JP2004107671A - 分子デバイスの製造方法 - Google Patents

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古海 誓一
Akira Otomo
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Abstract

 【課題】
 個々の分子素子の結合を制御する有効な方法などの提供。
 【解決手段】
骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体を用い、分子構造体の末端部分にある結合性残基を光照射により架橋させる工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法や、骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体に光を照射する工程を含む、複数の分子構造体が連結した分子集合体の製造方法など。
【選択図】 図2

Description

 本発明は、結合性残基を周囲に持つ分子構造体に光を照射し、光化学過程や光物理過程を利用して、分子周囲、もしくは分子構造体同士を選択的かつ効率的に連結させ、分子レベルで結合様式を制御した分子集合体の製造方法などに関する。
  現在のシリコン半導体素子は、超微細化と高密度集積化により、コンピューターの能力を著しく向上させた。シリコン半導体素子では、シリコンに微量の不純物を混ぜてn型やp型の半導体としているが、超微細加工が進むことによって、一つの素子に含まれる不純物原子の数が極端に減少するために、ある限界を過ぎると原理的にはもはや半導体として動作することができなくなる。その限界とされている素子寸法は数10nmであり、現在のペースで超微細加工技術が進むと数年後にはその限界に達すると予測される。
 化学増幅型フォトレジストを用いた光リソグラフィーによる微細加工技術においては、可視光から紫外光、深紫外光照射に移行していきているが、70nm程度の解像度が限界とされている。最近では、より照射波長の短いX線、集束イオンビーム、電子線リソグラフィーなどの適用が検討されているものの、これらの照射波長を用いるためには、新たな感光性樹脂、光学系、マスクの開発や生産コストの低下なども望まれており、この技術・実用的な問題は現段階では解決されていない。
 上記のような従来のデバイス作製手法は、いわゆるトップダウン技術の概念に基づいており、ナノメートルサイズでの三次元的な分子デバイスの作製は困難である。
 現在、世界的にナノメートル程度の寸法でも動作可能な新しい分子デバイスの開発が精力的に進められている。例えば、電子1個でスイッチのオン・オフを制御する単電子素子や、機能性有機分子を分子構造体として用いる分子デバイスなどが提案されている。これら新しい概念に基づいた分子デバイスを実用化するためには、まだ多くの課題を解決しなければならない。そのひとつの大きな問題として、個々の分子を如何に選択的に連結させることが挙げられる。これは、ボトムアップ技術の大きな問題点であり、科学雑誌である日経サイエンス、2001年、12月号、37ページにおいても言及されている。したがって、これまでに個々の分子素子の結合を制御する有効な方法は見出されていない。
 本発明は、個々の分子素子の結合を制御する有効な方法などを提供することを目的とする。
 本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、分子デバイスを作製する際に必要とされる各々の分子構造体を光照射などにより連結できることを見いだした。上記課題は、以下の発明により解決される。
(1)骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体を用い、分子構造体の末端部分にある結合性残基を光照射により架橋させる工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法であって、光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法を除く、殻構造を有する分子構造体の製造方法。
Figure 2004107671
(一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
 例えば、デンドリマーなどは、内部(いわゆるコア部分など)よりも、周囲部分(枝部など)の原子密度が高い。この発明では、このように分子の中心付近よりも分子の外側部分に多くの原子が存在する分子構造体のうち、その周囲部分(外側部分)に結合性残基を有する分子構造体を用い、前記の結合性残基を架橋(結合を含む)させ、分子デバイスを製造する。分子構造体の結合性残基を架橋させることで、ナノパーティクルやナノワイヤを製造することができ、これらを用いることで、機能性分子構造体や機能性分子集合体を高密度に集合させた分子デバイスを製造することができる。なお、殻構造をとった分子構造体をナノパーティクルとも呼ぶ。ナノパーティクルは、殻の内部に空間を有し、さまざまな物質を包含できる。
 (2)前記結合性残基が、二重結合、および三重結合のいずれかまたは両方を少なくともひとつ以上有する光結合性残基である(1)に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。結合性残基が、光結合性残基であることにより、光照射によって反応を制御することができる。
 (3)前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである(1)に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。これらの基は、効果的に結合し、分子内結合、および分子間結合などの架橋に有効である。
 (4)光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法であって、光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法を除く、殻構造を有する分子構造体の製造方法。
Figure 2004107671
(一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)。nとしては、1〜10が挙げられ、2〜10が好ましく、3〜8が更に好ましい。
 (5)前記結合性残基が、二重結合、および三重結合のいずれかまたは両方を少なくともひとつ以上有する光結合性残基である(4)に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
 (6) 前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである(4)に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
 (7)骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体に光を照射する工程を含む、複数の分子構造体が連結した分子集合体の製造方法。
 (8)骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体に光を照射する工程を含む、複数の分子構造体が連結し、分子レベルで結合様式を制御した分子集合体の製造方法。
 (9)前記の分子集合体が、ナノワイヤである(7)、又は(8)に記載の分子集合体の製造方法。
 (10)結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
 (11)結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである複数のデンドリマーが連結し、分子レベルで結合様式を制御した分子集合体の製造方法。
 (12)前記の分子集合体が、ナノワイヤである(10)、又は(11)に記載の分子集合体の製造方法。
 (13)前記デンドリマーが下記の一般式(A)で表される(10)〜(12)のいずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
Figure 2004107671
(一般式(A)において、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
 (14)前記デンドリマーが、下記の一般式(I)、又は一般式(II)で表される(10)〜(12)のいずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
Figure 2004107671
Figure 2004107671
 (ただし、一般式(II)におけるRは、C1−C10アルキレン基またはC2−C10アルケニレン基である。)なお、一般式(I)及び(II)中、nとしては、1〜10が挙げられ、2〜10が好ましく、3〜8が更に好ましい。
 (15)(10)〜(14)いずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、前記のデンドリマーを溶解した溶液を調整する工程と、前記の溶液を基板上に塗布する工程と、塗布液を乾燥させ固化させる工程と、固化した塗布液に光を照射する工程と、ヨウ素をドープする工程とを含む、複数のデンドリマーが連結し、導電性を有する分子集合体の製造方法。
 (16)骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体を用い、分子構造体の末端部分にある結合性残基を光照射により架橋させる工程により製造される殻構造を有する分子構造体であって、光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーを用い、前記デンドリマーの末端部位にある結合性残基を光照射により架橋させる工程により製造される殻構造を有する分子構造体を除く、殻構造を有する分子構造体。
Figure 2004107671
(一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
 (17) 前記の骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体がデンドリマーである(16)に記載の殻構造を有する分子構造体。
  本発明によれば、ナノパーティクルやナノワイヤを効率的に製造できる。
 本発明によれば、ボトムアップ型の設計により分子デバイスを適切に製造できる。
 本手法を適用することで、各種三次元的分子デバイスの作製が容易となる。
 以下、本発明の分子構造体、分子集合体、および分子デバイスの製造方法などについて詳述する。
 本発明の分子デバイスの製造方法は、例えば、内部よりも周囲部分の原子密度が高く、周囲部分に結合性残基を有する分子構造体を用いる。本発明の一態様によれば、分子構造体の周囲に存在する結合性残基を分子構造体内であるいは分子構造体間で架橋させることによって分子構造体または分子集合体を製造する。
 〔分子構造体〕
 ここで、分子構造体としては、例えば、骨格構造を持つ骨格部分と、その骨格部分の外殻(外側)に設けられ、その骨格部分より原子密度が高く結合性残基を有する末端部分とで構成されるもの(例えば、デンドリマー)が挙げられる。分子構造体とは、残基部位や中心部位など機能の異なる複数の部位が一分子内に存在する分子などを意味する。分子構造体としては、複数(2以上)の結合性残基を有するものが好ましい。結合性残基としては、光結合性残基が好ましい。分子構造体としては、デンドリマーが好ましく、デンドリマーとしては、上記一般式(I)または上記一般式(II)で表されるデンドリマーが好ましい。ここで、一般式(I)、(II)においてnとしては、1〜10が挙げられ、2〜10が好ましく、3〜8が更に好ましい。また、一般式(II)におけるRとしては、C1−C10アルキレン基や、C2−C10アルケニレン基が挙げられるが、デンドリマーに用いられる連結基であれば、特に限定されるものではない。
  結合性残基は、デンドリマーなどの分子構造体の末端に存在する(末端部位)ことが好ましい。結合性残基としては、(a)ビニル基、アクリレート基やメタクリレート基のような不飽和二重結合を有する脂肪族系残基、(b)桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基やジスチリルピラジン基といった不飽和二重結合を有する芳香族系残基、(c)アセチレン基やジアセチレン基のような不飽和三重結合を有する脂肪族系残基、(d)ジフェニルアセチレン基、フェニルアジド基やジピリジルジアセチレン基のような不飽和三重結合を有する芳香族系残基、およびこれらの残基(官能基)からの誘導される基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。(a)群の結合性残基はラジカル重合反応を示すために、それらを結合性残基として有する分子構造体を架橋する場合は、ラジカル重合開始剤が添加されることが好ましい。一方、(b−d)群の結合性残基は、〔2π−2π〕光二量化反応のようなウッドワード・ホフマン則に従った光付加反応を示すので、重合開始剤は不要である。これら感光性基に関する詳細は、永松 元太郎、乾 英夫 共著、「感光性高分子」、講談社サイエンティフィック、(1977)に記載されている。
  光により架橋体を作成する場合に照射する光としてはX線、電子線、紫外線、可視光線または赤外線(熱線)が用いられる。特に、紫外線もしくは可視光線が好ましい。照射する光源としては、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、気体レーザー、液体レーザー、固体レーザーなどが用いられる。分子構造体内の結合性残基同士を結合させたり、各分子構造体を連結するために、結合性残基を直接励起し、分子内結合や分子間結合を誘起してもよい。また、架橋剤などを用いることにより分子内架橋および分子間架橋を形成してもよい。
 〔架橋剤〕
 本明細書において「架橋」とは、架橋剤を用いた2以上の分子構造体を結合のほかに、架橋剤を用いずに同一分子構造体内、または分子構造体間での結合性残基同士の結合をも意味する。本発明において、架橋剤は、分子構造体の結合性残基同士を連結する分子を意味する。架橋剤としては、例えば、ブタジエン、ペンタジエン、分子構造体の結合性残基を有する炭化水素などが挙げられる。長さを制御した架橋剤を用いることで、間隔を制御しつつ分子構造体同士を連結し、規則性のある分子集合体を得られる。
  本発明の、分子デバイスの製造方法では、例えば以下の殻構造を有する分子構造体、または分子集合体を用いても良い。
 殻構造を有する分子構造体(以下、「ナノパーティクル」ともいう。)は、例えば、内部よりも周囲部分の原子密度が高く、周囲部分に結合性残基を有する分子構造体の、結合性残基を架橋させ殻を形成させることにより製造される。すなわち、分子構造体の周囲に存在する結合性残基部分同士が結合しあい、殻のような状態になったものが、殻構造を有する分子構造体である。特に、分子構造体の密度が高くなく、分子構造体同士の分子間距離が大きい場合は、ナノパーティクルが主に製造される。参考のため、図1にナノパーティクルの概念図を示す。図1aは、分子構造体(デンドリマー)1を表す。図1aに示される分子構造体に、光を照射すると、分子構造体内の結合性残基6が、架橋(結合)し、図1bの6で表されるような架橋部分となる。このようにして殻構造をもった分子構造体であるナノパーティクル4が形成される。この架橋反応は、ジクロロメタンなどの溶媒中で行うことができるし、固相中で行ってもよい。
  複数の分子構造体が連結した分子集合体(以下、「ナノワイヤ」ともいう。)は、例えば内部よりも周囲部分の原子密度が高く、周囲部分に結合性残基を有する分子構造体の結合性残基を架橋させ、隣接する分子構造体の結合性残基を結合させることにより製造される。本発明の分子構造体は、例えば分子内に複数の結合性残基を有しているので、架橋が進行すると、例えば、放射状に複数の分子構造体が集合することとなる。特に、分子構造体の密度が高く、分子構造体同士の分子間距離が小さい場合は、ナノワイヤが主に製造される。
 参考のため、図2にナノワイヤの概念図を示す。分子集合体を製造する際の一例としては、図2aにあるように結合性残基6を周囲部分に有する分子構造体1に光を照射する。すると図2bにあるように、分子構造体1内の架橋性残基と架橋剤3が架橋し、分子集合体5が得られる。
 また、架橋剤を加え架橋を進行させた場合は、分子構造体の結合性残基と架橋剤とが架橋反応を起こす。この際、架橋剤の長さを制御することで、分子構造体同士の距離を制御した形で分子構造体が集合することにより分子集合体を得ることもできる。
 〔分子デバイス〕
 図3に本発明の分子デバイスの一例である ロッド状デンドリマーによる光導電性ナノワイヤの概念図を示す。
 図3(a)は、ロッド状のデンドリマー分子であり、その周囲に結合性残基が修飾されている。このデンドリマーを含む溶液に光を照射すると、デンドリマー内の結合性残基が連結し、図3(b)に示されるような分子デバイスである光導電性ナノワイヤを得ることができる。この光導電性ナノワイヤは、自由電子および正孔の生成率がほぼ等しく、真性半導体のような挙動を起こす。すなわち、このような分子デバイスを用いると、ナノレベルで形状等を制御した半導体素子を得ることができる。なお、実際に得られた光導電性ナノワイヤの電子移動度は、軸方向で約1cm2/V、軸垂直方向で約0.001cm2/Vであった。
 さらに、光導電性ナノワイヤの空洞にヨウ素をドープしたところ、光導電性ナノワイヤの導電性は飛躍的に向上した。
 (製造例1)
 桂皮酸アミド残基を末端に有するデンドリマーの合成方法
 触媒量のトリエチルアミンを含む第一世代のポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(図4でn=1)(1.0g、3.2mmol、アルドリッチ社製)のジクロロメタン溶液に、トランス−桂皮酸クロライド(0.63g、3.7mmol、アルドリッチ社製)の溶液を滴下し、0℃で1時間、室温で40時間撹拌した。この反応液をジクロロメタンで希釈し、イオン交換水、炭酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、ジクロロメタンをエバポレーターで除去した。粗生成物を透析と再沈殿を三回繰り返し、減圧乾燥後、白色の固体を得た。
  第三世代、第五世代のポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(図4でn=3、5)も前記手法と同様に合成、精製した。
 このようにして合成したデンドリマーの諸物性を以下の表1及び表2に示す。
Figure 2004107671
Figure 2004107671
ナノパーティクルの製造
(実施例1−1)
 図4に示すような分子周囲に桂皮酸アミド残基を有する第一世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(n=1)を用いて以下の実験を行った。デンドリマーの桂皮酸アミド単位で3.0×10-5モル濃度(mol/L)のジクロロメタン希薄溶液をそれぞれ調整し、1.0cm角の石英セルに入れた。出力が200Wの水銀キセノンランプから波長が313nmの光を取り出し、先に調整した溶液に照射した。光照射にともなって、桂皮酸アミド残基由来の280nm付近の吸収帯が減少した。光照射後の吸収スペクトルを測定し、桂皮酸アミド残基のトランス体、シス体、結合体の存在比率を算出した。その結果を表3に示す。ここで結合体とは、桂皮酸アミド残基同士が結合したものを意味する。
 (実施例1−2)
 第三世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(図4のn=3)を用いた以外は、実施例1−1と同様にして実験を行った。その結果を表3に示す。
 (実施例1−3)
 第五世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(図4のn=5)を用いた以外は、実施例1−1と同様にして実験を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2004107671
 表3より、本発明に係わる結合性デンドリマー分子は、希薄溶液中において露光エネルギー量の増大に伴って、桂皮酸アミド残基のトランス体比が減少することがわかった。一方で、シス体と結合体の比率が増加することがわかった。特に、結合体の増加比は、デンドリマー分子の世代に強く依存しており、第五世代のデンドリマーは効率的に結合体を形成することがわかった。十分に光照射した溶液を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー測定を行った結果、光照射前後で保持時間は変わっていなかった。すなわち、光照射の前後でデンドリマーの分子量が維持されていた。従って、この希薄溶液濃度において、結合反応は分子間ではなくデンドリマー一分子内で起こっており、希薄溶液中でナノパーティクルを作製できた。このナノパーティクルは、ポリプロピレンイミンデンドリマーの桂皮酸残基が光励起され、近接する桂皮酸残基が次々と二量化(分子内結合)したものと考えられる。ポリプロピレンイミンデンドリマーの世代が大きいほど桂皮酸残基の密度が高くなるので、桂皮酸残基同士が結合した結合体の割合も、デンドリマーの世代に従って大きくなっている。
 (比較例1)
前記実施例1−1で用いた結合性デンドリマーに代えて、桂皮酸アミドの希薄溶液を調整し、実施例1と同様に光照射を行った。その結果を表4に示す。
Figure 2004107671
 前記表3と表4を比較すると、桂皮酸アミドの結合体の生成比率は結合性デンドリマーと大きく異なり、桂皮酸アミドの結合体生成率は極めて少ないことがわかる。
 固層中でのナノパーティクルの製造
(実施例2−1)
 第一世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(n=1)を用いて以下の実験を行った。すなわち、デンドリマーの桂皮酸アミド単位とメタクリル酸メチルモノマー単位が1:10になるように、結合性デンドリマー分子をポリ(メタクリル酸メチル)に希釈分散した溶液を調整した。このように調整した各ジクロロメタン溶液をスピンコート法によってガラス基板上に塗布した。溶液を乾燥させ固化させた後、出力が200Wの水銀キセノンランプから波長が313nmの光を取り出し、このガラス基板に照射した。光照射にともなって、桂皮酸アミド残基由来の280nm付近の吸収帯が減少した。光照射後の吸収スペクトルを測定し、桂皮酸アミド残基のトランス体、シス体、結合体の存在比率を算出した。その結果を表5に示す。
 (実施例2−2)
 第三世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(図4のn=3)を用いた以外は、実施例2−1と同様にして実験を行った。その結果を表5に示す。
 (実施例2−3)
 第五世代ポリプロピレンイミンデンドリマー(図4のn=5)を用いた以外は、実施例2−1と同様にして実験を行った。その結果を表5に示す。
Figure 2004107671
 表5により、本発明に係わる結合性デンドリマー分子は、前記実施例1の希薄溶液中の光化学反応挙動と同様に、固体中においても、桂皮酸残基結合体の増加比はデンドリマー分子の世代に強く依存しており、第五世代のデンドリマーは効率的に光架橋体を形成することがわかった。また、光照射後のデンドリマー/ポリ(メタクリル酸メチル)薄膜をスピン塗布溶媒であるジクロロメタンに浸漬すると、ガラス基板上から膜が除去されていることが紫外・可視吸収スペクトル測定から判断できた。

 (比較例2)
 前記実施例2で用いた結合性デンドリマーに代えて、桂皮酸アミドをポリ(メタクリル酸メチル)に希釈した薄膜を作製し、実施例2と同様に光照射を行った。その結果を表6に示す。
Figure 2004107671
 前記表5と表6を比較すると、固体中おいても希薄溶液中の光化学挙動と同様に、桂皮酸アミドの結合体の生成比率は結合性デンドリマーと大きく異なり、桂皮酸アミドの結合体生成率は極めて少ないことがわかる。
 ポリプロピレンイミンデンドリマー分子をポリ(メタクリル酸メチル)に希釈分散する変わりに、ポリプロピレンイミンデンドリマーのみを用いた他は実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3と同様にして実験を行った。ガラス基板をジクロロメタンに浸漬しても、膜がガラス基板上に残存していた。これは、本実施例においては、ポリプロピレンイミンデンドリマー分子が、ジクロロメタンに溶解しない高分子となったことによる。
 実施例2および実施例3から、デンドリマー/ポリ(メタクリル酸メチル)希釈膜ではデンドリマー一分子内で桂皮酸残基が分子内結合の中心であり、デンドリマーリッチな薄膜ではデンドリマー同士の分子間結合が進行していることがわかる。また、固体中においてもナノパーティクル、ナノワイヤの作製が可能であることがわかった。
 本発明のナノパーティクルやナノワイヤは、液晶材料、機能性材料、電子機能性材料、触媒、ナノレベル電子素子、ナノレベルFET、トナー原料、帯電制御剤、電荷付与剤などプラスチックの副剤光、ドラックデリバリーシステムなどとして利用可能である。
 本発明の、ナノワイヤは、数nm〜数100nmレベルの周期性を利用した、超高密度記憶材料、発光素子等で利用可能である。
図1は、殻構造を持った分子構造体(ナノパーティクル)の概念図である。 図2は、分子集合体(ナノワイヤ)の概念図である。 図3は、ロッド状デンドリマーによる光導電性ナノワイヤの概念図である。 図4は、デンドリマーの一例を表す。
符号の説明
1 分子構造体
2 架橋部分
3 架橋剤
4 殻構造を持った分子構造体
5 分子集合体
6 結合性残基


Claims (17)

  1.  骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体を用い、
     分子構造体の末端部分にある結合性残基を光照射により架橋させる工程を含む、
    殻構造を有する分子構造体の製造方法であって、
     光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法を除く、
    殻構造を有する分子構造体の製造方法。
    Figure 2004107671
    (一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
  2.  前記結合性残基が、二重結合、および三重結合のいずれかまたは両方を少なくともひとつ以上有する光結合性残基である請求項1に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
  3.  前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである請求項1に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
  4. 光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法であって、
     光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーに光を照射する工程を含む、殻構造を有する分子構造体の製造方法を除く、
    殻構造を有する分子構造体の製造方法。

    Figure 2004107671
    (一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)。
  5.  前記結合性残基が、二重結合、および三重結合のいずれかまたは両方を少なくともひとつ以上有する光結合性残基である請求項4に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
  6.  前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである請求項4に記載の殻構造を有する分子構造体の製造方法。
  7.  骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体に光を照射する工程を含む、複数の分子構造体が連結した分子集合体の製造方法。
  8.  骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体に光を照射する工程を含む、複数の分子構造体が連結し、分子レベルで結合様式を制御した分子集合体の製造方法。
  9.  前記の分子集合体が、ナノワイヤである請求項7、又は請求項8に記載の分子集合体の製造方法。
  10. 結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、
    前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
  11. 結合性残基をその末端部位に有するデンドリマーに光を照射する工程を含む、複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、
    前記結合性残基が、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである複数のデンドリマーが連結し、分子レベルで結合様式を制御した分子集合体の製造方法。
  12.  前記の分子集合体が、ナノワイヤである請求項10、又は請求項11に記載の分子集合体の製造方法。
  13.  前記デンドリマーが下記の一般式(A)で表される請求項10〜12のいずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
    Figure 2004107671
    (一般式(A)において、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
  14.  前記デンドリマーが、下記の一般式(I)、又は一般式(II)で表される請求項10〜12のいずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法。
    Figure 2004107671
    Figure 2004107671
    (ただし、一般式(II)におけるRは、C1−C10アルキレン基またはC2−C10アルケニレン基である。)
  15. 請求項10〜14のいずれか1項に記載の複数のデンドリマーが連結した分子集合体の製造方法であって、
    前記のデンドリマーを溶解した溶液を調整する工程と、
    前記の溶液を基板上に塗布する工程と、
    塗布液を乾燥させ固化させる工程と、
    固化した塗布液に光を照射する工程と、
    ヨウ素をドープする工程とを含む、
    複数のデンドリマーが連結し、導電性を有する分子集合体の製造方法。
  16.  骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体を用い、
     分子構造体の末端部分にある結合性残基を光照射により架橋させる工程により製造される殻構造を有する分子構造体であって、
    光結合性残基である結合性残基をその末端部位に有する下記の一般式(A)で表されるデンドリマーを用い、前記デンドリマーの末端部位にある結合性残基を光照射により架橋させる工程により製造される殻構造を有する分子構造体を除く、殻構造を有する分子構造体。
    Figure 2004107671
    (一般式(A)中、A〜Dは、それぞれ、桂皮酸基、α-シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p―フェニレンジアクリレート基、アセチレン基、ジアセチレン基、ジフェニルアセチレン基のいずれかである。)
  17.  前記の骨格構造を持つ骨格部分と、前記の骨格部分の外殻に設けられ、前記骨格部分より原子密度が高く、結合性残基を有する末端部分とで構成された分子構造体がデンドリマーである請求項16に記載の殻構造を有する分子構造体。


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