JP2004098109A - 溶接材料、溶接方法および溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】溶接材料は、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が400〜150℃、質量%でC:0.2%以下、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.5〜5%を含有し、Pcnu=C+Ni/12+Cu/5が0.4〜2.0である鉄合金とする。このような溶接材料を用いて、例えば炭酸ガスアーク溶接で溶接することにより、溶接部に発生する引張残留応力を小さくするとともに、応力振幅負荷時に破壊の起点となりうる炭化物やブローホール生成量を少なくすることができ、安定して高い疲労強度を有する溶接継手が得られる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は薄板高張力鋼板のすみ肉溶接や大脚長の水平すみ肉溶接に好適の溶接材料および溶接方法に関し、特に疲労強度に優れた溶接継手部が得られる溶接材料および溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、軽量化を背景に、自動車に代表される薄鋼板、あるいは造船、鉄骨、橋梁などに代表される厚鋼板で高張力鋼板を使用する動きが活発化している。これらの高張力鋼板は溶接で組み立てられることが多いが、溶接継手の疲労強度が従来の軟鋼並しか確保できず、高張力鋼板本来の疲労強度を発揮できない問題がある。
【0003】
溶接部の疲労強度が母材より低下するのは、溶接時に発生する引張残留応力が大きくなることが原因の一つとして挙げられる(非特許文献1参照)。すなわち溶接後、溶接金属が冷却される際に熱収縮することに起因して発生する引張残留応力(以下、単に「残留応力」または「溶接残留応力」ともいう。)が疲労強度の低下をもたらす。そのため、このような熱収縮に起因する残留応力を低減する方法が種々検討されている。
【0004】
例えば、こうした問題点を解決する方法の一つとして、溶接材料や溶接方法に工夫を加える方法、特に溶接部に圧縮応力を付与する方法が注目されている(非特許文献2参照)。この方法は、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度(以下、「マルテンサイト変態開始温度」または「Ms 点」と呼ぶ。)に着目し、Ms点を低くして低温度での変態膨張を利用して残留応力を低減することを目的とするものである。これは、残留応力の発生原因が溶接部の冷却時における熱収縮であることから、変態に伴う膨張(温度が低下することにより体積が膨張する作用)により一時的にこの熱収縮を熱膨張に反転させることにより残留応力の低減を図ることを目的とするものである。このような手法による残留応力の低減方法は公開特許公報にも記述されており、例えばMs点と成分範囲を規定した溶接材料を用いる方法が特許文献1〜3等で報告されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−138290号公報
【特許文献2】
特開2000−17380号公報
【特許文献3】
特開2001−246495号公報
【非特許文献1】
渡辺、他3名,「高強度鋼溶接継手の疲労強度とその支配因子」,溶接学会論文集,社団法人溶接学会,1995年,第13巻,第3号、p.438−443
【非特許文献2】
太田、他7名,溶接学会全国大会講演概要,社団法人溶接学会,1997年9月,第61集,p.520−521
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、低Ms点の溶接材料を用いて溶接残留応力を低減しただけでは、安定して溶接部の継手疲労強度を高めることは難しい問題がある。この理由は、継手疲労強度を支配するのが溶接残留応力だけではなく、ミクロ組織や溶接欠陥にも起因するためである。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高張力鋼板本来の疲労強度を十分に活かした、疲労強度に優れた溶接継手を得ることができる溶接材料および溶接方法を提供することを目的とする。また、このような疲労強度に優れた溶接継手の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来例に係わる溶接材料の化学成分、特に溶融金属中のC、Cu、Si、Ni濃度等に着目して鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
請求項1の発明は、マルテンサイト変態開始温度が400〜150℃、質量%でC:0.2%以下、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.5〜5%を含有し、Pcnu=C+Ni/12+Cu/5が0.4〜2.0である鉄合金からなることを特徴とする溶接材料である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の溶接材料を用いることを特徴とする溶接方法である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1記載の溶接材料を用いて作製された溶接継手である。
【0012】
上記溶接材料を用いて作製した溶接継手は、溶接材料のMs点を低下させて溶接部に発生する残留応力を小さくするだけでなく、応力振幅負荷時に破壊の起点となりうる炭化物やブローホール生成量を少なくすることにより、安定して高い疲労強度を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
発明者らは、溶接部に発生する残留応力を低減しつつ、安定して溶接部の疲労強度が高められる方法について種々の検討を行った。その結果、溶接部の疲労強度を安定して高めるためには、溶接金属のMs点を低めて残留応力を制御することに加えて、溶接金属中の炭化物に代表される非金属介在物やブローホール欠陥の制御が重要との知見を得て本発明を完成するに至った。そして、溶接材料中に含まれる合金元素とミクロ組織ならびに疲労試験を行った結果、溶接金属の化学成分を調整して溶接金属のMs点を低下させて残留応力を低減させることに加えて、溶接材料中にCr、Mo、Nb等に代表される強炭化物形成元素を含まない場合には溶接金属中に生成する炭化物量が少なくなり、さらには脱酸元素であるSiを適量加えて溶接金属中に溶解する酸素量を減少させることによりブローホール欠陥を抑制でき、応力振幅が溶接部に付与された場合にも破壊の起点となる非金属介在物量やブローホール量が低減されることから疲労強度を高められることを見出した。そして、これらの要件を達成するための手段として、溶接材料中の含有成分がC:0.2質量%以下、Cu:0.5〜5質量%、Si:0.2〜1.5質量%、Pcnu=C+Ni/12+Cu/5が0.4〜2.0である場合に、優れた疲労特性を安定して具現化されることを見出した。
【0014】
次に本発明にて規定した溶接材料の化学成分添加理由および組成限定理由について説明する。
【0015】
鉄合金は先に述べたように、冷却過程においてマルテンサイト変態が生じると、マルテンサイト変態開始からある程度温度が降下するまでの間に一旦膨張する(図1参照)。本発明(実線)においては、溶接により生成する溶接金属に溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、室温において、マルテンサイト変態開始時より膨張した状態とするものである。その結果、冷却過程で溶接金属に生じた引張残留応力を緩和する、あるいは引張残留応力に代えて圧縮残留応力を与えることができる。これに対し、本発明の規定範囲を外れる従来の溶接材料から生成する溶接金属(破線)では、マルテンサイト変態開始温度(Ms 点)が高く、マルテンサイト変態による膨張が少ないため、室温においては、変態完了後の冷却により収縮した状態となる。
【0016】
Cの含有量は、溶接性を確保しマルテンサイトの硬さを下げるために少ない方が好ましく、溶接割れを生じさせないためには0.2質量%以下、特に好ましくは0.1質量%未満とする。
【0017】
マルテンサイト変態開始温度は、C、Cr、Ni、Si、Mn、Mo、Nb等の合金元素含有量を調整することにより変化させることができるが、これら元素の内、Cr、Mo、Nb等は溶接金属中に含まれるCとの反応性が富み炭化物を形成しやすい元素である。このようにして生成した炭化物は応力振幅付与時の破壊の起点となり継手疲労強度を低下させる原因となることからできるだけ含有させない方がよい。特許文献1(特開平11−138290号公報)や特許文献3(特開2001−246495号公報)等に記載された通り、Crはマルテンサイト変態開始温度を低下させるのに有効な元素であるが、炭化物抑制の観点からは好ましいとは言えない。そのため本発明ではCr、Mo、Nb等の炭化物生成能の強い元素は添加しないが、特にCrを添加しないことはMs点を低下させる面では不利となるので、同様にMs点を低下させる能力が高いがCとの反応性に乏しいCuを多量添加して、Cr未添加の弊害を補うものである。
【0018】
上記の通りMs点低下の効果も鑑み、Cuの含有量は0.5〜5質量%とした。つまりCrに代わってMs点の低下をもたらす必要があることから、Cuの含有量は0.5質量%以上とすることが必要となる。一方Cuの含有量が5質量%を越えると、Cuの偏析による凝固割れが発生し易くなることから5質量%を上限とした。
【0019】
Niは、マルテンサイト変態温度の調整だけでなく、溶接金属の靱性改善及び強度向上にも有効な元素である。しかしNi含有量が13%を越えても効果は飽和するとともに、Niは高価な元素であり多量に添加するのは経済的にも好ましくないので、添加する量としては13質量%以下(0質量%を含む)が推奨される。なおミクロ偏析による溶接金属の成分バラツキによる疲労強度低下を防止するには、9質量%未満とすることが好ましい。
【0020】
上記の通り、本発明の溶接材料にはC、Cu、Niを添加するが、これらの添加量は、Pcnu=C+Ni/12+Cu/5が0.4〜2.0を満足する必要がある。つまり0.4以下では溶接金属の焼入性が低下してMs点を十分に低下させることができず、継手の残留応力が減少しないため高い疲労強度が得られない。一方2.0を越えると溶接金属のマルテンサイトが高硬度化して変形能が低下するため、疲労強度が低下する弊害が生じる。
【0021】
また炭化物と同様にブローホール欠陥も応力振幅負荷時の破壊の起点となることから、溶接金属中でのブローホール欠陥を防止する必要がある。ブローホール生成を抑制するには強脱酸元素であるSiを溶接材料中に含有させることが有効である。不活性シールドから炭酸ガス溶接まで、シールドガス中の広範な酸素量に対して安定して脱酸機能を果たして溶接金属中のブローホール欠陥を抑制するため、Siは0.2%以上、好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.6%以上、特に好ましくは0.8%以上添加する。なお1.5質量%以上添加しても溶接材料製造工程における加工性が低下するため、Si添加量の上限は1.5質量%とする。
【0022】
なお上記は溶接材料中に必須の添加元素として含まれるべき元素を記したものであり、溶接材料の製造性や加工性、あるいは溶接金属の強度や靭性を調整する目的で、Al、Ca、Bなどを適宜添加することが可能であるが、本発明を限定する性質のものではない。
【0023】
本発明が意図する溶接材料としては、代表例としてソリッドワイヤが例示されるが、シース材の内側に粉末を含有させるメタル系あるいはスラグ系フラックス入りワイヤでも適用可能である。フラックス入りワイヤについては溶接材料単体のMs点を評価することは原理的に不可能なことから、本発明では同等の化学成分を有するバルク状評価試験片を溶解した後に熱処理する方法により作製し、Ms点を評価している。スラグ系フラックス入りワイヤとして使用する場合には、溶接作業性の劣化を防ぐために溶接後のスラグ剥離性を向上させることが望まれるため、酸化ビスマスを添加してもよいが、この場合の添加量は溶接材料全質量当たり0.002〜0.10%程度が適当である。またアークの安定性やスラグ量を調整するなどの目的で、必要に応じてフラックス成分として、酸化物、弗化物、金属及び合金などを適量にて添加することができる。例えば、スラグ量を調整するためにスラグ形成剤として、CaO、MnO、Al2O3等の酸化物を添加できる。また脱水素剤として、CaF2、SrF2、MgF2、K2SiF6等の弗化物を添加できる。
【0024】
本発明をフラックス入りワイヤとして使用する場合には、ワイヤの断面形状、ケーシング材質、ワイヤ径等も特に制限されない。成分の添加態様に関しては、通常外皮金属として軟鋼等を用いるが、外皮金属で不足する成分または添加量をフラックスへの配合にてまかない、ワイヤ全質量に対する所定の配合量とすることは言うまでもない。さらに外皮成分が制限されないことは言うまでもない。またフラックス率(ワイヤ全質量に対するフラックスの質量%)は特に限定されないが、5〜25%が適当である。
【0025】
また溶接材料がソリッドワイヤであれフラックス入りワイヤであれ、溶接のシールドガスに特に限定はない。炭酸ガスアーク溶接のほか、Arガスを主体とするガスアーク溶接等も可能である。
【0026】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0027】
【実施例】
以下に、本発明の実施例について説明する。表1に示す化学成分の鋼板を用いて、図2に示す溶接条件で重ねアーク溶接継手を製作した。これらの溶接継手から図3に示す試験片を採取し、図3中に併記した条件で疲労試験を実施した。溶接材料の化学成分と溶接継手の疲労強度測定結果を表2に示す。なお溶接材料は軟鋼製ケーシング内に金属粉を充填し、全体の化学組成が表2になるように調整したφ1.2mmのメタル系フラックス入りワイヤあるいはφ1.2mmのソリッドワイヤを製造して実験に供した。なおフラックス入りワイヤのMs点は、同等の化学成分を有するバルク状評価試験片を溶解した後に熱処理する方法により作製して評価した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示すように、No.10〜15に示す溶接材料では化学成分が本発明の規定範囲を満足しており、このため溶接継手の疲労強度が高い。
【0031】
一方No.1〜9は、溶接材料の化学成分が本発明の規定範囲から外れているため、溶接継手部に高い疲労強度が得られていない。以下に現象を説明する。
【0032】
No.1:Pcnu が本発明の規定範囲を越えるため溶接金属のマルテンサイトが高硬度化した。そのため溶接金属の変形能が低下したため、疲労強度が低下した。
【0033】
No.2:Si含有量が本発明の規定範囲よりも低いため、溶接金属中にブローホール欠陥が発生したものと推察される。そのため高い疲労強度が得られなかった。
【0034】
No.3:C 含有量が本発明の規定範囲を超えるため、溶接金属のマルテンサイトが高硬度化して変形能が低下したため疲労強度が低下した。
【0035】
No.4:Cu 含有量が本発明の規定範囲よりも低いため、溶接金属の焼入性が低下してMs温度を十分に低下させることができず、継手の残留応力が減少しないため高い疲労強度が得られなかった。
【0036】
No.5:Cu 含有量が本発明の規定範囲を超えるため、溶接金属が溶接終了後に高温割れした。そのため疲労強度を評価できなかった。
【0037】
No.6〜8:Cr、Mo、Nbの炭化物形成元素を添加したために疲労強度が低下した。炭化物が破壊の起点となったものと思われる。
【0038】
No.9:Pcnuが本発明の規定範囲より低いため、溶接金属の焼入性が低下してMs温度を十分に低下させることができず、継手の残留応力が減少しないため高い疲労強度が得られなかった。
【0039】
【発明の効果】
以上より明らかなように、本発明によれば、溶接部の引張残留応力が低下するとともに疲労破壊の起点となる介在物や欠陥が抑制され、溶接ビードの手直しをすることなく溶接ままで高い疲労強度の溶接継手が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接材料と従来の溶接材料から生成した溶接金属の変態特性の相違を示す説明図である。
【図2】重ねアーク溶接継手の溶接条件を示す説明図である。
【図3】溶接継手の疲労試験条件を示す説明図である。
Claims (3)
- マルテンサイト変態開始温度が400〜150℃、質量%でC:0.2%以下、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.5〜5%を含有し、Pcnu=C+Ni/12+Cu/5が0.4〜2.0である鉄合金からなることを特徴とする溶接材料。
- 請求項1記載の溶接材料を用いることを特徴とする溶接方法。
- 請求項1記載の溶接材料を用いて作製された溶接継手。
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