の他に、スパッタ法やCVD法、さらにプラズマ処理や吸着法を用いることができる。
《実施例36》
本実施例36は、図33(E)の状態、または図34(A)の状態、または図35(A)の状態においてレーザー光の照射を行い、得られた結晶性珪素膜からなる島状のパターンの結晶性を向上させた例である。本実施例においては、図33(E)、図34(A)、図35(A)の状態においてレーザー光を照射することにより、比較的低い照射エネルギー密度でもって、所定のアニール効果を得ることができた。この効果は、小さい面積の箇所にレーザーエネルギーが照射されることから、アニールに利用されるエネルギー効率が高まるためであると考えられる。
《実施例37》
本実施例37は、レーザー光の照射によるアニール効果を高めるために、薄膜トランジスタの活性層のパターニングに工夫を凝らした例である。図37に本実施例における薄膜トランジスタの作製工程を示す。
まず、コーニング1737ガラス基板250上に、下地膜として酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜251を成膜した。次に、非晶質珪素膜を500オングストロームの厚さに成膜した。この成膜には減圧熱CVD法を用いた。なお、この非晶質珪素膜は、下記の結晶化工程を経て結晶性珪素膜252となる。
次に、実施例28(図32参照)及び実施例29(図33参照)に示した方法により、それぞれ、非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜を得た。こうして図37(A)に示す状態を得た。その後、実施例28及び実施例29に示す工程に従って、それぞれガラス基板上に結晶性珪素膜252を形成した。即ち、ニッケル元素を利用した加熱処理により、非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜252を得た。この処理は温度620℃、4時間の加熱処理によって実施した。以降の工程は、実施例28及び実施例29の何れの工程による結晶性珪素膜についても同じである。
結晶性珪素膜を得た後、薄膜トランジスタの活性層を構成するためのパターン253を形成した。この場合、このパターンの断面形状を図37(B)の254で示すような形状とした。パターン253をそのような形状254に形成するのは、後のレーザー光の照射による処理工程において、パターンの形状が変形することを抑制するためである。
一般に、図38(A)に示すような基体257上に形成された通常の島状の珪素膜からなるパターン258に対してレーザー光を照射した場合、図38(B)に示すように、レーザー光の照射後のパターン259の縁の部分に凸部260が形成されてしまう。これは、照射されたレーザー光のエネルギーが、熱の逃げ場がないパターンの縁の部分に集中するために起こるものと考えられる。
上記現象は、後に薄膜トランジスタを構成する配線の不良や薄膜トランジスタの動作不良の要因となる。そこで、本実施例に示す構成においては、活性層のパターン253を図37(B)に示すような断面形状とした。このような構成とすることで、レーザー光の照射に際して、珪素膜のパターンが図38(B)に示すような形状になってしまうことを抑制することができる。
ここで、符号254で示される部分の角度を、下地膜251の面に対して、20°〜50°にすることが好ましい。符号254で示される部分の角度を20°を下回るようにすることは、活性層の占有面積の増加や形成の困難性が大きくなるので好ましくない。また、符号254で示される部分の角度を50°を超えるようにすると、図38(B)で示される形状が形成されてしまうことを抑制する効果が低下するので、やはり好ましくない。
符号253で示されるようなパターンは、パターニングの際に等方性のドライエッチングを利用し、このドライエッチング条件を制御することにより実現することができる。次に、図37(B)の253で示される形状のパターン(これは後に活性層となる)を得た後、図37(C)に示すようにレーザー光の照射を行った。この工程において、パターン253中に局所的に固まって存在しているニッケル元素を拡散させることができる。またその結晶性を助長させることができる。
上記レーザー光の照射後、HClを3容量%含有させた酸素雰囲気中で加熱処理を行い、熱酸化膜255を形成した。ここでは、HClを3容量%含んだ温度650℃の酸素雰囲気中において12時間の加熱処理を行うことにより、100オングストロームの熱酸化膜を形成した。この熱酸化膜には、塩素の作用によって、パターン253中に含まれているニッケル元素がゲッタリングされる。この際、前の工程であるレーザー光の照射によって、ニッケル元素の固まりが破壊され、拡散されているので、ニッケル元素のゲッタリングが効果的に行われる。
また、本実施例に示す構成を採用した場合、パターン253の側面からのゲッタリングも行われる。このことは、最終的に完成する薄膜トランシスタのOFF電流特性や信頼性を高める上で有用なものとなる。これは、活性層の側面に存在するニッケル元素を代表とする珪素の結晶化を助長する金属元素の存在が、OFF電流の増大や特性の不安定性に大きく関係するからである。
図37(D)に示すゲッタリング用の熱酸化膜255を形成した後、この熱酸化膜255を除去した。こうして図37(E)に示す状態を得た。なお、下地膜251として酸化珪素膜を採用した場合、この熱酸化膜255の除去工程において、酸化珪素膜251がエッチングされてしまうことが懸念される。しかし、本実施例に示すように熱酸化膜255の膜厚が100オングストローム程度と薄い場合は、そのことは大して問題とはならない。
図37(E)に示す状態を得た後、新たな熱酸化膜256を形成した。この熱酸化膜は、酸素100%の雰囲気中での加熱処理により形成した。ここでは、温度650℃の該酸素雰囲気中での加熱処理によって熱酸化膜256を100オングストロームの厚さに形成した。この熱酸化膜256は、後のレーザー光の照射の際にパターン253の表面が荒れてしまうことを抑制することに効果がある。また、この熱酸化膜256は、後にゲイト絶縁膜の一部を構成する。
上記熱酸化膜256は、結晶性珪素膜253との間における界面特性が極めて良好であるので、ゲイト絶縁膜の一部として利用することは有用である。なお、熱酸化膜256を形成した後、再度のレーザー光の照射を行ってもよい。こうしてニッケル元素の濃度が減少され、また高い結晶性を有する結晶性珪素膜253が得られた。この後、図34又は図35に示すような工程を経ることによって、薄膜トランジスタを作製する。
《実施例38》
本実施例38は、ガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を加える場合の工夫についての例である。本発明における珪素の結晶化を助長する金属元素のゲッタリング工程は、なるべく高い温度で行うことが好ましい。
例えば、コーニング1737ガラス基板(歪点667℃)を用いた場合において、熱酸化膜の形成によるニッケル元素のゲッタリングを行う際の温度は、650℃より700℃の方がより高いゲッタリング作用を得ることができる。しかしコーニング1737ガラス基板を用いた場合に、熱酸化膜の形成のための加熱温度を700℃とすると、ガラス基板に変形が生じてしまう。
本実施例は、この問題を解決した例である。即ち、本実施例に示す構成においては、ガラス基板を平坦性の保証された石英で構成された定盤上に配置し、この状態で加熱処理を行った。このようにすると、定盤の平坦性によって、軟化したガラス基板の平坦性もまた維持された。なお、冷却も定盤上にガラス基板を配置した状態で行うことが重要である。このような構成を採用することにより、ガラス基板の歪点以上の温度であっても加熱処理を施すことができる。
《実施例39》
本実施例39は、ガラス基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得た例である。本実施例では、まずニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得た後、レーザー光の照射を行った。このレーザー光の照射を行うことにより、膜の結晶性を高めるとともに、膜中に局所的に集中して存在しているニッケル元素を膜中に拡散させる。即ち、ニッケルの固まりを消滅させる。
そして、該結晶性珪素膜上に、酸化膜を熱酸化法によって形成した。この時、結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素が熱酸化膜中にゲッタリングされるが、ニッケル元素が上記レーザー光の照射によって分散して存在しているので、効果的にゲッタリングが進行する。次いで、このゲッタリングの結果、高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、ガラス基板上に高い結晶性を有していながら、かつニッケル元素の濃度の低い結晶性珪素膜が得られた。
図39は、本実施例の作製工程を示す図である。まず、コーニング1737ガラス基板(歪点667℃)261上に、下地膜としての酸化窒化珪素膜262を3000オングストロームの厚さに成膜した。酸化窒化珪素膜の成膜は、原料ガスとしてシランとN2O ガスと酸素とを用いたプラズマCVD法を使用して行った。なお、これに代えてTEOSガスとN2O ガスとを用いたプラズマCVD法を用いてもよい。
上記酸化窒化珪素膜は、後の工程においてガラス基板からの不純物(ガラス基板中には半導体の作製レベルで見て、多量の不純物が含まれている)の拡散を抑制する機能を有している。なお、この不純物の拡散を抑制する機能を最大限に得るためには、窒化珪素膜が最適である。しかし、窒化珪素膜は応力の関係でガラス基板からはがれてしまうので実用的ではない。また、下地膜として酸化珪素膜を用いることもできる。
また、下地膜262は、可能な限り、なるべく高い硬度とすることが重要なポイントとなる。これは最終的に得られた薄膜トランジスタの耐久試験において、下地膜の硬さが硬い方が(即ち、そのエッチングレートが小さい方が)信頼性が高いことから結論される。その理由は、薄膜トランジスタの作製工程中におけるガラス基板からの不純物の遮蔽効果によるものと考えられる。
また、この下地膜262中に塩素で代表されるハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素を、ハロゲン元素によってゲッタリングすることができる。また、下地膜の成膜後に水素プラズマ処理を加えることは有効である。さらに、酸素と水素とを混合した雰囲気でのプラズマ処理を行うことは有効である。これは、下地膜の表面に吸着している炭素成分を除去し、後に形成される半導体膜との界面特性を向上させることに効果がある。
次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜263を500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法で成膜した。減圧熱CVD法を用いたのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからである。具体的には、膜質が緻密であるからである。なお、減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法を用いることができる。
ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。これは後の珪素の結晶化を助長する金属元素のゲッタリング工程において、酸素が重要な役割を果たすからである。ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合は、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。また、他の不純物濃度、例えば、窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。具体的には、2×1019cm-3以下の濃度とすることが必要である。
非晶質珪素膜265の膜厚の上限は2000オングストローム程度である。これは、後のレーザー光の照射による効果を得るには、あまり厚い膜であると、不利であるからである。厚い膜が不利なのは、珪素膜に照射されるレーザー光の殆んどは、膜の表面において吸収されてしまうことに原因がある。なお、非晶質珪素膜263の膜厚の下限は、成膜方法の如何にもよるが、実用的には200オングストローム程度である。
次に、非晶質珪素膜263を結晶化させるためにニッケル元素を導入した。ここでは、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜263の表面に塗布することによってニッケル元素を導入した。ニッケル元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらにはプラズマ処理や吸着法を用いることができる。このうち上記の溶液を用いる方法は、簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点で有用である。
上記のようにニッケル酢酸塩水溶液を塗布することにより、図39(A)の264で示されるようにニッケル酢酸塩水溶液の水膜が形成された。この後、図示しないスピナーを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。このようにして、ニッケル元素が非晶質珪素膜263の表面に接して保持された状態とした。なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩溶液を用いる代わりに例えば硫酸ニッケルを用いることが好ましい。これは酢酸ニッケル塩溶液は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中に残留することが懸念されるからである。ニッケル元素の導入量の調整は、溶液中におけるニッケル元素の濃度を調整することにより行うことができる。
そして、図39(B)に示す状態において、550℃〜650℃の温度での加熱処理を行い、非晶質珪素膜263を結晶化させ、結晶性珪素膜265を得た。この加熱処理は、還元雰囲気中で行った。この加熱処理の温度は、ガラス基板の歪点以下の温度で行うことが好ましい。コーニング1737ガラス基板の歪点は667℃であるので、この場合の加熱温度の上限は、余裕を見て650℃程度とすることが好ましい。
本実施例では、上記還元雰囲気を水素を3容量%含んだ窒素雰囲気とし、また加熱の温度を620℃とし、加熱時間を4時間とした。上記の加熱処理による結晶化工程において、雰囲気を還元雰囲気とするのは加熱処理工程中において酸化物が形成されてしまうことを防止するためである。具体的には、ニッケルと酸素とが反応して、NiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。
なお、酸素は、後のゲッタリング工程において、ニッケルと結合し、ニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。しかし、上記結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化の工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要となる。
そこで、上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度は、ppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。また、上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素以外にアルゴン等の不活性ガス、或いはそれらの混合ガスを利用することができる。
上記の加熱処理による結晶化工程の後においては、ニッケル元素がある程度の固まりで残存している。このことは、TEM(透過型電子顕微鏡)による観察から確認された。当該ニッケルがある程度の固まりで存在しているという事実の原因は明らかではないが、何らかの結晶化のメカニズムと関係しているものと考えられる。
次に、図39(C)に示すようにレーザー光の照射を行った。ここでは、KrFエキシマレーザー(波長248nm)を用い、レーザー光のビーム形状を線状としたものを走査しながら照射する方法を採用した。このレーザー光の照射を行うことにより、前述の加熱処理による結晶化の結果、膜265中に局所的に集中していたニッケル元素がある程度分散する。即ち、ニッケル元素の固まりを消滅させ、ニッケル元素を膜265中に分散させることができる。
次に、図39(D)に示すように、再度の加熱処理を行った。この加熱処理はニッケル元素をゲッタリングするための熱酸化膜を形成するために行われる。ここでは100%の酸素雰囲気中で温度640℃の加熱処理を12時間行った。この工程の結果、熱酸化膜が100オングストロームの厚さに成膜された。
この工程は、結晶化のために初期の段階で意図的に混入させたニッケル元素(その他の珪素の結晶化を助長する金属元素についても同じ)を結晶性珪素膜265中から除去するための工程である。この加熱処理は、前述の結晶化を行うために実施した加熱処理よりも高い温度で行うが、これは、ニッケル元素のゲッタリングを効果的に行うために重要な条件である。なお、結晶化を行うために実施した加熱処理温度と同等又はそれ以下の温度でも行えるが、効果が少ない。
この加熱処理は、上記の条件を満たした上で、600℃〜750℃の温度で行う。この工程におけるニッケル元素のゲッタリング効果は、600℃より高い温度とした場合に顕著に得ることができる。この工程において、前述のレーザー光の照射によって分散されたニッケル元素が効果的に酸化膜中にゲッタリングされていく。なお、この加熱処理温度の上限は、使用するガラス基板の歪点によって制限される。
使用するガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を行うと、基板が変形するので注意が必要である。なお、この点前記《実施例38》の箇所で述べたように、ガラス基板を、平坦性が保証された、例えば石英で構成された定盤上に配置し、この状態で加熱処理を行うことにより、使用するガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理することができる。
熱酸化膜266が形成されることで、結晶性珪素膜263の膜厚は約450オングストローム程度となる。この加熱処理においては、加熱温度が600℃〜750℃の場合は、処理時間(加熱時間)を10時間〜48時間、代表的には24時間とする。勿論この処理時間は、得ようとする酸化膜の膜厚によって適時設定を行えばよい。またこのゲッタリングにおいては、結晶性珪素膜中に存在する酸素が重要な役割を果たす。即ち、酸素とニッケルが結合することによって形成される酸化ニッケルの形でニッケル元素のゲッタリングが進行する。
前述したように、酸素は、その濃度が多過ぎると、図39(B)に示す結晶化工程において、非晶質珪素膜263の結晶化を阻害する要素となる。しかし、上述のように、その存在はニッケルのゲッタリング過程においては重要な役割を果たす。従って、出発膜となる非晶質珪素膜中に存在する酸素濃度の制御は重要なものとなる。また上記の工程においては、形成される酸化膜中にニッケル元素がゲッタリングされるので、酸化膜中におけるニッケル濃度が他の領域に比較して当然高くなる。
また、珪素膜265と熱酸化膜266との熱酸化膜266側の界面近傍において、ニッケル元素が高くなる傾向が観察された。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。また、界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や欠陥の存在が要因であると考えられる。
次いで、ニッケルを高濃度に含んだ酸化膜266を除去した。この酸化膜266の除去はバッファーフッ酸(その他フッ酸系のエッチャント)を用いたウェットエッチングやドライエッチングを用いて行うが、ここではバッファーフッ酸を用いたウェットエッチングで実施した。こうして図39(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減させた結晶性珪素膜267を得ることができた。
また、得られた結晶性珪素膜267の表面近傍には、比較的ニッケル元素が高濃度に含まれるので、上記の酸化膜266のエッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜267の表面を少しオーバーエッチングすることは有効である。また、熱酸化膜266を除去した後に、再びレーザー光を照射して、得られた結晶性珪素膜267の結晶性をさらに助長することは有効である。
即ち、ニッケル元素のゲッタリングが行われた後に再度のレーザー光の照射を行うことは有効である。そこで本実施例においては、レーザー光としてKrFエキシマレーザー(波長248nm)を用いて実施した。レーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm)やその他の種類のエキシマレーザーを用いるのでもよい。またレーザー光ではなく、例えば紫外線や赤外線の照射を行う構成としてもよい。
《実施例40》
本実施例40は、実施例39に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。この場合、Cuを導入するための溶液として、酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2O) 等を用いればよい。本実施例では塩化第2銅(CuCl2 2H2O)を使用し、その他は実施例39と様にして、図39(E)に示すように、含有銅濃度を低減させた結晶性珪素膜267を得ることができた。
《実施例41》
本実施例41は、実施例39とは異なる形態の結晶成長を行わせた例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。図40に本実施例の作製工程を示す。
まず、コーニング1737ガラス基板268上に、下地膜269として酸化窒化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。なお、該ガラス基板に代えて石英基板等でもよい。次に、結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜270を減圧熱CVD法により、600オングストロームの厚さに成膜した。この非晶質珪素膜の厚さは、前述したように2000オングストローム以下とすることが好ましい。なお、該減圧熱CVD法の代わりにプラズマCVD法を用いてもよい。
次に、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号271で示されるマスクを形成した。このマスクは符号272で示される領域に開口が形成されている。この開口272が形成されている領域においては、非晶質珪素膜270が露呈している。開口272は、図面の奥行から手前方向に長手方向の細長い長方形を有している。この開口272の幅は20μm以上とするのが適当であり、その長手方向の長さは必要とする長さで形成すればよいが、本実施例ではその幅は35μm、長さ2cmとした。
次いで、実施例40で示したと同様に、重量換算で10ppmのニッケル元素を含んだ酢酸ニッケル水溶液を塗布した。そして、図示しないスピナーを用いてスピンドライを行い、余分な溶液を除去した。こうしてニッケル元素が図40(A)の点線273で示されるように、非晶質珪素膜270の露呈した表面に接して保持された状態が実現された。
次に、水素を3容量%含有した、極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度640℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図40(B)の274で示されるような基板268に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長はニッケル元素が導入された開口272の領域から周囲に向かって進行する。なおこの基板に平行な方向への結晶成長を、本明細書中、横成長又はラテラル成長と指称する。
本実施例に示すような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する珪素膜275が得られた。なお、開口272が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって縦成長とよばれる垂直方向への結晶成長が進行する。
次いで、ニッケル元素を選択的に導入するための酸化珪素膜からなるマスク271を除去し、図40(C)に示す状態を得た。この状態では、珪素膜275中には、縦成長領域、横成長領域、結晶成長が及ばなかった領域(非晶質状態)が存在している。またこの状態においては、ニッケル元素が膜中に偏在している。特に、開口272が形成されていた領域と、274で示される結晶成長の先端部分においては、ニッケル元素が比較的高濃度に存在している。
次いで、レーザー光の照射を行った。ここでは実施例39の場合と同様に、KrFエキシマレーザーの照射を行い、偏在したニッケル元素を拡散させ、後のゲッタリング工程においてゲッタリングを行い易い状態とした。レーザー光の照射を終了した後、酸素100%の雰囲気中において、温度650℃の加熱処理を12時間実施した。
この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ酸化膜276が形成され、そして、同時に結晶性珪素膜275中のニッケル元素濃度を相対的に減少させることができる。本実施例では、符号276で示される熱酸化膜を100オングストロームの厚さに成膜した。この熱酸化膜中には、その成膜によってゲッタリングされたニッケル元素が高濃度に含まれている。
また、熱酸化膜276が成膜されることで、結晶性珪素膜275は500オングストローム程度の膜厚となる。次いで、ニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜276を除去した。この状態の結晶性珪素膜においては、ニッケル元素が結晶性珪素膜の表面に向かって高濃度に存在するような濃度分布を有している。この状態は、熱酸化膜276の形成の際に、熱酸化膜にニッケル元素がゲッタリングされて行ったことに起因している。
従って、この熱酸化膜276を除去した後に、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングし、このニッケル元素が高濃度に存在している領域を除去することは有用である。即ち、高濃度にニッケル元素が存在している結晶性珪素膜の表面をエッチングすることで、よりニッケル元素濃度を低減させた結晶性珪素膜を得ることができる。ただし、この場合、最終的に得られる結晶性珪素膜の膜厚を考慮することが必要である。
次に、パターニングを行うことにより、横成長領域からなるパターン277を形成した。このようにして、横成長領域からなるパターン277中に残留するニッケル元素の濃度を、実施例39で示した場合に比較して、さらに低いものとすることができる。これは横成長領域中に含まれる金属元素の濃度がそもそも低いことにも起因する。具体的には、横成長領域からなるパターン277中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。
また、横成長領域を利用して薄膜トランジスタを形成した場合、実施例39に示したような縦成長(実施例39の場合は全面が縦成長する)領域を利用した場合に比較して、より高移動度を有する半導体装置を得ることができる。なお、図40(E)に示すパターンを形成した後に、さらにエッチング処理を行い、パターン表面に存在しているニッケル元素を除去することは有用である。
上記のようにしてパターン277を形成した後、熱酸化膜278を形成した。この熱酸化膜278の形成は、温度650℃の酸素雰囲気中での加熱処理を12時間行うことにより、100オングストロームの厚さに成膜した。この熱酸化膜は、薄膜トランジスタを構成するのであれば、後にゲイト絶縁膜の一部となる。また、その後、薄膜トランジスタを作製するのであれば、熱酸化膜278を覆って、さらにプラズマCVD法等で酸化珪素膜を成膜し、熱酸化膜278と合わせてゲイト絶縁膜を形成する。
《実施例42》
本実施例42は、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製する例である。図41は本実施例の作製工程を示す図である。
まず、実施例39及び実施例41に示した工程により、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。それ以降の工程は両者ともに同じであるので、以下実施例39に示した構成で結晶性珪素膜を得た場合について記載する。該結晶性珪素膜をパターニングすることにより、図41(A)に示す状態を得た。この状態において、280がガラス基板、281が下地膜、282が結晶性珪素膜で構成された活性層である。図41(A)に示す状態を得た後、酸素と水素を混合した減圧雰囲気でのプラズマ処理を施した。このプラズマは、高周波放電によって生成させた。
このプラズマ処理によって、活性層282の露呈した表面に存在している有機物が除去される。正確には酸素プラズマによって活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマによって、該酸化した有機物が還元、気化される。こうして活性層282の露呈した表面に存在する有機物が除去される。この有機物の除去は、活性層282の表面における固定電荷の存在を抑制する上で非常に効果がある。有機物の存在に起因する固定電荷は、デバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるものであり、その存在を少なくすることは非常に有用である。
上記有機物の除去を行った後、温度640℃の酸素雰囲気中において熱酸化を行って100オングストロームの熱酸化膜279を形成した。この熱酸化膜は、半導体層との界面特性が高く、後にゲイト絶縁膜の一部を構成することとなる。こうして図41(A)に示す状態を得た。その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜283を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法としては、酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法やTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法等を用いるが、本実施例では酸素とシランとN2O との混合ガスを用いた。
この酸化窒化珪素膜283は、熱酸化膜279と合わせてゲイト絶縁膜として機能する。また、酸化窒化珪素膜中にハロゲン元素を含有させることは有効である。即ち、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することで、活性層中に存在するニッケル元素(他の珪素の結晶化を助長する金属元素についても同じ)の影響で、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを防ぐことができる。
上記膜を酸化窒化珪素膜とすることは、その緻密な膜質から、ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入しにくくなるという有意性がある。ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入(侵入)すると、絶縁膜としての機能が低下し、薄膜トランシスタの特性の不安定性やバラツキの原因となる。なお、ゲイト絶縁膜としては、通常利用されている酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜283を成膜した後、後にゲイト電極として機能するアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜(図示せず、後述パターニング後、パターン284となる)中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させるのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここでヒロックやウィスカーとは、加熱が行われることによって、アルミニウムの異常成長が発生し、針状或いは刺状の突起部が形成されてしまうことを意味する。
上記アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。
次いでレジストマスク285を形成した後、アルミニウム膜を284で示されるパターンにパターニングした。こうして図41(B)に示す状態を得た。ここで再度の陽極酸化を行った。本実施例では、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン284を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号287で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク285が存在する関係で、アルミニウムパターン284の側面に選択的に陽極酸化膜287が形成される。この陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化の時間によって制御することができる。
次いで、レジストマスク285を除去した後、再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び行った。すると、多孔質状の陽極酸化膜287中に電解溶液が進入する関係から、符号288で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この緻密な陽極酸化膜288の膜厚は1000オングストロームとした。この膜厚の制御は印加電圧を調整して行った。
ここで、露呈した酸化窒化珪素膜283と熱酸化膜279をエッチングした。このエッチングにはドライエッチングを利用した。次いで、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸液を用いて多孔質状の陽極酸化膜287を除去した。こうして図41(D)に示す状態を得た後、不純物イオンの注入を行った。ここでは、Nチャネル型の薄膜トランジスタを作製するために、P(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法で行った。この工程においては、ヘビードープがされる290及び294の領域とライトドープがされる291及び293の領域が形成される。このように形成されるのは、残存した酸化珪素膜289の一部が半透過なマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。
次に、レーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行うが、ここでは赤外線ランプで実施した。こうしてソース領域290、チャネル形成領域292、ドレイン領域294、低濃度不純物領域291と293が自己整合的に形成された。ここで、符号293で示されるのがLDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
なお、緻密な陽極酸化膜288の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚でもってチャネル形成領域292の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例においてもオフセットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいのでその存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になるので、図中には記載していない。
次に、層間絶縁膜295として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成する。ここでは窒化珪素膜を形成した。層間絶縁膜295は、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。さらにコンタクトホールの形成を行い、ソース電極296とドレイン電極297を形成した。こうして図39(E)に示す薄膜トランジスタを完成させた。
《実施例43》
本実施例43は、実際例42に示す構成において、ゲイト絶縁膜283の形成方法に関する。基板として石英基板や耐熱性の高いガラス基板を用いた場合、ゲイト絶縁膜の形成方法として、熱酸化法を用いることができる。本実施例では、ゲイト絶縁膜283の形成に熱酸化法を用い、他の工程は実施例42と同様にして、図41(E)に示す構造の薄膜トランジスタを得た。
熱酸化法は、その膜質を緻密なものとすることができ、安定した特性を有する薄膜トランジスタを得る上では有用なものとなる。即ち、熱酸化法で成膜された酸化膜は、絶縁膜として緻密で内部に存在する可動電荷を少なくすることができるので、ゲイト絶縁膜として最適なものの一つである。
《実施例44》
本実施例44は、図41に示すのとは異なる工程で薄膜トランジスタを作製した例である。図42は本実施例の作製工程を示す図である。まず、実施例39(図38)及び実施例41(図40)に記載した工程により、それぞれ、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。以下の工程は両者ともに同じである。次いで、それをパターニングすることにより、図42(A)に示す状態を得た。
図42(A)に示す状態を得た後、酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。図42(A)に示す状態において、299がガラス基板、300が下地膜、301が結晶性珪素膜で構成された活性層である。また符号298はゲッタリングのための熱酸化膜の除去後に、再度形成された熱酸化膜である。図42(A)に示す状態を得た後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜302を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜には、酸素とシランとN2 Oとの混合ガスを用いたプラズマCVD法、或いはTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法等を用いるが、ここでは酸素とシランとN2 Oとの混合ガスを用いた。
上記酸化窒化珪素膜302は、熱酸化膜298とともにゲイト絶縁膜を構成する。なお、酸化窒化珪素膜の他に酸化珪素膜を用いることもできる。ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜302を成膜した後、後にゲイト電極として機能する、アルミニウム膜(図示せず、後述パターニング後、パターン304となる)をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中にはスカンジウムを0.2重量%含有させた。
アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として実施した。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とする。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化時の印加電圧の調整によって制御することができる。
次いで、レジストマスク303を形成した。そしてアルミニウム膜を304で示されるパターンにパターニングした後、再度の陽極酸化を行った。ここでは3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン304を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号305で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク303が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜305が形成される。この陽極酸化膜305は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化の時間によって制御することができる。
次いで、レジストマスク303を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び行った。すると、多孔質状の陽極酸化膜305中に電解溶液が進入する関係から、符号306で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。ここで最初の不純物イオンの注入を行った。なお、この工程はレジストマスク303を除去してから実施してもよい。この不純物イオンの注入によって、ソース領域307とドレイン領域309が形成される。この時、符号308の領域には不純物イオンは注入されない。
次に、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜305を除去した。こうして図42(D)に示す状態を得た。その後、再度不純物イオンの注入を行うが、この不純物イオンは最初の不純物イオンの注入条件よりライトドーピングの条件で行った。この工程においてライトドープ領域310と311が形成され、そして312で示される領域がチャネル形成領域となる。
次いで、レーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行うが、ここではレーザー光を用いた。こうして、ソース領域307、チャネル形成領域312、ドレイン領域309、低濃度不純物領域310と311が自己整合的に形成された。ここで、符号311で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
次に、層間絶縁膜313として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成する。ここでは両者の積層膜を形成した。該層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。そして、コンタクトホールの形成を行い、ソース電極314とドレイン電極315を形成した。こうして図42(E)に示す薄膜トランジスタを完成させた。
《実施例45》
本実施例45は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。図43は本実施例の工程を示す図である。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができる。また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。
まず、図43(A)に示すように、ガラス基板317上に下地膜318として酸化珪素膜又は酸化窒化珪素膜を成膜すした。このうち好ましくは酸化窒化珪素膜を用いられるが、本実施例ではこれを用いた。次いで、図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法又は減圧熱CVD法によって成膜するが、ここでは減圧熱CVD法を用いた。さらに前記実施例39に示した方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した。
次いで、酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理を行い、さらに得られた結晶性珪素膜をパターニングして、活性層319と320を得た。こうして図43(A)に示す状態を得た。ここでは、活性層の側面を移動するキャリアの影響を抑制するために、図43(A)に示した状態において、HClを3容量%含んだ窒素雰囲気中で、温度650℃、10時間の加熱処理を行った。
活性層の側面に金属元素の存在によるトラップ準位が存在すると、OFF電流特性の悪化を招くので、ここで示すような処理を行い、活性層の側面における準位の密度を低下させておくことは有用である。次に、ゲイト絶縁膜を構成する熱酸化膜316と酸化窒化珪素膜321を成膜した。なお、ここで、基板として石英を用いる場合には、前述の熱酸化法を用いて熱酸化膜のみでもってゲイト絶縁膜を構成することが望ましい。
次いで、後にゲイト電極を構成するための図示しないアルミニウム膜(図示せず、後述パターニング後にパターンとなる)を4000オングストロームの厚さに成膜した。アルミニウム膜のほか、陽極酸化可能な金属(例えばタンタル)を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に極薄の緻密な陽極酸化膜を形成した。
次いで、該アルミニウム膜上に、レジストマスク(図示せず)を配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った。さらに、得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜324と325を形成した。この多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。
ここで、再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を行い、緻密な陽極酸化膜326と327を形成した。ここで緻密な陽極酸化膜326と327の膜厚は800オングストロームとした。こうして図43(B)に示す状態を得た。次いで、露呈した酸化珪素膜321と熱酸化膜316をドライエッチングによって除去し、図43(C)に示す状態を得た。
その後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸液を用いて多孔質状の陽極酸化膜324と325を除去した。こうして図43(D)に示す状態を得た。次いで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(リン)イオンを、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンを注入した。この不純物イオンの注入によって、高濃度のN型を有するソース領域330とドレイン領域333が自己整合的に形成された。
同時に、低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域331が同時に形成され、さらにチャネル形成領域332が同時に形成される。符号331で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜328が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜328を透過したPイオンがゲイト絶縁膜328によって一部遮蔽されるからである。
また、上記と同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域337とドレイン領域334が自己整合的に形成され、同時に低濃度不純物領域336が形成され、さらにチャネル形成領域335が同時に形成される。なお、緻密な陽極酸化膜326と327の膜厚が2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。
本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜326と327の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。次いで、レーザー光の照射を行い、不純物イオンが注入された領域のアニールを行った。なお、レーザー光に代えて強光の照射を行ってもよい。そして図43(E)に示すように、層間絶縁膜として窒化珪素膜338と酸化珪素膜339を成膜し、それぞれの膜厚は1000オングストロームとした。なお、この場合、酸化珪素膜339は成膜しなくてもよい。
ここで、該窒化珪素膜によって、薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることにより、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。さらに樹脂材料からなる層間絶縁膜340をスピンコート法を用いて形成した。ここでは、層間絶縁膜340の厚さを1μmとした。
そして、コンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極341とドレイン電極342を形成し、同時に右側の薄膜トランジスタのソース電極343とドレイン電極342を形成した。ここで、ドレイン電極342は両者に共通に配置されたものとなる。こうして、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路を構成した。
本実施例に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化珪素膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られる。この構成は、可動イオンや水分の侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。また、さらに多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例46》
本実施例46は、前記実施例39に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例である。この場合、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。本実施例では、下地膜を形成した後に酢酸ニッケル水溶液を用いてニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素が接して保持された状態とした。
その他の工程については、実施例39の場合と同様にして、図39(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減させた結晶性珪素膜267を得た。ニッケル元素を導入する方法としては、本実施例のように溶液を使用する方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらに吸着法を用いることができる。また、ニッケル以外の、珪素の結晶化を助長する金属元素を用いる場合にも、同様にして当該金属の濃度を低減させた結晶性珪素膜を得ることができる。
《実施例47》
本実施例47は、図40(E)の状態、または図41(A)の状態、または図42(A)の状態において、レーザー光の照射を行い、得られた結晶性珪素膜からなる島状のパターンの結晶性を向上させた例である。図40(E)、図41(A)又は図42(A)の状態においてレーザー光を照射する場合、比較的低い照射エネルギー密度でもって、所定のアニール効果を得ることができる。これは、小さい面積の所にレーザーエネルギーが照射されるので、アニールに利用されるエネルギー効率が高まるためであると考えられる。
《実施例48》
本実施例48は、レーザー光の照射によるアニール効果を高めるために、薄膜トランジスタの活性層のパターニングに工夫を凝らした例である。図44は本実施例における薄膜トランジスタの作製工程を示す図である。まず、コーニング1737ガラス基板344上に、下地膜として酸化珪素膜345成膜した。この下地膜としては酸化窒化珪素膜を用いることもできる。
次に、図示しない非晶質珪素膜を500オングストロームの厚さに成膜した。成膜には減圧熱CVD法を用いた。この非晶質珪素膜は、後に結晶化工程を経て結晶性珪素膜346となる。次に実施例39(図39参照)及び実施例41(図40参照)に示した方法により、それぞれ、図示しない非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜を得た。
こうして図44(A)に示す状態を得た。以下、実施例39による場合を中心に記載するが、実施例41による場合についても同様である。図44(A)に示す状態を得た後、実施例39(図39)の作製工程に従って、ガラス基板上に結晶性珪素膜346を形成した。即ち、ニッケル元素を利用した加熱処理により、非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜346を得た。ここでの加熱処理条件は、温度620℃、4時間の加熱とした。
上記結晶性珪素膜を得た後、薄膜トランジスタの活性層を構成するためのパターンを形成した。この場合、このパターンの断面形状を図44(B)の347で示すような形状とする。このように、図44(B)に示すようなパターン347を形成するのは、後のレーザー光の照射による処理工程において、パターンの形状が変形することを抑制するためである。
前述のとおり、図38(A)に示すような基体257上に形成された通常の島状の珪素膜からなるパターン258に対し、レーザー光を照射した場合、図38(B)に示すように、レーザー光の照射後のパターン259の縁の部分に凸部260が形成されてしまう。これは、照射されたレーザー光のエネルギーが、熱の逃げ場がないパターンの縁の部分に集中するために起るものと考えられる。
この現象により形成される凸部260は、後に薄膜トランジスタを構成する配線の不良や薄膜トランジスタの動作不良の要因となる。そこで、本実施例に示す構成においては、活性層のパターン347を図44(B)に示すような断面形状とした。このような構成とすることにより、レーザー光の照射に際して、珪素膜のパターンが図38(B)に示すような形状になってしまうことを抑制することができる。符号347で示されるようなパターンは、パターニングの際に等方性のドライエッチングを利用し、このドライエッチング条件を制御することにより実現することができる。
ここで、下地膜345の面に対して、符号348で示される部分の角度を20°〜50°にすることが好ましい。符号348で示される部分の角度を20°を下回る角度とすることは、活性層の占有面積の増加や活性層形成の困難性が大きくなるので好ましくない。また、符号348で示される角度を50°を超える角度とすることは、図38(B)に示されような凸部260が形成されてしまうことを抑制する効果が低下するので、やはり好ましくない。
図44(B)の符号347で示される形状のパターン(後に活性層となる)を得た後、図44(C)に示すようにレーザー光の照射を行った。この工程によって、パターン347中に局所的に固まって存在しているニッケル元素を拡散させることができ、またその結晶性を助長させることができる。次いで、レーザー光の照射が終了した後、酸素雰囲気中で加熱処理を行い、熱酸化膜349を形成した。ここでは酸素100%の雰囲気中において温度650℃、12時間の加熱処理を行うことにより、100オングストロームの熱酸化膜349を形成した。
この熱酸化膜349には、酸素の作用によって、パターン347中に含まれているニッケル元素がゲッタリングされる。この際、前の工程においてレーザー光の照射によって、ニッケル元素の固まりが破壊されているので、ニッケル元素のゲッタリングが効果的に行われる。なお、加熱処理の雰囲気としてハロゲンを含有させると、さらに有効にニッケル元素のゲッタリングを行うことができる。
また、本実施例に示す構成を採用した場合、パターン347の側面からのゲッタリングも行われる。このことは、最終的に完成する薄膜トランシスタのOFF電流特性や信頼性を高める上で有用なものとなる。これは、活性層の側面に存在するニッケル元素(他の珪素の結晶化を助長する金属元素の場合も同じ)の存在が、OFF電流の増大や特性の不安定性に大きく関係するからである。
図44(D)に示すゲッタリング用の熱酸化膜349を形成した後、この熱酸化膜349を除去した。こうして図44(E)に示す状態を得た。なお、本実施例のように下地膜345として酸化珪素膜を採用した場合には、この熱酸化膜349の除去工程において、酸化珪素膜345がエッチングされてしまうことが懸念される。しかし、本実施例に示すように、熱酸化膜349の膜厚が100オングストローム程度と薄い場合は、このことは大して問題とはならない。
図44(E)に示す状態を得た後、新たな熱酸化膜350を形成した。この熱酸化膜350は、酸素100%の雰囲気中での加熱処理により形成した。ここでは、温度650℃、4時間の酸素雰囲気中での加熱処理によって、熱酸化膜350を100オングストロームの厚さに形成した。この熱酸化膜350は、後にレーザー光の照射を行う際に、パターン347の表面が荒れてしまうことを抑制するのに効果があり、また、後にゲイト絶縁膜の一部を構成する。
上記熱酸化膜350は、結晶性珪素膜との間における界面特性が極めて良好であるので、ゲイト絶縁膜の一部として利用することは有用である。なお、熱酸化膜350を形成した後、再度のレーザー光の照射を行ってもよい。こうしてニッケル元素の濃度が減少され、また高い結晶性を有する結晶性珪素膜347が得られた。この後、図41〜図43に示すような工程を経ることによって、薄膜トランジスタが作製される。
《実施例49》
本実施例49は、ガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を加える場合の工夫についての例である。本発明においては、珪素の結晶化を助長する金属元素を用いて非晶質珪素を結晶化した後、当該金属元素をゲッタリングするが、このゲッタリング工程は、なるべく高い温度で行うことが好ましい。
例えば、基板としてコーニング1737ガラス(歪点667℃)を使用した場合においても、熱酸化膜の形成によるニッケル元素のゲッタリングを行う際の温度としては、例えば650℃よりも、700℃である方がより高いゲッタリング作用を得ることができる。しかし、この場合に熱酸化膜の形成のための加熱温度を700℃とすると、該ガラス基板の変形が生じてしまう。
本実施例は、この問題を解決した例である。即ち、本実施例に示す構成においては、上記ガラス基板を平坦性の保証された石英で構成された定盤上に配置し、この状態で加熱処理を行った。このようにすると、定盤の平坦性によって、軟化したガラス基板の平坦性もまた維持される。この場合、冷却についても、定盤上にガラス基板を配置した状態で行うことが重要となる。このような構成を採用することにより、ガラス基板の歪点以上の温度であっても加熱処理を施すことができる。
《実施例50》
本実施例50は、石英基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得た例である。本実施例では、まず石英基板上に成膜された非晶質珪素膜をニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜に変成した。
次いで、HClを添加した酸化性の雰囲気中において加熱処理を行い、熱酸化膜を形成した。この時、得られた結晶性珪素膜中に塩素(Cl)の作用により結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素がゲッタリングされる。そして、該ゲッタリングの後、高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、石英基板上に高い結晶性を有していながら、ニッケル元素の濃度の低い結晶性珪素膜を得た。
図45は本実施例の作製工程を示す図である。まず、石英ガラス基板351上に、下地膜として酸化窒化珪素膜352を5000オングストロームの厚さに成膜した。この下地膜352は、石英ガラス基板351と後に成膜される珪素膜との熱膨張率の違いを緩和させる機能を有せしめるために、5000オングストローム程度以上とすることが好ましい。
酸化窒化珪素膜352の成膜は、原料ガスとしてシランとN2O ガスと酸素とを用いたプラズマCVD法を用いて実施した。なお、これに代えて、TEOSガスとN2O ガスとを用いたプラズマCVD法を用いてもよい。この下地膜352中に塩素で代表されるハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素を該ハロゲン元素によってゲッタリングすることができる。
また、下地膜の成膜後に水素プラズマ処理を加えることは有効である。また、酸素と水素とを混合した雰囲気でのプラズマ処理を行うことは有効である。これは、下地膜の表面に吸着している炭素成分を除去し、後に形成される半導体膜との界面特性を向上させることに効果がある。次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜353を1500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法により成膜した。減圧熱CVD法を用いるのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからであり、具体的には膜質が緻密であるからである。なお、減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法を用いることができる。
ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。これは、後の金属元素(珪素の結晶化を助長する金属元素)のゲッタリング工程において、酸素が重要な役割を果たすからである。ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合は、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。また他の不純物濃度、例えば、窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。具体的には、それらを2×1019cm-3以下の濃度とすることが必要である。
この非晶質珪素膜の膜厚は、約1000〜5000オングストロームの範囲から選択することができる。次に、非晶質珪素膜353を結晶化させるためにニッケル元素を導入した。ここでは、10ppm(重量換算)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜353の表面に塗布することによってニッケル元素を導入した。ニッケル元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、またプラズマ処理や吸着法を使用することができる。このうち上記の溶液を用いる方法は、簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点で有用である。
ニッケル酢酸塩溶液を塗布することにより、図45(A)の354で示されるように、ニッケル酢酸塩水溶液の水膜が形成される。この状態を得た後、図示しないスピナーを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。このようにして、ニッケル元素が非晶質珪素膜353の表面に接して保持された状態とした。
なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩溶液を用いる代わりに、例えば硫酸ニッケルを用いることが好ましい。これは酢酸ニッケル塩溶液は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中に残留することが懸念されるからである。ニッケル元素の導入量の調整は、溶液中におけるニッケル元素の濃度を調整することにより行うことができる。
次に、図45(B)に示す状態において、750℃〜1100℃の温度での加熱処理を行い、非晶質珪素膜353を結晶化させ、結晶性珪素膜355を得た。ここでは、温度900℃、4時間の加熱処理を水素を2容量%混合した窒素雰囲気中(還元雰囲気中)で行った。この加熱処理による結晶化工程において、雰囲気を還元雰囲気とするのは、加熱処理工程中において、酸化物が形成されてしまうことを防止するためである。具体的には、ニッケルと酸素とが反応してNiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。
酸素については、後のゲッタリング工程において、ニッケルと結合して、ニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。しかし、この結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化の工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要となる。
上記結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度は、ppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。また、上記結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素以外に、アルゴン等の不活性ガス、或いは窒素を含めたそれらの混合ガスを使用することができる。結晶性珪素膜355を得た後、パターニングを行い、後に薄膜トランジスタの活性層となる島状の領域356を形成した。
次に、図45(D)に示す工程において、再度の加熱処理を行った。この加熱処理は、ニッケル元素をゲッタリングするための熱酸化膜を形成するために行われる。ここでは5容量%の酸素、さらにこの酸素に対し3容量%のHClを含んだ窒素囲気中で、温度950℃の加熱処理を1時間30分実施した。この工程の結果、熱酸化膜357が200オングストロームの厚さに成膜された。
この工程は、前記のとおり、珪素の結晶化のために初期の段階で意図的に導入したニッケル元素を島状のパターンに形成された結晶性珪素膜356中から除去するための工程である。この加熱処理は、前述の結晶化を行うために行った加熱処理よりも高い温度で行う。これは、ニッケル元素のゲッタリングを効果的に行うために重要な条件である。なお、結晶化を行うために実施した加熱処理温度と同等又はそれ以下の温度でも行えるが、効果が少ない。そしてこれらの点は、その他の珪素の結晶化を助長する金属元素を用いた場合についても同じである。
熱酸化膜357が形成されることで、島状のパターンに形成された結晶性珪素膜356の膜厚は約100オングストローム程薄くなる。このゲッタリングにおいては、結晶性珪素膜中に存在する酸素が重要な役割を果たす。即ち、酸素とニッケルが結合することによって形成される酸化ニッケルに、塩素元素が作用する形でニッケル元素のゲッタリングが進行する。
前述したように、酸素は、その濃度が多過ぎると、図45(B)に示す結晶化工程において、非晶質珪素膜353の結晶化を阻害する要素となる。しかし、上述のように、その存在はニッケルのゲッタリング過程においては重要な役割を果たす。従って、出発膜となる非晶質珪素膜中に存在する酸素濃度の制御は重要である。また、上記の工程においては、形成される酸化膜中にニッケル元素がゲッタリングされるので、酸化膜中におけるニッケル濃度が、他の領域に比較して、当然高くなっている。
また、結晶性珪素膜356と熱酸化膜357との界面の熱酸化膜357側近傍において、ニッケル元素が高くなる傾向が観察された。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、結晶性珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。また、両者の界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や結晶欠陥の存在が要因であると考えられる。
本実施例においては、ハロゲン元素として塩素(Cl)を用いた例を示し、またその導入方法としてHClを用いた例を示した。しかし、HCl以外のガスとしては、HF、HBr、Cl2 、F2 、Br2 から選ばれた一種又はそれらの複数種類の混合ガスを用いることができる。また一般にハロゲンの水素化物を用いることができる。これらのガスは、雰囲気中での含有量(体積含有量)をHFであれば0.25〜5%、HBrであれば1〜15%、Cl2 であれば0.25〜5%、F2であれば0.125〜2.5%、Br2であれば0.5〜10%とすることが好ましい。
上記の範囲を下回る濃度とすると、有意な効果が得られなくなり、また上記の範囲を超える濃度とすると、珪素膜の表面が荒れてしまう。次いで、上記のようにハロゲン元素を含んだ酸化性雰囲気中での加熱処理によって熱酸化膜を形成した後、このニッケルを高濃度に含んだ熱酸化膜357を除去した。この熱酸化膜357の除去はバッファーフッ酸(その他フッ酸系のエッチャント)を用いたウェットエッチングやドライエッチングを用いて行うが、本実施例ではバッファーフッ酸によるウェットエッチングを用いた。
こうして、図45(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減させた結晶性珪素膜からなる島状のパターン356を得ることができた。ここで、得られた結晶性珪素膜356の表面近傍にはニッケル元素が比較的高濃度に含まれるので、上記の酸化膜357のエッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜356の表面を少しオーバーエッチングすることは有効である。
また、熱酸化膜357を除去した後に、レーザー光又は強光を照射して、結晶性珪素膜356の結晶性をさらに助長することは有効である。即ち、ニッケル元素のゲッタリングが行われた後に、レーザー光の照射や強光の照射を行うことは有効である。使用するレーザー光としてはKrFエキシマレーザー(波長248nm)、XeClエキシマレーザー(波長308nm)、或いはその他の種類のエキシマレーザーを用いることができる。また、強光としては、例えば紫外線や赤外線の照射で行える。
また、図45(E)に示す状態を得た後、再度の加熱処理により、図示しない熱酸化膜を形成することは有効である。この熱酸化膜は、後に薄膜トランジスタを構成する際に、ゲイト絶縁膜の一部又はゲイト絶縁膜として機能する。熱酸化膜は、結晶性珪素からなる活性層との界面特性を良好にできるので、ゲイト絶縁膜を構成するものとしては最適なものとなる。
《実施例51》
本実施例51は、実施例50に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。この場合、Cuを導入するための溶液として、酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2O) 等を用いればよい。本実施例において酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕を用い、その他の工程は実施例50と同様にして図45(E)に示す状態を得た。
《実施例52》
本実施例52は、実施例50とは異なる形態の結晶成長を行わせた例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。
図46に本実施例の作製工程を示す。まず、石英基板358上に、下地膜359として酸化窒化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。次に結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜360を減圧熱CVD法によって、2000オングストロームの厚さに成膜した。なお、減圧熱CVD法の代わりにプラズマCVD法を用いてもよい。
次に、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号361で示されるマスクを形成した。該マスクには符号362で示される領域に開口が形成されている。この開口362が形成されている領域においては、非晶質珪素膜360が露呈している。開口362は、図面の奥行から手前側方向への長手方向に細長い長方形を有している。この開口362の幅は20μm以上とするのが適当であり、またその長手方向の長さは必要とする長さでもって形成すればよい。ここでは幅を20μm、長さを1cmとした。
次いで、マスク361及び開口362に、重量換算で10ppmのニッケル元素を含んだ酢酸ニッケル水溶液を塗布した後、図示しないスピナーを用いてスピンドライを実施して余分な溶液を除去した。こうして、図46(A)中の点線363で示されるように、ニッケル元素が非晶質珪素膜360の露呈した表面に接して保持された状態が実現される。
次に、水素を2容量%含有した極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度800℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図46(B)の364で示されるように、基板358に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長はニッケル元素が導入された開口362の領域から周囲に向かって進行している。このような基板に平行な方向への結晶成長を、本明細書中、横成長又はラテラル成長と指称する。
本実施例に示すような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する珪素膜を得た。なお開口362が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって縦成長とよばれる垂直方向への結晶成長が進行している。
次いで、マスク361を除去した後、さらにパターニングを施すことにより、図46(C)に示したように、基板に平行な方向に結晶成長した(即ち、横成長した)結晶性珪素膜からなる島状のパターン366を形成した。その後、酸素を10容量%、さらに酸素に対して3容量%のHClを含んだ窒素雰囲気中において、温度950℃、1時間30分の加熱処理を実施した。
この結果、符号367で示される熱酸化膜が200オングストロームの厚さに成膜された。図46(D)はこの状態を示している。この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ(即ち、ニッケル元素をゲッタリングした)酸化膜367が形成され、これにより、珪素膜367中のニッケル元素の濃度が相対的に減少した。
従って、この熱酸化膜367中には、その成膜に従ってゲッタリングされたニッケル元素が高濃度に含まれる。また熱酸化膜367が成膜されることにより、結晶性珪素膜366は500オングストローム程度の膜厚となる。次に、ニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜367を除去した。こうして、図46(E)に示す状態を得た。
この状態においては、活性層(島状に形成された結晶性珪素膜)366中において、ニッケル元素が結晶性珪素膜の表面に向かって濃度が高くなっている濃度分布を有しているが、この状態は、熱酸化膜367の形成の際に、この熱酸化膜367中にニッケル元素がゲッタリングされて行ったことに起因している。従って、この熱酸化膜367を除去した後に、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングし、ニッケル元素の濃度が高い領域を除去することは有用である。
このようにして得られた、横成長領域からなるパターン366中に残留するニッケル元素の濃度は、実施例50で示した場合に比較して、さらに低いものとすることができる。これは、横成長領域中に含まれる金属元素の濃度がそもそも低いことにも起因する。こうして、横成長領域からなるパターン366中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。
また、本実施例のように横成長領域を利用して薄膜トランジスタを形成した場合には、実施例50に示したような縦成長(実施例50の場合には、全面が縦成長する)領域を利用した場合に比較して、より高移動度を有する半導体装置を得ることができる。図46(E)に示す状態を得た後、さらに活性層366の表面に熱酸化膜(図示せず)を成膜した。この熱酸化膜の成膜は、950℃の酸素雰囲気中で30分の加熱処理を行うことによって、500オングストロームの厚さに成膜することができた。
勿論、上記熱酸化膜の膜厚は、加熱時間や加熱温度、さらに雰囲気中の酸素濃度を制御することによって、所望、所定の値とすることができる。この後、例えば薄膜トランジスタを作製する場合には、この熱酸化膜を覆って、さらにプラズマCVD法等で酸化珪素膜を成膜し、上記熱酸化膜と合わせてゲイト絶縁膜を形成することができる。また、熱酸化膜を所望、所定の膜厚とし、そのままゲイト絶縁膜としてもよい。
《実施例53》
本実施例53は、本発明に係る結晶性珪素膜を利用して、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製した例である。図47は、本実施例における作製工程を示す図である。
まず、実施例50及び実施例52に示した工程により、それぞれ、ガラス基板上に活性層の形状にパターニングされた島状の半導体層(結晶性珪素膜からなる層)を形成した。以下の工程は、両者共同じである。図47(A)に示す状態において、369がガラス基板、370が下地膜、371が結晶性珪素膜で構成された活性層である。
次に、熱酸化膜368を形成する前に、酸素と水素を混合した減圧雰囲気でのプラズマ処理を施した。このプラズマは高周波放電によって生成させた。このプラズマ処理によって、活性層371の露呈した表面に存在している有機物を除去した。正確には、酸素プラズマによって活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマによってこの酸化した有機物が還元気化される。
こうして活性層371の露呈した表面に存在する有機物が除去される。この有機物の除去は、活性層371の表面における固定電荷の存在を抑制する上で非常に効果がある。有機物の存在に起因する固定電荷は、デバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるものであり、その存在を少なくすることは非常に有用である。次いで、熱酸化法により、その表面に200オングストロームの熱酸化膜368を形成し、図47(A)に示す状態を得た。
その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜372を1000オングストロームの厚さに成膜した。成膜方法としては、酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法やTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法などが用い得るが、ここではTEOSとN2O との混合ガスを用いた。この酸化窒化珪素膜372は熱酸化膜368と合わせてゲイト絶縁膜として機能する。
ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入(侵入)すると、絶縁膜としての機能が低下し、薄膜トランシスタの特性の不安定性やバラツキの原因となるが、それらを防ぐ上で、該酸化窒化珪素膜中にハロゲン元素を含有させることは有効である。即ち、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することで、活性層中に存在するニッケル元素の影響で、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを防ぐことができる。また、酸化窒化珪素膜とすることは、その緻密な膜質から、ゲイト絶縁膜中に金属元素が進入しにくくなるという有意性がある。なお、ゲイト絶縁膜としては、通常利用されている酸化珪素膜を用いることもできる。
ゲイト絶縁膜として機能する酸化窒化珪素膜372を成膜した後、後にゲイト電極として機能する、図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させるのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここでヒロックやウィスカーとは、加熱が行われることによって、アルミニウムの異常成長が発生し、針状或いは刺状の突起部が形成されてしまうことを意味する。
上記アルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として行った。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことで、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。この図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜は、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。
次に、レジストマスク374を形成し、そしてアルミニウム膜を373で示されるパターンにパターニングした。こうして図47(B)に示す状態を得た。次いで再度の陽極酸化を行った。ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン373を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号376で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク374が存在する関係で、アルミニウムパターンの側面に選択的に陽極酸化膜376が形成される。この陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化の時間によって制御することができる。
次いでレジストマスク306を除去した後、さらに、再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜376中に電解溶液が進入する関係から、符号377で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。
この緻密な陽極酸化膜377の膜厚は1000オングストロームとした。この膜厚の制御は印加電圧によって行った。ここで、露呈した酸化窒化珪素膜372と熱酸化膜368をエッチングした。このエッチングはドライエッチングを利用した。次いで、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜376を除去した。こうして図47(D)に示す状態を得た。
その後、不純物イオンの注入を行ったが、ここではNチャネル型の薄膜トランジスタを作製するためにP(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法によって実施した。この工程においては、ヘビードープがされる379と383の領域と、ライトドープがされる380と382の領域が形成される。これは、残存した酸化珪素膜378の一部が半透過なマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。
次いで、紫外線の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。紫外線に代えて赤外線又はレーザー光を用いることもできる。こうしてソース領域379、チャネル形成領域381、ドレイン領域383、低濃度不純物領域380と382が自己整合的に形成された。ここで、符号382で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
なお、緻密な陽極酸化膜377の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚でもってチャネル形成領域381の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例においてもオフセットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいのでその存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になるので図中には記載していない。
次に、層間絶縁膜384として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは酸化珪素膜を形成した。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。そしてコンタクトホールの形成を行い、ソース電極385とドレイン電極386の形成を行った。こうして図47(E)に示す薄膜トランジスタを完成させた。
《実施例54》
本実施例54は、実施例53(図47)に示すのとは異なる工程で薄膜トランジスタを作製した例である。図48に本実施例の作製工程を示す。まず、実施例50又は実施例52に示した工程により、それぞれ、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。次に、それらをパターニングし、さらに酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。以下の工程は、両者共同じである。
次いで、熱酸化膜387を200オングストロームの厚さに成膜し、図48(A)に示す状態を得た。この熱酸化膜387の成膜は、温度950℃の酸素雰囲気中において30分の加熱処理を施すことによって実施した。図48(A)に示す状態において、符号388で示す部分がガラス基板、389が下地膜、390が結晶性珪素膜で構成された活性層である。なお、熱酸化膜387はゲッタリングのための熱酸化膜の除去後に、再度形成された熱酸化膜である。
図48(A)に示す状態を得た後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化窒化珪素膜391を1000オングストロームの厚さに成膜した。この成膜は酸素とシランとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法により実施した。これに代えてTEOSとN2O との混合ガスを用いたプラズマCVD法を用いることもできる。酸化窒化珪素膜391は、熱酸化膜387とともにゲイト絶縁膜を構成する。なお、酸化窒化珪素膜のほかに、酸化珪素膜を用いることもできる。
次いで、後にゲイト電極として機能する図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。その後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として実施した。即ち、この電解溶液中において、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として陽極酸化を行うことにより、アルミニウム膜の表面に緻密な膜質を有する陽極酸化膜を形成させた。
上記図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。次に、レジストマスク392を形成し、そしてアルミニウム膜を符号393で示されるパターンにパターニングした。
次いで、再度の陽極酸化を行ったが、ここでは3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン393を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号394で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成される。この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク392が存在する関係で、アルミニウムパターン393の側面に選択的に陽極酸化膜394が形成される。
上記陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここではその膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は陽極酸化時間によって制御することができる。次いでレジストマスク392を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜394中に電解溶液が進入する関係から、符号395で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成された。
次に、最初の不純物イオンの注入を行った。この不純物イオンの注入によってソース領域396とドレイン領域398が形成される。なお、符号397の領域には不純物イオンは注入されない。次に、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸液を用いて多孔質状の陽極酸化膜394を除去した。こうして図48(D)に示す状態を得た。その後、再度不純物イオンの注入を行った。この不純物イオンは最初の不純物イオンの注入条件よりライトドーピングの条件で実施した。
上記の工程によって、符号399及び400で示すライトドープ領域が形成された。そして、符号401で示される領域がチャネル形成領域となる。次いで、レーザー光又は強光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行うが、ここではレーザー光を照射して実施した。こうしてソース領域396、チャネル形成領域401、ドレイン領域398、低濃度不純物領域399と400が自己整合的に形成された。ここで、符号400で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
次に、層間絶縁膜402として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは窒化珪素膜を形成した。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成して構成してもよい。次いでコンタクトホールの形成を行い、ソース電極403とドレイン電極404の形成を行った。こうして図48(E)に示す薄膜トランジスタを完成させた。
《実施例55》
本実施例55は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができる。また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。図49は本実施例の作製工程を示す図である。
まず、図49(A)に示すように、ガラス基板406上に、下地膜407として酸化珪素膜、或いは酸化窒化珪素膜を成膜する。好ましくは酸化窒化珪素膜を使用するが、ここでは酸化窒化珪素膜を成膜した。次いで、図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法により成膜した。これに代えて減圧熱CVD法を用いてもよい。さらに、実施例50に示した方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した。
次いで、酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理を行った後、得られた結晶性珪素膜をパターニングして、活性層408と409を形成した。こうして図49(A)に示す状態を得た。なお、ここでは、活性層の側面を移動するキャリアの影響を抑制するために、図49(A)に示した状態において、HClを3容量%含んだ窒素雰囲気中で温度650℃、10時間の加熱処理を行った。
活性層408、409の側面に金属元素の存在によるトラップ準位が存在すると、OFF電流特性の悪化を招くので、上記のような処理を行い、活性層の側面における準位の密度を低下させておくことは有用である。次に、ゲイト絶縁膜を構成する熱酸化膜405と酸化窒化珪素膜410を成膜した。ここで、基板として石英を用いる場合には、前述の熱酸化法による熱酸化膜のみによってゲイト絶縁膜を構成することが望ましい。
次いで、後にゲイト電極を構成するための図示しないアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さに成膜した。アルミニウム膜以外の金属としては、陽極酸化可能な金属(例えばタンタル)を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に極薄い緻密な陽極酸化膜を形成した。次に、アルミニウム膜上に図示しないレジストマスクを配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った。そして、得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜413と414を形成した。この多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。
さらに、再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を行い、緻密な陽極酸化膜415と416を形成した。ここで緻密な陽極酸化膜415と416の膜厚は800オングストロームとした。こうして図49(B)に示す状態を得た。さらに露呈した酸化珪素膜410と熱酸化膜405をドライエッチングによって除去し、図49(C)に示す状態を得た。その後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜413と414を除去した。こうして図49(D)に示す状態を得た。
ここで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(リン)イオンが、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンが注入されるようにした。この不純物イオン(Pイオン)の注入によって、高濃度のN型を有するソース領域419とドレイン領域422が自己整合的に形成された。また、低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域420が同時に形成され、同時に、チャネル形成領域421が形成された。
符号420で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜417が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜417を透過したPイオンがゲイト絶縁膜417によって一部遮蔽されるからである。また同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域426とドレイン領域423が自己整合的に形成される。また、低濃度不純物領域425が同時に形成され、同時にチャネル形成領域424が形成される。
なお、緻密な陽極酸化膜415と416の膜厚が2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜415と416の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。次いで、レーザー光の照射を行い、不純物イオンが注入された領域のアニールを行った。なおレーザー光に代えて強光を用ることもできる。
次いで、図49(E)に示すように、層間絶縁膜として窒化珪素膜427と酸化珪素膜428を成膜した。膜の厚さはそれぞれ1000オングストロームとした。なお、酸化珪素膜428は成膜しなくてもよい。こうして窒化珪素膜によって、薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることにより、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。
さらに、樹脂材料からなる層間絶縁膜429をスピンコート法を用いて形成した。層間絶縁膜429の厚さは、ここでは1μmとした。そしてコンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極430とドレイン電極431を形成すると同時に、右側の薄膜トランジスタのソース電極432とドレイン電極431を形成した。ここで、ドレイン電極431は共通に配置されたものとなる。こうして図49(F)に示すNチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した薄膜トランジスタを完成させた。
以上のようにして、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路を構成することができる。本実施例に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化珪素膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られる。この構成により可動イオンや水分が侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。また、さらに多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例56》
本実施例56は、実施例50に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例である。この場合には、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。この場合は、下地膜の形成後にニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素(当該金属元素)が接して保持された状態とする。
本実施例では、下地膜の表面に、酢酸ニッケル塩の水溶液を塗布することで、直接ニッケル元素を導入し、その他の工程については実施例50と同様にして、図45(E)に示すように、含有ニッケル濃度を低減した結晶性珪素膜からなる島状のパターン356を得た。ニッケル元素の導入方法としては、溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、また吸着法等を用いることができる。
《実施例57》
本実施例57は、前記各実施例に対応する図45(E)の状態、図46(E)の状態、図47(A)の状態及び図48(A)の状態において、レーザー光の照射を行うことにより、得られた結晶性珪素膜からなる島状のパターンの結晶性を向上させた例である。本実施例では、それらそれぞれの状態でレーザー光の照射を行い、結晶性珪素膜からなる島状のパターンの結晶性を向上させた。
上記各図45(E)、図46(E)、図47(A)、図48(A)の状態において、レーザー光を照射する場合には、パターニング前の膜全体に対してアニールを施す場合に比較して、比較的低い照射エネルギー密度でもって、所定のアニール効果を得ることができる。これは、小さい面積の箇所にレーザーエネルギーが照射されるので、アニールに利用されるエネルギー効率が高まるためであると考えられる。
《実施例58》
本実施例58は、ガラス基板上にニッケル元素を利用して結晶性珪素膜を得た例である。本実施例では、まずニッケル元素の作用により高い結晶性を有する結晶性珪素膜を得た。そしてレーザー光の照射を行った。このレーザー光の照射を行うことで、膜の結晶性を高めるとともに、局所的に集中して存在しているニッケル元素を膜中に拡散させる。即ちニッケルの固まりを減少又は消滅させた。
次いで、F(フッ素)を含んだ酸化膜を熱酸化法によって、この結晶性珪素膜上に形成した。この時、得られた結晶性珪素膜中に残存したニッケル元素がF元素の作用により熱酸化膜中にゲッタリングされる。この場合、ニッケル元素が先のレーザー光の照射によって分散して存在しているので、効果的にゲッタリングが進行する。さらに上記のようにゲッタリングして高濃度にニッケル元素を含有した熱酸化膜を除去した。このようにすることにより、ガラス基板上に高い結晶性を有していながら、かつニッケル元素濃度の低い結晶性珪素膜を得た。
図50は本実施例の作製工程を示す図である。まずコーニング1737ガラス基板(歪点667℃)433上に、下地膜として酸化珪素膜434を3000オングストロームの厚さに成膜した。この成膜にはスパッタ法を使用した。酸化珪素膜434は、後の工程において、ガラス基板中からの不純物の拡散を防ぐ機能を有する。またガラス基板と後に成膜される珪素膜との間に働く応力を緩和する機能を有する。
下地膜434中にハロゲン元素を微量に含有させておくことは有効である。このようにすると、後の工程において、半導体層中に存在する珪素の結晶化を助長する金属元素を、ハロゲン元素によって、下地膜中にゲッタリングすることができる。また、下地膜の成膜後に水素プラズマ処理を加えることは有効である。これは、下地膜の表面に存在する炭化物を除去し、後に形成される珪素膜との界面に固定電荷の準位が存在することを抑制する効果があるからである。水素プラズマ処理に代わる方法として、酸素と水素とを混合した雰囲気でのプラズマ処理を行うことも有効である。
次に、後に結晶性珪素膜となる非晶質珪素膜435を500オングストロームの厚さに減圧熱CVD法で成膜した。減圧熱CVD法を用いたのは、その方が後に得られる結晶性珪素膜の膜質が優れているからであり、具体的には、膜質が緻密であるからである。なお、減圧熱CVD法以外の方法としては、プラズマCVD法を用いることができる。ここで作製する非晶質珪素膜は、膜中の酸素濃度が5×1017cm-3〜2×1019cm-3であることが望ましい。
これは、後の金属元素(珪素の結晶化を助長する金属元素)をゲッタリングする工程(本実施例の場合はニッケルのゲッタリング工程)において、酸素が重要な役割を果たすからである。ただし、酸素濃度が上記濃度範囲より高い場合は、非晶質珪素膜の結晶化が阻害されるので注意が必要である。また、酸素濃度が上記濃度範囲より低い場合には、金属元素のゲッタリング作用への寄与が小さくなる。また他の不純物濃度、例えば窒素や炭素の不純物濃度は極力低い方がよい。これらは、具体的には2×1019cm-3以下の濃度とすることが好ましい。
この非晶質珪素膜の膜厚の上限は2000オングストローム程度である。これは、後のレーザー光の照射による効果を得るには、あまり厚い膜であることが不利であるからである。厚い膜が不利であるのは、珪素膜に照射されるレーザー光の殆んどは膜の表面において吸収されてしまうことに原因がある。なお、非晶質珪素膜435の膜厚の下限は、成膜方法の如何にもよるが、実用的には200オングストローム程度である。それ以下の膜厚の場合、その膜厚の均一性に問題が出る。
次に、非晶質珪素膜435を結晶化させるための金属元素を導入した。ここでは、珪素の結晶化を助長する金属元素としてニッケル元素を利用し、ニッケル元素の導入方法として、溶液を用いる方法を利用した。ここでは、10ppm(重量)のニッケルを含んだニッケル酢酸塩水溶液を非晶質珪素膜435の表面に塗布することでニッケル元素を導入した。ニッケル元素の導入方法としては、上記の溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらにはプラズマ処理や吸着法を用いることができる。このうち溶液を用いる方法は、簡便であり、また金属元素の濃度調整が簡単であるという点で有用である。
ニッケル酢酸塩水溶液を塗布することにより、図50(A)の436で示されるニッケル酢酸塩水溶液の水膜が形成された。この状態を得た後、図示しないスピナーを用いて余分な溶液を吹き飛ばした。このようにして、ニッケル元素が非晶質珪素膜435の表面に接して保持された状態とした。非晶質珪素膜435に導入されるニッケル元素の量は、水膜436の保持時間や、スピナーを用いたその除去条件によっても調整することができる。
なお、後の加熱工程における不純物の残留を考慮すると、酢酸ニッケル塩水溶液を用いる代わりに、例えば硫酸ニッケル等を用いることが好ましい。これは、酢酸ニッケル塩溶液は炭素を含んでおり、これが後の加熱工程において炭化して膜中、あるいは膜の表面に炭素成分が残留することが懸念されるからである。
次いで、図50(B)に示す状態において、加熱処理を行い、非晶質珪素膜435を結晶化させ、結晶性珪素膜437を得た。ここでは水素を3容量%含んだ640℃の窒素雰囲気中において加熱処理を行い、加熱時間は4時間とした。加熱処理の温度は500〜700℃の範囲の温度で行えるが、ガラス基板の歪点以下の温度で行うことが好ましい。本実施例で用いているコーニング1737ガラス基板の歪点は667℃であることから、その上限は余裕を見て650℃程度とすることが好ましい。
上記の加熱処理による結晶化工程において、雰囲気を還元雰囲気とするのは加熱処理工程中において、酸化物が形成されてしまうことを防止するためである。具体的には、ニッケルと酸素とが反応して、NiOX が膜の表面や膜中に形成されてしまうことを抑制するためである。酸素は、後のゲッタリング工程においてニッケルと結合して、ニッケルのゲッタリングに多大な貢献をすることとなる。しかし、この結晶化の段階で酸素とニッケルとが結合することは、結晶化を阻害するものであることが判明している。従って、この加熱による結晶化の工程においては、酸化物の形成を極力抑制することが重要となる。
また、上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気中の酸素濃度は、ppmオーダー、好ましくは1ppm以下とすることが必要である。上記の結晶化のための加熱処理を行う雰囲気の殆んどを占める気体としては、窒素以外にアルゴン等の不活性ガス、或いはこれらの混合ガスを利用することができる。上記の加熱処理による結晶化工程の後においては、ニッケル元素がある程度の固まりとして残存している。このことは、TEM(透過型電子顕微鏡)による観察から確認された。このニッケルがある程度の固まりで存在しているという事実の原因は明らかではないが、何らかの結晶化のメカニズムと関係しているものと考えられる。
次に、図50C)に示すようにレーザー光の照射を行った。ここではKrFエキシマレーザー(波長248nm)を用い、レーザー光のビーム形状を線状としたものを走査しながら照射する方法を採用した。このレーザー光の照射を行うことで、前述の加熱処理による結晶化の結果、局所的に集中していたニッケル元素がある程度膜437中に分散する。即ち、ニッケル元素の固まりを消滅又は減少させ、ニッケル元素を分散させることができる。上記レーザー光としては、XeClエキシマレーザー(波長308nm)やその他の種類のエキシマレーザーを用いることもできる。またレーザー光ではなく、例えば紫外線や赤外線の照射を行う構成としてもよい。
次に、図50(D)に示す工程において再度の加熱処理を行った。この加熱処理はニッケル元素をゲッタリングするための熱酸化膜を形成するための処理であり、ここでは雰囲気を水素を3容量%、ClF3 を100ppm(容量)含んだ酸素雰囲気とし、この雰囲気中で温度640℃の加熱処理を行った。この工程においては、200オングストロームの厚さに熱酸化膜を形成した。
この工程は、結晶化のために初期の段階で意図的に混入させたニッケル元素を結晶性珪素膜437中から除去するための工程である。この加熱処理は、基板が普通のガラス基板の場合には、500〜700℃程度の温度範囲で行われる。この加熱処理温度の上限は、使用するガラス基板の歪点によって制限され、使用するガラス基板の歪点以上の温度で加熱処理を行うと、基板が変形するので注意が必要である。
この工程において、前述のレーザー光の照射によって分散されたニッケル元素が、形成される酸化膜438中にゲッタリングされて行く。このため酸化膜438中におけるニッケル濃度が他の領域に比較して当然高くなる。また、結晶性珪素膜437の熱酸化膜438との界面近傍においてニッケル元素が高くなる傾向が観察された。これは、ゲッタリングが主に行われる領域が、珪素膜と酸化膜との界面近傍の酸化膜側であることが要因であると考えられる。
また、界面近傍においてゲッタリングが進行するのは、界面近傍の応力や欠陥の存在が要因であると考えられる。また、珪素膜437と熱酸化膜438との界面近傍においてフッ素及び塩素の濃度が高くなる傾向が観察された。このようにして得られた結晶性珪素膜は、珪素の結晶化を助長する金属元素が1×1016cm-3〜5×1018cm-3の濃度で含まれ、フッ素原子が1×1015cm-3〜1×1020cm-3の濃度で含まれ、水素原子が1×1017cm-3〜1×1021cm-3の 濃度で含まれたものとなる。
図50(D)に示す熱酸化膜438の形成が終了した後、ニッケルを高濃度に含んだ該酸化膜438を除去した。この酸化膜438の除去はバッファーフッ酸(その他フッ酸系のエッチャント)を用いたウェットエッチングやドライエッチングを用いて行えるが、ここではバッファーフッ酸によるウェットエッチングを行った。こうして、図50(E)に示すように、含有ニッケル濃度が低減した結晶性珪素膜439が得られた。
得られた結晶性珪素膜439の表面近傍には、比較的ニッケル元素が高濃度に含まれるので、上記の酸化膜438のエッチングをさらに進めて、結晶性珪素膜439の表面を少しオーバーエッチングすることは有効である。また、熱酸化膜438を除去した後に、再びレーザー光を照射して、得られた結晶性珪素膜439の結晶性をさらに助長することは有効である。
《実施例59》
本実施例59は、実施例58に示す構成において、珪素の結晶化を助長する金属元素として、Cuを用いた場合の例である。この場合、Cuを導入するための溶液として、酢酸第2銅〔Cu(CH3 COO)2 〕や塩化第2銅(CuCl2 2H2O)等が用いられるが、ここでは塩化第2銅(CuCl2 2H2O)水溶液を用いた。他の工程は、実施例58に示す工程と同じとし、図50(E)の状態を得た。
《実施例60》
本実施例60は、実施例58とは異なる形態の結晶成長を行わせた例である。本実施例は、珪素の結晶化を助長する金属元素を利用して、横成長と呼ばれる基板に平行な方向への結晶成長を行わせる方法に関する。図51に本実施例の作製工程を示す。
まず、コーニング1737ガラス基板440上に、下地膜441として酸化珪素膜を3000オングストロームの厚さに成膜した。次に結晶性珪素膜の出発膜となる非晶質珪素膜442を減圧熱CVD法によって600オングストロームの厚さに成膜した。この非晶質珪素膜の厚さは、前述したように2000オングストローム以下とすることが好ましい。上記基板としては石英基板等の他の基板を用いてもよい。
次に、図示しない酸化珪素膜を1500オングストロームの厚さに成膜し、それをパターニングすることにより、符号443で示されるマスクを形成した。このマスクは符号444で示される領域に開口が形成されている。この開口444が形成されている領域においては、非晶質珪素膜442が露呈している。開口444は、図面の奥行から手前方向に長手方向の細長い長方形を有している。この開口444の幅は20μm以上とするのが適当であり、その長手方向の長さは必要とする長さでもって形成すればよい。本実施例では、その幅を50μm、長さを8cmとした。
そして、実施例58で示したと同じく、重量換算で10ppmのニッケル元素を含んだ酢酸ニッケル水溶液を塗布した後、スピナーを用いてスピンドライを行い、余分な溶液を除去した。こうして、ニッケル元素が、図51(A)の点線445で示されるように、非晶質珪素膜442の露呈した表面に接して保持された状態が実現された。
次に、水素を3容量%含有した極力酸素を含まない窒素雰囲気中において、温度640℃、4時間の加熱処理を行った。すると、図51(B)の446で示されるような、基板440に平行な方向への結晶成長が進行した。この結晶成長はニッケル元素が導入された開口444の領域から周囲に向かって進行する。このような、基板に平行な方向への結晶成長を、本明細書中、横成長又はラテラル成長と指称している。
本実施例に示すような条件においては、この横成長を100μm以上にわたって行わせることができる。こうして横成長した領域を有する珪素膜447が得られた。なお、開口444が形成されている領域においては、珪素膜の表面から下地界面に向かって縦成長とよばれる垂直方向への結晶成長が進行している。次いで、ニッケル元素を選択的に導入するための酸化珪素膜からなるマスク443を除去した。こうして、図51(C)に示す状態を得た。この状態では、結晶性珪素膜447中に、縦成長領域、横成長領域、結晶成長が及ばなかった領域(非晶質状態)が存在している。
この状態においては、ニッケル元素が膜中に偏在している。特に、開口444が形成されていた領域と符号446で示される結晶成長の先端部分においては、ニッケル元素が比較的高濃度で存在している。次に、レーザー光の照射を行ったが、ここでは実施例58と同様にKrFエキシマレーザーを用いた。この工程により、偏在したニッケル元素を拡散させ、後のゲッタリング工程においてゲッタリングを行い易い状態が得られる。
レーザー光の照射が終了した後、水素を3容量%、NF3 を100ppm(容量)含んだ雰囲気中において、温度650℃での加熱処理を行った。この工程において、ニッケル元素を膜中に高濃度に含んだ酸化膜448を200オングストロームの厚さに形成し、同時に珪素膜447中のニッケル元素濃度が相対的に減少させた。上記加熱処理による熱酸化膜の形成が終了した後、ニッケル元素を高い濃度で含んだ熱酸化膜448を除去した。
上記熱酸化膜448を除去した後、さらに結晶性珪素膜の表面をエッチングすることは有効である。次いで、パターニングを行うことにより、横成長領域からなるパターン449を形成した。このようにして得られた横成長領域からなるパターン449中に残留するニッケル元素の濃度は、実施例58で示した場合に比較して、さらに低いものとすることができる。
これは、横成長領域中に含まれる金属元素の濃度が、そもそも低いことにも起因する。具体的には、横成長領域からなるパターン448中のニッケル元素の濃度を1017cm-3以下のオーダーにすることが容易に可能である。なお、図51(E)に示すパターンを形成した後に、さらにエッチング処理を行い、パターン表面に存在しているニッケル元素を除去することは有用である。
次いで、形成されたパターン449に、熱酸化膜450を形成した。この熱酸化膜の形成は、温度650℃の酸素雰囲気中での加熱処理を12時間行うことにより、200オングストロームの厚さに成膜した。また、この熱酸化膜450を形成する際に、雰囲気中にフッ素を含有させることは有効である。この熱酸化膜450の形成の際に、雰囲気中にフッ素を含有させると、フッ素の作用によりニッケル元素の固定化と珪素膜表面の不対結合手の中和とを行うことができる。即ち、活性層とゲイト絶縁膜との界面特性を向上させることができる。
また、フッ素の代わりに塩素を利用するのでもよい。なお、この熱酸化膜は、薄膜トランジスタを構成するのであれば、後にゲイト絶縁膜の一部となる。またこの後、薄膜トランジスタを作製する場合には、熱酸化膜450を覆って、さらにプラズマCVD法等で酸化珪素膜を成膜し、ゲイト絶縁膜を形成する。
《実施例61》
本実施例61は、本発明により得られた結晶性珪素膜を利用して、アクティブマトリクス型の液晶表示装置やアクティブマトリクス型のEL表示装置の画素領域に配置される薄膜トランジスタを作製した例である。
図52に本実施例の作製工程を示す。まず、実施例58及び実施例60に示した工程により、それぞれ、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。以下の工程は、両者とも同じである。実施例58に示した構成で結晶性珪素膜を得た場合には、それをパターニングすることにより、図50(A)〜(E)に示す工程を経た後、図52(A)に示す状態を得た。
図52(A)に示す状態において、452がガラス基板、453が下地膜、454が結晶性珪素膜で構成された活性層である。図52(A)に示す状態を得た後、酸素と水素を混合した減圧雰囲気でのプラズマ処理を実施した。このプラズマは、高周波放電によって生成させた。このプラズマ処理によって、活性層454の露呈した表面に存在している有機物が除去された。正確には、酸素プラズマによって活性層の表面に吸着している有機物が酸化され、さらに水素プラズマによってこの酸化した有機物が還元、気化される。こうして活性層454の露呈した表面に存在する有機物が除去された。
上記有機物の除去は、活性層454の表面における固定電荷の存在を減少させる上で非常に効果がある。有機物の存在に起因する固定電荷は、デバイスの動作を阻害したり、特性の不安定性の要因となるものであり、その存在を少なくすることは非常に有用である。そのように有機物の除去を行った後、温度640℃の酸素雰囲気中において熱酸化を行い、100オングストロームの熱酸化膜451を形成させた。この熱酸化膜は、半導体層との界面特性が高く、後にゲイト絶縁膜の一部を構成することとなる。こうして図52(A)に示す状態を得た。
その後、ゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜455を1000オングストロームの厚さに成膜した。酸化珪素膜455の成膜は、プラズマCVD法により実施した。この酸化珪素膜455は熱酸化膜451と一体となってゲイト絶縁膜として機能する。なお、酸化珪素膜455中にハロゲン元素を含有させることは有効である。この場合、ハロゲン元素の作用によりニッケル元素を固定化することができる。そして、活性層中に存在するニッケル元素(その他珪素の結晶化を助長する金属元素の場合も同じ)の影響で、ゲイト絶縁膜の絶縁膜としての機能が低下してしまうことを抑制することができる。
次に、後にゲイト電極として機能する、図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜中にスカンジウムを含有させるのは、後の工程において、ヒロックやウィスカーが発生することを抑制するためである。ここでヒロックやウィスカーとは、加熱の際のアルミニウムの異常成長に起因する針状或いは刺状の突起部のことを意味する。
上記のようにアルミニウム膜を成膜した後、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液を用い、アルミニウム膜を陽極、白金を陰極として実施した。この工程においては、アルミニウム膜上に緻密な膜質を有する陽極酸化膜を100オングストロームの厚さに成膜した。この陽極酸化膜は、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。またこの陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御した。
次いで、レジストマスク457を形成し、そしてアルミニウム膜を456で示されるパターンにパターニングした。こうして図52(B)に示す状態を得た。ここで再度の陽極酸化を行った。ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン456を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号459で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成された。
この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク457が存在する関係で、アルミニウムパターン456の側面に選択的に陽極酸化膜459が形成される。この陽極酸化膜459はその膜厚を数μmまで成長させることができる。ここでは、その膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は陽極酸化時間によって制御することができる。
次いで、レジストマスク457を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を行った。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液とした陽極酸化を再び実施した。この工程においては、多孔質状の陽極酸化膜459中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号460で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成された。
この緻密な陽極酸化膜460の膜厚は1000オングストロームとしたが、この膜厚の制御は印加電圧によって行った。次いで、露呈した酸化珪素膜455をエッチングすると同時に、熱酸化膜451をエッチングした。このエッチングにはドライエッチングを利用した。そして酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜459を除去した。こうして図52(D)に示す状態を得た。
この後、不純物イオンの注入を行ったが、ここではNチャネル型の薄膜トランジスタを作製するために、P(リン)イオンの注入をプラズマドーピング法によって行った。この工程においては、ヘビードープがされる462と466の領域とライトドープがされる463と465の領域が形成される。これは、残存した酸化珪素膜461が半透過なマスクとして機能し、注入されたイオンの一部がそこで遮蔽されるからである。
次いで、レーザー光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を実施した。このレーザー光に代えて強光を適用することもできる。こうしてソース領域462、チャネル形成領域464、ドレイン領域466、低濃度不純物領域463と465が自己整合的に形成された。ここで、符号465で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域である。
なお、緻密な陽極酸化膜460の膜厚を2000オングストローム以上というように厚くした場合、その膜厚でもってチャネル形成領域464の外側にオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例においてもオフセットゲイト領域は形成されているが、その寸法が小さいのでその存在による寄与が小さく、また図面が煩雑になるので図中には記載していない。なお、緻密な膜質を有する陽極酸化膜を2000オングストローム以上というように厚く形成するのは、200V以上の印加電圧が必要とされるので注意が必要である。
次に、層間絶縁膜467として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここではその積層膜を形成した。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を用いてもよい。そしてコンタクトホールの形成を行い、ソース電極468とドレイン電極469の形成を行った。こうして図52(E)に示す薄膜トランジスタを得た。
《実施例62》
本実施例62は、実施例61(図52)に示す工程とは異なる工程で薄膜トランジスタを作製した例である。図53に本実施例の作製工程を示す。まず、実施例58及び実施例60に示した工程により、それぞれ、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成した。そしてそれをパターニングすることにより、図53(A)に示す状態を得た。以下の工程は、両者共に同じである。
図53(A)に示す状態を得た後、酸素と水素の混合減圧雰囲気中においてプラズマ処理を行った。図53(A)に示す状態において、471がガラス基板、472が酸化珪素膜からなる下地膜、符号473で示すのが結晶性珪素膜で構成された活性層である。また符号470はゲッタリングのための熱酸化膜を除去した後に、再度形成された熱酸化膜である。次いで、図53(B)に示すように、ゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜474をプラズマCVD法によって1000オングストロームの厚さに成膜した。
酸化珪素膜474は、熱酸化膜470とともに、ゲイト絶縁膜を構成することになる。次に、後にゲイト電極として機能する図示しないアルミニウム膜をスパッタ法で成膜した。このアルミニウム膜中には、スカンジウムを0.2重量%含有させた。アルミニウム膜を成膜した後、その表面に、図示しない緻密な陽極酸化膜を形成した。この陽極酸化膜は、3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として実施した。
上記図示しない緻密な膜質を有する陽極酸化膜の膜厚は100オングストローム程度とした。この陽極酸化膜が、後に形成されるレジストマスクとの密着性を向上させる役割を有している。なお、この陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化時の印加電圧によって制御することができる。次にレジストマスク475を形成した。そしてアルミニウム膜を符号476で示されるパターンにパターニングした。
次いで再度の陽極酸化を行った。ここでは、3重量%のシュウ酸水溶液を電解溶液として用いた。この電解溶液中において、アルミニウムのパターン476を陽極とした陽極酸化を行うことにより、符号477で示される多孔質状の陽極酸化膜が形成された。この工程においては、上部に密着性の高いレジストマスク475が存在する関係で、アルミニウムパターン476の側面に選択的に陽極酸化膜477が形成される。
上記陽極酸化膜は、その膜厚を数μmまで成長させることができる。ここではその膜厚を6000オングストロームとした。なお、その成長距離は、陽極酸化時間によって制御することができる。次いで、レジストマスク475を除去した後、さらに再度の緻密な陽極酸化膜の形成を実施した。即ち、前述した3重量%の酒石酸を含んだエチレングルコール溶液を電解溶液として用いた陽極酸化を再び実施した。すると、多孔質状の陽極酸化膜477中に電解溶液が進入(侵入)する関係から、符号478で示されるように緻密な膜質を有する陽極酸化膜が形成される。
次いで、最初の不純物イオンの注入を行った。ここではNチャネル型の薄膜トランジスタを作製するために、P(リン)イオンに注入を行った。なお、Pチャネル型の薄膜トランジスタを作製するのであれば、B(ホウ素)イオンの注入を行う。この不純物イオンの注入によって、ソース領域479とドレイン領域481が形成される。この時、符号480の領域には不純物イオンが注入されない。次に、酢酸と硝酸とリン酸とを混合した混酸を用いて多孔質状の陽極酸化膜477を除去した。こうして図53(D)に示す状態を得た。
その後、再度不純物イオン(リンイオン)の注入を行った。この不純物イオンは、最初の不純物イオンの注入条件よりライトドーピングの条件(低ドーズ量)で実施した。この工程において、ライトドープ領域482と483が形成され、そして符号484で示される領域がチャネル形成領域となる。
次いで、レーザー光の照射を行うことにより、不純物イオンが注入された領域の活性化を行った。なお、レーザー光に代えて赤外線や紫外線等の強光を照射してもよい。こうしてソース領域479、チャネル形成領域484、ドレイン領域481、低濃度不純物領域482と483が自己整合的に形成された。ここで、符号483で示されるのが、LDD(ライトドープドレイン)領域と称される領域となる。
次いで、層間絶縁膜485として、酸化珪素膜、または窒化珪素膜、またはその積層膜を形成するが、ここでは窒化珪素膜を用いて形成した。層間絶縁膜としては、酸化珪素膜又は窒化珪素膜上に樹脂材料からなる層を形成したものを用いてもよい。そしてコンタクトホールの形成を行い、ソース電極486とドレイン電極487の形成を行い、さらに温度350℃の水素雰囲気中において1時間の加熱処理(水素化加熱処理)を行った。この工程において活性層中の欠陥や不対結合手が中和される。こうして図53(E)に示す薄膜トランジスタを得た。
《実施例63》
本実施例63は、Nチャネル型の薄膜トランジスタとPチャネル型の薄膜トランジスタとを相補型に構成した例である。本実施例に示す構成は、例えば絶縁表面上に集積化された各種薄膜集積回路に利用することができる。また、例えばアクティブマトリクス型の液晶表示装置の周辺駆動回路に利用することができる。図54は本実施例の工程を示す図である。
まず、図54(A)に示すようにガラス基板489上に下地膜490として酸化珪素膜を成膜した。なお、酸化珪素膜に代えて窒化珪素膜を用いてもよい。次いで、図示しない非晶質珪素膜をプラズマCVD法又は減圧熱CVD法によって成膜するが、ここでは前者を用いた。さらに実施例58に示した方法により、この非晶質珪素膜を結晶性珪素膜に変成した。そして酸素と水素の混合雰囲気中においてプラズマ処理をした後、該結晶性珪素膜をパターニングして、活性層491と492を得た。その後、符号488で示される熱酸化膜を形成した。熱酸化膜488の膜厚は100オングストローム程度とした。こうして図54(A)に示す状態を得た。
次に、ゲイト絶縁膜493としての酸化珪素膜を成膜した。そして、後にゲイト電極を構成するための、図示しないアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さにスパッタ法により成膜した。アルミニウム膜以外の金属としては、陽極酸化可能な金属(例えばタンタル)を利用することができる。アルミニウム膜を形成した後、前述した方法により、その表面に図示しない極薄い緻密な陽極酸化膜を形成した。
次に、アルミニウム膜上に、図示しないレジストマスクを配置し、アルミニウム膜のパターニングを行った。そして、得られたアルミニウムパターンを陽極として陽極酸化を行い、多孔質状の陽極酸化膜496と497を形成した。この多孔質状の陽極酸化膜の膜厚は5000オングストロームとした。次いで、図示しないレジストマスクを除去し、さらに再度緻密な陽極酸化膜を形成する条件で陽極酸化を実施した。この工程で緻密な陽極酸化膜498と499を形成した。
ここで緻密な陽極酸化膜498と499の膜厚は800オングストロームとした。こうして図54(B)に示す状態を得た。さらに露呈した酸化珪素膜493と熱酸化膜488をドライエッチングによって除去し、図54(C)に示す状態を得た。その後、酢酸と硝酸とリン酸を混合した混酸を用いて、多孔質状の陽極酸化膜496と497を除去した。こうして図54(D)に示す状態を得た。
ここで、交互にレジストマスクを配置して、左側の薄膜トランジスタにP(リン)イオンが、右側の薄膜トランジスタにB(ホウ素)イオンが注入されるようにし、それらをプラズマドーピング法によって注入した。この不純物イオンの注入によって、高濃度のN型を有するソース領域502とドレイン領域505が自己整合的に形成された。同時に、低濃度にPイオンがドープされた弱いN型を有する領域503が形成され、チャネル形成領域504が同時に形成された。
ここで、符号503で示される弱いN型を有する領域が形成されるのは、残存したゲイト絶縁膜500が存在するからである。即ち、ゲイト絶縁膜500を透過したPイオンがゲイト絶縁膜500によって一部遮蔽されるからである。また同様な原理、手法により、強いP型を有するソース領域509とドレイン領域506が自己整合的に形成された。同時に、低濃度不純物領域508が形成され、またチャネル形成領域507が同時に形成された。
なお、緻密な陽極酸化膜498と499の膜厚が2000オングストロームというように厚い場合には、その厚さでチャネル形成領域に接してオフセットゲイト領域を形成することができる。本実施例の場合は、緻密な陽極酸化膜498と499の膜厚が1000オングストローム以下と薄いので、その存在は無視することができる。
次いで、レーザー光の照射を行い、不純物イオンが注入された領域のアニールを行った。なお、レーザー光に代えて紫外線等の強光を照射してもよい。そして図54(E)に示すように、層間絶縁膜として、窒化珪素膜510と酸化珪素膜511を成膜し、それぞれの膜厚を1000オングストロームとした。なお、酸化珪素膜511は必ずしも成膜しなくてもよい。ここで、窒化珪素膜によって、薄膜トランジスタが覆われることになる。窒化珪素膜は緻密であり、また界面特性がよいので、このような構成とすることで、薄膜トランジスタの信頼性を高めることができる。
さらに、樹脂材料からなる層間絶縁膜512をスピンコート法を用いて形成した。ここでは、層間絶縁膜512の厚さを1μmとした。そしてコンタクトホールの形成を行い、左側のNチャネル型の薄膜トランジスタのソース電極513とドレイン電極514を形成した。同時に右側の薄膜トランジスタのソース電極515とドレイン電極514を形成した。ここで、ドレイン電極514は両者共通に配置されたものとなる。
こうして、図54(F)に示す、相補型に構成されたCMOS構造を有する薄膜トランジスタ回路が構成された。本実施例に示す構成においては、薄膜トランジスタを窒化珪素膜で覆い、さらに樹脂材料によって覆った構成が得られる。この構成により、可動イオンや水分が侵入しにくい耐久性の高いものとすることができる。また、さらに多層配線を形成したような場合に、薄膜トランジスタと配線との間に容量が形成されてしまうことを防ぐことができる。
《実施例64》
本実施例64は、実施例58に示す工程において、下地膜の表面に直接ニッケル元素を導入した例である。この場合、ニッケル元素は非晶質珪素膜の下面に接して保持されることになる。この方法による場合には、下地膜を形成した後に、ニッケル元素の導入を行い、まず下地膜の表面にニッケル元素(当該金属元素)が接して保持された状態とする。
本実施例では、酢酸ニッケル塩の水溶液を下地膜の表面に塗布し、その他の工程は実施例58の場合と同様にして図50(E)に示す状態を得た。このニッケル元素の導入方法としては、そのように溶液を用いる方法のほかに、スパッタ法やCVD法、さらに吸着法を用いることができる。
《実施例65》
本実施例65は、図51(E)の状態、または図52(A)の状態、または図53(A)の状態においてレーザー光の照射を行い、それ以前の工程で得られた結晶性珪素膜からなる島状のパターンの結晶性をさらに向上させた例である。図51(E)、図52(A)、図53(A)の状態においてレーザー光を照射する場合、比較的低い照射エネルギー密度でもって、所定のアニール効果を得ることができる。これは、小さい面積の箇所にレーザーエネルギーが照射されるので、アニールに利用されるエネルギー効率が高まるためであると考えられる。
《実施例66》
本実施例66は、ボトムゲイト型の薄膜トランジスタの作製例に関する。図55に本実施例の薄膜トランジスタの作製工程を示す。まず、ガラス基板516上に下地膜として酸化珪素膜517を成膜した。
次に、適当な金属材料又は金属シリサイド材料等を用いてゲイト電極518を形成するが、ここではアルミニウムを用いた。ゲイト電極518を形成した後、ゲイト絶縁膜として機能する酸化珪素膜519を成膜した。さらに、プラズマCVD法により非晶質珪素膜520を成膜した。次いで、図55(B)に示すように、ニッケル酢酸塩水溶液を塗布し、ニッケル元素が、ニッケル酢酸塩水溶液の液膜として符号521で示されるように、非晶質珪素膜520の表面に接して保持された状態とした。
次に、水素を3容量%含有させた窒素雰囲気中において温度650℃の加熱処理を行い、非晶質珪素膜520を結晶化させた。こうして結晶性珪素膜522を得た。この結晶性珪素膜に対して、HClを5容量%、NF3 を100ppm(容量)含んだ酸素雰囲気中において、温度650℃の加熱処理を行った。この加熱処理によって熱酸化膜523を形成して、図55(C)の状態とした後、この熱酸化膜523を除去した。
次いで、結晶性珪素膜522と酸化珪素膜519をパターニングし、ゲイト絶縁膜525と薄膜トランジスタの活性層526を形成した。さらに図55(D)に示すように、レジストマスク524を配置した。図55(D)の状態で、ソース及びドレイン領域を形成するために不純物イオンの注入を行った。ここでは、Nチャネル型の薄膜トランジスタを作製するためにP(リン)イオンの注入を行った。この工程でソース領域527、ドレイン領域528が形成される。
その後、等方性のアッシングを行い、レジストマスク524を全体的に後退させた。即ち、図55(E)中符号529として示すように、レジストマスク524を全体に小さくする。こうして後退させられたレジストマスク529を得た。次いで、図55(E)の状態において、再度のPイオンの注入を実施した。
この工程は、図55(D)に示す工程におけるPイオンのドーズ量よりも少ないドーズ量でもって行った。こうして、符号530と531で示される低濃度不純物領域を形成した。次に、金属電極532と533を形成した。ここで電極532はソース電極となり、電極533はドレイン電極となる。こうしてボトムゲイト型の薄膜トランジスタが完成した。
《実施例67の前提となる態様》
図56〜図57は、薄膜トランジスタ(TFT)の作製工程の説明図であり、後述実施例67におけるTFT作製工程の説明図でもある。そこで、まず図56〜図57に基づき、実施例67の前提である発明の具体的態様例を説明する。
図56(A)には、ガラス基板534上に、下地膜535、非晶質珪素膜536が順次に積層され、非晶質珪素膜536の表面にはニッケル(Ni)層537が形成されている。この状態で、加熱処理することにより、図56(B)に示すように非晶質珪素膜536が結晶化されて、結晶性珪素膜538が形成される。本態様ではニッケル層537を形成する工程は必須の工程ではないが、ニッケルは結晶化に必要な熱エネルギを下げる触媒として機能するため、結晶化処理の加熱温度を下げ、かつ処理時間を短縮することが可能になる。
このような触媒元素としては、ニッケル(Ni)の他に、Fe、Co、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Auから選ばれた少なくともの1種の元素を使用できるが、ニッケルがその触媒効果が最も顕著である。なお、ニッケル元素を使用せずに、公知の技術等を使用して結晶性珪素膜を形成することも可能である。また、結晶化工程としては、加熱処理の代わりに、レーザー光を照射するようにしてもよい。さらに、結晶性珪素膜を形成した後に、レーザー光や赤外光等による光アニールや、熱アニールを実施してもよい。
図56(C)には熱酸化工程が図示されている。結晶性珪素膜538の表面に熱酸化膜539が成長するに従って、即ちSiーO結合が形成されるに従って、未結合状態のSiが生成される。この余剰のSiは、熱酸化膜539と結晶性珪素膜538との界面から、結晶性珪素膜538内部に拡散し、結晶粒界に存在するSiのダングリングボンドと結合して、結晶性珪素膜538の結晶粒界の欠陥がパッシベーションされる。これにより結晶性珪素膜538によって構成されるTFTの移動度を向上させることができる。
また、以降の加熱を伴う作製工程において、欠陥をパッシベーションしているSiは、Hのように容易に結晶性珪素膜538から離脱することがないため、水素プラズマ処理を不要にすることができる。例えば、本発明に係る半導体装置の作製方法に従って作製されたNチャネルTFTに関して、水素プラズマ処理した後の移動度は、水素プラズマ処理前の移動度よりも10〜20%のみ増加する。これは、熱酸化工程において結晶性珪素膜538の欠陥が十分にパッシベーションされていることを示唆しており、また作製工程間に、欠陥をパッシベーションしているSiが離脱しないことも示唆している。
本発明における熱酸化工程の目的は、結晶性珪素膜の粒界の欠陥をパッシベーションするためのSiを供給するためであり、結晶性珪素膜538がTFTの活性層を構成することを考慮すると、熱酸化膜539は耐圧性等の膜質を考慮せずに、200〜500オングストローム程度の膜に成長させれば良い。また、本発明では、ガラス基板等にTFTを作製することを意図しているため、熱酸化工程は、加熱によって生ずる基板の歪みや、変形等が許容可能な条件下で実施する必要がある。例えば、加熱温度の上限はガラス基板の歪点を目安にすればよい。
本態様においては、熱酸化工程はフッ素化合物が添加された酸化性雰囲気中で実施される。具体的には、酸素ガスにNF3 ガス等を添加した雰囲気中で熱酸化する。NF3 ガスの濃度を適宜に調節することにより、ガラス基板の歪み点以下の温度で、数時間〜10数時間加熱することで、数100オングストロームの膜厚に熱酸化膜を成長させることが可能である。
NF3 ガスのようにフッ素ラジカルを供給するガスの他に、HClのようにClラジカルを供給するガスを酸化性雰囲気に添加することにより、熱酸化膜の成長が促進されるが、ガラス基板の歪点以下の温度、例えば500〜600℃程度の加熱で、数100オングストロームの膜厚に熱酸化膜を形成するには時間を要するため適当でない。酸素ガスにNF3 ガスが450ppm添加された酸化性雰囲気中では、温度600℃で4時間加熱することにより、200オングストローム程度の熱酸化膜を形成することが可能である。
また、熱酸化工程おいて、フッ素ラジカルは結晶性珪素膜538の表面の凸部に集中して供給されるため、該凸部が熱酸化が最も進行して、凹部の熱酸化は抑制される。また、熱酸化膜539は高濃度にフッ素を含有するため、応力が緩和されるので、結晶性珪素膜538の表面には、凸部が丸められた状態で熱酸化膜539が均一の厚さで形成される。
熱酸化工程は、基板の歪みや変形等が許容範囲となるにように、加熱温度、加熱時間を決定する必要があるため、熱酸化雰囲気中のフッ素化合物の濃度が増大してしまう場合もある。この結果、熱酸化膜538に多量のフッ素が含まれて、SiーF結合が形成されてしまう慮れがある。しかし、熱酸化膜539は結晶性珪素膜の粒界の欠陥をパッシベーションするSiを供給するために成長された膜であり、しかも、後で除去されるべき膜として形成されているため、その特性はゲイト絶縁膜のような高機能・高信頼性は要求されず、熱酸化膜539に存在するSiーF結合等の不安定性や耐圧性は問われない。
図56(D)は、熱酸化膜539を除去した後に、結晶性珪素膜538をパターニングして形成された活性層540とゲイト絶縁膜541を示した図である。ゲイト絶縁膜541を形成するには熱酸化法を採用することも可能であるが、ガラス基板について、その変形が許容できる程度の低温度で熱酸化して得られる熱酸化膜は膜質が優れていない。このため、本態様においては、所定の特性を有するゲイト絶縁膜を安定的に得るために、プラズマCVD法やスパッタリング法等の堆積法でゲイト絶縁膜を成膜する。
本態様では、熱酸化工程を経ることによって、活性層540(結晶性珪素膜538)の表面は平坦化されているため、ゲイト絶縁膜は、これを堆積法で成膜しても、被覆性を良好にして形成することができる。このため、ゲイト絶縁膜と活性層との界面準位を低下させることが可能になる。
また、レーザー光を照射して得られた結晶性珪素膜は結晶性に優れているが、その表面には急峻な凸部を有するリッジが形成され、例えば、膜厚が700オングストローム程度の非晶質珪素膜を加熱して珪素化した後に、レーザーアニールを実施すると、その表面には100〜300オングストローム程度の高さを有するリッジが形成される。
例えば、酸素ガスにNF3 ガスを450ppm程度添加した雰囲気中で、12時間熱酸化して、膜厚500オングストローム程度の熱酸化膜を形成することによって、結晶性珪素膜表面の高低差を数10オングストローム程度にすることも可能である。従って、レーザー光により結晶化された結晶性珪素膜の表面にも、CVD法により絶縁膜を被覆性良好に堆積することができる。
図57(A)は、不純物イオンをドーピングする工程を図示したものである。ゲイト電極542はマスクとして機能して、ソース領域544、ドレイン領域545、チャネル領域546が自己整合的に形成される。さらに、図57(B)に示すように、層間絶縁膜547、電極548、549が形成されて、TFTが完成される。
《実施例67》
本実施例67は、珪素の結晶化を助長する金属元素の触媒作用を利用して結晶化した珪素膜を使用してTFTを作製した例である。図56及び図57は、本実施例におけるTFTの作製工程の説明図であり、各工程毎の断面図である。本実施例においては、当該金属元素としてニッケルを使用した。
図56(A)に示すように、ガラス基板534(コーニング1737、歪点667℃)上に、下地膜535として酸化珪素膜を3000オングストロームの厚さにプラズマCVD法又は減圧熱CVD法で成膜する。次にプラズマCVD法又は減圧熱CVD法により、実質的に真性(I型)な非晶質珪素膜536を700〜1000オングストロームの厚さに成膜する。ここでは上記両成膜に減圧熱CVD法を用い、非晶質珪素膜536の膜厚を700オングストロームとした。
酸化性雰囲気中において、UV(紫外線)光を非晶質珪素膜536の表面に照射して、その表面に図示しない酸化膜を数20オングストロームの厚さに形成した後に、その酸化膜の表面にニッケル元素を含有する溶液を塗布した。該酸化膜は非晶質珪素膜538表面の濡れ性を改善して、溶液が弾かれるのを抑制するためのものである。本実施例では、ニッケル元素を含有する溶液として、ニッケルの含有量(重量)が55ppmのニッケル酢酸塩水溶液を用いた。
本実施例では、スピナーによって、ニッケル酢酸塩溶液を塗布して、乾燥し、ニッケル層537を形成した。ニッケル層537は完全な膜を成しているとは限らないが、この状態で、上記図示しない酸化膜を介して、ニッケル元素が非晶質珪素膜536の表面に接して保持されている。なお、該溶液としてはニッケル塩の希薄溶液を用いるのがよいが、好ましくはニッケルの含有量が1〜100ppm程度の濃度の溶液として用いることができる。
ここで、非晶質珪素膜中におけるニッケル濃度が1×1016原子/cm-3以下であると、結晶化を助長する効果を得ることが困難である。他方、ニッケル濃度が5×1019原子/cm3 以上であると、得られた珪素膜の半導体としての特性が損なわれて、金属としての特性が表われてしまう。このため最終的に得られる珪素膜中における平均ニッケル濃度が1×1016〜5×1019原子/cm3 となるように、予めニッケル酢酸溶液中のニッケルの濃度や、塗布回数、塗布量等の工程条件を設定する。なお、ニッケルの濃度はSIMS(2次イオン質量分析方法)で計測すればよい。
図56(A)のように非晶質珪素膜536の表面にニッケル元素が保持された状態において、図56(B)に示すように、窒素雰囲気中で加熱処理して、非晶質珪素膜536を結晶化させて、結晶性珪素膜538を形成した。珪素を結晶化させるには、450℃以上の温度で加熱する必要があるが、450℃〜500℃程度の温度では、非晶質珪素膜を結晶化させるのに数10時間以上要するので、550℃以上の温度で加熱することが望ましい。なお、図56(B)に示す結晶化工程に限らず、加熱温度は加熱によって生ずるガラス基板の変形や縮みが許容できる範囲とする必要がある。
加熱温度の上限の基準は、例えば、基板の歪み点とすればよい。本実施例では歪点が667℃のガラス基板534を使用しているため、加熱温度を620℃として、4時間加熱した。この加熱により、ニッケルが非晶質珪素膜536の表面から、下地膜535との界面へ向かって、ガラス基板534の面にほぼ直交する方向に拡散するのに伴って、珪素の結晶成長が進行して、結晶性珪素膜538が形成される。この結晶成長はガラス基板534に垂直な方向に進行する。このような結晶過程を縦成長と指称する。
なお、必要であれば、結晶化工程後に、レーザー光や赤外光、或いは紫外光による光アニールや、熱アニールを実施して、結晶性珪素膜538の結晶性をより向上させてもよい。また光アニールと熱アニールとを併用してもよい。ただし、レーザーアニールを実施する場合には、レーザー光によって、熱エネルギを結晶性珪素膜538に効果的に供与するために、結晶性珪素膜538の出発膜である非晶質珪素膜536の膜厚は1000オングストローム以下、好ましくは700〜800オングストローム程度とする。
次に、フッ素原子を含有する酸化雰囲気中で加熱することにより、結晶性珪素膜538の表面に熱酸化膜539を200〜500オングストロームの膜厚に形成する。本実施例では、酸素ガス中にNF3 を400ppm(容量)添加した雰囲気中で600℃の温度で4時間加熱し、熱酸化膜539を200オングストローム程度の膜厚に形成した。
この結果、結晶性珪素膜538の膜厚は、熱酸化膜539形成前に700オングストローム程度であったものが、600オングストローム程度となった。結晶性珪素膜538は、最終的にTFTの活性層を構成することとなるため、必要な厚さの活性層を得ることができるように、酸化膜539の膜厚をも考慮して、非晶質珪素膜536の膜厚を決定しておく必要がある。
結晶性珪素膜538の表面に熱酸化膜539が形成されるに従って、未結合状態のSiが生成される。この余剰のSiは熱酸化膜539と結晶性珪素膜538との界面から、結晶性珪素膜538の内部に拡散して、結晶粒界に存在するSiのダングリングボンドと結合して、結晶性珪素膜538の結晶粒界の欠陥密度が減少される。また、以降の加熱を伴う作製工程において、欠陥をパッシベーションしているSiは、Hのように容易に結晶性珪素膜538から離脱することがないため、結晶性珪素膜538はTFT等の半導体装置の材料に好適である。
また、結晶性珪素膜538の表面は、凸部と凹部の酸化速度の違いのために、凸部が丸められ、平坦化される。なお、前記のように、結晶性珪素膜538にレーザー光を照射した場合には、その表面にリッジが形成されているため、そのリッジが可能な限り平坦化され、除去できるように、熱酸化工程後の結晶性珪素膜538の膜厚を考慮して、熱酸化膜539の膜厚やNF3 ガス濃度等の熱酸化の工程条件を設定すればよい。
次いで、図56(D)に示すように、エッチングによって熱酸化膜539を除去する。このエッチングに際しては、酸化珪素と珪素とのエッチングレートの高いエッチング液又はエッチングガスを使用する。エッチャントとしては好ましくはバッファーフッ酸、その他のフッ酸系のエッチャントが使用されるが、本実施例では、バッファーフッ酸によるウェットエッチングにより熱酸化膜539を除去した。
次いで、結晶性珪素膜538を島状にパターニングしてTFTの活性層540を形成した後、ゲイト絶縁膜541として酸化珪素膜を1000オングストロームの厚さにプラズマCVD法で成膜した。活性層540の表面は熱酸化工程において、平坦化されているため、ゲイト絶縁膜541を被覆性良好に堆積することできる。その後、ゲイト絶縁膜541の表面に、図示しないスカンジウムを微量に含有したアルミニウム膜を6000オングストロームの厚さに電子ビーム蒸着法で成膜して、図56(E)に示すようにパターニングしてゲイト電極542を形成した。
そして、電解溶液中において、ゲイト電極542を陽極として陽極酸化を行うことにより、酸化物層543を形成した。この場合には、3重量%の酒石酸を含有するエチレングリコール溶液中で、ゲイト電極542を陽極とし、白金を陰極として、電圧を印加することにより、緻密な構造を有する陽極酸化物層543を2000オングストロームの厚さに形成した。なお、陽極酸化物543の膜厚は電圧の印加時間で制御可能であり、本実施例でも、これにより制御した。
次に、図57(A)に示すように、ソース領域544、ドレイン領域545を形成するために、イオン注入法或いはプラズマイオン注入法等により、活性層540に一導電型を付与する不純物イオンを注入する。Nチャネル型のTFTを形成する場合には、H2 ガスにより1〜10%(容量)に希釈されたフォスフィンを使用して、P(リン)イオンを活性層540に注入する。他方、Pチャネル型TFTを作製する場合には、同じく1〜10%(容量)に希釈されたジボランを使用してB(ホウ素)イオンを注入する。本実施例ではイオン注入法により、それぞれPイオン及びBイオンを注入し、それぞれNチャネル型及びPチャネル型のTFTを作製した。
不純物イオンが活性層540に注入されると、ゲイト電極542とその周囲の陽極酸化物543がマスクとして機能して、不純物イオンが注入された領域がソース領域544及びドレイン領域545として画定され、不純物イオンが注入されない領域がチャネル546として画定される。なお、ソース領域544、ドレイン545の不純物イオンの濃度が3×1019〜1×1021原子/cm3 となるように、ドーズ量、加速電圧等のドーピング条件を制御する。また、ドーピング後にレーザー光を照射して、ソース領域544、ドレイン領域545に注入された不純物イオンを活性化させる。
次に、図57(B)中、層間絶縁膜547として示すように、酸化珪素膜を7000オングストロームの厚さにプラズマCVD法により成膜した。次いで、コンタクトホールを形成し、アルミニウムを主成分とする材料により、それぞれソース領域544及びドレイン領域545と接続される電極548、549を形成した。
最後に、温度300℃で水素プラズマ処理を行うことにより、図57(B)に示す薄膜トランジスタを完成させた。なお、この水素プラズマ処理は活性層540の欠陥をパッシベーションするのではなく、活性層540とアルミニウムから成る電極548、549との界面のパッシベーションを主な目的とする。
本実施例の作製工程に従って作製されたPチャネル型のTFTの電界効果移動度は、水素プラズマ処理を実施する前と、水素プラズマ処理を実施した後とで大きなきな変化はなかった。これは、図56(C)に示す熱酸化工程にパッシベーションの効果がないのではなく、上述したように、水素プラズマ処理のみのパッシベーションでは、Pチャネル型TFTの電界効果移動度が顕著に改善されないことから予想されるように、Pチャネル型TFTにおいては、活性層540の結晶粒界の欠陥をパッシベーションすることは、電界効果移動度を改善する最良の手段ではないためであると考えられる。
他方、本実施例の作製工程に従って作製されたNチャネル型のTFTは、水素プラズマ処理を実施する前では、電界効果移動度は200cm2 ・V-1・s-1であったが、水素プラズマ処理を実施した後では、電界効果移動度は10〜20%程度の増加のみであった。この事実は、従来、Nチャネル型TFTは水素プラズマ処理をしないと実用にならなかったが、本実施例のように、NF3 を添加して熱酸化処理をするのみで、実用可能なNチャネル型TFTを作製することが可能である、ことを示唆している。
即ち、水素プラズマ処理において、水素によってパッシベーションされた活性層540の結晶粒界の欠陥はあまり多くなく、結晶粒界の欠陥の多くは図56(C)に示す熱酸化工程においてパッシベーションされていることを示している。従って、本実施例の水素プラズマ処理によりパッシベーションされる欠陥の殆んどは熱酸化工程以降に生ずる欠陥であり、主に、電極548、549を形成した際に生じた欠陥である。また、本実施例では、活性層540の結晶粒界の欠陥はSiでパッシベーションされている。Siは、Hのように熱的な影響によって容易に活性層から離脱しないので、本発明によって耐熱性に優れた高信頼性のTFTを形成することができる。
《実施例68》
本実施例68は、珪素の結晶化を助長する金属元素の触媒作用を利用して結晶化した珪素膜を使用してTFTを作製した例である。図58及び図59は、本実施例のTFTの作製工程の説明図であり、工程毎の断面図である。本実施例では金属元素としてニッケルを使用した。
図58(A)に示すように、ガラス基板550(コーニング1737、歪点667℃)上に、下地膜551として酸化珪素膜を3000オングストロームの厚さにプラズマCVD法又は減圧熱CVD法で成膜する。ここではプラズマCVD法を用いた。次に、プラズマCVD法又は減圧熱CVD法により、実質的に真性な非晶質珪素膜552を700〜1000オングストロームの厚さに成膜した。ここでは、プラズマCVD法により、非晶質珪素膜552の膜厚を1000オングストロームに形成した。
酸化性雰囲気中において、UV(紫外線)光を非晶質珪素膜552の表面に照射して、その表面に、図示しない酸化膜を数20オングストロームの厚さに形成した。この酸化膜は非晶質珪素膜552の表面の濡れ性を改善して、溶液が弾かれるのを抑制するためのものである。次いで、上記図示しない酸化膜の表面に、1500オングストロームの膜厚の酸化珪素膜から成る開孔部(開口部)554を有するマスク膜553を形成した。
上記開孔部554は紙面に垂直な方向(手前から奥行方向)に長手方向のスリット状の形状を有する。開孔部554の幅は20μm以上とするのが適当で、他方、長手方向の寸法は基板寸法等に合わせて適宜に決定する。ここではその幅を50μm、長手方向の長さを3cmとした。
次に、スピナーによって、ニッケル元素を55ppm(重量)含有するニッケル酢酸塩溶液を塗布して、乾燥し、ニッケル層555を形成した。ニッケル層555は完全な膜を成しているとは限らないが、この状態では、マスク膜553の開孔部554において、図示しない酸化膜を介して、ニッケル元素が非晶質珪素膜552の表面に接して保持されている。なお、該溶液としてはニッケル塩の希薄溶液を用いるのがよいが、好ましくはニッケルの含有量が1〜100ppm(重量)程度の範囲の濃度の溶液として用いることができる。
次いで、温度620℃で4時間加熱して、非晶質珪素膜552を結晶化し、結晶性珪素膜556を形成した。この加熱によって、非晶質珪素膜552においてマスク膜553の開孔部554において露出された領域557の表面から下地膜551に向かって、結晶が縦成長するため、領域557は縦成長領域となる。
一方、領域558においては、縦成長領557を起点にして、図58(B)中矢印で指示するように、基板550の面と平行に結晶成長が進行する。このように一方向に結晶成長する結晶化過程を横成長と指称する。従って、結晶珪素膜556中の領域558は横成長領域である。
その後、酸化珪素膜から成るマスク膜553を除去した。次に、図58(C)に示すように、フッ素原子を含有する酸化雰囲気中で加熱することにより、結晶性珪素膜556の表面に熱酸化膜559を200〜500オングストロームの膜厚に形成する。なお、必要であれば、該熱酸化工程前に、レーザー光や赤外光による光アニールや、熱アニールを実施して、結晶性珪素膜556の結晶性をより向上させてもよい。また光アニールと熱アニールとを併用してもよい。
本実施例における上記熱酸化工程は、酸素雰囲気中にNF3 ガスを450ppm(容量)添加した雰囲気中で、600℃の温度で12時間加熱して、熱酸化膜559を500オングストローム程度の膜厚に形成した。この結果、結晶性珪素膜556の膜厚は、熱酸化工程前に1000オングストローム程度であったものが、750オングストローム程度となった。
結晶性珪素膜556の表面に熱酸化膜559が形成されるに従って、未結合状態のSiが生成される。このSi原子は結晶性珪素膜556の結晶粒界においてSiのダングリングボンドと結合して、結晶性珪素膜556の欠陥がパッシベーションされる。1000オングストロームの膜厚の結晶性珪素膜556に対して酸化珪素膜559を500オングストローム程度形成することで、結晶性珪素膜556の結晶粒界の欠陥密度を十分に減少させることができる。
次に、図58(D)に示すように、エッチングによって熱酸化膜559を除去した。このエッチング工程においては、酸化珪素と珪素とのエッチングレートの高いエッチング液、或いはエッチングガスを使用する。本実施例では、バッファーフッ酸を使用したウェットエッチングにより熱酸化膜559を除去した。
次いで、図58(E)に示すように、結晶性珪素膜556を島状にエッチングしてTFTの活性層560を形成した。この場合、活性層560は横成長領域558のみで構成されるようにすると良い。次に、活性層560の表面にゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜561をプラズマCVD法又は減圧CVD法によって成膜するが、ここでは減圧CVD法を用いた。
さらに、酸化珪素膜561の表面に、ゲイト電極562を構成するアルミニウム膜を、スパッタ法により5000オングストロームの厚さに堆積させた。アルミニウムには、予めスカンジウムを少量含有させておくと、後の加熱工程等においてヒロックやウィスカーが発生するのを抑制することがてきるが、ここではスカンジウムを0.2重量%含有させた。
次いで、アルミニウム膜の表面を陽極酸化して、図示しない緻密な陽極酸化物を極薄く形成した後、アルミニウム膜の表面にレジストのマスク563を形成した。この場合、アルミニウム膜の表面に、該図示しない緻密な陽極酸化物が形成されているため、マスク563を密着させて形成することができる。次に、レジストのマスク563を用いて、アルミニウム膜をエッチングして、図58(E)に示すようにゲイト電極562を形成した。
さらに、図59(A)に示すように、レジストのマスク563を残したまま、ゲイト電極562を陽極酸化して、多孔質の陽極酸化物564を4000オングストロームの厚さに形成した。この場合、ゲイト電極562の表面にレジストのマスク563が密着しているため、多孔質の陽極酸化物564はゲイト電極562の側面のみに形成される。
次に、図59(B)に示すように、レジストのマスク563を剥離した後に、ゲイト電極562を電解溶液中で再び陽極酸化して、緻密な陽極酸化物565を1000オングストロームの厚さに形成した。上記陽極酸化物564及び565の作り分けには、使用する電解溶液を変えればよい。このうち、多孔質の陽極酸化物564を形成する場合には、例えばクエン酸、シュウ酸、クロム酸又は硫酸を3〜20重量%程度含有した酸性溶液を使用すればよく、ここではシュウ酸5重量%の酸性水溶液を用いた。
他方、緻密な陽極酸化物565を形成する場合には、例えば酒石酸、ほう酸又は硝酸を3〜10重量%程度含有するエチレングリコール溶液をPHを7程度に調整した電解溶液を使用すればよい。ここでは酒石酸5重量%のエチレングリコール溶液をPH=7に調整して用いた。
次に、図59(C)に示すように、ゲイト電極562及びその周囲の多孔質の陽極酸化物564、緻密な陽極酸化物565をマスクにして、酸化珪素膜561をエッチングして、ゲイト絶縁膜566を形成した。次いで、図59(D)に示すように、多孔質の陽極酸化物564を除去した後に、イオンドーピング法により、ゲイト電極562、緻密な陽極酸化物565及びゲイト絶縁膜566をマスクにして、活性層560に導電型を付与する不純物を注入した。
本実施例では、Nチャネル型TFTを形成するために、ドーピングガスにフォスフィンを使用して、P(リン)イオンをドーピングした。なお、ドーピングの際に、ゲイト絶縁膜564は半透過なマスクとして機能するように、ドーズ量、加速電圧等の条件を制御する。上記ドーピングの結果、ゲイト絶縁膜564に覆われていない領域は高濃度に燐(P)イオンが注入されて、ソース領域567、ドレイン領域568を形成した。
一方、ゲイト絶縁膜566のみに覆われている領域には、低濃度にPイオンが注入されて、低濃度不純物領域569、570が形成された。またゲイト電極562の直下の領域には不純物が注入されないため、チャネル領域571が形成された。ドーピイング工程の後に、熱アニール、レーザアニール等を実施して、ドーピイングされたPイオンを活性化するが、ここでは熱アニールを適用した。
低濃度不純物領域569、570は高抵抗領域として機能するため、オフ電流の低減に寄与する。特に、ドレイン568側の低濃度不純物領域570はLDDと呼ばれている。また、緻密な陽極酸化物564を十分に厚くすることにより、ゲイト電極562の端面から不純物領域がずれているオフセット構造とすることができため、オフ電流をより低減させることができる。
次いで、図59(E)に示すように、プラズマCVD法により、層間絶縁物572として酸化珪素膜を5000オングストロームの厚さに成膜した。なお、層間絶縁物572として、酸化珪素膜の単層膜の代わりに、窒化珪素膜の単層膜、または酸化珪素膜と窒化珪素膜の積層膜を形成してもよい。
次に、エッチング法によって酸化珪素膜から成る層間絶縁物572をエッチングして、ソース領域567及びドレイン領域568のそれぞれにコンタクトホールを形成した後、アルミニウム膜を4000オングストロームの厚さにスパッタリング法により成膜した。これをパターニングして、ソース領域567及びドレイン領域568のコンタクトホールに電極573、574を形成した。
最後に、水素雰囲気中で300℃の温度で加熱処理した。なお、この水素プラズマ処理は活性層560の欠陥をパッシベーションするのではなく、活性層560とアルミニウムから成る電極573、574との界面のパッシベーションを主な目的とする。以上の工程を経て、図59(E)に示ように、世LDD構造を有するTFTを作製した。
本実施例の作製工程に従って作製したNチャネル型のTFTにおいては、水素プラズマ処理を実施した後の電界効果移動度は、水素プラズマ処理を実施する前の10〜20%程度の増加のみであった。これは、従来、Nチャネル型TFTは水素プラズマ処理をしないと実用にならないが、前記図58(C)の工程のように、NF3 を添加する熱酸化処理のみで、活性層560の結晶粒界の欠陥が効果的にパッシベーションされていることを示唆している。
《実施例69》
本実施例69は、Nチャネル型TFTとPチャネル型TFTとを相補的に組み合わせたCMOS型のTFTを作製した例である。図60〜図61は本実施例のTFTの作製工程の説明図である。
まず、図60(A)に示すように、ガラス基板(コーニング1737)575上に、2000オングストロームの膜厚の酸化珪素膜から成る下地膜576を形成した。次いで、プラズマCVD法又は減圧熱CVD法により真性(I型)の非晶質珪素膜を700オングストロームの厚さに形成した。そして、実施例67に示す方法によって結晶性珪素膜577を形成した。なお、実施例68の方法や、加熱処理、レーザー照射等の適当な結晶化方法によって非晶質珪素膜を結晶化してもよく、これらの場合にも、以下の工程は同じである。
図60(B)に示すように、NF3 の濃度が400ppmである酸素雰囲気中で600℃の温度で2時間熱酸化して、熱酸化膜578を200オングストロームの膜厚に形成して、結晶性珪素膜577の結晶粒界の欠陥をSiでパッシベーションした。この結果、結晶性珪素膜577はTFT等の半導体材料として好適なものとなる。
次に、バッファーフッ酸からなるエッチャントを使用して、熱酸化膜578を除去した後に、結晶性珪素膜577を島状にパターニングして、それぞれ活性層579、活性層580を形成した。さらに、プラズマCVD法により、ゲイト絶縁膜を構成する酸化珪素膜581を厚さ1500オングストロームに堆積した。なお、活性層579はNチャネル型TFTを構成するものであり、活性層580はPチャネル型TFTを構成するものである。
次に、スパッタ法により、ゲイト電極582、583を構成するアルミニウム膜を4000オングストロームの厚さに堆積した。アルミニウム膜には、予めスカンジウムを0.2重量wt%含有させて、ヒロックやウィスカーが発生するのを抑制した。次に、アルミニウム膜を電解液中で陽極酸化して、表面に100オングストローム程度の緻密な陽極酸化膜584を形成した。次いで、その陽極酸化膜表面にフォトレジストのマスク585を形成して、アルミニウム膜をパターニングして、ゲイト電極582、583をそれぞれ形成した。
さらに、フォトレジストのマスク585を着けたままで、ゲイト電極582、583を再度陽極酸化して、陽極酸化物586、587を形成した。電解溶液には例えばクエン酸、シュウ酸、クロム酸又は硫酸を3〜20重量%含有した酸性溶液を使用すればよい。本実施例では4重量%シュウ酸水溶液を使用した。
ゲイト電極582、583の表面には、フォトレジストのマスク585と陽極酸化膜584が存在する状態では、ゲイト電極582、583の側面のみに多孔質の陽極酸化物586、587が形成される。この多孔質の陽極酸化物586、587の成長距離は、陽極酸化の処理時間で制御することができ、この成長距離は低濃度不純物領域(LDD領域)の長さを決定する。本実施例では多孔質の陽極酸化物586、587を7000オングストロームの長さに成長させた。
次に、フォトレジストのマスク585を除去した後、再びゲイト電極582、583を陽極酸化して、図61(E)に示すように、緻密で強固な陽極酸化膜588、589を形成した。本実施例では、その電解溶液として3重量%酒石酸のエチレングリコール溶液をアンモニア水でPH6.9に中和して使用した。
次に、ゲイト電極582、583及び多孔質の陽極酸化物586、587をマスクにして、イオンドーピング法により、島状の活性層579、580にP(リン)イオンを注入した。ドーピングガスとして、水素で1〜10容量%に希釈したフォスフィンを用いた。ドーピングは、加速電圧を60〜90kVとし、ドーズ量を1×1014〜8×1015原子/cm2 となるようにするが、本実施例では加速電圧を80kV、ドーズ量を1×1015原子/cm2とした。
この際には、燐(P)イオンはゲイト電極582、583、多孔質の陽極酸化物586、587を透過しないが、ゲイト絶縁膜581を透過して、島状シリコン589、580に注入される。この結果、図61(E)に示すようにN型の不純物領域590〜593がそれぞれ形成される。
次いで、図61(E)〜(F)に示すように、緻密な陽極酸化膜584をバッファーフッ酸で除去した後に、燐酸、酢酸及び硝酸を混合した混酸で、多孔質の陽極酸化物586、587を除去した。多孔質の陽極酸化物586、587は容易に除去できるため、緻密で強固な陽極酸化物588、589がエッチングされることはない。
次に、再び燐イオンをドーピングした。加速電圧は60〜90kVとし、ドーズ量は1×1012〜1×1014原子/cm2 とするが、本実施例では、加速電圧を80kV、ドーズ量を1×1014原子/cm2 とした。この場合、燐イオンはゲイト電極582、583を透過しないが、ゲイト絶縁膜581を透過して活性層579、580に注入される。従って、燐イオンが2度注入される領域はN型の高濃度不純物領域594〜597となり、燐イオンが1度注入される領域は、N型の低濃度不純物領域598〜601となる。
図61(G)に示すように、ポリイミド又は耐熱性レジスト602でNチャネルTFTとなる領域を被覆するが、ここではポリイミドを用いた。その後、活性層580の導電型をN型からP型に反転させるために、硼素イオンをイオンドーピングした。ドーピングガスには水素により1〜10容量%程度に希釈されたジボランを使用し、加速電圧を80kVとし、硼素のドーズ量は2×1015原子/cm2 とした。
ポリイミド602で被覆された領域は、硼素が注入されないためN型のまま残存している。従って、活性層579において、高濃度不純物領域594、595はそれぞれNチャネル型TFTのソース領域、ドレイン領域に相当し、またゲイト電極582の直下の領域603は燐イオン及び硼素イオンが注入されず、真性のままであり、TFTのチャネルに相当する。
硼素イオンのドーピングでは、硼素の注入量が多いため、低濃度不純物領域(LDD領域)は形成されず、P型の高濃度不純物領域604、605のみが形成される。高濃度不純物領域604、605は、それぞれ、Pチャネル型TFTのソース領域、ドレイン領域に相当する。また、ゲイト電極583の直下の領域606は、燐イオン及び硼素イオンが注入されないために、真性のままであり、TFTのチャネルとなる。
続いて、レジスト602を除去して、図61(H)に示すように、厚さ1μmの酸化珪素膜を層間絶縁膜607としてプラズマCVD法により形成し、これにコンタクトホールを形成した。このコンタクトホールに、チタンとアルミニウムの多層膜により、ソース領域及びドレイン領域の電極、配線608〜610を形成した。最後に、温度350℃の水素雰囲気中において、2時間の加熱処理を行った。以上の工程を経て、CMOS薄膜トランジスタが完成された。
本実施例では、N型TFTとP型トランジスタを相補的に組み合わせたCMOS構造を形成するため、TFTを駆動する際に、低電力化が図れる。また、Nチャネル型TFTのチャネル603とドレイン領域595の間に低濃度不純物領域599を配置する構成としたため、チャネル603とドレイン595の間に高電界が発生することを防止することができる。
なお、NF3 を添加した熱酸化工程の条件は、以上実施例67〜69の記載に限定されるものではなく、熱酸化工程で生ずるTFTが形成される基板の歪みや変形等が許容範囲となるようにするため、ガラス基板の歪み点以下の温度で、数時間加熱して、数100オングストロームの膜厚に熱酸化膜が成長するように、酸素雰囲気中のNF3 の濃度等を決定すればよい。また、石英基板等の高耐熱性の基板を用いる場合には、より高温の条件でも実施される。
また、実施例67〜69においてガラス基板には、歪み点が667℃であるコーニング1737ガラスを使用したため、熱酸化工程での加熱温度を600℃としたが、例えば、その歪み点が593℃のガラスを用いる場合には、熱酸化工程での加熱温度は好ましくは500〜550℃程度にすればよい。
《応用例》
本発明の半導体装置は、各種多様の電気機器の表示装置や各種集積回路、或いは従来のIC回路に代わる回路用等に応用される。図62〜図63はそのうちの幾つかを例示したものである。図62(A)は携帯情報端末機であり、図62(B)は内視鏡からの画像を見たり、自動車の教習やクレーンの模擬訓練等に利用されるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)であり、図62(C)はカーナビである。また、図61(D)は携帯電話であり、図63(E)はビデオカメラであり、図61(F)はプロゼクションである。本発明の半導体装置は、これらとは限らず、各種多様の電気機器の表示装置用、従来のIC回路に代わる回路用、各種集積回路用等に使用される。