JP2004107317A - ベンゼンおよびベンゼン誘導体のハロゲン化方法 - Google Patents
ベンゼンおよびベンゼン誘導体のハロゲン化方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化する方法において、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体ではパラ位に置換基を有し、また三置換ハロゲン化誘導体では1,2,4位に置換基を有するハロゲン化ベンゼン誘導体を選択的に製造する手法を得る。
【解決手段】ゼオライトを触媒として、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、L型ゼオライトなどの触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用する。反応は、溶媒の共存下が好ましく、溶媒がハロゲン含有化合物であることが好ましい。
【選択図】なし
【解決手段】ゼオライトを触媒として、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、L型ゼオライトなどの触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用する。反応は、溶媒の共存下が好ましく、溶媒がハロゲン含有化合物であることが好ましい。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬及び農薬をはじめとする各種有機合成化学物質やポリマー原料として利用されうるハロゲン化ベンゼン誘導体の製造方法に関する。さらに詳しくは、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体ではパラ位に置換基を有し、また三置換ハロゲン化誘導体では1,2,4位に置換基を有するハロゲン化ベンゼン誘導体を選択的に製造する方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハロゲン化ベンゼン誘導体は多くの化合物の原料中間体として工業的に重要な化合物である。二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体には、オルト,メタ,パラの三種類の異性体が存在するが、特にパラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体は各種の有機化合物の原料として重要である。パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の1つであるパラジクロロベンゼンは、医薬,農薬の原料として、またそれ自体が殺虫剤、防臭剤として用いられ工業的価値のきわめて高いものである。また、三置換ハロゲン化ベンゼン誘導体には、その置換基の位置から1,2,3−トリ置換体、1,2,4−トリ置換体、1,3,5−トリ置換体の三種類の異性体が存在するが、特に分子サイズの最も小さい1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体は各種の有機化合物の原料として重要である。例えば、1位と2位にメチル基、4位にクロロ基を有する4−クロロオルトキシレンはポリマー原料など、多くの有用な化合物の原料中間体として用いられる。
【0003】
ハロゲン化ベンゼン誘導体は、一般的には、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等のルイス酸を触媒として、ベンゼン及び/又はベンゼン誘導体をハロゲン化して製造されている。例えば、現在、ジクロロベンゼンは、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒の存在下で、ベンゼン又はモノクロルベンゼンに塩素を吹き込むことによって塩素化し、工業的に製造されている。しかしながら、この方法により製造されるジクロロベンゼン異性体の生成割合、オルト体30〜40%、メタ体約5%、パラ体60〜70%なっており、これらの生成割合を大きく変化させることは困難であった。そのため、パラ選択性向上を目的として多くの研究が行われてきているが、触媒としてゼオライトを用いることもそのうちの1つである。例えば、非特許文献1には、ハロゲン化ベンゼンの液相臭素化触媒として各種のイオン交換したX型、Y型ゼオライトを使用することにより、ルイス酸を触媒として用いる従来の方法よりも高い選択率でパラ体が生成することが示されている。また、特許文献1にはベンゼン類の液相核ハロゲン化においてL型ゼオライトを使用することにより、選択性良くパラジハロゲン化ベンゼンが製造できることが開示されている。さらに、特許文献2には、気相ハロゲン化方法の例として、触媒として5Å以上、13Å以下の細孔を有するゼオライト、たとえばモレキュラーシーブ5A,10X,13XあるいはHY型ゼオライトを使用してモノクロルベンゼンの塩素化により従来の方法に比べ高い選択率でパラジクロロベンゼンが取得できることが示されている。
【0004】
また、4−クロロオルトキシレンは、ルイス酸の存在下、オルトキシレンを塩素化する事により得られるが、この際、4−クロロオルトキシレンと沸点差が少ない3−クロロオルトキシレンやα−クロロキシレンが生成する。有用な4−クロロオルトキシレンを選択的に得る方法として、特許文献3にL型ゼオライトを触媒として用いるオルトキシレンの塩素化による4−クロロオルトキシレンの製造方法が開示され、ニトロ基含有化合物を添加剤として加えると、4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなることも開示されている。また、非特許文献2には、スジット・ビー・クマールらは、溶媒として1,2−ジクロロエタンを利用することにより4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなることを開示している。
【0005】
【非特許文献1】
ジャーナル・オブ・キャタリシス(Journal of Catalysis)第60巻110〜120頁(1979年発刊)
【非特許文献2】
ジャーナル オブ キャタリシス、150巻、p430−433(1994)
【特許文献1】
特開昭59−163329号公報
【特許文献2】
特開昭57−77631号公報
【特許文献3】
特開平3−81234号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来公知の方法においても未だ、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体ではパラ選択率、また三置換ハロゲン化誘導体では1,2,4−トリ置換体選択率は充分ではない。
【0007】
したがって、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体では、副生するオルト置換ハロゲン化ベンゼン誘導体,メタ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体などを可能な限り少なくしてパラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体を選択的に製造することは工業的に極めて重要である。また、三置換ハロゲン化誘導体では、なお一層の1,2,4−トリ置換体選択率の向上が望まれている。例えば、クロロオルトキシレンでは、沸点差の少ない3−クロロオルトキシレンの生成を抑え、4−クロロオルトキシレンをより選択的かつ高活性、高収率に合成できれば、精製工程が簡略化され精製工程の固定費が下がる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することによって、パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体もしくは1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の製造を高選択率、高収率で達成できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために主として次の構成を有する。すなわち、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することを特徴とするベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に記述する。本発明のハロゲン化ベンゼン誘導体の製造方法は、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することを特徴とする。
【0011】
本発明方法では、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用する。本発明においてゼオライトとは、結晶性マイクロポーラス物質のことで、分子サイズの均一な細孔径を有する結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェート、結晶性シリコアルミノフォスフェートのことである。ここでいうメタロシリケート、メタロアルミノシリケートとは、アルミノシリケートのアルミニウムの一部又は全部がガリウム、鉄、チタン、ボロン、コバルト、クロム等のアルミニウム以外の金属で置換されたものである。メタロアルミノフォスフェートも同様にアルミノフォスフェートのアルミニウム又はリンに対してその一部がそれ以外の金属で置換されたものをいう。
【0012】
本発明でゼオライトとは、アトラス オブ ゼオライト ストラクチャー タイプス(Atlas of Zeolite Structure types)(ダブリュー.エム.マイヤー,デイー.エイチ.オルソン、シーエイチ.ベロチャー,ゼオライツ(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites,) 17(1/2), 1996)(文献1)に掲載されているすべてのゼオライト構造を意味する。上記の文献に掲載されていない構造の新種のゼオライトも本発明のゼオライトに含まれる。しかし、好ましくは簡単に入手できるL型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、A型ゼオライト、MFI型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、β型ゼオライト、Ω型ゼオライト、AFI型ゼオライト、AEL型ゼオライト、ATO型ゼオライトが好ましい。好ましくは、陽イオンとしてアルカリ金属を有しているゼオライトである。その理由は、アルカリ金属が塩素を活性化する活性点と推定できるからである。特に好ましくは、選択性良くパラジハロゲン化ベンゼンが製造できることや4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなる、またクロロオルトキシレンの収率が高くなる点で、L型ゼオライトである。L型ゼオライトを利用したときに、選択性が高くなる理由は、現時点では明らかでない。
【0013】
L型ゼオライトは、陽イオンとして一般にKイオンを含有しているが、これ以外のものが含まれていても構わない。
【0014】
本発明のゼオライトは結晶子径が100nm以下であることが重要である。結晶の形状は、特に限定されない。結晶の大きさは走査型電子顕微鏡観察によって測定することができる。無作為にゼオライトをサンプリングし、走査型電子顕微鏡で観察したとき、少なくとも50%以上の結晶子の大きさが100nm以下であることが好ましい。結晶サイズを正確に判断するには2万倍以上の倍率で観察することが好ましい。
【0015】
また、ゼオライトの合成法にはこれまで種々の方法が開示されている。例えば、ハンドブック オブ モレキュラ シーブス(Handbook of Molecular Sieves)(アール.スゾスタック(R.Szostak),ヴァン ノストランド レインホールド(VAN NOSTRAND RAINHOLD),1992)(文献2)に種々の合成方法が記載されている。特にゼオライトの結晶子の大きさは合成時の反応混合物組成、結晶化温度、結晶化時間、攪拌速度等により様々に変化するので一概には言えないが、反応混合物中の組成比についてはシリカやアルミナの濃度、アルカリの濃度により結晶子の大きさは複雑に変化するので適宜、最適組成比を選ぶ必要がある。結晶化条件では結晶化温度を低くしたり結晶化時間を短くするか、あるいは攪拌速度を速くすると結晶子が小さくなる傾向がある。また、反応混合物中に有機塩基窒素化合物や界面活性剤を存在させると結晶子が小さくなる傾向がある。
【0016】
このような結晶子径が100nm以下であるゼオライトを触媒として用いると、パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体もしくは1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の選択性が高くなる。理由は現時点では明らかではない。
【0017】
結晶子径が100nm以下であるゼオライトの使用量は、特に限定されないが基質1モルに対して通常0.5〜60gである。ハロゲン化反応に際し、触媒として用いるゼオライトの使用量が少ないほど、製造コストの観点から好ましい。
【0018】
本発明の方法は、基質としてベンゼン又はベンゼン誘導体を使用する。ベンゼン誘導体とは、ハロゲン化ベンゼン,アルキルベンゼン等のようにベンゼンの水素がハロゲンあるいはアルキル基等の置換基で置換された化合物を意味し、例えば、モノハロゲン化ベンゼン、ジハロゲン化ベンゼン、モノアルキル化ベンゼン、ジアルキル化ベンゼンが好ましい。特にクロロベンゼン、トルエン、オルトキシレン等を挙げることができる。また、ベンゼン又はベンゼン誘導体は、特に純度など限定されることなく、工業的に入手できるものを使用できる。純度は、高いほど好ましいが、不純物が若干量含まれているのが通常であり、これらが含まれていても構わない。
【0019】
本発明の方法は、ハロゲン化反応である。ハロゲン化剤は、特に限定されず、フッ素ガス、塩素ガス、臭素、ヨウ素、スルフリルクロライド等ハロゲン化剤であればいずれのものも使用できる。例えば、塩素化であれば、価格や扱い易さ、吹き込みのコントロールのしやすさ、反応圧力制御のし易さから塩素ガスを使用するのが最も好ましい。
【0020】
本発明方法のハロゲン化反応は、反応温度は任意の温度で達成できるが、反応温度が余り高いと副反応が多くなる。好ましくは−50℃〜150℃、特に好ましくは0℃〜100℃である。すなわち、基質とハロゲン化剤を接触させることによって、ハロゲン化は達成出来る。例えば、塩素化であれば、ベンゼン又はベンゼン誘導体に塩素ガスを吹き込む形で接触させる。吹き込みに際しては、攪拌しながら吹き込む方が好ましい。また、塩素を効率よく利用するために、充分な深さで塩素を吹き込む方が好ましい。反応は、加圧でも、常圧でも、減圧でも構わないが、設備投資を低くする観点から、常圧の方が好ましい。
【0021】
本発明方法に用いる反応装置は、連続式、回分式、半回分式のいずれでも良い。
【0022】
本発明では、ハロゲン化反応時に溶媒を加えることが好ましい。例えば、4−クロロオルトキシレンの製造においては、従来公知の方法で、溶媒としてジクロロエタンを、触媒としてK−L型ゼオライトを使用することによって、4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比が向上することが知られている。本発明者らは、更に触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することによって予想以上に選択性が向上することを見出し本発明に至った。その理由は明らかではない。
【0023】
使用する溶媒は蒸留などで回収して再利用することが製造コストの観点から好ましい。従って、生成物と沸点差が十分あり、しかも低い沸点のものが好ましい。溶媒の種類は、特に限定されないが、従来公知のハロゲン含有化合物、ニトロ含有化合物が好ましく使用される。ハロゲン含有化合物の方が、ニトロ含有化合物より活性が高くなるので好ましい。ハロゲン含有化合物は、芳香族でも脂肪族でも構わない。例えば、クロロ化合物では、クロロベンゼン、o−,m−,p−ジクロロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロプロパン、ジクロロプロパン等である。後の工程やリサイクル性の点から沸点160℃以下の化合物が好ましい。特に、1,2−ジクロロエタン等のジクロロエタンや1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロパン等ジクロロプロパンが、活性、選択性ともに高くなるので好ましい。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例をもって説明する。
【0025】
(実施例1)L型ゼオライト合成
シリカ源としてルドックス(Ludox) HS−30(デュポン社製)、アルミニウム源として水酸化アルミニウム(和光純薬工業)、カリウム源として水酸化カリウム(KOH含量85.5wt%,H2O含量14.5wt%、シグマアルドリッチジャパン)を用い、次の組成の混合物を調製した。
【0026】
8K2O:Al2O3:20SiO2:200H2O(モル比)
具体的には、35.35gの蒸留水に62.99gの水酸化カリウムを溶解させたのち、水酸化アルミニウム9.36gを加え30分攪拌し均一な溶液とした。この混合液に、ルドックスHS−30、240.4gを攪拌しながら徐々に加え、さらに3時間攪拌し、均一なスラリー状水性反応混合物を調製した。反応混合物は、500ml容のオートクレーブに入れ密閉し、その後150rpmで攪拌しながら150℃で5日間反応させた。
【0027】
反応終了後、蒸留水で3回水洗、濾過を繰り返し、約120℃で一晩乾燥した。得られた生成物のX線回折を行ったところ図1に示すようなX線回折図を示し、L型ゼオライトであることがわかった。X線回折の条件は、X線源は、Cu/40kV/30mAで、スキャンスピード3度/分であった。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)でその形態を測定したところ、図2に示すような形態をしており、ほとんどの結晶子径は、100nm以下であることがわかった。
【0028】
(実施例2)L型ゼオライト合成
シリカ源として含水ケイ酸(SiO2含量91.6wt%,Al2O3含量0.33wt%、NaOH含量0.27wt%、H2O含量7.8wt%、ニップシールVN−3、日本シリカ)、アルミニウム源として水酸化アルミニウム(和光純薬工業)、カリウム源として水酸化カリウム(KOH含量85.5wt%,H2O含量14.5wt%、シグマアルドリッチジャパン)を用い、次の組成の混合物を調製した。
【0029】
8K2O:Al2O3:20SiO2:400H2O(モル比)
具体的には、50.0gの蒸留水に94.48gの水酸化カリウムを溶解させたのち、水酸化アルミニウム13.45gを加え30分攪拌し均一な溶液とした。この混合液に、570.4gの蒸留水および含水ケイ酸118.14gを攪拌しながら徐々に加え、さらに3時間攪拌し、均一なスラリー状水性反応混合物を調製した。反応混合物は、1000ml容のオートクレーブに入れ密閉し、その後150rpmで攪拌しながら150℃で4日間反応させた。
【0030】
反応終了後、蒸留水で3回水洗、濾過を繰り返し、約120℃で一晩乾燥した。得られた生成物はL型ゼオライトであり、ほとんどの結晶子径は100nm以下であった。
【0031】
(実施例3)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0032】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例1で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト3.39gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.08mol/時間に調整した。
【0033】
2時間後オルトキシレン転化率は、58%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.9であった。
【0034】
(比較例1)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0035】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製)3.39gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.08mol/時間に調整した。
【0036】
2時間後オルトキシレン転化率は、56%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.1であった。3時間後オルトキシレン転化率は、87%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.3であった。
【0037】
東ソー製K−L型ゼオライトの形態を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で測定したところ、図3に示すような形態をしており、ほとんどの結晶子径は、300nm〜500nmであった。
【0038】
(実施例4)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0039】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)12.74gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)45ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例2で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト2.54gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.082mol/時間に調整した。
【0040】
1時間後オルトキシレン転化率は、46%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は10.3であった。
【0041】
(比較例2)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0042】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)12.74gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)45ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)2.54gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.082mol/時間に調整した。
【0043】
1時間後オルトキシレン転化率は、43%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は9.6であった。
【0044】
(実施例5)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0045】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)53gに400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例1で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト2.5gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら100℃に加熱した。100℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.13mol/時間に調整した。
【0046】
8時間後オルトキシレン転化率は、43%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は1.8であった。
【0047】
(比較例3)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0048】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)53gに400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)2.5gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら100℃に加熱した。100℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.13mol/時間に調整した。
【0049】
8時間後オルトキシレン転化率は、40%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は1.6であった。
(実施例6)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0050】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例2で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト0.17gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.026mol/時間に調整した。
【0051】
6時間後オルトキシレン転化率は、97%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は10.4であった。
【0052】
(比較例4)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0053】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)0.17gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.026mol/時間に調整した。
【0054】
6時間後オルトキシレン転化率は、91%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は7.5であった。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体を二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の合成ではパラ選択的に、また三置換ハロゲン化誘導体の合成では1,2,4−トリ置換選択的にハロゲン化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で合成したL型ゼオライトのX線回折図である。
【図2】実施例1で合成したL型ゼオライトの電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)像を表す図である。
【図3】比較例1および2で反応に用いた東ソー製K−L型ゼオライトの電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)像を表す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬及び農薬をはじめとする各種有機合成化学物質やポリマー原料として利用されうるハロゲン化ベンゼン誘導体の製造方法に関する。さらに詳しくは、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体ではパラ位に置換基を有し、また三置換ハロゲン化誘導体では1,2,4位に置換基を有するハロゲン化ベンゼン誘導体を選択的に製造する方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハロゲン化ベンゼン誘導体は多くの化合物の原料中間体として工業的に重要な化合物である。二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体には、オルト,メタ,パラの三種類の異性体が存在するが、特にパラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体は各種の有機化合物の原料として重要である。パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の1つであるパラジクロロベンゼンは、医薬,農薬の原料として、またそれ自体が殺虫剤、防臭剤として用いられ工業的価値のきわめて高いものである。また、三置換ハロゲン化ベンゼン誘導体には、その置換基の位置から1,2,3−トリ置換体、1,2,4−トリ置換体、1,3,5−トリ置換体の三種類の異性体が存在するが、特に分子サイズの最も小さい1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体は各種の有機化合物の原料として重要である。例えば、1位と2位にメチル基、4位にクロロ基を有する4−クロロオルトキシレンはポリマー原料など、多くの有用な化合物の原料中間体として用いられる。
【0003】
ハロゲン化ベンゼン誘導体は、一般的には、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等のルイス酸を触媒として、ベンゼン及び/又はベンゼン誘導体をハロゲン化して製造されている。例えば、現在、ジクロロベンゼンは、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒の存在下で、ベンゼン又はモノクロルベンゼンに塩素を吹き込むことによって塩素化し、工業的に製造されている。しかしながら、この方法により製造されるジクロロベンゼン異性体の生成割合、オルト体30〜40%、メタ体約5%、パラ体60〜70%なっており、これらの生成割合を大きく変化させることは困難であった。そのため、パラ選択性向上を目的として多くの研究が行われてきているが、触媒としてゼオライトを用いることもそのうちの1つである。例えば、非特許文献1には、ハロゲン化ベンゼンの液相臭素化触媒として各種のイオン交換したX型、Y型ゼオライトを使用することにより、ルイス酸を触媒として用いる従来の方法よりも高い選択率でパラ体が生成することが示されている。また、特許文献1にはベンゼン類の液相核ハロゲン化においてL型ゼオライトを使用することにより、選択性良くパラジハロゲン化ベンゼンが製造できることが開示されている。さらに、特許文献2には、気相ハロゲン化方法の例として、触媒として5Å以上、13Å以下の細孔を有するゼオライト、たとえばモレキュラーシーブ5A,10X,13XあるいはHY型ゼオライトを使用してモノクロルベンゼンの塩素化により従来の方法に比べ高い選択率でパラジクロロベンゼンが取得できることが示されている。
【0004】
また、4−クロロオルトキシレンは、ルイス酸の存在下、オルトキシレンを塩素化する事により得られるが、この際、4−クロロオルトキシレンと沸点差が少ない3−クロロオルトキシレンやα−クロロキシレンが生成する。有用な4−クロロオルトキシレンを選択的に得る方法として、特許文献3にL型ゼオライトを触媒として用いるオルトキシレンの塩素化による4−クロロオルトキシレンの製造方法が開示され、ニトロ基含有化合物を添加剤として加えると、4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなることも開示されている。また、非特許文献2には、スジット・ビー・クマールらは、溶媒として1,2−ジクロロエタンを利用することにより4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなることを開示している。
【0005】
【非特許文献1】
ジャーナル・オブ・キャタリシス(Journal of Catalysis)第60巻110〜120頁(1979年発刊)
【非特許文献2】
ジャーナル オブ キャタリシス、150巻、p430−433(1994)
【特許文献1】
特開昭59−163329号公報
【特許文献2】
特開昭57−77631号公報
【特許文献3】
特開平3−81234号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来公知の方法においても未だ、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体ではパラ選択率、また三置換ハロゲン化誘導体では1,2,4−トリ置換体選択率は充分ではない。
【0007】
したがって、二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体では、副生するオルト置換ハロゲン化ベンゼン誘導体,メタ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体などを可能な限り少なくしてパラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体を選択的に製造することは工業的に極めて重要である。また、三置換ハロゲン化誘導体では、なお一層の1,2,4−トリ置換体選択率の向上が望まれている。例えば、クロロオルトキシレンでは、沸点差の少ない3−クロロオルトキシレンの生成を抑え、4−クロロオルトキシレンをより選択的かつ高活性、高収率に合成できれば、精製工程が簡略化され精製工程の固定費が下がる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することによって、パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体もしくは1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の製造を高選択率、高収率で達成できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために主として次の構成を有する。すなわち、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することを特徴とするベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に記述する。本発明のハロゲン化ベンゼン誘導体の製造方法は、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することを特徴とする。
【0011】
本発明方法では、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用する。本発明においてゼオライトとは、結晶性マイクロポーラス物質のことで、分子サイズの均一な細孔径を有する結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェート、結晶性シリコアルミノフォスフェートのことである。ここでいうメタロシリケート、メタロアルミノシリケートとは、アルミノシリケートのアルミニウムの一部又は全部がガリウム、鉄、チタン、ボロン、コバルト、クロム等のアルミニウム以外の金属で置換されたものである。メタロアルミノフォスフェートも同様にアルミノフォスフェートのアルミニウム又はリンに対してその一部がそれ以外の金属で置換されたものをいう。
【0012】
本発明でゼオライトとは、アトラス オブ ゼオライト ストラクチャー タイプス(Atlas of Zeolite Structure types)(ダブリュー.エム.マイヤー,デイー.エイチ.オルソン、シーエイチ.ベロチャー,ゼオライツ(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites,) 17(1/2), 1996)(文献1)に掲載されているすべてのゼオライト構造を意味する。上記の文献に掲載されていない構造の新種のゼオライトも本発明のゼオライトに含まれる。しかし、好ましくは簡単に入手できるL型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、A型ゼオライト、MFI型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、β型ゼオライト、Ω型ゼオライト、AFI型ゼオライト、AEL型ゼオライト、ATO型ゼオライトが好ましい。好ましくは、陽イオンとしてアルカリ金属を有しているゼオライトである。その理由は、アルカリ金属が塩素を活性化する活性点と推定できるからである。特に好ましくは、選択性良くパラジハロゲン化ベンゼンが製造できることや4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレンの生成比が高くなる、またクロロオルトキシレンの収率が高くなる点で、L型ゼオライトである。L型ゼオライトを利用したときに、選択性が高くなる理由は、現時点では明らかでない。
【0013】
L型ゼオライトは、陽イオンとして一般にKイオンを含有しているが、これ以外のものが含まれていても構わない。
【0014】
本発明のゼオライトは結晶子径が100nm以下であることが重要である。結晶の形状は、特に限定されない。結晶の大きさは走査型電子顕微鏡観察によって測定することができる。無作為にゼオライトをサンプリングし、走査型電子顕微鏡で観察したとき、少なくとも50%以上の結晶子の大きさが100nm以下であることが好ましい。結晶サイズを正確に判断するには2万倍以上の倍率で観察することが好ましい。
【0015】
また、ゼオライトの合成法にはこれまで種々の方法が開示されている。例えば、ハンドブック オブ モレキュラ シーブス(Handbook of Molecular Sieves)(アール.スゾスタック(R.Szostak),ヴァン ノストランド レインホールド(VAN NOSTRAND RAINHOLD),1992)(文献2)に種々の合成方法が記載されている。特にゼオライトの結晶子の大きさは合成時の反応混合物組成、結晶化温度、結晶化時間、攪拌速度等により様々に変化するので一概には言えないが、反応混合物中の組成比についてはシリカやアルミナの濃度、アルカリの濃度により結晶子の大きさは複雑に変化するので適宜、最適組成比を選ぶ必要がある。結晶化条件では結晶化温度を低くしたり結晶化時間を短くするか、あるいは攪拌速度を速くすると結晶子が小さくなる傾向がある。また、反応混合物中に有機塩基窒素化合物や界面活性剤を存在させると結晶子が小さくなる傾向がある。
【0016】
このような結晶子径が100nm以下であるゼオライトを触媒として用いると、パラ置換ハロゲン化ベンゼン誘導体もしくは1,2,4−置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の選択性が高くなる。理由は現時点では明らかではない。
【0017】
結晶子径が100nm以下であるゼオライトの使用量は、特に限定されないが基質1モルに対して通常0.5〜60gである。ハロゲン化反応に際し、触媒として用いるゼオライトの使用量が少ないほど、製造コストの観点から好ましい。
【0018】
本発明の方法は、基質としてベンゼン又はベンゼン誘導体を使用する。ベンゼン誘導体とは、ハロゲン化ベンゼン,アルキルベンゼン等のようにベンゼンの水素がハロゲンあるいはアルキル基等の置換基で置換された化合物を意味し、例えば、モノハロゲン化ベンゼン、ジハロゲン化ベンゼン、モノアルキル化ベンゼン、ジアルキル化ベンゼンが好ましい。特にクロロベンゼン、トルエン、オルトキシレン等を挙げることができる。また、ベンゼン又はベンゼン誘導体は、特に純度など限定されることなく、工業的に入手できるものを使用できる。純度は、高いほど好ましいが、不純物が若干量含まれているのが通常であり、これらが含まれていても構わない。
【0019】
本発明の方法は、ハロゲン化反応である。ハロゲン化剤は、特に限定されず、フッ素ガス、塩素ガス、臭素、ヨウ素、スルフリルクロライド等ハロゲン化剤であればいずれのものも使用できる。例えば、塩素化であれば、価格や扱い易さ、吹き込みのコントロールのしやすさ、反応圧力制御のし易さから塩素ガスを使用するのが最も好ましい。
【0020】
本発明方法のハロゲン化反応は、反応温度は任意の温度で達成できるが、反応温度が余り高いと副反応が多くなる。好ましくは−50℃〜150℃、特に好ましくは0℃〜100℃である。すなわち、基質とハロゲン化剤を接触させることによって、ハロゲン化は達成出来る。例えば、塩素化であれば、ベンゼン又はベンゼン誘導体に塩素ガスを吹き込む形で接触させる。吹き込みに際しては、攪拌しながら吹き込む方が好ましい。また、塩素を効率よく利用するために、充分な深さで塩素を吹き込む方が好ましい。反応は、加圧でも、常圧でも、減圧でも構わないが、設備投資を低くする観点から、常圧の方が好ましい。
【0021】
本発明方法に用いる反応装置は、連続式、回分式、半回分式のいずれでも良い。
【0022】
本発明では、ハロゲン化反応時に溶媒を加えることが好ましい。例えば、4−クロロオルトキシレンの製造においては、従来公知の方法で、溶媒としてジクロロエタンを、触媒としてK−L型ゼオライトを使用することによって、4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比が向上することが知られている。本発明者らは、更に触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することによって予想以上に選択性が向上することを見出し本発明に至った。その理由は明らかではない。
【0023】
使用する溶媒は蒸留などで回収して再利用することが製造コストの観点から好ましい。従って、生成物と沸点差が十分あり、しかも低い沸点のものが好ましい。溶媒の種類は、特に限定されないが、従来公知のハロゲン含有化合物、ニトロ含有化合物が好ましく使用される。ハロゲン含有化合物の方が、ニトロ含有化合物より活性が高くなるので好ましい。ハロゲン含有化合物は、芳香族でも脂肪族でも構わない。例えば、クロロ化合物では、クロロベンゼン、o−,m−,p−ジクロロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロプロパン、ジクロロプロパン等である。後の工程やリサイクル性の点から沸点160℃以下の化合物が好ましい。特に、1,2−ジクロロエタン等のジクロロエタンや1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロパン等ジクロロプロパンが、活性、選択性ともに高くなるので好ましい。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例をもって説明する。
【0025】
(実施例1)L型ゼオライト合成
シリカ源としてルドックス(Ludox) HS−30(デュポン社製)、アルミニウム源として水酸化アルミニウム(和光純薬工業)、カリウム源として水酸化カリウム(KOH含量85.5wt%,H2O含量14.5wt%、シグマアルドリッチジャパン)を用い、次の組成の混合物を調製した。
【0026】
8K2O:Al2O3:20SiO2:200H2O(モル比)
具体的には、35.35gの蒸留水に62.99gの水酸化カリウムを溶解させたのち、水酸化アルミニウム9.36gを加え30分攪拌し均一な溶液とした。この混合液に、ルドックスHS−30、240.4gを攪拌しながら徐々に加え、さらに3時間攪拌し、均一なスラリー状水性反応混合物を調製した。反応混合物は、500ml容のオートクレーブに入れ密閉し、その後150rpmで攪拌しながら150℃で5日間反応させた。
【0027】
反応終了後、蒸留水で3回水洗、濾過を繰り返し、約120℃で一晩乾燥した。得られた生成物のX線回折を行ったところ図1に示すようなX線回折図を示し、L型ゼオライトであることがわかった。X線回折の条件は、X線源は、Cu/40kV/30mAで、スキャンスピード3度/分であった。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)でその形態を測定したところ、図2に示すような形態をしており、ほとんどの結晶子径は、100nm以下であることがわかった。
【0028】
(実施例2)L型ゼオライト合成
シリカ源として含水ケイ酸(SiO2含量91.6wt%,Al2O3含量0.33wt%、NaOH含量0.27wt%、H2O含量7.8wt%、ニップシールVN−3、日本シリカ)、アルミニウム源として水酸化アルミニウム(和光純薬工業)、カリウム源として水酸化カリウム(KOH含量85.5wt%,H2O含量14.5wt%、シグマアルドリッチジャパン)を用い、次の組成の混合物を調製した。
【0029】
8K2O:Al2O3:20SiO2:400H2O(モル比)
具体的には、50.0gの蒸留水に94.48gの水酸化カリウムを溶解させたのち、水酸化アルミニウム13.45gを加え30分攪拌し均一な溶液とした。この混合液に、570.4gの蒸留水および含水ケイ酸118.14gを攪拌しながら徐々に加え、さらに3時間攪拌し、均一なスラリー状水性反応混合物を調製した。反応混合物は、1000ml容のオートクレーブに入れ密閉し、その後150rpmで攪拌しながら150℃で4日間反応させた。
【0030】
反応終了後、蒸留水で3回水洗、濾過を繰り返し、約120℃で一晩乾燥した。得られた生成物はL型ゼオライトであり、ほとんどの結晶子径は100nm以下であった。
【0031】
(実施例3)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0032】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例1で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト3.39gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.08mol/時間に調整した。
【0033】
2時間後オルトキシレン転化率は、58%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.9であった。
【0034】
(比較例1)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0035】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製)3.39gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.08mol/時間に調整した。
【0036】
2時間後オルトキシレン転化率は、56%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.1であった。3時間後オルトキシレン転化率は、87%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は8.3であった。
【0037】
東ソー製K−L型ゼオライトの形態を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で測定したところ、図3に示すような形態をしており、ほとんどの結晶子径は、300nm〜500nmであった。
【0038】
(実施例4)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0039】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)12.74gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)45ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例2で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト2.54gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.082mol/時間に調整した。
【0040】
1時間後オルトキシレン転化率は、46%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は10.3であった。
【0041】
(比較例2)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0042】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)12.74gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)45ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)2.54gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃の加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.082mol/時間に調整した。
【0043】
1時間後オルトキシレン転化率は、43%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は9.6であった。
【0044】
(実施例5)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0045】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)53gに400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例1で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト2.5gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら100℃に加熱した。100℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.13mol/時間に調整した。
【0046】
8時間後オルトキシレン転化率は、43%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は1.8であった。
【0047】
(比較例3)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0048】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)53gに400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)2.5gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら100℃に加熱した。100℃の加熱後、窒素ガスを塩素ガスに切り替え反応を開始した。塩素ガス吹き込み速度は、0.13mol/時間に調整した。
【0049】
8時間後オルトキシレン転化率は、40%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は1.6であった。
(実施例6)結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライトを触媒とした塩素化反応
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0050】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却した実施例2で調製した結晶子径が100nm以下であるL型ゼオライト0.17gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.026mol/時間に調整した。
【0051】
6時間後オルトキシレン転化率は、97%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は10.4であった。
【0052】
(比較例4)
100mlの4つ口フラスコにリフラックス管、温度計、塩素吹き込み口、サンプリング口を設置した。廃塩素ガスは、リフラックス管の上部から排気し、水酸化ナトリウム溶液でトラップするようにした。加熱は、オイルバスで行った。
【0053】
上記フラスコに、オルトキシレン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、試薬1級)16.96gに1,2−ジクロロエタン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、1級)60ml、400℃で1時間焼成しデシケーター中で冷却したK−L型ゼオライト(東ソー製、比較例1と同じ)0.17gを添加し、窒素ガスを塩素ガス吹き込み口から吹き込みながら80℃に加熱した。80℃に加熱後、窒素ガスに塩素ガスを混合し反応を開始した。ガス混合比は体積比で、窒素ガス/塩素ガス=4で行った。塩素ガス吹き込み速度は、0.026mol/時間に調整した。
【0054】
6時間後オルトキシレン転化率は、91%で4−クロロオルトキシレン/3−クロロオルトキシレン生成比は7.5であった。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、ベンゼン若しくはベンゼン誘導体を二置換ハロゲン化ベンゼン誘導体の合成ではパラ選択的に、また三置換ハロゲン化誘導体の合成では1,2,4−トリ置換選択的にハロゲン化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で合成したL型ゼオライトのX線回折図である。
【図2】実施例1で合成したL型ゼオライトの電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)像を表す図である。
【図3】比較例1および2で反応に用いた東ソー製K−L型ゼオライトの電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)像を表す図である。
Claims (5)
- ベンゼン若しくはベンゼン誘導体をハロゲン化するに当たり、触媒として結晶子径が100nm以下であるゼオライトを使用することを特徴とするベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法。
- ゼオライトがL型ゼオライトであることを特徴とする請求項1記載のベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法。
- 溶媒の共存下でハロゲン化することを特徴とする請求項1または2記載のベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法。
- 溶媒がハロゲン含有化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法。
- ハロゲン含有化合物がジハロゲノエタン又はジハロゲノプロパンであることを特徴とする請求項4記載のベンゼン若しくはベンゼン誘導体のハロゲン化方法。
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