JP2004090279A - 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室12が形成される流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられて圧力発生室12内に圧力変化を生じさせる圧電素子300とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、流路形成基板10に形成される少なくとも圧力発生室12の内面に、誘電材料からなり液体に対する耐食性を有する保護膜15を有し、且つ圧力発生室12の振動板側に設けられた保護膜15の厚さを、圧力発生室12の幅方向両端部側が幅方向中央部よりも相対的に薄くなるようにする。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室に供給されたインクを圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
そして、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
【0004】
また、このようなインクジェット式記録ヘッドでは、圧力発生室が形成される流路形成基板、あるいは圧力発生室の一部を構成する振動板がインクによって徐々に腐食(溶解)されてしまい、圧力発生室の形状(容積)及び振動板の変位量が経時的に変化してインク吐出特性が低下してしまうという問題があった。例えば、流路形成基板としてシリコン単結晶基板を用いた場合、あるいは振動板として酸化シリコン(SiO2)を用いた場合に、アルカリ性のインクを使用すると、このような問題が生じやすい。
【0005】
このような問題を解決するために、圧力発生室の内壁表面に、優れた親水性及び耐アルカリ性を備えた膜が形成された構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−264383号公報(第3−4頁、第1−2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このように圧力発生室の内壁表面に膜を設けた場合、実質的に振動板の厚さが増加し剛性が増すため、圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下して、例えば、インク吐出量、インク吐出速度等のインク吐出特性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク以外の液体を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、振動板の変位量の低下を抑えることができると共に、常に一定の液体吐出特性が得られる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、前記流路形成基板に形成される少なくとも前記圧力発生室の内面に、誘電材料からなり前記液体に対する耐食性を有する保護膜を有し、且つ前記圧力発生室の振動板側に設けられた前記保護膜の厚さは、前記圧力発生室の幅方向両端部側が中央部よりも相対的に薄くなっていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0011】
かかる第1の態様では、例えば、インク等の液体に対して優れた耐食性を有する保護膜を形成でき、流路形成基板等が液体によって溶解されるのを確実に防止することができ、各圧力発生室の形状が長期間に亘って一定に維持される。したがって、液体吐出特性を常に良好に維持することができる。また、圧力発生室の幅方向両端部近傍での保護膜の厚さが中央部の厚さよりも相対的に薄いため、振動板の変位が妨げられることなく所望の変位量が得られる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記圧力発生室の振動板側の内面に設けられた前記保護膜の厚さが、前記圧力発生室の幅方向中央部から両端部側に向かって漸小していることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0013】
かかる第2の態様では、保護膜の厚さが漸小するようにすることで、相対的に厚さの異なる保護膜を比較的容易に形成することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記保護膜が、物理蒸着法(PVD)によって形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0015】
かかる第3の態様では、相対的に厚さの異なる保護膜を比較的容易に形成することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記保護膜が、反応性ECRスパッタ法、対向スパッタ法、イオンビームスパッタ法又はイオンアシスト蒸着法により形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0017】
かかる第4の態様では、所定の方法を用いることにより、保護膜を比較的低温で形成することができ、保護膜を形成する際に流路形成基板の他の領域に悪影響を及ぼすことがない。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記保護膜が、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンからなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0019】
かかる第5の態様では、保護膜として特定の材料を用いることで、インク等の所定の液体に対して非常に優れた耐食性を有する保護膜を形成することができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0021】
かかる第6の態様では、良好な吐出特性が安定して得られ且つ耐久性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の概略平面図及びそのA−A’断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50、及び後述する圧力発生室を形成する際にマスクとして用いられるマスク膜55が設けられている。
この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、この連通部13は各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0023】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14の断面積は、圧力発生室12のそれより小さく形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0024】
このような流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配列密度に合わせて最適な厚さを選択すればよく、圧力発生室12の配列密度が、例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度であれば、流路形成基板10の厚さは、220μm程度であればよいが、例えば、200dpi以上と比較的高密度に配列する場合には、流路形成基板10の厚さは100μm以下と比較的薄くするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0025】
ここで、流路形成基板10に形成される少なくとも圧力発生室12の内面には、誘電材料からなり耐インク性(インクに対する耐食性)を有する保護膜15が、物理蒸着法(PVD)等によって形成されている。例えば、本実施形態では、圧力発生室12が流路形成基板10を貫通して形成されているため、保護膜15は、圧力発生室12を構成する隔壁11及び弾性膜50(振動板)の表面に設けられることになる。この保護膜15として用いられる誘電材料は、特に限定されないが、例えば、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンを用いることが好ましく、例えば、本実施形態では、五酸化タンタルを用いている。
【0026】
なお、流路形成基板10には、上述したように、圧力発生室12に連通するインク供給路14及び連通部13が設けられており、本実施形態では、これらインク供給路14及び連通部13の内面にも保護膜15が設けられている。すなわち、流路形成基板10のインクに接触する全ての表面に保護膜15が設けられている。さらに、本実施形態では、物理蒸着法(PVD)によって保護膜15を形成しているため、流路形成基板10の圧力発生室12が開口する側の表面、すなわち、マスク膜55上にも保護膜15が連続的に形成されている。このマスク膜55上の保護膜15は残してもよいが、マスク膜55には後述するノズルプレート20が接合され実質的にインクが接触しないため除去してもよい。
【0027】
このように圧力発生室12の内面に保護膜15を設けることにより、流路形成基板10及び振動板(弾性膜50)がインクに溶解されるのを防止することができ、圧力発生室12が長期間に亘って一定の形状(容積)に維持されると共に、圧電素子の駆動による振動板の変位量が一定に維持される。したがって、長期間に亘って安定したインク吐出特性を得ることができる。また、本実施形態では、インク供給路14及び連通部13のインク流路の内面にも保護膜15を設けるようにしたので、インク供給路14及び連通部13も一定の形状に維持される。したがって、インク供給路14を介して常に一定の圧力発生室12にインクが供給され、インク吐出特性が長期間亘って一定に維持される。さらに、保護膜15を設けることにより流路形成基板10又は振動板の溶解物がインク中に析出することがないため、ノズル詰まりの発生を防止することができる。
【0028】
ここで、保護膜15は、図3に示すように、圧力発生室12の振動板(弾性膜50)側の膜厚が均一ではなく、圧力発生室12の幅方向中央部が厚くなっている。すなわち本発明では、振動板側に設けられている保護膜15は、圧力発生室12の幅方向両端部近傍の厚さt1が、幅方向中央部の厚さt2よりも相対的に薄くなるように形成されている。例えば、本実施形態では、圧力発生室12の振動板側の保護膜15は、その厚さが圧力発生室12の幅方向中央部から幅方向両端部に向かって漸小するように形成されている。具体的には、保護膜15は圧力発生室12の幅方向両端部近傍の厚さが0.1μm程度であり、中央部の厚さが0.3μm程度である。なお、保護膜15の厚さは、特に限定されず、圧力発生室12の幅方向両端部近傍の厚さt1が、所望の耐インク性が得られる程度の厚さとなるように適宜決定されればよい。
【0029】
このように、振動板側の保護膜15を、圧力発生室の幅方向両端部近傍の厚さが幅方向中央部よりも相対的に薄くなるように形成することにより、圧電素子300の駆動による振動板の変位量の低下を防止することができる。すなわち、振動板の変位量は圧力発生室12の幅方向両端部近傍の振動板の剛性が大きく影響するため、この部分の保護膜15の厚さを相対的に薄くすることにより、振動板の変位量の低下を防止することができる。
【0030】
また、流路形成基板10の開口面側のマスク膜55上には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10−6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0031】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び下電極膜60が振動板として作用する。
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなり一端がインク供給路14に対向する領域まで延設されるリード電極90が接続されている。
【0032】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部31を有する封止基板30が接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部31内に封止されている。この封止基板30には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50に設けられた連通孔を介して流路形成基板10の連通部13と連通され、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、封止基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、封止基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。このような封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0033】
さらに、このような封止基板30上のリザーバ部32に対応する領域には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0034】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0035】
図4及び図5は圧力発生室12の長手方向の断面図であり、図6は圧力発生室12の幅方向の断面図であり、以下、これら図4〜6を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して弾性膜50及びマスク膜55を構成する二酸化シリコン膜51を全面に形成する。次いで、図4(b)に示すように、例えば、白金等からなる下電極膜60を弾性膜50となる二酸化シリコン膜51上に形成後、所定形状にパターニングする。次いで、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属、あるいは導電性酸化物等からなる上電極膜80とを順次積層し、これらを同時にパターニングして圧電素子300を形成する。次に、図4(c)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。以上が膜形成プロセスである。
【0036】
このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板(流路形成基板10)の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。具体的には、まず、図5(a)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に、予め圧電素子保持部31、リザーバ部32等が形成された封止基板30を接合する。次に、図5(b)に示すように、流路形成基板10の封止基板30との接合面とは反対側の面に形成されている二酸化シリコン膜51を所定形状にパターニングしてマスク膜55とする。そして、図5(c)に示すように、このマスク膜55を介して、前述したアルカリ溶液による異方性エッチングを行うことにより、流路形成基板10に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。なお、このように異方性エッチングを行う際には、封止基板30の表面を封止した状態で行う。
【0037】
その後、図6に示すように、流路形成基板10の圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14の内面に、誘電材料からなり耐インク性を有する保護膜15を形成する。ここで、保護膜15として用いられる誘電材料としては、上述したように、例えば、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンを用いることが好ましく、本実施形態では、五酸化タンタルを用いた。また、保護膜15の形成方法は、特に限定されないが、例えば、スパッタ法又は蒸着法等の物理蒸着法(PVD)を用いることが好ましい。より具体的には、反応性ECRスパッタ法、対向スパッタ法、イオンビームスパッタ法又はイオンアシスト蒸着法を用いることが好ましく、本実施形態では、イオンアシスト蒸着法により保護膜15を形成した。
【0038】
また、本実施形態では、イオンアシスト蒸着により保護膜15を形成する際、ターゲットと流路形成基板10との位置関係を調整することにより、圧力発生室12の振動板側の内面に設けられる保護膜15の厚さを相対的に変化させるようにしている。例えば、本実施形態では、圧力発生室12の幅方向で流路形成基板10を所定角度傾けた状態で、五酸化タンタルを圧力発生室12の内面に蒸着させている。これにより、圧力発生室12の幅方向両端部近傍と中央部とで相対的に厚さの異なる保護膜15が形成される。
【0039】
すなわち、図6(a)に示すように、まず、流路形成基板10を圧力発生室の幅方向で所定角度傾けてイオンアシスト蒸着することにより、圧力発生室の一方の側面12a(隔壁11の表面)から振動板(弾性膜50)表面の中央部近傍まで連続的に保護膜15を形成する。次に、図6(b)に示すように、流路形成基板10の傾斜角度を変更してイオンアシスト蒸着することにより、圧力発生室12の他方の側面12bから振動板表面の中央部近傍まで連続的に保護膜15を形成する。これにより、圧力発生室12の内面全面に保護膜15が形成される。
【0040】
そして、圧力発生室12の両側面にそれぞれ誘電材料を蒸着して保護膜15を形成する際、振動板(弾性膜50)の中央部には常に誘電材料が蒸着されるため、振動板表面の保護膜15は、圧力発生室12の幅方向中央部と両端部近傍とで相対的に異なる厚さで形成されることになる。なお、本実施形態では、流路形成基板10を所定角度傾斜させた状態で保護膜15を形成することで、圧力発生室の幅方向で相対的に厚さが異なるようにしたが、このような保護膜とする条件は特に限定されない。すなわち、各蒸着法あるいは保護膜の材料によっても異なるが、保護膜の材料及び蒸着法を考慮して、例えば、流路形成基板と蒸着源であるターゲットとの位置関係、流路形成基板の傾斜角度、流路形成基板の回転方法等の各種条件を適宜決定することにより、振動板表面の保護膜を圧力発生室の幅方向中央部と両端部近傍とで相対的に異なる厚さで形成することができる。
【0041】
このように本実施形態では、イオンアシスト蒸着により保護膜15を形成するようにしたので、比較的低温、例えば、100℃以下の温度条件下で保護膜15を形成できる。すなわち、流路形成基板10の熱変形、あるいは圧電素子300の破壊等を防止して、保護膜15を良好に形成することができる。また、五酸化タンタル等の誘電材料を用いることにより、優れた耐食性を有する保護膜15を形成することができ、流路形成基板10及び振動板がインクに溶解されるのを確実に防止することができる。したがって、インク吐出特性を長期間に亘って良好に維持することができる。
【0042】
なお、このようにして保護膜15を形成した後は、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、封止基板30にコンプライアンス基板40を接合し、図1に示すような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0043】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0044】
また、このようなインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図7に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
【0045】
なお、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの拡大断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、15 保護膜、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30封止基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 33 貫通孔、40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 100 リザーバ、 300 圧電素子
Claims (6)
- 液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路形成基板に形成される少なくとも前記圧力発生室の内面に、誘電材料からなり前記液体に対する耐食性を有する保護膜を有し、且つ前記圧力発生室の振動板側に設けられた前記保護膜の厚さは、前記圧力発生室の幅方向両端部側が中央部よりも相対的に薄くなっていることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項1において、前記圧力発生室の振動板側の内面に設けられた前記保護膜の厚さが、前記圧力発生室の幅方向中央部から両端部側に向かって漸小していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1又は2において、前記保護膜が、物理蒸着法(PVD)によって形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項3において、前記保護膜が、反応性ECRスパッタ法、対向スパッタ法、イオンビームスパッタ法又はイオンアシスト蒸着法により形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記保護膜が、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンからなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜5の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
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