JP2004120834A - Dcブラシレスモータの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】モータコントローラは、ロータ角度の推定値(θ^)を用いて、Id電流に対するフィードバック制御(Id−FB)とIq電流に対するフィードバック制御(Iq−FB)を、異なる制御サイクルで交互に実行する。そして、モータコントローラは、Id電流及びIq電流に対するフィードバック制御を実行する制御サイクルにおけるId実電流及びIq実電流の変化量とd軸電圧及びq軸電圧のレベルとに基づいて、ロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θe)の2角の正弦値に応じた正弦参照値と余弦値に応じた余弦参照値を算出し、該正弦参照値と余弦参照値を用いてロータ角度を検出する。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、DCブラシレスモータのロータ角度をロータの位置検出センサを用いることなく検知して、該モータの作動を制御するモータ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
DCブラシレスモータを駆動して所望のトルクを得るためには、磁極を有するロータの電気角(以下、ロータ角度という)に対応した適切な位相で電機子に電圧を印加する必要がある。そして、ロータ角度を検出する位置検出センサを省いてDCブラシレスモータと駆動装置のコストダウンを図るべく、位置検出センサを用いずにロータ角度を検出する種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、いわゆるdq座標系によりDCブラシレスモータの制御を行うモータ制御装置において、一方の軸方向に推定用交流信号電圧を印加したときに、他方の軸側に生じる電流によりロータ角度を検知する方法が記載されている。
【0004】
また、本願発明者らも、先の出願(特願2001−288303)において、位置検出センサを用いずにロータ角度を検出するロータ角度検出装置を提案している。かかるロータ角度検出装置においては、突極型のDCブラシレスモータの3相の電機子に印加する駆動電圧に高周波電圧を重畳したときに、該3相の電子機のうちの第1相に流れる電流の検出値及び第2相に流れる電流の検出値と、該高周波電圧に応じた高周波成分とを用いて、該モータのロータ角度の2倍角の正弦値に応じた正弦参照値と該2倍角の余弦値に応じた余弦参照値とを算出する。
【0005】
そして、該正弦参照値と余弦参照値に基づいて、ロータ角度を初期追従性良くモータパラメータの影響をほとんど受けることなくロータ角度を検出することができる。
【0006】
しかし、このように、ロータ角度を検知するために駆動電圧に高周波電圧を重畳したときに、モータから耳障りなノイズが発生する場合がある。また、駆動用の電圧に交流信号電圧を重畳するためには、モータに駆動電圧を出力するインバータの容量を大きくする必要がある。さらに、モータの電流フィードバックの制御系とロータ角度の検知系の応答が干渉することを防ぐため、ローパスフィルタにより電流フィードバック系とロータ角度の検知系の応答を分離する必要があるが、ローパスフィルタを設けることにより、電流フィードバック系の応答性が悪化するおそれがある。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−323099号公報
【特許文献2】
特開平11−332279号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、駆動電圧に高周波電圧を重畳してロータ角度を検知する際に生じる種々の不都合を解消して、位置検出センサを用いることなくロータ角度を検知する機能を有するDCブラシレスモータの制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
先ず、本発明について説明する前に、本発明の基本的な考え方を図1を参照して説明する。図1(a)に示したように、突極型のロータ2を使用した場合、ロータ2とU,V,Wの各電機子3,4,5間のギャップの磁気抵抗は周期的に変化し、その変化はロータ2が1回転する間に2回、すなわちロータ2が半回転する間に1周期分変化する。そして、該磁気抵抗は、ロータ2が図中▲1▼の位置となったときに最大となり、ロータ2が図中▲2▼の位置となったときに最小となる。
【0010】
図1(a)の磁気回路を模式的に表したものが図1(b)であり、前記磁気抵抗の1周期あたりの平均値が0.5であると仮定すると、U,V,Wの各相における磁気抵抗Ru,Rv,Rwは、以下の式(8)〜式(10)で示される。
【0011】
【数8】
【0012】
【数9】
【0013】
【数10】
【0014】
このとき、U相からみたギャップの磁気抵抗Rguは、以下の式(11)により求めることができる。
【0015】
【数11】
【0016】
そのため、U相が単位巻線であると仮定すると、U相の自己インダクタンスLuは以下の式(12)により求めることができる。
【0017】
【数12】
【0018】
またU,W相間の相互インダクタンスMuwと、U,V相間の相互インダクタンスMuvは、磁気回路の構成より、それぞれ以下の式(13),式(14)により求めることができる。
【0019】
【数13】
【0020】
【数14】
【0021】
V相、W相についても、同様にして自己インダクタンスと相互インダクタンスを求めることができ、これらにより、突極性を有するDCブラシレスモータの電圧方程式は、各相の自己インダクタンスの直流分をl、lの変動分をΔl、各相間の相互インダクタンスの直流分をmとすると、以下の式(15)で表すことができる。
【0022】
【数15】
【0023】
但し、Vu、Vv,Vw:U、V、Wの各相の電機子に印加される電圧、Iu,Iv,Iw:U,V,Wの各相の電機子に流れる電流、r:U,V,Wの各相の電機子の電気抵抗、ω:ロータ2の電気角速度、Ke:誘起電圧定数である。
【0024】
さらに、電気角速度ωがほぼ0で誘起電圧やロータ2の角速度変化による影響が小さく、抵抗rによる電圧降下も無視できるレベルである場合には、前記式(15)は、以下の式(16)により近似することができる。
【0025】
【数16】
【0026】
ここで、上記式(16)を相間電流、電圧による式に変形すると、以下の式(17)が得られる。
【0027】
【数17】
【0028】
また、上記式(17)のインダクタンス行列は正則であるので、上記式(17)を以下の式(18),式(19)の形に変形することができる。
【0029】
【数18】
【0030】
【数19】
【0031】
さらに、ロータ角度の推定値(θ^)を用いて、以下の式(20),式(21)で表される3相/dq変換を上記式(15)に施すと、ロータ角度の推定値(θ^)と実際値(θ)が等しい(θ^=θ)場合、以下の式(22)が得られる。
【0032】
【数20】
【0033】
【数21】
【0034】
【数22】
【0035】
【数23】
【0036】
【数24】
【0037】
ここで、上記式(18)におけるロータ角度(θ)が、ロータ角度の実際値からθeだけずれた推定値である場合には、該推定値を用いて3相/dq変換されたId^,Iq^,Vd^,Vq^と、ロータ角度の実際値を用いて変換されたId,Iq,Vd,Vqとの間に、以下の式(25),式(26)の関係が成り立つ。
【0038】
【数25】
【0039】
【数26】
【0040】
但し、θe:ロータ角度の実際値と推定値の位相差。
【0041】
したがって、以下の式(27)の関係式が導かれる。
【0042】
【数27】
【0043】
そして、上記式(16)の場合と同様に、電気角速度ωがほぼ0で、誘起電圧やロータ2の角度変化による影響が小さく、抵抗rによる電圧降下も無視できるレベルである場合は、上記式(27)は、以下の式(28)で近似することができる。
【0044】
【数28】
【0045】
以上の説明を基礎として本発明を以下に説明する。本発明は、DCブラシレスモータを、該モータの界磁の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と、q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有する等価回路に変換して扱い、前記モータの電機子に流れる電流を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出された電流値と前記モータのロータ角度とに基づいて、前記q軸電機子に流れるq軸実電流と前記d軸電機子に流れるd軸実電流とを算出するdq実電流算出手段と、前記q軸電機子に流れる電流の指令値であるq軸指令電流と前記q軸実電流との偏差であるq軸電流偏差と、前記d軸電機子に流れる電流の指令値であるd軸指令電流と前記d軸実電流との偏差であるd軸電流偏差とを小さくするように、前記d軸電機子に印加するd軸電圧と前記q軸電機子に印加するq軸電圧とを生成して、前記モータの電機子の通電量をフィードバック制御する通電制御手段とを備えたDCブラシレスモータの制御装置の改良に関する。
【0046】
そして、前記通電制御手段は、所定の制御サイクルで前記モータの電機子の通電量をフィードバック制御し、前記d軸電圧と前記q軸電圧を座標軸とする直交座標系において各座標軸の単位ベクトルの1次結合により表され、且つ、互いに平行でない2以上の方向に対して、各方向ごとに、異なる制御サイクルにおいて、前記dq実電流算出手段により前記モータのロータ角度の推定値(θ^)に基づいて算出されたd軸実電流とq軸実電流とを用いて、前回の制御サイクルにおいて生成されたd軸電圧とq軸電圧とを成分とするベクトルを該方向に射影したベクトルの大きさが、前記d軸電流偏差と前記q軸電流偏差に応じて該方向に沿って増減するように、今回の制御サイクルにおけるd軸電圧とq軸電圧とを生成する1方向のフィードバック制御を実行し、各方向に対して前記1方向のフィードバック制御を実行する制御サイクルにおけるd軸実電流及びq軸実電流の変化量とd軸電圧及びq軸電圧のレベルとに基づいて、前記モータのロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θ−θ^)の2倍角の正弦値に応じた正弦参照値と、該位相差(θ−θ^)の2倍角の余弦値に応じた余弦参照値とを算出する参照値算出手段と、該正弦参照値と該余弦参照値とに基づいて前記モータのロータ角度を検出するロータ角度検出手段を備えたことを特徴とする。
【0047】
かかる本発明において、上記式(28)における微分区間を前記制御サイクルの長さ(ΔT)とし、ロータ角度の推定値(θ^)に基づいて前記dq電流算出手段により算出された制御サイクルiにおけるd軸実電流とq軸実電流の変化量をそれぞれΔId^(i),ΔIq^(i)とすると、上記式(28)の左辺は以下の式(29)で表される。
【0048】
【数29】
【0049】
そのため、制御サイクルiにおけるd軸電圧とq軸電圧をそれぞれVd^(i),Vq^(i)とすると、上記式(28)を以下の式(30)で表すことができる。
【0050】
【数30】
【0051】
したがって、制御サイクルiについての上記式(30)と制御サイクルi+1についての上記式(30)を辺々減算すると、以下の式(31)が得られる。
【0052】
【数31】
【0053】
但し、ΔId^(i+1):制御サイクルi+1におけるd軸実電流の変化量、ΔId^(i):制御サイクルiにおけるd軸実電流の変化量、ΔIq^(i):制御サイクルi+1におけるq軸実電流の変化量、ΔIq^(i):制御サイクルiおけるq軸実電流の変化量、dVd^(i):制御サイクルiにおけるd軸電圧の変化量、dVq^(i):制御サイクルiにおけるq軸電圧の変化量。
【0054】
したがって、制御サイクルiにおけるd軸実電流の変化量(ΔId^(i))とq軸実電流の変化量(ΔIq^(i))とd軸電圧の変化量(dVd^(i))とq軸電圧の変化量(dVd^(i))、及び制御サイクルiの次の制御サイクルi+1におけるd軸実電流の変化量(ΔId^(i+1))とq軸実電流の変化量(ΔIq^(i+1)))を上記式(31)に代入することによって、未知数であるL0、L1sin2θe、及びL1cos2θeについての2つの関係式を得ることができる。
【0055】
そして、以下の式(32)のd軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)の1次結合により表される方向に対して前記1方向のフィードバック制御を実行すると、上記式(31)の形の関係式を1つ得ることができる。
【0056】
【数32】
【0057】
但し、k1,k2:結合係数。
【0058】
したがって、上記式(32)で表される互いに平行でない2以上の方向について、異なる制御サイクルにおいて前記1方向のフィードバック制御を実行すると、3つの未知数L0,L1sin2θe,L1cos2θeに対して、4つ以上の独立した関係式が得られる。そのため、これらの関係式から前記正弦参照値としてL1sin2θeを求めることができ、また、前記余弦参照値としてL1cos2θeを求めることができる。そして、例えば以下の式(33)により、ロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θe)を算出して、ロータ角度の実際値を検知することができる。
【0059】
【数33】
【0060】
そして、本発明によれば、モータの電機子電流のフィードバック制御を実行する際のd軸実電流及びq軸実電流の変化量とd軸電圧及びq軸電圧のレベルを用いてロータ角度を検知するため、ロータ角度を検知するために特別な電圧をモータの駆動電圧に重畳する必要がない。したがって、ロータ角度検出用の高周波電圧を駆動電圧に重畳したときに生じ得る耳障りなノイズが発生することがない。また、モータの電流フィードバック系とロータ角度の検知系の応答が干渉することを防止するために、ローパスフィルタを設ける必要もない。
【0061】
なお、前記モータの低回転域では、モータの電機子電流のフィードバック制御系の応答はあまり速くなくてもよい。そのため、前記1方向のフィードバック制御を異なる制御サイクルで行うことにより、モータの電機子電流のフィードバック制御を行なっても問題は生じないと考えられる。
【0062】
また、本発明は、前記2以上の方向を、d軸電圧とq軸電圧を座標軸とする直交座標系の2つの座標軸方向としたことを特徴とする。
【0063】
かかる本発明によれば、d軸電圧の軸方向に対して前記1方向フィードバック制御を実行すると、該1方向のフィードバック制御を実行する制御サイクルにおけるq軸電圧の変化量は0となる。したがって、d軸電圧の軸方向に対する前記1方向のフィードバック制御を制御サイクルi1で実行したときは、上記式(31)は以下の式(34)の形で表される。
【0064】
【数34】
【0065】
一方、q軸電圧の軸方向に対して前記1方向のフィードバック制御を実行すると、該1方向のフィードバックを実行する制御サイクルにおけるd軸電圧の変化量は0となる。したがって、q軸電圧の軸方向に対する前記1方向のフィードバック制御を制御サイクルi2で実行したときは、上記式(31)は以下の式(35)の形で表される。
【0066】
【数35】
【0067】
そのため、上記式(34),式(35)から、3つの未知数L1sin2θe,L1cos2θe,L0に関する簡単な関係式を4つ得ることができる。そして、これらの関係式から、前記正弦参照値としてL1sin2θeを容易に算出することができ、また、前記余弦参照値としてL1cos2θeを容易に算出することができる。
【0068】
また、以下の式(36)のようにおくと、上記式(34)は以下の式(37)の形に表すことができ、上記式(35)は以下の式(38)の形に表すことができる。
【0069】
【数36】
【0070】
【数37】
【0071】
【数38】
【0072】
そして、上記式(37)と式(38)をまとめて以下の式(39)の形で表すことができる。
【0073】
【数39】
【0074】
したがって、前記正弦参照値をVs^、前記余弦参照値をVc^、L0をVl^とすると、上記式(39)から以下の式(40)を得ることができる。そして、前記ロータ角度検出手段は、以下の式(40)により、正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)を容易に算出することができる。
【0075】
【数40】
【0076】
また、上記式(40)における行列D ̄の成分のデータを予めメモリに記憶しておくことにより、前記ロータ角度検出手段は、d軸電圧の軸方向に対する前記1方向のフィードバック制御により得られるd軸実電流とq軸実電流の2階差分(ddI^(i1))及びd軸電圧の変化量(dVd^(i1))と、q軸電圧の軸方向に対する前記1方向のフィードバック制御により得られるd軸実電流とq軸実電流の2階差分(ddI^(i2))及びq軸電圧の変化量(dVq(i2))と、メモリに記憶された行列D ̄の成分のデータとの簡易な積和演算処理により、正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)を算出することができる。
【0077】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態の一例について図1〜図3を参照して説明する。図1はDCブラシレスモータの構成図、図2は図1に示したDCブラシレスモータの作動を制御するモータコントローラの制御ブロック図、図3は1方向のフィードバック制御のタイミングチャートである。
【0078】
図2に示したモータコントローラ10は、図1に示した突極型のDCブラシレスモータ1(以下、モータ1という)の電機子3,4,5に流れる電流をフィードバック制御するものであり、モータ1をロータ2の界磁極の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と該q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有するdq座標系による等価回路に変換して扱う。
【0079】
そして、モータコントローラ10は、外部から与えられるd軸指令電流(Id_c)とq軸指令電流(Iq_c)とに応じて、d軸電機子に流れる電流(以下、d軸電流という)とq軸電機子に流れる電流(以下、q軸電流という)をフィードバック制御する。
【0080】
モータコントローラ10は、d軸電機子への印加電圧(以下、d軸電圧という)とq軸電機子への印加電圧(以下、q軸電圧という)とを、モータ1のU,V,Wの3相の電機子に印加する電圧の指令値(Vu_c,Vv_c,Vw_c)に変換するdq/3相変換部20、及び該指令値(Vu_c,Vv_c,Vw_cに応じた電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ1のU,V,Wの各相の電機子にそれぞれ印加するよう複数のスイッチング素子をブリッジ接続したインバータ回路からなるパワードライブユニット21を備える。
【0081】
さらに、モータコントローラ10は、モータ1のU相の電機子に流れる電流を検出するU相電流センサ22(本発明の電流検出手段に相当する)、モータ1のW相の電機子に流れる電流を検出するW相電流センサ23(本発明の電流検出手段に相当する)、U相電流センサ22の検出電流値(Iu_s)とW相電流センサ23の検出電流値(Iw_s)とからd軸電流の検出値であるd軸実電流(Id_s)とq軸電流の検出値であるq軸実電流(Iq_s)とを算出する3相/dq変換部24(本発明のdq実電流算出手段に相当する)、d軸実電流(Id_s)とq軸実電流(Iq_s)とd軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)とに基づいてモータ1のロータ角度(θ)を検出する角度検出部25(本発明の参照値算出手段及びロータ角度検出手段に相当する)、及びd軸とq軸間で干渉し合う速度起電力の影響を打消す処理を行なう非干渉演算部26を備える。
【0082】
モータコントローラ10は、d軸指令電流(Id_c)とd軸実電流(Id_s)を第1減算器27で減算し、その減算結果に第1のPI演算部28でPI(比例積分)処理を施し、第1加算器29で非干渉成分を加算して、d軸指令電流(Id_c)とd軸実電流(Id_s)の偏差に応じたd軸電圧(Vd)を生成する。
【0083】
また、モータコントローラ10は、同様にして、q軸指令電流(Iq_c)とq軸実電流(Iq_s)を第2減算器30で減算し、その減算結果に第2のPI演算部31でPI処理を施し、第2加算器32で非干渉成分を加算して、q軸指令電流(Iq_c)とq軸実電流(Iq_s)との偏差に応じたq軸電圧(Vq)を生成する。
【0084】
そして、モータコントローラ10は、d軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)とをdq/3相変換部20に入力する。これにより、パワードライブユニット21を介して、d軸指令電流(Id_c)とd軸実電流(Id_s)との偏差、及びq軸指令電流(Iq_c)とq軸実電流(Iq_s)との偏差を小さくする3相電圧(Vu,Vv,Vw)がモータ1の電機子に印加されて、モータ1の電機子に流れる電流がフィードバック制御される。
【0085】
なお、第1減算器27、PI演算部28、第1加算器29、PI演算部31、dq/3相変換部20、及びパワードライブユニット21により、本発明の通電制御手段が構成される。
【0086】
ここで、dq/3相変換部20によりd軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)を3相の電圧指令(Vu_c,Vv_c,Vw_c)に変換する際には、モータ1のロータ角度(θ)が必要となる。また、3相/dq変換部24によりU相電流センサ22の検出電流値(Iu_s)とW相電流センサ23の検出電流値(Iw_s)をd軸実電流(Id_s)とq軸実電流(Iq_s)に変換する際にも、モータ1のロータ角度(θ)が必要となる。
【0087】
そして、モータコントローラ10は、レゾルバ等の位置検出センサを用いずに、d軸電流のみに対するフィードバック制御(本発明の1方向のフィードバック制御に相当する)とq軸電流のみに対するフィードバック制御(本発明の1方向のフィードバック制御に相当する)を異なる制御サイクルで実行することにより、ロータ角度(θ)の検出処理を行う。以下、モータコントローラ10によるロータ角度(θ)の検出処理について図3を参照して説明する。
【0088】
図3は、モータコントローラ10により実行されるd軸電流とq軸電流の1方向のフィードバック制御のタイミングチャートを示したものであり、縦軸が電圧(V)、横軸が時間(t)である。
【0089】
モータコントローラ10は、図3(a)に示したように、所定の制御サイクル(ΔT)で、d軸電流のみに対するフィードバック制御(図中Id_FB)とq軸電流のみに対するフィードバック制御(図中Iq_FB)を交互に実行する。図3に示した例では、d軸電流のみに対するフィードバック制御を制御サイクルT11,T13,T15で実行し、q軸電流のみに対するフィードバック制御を制御サイクルT12,T14で実行している。
【0090】
ここで、角度検出部25は、モータ1のロータ角度を検出するときは、ロータ角度の推定値(θ^)をdq/3相変換部20と3相/dq変換部24に出力する。そして、該推定値(θ^)を用いて、dq/3相変換部20は3相の電圧指令値(Vu_c,Vv_c,Vw_c)を算出し、3相/dq変換部24はd軸実電流(Id_s)とq軸実電流(Iq_s)を算出する。
【0091】
そして、d軸電流のみに対するフィードバック制御を実行する制御サイクル(T11,T13,T15)においては、q軸電圧(Vq)は前回の制御サイクルにおける電圧が維持されるため変化しない。そのため、ロータ角度の推定値(θ^)を用いたd軸電流のみに対するフィードバック制御が制御サイクルi1で実行されると、上記式(34)の関係が成立する。
【0092】
また、q軸電流のみに対するフィードバック制御を実行する制御サイクル(T12,T14)においては、d軸電圧(Vd)は前回の制御サイクルにおける電圧が維持されるため変化しない。そのため、ロータ角度の推定値(θ^)を用いたq軸電流のみに対するフィードバック制御が制御サイクルi2で実行されると、上記式(35)の関係が成立する。
【0093】
そして、角度検出部25は、上記式(34)と式(35)から得られる上記式(40)の演算を実行して、ロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θe)の2倍角に応じた正弦参照値(Vs^=L1sin2θe)と余弦参照値(Vc^=L1cos2θe)を算出する。
【0094】
ここで、上記式(40)の行列D ̄を計算すると、以下の式(41)となる。
【0095】
【数41】
【0096】
そこで、モータコントローラ10のメモリ(図示しない)には、上記式(41)における行列D ̄の成分のデータが予め記憶されている。そして、角度検出部25は、該成分データを用いて上記式(41)の演算を行うことにより、正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)の算出時間を短縮している。
【0097】
そして、角度検出部25は、上記式(33)によりロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θe)を算出し、これにより、ロータ角度の実際値(θ=θ^+θe)を検出する。
【0098】
なお、位相差(θe)を用いて、オブザーバによる追従演算によってロータ角度の推定値(θ^)の推定誤差が0に収束するように修正することも可能である。以下、オブザーバによるロータ角度の推定値(θ^)の修正処理について説明する。
【0099】
モータ1が一定の角速度で回転しているとすると、制御サイクル(ΔT)ごとのロータ角度(θ)と角速度(ω)との関係は以下の式(42)で表される。
【0100】
【数42】
【0101】
但し、θ(n)とω(n)はそれぞれある制御サイクルにおけるロータ角度と角速度であり、θ(n+1)とω(n+1)はそれぞれ該制御サイクルの次の制御サイクルにおけるロータ角度と角速度である。
【0102】
そして、上記式(42)で表されるモデルのシミュレータに、ロータ角度の推定値(θ^)と角速度の推定値(ω^)を入力し、ロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θe)に演算ゲインK1,K2,K ̄によるゲインを乗じてフィードバックする以下の式(43)又は式(44)に示した演算を行う。
【0103】
【数43】
【0104】
【数44】
【0105】
上記式(43),式(44)は、シミュレータのモータも一定の角速度で回転するものとして仮定して、位相差によるフィードバックを行った定常回転モータモデルに対するオブザーバとなっている。そして、上記式(43),式(44)により、ロータ角度の推定値(θ^)を実際値(θ)に収束させることができる。
【0106】
なお、上記式(44)の平方演算は時間がかるので、以下の式(45)により近似してもよい。
【0107】
【数45】
【0108】
また、上記式(43),式(44)において、以下に示す式(46)のように、offsetを加えて、算出されるロータ角度の推定値(θ^)の位相を強制的にずらすことによって、ロータ角度の検出誤差を減少させてもよい。
【0109】
【数46】
【0110】
また、本実施の形態では、図3(a)に示したように、d軸電流のみに対するフィードバック制御とq軸電流のみに対するフィードバック制御を1制御サイクルごとに交互に行なう例を示したが、d軸電圧のみが変化してq軸電圧の変化量が0となる制御サイクルと、q軸電圧のみが変化してd軸電圧の変化量が0となる制御サイクルがあれば、上記式(41)により正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)を算出することができる。
【0111】
そのため、例えば、図3(b)に示したように、d軸電流のみに対するフィードバック制御の次にq軸電流のみに対するフィードバック制御を2制御サイクル連続して実行してもよい。
【0112】
また、本実施の形態では、本発明の1方向フィードバック制御を、d軸電圧の軸方向とq軸電圧の軸方向について行ったが、特にこれらの方向に限定する必要はない。すなわち、上記式(32)に示したd軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)の1次結合により表される互いに平行でない2以上の方向(v)に対して、1方向フォードバック制御を実行することにより、正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)を算出することができる。
【0113】
図2を参照して、非干渉演算部26による作用を無視すると、ある制御サイクルにおけるd軸電圧(Vd_new)とq軸電圧(Vq_new)は、以下の式(47),式(48)により算出される。
【0114】
【数47】
【0115】
【数48】
【0116】
但し、Kp:比例ゲイン係数、Ki:積分ゲイン係数。
【0117】
そのため、前回の制御サイクルにおいて生成されたd軸電圧をVd_old、q軸電圧をVq_oldとすると、今回の制御サイクルにおけるd軸電圧の変化量(dVd’)とq軸電圧の変化量(dVq’)は、以下の式(49),式(50)で表される。
【0118】
【数49】
【0119】
【数50】
【0120】
ここで、上記式(49),式(50)によるd軸電圧の変化量(dVd’)とq軸電圧の変化量(dVq’)を成分とするベクトルは任意の方向を取り得る。そのため、上記式(32)で表される方向(v)に対してのみ電流フィードバック制御を行うには、先ず、以下の式(51)によりd軸指令電圧の変化量(dVd’)とq軸指令電圧の変化量(dVq’)の該方向(v)への射影成分(dV)を求める。
【0121】
【数51】
【0122】
そして、以下の式(52),式(53)により、今回の制御サイクルにおけるd軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)を算出すればよい。
【0123】
【数52】
【0124】
【数53】
【0125】
以上説明したように、d軸電圧とq軸電圧の1次結合で表される方向についてのみ電流フィードバックの結果を反映させることは容易である。そして、2以上の互いに平行でない方向について、電流フィードバック制御を行えば、dq座標平面上の任意の点にd軸電流とq軸電流を制御することができる。
【0126】
以下、v1〜vnまでのn方向(n≧2)について、各方向に対する電流フィードバック制御を異なる制御サイクルに行った場合の正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)の算出方法について説明する。
【0127】
各方向(v1〜vn)が以下の式(54)により、d軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)の1次結合により表される場合、任意のj(1≦j≦n)に対して、上記式(31)により以下の式(55)が成立する。
【0128】
【数54】
【0129】
【数55】
【0130】
但し、上記式(55)におけるdv(j)は以下の式(56)で表される。
【0131】
【数56】
【0132】
したがって、各方向(v1〜vn)についての上記式(56)をまとめると、以下の式(57)が得られ、また、式(57)を変形して以下の式(58)が得られる。
【0133】
【数57】
【0134】
【数58】
【0135】
そして、各方向(v1〜vn)に対して、異なる制御サイクルで電流フィードバック制御を実行したときのd軸実電流及びq軸実電流の2階差分ddI^(1)〜ddI^(n)とd軸電圧及びq軸電圧の変化量dv(1)〜dv(n)を、上記式(58)に代入することによって、正弦参照値(Vs^)と余弦参照値(Vc^)を算出することができる。
【0136】
例えば、2方向について本発明の1方向フィードバック制御を行なう場合は、上述したd軸電圧とq軸電圧の軸方向の他に、以下の式(59)により表される2方向を選択すると、上記式(58)における行列C ̄とD ̄は、以下の式(60),式(61)となる。
【0137】
【数59】
【0138】
【数60】
【0139】
【数61】
【0140】
また、以下の式(62)により表される3方向について、本発明の1方向フィードバック制御を行なう場合は、上記式(58)における行列C ̄とD ̄は、以下の式(63),式(64)となる。
【0141】
【数62】
【0142】
【数63】
【0143】
【数64】
なお、モータ1の電気的又は機械的パラメータによっては、電流フィードバック系の応答だけでは正弦参照値(Vs)及び余弦参照値(Vc)を計算するために十分なd軸実電流(Id_s)及びq軸実電流(Iq_s)の変化量が生じない場合も考えられる。この場合には、d軸指令電流(Id_c)及びq軸指令電流(Iq_c)に乱数を加えたり、制御サイクル(ΔT)を長くして、十分なd軸実電流(Id_s)及びq軸実電流(Iq_s)の変化量を生じさせる工夫も必要であると思われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】DCブラシレスモータの構成図。
【図2】図1に示したDCブラシレスモータの作動を制御するモータコントローラの制御ブロック図。
【図3】1方向フィードバック制御のタイミングチャート。
【符号の説明】
1…DCブラシレスモータ、2…ロータ、3…U相の電機子、4…V相の電機子、5…W相の電機子、10…モータコントローラ、20…dq/3相変換部、21…パワードライブユニット、22…U相電流センサ、23…W相電流センサ、24…3相/dq変換部、25…角度検出部、26…非干渉演算部
Claims (4)
- DCブラシレスモータを、該モータの界磁の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と、q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有する等価回路に変換して扱い、
前記モータの電機子に流れる電流を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出された電流値と前記モータのロータ角度とに基づいて、前記q軸電機子に流れるq軸実電流と前記d軸電機子に流れるd軸実電流とを算出するdq実電流算出手段と、
前記q軸電機子に流れる電流の指令値であるq軸指令電流と前記q軸実電流との偏差であるq軸電流偏差と、前記d軸電機子に流れる電流の指令値であるd軸指令電流と前記d軸実電流との偏差であるd軸電流偏差とを小さくするように、前記d軸電機子に印加するd軸電圧と前記q軸電機子に印加するq軸電圧とを生成して、前記モータの電機子の通電量をフィードバック制御する通電制御手段とを備えたDCブラシレスモータの制御装置において、
前記通電制御手段は、所定の制御サイクルで前記モータの電機子の通電量をフィードバック制御し、前記d軸電圧と前記q軸電圧を座標軸とする直交座標系において各座標軸の単位ベクトルの1次結合により表され、且つ、互いに平行でない2以上の方向に対して、各方向ごとに、異なる制御サイクルにおいて、前記dq実電流算出手段により前記モータのロータ角度の推定値(θ^)に基づいて算出されたd軸実電流とq軸実電流とを用いて、前回の制御サイクルにおいて生成されたd軸電圧とq軸電圧とを成分とするベクトルを該方向に射影したベクトルの大きさが、前記d軸電流偏差と前記q軸電流偏差に応じて該方向に沿って増減するように、今回の制御サイクルにおけるd軸電圧とq軸電圧とを生成する1方向のフィードバック制御を実行し、
各方向に対して前記1方向のフィードバック制御を実行する制御サイクルにおけるd軸実電流及びq軸実電流の変化量とd軸電圧及びq軸電圧のレベルとに基づいて、前記モータのロータ角度の実際値(θ)と推定値(θ^)との位相差(θ−θ^)の2倍角の正弦値に応じた正弦参照値と、該位相差(θ−θ^)の2倍角の余弦値に応じた余弦参照値とを算出する参照値算出手段と、
該正弦参照値と該余弦参照値とに基づいて前記モータのロータ角度を検出するロータ角度検出手段を備えたことを特徴とするDCブラシレスモータの制御装置。 - 前記2以上の方向を、d軸電圧とq軸電圧を座標軸とする直交座標系の2つの座標軸方向としたことを特徴とする請求項1記載のDCブラシレスモータの制御装置。
- 前記ロータ角度検知手段は、前記正弦参照値と前記余弦参照値を、以下の式(1)〜(7)により算出することを特徴とする請求項2記載のDCブラシレスモータの制御装置。
- 前記式(1)における行列D ̄の成分のデータを予めメモリに記憶し、
前記ロータ角度検知手段は、前記メモリに記憶された行列D ̄の成分のデータを用いて前記式(1)の演算を実行することを特徴とする請求項3記載のDCブラシレスモータの制御装置。
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