JP2004115476A - (r)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法 - Google Patents
(r)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
式IV
【0003】
【化9】
【0004】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で表される(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノール(以下、省略して、式IVの化合物、化合物IVという場合もある)は、制吐剤として用いられる(R)−ジキシラジンの合成中間体として有用な化合物である(例えば、特許文献1参照)。この式IVの化合物の合成例は知られているが(例えば、特許文献2参照)、原料である(R)−β−クロロイソ酪酸の入手に課題がある。また、式IVの化合物の鏡像異性体である(S)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの合成例が公知であり(例えば、特許文献3参照)、この中で(R)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステルのβ−ヒドロキシル基をハロゲン化する試剤としてトリフェニルホスフィンとN−ブロモスクシンイミドが挙げられている。この方法は用いる試剤自体が高価であるだけでなく、反応が一度に進行するため、実験室で行うことは可能であるが、工業的には制御が難しく、また、反応後に生じるトリフェニルホスフィンオキシドの除去にも課題があるなど問題の多い方法である。また、この中でエステルの還元剤として水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素エーテラートとを組み合わせた例が記載されているが、三フッ化ホウ素エーテラートは沸点の低いジエチルエーテルを発生するため、工業的には好ましくない。このため、比較的安価な原料から化合物IVを工業的に安全に製造する方法の開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】
国際公開第02/50050号パンフレット
【特許文献2】
特開昭58−74623号公報
【特許文献3】
特開昭60−78929号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを比較的安価な材料から工業的に安全に製造する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、工業的に比較的安価に入手可能な光学活性(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステルを原料とし、従来不安定ではないかと考えられていた水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン(以下、THFと略す場合もある)錯体との組み合わせを用いてもエステルをアルコールに還元することが可能であることを見出し、さらに還元後の後処理で水素の発生を抑制し、後処理液等の有害なボラン系ガスの検出を抑えることで工業的に安全に(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを製造することができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)式I
【0009】
【化10】
【0010】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステル(以下、省略して、化合物Iという場合もある)を式II
【0011】
【化11】
【0012】
(式中、R’はメチル、フェニルまたはp−トリルを示し、Rは前記と同義である)
で表されるスルホナートに導き、次に置換スルホニルオキシ基(−OSO2R’)をハロゲン原子に置換することにより、式III
【0013】
【化12】
【0014】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは前記と同義である)
で表される化合物に導き、さらにエステル部分を還元して式IV
【0015】
【化13】
【0016】
(式中、Xは前記と同義である)
で表される光学活性(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールに導くことを特徴とする、(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法、
(2)水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン錯体とを組み合わせて用いてエステル部分の還元を行う、上記(1)記載の製造方法、
(3)水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン錯体とを組み合わせて用いることを特徴とする、式III
【0017】
【化14】
【0018】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を式IV
【0019】
【化15】
【0020】
(式中、Xは前記と同義である)
で表される化合物に還元する方法、
(4)式III
【0021】
【化16】
【0022】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を還元した後、反応溶液にアルカリ水溶液を添加して溶液のpHを5以上にした後に濃縮することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、および
(5)式III
【0023】
【化17】
【0024】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を還元した後、反応溶液にアセトンを添加した後に水を加え、次いでアルカリ水溶液を添加して該溶液のpHを5以上にした後に濃縮することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法に関する。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、化合物Iを化合物II(スルホナート)に変換する。
【0026】
本発明の出発原料である化合物I((S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステル)のRは炭素数1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル等が挙げられる。この化合物Iは市販されているもの、例えば(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸メチルを使用してもよいし、(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸をアルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコール等)でエステル化したものを使用してもよい。
【0027】
化合物IIのR’は、メチル、フェニルまたはp−トリルであり、対応する−OSO2R’(置換スルホニルオキシ基)はそれぞれメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基またはp−トルエンスルホニルオキシ基である。化合物Iのβ−ヒドロキシル基を直接ハロゲン原子に置換するのではなく、置換スルホニルオキシ基に変換してからハロゲン原子に置換することによって、除去困難な副生物を生成せず、特に蒸留操作を必要とせずに、純度の高い(R)−β−ハロゲノイソ酪酸エステル(化合物III)が得られるという利点がある。
【0028】
化合物Iの化合物II(スルホナート)への変換は、通常、THF、トルエン等を溶媒とし、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基の存在下、化合物Iとメタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリドまたは塩化p−トルエンスルホニルとを−30〜60℃で0.1〜16時間反応させることにより行われる。ここで、メタンスルホニルクロリド等は、化合物Iに対して、通常、0.9〜1.5倍モル、好ましくは1.0〜1.3倍モル使用する。
【0029】
次に、化合物IIの基:−OSO2R’(置換スルホニルオキシ基)をハロゲン原子に置換して化合物IIIにする。
【0030】
化合物IIIのX(ハロゲン原子)としては塩素原子または臭素原子が挙げられる。ハロゲン化剤として、例えば塩化リチウムを用いれば塩素化することができ、例えば臭化リチウム、臭化ナトリウムを用いれば臭素化することができる。反応速度が速いという点で、臭化リチウムを用いた臭素化が好ましい。ハロゲン化剤は化合物IIに対して、通常、1.0〜3.0倍モル、好ましくは1.0〜1.5倍モル使用する。
【0031】
ハロゲン化は、通常、THF、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトン等を溶媒として、化合物IIとハロゲン化剤とを0〜120℃で0.5〜16時間反応させることにより行われる。なお、反応系中に炭酸水素ナトリウム等の塩基を加えてもよい。
【0032】
そして、化合物IIIのエステル部分を還元して目的化合物IVにする。
【0033】
還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−THF錯体とを組み合わせて使用する。この組み合わせは、水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素エーテラートの組み合わせ(特許文献3参照)のように沸点の低いジエチルエーテルが発生しないために工業的に好ましい。三フッ化ホウ素−THF錯体は、例えば、三フッ化ホウ素ガスをTHF中に吹き込むことによって製造される。水素化ホウ素ナトリウムは、通常、β−ハロゲノイソ酪酸エステル(化合物III)1モルに対して、0.9〜2.4モル、好ましくは1.5〜2.1モル使用する。三フッ化ホウ素−THF錯体は、通常、β−ハロゲノイソ酪酸エステル1モルに対して、1.2〜3.2モル、好ましくは2.0〜2.8モル使用する。水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−THF錯体との比率は、通常、1:2〜2:1、好ましくは3:4である。
【0034】
還元反応は、通常、THF、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシメタン等を溶媒として、0〜100℃で0.5〜12時間行われる。
【0035】
還元後の後処理として直接水を加えるだけでは、大量の水素が発生するばかりでなく、有毒で危険なジボランまたはボラン−THF錯体を含むボラン系ガスが検出されるために工業的に好ましくない。水素の発生を抑制するためにはアセトンを添加して大部分の還元剤をクエンチし、その後に水を加えることが好ましい。水を加えた後の後処理液およびその後留出する溶媒の中のボラン系ガスの検出を抑えるため、後処理液にアルカリ水溶液を加えてpHを5以上、好ましくは7以上にすることが好ましい。pHを5以上にすることで、ボラン−THF錯体またはジボランの分解が促進されるため、ボラン系ガスはほとんど検出されなくなる。pHが5より小さいと、ボラン−THF錯体またはジボランの分解が遅いため、好ましくない。還元後にアセトン、水もしくはアセトンおよび水でクエンチした後にアルカリ水溶液を加えるか、または直接還元後の溶液にアルカリ水溶液を添加することにより、有害なボラン系ガスの検出を抑えることができる。還元後の溶液にアセトン、水を順に加え、その後にアルカリ水溶液を添加することが、水素の発生を抑制でき、さらにボラン系ガスの検出も抑えられるために特に好ましい。ここで使用されるアルカリ水溶液として、例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【0036】
得られた目的化合物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留等の通常の方法により、単離、精製することができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
測定機器を以下に示す。
1H−NMR:日本電子株式会社製 JNM−AL−400
比旋光度:日本分光株式会社製 JASCO−P−1030
ボラン系ガスの検出:株式会社ガステック製 ジボラン検出管No.22 1回吸引
【0038】
実施例1
(S)−3−メタンスルホニルオキシ−2−メチルプロピオン酸メチルの合成
(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸メチル(東京化成)5.75g(48.7mmol)をTHF40mLに溶解させ、トリエチルアミン5.64g(55.8mmol)を加えた後、0〜10℃でメタンスルホニルクロリド6.10g(53.3mmol)を加えた。0〜10℃で1時間攪拌した後、水を0.1mL加え、10分間攪拌し、10%食塩水40mLを加えた。分離した有機層を10%食塩水40mLで洗浄し、硫酸マグネシウム1.2gで脱水した後、溶媒を留去することにより、表題化合物8.60g(収率90%)をオイルとして得た。
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.24(3H, d, J=10Hz), 2.85−2.94(1H, m), 3.03(3H, s), 3.74(3H, s), 4.27(1H, dd, J=10Hz, J=5Hz), 4.38(1H, dd, J=10Hz, J=7Hz).
【0039】
実施例2
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸メチルの合成
(S)−3−メタンスルホニルオキシ−2−メチルプロピオン酸メチル8.60g(43.9mmol)をDMF43mLに溶解させた溶液に、臭化リチウム5.0g(57.6mmol)を加え、60℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後に水86mLを加え、ヘキサン43mLで2回抽出した。有機層を1N塩酸43mL、水43mLでそれぞれ洗浄した後、溶媒を留去することにより、表題化合物6.37g(収率80%)をオイルとして得た。
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.30(3H, d, J=10Hz), 2.87−2.95(1H, m), 3.47(1H, dd, J=10Hz, J=6Hz), 3.59(1H, dd, J=10Hz, J=7Hz), 3.73(3H, s).
【0040】
実施例3
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノールの合成
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸メチル6.00g(33.1mmol)をTHF60mLに溶解させた溶液に水素化ホウ素ナトリウム2.30g(60.8mmol)を分散させ、36℃まで昇温した後、三フッ化ホウ素−THF錯体12.0g(85.8mmol)を35〜40℃で滴下し、35〜40℃で2時間攪拌した。5℃まで冷却した後にアセトン10mLを5〜20℃で滴下し、その後水20mLを同温で滴下した。水を滴下する過程で水素はほとんど発生しなかった。また、後処理液のpHは3程度であった。後処理液に10%炭酸水素ナトリウム水溶液を約50mL加え、pHを7前後にした後、溶媒を約50mL留去した。留去液および後処理液中にボラン系ガスは検出されなかった。残渣に水50mLを加え、t−ブチルメチルエーテル50mLおよび30mLでそれぞれ抽出した。有機層を10%食塩水で洗浄し、溶媒を留去することにより、粗(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノール5.38gを得た。これを減圧蒸留(b.p.57〜60℃,1kPa)することにより、ほぼ純粋な(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノール4.08g(収率81%)をオイルとして得た。
[α]D 26=−11.5°(C=2, MeOH)
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.03(3H, d, J=7Hz), 1.60−1.64(1H, br), 1.97−2.08(1H, m), 3.50(2H, d, J=6Hz), 3.60(1H, dd, J=11Hz, J=6Hz), 3.63(1H, dd, J=11Hz, J=5Hz).
【0041】
比較例1
実施例3と同様の方法で反応させた溶液中にアセトンを加えず、直接水を20mL滴下した。水を1滴加えるたびに水素が発生し、水素発生量をコントロールすることが困難であった。
【0042】
比較例2
実施例3と同様の方法で反応させた溶液中にアセトン10mLおよび水20mLを順に滴下した。滴下後のpHは約3であった。その後そのままTHFを含む溶媒を50mL留去した。後処理液およびその後留去するTHF中にボラン系ガスが検出された(ジボラン検出管)。
【0043】
【発明の効果】
本発明の方法により、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを比較的安価な原料から工業的に安全に製造することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
式IV
【0003】
【化9】
【0004】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で表される(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノール(以下、省略して、式IVの化合物、化合物IVという場合もある)は、制吐剤として用いられる(R)−ジキシラジンの合成中間体として有用な化合物である(例えば、特許文献1参照)。この式IVの化合物の合成例は知られているが(例えば、特許文献2参照)、原料である(R)−β−クロロイソ酪酸の入手に課題がある。また、式IVの化合物の鏡像異性体である(S)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの合成例が公知であり(例えば、特許文献3参照)、この中で(R)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステルのβ−ヒドロキシル基をハロゲン化する試剤としてトリフェニルホスフィンとN−ブロモスクシンイミドが挙げられている。この方法は用いる試剤自体が高価であるだけでなく、反応が一度に進行するため、実験室で行うことは可能であるが、工業的には制御が難しく、また、反応後に生じるトリフェニルホスフィンオキシドの除去にも課題があるなど問題の多い方法である。また、この中でエステルの還元剤として水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素エーテラートとを組み合わせた例が記載されているが、三フッ化ホウ素エーテラートは沸点の低いジエチルエーテルを発生するため、工業的には好ましくない。このため、比較的安価な原料から化合物IVを工業的に安全に製造する方法の開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】
国際公開第02/50050号パンフレット
【特許文献2】
特開昭58−74623号公報
【特許文献3】
特開昭60−78929号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを比較的安価な材料から工業的に安全に製造する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、工業的に比較的安価に入手可能な光学活性(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステルを原料とし、従来不安定ではないかと考えられていた水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン(以下、THFと略す場合もある)錯体との組み合わせを用いてもエステルをアルコールに還元することが可能であることを見出し、さらに還元後の後処理で水素の発生を抑制し、後処理液等の有害なボラン系ガスの検出を抑えることで工業的に安全に(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを製造することができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)式I
【0009】
【化10】
【0010】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステル(以下、省略して、化合物Iという場合もある)を式II
【0011】
【化11】
【0012】
(式中、R’はメチル、フェニルまたはp−トリルを示し、Rは前記と同義である)
で表されるスルホナートに導き、次に置換スルホニルオキシ基(−OSO2R’)をハロゲン原子に置換することにより、式III
【0013】
【化12】
【0014】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは前記と同義である)
で表される化合物に導き、さらにエステル部分を還元して式IV
【0015】
【化13】
【0016】
(式中、Xは前記と同義である)
で表される光学活性(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールに導くことを特徴とする、(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法、
(2)水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン錯体とを組み合わせて用いてエステル部分の還元を行う、上記(1)記載の製造方法、
(3)水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン錯体とを組み合わせて用いることを特徴とする、式III
【0017】
【化14】
【0018】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を式IV
【0019】
【化15】
【0020】
(式中、Xは前記と同義である)
で表される化合物に還元する方法、
(4)式III
【0021】
【化16】
【0022】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を還元した後、反応溶液にアルカリ水溶液を添加して溶液のpHを5以上にした後に濃縮することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、および
(5)式III
【0023】
【化17】
【0024】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される化合物を還元した後、反応溶液にアセトンを添加した後に水を加え、次いでアルカリ水溶液を添加して該溶液のpHを5以上にした後に濃縮することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法に関する。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、化合物Iを化合物II(スルホナート)に変換する。
【0026】
本発明の出発原料である化合物I((S)−β−ヒドロキシイソ酪酸エステル)のRは炭素数1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル等が挙げられる。この化合物Iは市販されているもの、例えば(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸メチルを使用してもよいし、(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸をアルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコール等)でエステル化したものを使用してもよい。
【0027】
化合物IIのR’は、メチル、フェニルまたはp−トリルであり、対応する−OSO2R’(置換スルホニルオキシ基)はそれぞれメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基またはp−トルエンスルホニルオキシ基である。化合物Iのβ−ヒドロキシル基を直接ハロゲン原子に置換するのではなく、置換スルホニルオキシ基に変換してからハロゲン原子に置換することによって、除去困難な副生物を生成せず、特に蒸留操作を必要とせずに、純度の高い(R)−β−ハロゲノイソ酪酸エステル(化合物III)が得られるという利点がある。
【0028】
化合物Iの化合物II(スルホナート)への変換は、通常、THF、トルエン等を溶媒とし、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基の存在下、化合物Iとメタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリドまたは塩化p−トルエンスルホニルとを−30〜60℃で0.1〜16時間反応させることにより行われる。ここで、メタンスルホニルクロリド等は、化合物Iに対して、通常、0.9〜1.5倍モル、好ましくは1.0〜1.3倍モル使用する。
【0029】
次に、化合物IIの基:−OSO2R’(置換スルホニルオキシ基)をハロゲン原子に置換して化合物IIIにする。
【0030】
化合物IIIのX(ハロゲン原子)としては塩素原子または臭素原子が挙げられる。ハロゲン化剤として、例えば塩化リチウムを用いれば塩素化することができ、例えば臭化リチウム、臭化ナトリウムを用いれば臭素化することができる。反応速度が速いという点で、臭化リチウムを用いた臭素化が好ましい。ハロゲン化剤は化合物IIに対して、通常、1.0〜3.0倍モル、好ましくは1.0〜1.5倍モル使用する。
【0031】
ハロゲン化は、通常、THF、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトン等を溶媒として、化合物IIとハロゲン化剤とを0〜120℃で0.5〜16時間反応させることにより行われる。なお、反応系中に炭酸水素ナトリウム等の塩基を加えてもよい。
【0032】
そして、化合物IIIのエステル部分を還元して目的化合物IVにする。
【0033】
還元剤として、水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−THF錯体とを組み合わせて使用する。この組み合わせは、水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素エーテラートの組み合わせ(特許文献3参照)のように沸点の低いジエチルエーテルが発生しないために工業的に好ましい。三フッ化ホウ素−THF錯体は、例えば、三フッ化ホウ素ガスをTHF中に吹き込むことによって製造される。水素化ホウ素ナトリウムは、通常、β−ハロゲノイソ酪酸エステル(化合物III)1モルに対して、0.9〜2.4モル、好ましくは1.5〜2.1モル使用する。三フッ化ホウ素−THF錯体は、通常、β−ハロゲノイソ酪酸エステル1モルに対して、1.2〜3.2モル、好ましくは2.0〜2.8モル使用する。水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−THF錯体との比率は、通常、1:2〜2:1、好ましくは3:4である。
【0034】
還元反応は、通常、THF、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシメタン等を溶媒として、0〜100℃で0.5〜12時間行われる。
【0035】
還元後の後処理として直接水を加えるだけでは、大量の水素が発生するばかりでなく、有毒で危険なジボランまたはボラン−THF錯体を含むボラン系ガスが検出されるために工業的に好ましくない。水素の発生を抑制するためにはアセトンを添加して大部分の還元剤をクエンチし、その後に水を加えることが好ましい。水を加えた後の後処理液およびその後留出する溶媒の中のボラン系ガスの検出を抑えるため、後処理液にアルカリ水溶液を加えてpHを5以上、好ましくは7以上にすることが好ましい。pHを5以上にすることで、ボラン−THF錯体またはジボランの分解が促進されるため、ボラン系ガスはほとんど検出されなくなる。pHが5より小さいと、ボラン−THF錯体またはジボランの分解が遅いため、好ましくない。還元後にアセトン、水もしくはアセトンおよび水でクエンチした後にアルカリ水溶液を加えるか、または直接還元後の溶液にアルカリ水溶液を添加することにより、有害なボラン系ガスの検出を抑えることができる。還元後の溶液にアセトン、水を順に加え、その後にアルカリ水溶液を添加することが、水素の発生を抑制でき、さらにボラン系ガスの検出も抑えられるために特に好ましい。ここで使用されるアルカリ水溶液として、例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【0036】
得られた目的化合物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留等の通常の方法により、単離、精製することができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
測定機器を以下に示す。
1H−NMR:日本電子株式会社製 JNM−AL−400
比旋光度:日本分光株式会社製 JASCO−P−1030
ボラン系ガスの検出:株式会社ガステック製 ジボラン検出管No.22 1回吸引
【0038】
実施例1
(S)−3−メタンスルホニルオキシ−2−メチルプロピオン酸メチルの合成
(S)−β−ヒドロキシイソ酪酸メチル(東京化成)5.75g(48.7mmol)をTHF40mLに溶解させ、トリエチルアミン5.64g(55.8mmol)を加えた後、0〜10℃でメタンスルホニルクロリド6.10g(53.3mmol)を加えた。0〜10℃で1時間攪拌した後、水を0.1mL加え、10分間攪拌し、10%食塩水40mLを加えた。分離した有機層を10%食塩水40mLで洗浄し、硫酸マグネシウム1.2gで脱水した後、溶媒を留去することにより、表題化合物8.60g(収率90%)をオイルとして得た。
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.24(3H, d, J=10Hz), 2.85−2.94(1H, m), 3.03(3H, s), 3.74(3H, s), 4.27(1H, dd, J=10Hz, J=5Hz), 4.38(1H, dd, J=10Hz, J=7Hz).
【0039】
実施例2
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸メチルの合成
(S)−3−メタンスルホニルオキシ−2−メチルプロピオン酸メチル8.60g(43.9mmol)をDMF43mLに溶解させた溶液に、臭化リチウム5.0g(57.6mmol)を加え、60℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後に水86mLを加え、ヘキサン43mLで2回抽出した。有機層を1N塩酸43mL、水43mLでそれぞれ洗浄した後、溶媒を留去することにより、表題化合物6.37g(収率80%)をオイルとして得た。
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.30(3H, d, J=10Hz), 2.87−2.95(1H, m), 3.47(1H, dd, J=10Hz, J=6Hz), 3.59(1H, dd, J=10Hz, J=7Hz), 3.73(3H, s).
【0040】
実施例3
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノールの合成
(R)−3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸メチル6.00g(33.1mmol)をTHF60mLに溶解させた溶液に水素化ホウ素ナトリウム2.30g(60.8mmol)を分散させ、36℃まで昇温した後、三フッ化ホウ素−THF錯体12.0g(85.8mmol)を35〜40℃で滴下し、35〜40℃で2時間攪拌した。5℃まで冷却した後にアセトン10mLを5〜20℃で滴下し、その後水20mLを同温で滴下した。水を滴下する過程で水素はほとんど発生しなかった。また、後処理液のpHは3程度であった。後処理液に10%炭酸水素ナトリウム水溶液を約50mL加え、pHを7前後にした後、溶媒を約50mL留去した。留去液および後処理液中にボラン系ガスは検出されなかった。残渣に水50mLを加え、t−ブチルメチルエーテル50mLおよび30mLでそれぞれ抽出した。有機層を10%食塩水で洗浄し、溶媒を留去することにより、粗(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノール5.38gを得た。これを減圧蒸留(b.p.57〜60℃,1kPa)することにより、ほぼ純粋な(R)−3−ブロモ−2−メチルプロパノール4.08g(収率81%)をオイルとして得た。
[α]D 26=−11.5°(C=2, MeOH)
1H−NMR(CDCl3, δ ppm): 1.03(3H, d, J=7Hz), 1.60−1.64(1H, br), 1.97−2.08(1H, m), 3.50(2H, d, J=6Hz), 3.60(1H, dd, J=11Hz, J=6Hz), 3.63(1H, dd, J=11Hz, J=5Hz).
【0041】
比較例1
実施例3と同様の方法で反応させた溶液中にアセトンを加えず、直接水を20mL滴下した。水を1滴加えるたびに水素が発生し、水素発生量をコントロールすることが困難であった。
【0042】
比較例2
実施例3と同様の方法で反応させた溶液中にアセトン10mLおよび水20mLを順に滴下した。滴下後のpHは約3であった。その後そのままTHFを含む溶媒を50mL留去した。後処理液およびその後留去するTHF中にボラン系ガスが検出された(ジボラン検出管)。
【0043】
【発明の効果】
本発明の方法により、医薬中間体として有用な光学活性化合物である(R)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールを比較的安価な原料から工業的に安全に製造することができる。
Claims (5)
- 水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素−テトラヒドロフラン錯体とを組み合わせて用いてエステル部分の還元を行う、請求項1記載の製造方法。
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JP2002283997A JP2004115476A (ja) | 2002-09-27 | 2002-09-27 | (r)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールの製造方法 |
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JP2009167120A (ja) * | 2008-01-15 | 2009-07-30 | Asahi Glass Co Ltd | パーフルオロアリルブロミドの製造方法 |
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2002
- 2002-09-27 JP JP2002283997A patent/JP2004115476A/ja active Pending
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