JP2004131791A - マグネシウム材における陽極酸化膜の形成方法、マグネシウム材の着色方法、および、マグネシウム材の陽極酸化処理システム - Google Patents
マグネシウム材における陽極酸化膜の形成方法、マグネシウム材の着色方法、および、マグネシウム材の陽極酸化処理システム Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材2を、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む40〜70℃の電解液4に浸漬しつつ、当該基材を一方の電極として、2〜7A/dm2の電流密度で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行う。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノートパソコン筐体などの構成材料として使用されているマグネシウムまたはマグネシウム合金(以下、この両者を合わせて「マグネシウム材」と記載する)の表面に陽極酸化膜を形成する方法、マグネシウム材の着色方法、および、マグネシウム材の陽極酸化処理システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ノートパソコンなどの電気・電子機器では、軽量化および薄型化の観点より、マグネシウム材製の筐体が採用される場合がある。特にB5サイズ以下のモバイル型ノートパソコンで、その傾向が強い。マグネシウム材は、放熱性が高いため、ノートパソコンの筐体構成材料に採用される場合などにおいては、製品の軽量化および薄型化に資するのみならず、CPUないしMPUの高速化に伴う発熱の問題に対処するうえでも優れている。
【0003】
マグネシウム材すなわちマグネシウムまたはマグネシウム合金は、大気中で容易に酸化されるという性質を有する。そのため、機器筐体として使用される場合などにあっては、実用的には、マグネシウム材の表面に対し、何らかの処理を施して耐食性を付与する必要がある。
【0004】
マグネシウム材に耐食性を付与するための手法として、マグネシウム材の陽極酸化処理が知られている。当該陽極酸化処理においては、所定の電解液に対してマグネシウム材を浸漬し、当該マグネシウム材を一方の電極として電解を行う。これによって、マグネシウム材表面に所定の化学組成の酸化膜が形成され、マグネシウム材の耐食性が向上するのである。
【0005】
一方、マグネシウム材については、適用される製品または部品によっては、塗装や染色による着色性に優れていることが必要とされる場合がある。
【0006】
従来より知られている一般的なマグネシウム材陽極酸化処理によると、マグネシウム材表面に黒色、緑色または褐色を呈した分厚い酸化膜が形成され、それらは濃色である。そのため、マグネシウム材表面において、マグネシウム材が本来的に有する金属の質感が失われてしまう場合が多い。
【0007】
濃色の陽極酸化膜が形成されたマグネシウム材に対してデザイン性の高い彩色を施すためには、酸化膜上に、当該酸化膜の濃色からの影響を受けにくい有機塗装を施す必要がある。有機塗装が施されたマグネシウム材製品は、リサイクル過程においてそのまま高温加熱に付されると、塗膜が燃焼されることにより有機系の有害ガスを比較的多量に発生してしまう。マグネシウム材上の酸化膜の呈色が濃いほど、有機塗膜を厚くする必要があり、塗膜が厚いほど、有害ガスの発生量は増大してしまう。このような不具合を回避するためには、製品のリサイクル過程において、溶剤を用いて或いはウエットブラスト処理により、有機塗膜を剥離する必要がある。その結果、作業環境の劣悪化や作業工程数の増加という問題が生ずる。
【0008】
アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を主成分とする電解液を用いてマグネシウム材の表面に淡色の陽極酸化膜を形成する陽極酸化技術も知られている。そのような技術は、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。淡色陽極酸化膜は、有機塗装を施さずに染色によっても着色可能であるという点において、濃色陽極酸化膜よりも装飾付与性に優れている。
【0009】
【特許文献1】
特開昭59−31893号公報
【特許文献2】
特開昭60−24398号公報
【0010】
淡色陽極酸化膜の形成において使用される従来の電解液には、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩とともに、例えば、リン酸三ナトリウム、スズ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、および、ジエチレングリコールが添加されている。淡色陽極酸化膜形成のための従来の技術においては、このような比較的多くの化学種を含む電解液を使用して、電解液温度を例えば10〜30℃の低温とし、且つ、電流密度を例えば0.5〜2A/dm2と低く設定しつつ、火花放電を生じさせながら電解処理が行われる。このような条件によると、マグネシウム材表面において緻密な陽極酸化膜が形成される。膜組織が緻密であるほど、陽極酸化膜の耐食性は高い。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、緻密な陽極酸化膜(耐食性重視型陽極酸化膜)に対しては、染色時に染料が充分に作用ないし吸着しない傾向にあり、その結果、染色後に色むらが生ずる場合が多い。加えて、染料が充分に作用ないし吸着しないために、陽極酸化膜の色調がくすむ場合も多い。そのため、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を主成分とする電解液を用いる従来の陽極酸化技術により形成される陽極酸化膜においては、デザイン性の高い彩色を施すのには困難性を有するのである。
【0012】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解液を使用して、染色性に優れた陽極酸化膜を形成するための方法、および、当該方法を経てマグネシウム材に着色する方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、染色性に優れた酸化膜および耐食性に優れた酸化膜をマグネシウム材において選択的に形成できる陽極酸化処理システムを提供することも目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の側面によると、陽極酸化膜の形成方法が提供される。この方法は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材を、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む40〜70℃の電解液に浸漬し、当該基材を一方の電極として、2〜7A/dm2の電流密度で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行うことを特徴とする。
【0014】
このような方法によりマグネシウム材に形成される陽極酸化膜は、染色性に優れている。アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解液を使用して行うマグネシウム材の陽極酸化処理にて、電解液温度40〜70℃および電流密度2〜7A/dm2の条件で火花放電を生じさせずに電気分解を行うと、マグネシウム材表面において、緻密の程度が低い淡色の陽極酸化膜が形成される。酸化膜が淡色であるため、染料の作用により呈される色調は、膜表面において適切に反映される。また、緻密の程度が低い陽極酸化膜には、染色時において、充分量の染料が均一に作用ないし吸着し易い。その結果、染色後に色むらが生じにくくなる。加えて、染料が充分に吸着する傾向にあるため、陽極酸化膜の色調は、くすみにくい。更に、このような緻密の程度が低い陽極酸化膜(染色性重視型陽極酸化膜)においては、膜厚を比較的小さくしてマグネシウム材素地の金属質感を陽極酸化膜表面に出すことによって、色むら及びくすみを充分に低減しつつ金属の質感を呈するように染色することが可能な陽極酸化膜とすることができるのである。
【0015】
アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解質を使用する従来のマグネシウム陽極酸化技術においては、マグネシウム材の耐食性を向上するという観点より、マグネシウム材表面において緻密な陽極酸化膜が形成される。当該従来方法においては、具体的には、比較的低い電解液温度であって火花放電を生じさせる条件が採用される。しかしながら、緻密な陽極酸化膜に対しては、染色時に染料が吸着しにくく、その結果、染色後に色むらが生ずる場合が多い。加えて、染料が充分に吸着しないために、陽極酸化膜の色調がくすむ場合も多い。これに対し、本発明の第1の側面においては、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解液を使用して、電解液温度40〜70℃および電流密度2〜7A/dm2の条件で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行うことによって、緻密の程度が低い陽極酸化膜がマグネシウム材表面に形成される。このようにして形成される陽極酸化膜は、上述したように、染色性に優れており、例えば、膜厚を適切に制御することによって、色むら及びくすみを充分に低減しつつ金属の質感を呈するように染色可能となるのである。
【0016】
本発明の第2の側面によるとマグネシウム材の着色方法が提供される。この方法は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材を、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む40〜70℃の電解液に浸漬し、当該基材を一方の電極として、2〜7A/dm2の電流密度で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行うことによって陽極酸化膜を形成する工程と、陽極酸化膜の表面を染料により染色する工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
この方法は、マグネシウム材を着色すべく、本発明の第1の側面に係る陽極酸化膜形成方法の後に染色工程を行うものである。したがって、本発明の第2の側面によっても、マグネシウム材の染色において、第1の側面に関して上述したのと同様の効果が奏される。
【0018】
本発明の第2の側面に係る方法は、好ましくは、更に、染色された陽極酸化膜の上にコーティング層を形成する工程を含む。陽極酸化膜上にコーティング層が形成されると、陽極酸化膜の保護が図られるとともに陽極酸化膜表面に光沢が付与され、更には、陽極酸化膜が封孔処理されることとなる。
【0019】
本発明の第3の側面によるとマグネシウム材の陽極酸化処理システムが提供される。この陽極酸化処理システムは、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材および対電極を浸漬するための、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解液と、電解液の温度を調節するための温度調節装置と、基材および対電極に対して、調節された電流密度で交流電位または直流電位を付与するための電源とを備え、電解液温度40〜70℃および電流密度2〜7A/dm2の条件で基材において火花放電を生じさせずに当該基材を陽極酸化処理することが可能であり、且つ、電解液温度10〜30℃および電流密度8〜12A/dm2の条件で基材において火花放電を生じさせつつ当該基材を陽極酸化処理することが可能であることを特徴とする。
【0020】
この陽極酸化処理システムによると、電解液温度40〜70℃および電流密度2〜7A/dm2の条件で基材において火花放電を生じさせずに当該基材を陽極酸化処理することによって、マグネシウム材(基材)において染色性重視型陽極酸化膜を形成することができる。また、この陽極酸化処理システムによると、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む同一組成の電解液を使用しつつ、電解液温度10〜30℃および電流密度8〜12A/dm2の条件で基材において火花放電を生じさせつつ当該基材を陽極酸化処理することによって、マグネシウム材(基材)において耐食性重視型陽極酸化膜を形成することもできる。したがって、本発明の第3の側面に係る陽極酸化処理システムによると、同一組成の電解液を使用しつつ、電解諸条件を適宜変更することのみによって、染色性重視型酸化膜および耐食性重視型酸化膜のいずれをも選択的に形成することができるのである。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の陽極酸化膜形成方法およびマグネシウム材着色方法を含むマグネシウム材表面処理のフローチャートを表す。この表面処理は、脱脂工程S1と、第1水洗工程S2と、陽極酸化工程S3と、第2水洗工程S4と、染色工程S5と、第3水洗工程S6と、乾燥工程S7と、コーティング工程S8と、焼付け工程S9とからなる。
【0022】
本発明で用いられる基材は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製である。マグネシウム合金としては、例えば、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Al−Mn合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−希土類元素合金、Mg−Zn−希土類元素合金などを用いることができる。より具体的には、AZ91D合金、AZ31合金、AZ61合金、AM60合金、AM120合金などを用いることができる。本実施形態では、これらのようなマグネシウム材から、例えばノートパソコン筐体や携帯電話筐体などの所定形状の成形体を作製した後、当該成形体を基材として、基材表面が以下のように処理される。
【0023】
表面処理対象である基材に対しては、まず、脱脂工程S1において脱脂処理を施す。脱脂処理は、アセトンおよびこれに続いてアルカリ処理剤に基材を浸漬することによって行うことができる。アルカリ処理剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を用いることができる。これに代えて、脱脂処理は、基材表面に界面活性剤を作用させることによって行うこともできる。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0024】
次に、第1水洗工程S2において、上述の脱脂工程S1を経た基材を流水でよく洗浄し、脱脂処理で使用した薬剤を除去する。
【0025】
次に、陽極酸化工程S3において、基材表面に対して陽極酸化処理を施す。図2は、本発明に係る陽極酸化処理システムを模式的に表す。当該陽極酸化処理システムは、電源1と、対電極3と、電解液4と、温度調節機能を備えたヒータ付きスターラー5とを具備する。処理対象である基材2は、電源1の一方の端子に接続され、他方の端子に接続された対電極3とともに、電解液4に浸漬される。対電極3は、電解液4に不溶な鉄電極、ステンレス電極、またはカーボン電極などである。陽極酸化処理においては、基材2および対電極3を一対の電極として電解液4に浸漬した状態で、電源1により当該電極間に電圧を印加する。このとき、電源1により電流密度を調節し、且つ、ヒータ付スターラー5により、電解液4を温度調節しつつ攪拌する。
【0026】
電解液4には、陽極酸化膜形成用の試薬として、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩が添加されている。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどを用いることができる。水酸化ナトリウムを使用すると、水酸化カリウムを使用する場合よりも、形成される陽極酸化膜自体の色調が淡くなる傾向にある。電解液におけるアルカリ金属水酸化物の濃度は、100〜165g/Lであるのが好ましい。一方、アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウムやアルミン酸カリウムなどを用いることができる。電解液におけるアルミン酸塩の濃度は、75g/L〜100g/Lであるのが好ましい。このような濃度範囲においてアルミン酸塩の濃度が低いほど、電解時の電流密度が比較的高くても火花放電を適切に回避することができる。アルミン酸塩の濃度が75g/Lよりも低い場合には、電解時の電流密度が低くても火花放電が生じ易くなり、100g/Lを超える場合には、電解液調製時などにおいて沈殿が生じてしまう。本発明の電解液には、当該電解液に可溶な金属塩(例えば酸化亜鉛など)を必要に応じて添加してもよい。
【0027】
本発明においては、染色性重視型陽極酸化膜を形成するうえで、電解時の電解液温度は40〜70℃とし、電流密度は2〜7A/dm2とする。このような電解条件によると、電解時に火花放電を適切に回避することが可能となる。電解液温度が40℃未満の場合には、火花放電が生じ易くなる傾向にあり、且つ、酸化膜形成速度が遅い傾向にある。電解液温度が70℃を超えると、電解液の蒸発が過剰となるため電解液組成が著しく変動してしまう。電流密度が2A/dm2未満の場合には、火花放電が生じ易くなる傾向にあり、且つ、酸化膜形成速度が遅い傾向にある。電流密度が7A/dm2を超える場合には、火花放電が生じ易くなる傾向にある。印加電圧は30V以下であるのが好ましい。また、印加電圧については、直流電圧および交流電圧のいずれをも採用することができる。交流電圧を採用する場合、その波形についてはsin波であっても矩形波であってもよい。
【0028】
このような条件での陽極酸化処理においては、電極としての基材2が陽極である時に基材表面にて陽極酸化膜が次第に成長形成されていく。この陽極酸化膜は、緻密の程度が低いので染色性に優れている。本実施形態では、電解時間を例えば30秒〜10分程度として、膜厚0.5〜10μm程度の陽極酸化膜が形成される。膜厚が0.5μmより小さいと、マグネシウム材に対して付与される耐食性が充分とならない場合がある。膜厚が10μmより大きいと、陽極酸化膜表面に表れる金属質感が低下する傾向にある。
【0029】
また、上述の陽極酸化処理システムにおいては、同一組成の電解液4を使用しつつ電解条件を変更することによって、上述のような染色性重視型に代えて耐食性重視型の陽極酸化膜を形成することもできる。具体的には、上述の電解液温度および電流密度に代えて、電解時の電解液温度を10〜30℃とし、電流密度を8〜12A/dm2とする。このような電解条件によると、上述の電解液4を使用しつつ、電解時に火花放電を適切に生じさせることが可能となる。電解時における電解液温度が10℃より低い場合、酸化膜成長速度が遅い傾向にあり、30℃を超える場合、火花放電が起こりにくくなる傾向にある。また、電解時における電流密度が8A/dm2より小さい場合、火花放電が起こりにくくなる傾向にあり、12A/dm2を超える場合、形成される酸化膜の表面粗さが不当に過大となる傾向にある。印加電圧については、染色性重視型陽極酸化膜形成時における印加電圧に関して上述したのと同様である。
【0030】
このような条件での陽極酸化処理においても、電極としての基材2が陽極である時に基材表面にて陽極酸化膜が次第に成長形成されていく。この陽極酸化膜は、緻密の程度が高いので耐食性に優れている。
【0031】
このように、上述の陽極酸化処理システムによると、染色性に優れた陽極酸化膜を形成することができるうえに、電解時における電解液温度および電流密度を変更することにより、耐食性に優れた陽極酸化膜をも容易に形成することができるのである。
【0032】
本発明の陽極酸化膜形成方法においては、次に、第2水洗工程S4において、上述の陽極酸化工程S3を経た基材を流水で30秒間洗浄し、基材に付着している電解液を除去する。
【0033】
次に、基材が乾燥する前に、染色工程S5において、陽極酸化膜が既に形成されている基材を所望の染料を含んだ染色液に浸漬することによって、基材に対して染色を施す。染料としては、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、硫化染料、トリフェニルメタン染料、ピラゾロン染料、スチルベン染料、ジフェニルメタン染料、キサンテン染料、アリザリン染料、アクリジン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、チアゾール染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料などを挙げることができ、市販のアルマイト用染料を用いることができる。染色液は、所望の染料を例えば1〜5g/Lの濃度で水に懸濁して、必要に応じて酢酸−酢酸アンモニウム緩衝液でpHを調整することによって調製する。
【0034】
染色に際しては、まず、染色液を50〜60℃に加温し、これを維持しておく。次に、当該染色液に対して、既に陽極酸化膜が形成されている基材を5〜15分間浸漬する。5分未満では色調が薄くなる傾向にあり、15分以上浸漬しても染色の度合いが向上しない傾向にある。本工程では、使用する染料を適宜選択することによって、マグネシウム材表面の陽極酸化膜に対して任意の彩色が可能である。
【0035】
次に、第3水洗工程S6において、基材を染色液から引き上げ、流水で30秒間洗浄する。これにより、基材に付着している余分な染色液が除去される。次に、乾燥工程S7において、基材を窒素ブローした後に、オーブンで乾燥する。窒素ブローでは、基材に対して窒素ガスを噴きつけることによって、基材に付着している水分を飛散ないし蒸散させる。また、オーブンによる乾燥では、オーブン内温度は120〜150℃、乾燥時間は30〜60分が好ましい。
【0036】
次に、コーティング工程S8において、基材の陽極酸化膜上にコーティング層を設ける。具体的には、スピンコート、ディップコート、ロールコート、ドクターブレード法などの手段によって、液状のコーティング剤を基材の陽極酸化膜表面に塗布する。コーティング層を形成するための材料としては、市販の無機系コーティング剤や、ゾルゲル法を利用して固化可能な金属酸化物ゾルなどを使用することができる。より具体的には、アルキルシロキサン系無機コーティング剤、または、アルコキシシラン系無機コーティング剤を使用することができる。リサイクル過程の燃焼において有機系有毒ガスをほとんど発生しないので、コーティング剤としては、有機系コーティング剤よりも上述のような無機系コーティング剤の方が望ましい。
【0037】
次に、焼付け工程S9において、陽極酸化膜上のコーティング層を硬化させる。具体的には、上述のようにコーティング剤が塗布された基材を、室温で30分程度静置した後に、110〜150℃に加熱したオーブンに30〜60分間放置することによって、陽極酸化膜上のコーティング層を硬化させる。このようにしてコーティング層を設けることによって、既に着色されている陽極酸化膜に光沢を付与してその色調を引き立たせることができるとともに、陽極酸化膜からの染料の染み出しを防止することができる。更には、コーティング層は、陽極酸化膜を物理的に保護することによって、マグネシウム材の耐食性向上に寄与する。したがって、染色性重視型陽極酸化膜を形成する場合であっても、コーティング層を設けることによって、マグネシウム材の耐食性を充分に向上させることができるのである。ただし、本発明では、コーティング層を形成する必要のない場合には、コーティング工程S8および焼付け工程S9は行われない。
【0038】
【実施例】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに記載する。
【0039】
【実施例1】
<電解液>
水酸化カリウムを165g/L、アルミン酸ナトリウムを100g/Lの濃度で含み、pH14の電解液を調製した。
【0040】
<陽極酸化処理>
基材としてのMg合金板(AZ31合金板、東洋マーク製、50mm×20mm×1.5mm)を、脱脂処理およびこれに続いて水洗した後、上述の電解液に浸漬し、当該基材とステンレス(SUS−304)板とを一対の電極として、火花放電を生じさせずに交流電解を行った。電解液温度は60℃とし、電流密度は4A/dm2とし、電解時間は1分間とした。その結果、基材において電解液と接する表面に、マグネシウム金属素地感を呈した淡褐色の陽極酸化膜が形成された。
【0041】
<染色>
上述のようにして陽極酸化膜が形成された基材を、電解液から引き上げて、流水により30秒間洗浄した後、染色液に浸漬した。本実施例で使用した染色液は、アルマイト用染料(商品名:Sanodal Deep Black MLW、クラリアント製)を10g/Lの濃度で含んでpH4.5の水溶液であり、自己緩衝能を有する。本染色工程では、染色液の温度を60℃とし、浸漬時間を10分間とした。10分間の浸漬の後、基材を染色液から引き上げて流水で30秒以上洗浄し、続いて、基材に付着している水分を窒素ブローにより除去した。次に、130℃に加熱したオーブン中で30分間放置することにより、基材を乾燥し、本実施例の染色サンプルを得た。本実施例では、マグネシウム金属素地感を呈した淡褐色の陽極酸化膜が、黒色に染色された。また、色むら及び色調のくすみはなかった。
【0042】
<コーティング>
上述のようにして染色された基材を、無機コーティング剤ヒートレスグラス(商品名:GS−600−1 type BC、大橋化学製)に浸漬し、3mm/秒の速度で引き上げた。これを室温で30分間放置した後、120℃に加熱したオーブンで60分間乾燥することによって、陽極酸化膜に対してコーティング層を焼付けた。その結果、黒色に染色された陽極酸化膜を有して、当該酸化膜がコーティングされている基材(Mg合金板)を得ることができた。
【0043】
【比較例1】
電解液温度を60℃に代えて25℃とし、且つ、電流密度を4A/dm2に代えて8A/dm2とした以外は、Mg合金板(AZ31合金板、東洋マーク製、50mm×20mm×1.5mm)を一方の電極に使用して交流電解を行った。すると、電解時に火花放電が生じ、白色の緻密な陽極酸化膜が形成された。この陽極酸化膜について、実施例1と同様にして染色を施したところ、色調にくすみが生じた。また、この陽極酸化膜について耐食性を調べたところ、優れた耐食性を有していた。
【0044】
【比較例2】
<電解液>
水酸化カリウムを2.94M、アルミン酸ナトリウムを0.49M、リン酸三ナトリウムを0.09M、スズ酸ナトリウムを0.13M、フッ化ナトリウムを0.60M、ジエチレングリコールを0.14Mの濃度で含み、pH14の電解液を調製した。
【0045】
<陽極酸化処理>
基材としてのMg合金板(AZ31合金板、東洋マーク製、50mm×20mm×1.5mm)を、脱脂処理およびこれに続いて水洗した後、本比較例の電解液に浸漬し、当該基材とステンレス(SUS−304)板とを一対の電極として交流電解を行った。電解液温度は60℃とし、電流密度は1A/dm2とし、電解時間は1分間とした。すると、電解時に火花放電が生じ、基材において電解液と接する表面に、灰白色で緻密な陽極酸化膜が形成された。
【0046】
<染色>
上述のようにして陽極酸化膜が形成された基材を、実施例1と同様にして染色してこれを乾燥し、本比較例の染色サンプルを得た。本比較例では、緻密な陽極酸化膜が染色されたため、色調にくすみが生じた。
【0047】
【比較例3】
電解液温度を60℃に代えて25℃とし、且つ、電流密度を1A/dm2に代えて4A/dm2とした以外は、比較例2と同様にして、Mg合金板(AZ31合金板、東洋マーク製、50mm×20mm×1.5mm)について交流電解を行った。すると、電解時に火花放電が生じ、灰白色で緻密な陽極酸化膜が形成された。この陽極酸化膜について実施例1と同様にして染色を施したところ、緻密な陽極酸化膜が染色されたため、色調にくすみが生じた。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係る陽極酸化膜形成方法によると、マグネシウム材に対して、色むら及びくすみを生じず又は充分に軽減しつつ金属の質感を呈するように染色することが可能なマグネシウム材陽極酸化膜を形成することができる。したがって、マグネシウム材により成形される例えば電子機器筐体に対して、有機塗装を行わずとも鮮やかな色彩のデザインを付与することが可能となる。マグネシウム材成形体に対して有機塗装を行わなければ、リサイクル過程で当該マグネシウム材成形体を燃焼させた場合に、有機塗装に由来する有機系有害ガスは発生しない。また、本発明に係る陽極酸化処理システムによると、同一組成の電解液を使用しつつ電解諸条件を適宜変更することのみによって、本発明に係る陽極酸化膜形成方法により形成される染色性重視型酸化膜、および、耐食性重視型酸化膜のいずれをも選択的に形成することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る陽極酸化膜形成方法およびマグネシウム材着色方法を含む、マグネシウム材に対する表面処理のフローチャートである。
【図2】本発明に係る陽極酸化処理システムの模式図である。
【符号の説明】
1 電源
2 基材
3 対電極
4 電解液
5 ヒータ付スターラー
Claims (4)
- マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材を、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む40〜70℃の電解液に浸漬し、当該基材を一方の電極として、2〜7A/dm2の電流密度で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行うことを特徴とする、陽極酸化膜の形成方法。
- マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材を、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む40〜70℃の電解液に浸漬し、当該基材を一方の電極として、2〜7A/dm2の電流密度で火花放電を生じさせずに陽極酸化処理を行うことによって陽極酸化膜を形成する工程と、
前記陽極酸化膜の表面を染料により染色する工程と、を含むことを特徴とする、マグネシウム材の着色方法。 - 更に、染色された前記陽極酸化膜の上にコーティング層を形成する工程を含む、請求項2に記載のマグネシウム材の着色方法。
- マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材および対電極を浸漬するための、アルカリ金属水酸化物およびアルミン酸塩を含む電解液と、
前記電解液の温度を調節するための温度調節装置と、
前記基材および対電極に対して、調節された電流密度で交流電位または直流電位を付与するための電源と、を備え、
電解液温度40〜70℃および電流密度2〜7A/dm2の条件で前記基材において火花放電を生じさせずに当該基材を陽極酸化処理することが可能であり、且つ、電解液温度10〜30℃および電流密度8〜12A/dm2の条件で前記基材において火花放電を生じさせつつ当該基材を陽極酸化処理することが可能であることを特徴とする、マグネシウム材の陽極酸化処理システム。
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JP2002297263A JP2004131791A (ja) | 2002-10-10 | 2002-10-10 | マグネシウム材における陽極酸化膜の形成方法、マグネシウム材の着色方法、および、マグネシウム材の陽極酸化処理システム |
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Cited By (2)
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CN100381615C (zh) * | 2004-11-04 | 2008-04-16 | 上海交通大学 | 镁合金表面绿色氧化膜层两步着色方法 |
JP2009024235A (ja) * | 2007-07-20 | 2009-02-05 | National Institute Of Advanced Industrial & Technology | 表面処理方法 |
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2002
- 2002-10-10 JP JP2002297263A patent/JP2004131791A/ja active Pending
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