JP2004111310A - 基板の帯電電圧計測装置およびイオンビーム照射装置 - Google Patents

基板の帯電電圧計測装置およびイオンビーム照射装置 Download PDF

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Abstract

【課題】実際に処理中の基板表面の帯電電圧を正確に計測することができる装置を提供する。
【解決手段】この帯電電圧計測装置12は、基板保持台4上に配置されていて基板6との間に静電容量Cs を形成する計測用電極14と、それと接地電位部との間に接続された静電容量Cm の計測用コンデンサ18と、その両端の計測電圧Vm を計測する電圧計20と、演算器22とを備えている。演算器22は、計測中の任意の時間をt1としたとき、そのときの計測電圧V(t1)、分圧比の逆数Kおよび計測用コンデンサ18に並列な抵抗分の抵抗値Rm に基づいて、次式の演算を行って、時間t1における基板6の表面の帯電電圧Vs を求める。
s =K[V(t1)+{1/(Cm ・Rm )}∫ t1(t)dt]
ここで、K=(Cs +Cm )/Cs またはK=Cm /Cs (Cm ≫Cs のとき)
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、基板にイオン注入、イオンドーピング、プラズマ処理等を施す装置や工程、あるいは基板を搬送や乾燥する装置や工程等のように、基板の表面が帯電する恐れのある装置や工程に用いられて、基板表面の帯電電圧を計測する帯電電圧計測装置、および、そのような帯電電圧計測装置を備えるイオンビーム照射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のような基板の表面が帯電する恐れのある装置や工程においては、基板表面における絶縁破壊防止等のために、基板表面の帯電電圧を計測することが重要である。
【0003】
基板を保持する基板保持台に静電チャックを用いた特殊な装置において、その静電チャックの電極に流れる吸着電流等から、基板表面の電位を求める技術が従来から提案されているけれども(例えば、特許文献1、2参照)、この技術は、静電チャックを用いない場合に適用することはできない。
【0004】
【特許文献1】
特開平9−54130号公報(段落番号0010〜0014、図1)
【特許文献2】
特開平10−27566号公報(段落番号0010〜0015、図1)
【0005】
静電チャックを用いない場合の従来の一般的な帯電電圧計測方法の例を、図12を参照して説明する。
【0006】
まず、基板6を処理する場合を説明すると、このときは計測用電極8を設けておらず、基板保持台4上に処理すべき基板6をクランパー等(図示省略)によって保持・固定して、基板6にイオンビーム2を照射する。これによって、基板6にイオン注入、イオンドーピング等の処理を施すことができる。
【0007】
基板保持台4は、例えば金属製の板である。基板6は、例えば液晶ディスプレイ用のガラス基板であるが、他のもの、例えば半導体基板等の場合もある。
【0008】
上記のようにして基板6にイオンビーム2を照射すると、イオンビーム2中のイオンの正電荷によって、基板6の表面が帯電(チャージアップ)する。特に、基板6が絶縁性(電気絶縁性。以下同じ)基板の場合には、基板6の表面はより帯電しやすくなる。ガラス基板や、表面に絶縁層を有する半導体基板がその例である。このときの基板表面の帯電電圧は、簡単に言えば、イオンビーム2として照射されるイオンと、イオンビーム2と共に基板6に供給される電子とのバランスによって決まる。この電子は、例えば、イオンビーム2の周りに存在するプラズマ中の電子や、後述する電子供給源から供給される電子である。
【0009】
上記のような基板6の表面の帯電電圧を計測するためには、基板6の表面に金属製の計測用電極8を密着させ、それにイオンビーム2を照射し、そのときの計測用電極8の電圧を電圧計10で計測し、それによって計測した電圧を基板表面の帯電電圧としていた。実際に基板6にイオンビーム2を照射して処理を施す際には、邪魔になる計測用電極8は取り去っていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の計測方法では、基板6の表面に計測用電極8を設置する必要があるため、実際の処理(例えばイオン注入)中の基板6の表面の帯電電圧を計測することはできない。
【0011】
また、帯電電圧計測においても、イオンビーム2を金属製の計測用電極8に照射して計測するため、基板6の表面と計測用電極8の表面との物性の違いによって、基板表面の正確な帯電電圧の計測はできない。
【0012】
そこでこの発明は、実際に処理中の基板表面の帯電電圧を正確に計測することができる装置を提供することを主たる目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る第1の帯電電圧計測装置は、基板保持台に保持された基板の表面の帯電電圧Vs を計測する装置であって、前記保持された基板の裏面に接触または近接するように前記基板保持台上に配置されており、かつ前記基板保持台とは電気的に絶縁されていて、前記基板との間に静電容量Cs を形成する計測用電極と、この計測用電極と接地電位部との間に接続されていて静電容量がCm の計測用コンデンサと、この計測用コンデンサの両端の電圧である計測電圧Vm を計測する電圧計と、前記静電容量Cs とCm との関係において定まる分圧比の逆数Kおよび前記計測電圧Vm に基づいて、次の数3またはそれと数学的に等価な式の演算を行って、前記帯電電圧Vs を求める演算器とを備えることを特徴としている(請求項1に対応)。この数3は請求項1の数1と同じものである。
【0014】
【数3】
s =K・Vm 
ここで、K=(Cs +Cm )/Cs またはK=Cm /Cs (Cm ≫Cs のとき)
【0015】
この第1の帯電電圧計測装置においては、上記二つの静電容量Cs およびCm は互いに直列接続された形になるので、処理中の基板表面の帯電電圧Vs を、上記二つの静電容量Cs およびCm の関係において定まる分圧比で分圧した電圧が、計測用コンデンサの両端に表れる。この電圧が、上記電圧計によって計測電圧Vm として計測される。
【0016】
従って、上記数3に示すように、計測電圧Vm に、上記分圧比の逆数Kを掛けることによって、計測電圧Vm から、実際に処理中の基板表面の帯電電圧Vs を正確に求めることができる。上記演算器はこの演算を行う。
【0017】
この発明に係る第2の帯電電圧計測装置は、基板保持台に保持された基板の表面の帯電電圧Vs を計測する装置であって、前記保持された基板の裏面に接触または近接するように前記基板保持台上に配置されており、かつ前記基板保持台とは電気的に絶縁されていて、前記基板との間に静電容量Cs を形成する計測用電極と、この計測用電極と接地電位部との間に接続されていて静電容量がCm の計測用コンデンサと、この計測用コンデンサの両端の電圧である計測電圧Vm を計測する電圧計と、時間をtとして、計測を開始した時間をt=0とし、計測中の任意の時間をt1としたとき、前記静電容量Cs とCm との関係において定まる分圧比の逆数K、前記時間t1おける前記計測電圧V(t1)および前記電圧計の内部抵抗を含み前記計測用コンデンサに並列な抵抗の抵抗値Rm に基づいて、次の数4またはそれと数学的に等価な式の演算を行って、前記時間t1における前記帯電電圧Vs を求める演算器とを備えることを特徴としている(請求項2に対応)。この数4は請求項2の数2と同じものである。
【0018】
【数4】
s =K[V(t1)+{1/(Cm ・Rm )}∫ t1(t)dt]
ここで、K=(Cs +Cm )/Cs またはK=Cm /Cs (Cm ≫Cs のとき)
【0019】
上記数4の大括弧内の第1項にKを掛けた部分は、上記数3と実質的に同じ内容である。
【0020】
上記数4の大括弧内の第2項は、計測中に上記計測用コンデンサに並列な抵抗を通して、基板表面の電荷が接地電位部に漏れ出た分を、電圧に換算して補正する項である。この第2項の電圧は、計測用コンデンサの両端と同じ箇所での電圧であるので、この第2項にKを掛けることによって、基板の表面における電圧に換算している。このような補正を行うことによって、上記電圧計の内部抵抗等を経由して漏れ出た電荷による誤差を修正して、実際に処理中の基板表面の帯電電圧Vs をより正確に計測することができる。
【0021】
この発明に係るイオンビーム照射装置は、基板保持台に保持された基板にイオンビームを照射して処理を施す装置であって、電子を発生させてそれを前記基板に供給してイオンビーム照射に伴う基板表面の帯電を抑制する電子供給源と、上記第1または第2の帯電電圧計測装置と、当該基板の帯電電圧計測装置で計測した前記基板の帯電電圧Vs に基づいて、当該帯電電圧Vs が基準の電圧範囲内にあるときは前記電子供給源から発生させる電子の量を維持し、当該基準の電圧範囲よりも高いときは前記電子供給源から発生させる電子の量を増加させ、当該基準の電圧範囲よりも低いときは前記電子供給源から発生させる電子の量を減少させる制御を行う制御器とを備えることを特徴としている(請求項3に対応)。
【0022】
このイオンビーム照射装置によれば、上記第1または第2の帯電電圧計測装置を備えているので、実際に処理中の基板表面の帯電電圧Vs を正確に計測することができる。
【0023】
それに加えて、上記のような制御器を備えていて、電子放出源にフィードバック制御をかけるので、処理中の基板表面の帯電電圧Vs が基準の電圧範囲内に収まるように、自動的に制御することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係る帯電電圧計測装置の一実施形態を示す図である。図2は、図1中の計測用コンデンサ周りの等価回路図である。図12に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0025】
この帯電電圧計測装置12は、次のような計測用電極14、計測用コンデンサ18、電圧計20および演算器22を備えている。
【0026】
計測用電極14は、前記基板保持台4とその上に保持される前記基板6との間に位置するように配置されている。即ち、計測用電極14は、その上に保持された基板6の裏面に接触または近接するように基板保持台4上に(より具体的には、基板保持台4の基板保持面上に)配置されており、かつ基板保持台4とは電気的に絶縁されていて、基板6との間に静電容量Cs を形成する。
【0027】
計測用電極14は、例えば板状(より具体的には薄板状)の導体(即ち導体板)であり、この実施形態では、当該計測用電極14の上下両面を含む周りを薄い絶縁層16で覆っている。基板6は、この絶縁層上に保持・固定される。従って、計測用電極14は基板6の裏面に絶縁層16を介して近接する。なお、通常は、基板6を保持・固定するクランパー等の固定手段を用いるけれども、ここではその図示を省略している。他の図においても同様である。
【0028】
基板保持台4は、この例では、金属等の導体から成るので、それと計測用電極14との間にも絶縁層16を設けているけれども、少なくとも基板保持台4の表面が絶縁体であれば、それと計測用電極14との間に絶縁層16を設ける必要はない。そこに絶縁層16を設けなくても、計測用電極14の電位を取り出すことができるからである。なお、基板保持台4は、この例では接地電位部に電気的に接続されている。
【0029】
また、基板6がガラス基板のように絶縁体から成る場合は、それと計測用電極14との間に必ずしも絶縁層16を設ける必要はない。そこに絶縁層16を設けなくても、基板6と計測用電極14との間に上記静電容量Cs が形成されるからである。この場合は、計測用電極14は基板6の裏面に接触する。基板6が導電性のものの場合は、それと計測用電極14との間に絶縁層16を設ければ良い。
【0030】
より具体的には、この実施形態では、アルミニウム箔製の計測用電極14の周りを薄いポリエチレン製の絶縁層16でラミネートして成るものを、基板保持台4上に貼り付けている。このようなものは、全体を非常に薄くすることができるので、基板6と基板保持台4との間の熱伝導が良く、処理中の基板6を基板保持台4を介して効率良く冷却するのに都合が良い。基板保持台4は、この例では、基板6を効率良く冷却するために、冷却水等の冷媒によって冷却される。
【0031】
基板保持台4、基板6および計測用電極14の平面形状の一例を図5に示す。計測用電極14は、この例では、イオンビーム2が基板6で遮られずに計測用電極14の上部に照射されるのを防止する等のために、基板6よりも少し小さ目にしている。但し、これに限られるものではない(例えば、後述する図10および図11参照)。
【0032】
イオンビーム2は、基板6の全体をカバーする大面積のものでも良いし、例えば図7に示す例のように基板保持台4および基板6をイオンビーム2に対して機械的に走査する場合は、例えば図9に示す例のように、イオンビーム2は断面が長方形のものでも良い。その他の形状でも良い。
【0033】
再び図1を参照して、計測用コンデンサ18は、計測用電極14と接地電位部との間に接続されている。その静電容量をCm とする。接地電位部は、例えば、基板保持台4を収納して処理を行うための真空容器(例えば、図7の真空容器30参照)である。
【0034】
電圧計20は、計測用コンデンサ18の両端に接続されていて、当該計測用コンデンサ18の両端の電圧である計測電圧Vm を計測する。
【0035】
演算器22は、電圧計20で計測した計測電圧Vm および上記静電容量Cs とCm との関係において定まる分圧比の逆数Kに基づいて、上記数3に示した演算を行って、処理中の基板6の表面の帯電電圧Vs を求める。
【0036】
これを詳述すると、この帯電電圧計測装置12においては、図2に示すように、上記二つの静電容量Cs およびCm は、基板6と接地電位部との間に、互いに直列接続された形になるので、処理中の基板6の表面の帯電電圧Vs を、上記二つの静電容量Cs およびCm の関係において定まる分圧比(これの求め方は周知である)で分圧した電圧が、計測用コンデンサ18の両端に表れる。この電圧が、上記電圧計20によって計測電圧Vm として計測される。なお、ここでは、電圧計20の内部抵抗は十分に大きいものとして無視している。
【0037】
従って、上記数3に示すように、計測電圧Vm に、上記分圧比の逆数Kを掛けることによって、計測電圧Vm から、実際に処理中の基板表面の帯電電圧Vs を正確に求めることができる。上記演算器22はこの演算を行う。
【0038】
なお、電圧計20によって計測する計測電圧Vm は、±の極性と大きさを含めたものであるので、演算器22によって上記のようにして求める帯電電圧Vs も、±の極性と大きさとを含めたものが得られる。図3に示す帯電電圧計測装置12の場合も同様である。
【0039】
上記分圧比の逆数Kは、ここに再び記載すると、正確に表現すれば次の数5で表される。また、Cm ≫Cs のときは(例えば、Cm がCs の100倍〜10000倍程度の場合は)、次の数6で表されるものを用いても良く、計測精度に殆ど影響しない。
【0040】
【数5】
K=(Cs +Cm )/Cs 
【0041】
【数6】
K=Cm /Cs 
【0042】
このKの値は、演算器22内で演算しても良く、そのようにせずに、予め他で求めておいたものを演算器22に設定しておき、それを用いて演算器22で上記数3や数4の演算を行うようにしても良い。そのようにすると、演算器22における演算が簡単になる。なお、このKの正確な実測方法については後述する。
【0043】
処理中の基板表面の帯電電圧Vs は、電子による中和を適切に行わないと、数百V〜1000V近くになる場合がある。そのような高い帯電電圧Vs を、計測に都合の良い数V程度の計測電圧Vm に分圧するためには、上記Kの値が、100〜10000程度になるように、より好ましくは1000程度になるように、計測用コンデンサ18の静電容量Cm を決めるのが好ましい。また、例えば図7に示す例の場合のように、イオンビーム2に対して基板保持台4および基板6を機械的に走査する場合は、帯電電圧Vs が時間的に変動することが確かめられており、そのような場合に計測回路の時定数を伸ばし、計測精度を高めるためにも、上記Kの値が上記のような値になるように、計測用コンデンサ18の静電容量Cm を決めるのが好ましい。そのようにすることは、図3に示す帯電電圧計測装置12の場合には、特に好ましい。
【0044】
以上のようにこの帯電電圧計測装置12によれば、図12に示した従来技術と違って、基板6上に計測用電極8を設置する必要がなく、基板6の処理の邪魔にならない計測用電極14を用いているので、実際に処理中の基板6の表面の帯電電圧Vs をリアルタイムで計測することができる。
【0045】
しかも、図12に示した従来技術と違って、実際に処理する基板6そのものの表面の帯電電圧Vs を、二つの静電容量Cs およびCm による分圧手段を用いて計測することができるので、表面の物性の違いによる計測精度低下の恐れはなく、基板6の表面の帯電電圧Vs を正確に計測することができる。
【0046】
ところで、図1に示した帯電電圧計測装置12では、電圧計20の内部抵抗は十分に大きいものとして、計測中に、電圧計20の内部抵抗を経由して、基板6の表面の電荷が接地電位部へ漏れるのを無視している。これを加味して補正を行うと、基板表面の帯電電圧Vs の計測精度をより高めることができる。そのようした帯電電圧計測装置12の例を次に説明する。
【0047】
図3は、この発明に係る帯電電圧計測装置の他の実施形態を示す図である。図4は、図3中の計測用コンデンサ周りの等価回路図である。以下においては、図1および図2に示した実施形態との相違点を主体に説明する。
【0048】
この帯電電圧計測装置12では、上記計測用コンデンサ18に並列に計測用抵抗器24を接続している。この計測用抵抗器24の抵抗値をR2 とし、上記電圧計20の内部抵抗の値をR1 とすると、両者を合成した抵抗値Rm は、即ち計測用コンデンサ18に並列な抵抗の抵抗値Rm は、次式で表される。
【0049】
【数7】
m =R1 ・R2 /(R1 +R2 
【0050】
上記のような計測用抵抗器24を設けるのは、計測用コンデンサ18に並列な抵抗の抵抗値Rm を明確にして、帯電電圧Vs の計測精度をより高めるためである。従って、電圧計20の内部抵抗値R1 が明確な場合は、計測用抵抗器24を敢えて設ける必要はない。その場合は、Rm =R1 となる。計測用抵抗器24を設ける場合は、電圧計20の内部抵抗値R1 よりも十分に小さい(例えば1/10程度の)抵抗値R2 にするのが好ましい。そのようにすれば、合成の抵抗値Rm においては、計測用抵抗器24の明確な抵抗値R2 が支配的となるので、電圧計20の内部抵抗値R1 の変動等の影響を受けにくくなる。但し、抵抗値R2 をあまり小さくすると、計測回路の時定数が小さくなり過ぎ、基板6に入射する電荷の量が時間的に変動して帯電電圧Vs も時間的に変動する場合に、帯電電圧Vs の計測が難しくなるので、計測用抵抗器24の抵抗値R2 は、例えば、数百kΩ〜数MΩにするのが好ましい。
【0051】
なお、上記抵抗値Rm の値は、演算器22内で演算しても良いし、そのようにせずに、予め他で求めておいたものを演算器22に設定しておき、それを用いて演算器22で上記数4の演算を行うようにしても良い。そのようにすると、演算器22における演算が簡単になる。
【0052】
電圧計20は、計測中は、計測用コンデンサ18の両端の計測電圧Vm を常時計測しており、それを演算器22に与える。演算器22は、次のような演算を行う。即ち、時間をtとして、上記計測電圧Vm を時間の関数としてV(t)で表すと、計測を開始した時間をt=0とし、計測中の任意の時間(例えば、帯電電圧Vs を知りたい時間)をt1としたとき、上記分圧比の逆数K、上記抵抗値Rm および上記時間t1における上記計測電圧V(t1)に基づいて、上記数4に示した演算を行って、処理中および計測中の任意の時間t1における基板6の表面の帯電電圧Vs を求める。上記計測を開始した時間として、基板6の表面が間違いなく帯電していない時間を選んでそれをt=0としても良い。なお、数4等の各式における単位はSI単位であり、時間の単位は秒である。
【0053】
上記数4の大括弧内の第1項V(t1)にKを掛けた部分は、上記数3と実質的に同じ内容である。時間の概念を入れただけである。
【0054】
上記数4の大括弧内の第2項{1/(Cm ・Rm )}∫ t1(t)dtは、計測中に上記抵抗値Rm を通して、基板表面の電荷が接地電位部に漏れ出た分を、電圧に換算して補正する項である。
【0055】
これを詳述すると、数4の元になる{V(t)/Rm }dtは、単位時間当たりに抵抗値Rm を通して漏れ出た電荷量であり、時間t=0から時間t1の間におけるこの電荷の総和は(1/Rm )∫ t1(t)dtであり、これを加味して補正することによって、帯電電圧Vs の計測精度を高めることができる。上記総和に1/Cm を乗じているのは、コンデンサにおけるV=Q/C(Qは電荷、Cは静電容量)の関係を用いて、電圧に換算するためである。
【0056】
上記数4の大括弧内の第2項の電圧は、計測用コンデンサ18の両端と同じ箇所での電圧であるので、この第2項に上記分圧比の逆数Kを掛けることによって、基板6の表面における電圧に換算している。このような補正を行うことによって、計測中に上記抵抗値Rm を経由して接地電位部へ漏れ出た電荷による誤差を修正して、実際に処理中の基板6の表面の帯電電圧Vs をより正確に計測することができる。
【0057】
上記分圧比の逆数Kは、次のようにして簡単にかつ正確に求める(実測する)ことができる。
【0058】
即ち、図6に示すように、基板6の表面に帯電を模擬する模擬用電極26を密着させ、それと接地電位部との間に模擬用電源28から模擬電圧Vd を印加し、そのときの計測用コンデンサ18の両端の計測電圧Vm を電圧計20で計測する。模擬用電極26は、例えばアルミニウム箔等の導体板である。模擬電圧Vd には、正弦波交流を用いるのが好ましい。そのようにすると、模擬用電源28が簡単になり、かつ模擬電圧Vd を繰り返して印加することができ、基板保持台4および基板6をイオンビーム2に対して機械的に走査する場合に比較的近い状態を作り出すことができるからである。但し、模擬電圧Vd は、必ずしも正弦波交流である必要はなく、時間的に値が変化する部分を有するものであれば良い。例えば、直流電圧を印加した瞬間でも良いし、矩形波電圧等でも良い。
【0059】
上記模擬電圧Vd は、基板6の表面に帯電電圧Vs と同様に印加されて基板表面の帯電電圧Vs を模擬したものであるので、Vd =Vs と考えることができる。この関係を上記数3または数4に代入することによって、次の数8または数9から、上記分圧比の逆数Kを求めることができる。数3を使う図1の帯電電圧計測装置12においては数8を使えば良く、数4を使う図3の帯電電圧計測装置12においては数9を使えば良い。数8の分圧比の逆数Kを求めるときは、計測用抵抗器24は設けない。
【0060】
【数8】
K=Vd /Vm 
【0061】
【数9】
K=Vd /[V(t1)+{1/(Cm ・Rm )}∫ t1(t)dt]
【0062】
なお、上述したような帯電電圧計測装置12は、基板6にイオンビーム2を照射してイオン注入やイオンドーピングを施す場合以外にも適用することができる。例えば、基板にプラズマ処理等を施す装置や工程、あるいは基板を搬送や乾燥する装置や工程等のように、基板の表面が帯電する恐れのある装置や工程に広く適用することができる。
【0063】
次に、図1または図3に示したような帯電電圧計測装置12を備えていて、それで計測した処理中の基板表面の帯電電圧Vs が基準の電圧範囲内に収まるようにフィードバック制御を行うイオンビーム照射装置の例を図7を参照して説明する。
【0064】
このイオンビーム照射装置は、真空容器30内において、上記のような基板保持台4に保持された基板6にイオンビーム2を照射して、イオン注入、イオンドーピング等の処理を施すものである。
【0065】
基板保持台4と基板6との間には、上記帯電電圧計測装置12を構成する上記計測用電極14が設けられている。但し、ここでは上記絶縁層16の図示は省略している。この計測用電極14の平面形状の一例を図9に示す。これは図5と同じものである。上記計測用コンデンサ18、電圧計20、演算器22および計測用抵抗器24の部分は、ここでは回路17としてまとめて図示しており、それから、上記のようにして計測した帯電電圧Vs が出力される。即ち、ここでは、計測用電極14と回路17とで上記帯電電圧計測装置12が構成されている。
【0066】
この例では、基板保持台4、それに取り付けられた基板6および計測用電極14は、駆動装置32によって、矢印X方向に機械的に往復直線駆動(走査)される。
【0067】
イオンビーム2は、この例では走査されていないものである。このイオンビーム2の断面形状は、前記X方向と直交するY方向に長い長方形をしており、その一例を図9に示す。イオンビーム2のX方向の幅は、実際はもう少し狭いものであるが、ここでは広く図示している。但し、イオンビーム2は、スポット状のものをY方向に走査するものでも良い。
【0068】
基板保持台4および基板6の上流側近傍に、電子を発生させてそれを基板6に供給してイオンビーム照射に伴う基板表面の帯電を抑制する電子供給源の一例として、プラズマ発生装置34が設けられている。
【0069】
このプラズマ発生装置34は、プラズマ生成容器36内にガスを導入し、フィラメント38とプラズマ生成容器36との間にアーク放電を生じさせて当該ガスを電離させてプラズマ(当然、電子を含む)40を生成し、それをイオンビーム2の経路に供給して、プラズマ40中の電子をイオンビーム2と共に基板6に供給して基板表面の帯電を抑制するものである。フィラメント38は電圧可変のフィラメント電源42によって加熱される。フィラメント38とプラズマ生成容器36との間にはアーク電源44からアーク放電電圧が印加される。プラズマ生成容器36と、真空容器30につながるビームライン管31との間には、引出し電源46から、プラズマ40を引き出しやすくする等のための引出し電圧が印加される。
【0070】
更に、このイオンビーム照射装置は、帯電電圧計測装置12で計測した基板の帯電電圧Vs に基づいて、当該帯電電圧Vs が基準の電圧範囲RV内にあるときはプラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を維持し、当該基準の電圧範囲RVよりも高いときはプラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を増加させ、当該基準の電圧範囲RVよりも低いときはプラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を減少させる制御を行う制御器48を備えている。
【0071】
プラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を増加させるときは、制御器48からフィラメント電源42に上昇指令信号UPを与えてその出力電圧を上昇させる。その結果、フィラメント電流が増え、フィラメント38からの放出電子量が増え、アーク放電電流が増えて、プラズマ40の発生量が増加する。プラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を減少させるときは、制御器48からフィラメント電源42に下降指令信号DNを与えてその出力電圧を下降させる。その結果、上記とは反対の作用で、プラズマ40の発生量が減少する。プラズマ発生装置34から発生させるプラズマ40の量を維持するときは、どちらの信号UP、DNもフィラメント電源42に与えない。
【0072】
制御器48の具体例を図8に示す。この制御器48は、上記基準の電圧範囲RVの上限値RV1 が基準値として設定される比較器50と、上記基準の電圧範囲RVの下限値RV2 が基準値として設定される比較器52とを有している。両比較器50、52には、比較対象として、上記帯電電圧Vs が帯電電圧計測装置12から与えられる。帯電電圧Vs が上限値RV1 よりも高いときに、比較器50から上記上昇指令信号UPが出力される。帯電電圧Vs が下限値RV2 よりも低いときに、比較器52から上記下降指令信号DNが出力される。帯電電圧Vs が上限値RV1 と下限値RV2 との間にあるときは、どららの信号UP、DNも出力されない。
【0073】
なお、帯電電圧計測装置12で計測した帯電電圧Vs が基準の電圧範囲RVよりも高い、あるいは低いというのは、帯電電圧Vs の±の極性を含めた概念である。例えば、基準の電圧範囲RVを−3≦RV≦+3[V]とした場合、(a)帯電電圧Vs がこの範囲内ならば、そのときのプラズマ40の発生量を維持する。(b)帯電電圧Vs が例えば+6Vのように+3Vよりも高いときは、プラズマ40の発生量を増加させる。これによって、基板6に供給されるプラズマ40ひいてはその中の電子の量が増え、基板表面の正のチャージアップを減少させて帯電電圧Vs の絶対値を小さくすることができる。(c)帯電電圧Vs が例えば−6Vのように−3Vよりも低いときはプラズマ40の発生量を減少させる。これによって、基板6に供給されるプラズマ40ひいてはその中の電子の量が減り、基板表面の負のチャージアップを減少させて帯電電圧Vs の絶対値を小さくすることができる。
【0074】
このイオンビーム照射装置によれば、上記のような帯電電圧計測装置12を備えているので、実際に処理中の基板表面の帯電電圧Vs を正確に計測することができる。
【0075】
それに加えて、上記のような制御器48を備えていて、プラズマ発生装置34にフィードバック制御をかけるので、処理中の基板表面の帯電電圧Vs が基準の電圧範囲RV内に収まるように、自動的に制御することができる。
【0076】
帯電抑制用の電子供給源には、上記のような電子を含むプラズマ40を発生させるプラズマ発生装置34の代わりに、電子だけを発生させてそれを基板6やイオンビーム2に供給する電子発生装置を用いても良い。
【0077】
なお、上記各実施形態における帯電電圧計測装置12を構成する計測用電極14は、1枚に限定されるものではなく、複数枚設け、その各々に上記のような計測用コンデンサ18(および必要に応じて計測用抵抗器24)をそれぞれ設け、その各計測用コンデンサ18の両端の計測電圧Vm をそれぞれ計測し、その各々の計測電圧Vm を用いて上記数3または数4に示した演算を行って、各計測用電極14に対応する複数箇所の基板表面の帯電電圧Vs を計測するようにしても良い。そのようにすれば、基板表面における帯電電圧Vs の分布をも計測することができる。複数点の計測電圧Vm を計測するには、複数の電圧計20の代わりに、複数点の電圧を計測するデータロガー等を用いても良い。
【0078】
例えば、基板保持台4を上記のようにX方向に機械的に走査する場合は、計測用電極14は、例えば図10に示す例のように、X方向に複数枚配置しても良い。そのようにすれば、基板表面における帯電電圧Vs のX方向における分布をも計測することができる。この場合、各計測用電極14は、イオンビーム2のX方向の幅とほぼ等しいかそれよりも幾分細くするのが好ましい。
【0079】
更に、例えば図11に示す例のように、各計測用電極14は、前記Y方向にも複数枚配置しても良い。そのようにすれば、基板表面における帯電電圧Vs のY方向における分布をも計測することができる。
【0080】
上記のように計測用電極14を複数枚設けて複数箇所の帯電電圧Vs を計測する場合において電子供給源(例えばプラズマ発生装置34)を制御する場合は、複数箇所の帯電電圧Vs の絶対値の最大のものが上記基準の電圧範囲RV内に収まるように制御すれば良い。
【0081】
また、この発明は、正イオンおよび負イオンを発生させてそれを基板6に供給するイオナイザを用いる場合にも適用することができる。このイオナイザは、大気中で基板6を搬送したり乾燥させたりする場合に、基板表面の帯電を抑制することに用いられる。この場合は、基板6を搬送したり乾燥させたりするための基板保持台4に上記のような計測用電極14を設けておいて上記のような帯電電圧計測装置12を構成すれば良い。更に、この帯電電圧計測装置12で計測した基板表面の帯電電圧Vs を用いて、上記図7の実施形態の場合と同様の思想に基づいて、イオナイザにフィードバック制御をかけて、イオナイザから発生させる正イオンと負イオンの割合を変化させることによって、帯電電圧Vs が基準の電圧範囲内に収まるようにすることができる。
【0082】
【発明の効果】
この発明は、上記のとおり構成されているので、次のような効果を奏する。
【0083】
請求項1記載の発明によれば、基板の処理の邪魔にならない計測用電極を用いているので、実際に処理中の基板の表面の帯電電圧をリアルタイムで計測することができる。しかも、実際に処理する基板そのものの表面の帯電電圧を、二つの静電容量による分圧手段を用いて計測することができるので、基板表面の帯電電圧を正確に計測することができる。
【0084】
請求項2記載の発明によれば、基板の処理の邪魔にならない計測用電極を用いているので、実際に処理中の基板の表面の帯電電圧をリアルタイムで計測することができる。しかも、計測中に、電圧計の内部抵抗等の計測用コンデンサに並列な抵抗を通して、基板表面の電荷が接地電位部に漏れ出た分を、基板表面の電圧に換算して補正しているので、当該漏れ分による誤差を修正して、実際に処理中の基板表面の帯電電圧をより正確に計測することができる。
【0085】
請求項3記載の発明によれば、請求項1または2に記載の帯電電圧計測装置を備えているので、実際に処理中の基板表面の帯電電圧を正確に計測することができる。それに加えて、上記のような制御器を備えていて、電子放出源にフィードバック制御をかけるので、処理中の基板表面の帯電電圧が基準の電圧範囲内に収まるように、自動的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る帯電電圧計測装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1中の計測用コンデンサ周りの等価回路図である。
【図3】この発明に係る帯電電圧計測装置の他の実施形態を示す図である。
【図4】図3中の計測用コンデンサ周りの等価回路図である。
【図5】基板保持台、基板および計測用電極の平面形状の一例を示す平面図である。
【図6】分圧比の逆数を求める方法の一例を示す図である。
【図7】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図8】図7中の制御器の具体例を示すブロック図である。
【図9】基板保持台、基板および計測用電極の平面形状の一例をイオンビームと共に示す平面図である。
【図10】計測用電極の構成の他の例を示す平面図である。
【図11】計測用電極の構成の更に他の例を示す平面図である。
【図12】従来の帯電電圧計測方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
2 イオンビーム
4 基板保持台
6 基板
12 基板の帯電電圧計測装置
14 計測用電極
18 計測用コンデンサ
20 電圧計
22 演算器
24 計測用抵抗器
34 プラズマ発生装置(電子供給源)
48 制御器

Claims (3)

  1. 基板保持台に保持された基板の表面の帯電電圧Vs を計測する装置であって、
    前記保持された基板の裏面に接触または近接するように前記基板保持台上に配置されており、かつ前記基板保持台とは電気的に絶縁されていて、前記基板との間に静電容量Cs を形成する計測用電極と、
    この計測用電極と接地電位部との間に接続されていて静電容量がCm の計測用コンデンサと、
    この計測用コンデンサの両端の電圧である計測電圧Vm を計測する電圧計と、
    前記静電容量Cs とCm との関係において定まる分圧比の逆数Kおよび前記計測電圧Vm に基づいて、次の数1またはそれと数学的に等価な式の演算を行って、前記帯電電圧Vs を求める演算器とを備えることを特徴とする基板の帯電電圧計測装置。
    【数1】
    s =K・Vm 
    ここで、K=(Cs +Cm )/Cs またはK=Cm /Cs (Cm ≫Cs のとき)
  2. 基板保持台に保持された基板の表面の帯電電圧Vs を計測する装置であって、
    前記保持された基板の裏面に接触または近接するように前記基板保持台上に配置されており、かつ前記基板保持台とは電気的に絶縁されていて、前記基板との間に静電容量Cs を形成する計測用電極と、
    この計測用電極と接地電位部との間に接続されていて静電容量がCm の計測用コンデンサと、
    この計測用コンデンサの両端の電圧である計測電圧Vm を計測する電圧計と、
    時間をtとして、計測を開始した時間をt=0とし、計測中の任意の時間をt1としたとき、前記静電容量Cs とCm との関係において定まる分圧比の逆数K、前記時間t1おける前記計測電圧V(t1)および前記電圧計の内部抵抗を含み前記計測用コンデンサに並列な抵抗の抵抗値Rm に基づいて、次の数2またはそれと数学的に等価な式の演算を行って、前記時間t1における前記帯電電圧Vs を求める演算器とを備えることを特徴とする基板の帯電電圧計測装置。
    【数2】
    s =K[V(t1)+{1/(Cm ・Rm )}∫ t1(t)dt]
    ここで、K=(Cs +Cm )/Cs またはK=Cm /Cs (Cm ≫Cs のとき)
  3. 基板保持台に保持された基板にイオンビームを照射して処理を施す装置であって、
    電子を発生させてそれを前記基板に供給してイオンビーム照射に伴う基板表面の帯電を抑制する電子供給源と、
    請求項1または2に記載の基板の帯電電圧計測装置と、
    当該基板の帯電電圧計測装置で計測した前記基板の帯電電圧Vs に基づいて、当該帯電電圧Vs が基準の電圧範囲内にあるときは前記電子供給源から発生させる電子の量を維持し、当該基準の電圧範囲よりも高いときは前記電子供給源から発生させる電子の量を増加させ、当該基準の電圧範囲よりも低いときは前記電子供給源から発生させる電子の量を減少させる制御を行う制御器とを備えることを特徴とするイオンビーム照射装置。
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