JP2004114328A - 溶液製膜装置及び方法並びにその方法によるフィルム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高分子材料を溶媒に溶解したドープ13を流延ダイ24から、移動する流延バンド22上に流延してフィルム26を製造する装置であって、流延部分に膜状の流延ビード34が形成される溶液製膜装置10において、流延バンド22の移動方向から見た流延ビード34の後方に、流延ビード34に対する遮風物36を設けた。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は溶液製膜装置及び方法並びにその方法を用いて製造したフィルムに係り、特にセルロースアシレートフィルムの製膜に使用されるセルロースアシレート溶液の流延技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアシレート、特にセルローストリアセテートから形成されたフィルム(以下、TACフィルムと称する)は、一般的に溶液製膜法により製造され、メルトキャスト法などの他の製造方法と比較して、光学等方性、厚み均一性に優れ、また異物も少ないため、保護フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルムなどのオプト・エレクトロニクス用途に利用されている。
【0003】
溶液製膜法は、ポリマーを溶媒(主に有機溶媒)に溶解してドープを調製した後、このドープを流延ダイから、周回走行して移動する流延バンドや回転して流延面が移動する流延ドラムなどの流延支持体に流延して製膜する。製膜されて流延支持体から剥離されたフィルムは乾燥装置で乾燥され、これにより薄膜状のフィルムが製造される。この場合、製造されたフィルムの厚み均一性を向上するには、流延ダイと流延支持体との間の流延部分に形成される流延ビードを安定化することが重要である。特に、フィルムが薄膜化し、流延支持体の移動速度、即ち流延速度が高速化している今日では、流延ビードが不安定になり易いため、流延ビードの安定化対策がますます重要になってきている。
【0004】
このことから、例えば特許文献1には、流延ビードと流延支持体面との間に細いスリット状の吸引ノズルを設けて吸引することにより、流延ビードを流延支持体面に安定して密着化させる技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−52721号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、流延ビードと流延支持体面との間に細いスリット状の吸引ノズルを設ける方法では、流延ビードの安定化を十分に達成することができず、特に、フィルムが薄膜化され且つ高速流延が主流になっている今日では、吸引ノズルだけでは流延ビードの十分な安定化に対しては不十分である。
【0007】
別の対策として、ドープの希釈や乾燥の徐乾などにより、流延された膜表面のレベリングを促進することで、製造するフィルムの厚みムラを多少軽減できるが、この対策も根本的な解決にはならない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、流延ビードの安定化を確実に図ることができるので、厚み均一性に優れたフィルムを製造することができる溶液製膜装置及び方法並びにその方法を用いて製造したフィルムを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者が流延ビードの不安定要因を検討したところ、流延支持体の移動によって発生する同伴風に起因する風の流れや空気圧振動、流延支持体から剥離したフィルムを乾燥する乾燥風に起因する風の流れや空気圧振動、吸引ノズルを設けた場合に吸引ノズルに流延ビード周辺の空気が吸引される際に誘引される誘引風に起因する風の流れや空気圧振動、の3つの不安定要因により、流延支持体の移動方向から見た流延ビードの後方(以下、「流延ビードの裏」という)における風の流れや空気圧振動が流延ビードの自励振動の起振源になり、製造されたフィルムの流延方向(流延支持体の移動方法)に厚みムラを発生させることが分かった。この為、単に、流延ビードと流延支持体面との間に吸引ノズルを設けて減圧するだけでは、流延ビードの不安定要因の一部を除去できても、全ての不安定要因を除去することはできない。更には、吸引ノズルによる誘引風のような二次的な不安定要因も生じる。
【0010】
発明者は、この対策として、流延ビードの裏に遮風物を設けて、流延ビードの裏における風の流れや空気圧振動の流延ビードへの影響を遮断することが流延ビードの安定化に極めて有効であるとの知見を得た。また、遮風物と流延支持体とのクリアランス、遮風物の奥行き(遮風物の流延支持体に対面する面における流延支持体の移動方向の長さ)、遮風物の幅率(流延ビードの幅に対する遮風物の幅の比率%)を適切に設定することにより、流延ビードの裏における風の流れのうち水平成分速度を2m/秒以下にし、流延ビードの裏における空気圧振動変動を10Pa以下にすることができ、これにより流延ビードの安定効果を図ることが分かった。本発明はかかる知見に基づいて流延ビードを安定化のための手段を備えた溶液製膜装置、及び方法並びにその方法を用いて製造したフィルムを具体的に構成したものである。
【0011】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、高分子材料を溶媒に溶解したドープを、流延ダイから移動する流延支持体上に流延してフィルムを製造する装置であって、前記流延部分に膜状の流延ビードが形成される溶液製膜装置において、前記流延支持体の移動方向から見た前記流延ビードの後方に、前記流延ビードに対する遮風物を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、流延支持体の移動方向から見た流延ビードの後方に、即ち流延ビードの裏に流延ビードに対する遮風物を設け、上記した3つの流延ビードの不安定要因により生じる風の流れや空気圧振動の流延ビードへの影響を遮風物で遮断するようにしたので、流延ビードの安定化を確実に図ることができる。この場合、遮風物は流延ビードに接触しない限度において流延ビードに近接している流延ビードの真裏に配置することが好ましい。
【0013】
本発明の請求項2は、請求項1において、遮風物と流延支持体との間のクリアランスが0.1mm以上、30mm以下であることを特徴とするもので、これにより、流延ビードの裏における風の流れや空気圧振動が流延ビードに影響するのを効果的に遮断できる。
【0014】
本発明の請求項3は、請求項1又は2において、遮風物の奥行きが5mm以上であることを特徴とするもので、これにより、流延ビードの裏における風の流れや空気圧振動が流延ビードに影響するのを効果的に遮断できる。
【0015】
本発明の請求項4は、請求項1〜3の何れか1において、遮風物の幅率が35%以上、120%以下であることを特徴とするものであり、これにより、流延ビードの裏における風の流れや空気圧振動が流延ビードに影響するのを効果的に遮断できる。
【0016】
本発明の請求項5は、請求項1〜4の何れか1において、前記遮風物を前記ドープの主溶媒の沸点から±20°Cの範囲に保温する保温手段を設けたことを特徴とするもので、これにより流延ビードから蒸発した溶媒が遮風物で結露しないようにできる。
【0017】
本発明の請求項6は、請求項1〜5の何れか1において、遮風物と流延ダイとが一体的に形成されていることを特徴とするもので、これにより、遮風物と流延流延ダイとの間にクリアランスが形成されないので、流延ビードと流延支持体との間のクリアランスだけとなり、それだけ風の流れや空気圧振動の遮断効果が大きくなる。ここで、一体的に設けるとは一体物として製作することに限らず、遮風物と流延ダイを別々に製作して一体的に配置することも含む。
【0018】
本発明の請求項7は、請求項1〜6の何れか1において、遮風物の上流側に、流延支持体面に向いた吸引口を有する吸引チャンバを備えたことを特徴とするものである。これは、吸引チャンバを設けることで高速流延に一層対応し易くなるだけでなく、吸引チャンバと流延ビードとの間に遮風物を介在させることで、吸引チャンバによる流延ビードの二次的な不安定化要因である誘引風が流延ビードに影響しにくくなる。
【0019】
本発明の請求項8は、請求項7において、遮風物と吸引チャンバとが一体的に設けることを特徴としたものである。これにより、流延ビードの裏への風が生じにくくできる。この場合も、一体物として製作しても、遮風物と吸引チャンバとを別々に製作して一体的に配置してもよいが、例えば、一体物として製作する場合には、長靴状の吸引チャンバのつま先部分に詰め物をすることで遮風物を簡単に製作することができる。
【0020】
本発明の請求項9は、請求項7において、遮風物と流延ダイと吸引チャンバとが一体的に設けられていることを特徴とするものである。これにより、流延ビードの裏への風が生じにくくできる。この場合も、一体的に設けるとは一体物として製作することに限らず、遮風物と流延ダイを別々に製作して一体的に配置することも含む。
【0021】
本発明の請求項10は、請求項1〜9の少なくとも1において、前記流延支持体面の移動速度が30m/分以上であることを特徴とするもので、本発明の溶液製膜装置は、流延支持体の移動速度、即ち流延速度が30m/分以上の高速流延において特に有効である。
【0022】
本発明の請求項11は、請求項1〜10の少なくとも1において、製造されるフィルムの乾膜厚みが30μm以上、85μm以下であることを特徴とするもので、本発明の溶液製膜装置は、フィルムの乾膜厚みが30μm以上、85μm以下の薄膜において特に有効である。
【0023】
本発明の請求項12は、前記目的を達成するために、高分子材料を溶媒に溶解したドープを、流延ダイから移動する流延支持体上に流延してフィルムを製造する方法であって、前記流延部分に膜状の流延ビードが形成される溶液製膜方法において、前記流延支持体の移動方向から見た前記流延ビードの裏における風の流れの水平成分風速を2m/秒以下にすると共に前記流延ビード裏の空気圧振動変動を10Pa以下にすることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、溶液製膜方法において、流延ビード裏における風の水平成分風速を2m/秒以下にすると共に流延ビード裏の空気圧振動変動を10Pa以下にしたので、流延ビードの安定化を図ることができ、厚み均一性に優れたフィルムを製造することができる。ここで「空気圧振動変動」とは、測定箇所2点の差圧変動を言い、測定方法はST研究所の微差圧測定器を用いて、対象箇所と大気圧の差圧変動を測定し、FFT解析をかけて分析する。
【0025】
本発明においては、水平成分風速を2m/秒以下を達成することができれば、どのような手段でもよいが、請求項1〜9の何れか1の溶液製膜装置が好適である。
【0026】
本発明の請求項13は、前記目的を達成するために、請求項12の溶液製膜方法を用いて製造されたフィルムであって、該フィルム面の前記流延支持体移動方向に周波数が3Hz以上の周期性をもつ厚みムラ変動寸法をB、前記フィルムの全厚み寸法をAとしたときに、(B/A)×100で表される厚みムラ変動率が0.8%未満になるようにすることを特徴とする。これにより、保護フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルムなどのオプト・エレクトロニクス用途に好適な厚み均一性に優れたフィルムを得ることができる。
【0027】
本発明の請求項14は請求項13のフィルムを使用したことを特徴とする偏光板であり、本発明の請求項15は請求項14の偏光板を使用したことを特徴とする液晶表示装置である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下添付図面に従って本発明に係る溶液製膜装置及び方法並びにその方法を用いて製造したフィルムの好ましい実施の形態について説明する。尚、本実施の形態は、本発明の一例でありこれに限定されるものではない。
【0029】
図1は本発明の溶液製膜装置の全体構成図である。
【0030】
同図に示すように溶液製膜装置10は、主として、流延・剥離部12、テンター乾燥部14、ロール乾燥部16、及び巻取部18で構成され、これらの各部はケーシング11によって区画されていると共に、隔壁17にはフィルム26が通過する通過孔25が形成される。
【0031】
流延・剥離部12には、一対の支持ローラ20、20、流延バンド22、流延流延ダイ24が設けられている。流延バンド22はステンレス板などによって無端状に形成されており、一対の支持ローラ20、20に巻き掛けられている。一対の支持ローラ20は少なくとも一方が不図示の駆動装置に接続されている。この支持ローラ20を回転駆動させることによって、流延バンド22が一対の支持ローラ20、20間で周回走行して移動する。
【0032】
流延ダイ24は流延バンド22の上方に設けられており、この流延ダイ24にセルロースエステルのドープ13(図3〜図6参照)が供給配管23から供給される。ドープ13は、例えばセルロースエステルを可塑剤、UV吸収剤、滑り剤、その他の添加剤とともに溶媒に溶かして調製され、流延ダイ24から流延バンド22上に一定厚さの流延膜13A(図2参照)として流延される。流延膜13Aは流延バンド22の移動とともに搬送され、その搬送中に流延バンド22と反対側の流延膜13A面から有機溶媒が蒸発する。そして流延膜13Aが自己支持性を持ったところで、剥離ロール28によってフィルム26として流延バンド22から剥離される。
【0033】
剥離後のフィルム26は、剥離ロール28に接触した後、テンター乾燥部14に導入される。このテンター乾燥部14において、フィルム26は幅方向の端部がクリップやピンなどで保持され、張力が付与された状態で搬送されて乾燥される。なお、剥離ロール28の他にもロールを設置して、テンター乾燥部14の前段のフィルム26を安定させるようにしてもよい。
【0034】
テンター乾燥部14で乾燥されたフィルム26は、ロール乾燥部16に送られる。ロール乾燥部16は、50〜150℃の範囲に温度制御されており、このロール乾燥部16に送られたフィルム26は、複数のロール30、30…に巻き掛けられて均一に乾燥される。乾燥後のフィルム26は、巻取部18に送られ、巻取機32に巻き取られる。これによりフィルム26が製造される。尚、上述した実施の形態はドープの支持体として流延バンド22を使用したが、図示しない流延ドラムを使用してもよい。すなわち、表面がクロムメッキなどによって円滑になっているドラムを回転させて表面を移動させながら、その表面にドープを流延してもよい。
【0035】
ところで、図2に示すように、流延・剥離部12において、ドープ13を流延ダイ24から流延バンド22上に流延する際に、流延部分(流延ダイ24の吐出口24Aと流延バンド22との間)に膜状の流延ビード34が形成され、この流延ビード34が不安定になると製造されるフィルム26の厚み均一性が悪くなる。従って、流延ビード34を安定化することが厚み均一性に優れたフィルム26を製造するために極めて重要であり、本発明では、流延バンド22の移動方向(図2の矢印方向)における流延ビード34の後方、即ち流延ビード34の裏に、流延ビード34の裏の風の流れや空気圧振動の流延ビード34への影響を遮断する遮風物36を設けるようにした。
【0036】
図2及び図3は、流延・剥離部12の斜視図で、流延バンド22の移動方向から見た流延ビード34の後方に遮風物36を設けたものである。尚、30m/分以上の高速流延する場合には、図4〜図6に示すように、流延バンド22の移動方向から見た遮風物36の後方に吸引チャンバ38を設けることが好ましい。遮風物36と吸引チャンバ38を組み合わせる場合には、図4に示すように遮風物36と吸引チャンバ38とを一体的に設けることが好ましい。また、図5に示すように、遮風物36と流延ダイ24とを一体的に設けることも好ましい方法であり、更には図6に示すように遮風物36と流延ダイ24と吸引チャンバ38とを一体的に設けることが特に好ましい。図4のように、遮風物36と吸引チャンバ38とを一体物として製作する場合には、長靴状の箱体を作成して、長靴のつま先に詰め物をして遮風物36を形成すればよい。また、流延バンド22が湾曲している位置、例えば支持ローラ20付近に遮風物36や吸引チャンバ38を配置する場合には、遮風物36の流延バンド22に対向する面36Aや吸引口38Aは流延バンド22の湾曲と同一の湾曲形状を有することが好ましい。
【0037】
遮風物36と流延バンド22との間のクリアランス(t)は0.1mm以上、30mm以下になるように配置することが好ましい。これは、クリアランス(t)が0.1mm未満では、遮風物36の熱膨張や流延バンド22の振動等により遮風物36が流延バンド22に接触する危険があり、クリアランス(t)が30mmを超えると、流延バンド22の移動に伴う同伴風や空気圧振動を遮断する効果が小さくなるだけでなく、遮風物36の外側から流延ビード34側にクリアランス(t)を介して風が侵入し易くなり流延ビード34の不安定化の要因になる。クリアランス(t)のより好ましい範囲としては0.3mm以上、10mm以下であり、特に好ましい好ましい範囲としては0.6mm以上、2mm以下である。
【0038】
遮風物36の奥行き(d)は5mm以上であることが好ましい。これは、遮風物36の奥行き(d)が5mm未満では、流延バンド22の移動に伴う同伴風や空気圧振動を遮断する効果が小さくなるためである。また、遮風物36の奥行き(d)のより好ましい数値は30mm以上であり、特に好ましい数値は50mm以上である。また、遮風物36の奥行き(d)を60mm以上にしても効果は変わらないので、あえて最大値を設定すれば安全を見て100mmが適切である。
【0039】
流延ビード34の幅(a)に対する遮風物36の幅(b)の比率%で表される遮風物36の幅率[(b/a)×100]は35%以上、120%以下であることが好ましい。これは、遮風物36の幅(b)が流延ビード34の幅(a)に対して35%未満では、遮風物36による流延ビード34の安定化効果が顕著に低下し、遮風物36の幅率が120%を超えても流延ビード34の安定化効果が変わらないためである。遮風物36の幅率のより好ましい範囲は70%以上、120%以下であり、特に好ましい範囲は90%以上、110%以下である。
【0040】
遮風物36の材質はSUS316、SUS304、アルミニウム等の金属や、テフロン、デルリン等の有機物質を使用することができる。また、上記したように、遮風物と流延バンドのクリアランス(t)が小さいので、遮風物36の熱膨張により遮風物36が流延バンド22に接触しないように熱膨張係数の小さな材質がよい。また、遮風物36は流延ビード34の裏に近接配置されるので、流延ビード34から蒸発した溶媒が遮風物36で結露しないように保温手段を設けて遮風物36を保温することが好ましい。保温温度としては、ドープ13の主溶媒の沸点から±20°Cの範囲とすることが好ましく、より好ましくはドープ13の主溶媒の沸点から±15°Cの範囲である。保温手段としては、特に図示しないが、遮風物36内に入口と出口に繋がる蛇管状の流路を形成し、この流路に温水を流す方法が好適であるが、これに限定されない。
【0041】
吸引チャンバ38は、流延バンド22の面に沿った吸引口38Aを有する中空な箱体で形成され、箱体に吸引管40が連結されると共に、吸引管40が図示しない真空ポンプに連結される。これにより、真空ポンプを駆動すると吸引口38Aから空気が吸引され、遮風物36と流延バンド22のクリアランス(t)を介して流延ビード34の裏空間が減圧されるので、流延ビード34の流延バンド22への着地がふらつかないように固定化される。この場合、本発明では、吸引チャンバ38と流延ビード34の間には遮風物36が介在しており、吸引チャンバ38が空気を吸引したときの誘引風が流延ビード34に影響されにくくなっている。
【0042】
そして、上記した遮風物36と流延バンド22とのクリアランス(t)、遮風物の奥行き(d)、遮風物の幅率を、上記の範囲内で変化させることにより、流延ビード34の裏における風の流れの水平成分風速を2m/秒以下にすると共に、流延ビード34の裏における空気圧振動変動を10Pa以下にする。これにより、厚みムラ変動率が0.8%未満のフィルム26を製造することができるので、保護フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルムなどのオプト・エレクトロニクス用途に好適なフィルムを製造することができる。ここで、厚みムラ変動率は、図7に示すように、フィルム26について流延バンド22の走行方向(図7の矢印方向)に周波数が3Hz以上の周期性をもつ厚みムラ変動寸法をB、フィルム26の全厚み寸法をAとしたときに、(B/A)×100で表される。
【0043】
本発明の溶液性膜装置10は、低速な流延速度から高速な流延速度まで、或いは厚膜のフィルム26から薄膜なフィルム26までの、有効に適用することができるが、特に流延速度が30m/分以上の高速流延の場合や、フィルム26の乾膜厚みが30μm以上、85μm以下の薄膜のフィルム26のように、流延ビード34が不安定化し易い場合に特に有効である。
【0044】
尚、本発明に用いられるポリマーとしては、セルロースエステルを用いることが好ましい。また、セルロースエステルの中では、セルロースアシレートを用いることが好ましく、特に、セルロースアセテートを使用することが好ましい。さらに、このセルロースアセテートの中では、その平均酢化度が57.5ないし62.5%(置換度:2.6ないし3.0)のセルローストリアセテート(TAC)を使用することが最も好ましい。酢化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。本発明では、セルロースアシレート粒子を使用し、使用する粒子の90重量%以上が0.1ないし4mmの粒子径、好ましくは1ないし4mmを有する。また、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99重量%以上の粒子が0.1ないし4mmの粒子径を有する。さらに、使用する粒子の50重量%以上が2ないし3mmの粒子径を有することが好ましい。より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上の粒子が2ないし3mmの粒子径を有する。セルロースアシレートの粒子形状は、なるべく球に近い形状を有することが好ましい。
【0045】
本発明に用いられる溶媒を、塩素系有機溶媒を主溶媒とすることも、非塩素系有機溶媒を主溶媒とすることも可能であるが、環境面を考慮すると非塩素系有機溶媒を主溶媒とすることがより好ましい。
【0046】
塩素系有機溶媒とは、一般的にハロゲン化炭化水素化合物を意味しており、代表的な例として、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また非塩素系有機溶媒としては、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類などがあるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、市販品の純度であれば、特に制限される要因はない。溶媒は、単独(100重量%)で使用しても良いし、炭素数1ないし6のエステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類を混合して使用するものでもよい。使用できる溶媒の例には、エステル類(例えば、酢酸メチル、メチルホルメート、エチルアセテート、アミルアセテート、ブチルアセテートなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル,メチルーt−ブチルエーテルなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなど)などが挙げられる。なお、本発明に用いられる有機溶媒には、前述した塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを混合して用いることも可能である。
【0047】
本発明のドープ中には添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤などがある。可塑剤としては、リン酸エステル系(例えば、トリフェニルホスフェート(以下、TPPと称する)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(以下、BDPと称する)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなど)、フタル酸エステル系(例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、グリコール酸エステル系(例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなど)及びその他の可塑剤を用いることができる。
【0048】
紫外線吸収剤としては例えば、オキシベンゾフエノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル酢塩系化合物及びその他の紫外線吸収剤を用いることができる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。
【0049】
【実施例】
以下に本発明の遮風物を備えた溶液製膜装置を用い、遮風物と流延バンドとのクリアランスと製造されたフィルムの厚みムラとの関係、遮風物の奥行きとフィルムの厚みムラとの関係、遮風物の幅とフィルムの厚みムラとの関係を試験した。尚、遮風物は各試験ともに30°Cに保温して実施した。
【0050】
試験に供したドープは、表1の材料組成を混合溶解して、固形分濃度が19.0重量%のものを調製した。調製されたドープは静置脱泡された後、送液ポンプによりフィルタを経由して流延ダイに送られ、50m/分で移動する流延バンドに流延(流延速度50m/分)した後、流延バンドからフィルムとして剥離し、剥離したフィルムを乾燥した。フィルムの乾膜後の膜厚は80μmであった。
【0051】
このように製造されたフィルムを5mの長さに切り出し、ANRITSU 社製のFILMTHICKNES TESTER KG601 を用いて厚みムラを測定した。厚みムラの評価は、厚みムラ変動率、蛍光灯下厚みムラ目視判定、フィルム透過光による厚みムラ判定の3評価方法で行った。
【0052】
厚みムラ変動率は小さい方が良く、0.2%未満を極めて良好(◎)、0.2%〜0.5%未満を良好(○)、0.5%〜0.8%未満を普通(△)、0.8%以上を悪い(×)とした。ここで、厚みムラ変動率は、フィルムの流延方向の周波数で3Hz以上の周期性を有する膜厚変動寸法をB、前記フィルムの全厚み寸法をAとしたときに、(B/A)×100で計算される。
【0053】
蛍光灯下厚みムラ目視判定は、蛍光灯の下に置いたフィルムに蛍光灯の光が反射することで厚みムラを目視で判定するもので、限度見本と比較することにより評価する。そして、反射により厚みムラが全く観察されないときを極めて良好(◎)、反射により厚みムラが極微量に観察されるときを良好(○)、反射により厚みムラが微量に観察されるときを普通(△)、反射により厚みムラが明らかに観察されるときは悪い(×)とした。
【0054】
フィルム透過光による厚みムラ判定は、フィルムに光を透過させてその像から厚みムラを観察するもので、厚みムラが全く観察されないときを極めて良好(◎)、厚みムラが非常にうっすらと観察されるときを良好(○)、厚みムラがうっすらと観察されるときを普通(△)、厚みムラがはっきりと観察されるときを悪い(×)とした。
【0055】
【表1】
表2は、遮風物の奥行きを40mm、遮風物の幅率を100%(遮風物の幅と流延ビードの幅が同じ)に一定して、遮風物と流延バンドとの間のクリアランスを変化させたときに厚みムラがどのように変化するかを調べたものである。
【0056】
【表2】
表2の結果から分かるように、遮風物と流延バンドとのクリアランスが小さいほど空気圧振動変動及び流延ビード裏の水平成分風速が小さくなり、流延ビードが安定化するので、厚みムラがなくなるが、クリアランスが0.05mmでは遮風物が流延バンドに接触することがあり、試験不可となった。
【0057】
また、クリアランスが30mmでは、流延ビード裏の水平成分風速が2.0m/秒となり、2.0m/秒を超えないので、厚みムラ変動率、蛍光灯下厚みムラ目視判定、フィルム透過光による厚みムラ判定ともに△であったが、クリアランスが35mmでは、流延ビード裏の水平成分風速が2.4m/秒となり、2.0m/秒を超え、厚みムラ変動率、蛍光灯下厚みムラ目視判定、フィルム透過光による厚みムラ判定ともに×であった。これにより、遮風物と流延バンドのクリアランスは0.1mm以上、30mm以下がよい。
【0058】
表3は、遮風物と流延バンドとのクリアランスを1.3mmで一定、遮風物の幅率を100%(遮風物の幅と流延ビードの幅が同じ)で一定とし、遮風物の奥行きを変化させたときに厚みムラがどのように変化するかを調べたものである。
【0059】
【表3】
表3の結果から分かるように、遮風物の奥行きが長いほど空気圧振動変動及び流延ビード裏の水平成分風速が小さくなり、流延ビードが安定化するので、厚みムラがなくなるが、奥行きが60mmの場合も100mmも同じ結果であった。また、奥行きが5mm未満では、空気圧振動変動が13Paとなり、10 Paを超えてしまうと共に流延ビード裏の水平成分風速が2.8m/秒となり、2.0m/秒を超えてしまうので、厚みムラ変動率、蛍光灯下厚みムラ目視判定、フィルム透過光による厚みムラ判定ともに×となった。この結果から、遮風物の奥行きは、5mm以上が良く、最大値をあえて設定すれば100mm以下(安全を見て)がよい。
【0060】
表4は、遮風物と流延バンドとのクリアランスを1.3mmで一定、遮風物の奥行きを40mmで一定とし、遮風物の幅率を変化させたときに厚みムラがどのように変化するかを調べたものである。
【0061】
【表4】
表4の結果から分かるように、遮風物の幅率が大きいほど空気圧振動変動及び流延ビード裏の水平成分風速が小さくなり、流延ビードが安定化するので、厚みムラがなくなるが、幅率が30mmの場合には、空気圧振動変動が5Paで10Pa以下であるものの、流延ビード裏の水平成分風速が2.1m/秒で2.0m/秒を超えてしまう。この結果、厚みムラ変動率は○であるが、蛍光灯下厚みムラ目視判定、フィルム透過光による厚みムラ判定ともに×で総合評価も×であった。また、幅率が120%を超えても空気圧振動変動及び流延ビード裏の水平成分風速は変わらなかった。この結果から、遮風物の幅率は35%以上120%以下が良いことが分かる。
【0062】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係る溶液製膜装置及び方法並びにその方法により製造されたフィルムによれば、流延ビードの安定化を確実に図ることができるので、厚み均一性に優れたフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶液製膜装置の全体構成図
【図2】本発明の溶液製膜装置の流延・剥離部の斜視図
【図3】本発明の溶液製膜装置の流延・剥離部の腰部断面図
【図4】遮風物と吸引チャンバとを一体化した場合の断面図
【図5】遮風物と流延ダイとを一体化した場合の断面図
【図6】遮風物と流延ダイと吸引チャンバとを一体化した場合の断面図
【図7】フィルムの厚みムラ変動率を説明する説明図
【符号の説明】
10…溶液製膜装置、11…ケーシング、12…流延・剥離部、13…ドープ、13A…流延膜、14…テンター乾燥部、16…ロール乾燥部、17…隔壁、18…巻取部、20…支持ローラ、22…流延バンド、24…流延ダイ、26…フィルム、28…剥離ロール、30…ロール、32…巻取機、34…流延ビード、36…遮風物、38…吸引チャンバ
Claims (15)
- 高分子材料を溶媒に溶解したドープを、流延ダイから移動する流延支持体上に流延してフィルムを製造する装置であって、前記流延部分に膜状の流延ビードが形成される溶液製膜装置において、
前記流延支持体の移動方向から見た前記流延ビードの後方に、前記流延ビードに対する遮風物を設けたことを特徴とする溶液製膜装置。 - 前記遮風物と前記流延支持体との間のクリアランスが0.1mm以上、30mm以下であることを特徴とする請求項1の溶液製膜装置。
- 前記遮風物の奥行きが5mm以上であることを特徴とする請求項1又は2の溶液製膜装置。
- 前記流延ビードの幅(a)に対する前記遮風物の幅(b)の比率%で表される遮風物の幅率[(b/a)×100]が35%以上120%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の溶液製膜装置。
- 前記遮風物を前記ドープの主溶媒の沸点から±20°Cの範囲に保温する保温手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1の溶液製膜装置。
- 前記遮風物と前記流延ダイとが一体的に設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の溶液製膜装置。
- 前記遮風物の前記上流側に、前記流延支持体の面に沿った吸引口を有する吸引チャンバを備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1の溶液製膜装置。
- 前記遮風物と前記吸引チャンバとが一体的に設けられていることを特徴とする請求項7の溶液製膜装置。
- 前記遮風物と前記流延ダイと前記吸引チャンバとが一体的に設けられていることを特徴とする請求項7の溶液製膜装置。
- 前記流延支持体の移動速度が30m/分以上であることを特徴とする請求項1〜9の少なくとも1の溶液製膜装置。
- 前記製造されるフィルムの乾膜厚みが30〜85μmの薄膜であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1の溶液製膜装置。
- 高分子材料を溶媒に溶解したドープを、流延ダイから移動する流延支持体上に流延してフィルムを製造する方法であって、前記流延部分に膜状の流延ビードが形成される溶液製膜方法において、
前記流延支持体の移動方向から見た前記流延ビードの裏における風の流れの水平成分風速を2m/秒以下にすると共に前記流延ビードの裏における空気圧振動変動を10Pa以下にすることを特徴とする溶液製膜方法。 - 請求項12の溶液製膜方法を用いて製造されたフィルムであって、該フィルム面の前記流延支持体移動方向に周波数が3Hz以上の周期性をもつ厚みムラ変動寸法をB、前記フィルムの全厚み寸法をAとしたときに、(B/A)×100で表される厚みムラ変動率が0.8%未満になるようにすることを特徴とするフィルム。
- 請求項13のフィルムを使用したことを特徴とする偏光板。
- 請求項14の偏向板を使用したことを特徴とする液晶表示装置。
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