JP2004115900A - 条鋼製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】スマットの付着が防止される条鋼製造方法の提供。
【解決手段】ビレットに多段の熱間圧延が施され(STP2)、線材が得られる。線材はコイル状に巻き取られ(STP3)、熱間圧延から24時間以内に無酸化炉にて高温環境下に保持され(STP4)、次に空冷される(STP5)。これにより、線材が焼鈍され、線材の時効割れが防止される。次に線材は、2度目の焼鈍(STP6、7)に供される。次に線材が塩酸水溶液に浸漬され、スケールが除去される(STP8)。次に線材が硝酸水溶液に浸漬されて、表面が不動態化する(STP9)。次に線材が塩酸水溶液に浸漬され、付着物が除去される(STP10)。次に線材がアルカリ水溶液に浸漬され、酸が中和される(STP11)。前処理(STP10)の後には、不動態化処理は行われない。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、条鋼の製造方法に関する。詳細には、本発明は、熱間圧延後の条鋼の表面処理方法の改善に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
条鋼の一種である線材の製造方法として、熱間圧延による方法が広く知られている(例えば特開平10−263602号公報及び特開2000−42619公報を参照)。この製造方法では、まず精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経て得られた素材(ビレット)が、加熱炉によって加熱される。次に、このビレットに、多段の圧延機によって熱間圧延が施される。熱間圧延によってビレットは細径化し、且つ長尺化して、線材が得られる。線材はコイル状に巻き取られ、次工程へと送られる。
【0003】
この線材は、酸洗に供される。酸洗では、線材が塩酸又は硫酸の水溶液に浸漬される。これにより、熱間圧延時に線材の表面に生じた酸化物スケールが除去される。鋼種によっては、熱間圧延と酸洗との間に、軟化焼きなまし等の熱処理が施されることがある。この熱処理によって生じたスケールも、酸洗によって除去される。
【0004】
酸洗工程の最終段階では、塩酸を洗い流す目的で、線材の表面が水洗される。しかしながら、水洗のみでは塩酸を完全に除去することはできない。この場合、酸洗後の線材は、残留する酸の影響で急速に腐食し、腐食の進行により線材の品質が悪化する。
【0005】
酸による腐食を防止する目的で、塩酸水溶液への浸漬後、線材が硝酸水溶液に浸漬される。硝酸によって線材の表面に酸化皮膜が形成され、線材が不動態化する。これにより、線材の腐食が防止される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
マルテンサイト系ステンレス鋼の場合、これら一連の酸洗工程における硝酸水溶液への浸漬により、線材の表面にスマット(泥)が付着する。スマットは線材の外観を著しく悪化させ、その商品価値を低下させる。スマット除去の目的で、高圧水スプレーによって線材が洗浄されることもあるが、これによってもスマットは完全には除去されない。しかも、作業者がコイル状に巻かれた線材をほぐしつつ高圧水を噴射させる作業は極めて煩わしく、作業に長時間を要する。スマットは、線材の製造コストを押し上げる。
【0007】
一部のマルテンサイト系ステンレス鋼では、熱間圧延後において、その組織がマルテンサイト変態を完全には起こしていないものがある。この線材の組織では、マルテンサイトとオーステナイトとが混在している。
【0008】
マルテンサイトとオーステナイトとが混在している上記線材が熱間圧延後に長時間(例えば24時間以上)放置されると、時効により割れが生じるおそれがある。時効割れ対策として、熱間圧延後の線材が熱処理(軟化焼きなまし)に供されることがある。この熱処理に起因して、線材の表面に、線状に連続したピット(「アバタ疵」と称されている)が生じることがある。アバタ疵は線材の外観を低下させ、しかも、線材から得られる二次加工品の品質を低下させる。線材メーカーは、アバタ疵の除去を目的として、線材の表面を検査しなければならない。ところが、スマットが付着した線材では、スマットによってアバタ疵が目視できず、アバタ疵が見落とされることが多い。ブラッシング等の手段でスマットが除去されればアバタ疵が目視できるが、この除去の作業は極めて煩雑である。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、スマットの付着が防止される条鋼製造方法の提供をその目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る条鋼製造方法は、
(1)鋼種がマルテンサイト系ステンレス鋼であるビレットに熱間圧延が施されて条鋼が得られる圧延工程
(2)この条鋼が塩酸又は硫酸の水溶液に浸漬されて条鋼の表面に付着したスケールが除去される除去工程
(3)この条鋼がさらに塩酸又は硫酸の水溶液に浸漬される前処理工程
及び
(4)この条鋼がアルカリ性水溶液に浸漬され、条鋼に付着している塩酸又は硫酸が中和される中和工程
をこの順に備える。
【0011】
この製造方法では、アルカリ性水溶液での中和によって、前処理工程で用いられた酸による腐食が防止される。従って、この製造方法では、前処理工程後に条鋼の硝酸水溶液への浸漬は不要である。よって、硝酸水溶液に起因するスマットが生じない。この製造方法は、条鋼の外観向上に寄与する。
【0012】
この製造方法は、熱間圧延後の時効割れ対策が必要な鋼種に特に適している。この鋼種では、スマットの抑制による外観向上の効果が特に大きい。またこの鋼種では、スマットの抑制により、アバタ疵の検査が容易となるという効果も生じる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法が示されたフロー図である。この製造方法では、まず、精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経て、ビレットが準備される(STP1)。このビレットの鋼種は、マルテンサイト系ステンレス鋼である。
【0015】
次に、このビレットに対して熱間圧延が施される(STP2)。熱間圧延は、通常は多段の圧延機(粗列圧延機、中間列圧延機及び仕上列圧延機)によってなされる。熱間圧延によってビレットは細径化し且つ長尺化して、その後にレイイング装置等によってコイル状に巻き取られる(STP3)。こうして、線材が得られる。熱間圧延により、線材の表面にはスケールが生じている。熱間圧延後の線材では、組織の一部がマルテンサイト変態を起こしており、一部はオーステナイトである。
【0016】
次に線材は、無酸化炉へと運ばれて第1回目の焼鈍に供される。焼鈍では、まず線材が高温環境下に保持され(STP4)、次に徐冷又は空冷される(STP5)。保持(STP4)の際の炉内温度は、800℃から900℃に設定される。一般的な保持時間は、10時間から12時間である。
【0017】
前述のように、熱間圧延後の線材はオーステナイト組織を有しているので、過飽和固溶体の析出に起因する時効割れが生じるおそれがある。第1回目の焼鈍は、線材の硬度低下を目的とするとともに、時効割れの防止をも目的とする。従って、時効が進行する前に第1回目の焼鈍が行われる必要がある。好ましくは、熱間圧延(STP2)の完了から24時間以内に、焼鈍が開始される。
【0018】
次に線材は、必要に応じて第2回目の焼鈍に供される。第2回目の焼鈍でも、高温環境下での保持(STP6)と、徐冷又は空冷(STP7)とが行われる。保持(STP6)の際の条件は、第1回目の焼鈍の保持(STP4)の条件と同等である。焼鈍が繰り返されることで、線材が十分に軟化する。
【0019】
次に線材は、除去工程に供される(STP8)。この除去工程では、塩酸又は硫酸の水溶液に線材が浸漬される(いわゆるスケール除去酸洗)。これにより、熱間圧延(STP2)及び熱処理(STP4〜7)によって生じたスケールが線材から除去される。除去工程の具体例としては、(a)塩酸水溶液浴への浸漬、(b)高温塩浴への浸漬、(c)水冷、(d)塩酸水溶液浴への浸漬及び(e)水洗が、この順に行われるものが挙げられる。塩酸水溶液の濃度は10%から20%程度であり、温度は30℃から50℃程度である。塩浴の温度は、400℃から500℃程度である。塩酸水溶液浴への浸漬(a、d)の時間は、それぞれ6分から20分程度である。高温塩浴への浸漬(b)の時間は、5分から20分程度である。もちろん、除去工程の手順はこれには限られない。スケールが効率よく除去される手順が適宜採用される。
【0020】
次に線材は、不動態化処理に供される(STP9)。不動態化処理では、線材が硝酸水溶液浴に浸漬され、所定時間経過後に引き上げられて水洗される。これにより、線材の表面が堅固な酸化皮膜で覆われ、線材が不動態化する。除去工程(STP8)で用いられた酸による腐食を抑制するため、除去工程終了後直ちに不動態化処理(STP9)が行われる。硝酸水溶液の濃度は10%から15%程度であり、温度は30℃から50℃程度である。
【0021】
次に線材は、前処理に供される(STP10)。この前処理工程では、塩酸又は硫酸の水溶液に線材が浸漬される(いわゆる仕上げ酸洗)。これにより、線材表面の付着物が除去される。前処理工程の具体例としては、(a)塩酸水溶液浴への浸漬、(b)塩酸水溶液浴への浸漬、(c)高温塩浴への浸漬、(d)水冷、(e)塩酸水溶液浴への浸漬、(f)塩酸水溶液浴への浸漬及び(g)水洗が、この順に行われるものが挙げられる。塩酸水溶液の濃度は10%から15%程度であり、温度は30℃から50℃程度である。塩浴の温度は、400℃から500℃程度である。塩酸水溶液浴への浸漬(a、b、e、f)の時間は、それぞれ3分から9分程度である。高温塩浴への浸漬(c)の時間は、5分から20分程度である。もちろん、前処理の手順はこれには限られない。付着物が効率よく除去される手順が適宜採用される。
【0022】
次に線材は、中和処理に供される(STP11)。この中和処理では、線材がアルカリ水溶液(通常は弱アルカリ水溶液)に浸漬される。これにより、線材の表面に付着した酸が中和され、酸による線材の腐食が防止される。
【0023】
酸による腐食を抑制する観点から、前処理(STP10)の完了後直ちに中和処理(STP11)が行われるのが好ましい。通常は、前処理の完了から1分以内に中和処理が開始される。
【0024】
中和処理(STP11)に用いられるアルカリ溶液のpHは、8以上10以下が好ましい。アルカリ水溶液の好ましい温度は、20℃以上60℃以下である。アルカリ水溶液浴への浸漬時間は、1分以上3分以下が好ましい。
【0025】
次に、線材の表面が検査される(STP12)。この検査でアバタ疵が発見された場合は、グラインダーによる切削等の手段により、疵の除去(STP13)が行われる。線材はその後結束され、出荷される。
【0026】
この製造方法では、中和処理(STP11)によって線材の腐食が阻止されるので、前処理(STP10)の後に従来行われていた不動態化処理が不要である。従って、不動態化処理に起因するスマットの付着が生じず、スマット除去作業が不要となる。しかも、スマットがないので検査(STP12)において容易にアバタ疵が発見される。
【0027】
この製造方法は、0.4〜0.6質量%のCと、0.2〜0.3質量%のSiと、0.2〜0.3質量%のMnと、0.030質量%以下のPと、0.030質量%以下のSと、9〜11質量%のCrと、0.4〜0.6質量%のMoとを含み、残余が不可避の不純物とFeとからなるマルテンサイト系ステンレス鋼からなる線材に、特に適している。この鋼種は、熱間圧延後にもオーステナイト組織を有している。この鋼種に本発明に係る製造方法が適用されると、表面が白色を呈した美しい線材が得られる。この色目は、不動態化処理によって得られるオーステナイト系ステンレス鋼の色目に近い。このマルテンサイト系ステンレス鋼ではアバタ疵が生じやすいが、表面にスマットが付着していないので、アバタ疵の検査(STP12)及び除去作業(STP13)が容易で、かつ短時間でなされうる。もちろん、アバタ疵が生じない他のマルテンサイト系ステンレス鋼(例えばSUS420J2及びSUS416)の場合でも、スマットが付着しないことによる外観向上効果は得られる。
【0028】
この製造方法により、商品価値の高い線材が得られる。この製造方法は、線材の製造コスト低減に寄与する。
【0029】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0030】
[実施例]
鋼種が、0.53質量%のCと、0.25質量%のSiと、0.25質量%のMnと、0.030質量%以下のPと、0.030質量%以下のSと、10.2質量%のCrと、0.53質量%のMoとを含み、残余が不可避の不純物とFeとからなるマルテンサイト系ステンレス鋼であるビレットを用意した。このビレットに多段の熱間圧延を施して、直径が18mmの線材を得た。次に、この線材をレイイング装置でコイル状に巻き取った。次に、この線材を、熱間圧延完了から24時間以内に無酸化炉へ搬入して870℃の温度下に15時間保持した後、空冷した(第1焼鈍工程)。次に、この線材に対し、第1焼鈍工程と同様の条件で焼鈍を施した(第2焼鈍工程)。
【0031】
次に、この線材を除去工程に供した。除去工程の詳細は、以下の通りである。
(a)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(b)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(c)450℃の塩浴への浸漬(12分)
(d)水冷(3分)
(e)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(f)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(g)水洗(1分)
この除去工程により、線材のスケールが除去された。
【0032】
上記水洗(g)の後直ちに、線材を40℃の12〜15%硝酸水溶液に浸漬した。そして、2分後に線材を引き上げて、1分間水洗した。この処理により、線材の表面が不動態化する。
【0033】
次に、この線材を前処理工程に供した。前処理工程の詳細は、以下の通りである。
(a)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(b)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(c)450℃の塩浴への浸漬(12分)
(d)水冷(3分)
(e)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(f)40℃の13%塩酸水溶液への浸漬(6分)
(g)水洗(1分)
この前処理工程により、線材表面の付着物が除去された。
【0034】
次に線材を、40℃の10%アルカリ水溶液に浸漬した。そして、2分後に線材を引き上げた。この処理により、前処理工程で線材の表面に付着した酸が中和される。
【0035】
[比較例1]
アルカリ水溶液への浸漬に代えて硝酸水溶液への浸漬を行った他は実施例と同様にして、線材を得た。
【0036】
[比較例2]
アルカリ水溶液への浸漬を行わなかった他は実施例と同様にして、線材を得た。
【0037】
[外観観察]
線材の表面を目視で観察した。この結果は、下記の通りであった。
Figure 2004115900
この評価結果より、本発明の優位性は明らかである。
【0038】
【発明の効果】
以上説明されたように、本発明の条鋼製造方法では、スマットが付着していない条鋼が得られる。この製造方法は、条鋼の品質向上と生産性向上とに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る条鋼製造方法が示されたフロー図である。

Claims (2)

  1. 鋼種がマルテンサイト系ステンレス鋼であるビレットに熱間圧延が施されて条鋼が得られる圧延工程と、
    この条鋼が塩酸又は硫酸の水溶液に浸漬されて条鋼の表面に付着したスケールが除去される除去工程と、
    この条鋼がさらに塩酸又は硫酸の水溶液に浸漬される前処理工程と、
    この条鋼がアルカリ性水溶液に浸漬され、条鋼に付着している塩酸又は硫酸が中和される中和工程と
    をこの順に備えた条鋼製造方法。
  2. 上記条鋼が熱間圧延後の時効割れ対策が必要な鋼種からなる請求項1に記載の条鋼製造方法。
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