JP4331340B2 - 低合金鋼鋼材に使用する炭酸ガス用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、熱風炉等の鉄皮に使用される低合金鋼の現地にて自動溶接する溶接ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱風炉鉄皮に使用される鋼材は、熱風炉で発生するN0xが原因で内壁面に硝酸塩を生じ、応力腐食割れが発生していた。この問題を解決するため、耐硝酸塩腐食割れ性の優れた鉄皮用鋼材(以下低合金鋼という)が使用されている。この熱風炉に使用されている低合金鋼の現地溶接には、オーステナイト系ステンレス鋼の被覆溶接棒が用いられているが、現地での工期短縮等の要請から溶接効率の向上が望まれている。
被覆アーク溶接では溶接能率を上げるために溶接電流を上げる技術が知られている。ところが、オーステナイト系ステンレス鋼棒は熱伝導率が小さいため、溶接電流を上げると溶接棒心線がいわゆる棒焼けを生じ、高電流化は困難である。このため、前記低合金鋼の現地溶接では、溶接電流を上げて溶接能率を向上することは困難であった。
一方、施工工期を短縮するためには溶接人員を多くする方法があるが、コスト高であり、また熟練工不足もあってこれを実現することも困難であった。
また、現地溶接においては屋外作業で、且つ、高所作業となるため、溶接性、耐ブローホール性に優れたフラックス入りワイヤを開発することが求められていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような問題を解決するために本発明は、低合金鋼の現地溶接における溶接法を被覆アーク溶接からフラックス入りワイヤによる炭酸ガス溶接とし、且つ高電流とすることによって溶接速度を高める自動溶接として工期短縮を図り、さらに、溶接性、耐ブローホール性に優れたフラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、これらの課題を解決するためのものであって、その要旨とするところは、熱風炉の鉄皮に使用する耐硝酸塩腐食割れ性の優れた鉄皮用鋼材を現地で自動溶接する際に用いるオーステナイト鋼系ステンレス成分を有するフラックス入りワイヤであって、該ワイヤが、質量%で、C:0.04%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:9.0〜11.0%、Cr:22.0〜25.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼と、8〜12%のスラグ生成剤を含有してなり、Delong組織図から求められる溶接によって得られる溶着金属中のフェライト量が20〜30%となることを特徴とするフラックス入りワイヤにある。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、熱風炉鉄皮として、特公昭57ー15661号公報に開示されている耐硝酸塩応力腐食割れ性に優れた鉄皮用低合金鋼材、例えばC≦0.02%,Si≦3.0%,Mn≦2.0%,P≦0.02%,S:≦0.02%,Cr:2〜9%,その他Ni,Mo,Ti,W,Cu,Al等の少なくとも1種を必要に応じて含有し(いずれも質量%)、残部がFe及び不可避的不純物からなる耐硝酸塩応力腐食割れ性に優れた低合金鋼を使用し、熱風炉鉄皮を現地溶接するにあたり、従来の被覆アーク溶接棒とフラックス入りワイヤを用いて、時間当たりの溶着速度を高め、高能率に溶接を行うための実験を行った。
被覆アーク溶接による従来の使用平均電流は溶接棒の線径が4mmの場合に150〜160Amp以上で、溶着速度は1.2Kg/Hrが限界であった。これに対して、フラックス入りワイヤを用いた場合の検討結果は表1の溶接条件の欄に示されるように、フラックス入りワイヤでは180Amp以上の溶接電流で、被覆アーク棒の3倍以上の溶着速度が得られることがわかる。
【0006】
【表1】
【0007】
ところで表1は、前記低合金鋼を被覆アーク棒と同様の成分系であるJIS Z 3323系ワイヤを使用して、図1に示す低合金鋼で使用する開先形状で横シーム溶接での溶接試験を実施したものであって、図1の開先形状で図2の積層順序での積層ビードを形成し、各積層ビードのEPMAにより求めたNi,Crの成分分析結果を示している。表1のその他に成分はNo.8,9ビートより採取した切粉を分析した値で示している。また、表1には各ビード成分からNi等量(Nieq),Cr等量(Creq)を計算し、図6に示すdelong組織図(ASME 1998 SECTIONII,PART-C,SAF-5.22)からフェライト量(%)を求めた。表1から明らかのように、ビード断面の一部(ビートNo.3,9)に割れを生じている。割れの生じている部分は、図6に示すdelong組織図から求められるフェライト量の著しい減少が認められる。
【0008】
また、図7及び図8はビード部のミクロ組織を示す顕微鏡写真(×100)である。白色部分がオーステナイトマトリックスであり、黒色がフェライト粒界である。すなわち、図7は割れが発生していないビードのミクロ写真で、図8は割れが発生しているビードのミクロ写真である。写真に示すように割れが発生しているビードは、割れが発生していないビードに比べてフェライトがほとんど観察されていない。割れの原因はフェライト量の低下によって完全オーステナト系ステンレスでよく見られる高温割れである。
【0009】
これは、フェライト量が著しく低下すると高電流のため母材の溶け込みが大きくなったり、横向き姿勢で開先上部を狙った場合に母材の溶け込みが大きくなり希釈率が大きくなって起こるもので、これを防止するためには、フェライト量を多くすることが効果的である。鋼中のフェライト量を知る手段として、Delong組織図から調査する方法がある。
【0010】
そこで、フェライト量の多い成分系材料の一つであるAWS A5.22系で同様の溶接試験を行うとJIS Z 3323系で見られたような割れは発生しなかった。しかし、低合金鋼溶接部に求められる主たる性能の応力腐食割れ試験ではJIS Z 3323系、AWSA5.22系溶接材料のいずれにも溶接金属と母材との境界部に割れが認められた。
【0011】
図3にJIS Z 3323系溶接材料を用いた場合、及び図4にAWS A5.22系溶接材料を用いた場合の母材および溶接金属の断面硬さ試験結果を示す。図3、図4に示すように、溶接金属と母材との間に硬さの差があり、境界部に応力集中が起こり、応力腐食割れが発生したものである。この結果から図5に示すように、JIS Z 3323系溶接母材とAWSA5.22系溶接母材の中間のフェライト量を有する成分系材料がこの問題を解決することを見出した。
【0012】
すなわち、溶接金属と母材との境界部に生じる応力腐食割れを防止するには、溶着金属中のフェライト量を20%〜30%とすればよい。表2に、表示した各成分の溶接ワイヤ(フラックスとしてCr:25%,Ni:10%,鉄粉,および脱酸材としてFe−Si,Fe−Mn 等を充填)を用いて溶接した時の溶着金属のDelong値(フェライト量)を示した。また、その溶着金属の各種性能試験結果を表3に示した。フェライト量が20%未満では、高温割れを生じる。またフェライト量が30%を超えると応力腐食割れが発生する。
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
また、フェライト量が20〜30%となる成分系では、JIS Z 3323−2があるが、これはCr,Niの含有量が多い。このため、さらにスラグ剤を増大させ現地溶接に適した作業性を確保するためには、高い充填率が要求され、細紐ワイヤの製造が困難となり生産性に問題がある。
【0016】
次に本発明のワイヤに含有する各成分について説明する。各成分とも溶着金属に生成するフェライト量がDelongの組織表より求めて20〜30%の範囲になるように成分調整することを前提としている。以下には各元素の個別添加理由を説明する。
CはCr炭化物として析出すると粒界腐食が増大するため、低く抑制する必要がある。Si,Mnは脱酸剤として利用し、多すぎると溶接性を低下させる。Crは不働態を形成し、酸化性酸に対して有効である。Niはオーステナイト相を安定化し、中性酸化物溶液や非酸化性酸による腐食に対して顕著な抵抗性を与え、かつ不働態をさらに強化する。
【0017】
以下成分の限定理由について述べる。
Cは溶接部の耐食性に有害であり、低く抑制する必要があり、0.04%以下と一般的な低炭素のステンレスと同様とした。
【0018】
Si,Mnについては溶接材料の脱酸剤として利用されており、多すぎると溶接性が低下するため、一般的なステンレスと同様にSi:1.0%以下Mn:0.5〜2.5%とした。
【0019】
Crは多いほど耐食性、耐酸化性は向上するが、多すぎると経済的ににも高価となるため、JIS Z 3221で使用されている22.0%〜25.0%とした。
【0020】
Niは耐食性、耐酸化性を向上させ、かつオーステナイト相を安定化させ、かつフェライト量がDelong組織図により20%〜30%を確保すべく9.0%〜11.0%とした。
【0021】
次に、熱風炉等の屋外での建設工事において、現地溶接をフラックス入りワイヤの炭酸ガス溶接で行う場合には、防風対策が不可欠である。しかし、屋外において、しかも高所での作業では完全に風を防ぐことは不可能である。そこで防風対策に優れたワイヤにするためには、溶着金属表面を覆うスラグをある程度多くする必要がある。表4に示すように各スラグ生成剤となるようにフラックス入りワイヤを試作し、風速2m/sec以上の環境で溶接試験を行った。
結果を表4に示すように、ワイヤ中のスラグ生成剤が8%未満では風速2m/secを超える風によってブローホールが発生し、スラグ生成剤が12%以上では溶着金属表面を覆ったスラグの除去が困難となり、溶接作業性が劣ることが判明した。
【0022】
【表4】
【0023】
以上のことから、本発明のフラックス入りワイヤが上記諸条件を満たすことが判明し、熱風炉の現地での自動溶接工事に採用可能であって、能率向上、品質向上に多大に寄与することが分かる。
【0024】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、溶着金属にフェライト量を20〜30%生成できる規程された成分を含有するフラックス入り溶接ワイヤを用いて溶接することにより、低合金鋼を使用する熱風炉等の鉄皮の現地溶接で問題であった、溶接部の割れの発生、溶接欠陥の発生を防止できる。また、本発明によれば、従来被覆アーク溶接で行われていた継手溶接がFCWでの施工が可能である。さらに、本発明によれば、高電流領域で安定した溶接部が得られ、且つ溶着速度の6.1Kg/Hrまで上げることができ、欠陥発生率を押さえることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】横シーム溶接を想定した溶接試験用開先形状を示す図表。
【図2】図1に示す開先形状のビードの積層順序を示す図表。
【図3】JIS Z2233系溶接材料を用いた溶接断面の硬さ試験結果を示す図表。
【図4】AWS A5.22系溶接材料を用いた溶接断面の硬さ試験結果を示す図表。
【図5】本発明のワイヤの硬さ試験結果を示す図表。
【図6】Delong組織図。
【図7】割れが発生していないビードのミクロ写真。
【図8】割れが発生しているビードのミクロ写真。
Claims (1)
- 熱風炉の鉄皮に使用する耐硝酸塩腐食割れ性の優れた鉄皮用鋼材を現地で自動溶接する際に用いるオーステナイト鋼系ステンレス成分を有するフラックス入りワイヤであって、該ワイヤが、質量%で、C:0.04%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:9.0〜11.0%、Cr:22.0〜25.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼と、8〜12%のスラグ生成剤を含有してなり、Delong組織図から求められる溶接によって得られる溶着金属中のフェライト量が20〜30%となることを特徴とするフラックス入りワイヤ。
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