JP2004101413A - 固体内部の振動検査装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の受信部を用いて、受信した信号を分析し、不要な周囲騒音を排除することにより、検査精度の高い固体内部の振動検査装置を提供する。
【解決手段】検査対象物の固体中に振動を発生させる励振部10と、この固体中の振動を検出して電気信号に変換する受信部20と、この受信部20が受信した信号を増幅させる信号処理部30と、信号処理部からの信号をディジタル信号に変換し信号分析を行う信号分析部40と、信号分析部での検査結果を出力する診断出力部50と、前記各部の動作を制御する制御部60とを備えている。そして、信号分析部は複数の受信部で受信した信号を相関処理する事で、時間差を持った周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波だけを抽出することにより、検査精度の向上を図っている。
【選択図】 図1
【解決手段】検査対象物の固体中に振動を発生させる励振部10と、この固体中の振動を検出して電気信号に変換する受信部20と、この受信部20が受信した信号を増幅させる信号処理部30と、信号処理部からの信号をディジタル信号に変換し信号分析を行う信号分析部40と、信号分析部での検査結果を出力する診断出力部50と、前記各部の動作を制御する制御部60とを備えている。そして、信号分析部は複数の受信部で受信した信号を相関処理する事で、時間差を持った周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波だけを抽出することにより、検査精度の向上を図っている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物の内部診断などに利用される固体内部の振動検査装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンクリート構造物の劣化が問題になっており、その内部の診断が必要とされている。従来、コンクリート内部の診断手法として、超音波を利用する方法が種々提案されてきた。特開平7−20097号公報には、エアーシリンダを使用したハンマでコンクリート製品を軽打し、この時発生する音波の音圧レベルを騒音計で検出して良品か欠陥品かを判別する方法が開示されている。
【0003】
また、特開2000−2692号公報には、コンクリート構造物の内部に超音波を入射し、伝搬する超音波をこの構造物の表面に接触させた加速度計を用いて受信し、この受信した超音波の周波数スペクトルを分析することによってコンクリート構造物の内部の空洞の発生の有無を検査する方法が開示されている。この方法では、鋼球を所定の高さから被検査対象物の表面に落下させることによって超音波を入射させている。
【0004】
また、出願人の先願である特願2001−366719号には、磁気射出方式による励振部を用いてコンクリート構造物の表面を打撃し、この時発生する音波をマイクロホン等で受信し、その信号を線形予測法によって分析し、コンクリート構造物の良、不良を診断する方法が開示されている。この方法では、磁気射出方式による励振部を用いて鋼球落下方式の欠点である鋼球のバウンドによる検査精度の低下を防止している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のコンクリート構造物の診断方法では、コンクリート構造物の表面を打撃し、この時に発生した音波をマイクロホン等で受信する際に、発生した音波以外の音波、即ち周囲の騒音を受信することがあり、検査精度が低下するという問題が生じる。従って、本発明の目的は周囲の騒音の影響を排除し、コンクリート構造物の検査精度を高めることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明では、検査対象物の固体中に振動を発生させる励振部と、この固体中の振動を受信して電気信号に変換する受信部と、この受信部が受信した振動の処理を行なう信号分析部と、検査結果を出力する診断出力部と、前記各部を制御する制御部とを備え、前記受信部は、前記励振部の周りに配置した複数の受信素子で構成されている。
【0007】
次に、請求項2の発明では、受信部は、励振部の打撃中心から等距離に受信素子を配置した構成としている。
【0008】
また、請求項3の発明では、信号分析部は、各受信素子が受信した振動の相関処理を行なうよう構成されている。
【0009】
また、請求項4の発明では、励振部は、磁力を利用して固体表面に衝突しその反作用により固体表面と分離する駆動部を有し、この駆動部の衝突分離動作により固体内部に自由振動を励振するよう構成されている。
【0010】
また、請求項5の発明では、励振部は、鋼材等の接触部が、固体を打撃することによりその内部に自由振動を励振するよう構成されている。
【0011】
また、請求項6の発明では、信号分析部は、受信部が受信した振動を線形予測法によって分析し、共振周波数と共振のQ値とに基づいて振動特性を検査するよう構成されている。
【0012】
また、請求項7の発明では、検査結果は、良品又は不良品のうちの少なくとも一つを含む診断結果として出力されるよう構成されている。
【0013】
また、請求項8の発明では、検査は、予め抽出され登録された良品と不良品の振動の特性と信号分析部が分析した振動の特性とを比較することによって行われるよう構成されている。
【0014】
また、請求項9の発明では、受信部は液体、固体、半固体状または気体の層を介在させながら検査対象物の固体の振動を受信するよう構成されている。
【0015】
また、請求項10の発明では、励振部は、少なくとも永久磁石と励振コイルとを具備し、永久磁石が駆動部の磁力部材部を構成している。
【0016】
また、請求項11の発明では、励振コイルを駆動する駆動電流は、単一パルス波形からなる直流パルス電流であるよう構成されている。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例である固体内部の振動検査装置の全体構成を、斜線を付した検査対象物と共に示す機能ブロック図である。10は励振部であり、20は受信部、30a、30b、30c、30dは信号処理部、40は信号分析部であり、50は診断出力部、60は制御部である。
【0018】
図2は、図1の励振部10と受信部の受信素子20a、20b、20c、20dの配置を示す。この図は励振部10と受信素子20a、20b、20c、20d及び検査対象物を上から俯瞰した図であり、励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心として距離rの円周上に受信素子20a、20b、20c、20dが、等距離間隔で配置されている。
【0019】
図3は、図1中の励振部10の実施例を示す断面図であり、11は駆動部、12は駆動部保持キャップ、13は引張スプリング、14はリード線、11Aは磁力部、11Bは駆動部材部、11Cは圧迫部、100は励振コイルである。
【0020】
駆動部11は、上述のように磁力部11A、駆動部材部11Bと圧迫部11Cとで構成されている。
磁力部11Aの好適な一例として、永久磁石が、また他の好適な例として、電磁石などが使用可能である。
駆動部材部11B及び圧迫部11Cは、検査対象物より硬い材質である鋼材等により構成されている。
【0021】
図4は、磁力部11Aが、永久磁石により構成されている場合の励振コイル100に、リード線14を介して供給される駆動電流波形の一例を示す波形図である。この駆動電流は、単一パルス波形からなる。最も強い駆動を行うものとして、図4に例示するように、永久磁石が励振コイル内を走行する時間に相当する時間長tの直流パルス電流で励振するのが最適である。駆動電流波形のパルス幅tは、t=l/vとなる。ここでlは、永久磁石が励振コイル内を走行する距離、vは、永久磁石の走行速度である。
【0022】
再び図3に戻る。図3(A)に示すような初期状態において、駆動部11は検査対象物の固体表面から離れて静止し、励振コイル100に、リード線14を介して、図4に例示したような波形の駆動電流が供給されると、駆動部11が検査対象物の固体表面に向け急激に前進し、検査対象物の固体は駆動部11に押される。これにより、図3(B)に示すように、駆動部11によって検査対象物の固体は変形する。
【0023】
続いて、図3(C)に示すように、駆動部11は、検査対象物の固体からの反発力によって上昇し、次いで引張スプリング13の伸張する圧力により、図3(A)に示すような初期状態に復元される。駆動部11が短時間に検査対象物の固体表面から離れることにより、これが検査対象物の固体内に励振された振動の負荷として作用することがなくなり、検査対象物の固体内に負荷の影響を受けない自由振動が励振される。
【0024】
励振コイル100に印加された駆動電流により駆動部11が検査対象物の固体表面に向け前進する原理を図5により説明する。ここで、104は、永久磁石(磁力部)11Aによる磁力線である。A点において、磁界はHA方向、励振コイル100に流れる電流は、紙面に対して垂直上方方向であることから、この電流に働く力は、矢印101の方向である。一方、B点においては、磁界はHB方向、励振コイル100に流れる電流は、紙面に対して垂直下方方向であることから、この電流に働く力は、矢印102の方向でA点における電流に働く力101の方向と同一である。
【0025】
これら電流に働く力の反作用が磁力部11Aを動かす駆動力となることから、この駆動力の方向は、矢印103の方向となる。これにより磁力部11Aは検査対象物の固体表面に向け前進する。ここで、図5に示すように、磁力部11A(永久磁石)のN極端面が励振コイル100の端面とほぼ一致するように配置する。また、磁力部11A(永久磁石)のS極端面が励振コイル100の内部に含まれるように配置する。
【0026】
このように、励振コイル100と磁力部11Aとを非対称的に配置することにより、磁力部11A(永久磁石)のN極端面から出た磁力線104が励振コイル100を通過することなく、S極端面に入る磁力線のみが励振コイル100を通過することとなる。これにより、磁力部11A(永久磁石)には検査対象物の固体表面に向け前進する駆動力のみが作用し、有効な打撃を検査対象物の固体表面に与えることができる。
【0027】
上述のような駆動力発生原理から、磁力部11Aが励振コイル100内を走行する時間に相当するパルス長の直流電流で励振コイル100を励振することが、効率的な磁力部11Aの駆動となる。
【0028】
このようにして検査対象物の固体内に励振された振動は、空気中に音波を発生し、その音波が発生した点、即ち励振部10の打撃中心から距離rにある受信素子20a、20b、20c、20dで振動波形として受信する。受信素子20a、20b、20c、20dはコンデンサマイクロホン等の空中用受音器で構成されている。
【0029】
なお、本実施例では、検査対象物の固体内に励振された振動から生ずる音波を振動波形として、コンデンサマイクロホン等の空中用受音器で空気を媒体として受信した。しかし、検査対象物の固体内に励振された振動を圧電磁器センサで直接受信するように構成する事も可能である。この場合、検査対象物と圧電磁器センサとの間には、振動結合層として、油、水、軟質プラスチック、スライムなどの液体、固体あるいは半固体状の層を構成する必要がある。
【0030】
受信素子20a、20b、20c、20dで受信され、電気信号に変換された振動波形は、それぞれ信号処理部30a、30b、30c、30dに供給される。図6は、信号処理部30a、30b、30c、30dの構成の一例を示す機能ブロック図であり、これは、前段の増幅部31と、後段の濾波部32とから構成されている。前段の増幅部31では、微弱な信号が信号分析できるレベルまで増幅される。また、制御部60から供給される同期信号に同期して一定時間だけ増幅機能が有効になる。この結果、励振部10による再接触などによって後発的に発生することのある振動による不要な信号の処理を排除する。
【0031】
増幅部31は、受信素子20a、20b、20c、20dから出力される低周波の信号を忠実に増幅するために高い入力インピーダンスを有している。また、検査対象物のコンクリートなどの固体中の自由振動周波数は、通常10kHz以下であるため、濾波部32は10kHz以下の周波数の信号のみを通過させる低域通過特性を有している。また、この濾波部32は、300Hz以上の周波数の信号のみを高域通過特性を有し、50Hzのハムの混入を阻止する機能も有している。
【0032】
信号処理部30a、30b、30c、30dから供給される信号を処理する信号分析部40は、図7に示すように、A/D変換部41a、41b、41c、41d、信号記憶部42a、42b、42c、42d、および、演算部43から成る。
【0033】
A/D変換部41a、41b、41c、41dに供給されるアナログ信号は、100kHz以下のサンプリング周波数でディジタル信号に変換され、それぞれ、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶される。また、このA/D変換部41a、41b、41c、41dは、制御部60から供給される同期信号に同期して一定時間にわたるA/D変換処理を開始することにより、励振部10による再接触などによって後発的に発生する振動による不要な信号のディジタル化を排除する。
【0034】
演算部43は、信号記憶部42a、42b、42c、42dから読み出したディジタル信号に対して信号分析を行う。この信号分析は、先ず第1に相関処理が行われる。即ち前述したように、受信素子20a、20b、20c、20dは励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心に距離rの円周上に配置されているので、検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波は、受信素子20a、20b、20c、20dに同振幅、同位相で受信されることになる。一方、周囲の騒音は騒音音源の方向により、各受信素子に到達時間差を生じ、同時には受信されず、必ず時間差を持って受信される。従って、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶された4チャンネルのディジタル信号を相関処理することで、周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波を強調して抽出することができる。
【0035】
図8に、その相関処理の基本概念を示す。Mはディジタル掛算器であり、4チャンネルの入力A、B、C、Dには、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶された4チャンネルのディジタル信号が入力される。そして、その掛算結果が出力Eから出力されるようになっている。
【0036】
次に、相関処理の効果として、目的とする検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波が強調されて、騒音が低減される様子を図9を用いて説明する。なお、実施例ではディジタル信号で処理を行っているが、図9では視覚的に解かり易いようにアナログ波形で示している。図9のA、B、C、D、Eの各波形は図8の入力A、B、C、Dと出力Eにおける波形に対応している。検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波は、各受信素子20a、20b、20c、20dが励振部10の打撃中心から等距離rにあるので、同振幅、同位相の波形であり、相関処理をすることでE波形の信号Sのように振幅値が4倍に増幅される。しかし、周囲の騒音は、各受信素子20a、20b、20c、20dに対して到来時間差が生じ、時間差または位相差を持つ波形となるので、相関処理をすることでE波形の信号Nのように互いに打ち消し合い抑圧されることになる。
【0037】
このようにして、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波は増幅され、周囲の騒音は抑圧され、S/N比が高くなる。このS/N比が高くなった音波は、次に検査対象物の固体の特徴抽出を行うために、演算部43で信号分析が行われる。この信号分析にはフーリエ変換が使用される。
【0038】
本発明者は、振動特性の分析の、他の手法として、線形予測の手法が好適であることを見い出した。この線形予測法は全極モデルであり、受信信号が各共振モードに分解される。この線形予測法は、コンクリート内の自由振動のような複数の固有振動の合成によって構成される固体中の振動特性を分析し、その特徴を抽出するのに最適の分析手法である。
【0039】
本発明者は、また、この線形予測分析の最大次数は、コンクリートの診断においては、通常、200次程度で十分であることを見い出した。さらに、検査対象物の次数の推定は、赤池の情報規範(AIC)によって自動判定され、通常のコンクリ−ト診断においては、平均50程度であることも、本発明によって明らかになった。
【0040】
線形予測法においては、過去の受信信号Xn−Mから現在の受信信号Xnの予測値X n が算定される。ここで、
であり、εnは予測誤差雑音である。
【0041】
この関係は行列形式において、
【0042】
(1)式の両辺にX行列を乗算することにより、次式を得る。
となり、相関行列Rおよび相関ベクトルrに関する以下の関係となる。
【0043】
【0044】
(4)式を解くことにより、未知数である予測係数anが求まる。このような線形予測を用いるスペクトル分析の処理の全体を図10に示す。図10に示した入力信号Xnを出力信号εnに変換する処理の伝達関数F(z)は、z変換により、
F(z)=1−(a1z− 1+a2z−2+・・+aMz−M) …(5)
として与えられる。ここで、出力εnは予測誤差雑音であり、一様分布スペクトルであるため、この伝達特性F(z)は入力信号Xnの周波数特性の逆特性となっている。
【0045】
従って入力信号Xnの周波数特性X(z)は、
X(z)
=1/F(z)
=1/〔1−(a1z− 1+a2z−2+・・・+aMz−M)〕 …(6)
として与えられる。
【0046】
このように、線形予測法を使用すると、受信信号の周波数特性X(z)が得られるが、この関数の分母の根を算定することにより、さらに、各固有振動数の周波数とその共振時のQ値を得ることができる。X(z)の分母を0とする方程式の根をbnとすると、
X(z)
=1/〔(1−b1z− 1)(1−b1 *z− 1)(1−b2z− 1)(1−b2 *z− 1)
・・・(1−bM/2z− 1)(1−bM/2 *z− 1)〕 …(7)
であり、それぞれの根がそれぞれの共振点に対応する。
【0047】
このbn=zなる関係からそれぞれの固有振動数の周波数とその共振におけるQ値が算定される。これらの値は、固体中の状況に直接対応した値であり、固体対象物の良否判定における最も有用な指数である。このような共振分析処理も、信号分析部40内の演算部43で行われる。
【0048】
図1の制御部60は、図11に例示するように、制御信号発生部61で構成されている。制御信号発生部61は、図1の励振部10と信号処理部30a、30b、30c、30dと信号分析部40の同期動作を制御する制御信号を発生し、それぞれに供給する。
【0049】
図12は、診断出力部50の構成を示すブロック図である。この診断出力部50は、判定部51、判定条件設定部52、画像出力部53、および音声出力部54を備えている。判定部51では、前段の信号分析部40から供給される信号分析結果と、判定条件設定部52で設定中の設定内容とを比較することによって良否の判定を行う。この判定は、制御部60からの制御信号に同期して行われ、判定結果は、画像出力部53や、音声出力部54から出力される。
【0050】
図13は、大きさ30cm×30cm、厚さ5cm、のコンクリート板を検査対象物として選択し、この実施例の構成により、計測期間中は励振部が固体表面から離れるようにして励振し、この励振に同期して信号を受信した場合の波形(A)と、励振部10の構成を変更することにより圧迫部11Cが再度コンクリート板に接触するように励振すると共に、制御部から供給される同期信号から所定時間経過した後も信号処理部30a、30b、30c、30dや信号分析部40を機能させた場合の信号波形(B)とを例示している。
【0051】
図13(A)の波形をFFT(高速フ−リエ変換)した場合の、周波数スペクトルは図14(A)に示すようになり、特徴的な鋭いスペクトルが明瞭に観察される。一方、図13(B)の波形をFFTした場合の周波数スペクトルは図14(B)に示すようになり、対象の特徴を明瞭には示さない複雑なスペクトルとなる。このことから、本発明の構成によって、計測期間中は励振部が固体の表面から離れるように自由振動励振し、この励振に同期して自由振動を受信することにより、対象の固体の特徴抽出が行われることになる。
【0052】
図14の(A)に示すような信号分析によって抽出された特徴的なスペクトルが、良品と不良品の双方について、判定条件設定部52を通して判定部51に登録される。判定部51は、検査対象物から線形予測法に従って抽出されたスペクトルを登録中のスペクトルと比較し、これが登録中の良品のスペクトルと類似していれば、良品の判定結果を出力し、これが登録中の不良品のそれと類似していれば不良品の判定結果を出力する。
【0053】
以上、FFTを適用する構成による結果を例示した。しかしながら、このFFTは、線形予測法あるいはこれと類似する最大エントロピ−法、ARMA法、パーコール分析法など他の手法により代用することも当然可能である。
【0054】
また、受信した振動の特性を分析し、良否の診断結果を出力する構成を例示した。しかしながら、周波数スペクトルなど振動の特性の分析結果をそのまま表示装置などに出力し、この表示データを検査作業者が目視によって検査することにより良否を診断するという構成を採用することもできる。
【0055】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係わる固体内部の振動検査装置は、励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心として等距離に受信素子20a、20b、20c、20dが配置されているので、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波は同時に到来して、各受信素子20a、20b、20c、20dでの受信信号は同位相、同振幅の信号となる。一方、周囲の騒音は各受信素子に対して到来時間差が生ずるので、位相差を持った受信信号となる。それら複数の受信素子で受信した信号を相関処理することで、周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波を強調して抽出することができる構成であるから、騒音のある現場での検査精度が向上するという効果が奏される。
【0056】
また、本発明の振動検査装置は、磁力を利用して検査対象物の固体表面を短時間だけ接触打撃することによりその内部に自由振動を励振する構成であるから、従来のエアシリンダなどを使用する低速の打撃手段を用いて励振する場合に比べて、励振機構に影響されない高確度の診断が可能となるという利点がある。
【0057】
また、本発明の好適な実施の形態によれば、予め抽出された登録された良品と不良品の振動の特性と比較することなどによって良否の判定結果が出力される構成であるから、作業者の熟練を要することなく、客観的な判定が可能になるという利点がある。
【0058】
また、本発明の他の好適な実施の形態によれば、診断出力部は、受信部が受信した振動を線形予測法などを利用して分析し検査結果として出力する構成であるから、共振周波数と共振のQ値とを簡単に算定できるという線形予測法の特徴を活かすことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係わる固体内部の振動検査装置の構成を検査対象物の固体と共に示す機能ブロック図である。
【図2】図1の励振部と受信素子配置の詳細の一例を示す俯瞰図である。
【図3】図1の励振部の構成の一例と動作を示す断面図である。
【図4】図1の励振部に供給する駆動電流波形の一例を示す波形図である。
【図5】図1の励振部の駆動動作を説明する図である。
【図6】図1の信号処理部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図7】図1の信号分析部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図8】図7の演算部での相関処理を示す機能ブロック図である。
【図9】図7の演算部での相関処理を示す波形図である。
【図10】図1の信号分析部が行う線形予測法に基づく信号処理を回路によって表現した図である。
【図11】図1の制御部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図12】図1の診断出力部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図13】図1の励振部によって励振した振動波形の一例を示す波形図である。
【図14】図13の波形をFFTして得た周波数スペクトルである。
【符号の説明】
10 励振部
11 駆動部
11A 磁力部
11B 駆動部材部
11C 圧迫部
12 駆動部保持キャップ
13 引張スプリング
14 リード線
20 受信部
20a、20b、20c、20d 受信素子
30a、30b、30c、30d 信号処理部
31 増幅部
32 濾波部
40 信号分析部
41a、41b、41c、41d A/D変換部
42a、42b、42c、42d 信号記憶部
43 演算部
50 診断出力部
51 判定部
52 判定条件設定部
53 画像出力部
54 音声出力部
60 制御部
61 制御信号発生部
100 励振コイル
【発明が属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物の内部診断などに利用される固体内部の振動検査装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンクリート構造物の劣化が問題になっており、その内部の診断が必要とされている。従来、コンクリート内部の診断手法として、超音波を利用する方法が種々提案されてきた。特開平7−20097号公報には、エアーシリンダを使用したハンマでコンクリート製品を軽打し、この時発生する音波の音圧レベルを騒音計で検出して良品か欠陥品かを判別する方法が開示されている。
【0003】
また、特開2000−2692号公報には、コンクリート構造物の内部に超音波を入射し、伝搬する超音波をこの構造物の表面に接触させた加速度計を用いて受信し、この受信した超音波の周波数スペクトルを分析することによってコンクリート構造物の内部の空洞の発生の有無を検査する方法が開示されている。この方法では、鋼球を所定の高さから被検査対象物の表面に落下させることによって超音波を入射させている。
【0004】
また、出願人の先願である特願2001−366719号には、磁気射出方式による励振部を用いてコンクリート構造物の表面を打撃し、この時発生する音波をマイクロホン等で受信し、その信号を線形予測法によって分析し、コンクリート構造物の良、不良を診断する方法が開示されている。この方法では、磁気射出方式による励振部を用いて鋼球落下方式の欠点である鋼球のバウンドによる検査精度の低下を防止している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のコンクリート構造物の診断方法では、コンクリート構造物の表面を打撃し、この時に発生した音波をマイクロホン等で受信する際に、発生した音波以外の音波、即ち周囲の騒音を受信することがあり、検査精度が低下するという問題が生じる。従って、本発明の目的は周囲の騒音の影響を排除し、コンクリート構造物の検査精度を高めることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明では、検査対象物の固体中に振動を発生させる励振部と、この固体中の振動を受信して電気信号に変換する受信部と、この受信部が受信した振動の処理を行なう信号分析部と、検査結果を出力する診断出力部と、前記各部を制御する制御部とを備え、前記受信部は、前記励振部の周りに配置した複数の受信素子で構成されている。
【0007】
次に、請求項2の発明では、受信部は、励振部の打撃中心から等距離に受信素子を配置した構成としている。
【0008】
また、請求項3の発明では、信号分析部は、各受信素子が受信した振動の相関処理を行なうよう構成されている。
【0009】
また、請求項4の発明では、励振部は、磁力を利用して固体表面に衝突しその反作用により固体表面と分離する駆動部を有し、この駆動部の衝突分離動作により固体内部に自由振動を励振するよう構成されている。
【0010】
また、請求項5の発明では、励振部は、鋼材等の接触部が、固体を打撃することによりその内部に自由振動を励振するよう構成されている。
【0011】
また、請求項6の発明では、信号分析部は、受信部が受信した振動を線形予測法によって分析し、共振周波数と共振のQ値とに基づいて振動特性を検査するよう構成されている。
【0012】
また、請求項7の発明では、検査結果は、良品又は不良品のうちの少なくとも一つを含む診断結果として出力されるよう構成されている。
【0013】
また、請求項8の発明では、検査は、予め抽出され登録された良品と不良品の振動の特性と信号分析部が分析した振動の特性とを比較することによって行われるよう構成されている。
【0014】
また、請求項9の発明では、受信部は液体、固体、半固体状または気体の層を介在させながら検査対象物の固体の振動を受信するよう構成されている。
【0015】
また、請求項10の発明では、励振部は、少なくとも永久磁石と励振コイルとを具備し、永久磁石が駆動部の磁力部材部を構成している。
【0016】
また、請求項11の発明では、励振コイルを駆動する駆動電流は、単一パルス波形からなる直流パルス電流であるよう構成されている。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例である固体内部の振動検査装置の全体構成を、斜線を付した検査対象物と共に示す機能ブロック図である。10は励振部であり、20は受信部、30a、30b、30c、30dは信号処理部、40は信号分析部であり、50は診断出力部、60は制御部である。
【0018】
図2は、図1の励振部10と受信部の受信素子20a、20b、20c、20dの配置を示す。この図は励振部10と受信素子20a、20b、20c、20d及び検査対象物を上から俯瞰した図であり、励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心として距離rの円周上に受信素子20a、20b、20c、20dが、等距離間隔で配置されている。
【0019】
図3は、図1中の励振部10の実施例を示す断面図であり、11は駆動部、12は駆動部保持キャップ、13は引張スプリング、14はリード線、11Aは磁力部、11Bは駆動部材部、11Cは圧迫部、100は励振コイルである。
【0020】
駆動部11は、上述のように磁力部11A、駆動部材部11Bと圧迫部11Cとで構成されている。
磁力部11Aの好適な一例として、永久磁石が、また他の好適な例として、電磁石などが使用可能である。
駆動部材部11B及び圧迫部11Cは、検査対象物より硬い材質である鋼材等により構成されている。
【0021】
図4は、磁力部11Aが、永久磁石により構成されている場合の励振コイル100に、リード線14を介して供給される駆動電流波形の一例を示す波形図である。この駆動電流は、単一パルス波形からなる。最も強い駆動を行うものとして、図4に例示するように、永久磁石が励振コイル内を走行する時間に相当する時間長tの直流パルス電流で励振するのが最適である。駆動電流波形のパルス幅tは、t=l/vとなる。ここでlは、永久磁石が励振コイル内を走行する距離、vは、永久磁石の走行速度である。
【0022】
再び図3に戻る。図3(A)に示すような初期状態において、駆動部11は検査対象物の固体表面から離れて静止し、励振コイル100に、リード線14を介して、図4に例示したような波形の駆動電流が供給されると、駆動部11が検査対象物の固体表面に向け急激に前進し、検査対象物の固体は駆動部11に押される。これにより、図3(B)に示すように、駆動部11によって検査対象物の固体は変形する。
【0023】
続いて、図3(C)に示すように、駆動部11は、検査対象物の固体からの反発力によって上昇し、次いで引張スプリング13の伸張する圧力により、図3(A)に示すような初期状態に復元される。駆動部11が短時間に検査対象物の固体表面から離れることにより、これが検査対象物の固体内に励振された振動の負荷として作用することがなくなり、検査対象物の固体内に負荷の影響を受けない自由振動が励振される。
【0024】
励振コイル100に印加された駆動電流により駆動部11が検査対象物の固体表面に向け前進する原理を図5により説明する。ここで、104は、永久磁石(磁力部)11Aによる磁力線である。A点において、磁界はHA方向、励振コイル100に流れる電流は、紙面に対して垂直上方方向であることから、この電流に働く力は、矢印101の方向である。一方、B点においては、磁界はHB方向、励振コイル100に流れる電流は、紙面に対して垂直下方方向であることから、この電流に働く力は、矢印102の方向でA点における電流に働く力101の方向と同一である。
【0025】
これら電流に働く力の反作用が磁力部11Aを動かす駆動力となることから、この駆動力の方向は、矢印103の方向となる。これにより磁力部11Aは検査対象物の固体表面に向け前進する。ここで、図5に示すように、磁力部11A(永久磁石)のN極端面が励振コイル100の端面とほぼ一致するように配置する。また、磁力部11A(永久磁石)のS極端面が励振コイル100の内部に含まれるように配置する。
【0026】
このように、励振コイル100と磁力部11Aとを非対称的に配置することにより、磁力部11A(永久磁石)のN極端面から出た磁力線104が励振コイル100を通過することなく、S極端面に入る磁力線のみが励振コイル100を通過することとなる。これにより、磁力部11A(永久磁石)には検査対象物の固体表面に向け前進する駆動力のみが作用し、有効な打撃を検査対象物の固体表面に与えることができる。
【0027】
上述のような駆動力発生原理から、磁力部11Aが励振コイル100内を走行する時間に相当するパルス長の直流電流で励振コイル100を励振することが、効率的な磁力部11Aの駆動となる。
【0028】
このようにして検査対象物の固体内に励振された振動は、空気中に音波を発生し、その音波が発生した点、即ち励振部10の打撃中心から距離rにある受信素子20a、20b、20c、20dで振動波形として受信する。受信素子20a、20b、20c、20dはコンデンサマイクロホン等の空中用受音器で構成されている。
【0029】
なお、本実施例では、検査対象物の固体内に励振された振動から生ずる音波を振動波形として、コンデンサマイクロホン等の空中用受音器で空気を媒体として受信した。しかし、検査対象物の固体内に励振された振動を圧電磁器センサで直接受信するように構成する事も可能である。この場合、検査対象物と圧電磁器センサとの間には、振動結合層として、油、水、軟質プラスチック、スライムなどの液体、固体あるいは半固体状の層を構成する必要がある。
【0030】
受信素子20a、20b、20c、20dで受信され、電気信号に変換された振動波形は、それぞれ信号処理部30a、30b、30c、30dに供給される。図6は、信号処理部30a、30b、30c、30dの構成の一例を示す機能ブロック図であり、これは、前段の増幅部31と、後段の濾波部32とから構成されている。前段の増幅部31では、微弱な信号が信号分析できるレベルまで増幅される。また、制御部60から供給される同期信号に同期して一定時間だけ増幅機能が有効になる。この結果、励振部10による再接触などによって後発的に発生することのある振動による不要な信号の処理を排除する。
【0031】
増幅部31は、受信素子20a、20b、20c、20dから出力される低周波の信号を忠実に増幅するために高い入力インピーダンスを有している。また、検査対象物のコンクリートなどの固体中の自由振動周波数は、通常10kHz以下であるため、濾波部32は10kHz以下の周波数の信号のみを通過させる低域通過特性を有している。また、この濾波部32は、300Hz以上の周波数の信号のみを高域通過特性を有し、50Hzのハムの混入を阻止する機能も有している。
【0032】
信号処理部30a、30b、30c、30dから供給される信号を処理する信号分析部40は、図7に示すように、A/D変換部41a、41b、41c、41d、信号記憶部42a、42b、42c、42d、および、演算部43から成る。
【0033】
A/D変換部41a、41b、41c、41dに供給されるアナログ信号は、100kHz以下のサンプリング周波数でディジタル信号に変換され、それぞれ、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶される。また、このA/D変換部41a、41b、41c、41dは、制御部60から供給される同期信号に同期して一定時間にわたるA/D変換処理を開始することにより、励振部10による再接触などによって後発的に発生する振動による不要な信号のディジタル化を排除する。
【0034】
演算部43は、信号記憶部42a、42b、42c、42dから読み出したディジタル信号に対して信号分析を行う。この信号分析は、先ず第1に相関処理が行われる。即ち前述したように、受信素子20a、20b、20c、20dは励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心に距離rの円周上に配置されているので、検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波は、受信素子20a、20b、20c、20dに同振幅、同位相で受信されることになる。一方、周囲の騒音は騒音音源の方向により、各受信素子に到達時間差を生じ、同時には受信されず、必ず時間差を持って受信される。従って、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶された4チャンネルのディジタル信号を相関処理することで、周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波を強調して抽出することができる。
【0035】
図8に、その相関処理の基本概念を示す。Mはディジタル掛算器であり、4チャンネルの入力A、B、C、Dには、信号記憶部42a、42b、42c、42dに記憶された4チャンネルのディジタル信号が入力される。そして、その掛算結果が出力Eから出力されるようになっている。
【0036】
次に、相関処理の効果として、目的とする検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波が強調されて、騒音が低減される様子を図9を用いて説明する。なお、実施例ではディジタル信号で処理を行っているが、図9では視覚的に解かり易いようにアナログ波形で示している。図9のA、B、C、D、Eの各波形は図8の入力A、B、C、Dと出力Eにおける波形に対応している。検査対象物の固体内に励振された振動によって生ずる音波は、各受信素子20a、20b、20c、20dが励振部10の打撃中心から等距離rにあるので、同振幅、同位相の波形であり、相関処理をすることでE波形の信号Sのように振幅値が4倍に増幅される。しかし、周囲の騒音は、各受信素子20a、20b、20c、20dに対して到来時間差が生じ、時間差または位相差を持つ波形となるので、相関処理をすることでE波形の信号Nのように互いに打ち消し合い抑圧されることになる。
【0037】
このようにして、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波は増幅され、周囲の騒音は抑圧され、S/N比が高くなる。このS/N比が高くなった音波は、次に検査対象物の固体の特徴抽出を行うために、演算部43で信号分析が行われる。この信号分析にはフーリエ変換が使用される。
【0038】
本発明者は、振動特性の分析の、他の手法として、線形予測の手法が好適であることを見い出した。この線形予測法は全極モデルであり、受信信号が各共振モードに分解される。この線形予測法は、コンクリート内の自由振動のような複数の固有振動の合成によって構成される固体中の振動特性を分析し、その特徴を抽出するのに最適の分析手法である。
【0039】
本発明者は、また、この線形予測分析の最大次数は、コンクリートの診断においては、通常、200次程度で十分であることを見い出した。さらに、検査対象物の次数の推定は、赤池の情報規範(AIC)によって自動判定され、通常のコンクリ−ト診断においては、平均50程度であることも、本発明によって明らかになった。
【0040】
線形予測法においては、過去の受信信号Xn−Mから現在の受信信号Xnの予測値X n が算定される。ここで、
であり、εnは予測誤差雑音である。
【0041】
この関係は行列形式において、
【0042】
(1)式の両辺にX行列を乗算することにより、次式を得る。
となり、相関行列Rおよび相関ベクトルrに関する以下の関係となる。
【0043】
【0044】
(4)式を解くことにより、未知数である予測係数anが求まる。このような線形予測を用いるスペクトル分析の処理の全体を図10に示す。図10に示した入力信号Xnを出力信号εnに変換する処理の伝達関数F(z)は、z変換により、
F(z)=1−(a1z− 1+a2z−2+・・+aMz−M) …(5)
として与えられる。ここで、出力εnは予測誤差雑音であり、一様分布スペクトルであるため、この伝達特性F(z)は入力信号Xnの周波数特性の逆特性となっている。
【0045】
従って入力信号Xnの周波数特性X(z)は、
X(z)
=1/F(z)
=1/〔1−(a1z− 1+a2z−2+・・・+aMz−M)〕 …(6)
として与えられる。
【0046】
このように、線形予測法を使用すると、受信信号の周波数特性X(z)が得られるが、この関数の分母の根を算定することにより、さらに、各固有振動数の周波数とその共振時のQ値を得ることができる。X(z)の分母を0とする方程式の根をbnとすると、
X(z)
=1/〔(1−b1z− 1)(1−b1 *z− 1)(1−b2z− 1)(1−b2 *z− 1)
・・・(1−bM/2z− 1)(1−bM/2 *z− 1)〕 …(7)
であり、それぞれの根がそれぞれの共振点に対応する。
【0047】
このbn=zなる関係からそれぞれの固有振動数の周波数とその共振におけるQ値が算定される。これらの値は、固体中の状況に直接対応した値であり、固体対象物の良否判定における最も有用な指数である。このような共振分析処理も、信号分析部40内の演算部43で行われる。
【0048】
図1の制御部60は、図11に例示するように、制御信号発生部61で構成されている。制御信号発生部61は、図1の励振部10と信号処理部30a、30b、30c、30dと信号分析部40の同期動作を制御する制御信号を発生し、それぞれに供給する。
【0049】
図12は、診断出力部50の構成を示すブロック図である。この診断出力部50は、判定部51、判定条件設定部52、画像出力部53、および音声出力部54を備えている。判定部51では、前段の信号分析部40から供給される信号分析結果と、判定条件設定部52で設定中の設定内容とを比較することによって良否の判定を行う。この判定は、制御部60からの制御信号に同期して行われ、判定結果は、画像出力部53や、音声出力部54から出力される。
【0050】
図13は、大きさ30cm×30cm、厚さ5cm、のコンクリート板を検査対象物として選択し、この実施例の構成により、計測期間中は励振部が固体表面から離れるようにして励振し、この励振に同期して信号を受信した場合の波形(A)と、励振部10の構成を変更することにより圧迫部11Cが再度コンクリート板に接触するように励振すると共に、制御部から供給される同期信号から所定時間経過した後も信号処理部30a、30b、30c、30dや信号分析部40を機能させた場合の信号波形(B)とを例示している。
【0051】
図13(A)の波形をFFT(高速フ−リエ変換)した場合の、周波数スペクトルは図14(A)に示すようになり、特徴的な鋭いスペクトルが明瞭に観察される。一方、図13(B)の波形をFFTした場合の周波数スペクトルは図14(B)に示すようになり、対象の特徴を明瞭には示さない複雑なスペクトルとなる。このことから、本発明の構成によって、計測期間中は励振部が固体の表面から離れるように自由振動励振し、この励振に同期して自由振動を受信することにより、対象の固体の特徴抽出が行われることになる。
【0052】
図14の(A)に示すような信号分析によって抽出された特徴的なスペクトルが、良品と不良品の双方について、判定条件設定部52を通して判定部51に登録される。判定部51は、検査対象物から線形予測法に従って抽出されたスペクトルを登録中のスペクトルと比較し、これが登録中の良品のスペクトルと類似していれば、良品の判定結果を出力し、これが登録中の不良品のそれと類似していれば不良品の判定結果を出力する。
【0053】
以上、FFTを適用する構成による結果を例示した。しかしながら、このFFTは、線形予測法あるいはこれと類似する最大エントロピ−法、ARMA法、パーコール分析法など他の手法により代用することも当然可能である。
【0054】
また、受信した振動の特性を分析し、良否の診断結果を出力する構成を例示した。しかしながら、周波数スペクトルなど振動の特性の分析結果をそのまま表示装置などに出力し、この表示データを検査作業者が目視によって検査することにより良否を診断するという構成を採用することもできる。
【0055】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係わる固体内部の振動検査装置は、励振部10、即ち検査対象物を打撃する点を中心として等距離に受信素子20a、20b、20c、20dが配置されているので、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波は同時に到来して、各受信素子20a、20b、20c、20dでの受信信号は同位相、同振幅の信号となる。一方、周囲の騒音は各受信素子に対して到来時間差が生ずるので、位相差を持った受信信号となる。それら複数の受信素子で受信した信号を相関処理することで、周囲の騒音を低減し、検査対象物の固体内に励振された振動によって生じた音波を強調して抽出することができる構成であるから、騒音のある現場での検査精度が向上するという効果が奏される。
【0056】
また、本発明の振動検査装置は、磁力を利用して検査対象物の固体表面を短時間だけ接触打撃することによりその内部に自由振動を励振する構成であるから、従来のエアシリンダなどを使用する低速の打撃手段を用いて励振する場合に比べて、励振機構に影響されない高確度の診断が可能となるという利点がある。
【0057】
また、本発明の好適な実施の形態によれば、予め抽出された登録された良品と不良品の振動の特性と比較することなどによって良否の判定結果が出力される構成であるから、作業者の熟練を要することなく、客観的な判定が可能になるという利点がある。
【0058】
また、本発明の他の好適な実施の形態によれば、診断出力部は、受信部が受信した振動を線形予測法などを利用して分析し検査結果として出力する構成であるから、共振周波数と共振のQ値とを簡単に算定できるという線形予測法の特徴を活かすことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係わる固体内部の振動検査装置の構成を検査対象物の固体と共に示す機能ブロック図である。
【図2】図1の励振部と受信素子配置の詳細の一例を示す俯瞰図である。
【図3】図1の励振部の構成の一例と動作を示す断面図である。
【図4】図1の励振部に供給する駆動電流波形の一例を示す波形図である。
【図5】図1の励振部の駆動動作を説明する図である。
【図6】図1の信号処理部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図7】図1の信号分析部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図8】図7の演算部での相関処理を示す機能ブロック図である。
【図9】図7の演算部での相関処理を示す波形図である。
【図10】図1の信号分析部が行う線形予測法に基づく信号処理を回路によって表現した図である。
【図11】図1の制御部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図12】図1の診断出力部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図13】図1の励振部によって励振した振動波形の一例を示す波形図である。
【図14】図13の波形をFFTして得た周波数スペクトルである。
【符号の説明】
10 励振部
11 駆動部
11A 磁力部
11B 駆動部材部
11C 圧迫部
12 駆動部保持キャップ
13 引張スプリング
14 リード線
20 受信部
20a、20b、20c、20d 受信素子
30a、30b、30c、30d 信号処理部
31 増幅部
32 濾波部
40 信号分析部
41a、41b、41c、41d A/D変換部
42a、42b、42c、42d 信号記憶部
43 演算部
50 診断出力部
51 判定部
52 判定条件設定部
53 画像出力部
54 音声出力部
60 制御部
61 制御信号発生部
100 励振コイル
Claims (11)
- 検査対象物の固体中に振動を発生させる励振部と、この固体中の振動を受信して電気信号に変換する受信部と、この受信部が受信した振動の処理を行なう信号分析部と、検査結果を出力する診断出力部と、前記各部を制御する制御部とを備え、前記受信部は、前記励振部の周りに配置した複数の受信素子で構成されたことを特徴とする固体内部の振動検査装置。
- 請求項1において、
前記受信部は、前記励振部の打撃中心から等距離に受信素子を配置したことを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至2のそれぞれにおいて、
前記信号分析部は、前記各受信素子が受信した振動の相関処理を行なうことをを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至3のそれぞれにおいて、
前記励振部は、磁力を利用して前記固体表面に衝突しその反作用により前記固体表面と分離する駆動部を有し、この駆動部の衝突分離動作により前記固体内部に自由振動を励振する手段を備えたことを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至4のそれぞれにおいて、
前記励振部は、鋼材等の接触部が、前記固体を打撃することによりその内部に自由振動を励振することを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至5のそれぞれにおいて、
前記信号分析部は、前記受信部が受信した振動を線形予測法によって分析し、共振周波数と共振のQ値とに基づいて振動特性を検査する手段を備えたことを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至6のそれぞれにおいて、
前記検査結果は、良品又は不良品のうちの少なくとも一つを含む診断結果として出力されることを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項6において、
前記検査は、予め抽出され登録された良品と不良品の振動の特性と前記信号分析部が分析した振動の特性とを比較することによって行われることを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至8のそれぞれにおいて、
前記受信部は液体、固体、半固体状または気体の層を介在させながら前記検査対象物の固体の振動を受信することを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項1乃至9のそれぞれにおいて、
前記励振部は、少なくとも永久磁石と励振コイルとを具備し、当該永久磁石が前記駆動部の磁力部材部を構成することを特徴とする固体内部の振動検査装置。 - 請求項10において、
前記励振コイルを駆動する駆動電流は、単一パルス波形からなる直流パルス電流であることを特徴とする固体内部の振動検査装置。
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