JP2004098084A - 溶接方法およびハット形溶接部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材を形成し得る溶接方法を提供する
【解決手段】断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材10、20を重ね溶接してハット形溶接部材30を形成するための溶接方法であって、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行う。
【選択図】 図1
【解決手段】断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材10、20を重ね溶接してハット形溶接部材30を形成するための溶接方法であって、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行う。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法および当該溶接方法により溶接されるハット形溶接部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の軽量化要請の高まりから、車体部品やシャシー部品にアルミニウムなどの軽合金を適用する試みが広く行われてきている(例えば、特許文献1を参照)。アルミニウム合金を車体やシャシー部材に適用するに当っては、アルミニウム合金をレーザ溶接やMIG溶接などにより接合して使用する場合が多々ある。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−118438号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、時効硬化熱処理により強度を調整したアルミニウム合金部材をレーザ溶接やMIG溶接などにより溶接した場合には、溶接時の入熱により、軟化を伴う熱影響部(HAZ部)が形成される。軟化を伴う熱影響部を熱軟化部ともいう。この熱軟化部は強度が低く破壊が生じ易いので、接合された溶接部材の強度やエネルギ吸収量が低下し易いという問題がある。従来、種々の溶接法や部材形状が提案されているものの、十分なものではなかった。
【0005】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであり、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法であって、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材を形成し得る溶接方法を提供するとともに、当該溶接方法により溶接され自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いて好適なハット形溶接部材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0007】
本発明は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法において、
2つの被溶接材を重ねた重ね部に対して、ハット形溶接部材の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行うことを特徴とする溶接方法である。
【0008】
また、当該溶接方法により溶接され、その用途が、自動車の車体部品あるいはシャシー部品であることを特徴とするハット形溶接部材である。
【0009】
【発明の効果】
本発明の溶接方法によれば、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材を重ねた重ね部に対して、ハット形溶接部材の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられているために、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱影響部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱影響部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材を形成することが可能となる。
【0010】
また、本発明のハット形溶接部材によれば、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制した溶接方法により溶接されており、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いて好適なものとなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1(A)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する本発明に係る溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図、図1(B)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する一般的な溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図である。なお、図において、溶接線は太線にて示される。
【0013】
図示するハット形溶接部材30は、断面が略ハット形状を有する第1と第2の2つの被溶接材10、20を重ね溶接して形成されている。各被溶接材10、20は、横壁部11、21と、当該横壁部11、21から垂下する一対の縦壁部12、22と、当該縦壁部12、22の下端に設けられたフランジ部13、23とを備え、横壁部11、21に対向する部位は開放されている。これら各部により、第1と第2の2つの被溶接材10、20は、断面が略ハット形状を有している。第1の被溶接材10の端部の上に、第2の被溶接材20の端部が寸法Lだけ重ね合わされ、この重なり合った第1と第2の被溶接材10、20の部分により、重ね部31が構成されている。
【0014】
後述するが、本実施形態では、図1(A)に示すように、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられている。
【0015】
このようなハット形溶接部材30は、例えば、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられている。
【0016】
溶接法は、レーザ溶接、ミグ溶接あるいはプラズマ溶接を採用できる。重ね溶接を高密度エネルギビーム溶接つまりレーザ溶接により行うと、溶け込み深さが深く、高速溶接を行うことができ、溶接時間の短縮や熱歪みの低減が可能になるという効果が期待できる。レーザは、例えば、YAGレーザが用いられる。
【0017】
被溶接材10、20は、車両重量の軽量化および強度の向上の観点から、アルミニウム合金、より好ましくは、時効硬化処理が施され調質されたアルミニウム合金を用いるのが好ましい。被溶接材10、20としては、上記のアルミニウム合金または調質されたアルミニウム合金の押出し成形品が用いられる。プレス成形品からなる被溶接材を用いることもできる。被溶接材10、20の板厚は、外観不良や溶け込み不足などを防止し、溶接品質を確保する観点から、適宜の寸法が選択される。例えば、自動車の車体部品あるいはシャシー部品として一般的に用いられるアルミニウム板材は、2mm程度の板厚を有している。
【0018】
図1(B)に示すように、一般的な溶接方法にあっては、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周方向に沿って重ね溶接が行われており、溶接時に生じた熱軟化部は、周方向に沿って連続している。熱軟化部が連続する方向は、ハット形溶接部材30が図中二点鎖線矢印で示される曲げ入力を受けた際の亀裂方向と一致する。このため、熱軟化部から亀裂が発生および進展し、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能が低下する。
【0019】
そこで、本実施形態にあっては、図1(A)に示すように、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行っている。
【0020】
溶接線の全長を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の周長は、重ねられたときに内側に位置する第1の被溶接材10の外周面を基準とし、フランジ幅を除いた長さである。また、溶接線の間隔を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の一辺の長さは、第1の被溶接材10の溶接が行われる各面の辺の長さである。
【0021】
かかる溶接方法によれば、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられているために、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱軟化部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材30の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱軟化部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った図1(B)に示される場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱軟化部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制できる。したがって、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材30を形成することが可能となる。
【0022】
ここで、溶接線の全長が、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周長よりも短い場合には、被溶接材10、20が相互に接合された部位の全長が短いために、曲げ入力に対して十分な強度が得られない。このため、溶接線の全長は、略ハット形状をなす前記断面の周長以上とするのが好ましい。
【0023】
また、溶接線の間隔が、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の一辺の長さの1/2以上であるような場合には、変形時に荷重を受ける溶接ビードの数の絶対数が少なくなり、曲げ入力に対して十分な強度が得られない。このため、溶接線の間隔は、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0024】
溶接法がレーザ溶接である場合には、溶接ビードと熱軟化部とを合わせた幅が約5mm程度となる。このため、溶接線の間隔が8mm未満では、曲げ入力に対する破断強度はある程度の値が得られるものの、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまい、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという本発明の効果が得られなくなってしまう。そこで、重ね溶接をレーザ溶接により行う際の溶接線の間隔は、8mm以上、かつ、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0025】
溶接法がミグ溶接あるいはプラズマ溶接である場合、一般的なアルミニウム板材である2mm厚さの板の重ね部31の溶接を行うと、溶接ビードと熱軟化部とを合わせた幅が約15mm程度となる。このため、溶接線の間隔が20mm未満では、曲げ入力に対する破断強度はある程度の値が得られるものの、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまい、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという本発明の効果が得られなくなってしまう。そこで、重ね溶接をミグ溶接あるいはプラズマ溶接により行う際の溶接線の間隔は、20mm以上、かつ、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0026】
上記の溶接方法により溶接され、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられるハット形溶接部材30によれば、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制した溶接方法により溶接されているので、曲げ剛性の高いものとなり、自動車車体など最終製品の強度が向上する。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0028】
図2〜図8に、本発明の実施例および比較例で得られたハット形溶接部材30の溶接状態の模式図を示す。なお、各図において、溶接線は太線にて示される。また、実施例、比較例の番号が示され、溶接方法もカッコ書きで併せて示される。
【0029】
断面が略ハット形状を有する第1と第2の2つの被溶接材10、20を、溶接状態および溶接方法を種々組み合わせて重ね溶接し、得られたハット形溶接部材30の曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に及ぼす溶接線の全長および溶接線の間隔の影響について調査した。
【0030】
各被溶接材10、20は、時効硬化処理が施され調質されたアルミニウム押し出し材(A6063−T5)材からなる。第1の被溶接材10として、幅:51mm、高さ:55mm、フランジ幅:22mm、長さ:1000mm、板厚:2mmのものを使用した。第2の被溶接材20として、幅:55mm、高さ:57mm、フランジ幅:20mm、長さ:1000mm、板厚:2mmのものを使用した。重ね部31の長さ:30mmで2つの被溶接材10、20を重ね、重ね溶接を行った。
【0031】
溶接線の全長を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の周長は、重ねられたときに内側に位置する第1の被溶接材10の外周面を基準とし、フランジ幅を除いた、51+55×2=161mmである。また、溶接線の間隔を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の一辺の長さは、第1の被溶接材10の溶接が行われる各面の辺の長さである51mmまたは55mmである。
【0032】
各溶接状態は次のとおりである。
【0033】
図2に示すように、比較例1(レーザ溶接)、比較例4(MIG溶接)、比較例7(プラズマ溶接)では、重ね溶接および第2の被溶接材20の端部におけるすみ肉溶接を、被溶接材の周方向に沿って行った。重ね溶接とすみ肉溶接との間隔は15mm、全溶接長は340mmである。
【0034】
図3〜図8に示される実施例および/または比較例では、いずれも、重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に複数の重ね溶接を行った。但し、溶接線の全長および溶接線の間隔が異なっている。
【0035】
図3に示すように、実施例1(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を18mm、各面でのビード間距離を17mmとし、9箇所に行った。全溶接長は162mmである。溶接線の全長(162mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(17mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。
【0036】
図4に示すように、実施例2(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を17mmとし、9箇所に行った。全溶接長は270mmである。溶接線の全長(270mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(17mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。
【0037】
図5に示すように、比較例2(レーザ溶接)、比較例5(MIG溶接)、比較例8(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mmとし、各面の中央の3箇所に行った。全溶接長は90mmである。溶接線の全長(90mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)未満である。
【0038】
図6に示すように、実施例3(レーザ溶接)、比較例6(MIG溶接)、比較例9(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を10mmとし、12箇所に行った。全溶接長は360mmである。溶接線の全長(360mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。実施例3(レーザ溶接)の場合の各面での溶接線の間隔(10mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。比較例6(MIG溶接)および比較例9(プラズマ溶接)の場合の各面での溶接線の間隔(10mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であるが、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまう溶接線の間隔である20mm未満となっている。
【0039】
図7に示すように、実施例4(MIG溶接)、実施例5(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を25mmとし、6箇所に行った。全溶接長は180mmである。溶接線の全長(180mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(25mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる20mm以上である。
【0040】
図8に示すように、比較例3(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を5mmとし、12箇所に行った。全溶接長は360mmである。溶接線の全長(360mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(5mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であるが、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまう溶接線の間隔である8mm未満となっている。
【0041】
溶接方法は、レーザ溶接、MIG溶接、プラズマ溶接の3種で行った。レーザ溶接には、3kWと2kWのYAGレーザを使用し、これら2つのレーザ光を溶接方向と平行に配置し、溶接速度:3m/minで、5356合金をフィラーワイヤとして用いて実施した。MIG溶接は、電流:150A、溶接速度:0.5m/minで、5356合金をフィラーワイヤとして用いて実施した。プラズマ溶接は、電流:100A、溶接速度:0.7m/minで実施した。
【0042】
溶接状態および溶接方法の組み合わせを下記の表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
得られたハット形溶接部材30に対して、断面の開放面側に、厚さ:2mmのA5052板材をリベット接合により接合し、評価用の粗材を得た。
【0045】
図9は、三点曲げ試験の概要を示す模式図である。
【0046】
得られた評価用粗材40に対し、支点間距離:700mmで重ね部31の中央に押し子41が当るようにし、試験速度:15mm/minで三点曲げ試験を行い、荷重−変位線図を取得し、曲げ入力に対する破断荷重およびエネルギ吸収量を求めた。なお、図中符号42および43はそれぞれ、ハット形溶接部材30の開放面に接合されたクロージングプレート、および、支持治具を示している。
【0047】
図10(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りの破断強度を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りの破断強度を示している。また、図11(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りのエネルギ吸収量を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りのエネルギ吸収量を示している。
【0048】
図10(A)〜(C)に示されるように、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品のいずれにおいても、本発明の実施例においては、比較例と比べて、単位溶接長当りの破断強度が向上していることを確認した。
【0049】
また、図11(A)〜(C)に示されるように、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品のいずれにおいても、本発明の実施例においては、比較例と比べて、単位溶接長当りのエネルギ吸収量の何れもが向上していることを確認した。
【0050】
特に、単位溶接長当りのエネルギ吸収量の増加が大きいが、これは、本発明の実施例においては、溶接時に形成される熱軟化部が連続していないために、発生した亀裂が進展し難く、完全破断に至るまでの変形量が増加していることが影響しているものである。
【0051】
以上説明したように、本発明の溶接方法によれば、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材10、20を重ね溶接してハット形溶接部材30を形成するための溶接方法において、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行ったので、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱影響部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材30の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱影響部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材30を形成することが可能となる。
【0052】
また、前記重ね溶接を高密度エネルギビーム溶接により行うことにより、溶け込み深さが深く、高速溶接を行うことができる。
【0053】
また、前記重ね溶接をレーザ溶接により行う際の溶接線の間隔は、8mm以上であるので、隣り合う熱軟化部が連続してしまうことはなく、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという所期の効果を得ることができる。
【0054】
また、前記重ね溶接をミグ溶接あるいはプラズマ溶接により行う際の溶接線の間隔は、20mm以上であるので、隣り合う熱軟化部が連続してしまうことはなく、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという所期の効果を得ることができる。
【0055】
また、前記被溶接材はアルミニウム合金であるので、ハット形溶接部材30の軽量を図ることができ、さらに、時効硬化処理が施されたアルミニウム合金であるので、溶接熱に伴う軟化を防止してハット形溶接部材30の強度の低下を抑えることができる。このように本発明は、溶接部近傍の熱影響部からの破断が生じ難い、時効効果処理の施されたアルミニウム合金の溶接方法および時効効果処理の施されたアルミニウム合金製の溶接部材に適用して好適である。
【0056】
上記の溶接方法により溶接され、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられるハット形溶接部材30によれば、溶接部近傍の熱影響部からの破断が生じ難く、破断強度およびエネルギ吸収能に優れた時効硬化型アルミニウム合金の溶接された部材、特に曲げ入力に対して破断強度およびエネルギ吸収能が優れた部材を得ることができる。ハット形溶接部材30の曲げ剛性が高いものとなるので、自動車車体など最終製品の強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する本発明に係る溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図、図1(B)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する一般的な溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図である。
【図2】比較例1、4、7で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例2で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図5】比較例2、5、8で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例3および比較例6、9で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例4、5で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図8】比較例3で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図9】三点曲げ試験の概要を示す模式図である。
【図10】図10(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りの破断強度を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りの破断強度を示している。
【図11】図11(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りのエネルギ吸収量を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りのエネルギ吸収量を示している。
【符号の説明】
10…第1の被溶接材
20…第2の被溶接材
30…ハット形溶接部材
31…重ね部
【発明の属する技術分野】
本発明は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法および当該溶接方法により溶接されるハット形溶接部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の軽量化要請の高まりから、車体部品やシャシー部品にアルミニウムなどの軽合金を適用する試みが広く行われてきている(例えば、特許文献1を参照)。アルミニウム合金を車体やシャシー部材に適用するに当っては、アルミニウム合金をレーザ溶接やMIG溶接などにより接合して使用する場合が多々ある。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−118438号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、時効硬化熱処理により強度を調整したアルミニウム合金部材をレーザ溶接やMIG溶接などにより溶接した場合には、溶接時の入熱により、軟化を伴う熱影響部(HAZ部)が形成される。軟化を伴う熱影響部を熱軟化部ともいう。この熱軟化部は強度が低く破壊が生じ易いので、接合された溶接部材の強度やエネルギ吸収量が低下し易いという問題がある。従来、種々の溶接法や部材形状が提案されているものの、十分なものではなかった。
【0005】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであり、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法であって、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材を形成し得る溶接方法を提供するとともに、当該溶接方法により溶接され自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いて好適なハット形溶接部材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0007】
本発明は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法において、
2つの被溶接材を重ねた重ね部に対して、ハット形溶接部材の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行うことを特徴とする溶接方法である。
【0008】
また、当該溶接方法により溶接され、その用途が、自動車の車体部品あるいはシャシー部品であることを特徴とするハット形溶接部材である。
【0009】
【発明の効果】
本発明の溶接方法によれば、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材を重ねた重ね部に対して、ハット形溶接部材の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられているために、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱影響部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱影響部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材を形成することが可能となる。
【0010】
また、本発明のハット形溶接部材によれば、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制した溶接方法により溶接されており、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いて好適なものとなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1(A)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する本発明に係る溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図、図1(B)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する一般的な溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図である。なお、図において、溶接線は太線にて示される。
【0013】
図示するハット形溶接部材30は、断面が略ハット形状を有する第1と第2の2つの被溶接材10、20を重ね溶接して形成されている。各被溶接材10、20は、横壁部11、21と、当該横壁部11、21から垂下する一対の縦壁部12、22と、当該縦壁部12、22の下端に設けられたフランジ部13、23とを備え、横壁部11、21に対向する部位は開放されている。これら各部により、第1と第2の2つの被溶接材10、20は、断面が略ハット形状を有している。第1の被溶接材10の端部の上に、第2の被溶接材20の端部が寸法Lだけ重ね合わされ、この重なり合った第1と第2の被溶接材10、20の部分により、重ね部31が構成されている。
【0014】
後述するが、本実施形態では、図1(A)に示すように、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられている。
【0015】
このようなハット形溶接部材30は、例えば、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられている。
【0016】
溶接法は、レーザ溶接、ミグ溶接あるいはプラズマ溶接を採用できる。重ね溶接を高密度エネルギビーム溶接つまりレーザ溶接により行うと、溶け込み深さが深く、高速溶接を行うことができ、溶接時間の短縮や熱歪みの低減が可能になるという効果が期待できる。レーザは、例えば、YAGレーザが用いられる。
【0017】
被溶接材10、20は、車両重量の軽量化および強度の向上の観点から、アルミニウム合金、より好ましくは、時効硬化処理が施され調質されたアルミニウム合金を用いるのが好ましい。被溶接材10、20としては、上記のアルミニウム合金または調質されたアルミニウム合金の押出し成形品が用いられる。プレス成形品からなる被溶接材を用いることもできる。被溶接材10、20の板厚は、外観不良や溶け込み不足などを防止し、溶接品質を確保する観点から、適宜の寸法が選択される。例えば、自動車の車体部品あるいはシャシー部品として一般的に用いられるアルミニウム板材は、2mm程度の板厚を有している。
【0018】
図1(B)に示すように、一般的な溶接方法にあっては、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周方向に沿って重ね溶接が行われており、溶接時に生じた熱軟化部は、周方向に沿って連続している。熱軟化部が連続する方向は、ハット形溶接部材30が図中二点鎖線矢印で示される曲げ入力を受けた際の亀裂方向と一致する。このため、熱軟化部から亀裂が発生および進展し、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能が低下する。
【0019】
そこで、本実施形態にあっては、図1(A)に示すように、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行っている。
【0020】
溶接線の全長を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の周長は、重ねられたときに内側に位置する第1の被溶接材10の外周面を基準とし、フランジ幅を除いた長さである。また、溶接線の間隔を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の一辺の長さは、第1の被溶接材10の溶接が行われる各面の辺の長さである。
【0021】
かかる溶接方法によれば、重ね溶接による溶接部が、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行にある特定の全長で、かつ、ある特定の間隔で設けられているために、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱軟化部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材30の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱軟化部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った図1(B)に示される場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱軟化部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制できる。したがって、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材30を形成することが可能となる。
【0022】
ここで、溶接線の全長が、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の周長よりも短い場合には、被溶接材10、20が相互に接合された部位の全長が短いために、曲げ入力に対して十分な強度が得られない。このため、溶接線の全長は、略ハット形状をなす前記断面の周長以上とするのが好ましい。
【0023】
また、溶接線の間隔が、断面が略ハット形状をなす被溶接材10、20の一辺の長さの1/2以上であるような場合には、変形時に荷重を受ける溶接ビードの数の絶対数が少なくなり、曲げ入力に対して十分な強度が得られない。このため、溶接線の間隔は、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0024】
溶接法がレーザ溶接である場合には、溶接ビードと熱軟化部とを合わせた幅が約5mm程度となる。このため、溶接線の間隔が8mm未満では、曲げ入力に対する破断強度はある程度の値が得られるものの、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまい、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという本発明の効果が得られなくなってしまう。そこで、重ね溶接をレーザ溶接により行う際の溶接線の間隔は、8mm以上、かつ、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0025】
溶接法がミグ溶接あるいはプラズマ溶接である場合、一般的なアルミニウム板材である2mm厚さの板の重ね部31の溶接を行うと、溶接ビードと熱軟化部とを合わせた幅が約15mm程度となる。このため、溶接線の間隔が20mm未満では、曲げ入力に対する破断強度はある程度の値が得られるものの、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまい、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという本発明の効果が得られなくなってしまう。そこで、重ね溶接をミグ溶接あるいはプラズマ溶接により行う際の溶接線の間隔は、20mm以上、かつ、略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満とするのが好ましい。
【0026】
上記の溶接方法により溶接され、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられるハット形溶接部材30によれば、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能の低下を抑制した溶接方法により溶接されているので、曲げ剛性の高いものとなり、自動車車体など最終製品の強度が向上する。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0028】
図2〜図8に、本発明の実施例および比較例で得られたハット形溶接部材30の溶接状態の模式図を示す。なお、各図において、溶接線は太線にて示される。また、実施例、比較例の番号が示され、溶接方法もカッコ書きで併せて示される。
【0029】
断面が略ハット形状を有する第1と第2の2つの被溶接材10、20を、溶接状態および溶接方法を種々組み合わせて重ね溶接し、得られたハット形溶接部材30の曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に及ぼす溶接線の全長および溶接線の間隔の影響について調査した。
【0030】
各被溶接材10、20は、時効硬化処理が施され調質されたアルミニウム押し出し材(A6063−T5)材からなる。第1の被溶接材10として、幅:51mm、高さ:55mm、フランジ幅:22mm、長さ:1000mm、板厚:2mmのものを使用した。第2の被溶接材20として、幅:55mm、高さ:57mm、フランジ幅:20mm、長さ:1000mm、板厚:2mmのものを使用した。重ね部31の長さ:30mmで2つの被溶接材10、20を重ね、重ね溶接を行った。
【0031】
溶接線の全長を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の周長は、重ねられたときに内側に位置する第1の被溶接材10の外周面を基準とし、フランジ幅を除いた、51+55×2=161mmである。また、溶接線の間隔を規定する基準となる略ハット形状をなす断面の一辺の長さは、第1の被溶接材10の溶接が行われる各面の辺の長さである51mmまたは55mmである。
【0032】
各溶接状態は次のとおりである。
【0033】
図2に示すように、比較例1(レーザ溶接)、比較例4(MIG溶接)、比較例7(プラズマ溶接)では、重ね溶接および第2の被溶接材20の端部におけるすみ肉溶接を、被溶接材の周方向に沿って行った。重ね溶接とすみ肉溶接との間隔は15mm、全溶接長は340mmである。
【0034】
図3〜図8に示される実施例および/または比較例では、いずれも、重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に複数の重ね溶接を行った。但し、溶接線の全長および溶接線の間隔が異なっている。
【0035】
図3に示すように、実施例1(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を18mm、各面でのビード間距離を17mmとし、9箇所に行った。全溶接長は162mmである。溶接線の全長(162mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(17mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。
【0036】
図4に示すように、実施例2(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を17mmとし、9箇所に行った。全溶接長は270mmである。溶接線の全長(270mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(17mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。
【0037】
図5に示すように、比較例2(レーザ溶接)、比較例5(MIG溶接)、比較例8(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mmとし、各面の中央の3箇所に行った。全溶接長は90mmである。溶接線の全長(90mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)未満である。
【0038】
図6に示すように、実施例3(レーザ溶接)、比較例6(MIG溶接)、比較例9(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を10mmとし、12箇所に行った。全溶接長は360mmである。溶接線の全長(360mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。実施例3(レーザ溶接)の場合の各面での溶接線の間隔(10mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる8mm以上である。比較例6(MIG溶接)および比較例9(プラズマ溶接)の場合の各面での溶接線の間隔(10mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であるが、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまう溶接線の間隔である20mm未満となっている。
【0039】
図7に示すように、実施例4(MIG溶接)、実施例5(プラズマ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を25mmとし、6箇所に行った。全溶接長は180mmである。溶接線の全長(180mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(25mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であり、さらに、熱軟化部が連続しなくなる20mm以上である。
【0040】
図8に示すように、比較例3(レーザ溶接)では、ハット形溶接部材30の長手方向と平行な重ね溶接を、第2の被溶接材20の端部からの各ビード長を30mm、各面でのビード間距離を5mmとし、12箇所に行った。全溶接長は360mmである。溶接線の全長(360mm)は、略ハット形状をなす断面の周長(161mm)以上である。各面での溶接線の間隔(5mm)は、略ハット形状をなす断面の一辺の長さ(51mmまたは55mm)の1/2未満であるが、隣り合う熱軟化部がほぼ連続してしまう溶接線の間隔である8mm未満となっている。
【0041】
溶接方法は、レーザ溶接、MIG溶接、プラズマ溶接の3種で行った。レーザ溶接には、3kWと2kWのYAGレーザを使用し、これら2つのレーザ光を溶接方向と平行に配置し、溶接速度:3m/minで、5356合金をフィラーワイヤとして用いて実施した。MIG溶接は、電流:150A、溶接速度:0.5m/minで、5356合金をフィラーワイヤとして用いて実施した。プラズマ溶接は、電流:100A、溶接速度:0.7m/minで実施した。
【0042】
溶接状態および溶接方法の組み合わせを下記の表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
得られたハット形溶接部材30に対して、断面の開放面側に、厚さ:2mmのA5052板材をリベット接合により接合し、評価用の粗材を得た。
【0045】
図9は、三点曲げ試験の概要を示す模式図である。
【0046】
得られた評価用粗材40に対し、支点間距離:700mmで重ね部31の中央に押し子41が当るようにし、試験速度:15mm/minで三点曲げ試験を行い、荷重−変位線図を取得し、曲げ入力に対する破断荷重およびエネルギ吸収量を求めた。なお、図中符号42および43はそれぞれ、ハット形溶接部材30の開放面に接合されたクロージングプレート、および、支持治具を示している。
【0047】
図10(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りの破断強度を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りの破断強度を示している。また、図11(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りのエネルギ吸収量を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りのエネルギ吸収量を示している。
【0048】
図10(A)〜(C)に示されるように、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品のいずれにおいても、本発明の実施例においては、比較例と比べて、単位溶接長当りの破断強度が向上していることを確認した。
【0049】
また、図11(A)〜(C)に示されるように、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品のいずれにおいても、本発明の実施例においては、比較例と比べて、単位溶接長当りのエネルギ吸収量の何れもが向上していることを確認した。
【0050】
特に、単位溶接長当りのエネルギ吸収量の増加が大きいが、これは、本発明の実施例においては、溶接時に形成される熱軟化部が連続していないために、発生した亀裂が進展し難く、完全破断に至るまでの変形量が増加していることが影響しているものである。
【0051】
以上説明したように、本発明の溶接方法によれば、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材10、20を重ね溶接してハット形溶接部材30を形成するための溶接方法において、2つの被溶接材10、20を重ねた重ね部31に対して、ハット形溶接部材30の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行ったので、十分な強度を得ることができ、かつ、溶接の際に生じる熱影響部が、曲げ方向の入力を受けた際に亀裂する方向(断面が略ハット形状をなす被溶接材の周方向であって、重ね溶接したハット形溶接部材30の長手方向に対して直交する方向)に連続して生成されず、熱影響部が前記周方向に沿って連続するような重ね溶接を行った場合に比較して、亀裂が進展し難くなる。この結果、溶接時の熱影響部からの破断が生じ難く、曲げ入力に対する破断強度およびエネルギ吸収能に優れたハット形溶接部材30を形成することが可能となる。
【0052】
また、前記重ね溶接を高密度エネルギビーム溶接により行うことにより、溶け込み深さが深く、高速溶接を行うことができる。
【0053】
また、前記重ね溶接をレーザ溶接により行う際の溶接線の間隔は、8mm以上であるので、隣り合う熱軟化部が連続してしまうことはなく、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという所期の効果を得ることができる。
【0054】
また、前記重ね溶接をミグ溶接あるいはプラズマ溶接により行う際の溶接線の間隔は、20mm以上であるので、隣り合う熱軟化部が連続してしまうことはなく、亀裂の進展を抑えることによりエネルギ吸収量を増加させるという所期の効果を得ることができる。
【0055】
また、前記被溶接材はアルミニウム合金であるので、ハット形溶接部材30の軽量を図ることができ、さらに、時効硬化処理が施されたアルミニウム合金であるので、溶接熱に伴う軟化を防止してハット形溶接部材30の強度の低下を抑えることができる。このように本発明は、溶接部近傍の熱影響部からの破断が生じ難い、時効効果処理の施されたアルミニウム合金の溶接方法および時効効果処理の施されたアルミニウム合金製の溶接部材に適用して好適である。
【0056】
上記の溶接方法により溶接され、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられるハット形溶接部材30によれば、溶接部近傍の熱影響部からの破断が生じ難く、破断強度およびエネルギ吸収能に優れた時効硬化型アルミニウム合金の溶接された部材、特に曲げ入力に対して破断強度およびエネルギ吸収能が優れた部材を得ることができる。ハット形溶接部材30の曲げ剛性が高いものとなるので、自動車車体など最終製品の強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する本発明に係る溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図、図1(B)は、断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接する一般的な溶接方法および当該溶接方法により溶接されたハット形溶接部材の説明に供する斜視図である。
【図2】比較例1、4、7で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例2で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図5】比較例2、5、8で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例3および比較例6、9で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例4、5で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図8】比較例3で得られたハット形溶接部材の溶接状態を示す模式図である。
【図9】三点曲げ試験の概要を示す模式図である。
【図10】図10(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りの破断強度を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りの破断強度を示している。
【図11】図11(A)〜(C)は、3種類の溶接方法により得られた溶接品のそれぞれについて三点曲げ試験を行って得た単位溶接長当りのエネルギ吸収量を比較して示す図であり、(A)(B)(C)の順に、レーザ溶接品、MIG溶接品、プラズマ溶接品についての単位溶接長当りのエネルギ吸収量を示している。
【符号の説明】
10…第1の被溶接材
20…第2の被溶接材
30…ハット形溶接部材
31…重ね部
Claims (7)
- 断面が略ハット形状を有する2つの被溶接材を重ね溶接してハット形溶接部材を形成するための溶接方法において、
2つの被溶接材を重ねた重ね部に対して、ハット形溶接部材の長手方向と平行に、溶接線の全長が略ハット形状をなす前記断面の周長以上、かつ、溶接線の間隔が略ハット形状をなす前記断面の一辺の長さの1/2未満である重ね溶接を行うことを特徴とする溶接方法。 - 前記重ね溶接を高密度エネルギビーム溶接により行うことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
- 前記重ね溶接をレーザ溶接により行う際の溶接線の間隔は、8mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
- 前記重ね溶接をミグ溶接あるいはプラズマ溶接により行う際の溶接線の間隔は、20mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
- 前記被溶接材は、アルミニウム合金であることを特徴とする請求項1〜4に記載の溶接方法。
- 前記アルミニウム合金は、時効硬化処理が施されていることを特徴とする請求項5に記載の溶接方法。
- 請求項1〜6に記載の溶接方法により溶接され、自動車の車体部品あるいはシャシー部品に用いられることを特徴とするハット形溶接部材。
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JP2002260143A Withdrawn JP2004098084A (ja) | 2002-09-05 | 2002-09-05 | 溶接方法およびハット形溶接部材 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2004098084A (ja) |
-
2002
- 2002-09-05 JP JP2002260143A patent/JP2004098084A/ja not_active Withdrawn
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