JP2004116763A - クラッチプレート、摩擦クラッチ、駆動力伝達装置、クラッチプレートの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鉄製のプレート本体Pの摺動面S2にショットブラスト加工を施して、その摺動面S2に微細な凹凸を形成する。微細な凹凸を形成した摺動面S2に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜する。このように、ショットブラスト加工により摺動面S2に微細な凹凸を形成することにより、摺動面S2の錆(酸化膜)を落としたり、クリーニングをしたりする。ダイヤモンド状炭素薄膜Dは、成膜する摺動面S2において、酸化膜などの汚染膜が少ないほど均一なグロー放電がなされて、その摺動面S2に対する密着力を高めることができる。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッチプレート、摩擦クラッチ、駆動力伝達装置、クラッチプレートの製造方法に係り、詳しくはプレート本体の摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を設けたクラッチプレート、摩擦クラッチ、駆動力伝達装置、クラッチプレートの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、摩擦クラッチを構成する鉄製のプレート本体の摺動面には、μ−v勾配(摩擦係数μの速度vに対する依存特性)の安定化のために、バレル処理を施している。
【0003】
即ち、従来のプレート本体は、まず、その表面(摺動面)に対してバレル加工を施す。このバレル加工においては、研磨剤(Al2O3、SiO2、K2O、Fe3O3、TiO2)及び水を用いて摺動面に対して微細な凹凸を形成している。
【0004】
そして、バレル加工後、プレート本体の摺動面に窒素拡散層を、窒素拡散層の表面側に窒素化合物層を、窒素化合物層の表面側に酸化被膜を有する複合構造体を形成し、プレート本体の表面硬度を高めるとともに耐摩耗性を向上させている。
【0005】
なお、複合構造体は、ガス窒化−酸化−急冷処理することにより形成される。ガス窒化−酸化−急冷処理は複合表面処理法として開発されたもので、この複合処理法はナイトロテック法(英国ルーカル社の商標登録)として知られている。
【0006】
ところで、本出願人はすでに、鉄製のプレート本体における鏡面状をなす摺動面に対して、ダイヤモンド状炭素薄膜を成膜したものを提案している(特願2001−139231号)。このプレート本体には、CVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜を成膜し、表面硬度を高め、耐摩耗性を向上させている。
【0007】
そして、μ−v勾配の安定化のために、このダイヤモンド状炭素薄膜を成膜したプレート本体においても、ダイヤモンド状炭素薄膜を成膜する前に、摺動面に対してバレル加工を施すことが考えられる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、プレート本体において摺動面にバレル加工を施した後、ダイヤモンド状炭素薄膜を成膜すると次のような不具合があった。
【0009】
プレート本体に対してバレル加工を施す際に、研磨剤(Al2O3、SiO2、K2O、Fe3O3、TiO2)及び水を用いると、プレート本体の摺動面には、水により酸化膜が成膜されたり、研磨剤が埋まり込んだりする現象が発生してしまう。
【0010】
このように、プレート本体の摺動面に酸化膜などの汚染膜が存在すると、前記複合表面処理法による表面硬化においては問題なかったものの、ダイヤモンド状炭素薄膜を摺動面に対して成膜する際には均一なグロー放電がなされない。このため、汚染膜に大きな電流が流れアーク放電を起こし、摺動面に対するダイヤモンド状炭素薄膜の密着力が低下してしまうという問題があった。
【0011】
また、プレート本体の摺動面に研磨剤が埋まり込んだままで成膜処理をすると、研磨剤が埋まり込んだ部分にはダイヤモンド状炭素薄膜が成膜されないという問題があった。
【0012】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は微細な凹凸を形成した摺動面に対してダイヤモンド状炭素薄膜を密着性よく設けることができるクラッチプレート、摩擦クラッチ、駆動力伝達装置、クラッチプレートの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、鉄から形成されると共に摺動面に対してショットブラスト加工が施されて微細な凹凸が形成されたプレート本体と、前記プレート本体の前記摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を設けたことを要旨とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、互いに摩擦係合する鉄からなる複数のクラッチプレートを備えた摩擦クラッチであって、前記互いに摩擦係合する少なくとも一方のクラッチプレートを請求項1に記載のクラッチプレートから構成したことを要旨とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の摩擦クラッチにおいて、前記互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートを油中潤滑とするための潤滑油内に配置されていることを要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、互いに相対回転可能に位置する内側回転部材と外側回転部材との間に配設され、かつ摩擦係合力にて前記内側回転部材と前記外側回転部材とをトルク伝達可能な連結状態とする摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、前記摩擦クラッチを請求項2又は請求項3に記載の摩擦クラッチから構成したことを要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、鉄から形成されたプレート本体の摺動面に対してダイヤモンド状炭素薄膜を成膜するクラッチプレートの製造方法において、前記プレート本体の前記摺動面に対してショットブラスト加工を施して同摺動面に微細な凹凸を形成し、前記微細な凹凸を形成した摺動面に対して前記ダイヤモンド状炭素薄膜を成膜することを要旨とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
図1には、本発明を具体化した一実施形態の駆動力伝達装置を示している。この駆動力伝達装置11は、図2に示すように、四輪駆動車12における後輪側への駆動力伝達経路に配設されている。
【0019】
前記四輪駆動車12は、駆動力伝達装置11、トランスアクスル13、エンジン14、一対の前輪15、及び一対の後輪16を備えている。
前記エンジン14の駆動力はトランスアクスル13を介してアクスルシャフト17に出力し、前輪15を駆動する。
【0020】
また、トランスアクスル13にはプロペラシャフト18を介して駆動力伝達装置11が連結され、同駆動力伝達装置11にはドライブピニオンシャフト19を介してリヤデファレンシャル20が連結されている。リヤデファレンシャル20には、アクスルシャフト21を介して後輪16が連結されている。前記プロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が駆動力伝達装置11にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン14の駆動力は後輪16に伝達される。
【0021】
駆動力伝達装置11はリヤデファレンシャル20とともにディファレンシャルキャリヤ22内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ22に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ22を介して車体に支持されている。
【0022】
次に駆動力伝達装置11について説明する。
図1に示すように、駆動力伝達装置11は外側回転部材としてのアウタケース30a、内側回転部材としてのインナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えている。
【0023】
前記アウタケース30aは、有底筒状のフロントハウジング31aと、フロントハウジング31aの後端開口部に螺着され、且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング31bとから構成されている。前記フロントハウジング31aの前端部には入力軸50が突出形成され、同入力軸50は前記プロペラシャフト18に連結されている。
【0024】
前記入力軸50が一体に形成されたフロントハウジング31a、及びリヤハウジング31bは、磁性材料である鉄にて形成されている。リヤハウジング31bの径方向の中間部には、非磁性体材料あるステンレス製の筒体51が埋設され、同筒体51は環状の非磁性部位を形成している。
【0025】
前記アウタケース30aはフロントハウジング31aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して図示しないベアリング等を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース30aは、リヤハウジング31bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対して支持されたヨーク36にベアリング等(図示しない)を介して支持されている。
【0026】
前記インナシャフト30bは、リヤハウジング31bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング31a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング31aとリヤハウジング31bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト30bには、ドライブピニオンシャフト19(図2参照)の先端部が挿入されている。なお、図1においてはドライブピニオンシャフト19は図示していない。
【0027】
図1に示すように、メインクラッチ機構30cは湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄からなりその摺動面にペーパ摩擦材が貼付されたインナクラッチプレート32a及び鉄からなるアウタクラッチプレート32bを多数備えている。前記インナクラッチプレート32a,アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの奥壁側に配設されている。
【0028】
クラッチ機構を構成する各インナクラッチプレート32aは、インナシャフト30bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート32aと各アウタクラッチプレート32bは交互に位置されて互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0029】
パイロットクラッチ機構30dは、電磁石33、摩擦クラッチ34、及びアーマチャ35を備えている。前記電磁石33とアーマチャ35にて電磁式の駆動手段が構成されている。
【0030】
図1に示すように、ヨーク36はディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング31bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。前記ヨーク36には環状をなす電磁石33が嵌着され、同電磁石33はリヤハウジング31bの環状凹所53に嵌合されている。
【0031】
前記摩擦クラッチ34は、鉄製の1枚のインナクラッチプレート34a及び2枚のアウタクラッチプレート34bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
【0032】
なお、本実施形態では、アウタクラッチプレート34bは本発明のクラッチプレートに相当する。
前記インナクラッチプレート34aは、後述するカム機構30eを構成する第1カム部材37の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート34bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0033】
前記インナクラッチプレート34aと各アウタクラッチプレート34bとは交互に位置して、互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0034】
図3に示すように、前記インナクラッチプレート34a、アウタクラッチプレート34bには互いに対向する摺動面S1,S2が形成されている。
前記インナクラッチプレート34aの摺動面S1の全面には、プレス加工により微細な幅の溝部40が周方向に複数設けられている。前記各溝部40は微少な間隔を保持して設けられている。前記摺動面S1には公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理が施されている。なお、溝部40はわかりやすいように誇張して示してあるが、溝のピッチ、高さともにμm単位で形成されていれば十分である。
【0035】
一方、アウタクラッチプレート34bは、鉄製のプレート本体Pとダイヤモンド状炭素薄膜Dとから構成されている。前記プレート本体Pの摺動面S2には、ショットブラスト加工が施されている。
【0036】
また、前記プレート本体Pの摺動面S2にショットブラスト加工が施されることにより、その摺動面S2には微細な凹凸(図3において図示略)が形成されている。この結果、前記摺動面S2は表面粗さが3.5μm(Rz)とされている。
【0037】
なお、本明細書では「Rz」は十点平均粗さのことをいう。
さらに、微細な凹凸が形成された摺動面S2全面には、厚さ約4μmのダイヤモンド状炭素薄膜Dが成膜され、そのダイヤモンド状炭素薄膜Dの表面粗さが前記摺動面S2の表面粗さとほぼ同じの3.5μmとされている。
【0038】
なお、ダイヤモンド状炭素はDLCと呼ばれている。
なお、このプレート本体Pの摺動面S2の表面粗さ(Rz)は、2〜5μmの範囲において設定可能であるが、より望ましい範囲は2.5〜4.5μmの範囲、最も好適な範囲は3〜4μmの範囲である。前記摺動面S2の表面粗さ(Rz)が2μm未満では、摩耗に対する耐久寿命が短く、実用に向かない。一方、前記摺動面S2の表面粗さ(Rz)が5μmより大きいと、ダイヤモンド状炭素薄膜Dが脆くなり、実用に向かない。
【0039】
ところで、図1に示すように、アーマチャ35は環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向への移動可能に組み付けられている。前記アーマチャ35は摩擦クラッチ34に対して一側に位置し、摩擦クラッチ34に対向している。
【0040】
前記電磁石33の電磁コイルへの通電により、ヨーク36、リヤハウジング31b、摩擦クラッチ34、アーマチャ35、摩擦クラッチ34、リヤハウジング31b、及びヨーク36間を循環する図示しない磁路が形成される。
【0041】
図1に示すように、カム機構30eは、第1カム部材37、第2カム部材38、及びカムフォロア39にて構成されている。
第1カム部材37及び第2カム部材38には、対向面に互いに対向する図示しないカム溝が周方向に所定間隔を保持して複数形成されている。第1カム部材37はインナシャフト30bの外周に回転可能に嵌合されるとともに、リヤハウジング31bに回転可能に支承されている。第1カム部材37の外周には、前記インナクラッチプレート34aが軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されている。
【0042】
前記第2カム部材38はインナシャフト30bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト30bに対して一体回転可能に組み付けられている。同第2カム部材38はメインクラッチ機構30cのインナクラッチプレート32aに対向して位置されている。前記第2カム部材38と第1カム部材37の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア39が介在されている。
【0043】
この結果、アーマチャ35がフロントハウジング31aの内側にて摩擦クラッチ34の一側に位置し、且つ電磁石33がフロントハウジング31aの開口側にてリヤハウジング31bを挟んで摩擦クラッチ34の他側に位置し、リヤハウジング31bは磁路形成部材として機能する。
【0044】
リヤハウジング31bはインナシャフト30bの外周に液密的かつ回転可能に嵌合された状態で、その前側壁部の周縁部にてフロントハウジング31aに螺着されている。また、リヤハウジング31bは、その後側筒部の後端部の外周にて図示しないオイルシールを介して、ディファレンシャルキャリヤ22(図2参照)に液密的かつ回転可能に支持されている。
【0045】
前記アウタケース30a、インナシャフト30b、及びリヤハウジング31bにて囲まれて形成された室内には潤滑油Lが充填されている。前記潤滑油Lはインナクラッチプレート32aとアウタクラッチプレート32bとの潤滑、及びインナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの潤滑を行うようにされている。
【0046】
上記のような駆動力伝達装置11においては、パイロットクラッチ機構30dを構成する電磁石33の電磁コイルへの通電がなされていない場合には図示しない磁路は形成されず、摩擦クラッチ34は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構30dは非作動の状態にあって、カム機構30eを構成する第1カム部材37は、カムフォロア39を介して第2カム部材38と一体回転可能であり、メインクラッチ機構30cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車12は二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0047】
一方、電磁石33の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構30dには図示しない磁路が形成され、電磁石33はアーマチャ35を吸引する。このため、アーマチャ35は摩擦クラッチ34を押圧して摩擦係合させ、カム機構30eの第1カム部材37をフロントハウジング31a側と連結させ、第2カム部材38との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構30eではカムフォロア39が第1カム部材37と第2カム部材38とを互いに離間する方向へ押圧する。
【0048】
この結果、第2カム部材38はメインクラッチ機構30c側へ押圧され、メインクラッチ機構30cを摩擦クラッチ34の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0049】
また、電磁石33の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石33のアーマチャ35に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ35は強く電磁石33側へ吸引作動され、摩擦クラッチ34の摩擦係合力を増大させ、第1カム部材37及び第2カム部材38間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア39は第2カム部材38に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構30cを結合状態とする。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0050】
次に、アウタクラッチプレート34bの製造方法について説明する。
重力式のブラスト装置により、プレート本体Pの摺動面S2に対して粒番号#300のガラスビーズ(粒径90μm以下)を吹き付けて、その摺動面S2にショットブラスト加工を施す。前記ガラスビーズは吹付粒子及び球形粒子に相当する。
【0051】
以下、この「粒番号#300のガラスビーズ」を単に「ガラスビーズ」という。
この際、摺動面S2に対するガラスビーズの埋まり込みを防ぐために、前記ガラスビーズは球形のものを採用している。なお、球形の吹付粒子を球形粒子ともいう。
【0052】
図6は、ガラスビーズのショット圧力(MPa)と、アウタクラッチプレート34bの摺動面S2における表面粗さRz(μm)との関係を示したものである。図6に示すように、ガラスビーズを吹き付ける圧力は本実施形態では、0.35MPaとされ、この結果、摺動面S2の表面粗さが3.5μm(Rz)とされている。
【0053】
なお、ガラスビーズを0.25MPaの圧力で吹き付けると摺動面S2の表面粗さは約2.8μm(Rz)となり、ガラスビーズを0.45MPaの圧力で吹き付けると摺動面S2の表面粗さは約4.3μm(Rz)となる。
【0054】
ところで、摺動面S2に対してガラスビーズを吹き付ける際には、摺動面S2には酸化膜が形成されたり、ガラスビーズが埋まったりすることがない。
また、摺動面S2に対してガラスビーズを吹き付けることにより、摺動面S2の錆(酸化膜)を落としたり、クリーニングをしたりする。
【0055】
図4は、従来技術におけるバレル加工によりプレート本体の摺動面を加工したもの(以下、従来サンプルという)、及び本実施形態のプレート本体Pの摺動面S2(以下、本発明サンプルという)の表面酸素濃度(摺動面の酸素濃度)をそれぞれ示したものである。
【0056】
なお、表面酸素濃度(%)は、公知のEPMA(electron probe micro analysis )装置を用いて測定している。
この結果、本発明サンプルにおける摺動面の表面酸素濃度は、従来サンプルにおける摺動面の表面酸素濃度の3分の1と低くなった。
【0057】
そして、ショットブラスト加工を施した前記摺動面S2に対してCVD(Chemical Vapor Deposition )法、PVD(Physical Vapor Deposition )法、イオン蒸着法等の公知の方法によりダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜する。
【0058】
すると、微細な凹凸が形成された摺動面S2全面には、厚さ約4μmのダイヤモンド状炭素薄膜Dが成膜され、そのダイヤモンド状炭素薄膜Dの表面粗さが前記摺動面S2の表面粗さとほぼ同じの3.5μmとなり、アウタクラッチプレート34bが完成する。
【0059】
ところで、図5は、従来サンプルの摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜したものと、本発明サンプルの摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜したものとにおいて、摺動面に対するダイヤモンド状炭素薄膜Dの密着力(N)をそれぞれ示したものである。
【0060】
なお、密着力(N)は、公知のスクラッチ試験機を用いて測定している。
この結果、従来サンプルにおける摺動面に対するダイヤモンド状炭素薄膜Dの密着力が約4(N)に対し、本発明サンプルにおける摺動面に対するダイヤモンド状炭素薄膜Dの密着力は20(N)と高くなった。
【0061】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置11によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、鉄製のプレート本体Pの摺動面S2にショットブラスト加工を施して、その摺動面S2に微細な凹凸を形成した。そして、微細な凹凸を形成した摺動面S2に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜した。
【0062】
このように、ショットブラスト加工により摺動面S2に微細な凹凸を形成することにより、摺動面S2の錆(酸化膜)を落としたり、クリーニングをしたりできる。ダイヤモンド状炭素薄膜Dは、成膜する摺動面S2において、酸化膜などの汚染膜が少ないほど均一なグロー放電がなされて、その摺動面S2に対する密着力を高めることができる。
【0063】
従って、本実施形態のアウタクラッチプレート34bにおいては、微細な凹凸を形成したプレート本体Pの摺動面S2に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを密着性よく成膜することができる。
【0064】
(2)本実施形態では、プレート本体Pの摺動面S2に対してショットブラスト加工を施すことにより、その摺動面S2の表面酸素濃度を抑えると共に、同摺動面S2に微細な凹凸を形成した。そして、その摺動面S2にダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜した。従って、プレート本体Pの摺動面S2にバレル加工を施した場合には摺動面S2の表面酸素濃度が高くなるのに対し、本実施形態の摺動面S2の表面酸素濃度は低くなり、この結果、本実施形態の摺動面S2には、好適な状態でダイヤモンド状炭素薄膜Dを密着できる。
【0065】
(3)本実施形態では、プレート本体Pの摺動面S2における表面酸素濃度を、従来サンプルにおける摺動面の表面酸素濃度の3分の1にし、その摺動面S2に対するダイヤモンド状炭素薄膜Dの密着性を前記従来サンプルに比して向上させていた。従って、プレート本体Pからダイヤモンド状炭素薄膜Dが剥がれにくくなり、アウタクラッチプレート34bの寿命を向上させることができ、この結果、摩擦クラッチ34自体及び駆動力伝達装置11自体の耐久性も向上させることができる。
【0066】
(4)本実施形態では、プレート本体Pの摺動面S2に対してショットブラスト加工を施していた。従って、このショットブラスト加工によりプレート本体Pの摺動面S2自体の表面硬度を高めることができる。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は以下のような他の実施形態に変更して具体化してもよい。
【0067】
・前記実施形態では、吹付粒子及び球形粒子としてのガラスビーズを用いて、ショットブラスト加工を施していた。これに限らず、吹付粒子及び球形粒子としての鋼球を用いて、ショットブラスト加工を施してもよい。また、プレート本体Pの摺動面S2に対して酸化膜を形成せず、かつ摺動面S2に対して埋まり込まない吹付粒子であればどのような吹付粒子を用いて、ショットブラスト加工を施してもよい。
【0068】
・前記実施形態では、パイロットクラッチ機構30dを構成するプレート本体Pの摺動面S2において、ショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜していた。これに限らず、プレート本体の摺動面に対してショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜したクラッチプレートを、オートマチックトランスミッション用クラッチ機構等、どのようなクラッチ機構にでも採用してもよい。
【0069】
・前記実施形態では、潤滑油L中にて、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとを摩擦係合するようにしていた。これに限らず、潤滑油Lを有さない状態で、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとを摩擦係合するようにしてもよい。
【0070】
・前記実施形態では、アウタクラッチプレート34bのみにショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜していた。これに限らず、インナクラッチプレート34a側にもショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜してもよい。
【0071】
・前記実施形態では、インナクラッチプレート34aは、その摺動面S1に微細な幅の溝部40を設けると共に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施していた。また、アウタクラッチプレート34bは、プレート本体Pの摺動面S2にショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜していた。これに限らず、インナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bの表面処理を入れ替えてもよい。即ち、インナクラッチプレート34aは、プレート本体の摺動面にショットブラスト加工を施して微細な凹凸を形成すると共にその微細な凹凸に対してダイヤモンド状炭素薄膜Dを成膜する。アウタクラッチプレート34bは、その摺動面に微細な幅の溝部40を設けると共に公知の窒化処理、又は公知の焼き入れ焼き戻し処理を施す。
【0072】
次に、上記実施形態及び他の実施形態から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記プレート本体は、吹付粒子をガラスビーズ又は鋼球としたショットブラスト加工により加工されていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチプレート。
【0073】
(ロ)前記プレート本体の前記摺動面は微細な凹凸により、表面粗さ2〜5μm(Rz)とされていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチプレート。
【0074】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、微細な凹凸を形成した摺動面に対してダイヤモンド状炭素薄膜を密着性よく設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態における駆動力伝達装置の部分断面図。
【図2】本実施形態における駆動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の説明図。
【図3】本実施形態における駆動力伝達装置のインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの状態を説明するための概略図。
【図4】従来サンプル及び本発明サンプルの摺動面における表面酸素濃度を示した特性図。
【図5】従来サンプル及び本発明サンプルの摺動面に成膜したダイヤモンド状炭素薄膜の密着力を示した特性図。
【図6】本実施形態におけるショット圧力と表面粗さとの関係を示す特性図。
【符号の説明】
11…駆動力伝達装置、30a…外側回転部材としてのアウタケース、
30b…内側回転部材としてのインナシャフト、34…摩擦クラッチ、
34b…クラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート、
D…ダイヤモンド状炭素薄膜、L…潤滑油、P…プレート本体、
S1,S2…摺動面。
Claims (5)
- 鉄から形成されると共に摺動面に対してショットブラスト加工が施されて微細な凹凸が形成されたプレート本体と、
前記プレート本体の前記摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を設けたことを特徴とするクラッチプレート。 - 互いに摩擦係合する鉄からなる複数のクラッチプレートを備えた摩擦クラッチであって、前記互いに摩擦係合する少なくとも一方のクラッチプレートを請求項1に記載のクラッチプレートから構成したことを特徴とする摩擦クラッチ。
- 前記互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートを油中潤滑とするための潤滑油内に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の摩擦クラッチ。
- 互いに相対回転可能に位置する内側回転部材と外側回転部材との間に配設され、かつ摩擦係合力にて前記内側回転部材と前記外側回転部材とをトルク伝達可能な連結状態とする摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、
前記摩擦クラッチを請求項2又は請求項3に記載の摩擦クラッチから構成したことを特徴とする駆動力伝達装置。 - 鉄から形成されたプレート本体の摺動面に対してダイヤモンド状炭素薄膜を成膜するクラッチプレートの製造方法において、
前記プレート本体の前記摺動面に対してショットブラスト加工を施して同摺動面に微細な凹凸を形成し、
前記微細な凹凸を形成した摺動面に対して前記ダイヤモンド状炭素薄膜を成膜するクラッチプレートの製造方法。
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