JP2004116577A - 無段変速装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】入力軸を回転させたまま出力軸を停止させられる、無限大の変速比を得られる構造で、急な発進動作を行なった場合でも車両が意図しない動きをする事を確実に防止する。
【解決手段】操作レバーを非走行状態から走行状態に切り換えたT 時点で、直ちにトロイダル型無段変速機の変速比を制御する為の油圧の目標値△Pを設定する。この為、低速用クラッチが接続され始めるまでの遅延時間△Tの間に、無段変速装置の速度比を、上記操作レバーにより選択した走行状態に応じたものにできる。この結果、この操作レバーを切り換えた直後に発進操作を行なっても、車両が意図しない方向に動く事を防止できる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両(自動車)用自動変速装置として利用する、トロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関し、発進時に、車両が短時間でも運転者の意図しない動きを行なわない様にするものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用自動変速装置として、図3〜5に示す様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、入力軸1の両端部周囲に入力側ディスク2、2を、ボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に出力側ディスク5、5を、それぞれスプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
【0003】
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図3、5の上下方向、図4の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸9、9を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、油圧式のアクチュエータ10、10により、これら各トラニオン7、7を上記枢軸9、9の軸方向に変位させる事で行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
【0004】
即ち、前記入力軸1と出力歯車4との間の変速比を変えるべく、上記各トラニオン7、7の傾斜角度を変える場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を、それぞれ逆方向に、例えば、図5の右側のパワーローラ6を同図の下側に、同図の左側のパワーローラ6を同図の上側に、それぞれ変位させる。この結果、これら各パワーローラ6、6の周面と上記各入力側ディスク2、2及び各出力側ディスク5、5の内側面との当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化(当接部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各トラニオン7、7が、支持板11、11に枢支された枢軸9、9を中心として、互いに逆方向に揺動(傾斜)する。この結果、上記各パワーローラ6、6の周面と上記入力側、出力側各ディスク2、5の内側面との当接位置が変化し、上記入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
【0005】
上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排状態は、これら各アクチュエータ10、10の数に関係なく1個の制御弁12により行ない、何れか1個のトラニオン7の動きをこの制御弁12にフィードバックする様にしている。この制御弁12は、ステッピングモータ13により軸方向(図5の左右方向、図3の表裏方向)に変位させられるスリーブ14と、このスリーブ14の内径側に軸方向の変位自在に嵌装されたスプール15とを有する。又、上記各トラニオン7、7と上記各アクチュエータ10、10のピストン16、16とを連結するロッド17、17のうち、何れか1個のトラニオン7に付属のロッド17の端部にプリセスカム18を固定しており、このプリセスカム18とリンク腕19とを介して、上記ロッド17の動き、即ち、軸方向の変位量と回転方向との変位量との合成値を上記スプール15に伝達する、フィードバック機構を構成している。又、上記各トラニオン7、7同士の間には同期ケーブル20を掛け渡して、油圧系の故障時にも、これら各トラニオン7、7の傾斜角度を、機械的に同期させられる様にしている。
【0006】
変速状態を切り換える際には、上記ステッピングモータ13により上記スリーブ14を、得ようとする変速比に見合う所定位置にまで変位させて、上記制御弁12の所定方向の流路を開く。この結果、上記各アクチュエータ10、10に圧油が、所定方向に送り込まれて、これら各アクチュエータ10、10が上記各トラニオン7、7を所定方向に変位させる。即ち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン7、7が、前記各枢軸9、9の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸9、9を中心に揺動する。そして、上記何れか1個のトラニオン7の動き(軸方向及び揺動変位)が、上記ロッド17の端部に固定したプリセスカム18とリンク腕19とを介して上記スプール15に伝達され、このスプール15を軸方向に変位させる。この結果、上記トラニオン7が所定量変位した状態で、上記制御弁12の流路が閉じられ、上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排が停止される。
【0007】
この際の上記トラニオン7及び上記プリセスカム18のカム面21の変位に基づく上記制御弁12の動きは、次の通りである。先ず、上記制御弁12の流路が開かれる事に伴って上記トラニオン7が軸方向に変位すると、前述した様に、パワーローラ6の周面と入力側ディスク2及び出力側ディスク5の内側面との当接部に発生するサイドスリップにより、上記トラニオン7が上記各枢軸9、9を中心とする揺動変位を開始する。又、上記トラニオン7の軸方向変位に伴って上記カム面21の変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位して、上記制御弁12の切り換え状態を変更する。具体的には、上記アクチュエータ10により上記トラニオン7を中立位置に戻す方向に、上記制御弁12が切り換わる。
【0008】
従って上記トラニオン7は、軸方向に変位した直後から、中立位置に向け、逆方向に変位し始める。但し、上記トラニオン7は、中立位置からの変位が存在する限り、上記各枢軸9、9を中心とする揺動を継続する。この結果、上記プリセスカム18のカム面21の円周方向に関する変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位する。そして、上記トラニオン7の傾斜角度が、得ようとする変速比に見合う所定角度に達した状態で、このトラニオン7が中立位置に復帰すると同時に、上記制御弁12が閉じられて、上記アクチュエータ10への圧油の給排が停止される。この結果上記トラニオン7の傾斜角度が、前記ステッピングモータ13により前記スリーブ14を軸方向に変位させた量に見合う角度になる。
【0009】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸22により一方(図3、4の左方)の入力側ディスク2を、図示の様なローディングカム式の、或は油圧式の押圧装置23を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0010】
この様に上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5に動力を伝達する際に、上記各トラニオン7、7には、それぞれの内側面に支持した上記各パワーローラ6、6の周面と上記各ディスク2、5の内側面との摩擦に伴って、それぞれの両端部に設けた枢軸9、9の軸方向の力が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、その大きさは、上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5(或は出力側ディスク5、5から入力側ディスク2、2)に伝達するトルクに比例する。そして、この様な力2Ftは、前記各アクチュエータ10、10により支承する。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、これら各アクチュエータ10、10を構成するピストン16、16の両側に存在する1対の油圧室51a、51b同士の間の圧力差は、上記力2Ftの大きさに比例する。
【0011】
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を上記各枢軸9、9の軸方向に移動させ、これら各トラニオン7、7を図4に示す位置に揺動させる。そして、上各パワーローラ6、6の周面をこの図4に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図4と反対方向に揺動させ、上各パワーローラ6、6の周面を、この図4に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の変速比(速度比)を得られる。
【0012】
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速機を実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構と組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている。図6は、この様な従来から提案されている無段変速装置のうち、特許文献1に記載されたものを示している。この無段変速装置は、所謂ギヤード・ニュートラルと呼ばれ、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられるもので、トロイダル型無段変速機24と遊星歯車式変速機25とを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機24は、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。図示の例では、この出力側ディスク5aは、1対の出力側ディスクの外側面同士を突き合わせて一体とした如き構造を有する。
【0013】
又、上記遊星歯車式変速機25は、上記入力軸1及び一方(図6の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア26を備える。このキャリア26の径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子27a、27bを固設した第一の伝達軸28を、回転自在に支持している。又、上記キャリア26を挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車29a、29bを固設した第二の伝達軸30を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記各遊星歯車素子27a、27bと、上記出力側ディスク5aにその基端部(図6の左端部)を結合した中空回転軸31の先端部(図6の右端部)に固設した太陽歯車32又は上記第二の伝達軸30の一端部(図6の左端部)に固設した太陽歯車29aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図6の左方)の遊星歯車素子27aを、別の遊星歯車素子33を介して、上記キャリア26の周囲に回転自在に設けたリング歯車34に噛合させている。
【0014】
一方、上記第二の伝達軸30の他端部(図6の右端部)に固設した太陽歯車29bの周囲に設けた第二のキャリア35に遊星歯車素子36a、36bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア35は、上記入力軸1及び第二の伝達軸30と同心に配置された、出力軸37の基端部(図6の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子36a、36bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子36aが上記太陽歯車29bに、他方の遊星歯車素子36bが、上記第二のキャリア35の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車38に、それぞれ噛合している。又、上記リング歯車34と上記第二のキャリア35とを低速用クラッチ39により係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車38とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ40により係脱自在としている。
【0015】
上述の様な、図6に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ39を接続すると共に上記高速用クラッチ40の接続を断った、所謂低速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車34を介して上記出力軸37に伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸37との間の変速比が変化する。この様な低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比は、無限大に変化する。即ち、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節する事により、上記入力軸1を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸37の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の変換自在となる。
【0016】
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、上記入力軸1から、キャリヤ26及び第一の伝達軸28と太陽歯車32と中空回転軸31とを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
【0017】
これに対して、上記低速用クラッチ39の接続を断ち、上記高速用クラッチ40を接続した、所謂高速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸28、30を介して上記出力軸37に伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比が変化する。この場合には、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての変速比が大きくなる。
尚、この様な高速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ8、8にトルクを付加する方向に加わる。
【0018】
例えば図6に示す様な構造を有し、入力軸1を回転させた状態のまま出力軸37を停止させる、所謂無限大の変速比を実現できる無段変速装置の場合、出力軸37を停止させた状態を含み、変速比を極端に大きくした状態で、上記トロイダル型無段変速機24に加わるトルクを適正値に維持する事が、運転操作の容易性確保の面から重要である。何となれば、「回転駆動力=回転速度×トルク」の関係から明らかな通り、変速比が極端に大きく、上記入力軸1が回転したまま上記出力軸37が停止又は極低速で回転する状態では、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが、上記入力軸1に加わるトルクに比べて大きくなる。この為、上記トロイダル型無段変速機24の耐久性を、このトロイダル型無段変速機24を大型化する事なく確保する為には、上述の様にトルクを適正値に納める為に厳密な制御を行なう必要が生じる。具体的には、上記入力軸1に入力するトルクをできるだけ小さくしつつ、上記出力軸37を停止させる為、駆動源を含めた制御が必要になる。
【0019】
又、上記変速比が極端に大きな状態では、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が僅かに変化した場合にも、上記出力軸37に加わるトルクが大きく変化する。この為、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれないと、運転者に違和感を与えたり、運転操作を行ないにくくする可能性がある。例えば、自動車用の自動変速装置の場合、停止時には運転者がブレーキを踏んだままで、停止状態を維持する事が行なわれる。この様な場合に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸37に大きなトルクが加わると、停車時に上記ブレーキペダルを踏み込む為に要する力が大きくなり、運転者の疲労を増大させる。逆に、発進時に上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸37に加わるトルクが小さ過ぎると、滑らかな発進が行なわれなくなったり、上り坂での発進時に車両が後退する可能性がある。従って、極低速走行時には、駆動源から上記入力軸1に伝達するトルクを制御する他、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節を厳密に行なう必要がある。
【0020】
この様な点を考慮して、特許文献2には、トラニオンを変位させる為の油圧式のアクチュエータ部分の圧力差を直接制御する事により、トロイダル型無段変速機を通過するトルクを規制する構造が記載されている。
但し、上記特許文献2に記載されている様な構造の場合には、上記圧力差のみで制御を行なう為、トロイダル型無段変速機を通過するトルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンの姿勢を停止させる事が難しい。具体的には、トルク制御の為に上記トラニオンを変位させる量が大きくなる為、トロイダル型無段変速機を通過するトルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンが停止せずにそのまま変位を継続する、所謂オーバシュートが生じ易く、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの制御が安定しない。
【0021】
特に、図3〜5に示した一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、トラニオン7、7の両端部に設けた各枢軸9、9の方向と、入力側、出力側各ディスク2、5の中心軸の方向とが互いに直角方向である、所謂キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機24の場合に、上記オーバシュートが生じ易い。これに対して、一般的なフルトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持った構造の場合には、オーバシュートを収束させる方向の力が作用する為、上記特許文献2に記載されている様な構造でも、十分なトルク制御を行なえるものと考えられる。
【0022】
【特許文献1】
特開2000−220719号公報
【特許文献2】
特開平10−103461号公報
【0023】
【第一の先発明の説明】
この様な事情に鑑みて、本発明者は先に、一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置でも、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクの制御を厳密に行なえる方法及び装置を発明した(特願2002−116185号)。
図7は、この様な第一の先発明の制御方法及び装置の対象となる、無段変速装置の構造の1例を示している。この図7に示した無段変速装置は、前述の図6に示した従来から知られている無段変速装置と同様の機能を有するもであるが、遊星歯車式変速機25a部分の構造を工夫する事により、この遊星歯車式変速機25a部分の組立性を向上させている。
【0024】
入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア26aの両側面に、それぞれがダブルピニオン型である、第一、第二の遊星歯車41、42を支持している。即ち、これら第一、第二の遊星歯車41、42は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子43a、43b、44a、44bにより構成している。そして、これら各遊星歯車素子43a、43b、44a、44bを、互いに噛合させると共に、内径側の遊星歯車素子43a、44aを、出力側ディスク5aにその基端部(図7の左端部)を結合した中空回転軸31aの先端部(図7の右端部)及び伝達軸45の一端部(図7の左端部)にそれぞれ固設した第一、第二の太陽歯車46、47に、外径側の遊星歯車素子43b、44bをリング歯車48に、それぞれ噛合させている。
【0025】
一方、上記伝達軸45の他端部(図7の右端部)に固設した第三の太陽歯車49の周囲に設けた第二のキャリア35aに遊星歯車素子50a、50bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア35aは、上記入力軸1と同心に配置された出力軸37aの基端部(図7の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子50a、50bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子50aを上記第三の太陽歯車49に、他方の遊星歯車素子50bを、上記第二のキャリア35aの周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車38aに、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車48と上記第二のキャリア35aとを低速用クラッチ39aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車38aとハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ40aにより係脱自在としている。
【0026】
この様に構成する改良された無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ39aを接続し、上記高速用クラッチ40aの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車48を介して上記出力軸37aに伝えられる。そして、トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比eCVT 、即ち、上記入力軸1と上記出力軸37aとの間の変速比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU と無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係は、上記リング歯車48の歯数m48と前記第一の太陽歯車46の歯数m46との比をi (=m48/m46)とした場合に、次の(1)式で表される。
CVT =(eCVU +i −1)/i  −−− (1)
そして、例えば上記歯数同士の比i が2である場合に、上記両変速比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図8に線分αで示す様に変化する。
【0027】
これに対して、上記低速用クラッチ39aの接続を断ち、上記高速用クラッチ40aを接続した状態では、上記入力軸1の動力が前記第一の遊星歯車41、上記リング歯車48、前記第二の遊星歯車42、前記伝達軸45、前記各遊星歯車素子50a、50b、上記第二のキャリア35aを介して、上記出力軸37aに伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を変える事により、無段変速装置全体としての変速比eCVT が変化する。この際のトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU と無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係は、次の(2)式の様になる。尚、この(2)式中、i は上記リング歯車48の歯数m48と前記第一太陽歯車46の歯数m46との比(m48/m46)を、i は上記リング歯車48の歯数m48と前記第二の太陽歯車47の歯数m47との比(m48/m47)を、i は前記第二のリング歯車38aの歯数m38と前記第三の太陽歯車49の歯数m49との比(m38/m49)を、それぞれ表している。
CVT ={1/(1−i )}・{1+(i /i )(eCVU −1)}−−− (2)
そして、上記各比のうち、i が2、i が2.2、i が2.8である場合に、上記両変速比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図8に線分βで示す様に変化する。
【0028】
上述の様に構成し作用する無段変速装置の場合、図8の線分αから明らかな通り、前記入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸37aを停止させる、所謂変速比無限大の状態を造り出せる。但し、この様に入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸37aを停止させたり、或は極く低速で回転させる状態では、前述した通り、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが、駆動源であるエンジンから上記入力軸1に加えられるトルクよりも大きくなる。この為、車両の停止時又は微速運行時には、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが過大(或は過小に)にならない様にする為、駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
【0029】
又、上記微速運行時、出力軸37aを停止させる状態に近い状態、即ち、上記無段変速装置の変速比が非常に大きく、上記入力軸1の回転速度に比べて上記出力軸37aの回転速度が大幅に遅い状態では、この出力軸37aに加わるトルクが、上記無段変速装置の変速比の僅かな変動により、大幅に変動する。この為、円滑な運転操作を確保する為に、やはり駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
【0030】
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは、前述の図6に示す従来構造と同様に、入力軸1からキャリヤ26a及び第一の遊星歯車41と第一の太陽歯車46と中空回転軸31aとを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
【0031】
この為に、先発明による変速比の制御方法及び装置の場合には、図9に示す様にして、上記駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する様にしている。先ず、上記駆動源であるエンジンの回転速度を大まかに制御する。即ち、このエンジンの回転速度を、図9のw範囲内の点aに規制する。これと共に、この制御されたエンジンの回転速度に上記無段変速装置の入力軸1の回転速度を一致させる為に必要とされる、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定する。この設定作業は、前述の(1)式に基づいて行なう。即ち、先発明の方法によりエンジンから上記入力軸1に伝達するトルクを厳密に規制する必要があるのは、前記低速用クラッチ39aを接続し、前記高速用クラッチ40aの接続を断った、所謂低速モード時である。従って、上記入力軸1の回転速度を、必要とする出力軸37aの回転速度に対応した値とすべく、上記(1)式により、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定する。
【0032】
又、上記トロイダル型無段変速機24に組み込んだトラニオン7、7を枢軸9、9の軸方向に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10、10を構成する1対の油圧室51a、51b(図5、11参照)の圧力差を、図示しない油圧センサにより測定する。この油圧測定作業は、上記エンジンの回転速度を大まか(但し回転速度を一定に保つ状態)に制御し、これに対応して、上述の様に、(1)式により上記トロイダル型無段変速機24の変速比を設定した状態で行なう。そして、測定作業に基づいて求めた上記圧力差により、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU を算出する。
【0033】
即ち、上記圧力差は、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が一定である限り、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU に比例する為、上記圧力差により、このトルクTCVU を求める事ができる。この理由は、前述した様に、上記各アクチュエータ10、10が、入力側ディスク2、2から上記出力側ディスク5a(或は出力側ディスク5aから入力側ディスク2、2)に伝達されるトルク(=トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU )に比例する大きさを有する、2Ftなる力を支承する為である。
【0034】
一方、上記トルクTCVU は、次の(3)式によっても求められる。
CVU =eCVU ・TIN/{eCVU +(i −1)ηCVU } −−− (3)
この(3)式中、eCVU は上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、TINは上記エンジンから前記入力軸1に入力されるトルクを、i は第一の遊星歯車41に関する遊星歯車変速機の歯数比(リング歯車48の歯数m48と第一の太陽歯車46の歯数m46との比)を、ηCVU は上記トロイダル型無段変速機24の効率を、それぞれ表している。
【0035】
そこで、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU1と、上記(3)式から求めた、目標とする通過トルクTCVU2とに基づいて、この実際に通過するトルクTCVU1と目標値TCVU2との偏差△T(=TCVU1−TCVU2)を求める。そして、この偏差△Tを解消する(△T=0とする)方向に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節する。尚、上記トルクの偏差△Tと、上記圧力差の偏差とは比例関係にあるので、上記変速比の調節作業は、トルクの偏差によっても、圧力差の偏差によっても行なえる。即ち、トルクの偏差による変速比制御と、圧力差の偏差による変速比制御とは、技術的に見て同じ事である。
【0036】
例えば、図9に示す様に、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1(測定値)を目標値TCVU2に規制する領域で、前記エンジンが前記入力軸1を駆動するトルクTINが、この入力軸1の回転速度が高くなる程急激に低くなる方向に変化する場合に就いて考える。この様なエンジンの特性は、電子制御されたエンジンであれば、低速回転域でも容易に得られる。この様なエンジン特性を有する場合で、上記トルクの測定値TCVU1が同じく目標値TCVU2に比べて、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ6、6(図4〜6参照)からトルクを受ける方向の偏差を有する場合には、上記入力軸1を駆動するトルクTINを小さくする為にエンジンの回転速度を増大すべく、無段変速装置全体としての変速比を減速側に変位させる。この為に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、増速側に変速する。但し、ブレーキペダルを踏んで停止した状態(出力軸の回転速度=0)では、上記トロイダル型無段変速機24の内部で生じる滑り、即ち、入力側、出力側各ディスク2、5aの内側面と各パワーローラ6、6の周面(図4、5参照)との当接部(トラクション部)で生じる滑りにより吸収できる範囲内で、上記トロイダル型無段変速機24の変速比の制御を行なう。従って、この変速比を調節できる許容範囲は、上記当接部に無理な力が加わらない範囲に止まり、低速走行時の場合に比べて限られたものとなる。
【0037】
例えば、図9で、上記目標値TCVU2がa点に存在する場合に、上記測定値TCVU1が同図のb点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記パワーローラ6、6からトルクを受ける方向の偏差を有する状態となる。そこで、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を増速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての変速比eCVT を減速側に変更する。これに合わせてエンジンの回転速度を増速し、トルクを下げる。反対に、上記測定値TCVU1が同図のc点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記パワーローラ6、6にトルクを付加する方向の偏差を有する状態となる。この場合には、上述した場合とは逆に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を減速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての変速比eCVT を増速側に変更する。これに合わせて、エンジンの回転速度を減速してトルクを上昇させる。
【0038】
以下、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU1が目標値に一致するまで、上述した動作を繰り返し行なう。即ち、1回のトロイダル型無段変速機24の変速制御だけでは、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させられない場合には、上述した動作を繰り返し行なう。この結果、前記エンジンが前記入力軸1を回転駆動するトルクTINを、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU を目標値TCVU2にする値に近付ける事ができる。尚、この様な動作は、無段変速装置の制御器に組み込んだマイクロコンピュータからの指令により、自動的に、且つ、短時間の間に行なわれる。
【0039】
尚、図10は、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU と上記エンジンが上記入力軸1を回転駆動するトルクTINとの比(左側縦軸)と、無段変速装置全体としての変速比eCVT (横軸)と、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU (右側縦軸)との関係を示している。実線aが上記通過トルクTCVU と駆動トルクTINとの比と、無段変速装置全体としての変速比eCVT との関係を、破線bが上記両変速比eCVT 、eCVU 同士の関係を、それぞれ示している。先発明の場合、上記無段変速装置全体としての変速比eCVT を所定値に規制した状態で、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を上記実線a上の点で表される目標値(TCVU2)に規制すべく、上記トロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を規制するものである。
【0040】
先発明の場合、この様に上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を前記目標値TCVU2である上記実線a上の点に規制する為の制御を2段階に分けて、即ち、エンジンの回転速度を大まかに、即ち、上記目標値TCVU2を得られるであろうと考えられる回転速度に制御した後、この回転速度に合わせてトロイダル型無段変速機24の変速比制御を行なう。この為、従来方法の様なオーバシュートを生じさせる事なく、或は仮に生じたとしても実用上問題ない程度に低く抑えて、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を上記目標値TCVU2に規制できる。
【0041】
次に、上述の様にトロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させるべく、このトロイダル型無段変速機24の変速比を制御する部分の回路に就いて、図11により説明する。トラニオン7を枢軸9、9(図5参照)の軸方向(図11の上下方向)に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10を構成する1対の油圧室51a、51bに、制御弁12を通じて、圧油を給排自在としている。この制御弁12を構成するスリーブ14は、ステッピングモータ13により、ロッド52とリンク腕53とを介して軸方向に変位自在としている。又、上記制御弁12を構成するスプール15は、リンク腕19とプリセスカム18とロッド17とを介して上記トラニオン7と係合させ、このトラニオン7の軸方向変位及び揺動変位に伴って、軸方向に変位自在としている。以上の構成は、従来から知られている、トロイダル型無段変速機の変速比制御機構と、基本的に同じである。
【0042】
特に先発明の場合には、上記スリーブ14を、上記ステッピングモータ13により駆動するのに加えて、油圧式の差圧シリンダ54によっても駆動する様にしている。即ち、上記スリーブ12に基端部を結合した上記ロッド52の先端部を上記リンク腕53の中間部に枢支すると共に、このリンク腕53の両端部に設けた長孔に、上記ステッピングモータ13或は上記差圧シリンダ54の出力部に設けたピンを係合させている。上記リンク腕53の一端部に設けた長孔内のピンが押し引きされる場合、他端部の長孔内のピンは支点となる。この様な構成により、上記スリーブ12を、上記ステッピングモータ13による他、上記差圧シリンダ54によっても軸方向に変位させられる様にしている。先発明の場合、この差圧シリンダ54による上記スリーブ12の変位により、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクTCVU に応じてこのトロイダル型無段変速機24の変速比eCVU を調節する様にしている。
【0043】
この為に先発明の場合には、上記差圧シリンダ54に設けた1対の油圧室55a、55b内に、補正用制御弁56を通じて、互いに異なる油圧を導入自在としている。これら各油圧室55a、55bに導入される油圧は、前記アクチュエータ10を構成する1対の油圧室51a、51b内に作用する油圧Pdown、Pupの差圧△Pと、上記補正用制御弁56の開度調節用の1対の電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P とに基づいて決定される。即ち、これら両電磁弁57a、57bの開閉は、これら両電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P が前記トロイダル型無段変速機24の目標トルクTCVU2に対応する目標差圧となる様に、図示しない制御器(コントローラ)により演算され、この制御器から出力される出力信号に基づいて制御される。従って、上記補正用制御弁56を構成するスプール58には、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、これに対抗する力となる、上記目標トルクTCVU2に対応する目標差圧である上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P とが作用する。
【0044】
上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とが一致する場合、即ち、これら通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tが0の場合には、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P に応じた力とが釣り合う。この為、上記補正用制御弁56を構成するスプール58は中立位置となり、上記差圧シリンダ54の油圧室55a、55bに作用する圧力も等しくなる。この状態では、この差圧シリンダ54のスプール59は中立位置となり、上記トロイダル型無段変速機24の変速比は変わらない(補正されない)。
【0045】
一方、上記トロイダル型無段変速機24を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とに差が生じると、上記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁57a、57bの出力圧の差圧△P に応じた力との釣り合いが崩れる。そして、上記通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tの大きさ及び方向に応じて上記補正用制御弁56を構成するスプール58が軸方向に変位し、上記差圧シリンダ54の油圧室55a、55b内に、上記△Tの大きさ及び方向に応じた適切な油圧が導入される。そしてこの結果、上記差圧シリンダ54のスプール59が軸方向に変位し、これに伴って、前記制御弁12を構成するスリーブ14が軸方向に変位する。この結果、前記トラニオン7が枢軸9、9の軸方向に変位して、上記トロイダル型無段変速機24の変速比が変わる(補正される)。尚、この様にして変速比が変化する方向、及び変化する量は、前述の図9〜10により説明した通りである。又、この様にトロイダル型無段変速機24の変速比が変位する量、即ち補正される量(変速比の補正量)は、このトロイダル型無段変速機24の変速比幅に対して十分小さいものである。
【0046】
【本発明に先だって考え、本発明の前提となる構造】
上述の様な無段変速装置を実際に車両に搭載する場合、この車両を(一時停止ではなく)継続して停止させる際には、高速用クラッチ40、40aの接続を断つだけでなく、低速用クラッチ39、39aの接続も断つ事が考えられる。この理由は、トロイダル型無段変速機24の耐久性確保と、不用意な発進を防止して安全性を確保する為である。即ち、図6〜7に示す様なギヤード・ニュートラル型の無段変速装置は、上記低速用クラッチ39、39aを接続した状態で、入力軸1を回転させたまま出力軸37、37aを停止させられるが、停止状態を実現する為には、トロイダル型無段変速機24の変速比状態を微妙に調節する必要がある。このトロイダル型無段変速機24の変速比が、上記停止状態を実現する為の値から僅かでもずれると、出力軸37、37aに駆動力が加わり、車両が前進若しくは後退する傾向になる。この状態で車両を停止させる為には、ブレーキペダルを踏み続ける必要があり、停車時間が長くなる場合には面倒である。又、上記トロイダル型無段変速機24の変速比調節により、入力軸1を回転させたまま車両を停止させる際には、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクが大きくなり、このトロイダル型無段変速機24の耐久性を確保する面からは不利である。
【0047】
この様な問題を解決する為、車両の停車状態が継続される様な場合に、上記低速用クラッチ39、39aの接続を断つ事が考えられる。即ち、無段変速装置の作動状態を選択する為に運転席に設けた操作レバー(シフトレバー)により、上記無段変速装置の作動状態として非走行状態{ニュートラルレンジ(N)或はパーキングレンジ(P)}が選択された場合に、上記低速用クラッチ39、39aの接続を断つ。この状態で上記高速用クラッチ40、40aの接続が断たれている事は勿論である。この状態では、上記トロイダル型無段変速機24に変速状態に拘らず、入力軸1の回転が出力軸37、37aに伝わる事はなくなる。又、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは極く低く抑えられ、このトロイダル型無段変速機24の耐久性向上を図れる。
【0048】
一方、上記操作レバーにより、走行状態{ドライブレンジ(D)或はリバースレンジ(R)}が選択された場合には、上記低速用クラッチ39、39aを接続すると共に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を適切に規制する。この段階でこのトロイダル型無段変速機24の変速比調節を行なう理由は、次の通りである。先ず、上記低速用クラッチ39、39aの接続を断った状態では、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが僅少(殆ど0)になる。この為、前述の図9を利用した説明からも明らかな通り、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節する事はできない。このトロイダル型無段変速機24の変速比調節は、このトロイダル型無段変速機24を或る程度のトルクが通過する状態でないと行なえない。要するに、上記低速用クラッチ39、39aの接続を断った状態では、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を厳密には制御できない。
【0049】
従って、操作レバーにより非走行状態を選択した場合に上記低速用クラッチ39、39aの接続を断つ構成を採用した場合には、その後、上記操作レバーにより走行状態を選択した場合に、実際に走行を開始する以前に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を適正値に調節する必要が生じる。即ち、上記低速用クラッチ39、39aを接続し、これに伴って上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが上昇した状態で、このトロイダル型無段変速機24の変速比を所定値(入力軸1を回転させたまま出力軸37、37aを停止させられる値)に調節する必要がある。この場合に一般的な方法としては、上記低速用クラッチ39、39aが接続され始めた後、上記トロイダル型無段変速機24の変速比の調節を開始する事が考えられる。
【0050】
【発明が解決しようとする課題】
上述の様に、低速用クラッチ39、39aが接続され始めた後に、トロイダル型無段変速機24の変速比の調節を開始する構成を採用した場合には、運転者が操作レバーを非走行状態から走行状態に変えた後、直ちに発進動作(アクセルペダルの踏み込み動作)を行なった場合に、瞬間的とは言え、車両が意図する方向と逆の方向に変位する可能性がある。この理由に就いて、図12を参照しつつ説明する。尚、この図12は、車両を停止状態から前方に発進させようとする場合を示している。又、非走行状態でのトロイダル型無段変速機24の変速比が、無段変速装置全体としての速度比を、微速後退状態を実現する値となっている場合に就いて示している。尚、この様な値となる理由は、前述の用に低速用クラッチ39、39aの接続を断った状態では、トロイダル型無段変速機24の変速比を厳密には制御できず、無段変速装置全体としての変速比が不安定になり、適切な値となっているとは限らない為である。更に、図12の上部に記載した「N」なる符号は、操作レバーが非走行状態(ニュートラルレンジ)にある事を、「D」は走行状態(ドライブレンジ)にある事を、それぞれ表している。この様な図12により、前進を開始する場合に、瞬間的に車両が後退する可能性がある理由に就いて説明する。
【0051】
 時点で操作レバーがニュートラルレンジからドライブレンジに切り換えられた事に伴って、短時間経過後のT 時点で、上記低速用クラッチ39、39aの接続を開始する。操作レバーの切換時から上記T 時点までの経過時間△Tは、電磁弁の作動時間や油圧回路の抵抗等に基づく遅延時間である。何れにしても、湿式多板クラッチ等により構成された上記低速用クラッチ39、39aの接続が完了するまでには多少の時間を要する。従って、この低速用クラッチ39、39aは、T 時点で接続を完了する。T 、T 時点の間でこの低速用クラッチ39、39aは、動力の一部を伝達する、所謂半クラッチ状態であり、伝達する動力の大きさは、T 時点からT 時点に向かうに従って徐々に大きくなる。この結果、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクに比例する無段変速機の出力トルクの絶対値が、実線イで示す様に次第に大きくなり、T 、T 両時点の間に存在するT 時点で、上記トロイダル型無段変速機24の変速比制御が可能になる。即ち、上記低速用クラッチ39、39aを接続する信号を発すると同時にトロイダル型無段変速機24の変速比を調節する為の信号を発しても、上記T 時点で初めて上記トロイダル型無段変速機24の変速比制御が可能になる。
【0052】
そこで、このトロイダル型無段変速機24の変速比を制御する為の制御器が、上記T 時点で、破線ロで示す様に、無段変速装置全体としての速度比を無限大(出力軸速度/入力軸速度=0)を得る為に必要とされる、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルク(に応じた、アクチュエータ10の高圧室と低圧室との間の差圧△P)を設定する。この結果、このトロイダル型無段変速機24の変速比が調節されて、低速用クラッチ39、39aの接続を完了するT 時点で、上記無段変速装置全体としての速度比を無限大の近傍にする。又、無段変速装置全体としての出力トルクを、前進方向の小さな値に設定する。即ち、この場合に無段変速装置全体としての速度比及び出力トルクは、ブレーキペダルを踏む事で車両を停止させる事ができ、ブレーキペダルから足を離す事によって前進方向のクリープが発生する程度に設定される。従って、上記T 時点以後に発進動作(ブレーキから足を離し、代わりにアクセルペダルを踏み込む動作)を行なえば、車両を前進させる事ができる。
【0053】
但し、このT 時点よりも前の、例えば上記T 時点では、実線ハで示す様に、上記無段変速装置全体としての速度比が微速後退状態となっている。この為、上記T 時点よりも前に発進動作を行なうと、車両が極短時間とは言え後退してから、前進を開始する。車両がこの様な不自然な動きをした場合、運転者に大きな違和感を与えるばかりでなく、例えば車庫内で後方に障害物が近接していた場合、この障害物に接触する可能性がある為、好ましくない。以上の説明は、車両を前進させる場合に就いて説明したが、後退させる場合でも同様に起こる可能性がある。
本発明の無段変速装置は、この様な事情に鑑みて、操作レバーを非走行状態から走行状態に切り換えた直後に発進動作を行なっても、車両が確実に運転者が意図する方向に発進する構造を実現すべく発明したものである。
【0054】
【課題を解決するための手段】
本発明の無段変速装置は、前述の図6に示した従来から知られている、或は図7に示した先発明に係る無段変速装置と同様に、入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、動力の伝達を断つ為のクラッチと、このクラッチの断接及び上記トロイダル型無段変速機の変速比の変更を制御する為の制御器と、非走行状態と前進状態と後退状態とうちの何れかの状態を選択する為の操作レバーとを備える。
又、上記トロイダル型無段変速機は、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される入力側ディスクと、この入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続された出力側ディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個のトラニオンとを備えたものである。
又、上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して、上記出力軸に伝達するものである。
更に、上記制御器は、次の▲1▼〜▲4▼の機能を有するものである。
▲1▼ 上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とする機能。
▲2▼ 上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクを調節する機能。
▲3▼ 上記操作レバーにより非走行状態が選択された状態で、上記クラッチの接続を断つ機能。
▲4▼ 上記操作レバーが非走行状態から前進状態と後退状態とのうちの何れかの状態に切り換えられた場合に、上記クラッチを接続する為の信号を出力すると同時に、選択された状態に応じた駆動力を得る場合に上記トロイダル型無段変速機を通過すべきトルクの目標値を設定して、このトロイダル型無段変速機の変速比をこの設定された目標値に見合う値に補正する機能。尚、この場合の補正値は、小さな範囲内に制限する。
【0055】
【作用】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置の場合、操作レバーの切換時からクラッチの接続が開始されるまでの間に存在する遅延時間以前に、トロイダル型無段変速機を通過すべきトルクの目標値を設定する。この為、上記クラッチが、車両を発進させられる程度の動力を伝達する程度にまで接続される以前に、上記トロイダル型無段変速機の変速比が、上記設定された目標値に見合う値に補正される。この為、操作レバーを非走行状態から走行状態に切り換えた直後に発進動作を行なっても、車両が確実に運転者が意図する方向に発進する。
【0056】
【発明の実施の形態】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。先ず、図1に示した、無段変速装置の制御回路に就いて、簡単に説明する。尚、制御弁12と、ステッピングモータ13と、プリセスカム18と、リンク腕19と、差圧シリンダ54とにより、アクチュエータ10のストロークを制御し、トロイダル型無段変速機の変速比を調節する部分の構造に就いては、前述の図11に示した先発明に係る構造と同じであるから、重複する説明を省略する。
【0057】
図1に示した油圧回路では、油溜60から吸引されて加圧ポンプ61a、61bにより吐出され、調圧弁62a、62bにより所定圧に調整された圧油を、上記制御弁12を介して上記アクチュエータ10に送り込み自在とする他、上記差圧シリンダ54のストロークを調節する為の補正用制御弁56に、電磁弁57a、57bの開閉に基づいて送り込み自在としている。又、上記圧油は、手動油圧切換弁63と、高速用切換弁64又は低速用切換弁65とを介して、低速用クラッチ39(39a)又は高速用クラッチ40(40a)の油圧室内に送り込み自在としている。又、図示の例では、上記圧油を、入力側、出力側各ディスクの内側面と各パワーローラの周面との当接圧を確保する為の油圧式の押圧装置23aにも送り込む様にしている。上記各切換弁63〜65のうち、上記手動油圧切換弁63は、運転席に設けられて運転者により操作される操作レバー(シフトレバー)により操作されて、駐車レンジ(P)、リバース(後退)レンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、ドライブ(通常前進)レンジ(D)、高駆動力前進レンジ(L)を選択する。これら各レンジを選択した場合に於ける、上記手動油圧切換弁63の切り換え状態は、図示の通りである。尚、この手動油圧切換弁63を含め、各弁の構造及び機能の表示は、油圧機器に関する機械製図の一般的な手法によっている。
【0058】
又、上記高速用、低速用両切換弁64、65はそれぞれ、シフト用電磁弁66により切り換えられるシフト用切換弁67の切り換えに基づく圧油の給排により、それぞれの連通状態を切り換えられるもので、一方の切換弁64(又は65)が高速用クラッチ40(又は低速用クラッチ39)の油圧室に圧油を送り込む際には、他方の切換弁65(又は64)が低速用クラッチ39(又は高速用クラッチ40)の油圧室から圧油を排出する。
【0059】
上述の様に構成する油圧回路を備えた無段変速装置は、前述の図6に示した従来から知られている、或は図7に示した先発明に係る無段変速装置と同様に、入力軸1と、出力軸37、37aと、トロイダル型無段変速機24と、差動ユニットである遊星歯車式変速機25、25aと、切換手段と、制御器と、操作レバーとを備える。この切換手段は、低速用クラッチ39、39a及び高速用クラッチ40、40aから成り、低速モードと高速モードとを切り換えるものである。このうちの低速用クラッチ39、39aが、請求項1に記載したクラッチに相当する。又、図示しない制御器が、上記切換手段を構成する上記低速用、高速用各クラッチ39、39a、40、40aの断接及び上記トロイダル型無段変速機24の変速比の変更を制御する。又、上記操作レバーは、運転席に設けられて、運転者の操作に基づいて、前記手動油圧切換弁63を切り換え自在としている。尚、前述したこの手動油圧切換弁63の各ポジションのうち、駐車レンジ(P)及びニュートラルレンジ(N)は非走行状態を選択するポジションであり、リバースレンジ(R)、ドライブレンジ(D)、高駆動力前進レンジ(L)が走行状態を選択するポジションである。上記トロイダル型無段変速機24及び上記遊星歯車式変速機25、25aの構成は、前述した通りである。
【0060】
特に、本例の無段変速装置の場合には、上記制御器は、次の(1) 〜(5) の機能を有する。
(1) 低速モード時、即ち、上記低速用クラッチ39、39aを接続し、上記高速用クラッチ40、40aの接続を断った状態での運転時に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を調節して上記遊星歯車式変速機25、25aを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、駆動源により入力軸1を一方向に回転させた状態のまま、出力軸37、37aの回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とする機能(請求項1の▲1▼の機能)。
この機能に関しては、前述の図6に示した従来から知られている、或は図7に示した先発明に係る無段変速装置と同様である。
【0061】
(2) 高速モード時、即ち、上記低速用クラッチ39、39aの接続を断ち、上記高速用クラッチ40、40aを接続した状態での運転時に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、上記入力軸1と上記出力軸37、37aとの間の変速比を変更する機能。
この機能に関しても、前述の図6に示した従来から知られている、或は図7に示した先発明に係る無段変速装置と同様である。
【0062】
(3) 低速モード時、即ち、上記低速用クラッチ39、39aを接続し、上記高速用クラッチ40、40aの接続を断った状態での運転時に、上記トロイダル型無段変速機24の変速比を変える事により、このトロイダル型無段変速機24を通過するトルクを調節する機能(請求項1の▲2▼の機能)。
この機能に関しては、前述の図7〜11により説明した、先発明の場合と同様である。
【0063】
(4) 上記操作レバーにより非走行状態、即ち、パーキングレンジ又はニュートラルレンジが選択された状態で、上記低速用クラッチ39、39a及び上記高速用クラッチ40、40aの接続を総て断つ機能(請求項1の▲3▼の機能)。
この機能に関しては、前述した、本発明に先だって考え、本発明の前提となる構造の場合と同様である。
【0064】
(5) 上記操作レバーが非走行状態(Pレンジ又はNレンジ)から前進状態と後退状態とのうちの何れかの状態(Dレンジ又はLレンジ又はRレンジ)に切り換えられた場合に、上記低速モードを実現すべく上記低速用クラッチ39、39aを接続する為の信号を出力すると同時に、選択された状態に応じた駆動力を得る場合に上記トロイダル型無段変速機24を通過すべきトルクの目標値を設定して、このトロイダル型無段変速機24の変速比をこの設定された目標値に見合う値に補正する機能(請求項1の▲4▼の機能)。
この(5) の機能が、本発明の特徴であるから、この(5) の機能に就いて、NレンジからDレンジに切り換えられた場合を例にして、図2を参照しつつ、詳細に説明する。
【0065】
先ず、上記(5) の機能が必要な理由を説明する為、上記操作レバーにより非走行状態が選択された場合の、上記トロイダル型無段変速機24の変速比制御に就いて説明する。非走行状態では、上記操作レバーの位置検出に基づいて図示しない制御器が上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、無段変速装置全体としての変速比を無限大(入力軸の回転速度/出力軸の回転速度=∞)とする値に制御する。この制御は、上記制御器に予め記憶させた値に基づいて行なう。この場合にも、前述の図7〜11で説明した、前記(3) の機能に基づいて、上記トロイダル型無段変速機24の変速比の微調節が、前記差圧シリンダ54のストロークにより規制される、限られた範囲内で行なわれる。但し、上記操作レバーにより非走行状態が選択された場合に、上記(5) の機能を停止させる事もできる。何れにしても、非走行状態では上記トロイダル型無段変速機24の変速比が、その後の操作レバーの操作により選択される状態(前進状態又は後退状態)に対応した、適切な値になっているとは限らない。従って、そのままの状態で上記操作レバーにより走行状態を選択し、直ちに発進動作を行なうと、車両が意図しない動きをする可能性がある。
【0066】
そこで本例の場合には、上記操作レバーがNレンジからDレンジに切り換えられた瞬間、即ち、図2のT 時点で、破線ロで示す様に、選択された状態である前進状態に応じた駆動力、即ち、駆動輪を前進方向に(ブレーキペダルを踏まない状態でクリープを発生する程度の力で)回転駆動する場合に上記トロイダル型無段変速機24を通過すべきトルクに応じた、油圧(アクチュエータ10の高圧室と低圧室との間の差圧△P)の目標値を設定する。上記T 時点では、この目標値設定と同時に、前記低速用クラッチ39、39aを接続すべき旨の信号を発する。但し、この低速用クラッチ39、39aは、前述した様に、電磁弁の作動時間や油圧回路の抵抗等に基づく遅延時間△T後のT 時点で接続を開始され、T 時点で接続を完了する。従って、このT 、T 時点までの間は、上記低速用クラッチ39、39aが半クラッチの状態となり、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクの大きさが経時的に変化する(次第に大きくなる)。又、T 時点からT 時点までの間は、上記低速用クラッチ39、39aが繋がれておらず、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクは極く小さい(殆ど0の)状態となる。
【0067】
この為、上記T 時点で上記目標値△Pを設定すると、上記トロイダル型無段変速機24は、前記差圧シリンダ54による変速比の微調節範囲の限度一杯にまで変速制御され、無段変速装置の速度比が、上記T 時点の直後に、図2の実線ハに示す様に、前進状態に設定される。但し、この状態では、上記低速用クラッチ39、39aが繋がれずに上記無段変速装置の出力トルクが殆ど0であるから、車両が不用意に発進する事はない。
【0068】
そして、上記遅延時間△T後のT 時点で上記低速用クラッチ39、39aが繋がれ始めると、上記トロイダル型無段変速機24を通過するトルクが次第に大きくなり、上記アクチュエータ10の高圧室と低圧室との間の差圧△P及び無段変速装置の出力トルクが、図2の実線イ、ニに示す様に、次第に大きくなる。そして、実際に前記目標値に達した上記差圧△Pに基づいて上記トロイダル型無段変速機24の変速比を、上記無段変速装置の速度比を無限大にすべく調節する。図示の例では、実線ハに示す様に、上記実際の差圧△Pが上記目標値を上回った時点から上記トロイダル型無段変速機24の変速比を実際の差圧△Pに基づいて制御する。そして、上記低速用クラッチ39、39aの接続が完了したT 時点で、上記無段変速装置の速度比がほぼ無限大になると同時に、この無段変速装置の出力トルクが前進方向の小さな値となる。この状態では、ブレーキペダルの踏み込みにより車両を停止させられるが、ブレーキペダルから足を離す事により、車両が前進方向にクリープする状態となる。
【0069】
従って、上記T 時点後に発進動作を行なう事により、車両を運転者の意図した方向(図示の例では前進方向)に確実に発進させる事ができる。又、上記T 時点よりも前に発進動作を行なったとしても、車両が意図しない方向に動く事はない。即ち、図2から明らかな通り、操作レバーを操作したT 時点から、上記低速用クラッチ39、39aが接続され始めるT 時点までの間は、無段変速装置の出力トルクが0であり、しかも速度比が前進方向となっている。従って、T 時点以前に発進動作を行なっても、車両は何れの方向にも発進しない。又、T 時点からT 時点までの間は、無段変速装置の出力トルクが低く、しかも速度比が前進方向となっている。従って、T 時点からT 時点までの間で発進動作を行なった場合には、車両は前方に向け緩徐に発進する。
【0070】
上述の説明は、車両を前方に発進させる場合に付いて説明したが、後退させる場合に就いても、前後方向が逆になる以外、全く同様に作用する。従って、操作レバーを非走行状態から走行状態に切り換えた直後に発進動作を行なっても、車両が確実に運転者が意図する方向に発進する。
【0071】
尚、図示の例では、上記無段変速装置の速度比を無限大近傍に規制すべく、前記トロイダル型無段変速機24の変速比を微調節する為の差圧シリンダ54のストロークを小さな範囲に抑えて、この変速比が過度に調節されない様にしている。又、上記差圧シリンダ54を、前記アクチュエータ10の油圧室51a、51b内の差圧により切り換える様にしている。従って、上記変速比を微調節する為の構造部分を故障しにくくして、信頼性の高い無段変速装置を実現できる。
【0072】
【発明の効果】
本発明は、以上に述べた通り構成され作用するので、急な発進操作を行なった場合でも車両が意図しない動きをする事を確実に防止できて、無限大の変速比を得られる無段変速装置の実現に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図2】本発明の無段変速装置を非走行状態から走行状態に切り換える際に於ける各部の動きを説明する為の線図。
【図3】従来から知られているトロイダル型無段変速機の1例を示す断面図。
【図4】図3のA−A断面図。
【図5】同B−B断面図。
【図6】従来から知られている無段変速装置の1例を示す略断面図。
【図7】先発明に係る制御装置により変速比を制御する無段変速装置の1例を示す略断面図。
【図8】この無段変速装置に組み込んだトロイダル型無段変速機(CVU)の変速比と、この無段変速装置(T/M)全体としての変速比との関係を示す線図。
【図9】先発明に係る制御装置で変速比を制御する状態を説明する為、エンジンの回転速度とトルクとの関係を示す線図。
【図10】トロイダル型無段変速機を通過するトルク及び変速比と、無段変速装置全体としての変速比との関係を示す線図。
【図11】先発明の無段変速装置を構成するトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図12】先に考えた機構で、無段変速装置を非走行状態から走行状態に切り換える際に於ける各部の動きを説明する為の線図。
【符号の説明】
1  入力軸
2  入力側ディスク
3  ボールスプライン
4  出力歯車
5、5a 出力側ディスク
6  パワーローラ
7  トラニオン
8  支持軸
9  枢軸
10  アクチュエータ
11  支持板
12  制御弁
13  ステッピングモータ
14  スリーブ
15  スプール
16  ピストン
17  ロッド
18  プリセスカム
19  リンク腕
20  同期ケーブル
21  カム面
22  駆動軸
23、23a 押圧装置
24  トロイダル型無段変速機
25、25a 遊星歯車式変速機
26、26a キャリア
27a、27b 遊星歯車素子
28  第一の伝達軸
29a、29b 太陽歯車
30  第二の伝達軸
31、31a 中空回転軸
32  太陽歯車
33  遊星歯車素子
34  リング歯車
35、35a 第二のキャリア
36a、36b 遊星歯車素子
37、37a 出力軸
38、38a 第二のリング歯車
39、39a 低速用クラッチ
40、40a 高速用クラッチ
41  第一の遊星歯車
42  第二の遊星歯車
43a、43b 遊星歯車素子
44a、44b 遊星歯車素子
45  伝達軸
46  第一の太陽歯車
47  第二の太陽歯車
48  リング歯車
49  第三の太陽歯車
50a、50b 遊星歯車素子
51a、51b 油圧室
52  ロッド
53  リンク腕
54  差圧シリンダ
55a、55b 油圧室
56  補正用制御弁
57a、57b 電磁弁
58  スプール
59  スプール
60  油溜
61a、61b 加圧ポンプ
62a、62b 調圧弁
63  手動油圧切換弁
64  高速用切換弁
65  低速用切換弁
66  シフト用電磁弁
67  シフト用切換弁

Claims (3)

  1. 入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、動力の伝達を断つ為のクラッチと、このクラッチの断接及び上記トロイダル型無段変速機の変速比の変更を制御する為の制御器と、非走行状態と前進状態と後退状態とうちの何れかの状態を選択する為の操作レバーとを備え、
    上記トロイダル型無段変速機は、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される入力側ディスクと、この入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続された出力側ディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個のトラニオンとを備えたものであり、
    上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して上記出力軸に伝達するものであり、
    上記制御器は、次の▲1▼〜▲4▼の機能を有するものである無段変速装置。
    ▲1▼ 上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とする機能。
    ▲2▼ 上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクを調節する機能。
    ▲3▼ 上記操作レバーにより非走行状態が選択された状態で、上記クラッチの接続を断つ機能。
    ▲4▼ 上記操作レバーが非走行状態から前進状態と後退状態とのうちの何れかの状態に切り換えられた場合に、上記クラッチを接続する為の信号を出力すると同時に、選択された状態に応じた駆動力を得る場合に上記トロイダル型無段変速機を通過すべきトルクの目標値を設定して、このトロイダル型無段変速機の変速比をこの設定された目標値に見合う値に補正する機能。
  2. 各トラニオンが、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた枢軸の軸方向に、油圧式のアクチュエータにより変位させられるものであり、このアクチュエータを構成するピストンを挟んで設けた1対の油圧室内の油圧の差に基づいて、トロイダル型無段変速機を通過するトルクを測定する、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
  3. トロイダル型無段変速機を通過すべきトルクの目標値と実際にこのトロイダル型無段変速機を通過するトルクとの比較、並びに、この比較に基づくこのトロイダル型無段変速機の変速比の補正を非電気的に行なう、請求項2に記載した無段変速装置。
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