JP2004091852A - マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法およびこれにより形成されたマグネシウム材製筐体 - Google Patents
マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法およびこれにより形成されたマグネシウム材製筐体 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】マグネシウムまたはマグネシウム合金の表面の耐食性を向上させ、かつ成膜時間の短縮および製造コストの抑制を図った高耐食性陽極酸化膜の形成方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法において、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程(S13)を含み、陽極酸化工程(S13)の陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、不溶性微粒子を取込みつつ陽極酸化膜を形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法において、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程(S13)を含み、陽極酸化工程(S13)の陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、不溶性微粒子を取込みつつ陽極酸化膜を形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノートパソコン筐体などの構成材料に使用されているマグネシウムまたはマグネシウム合金(以下、この両者を含めて「マグネシウム材」と記載する)に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法、および、これにより形成されたマグネシウム材製筐体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ノートパソコンなどの電気・電子機器では、軽量化および薄型化の観点より、マグネシウム材製の筐体が多用されている。特に、B5サイズ以下のモバイル型ノートパソコンで、その傾向が強い。図5は、マグネシウム材により作製した携帯機器筐体の一例を表す。具体的には、ノートパソコン筐体におけるLCDカバーである。マグネシウム材は、放熱性が高いので、ノートパソコンの筐体構成材料に採用される場合においては、製品の軽量化および薄型化に資するのみならず、CPUないしMPUの高速化に伴う発熱の問題に対処する上でも好適である。
【0003】
マグネシウム材は、大気中で容易に酸化されるという性質を有する。そのため、機器筐体として使用される場合などにあっては、実用的には、マグネシウム材の表面に対し、何らかの処理を施して耐食性を付与する必要がある。
【0004】
そのような耐食性付与手段の1つとして、化成処理が知られている。化成処理では、所定の薬液にマグネシウム材を浸漬することによって、材料表面に皮膜が形成される。しかしながら、化成処理は、マグネシウムまたはマグネシウム合金表面で自発的に生じる化学反応を利用するものであり、膜厚制御において自由度に乏しい。また、皮膜は薄く形成される傾向にある。そのため、このような化成処理皮膜のみによっては、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させることは困難である。
【0005】
一方、化成処理よりも厚い皮膜を形成できる表面処理技術として、陽極酸化処理が知られている。この陽極酸化処理により形成される陽極酸化膜の耐食性を向上させるためには、緻密で、かつ膜厚が厚い陽極酸化膜の形成が必要であるが、陽極酸化膜は絶縁体であるため、膜厚の厚い陽極酸化膜を形成するには高電圧を印加する必要性があるとともに、成膜に長時間を要する。そのため、陽極酸化膜に高い耐食性を持たせるために陽極酸化膜の膜厚を厚くするには、製造コストの上昇が伴う。
【0006】
また、短時間で膜厚が厚い皮膜を形成する方法の一例として、陽極酸化膜に微粒子を混在させる方法がある。陽極酸化膜に微粒子を混在させる技術として、例えばアルミニウム材表面に誘電体微粒子を含む電解液により陽極酸化処理を施し、誘電体微粒子が混在する陽極酸化膜を形成する技術(例えば、特許文献1参照。)や、チタン材表面に金属微粒子を含む電解液により陽極酸化処理を施し、金属微粒子が混在する陽極酸化膜を形成する技術(例えば、特許文献2参照。)がある。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−167543号公報 (第3−4頁、第1−2図)
【特許文献2】
特開平11−100695号公報 (第3−4頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した2つの公報は、アルミニウム材やチタン材表面に陽極酸化膜を形成することを開示しているだけであって、マグネシウム材表面に陽極酸化膜を形成することを開示している訳ではない。また、上記した2つの公報は、アルミニウム材やチタン材表面に微粒子を取込みつつ陽極酸化膜を形成する技術を開示しているだけであって、同じことがマグネシウム材についても行えることを示唆している訳ではない。
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、マグネシウム材表面の耐食性を向上させ、かつ成膜時間の短縮および製造コストの抑制を図った高耐食性陽極酸化膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0010】
【発明の開示】
本発明では、前記した課題を解決すべく、次の技術的手段を講じている。
【0011】
すなわち、本発明の第1の側面により提供されるマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程を含み、陽極酸化工程の陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、不溶性微粒子を取込みつつ前記陽極酸化膜を形成することを特徴としている。
【0012】
このような陽極酸化膜の形成方法によると、マグネシウム材表面に陽極酸化膜を形成する際に不溶性微粒子を取込むことになるから、短時間で膜厚の厚い陽極酸化膜を形成することができる。したがって、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させるとともに、成膜時間を短縮させることで製造コストを抑制することができる。また、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜の形成速度がさらに大きくなる(この点については、後述の実施例で実証する。)。これにより、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させる陽極酸化膜を、より短時間で形成することができるので、さらに製造コストを抑制することが可能となる。加えて、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜に取込まれる不溶性微粒子の偏析を抑制することができる。これにより、平滑で、より緻密な陽極酸化膜を形成することができるので、より耐食性の高い陽極酸化膜を形成することができる。
【0013】
好ましくは、不溶性微粒子としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタンおよび酸化物系セラミックより選ばれた1種または複数種からなるものである。また、好ましくは、不溶性微粒子の平均粒子径は、5nm〜10μmであり、より好ましくは5nm〜500nmである。
【0014】
不溶性微粒子とは、電解液に対して溶解しない微粒子のことであり、上記したものが挙げられる。不溶性微粒子の平均粒子径が10μmよりも大きいと、不溶性微粒子がマグネシウム材の表面に析出しにくく、また、析出したとしても形成される陽極酸化皮膜の表面の凹凸が大きくなるため、短時間での膜厚の厚い陽極酸化膜の形成や、陽極酸化膜の緻密性において十分な耐食性を確保することが困難となる。本発明の好ましい実施形態では、不溶性微粒子の平均粒子径を上記数値範囲内のように小さくすることで、不溶性微粒子がマグネシウム材の表面に析出し易くなるとともに、陽極酸化膜の表面の凹凸を小さくすることができる。したがって、より耐食性の高い陽極酸化膜を短時間で形成することが可能となる。
【0015】
好ましくは、陽極酸化処理は、電解液に浸漬した電極間に交流電圧を印加することにより行われ、この印加時における電流密度は、2A/dm2〜5A/dm2である。電流密度が2A/dm2より小さいと、不溶性微粒子がマグネシウム材表面に析出しなかったり、析出しても偏析してしまう。加えて火花放電も生じにくい。そのため、所定時間内にマグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚は薄く、緻密性にも欠ける。したがって、短時間で十分な耐食性を有する陽極酸化膜の形成が困難である。また、電流密度が5A/dm2超えると、陽極酸化膜表面の粗さが許容範囲を超える。したがって、陽極酸化膜の耐食性が低下するとともに、高電流密度となるためコスト面でも不利となる。
【0016】
好ましくは、陽極酸化処理における電解周波数は、40Hz〜80Hzである。電解周波数が40Hzより小さい周波数では、マグネシウム材表面に析出する不溶性微粒子が偏析する傾向にある。したがって、マグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜は、緻密性に欠け、十分な耐食性を有しない。また、電解周波数が80Hzより大きい周波数では、陽極酸化膜自体の形成速度が有意に低下する傾向にある。したがって、所定時間内にマグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚は薄く、耐食性に欠ける。
【0017】
本発明の好ましい実施形態においては、陽極酸化処理における電解液温度は、15℃〜60℃である。電解液温度が15℃より小さいと、陽極酸化膜の形成速度が有意に低下する傾向にあり、60℃より大きいと、形成される陽極酸化膜の表面粗さが過大になる傾向にある。
【0018】
本発明の好ましい実施形態においては、アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度は、25g/dm3〜75g/dm3である。アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度が25g/dm3より小さいと、不溶性微粒子の偏析の抑制や陽極酸化膜の形成速度の向上などの効果を十分に得ることができない。また、アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度が75g/dm3より大きくても、大して効果が変わらないので、これ以上はコスト的に不利である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態においては、陽極酸化処理に使用される電解液は、水溶性ケイ酸塩あるいは酸素酸塩の水溶液である。水溶性ケイ酸塩水溶液および酸素酸塩水溶液は、それぞれ電解液として電気分解を行うと火花放電を生じ易く、陽極酸化膜を形成する際の電解液として好ましい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態においては、水溶性ケイ酸塩の電解液中の濃度は、100g/dm3〜250g/dm3であり、酸素酸塩の電解液中の濃度は、75g/dm3〜150g/dm3である。電解液中の水溶性ケイ酸塩濃度あるいは酸素酸塩の濃度が小さいと、火花放電が生じないか、生じたとしても火花放電が起こるまで時間がかかるので、陽極酸化膜を形成する際の電解液として好ましくない。また、電解液中の水溶性ケイ酸塩濃度あるいは酸素酸塩の濃度が過剰に大きくても、大して効果が変わらないので、上述した濃度範囲以上はコスト的に不利である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態においては、さらに、前記陽極酸化膜に対して、有機系コーティング材、無機系コーティング剤および金属酸化物ゾルより選ばれた1種または複数種によるクリアーコーティングを行う工程を含む。この工程により陽極酸化膜上にクリアーコートが形成されると、陽極酸化膜の保護が図られるとともに陽極酸化膜表面に光沢が付与され、かつ陽極酸化膜が封孔処理されることとなる。
【0022】
本発明の第2の側面によると、第1の側面に関して上述したいずれかの構成を備えるマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法により陽極酸化膜が形成されているマグネシウム材製筐体が提供される。このような本発明の第2の側面によっても、第1の側面に関して上述したのと同様の効果が奏される。したがって、充分な耐食性を有しているマグネシウム材製筐体を、短時間かつ低コストで得ることが可能となる。
【0023】
本発明のその他の利点および特徴については、以下に行う発明の実施の形態の説明から、より明らかとなるであろう。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法におけるフローチャートである。本実施形態に係る陽極酸化膜形成方法は、脱脂工程S11と、第1水洗工程S12と、陽極酸化工程S13と、第2水洗工程S14と、窒素ブロー工程S15、コーティング工程S16と、焼き付け工程S17とを含む。
【0025】
マグネシウム材は、マグネシウムおよびマグネシウム合金の両方を含む概念である。マグネシウム合金としては、例えば、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Al−Mn合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−希土類元素合金、Mg−Zn−希土類元素合金などを用いることができる。より具体的には、AZ91D合金、AZ31合金、AZ61合金、AM60合金、AM120合金などを用いることができる。これらのようなマグネシウム材から、例えば図5示すような所定の成形体を作製した後、陽極酸化膜が形成される。
【0026】
本実施形態では、陽極酸化膜の形成対象であるマグネシウム材製の基材に対して、まず、脱脂工程S11において脱脂処理を施す。脱脂処理は、アセトンおよびこれに続いてアルカリ処理剤に基材を浸漬することによって行うことができる。アルカリ処理剤としては、例えば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これに代えて、脱脂処理は、基材表面に界面活性剤を作用させることによっても行うことができる。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0027】
次に、第1水洗工程S12において、上述の脱脂工程S11を経た基材を流水でよく洗浄し、脱脂処理で使用した薬剤を除去する。なお、上述したような基材に対する前処理に、さらにエッチングや酸洗浄を行う工程を加えてもよい。ただし、本発明では、基材の前処理を行う必要のない場合には、脱脂工程S11および第1水洗工程S12は行われない。
【0028】
次に、陽極酸化工程S13において、基材表面に対して陽極酸化処理を施す。陽極酸化処理に使用する電解液は、酸化膜形成用の種々の試薬、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む。酸化膜形成試薬としては、たとえばケイ酸ナトリウムやメタケイ酸ナトリウムなどの水溶性ケイ酸塩、およびリン酸三ナトリウムやアルミン酸ナトリウムなどの酸素酸塩などが挙げられる。水溶性ケイ酸塩を酸化膜形成試薬として使用する場合、電解液中の水溶性ケイ酸塩の濃度は100g/dm3〜250g/dm3の範囲とする。また、酸素酸塩を酸化膜形成試薬として使用する場合、電解液中の酸素酸塩の濃度は75g/dm3〜150g/dm3の範囲とする。不溶性微粒子は、上記酸化膜形成試薬を含む電解液に溶解しない微粒子であり、例えばアルミナ、水酸化アルミニウム、シリカおよび酸化チタンなどが挙げられる。不溶性微粒子の平均粒子径は、5nm〜10μmのものが好ましく、特に500nm以下のものがより好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。また、電解液中のアルカリ金属水酸化物の濃度は25g/dm3〜75g/dm3の範囲とする。電解液は、これらの成分を含んで電解時に火花放電が生じるように調整されている。
【0029】
図2は、陽極酸化処理装置の模式図である。電源1の一方の端子に酸化膜を形成すべき基材2を電気的に接続し、他方の端子にステンレス電極またはカーボン電極3を電気的に接続し、これらを一対の電極として上述の電解液4に浸漬した状態で当該電極間に交流電圧を印加する。このとき、電流密度は、2〜5A/dm2の範囲とする。電流密度が小さすぎると火花放電が生じにくくなるとともに、不溶性微粒子が基材2の表面に析出しないか、もしくは析出しても偏析するなどの不具合が生じる。逆に、電流密度が大きすぎると酸化膜表面の粗さが許容範囲を超える。電解液温度は、15〜60℃の範囲とする。15℃以下では酸化膜形成速度が有意に低下する傾向にあり、60℃以上では形成される酸化膜の表面粗さが過大になる傾向がある。電解周波数は、40〜80Hzの範囲とする。電解周波数が小さすぎると、不溶性微粒子が偏析する傾向にあり、電解周波数が大きすぎると、陽極酸化膜自体の形成速度が有意に低下する傾向にある。また、電解液において不溶性微粒子を均一に分散させるため、例えばマグネティックススターラー5および回転子6により電解液は攪拌されている。陽極酸化処理においては、基材電極が陽極であるときに基材表面にて火花放電が生じ、陽極酸化膜が次第に成長形成されていく。このとき、陽極酸化膜は、電解液に分散している不溶性微粒子を取込みつつ成長するので、陽極酸化膜の膜厚は、不溶性微粒子を含まない場合に比べ短時間で厚くなる。また、電解液中のアルカリ金属水酸化物の存在により、陽極酸化膜の形成速度がさらに増すとともに、不溶性微粒子の偏析を抑制することができるので、より短時間で、より緻密な陽極酸化膜が形成される。このようにして、本実施形態では厚み20〜40μmの陽極酸化膜が10〜30分で形成される。
【0030】
次に、第2水洗工程S14において、上述の陽極酸化工程S13を経た基材を流水でよく洗浄し、基材に付着している電解液を除去する。次に、窒素ブロー工程S15において、基材に対して窒素ガスを噴きつけることによって、基材に付着している水分を飛散ないし蒸散させる。
【0031】
次に、コーティング工程S16において、基材の陽極酸化膜上にコーティング層を設ける。具体的には、液状のコーティング剤を、スピンコート、ディップコート、ドクターブレード法、ロールコートなどの手段によって、基材の陽極酸化膜表面に塗布する。コーティング層を構成する材料としては、市販の有機系および無機系のコーティング剤や、ゾルゲル法を利用して固化可能な金属酸化物ゾルなどを使用することができる。
【0032】
次に、焼き付け工程S17においてコーティング層を固化させる。具体的には、上述のようにコーティング剤が塗布された基材を、室温で10分程度静置した後に、120℃に加熱したオーブンに30〜60分間放置することによって、陽極酸化膜上のコーティング層を硬化させる。このようにコーティング層を設けることによって、陽極酸化膜を物理的に保護するとともに、光沢を付与することもできる。ただし、本発明では、コーティング層を形成する必要のない場合には、コーティング工程S16および焼き付け工程S17は行われない。
【0033】
本実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法によると、陽極酸化処理において、陽極酸化膜が不溶性微粒子を取込みつつマグネシウム材表面に成長形成される。そのため、不溶性微粒子を含まない電解液により陽極酸化処理を行った場合に比べ、より短時間で陽極酸化膜を所定の厚みにまで成長形成することが可能となる。また、電解液にアルカリ金属水酸化物をさらに含ませたことにより、含まない場合に比べ、より短時間で陽極酸化膜を所定の厚みにまで成長形成することが可能となるとともに、不溶性微粒子の偏析を抑制し、より緻密な陽極酸化膜を形成することが可能となる。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに記載する。
【0035】
【実施例1】
<電解液の調製>
アルミン酸ナトリウム(関東化学製)を100g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を25g/dm3、水酸化アルミニウム(和光純薬工業製)を10%の濃度で含む電解液を調製した。
【0036】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、4A/dm2の電流密度で10分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。その結果、水酸化アルミニウムを取込み、かつ膜厚が30μmである陽極酸化膜を有するAZ31合金板が得られた。
【0037】
【実施例2】
<電解液の調製>
メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を10%の濃度で含む電解液を調製した。
【0038】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、4A/dm2の電流密度で10分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。次に、無機コーティング剤ヒートレスガラス(商品名:GS−600−1 type BC、大橋化学製)に基材を浸漬し、3mm/秒で引き上げた。これを室温で30分間放置した後、120℃に加熱したオーブンで60分間乾燥することによって、陽極酸化膜に対してコーティング層を焼き付けた。その結果、酸化アルミニウムを取込み、かつ膜厚が30μmである陽極酸化膜を有するAZ31合金板が得られた。
【0039】
【実施例3〜6および比較例1】
<電解液の調製>
実施例3〜6では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。比較例1では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3で含む電解液を調製した。
【0040】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、以下に示す電流密度および成膜時間で交流電解を行った。実施例3では、電流密度2A/dm2および成膜時間15分、実施例4では、電流密度2A/dm2および成膜時間30分、実施例5では、電流密度4A/dm2および成膜時間7.5分、実施例6では、電流密度8A/dm2および成膜時間3.8分、比較例1では、電流密度2A/dm2および成膜時間15分とした。また、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。
【0041】
<陽極酸化膜の評価>
実施例3〜6および比較例1において形成された陽極酸化膜の膜厚および表面粗さを、膜厚は比較例1における膜厚を1としたときの比で、また表面粗さは基材の表面粗さを1としたときの比で図3に表した。実施例3と比較例1を比べることにより、電解液にアルミナ粒子と水酸化ナトリウムを加えるとこれらを加えない場合より膜厚が約5倍になることがわかった。つまり、実施例3と比較例1とは成膜時間が同じなので、電解液にアルミナ粒子と水酸化ナトリウムを加えることにより陽極酸化膜の形成速度が約5倍になることがわかった。また、実施例3,5,6から電流密度を大きくするにつれ、より短い成膜時間で同程度の膜厚が得られるが、陽極酸化膜の表面粗さはより大きくなることがわかった。特に、実施例6における表面粗さは基材の5倍以上になり、表面粗さの許容範囲の1つの目安である5倍以内を超える結果となった。また、実施例3,4から成膜時間を長くすれば、陽極酸化膜の表面粗さが大きくなることがわかった。
【0042】
【実施例7,8】
<電解液の調製>
実施例7では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。実施例8では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。
【0043】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、2A/dm2の電流密度で15分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。
【0044】
<陽極酸化膜の評価>
実施例7における陽極酸化膜の膜厚を1としたときの実施例8における陽極酸化膜の膜厚を図4に示した。図4より、電解液に水酸化ナトリウムを加えることで同じ成膜時間で形成される膜厚は上記条件の下では3.67倍になることが確認された。
【0045】
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記として列記する。
【0046】
(付記1)マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、前記基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程を含み、
前記陽極酸化工程の前記陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、前記不溶性微粒子を取込みつつ前記陽極酸化膜を形成することを特徴とする、マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記2)前記不溶性微粒子は、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化チタンおよび酸化物系セラミックより選ばれた1種または複数種からなる、付記1に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記3)前記不溶性微粒子は、その平均粒子径が5nm〜10μmである、付記1または2に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。(付記4)前記不溶性微粒子は、その平均粒子径が5nm〜500nmである、付記1または2に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記5)前記陽極酸化処理は、交流電解により行われ、
前記交流電解における電流密度は、2A/dm2〜5A/dm2である、付記1〜4のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記6)前記陽極酸化処理における電解周波数は、40Hz〜80Hzである、付記1〜5のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記7)前記陽極酸化処理における電解液温度は、15℃〜60℃である、付記1〜6のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記8)前記アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度は、25g/dm3〜75g/dm3である、付記1〜7のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記9)前記陽極酸化処理に使用される電解液は、水溶性ケイ酸塩あるいは酸素酸塩の水溶液である、付記1〜8のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記10)前記水溶性ケイ酸塩の電解液中の濃度は、100g/dm3〜250g/dm3である、付記9に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記11)前記酸素酸塩の電解液中の濃度は、75g/dm3〜150g/dm3である、付記9に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記12)さらに、前記陽極酸化膜に対して、有機系コーティング剤、無機系コーティング剤および金属酸化物ゾルより選ばれた1種または複数種によるクリアーコーティングを行う工程を含む、付記1〜11のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記13)付記1〜12のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法により前記陽極酸化膜が形成されている、マグネシウム材製筐体。
【0047】
【発明の効果】
本発明によると、本実施形態においては、陽極酸化処理工程の陽極酸化処理でマグネシウム材表面に不溶性微粒子を取込んだ陽極酸化膜を形成することが可能となるとともに、短時間で膜厚の厚い陽極酸化膜を形成することができる。また、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜の形成速度がさらに大きくなる。その結果、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させる陽極酸化膜を、より短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法のフローチャートである。
【図2】陽極酸化処理装置の模式図である。
【図3】電解条件と表面粗さおよび膜厚との関係を示す図である。
【図4】電解液の構成と陽極酸化膜の膜厚との関係を示す図である。
【図5】マグネシウム材により作製した携帯機器筐体の一例を表す。
【符号の説明】
S11 脱脂工程
S12 第1水洗工程
S13 陽極酸化工程
S14 第2水洗工程
S15 窒素ブロー工程
S16 コーティング工程
S17 焼き付け工程
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノートパソコン筐体などの構成材料に使用されているマグネシウムまたはマグネシウム合金(以下、この両者を含めて「マグネシウム材」と記載する)に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法、および、これにより形成されたマグネシウム材製筐体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ノートパソコンなどの電気・電子機器では、軽量化および薄型化の観点より、マグネシウム材製の筐体が多用されている。特に、B5サイズ以下のモバイル型ノートパソコンで、その傾向が強い。図5は、マグネシウム材により作製した携帯機器筐体の一例を表す。具体的には、ノートパソコン筐体におけるLCDカバーである。マグネシウム材は、放熱性が高いので、ノートパソコンの筐体構成材料に採用される場合においては、製品の軽量化および薄型化に資するのみならず、CPUないしMPUの高速化に伴う発熱の問題に対処する上でも好適である。
【0003】
マグネシウム材は、大気中で容易に酸化されるという性質を有する。そのため、機器筐体として使用される場合などにあっては、実用的には、マグネシウム材の表面に対し、何らかの処理を施して耐食性を付与する必要がある。
【0004】
そのような耐食性付与手段の1つとして、化成処理が知られている。化成処理では、所定の薬液にマグネシウム材を浸漬することによって、材料表面に皮膜が形成される。しかしながら、化成処理は、マグネシウムまたはマグネシウム合金表面で自発的に生じる化学反応を利用するものであり、膜厚制御において自由度に乏しい。また、皮膜は薄く形成される傾向にある。そのため、このような化成処理皮膜のみによっては、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させることは困難である。
【0005】
一方、化成処理よりも厚い皮膜を形成できる表面処理技術として、陽極酸化処理が知られている。この陽極酸化処理により形成される陽極酸化膜の耐食性を向上させるためには、緻密で、かつ膜厚が厚い陽極酸化膜の形成が必要であるが、陽極酸化膜は絶縁体であるため、膜厚の厚い陽極酸化膜を形成するには高電圧を印加する必要性があるとともに、成膜に長時間を要する。そのため、陽極酸化膜に高い耐食性を持たせるために陽極酸化膜の膜厚を厚くするには、製造コストの上昇が伴う。
【0006】
また、短時間で膜厚が厚い皮膜を形成する方法の一例として、陽極酸化膜に微粒子を混在させる方法がある。陽極酸化膜に微粒子を混在させる技術として、例えばアルミニウム材表面に誘電体微粒子を含む電解液により陽極酸化処理を施し、誘電体微粒子が混在する陽極酸化膜を形成する技術(例えば、特許文献1参照。)や、チタン材表面に金属微粒子を含む電解液により陽極酸化処理を施し、金属微粒子が混在する陽極酸化膜を形成する技術(例えば、特許文献2参照。)がある。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−167543号公報 (第3−4頁、第1−2図)
【特許文献2】
特開平11−100695号公報 (第3−4頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した2つの公報は、アルミニウム材やチタン材表面に陽極酸化膜を形成することを開示しているだけであって、マグネシウム材表面に陽極酸化膜を形成することを開示している訳ではない。また、上記した2つの公報は、アルミニウム材やチタン材表面に微粒子を取込みつつ陽極酸化膜を形成する技術を開示しているだけであって、同じことがマグネシウム材についても行えることを示唆している訳ではない。
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、マグネシウム材表面の耐食性を向上させ、かつ成膜時間の短縮および製造コストの抑制を図った高耐食性陽極酸化膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0010】
【発明の開示】
本発明では、前記した課題を解決すべく、次の技術的手段を講じている。
【0011】
すなわち、本発明の第1の側面により提供されるマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程を含み、陽極酸化工程の陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、不溶性微粒子を取込みつつ前記陽極酸化膜を形成することを特徴としている。
【0012】
このような陽極酸化膜の形成方法によると、マグネシウム材表面に陽極酸化膜を形成する際に不溶性微粒子を取込むことになるから、短時間で膜厚の厚い陽極酸化膜を形成することができる。したがって、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させるとともに、成膜時間を短縮させることで製造コストを抑制することができる。また、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜の形成速度がさらに大きくなる(この点については、後述の実施例で実証する。)。これにより、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させる陽極酸化膜を、より短時間で形成することができるので、さらに製造コストを抑制することが可能となる。加えて、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜に取込まれる不溶性微粒子の偏析を抑制することができる。これにより、平滑で、より緻密な陽極酸化膜を形成することができるので、より耐食性の高い陽極酸化膜を形成することができる。
【0013】
好ましくは、不溶性微粒子としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタンおよび酸化物系セラミックより選ばれた1種または複数種からなるものである。また、好ましくは、不溶性微粒子の平均粒子径は、5nm〜10μmであり、より好ましくは5nm〜500nmである。
【0014】
不溶性微粒子とは、電解液に対して溶解しない微粒子のことであり、上記したものが挙げられる。不溶性微粒子の平均粒子径が10μmよりも大きいと、不溶性微粒子がマグネシウム材の表面に析出しにくく、また、析出したとしても形成される陽極酸化皮膜の表面の凹凸が大きくなるため、短時間での膜厚の厚い陽極酸化膜の形成や、陽極酸化膜の緻密性において十分な耐食性を確保することが困難となる。本発明の好ましい実施形態では、不溶性微粒子の平均粒子径を上記数値範囲内のように小さくすることで、不溶性微粒子がマグネシウム材の表面に析出し易くなるとともに、陽極酸化膜の表面の凹凸を小さくすることができる。したがって、より耐食性の高い陽極酸化膜を短時間で形成することが可能となる。
【0015】
好ましくは、陽極酸化処理は、電解液に浸漬した電極間に交流電圧を印加することにより行われ、この印加時における電流密度は、2A/dm2〜5A/dm2である。電流密度が2A/dm2より小さいと、不溶性微粒子がマグネシウム材表面に析出しなかったり、析出しても偏析してしまう。加えて火花放電も生じにくい。そのため、所定時間内にマグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚は薄く、緻密性にも欠ける。したがって、短時間で十分な耐食性を有する陽極酸化膜の形成が困難である。また、電流密度が5A/dm2超えると、陽極酸化膜表面の粗さが許容範囲を超える。したがって、陽極酸化膜の耐食性が低下するとともに、高電流密度となるためコスト面でも不利となる。
【0016】
好ましくは、陽極酸化処理における電解周波数は、40Hz〜80Hzである。電解周波数が40Hzより小さい周波数では、マグネシウム材表面に析出する不溶性微粒子が偏析する傾向にある。したがって、マグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜は、緻密性に欠け、十分な耐食性を有しない。また、電解周波数が80Hzより大きい周波数では、陽極酸化膜自体の形成速度が有意に低下する傾向にある。したがって、所定時間内にマグネシウム材の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚は薄く、耐食性に欠ける。
【0017】
本発明の好ましい実施形態においては、陽極酸化処理における電解液温度は、15℃〜60℃である。電解液温度が15℃より小さいと、陽極酸化膜の形成速度が有意に低下する傾向にあり、60℃より大きいと、形成される陽極酸化膜の表面粗さが過大になる傾向にある。
【0018】
本発明の好ましい実施形態においては、アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度は、25g/dm3〜75g/dm3である。アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度が25g/dm3より小さいと、不溶性微粒子の偏析の抑制や陽極酸化膜の形成速度の向上などの効果を十分に得ることができない。また、アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度が75g/dm3より大きくても、大して効果が変わらないので、これ以上はコスト的に不利である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態においては、陽極酸化処理に使用される電解液は、水溶性ケイ酸塩あるいは酸素酸塩の水溶液である。水溶性ケイ酸塩水溶液および酸素酸塩水溶液は、それぞれ電解液として電気分解を行うと火花放電を生じ易く、陽極酸化膜を形成する際の電解液として好ましい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態においては、水溶性ケイ酸塩の電解液中の濃度は、100g/dm3〜250g/dm3であり、酸素酸塩の電解液中の濃度は、75g/dm3〜150g/dm3である。電解液中の水溶性ケイ酸塩濃度あるいは酸素酸塩の濃度が小さいと、火花放電が生じないか、生じたとしても火花放電が起こるまで時間がかかるので、陽極酸化膜を形成する際の電解液として好ましくない。また、電解液中の水溶性ケイ酸塩濃度あるいは酸素酸塩の濃度が過剰に大きくても、大して効果が変わらないので、上述した濃度範囲以上はコスト的に不利である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態においては、さらに、前記陽極酸化膜に対して、有機系コーティング材、無機系コーティング剤および金属酸化物ゾルより選ばれた1種または複数種によるクリアーコーティングを行う工程を含む。この工程により陽極酸化膜上にクリアーコートが形成されると、陽極酸化膜の保護が図られるとともに陽極酸化膜表面に光沢が付与され、かつ陽極酸化膜が封孔処理されることとなる。
【0022】
本発明の第2の側面によると、第1の側面に関して上述したいずれかの構成を備えるマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法により陽極酸化膜が形成されているマグネシウム材製筐体が提供される。このような本発明の第2の側面によっても、第1の側面に関して上述したのと同様の効果が奏される。したがって、充分な耐食性を有しているマグネシウム材製筐体を、短時間かつ低コストで得ることが可能となる。
【0023】
本発明のその他の利点および特徴については、以下に行う発明の実施の形態の説明から、より明らかとなるであろう。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法におけるフローチャートである。本実施形態に係る陽極酸化膜形成方法は、脱脂工程S11と、第1水洗工程S12と、陽極酸化工程S13と、第2水洗工程S14と、窒素ブロー工程S15、コーティング工程S16と、焼き付け工程S17とを含む。
【0025】
マグネシウム材は、マグネシウムおよびマグネシウム合金の両方を含む概念である。マグネシウム合金としては、例えば、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Al−Mn合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−希土類元素合金、Mg−Zn−希土類元素合金などを用いることができる。より具体的には、AZ91D合金、AZ31合金、AZ61合金、AM60合金、AM120合金などを用いることができる。これらのようなマグネシウム材から、例えば図5示すような所定の成形体を作製した後、陽極酸化膜が形成される。
【0026】
本実施形態では、陽極酸化膜の形成対象であるマグネシウム材製の基材に対して、まず、脱脂工程S11において脱脂処理を施す。脱脂処理は、アセトンおよびこれに続いてアルカリ処理剤に基材を浸漬することによって行うことができる。アルカリ処理剤としては、例えば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これに代えて、脱脂処理は、基材表面に界面活性剤を作用させることによっても行うことができる。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0027】
次に、第1水洗工程S12において、上述の脱脂工程S11を経た基材を流水でよく洗浄し、脱脂処理で使用した薬剤を除去する。なお、上述したような基材に対する前処理に、さらにエッチングや酸洗浄を行う工程を加えてもよい。ただし、本発明では、基材の前処理を行う必要のない場合には、脱脂工程S11および第1水洗工程S12は行われない。
【0028】
次に、陽極酸化工程S13において、基材表面に対して陽極酸化処理を施す。陽極酸化処理に使用する電解液は、酸化膜形成用の種々の試薬、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む。酸化膜形成試薬としては、たとえばケイ酸ナトリウムやメタケイ酸ナトリウムなどの水溶性ケイ酸塩、およびリン酸三ナトリウムやアルミン酸ナトリウムなどの酸素酸塩などが挙げられる。水溶性ケイ酸塩を酸化膜形成試薬として使用する場合、電解液中の水溶性ケイ酸塩の濃度は100g/dm3〜250g/dm3の範囲とする。また、酸素酸塩を酸化膜形成試薬として使用する場合、電解液中の酸素酸塩の濃度は75g/dm3〜150g/dm3の範囲とする。不溶性微粒子は、上記酸化膜形成試薬を含む電解液に溶解しない微粒子であり、例えばアルミナ、水酸化アルミニウム、シリカおよび酸化チタンなどが挙げられる。不溶性微粒子の平均粒子径は、5nm〜10μmのものが好ましく、特に500nm以下のものがより好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。また、電解液中のアルカリ金属水酸化物の濃度は25g/dm3〜75g/dm3の範囲とする。電解液は、これらの成分を含んで電解時に火花放電が生じるように調整されている。
【0029】
図2は、陽極酸化処理装置の模式図である。電源1の一方の端子に酸化膜を形成すべき基材2を電気的に接続し、他方の端子にステンレス電極またはカーボン電極3を電気的に接続し、これらを一対の電極として上述の電解液4に浸漬した状態で当該電極間に交流電圧を印加する。このとき、電流密度は、2〜5A/dm2の範囲とする。電流密度が小さすぎると火花放電が生じにくくなるとともに、不溶性微粒子が基材2の表面に析出しないか、もしくは析出しても偏析するなどの不具合が生じる。逆に、電流密度が大きすぎると酸化膜表面の粗さが許容範囲を超える。電解液温度は、15〜60℃の範囲とする。15℃以下では酸化膜形成速度が有意に低下する傾向にあり、60℃以上では形成される酸化膜の表面粗さが過大になる傾向がある。電解周波数は、40〜80Hzの範囲とする。電解周波数が小さすぎると、不溶性微粒子が偏析する傾向にあり、電解周波数が大きすぎると、陽極酸化膜自体の形成速度が有意に低下する傾向にある。また、電解液において不溶性微粒子を均一に分散させるため、例えばマグネティックススターラー5および回転子6により電解液は攪拌されている。陽極酸化処理においては、基材電極が陽極であるときに基材表面にて火花放電が生じ、陽極酸化膜が次第に成長形成されていく。このとき、陽極酸化膜は、電解液に分散している不溶性微粒子を取込みつつ成長するので、陽極酸化膜の膜厚は、不溶性微粒子を含まない場合に比べ短時間で厚くなる。また、電解液中のアルカリ金属水酸化物の存在により、陽極酸化膜の形成速度がさらに増すとともに、不溶性微粒子の偏析を抑制することができるので、より短時間で、より緻密な陽極酸化膜が形成される。このようにして、本実施形態では厚み20〜40μmの陽極酸化膜が10〜30分で形成される。
【0030】
次に、第2水洗工程S14において、上述の陽極酸化工程S13を経た基材を流水でよく洗浄し、基材に付着している電解液を除去する。次に、窒素ブロー工程S15において、基材に対して窒素ガスを噴きつけることによって、基材に付着している水分を飛散ないし蒸散させる。
【0031】
次に、コーティング工程S16において、基材の陽極酸化膜上にコーティング層を設ける。具体的には、液状のコーティング剤を、スピンコート、ディップコート、ドクターブレード法、ロールコートなどの手段によって、基材の陽極酸化膜表面に塗布する。コーティング層を構成する材料としては、市販の有機系および無機系のコーティング剤や、ゾルゲル法を利用して固化可能な金属酸化物ゾルなどを使用することができる。
【0032】
次に、焼き付け工程S17においてコーティング層を固化させる。具体的には、上述のようにコーティング剤が塗布された基材を、室温で10分程度静置した後に、120℃に加熱したオーブンに30〜60分間放置することによって、陽極酸化膜上のコーティング層を硬化させる。このようにコーティング層を設けることによって、陽極酸化膜を物理的に保護するとともに、光沢を付与することもできる。ただし、本発明では、コーティング層を形成する必要のない場合には、コーティング工程S16および焼き付け工程S17は行われない。
【0033】
本実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法によると、陽極酸化処理において、陽極酸化膜が不溶性微粒子を取込みつつマグネシウム材表面に成長形成される。そのため、不溶性微粒子を含まない電解液により陽極酸化処理を行った場合に比べ、より短時間で陽極酸化膜を所定の厚みにまで成長形成することが可能となる。また、電解液にアルカリ金属水酸化物をさらに含ませたことにより、含まない場合に比べ、より短時間で陽極酸化膜を所定の厚みにまで成長形成することが可能となるとともに、不溶性微粒子の偏析を抑制し、より緻密な陽極酸化膜を形成することが可能となる。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに記載する。
【0035】
【実施例1】
<電解液の調製>
アルミン酸ナトリウム(関東化学製)を100g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を25g/dm3、水酸化アルミニウム(和光純薬工業製)を10%の濃度で含む電解液を調製した。
【0036】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、4A/dm2の電流密度で10分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。その結果、水酸化アルミニウムを取込み、かつ膜厚が30μmである陽極酸化膜を有するAZ31合金板が得られた。
【0037】
【実施例2】
<電解液の調製>
メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を10%の濃度で含む電解液を調製した。
【0038】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、4A/dm2の電流密度で10分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。次に、無機コーティング剤ヒートレスガラス(商品名:GS−600−1 type BC、大橋化学製)に基材を浸漬し、3mm/秒で引き上げた。これを室温で30分間放置した後、120℃に加熱したオーブンで60分間乾燥することによって、陽極酸化膜に対してコーティング層を焼き付けた。その結果、酸化アルミニウムを取込み、かつ膜厚が30μmである陽極酸化膜を有するAZ31合金板が得られた。
【0039】
【実施例3〜6および比較例1】
<電解液の調製>
実施例3〜6では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。比較例1では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3で含む電解液を調製した。
【0040】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、以下に示す電流密度および成膜時間で交流電解を行った。実施例3では、電流密度2A/dm2および成膜時間15分、実施例4では、電流密度2A/dm2および成膜時間30分、実施例5では、電流密度4A/dm2および成膜時間7.5分、実施例6では、電流密度8A/dm2および成膜時間3.8分、比較例1では、電流密度2A/dm2および成膜時間15分とした。また、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。
【0041】
<陽極酸化膜の評価>
実施例3〜6および比較例1において形成された陽極酸化膜の膜厚および表面粗さを、膜厚は比較例1における膜厚を1としたときの比で、また表面粗さは基材の表面粗さを1としたときの比で図3に表した。実施例3と比較例1を比べることにより、電解液にアルミナ粒子と水酸化ナトリウムを加えるとこれらを加えない場合より膜厚が約5倍になることがわかった。つまり、実施例3と比較例1とは成膜時間が同じなので、電解液にアルミナ粒子と水酸化ナトリウムを加えることにより陽極酸化膜の形成速度が約5倍になることがわかった。また、実施例3,5,6から電流密度を大きくするにつれ、より短い成膜時間で同程度の膜厚が得られるが、陽極酸化膜の表面粗さはより大きくなることがわかった。特に、実施例6における表面粗さは基材の5倍以上になり、表面粗さの許容範囲の1つの目安である5倍以内を超える結果となった。また、実施例3,4から成膜時間を長くすれば、陽極酸化膜の表面粗さが大きくなることがわかった。
【0042】
【実施例7,8】
<電解液の調製>
実施例7では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。実施例8では、メタケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を200g/dm3、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を50g/dm3、酸化アルミニウム(フルウチ化学製)を5%の濃度で含む電解液を調製した。
【0043】
<陽極酸化膜形成工程>
脱脂工程およびこれに続く第1水洗工程を経た基材としてのマグネシウム合金であるAZ31合金板(東洋マーク製、70mm×20mm×1.5mm)を上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成において、当該AZ31合金板およびステンレス(SUS−304)板を一対の電極として、マグネティックスターラーにより電解液を400rpmで攪拌しつつ、2A/dm2の電流密度で15分間の交流電解を行った。このとき、電解液の温度は30℃に維持した。次に電解液から基材を引き上げ、流水による第2水洗工程に付した。次に、窒素ブロー工程において、基材を乾燥させた。
【0044】
<陽極酸化膜の評価>
実施例7における陽極酸化膜の膜厚を1としたときの実施例8における陽極酸化膜の膜厚を図4に示した。図4より、電解液に水酸化ナトリウムを加えることで同じ成膜時間で形成される膜厚は上記条件の下では3.67倍になることが確認された。
【0045】
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記として列記する。
【0046】
(付記1)マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、前記基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程を含み、
前記陽極酸化工程の前記陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、前記不溶性微粒子を取込みつつ前記陽極酸化膜を形成することを特徴とする、マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記2)前記不溶性微粒子は、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化チタンおよび酸化物系セラミックより選ばれた1種または複数種からなる、付記1に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記3)前記不溶性微粒子は、その平均粒子径が5nm〜10μmである、付記1または2に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。(付記4)前記不溶性微粒子は、その平均粒子径が5nm〜500nmである、付記1または2に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記5)前記陽極酸化処理は、交流電解により行われ、
前記交流電解における電流密度は、2A/dm2〜5A/dm2である、付記1〜4のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記6)前記陽極酸化処理における電解周波数は、40Hz〜80Hzである、付記1〜5のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記7)前記陽極酸化処理における電解液温度は、15℃〜60℃である、付記1〜6のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記8)前記アルカリ金属水酸化物の電解液中の濃度は、25g/dm3〜75g/dm3である、付記1〜7のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記9)前記陽極酸化処理に使用される電解液は、水溶性ケイ酸塩あるいは酸素酸塩の水溶液である、付記1〜8のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記10)前記水溶性ケイ酸塩の電解液中の濃度は、100g/dm3〜250g/dm3である、付記9に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記11)前記酸素酸塩の電解液中の濃度は、75g/dm3〜150g/dm3である、付記9に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記12)さらに、前記陽極酸化膜に対して、有機系コーティング剤、無機系コーティング剤および金属酸化物ゾルより選ばれた1種または複数種によるクリアーコーティングを行う工程を含む、付記1〜11のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
(付記13)付記1〜12のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法により前記陽極酸化膜が形成されている、マグネシウム材製筐体。
【0047】
【発明の効果】
本発明によると、本実施形態においては、陽極酸化処理工程の陽極酸化処理でマグネシウム材表面に不溶性微粒子を取込んだ陽極酸化膜を形成することが可能となるとともに、短時間で膜厚の厚い陽極酸化膜を形成することができる。また、アルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用したことにより、陽極酸化膜の形成速度がさらに大きくなる。その結果、マグネシウム材表面の耐食性を十分な程度にまで向上させる陽極酸化膜を、より短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法のフローチャートである。
【図2】陽極酸化処理装置の模式図である。
【図3】電解条件と表面粗さおよび膜厚との関係を示す図である。
【図4】電解液の構成と陽極酸化膜の膜厚との関係を示す図である。
【図5】マグネシウム材により作製した携帯機器筐体の一例を表す。
【符号の説明】
S11 脱脂工程
S12 第1水洗工程
S13 陽極酸化工程
S14 第2水洗工程
S15 窒素ブロー工程
S16 コーティング工程
S17 焼き付け工程
Claims (5)
- マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材の表面を陽極酸化処理することによって、前記基材の表面に陽極酸化膜を設ける陽極酸化工程を含み、
前記陽極酸化工程の前記陽極酸化処理において、不溶性微粒子およびアルカリ金属水酸化物を含む電解液を使用し、前記不溶性微粒子を取込みつつ前記陽極酸化膜を形成することを特徴とする、マグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。 - 前記不溶性微粒子は、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化チタンおよび酸化物系セラミックより選ばれた1種または複数種からなる、請求項1に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
- 前記陽極酸化処理は、前記電解液に浸漬した電極間に交流電圧を印加することにより行われ、この印加時における電流密度は、2A/dm2〜5A/dm2である、請求項1または2に記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
- 前記陽極酸化処理における電解周波数は、40Hz〜80Hzである、請求項1〜3のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法。
- 請求項1〜4のいずれか1つに記載のマグネシウム材に対する高耐食性陽極酸化膜の形成方法により前記陽極酸化膜が形成されている、マグネシウム材製筐体。
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