JP2004099998A - 電動機固定子用の電磁鋼板および分割型電動機固定子 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の方向性電磁鋼板に比べて磁区幅を狭くし、特に高周波域での固定子鉄損の増加を抑えることにより、高効率かつ高トルクが得られる電動機固定子用の電磁鋼板を提供する。
【解決手段】方向性電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素をめっきすると共に、該鋼板の圧延方向(L方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(L) を 1.7T以上とし、かつ圧延直角方向(C方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(C)とB10(L) との比B10(C) /B10(L) を0.75≦B10(C)/B10(L) ≦1.0 の範囲に制御する。
【選択図】 図2
【解決手段】方向性電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素をめっきすると共に、該鋼板の圧延方向(L方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(L) を 1.7T以上とし、かつ圧延直角方向(C方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(C)とB10(L) との比B10(C) /B10(L) を0.75≦B10(C)/B10(L) ≦1.0 の範囲に制御する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機固定子用の電磁鋼板およびそれを用いた分割型電動機固定子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電動機の固定子材料としては、磁気特性がほば等方的な磁性材料が使用されていて、特に無方向性電磁鋼板が広く採用されている。この理由は、図1に示すように、電動機の固定子(ステータ)1は、通常、円環状のコアバック部2と放射状のティース部3から構成されるが、このようなコアバック部2とティース部3が一体となった形状を鋼板から打ち抜き、積層することにより構成されてきたからである。
【0003】
近年、モータの小型化や銅損低減のために、巻き線の占積率を向上させたり、銅損低減を目的として巻き線方式にいわゆる集中巻きを用いるモータがある。
一体に打ち抜いたタイプの固定子では、このような巻き線作業をティース部とティース部との隙間から行わなければならないため、作業効率が極めて悪い。
そこで、巻き線作業を容易にするために、固定子をティース部ごとに分割し、巻き線を施した後に組み上げることにより、上記した一体打ち抜き形状の固定子と同一形状に組み上げる方法が考案されている。
【0004】
上記したような分割型の固定子を採用することにより、従来は磁気特性とくにその異方性の面から適用が不可能であった方向性電磁鋼板を、固定子材料として採用できるようになった。例えば、ティース方向を方向性電磁鋼板の磁気特性の良好な方向すなわち圧延方向に揃えることにより、鉄損を低減するといった工夫がなされている(特許文献1)。
【0005】
一方、近年、ハイブリッド自動車の普及に見られるように、内燃機関に代わって電動機が自動車の駆動源となりつつある。かような自動車に搭載する電動機は、エンジンルームやホイールの中に納められるために、電動機の外径をできるだけ小さくしつつ、十分なトルクを得るという課題が課せられている。
【0006】
大きなトルクが得られる電動機を作製するための一つの方法として、分割型固定子とし、その素材として方向性電磁鋼板を使用することが挙げられる。
また、大きなトルクを得るためのもう一つの方法として、コアバックの幅を狭くするという方法がある。しかしながら、この方法では、コアバックの幅を狭くすることによってコアバックを流れる磁束密度が増大するため、固定子鉄損が大きくなってしまい、モータ効率が低下するという問題が生じる。
この固定子鉄損の増加は、無方向性電磁鋼板よりも方向性電磁鋼板で顕著に現れるため、従来の方向性電磁鋼板では、後者の方法を用いることは困難であった。
【0007】
また、方向性電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板に比べて製品板の結晶粒径がかなり大きくなる。このため、方向性電磁鋼板の磁区幅も無方向性電磁鋼板と比べると非常に大きくなって渦電流損が増大する。その結果、自動車用モータ等の周波数が高い状態で使用した場合には、鉄損が急激に増大する。
さらに、電動機固定子に流れる磁束には高調波の影響があり、見かけの周波数の何倍も高い周波数成分による渦電流損の増大が問題となる。
以上の点から、方向性電磁鋼板を電動機固定子素材として用いる場合には、磁区幅を狭くして渦電流損失の増大を防ぐ必要がある。
【0008】
一方で方向性電磁鋼板は、通常、鋼板表面にフォルステライトと呼ばれるセラミックス被膜が被覆されている点において、無方向性電磁鋼板と異なっている。すなわち、二次再結晶粒を生じさせるためおよび二次再結晶に必要なインヒビター成分であるS,Se,Al,Nなどを純化するために、高温焼純が必要であり、そのためコイル状に巻き取って焼鈍する際の鋼板同士の融着を防止するために焼純分離剤が用いられている。その結果、脱炭焼鈍時に鋼板表面に形成されるSiO2と焼鈍分離剤として用いられるMgOが反応して、フォルステライト被膜が形成される。
このフォルステライト被膜とその上に形成される絶縁張力コーティングにより鋼板に与えられる張力効果によって、磁区が細分化され、鉄損の向上が図られている。
しかしながら、高周波域での使用においては、前記した高調波の影響が強くなるため、鉄損の低減は未だ不十分であった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−149726号公報(特許請求の範囲)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、電動機固定子に用いる場合に、従来の方向性電磁鋼板に比べて磁区幅を狭くし、特に高周波域での固定子鉄損の増加を抑えることにより、高効率かつ高トルクが得られる電動機固定子用の電磁鋼板を、かかる電磁鋼板を用いた分割型電動機固定子と共に提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、固定子で発生する鉄損特に高い周波数においてより大きく増加する渦電流損を低減するための方法について鋭意検討を重ねた結果、
(1) 方向性電磁鋼板の磁区幅が無方向性電磁鋼板に比べて広いことが、鉄損劣化の主たる原因である、
(2) この問題を解消するためには、電磁鋼板の表面に鉄の金属結合半径よりもある程度大きいかまたは小さい金属元素のめっき層を被覆することが有効である
ことの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Si:2.0 〜8.0 mass%を含有する方向性電磁鋼板であって、その表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素のめっき層を有し、かつ該鋼板の最も磁気特性の良い圧延方向(L方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(L) が 1.7T以上でかつ、上記L方向から90°離れた方向(C方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(C) とB10(L) との比B10(C) /B10(L) が0.75≦B10(C)/B10(L) ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
【0013】
2.上記1において、電磁鋼板の表面にめっきする金属元素が、Cr,Ni,CuおよびZnうちから選んだいずれか一種または二種以上であることを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
【0014】
3.上記1または2に記載した電磁鋼板をT字型に分割した部品を組み合わせて構成される分割型電動機固定子であって、コアバック部の幅(Y)とティース部の幅 (Th)との比Y/Th が 0.5≦Y/Th ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする分割型電動機固定子。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
さて、本発明では、電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を金属元素をめっきする。
というのは、かような金属元素をめっきすることによって、めっきされた金属は、後述の歪取り焼鈍中に鋼板の地鉄中に拡散していく。この時に、めっきされた金属は、鋼板の表層部で濃度が高く、中心部に向かうに従って濃度が低くなり、鋼板中にめっきされた金属の濃度勾配が形成される。これにより、鋼板の表層部と中心部で、地鉄に格子定数の違いが生じて歪が発生し、この歪により電磁鋼板の磁区幅が効果的に小さくなるのである。
【0016】
ここに、電磁鋼板の表面にめっきする金属元素として、金属結合半径が鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さいものとした理由は、次のとおりである。
すなわち、上述したように、濃度勾配により地鉄の格子定数を変化させるためには、めっきする金属と鉄との金属結合半径に差を設けることが必要である。そして、種々の金属のめっきにより、磁区幅を狭くして所望の鉄損改善効果を得るための条件を鋭意調査した結果、めっきする金属と鉄との金属結合半径に0.02Å以上の差が必要であることが分かったのである。
なお、かような金属元素としては、Cr,Ni,Cu,Zn等がとりわけ有利に適合する。
【0017】
また、かような金属めっき層の厚みについては、3〜15μm 程度とすることが好ましい。
というのは、めっき厚みが3μm に満たないとめっき金属の量が少ないため、十分な効果が得られず、一方15μm を超えるとめっき層が鋼板から剥離し易くなるからである。
【0018】
次に、本発明の電磁鋼板および分割型電動機固定子について、以下、合わせて説明する。
本発明では、電磁鋼板を、図2に示すように、T型に分割した電動機固定子形状に打ち抜いたのち、これらを組み上げて図3に示すような電動機固定子とするが、本発明では、高トルクかつ高効率な電動機を得ることが目的であるので、本発明の電磁鋼板としては、最も磁気特性の良い圧延方向すなわち圧延方向(L方向)の磁束密度を高くしなければならない。というのは、圧延方向(L方向)の磁束密度を高くすると、励磁電流が小さくなって、電動機で発生する銅損を低減することができるからである。
そこで、本発明では、圧延方向の磁束密度については、1000 A/mにおける磁束密度B10(L) で 1.7T以上に限定した。
【0019】
本発明において、図2に示す電動機固定子のコアバック幅Yとは、図1に示したように、コアバック部の内径5と外径6(いずれも半径)との差、すなわち(外径6−内径5)とする。
一方、ティース幅Thとは、図4に示すとおり、コアバック部とティース部との交点7,8で結ばれる直線からティース部先端方向での部分を面積Sとしたとき(網がけ部)、ティース部の径方向の長さLを一片とする面積Sの長方形に置き換えた時のもう一方の辺の長さとする。この時、ティース部の径方向の長さLとは、図1に示したコアバック部の内径5と、固定子中心からティース部先端までの径9との差、すなわち(内径5−径9)とする。
【0020】
さて、発明者らは、固定子で発生する鉄損にはコアバック部およびティース部で発生する交番磁界下鉄損に加えて、ティース部とコアバック部のつけ根部分における回転磁界下鉄損が大きな比重を占めており、磁性材料の磁気異方性によって回転磁界下鉄損を低減できることを見出した。
そこで、この知見に基づき、コアバック部の幅Yをティース部の幅Th よりも狭くした形状の固定子について鋭意研究を行った。
【0021】
表1に示す4種の電磁鋼板(鋼種A〜D)を作製し、これらの電磁鋼板からY/Th を種々に変更してT字型に打ち抜き、積層、組立、巻線を施したのち、固定子に組み上げ、これを表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500 WのブラシレスDCモータとした。
これを毎分:2200回転で作動させたときのティース部、コアバック部およびティース部とコアバック部との境界部で発生する鉄損について調査した。
得られた結果を表1に併記する。
【0022】
【表1】
【0023】
同表に示したとおり、コアバック幅Yをティース幅Th よりも狭めた固定子では、ティース部とコアバック部との境界部の鉄損すなわち回転磁界下での鉄損は、素材の磁気異方性による差は見られず、コアバック部とティース部で発生する交番磁界下の鉄損、特にコアバック部での鉄損に大きく依存していることが分かる。
なお、コアバック幅Yをティース幅Th より広くした固定子では、素材の磁気異方性によるコアバック部鉄損の差は顕著ではない。
【0024】
また、この結果より、コアバック部での鉄損を低減させるためには、最も磁気特性の良い方向の磁束密度B10(L) に対する圧延直角方向の磁束密度B10(C) の比つまりB10(C) /B10(L) を、0.75〜1.0 の範囲とする必要があることが分かる。
すなわち、B10(C) /B10(L) が0.75未満では、コアバック部の幅を狭めたことによる磁束密度の上昇によりコアバック部での鉄損が非常に大きくなり、固定子全体としての鉄損が悪化する。この点、B10(C) /B10(L) が0.75以上になるとコアバック幅を狭めたことによる磁束密度の上昇に見合う圧延直角方向の磁気特性の向上があるので、鉄損増加が緩和される。なお、最も磁気特性の良い方向をB10(L) としているので、常にB10(C) ≦B10(L) であり、従って常にB10(C) /B10(L) ≦1となる。
【0025】
また、分割型電動機固定子のコアバック幅Yとティース幅Th のY/Th は、0.5 〜1.0 とする必要がある。
すなわち、Y/Th が 0.5未満では、固定子強度の低下が無視できなくなるだけでなく、コアバック部での磁束密度の上昇による鉄損増加を電磁鋼板の磁気特性で補えなくなる。また、本発明は、コアバック幅Yを狭くして小型の固定子を得ることが特徴であり、これによりモータ外径を小さくし、かつ十分なトルクを得ることができるので、Y/Th は 1.0以下に制限することとした。
【0026】
次に、本発明の素材である鋼スラブの好適成分組成範囲について説明する。
C:0.05mass%以下
Cは、0.05mass%を超えると脱炭焼鈍によっても目標とする 50ppm以下まで除去することが困難となり、磁気時効による鉄損の劣化を招く。また、最終冷延前の焼鈍の際にγ相が生じ、結晶粒を平均粒径を 100μm 以上の大きさに成長させるのが困難となる。これらの理由により、C量は0.05mass%以下とすることが好ましい。
なお、一方でCは、冷延時に結晶粒内における局所変形を促進させ{100}<001>組織の発達を促す効果もある。この作用は、0.003 mass%以上で発生し0.01mass%以上でより強くなるため、Cは0.01mass%以上添加することが好ましい。
【0027】
Si:2.0 〜8.0 mass%
Siは、電気抵抗を増加させて鉄損を低減する作用がある。また、最終冷延前の焼鈍の際におけるγ相の発生を抑制して粒成長を促進する作用があるので、2.0mass%以上含有させることが好ましい。一方、8.0 mass%を超えると加工性が劣化し、最終冷延の隙に割れが発生し易くなるので、8.0 mass%以下とすることが好ましい。
【0028】
Mn:0.005 〜1.0 mass%
Mnは、熱間加工性を改善するのに有用な元素であるが、含有量が0.005 mass%未満ではその効果に乏しく、一方1.0 mass%を超えると二次再結晶が困難になるので、 0.005〜1.0 mass%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.001 〜0.020 mass%
Al量が 0.001mass%に満たないと{100}<001>方位の集積度が低下したり、二次再結晶が不安定となり、一方 0.020mass%を超えると{110}<001>方位が増加してC方向の磁気特性が劣化するので、Al量は 0.001〜0.020mass%の範囲にすることが好ましい。特にAl量が 0.001〜0.010 mass%の範囲では、仕上げ焼鈍後の鉄損が低減されるのでより有利である。この理由は定かではないが、鋼板内部のAl窒化物あるいは酸化物が低減されるためではないかと考えられる。なお、Alは、製品板地鉄中では 20 ppm 以下まで低減される。
【0030】
Se, S合計で 150 ppm以下
SeおよびSは、Mnと化合物を形成して結晶粒の成長を抑制する作用があり、{100}<001>方位の集積度を低下させる。特に、合計量が 150 ppmを超えると、磁気特性の劣化が避けられないので、これらは合計量で 150 ppm以下に制御することが好ましい。なお、SeやSはそれぞれ、製品板中では 10 ppm 以下まで低減される。
【0031】
O:60 ppm以下
Oは、鋼中で酸化物を形成し、結晶粒の成長を抑制して{100}<001>方位の集積度を低下させる。また、焼鈍による除去も因難で、60 ppmを超えると磁気特性の劣化が避けられないので、Oは60 ppm以下とすることが好ましい。
【0032】
N:50 ppm以下
Nは、鋼中でAlやSiの窒化物を形成し、結晶粒の成長を抑制して{100}<001>方位の集積度を低下させるので、50 ppm以下とするのが好ましい。
【0033】
B:1〜100 ppm
Bは、二次再結晶を安定して発現させる効果がある有用元素である。しかしながら、含有量が1ppm に満たないとその添加効果に乏しく、一方 100 ppmを超えると二次再結晶が生じなくなるので、B量は必要に応じ1〜100 ppm の範囲で添加することが好ましい。なお、多量の添加は板の脆化をもたらし、曲げ加工によって割れ易くなるので、より好ましくは1〜20 ppmの範囲である。
【0034】
その他、この発明では、鉄損の改善成分として、Ni:1.5 mass%以下、Cu:0.5 mass%以下、Mo:0.5 mass%以下、Sn:0.5 mass%以下、Sb:0.5 mass%以下、Cu:1mass%以下を適宜含有させることができる。また、不可避的不純物として、0.05mass%以下であれば、P, Cu, Ni, Cr, Mo等を含んでいても特に問題はない。
【0035】
次に、この発明鋼の好適製造条件について述べる。
上記の好適成分に調整された鋼スラブを、常法に従い加熱したのち、熱間圧延する。ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行って最終板厚に仕上げる。
この発明では、この最終冷延の前段階で結晶粒の大きさを平均粒径で 100μm以上にしておくことが好ましく、かくして{100}<001>方位の集積度の向上ひいてはB10(L) およびB10(C) 等の磁気特性の向上を図ることができる。これに対し、平均結晶粒径が 100μm 未満の場合あるいは圧延による伸長粒が残存している場合には、一次再結晶後に{111}組織が発達し、{110}<001>方位の二次再結晶が成長し易くなり、L方向の磁気特性は向上するものの、C方向の磁気特性の劣化を招く。ここに、最終冷延前に 100μm 以上の平均結晶粒径を得るためには、最終冷延前に 900℃以上、1250℃以下の温度で熱延板焼鈍あるいは中間焼鈍を行うことが有効である。
【0036】
また、最終冷延工程では、圧下率を80%以上にすることが重要であり、かくして{100}<001>方位の集積度を有利に向上させることができる。
さらに、上記の最終冷延を3パス以上で行い、しかも 120℃以上でかつ圧下率:25%以上(1パス当たり)の圧延パスを少なくとも1パス施すことにより、必要な集合組織に制御することができる。なお、温間圧延区間について特に制限はなく、圧延の全区間を上述したような温間圧延としてもかまわない。ここに、温間圧延の温度を 120℃以上とした理由は、圧延温度が 120℃未満では温度上昇の効果が少なく上述した効果が得られないからである。とはいえ、 450℃を超えると導入した転位の回復が生じ、{100}<001>方位への集積があまり期待できなくなるため、圧延温度は 120〜450 ℃程度とすることが好ましい。かかる温間圧延は、C含有量が0.01mass%以上の場合に、最も有効に{100}<001>方位の集積度を高める効果がある。
【0037】
ついで、再結晶焼鈍を施す。好ましくは、焼鈍温度:760 〜950 ℃、焼鈍時間:10〜200 秒として一次再結晶を生じさせる。この時、一次再結晶粒の粒径が大きすぎると、仕上げ焼鈍で二次再結晶が生じなくなる。ここに、粒径の上限値はAl量や不純物量によって変化するが、概ね70μm 程度である。また、磁気時効による磁気特性の劣化を防止するためには、雰囲気を湿潤水素雰囲気としてC量を50 ppm以下好ましくは30 ppm以下まで低減することが望ましい。
【0038】
引き続く仕上げ焼鈍工程では、 825〜1050℃の温度範囲に10時間以上保持して二次再結晶を生じさせることが好ましい。焼鈍雰囲気は非酸化性雰囲気とする必要があるが、5vol %以上の窒素を含有させることによって二次再結晶を安定化させることができる。また、この仕上げ焼鈍中における鋼板同士の密着を防止するために、マグネシア、アルミナ、シリカ等の粉末やシートを焼鈍分離剤として用いることも可能である。
【0039】
ついで、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に金属めっきを施すことが、本発明の大きな特徴である。その際、仕上げ焼鈍後にフォルステライト被膜等の無機鉱物質被膜を酸洗あるいは研削などの方法によって除去する必要がある。
めっきする金属元素としては、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいか、もしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を持つ元素とする必要があり、かような金属元素としてはCr,Ni,Cu,Zn等が有利に適合することは、前述したとおりである。
【0040】
なお、めっき方法については、電気めっきを利用する方が好ましい。というのは、無電解めっきを行える金属の種類は限られ、また金属の目付量を調整するためには、電気めっきの方が簡便であるからである。
なお、めっきの前処理として、脱脂、逆電解処理などを行うことは有利である。
【0041】
さらに、積層鉄心として用いるためには、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に絶縁コーティング処理を施すことが望ましい。かかる絶縁コーティングには、従来の電磁鋼板に用いられている無機、半有機、有機コーティングが使用できる。また、張力を付与するシリカ−りん酸塩系のコーティングを施すことも、騒音の低減および歪感受性の低減に有効である。また、コイル形状で仕上げ焼鈍を行った場合には、鋼板に張力を付与しながら 750〜900 ℃の温度で平坦化焼鈍を施すのが、形状矯正および磁性改善のために有効であり、さらにかかる焼鈍の雰囲気を湿潤水素雰囲気として脱炭を併せて行うことも可能である。
【0042】
かくして得られた電磁鋼板は、T字型に分割した電動機固定子形状に打ち抜かれるが、その際に導入される打ち抜き歪により磁気特性が劣化するので、その後に歪取り焼鈍を施すことが好ましい。通常は、750 ℃前後の温度で2時間程度の焼鈍を施すが、本発明では、この歪取り焼鈍において焼鈍温度を通常よりも高くするか、あるいは長時間行うことが好ましい。というのは、かような高温または長時間処理により、めっき金属が磁鋼板の内部に効果的に拡散して、渦電流損の低減効果が一層向上するからである。かかる歪取り焼鈍の条件としては、900 〜1100℃で行うか、または 750℃程度で10〜30時間以上とすることが好ましい。
【0043】
【実施例】
実施例1
C:0.04mass%, Si:3.0 mass%, Mn:0.05mass%, Al:90 ppmおよびN:40ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延により2.4 mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を行った。この時の平均結晶粒径は 110μm であった。ついで、1回の冷間圧延で0.30mmの最終板厚に仕上げた。その際、冷間圧延は4パスとし、このうち3パス目を圧延温度:150℃、圧下率:31%として行った。ついで、脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上げ焼鈍を行った。得られた鋼板の圧延方向の磁束密度B10(L) は1.88Tであった。
【0044】
その後、酸洗により、表面のフォルステライト被膜を除去したのち、表2に示すような種々の金属めっきを施した。めっき浴については次のとおりである。
Cu 硫酸銅:200g/l−硫酸:50 g/l、
Ni 硫酸ニッケル:75 g/l−塩化ニッケル:110g/l−硼酸:45 g/l、
Co 硫酸コバルト:100g/l−硫酸:20 g/l、
Cr クロム酸(VI):100g/l−硫酸:1 g/l、
Zn 亜鉛:33 g/l−シアン化ナトリウム:93 g/l−水酸化ナトリウム:75 g/l
上記の金属めっきを施した鋼板に、燐酸コーティングを施したのち、1000℃,15時間の焼鈍を施して、めっき金属を鋼板内部に拡散させた。
かくして得られた電磁鋼板の鉄損特性について調べた結果を、表2に併記する。
【0045】
【表2】
【0046】
同表に示したとおり、本発明に従い、電磁鋼板の表面に、金属結合半径が鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属元素をめっきした場合には、商用周波数から高周波数までの広い帯域にわたって良好な鉄損特性を得ることができた。
【0047】
実施例2
実施例1により得た電磁鋼板に、燐酸コーティング処理を施したのち、図2に示すようなT型形状に打ち抜いた。ここで、固定子外径は200 mm、内径は180 mm、ティース部の長さLは60mm、ティース部の幅Th は30mmとした。
ついで、打ち抜いたT型を積層したのち、1000℃で15時間の歪取り焼鈍を兼ね、めっき金属の鋼板への拡散を目的とした焼鈍を行った。その後、各T型積層部品に巻線を施したのち、これを8個をつなぎ合わせて、図3に示した固定子を作製した。
かくして得られた固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500WのブラシレスDCモータを作製し、そのモータの最大効率を測定したところ、表3に示す結果を得た。
【0048】
【表3】
【0049】
同表に示したとおり、電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素のめっきを施した場合には、極めて高いモータ効率が得られている。
【0050】
実施例3
C:0.05mass%, Si:3.0 mass%, Mn:0.10mass%, Al:120ppm, N:50 ppmおよびSb:0.05mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延により2.8 mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を行った。ついで、1回目の冷間圧延により 1.5〜2.2 mmの中間厚としたのち、 900〜1200℃で中間焼鈍を行い、その後2回目の冷間圧延により0.20mmの最終板厚に仕上げた。その際、2回目の冷間圧延は3パスとし、このうち3パス目を圧延温度:120 〜300 ℃、圧下率:28%として行った。ついで、脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上げ焼鈍を行った。
以上の工程で中間厚、中間焼鈍温度、2回目の冷延条件を様々に組み合わせ、種々の磁気異方性を持つ方向性電磁鋼板とした。
【0051】
ついで、酸洗により、表面のフォルステライト被膜を除去したのち、8μm 厚のCrめっきを施した。めっき浴は、クロム酸(VI):100g/l−硫酸:1 g/lを用い、電流密度:5A/dm2−180 秒の電解を行った。前処理として、電流密度:30A/dm2 で30秒の電解脱脂処理を行った。
その後、上記の金属めっきを施した鋼板に、燐酸コーティングを施したのち、外径:200 mm、内径:176 mm、ティース部の長さL:60mm、ティース部の幅Th:30mmになる固定子を12分割したT型形状に打ち抜いた。この時、コアバック幅Yとティース幅Th の比Y/Th は 0.8であった。
【0052】
ついで、これを積層したのち、1000℃で10時間の歪取り焼鈍を兼ね、めっき金属の鋼板への拡散を目的とした焼鈍を行った。その後、 各積層部品に巻線を施しこれをつなぎ合わせて固定子を作製した。
かくして得られた固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500WのブラシレスDCモータを作製し、このモータを 3.0 N・m の負荷をかけた状態で回転させて、 モータ効率を測定した。
得られた結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
同表から明らかなように、圧延方向の磁束密度B10(L) が 1.7T以上でかつ、B10(C) とB10(L) との比B10(C) /B10(L) が0.75〜1.0 を満足している場合には、極めて良好なモータ効率が得られている。
【0055】
実施例4
B10(C) /B10(L) が、表4のNo.1〜3に示す磁気異方性を持つ方向性電磁鋼板を、打ち抜き、積層して、固定子を作製した。この時、コアバック幅Yとティース幅Th の比Y/Th を 0.30, 0.50, 0.70 と変化させた。
この固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500 WのブラシレスDCモータを作製し、このモータを 3.0 N・m の負荷をかけた状態で回転させて、 モータ効率を測定した。
得られた結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
同表から明らかなように、B10(C) /B10(L) が0.75〜1.0 の範囲、またY/Th が 0.5〜1.0 の範囲を同時に満足する場合にのみ、良好なモータ効率が得られている。
【0058】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、所定の特性を有する方向性電磁鋼板の表面に金属めっきを施し、さらに歪取り焼鈍時にこれを鉄中に拡散させて濃度勾配を作ることにより、高周波での鉄損を効果的に低減して、電動機の効率を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一体型固定子の打ち抜き形状を示した図である。
【図2】T型分割形状の一例を示した図である。
【図3】分割型固定子を組み上げた全体を示した図である。
【図4】ティース幅Thの算出要領の説明図である。
1 固定子
2 コアバック部
3 ティース部
4 T型分割部品
5 内径
6 外径
7 コアバック部とティース部の交点
8 コアバック部とティース部の交点
9 固定子中心からティース部先端までの長さ
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機固定子用の電磁鋼板およびそれを用いた分割型電動機固定子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電動機の固定子材料としては、磁気特性がほば等方的な磁性材料が使用されていて、特に無方向性電磁鋼板が広く採用されている。この理由は、図1に示すように、電動機の固定子(ステータ)1は、通常、円環状のコアバック部2と放射状のティース部3から構成されるが、このようなコアバック部2とティース部3が一体となった形状を鋼板から打ち抜き、積層することにより構成されてきたからである。
【0003】
近年、モータの小型化や銅損低減のために、巻き線の占積率を向上させたり、銅損低減を目的として巻き線方式にいわゆる集中巻きを用いるモータがある。
一体に打ち抜いたタイプの固定子では、このような巻き線作業をティース部とティース部との隙間から行わなければならないため、作業効率が極めて悪い。
そこで、巻き線作業を容易にするために、固定子をティース部ごとに分割し、巻き線を施した後に組み上げることにより、上記した一体打ち抜き形状の固定子と同一形状に組み上げる方法が考案されている。
【0004】
上記したような分割型の固定子を採用することにより、従来は磁気特性とくにその異方性の面から適用が不可能であった方向性電磁鋼板を、固定子材料として採用できるようになった。例えば、ティース方向を方向性電磁鋼板の磁気特性の良好な方向すなわち圧延方向に揃えることにより、鉄損を低減するといった工夫がなされている(特許文献1)。
【0005】
一方、近年、ハイブリッド自動車の普及に見られるように、内燃機関に代わって電動機が自動車の駆動源となりつつある。かような自動車に搭載する電動機は、エンジンルームやホイールの中に納められるために、電動機の外径をできるだけ小さくしつつ、十分なトルクを得るという課題が課せられている。
【0006】
大きなトルクが得られる電動機を作製するための一つの方法として、分割型固定子とし、その素材として方向性電磁鋼板を使用することが挙げられる。
また、大きなトルクを得るためのもう一つの方法として、コアバックの幅を狭くするという方法がある。しかしながら、この方法では、コアバックの幅を狭くすることによってコアバックを流れる磁束密度が増大するため、固定子鉄損が大きくなってしまい、モータ効率が低下するという問題が生じる。
この固定子鉄損の増加は、無方向性電磁鋼板よりも方向性電磁鋼板で顕著に現れるため、従来の方向性電磁鋼板では、後者の方法を用いることは困難であった。
【0007】
また、方向性電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板に比べて製品板の結晶粒径がかなり大きくなる。このため、方向性電磁鋼板の磁区幅も無方向性電磁鋼板と比べると非常に大きくなって渦電流損が増大する。その結果、自動車用モータ等の周波数が高い状態で使用した場合には、鉄損が急激に増大する。
さらに、電動機固定子に流れる磁束には高調波の影響があり、見かけの周波数の何倍も高い周波数成分による渦電流損の増大が問題となる。
以上の点から、方向性電磁鋼板を電動機固定子素材として用いる場合には、磁区幅を狭くして渦電流損失の増大を防ぐ必要がある。
【0008】
一方で方向性電磁鋼板は、通常、鋼板表面にフォルステライトと呼ばれるセラミックス被膜が被覆されている点において、無方向性電磁鋼板と異なっている。すなわち、二次再結晶粒を生じさせるためおよび二次再結晶に必要なインヒビター成分であるS,Se,Al,Nなどを純化するために、高温焼純が必要であり、そのためコイル状に巻き取って焼鈍する際の鋼板同士の融着を防止するために焼純分離剤が用いられている。その結果、脱炭焼鈍時に鋼板表面に形成されるSiO2と焼鈍分離剤として用いられるMgOが反応して、フォルステライト被膜が形成される。
このフォルステライト被膜とその上に形成される絶縁張力コーティングにより鋼板に与えられる張力効果によって、磁区が細分化され、鉄損の向上が図られている。
しかしながら、高周波域での使用においては、前記した高調波の影響が強くなるため、鉄損の低減は未だ不十分であった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−149726号公報(特許請求の範囲)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、電動機固定子に用いる場合に、従来の方向性電磁鋼板に比べて磁区幅を狭くし、特に高周波域での固定子鉄損の増加を抑えることにより、高効率かつ高トルクが得られる電動機固定子用の電磁鋼板を、かかる電磁鋼板を用いた分割型電動機固定子と共に提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、固定子で発生する鉄損特に高い周波数においてより大きく増加する渦電流損を低減するための方法について鋭意検討を重ねた結果、
(1) 方向性電磁鋼板の磁区幅が無方向性電磁鋼板に比べて広いことが、鉄損劣化の主たる原因である、
(2) この問題を解消するためには、電磁鋼板の表面に鉄の金属結合半径よりもある程度大きいかまたは小さい金属元素のめっき層を被覆することが有効である
ことの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Si:2.0 〜8.0 mass%を含有する方向性電磁鋼板であって、その表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素のめっき層を有し、かつ該鋼板の最も磁気特性の良い圧延方向(L方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(L) が 1.7T以上でかつ、上記L方向から90°離れた方向(C方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(C) とB10(L) との比B10(C) /B10(L) が0.75≦B10(C)/B10(L) ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
【0013】
2.上記1において、電磁鋼板の表面にめっきする金属元素が、Cr,Ni,CuおよびZnうちから選んだいずれか一種または二種以上であることを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
【0014】
3.上記1または2に記載した電磁鋼板をT字型に分割した部品を組み合わせて構成される分割型電動機固定子であって、コアバック部の幅(Y)とティース部の幅 (Th)との比Y/Th が 0.5≦Y/Th ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする分割型電動機固定子。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
さて、本発明では、電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を金属元素をめっきする。
というのは、かような金属元素をめっきすることによって、めっきされた金属は、後述の歪取り焼鈍中に鋼板の地鉄中に拡散していく。この時に、めっきされた金属は、鋼板の表層部で濃度が高く、中心部に向かうに従って濃度が低くなり、鋼板中にめっきされた金属の濃度勾配が形成される。これにより、鋼板の表層部と中心部で、地鉄に格子定数の違いが生じて歪が発生し、この歪により電磁鋼板の磁区幅が効果的に小さくなるのである。
【0016】
ここに、電磁鋼板の表面にめっきする金属元素として、金属結合半径が鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さいものとした理由は、次のとおりである。
すなわち、上述したように、濃度勾配により地鉄の格子定数を変化させるためには、めっきする金属と鉄との金属結合半径に差を設けることが必要である。そして、種々の金属のめっきにより、磁区幅を狭くして所望の鉄損改善効果を得るための条件を鋭意調査した結果、めっきする金属と鉄との金属結合半径に0.02Å以上の差が必要であることが分かったのである。
なお、かような金属元素としては、Cr,Ni,Cu,Zn等がとりわけ有利に適合する。
【0017】
また、かような金属めっき層の厚みについては、3〜15μm 程度とすることが好ましい。
というのは、めっき厚みが3μm に満たないとめっき金属の量が少ないため、十分な効果が得られず、一方15μm を超えるとめっき層が鋼板から剥離し易くなるからである。
【0018】
次に、本発明の電磁鋼板および分割型電動機固定子について、以下、合わせて説明する。
本発明では、電磁鋼板を、図2に示すように、T型に分割した電動機固定子形状に打ち抜いたのち、これらを組み上げて図3に示すような電動機固定子とするが、本発明では、高トルクかつ高効率な電動機を得ることが目的であるので、本発明の電磁鋼板としては、最も磁気特性の良い圧延方向すなわち圧延方向(L方向)の磁束密度を高くしなければならない。というのは、圧延方向(L方向)の磁束密度を高くすると、励磁電流が小さくなって、電動機で発生する銅損を低減することができるからである。
そこで、本発明では、圧延方向の磁束密度については、1000 A/mにおける磁束密度B10(L) で 1.7T以上に限定した。
【0019】
本発明において、図2に示す電動機固定子のコアバック幅Yとは、図1に示したように、コアバック部の内径5と外径6(いずれも半径)との差、すなわち(外径6−内径5)とする。
一方、ティース幅Thとは、図4に示すとおり、コアバック部とティース部との交点7,8で結ばれる直線からティース部先端方向での部分を面積Sとしたとき(網がけ部)、ティース部の径方向の長さLを一片とする面積Sの長方形に置き換えた時のもう一方の辺の長さとする。この時、ティース部の径方向の長さLとは、図1に示したコアバック部の内径5と、固定子中心からティース部先端までの径9との差、すなわち(内径5−径9)とする。
【0020】
さて、発明者らは、固定子で発生する鉄損にはコアバック部およびティース部で発生する交番磁界下鉄損に加えて、ティース部とコアバック部のつけ根部分における回転磁界下鉄損が大きな比重を占めており、磁性材料の磁気異方性によって回転磁界下鉄損を低減できることを見出した。
そこで、この知見に基づき、コアバック部の幅Yをティース部の幅Th よりも狭くした形状の固定子について鋭意研究を行った。
【0021】
表1に示す4種の電磁鋼板(鋼種A〜D)を作製し、これらの電磁鋼板からY/Th を種々に変更してT字型に打ち抜き、積層、組立、巻線を施したのち、固定子に組み上げ、これを表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500 WのブラシレスDCモータとした。
これを毎分:2200回転で作動させたときのティース部、コアバック部およびティース部とコアバック部との境界部で発生する鉄損について調査した。
得られた結果を表1に併記する。
【0022】
【表1】
【0023】
同表に示したとおり、コアバック幅Yをティース幅Th よりも狭めた固定子では、ティース部とコアバック部との境界部の鉄損すなわち回転磁界下での鉄損は、素材の磁気異方性による差は見られず、コアバック部とティース部で発生する交番磁界下の鉄損、特にコアバック部での鉄損に大きく依存していることが分かる。
なお、コアバック幅Yをティース幅Th より広くした固定子では、素材の磁気異方性によるコアバック部鉄損の差は顕著ではない。
【0024】
また、この結果より、コアバック部での鉄損を低減させるためには、最も磁気特性の良い方向の磁束密度B10(L) に対する圧延直角方向の磁束密度B10(C) の比つまりB10(C) /B10(L) を、0.75〜1.0 の範囲とする必要があることが分かる。
すなわち、B10(C) /B10(L) が0.75未満では、コアバック部の幅を狭めたことによる磁束密度の上昇によりコアバック部での鉄損が非常に大きくなり、固定子全体としての鉄損が悪化する。この点、B10(C) /B10(L) が0.75以上になるとコアバック幅を狭めたことによる磁束密度の上昇に見合う圧延直角方向の磁気特性の向上があるので、鉄損増加が緩和される。なお、最も磁気特性の良い方向をB10(L) としているので、常にB10(C) ≦B10(L) であり、従って常にB10(C) /B10(L) ≦1となる。
【0025】
また、分割型電動機固定子のコアバック幅Yとティース幅Th のY/Th は、0.5 〜1.0 とする必要がある。
すなわち、Y/Th が 0.5未満では、固定子強度の低下が無視できなくなるだけでなく、コアバック部での磁束密度の上昇による鉄損増加を電磁鋼板の磁気特性で補えなくなる。また、本発明は、コアバック幅Yを狭くして小型の固定子を得ることが特徴であり、これによりモータ外径を小さくし、かつ十分なトルクを得ることができるので、Y/Th は 1.0以下に制限することとした。
【0026】
次に、本発明の素材である鋼スラブの好適成分組成範囲について説明する。
C:0.05mass%以下
Cは、0.05mass%を超えると脱炭焼鈍によっても目標とする 50ppm以下まで除去することが困難となり、磁気時効による鉄損の劣化を招く。また、最終冷延前の焼鈍の際にγ相が生じ、結晶粒を平均粒径を 100μm 以上の大きさに成長させるのが困難となる。これらの理由により、C量は0.05mass%以下とすることが好ましい。
なお、一方でCは、冷延時に結晶粒内における局所変形を促進させ{100}<001>組織の発達を促す効果もある。この作用は、0.003 mass%以上で発生し0.01mass%以上でより強くなるため、Cは0.01mass%以上添加することが好ましい。
【0027】
Si:2.0 〜8.0 mass%
Siは、電気抵抗を増加させて鉄損を低減する作用がある。また、最終冷延前の焼鈍の際におけるγ相の発生を抑制して粒成長を促進する作用があるので、2.0mass%以上含有させることが好ましい。一方、8.0 mass%を超えると加工性が劣化し、最終冷延の隙に割れが発生し易くなるので、8.0 mass%以下とすることが好ましい。
【0028】
Mn:0.005 〜1.0 mass%
Mnは、熱間加工性を改善するのに有用な元素であるが、含有量が0.005 mass%未満ではその効果に乏しく、一方1.0 mass%を超えると二次再結晶が困難になるので、 0.005〜1.0 mass%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.001 〜0.020 mass%
Al量が 0.001mass%に満たないと{100}<001>方位の集積度が低下したり、二次再結晶が不安定となり、一方 0.020mass%を超えると{110}<001>方位が増加してC方向の磁気特性が劣化するので、Al量は 0.001〜0.020mass%の範囲にすることが好ましい。特にAl量が 0.001〜0.010 mass%の範囲では、仕上げ焼鈍後の鉄損が低減されるのでより有利である。この理由は定かではないが、鋼板内部のAl窒化物あるいは酸化物が低減されるためではないかと考えられる。なお、Alは、製品板地鉄中では 20 ppm 以下まで低減される。
【0030】
Se, S合計で 150 ppm以下
SeおよびSは、Mnと化合物を形成して結晶粒の成長を抑制する作用があり、{100}<001>方位の集積度を低下させる。特に、合計量が 150 ppmを超えると、磁気特性の劣化が避けられないので、これらは合計量で 150 ppm以下に制御することが好ましい。なお、SeやSはそれぞれ、製品板中では 10 ppm 以下まで低減される。
【0031】
O:60 ppm以下
Oは、鋼中で酸化物を形成し、結晶粒の成長を抑制して{100}<001>方位の集積度を低下させる。また、焼鈍による除去も因難で、60 ppmを超えると磁気特性の劣化が避けられないので、Oは60 ppm以下とすることが好ましい。
【0032】
N:50 ppm以下
Nは、鋼中でAlやSiの窒化物を形成し、結晶粒の成長を抑制して{100}<001>方位の集積度を低下させるので、50 ppm以下とするのが好ましい。
【0033】
B:1〜100 ppm
Bは、二次再結晶を安定して発現させる効果がある有用元素である。しかしながら、含有量が1ppm に満たないとその添加効果に乏しく、一方 100 ppmを超えると二次再結晶が生じなくなるので、B量は必要に応じ1〜100 ppm の範囲で添加することが好ましい。なお、多量の添加は板の脆化をもたらし、曲げ加工によって割れ易くなるので、より好ましくは1〜20 ppmの範囲である。
【0034】
その他、この発明では、鉄損の改善成分として、Ni:1.5 mass%以下、Cu:0.5 mass%以下、Mo:0.5 mass%以下、Sn:0.5 mass%以下、Sb:0.5 mass%以下、Cu:1mass%以下を適宜含有させることができる。また、不可避的不純物として、0.05mass%以下であれば、P, Cu, Ni, Cr, Mo等を含んでいても特に問題はない。
【0035】
次に、この発明鋼の好適製造条件について述べる。
上記の好適成分に調整された鋼スラブを、常法に従い加熱したのち、熱間圧延する。ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行って最終板厚に仕上げる。
この発明では、この最終冷延の前段階で結晶粒の大きさを平均粒径で 100μm以上にしておくことが好ましく、かくして{100}<001>方位の集積度の向上ひいてはB10(L) およびB10(C) 等の磁気特性の向上を図ることができる。これに対し、平均結晶粒径が 100μm 未満の場合あるいは圧延による伸長粒が残存している場合には、一次再結晶後に{111}組織が発達し、{110}<001>方位の二次再結晶が成長し易くなり、L方向の磁気特性は向上するものの、C方向の磁気特性の劣化を招く。ここに、最終冷延前に 100μm 以上の平均結晶粒径を得るためには、最終冷延前に 900℃以上、1250℃以下の温度で熱延板焼鈍あるいは中間焼鈍を行うことが有効である。
【0036】
また、最終冷延工程では、圧下率を80%以上にすることが重要であり、かくして{100}<001>方位の集積度を有利に向上させることができる。
さらに、上記の最終冷延を3パス以上で行い、しかも 120℃以上でかつ圧下率:25%以上(1パス当たり)の圧延パスを少なくとも1パス施すことにより、必要な集合組織に制御することができる。なお、温間圧延区間について特に制限はなく、圧延の全区間を上述したような温間圧延としてもかまわない。ここに、温間圧延の温度を 120℃以上とした理由は、圧延温度が 120℃未満では温度上昇の効果が少なく上述した効果が得られないからである。とはいえ、 450℃を超えると導入した転位の回復が生じ、{100}<001>方位への集積があまり期待できなくなるため、圧延温度は 120〜450 ℃程度とすることが好ましい。かかる温間圧延は、C含有量が0.01mass%以上の場合に、最も有効に{100}<001>方位の集積度を高める効果がある。
【0037】
ついで、再結晶焼鈍を施す。好ましくは、焼鈍温度:760 〜950 ℃、焼鈍時間:10〜200 秒として一次再結晶を生じさせる。この時、一次再結晶粒の粒径が大きすぎると、仕上げ焼鈍で二次再結晶が生じなくなる。ここに、粒径の上限値はAl量や不純物量によって変化するが、概ね70μm 程度である。また、磁気時効による磁気特性の劣化を防止するためには、雰囲気を湿潤水素雰囲気としてC量を50 ppm以下好ましくは30 ppm以下まで低減することが望ましい。
【0038】
引き続く仕上げ焼鈍工程では、 825〜1050℃の温度範囲に10時間以上保持して二次再結晶を生じさせることが好ましい。焼鈍雰囲気は非酸化性雰囲気とする必要があるが、5vol %以上の窒素を含有させることによって二次再結晶を安定化させることができる。また、この仕上げ焼鈍中における鋼板同士の密着を防止するために、マグネシア、アルミナ、シリカ等の粉末やシートを焼鈍分離剤として用いることも可能である。
【0039】
ついで、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に金属めっきを施すことが、本発明の大きな特徴である。その際、仕上げ焼鈍後にフォルステライト被膜等の無機鉱物質被膜を酸洗あるいは研削などの方法によって除去する必要がある。
めっきする金属元素としては、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいか、もしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を持つ元素とする必要があり、かような金属元素としてはCr,Ni,Cu,Zn等が有利に適合することは、前述したとおりである。
【0040】
なお、めっき方法については、電気めっきを利用する方が好ましい。というのは、無電解めっきを行える金属の種類は限られ、また金属の目付量を調整するためには、電気めっきの方が簡便であるからである。
なお、めっきの前処理として、脱脂、逆電解処理などを行うことは有利である。
【0041】
さらに、積層鉄心として用いるためには、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に絶縁コーティング処理を施すことが望ましい。かかる絶縁コーティングには、従来の電磁鋼板に用いられている無機、半有機、有機コーティングが使用できる。また、張力を付与するシリカ−りん酸塩系のコーティングを施すことも、騒音の低減および歪感受性の低減に有効である。また、コイル形状で仕上げ焼鈍を行った場合には、鋼板に張力を付与しながら 750〜900 ℃の温度で平坦化焼鈍を施すのが、形状矯正および磁性改善のために有効であり、さらにかかる焼鈍の雰囲気を湿潤水素雰囲気として脱炭を併せて行うことも可能である。
【0042】
かくして得られた電磁鋼板は、T字型に分割した電動機固定子形状に打ち抜かれるが、その際に導入される打ち抜き歪により磁気特性が劣化するので、その後に歪取り焼鈍を施すことが好ましい。通常は、750 ℃前後の温度で2時間程度の焼鈍を施すが、本発明では、この歪取り焼鈍において焼鈍温度を通常よりも高くするか、あるいは長時間行うことが好ましい。というのは、かような高温または長時間処理により、めっき金属が磁鋼板の内部に効果的に拡散して、渦電流損の低減効果が一層向上するからである。かかる歪取り焼鈍の条件としては、900 〜1100℃で行うか、または 750℃程度で10〜30時間以上とすることが好ましい。
【0043】
【実施例】
実施例1
C:0.04mass%, Si:3.0 mass%, Mn:0.05mass%, Al:90 ppmおよびN:40ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延により2.4 mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を行った。この時の平均結晶粒径は 110μm であった。ついで、1回の冷間圧延で0.30mmの最終板厚に仕上げた。その際、冷間圧延は4パスとし、このうち3パス目を圧延温度:150℃、圧下率:31%として行った。ついで、脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上げ焼鈍を行った。得られた鋼板の圧延方向の磁束密度B10(L) は1.88Tであった。
【0044】
その後、酸洗により、表面のフォルステライト被膜を除去したのち、表2に示すような種々の金属めっきを施した。めっき浴については次のとおりである。
Cu 硫酸銅:200g/l−硫酸:50 g/l、
Ni 硫酸ニッケル:75 g/l−塩化ニッケル:110g/l−硼酸:45 g/l、
Co 硫酸コバルト:100g/l−硫酸:20 g/l、
Cr クロム酸(VI):100g/l−硫酸:1 g/l、
Zn 亜鉛:33 g/l−シアン化ナトリウム:93 g/l−水酸化ナトリウム:75 g/l
上記の金属めっきを施した鋼板に、燐酸コーティングを施したのち、1000℃,15時間の焼鈍を施して、めっき金属を鋼板内部に拡散させた。
かくして得られた電磁鋼板の鉄損特性について調べた結果を、表2に併記する。
【0045】
【表2】
【0046】
同表に示したとおり、本発明に従い、電磁鋼板の表面に、金属結合半径が鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属元素をめっきした場合には、商用周波数から高周波数までの広い帯域にわたって良好な鉄損特性を得ることができた。
【0047】
実施例2
実施例1により得た電磁鋼板に、燐酸コーティング処理を施したのち、図2に示すようなT型形状に打ち抜いた。ここで、固定子外径は200 mm、内径は180 mm、ティース部の長さLは60mm、ティース部の幅Th は30mmとした。
ついで、打ち抜いたT型を積層したのち、1000℃で15時間の歪取り焼鈍を兼ね、めっき金属の鋼板への拡散を目的とした焼鈍を行った。その後、各T型積層部品に巻線を施したのち、これを8個をつなぎ合わせて、図3に示した固定子を作製した。
かくして得られた固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500WのブラシレスDCモータを作製し、そのモータの最大効率を測定したところ、表3に示す結果を得た。
【0048】
【表3】
【0049】
同表に示したとおり、電磁鋼板の表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素のめっきを施した場合には、極めて高いモータ効率が得られている。
【0050】
実施例3
C:0.05mass%, Si:3.0 mass%, Mn:0.10mass%, Al:120ppm, N:50 ppmおよびSb:0.05mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延により2.8 mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を行った。ついで、1回目の冷間圧延により 1.5〜2.2 mmの中間厚としたのち、 900〜1200℃で中間焼鈍を行い、その後2回目の冷間圧延により0.20mmの最終板厚に仕上げた。その際、2回目の冷間圧延は3パスとし、このうち3パス目を圧延温度:120 〜300 ℃、圧下率:28%として行った。ついで、脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上げ焼鈍を行った。
以上の工程で中間厚、中間焼鈍温度、2回目の冷延条件を様々に組み合わせ、種々の磁気異方性を持つ方向性電磁鋼板とした。
【0051】
ついで、酸洗により、表面のフォルステライト被膜を除去したのち、8μm 厚のCrめっきを施した。めっき浴は、クロム酸(VI):100g/l−硫酸:1 g/lを用い、電流密度:5A/dm2−180 秒の電解を行った。前処理として、電流密度:30A/dm2 で30秒の電解脱脂処理を行った。
その後、上記の金属めっきを施した鋼板に、燐酸コーティングを施したのち、外径:200 mm、内径:176 mm、ティース部の長さL:60mm、ティース部の幅Th:30mmになる固定子を12分割したT型形状に打ち抜いた。この時、コアバック幅Yとティース幅Th の比Y/Th は 0.8であった。
【0052】
ついで、これを積層したのち、1000℃で10時間の歪取り焼鈍を兼ね、めっき金属の鋼板への拡散を目的とした焼鈍を行った。その後、 各積層部品に巻線を施しこれをつなぎ合わせて固定子を作製した。
かくして得られた固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500WのブラシレスDCモータを作製し、このモータを 3.0 N・m の負荷をかけた状態で回転させて、 モータ効率を測定した。
得られた結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
同表から明らかなように、圧延方向の磁束密度B10(L) が 1.7T以上でかつ、B10(C) とB10(L) との比B10(C) /B10(L) が0.75〜1.0 を満足している場合には、極めて良好なモータ効率が得られている。
【0055】
実施例4
B10(C) /B10(L) が、表4のNo.1〜3に示す磁気異方性を持つ方向性電磁鋼板を、打ち抜き、積層して、固定子を作製した。この時、コアバック幅Yとティース幅Th の比Y/Th を 0.30, 0.50, 0.70 と変化させた。
この固定子を表面磁石タイプのロータと組み合わせて出力:500 WのブラシレスDCモータを作製し、このモータを 3.0 N・m の負荷をかけた状態で回転させて、 モータ効率を測定した。
得られた結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
同表から明らかなように、B10(C) /B10(L) が0.75〜1.0 の範囲、またY/Th が 0.5〜1.0 の範囲を同時に満足する場合にのみ、良好なモータ効率が得られている。
【0058】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、所定の特性を有する方向性電磁鋼板の表面に金属めっきを施し、さらに歪取り焼鈍時にこれを鉄中に拡散させて濃度勾配を作ることにより、高周波での鉄損を効果的に低減して、電動機の効率を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一体型固定子の打ち抜き形状を示した図である。
【図2】T型分割形状の一例を示した図である。
【図3】分割型固定子を組み上げた全体を示した図である。
【図4】ティース幅Thの算出要領の説明図である。
1 固定子
2 コアバック部
3 ティース部
4 T型分割部品
5 内径
6 外径
7 コアバック部とティース部の交点
8 コアバック部とティース部の交点
9 固定子中心からティース部先端までの長さ
Claims (3)
- Si:2.0 〜8.0 mass%を含有する方向性電磁鋼板であって、その表面に、鉄の金属結合半径よりも0.02Å以上大きいかもしくは0.02Å以上小さい金属結合半径を有する金属元素のめっき層を有し、かつ該鋼板の最も磁気特性の良い圧延方向(L方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(L) が 1.7T以上でかつ、上記L方向から90°離れた方向(C方向)の1000 A/mにおける磁束密度B10(C) とB10(L) との比B10(C) /B10(L) が0.75≦B10(C)/B10(L) ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
- 請求項1において、電磁鋼板の表面にめっきする金属元素が、Cr,Ni,CuおよびZnうちから選んだいずれか一種または二種以上であることを特徴とする電動機固定子用の電磁鋼板。
- 請求項1または請求項2に記載した電磁鋼板をT字型に分割した部品を組み合わせて構成される分割型電動機固定子であって、コアバック部の幅(Y)とティース部の幅 (Th)との比Y/Th が 0.5≦Y/Th ≦1.0 の範囲を満足することを特徴とする分割型電動機固定子。
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